説明

液晶装置及びプロジェクター

【課題】液晶層に印加される直流成分を減らしつつ、液晶層の配向性を良好に保持する。
【解決手段】液晶装置1は、液晶層、及び液晶層を駆動する1対の電極を有する液晶パネル2と、1対の電極による液晶層の駆動が停止された状態で、液晶層を加熱するとともに液晶層の温度が等方相への転移温度未満になるように液晶層の温度を調整する温度調整部3と、を備える。温度調整部3は、例えば液晶層の温度を計測する温度センサー31、及び転移温度を示す温度情報を記憶したメモリー32を有し、温度センサー31の計測結果と温度情報とを比較して液晶層の温度を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶装置及びプロジェクターに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶装置は、各種の光学機器に利用されている。液晶装置は、1対の基板に挟持された液晶層に電界を印加することによって、液晶層を通る光の偏光状態を制御することができる。液晶装置は、液晶層を通った光をその偏光状態に応じて吸収する偏光板を用いること等によって、液晶装置の透過率を制御することができ、例えばプロジェクター等の表示装置に利用することができる。
【0003】
液晶層は、耐久性等の観点で、通常は交流駆動されている。交流駆動時に液晶層に印加される正極性電圧の実効値が負極性電圧の実効値と異なっていると、液晶層に直流成分が印加されることになる。また、1対の基板で構成要素の材質が異なること等によって電気的な特性が非対称であると、液晶層に含まれるイオンの偏り等が発生して、液晶層に直流成分が印加されることになる。
【0004】
液晶層に直流成分が印加されると、正極性電圧の印加時と負極性電圧の印加時とで液晶装置の透過率が変化してしまい、例えば表示画像のちらつき等の不具合が発生することがある。液晶層に印加される直流成分は、液晶層の駆動を停止するとある程度は減少するが、液晶層の駆動を繰り返すうちに累積して不具合の顕在化を招く一因になりえる。
【0005】
上述の直流成分の累積を抑制可能な技術として、下記の特許文献1に開示されている技術が挙げられる。特許文献1では、液晶層の駆動を停止した後に液晶層を加熱することによって、液晶層に印加された直流成分を減少させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−197806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の技術は、液晶層が加熱によって等方相に転移して、液晶層の配向性が乱れてしま可能性がある。液晶層の配向性が乱れると、液晶層を通った光が所望の偏光状態にならなくなり、液晶装置における光の透過率を高精度に制御すること等が難しくなる。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑み成されたものであって、液晶層に印加される直流成分を減らしつつ、液晶層の配向性を良好に保持することが可能な液晶装置及びプロジェクターを提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様の液晶装置は、液晶層、及び前記液晶層を駆動する1対の電極を有する液晶パネルと、前記1対の電極による前記液晶層の駆動が停止された状態で、前記液晶層を加熱するとともに前記液晶層の温度が等方相への転移温度未満になるように前記液晶層の温度を調整する温度調整部と、を備える。
【0010】
このようにすれば、温度調整部が、液晶層を加熱するとともに液晶層の温度が等方相への転移温度未満になるように液晶層の温度を調整するので、第1の態様の液晶装置は、液晶層に印加される直流成分を減らしつつ、液晶層の配向性を良好に保持することができる。したがって、第1の態様の液晶装置は、液晶層の配向性が良好に保持されるので光の透過率を高精度に制御することができるので高品質な画像を形成あるいは表示することができ、しかも液晶層に印加される直流成分が低減されるので画像のちらつき等を抑制することができる。
【0011】
前記温度調整部は、前記液晶層の温度を計測する温度センサー、及び前記転移温度を示す温度情報を記憶したメモリーを有し、前記温度センサーの計測結果と前記温度情報とを比較して前記液晶層の温度を調整してもよい。
【0012】
このようにすれば、温度調整部は、温度センサーの計測結果と温度情報とを比較して液晶層の温度を調整するので、液晶層の温度を高精度に制御することができる。
【0013】
前記温度調整部は、前記液晶層を加熱するヒーター、及び前記温度センサーの計測結果と前記温度情報とを比較して前記液晶層の温度が前記転移温度未満になるように前記ヒーターを制御する温度コントローラーを有してもよい。
【0014】
このようにすれば、温度コントローラーが液晶層の温度が転移温度未満になるようにヒーターを制御するので、温度調整部は、液晶層の温度が転移温度未満になるように液晶層の温度を高精度に制御することができる。
【0015】
前記液晶パネルは、前記液晶層の厚み方向の一方側から前記液晶層へ入射した光が反射する反射面を有し、該反射面で反射した光が前記液晶層の前記一方側へ射出される反射型の液晶パネルであってもよい。
【0016】
前記液晶パネルを駆動する駆動部を備え、前記1対の電極は、前記駆動部から供給される駆動信号により前記液晶層を駆動し、前記温度コントローラーは、前記一対の電極による前記液晶層の駆動の停止を示す制御信号を前記駆動部から受けて、前記ヒーターに前記液晶層の加熱を開始させてもよい。
【0017】
温度コントローラーは、液晶パネルを駆動する駆動部から液晶層の駆動の停止を示す制御信号を受けて、ヒーターに液晶層の加熱を開始させるので、液晶層を加熱するタイミングを高精度に管理することができる。
【0018】
一般的に、反射型の液晶パネルは、液晶層の厚み方向で電気的な特性が非対称になりやすく、液晶層に印加される直流成分が累積しやすい。一方で、上記の構成によれば、電気的な特性の非対称性に起因する直流成分を減らしつつ、透過型の液晶パネルと比較して開口率を高めること等ができる。
【0019】
前記ヒーターは、前記液晶層の厚み方向から見て前記液晶層と重なるように、前記反射面に対して前記液晶層とは反対側に配置されていてもよい。
【0020】
ヒーターは、液晶層の厚み方向から見て液晶層と重なるように配置されているので液晶層を効果的に加熱することができ、しかも反射面に対して液晶層とは反対側に配置されているので液晶層から一方側に射出される光を遮ることがなくなる。
【0021】
第2の態様のプロジェクターは、第1の態様の液晶装置を備える。
第1の態様の液晶装置は、高品質な画像を形成することができるとともに画像のちらつきを抑制することができるので、第2の態様のプロジェクターは、高品質な画像を表示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本実施形態の液晶装置の構成を示す図である。
【図2】本実施形態の液晶パネルを示す平面図である。
【図3】本実施形態の液晶パネル、ヒーター及び温度センサーを示す断面図である。
【図4】本実施形態の液晶層の駆動方法を示す説明図である。
【図5】本実施形態の液晶層の温度を異ならせたときの共通電極電位の時間変化量の比較を示す図である。
【図6】本実施形態のプロジェクターの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態を説明する。説明に用いる図面中の各構造は、寸法や縮尺を実際と異ならせて図示されている場合がある。
【0024】
図1は、本実施形態の液晶装置を示すブロック図である。図2は、本実施形態の液晶パネルを示す平面図である。図3は、本実施形態の液晶パネル、ヒーター及び温度センサーを示す断面図である。図1に示す液晶装置1は、液晶装置1の外部装置、例えばPCやDVD等から画像信号を受け取り、画像信号に規定された画像を形成あるいは表示することができる。
【0025】
液晶装置1は、液晶パネル2、温度調整部3、及び駆動部4を備える。駆動部4は、液晶装置1に供給された画像信号に基づいて、液晶パネル2を駆動するための駆動信号を生成する。液晶パネル2は、駆動部4から供給される駆動信号に基づいて光を変調する。変調された光は、画像の表示等に利用される。また、駆動部4は、液晶パネル2による光の変調の停止を示す制御信号を生成する。温度調整部3は、この制御信号を駆動部4から受けて、液晶パネル2内の液晶層を加熱するとともに、この液晶層の温度が等方相への転移温度未満となるように液晶層の温度を調整する。
【0026】
図2に示すように、液晶パネル2は、素子基板10及び対向基板11を有している。液晶パネル2の中央部は表示領域A1になっている。表示領域A1の周辺部は、黒表示領域A2になっている。表示領域A1には、複数の画素が2次元的に配列されている。以下の説明で、画素の配列方向の一方を水平走査方向と称し、他方を垂直走査方向と称することがある。
【0027】
素子基板10には、水平走査方向にほぼ平行な複数の走査線12が設けられている。素子基板10には、垂直走査方向にほぼ平行な複数のデータ線13が設けられている。走査線12とデータ線13は、互いに導通しないように離れて交差している。走査線12とデータ線13とに囲まれる各領域は、1つの画素に相当する。ここでいう画素は、光を変調することが可能な変調要素の最小単位のことであり、2以上の基本色の加法混色によりカラー画像を表示する場合には、サブ画素と呼ばれることもある。走査線12とデータ線13との各交差点付近に、各画素と1対1で対応するスイッチング素子14が設けられている。
【0028】
黒表示領域A2の周辺部に、黒表示領域A2を囲むようにシール材15が設けられている。対向基板11は、素子基板10とシール材15により貼り合わされている。素子基板10と対向基板11との間のシール材15に囲まれる領域に、液晶層16(図3参照)が注入されている。
【0029】
表示領域A1の外側において、素子基板10と対向基板11とが重ね合わされる領域、ここでは対向基板11の4隅付近に基板間導通端子部17が設けられている。画像の表示や形成に必要な駆動信号は、駆動部4から素子基板10に供給され、そのうちで対向基板11に必要な電気信号は、素子基板10から基板間導通端子部17を介して対向基板11に供給される。
【0030】
表示領域A1の外側には、図示略の走査線駆動回路及びデータ線駆動回路が設けられている。複数の走査線12は、走査線駆動回路と電気的に接続されている。複数のデータ線13は、データ線駆動回路と電気的に接続されている。素子基板10の周縁部には、複数の接続端子を有する接続端子部18が設けられている。接続端子部18の各接続端子の一端は、引き回し配線等により走査線駆動回路またはデータ線駆動回路と電気的に接続されており、各接続端子の他端は、FPC基板等を介して駆動部4と電気的に接続されている。
【0031】
図3に示す素子基板10は、第1基板20、第1基板20上に形成された素子層21、素子層21上に形成された複数の画素電極22、及び画素電極22上に形成された第1配向膜23を有する。対向基板11は、第2基板24、第2基板24上に形成された共通電極25、及び共通電極25上に形成された第2配向膜26を有する。素子基板10は、第1基板20に対して画素電極22の形成側を、対向基板11の第2基板24に対する共通電極25の形成側に向けて、対向基板11と貼り合わされている。
【0032】
画素電極22及び共通電極25は、液晶層16を挟むように配置されており、液晶層16に電界を印加可能な1対の電極をなしている。画素電極22と共通電極25は、これら電極間に印加される電界によって液晶層16の液晶分子の方位角を変化させることができ、液晶層16を駆動することができる。液晶層16の液晶分子の方位角が変化すると、液晶層16の複屈折性が変化し、液晶層16を通る光の偏光状態が変化する。液晶装置1を表示装置に利用する場合には、液晶層16に対する光の入射側及び射出側に偏光板が設けられる。射出側に配置される偏光板は、液晶層16を通った光のうちで所定の偏光成分を吸収するように、吸収軸あるいは透過軸の方向が設定される。
【0033】
本実施形態の液晶パネル2は、反射型の液晶パネルである。液晶層16の厚み方向の一方側、すなわち液晶層16に対して対向基板11の配置側から液晶層16へ入射した光は、液晶層16の内部を通った後に素子基板10で反射して折り返され、液晶層16の内部を通って対向基板11の配置側から射出される。
【0034】
素子基板10の第1基板20は、例えばガラス基板やシリコン基板、樹脂基板等である。素子層21は、上記の走査線12やデータ線13等の各種配線、スイッチング素子14、図示略の層間絶縁膜やパッシベーション膜等を有する。スイッチング素子14は、ゲート電極が走査線12と電気的に接続されている。スイッチング素子14は、ソース領域及びドレイン領域の一方がデータ線13と電気的に接続されており、他方が画素電極22と電気的に接続されている。複数の画素電極22のそれぞれは、各画素と1対1の対応で島状に設けられている。
【0035】
本実施形態の画素電極22は、アルミニウム等の光が反射する材料で形成されている。画素電極22において、液晶層16を向く面は、液晶層16を通って画素電極22へ入射した光が反射する反射面として機能する。画素電極22は、多層膜で構成されていてもよく、例えば光が透過する層と光が反射する層とが互いに積層された構造でもよい。また、液晶層16を通って画素電極22へ入射した光が反射する反射面は、画素電極22とは別の層、例えば画素電極22の下地となる層に設けられていてもよい。
【0036】
対向基板11の第2基板24は、例えばガラス基板等の透光性を有する基板である。共通電極25は、インジウム錫酸化物(ITO)等の透光性を有する材料で形成されている。共通電極25は、図1に示した基板間導通端子部17を介して、素子基板10の素子層21と電気的に接続されている。
【0037】
素子基板10の第1配向膜23及び対向基板11の第2配向膜26は、液晶層16の配向性を制御することができる。第1配向膜23及び第2配向膜26は、例えばシリコン酸化物等の無機材料を斜方蒸着法や斜方スパッタ法等の斜方成膜法により成膜して形成された無機配向膜である。本実施形態の液晶層16は、誘電異方性が負の液晶材料からなる。第1配向膜23は、液晶層16の液晶分子が所定のプレチルトになるように、液晶層16の配向状態を制御する。
【0038】
図1に示す温度調整部3は、液晶層16を加熱可能なヒーター30、液晶層16の温度を計測可能な温度センサー31、液晶層16が液晶相から等方相に転移する転移温度を示す温度情報を記憶したメモリー32、及び温度センサー31の計測結果とメモリー32に記憶された温度情報とを比較して液晶層16の温度が転移温度未満になるようにヒーター30を制御する温度コントローラー33を有する。
【0039】
図3に示すように、本実施形態のヒーター30は、液晶層16の厚み方向から見て液晶層16のほぼ全域と重なるように配置されている。ヒーター30は、画素電極22の反射面に対して液晶層16とは反対側に配置されている。ヒーター30は、素子基板10の第1基板20において液晶層16とは反対を向く面に、取付けられている。ヒーター30は、例えばペルチェ素子等により構成され、温度コントローラー33から供給される駆動電力に応じた熱量だけ発熱する。ヒーター30は、その熱が素子基板10を介して液晶層16に伝わることによって、間接的に液晶層16を加熱することができる。
【0040】
温度センサー31は、素子基板10においてヒーター30が取付けられた領域の周辺に取付けられている。温度センサー31は、素子基板10を介して液晶層16の温度を計測可能である。温度センサー31は、液晶層16の温度に対応する測定結果を示す情報を温度コントローラー33へ出力する。
【0041】
メモリー32は、例えば不揮発性のメモリー素子によって構成される。本実施形態のメモリー32は、液晶層16を加熱するときの上限温度の設定値を示す設定温度情報(温度情報)、及び液晶層16を加熱するときの時間の設定値を示す設定時間情報を記憶している。液晶層16を加熱するときの上限温度は、液晶層16の転移温度未満の温度範囲に設定される。
【0042】
なお、温度調整部3は、外部からの入力デバイスと電気的に接続されており、この入力デバイスから入力された設定温度情報と設定時間情報の少なくとも一方をメモリー32に記憶させてもよい。温度調整部3は、入力デイバスから入力された設定温度情報が示す温度が液晶層16の転移温度以上であるときに、その旨を示す情報を出力してもよく、また設定温度情報が示す温度に代えて、転移温度未満の温度を上限温度に設定してもよい。
【0043】
本実施形態の温度コントローラー33は、液晶層16の駆動の停止を示す制御信号を駆動部4から受け取る。制御信号は、液晶パネル2に対して電力の供給を停止することを示す信号でもよいし、例えば液晶パネル2を用いた画像の表示を休止すること(スリープ状態)を示す信号でもよい。温度コントローラー33は、液晶層の駆動が停止された状態でヒーター30にヒーター30を駆動する駆動電力を供給し、ヒーター30に液晶層16の加熱を開始させる。温度コントローラー33は、温度センサー31から出力された測定結果を示す情報と、メモリー32に記憶された温度情報とを比較し、液晶層16の温度が転移温度未満になるように、ヒーター30を駆動するための駆動電力を調整する。
【0044】
例えば、温度コントローラー33は、液晶層16の温度と転移温度との差分が予め設定された所定の値以下になったときに、ヒーター30に供給する駆動電力(例えば電流値)を減少させて、ヒーター30の発熱を抑制する。また、温度コントローラー33は、上記の設定時間情報をメモリー32から読み出して、ヒーター30による液晶層16の加熱を開始してから設定時間情報が示す時間が経過した後に、ヒーター30に対する駆動電力の供給を停止することができる。
【0045】
次に、液晶層の駆動方法の一例を説明する。図4は、液晶層の駆動方法を示す説明図である。図4には、リークの影響を省いた実効電圧の波形が図示されており、図中の横軸は駆動開始からの時間経過を示し、縦軸は電位を示す。
【0046】
本実施形態において、上述の走査線駆動回路は、駆動部4から供給される駆動信号に基づき、複数の走査線12に対して時間順次で走査線ごとにゲート電圧Vを印加する。ゲート電圧Vが印加された走査線12と電気的に接続されたスイッチング素子14は、オン状態となり、チャネル領域に電流を流すことが可能になる。
【0047】
上述のデータ線駆動回路は、駆動部4から供給される駆動信号に基づき、オン状態のスイッチング素子14のチャネル領域及びデータ線13を介して、画素電極22に駆動電圧を印加する。所定の階調を表示するときに画素電極22に印加される駆動電圧は、ゲート電圧Vの立ち上がりと同期して、高電位V(例えば12V)と低電位V(例えば2V)とに交互に切替わる。高電位Vと低電位Vは、例えば1フレームごとに切替わる。駆動電圧が高電位Vであるときに、画素電極22の電位、すなわち液晶層16に印加される実効電圧VEFは、概ね高電位Vまで上昇する。
【0048】
スイッチング素子14がオフになると、スイッチング素子14のゲート電極とチャネル領域等との寄生容量に蓄積された電荷がソース領域、ドレイン領域に分配されて画素電極22に流れること(フィールドスルー)により、実効電圧VEFが低下する。次にゲート電圧Vが立ち上がると駆動電圧が低電位Vになり、画素電極22が放電されて、実効電圧VEFが低電位Vまで降下する。そして、スイッチング素子14がオフになると、フィールドスルーによる電圧降下Vが生じる。
【0049】
本実施形態の駆動部4は、共通電極電位VCOMを生成し、基板間導通端子部17を介して共通電極25に共通電極電位VCOMを印加する。共通電極電位VCOMは、低電位Vよりも高く、高電位Vよりも低い電位に設定される。液晶層16には、共通電極電位VCOMと画素電極22の電位との電位差に応じた電界が印加される。すなわち、液晶層16は、駆動電圧が高電位Vであるときに正極性電圧が印加され、また駆動電圧が低電位Vであるときに負極性電圧が印加されて、交流駆動される。
【0050】
共通電極電位VCOMは、実効電圧VEFの共通電極電位VCOMに対する正極性(高電位)側と負極性(低電位)側とのバランスを取るように、予め設定されている。すなわち、実効電圧VEFと共通電極電位VCOMとに囲まれる領域の面積が、正極性電圧の印加期間と負極性電圧の印加期間とでほぼ同じになるように、共通電極電位VCOMが設定されている(以下、最適化という)。共通電極電位VCOMは、フィールドスルーやリークによる実効電圧VEFの変動を加味して、例えば、高電位Vと低電位Vの平均値である中間電位Vよりも低電位に設定される。
【0051】
共通電極25の電位を共通電極電位VCOMに保持すれば、正負極性での電気的なバランスを取ることができるように思われるが、実際には素子基板10と対向基板11の構造の違いに起因して、液晶層16に電荷の偏りが残ることがある。特に、反射型の液晶パネルは、液晶層を挟持する1対の基板のうちで、一方の基板は光が透過する特性であるのに対して他方の基板は光が反射する特性であり、液晶層の厚み方向で電気的な特性が非対称になりやすい。液晶層16に電荷の偏りが残ると、液晶層16に直流成分が印加されることになる。本実施形態の液晶装置1は、液晶層16の駆動が停止された状態で、温度調整部3が液晶層を加熱するので、液晶層16の電荷の偏りの緩和を促進することができる。
【0052】
図5は、液晶層の温度を異ならせたときの共通電極電位の時間変化量の比較を示す図である。図5中の縦軸は、所定の時間だけ駆動した時点の液晶層16に最適化した共通電極電位VCOMから、各時点での液晶層16に最適化した共通電極電位VCOMへの変化量を示す。図5中の横軸は、液晶層16の駆動停止からの経過時間を示す。すなわち、横軸の値が0であるときに、液晶層16は電荷の偏りが生じている状態であり、共通電極電位VCOMは、駆動開始前の液晶層16に最適化された共通電極電位VCOMよりも高電位になっている。
【0053】
図5から分かるように、共通電極電位VCOMは、液晶層16の駆動停止から時間が経過するにしたがって、単調に減少している。すなわち、駆動停止から時間が経過するにしたがって、共通電極電位VCOMは駆動開始前の液晶層16に最適化された共通電極電位VCOMへ近づいており、液晶層16の電荷の偏りが緩和されることが分かる。ここで、液晶層16の温度の違いに着目すると、温度調整部3で加熱した液晶層16の温度が高いほど、共通電極電位VCOMが駆動開始前とほぼ同じになるまでの時間が短くなる。例えば、共通電極電位VCOMが駆動開始前とほぼ同じになるまでの時間は、液晶層16を50℃まで加熱した場合に30分程度であるのに対して、液晶層16を60℃まで加熱した場合に10分程度であり、液晶層16を70℃まで加熱した場合に5分程度である。以上のように、液晶層16を加熱することにより、液晶層16に印加される直流成分を効果的に減らすことができる。一方、液晶層16が液晶相から等方相への転移温度以上に加熱されると、液晶層16の配向性が乱れることによって、液晶層16を通る光を所望の偏光状態に制御できなくなる可能性がある。
【0054】
本実施形態の液晶装置1において、温度調整部3は、液晶層16を加熱するとともに液晶層16の温度が等方相への転移温度未満になるように液晶層16の温度を調整する。したがって、液晶層16に印加される直流成分を効果的に減らすことができ、しかも液晶層16の等方相への転移による配向性の乱れが抑制されるので液晶層16の配向性を良好に保持することができる。よって、共通電極電位VCOMを可変に制御しなくともフリッカーや焼つき等の発生を抑制することができるとともに、配向性の乱れによる画像品質の低下等を抑制することができる。
【0055】
また、温度調整部3は、温度センサー31の計測結果とメモリー32に記憶された温度情報とを比較して液晶層16の温度を調整するので、液晶層16の温度を高精度に制御することができる。また、温度調整部3は、液晶層16を加熱するヒーター、及び温度センサー31の計測結果と温度情報とを比較して液晶層16の温度が転移温度未満になるようにヒーター30を制御する温度コントローラー33を有しているので、液晶層16の温度が転移温度未満になるように液晶層16の温度を高精度に制御することができる。
【0056】
また、温度調整部3の温度コントローラー33は、液晶パネル2を駆動する駆動部4から液晶層16の駆動の停止を示す制御信号を受けて、ヒーター30に液晶層16の加熱を開始させるので、液晶層16を加熱するタイミングを高精度に管理することができる。
【0057】
一般的に、反射型の液晶パネルは、液晶層の厚み方向で電気的な特性が非対称になりやすく、液晶層に印加される直流成分が累積しやすい。一方、本実施形態の液晶装置1は、電気的な特性の非対称性に起因する直流成分を減らすことができるので、フリッカーや焼つきの発生を抑制しつつ、透過型の液晶パネルよりも開口率を高めること等ができる。
【0058】
また、温度調整部3のヒーター30は、液晶層16の厚み方向から見て液晶層16と重なるように、反射面(画素電極22)に対して液晶層16とは反対側に配置されているので、液晶層を均一かつ迅速に加熱することができ、しかも液晶層16から射出される光を遮ることがなくなる。
【0059】
次に、本実施形態の液晶装置を備えるプロジェクターの一例を説明する。図6は、本実施形態のプロジェクターの構成を示す図である。
【0060】
図6に示すプロジェクター40は、光源41、インテグレーター光学系42、色分離光学系43、3系統の画像形成系44〜46、色合成素子47、及び投写光学系48を備えている。3系統の画像形成系44〜46は、それぞれ、本実施形態の液晶装置を含んで構成されている。
【0061】
光源41から射出された光源光は、インテグレーター光学系42に入射する。インテグレーター光学系42に入射した光源光は、照度が均一化されるとともに偏光状態が揃えられて射出される。インテグレーター光学系42から射出された光源光は、色分離光学系43により赤色光L、緑色光L、及び青色光Lに分離され、色光ごとに異なる系統の画像形成系44〜46に入射する。画像形成系44は赤画像を形成し、画像形成系45は緑画像を、画像形成系46は青画像をそれぞれ形成する。すなわち、各画像形成系に入射した色光は、表示すべき画像の画像データに基づき変調されて、各色の画像になる。3系統の画像形成系44〜46から射出された3色の画像光は、色合成素子47により合成された後に、投写光学系48によりスクリーン等の被投射面(図示略)に投射される。これにより、被投射面にフルカラーの画像が表示される。
【0062】
3系統の画像形成系44〜46は、いずれも同様の構成になっており、ここでは赤画像用の画像形成系44の構成について代表的に説明する。
画像形成系44は、液晶装置50、入射側偏光板51、偏光分離素子52、光学補償板53、及び射出側偏光板54を含んでいる。入射側偏光板51は、偏光分離素子52に対するP偏光の赤色光を透過させる。偏光分離素子52を透過した赤色光は、光学補償板53を通って液晶装置50に入射して変調され、画像を示す偏光成分(偏光分離素子52に対するS偏光)を含んだ光になる。
【0063】
液晶装置50から射出された光は、光学補償板53を通り、偏光分離素子52に入射する。液晶装置50に変調された光のうちのS偏光は、偏光分離素子52で反射して、射出側偏光板54に入射する。射出側偏光板54は、上記のS偏光を通すようになっている。射出側偏光板54を通った光は、色合成素子47に入射し、上述のように合成された後に投射される。
【0064】
本実施形態のプロジェクター40にあっては、上記の液晶装置50により画像を形成するので、液晶層16に印加される直流成分に起因するフリッカーや焼付きの発生を抑制することができ、しかも液晶層16の配向性の乱れに起因する画像品質の低下を抑制することができるので、高品質な画像を表示することができる。
【0065】
なお、上記の実施形態において、液晶パネル2は反射型であるが、透過型であってもよい。液晶パネル2が透過型である場合に、液晶パネル2から射出される光の光路に配置される素子基板10の各部は、透光性を有する材料で形成される。また、液晶パネル2が透過型である場合に、ヒーター30や温度センサー31は、液晶パネル2から射出される光を遮らないように表示領域A1を避けて、黒表示領域A2や黒表示領域A2の外側に配置される。
【0066】
上記の実施形態において、ヒーター30の熱により液晶層16を加熱しているが、ヒーター30以外の熱源を利用して、液晶層16を加熱する構成でもよい。例えば、液晶装置1は、液晶パネル2を冷却する冷却機構を備え、液晶層16が外気温度よりも高温になるように温度調整部3が冷却機構による冷却を抑制する構成でもよい。また、ヒーター30は、例えばペルチェ素子のように、液晶層16を加熱可能であり、かつ液晶パネル2の少なくとも一部を冷却可能でもよい。この場合に、温度調整部3は、液晶パネル2により画像を形成又は表示しているときに液晶パネル2を冷却するか、もしくは放熱を促進する構成でもよい。また、温度調整部3は、液晶パネル2により画像を形成又は表示しているときに、液晶層16の温度が転移温度以上にならないように、液晶層16の温度を調整してもよい。また、温度調整部3は、液晶層16が結晶相へ転移しないように、液晶層16の温度を調整してもよい。温度調整部3は、駆動部4からの制御信号を受けることなく、例えばユーザーの入力等により液晶層16の温度を調整してもよい。
【0067】
また、上記の実施形態において、ヒーター30及び温度センサー31は、液晶パネル2の外部に取り付けられているが、ヒーター30と温度センサー31の少なくとも一方が液晶パネル2の内部に配置されていてもよい。
【符号の説明】
【0068】
1、50・・・液晶装置、2・・・液晶パネル、3・・・温度調整部、4・・・駆動部、16・・・液晶層、22・・・画素電極(1対の電極)、25・・・共通電極(1対の電極)、30・・・ヒーター、31・・・温度センサー、32・・・メモリー、33・・・温度コントローラー、40・・・プロジェクター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶層、及び前記液晶層を駆動する1対の電極を有する液晶パネルと、
前記1対の電極による前記液晶層の駆動が停止された状態で、前記液晶層を加熱するとともに前記液晶層の温度が等方相への転移温度未満になるように前記液晶層の温度を調整する温度調整部と、を備える液晶装置。
【請求項2】
前記温度調整部は、前記液晶層の温度を計測する温度センサー、及び前記転移温度を示す温度情報を記憶したメモリーを有し、前記温度センサーの計測結果と前記温度情報とを比較して前記液晶層の温度を調整する請求項1に記載の液晶装置。
【請求項3】
前記温度調整部は、前記液晶層を加熱するヒーター、及び前記温度センサーの計測結果と前記温度情報とを比較して前記液晶層の温度が前記転移温度未満になるように前記ヒーターを制御する温度コントローラーを有する請求項2に記載の液晶装置。
【請求項4】
前記液晶パネルを駆動する駆動部を備え、
前記1対の電極は、前記駆動部から供給される駆動信号により前記液晶層を駆動し、
前記温度コントローラーは、前記一対の電極による前記液晶層の駆動の停止を示す制御信号を前記駆動部から受けて、前記ヒーターに前記液晶層の加熱を開始させる請求項3に記載の液晶装置。
【請求項5】
前記液晶パネルは、前記液晶層の厚み方向の一方側から前記液晶層へ入射した光が反射する反射面を有し、該反射面で反射した光が前記液晶層の前記一方側へ射出される反射型の液晶パネルである請求項1〜4のいずれか一項に記載の液晶装置。
【請求項6】
前記ヒーターは、前記液晶層の厚み方向から見て前記液晶層と重なるように、前記反射面に対して前記液晶層とは反対側に配置されている請求項5に記載の液晶装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の液晶装置を備えるプロジェクター。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−150347(P2012−150347A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−9895(P2011−9895)
【出願日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】