説明

液晶配向剤、液晶配向膜及び液晶表示素子

【課題】高温使用時において高い電圧保持率を示すとともに、熱劣化が少ない液晶配向膜を得るための液晶配向剤を提供する。
【解決手段】脂肪族テトラカルボン酸二無水物及び脂環式テトラカルボン酸二無水物(但し、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物を除く。)の少なくともいずれかを含むテトラカルボン酸二無水物と、下記式(1)で表される化合物(D)を含むジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸及びそのイミド化重合体よりなる群から選択される少なくとも一種の重合体を含有させる。下記式(1)中、AIIIは、環構造として芳香環又はシクロヘキシレン環を有する1価の基である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶配向剤、液晶配向膜及び液晶表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶表示素子としては、TNモードやIPSモード、FFSモードといった水平配向型や、VAモードといった垂直配向型のものが知られている。これら液晶表示素子は、液晶分子を配向させるための液晶配向膜を有する。また、液晶配向膜の材料としては、耐熱性、機械的強度、液晶との親和性などの各種特性が良好である点から、ポリアミック酸やポリイミドが一般に使用されている。
【0003】
また近年、液晶表示素子は、従来のようにパーソナルコンピュータ等の表示端末に使用されるだけでなく、例えば液晶テレビやカーナビゲーションシステム、携帯電話、スマートフォン等の表示部など多種の用途で使用されている。また、それらの用途によっては、従来のものよりも過酷な環境下で使用されることがある。特に、カーナビゲーションシステムなどの車載用途のものや、携帯電話及びスマートフォンのように持ち運びされることが前提のものについては、高温環境下に置かれたり使用されたりすることが想定される。一方、高温環境下では、液晶配向膜が熱によって劣化することで電圧保持率が低下し、その結果、液晶表示素子の表示品位が低下するおそれがある。
【0004】
そこで、従来、高温環境下において良好な表示特性を示す液晶配向膜を得るための液晶配向剤が種々提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、脂環式構造又は脂肪族構造を有するテトラカルボン酸二無水物と、ジアミノジフェニルアミンとを反応させて得られるポリアミック酸又はポリイミドを含有する液晶配向剤について開示されている。この特許文献1の液晶配向剤を用いて作製した液晶表示素子では、90℃の温度下でも高い電圧保持率を保持することが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2004/021076号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
液晶表示素子としては、その使用態様を考慮すると、一時的な高温環境下で高い表示品位(電圧保持率)を示すだけでは足りず、高温環境下において長期に亘って安定した表示品位を示す、つまり熱による劣化が少ないことが要求される。ところが、上記特許文献1のものでは、一時的な高温環境下での電圧保持率については検討されているものの、長期に亘る熱ストレスによっても安定して高い表示品位を示すとは必ずしも言えない。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、液晶表示素子の高温使用時において高い電圧保持率を示すとともに、熱劣化が少ない液晶配向膜を得るための液晶配向剤、及び当該液晶配向剤を用いて作製された液晶配向膜及び液晶表示素子を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記のような従来技術の課題を達成すべく鋭意検討した結果、特定構造のジアミンとテトラカルボン酸二無水物とを反応させて得られる重合体を液晶配向剤に含有させることにより、上記課題を解決可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明により、以下の液晶配向剤、液晶配向膜及び液晶表示素子が提供される。
【0009】
本発明によれば、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸及びそのイミド化重合体よりなる群から選択される少なくとも一種の重合体を含有し、前記テトラカルボン酸二無水物は、脂肪族テトラカルボン酸二無水物及び脂環式テトラカルボン酸二無水物(但し、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物を除く。)の少なくともいずれかを含むものであり、前記ジアミンは、下記式(1)で表される化合物(D)を含むものであることを特徴とする液晶配向剤が提供される。
【化1】

(式中、A及びAIIは、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ピリジレン基、ピリミジニレン基又はトリアジニレン基であり、これらは置換基を有していてもよい。AIIIは、環構造として芳香環又はシクロヘキシレン環を有する1価の基であり、当該環構造が3級窒素原子に結合している。)
【0010】
本発明の液晶配向剤によれば、上記重合体を含むため、高温使用時において高い電圧保持率を示す液晶配向膜を得ることができる。また、液晶配向膜の剛直性を向上させることができ、高温環境下に長時間置かれた場合にも電圧保持率の低下が少ない、すなわち熱による劣化が少ない液晶配向膜を得ることができる。
【0011】
また、本発明によれば、前記化合物(D)が下記式(2)で表される液晶配向剤が提供される。化合物(D)の3級窒素原子にフェニレン基が結合された構成とすることにより、液晶配向膜の電圧保持率及び熱安定性をより良好にすることができる。
【化2】

(式中、A及びAIIは、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ピリジレン基、ピリミジニレン基又はトリアジニレン基であり、これらは置換基を有していてもよい。Rは、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数1〜30のアルコキシ基又は炭素数3〜30の1価の脂環式炭化水素基であり、炭素原子に結合する水素原子の少なくとも一部が置換されていてもよく、メチレン基の一部が、酸素原子、−CO−又は−COO−で置換されていてもよい。nは、0〜5の整数であり、nが2〜5の場合、複数のRはそれぞれ独立して上記定義を有する。)
【0012】
本発明の液晶配向剤における一つの態様としては、前記A及びAIIは、それぞれ独立に、置換又は無置換のフェニレン基である。上記ジアミンとしてトリフェニルアミン系を用いることにより、さらに、形成された塗膜における液晶配向性を良好にすることができる。
【0013】
また、他の一態様としては、前記Rは、ハロゲン原子、水酸基又は炭素数1〜6のアルキル基、アルコキシ基若しくはフルオロアルキル基である。この場合、水平配向型の液晶表示素子に好適に使用することができる。水平配向型の液晶表示素子に用いる場合の好ましい一態様としては、前記nは0である。
【0014】
さらに、本発明によれば、上記に記載の液晶配向剤により形成された液晶配向膜、及び当該液晶配向膜を具備する液晶表示素子が提供される。本発明の液晶配向膜は、上記に記載の液晶配向剤により形成されていることから、高温使用時において高い電圧保持率を示すとともに、熱による劣化が少ない。よって、このような液晶配向膜を具備する液晶表示素子によれば、高温環境下で使用される場合にも、高い表示品位を安定に維持することができる。したがって、例えばカーナビゲーションシステムや、携帯電話、スマートフォン等のように高温環境に置かれることが想定される用途にも適している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の液晶配向剤は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸及びそのイミド化重合体の少なくともいずれかの重合体を含有する。以下、本発明の液晶配向剤について詳細に説明する。
【0016】
<ポリアミック酸>
[テトラカルボン酸二無水物]
本発明におけるポリアミック酸を合成するためのテトラカルボン酸二無水物は、脂肪族テトラカルボン酸二無水物及び脂環式テトラカルボン酸二無水物(但し、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物を除く。)の少なくともいずれかを含む。
【0017】
ここで、「脂肪族テトラカルボン酸二無水物」は、鎖状炭化水素基に結合する4つのカルボキシル基が分子内脱水することにより得られる酸二無水物をいう。ただし、鎖状構造のみで構成されている必要はなく、その一部に環構造を有していてもよい。また、「脂環式テトラカルボン酸二無水物」は、脂肪族環に結合する少なくとも1つのカルボキシル基が分子内脱水することにより得られる酸二無水物をいう。ただし、脂環式構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造や芳香環構造を有していてもよい。
【0018】
具体的には、脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物が挙げられる。
また、脂環式テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−8−メチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、3−オキサビシクロ[3.2.1]オクタン−2,4−ジオン−6−スピロ−3’−(テトラヒドロフラン−2’,5’−ジオン)、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、3,5,6−トリカルボキシ−2−カルボキシメチルノルボルナン−2:3,5:6−二無水物、ビシクロ[3.3.0]オクタン−2,4,6,8−テトラカルボン酸二無水物、4,9−ジオキサトリシクロ[5.3.1.02,6]ウンデカン−3,5,8,10−テトラオン、シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物などを挙げることができる。その他、特開2010−97188号公報に記載の脂環式テトラカルボン酸二無水物であって上記以外のものを用いることができる。
【0019】
脂環式テトラカルボン酸二無水物としては、これらの中でも特に、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−8−メチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、ビシクロ[3,3,0]オクタン−2,4,6,8−テトラカルボン酸二無水物、及びシクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物よりなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。より好ましくは、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、(1S,2S,4R,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物及び(1R,2S,4S,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物よりなる群から選ばれる少なくとも1種であり、特に好ましくは、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物である。
【0020】
なお、上記の脂肪族テトラカルボン酸二無水物及び脂環式テトラカルボン酸二無水物は、1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0021】
テトラカルボン酸二無水物としては、脂肪族テトラカルボン酸二無水物及び脂環式テトラカルボン酸二無水物から選ばれる少なくとも1種のみを用いてもよいが、更に、芳香族テトラカルボン酸二無水物を組み合わせて用いてもよい。ここで、「芳香族テトラカルボン酸二無水物」は、同一の又は異なる芳香環に結合する4つのカルボキシル基が分子内脱水することにより得られる酸二無水物である。
【0022】
芳香族テトラカルボン酸二無水物として具体的には、ピロメリット酸二無水物(PMDA)や、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、その他、特開2010−97188号公報に記載の芳香族テトラカルボン酸二無水物を用いることができる。芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、特に、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸無水物及び3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いるのが好ましい。これらの芳香族テトラカルボン酸二無水物と、脂肪族テトラカルボン酸二無水物及び脂環式テトラカルボン酸二無水物の少なくともいずれかとを組み合わせて用いることにより、脂肪族テトラカルボン酸二無水物及び脂環式テトラカルボン酸二無水物を単独で用いる場合に比べて、膜の液晶配向性を向上できるとともに、直流電圧を印加した際の蓄積電荷を少なくできる点で好ましい。
【0023】
脂肪族テトラカルボン酸二無水物及び脂環式テトラカルボン酸二無水物の含有比率αは、その合計量が、テトラカルボン酸二無水物の全量に対して10〜100モル%が好ましく、30〜100モル%がより好ましく、50〜100モル%が更に好ましく、70〜100モル%が特に好ましい。上記範囲とすることにより、液晶配向膜の電圧保持率をより良好にすることができる。高温使用時における電圧保持率及び熱安定性を一層高める観点からすると、脂肪族テトラカルボン酸及び脂環式テトラカルボン酸二無水物の少なくとも1種を単独で用いる(含有比率α=100%)のが特に好ましい。
【0024】
[ジアミン]
本発明におけるポリアミック酸を合成するために使用するジアミンは、下記式(1)で表される化合物(D)を含んでいる。
【化3】

(式中、A及びAIIは、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ピリジレン基、ピリミジニレン基又はトリアジニレン基であり、これらは置換基を有していてもよい。AIIIは、環構造として芳香環又はシクロヘキシレン環を有する1価の基であり、当該環構造が3級窒素原子に結合している。)
【0025】
上記A及びAIIにおいて、フェニレン基としては、1,3−フェニレン基、1,4−フェニレン基などを;ナフチレン基としては、1,4−ナフチレン基、1,5−ナフチレン基などを;ピリジレン基としては、2,4−ピリジレン基、2,5−ピリジレン基などを;ピリミジニレン基としては、2,5−ピリミジニレン基などを;トリアジニレン基としては、2,4−トリアジニレン基などを;それぞれ挙げることができる。
また、これらの基が有していてもよい置換基としては、例えば、ハロゲン原子、水酸基又は炭素数1〜6のアルキル基、アルコキシ基若しくはフルオロアルキル基などを挙げることができる。
ここで、ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。
また、炭素数1〜6のアルキル基としては、直鎖状でも分岐状でもよく、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基等が挙げられる。
炭素数1〜6のアルコキシ基としては、上記炭素数1〜6のアルキル基として挙げた基が酸素原子に結合したものを挙げることができ、具体的にはメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などが挙げられる。
炭素数1〜6のフルオロアルキル基としては、上記炭素数1〜6のアルキル基として挙げた基の少なくとも1つの水素原子がフッ素原子で置換された基が挙げられ、具体的には、例えばトリフルオロメチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、パーフルオロエチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、パーフルオロプロピル基、4,4,4−トリフルオロブチル基、4,4,5,5,5−ペンタフルオロペンチル基等が挙げられる。
【0026】
上記式(1)におけるAIIIは、環構造として芳香環又はシクロヘキシレン環を有する1価の基である。AIIIが環構造として芳香環を有する1価の基(1価の芳香族基)である場合、当該1価の芳香族基は、芳香環が有する1つの水素原子が脱離して上記式(1)中の窒素原子に結合されている限り、例えばフェニル基やトリル基などのように芳香環を1つのみ有していてもよいし、ビフェニル基などのように複数の芳香環が例えば単結合により結合されていてもよい。また、AIIIにおける1価の芳香族基は、芳香環のみから構成されていてもよく、芳香環の少なくとも1つの水素原子が置換されていてもよい。
上記芳香環としては、例えば、ベンゼン環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、トリアジン環、フラン環、ピロール環、チオフェン環などの単環;ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、インデン環、ピレン環、キノリン環等の多環などが挙げられる。
【0027】
また、AIIIにおけるシクロヘキシレン環を有する1価の基は、シクロヘキシレン環が上記式(1)中の窒素原子に直接結合されている限り、その構造は特に限定しない。例えば、水平配向型の液晶表示素子に用いる場合、当該1価の基は、下記式(c1)で表される基が好ましい。
【化4】

(式中、Rは、炭素数1〜6のアルキル基、アルコキシ基又はフルオロアルキル基であり、rは、0又は1である。「*」は、上記式(1)中の窒素原子に結合する結合手を示す。)
【0028】
における炭素数1〜6のアルキル基としては、直鎖状でも分岐状でもよく、具体的には、A及びAIIにおける炭素数1〜6のアルキル基として例示した基が挙げられる。
炭素数1〜6のアルコキシ基としては、上記炭素数1〜6のアルキル基として挙げた基が酸素原子に結合した基を挙げることができ、具体的には、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などが挙げられる。
炭素数1〜6のフルオロアルキル基としては、上記炭素数1〜6のアルキル基として挙げた基の少なくとも1つの水素原子がフッ素原子で置換された基を挙げることができ、具体的には、A及びAIIにおいて例示した基などが挙げられる。
なお、Rとして例示した基においては、メチレン基の一部が、酸素原子、−CO−又は−COO−で置換されていてもよい。
の結合位置はいずれであってもよいが、好ましくは3−位又は4−位であり、特に好ましくは4−位である。なお、上記式(c1)におけるシクロヘキシレン環は、水素原子の少なくとも一部が、例えばハロゲン原子や水酸基等で置換されていてもよい。
として好ましい基はrの値によって異なり、具体的には、rが0の場合には、炭素数1〜5のものが好ましく、炭素数1〜3のものがより好ましく、炭素数1〜3のアルキル基が更に好ましい。一方、rが1の場合には、炭素数1又は2のものが好ましく、炭素数1又は2のアルキル基がより好ましく、メチル基が更に好ましい。液晶分子の水平配向を好適に行わせる観点からすると、上記式(c1)で表される基としては、r=0であってRが炭素数1〜3のアルキル基であるものが特に好ましい。
【0029】
IIIとしては、熱劣化を少なくできる観点から、これらの中でも1価の芳香族基が好ましく、芳香環としてベンゼン環を有する基がより好ましい。具体的には、化合物(D)としては、下記式(2)で表されるジアミンが好ましい。また、形成される塗膜の液晶配向性を良好にできる観点から、下記(3)で表されるトリフェニルアミン系ジアミンが特に好ましい。
【化5】

(式中、Rは、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数1〜30のアルコキシ基又は炭素数3〜30の1価の脂環式炭化水素基であり、炭素原子に結合する水素原子の少なくとも一部が置換されていてもよく、メチレン基の一部が、酸素原子、−CO−又は−COO−で置換されていてもよい。nは0〜5の整数であり、nが2〜5の場合、複数のRはそれぞれ独立して上記定義を有する。A及びAIIは、上記式(1)と同義である。)
【化6】

(式中、R及びnは上記式(2)と同義であり、RIIは、ハロゲン原子、水酸基又は炭素数1〜6のアルキル基、アルコキシ基若しくはフルオロアルキル基である。p及びqは0〜4の整数であり、複数のRIIはそれぞれ独立して上記定義を有する。)
【0030】
上記Rにおいて、ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。
また、炭素数1〜30のアルキル基としては、直鎖状であっても分岐状であってもよい。好ましくは、炭素数1〜12であり、具体的には、A及びAIIにおける炭素数1〜6のアルキル基として例示した基の他、n−ヘプチル基、イソヘプチル基、n−オクチル基、イソオクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基等が挙げられる。
炭素数1〜30のアルコキシ基としては、上記炭素数1〜30のアルキル基が酸素原子に結合した基を挙げることができ、具体的にはメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などが挙げられる。
炭素数3〜30の1価の脂環式炭化水素基としては、脂肪族環のみで構成されていてもよく、またその一部に鎖状構造を含んでいてもよい。脂肪族環としては、例えばシクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン等の単環;ノルボルナン、アダマンタン等の架橋環;ステロイド骨格などの縮合環等が挙げられる。また、上記の脂環式炭化水素基が有していてもよい鎖状構造としては、例えば炭素数1〜12の直鎖状又は分岐状のアルキル基などを挙げることができる。
【0031】
におけるアルキル基、アルコキシ基及び脂環式炭化水素基は、炭素原子に結合する水素原子の少なくとも一部が置換されていてもよい。この場合の置換基としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、水酸基、シアノ基、ニトロ基等が挙げられる。また、メチレン基の一部が、酸素原子、−CO−又は−COO−で置換されていてもよい。
なお、ここで例示したRの具体例は、上記AIIIの1価の芳香族基における芳香環が有していてもよい置換基としても適用することができる。
【0032】
nが1〜5の整数である場合のRとしては、水平配向型液晶表示素子に適用する場合には、ハロゲン原子、水酸基又は炭素数1〜6のアルキル基、アルコキシ基若しくはフルオロアルキル基が好ましく、ハロゲン原子、水酸基又は炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシ基若しくはフルオロアルキル基がより好ましく、炭素数1又は2のアルキル基が更に好ましい。
nとしては、0〜2が好ましく、0又は1がより好ましい。特に、n=0である場合には、液晶分子のプレチルト角が大きくなりすぎるのを一層抑制することができ、水平配向型の液晶表示素子用に好適である。
【0033】
また、上記式(3)で表されるジアミンにおいて、一級アミノ基の結合位置は特に限定しないが、3級窒素原子に対して3−位又は4−位が好ましく、4−位がより好ましい。p及びqとしては、0〜2が好ましく、0又は1がより好ましい。
【0034】
上記式(1)で表される化合物(D)として具体的には、例えば、3,3’−ジアミノトリフェニルアミン、4,4’−ジアミノトリフェニルアミン、4,4’−ジアミノ−4’’−メチルトリフェニルアミン、4,4’−ジアミノ−3’’−メチルトリフェニルアミン、4,4’−ジアミノ−4’’−エチルトリフェニルアミン、4,4’−ジアミノ−4’’−プロピルトリフェニルアミン、4,4’−ジアミノ−4’’−イソプロピルトリフェニルアミン、4,4’−ジアミノ−4’’−tert−ブチルトリフェニルアミン、4,4’−ジアミノ−4’’−ヘキシルトリフェニルアミン、4,4’−ジアミノ−4’’−オクチルトリフェニルアミン、4,4’−ジアミノ−4’’−ヒドロキシトリフェニルアミン、4,4’−ジアミノ−4’’−メトキシトリフェニルアミン、4,4’−ジアミノ−4’’−エトキシトリフェニルアミン、N,N−ビス(4−アミノフェニル)−p−(コレスタニルオキシカルボニル)フェニルアミン、N,N−ビス(4−アミノフェニル)−p−(コレステリルオキシカルボニル)フェニルアミン、N,N−ビス(4−アミノフェニル)−p−(コレスタニルオキシ)フェニルアミン、N,N−ビス(4−アミノフェニル)−p−(コレステリルオキシ)フェニルアミン等が挙げられる。
【0035】
上記ポリアミック酸を合成するためのジアミンとしては、上記化合物(D)のみを使用してもよいし、上記化合物(D)とともにその他のジアミンを併用してもよい。
【0036】
ここで使用することのできるその他のジアミンとしては、例えば、下記に示す脂肪族ジアミン、脂環式ジアミン、芳香族ジアミン、ジアミノオルガノシロキサンなどを挙げることができる。これらの具体例としては、脂肪族ジアミンとして、例えば1,1−メタキシリレンジアミン、1,3−プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどを;
脂環式ジアミンとして、例えば1,4−ジアミノシクロヘキサン、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンなどを;
【0037】
芳香族ジアミンとして、例えばo−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、1,5−ジアミノナフタレン、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノ−2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル、2,7−ジアミノフルオレン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,6−ジアミノピリジン、3,4−ジアミノピリジン、2,4−ジアミノピリミジン、3,6−ジアミノアクリジン、3,6−ジアミノカルバゾール、N−メチル−3,6−ジアミノカルバゾール、N−エチル−3,6−ジアミノカルバゾール、N−フェニル−3,6−ジアミノカルバゾール、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−ベンジジン、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−N,N’−ジメチルベンジジン、1,4−ビス−(4−アミノフェニル)−ピペラジン、3,5−ジアミノ安息香酸、ドデカノキシ−2,4−ジアミノベンゼン、テトラデカノキシ−2,4−ジアミノベンゼン、ペンタデカノキシ−2,4−ジアミノベンゼン、ヘキサデカノキシ−2,4−ジアミノベンゼン、オクタデカノキシ−2,4−ジアミノベンゼン、ドデカノキシ−2,5−ジアミノベンゼン、テトラデカノキシ−2,5−ジアミノベンゼン、ペンタデカノキシ−2,5−ジアミノベンゼン、ヘキサデカノキシ−2,5−ジアミノベンゼン、オクタデカノキシ−2,5−ジアミノベンゼン、コレスタニルオキシ−3,5−ジアミノベンゼン、コレステニルオキシ−3,5−ジアミノベンゼン、コレスタニルオキシ−2,4−ジアミノベンゼン、コレステニルオキシ−2,4−ジアミノベンゼン、3,5−ジアミノ安息香酸コレスタニル、3,5−ジアミノ安息香酸コレステニル、3,5−ジアミノ安息香酸ラノスタニル、3,6−ビス(4−アミノベンゾイルオキシ)コレスタン、3,6−ビス(4−アミノフェノキシ)コレスタン、4−(4’−トリフルオロメトキシベンゾイロキシ)シクロヘキシル−3,5−ジアミノベンゾエート、4−(4’−トリフルオロメチルベンゾイロキシ)シクロヘキシル−3,5−ジアミノベンゾエート、1,1−ビス(4−((アミノフェニル)メチル)フェニル)−4−ブチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−((アミノフェニル)メチル)フェニル)−4−ヘプチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−((アミノフェノキシ)メチル)フェニル)−4−ヘプチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−((アミノフェニル)メチル)フェニル)−4−(4−ヘプチルシクロヘキシル)シクロヘキサン、2,4−ジアミノ−N,N―ジアリルアニリン、4−アミノベンジルアミン、3−アミノベンジルアミン、1−(2,4−ジアミノフェニル)ピペラジン−4−カルボン酸、4−(モルホリン−4−イル)ベンゼン−1,3−ジアミン、1,3−ビス(N−(4−アミノフェニル)ピペリジニル)プロパン、α−アミノ−ω−アミノフェニルアルキレン、1−(2−プロピニルオキシ)−2,4−ベンゼンジアミン、4−アミノフェニル 4−アミノベンゾエート、4,4'−[4,4'−プロパン−4,4−プロパン−1,3−ジイルビス(ピペリジン−1,4−ジイル)]ジアニリン、及び下記式(A−1)
【化7】

(式中、XI及びXIIは、それぞれ、単結合、−O−、−COO−又は−OCO−であり、Rは、炭素数1〜3のアルカンジイル基であり、aは0又は1であり、bは0〜2の整数であり、cは1〜20の整数であり、nは0又は1である。但し、a及びbが同時に0になることはない。)
で表される化合物などを;
【0038】
ジアミノオルガノシロキサンとして、例えば、1,3−ビス(3−アミノプロピル)−テトラメチルジシロキサンなどを、それぞれ挙げることができるほか、特開2010−97188号公報に記載のジアミンを用いることができる。
【0039】
上記式(A−1)における「−X−(R−XII−」で表される2価の基としては、炭素数1〜3のアルカンジイル基、*−O−、*−COO−又は*−O−C−O−(ただし、「*」を付した結合手がジアミノフェニル基と結合する。)であることが好ましい。基「−C2c+1」の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基、n−ノナデシル基、n−エイコシル基などを挙げることができる。ジアミノフェニル基における2つのアミノ基は、他の基に対して2,4−位又は3,5−位にあることが好ましい。
【0040】
上記式(A−1)で表される化合物の具体例としては、例えば下記式(A−1−1)〜(A−1−6)のそれぞれで表される化合物などを挙げることができる。
【化8】

【0041】
上記化合物(D)の比率は、本発明におけるポリアミック酸の合成に使用するジアミンの全量に対して10〜100モル%が好ましく、30〜100モル%がより好ましく、6〜100モル%が更に好ましい。このような範囲にすることにより、高温で使用した場合にも高い電圧保持率を示すとともに熱安定性に優れた液晶配向膜を得ることができる。特に、本発明におけるポリアミック酸の合成に用いるジアミンとして、上記化合物(D)を単独で用いた場合には、高温使用時の電圧保持特性や熱安定性において一層好ましい。
【0042】
[分子量調節剤]
ポリアミック酸を合成するに際して、上記の如きテトラカルボン酸二無水物及びジミアンとともに、適当な分子量調節剤を用いて末端修飾型の重合体を合成することとしてもよい。かかる末端修飾型の重合体とすることにより、本発明の効果を損なうことなく液晶配向剤の塗布性(印刷性)をさらに改善することができる。
【0043】
分子量調節剤としては、例えば酸一無水物、モノアミン化合物、モノイソシアネート化合物などを挙げることができる。これらの具体例としては、酸一無水物としては、例えば無水マレイン酸、無水フタル酸、無水イタコン酸、n−デシルサクシニック酸無水物、n−ドデシルサクシニック酸無水物、n−テトラデシルサクシニック酸無水物、n−ヘキサデシルサクシニック酸無水物などを;
モノアミン化合物として、例えばアニリン、シクロヘキシルアミン、n−ブチルアミン、n−ペンチルアミン、n−ヘキシルアミン、n−ヘプチルアミン、n−オクチルアミンなどを;
モノイソシアネート化合物として、例えばフェニルイソシアネート、ナフチルイソシアネートなどを、それぞれ挙げることができる。
【0044】
分子量調節剤の使用割合は、使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミンの合計100重量部に対して、20重量部以下とすることが好ましく、10重量部以下とすることがより好ましい。
【0045】
<ポリアミック酸の合成>
本発明におけるポリアミック酸の合成反応に供されるテトラカルボン酸二無水物とジアミンとの使用割合は、ジアミンのアミノ基1当量に対して、テトラカルボン酸二無水物の酸無水物基が0.2〜2当量となる割合が好ましく、さらに好ましくは0.3〜1.2当量となる割合である。
【0046】
ポリアミック酸の合成反応は、好ましくは有機溶媒中において行われる。このときの反応温度は−20℃〜150℃が好ましく、0〜100℃がより好ましい。また、反応時間は0.1〜24時間が好ましく、0.5〜12時間がより好ましい。
【0047】
ここで、有機溶媒としては、例えば非プロトン性極性溶媒、フェノール及びその誘導体、アルコール、ケトン、エステル、エーテル、ハロゲン化炭化水素、炭化水素などを挙げることができる。
【0048】
これら有機溶媒の具体例としては、上記非プロトン性極性溶媒として、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルトリアミドなどを;
上記フェノール誘導体として、例えば、m−クレゾール、キシレノール、ハロゲン化フェノールなどを;
上記アルコールとして、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテルなどを;
上記ケトンとして、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどを;
上記エステルとして、例えば、乳酸エチル、乳酸ブチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルメトキシプロピオネ−ト、エチルエトキシプロピオネ−ト、シュウ酸ジエチル、マロン酸ジエチルなどを;
上記エーテルとして、例えば、ジエチルエーテル、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール−n−プロピルエーテル、エチレングリコール−i−プロピルエーテル、エチレングリコール−n−ブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、テトラヒドロフランなどを;
上記ハロゲン化炭化水素として、例えば、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、1,4−ジクロロブタン、トリクロロエタン、クロルベンゼン、o−ジクロルベンゼンなどを;
上記炭化水素として、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、イソアミルプロピオネート、イソアミルイソブチレート、ジイソペンチルエーテルなどを、それぞれ挙げることができる。
【0049】
これらの有機溶媒のうち、非プロトン性極性溶媒並びにフェノール及びその誘導体よりなる群(第一群の有機溶媒)から選択される1種以上、又は、第一群の有機溶媒から選択される1種以上と、アルコール、ケトン、エステル、エーテル、ハロゲン化炭化水素及び炭化水素よりなる群(第二群の有機溶媒)から選択される一種以上との混合物を使用することが好ましい。後者の場合、第二群の有機溶媒の使用割合は、第一群の有機溶媒及び第二群の有機溶媒の合計量に対して、好ましくは50重量%以下であり、より好ましくは40重量%以下であり、更に好ましくは30重量%以下である。
有機溶媒の使用量(a)は、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンの合計量(b)が、反応溶液の全量(a+b)に対して0.1〜50重量%になるような量とすることが好ましい。
【0050】
以上のようにして、ポリアミック酸を溶解してなる反応溶液が得られる。この反応溶液はそのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、反応溶液中に含まれるポリアミック酸を単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよく、又は単離したポリアミック酸を精製したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。ポリアミック酸を脱水閉環してポリイミドとする場合には、上記反応溶液をそのまま脱水閉環反応に供してもよく、反応溶液中に含まれるポリアミック酸を単離したうえで脱水閉環反応に供してもよく、又は単離したポリアミック酸を精製したうえで脱水閉環反応に供してもよい。ポリアミック酸の単離及び精製は公知の方法に従って行うことができる。
【0051】
<イミド化重合体の合成>
本発明の液晶配向剤に含有されるイミド化重合体(ポリイミド)は、上記の如くして合成されたポリアミック酸を脱水閉環してイミド化することにより得ることができる。
【0052】
上記ポリイミドは、その前駆体であるポリアミック酸が有していたアミック酸構造のすべてを脱水閉環した完全イミド化物であってもよく、アミック酸構造の一部のみを脱水閉環し、アミック酸構造とイミド環構造が併存する部分イミド化物であってもよい。本発明におけるポリイミドは、そのイミド化率が30%以上であることが好ましく、35〜99%であることがより好ましく、40〜99%であることがより好ましい。このイミド化率は、ポリイミドのアミック酸構造の数とイミド環構造の数との合計に対するイミド環構造の数の占める割合を百分率で表したものである。ここで、イミド環の一部がイソイミド環であってもよい。
【0053】
ポリアミック酸の脱水閉環は、好ましくはポリアミック酸を加熱する方法により、又はポリアミック酸を有機溶媒に溶解し、この溶液中に脱水剤及び脱水閉環触媒を添加し必要に応じて加熱する方法により行われる。このうち、後者の方法によることが好ましい。
【0054】
上記ポリアミック酸の溶液中に脱水剤及び脱水閉環触媒を添加する方法において、脱水剤としては、例えば無水酢酸、無水プロピオン酸、無水トリフルオロ酢酸などの酸無水物を用いることができる。脱水剤の使用量は、ポリアミック酸のアミック酸構造の1モルに対して0.01〜20モルとすることが好ましい。脱水閉環触媒としては、例えばピリジン、コリジン、ルチジン、トリエチルアミン等の3級アミンを用いることができる。脱水閉環触媒の使用量は、使用する脱水剤1モルに対して0.01〜10モルとすることが好ましい。脱水閉環反応に用いられる有機溶媒としては、ポリアミック酸の合成に用いられるものとして例示した有機溶媒を挙げることができる。脱水閉環反応の反応温度は、好ましくは0〜180℃であり、より好ましくは10〜150℃である。反応時間は、好ましくは1.0〜120時間であり、より好ましくは2.0〜30時間である。
【0055】
このようにしてポリイミドを含有する反応溶液が得られる。この反応溶液は、そのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、反応溶液から脱水剤及び脱水閉環触媒を除いたうえで液晶配向剤の調製に供してもよく、ポリイミドを単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよく、又は単離したポリイミドを精製したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。これらの精製操作は公知の方法に従って行うことができる。
【0056】
<重合体の溶液粘度>
以上のようにして得られる本発明におけるポリアミック酸又はイミド化重合体(以下、特定重合体ともいう)は、これを濃度10重量%の溶液としたときに、10〜800mPa・sの溶液粘度を持つものであることが好ましく、15〜500mPa・sの溶液粘度を持つものであることがより好ましい。なお、上記特定重合体の溶液粘度(mPa・s)は、当該特定重合体の良溶媒(例えばγ−ブチロラクトン、N−メチル−2−ピロリドンなど)を用いて調製した濃度10重量%の重合体溶液につき、E型回転粘度計を用いて25℃において測定した値である。
【0057】
<その他の添加剤>
本発明の液晶配向剤は、上記の如き特定重合体を必須成分として含有するが、必要に応じてその他の成分を含有していてもよい。かかるその他の成分としては、例えば、上記特定重合体以外のその他の重合体、分子内に少なくとも一つのエポキシ基を有する化合物(以下、「エポキシ化合物」という)、官能性シラン化合物等を挙げることができる。
【0058】
[その他の重合体]
上記その他の重合体は、溶液特性及び電気特性の改善のために使用することができる。かかるその他の重合体は特定重合体以外の重合体であり、例えば、化合物(D)以外のジアミンとテトラカルボン酸二無水物とを反応させて得られるポリアミック酸や、化合物(D)と芳香族テトラカルボン酸二無水物とを反応させて得られるポリアミック酸(以下、「他のポリアミック酸」という。)、該他のポリアミック酸を脱水閉環してなるポリイミド(以下、「他のポリイミド」という。)、ポリアミック酸エステル、ポリエステル、ポリアミド、ポリシロキサン、セルロース誘導体、ポリアセタール、ポリスチレン誘導体、ポリ(スチレン−フェニルマレイミド)誘導体、ポリ(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。なお、他のポリアミック酸及び他のポリイミドを合成するために用いるテトラカルボン酸二無水物及びジアミンとしては、上記特定重合体を合成するために用いる化合物として例示したうち、該当する化合物を挙げることができる。
【0059】
その他の重合体を液晶配向剤に添加する場合、その配合比率は、該組成物中の全重合体量に対して50重量%以下が好ましく、0.1〜40重量%がより好ましく、0.1〜30重量%が更に好ましい。
【0060】
[エポキシ化合物]
上記エポキシ化合物は、液晶配向膜における基板表面との接着性を向上させるために使用することができる。ここで、エポキシ化合物としては、例えばエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、2,2−ジブロモネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシレンジアミン、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、N,N−ジグリシジル−ベンジルアミン、N,N−ジグリシジル−アミノメチルシクロヘキサン、N,N−ジグリシジル−シクロヘキシルアミン等を好ましいものとして挙げることができる。
【0061】
これらエポキシ化合物を液晶配向剤に添加する場合、その配合比率は、液晶配向剤中に含まれる重合体の合計100重量部に対して40重量部以下が好ましく、0.1〜30重量部がより好ましい。
【0062】
[官能性シラン化合物]
上記官能性シラン化合物は、液晶配向剤の印刷性を向上させるために使用することができる。このような官能性シラン化合物としては、例えば3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−アミノプロピルトリメトキシシラン、2−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N−エトキシカルボニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−エトキシカルボニル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−トリエトキシシリルプロピルトリエチレントリアミン、N−トリメトキシシリルプロピルトリエチレントリアミン、10−トリメトキシシリル−1,4,7−トリアザデカン、10−トリエトキシシリル−1,4,7−トリアザデカン、9−トリメトキシシリル−3,6−ジアザノニルアセテート、9−トリメトキシシリル−3,6−ジアザノニルアセテート、9−トリエトキシシリル−3,6−ジアザノニルアセテート、9−トリメトキシシリル−3,6−ジアザノナン酸メチル、9−トリエトキシシリル−3,6−ジアザノナン酸メチル、N−ベンジル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−ベンジル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、グリシドキシメチルトリメトキシシラン、グリシドキシメチルトリエトキシシラン、2―グリシドキシエチルトリメトキシシラン、2―グリシドキシエチルトリエトキシシラン、3―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3―グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等を挙げることができる。
【0063】
これら官能性シラン化合物を液晶配向剤に添加する場合、その配合比率は、重合体の合計100重量部に対して2重量部以下が好ましく、0.02〜0.2重量部がより好ましい。
【0064】
<有機溶媒>
本発明の液晶配向剤は、特定重合体及び必要に応じて任意的に配合されるその他の添加剤が、好ましくは有機溶媒中に溶解含有されて構成される。
【0065】
使用される有機溶媒としては、例えばN−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、γ−ブチロラクタム、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン、エチレングリコールモノメチルエーテル、乳酸ブチル、酢酸ブチル、メチルメトキシプロピオネ−ト、エチルエトキシプロピオネ−ト、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール−n−プロピルエーテル、エチレングリコール−i−プロピルエーテル、エチレングリコール−n−ブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジイソブチルケトン、イソアミルプロピオネート、イソアミルイソブチレート、ジイソペンチルエーテル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等を挙げることができる。これらは、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0066】
本発明の液晶配向剤における固形分濃度(液晶配向剤の溶媒以外の成分の合計重量が液晶配向剤の全重量に占める割合)は、粘性、揮発性などを考慮して適宜に選択されるが、好ましくは1〜10重量%の範囲である。すなわち、本発明の液晶配向剤は、後述するように基板表面に塗布され、好ましくは加熱されることにより、液晶配向膜である塗膜又は液晶配向膜となる塗膜が形成されるが、このとき、固形分濃度が1重量%未満である場合には、この塗膜の膜厚が過小となって良好な液晶配向膜を得ることができない。一方、固形分濃度が10重量%を超える場合には、塗膜の膜厚が過大となって良好な液晶配向膜を得ることができず、また、液晶配向剤の粘性が増大して塗布特性が劣るものとなる。
【0067】
特に好ましい固形分濃度の範囲は、基板に液晶配向剤を塗布する際に用いる方法によって異なる。例えばスピンナー法による場合には固形分濃度1.5〜4.5重量%の範囲が特に好ましい。印刷法による場合には、固形分濃度を3〜9重量%の範囲とし、それにより溶液粘度を12〜50mPa・sの範囲とすることが特に好ましい。インクジェット法
による場合には、固形分濃度を1〜5重量%の範囲とし、それにより、溶液粘度を3〜15mPa・sの範囲とすることが特に好ましい。
【0068】
本発明の液晶配向剤を調製する際の温度は、好ましくは10〜50℃であり、より好ましくは20〜30℃である。
【0069】
<液晶配向膜及び液晶表示素子>
本発明の液晶配向膜は、本発明の液晶配向剤により形成される。また、本発明の液晶表示素子は、本発明の液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜を具備するものである。本発明の液晶表示素子は、IPS型やTN型、STN型、FFS型といった水平配向型の動作モードに適用してもよいし、VA型のような垂直配向型の動作モードに適用してもよい。好ましくは、水平配向型である。
【0070】
以下に、本発明の液晶表示素子の製造方法を説明するとともに、その説明の中で本発明の液晶配向膜の製造方法についても説明する。本発明の液晶表示素子は、例えば以下の(1)〜(3)の工程により製造することができる。工程(1)は、所望の動作モードによって使用基板が異なる。工程(2)及び(3)は各動作モードに共通である。
【0071】
[工程(1):塗膜の形成]
先ず基板上に本発明の液晶配向剤を塗布し、次いで塗布面を加熱することにより基板上に塗膜を形成する。
【0072】
(1−1)TN型、STN型又はVA型液晶表示素子を製造する場合、パターニングされた透明導電膜が設けられている基板二枚を一対として、その各透明性導電膜形成面上に、本発明の液晶配向剤を、好ましくはオフセット印刷法、スピンコート法、ロールコーター法又はインクジェット印刷法によりそれぞれ塗布し、次いで、各塗布面を加熱(好ましくは予備加熱(プレベーク)及び焼成(ポストベーク)からなる二段階加熱)することにより塗膜を形成する。ここに、基板としては、例えばフロートガラス、ソーダガラスなどのガラス;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリ(脂環式オレフィン)などのプラスチックからなる透明基板を用いることができる。基板の一面に設けられる透明導電膜としては、酸化スズ(SnO)からなるNESA膜(米国PPG社登録商標)、酸化インジウム−酸化スズ(In−SnO)からなるITO膜などを用いることができ、パターニングされた透明導電膜を得るには、例えばパターンなし透明導電膜を形成した後フォト・エッチングによりパターンを形成する方法、透明導電膜を形成する際に所望のパターンを有するマスクを用いる方法などによることができる。液晶配向剤の塗布に際しては、基板表面及び透明導電膜と塗膜との接着性をさらに良好にするために、基板表面のうち塗膜を形成するべき面に、官能性シラン化合物、官能性チタン化合物などを予め塗布する前処理を施しておいてもよい。
【0073】
液晶配向剤を塗布した後、その塗布面を、次いで予備加熱(プレベーク)し、さらに焼成(ポストベーク)することにより塗膜を形成する。プレベーク条件は、例えば40〜120℃において0.1〜5分であり、ポストベーク条件は、好ましくは120〜300℃、より好ましくは150〜250℃において、好ましくは5〜200分、より好ましくは10〜100分である。形成される塗膜の膜厚は、好ましくは0.001〜1μmであり、より好ましくは0.005〜0.5μmである。
【0074】
(1−2)IPS型液晶表示素子を製造する場合、櫛歯型にパターニングされた透明導電膜が設けられている基板の導電膜形成面と、導電膜が設けられていない対向基板の一面とに、本発明の液晶配向剤をそれぞれ塗布し、次いで各塗布面を加熱することにより塗膜を形成する。このとき使用される基板及び透明導電膜の材質、塗布方法、塗布後の加熱条件、透明導電膜のパターニング方法、基板の前処理ならびに形成される塗膜の好ましい膜厚については上記(1−1)と同様である。
【0075】
上記(1−1)及び(1−2)のいずれの場合も、基板上に液晶配向剤を塗布した後、有機溶媒を除去することによって配向膜となる塗膜が形成される。このとき、本発明の液晶配向剤に含有される重合体が、ポリアミック酸であるか、又はイミド環構造とアミック酸構造とを有するイミド化重合体である場合には、塗膜形成後に更に加熱することによって脱水閉環反応を進行させ、よりイミド化された塗膜としてもよい。
【0076】
[工程(2):ラビング処理]
TN型、STN型又はIPS型液晶表示素子を製造する場合には、上記工程(1)で形成した塗膜を、例えばナイロン、レーヨン、コットンなどの繊維からなる布を巻き付けたロールで一定方向に擦るラビング処理を施す。これにより、液晶分子の配向能が塗膜に付与されて液晶配向膜となる。
【0077】
さらに、上記の液晶配向膜に対し、液晶配向膜の一部に紫外線を照射することによって液晶配向膜の一部の領域のプレチルト角を変化させる処理や、液晶配向膜表面の一部にレジスト膜を形成した上で先のラビング処理と異なる方向にラビング処理を行った後にレジスト膜を除去する処理を行い、液晶配向膜が領域ごとに異なる液晶配向能を持つようにしてもよい。この場合、得られる液晶表示素子の視界特性を改善することが可能である。
【0078】
なお、VA型液晶表示素子を製造する場合には、上記工程(1)で形成した塗膜をそのまま液晶配向膜として使用することができるが、該塗膜に対しラビング処理を施してもよい。
【0079】
[工程(3):液晶セルの構築]
上記のようにして液晶配向膜が形成された一対の基板につき、二枚の基板の液晶配向膜のラビング方向が直交又は逆平行となるように間隙(セルギャップ)を介して対向配置し、二枚の基板の周辺部をシール剤を用いて貼り合わせ、基板表面及びシール剤により区画されたセルギャップ内に液晶を注入充填し、注入孔を封止して液晶セルを構成する。そして、液晶セルの外表面に、偏光板を、その偏光方向が各基板に形成された液晶配向膜のラビング方向と一致又は直交するように貼り合わせることにより、液晶表示素子を得ることができる。
【0080】
シール剤としては、例えば硬化剤及びスペーサーとしての酸化アルミニウム球を含有するエポキシ樹脂などを用いることができる。
液晶としては、ネマチック液晶及びスメクチック液晶を挙げることができ、その中でもネマチック液晶が好ましく、例えばシッフベース系液晶、アゾキシ系液晶、ビフェニル系液晶、フェニルシクロヘキサン系液晶、エステル系液晶、ターフェニル系液晶、ビフェニルシクロヘキサン系液晶、ピリミジン系液晶、ジオキサン系液晶、ビシクロオクタン系液晶、キュバン系液晶などを用いることができる。また、これらの液晶に、例えばコレスチルクロライド、コレステリルノナエート、コレステリルカーボネートなどのコレステリック液晶;商品名「C−15」、「CB−15」(メルク社製)として販売されているようなカイラル剤;p−デシロキシベンジリデン−p−アミノ−2−メチルブチルシンナメートなどの強誘電性液晶などを、添加して使用してもよい。
液晶セルの外表面に貼り合わされる偏光板としては、ポリビニルアルコールを延伸配向させながらヨウ素を吸収させた「H膜」と称される偏光膜を酢酸セルロース保護膜で挟んだ偏光板又はH膜そのものからなる偏光板を挙げることができる。
【0081】
本発明の液晶表示素子は、種々の装置に有効に適用することができ、例えば、時計、携帯型ゲーム、ワープロ、ノート型パソコン、カーナビゲーションシステム、カムコーダー、PDA、デジタルカメラ、携帯電話、スマートフォン、各種モニター、液晶テレビなどの表示装置に用いることができる。
【実施例】
【0082】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0083】
<重合体の合成>
[合成例1〜4及び比較合成例1〜3]
N−メチル−2−ピロリドンに、それぞれ下記表1に示す種類及び配合割合のジアミン及びテトラカルボン酸二無水物をこの順で加えて、モノマー濃度15重量%の溶液とした。その後、室温において6時間の反応を行って、ポリアミック酸(PA−1)〜(PA−4)及び(PAR−1)〜(PAR−3)を含有する溶液をそれぞれ得た。各溶液を少量分取し、N−メチル−2−ピロリドンを加え、ポリアミック酸濃度10重量%の溶液とした。その溶液粘度を測定した結果を下記表1に示す。なお、各合成例における重合体の溶液粘度は、いずれもE型回転粘度計を用いて25℃において測定した値である。
【表1】

【0084】
表1中、ジアミン及びテトラカルボン酸二無水物の配合割合[モル部]は、使用したジアミンの合計量100モル部に対する値を示す。また、ジアミン及びテトラカルボン酸無水物の略称は、それぞれ以下のとおりである。
<ジアミン>
d−1:4,4’−ジアミノトリフェニルアミン
d−2:4,4’−ジアミノ−4’’−メチルトリフェニルアミン
d−3:4,4’−ジアミノジフェニルアミン
d−4:N,N−ビス(4−アミノフェニル)メチルアミン
d−5:p−フェニレンジアミン
d−6:4,4’−ジアミノジフェニルエーテル
<テトラカルボン酸二無水物>
t−1:1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物
t−2:ピロメリット酸二無水物
t−3:2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物
【0085】
<液晶配向剤の調製>
[実施例1]
上記合成例1で得られたポリアミック酸(PA−1)を含有する溶液にγ−ブチロラクトン(BL)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)及びブチルセロソルブ(BC)を加え、さらにエポキシ化合物としてN,N,N’,N’−テトラグリシジル−4,4’−ジアミノジフェニルメタンを、重合体の合計100重量部に対して10重量部加えて攪拌し、溶媒比がBL:NMP:BC=40:40:20(重量比)、固形分濃度4.0重量%の溶液とした。この溶液を孔径1μmのフィルターを用いて濾過した。これにより得られた溶液を液晶配向剤(S−1)とした。
[実施例2〜4及び比較例1〜3]
使用するポリアミック酸を(PA−2)〜(PA−4)又は(PAR−1)〜(PAR−3)に変更した以外は、上記実施例1と同様の方法により液晶配向剤(S−2)〜(S−4)及び(SR−1)〜(SR−3)を調製した。
【0086】
<液晶表示素子の製造>
[実施例1]
片面に櫛歯状に設けられたクロム電極を有する厚さ1mmのガラス基板上に、上記で調製した実施例1の液晶配向剤(S−1)をスピンナーにより塗布し、80℃のホットプレート上で1分間のプレベークを行った後、230℃のホットプレート上で10分間ポストベークして、膜厚約800Åの塗膜を形成した。形成された塗膜面に対し、ナイロン製の布を巻き付けたロールを有するラビングマシーンを用いて、ロールの回転数1,000rpm、ステージの移動速度25mm/秒、毛足押し込み長さ0.4mmにてラビング処理を行い、液晶配向能を付与した。さらにこの基板を超純水中で1分間超音波洗浄し、100℃クリーンオーブンで10分間乾燥することにより、櫛歯状のクロム電極を有する面上に液晶配向膜を有する基板(基板A)を製造した。
これとは別に、電極を有さない厚さ1mmのガラス基板の一面に、上記と同様にして液晶配向剤の塗膜を形成し、ラビング処理を行い、洗浄、乾燥して、片面上に液晶配向膜を有する基板(基板B)を製造した。
【0087】
続いて、基板のラビング処理された液晶配向膜を有する面の外縁に、直径5.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤を塗布した後、各液晶配向膜におけるラビング方向が逆平行となるように2枚の基板A,Bを間隙を介して対向配置し、外縁部同士を当接して圧着して接着剤を硬化した。次いで、液晶注入口より一対の基板間に、ネマチック液晶(メルク社製、MLC−2042)を充填した後、アクリル系光硬化接着剤で液晶注入口を封止した。これにより、液晶表示素子を得た。
【0088】
[実施例2〜4及び比較例1〜3]
使用する液晶配向剤を(S−2)〜(S−4)又は(SR−1)〜(SR−3)に変更した以外は、上記実施例1と同様の方法により液晶表示素子を製造した。
【0089】
<液晶表示素子の性能評価>
[印刷性の評価]
基板上に形成した塗膜を倍率20倍の顕微鏡で観察して膜のはじきの有無を調べた。評価は、膜のはじきが全くないか又はほとんど見られなかった場合を「良好」、膜のはじきが確認された場合を「やや劣る」とした。その結果を下記表2に示す。
【0090】
[電圧保持特性の評価]
上記製造した液晶表示素子につき、100℃において1Vの電圧を20マイクロ秒の印加時間、167msecのスパンで印加した後、印圧解除から167ミリ秒後の電圧保持率を測定した。測定装置は(株)東陽テクニカ製VHR−1を使用した。測定結果を下記の表2に示す。
【0091】
[熱安定性の評価]
上記製造した液晶表示素子につき、100℃の熱ストレスを30時間付加した後、上記と同様の方法で電圧保持率を測定した。このとき、熱ストレス付加前後の電圧保持率の変化ΔVHRが2%以下の場合を「+++」、2%よりも大きく3%以下の場合を「++」、3%よりも大きく5%以下の場合を「+」、5%よりも大きい場合を「−」と評価した。その結果を下記表2に示す。
【表2】

【0092】
(実施例1〜4)
表2に示すように、実施例1〜4では、いずれも印刷性が良好であるとともに、100℃の温度下で電圧を印加した場合に、電圧保持率が90%以上と高い値を示した。また、100℃の熱ストレスを長時間付加した場合にも、電圧保持率の低下が少なく、熱安定性に優れていることが分かった。特に、実施例1の液晶配向剤は、熱ストレス付加前の電圧保持率が95%と高く、表示特性が特に良好であるとともに、熱ストレスの付加によっても電圧保持率の減少量が2%と極めて少なく、熱安定性に特に優れていた。
(比較例1〜3)
これに対し、比較例1〜3について、比較例1,2では、印刷性がやや劣り、比較例2,3では、100℃の温度下での電圧保持率が90%未満と低かった。また、比較例1〜3ではいずれも、熱ストレスによって電圧保持率が大きく低下し、熱による劣化が見られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸及びそのイミド化重合体よりなる群から選択される少なくとも一種の重合体を含有し、
前記テトラカルボン酸二無水物は、脂肪族テトラカルボン酸二無水物及び脂環式テトラカルボン酸二無水物(但し、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物を除く。)の少なくともいずれかを含むものであり、
前記ジアミンは、下記式(1)で表される化合物(D)を含むものであることを特徴とする液晶配向剤。
【化1】

(式中、A及びAIIは、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ピリジレン基、ピリミジニレン基又はトリアジニレン基であり、これらは置換基を有していてもよい。AIIIは、環構造として芳香環又はシクロヘキシレン環を有する1価の基であり、当該環構造が3級窒素原子に結合している。)
【請求項2】
前記化合物(D)は、下記式(2)で表される請求項1に記載の液晶配向剤。
【化2】

(式中、A及びAIIは、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ピリジレン基、ピリミジニレン基又はトリアジニレン基であり、これらは置換基を有していてもよい。Rは、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数1〜30のアルコキシ基又は炭素数3〜30の1価の脂環式炭化水素基であり、炭素原子に結合する水素原子の少なくとも一部が置換されていてもよく、メチレン基の一部が、酸素原子、−CO−又は−COO−で置換されていてもよい。nは、0〜5の整数であり、nが2〜5の場合、複数のRはそれぞれ独立して上記定義を有する。)
【請求項3】
前記A及びAIIは、それぞれ独立に、置換又は無置換のフェニレン基である請求項1又は2に記載の液晶配向剤。
【請求項4】
前記Rは、ハロゲン原子、水酸基又は炭素数1〜6のアルキル基、アルコキシ基若しくはフルオロアルキル基である請求項2又は3に記載の液晶配向剤。
【請求項5】
前記nは0である請求項2又は3に記載の液晶配向剤。
【請求項6】
前記脂肪族テトラカルボン酸二無水物は、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物であり、
前記脂環式テトラカルボン酸二無水物は、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−8−メチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、ビシクロ[3,3,0]オクタン−2,4,6,8−テトラカルボン酸二無水物、及びシクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物よりなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1乃至5のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の液晶配向剤により形成された液晶配向膜。
【請求項8】
請求項7に記載の液晶配向膜を具備する液晶表示素子。

【公開番号】特開2013−15773(P2013−15773A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−150294(P2011−150294)
【出願日】平成23年7月6日(2011.7.6)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】