説明

液浸液体に対して疎溶媒性の入射面及び光学窓

【課題】DUV光で液浸露光ができる光学窓、及びマイクロリソグラフィシステムを提供する。
【解決手段】光学窓の窓基板は、入射面であって入射面が光透過性液体に対して疎溶媒性となるように配置されたサブ波長アスペリティ(粗さ、凹凸)によって装飾された入射面を有する。サブ波長アスペリティは、入射面が液体に対して超疎溶媒性となるように、様々な形状及び組み合わせを有することができ、規則的あるいは不規則的に配置可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2006年4月3日に出願された米国仮出願番号第60/789,025号に対応し、かつその優先権を主張し、その開示全てをここに援用して本文の記載の一部とする。
【背景技術】
【0002】
本発明は、一般的には、とりわけ、光学窓及び光学窓とともに使用される光学センサに関する。光学窓は、例えば、深紫外(DUV)光を用いた液浸マイクロリソグラフィシステムの基板ステージ上で、あるいは基板ステージとともに用いられる有用なものである。このような窓は、露光位置合せや結像品質を検知し監視するために使われるセンサを、例えば露光光を透過する液浸液体との接触から隔離させ、保護する働きをする。主題である光学窓、及び他の入射面は液浸液体による「濡れ」に抵抗する(即ち液浸液体に対して「疎溶媒性」である)。
【0003】
液浸マイクロリソグラフィにおいて、マイクロリソグラフィの他のタイプにおけるように、所望パターンの像は露光光のビームによって好適な基板に転写される。マイクロリソグラフィシステムの多くのタイプにおいて、パターンはレチクル又はマスクによって規定される。レチクルは、照明ビームによって照明され、パターン化された結像ビームを形成する。パターン化された結像ビームは、半導体ウエハやガラス板等の適切な基板上にパターン像を形成するために必要とされているようにビームを成形し、条件を整える投影光学系を通過する。露光のために、基板は通常は「基板ステージ」と呼ばれる可動プラットフォームに保持され、レチクルは通常は「レチクルステージ」と呼ばれる可動プラットフォームに保持される。基板の露光の進行中、各ステージ間の相対的な動きが制御される。パターン像が印刷されるように、基板は通常は「レジスト」と呼ばれる感光性材料が塗布されている。
【0004】
精度よく露光を行うために、マイクロリソグラフィシステムは、例えば、レチクルと基板の相互の、及び光学系との適切なアラインメントを確実に行う検知器及びセンサを備えている。各検知器及びセンサは、レチクルステージ及び基板ステージの上又は近傍を含む、マイクロリソグラフィシステムのあらゆる場所に設置される。
【0005】
より良いイメージ解像度を得るために、マイクロリソグラフィ露光は、通常は短波長の露光光で行われる。マイクロ回路において使用可能なますます多くの、そしてより小さな回路素子を形成することへの絶え間ない要求は、より短い波長を用いる露光を行うマイクロリソグラフィシステムへの絶え間ないな要求を生み出した。現在、最も進んだ市販されているマイクロリソグラフィシステムは、エキシマレーザによって生み出される深紫外光を使って露光を行う。この光の波長は約150−250nmの範囲、一般には「深紫外」あるいは「DUV」の範囲であり、現在の好ましい波長は193nmである。ほとんどの材料はこの及び他のDUV波長を透過しない。光学ガラスはDUVを透過しないので、投影光学系及び他のシステム光学は通常、石英ガラス(非結晶質石英)で作られる。
【0006】
エキシマレーザで生み出されたDUV波長よりも実質的に短い波長での露光を可能にする、実用的な“次世代”リソグラフィシステムが求められる中、エキシマレーザ光を使うシステムからより多くの結像性能を促す試みが行われている。この試みにおいて、「液浸」投影光学系を用いるエキシマレーザベースのシステムから驚くべき良い結果が得られている。これらの「液浸マイクロリソグラフィ」システムは、光顕微鏡法で用いられる原理を活用する。光顕微鏡法では、標本と対物レンズとの間に液体(空気よりも実質的に大きな屈折率を有する)を介在させることによって改良された画像解像度が得られる。液浸マイクロリソグラフィシステムにおいて、液浸液体は、投影レンズの終端(端部)と、投影レンズが像を形成する基板表面との間に介在する。光顕微鏡装置は、このように、液浸液体(通常は油)の使用に容易に適応することができるが、マイクロリソグラフィシステムにおいて液浸液体を適応させること、特に結像性能の低下や他の問題を実際に引き起こすことなく適応させることは、より困難である。
【0007】
現在、ほとんどの液浸マイクロリソグラフィシステムにおいて、液浸液体としては水が一般的に用いられる。液浸液体として、水は多くの好ましい性質を持つ。水はおよそ1.44の屈折率(n)を持ち(空気屈折率n=1と比較して)、現在液浸マイクロリソグラフィにおいて用いられる露光光の波長(λ=193nm)を透過する。また、水は高い表面張力、低い粘度、良好な熱伝導率、及び無毒性を有し、水の光学特性は周知である。
【0008】
液浸マイクロリソグラフィシステムに液浸液体を提供するために、投影光学系には、基板と隣接する投影光学系の終端あるいは終端付近に置かれるノズルアセンブリ(装置)(そのいくつかの構造は「シャワーヘッド」と呼ばれることもある)が設けられる。ノズルアセンブリは、投影光学系と基板面との間の空間の所望の位置に所望の量の液体を維持する必要があるので、液浸液体を吐出し、過剰な液浸液体を回収するように構成されている。
【0009】
液浸マイクロリソグラフィステージで用いられる基板ステージは、典型的には、位置合せと像の評価に使われるいくつかの光学センサを有する。そのような各センサにおいて、それぞれの「光学窓」が実際のセンサ素子を基板ステージの環境から隔て、検出光が光学窓を通過してセンサ素子に到達する。これらのセンサの多くは、ステージ上に載せられた基板の縁に、あるいは縁付近に位置するように配置される。したがって、液浸マイクロリソグラフィシステムの基板ステージについて、センサの光学窓の上流と向き合う面(入射面)が、基板の露光中、あるいは基板の交換中に少なくとも断続的に液浸液体と接触する場合がある。
【0010】
液浸液体として水を使用すると、液浸液体と入射面との接触がいくつかの好ましくない結果をもたらすことが明らかになった。例えば、そのような接触は、特に、入射面と接触する水の領域と窓とが相対移動している最中はいつでも、水の領域に泡の形成をもたらすことになる。また、そのような接触の結果、液浸用の水の領域が窓を通過した後に、入射面上に残る液浸用の水の水滴が形成される。いずれの場合も、泡、又は水滴は通常、窓の下流に置かれたセンサの機能を妨げる。さらに、ステージの動きによって再び水滴と流体とが一体になると、水滴はノズルアセンブリ内に残る流体塊をかき乱し、それによって流体塊の更なる途絶を生み出す。泡及び液滴が生じるこれらの問題は、ステージ速度が高まるにつれて顕著となる傾向がある。このことは、マイクロリソグラフィシステムからのより高いスループットを得るためには、より速いステージ速度が要求されるため、不都合である。
【0011】
液浸用の水との接触による不都合な結果を減らすため、基板ステージに付随するセンサ用の従来の光学窓の入射面は、普通、基板ステージ上に載っている基板の上面と面一である。また、入射面は「疎水性」(「水を嫌う」)物質の膜が塗布されている。疎水性の物質は水に濡れることに抵抗する。ゆえに、その膜の上の水滴は、膜面上に広がるのではなくむしろ、「ビーズのような」形状をとる傾向がある。疎水性の表面が存在することにより、表面の動きによって流体塊が途絶され、それにより液滴が形成される可能性が低くなる。より一般的には、疎水膜上に置かれた水滴は、90°より大きな膜面との「接触角」(θ)を示す。従来使われる疎水膜の材料は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE;テフロン(登録商標)の一種)及び、フッ化アルキルシランのようなシラン化合物である。これらの材料は通常、膜を保証するための非常に薄い膜として入射面に適用されて、光が窓を通過することを膜が過度に遮らないことを確実にする。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
現在液浸マイクロリソグラフィにおける液浸液体として、水が広く用いられているが、水のいくつかの特徴は全く好ましいというわけではない。その特徴の一つは、屈折率である。液浸流体は、その流体が接触する投影光学系における対物素子の屈折率(約1.6)と同等か又はそれより大きな屈折率を有することが望ましい。水はn=1.44を有しているため、水を45nmハーフピッチノードの193nm液浸リソグラフィ用の液浸流体として用いることができるが、n=1.44は、より微細な特徴(38nm以下のハーフピッチノード)を生み出すことを目指す液浸リソグラフィにおいて用いるには不十分である。第2に、水は基板面に塗られたレジストを吸収し、部分的に溶解する傾向がある。レジスト表面上の水滴が蒸発すると、水滴に溶解した少量のレジストが、レジスト表面上の、通常は初期位置とは異なる位置に残留する。この再び堆積したレジストは、レジスト表面のトポロジー(形状)を大きく変え、基板表面で行われる計測(オートフォーカス計測等)に問題を引き起こす可能性がある。第3に、水は蒸発しやすく、基板ステージの近傍及びステージ位置の決定に使われる様々な干渉計の近傍における水蒸気の凝縮を増大させる。干渉計レーザー光の光路における蒸気の変化は、干渉計によって行われる測定の誤りを導く可能性がある。また、水蒸気は、様々な干渉計において用いられる鏡の反射面のような繊細な光学面を傷つける可能性がある。
【0013】
また、液浸流体として水が使われる液浸マイクロリソグラフィシステムにおいて用いられる従来の光学窓について、入射面に塗布される従来の疎水性材料の薄膜は高強度のDUV露光光によって傷つきやすく、物理的に耐久性がない。結果として、薄膜は、実用条件のもとでは耐用時間が短くなる傾向がある。より丈夫で液浸液体を「嫌う」表面が必要とされている。
【0014】
水の限界を勘案し、液浸マイクロリソグラフィ用の新しい液浸液体が現在求められている。ほとんどの物質は必要となるDUV光の高透過性及び、DUV光に対して十分に高い屈折率を持たないので、その探求は困難である。高透過性は、フォトレジスト上に入射する露光光の最大化や、流体の光劣化の最小化、流体の温度上昇の最小化を含むいくつかの理由で有利である。最近の研究により、ある飽和炭化水素、特にある種の環状アルカンで、期待できる結果が得られることが明らかにされた。例えば、環状ヘキサンは193nmにおいて、水の屈折率約1.44と比較して、1.55の屈折率を有する。French et al., “Second Generation Fluids for 193nm Immersion Lithography,” Proceedings SPIE 6154:15,2006.しかし、新しい液浸液体は水とある種のトレードオフをもたらす。例えば、水と比べて、新しい液体は粘度が高く、表面張力が低く、基板と対物素子との間に保持しにくい。また新しい液体は水と比べて多くの表面をより容易に「濡らす」傾向にあり、表面上(例えば光学窓の表面)を液体が通過した後に液滴と膜が残留する可能性が高くなるという結果をもたらす(光学窓の表面に残留した場合はセンサの性能を妨げる可能性がある)。したがって、液体は光学窓の入射面がその液体を十分に「嫌う」ようにすることに関して、新たな課題をもたらす。
【課題を解決するための手段】
【0015】
ここで説明する光学窓、及び関連する光学素子は、上記にて要約した従来の光学窓の困難を解決する。光学窓の実施形態は、DUV光のような光の光線を透過するために用いられ、少なくとも1つの光の波長を透過する窓基板を含む。窓基板は入射面を有し、入射面は前記光を透過する液体に対して入射面が疎溶媒性となるように配置されたサブ波長アスペリティ(粗さ、凹凸)で装飾されている。サブ波長アスペリティは、入射面が光透過性液体について超疎溶媒性にするために配置することができる。
【0016】
例として、サブ波長アスペリティは、柱、頂点、角錐、棒、小突起、小管、毛状のもの、その他の幾何学的形状、不規則形状、及びそれらの組合せであり得る。アスペリティは、規則的な列若しくは不規則な列、任意の列、又はアスペリティが互いに同一である列に配置されてもよい。
【0017】
アスペリティは、それぞれが少なくとも1つの波長を実質的に透過しない頂上面を有してもよい。そのような構造においてアスペリティはくぼみによって互いに隔てられてもよく、くぼみは少なくとも1つの波長を透過する。他の実施形態において、各アスペリティはそれぞれ、頂上面を有し、頂上面は光の波長をλとした場合、λ/10以下の寸法を有する。
【0018】
サブ波長アスペリティの配置は、入射面に疎溶媒性をもたらすようにウェンゼル(Wenzel)モデルに従って構成され得る。代替的に、サブ波長アスペリティは、入射面に疎溶媒性をもたらすようにカッシー(Cassie)モデルに従って配置され得る。さらに代替的には、サブ波長アスペリティの配置は、入射面に疎溶媒性をもたらすようにファキル(fakir)状態に従って構成され得る。ファキル状態は、準安定であり得る。
【0019】
別の態様は、光(DUV光のような、ただしこれに限定されない)の少なくとも1つの波長を透過する液体に接触する疎溶媒性表面に関するものである。一つの実施形態において、疎溶媒性表面は、少なくとも1つの波長を透過し、入射面が光透過性の液体について疎溶媒性となるように構成されたサブ波長アスペリティの配置によって装飾される。疎溶媒性の表面は例えば、光学窓の一部であり得る。
【0020】
別の態様は、光学センサに関するものである。実施形態は、光センサ、及びセンサ光の光線がそれを通過して光センサに伝えられる光学窓を含む。光学窓は、センサ光の少なくとも1つの波長を透過する窓基板を含む。窓基板は、入射面を有し、入射面はセンサ光を透過する液体に対して入射面が疎溶媒性となるように配置されたサブ波長アスペリティで装飾されている。
【0021】
光学センサは、さらに、光学窓と光センサとの間に置かれた光学系を含み得る。光学系はフーリエ面と、フーリエ面に置かれた開口絞りとを有する第1レンズを含み得る。開口絞りは前記光学窓からの高次回折光を遮りながら、前記光学窓からの低次回折光を透過する大きさである開口を画定する。光学センサはさらに、フーリエ面と光センサとの間に置かれた少なくとも1つ第2のレンズを含み得、実施形態において、開口絞りはさらに、開口内に少なくとも1つの回折次数絞りを含み得る。
【0022】
さらに別の態様は、基板上にパターンを露光するための、露光光(例えばDUV光)を用いる液浸マイクロリソグラフィシステムに関するものである。そのようなシステムの実施形態は、基板ステージと、投影光学系と、光学センサとを備える。基板ステージは、パターンが露光光によって基板上に露光されるときに基板を保持する。投影光学系は露光光を基板上に導き、投影光学系からのDUV光は投影光学系と基板との間に置かれた露光光を透過する液浸液体を通過する。光学センサは基板ステージに付随し、 (a)光センサと;(b)センサ光の光線がそれを通して光センサに伝えられる光学窓を備える。光学窓はセンサ光の少なくとも1つの波長を透過する窓基板を備える。窓基板は入射面であって、入射面が液浸液体について疎溶媒性となるように配置されたサブ波長アスペリティによって装飾された入射面を有する。
【0023】
ここで説明される装置の前述の特徴、及び追加の特徴と長所は、以下の図面を伴う詳細な説明からより容易に明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
主題である光学表面、光学窓、及び関連する方法を代表的な実施形態との関連で以下に説明するが、代表的な実施形態はいかなる場合もそれらに限定することを意図するものではない。
【0025】
「光学窓」は通常は、光伝播路に置かれ、入射光のうち使用に適した量を、窓の下流に位置する構造のようなものに伝える光学素子である。したがって、光学窓は、光を上流から下流へその窓を通して通過させながら、窓の下流の環境を、上流の環境から隔てる機能を有し得る。光学窓は屈折性であっても非屈折性であってもよい(前者の例はレンズであり、後者の例は「平面」である)。DUV露光光を使用する液浸マイクロリソグラフィシステムで用いられる光学窓は典型的には、使用に適した量の入射DUV光の透過性を示す。液浸マイクロリソグラフィシステムにおける光学窓は、通常は、センサ光(通常は露光に用いられるDUV光の波長と実質的に同じ波長を有する)を、窓を通して下流の光学センサに通過させるように配置され、かつ構成される。これらの光学窓は、上流環境において露光に使われる液浸液体からセンサを保護するのに有利である。DUVの光学窓は、屈折性であっても非屈折性であっても、典型的には石英ガラス(非結晶質石英)のような、適切なDUV透過性を有する光学物質によって作られる。光学窓は検知に使われる光源に向かって上流と対向する入射面と、各センサ又は他の下流構造に向かって下流と対向する裏面を有する。光学窓は、光を、複数のセンサのような1つ以上の下流構造に通過させるように配置されかつ構成され得る。
【0026】
以下に説明する種々の態様は、光学窓の少なくとも1つの表面(典型的には入射面)に適用することができる一方で、他の様々な表面、例えば濡れに対する抵抗が好ましい、あるいは必要となるステージの表面などにも適用することができる。
【0027】
「親水性」の表面は、その表面上の水滴に対して、90°より小さい接触角を示し、「疎水性」の表面は(上述したように)、その表面上の水滴に対して、90°より大きい接触角を示す。ほとんどの滑らかで清潔なガラス面は、水滴に対して約30°若しくはそれより小さい接触角を示す。ゆえに、これらの表面は親水性である。滑らかで、アルキルシラン、あるいはテフロン(登録商標)の表面膜が塗布されたガラス表面は、水滴に対して約100°から110°の接触角を示すので、疎水性である。したがって、より一般的に、溶媒に対して「疎溶媒性」である表面上の特定の液体(「溶媒」)の液滴は90°より大きい接触角を示し、溶媒に対して「親溶媒性」である表面上の溶媒の液滴は90°より小さい接触角を示す。「超疎溶媒性」は、約150°から180°の接触角によって特徴付けられる。
【0028】
液浸マイクロリソグラフィシステムにおける最大の利益を得るために、液浸液体は露光波長に対して高い透過性を有するだけでなく、投影光学系における最終光学素子(即ち基板面に最も近い光学素子)の屈折率と同等かそれより大きい屈折率も有するべきである。水の屈折率(n=1.44)はこの基準を満たしておらず、この観点において、約1.6あるいはそれより高い屈折率を有する液浸液体がより好ましい。結果として、193nm、またはその他のDUVの範囲の露光波長で動作する液浸マイクロリソグラフィシステムにおいて用いられる、水よりも優れた液浸液体を発見する努力が現在行われている。
【0029】
現在研究されている液浸液体の候補は、DUV光の意図する波長に対する透過性を示す一方で、それぞれの表面張力は水の表面張力よりも低く、それぞれの粘度は水の粘度よりも高く、従来の疎水性膜上の接触角は水が示す接触角よりも低い。したがって、通常はこれらの液体を対物レンズの下に閉じ込めることはより困難であり、それによって窓を対物レンズから移動した後に、センサ窓に液浸液体の液滴及び/又は膜が残留する可能性が高くなる。これらの液浸液体は、センサ窓を、窓(及びセンサ)の性能に不利な影響を与えることなく液体に対して十分に疎溶媒性にするという新しい課題をもたらす。例えば、窓とその疎溶媒性入射面は、窓を通過し各センサに伝わる光を透過するだけでなく、それらの下にあるセンサとも光学的に相性が良くなくてはならない。さらに、ステージ表面自体も光学的な理由からではないが、疎溶媒性であることが望ましい。
【0030】
表面上の液滴の平衡形を決定する基本原理は19世紀にヤング(Young)によって導かれた。液滴の形状は、固体表面の平面内の液滴の三相接触線における力の作用によって支配される。この接触線は、固体‐液体、液体‐蒸気、及び固体‐気体の界面が合流する場所である。接触線において作用する各力(単位長さあたり)は、それぞれの表面張力であり、これらの力の平衡は有名なヤングの等式をもたらす。
【数1】

式中、θは接触角である。
Young, Phil. Trans. R. Soc. London 95:65-87, 1805.
固体‐蒸気(γsv)、固体-気体(γsl)、液体‐蒸気(γlv)のそれぞれの表面張力(「表面エネルギー」とも呼ばれる)は、単位面積あたりの界面エネルギーの単位である。ヤングの等式を満たす液体の液滴は、固体の表面を部分的に濡らすものとみなされる。もしも和(γsl+γlv)=γsvであれば、θは0(ゼロ)となり、液滴は、液体によって容易に濡れる「高エネルギー」表面上に存在するときの特性のように、平らになる。しかし、固体-気体界面が低い表面エネルギーを有していると、接触角は理論上、180°と同じくらいまで増加し、表面はその液体によって濡らされることに抵抗する。
【0031】
表面を「粗くすること」は、その表面の有効な単位領域を増加させることであり、数式(1)を変形させる。Wenzel, Ind. Eng. Chem. 28:988, 1936; Wenzel, J. Phys. Colloid Chem. 53:1466, 1949. 入射面を粗くすることは、通常、ここで説明されるように、種々の「粗さの特徴」(「アスペリティ」(凹凸)とも呼ばれる)のうちのいずれかで表面を装飾することを含む。粗くすることは、γsv、及びγslの両者を増加させる「粗さの係数」rにより、入射面の単位領域を増加させる。粗さの係数rは幾何学的に突出した領域(見かけの表面領域)と実際の領域との比率であり、ウェンゼル(Wenzel)モデルにおいてrは常に1よりも大きい。粗くすることは、接触角をθから「粗い表面」の接触角であるθroughに変える:
【数2】


粗い表面の接触角θroughは、マクロ的な値であると理解されており、通常は表面の粗さで平均化される。数式(2)は、わずかに疎水性の表面(cosθ<0)は、表面の粗さを増すことにより、より疎水性にさせることができることを示しており;同じように、親水性の表面(cosθ>0)は、表面の粗さを増すことにより、より親水性にすることができることを示している。図1は、非常に粗い(フラクタル)面に対するこの効果を表したものである。具体的に図1は、粗い表面上の見かけの接触角θroughの、ヤング接触角θのコサイン関数としてのコサインを表す(同じ材料の平らな、あるいは「粗くない」面上で決定され、異なる液体を用いて変化する)。
【0032】
ウェンゼルに従い、表面(例えば入射面)を粗くする典型的な方法は、柱,頂点,棒等のアスペリティの配置(例えば規則的な列)によって、表面を装飾することを含む。この方式の配置の例は図2に示され、図2においてアスペリティは規則的な列に形成された各柱12あるいは頂点である。この配置例において、柱12は、先端が切り取られた「頂上」面14、切り立った側面16、及びそれらの間の「くぼみ」(谷)18を有することに注意すべきである。頂上面14、側面16、及びくぼみ18の表面はそれぞれ、ほぼ同じ疎溶媒性を有している。ウェンゼルモデルにおいて、そのような面上の液浸液体は頂上面14、側面16、及びくぼみ18を含む全ての面に接触し、表面の疎性、あるいは親性の増加をもたらす。種々の可能な形状において、ウェンゼル表面のアスペリティは同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。しかしながら、配置(非規則的、あるいは任意の(ランダムな)配列であっても)は典型的には全面にわたって均一であり、それによってrが表面上のどの場所でもほぼ一定となる。
【0033】
例えば図2に示されたように構成された粗さの効果は、表面をミクロンあるいはサブミクロンサイズの柱として構成されたアスペリティの列として表すことで近似することができるが、このような構成はいかなる限定をも意図するものではない。その間にくぼみを伴うアスペリティは、2つの異なる接触角をもたらす。これは「カッシー」モデルと呼ばれ、Cassie and Baxter, Trans. Faraday Soc. 40:546-551, 1944; Cassie, Discuss. Faraday Soc. 3:11-15, 1948において一般に議論される。カッシーモデルに従えば、第1領域(接触角θ)は表面の一部f(即ちアスペリティの頂上の全領域)を覆い、第2領域(接触角θ)は表面の一部f(即ち側面及びくぼみの全領域)を覆うとき、マクロ的な接触角(θ)は以下によって十分に近似される。
【数3】

カッシーモデルにおいて、液浸液体は一般的に、アスペリティの頂上に接触するが、その側面あるいはそれらの間のくぼみとは接触しない。結果としてくぼみにおいて、液体は空気の層によって下にある面から隔てられる。第2領域fが粗い輪郭を持つアスペリティの間の空気で隔てられたくぼみによって表されるとき、cosθ= −1であり、数式(3)は(f + f)=1となり、以下の数式をもたらす:
【数4】

が小さければ、液体のほとんどは実際に空気と接触し、表面は高度に疎溶媒性(おそらく超疎溶媒性)の振る舞いを示す結果となり、それにおいて液体は、釘のベッドに横たわる「苦行僧(fakir)」のようにアスペリティの頂上に横たわる。この状態は「fakir(ファキル)状態」と呼ばれる。Quere, Nature Mater. 1:14-15, 2002.
【0034】
入射面を疎溶媒性にするために用いられるアスペリティは、図3(A)〜3(L)に示されるように、柱、棒、角錐、頂点、小突起、半球体、小管、毛状のもの、その他の規則的あるいは不規則的形状、それらの単体若しくは組合せを含む、様々な形状を有し得るがそれらに限定されない。アスペリティは図2に示されるように規則的な列に配置することができ、不規則あるいは任意に配置することができる。アスペリティは自己アフィンにし得る。アスペリティは全てが同じ大きさ、及び/又は形状を有する必要はない。アスペリティは尾根状の構造によって結合され得る。
【0035】
図2に示される具体的な例に戻り、図2に示された各柱の相対的な大きさは必ずしも限定的なものではない。後述するように、粗くされた入射面上のアスペリティの寸法(高さ以外)は「サブ波長」、つまり表面上に入射するDUV光の波長より短いことが望ましい。アスペリティは入射面にわたって、全て同じ形状(図2に示すように)を有することができ、異なる形状を有することができる。同じ形状であっても、異なる形状であっても、アスペリティは任意に、あるいは整列されて配置することができる。アスペリティは例えば、窓基板と同じ材料で作られてもよく、あるいは窓基板の表面に施される又は表面を形成する材料で作られてもよい。アスペリティ(必要であれば介在するくぼみも)は、フッ化シラン、あるいは他の疎溶媒性材料で塗布され得る。代替的には、アスペリティはそれ自体がテフロン(登録商標)やサイトップ(登録商標)、フルオロポリマーのような疎溶媒性材料から形成することができる。
【0036】
粗くされた入射面は、相当する滑らかな入射面が疎溶媒性ではなくても、表面に疎溶媒性、あるいは疎溶媒性の増加をもたらすことができる。例えば、疎溶媒性は、28.9mN/mの表面張力(現在開発されているいくつかの新しい液浸液体と同程度)を有するベンゼンに対するフッ化炭素材料のハニカムパターンにより得られている。比較として、水の表面張力は73mN/mである。
【0037】
疎溶媒性材料の表面を粗くすることによって得られた超疎溶媒性の表面はある状況、または条件の下で、再び親溶媒性に復帰することができる。例えば、溶媒が表面(くぼみを含む)上に蒸気から凝結するとき、あるいは外部からの圧力で溶媒が表面(即ち、くぼみ及びアスペリティの側面)に密着するときに、親溶媒性の復帰が起こり得る。液浸マイクロリソグラフィの新しい液浸液体の候補のほとんどは、水よりも低い蒸気圧を有するので、入射面上においてこれらの液体が凝結する可能性は水よりも低くなる。また、入射面への液体の断続的な接触も、親溶媒性への復帰の可能性を減らす。
【0038】
図2に示すアスペリティの周期的な列及び形状は、ファキル状態に有利となるであろう疎溶媒性が高められた入射面の1つの例に過ぎない。したがって、図2の形状は限定的なものではないことが理解されるべきである。変形例として、アスペリティをより近く、あるいは互いから離して配置すること;図示されたものとは異なる側面比率をアスペリティに持たせて構成すること;アスペリティをより鋭く構成すること、あるいは図に示されたものよりも先がとがっていないように構成すること;アスペリティの頂上を平面以外の形状、例えば丸みを帯びた頂点に構成すること;アスペリティをコーティングすること、あるいはしないこと;全てのアスペリティを同一にすること、あるいは異ならせること、あるいは少なくとも2つの形状及び/又は大きさの組合せとすること;アスペリティにより切り立ったあるいはより切り立っていない側面を持たせること;側面を図に示すように角張らせること、あるいは丸くすること;及び/又はアスペリティに更なるマイクロ構造若しくはナノ構造を持たせることを含むが、これらに限定されない。これらの種々の形状は図3(A)〜3(L)に示される。粗さの特徴の「配置」は、規則的(な列)であっても、不規則あるいは任意であっても、若しくはこれらの組合せであってもよい。
【0039】
液体が、粗い入射面の全ての部分(アスペリティ、アスペリティの先端、及びくぼみ)に接触する;(「ウェンゼル状態」と呼ばれる)ことが予想できる状況は完全には解明されていない。また、液体がアスペリティの頂点にのみ接触する(したがって、「ファキル状態」の疎溶媒性を示す)カッシーモデルの状態を示すことが予想される全ての状況も完全には解明されていない。エネルギー的には、液体‐固体系は最も低いエネルギー状態に属する傾向にあり、それは最も小さな接触角を示す状態である。液浸液体として用いられる水と水性液体の場合、中程度に疎溶媒性(滑らかであるときに)である入射面で、ウェンゼル状態が生じやすいようである。下に空気がとらえられた結果、実質的にアスペリティの頂上においてのみ液滴が基板と接触するファキル状態は、数式(2)及び(4)を等しいとみなすことで得られる臨界値θを超えた接触角(滑らかな面上で)において生じやすいようである。
【数5】

cosθは常に負なので、θは常に90°よりも大きい。実際、ファキル状態は、滑らかな表面の接触角がθよりも小さい時にも生じることがある。これらの状態は一般に、流体に撹拌又は圧力を加えることによりウェンゼル状態に戻る「準安定」 ファキル状態とみなされる。多くの場合において、復帰をもたらすには実質的な摂動が必要である。復帰への抵抗はここで開示される光学窓の有用な特性となり得る。とりわけ、復帰しにくい準安定ファキル状態を好むアスペリティの構成において、疎溶媒性の入射面に作られ得る。疎溶媒性を本来備える材料がない液浸液体について、高度に疎溶媒性を示す光学窓であって、検出窓としての利用の全ての要求を満たす窓を作ることが可能になるので、この発見は重要である。この状態は図5に要約され、図5において準安定状態は点線で表される。
【0040】
上記から、光学窓あるいはその他の構造の入射面の疎溶媒性は通常は、「粗くすること」、即ち、粗さの特徴又はアスペリティの配置によって入射面を装飾することによって増加する。当初は疎溶媒性の入射面を粗くすることにより、当初は親溶媒性の入射面を粗くすることによるのと同様に、表面の疎溶媒性を高めることができる。また、特に、中程度に疎溶媒性である入射面を粗くすることにより、高い疎溶媒性を与えることができ、特に粗さをもたらすことによって形成されたアスペリティが、特定の液浸液体と光の波長に対して適切に選択されかつ適切な大きさ(大きさはサブミクロン以下まで及ぶ)にされたときに、恐らくは表面に超疎溶媒性をもたらすことができる。
【0041】
アスペリティは、入射面上にパターン状(規則的な列にしたがって)に配置されてもよく、又はランダムに配置されてもよい。パターン状の及びランダムなアスペリティは、窓基板自体に形成することができ、又は窓基板の入射面に施される材料の層に形成することができる。アスペリティはコーティングされていても、されていなくてもよい。粗さを与える候補となる技術は、(a)石英ガラスやPTFEのような好適なUV透過性を有する粒子材料を、必要に応じてバインダーとともにあるいはバインダーを用いずに、スプレー、分散、あるいは単純に蒸着させることなどによって、必要であればその後乾燥させ、少なくとも1つの層を入射面上に形成し、それにおいて粒子が表面上にアスペリティを形成すること;(b)入射面を、化学的に、電気的に、あるいはプラズマによりエッチングして、アスペリティの配置を形成すること;(c)好適なUV透過性を有する材料の入射面上に、所望のアスペリティの配置を形成する、あるいは形成するように処理される少なくとも1つの層をめっき、あるいはプラズマ蒸着すること;(d)所望のアスペリティの配置を形成する、あるいは形成するように処理される少なくとも1つの層の溶剤を、好適なUV透過性を有する材料の入射面上に投下すること;(e) 所望のアスペリティの配置を形成する、あるいは形成するように処理される好適なUV透過性を有する材料の入射面上に化学蒸着を施すこと;(f)所望のアスペリティの配置を形成する、あるいは形成するように処理される好適なUV透過性を有する材料の入射面上をエピタキシャル成長させること;(g)入射面上の、あるいは入射面上に、好適にUVを透過する材料を、アスペリティを形成するように、あるいはアスペリティを形成する後続の処理を含むように成形すること;(h)入射面をマイクロリソグラフィによってパターン化してアスペリティを形成すること;(i)フルオロアルキルシラン、フルオロポリマー、ワックス、フッ化物、及び/又はフッ化炭素のような、ただしこれらに限定されない、表面エネルギーの低いUV透過性の粒子の入射面上に、少なくとも1つのテクスチャ層を形成し、それにおいて粒子がアスペリティの配置を形成することを含む。
【0042】
図4(A)〜4(E)は、疎溶媒性を変える層を表面に施す様々な例示的な方法を示す。図4(A)は、基板と同じ材料で形成されたアスペリティ32aで装飾された表面30aを表す。図4(B)は、アスペリティ32bを形成する表面層34bを有する表面30bを表す。図4(C)は、アスペリティ32cがその上に形成された表面層34cを有する表面30cを表す。図4(D)は、表面30d上に、表面30dの材料で、あるいは別の材料を用いてアスペリティ32dが形成され、層34dがアスペリティの側面及びアスペリティの間の「谷間」に形成されている表面30dを表す。図4(E)は、表面30e上に、表面30eの材料で、あるいは別の材料を用いてアスペリティ32eが形成され、層34eがアスペリティの頂上に形成されている表面30eを表す。これらの図は例示であり、他の構成も可能である。
【0043】
アスペリティをランダムに配置して入射面を装飾することは、入射面にゾルゲルを施すこと(例えば、レンズにおけるレーザー光線強度の局所集中を防ぐためのハイパワーレーザーシステムにおいて用いられる「モス‐アイ」フィルタのように)によっても得られる。ゾルゲル法は、低コストでかつ窓基板の光学特性を落とさずに実施できるので、魅力的である。アスペリティの配置は同一の大きさにすることもでき、複数の大きさのアスペリティにより階層的にすることもできる。配置はフラクタルにすることも、自己アフィンにすることも、非フラクタルにすることもできる。
【0044】
上述したいずれかの技術により、入射面をアスペリティで装飾することの利点は、アスペリティを入射面上に十分な深さ(「厚み」)で形成して、疎溶媒性の良好な永続性をもたらすことができることである。また、窓基板は通常は強度の高い入射光の影響を比較的受けにくいので、窓基板自体にアスペリティを形成することは有利である。
【0045】
入射面のゾルゲル、及びその他のアスペリティを形成するコーティングは、厚く塗布することもでき、それによって液浸マイクロリソグラフィの光学窓に現在用いられている疎水性コーティングの厚みよりも大幅に厚い(高い)アスペリティをもたらすことができるので、有利である。例えば、ゾルゲルコーティングは、数十ナノメートルの厚さにすることができ、直径が数十ナノメートルの粒子を含むことができる。通常の厚みの範囲は、数十ナノメートルからマイクロメートルである。厚みを増加することは一般に、より丈夫で永続的な性能を光学窓にもたらす。
【0046】
必要であれば、粗くされた表面は、窓を通過する光の波長に対して許容できる透過性を示す、テフロン(登録商標)を含む材料、フルオロシラン又はオルガノシラン等の疎溶媒性膜形成材料を用いて処理されてもよい。
【0047】
入射面を粗くすることによって、入射面が、表面の所望の光学的機能を過剰に妨げる散乱及び回折効果を生み出すという結果をもたらす可能性がある。これらの現象は、入射面が光学窓の入射面の場合に特に懸念される。散乱及び/又は回折は、光の波長に対してアスペリティの幾何学的な大きさを十分に微細にすることにより、わずかなレベルにまで減らすことができる。一般的に、アスペリティは表面に入射する光の波長よりも小さい(この基準を満たすアスペリティは“サブ波長”アスペリティと呼ばれる)。波長に対してアスペリティが小さくなればなるほど、表面からの又は表面を通しての散乱及び回折は一般に少なくなる。例えばアスペリティを波長の約1/10、あるいはそれより小さくすることは、散乱や回折を減少させるのに実用的であり、有利である。より具体的には、DUV光に対しては、アスペリティは約20nm、又はそれより小さいことが望ましい。したがって、光学的特徴を大幅に損失することなく、入射面が所望のレベルの疎溶媒性を示すようにすることができる。
【0048】
散乱は、個々のアスペリティ(例えば柱等)を互いに好適な距離で隔てることによっても大幅に減らすことができる。例えば図2において、柱12は窓の表面積の約5%を占めるに過ぎない。このような構造のアスペリティ、及び各アスペリティの間隔が大きいその他の構造のアスペリティは、入射するDUV放射を透過する必要がない。結果としてアスペリティを作る材料の選択肢は、DUV透過性材料が用いられる場合よりも広い。
【0049】
粗さは散乱を生み出すだけでなく、光学窓を通過する光学信号に悪影響を与える大量の回折光をも生み出す可能性がある。回折は、窓とセンサとの間に光学系を介在させることによって減らすこと又は回避することができる。このような方式の実施形態の一例が図6(A)〜6(C)に示されている。この実施形態における光学系30は、第1レンズ32、第2レンズ34、及び第3レンズ36を含む。フーリエ面38は第1レンズ32の後焦点面である。窓40からの平行光線はフーリエ面38の点に集束される。
【0050】
単純な透過型回折格子からの回折光は、回折格子から、回折格子の式を満たす角度φで現れる:
【数6】

式中、dは格子のピッチ、λは入射光の波長である。整数nは回折次数である。単純な線形格子から、レンズを通過する回折光は、レンズの後焦点面、つまりフーリエ面における線の連続に集束される。図2に示すような2次元構造からの様々な次数の回折光は、フーリエ面の各点に集束される(図6(C)参照)。フーリエ面に置かれる開口絞り42は、信号からの高次回折光(いくつかの散乱光も同様に)の透過をなくすために用いることができる。低次回折光はシステムの開口(NA)と等しい開口44内に位置してもよい。これらの次数は、必要に応じて、フーリエ面38に置かれた透明板(詳細は省略)上に不透明な領域46を配置することによって遮ることができる。この構造は、ほとんどの真の信号を、妨害を受けずに、フーリエ面38を通してセンサへ通過させる。光学系30は1:1(等倍系)として示されるが、あるいは拡大系又は縮小系であってもよい。
【0051】
図7を参照すると、液浸リソグラフィシステムのある特徴が示されている。即ち光源40、照明光学系42、レチクルステージ44、投影光学系46、及びウエハ(基板)ステージ48は全て、光学軸Aに沿って配置される。光源40は、KrFエキシマレーザによって形成される248nmのDUV光、ArFエキシマレーザによって形成される193nmのDUV光、あるいはFエキシマレーザによって形成される157nmのDUV光のような、照明光のパルス光線を射出するように構成されている。照明光学系42は、オプティカル・インテグレータと、照明光線を調整し、成形してレチクルステージ44に載せられたパターン化されたレチクル50の特定の領域を照射するための少なくとも1つのレンズとを含む。レチクル50上に規定されたパターンは、ウエハステージ48上に保持されたウエハ52にリソグラフィによって転写されるパターンに相当する。このシステムにおけるリソグラフィによる転写は、投影光学系46を用いた、レチクル50からウエハ52への、パターンの空間像の投影によるものである。投影光学系46は典型的には、ウエハ52上に特定の縮小比率(例えば1/4若しくは1/5)で像を投影する、多くの独立した光学素子(詳細は省略)を含む。印刷可能にするために、ウエハの表面は、「レジスト」と呼ばれる好適に露光に反応する材料の層で覆われる。
【0052】
レチクルステージ44は、レチクル50をX方向及びY方向に移動するとともに、Z軸回りに回転的に移動させる。レチクルステージ44上のレチクル50の、2次元的位置及び方位は、レーザー干渉計(不図示)によってリアルタイムに検知され、レチクル50はこのようになされた検知に基づいて主制御装置によって位置決めされる。
【0053】
ウエハ52はウエハステージ48上の図示されていないウエハホルダ(「チャック」)によって保持される。ウエハステージ48は、ウエハ52の焦点位置(Z軸に沿った)及びチルト角を、必要に応じて制御し、かつ調節する機構(不図示)を含む。ウエハステージ48はまた、ウエハをX−Y平面内で投影光学系46の結像面にほぼ平行に動かす機構を含む。ウエハステージ48はまた、オートフォーカス法で及びオートレベリング法でウエハ52のチルト角を調節する機構を含む。したがって、ウエハステージはウエハ面を投影光学系の像面と位置合せをする働きをする。ウエハの2次元的位置及び方位は別のレーザー干渉計(不図示)によって、リアルタイムに監視される。この監視結果に基づく制御データは、主制御装置からウエハステージを駆動する駆動回路に伝達される。露光中に、投影光学系を通過する光はウエハ上のある場所から別の場所に、レチクル上のパターンにしたがってステップアンドリピート方式あるいはステップアンドスキャン方式で順次移動する。
【0054】
投影光学系46は通常、協働してウエハ52のレジストが塗布された面上に露光イメージ(像)を形成する、多くのレンズ素子を含む。便宜上、ほとんどの終端光学素子(即ち、ウエハ面に最も近い)は、対物レンズ53である。図示されたシステムは、液浸リソグラフィシステムなので、対物レンズ53とウエハ52の表面との間に位置する液浸液体54を含む。上述したように、液浸液体54は特定の種類の液体である。液浸液体は少なくともレチクルのパターン像がウエハ上に露光されている間は存在する。
【0055】
液浸液体54は、タンク、ポンプ、及び温度調節器(個別には図示せず)を含み得る、液体供給装置56から供給される。液体54はノズル機構55によって対物レンズ53とウエハステージとの間の隙間に、静かに吐出される。液体回収装置58は、供給装置56が新しい液体54を供給すると、隙間から液体を取り除く回収ノズル57を含む。結果として、ほぼ一定量の継続的に置き換えられる液浸液体54が対物レンズ53とウエハステージとの間に供給される。液体の温度は、リソグラフィシステム自体が置かれるチャンバ内の温度とほぼ同じ温度に調節される。
【0056】
センサ64が置かれるウエハステージ48に画定された溝62にわたって延在する、センサー窓60もまた図示されている。したがって、窓60は溝62内にセンサー64を隔離する。液浸液体54を連続的に交換しながら対物レンズ53の下に窓60が置かれるようにウエハステージを動かすことにより、投影光学系46を通過した光線が液浸液体及び窓60を通ってセンサー64に伝わることを可能にする。
【0057】
図8は、上述した特徴を組み込んだ液浸リソグラフィシステムを用いて半導体デバイスを組み立てる工程を示す。ステップ301において、デバイスの機能及び性能特性が設計される。次にステップ302において、パターンを有するレチクルが、前の設計工程にしたがって設計される。それと平行して行われるステップ303において、ウエハがシリコン又は他の好適な基板材料から製造される。ステップ304においてステップ302で設計されたレチクルパターンが、ステップ303で供給されたウエハ上に、上述したようなリソグラフィシステムによって露光される。ステップ305において、半導体デバイスは組み立てられる(ダイシング工程、ボンディング工程、及びパッケージ工程を含む)。最後にステップ306において、デバイスが検査される。
【0058】
図9は半導体デバイスを組立てる場合における、上述したステップ304の詳細なフローチャートの例を示す。ステップ311(酸化工程)において、ウエハ表面は酸化される。ステップ312(CVD工程)において、ウエハ上に絶縁膜が形成される。ステップ313(電極形成工程)において、蒸着によってウエハ上に電極が形成される。ステップ314(イオン注入工程)において、イオンがウエハ内に注入される。ステップ311〜314はウエハ処理中における、ウエハの「前処理」工程を形成し、各ステップにおいて、処理条件にしたがって選択がなされる。
【0059】
ウエハ処理の各段階において、上述した前処理工程が完了すると、下記の後処理工程が実行される。後処理工程中、ステップ315(フォトレジスト形成工程)において、フォトレジストがウエハに塗布される。次にステップ316(露光工程)において、上述したリソグラフィシステムを用いて、レチクル上に画定された回路パターンがウエハ上に転写される。次にステップ317(現像工程)において、露光されたウエハが現像される。ステップ318(エッチング工程)において、残留したフォトレジスト(露光された材料面)以外の部分がエッチングによって取り除かれる。ステップ319(フォトレジスト除去工程)において、エッチング後に残った不要なフォトレジストが取り除かれる。複数の回路パターンが、これらの前処理工程及び後処理工程の繰り返しによって形成される。
【0060】
本発明を代表的な実施形態と関連付けて説明してきたが、本発明はこれらの実施形態に限定されない。むしろ、本発明は、クレームによって定義された発明の趣旨及び範囲内で、全ての変形、代替物、及び同等物を含むことを意図する。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】図1は粗い表面上の見かけ接触角であるθroughの、同一材料の平らな表面上で決定され、異なる液体を使用して変化するヤング接触角(θ)のコサイン関数としてのコサインのプロットである。
【図2】図2は代表的なアスペリティ(粗さの特徴とも呼ばれる)としての柱で装飾された表面の一部の斜視図である。
【図3】図3(A)〜3(L)はそれぞれ、アスペリティで装飾された入射面を有する光学窓の一部の、入射面上に形成され得るアスペリティの範囲を集合的に例示する概略立面図である。
【図4】図4(A)〜4(E)はそれぞれ、典型的なアスペリティに関連する異なる層構造を有する光学窓の一部の概略立面図である。
【図5】図5は超疎溶媒性の2つのモデルを示すプロットである。中度の疎溶媒性(90°<θ<θc)に対して、数式(5)に従う粗さの特性によってθcが固定される場合、見かけ接触角θroughは、数式(2)で表されるウェンゼルモデルによって与えられることが期待される。その他の場合(θ>θc)には、液滴の下に空気が残り、固体と気体の混合表面上に存在する(cosθrough = −1 + f1(cosθ+1)である“ファキル”状態)。ファキル状態は高エネルギー状態にもかかわらずθ<θcであるときに存続できる。この準安定状態は点線で表される。
【図6】図6(A)は、例えば、光学窓によって生じたいくらかの散乱光といくらかの回折光を除去するために、光学窓とセンサとの間に配置可能な光学システムの代表的な実施形態の概略図である。図6(B)は、図6(A)の光学系における開口絞り付近を詳細に示した図である。図6(C)は、図6(B)に示される領域を直交する方向から見た図である。
【図7】図7は、ここで説明される光学窓を含む液浸リソグラフィシステムのある特徴を示す概略立面図である。
【図8】図8は、図7に示されるシステムを用いて半導体デバイスが組み立てられる例示的な工程を示す処理フロー図である。
【図9】図9は、図8に示されるウエハ処理工程のフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
DUV光の光線を透過するための光学窓であって、DUV光の少なくとも1つの波長を透過し入射面を有する基板を備え、前記入射面がDUV透過液体に対して疎溶媒性となるように配置されたサブ波長の凹凸で、前記入射面が装飾されている光学窓。
【請求項2】
前記サブ波長の凹凸の配置は、前記入射面がDUV透過液体に対して超疎溶媒性となるように構成されている請求項1に記載の光学窓。
【請求項3】
前記サブ波長の凹凸は、柱、頂点、角錐、棒、小突起、小管、毛状のもの、その他の幾何学的形状、不規則形状、及びそれらの組合せからなる群から選択される請求項1に記載の光学窓。
【請求項4】
前記凹凸の少なくともいくつかは、相互に連結されている尾根を備える請求項1に記載の光学窓。
【請求項5】
前記凹凸は規則的な列に配置される請求項1に記載の光学窓。
【請求項6】
前記凹凸は不規則的な列に配置される請求項1に記載の光学窓。
【請求項7】
前記凹凸は任意の列に配置される請求項1に記載の光学窓。
【請求項8】
前記凹凸は互いに同一である請求項1に記載の光学窓。
【請求項9】
前記凹凸はそれぞれ、少なくとも1つの波長について実質的に透過性ではない頂上面を有し;
凹凸はくぼみによって互いに隔てられており;
前記くぼみは前記少なくとも1つの波長について透過性である請求項1に記載の光学窓。
【請求項10】
各凹凸は頂上面を有し、λがDUV光の波長である場合、頂上面はλ/10以下の寸法を有する請求項1に記載の光学窓。
【請求項11】
前記サブ波長の凹凸の配置は、ウェンゼルモデルに従い前記入射面に疎溶媒性をもたらすように構成されている請求項1に記載の光学窓。
【請求項12】
前記サブ波長の凹凸の配置は、カッシーモデルに従い前記入射面に疎溶媒性をもたらすように構成されている請求項1に記載の光学窓。
【請求項13】
前記サブ波長の凹凸の配置は、ファキル状態に従い前記入射面に疎溶媒性をもたらすように構成されている請求項1に記載の光学窓。
【請求項14】
前記ファキル状態は、準安定である請求項13に記載の光学窓。
【請求項15】
前記光学窓を通過する光に対して実質的に非屈折性であるように構成された請求項1に記載の光学窓。
【請求項16】
前記光学窓を通過する光に対して屈折性であるように構成された請求項1に記載の光学窓。
【請求項17】
前記基板が第1の材料を含み;
前記基板の前記入射面上の凹凸は第1の材料とは異なる第2の材料を含む請求項1に記載の光学窓。
【請求項18】
前記第2の材料は前記第1の材料よりも疎溶媒性である請求項17に記載の光学窓。
【請求項19】
前記凹凸はそれぞれ表面を有し;
前記凹凸の表面は、前記第2の材料により形成される少なくとも1つの層を含む請求項17に記載の光学窓。
【請求項20】
前記第2の材料は前記第1の材料よりも疎溶媒性である請求項19に記載の光学窓。
【請求項21】
前記凹凸は、それぞれが表面を有するくぼみを含み、くぼみは凹凸間に介在しており;
くぼみの表面は第2の材料により形成される少なくとも1つの層を含む請求項19に記載の光学窓。
【請求項22】
前記凹凸は、それぞれが表面を有するくぼみを含み、くぼみは凹凸間に介在しており;
くぼみの表面は第2の材料より形成される少なくとも1つの層を含む請求項17に記載の光学窓。
【請求項23】
少なくとも1つの光の波長について透過性である液体に接触する表面であって、前記少なくとも1つの光の波長について透過性であり、該表面が前記光透過性の液体に対して疎溶媒性となるようにサブ波長の凹凸の配置によって装飾された表面。
【請求項24】
光学窓の少なくとも一部として構成された請求項23に記載の表面。
【請求項25】
前記光はDUV光である請求項23に記載の表面。
【請求項26】
前記少なくとも1つの波長について透過性であり凹凸によって装飾される前記表面は、基板の少なくとも一部である疎溶媒性材料の表面である請求項23に記載の表面。
【請求項27】
前記基板は前記疎溶媒性材料とは異なる第1の材料を含む請求項26に記載の表面。
【請求項28】
第1の材料は前記疎溶媒性材料よりも疎溶媒性ではない請求項27に記載の表面。
【請求項29】
前記凹凸はそれぞれ表面を有し;
凹凸の表面は前記疎溶媒性材料より形成される少なくとも1つの層を含む請求項26に記載の表面。
【請求項30】
前記凹凸は、それぞれが表面を有する介在するくぼみを含み;
くぼみの表面は前記疎溶媒性材料より形成される少なくとも1つの層を含む請求項29に記載の表面。
【請求項31】
前記凹凸は、それぞれが表面を有する介在するくぼみを含み;
くぼみの表面は前記疎溶媒性材料の少なくとも1つの層を含む請求項26に記載の表面。
【請求項32】
光学センサであって,
センサ光の感度を有する光センサと;
センサ光の光線が通過して光センサに伝えられる光学窓とを備え、前記光学窓はセンサ光の少なくとも1つの波長に対して透過性である窓基板を含み、前記窓基板は入射面を有し、入射面はセンサ光を透過する液体に対して疎溶媒性となるように配置されたサブ波長の凹凸によって装飾されている光学センサ。
【請求項33】
前記センサ光はDUV光である請求項32に記載の光学センサ。
【請求項34】
前記光学窓と前記光センサとの間に置かれた光学系をさらに備える請求項32に記載の光学センサ。
【請求項35】
前記光学系は,
フーリエ面を有する第1のレンズと;
フーリエ面に置かれた開口絞りとを備え、前記開口絞りは前記光学窓からの高次回折光を遮りつつ、低次回折光を伝える大きさである開口を画定する請求項34に記載の光学センサ。
【請求項36】
前記フーリエ面と前記光センサとの間に置かれた少なくとも第2のレンズをさらに備える請求項35に記載の光学センサ。
【請求項37】
前記開口絞りは開口内に少なくとも1つの回折次数絞りをさらに含む請求項35に記載の光学センサ。
【請求項38】
基板上にパターンを露光するための露光光を用いる液浸マイクロリソグラフィシステムであって,
パターンが露光光によって基板上に露光されるときに基板を保持するように構成された基板ステージと;
露光光を基板に導くように基板ステージと露光光の光源とに対して相対的に置かれる投影光学系であって、投影光学系からの露光光は投影光学系と基板との間に置かれた露光光透過性の液浸液体を通過する投影光学系と;
基板ステージに付随する光学センサとを備え、光学センサは(a)光センサと;(b)センサ光の光線がそれを通し,光センサに伝えられる光学窓とを備え、光学窓はセンサ光の少なくとも1つの波長に対して透過性である窓基板を備え、窓基板は入射面を有し、入射面がセンサ光を透過する液体について入射面が疎溶媒性となるように配置されたサブ波長の凹凸によって装飾されている液浸マイクロリソグラフィシステム。
【請求項39】
前記露光光及び前記センサ光はそれぞれDUV光である請求項38に記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−305973(P2007−305973A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−97221(P2007−97221)
【出願日】平成19年4月3日(2007.4.3)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】