説明

液滴吐出ヘッド、及び、その製造方法

【課題】構成の簡素化及びコスト低減を実現する。
【解決手段】ヘッド1の基部1xは、流路部材10、光吸収性樹脂部材20、及び光透過性樹脂部材30を含む。光透過性樹脂部材30はPP樹脂からなり、リザーバ35及びダンパー膜32を有する。光吸収性樹脂部材20はPBT樹脂又はABS樹脂からなり、リザーバ35と流路部材10内のインク流路とを連通する接続流路20yを有する。光吸収性樹脂部材20は流路部材10を支持するよう流路部材10の上面に固定されている。光透過性樹脂部材30は、光吸収性樹脂部材20の上面21aにレーザー溶着によって接合されており、流路部材10から離隔している。光透過性樹脂部材30は流路部材10に直接固定されず、光吸収性樹脂部材20が流路部材10に固定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク滴等の液滴を吐出する液滴吐出ヘッド、及び、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液滴吐出ヘッドの一例であるインクジェットヘッドにおいて、例えば特許文献1のように、金属プレートの積層体(流路ユニット及びリザーバユニットの下側3枚のプレートの積層体)からなる流路部材と、当該流路部材にネジ等で固定された樹脂部材(流路構成部材)とを有するものが知られている。
【0003】
【特許文献1】特開2007−160822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
また、特許文献1に明記されていないが、樹脂部材(流路構成部材)とは別の樹脂部材が、流路部材を支持するよう流路部材に固定されることがある。ここで、2つの樹脂部材が流路部材に対して個別に固定される場合、樹脂部材毎に個別の固定部材が必要になるため、部品点数が増加する。そしてこれにより、構成の複雑化、コスト上昇等の問題が生じる。
【0005】
本発明の目的は、構成の簡素化及びコスト低減を実現可能な液滴吐出ヘッド及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の第1観点によると、液滴を吐出する吐出口を先端に有する液体流路が形成された流路部材と、前記流路部材を支持するよう前記流路部材に固定された、レーザー光吸収性を有する樹脂からなる光吸収性樹脂部材と、前記流路部材から離隔し、レーザー溶着によって前記光吸収性樹脂部材と接合された、レーザー光透過性を有する樹脂からなる光透過性樹脂部材とを備えたことを特徴とする液滴吐出ヘッドが提供される。
【0007】
上記第1観点によれば、光吸収性樹脂部材及び光透過性樹脂部材が流路部材に対して個別に固定されるのではなく、光透過性樹脂部材がレーザー溶着によって光吸収性樹脂部材と接合され、光吸収性樹脂部材のみが流路部材に固定される。したがって、樹脂部材毎の流路部材に対する個別の固定部材が不要であり、部品点数の増加が回避される。そしてこれにより、構成の簡素化及びコスト低減を実現可能である。
【0008】
前記光透過性樹脂部材に、前記流路部材の前記液体流路に供給される液体を貯留するリザーバが形成されており、前記光吸収性樹脂部材に、前記光透過性樹脂部材の前記リザーバと前記流路部材の前記液体流路とを接続する接続流路が形成されていてよい。この構成によれば、光透過性樹脂部材は透明であるため、リザーバ内の状況(液体量等)を外部から視認することができる。
【0009】
前記光透過性樹脂部材が、前記リザーバ内の液体への圧力を緩和する可撓性膜であって、前記接合に係るレーザー光による切断で形成された外周を有する可撓性膜を含んでよい。この場合、光透過性樹脂部材の光吸収性樹脂部材への接合と同時に可撓性膜を切断することで、工程数が低減され、製造が容易になる。
【0010】
前記光吸収性樹脂部材の前記流路部材とは反対側の面が、前記光透過性樹脂部材の前記リザーバを画定してよい。この場合、さらなる構成の簡素化が実現されると共に、小型化が実現される。
【0011】
前記光吸収性樹脂部材が前記流路部材よりも大きな熱膨張係数を有し、前記光透過性樹脂部材が前記光吸収性樹脂部材よりも大きな熱膨張係数を有してよい。この場合、流路部材と光透過性樹脂部材との間にこれらの熱膨張係数の中間の熱膨張係数を有する光吸収性樹脂部材を介在させることで、流路部材と光透過性樹脂部材とを直接固定する場合に比べ、部材間の熱膨張差による熱歪みが低減される。これにより、流路部材の歪みによる液滴吐出方向の不安定化、部材間における液体漏れ等の問題を軽減することができる。
【0012】
前記光吸収性樹脂部材は、前記流路部材における前記吐出口が開口した吐出面の長手方向に沿って、前記流路部材を支持するよう前記流路部材に固定されていてよい。この場合、流路部材が上記長手方向に歪みにくくなる。したがって、ライン式ヘッドのように吐出面が一方向に長尺であっても、液滴吐出方向の安定化が実現される。
【0013】
前記光吸収性樹脂部材と前記流路部材との間に、弾性部材が介在していてよい。この場合、弾性部材によって、両部材の熱膨張差に起因した歪みが抑制される。
【0014】
前記光透過性樹脂部材が、ポリプロピレン樹脂からなってよい。この構成によれば、ポリプロピレン樹脂は一般に可撓性膜との良好な熱溶着性を有することから、光透過性樹脂部材への可撓性膜の固定が容易である。
【0015】
前記光吸収性樹脂部材が、ポリブチレンテレフタレート樹脂及びアクリロ二トリル・ブタジエン・スチレン樹脂のいずれかからなってよい。この構成によれば、ポリブチレンテレフタレート樹脂及びアクリロ二トリル・ブタジエン・スチレン樹脂はいずれも熱膨張係数が比較的小さいことから、流路部材の熱膨張係数が小さい場合に、光吸収性樹脂部材と流路部材との熱膨張差に起因した歪みを効果的に低減することができる。
【0016】
本発明の第2観点によると、液滴を吐出する吐出口を先端に有する液体流路が形成された流路部材に、前記流路部材を支持するよう、レーザー光吸収性を有する樹脂からなる光吸収性樹脂部材を固定する固定工程と、レーザー光透過性を有する樹脂からなる光透過性樹脂部材を、前記流路部材から離隔した位置に配置されるように、レーザー溶着によって前記光吸収性樹脂部材と接合する接合工程とを備えたことを特徴とする液滴吐出ヘッドの製造方法が提供される。
【0017】
上記第2観点によれば、上述の第1観点と同様の効果(構成の簡素化及びコスト低減を実現可能という効果)を得ることができる。
【0018】
前記接合工程が前記固定工程の前に行われてよい。この場合、接合工程が固定工程の後に行われる場合に比べ、接合工程を容易に行うことができる。
【0019】
前記光透過性樹脂部材に、前記流路部材の前記液体流路に供給される液体を貯留するリザーバを形成するリザーバ形成工程と、前記リザーバ形成工程において形成された前記リザーバ内の液体への圧力を緩和する可撓性膜を、前記光透過性樹脂部材に固定する可撓性膜固定工程とをさらに備え、前記接合工程において、当該接合に係るレーザー光によって、前記可撓性膜固定工程において固定された前記可撓性膜を切断し、前記可撓性膜の外周を形成してよい。この場合、リザーバ内の状況(液体量等)を外部から視認することができると共に、接合工程の際にレーザー光により可撓性膜を切断することで、工程数が低減され、製造が容易になる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によると、光吸収性樹脂部材及び光透過性樹脂部材が流路部材に対して個別に固定されるのではなく、光透過性樹脂部材がレーザー溶着によって光吸収性樹脂部材と接合され、光吸収性樹脂部材のみが流路部材に固定される。したがって、樹脂部材毎の流路部材に対する個別の固定部材が不要であり、部品点数の増加が回避される。そしてこれにより、構成の簡素化及びコスト低減を実現可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る液滴吐出ヘッドの一実施形態としてのインクジェットヘッドを含むインクジェット式プリンタの内部構造を示す概略側面図である。
【図2】インクジェットヘッドの基部を示す斜視図である。
【図3】インクジェットヘッドの基部を示す分解斜視図である。
【図4】インクジェットヘッドの基部を示す側面図である。
【図5】図4のV−V線に沿ったインクジェットヘッドの断面図である。
【図6】インクジェットヘッドに含まれる流路ユニットの平面図である。
【図7】図6の一点鎖線で囲まれた領域VIIを示す拡大図である。
【図8】図7のVIII−VIII線に沿った部分断面図である。
【図9】インクジェットヘッドの製造工程を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0023】
先ず、図1を参照し、本発明に係るインクジェット式プリンタ100の全体構成について説明する。プリンタ100には、本発明に係る液滴吐出ヘッドの一実施形態としてのインクジェットヘッド1が適用されている。ヘッド1は、図1に示すように、一方向(図1の紙面に直交する方向。以下、「ヘッド長手方向」と称す。)に沿って長尺なライン式であり、ヘッド長手方向を主走査方向として、プリンタ100に組み込まれている。即ち、プリンタ100は、ライン式のカラーインクジェット式プリンタである。
【0024】
プリンタ100は、直方体形状の筐体101aを有する。筐体101aの天板上部には、排紙部131が設けられている。筐体101aの内部空間は、上から順に空間A,B,Cに区分されている。4つのヘッド1が、空間A内に並列配置されており、それぞれマゼンタ、シアン、イエロー、ブラックのインクを吐出する。4つのヘッド1は、ヘッドフレーム103(ヘッド1の固定部材)を介して、筐体101aに支持されている。空間Aにはさらに、用紙Pを搬送する搬送ユニット121、及び、プリンタ100各部の動作を制御するコントローラ101が配置されている。空間B,Cはそれぞれ、給紙ユニット101b及びインクユニット101cが配置される空間である。プリンタ100の内部には、給紙ユニット101bから排紙部131に向けて、用紙Pが搬送される用紙搬送経路(図1に太矢印で示す経路)が形成されている。
【0025】
ここで、副走査方向とは、搬送ユニット121による用紙Pの搬送方向と平行な方向であり、主走査方向とは、副走査方向に直交する方向であって水平面に沿った方向である。
【0026】
給紙ユニット101bは、筐体101aに対して主走査方向に沿って着脱可能に装着されている。給紙ユニット101bは、複数枚の用紙Pを収納する給紙トレイ123、及び、給紙トレイ123に取り付けられた給紙ローラ125を有する。給紙ローラ125は、コントローラ101による制御の下、給紙モータ(図示せず)の駆動により回転し、給紙トレイ123の最も上方にある用紙Pを送り出す。送り出された用紙Pは、ガイド127a,127bに沿って送りローラ対126により搬送ユニット121へと送られる。
【0027】
搬送ユニット121は、2つのベルトローラ106,107、及び、両ローラ106,107間に架け渡されたエンドレスの搬送ベルト108を有する。ベルトローラ107は、駆動ローラであって、コントローラ101による制御の下、その軸に接続された搬送モータ(図示せず)の駆動により回転し、図1中時計回りに回転する。これに伴って、搬送ベルト108も時計回りに走行する。ベルトローラ106は、従動ローラであって、搬送ベルト108の走行に伴って、図1中時計回りに回転する。
【0028】
搬送ベルト108のループ内には、4つのヘッド1と対向するように、ほぼ直方体形状のプラテン119が配置されている。搬送ベルト108の上側ループは、その内周面側からプラテン119により支持されている。このとき、搬送ベルト108の上側ループの外周面108aは、吐出面10xと平行に延在しつつ、記録に適する所定間隔を隔てて吐出面10xと対向している。
【0029】
搬送ベルト108の外周面108aには、弱粘着性のシリコン層が形成されている。給紙ユニット101bから送り出された用紙Pは、押さえローラ104によって外周面108aに押え付けられる。このとき用紙Pは、粘着力によって当該面108aに保持される。用紙Pはそのまま太矢印に沿って副走査方向に搬送されていく。
【0030】
用紙Pが4つのヘッド1の直ぐ下方を通過する際に、コントローラ101による制御の下、各ヘッド1から順に用紙Pの上面にインク滴が吐出されることで、用紙P上に所望のカラー画像が形成される。ベルトローラ107近傍において、用紙Pが、剥離プレート105によって外周面108aから剥離される。さらに用紙Pは、ガイド129a,129bに沿って二組の送りローラ対128により上方に搬送され、筐体101a上部に形成された開口130から排紙部131へと排出される。各送りローラ対128の一方のローラは、コントローラ101による制御の下、送りモータ(図示せず)の駆動により回転する。
【0031】
インクユニット101cは、筐体101aの最下層部(空間C)に配置され、カートリッジトレイ135を含む。カートリッジトレイ135は、副走査方向に並ぶ4つのインクカートリッジ150を収容し、筐体101aに対して主走査方向に沿って着脱可能に装着されている。
【0032】
次に、ヘッド1の構成について説明する。
【0033】
ヘッド1は、図2〜図4に示す基部1x、及び、基部1xの上方に設けられたカバー2を含む(図5参照)。基部1xは、金属製の流路部材10、流路部材10の上面に固定された光吸収性樹脂部材20、及び、光吸収性樹脂部材20の上面に接合された光透過性樹脂部材30を含む。
【0034】
流路部材10は、下面に吐出面10xを有する流路ユニット12と流路ユニット12の上面に配置された分配ユニット11との積層体である。流路ユニット12の吐出面10xには、インク滴を吐出する多数の吐出口18(図8参照)が開口している。両ユニット11,12は、それぞれ複数の金属プレートが積層・接着されることにより形成されており、インク流路を内部に有する。ユニット11,12は、平面視において、共に一方向(ヘッド長手方向)に長尺で略同一サイズの矩形状である。
【0035】
光吸収性樹脂部材20は、流路部材10を支持する黒色の部材である。図2及び図3に示すように、光吸収性樹脂部材20は、ヘッド長手方向に沿って長尺であり、略矩形状の底板21、及び、底板21の外周に配置された側部22を含む。底板21は、吐出面10xと平行に配置された平板部材である。側部22は、吐出面10xに直交する上下両方向に突出した側壁である。光吸収性樹脂部材20は、レーザー光吸収性を有する樹脂(ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、又は、アクリロ二トリル・ブタジエン・スチレン(ABS)樹脂)からなり、射出成形により、底板21及び側部22を一体に形成されている。
【0036】
底板21の略中央には、図3に示すように、5つの貫通孔が形成されている。このうち2つの貫通孔は、底板21のヘッド幅方向中央においてヘッド長手方向に並んで配置されており、残り3つの貫通孔は、上記2つの貫通孔を三方から囲むようにしてヘッド幅方向端部に配置されている。底板21の下面21bには、2つの環状凹部が、上記2つの貫通孔に対応して、それぞれ対応する貫通孔の開口を囲むように形成されている。上記2つの貫通孔は、底板21の下面21bに固定された流路部材10のインク流路とリザーバ35(後述)とを連通する接続流路20yを構成する。一方、上記3つの貫通孔は、底板21と流路部材10(分配ユニット11)とのネジ止め用の固定穴20xであり、図2及び図5に示すように、ネジ29が挿入される。下面21bにおける各接続流路20yの開口を囲む環状凹部は、ゴム等の弾性体からなるOリング19を収容する。図5に示すように、底板21と流路部材10(分配ユニット11)とがネジ29で固定(ネジ止め)され、接続流路20yがOリング19によって分配ユニット11のインク流路と水密に接続されている。
【0037】
平面視において2つの接続流路20yが3つの固定穴20xにより形成される三角形の略中央に位置しているため、ネジ29の締め付け時に各Oリング19に付加される荷重は略等しくなる。したがって、2つのOリング19に対する均等な荷重により、接続流路20yと分配ユニット11のインク流路との水密性が良好に保たれる。
【0038】
また、底板21のヘッド長手方向略中央にある3つの固定穴20xを用いてネジ止めを行うことで、ヘッド長手方向中央以外の部分において、流路部材10及び光吸収性樹脂部材20の伸縮が許容される。そのため、流路部材10と光吸収性樹脂部材20との熱膨張差によるヘッド1の変形が生じ難い。
【0039】
側部22は、底板21から下方の部分が、図5に示すように、分配ユニット11の側面とヘッド幅方向に関して隙間を介して対向している。側部22の下端の内側面には、側部22の全周に亘って、切欠22aが形成されている。切欠22aの下面は流路ユニット12の上面端部と離隔しつつ対向し、切欠22aの側面は流路ユニット12の側面上端部と離隔しつつ対向している。図示は省略するが、流路ユニット12と切欠22aとの間に、側部22の全周に亘って、ポッティング剤(例えばシリコーン)が充填されており、これによりヘッド1内部へのインクミストの侵入が防止されている。流路部材10は、当該ポッティング剤を介して、ヘッド長手方向に沿って、光吸収性樹脂部材20に支持されている。ただし、ポッティング剤は弾性体であるため、流路部材10と光吸収性樹脂部材20との熱膨張差が吸収されるようになっている。側部22の上端はカバー2の下端に固定されている。
【0040】
光透過性樹脂部材30は、光吸収性樹脂部材20を間に挟んで流路部材10の上方に積層され、流路部材10から離隔するよう配置されている。光透過性樹脂部材30は、図3に示すように、ヘッド長手方向に沿って長尺な略矩形状のフレーム31、及び、フレーム31の上端面に熱溶着されたダンパー膜32を含む。なお、図2では、ダンパー膜32の図示を省略している。
【0041】
フレーム31は、レーザー光透過性を有する樹脂(ポリプロピレン(PP)樹脂)からなり、図3に示すように、上下方向に開放された中空空間を形成する透明の部材である。フレーム31の下端面31a(図5参照)は、底板21の上面21aと、レーザー溶着によって接合されている。当該接合はフレーム31の全周に亘る。フレーム31は、図2に示すように、側部22の上方に突出した部分に、外側から囲まれている。
【0042】
フレーム31の上端面は、図4に示すように、側部22のヘッド長手方向両端の高さと同じ高さで、水平方向に延在している。側部22の上端は、ヘッド長手方向両端以外の部分において、ヘッド長手方向両端よりも若干高さが低い。そのため、フレーム31の上端は、ヘッド長手方向両端以外の部分において、図4及び図5に示すように、側部22の上端よりも若干高い。このようなフレーム31の上端と側部22の上端との高さの違いは、底板21に対するフレーム31の位置決めを容易にしている。
【0043】
フレーム31は、図2及び図3に示すように、固定穴20xを避けるように中空空間の内側に突出した3つの湾曲部を有している。当該湾曲部と側部22との間に、ネジ29が配置されている。
【0044】
ダンパー膜32は、透明な可撓性を有する樹脂フィルムからなる。ダンパー膜32は、フレーム31内の中空空間を上側から封止している。ダンパー膜32の外周は、フレーム31の底板21への接合と同時に、即ち当該接合の際に照射されるレーザー光によって、形成されたものである。
【0045】
上下方向に関して底板21の上面21aとダンパー膜32とで挟まれ、且つ、水平方向に関してフレーム31に囲まれた空間が、インクを貯留するリザーバ35(図5参照)である。リザーバ35には、流路部材10のインク流路への供給用インクが一時的に貯留される。リザーバ35内のインクは、底板21の接続流路20yを介して流路部材10に供給される。ダンパー膜32は、リザーバ35内のインクへの圧力を緩和する機能を有する。ダンパー膜32自体が透明なフィルムであるため、リザーバ35に対する視認性が高く、リザーバ35内のインクの貯留状態等を確認することができる。
【0046】
カバー2は、ヘッド長手方向に沿って長尺であり、下方が開放された箱型の部材である。カバー2は、光吸収性樹脂部材20の側部22上端に固定されている。カバー2、底板21、及び側部22によって形成される空間内に、光透過性樹脂部材30及び上方支持部材50が収容されている。カバー2の上壁には、カバー2内の空間と外部空間とを連通する3つの通気孔2yが形成されている。通気孔2yは、カバー2内に籠もった熱を外部に放出する。カバー2の側壁は金属板からなり、当該金属板の熱伝導によって、カバー2内の発熱部品(後述のドライバIC45等)からの熱が外部に放出される。
【0047】
流路部材10、光透過性樹脂部材30、上方支持部材50、及びカバー2におけるヘッド長手方向の長さは略同じである。ヘッド長手方向に関して、光吸収性樹脂部材20は、ヘッドフレーム103に固定される突出部を両側に有しており、その分だけ他の部材よりも長い。また、カバー2は、ヘッド幅方向に関して光吸収性樹脂部材20と略同じ長さを有する。
【0048】
上方支持部材50は、ヘッド長手方向に長尺な略直方体形状を有する、樹脂製の一体成形部材である。上方支持部材50は、図示は省略するが、そのヘッド長手方向両端において、光吸収性樹脂部材20の側部22に固定されている。上方支持部材50の下面はダンパー膜32と対向し、両者間の隙間によってダンパー膜32の自由変位が可能となっている。上方支持部材50の上方には、制御基板52等が組み付けられている。制御基板52には、コネクタ52aやコンデンサ52b等の回路部品が配設されている。制御基板52は、コネクタ52aによって後述のアクチュエータユニット17と電気的に接続され、別のコネクタ(図示せず)によってコントローラ101(図1参照)と電気的に接続されている。
【0049】
上方支持部材50のヘッド長手方向に延在した一対の側壁は、カバー2の側壁と隙間を介して対向している。各隙間にはそれぞれ4つのドライバIC45が、ヘッド長手方向に関して等間隔に配置されている(図5には1のドライバIC45のみ示す)。ドライバIC45は、後述する8つのアクチュエータユニット17(図3参照)のそれぞれに対応して設けられており、各フレキシブルプリント基板(FPC)40の途中部に実装されている。FPC40は、一端がアクチュエータユニット17に電気的に接続され、他端がコネクタ52aに電気的に接続されている。ドライバIC45は、スポンジ状弾性部材42と共に、上方支持部材50の側壁とカバー2の側壁とに挟持されている。スポンジ状弾性部材42は、上方支持部材50の側壁に固定されており、ドライバIC45をカバー2の側壁に向けて付勢している。ドライバIC45は、カバー2と熱的に結合している。
【0050】
上方支持部材50は、さらに、上下方向に延在した円筒状のジョイント(図示せず)を含む。当該ジョイントは、上端がチューブを介して対応するインクカートリッジ150(図1参照)と連通し、下端が光透過性樹脂部材30のリザーバ35と連通している。これにより、カートリッジ150内のインクが、チューブ及びジョイントを介してリザーバ35に供給される。ジョイントは、制御基板52を避けるように、上方支持部材50のヘッド長手方向端部に配置されている。インク供給の均一化の観点から、ジョイントはヘッド長手方向両端に設けられている。
【0051】
分配ユニット11は、図5に示すように、3枚の金属プレート11a,11b,11cを互いに積層し接着することにより形成された積層体である。最上層のプレート11aには、各接続流路20yと対向する貫通孔11pが形成されている。また、プレート11aは、底板21の固定穴29xと対向する位置に、ネジ29が螺合される雌ネジ部を有する。上から2番目のプレート11bには、分配流路11xを構成する貫通孔が形成されている。分配流路11xは、本体と本体から分岐した複数の分岐部とから構成されている。本体は、ヘッド長手方向に延在し、その略中央において貫通孔11pと連通している。光透過性樹脂部材30のリザーバ35内のインクは、接続流路20yから貫通孔11pを介して、本体に供給される。本体は、当該供給されたインクを一時的に貯留し、複数の分岐部のそれぞれに分配する。最下層のプレート11cには、流路ユニット12の後述する各開口12yに対向する複数の貫通孔11yが形成されている。貫通孔11yは、それぞれ上方で分配流路11xの分岐部と連通している。このように、分配ユニット11内には、貫通孔11pから分配流路11を介して貫通孔11yに至るインク流路が形成されている。即ち、各プレート11a,11b,11cには当該インク流路を構成する貫通孔や凹部が形成されており、これらプレート11a,11b,11cを積層することによって当該インク流路が形成されている。
【0052】
流路ユニット12は、9枚の金属プレート12a,12b,12c,12d,12e,12f,12g,12h,12i(図8参照)を互いに積層し接着することにより形成された積層体である。図5、図6、及び図7に示すように、流路ユニット12の上面には、分配ユニット11の貫通孔11yに対応する開口12yが形成されている。流路ユニット12の内部には、上面の開口12yから下面の吐出口18に至るインク流路が形成されている。各プレート12a〜12iには当該インク流路を構成する貫通孔や凹部が形成されている。当該インク流路は、図6、図7、及び図8に示すように、開口12yを一端に有するマニホールド流路13、マニホールド流路13から分岐した副マニホールド流路13a、及び、副マニホールド流路13aの出口から圧力室16を介して吐出口18に至る個別インク流路14を含む。個別インク流路14は、図8に示すように、吐出口18を先端に有するインク流路であって、吐出口18毎に形成されており、流路抵抗を調整する絞りとして機能するアパーチャ15を含む。
【0053】
なお、図7では、アクチュエータユニット17の下側にあって点線で示すべき圧力室16及びアパーチャ15を実線で示している。
【0054】
流路ユニット12の上面には、図6に示すように、台形形状の8つのアクチュエータユニット17が2列の千鳥状に配置されている。また、図7に示すように、流路ユニット12の各アクチュエータユニット17が対向する台形領域において、上面には略菱形形状の圧力室16が多数開口し、下面(吐出面10x)には圧力室16と同数の吐出口18が開口している。圧力室16及び吐出口18はそれぞれ、各アクチュエータユニット17が対向する台形領域内で、マトリクス状に配置され、圧力室群及び吐出口群を構成している。圧力室群及び吐出口群は共にアクチュエータユニット17と相似の領域を占めている。各アクチュエータユニット17は、図示は省略するが、台形形状の複数の圧電層、各圧力室16に対向する個別電極、及び全圧力室16に共通の共通電極を有し、個別電極毎に画定された多数の圧電型アクチュエータを含む。各アクチュエータは、それぞれ対応する圧力室16に対向配置されている。
【0055】
分配ユニット11は、流路ユニット12の上面におけるアクチュエータユニット17が配置されていない部分(図6に示す開口12yを含む二点鎖線で囲まれた領域)に接着されている。即ち、図5に示すように、分配ユニット11の下面は凹凸を有し、凸部の先端面が流路ユニット12の上面に接着されている。当該凸部の先端面には、分配流路11xに連通する開口11yが形成されている。一方、凹部は、流路ユニット12の上面、当該上面に接着されたアクチュエータユニット17の表面、及び各アクチュエータユニット17の表面に接着されたFPC40の表面と、若干の隙間を介して対向している。
【0056】
8つのFPC40はそれぞれ、アクチュエータユニット17の各電極に対応する配線が形成されている。各FPC40は、図6に示す台形形状のアクチュエータユニット17下底側から、流路ユニット12の上面と分配ユニット11の下面(凹部)との隙間を通って分配ユニット11の側部に引き出され、図5に示すように、上方へと向かう。FPC40は、光吸収性樹脂部材20の底板21の貫通孔内を通って上方に向かい、上方支持部材50の側壁とカバー2の側壁との隙間を通り、制御基板52近傍まで延びている。FPC40の端部は、制御基板52のコネクタ52aに固定されている。FPC40は、制御基板52から出力された信号をコネクタ52aを介してドライバIC45へと伝達し、ドライバIC45で生成された駆動信号をアクチュエータユニット17へと伝達する。
【0057】
次いで、図9を参照し、本実施形態に係るヘッド1の製造方法について説明する。
【0058】
ヘッド1の製造にあたり、先ず、ヘッド1の基部1xの作製(S1)、及び、基部1x以外のヘッド1の各構成要素の作製(S2)を行う。これらの工程S1,S2は、互いに独立に行われるものであり、いずれを先に行ってもよいし、並行して行ってもよい。
【0059】
基部1xの作製(S1)においては、基部1xの各構成要素(流路部材10、光吸収性樹脂部材20、光透過性樹脂部材30等)を個別に作製する(S3,S4,S5)。これらの工程S3,S4,S5も、互いに独立に行われるものであり、いずれを先に行ってもよいし、並行して行ってもよい。
【0060】
基部1xの作製(S1)には、上方支持部材50の射出成形による一体成形、制御基板52の作製、両者50,52の組み付け、カバー2の作製等の作業も含まれる。カバー2の作製においては、下面が開放された箱型の樹脂部材(カバー2の側壁を除く部分)、及び、カバー2の側壁を構成する金属板が準備される。
【0061】
流路部材10の作製(S3)においては、先ず、流路ユニット12及び分配ユニット11を個別に作製する(S31,S32)。これらの工程S31,S32も、互いに独立に行われるものであり、いずれを先に行ってもよいし、並行して行ってもよい。各工程31,32では、ユニット12,11を構成する各金属プレートを用意し、各金属プレートにエッチング等により凹部や貫通孔を形成する。そして、プレートに熱硬化性接着剤を塗布して互いに位置合わせしつつ積層し、加熱及び加圧工程を経ることにより、流路ユニット12及び分配ユニット11が完成する。そして、工程S31で作製された流路ユニット12の上面に、周知の手法により作製された8つのアクチュエータユニット17を固定し(S33)、さらに各アクチュエータユニット17の上面にFPC40の一端を接合する(S34)。その後、流路ユニット12上面に分配ユニット11の下面を接着し、両者を固定する(S35)。これにより、流路部材10が完成する。
【0062】
光吸収性樹脂部材20の作製(S4)においては、PBT樹脂又はABS樹脂を材料として用いて、射出成形により、底板21及び側部22を一体に形成する。
【0063】
光透過性樹脂部材30の作製(S5)においては、先ず、PP樹脂を材料として用い、射出成形によりフレーム31を作製する(S51:リザーバ形成工程)。その後、フレーム31の上端面に、ダンパー膜32を構成する樹脂フィルムを熱溶着する(S52:可撓性膜固定工程)。この段階では、ダンパー膜32の外周は形成されておらず、完成品である光透過性樹脂部材30のダンパー膜32の外周より外側にも樹脂フィルムが残っている。
【0064】
工程S51の後、上端面に樹脂フィルムが熱溶着されたフレーム31を、レーザー溶着によって光吸収性樹脂部材20と接合する(S61:接合工程)。具体的には、底板21の固定穴20xを避けるようにしてフレーム31を底板21の上面21aに対する位置合わせをし、底板21の上面21aに下端面31aを当接させた状態で、光透過性樹脂部材30を介して当接部(底板21の上面21a)にレーザー光を照射する。このレーザー光の照射により、当接部(底板21の上面21a)が溶融してフレーム31の下端面31aと一体になる。また、このとき照射されるレーザー光によって、フレーム31の上端面に熱溶着された樹脂フィルムを切断し、ダンパー膜32の外周を形成する。樹脂フィルム切断の際には、レーザー光のフォーカス位置を変化させるだけでよく、ダンパー膜32の外周を効率よく形成することができる。このようにして、光吸収性樹脂部材20上に、底板21、フレーム31、及びダンパー膜32で画定された、リザーバ35が形成される。
【0065】
しかる後、工程S61にて光透過性樹脂部材30が接合された光吸収性樹脂部材20を、流路部材10に固定する(S62:固定工程)。具体的には、光吸収性樹脂部材20及び光透過性樹脂部材30の一体品を、光吸収性樹脂部材20の底板21の下面21bに形成された2つ凹部にOリング19を収容した状態で、流路部材10にネジ止めする。当該ネジ止めに際して、底板21の固定穴20xと分配ユニット11(最上層のプレート11a)の雌ネジ部とが位置合わせされる。このとき、底板21の下面21bと下方に突出した側部22とが作る空間内に分配ユニット11が収容され、側部22の切欠22a内に流路ユニット12の一部が所定の間隙を介して配置される。当該ネジ止めの後、切欠22aと流路ユニット12との間にポッティング剤を充填する。これによって、光吸収性樹脂部材20が流路部材10上に固定され、流路部材10がヘッド長手方向に沿って光吸収性樹脂部材20により支持される。
【0066】
工程S62により基部1xが完成した後、S2で作製され又は事前に用意されたヘッド1の基部1x以外の各構成要素を基部1xに組み付けることにより、ヘッド1が完成する。具体的には、上方支持部材50を光吸収性樹脂部材20の側部22に固定した後、各FPC40を上方支持部材50の側壁に沿うように上方に引き出し、FPC40の他端を制御基板52のコネクタ52aに固定する。その後、カバー2を光吸収性樹脂部材20の側部22上端に固定する等の工程を経て、ヘッド1が完成する。
【0067】
なお、カバー2を固定する工程では、先ず、カバー2の側壁を構成する金属板を、側部22の上端に固定しながら、ドライバIC45を上方支持部材50の側壁と金属板との間に挟持する。金属板の固定は、金属板の下端に形成された複数の凸部と側部22の上端に形成された複数の凹部との嵌め合いで行われる。ドライバIC45の挟持には、上方支持部材50の側壁に固定されたスポンジ状弾性部材42の弾性力を用いる。この状態で、カバー2の樹脂部材(側壁を除く部分を構成する箱型の部材)を組み付ける。このとき、樹脂部材と側部22との当接部、金属板と側部22との当接部、樹脂部材と金属板との当接部に、全周に亘って、シリコン製のポッティング剤を塗布する。
【0068】
以上に述べたように、本実施形態に係るインクジェットヘッド1及びその製造方法によると、光吸収性樹脂部材20及び光透過性樹脂部材30が流路部材10に対して個別に固定されるのではなく、光透過性樹脂部材30がレーザー溶着によって光吸収性樹脂部材20と接合され、光吸収性樹脂部材20のみが流路部材10に固定される。つまり、光透過性樹脂部材30は、流路部材10と接触することなく流路部材10から離隔し、流路部材10に直接固定されない。したがって、樹脂部材20,30毎の流路部材10に対する個別の固定部材が不要であり、部品点数の増加が回避される。そしてこれにより、構成の簡素化及びコスト低減を実現可能である。
【0069】
しかも、レーザー溶着は、被溶着部材が透明であればよく、他の溶着方法(例えば超音波溶着)に比べ、形状自由度が高いため、各樹脂部材20,30に空気排出性等をも考慮した流路を形成することができる等の利点がある。
【0070】
光透過性樹脂部材30に、流路部材10のインク流路に供給されるインクを貯留するリザーバ35が形成されており、光吸収性樹脂部材20に、光透過性樹脂部材30のリザーバ35と流路部材10のインク流路とを接続する接続流路20yが形成されている。この場合、光透過性樹脂部材30は透明であるため、リザーバ35内の状況(インク量等)を外部から視認することができる。
【0071】
光透過性樹脂部材30が、リザーバ35内のインクへの圧力を緩和する可撓性樹脂フィルムからなるダンパー膜32であって、接合工程S61に係るレーザー光による切断で形成された外周を有するダンパー膜32を含む。つまり、光透過性樹脂部材30の光吸収性樹脂部材20への接合(S61)と同時にダンパー膜32を構成する樹脂フィルムを切断し、ダンパー膜32の外周を形成することができる。そのため、接合工程S61とは別の工程でダンパー膜32の外周を形成すべく樹脂フィルムを切断する場合に比べ、工程数が低減され、ヘッド1の製造が容易になる。
【0072】
光吸収性樹脂部材20の流路部材10とは反対側の面、即ち上面21aが、光透過性樹脂部材30のリザーバ35の底部を画定している(図5参照)。この場合、さらなる構成の簡素化が実現されると共に、ヘッド1の小型化が実現される。
【0073】
光吸収性樹脂部材20が流路部材10よりも大きな熱膨張係数を有し、光透過性樹脂部材30が光吸収性樹脂部材20よりも大きな熱膨張係数を有する。例えば、流路部材10を構成する金属(ステンレス鋼)は1〜2(×10−5/K)、光透過性樹脂部材30を構成するPBT樹脂又はABS樹脂は7〜10(×10−5/K)、光透過性樹脂部材30を構成するPP樹脂は略11(×10−5/K)の熱膨張係数を有する。このように、本実施形態では、流路部材10と光透過性樹脂部材30との間にこれらの熱膨張係数の中間の熱膨張係数を有する光吸収性樹脂部材20を介在させることで、流路部材10と光透過性樹脂部材30とを直接固定する場合に比べ、部材10,20間の熱膨張差による熱歪みが低減される。これにより、流路部材10の歪みによるインク滴吐出方向のばらつき、部材10,20間(接続流路20yと貫通孔11pとの接続部分)におけるインク漏れ等の問題を軽減することができる。
【0074】
光吸収性樹脂部材20は、ヘッド長手方向に沿って、流路部材10を支持するよう流路部材10に固定されていている。光吸収性樹脂部材20の支持によって、流路部材10がヘッド長手方向に歪みにくくなる。具体的には、本実施形態では、光吸収性樹脂部材20が、ヘッド長手方向中央で流路部材10とネジ止めされ、且つ、ヘッド長手方向に沿って弾性体であるポッティング剤を介して流路部材10を支持している。このような構成により、ヘッド長手方向中央以外の部分において、流路部材10と光吸収性樹脂部材20との熱膨張差が吸収され、これら部材10,20の伸縮が許容されることから、流路部材10のヘッド長手方向の撓みが抑制される。もちろん、光吸収性樹脂部材20は、流路部材10とヘッド長手方向に沿ってネジ止めされてよい。この場合でも、両部材10,20の熱膨張係数差が小さければ、光吸収性樹脂部材20の存在によって、流路部材10のヘッド長手方向の剛性が向上し、流路部材10はヘッド長手方向に歪みにくい。これにより、ライン式ヘッドのように吐出面10xが一方向に長尺であっても、インク滴吐出方向の安定化が実現される。
【0075】
光吸収性樹脂部材20と流路部材10との間に、ゴム等の弾性体からなるOリング19が介在している。この場合、Oリング19によって、両部材10,20の熱膨張差に起因した歪みが抑制される。
【0076】
光透過性樹脂部材30の材料としてPP樹脂を採用したことにより、PP樹脂は一般にダンパー膜32を構成する樹脂フィルムとの良好な熱溶着性を有することから、光透過性樹脂部材30へのダンパー膜32の形成が容易である。
【0077】
光吸収性樹脂部材20の材料としてPBT樹脂又はABS樹脂を採用したことにより、PBT樹脂及びABS樹脂はいずれも熱膨張係数が比較的小さいことから、本実施形態のように流路部材10の熱膨張係数が小さい場合に、光吸収性樹脂部材20と流路部材10との熱膨張差に起因した歪みを効果的に低減することができる。
【0078】
ヘッド1の製造方法において、接合工程S61が固定工程S62の前に行われる。この場合、接合工程S61が固定工程S62の後に行われる場合に比べ、接合工程S61を容易に行うことができる。
【0079】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な設計変更が可能なものである。
【0080】
例えば、接合工程S61が固定工程S62の後に行われてもよい。つまり、接合工程及び固定工程の順序は特に限定されない。
【0081】
接合工程S61において、同時にダンパー膜32の外周を形成しなくてもよい。換言すると、ダンパー膜32は、接合工程S61に係るレーザー光による切断で形成された外周を有さなくてもよい。例えば、ダンパー膜32の外周は、接合工程S61の前又は後に、樹脂フィルムを切断することで形成してよい。
【0082】
可撓性膜固定工程S52において、上述の実施形態では、透明な樹脂フィルムを用いているが、不透明(例えば黒色)の樹脂フィルムを用いてもよい。この場合、上述の実施形態に比べ、リザーバ35内の視認性については劣るが、接合工程S61でのダンパー膜32の外周形成をより低パワーのレーザー光で行うことができる。
【0083】
光吸収性樹脂部材20は、PBT樹脂及びABS樹脂に限定されず、レーザー光吸収性を有する樹脂であれば、その他任意の樹脂からなってよい。
【0084】
光透過性樹脂部材30は、PP樹脂に限定されず、レーザー光透過性を有する樹脂であれば、その他任意の樹脂からなってよい。
【0085】
光吸収性樹脂部材20と流路部材10との間に介在される弾性部材の位置は任意である。また、弾性部材は省略可能である。
【0086】
上述の実施形態では、底板21のヘッド長手方向略中央にある3つの固定穴20xを用いて、光吸収性樹脂部材20を流路部材10にネジ止めしているが、これに限定されない。例えば、ネジ止めの箇所を、1、2又は4以上としたり、ヘッド長手方向略中央ではなく、ヘッド長手方向に亘って分散して配置したりしてよい。なお、このときリザーバ35の容積に不足が生じないよう留意する必要がある。ネジ止め箇所数の増加に伴い、光吸収性樹脂部材20は流路部材10により強固に固定されることになる。
【0087】
また、光吸収性樹脂部材20は、ヘッド長手方向に沿って、流路部材10を支持するよう流路部材10に固定されることに限定されない。例えば、光吸収性樹脂部材20は、流路部材10をヘッド幅方向に沿って支持してよいし、或いは、流路部材10と一箇所のみで固定され、流路部材10をある一定の方向に支持しなくてもよい。
【0088】
流路部材10、光吸収性樹脂部材20、及び光透過性樹脂部材30の熱膨張係数の大小関係は様々であってよく、光吸収性樹脂部材20が流路部材10よりも大きな熱膨張係数を有することや、光透過性樹脂部材30が光吸収性樹脂部材20よりも大きな熱膨張係数を有することに限定されない。
【0089】
光吸収性樹脂部材20の流路部材10とは反対側の面が、光透過性樹脂部材30のリザーバ35を画定しなくてもよい。例えば、光透過性樹脂部材30が、リザーバ35の底部を構成する部分を有してよい。
【0090】
光透過性樹脂部材30に、ダンパー膜32が形成されていなくてもよい。
【0091】
光透過性樹脂部材30に、リザーバ35が形成されていなくてもよい。
【0092】
その他、流路部材10、光吸収性樹脂部材20、及び光透過性樹脂部材30の形状や構成は様々に変更可能である。
【0093】
本発明に係る液滴吐出ヘッドは、ライン式・シリアル式のいずれにも適用可能であり、また、プリンタに限定されず、ファクシミリやコピー機等にも適用可能である。さらに、本発明に係る液滴吐出ヘッドは、インク滴以外の液滴を吐出してもよい。
【符号の説明】
【0094】
1 インクジェットヘッド(液滴吐出ヘッド)
1x 基部
10 流路部材
11 分配ユニット
12 流路ユニット
14 個別インク流路(液体流路)
18 吐出口
19 Oリング(弾性部材)
20 光吸収性樹脂部材
20y 接続流路
30 光透過性樹脂部材
31 フレーム
31a 下端面(溶着部)
32 ダンパー膜(可撓性膜)
35 リザーバ
100 インクジェット式プリンタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を吐出する吐出口を先端に有する液体流路が形成された流路部材と、
前記流路部材を支持するよう前記流路部材に固定された、レーザー光吸収性を有する樹脂からなる光吸収性樹脂部材と、
前記流路部材から離隔し、レーザー溶着によって前記光吸収性樹脂部材と接合された、レーザー光透過性を有する樹脂からなる光透過性樹脂部材と
を備えたことを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項2】
前記光透過性樹脂部材に、前記流路部材の前記液体流路に供給される液体を貯留するリザーバが形成されており、
前記光吸収性樹脂部材に、前記光透過性樹脂部材の前記リザーバと前記流路部材の前記液体流路とを接続する接続流路が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項3】
前記光透過性樹脂部材が、前記リザーバ内の液体への圧力を緩和する可撓性膜であって、前記接合に係るレーザー光による切断で形成された外周を有する可撓性膜を含むことを特徴とする請求項2に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項4】
前記光吸収性樹脂部材の前記流路部材とは反対側の面が、前記光透過性樹脂部材の前記リザーバを画定することを特徴とする請求項2又は3に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項5】
前記光吸収性樹脂部材が前記流路部材よりも大きな熱膨張係数を有し、前記光透過性樹脂部材が前記光吸収性樹脂部材よりも大きな熱膨張係数を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項6】
前記光吸収性樹脂部材は、前記流路部材における前記吐出口が開口した吐出面の長手方向に沿って、前記流路部材を支持するよう前記流路部材に固定されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項7】
前記光吸収性樹脂部材と前記流路部材との間に、弾性部材が介在していることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項8】
前記光透過性樹脂部材が、ポリプロピレン樹脂からなることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項9】
前記光吸収性樹脂部材が、ポリブチレンテレフタレート樹脂及びアクリロ二トリル・ブタジエン・スチレン樹脂のいずれかからなることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項10】
液滴を吐出する吐出口を先端に有する液体流路が形成された流路部材に、前記流路部材を支持するよう、レーザー光吸収性を有する樹脂からなる光吸収性樹脂部材を固定する固定工程と、
レーザー光透過性を有する樹脂からなる光透過性樹脂部材を、前記流路部材から離隔した位置に配置されるように、レーザー溶着によって前記光吸収性樹脂部材と接合する接合工程と
を備えたことを特徴とする液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項11】
前記接合工程が前記固定工程の前に行われることを特徴とする請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記光透過性樹脂部材に、前記流路部材の前記液体流路に供給される液体を貯留するリザーバを形成するリザーバ形成工程と、
前記リザーバ形成工程において形成された前記リザーバ内の液体への圧力を緩和する可撓性膜を、前記光透過性樹脂部材に固定する可撓性膜固定工程と
をさらに備え、
前記接合工程において、当該接合に係るレーザー光によって、前記可撓性膜固定工程において固定された前記可撓性膜を切断し、前記可撓性膜の外周を形成することを特徴とする請求項10又は11に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−104841(P2011−104841A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−261183(P2009−261183)
【出願日】平成21年11月16日(2009.11.16)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】