説明

液滴吐出ヘッドのクリーニング方法

【課題】ノズル面に供給するインク等の機能液の供給量を微調整することができる液滴吐出ヘッドのクリーニング方法を提供する。
【解決手段】駆動素子に印加する駆動波形を制御してノズル21bからノズル面21aに機能液Lを供給する機能液供給工程と、機能液供給工程の終了後、ノズル面21aをワイピングするワイピング工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴吐出ヘッドのクリーニング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、液滴吐出ヘッドのクリーニング方法として、液滴吐出ヘッドのノズル面にキャップを押し付けてインク等を吸引した後、ノズル面をワイパーにより擦り取る方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1では、ノズル面にキャップを押し付ける工程、キャップに負圧を供給する工程、キャップによりインクを吸引する工程、キャップをノズル面から離脱させる工程、ノズル面に付着したインク等をワイパーにより擦る取る工程、等の工程を順次実行している。
【0003】
また、液滴吐出ヘッドの全ノズルから強制的にインク等を排出させる工程を備えたクリーニング方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2では、液滴吐出ヘッドのヘッド流路内の圧力が、液滴吐出ヘッドの全ノズルからインク等を強制的に排出させる強制排出圧力となるようにサブタンク内の圧力を加圧制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3978956号公報
【特許文献2】特許第4007165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のクリーニング方法は、ノズル面にキャップを押し付けてインク等を吸引する工程における工程数が多く、クリーニングに長時間を要するという課題がある。
一方、特許文献2のクリーニング方法によれば、吸引ポンプ等のクリーング専用の装置を設ける必要がなく、クリーニングに要する時間を短縮することができるという利点がある。しかし、全ノズルからインク等を強制的に排出する際に、サブタンク内の圧力を加圧制御する必要があるため、インク等の排出量の制御が困難であるという課題がある。
【0006】
そこで、本発明は、吸引工程を省略することができ、更にノズル面に供給するインク等の機能液の供給量を微調整することができる液滴吐出ヘッドのクリーニング方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の液滴吐出ヘッドのクリーニング方法は、複数のノズルが設けられたノズル面と、前記ノズルの各々に対応して設けられた駆動素子とを有し、前記ノズルの各々から機能液の液滴を吐出する液滴吐出ヘッドのクリーニング方法であって、前記駆動素子に印加する駆動波形を制御して前記ノズルから前記ノズル面に前記機能液を供給する機能液供給工程と、前記機能液供給工程の終了後、前記ノズル面をワイピングするワイピング工程と、を有することを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、通常の液滴の吐出に用いる駆動素子を用いてノズル面に機能液を供給することができる。そのため、ノズル面に機能液を供給するためにサブタンク内の圧力を上昇させる必要が無い。
また、駆動素子に印加する駆動波形を制御することで、機能液をノズルによって飛散させ、ノズル面に付着させることができる。また、機能液をノズルから徐々に染み出させるようにしてノズル面に濡れ拡がらせることができる。これにより、従来の方法と比較してノズル面に供給する機能液の供給量を微調整することが可能になる。
したがって、従来のキャップによる吸引を省略してクリーニング時間を短縮し、生産性を向上させることができる。加えて、ノズル面に供給する機能液の供給量を微調整することで、従来よりも機能液の消費量を減少させ、製造コストを低減することができる。
【0009】
また、本発明の液滴吐出ヘッドのクリーニング方法は、前記機能液供給工程では、前記ノズル面に前記機能液を飛散させて付着させる液滴飛散工程と、前記液滴飛散工程において前記ノズル面に付着させた前記機能液を成長させる液滴成長工程と、を有することを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、駆動素子の駆動波形を制御することで、機能液の液滴をノズル面に飛散させ、通常の液滴吐出時よりもノズル面により多くの液滴を短時間に付着させることができる。更に、液滴成長工程ではノズルから徐々に染み出させた機能液を、ノズル面に付着させた液滴に供給して成長させることができる。すなわち、液滴成長工程では、ノズル面に付着した液滴を利用して、より短時間にノズル面に機能液を行き渡らせることができる。したがって、機能液供給工程においてより効率よくノズル面に機能液を供給することが可能になり、機能液供給工程の処理時間を短縮し、クリーニング工程全体を短縮することが可能になる。
【0011】
また、本発明の液滴吐出ヘッドのクリーニング方法は、前記機能液供給工程では、前記駆動波形の振幅を前記機能液の液滴吐出時に印加する吐出波形の振幅の40%以上かつ70%以下とすることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、駆動素子によって機能液をノズルから押し出す力が、通常の液滴吐出工程において液滴を吐出する場合よりも弱くなる。そのため、通常の吐出時の液滴の飛散方向と異なる様々な方向に液滴が飛散する。飛散した機能液の一部はノズル面に付着する。これを繰り返すことで、ノズル面に機能液を迅速に供給することができる。
【0013】
また、本発明の液滴吐出ヘッドのクリーニング方法は、前記駆動波形は、電圧上昇部と定電圧部と電圧下降部とからなる台形波であり、前記電圧上昇部の幅は4.5μ秒、前記定電圧部の幅は3.0μ秒、前記電圧下降部の幅は3.2μ秒であることを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、駆動素子によって機能液をノズルからより効率よく押し出してノズルの近傍に飛散させ、機能液をノズル面により効率よく供給することができる。
【0015】
また、本発明の液滴吐出ヘッドのクリーニング方法は、前記機能液供給工程では、前記駆動波形の振幅を前記吐出ヘッドに印加する微振動波形の振幅の70%以上かつ100%以下とすることを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、駆動素子の駆動波形を機能液の固化を防止する通常の微振動波形以下の振幅として制御する。これにより、ノズルから機能液の液滴を吐出させることなく、ノズルから機能液をノズル面に染み出させ、機能液をノズル面に濡れ広がらせることができる。
【0017】
また、本発明の液滴吐出ヘッドのクリーニング方法は、前記駆動波形は、電圧上昇部と定電圧部部と電圧下降部とからなる台形波であり、前記電圧上昇部の幅は7.0μ秒、前記定電圧部の幅は2.0μ秒、前記電圧下降部の幅は7.0μ秒であることを特徴とする。
【0018】
本発明によれば、駆動素子によって機能液をノズルからより効率よく染み出させてノズル面に濡れ広がらせ、機能液をノズル面により効率よく供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態における液滴吐出装置の斜視図である。
【図2】図1に示す液滴吐出装置の液滴吐出ヘッドの平面図である。
【図3】図1に示す液滴吐出装置の液滴吐出ヘッドの部分断面図である。
【図4】図1に示す液滴吐出装置のステージの側面図である。
【図5】図3に示す液滴吐出ヘッドの駆動素子の駆動波形の一例である。
【図6】機能液供給工程(液滴飛散工程)の工程図である。
【図7】図3に示す液滴吐出ヘッドの駆動素子の駆動波形の一例である。
【図8】機能液供給工程(液滴成長工程)の工程図である。
【図9】図3に示す液滴吐出ヘッドの駆動素子の駆動波形のその他の例である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、以下の各図面では、各部材を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、部材毎に縮尺を適宜変更している。以下では、基板の搬送方向をX軸方向、基板の上面に垂直な方向をZ軸方向、X軸方向及びZ軸方向に直交する方向をY軸方向とする直交座標系を用いて説明する。
【0021】
図1は、本実施形態に係る液滴吐出装置1の一例を示す斜視図である。
図1に示すように、液滴吐出装置1は、インク等の機能液の液滴を吐出する吐出ヘッド(液滴吐出ヘッド)2と、基板Pを載置するステージ3と、吐出ヘッド2を移動させる第1駆動ユニット4と、ステージ3を移動させる第2駆動ユニット5と、液滴吐出装置1全体の動作を制御する制御装置7とを備えている。
【0022】
図2は、吐出ヘッド2を下方から見た平面図である。
吐出ヘッド2の下端には、図2に示すように、略長方形のノズルプレート21が設けられている。ノズルプレート21のノズル面21aには、インク等の液滴を吐出する複数のノズル21bが設けられている。ノズル面21aは、ステージ3に載置された基板Pの上面(XY平面)と略平行になっている。ノズル21bは、ノズル面21aの長手方向に沿って配列され、各々のノズル21bからそれぞれインク等の機能液の液滴を吐出するようになっている。
【0023】
図3は、吐出ヘッド2の断面図である。
吐出ヘッド2は、図3に示すように、主にノズルプレート21と、共通インク室(リザーバー)23と、振動板24と、ヘッド本体25と、ピエゾ素子(駆動素子)26と、により構成されている。
【0024】
ノズルプレート21は、吐出ヘッド2の下端に共通インク室23の下部を閉塞するように設けられている。ノズルプレート21には複数のノズル21bがノズルプレート21を貫通するように設けられ、下面のノズル面21aにそれぞれ開口されている(図2参照)。
【0025】
共通インク室23は、例えばシリコン等により形成され、内部には複数のキャビティー23aが形成されている。キャビティー23aは、ノズル21bの各々に対応して設けられ、ノズル21b毎に区画されている。共通インク室23は、インク等の機能液を供給する機能液供給部(図示略)に接続されている。機能液供給部から共通インク室23内に供給されたインク等の機能液は、共通インク室23内のキャビティー23aの各々に貯留されるようになっている。
【0026】
共通インク室23上には可撓性の材料によって振動板24が設けられ、振動板24が上下に振動することで、共通インク室23のキャビティー23aの容積が変化するようになっている。振動板24上には、内部に収容室25aを有するヘッド本体25が設けられている。収容室25aは、キャビティー23aに対応する位置に設けられ、内部にピエゾ素子26が収容されている。ピエゾ素子26の一端側は、収容室25aの内壁に固定され、他端側が振動板24上に配置されている。ピエゾ素子26は制御装置7からの駆動信号により上下方向(長手方向)に伸縮可能に設けられ、振動板24を上下(共通インク室23側及び収容室25a側)に振動させるようになっている。
【0027】
図1に示すように、第1駆動ユニット4は、吐出ヘッド2を支持する支持機構4Aと、支持機構4Aを介して吐出ヘッドを回転及び移動させるアクチュエータ4Bとを含む。第1駆動ユニット4は、吐出ヘッド2を、X軸、Y軸、Z軸の各軸方向に移動させることができるようになっている。また、吐出ヘッド2をZ軸回りに回転させることができるようになっている。
【0028】
図4は、ステージ3の側面図である。
ステージ3は、図1及び図4に示すようにスライド部材3Aとホルダ部材3Bとにより構成されている。スライド部材3Aは、ベース部材10上のY軸方向に延在するレール状のガイド部材8に沿ってスライド可能に設けられている。スライド部材3A上には、基板Pを位置決めした状態で保持するホルダ部材3Bが設けらている。ホルダ部材3Bは、基板Pをその表面がXY平面と略平行となるように保持する。
【0029】
第2駆動ユニット5は、スライド部材3Aをガイド部材8に沿ってスライドさせる第1駆動部5Aと、ホルダ部材3Bをスライド部材3A上で微動させる第2駆動部5Bとにより構成されている。第1駆動部5Aは例えばリニアモータ等により構成されている。第2駆動部5Bは、例えばピエゾ素子等の複数のアクチュエータにより構成され、ホルダ部材3Bをスライド部材3Aに対してX軸、Y軸、Z軸の各軸方向、及び各軸回りに微動させることができるようになっている。
制御装置7は、第1駆動ユニット4及び第2駆動ユニット5を制御することで、ステージ3上の所望の位置に吐出ヘッド2を配置させるようになっている。
【0030】
液滴吐出装置1に液滴を吐出させて基板P上に配置させる液滴吐出工程では、制御装置7は、まず、不図示の機能液供給部からインク等の機能液を供給させ、図3に示すように、吐出ヘッド2の共通インク室23のキャビティー23aを機能液Lによって満たした状態にする。制御装置7によって予め吐出ヘッド2を所定の位置に移動させる。
【0031】
次に、制御装置7は各々のピエゾ素子26に所定の電圧波形を吐出波形(駆動波形)として印加して、各々のピエゾ素子26を吐出波形に応じて伸縮させる。これにより、振動板24が振動し、キャビティー23aの容積が変化する。キャビティー23aの容積変化はキャビティー23a内の圧力変化を生じさせる。この圧力変化に伴う各々のキャビティー23a内の機能液Lの圧力上昇によって、各々のノズル21bから機能液Lの液滴Dが吐出される。
【0032】
各々のノズル21bから吐出された機能液Lの液滴Dは、基板P上の所定の位置に着弾し、基板P上に機能液Lが配置される。制御装置7は、更に基板Pと吐出ヘッド2とを相対的に移動させながら吐出ヘッド2によって機能液Lの液滴Dを吐出させ、基板P上の所定の位置に機能液Lの液滴Dを配置していく。液滴Dの吐出時には、液滴Dの吐出に伴ってノズル21bの周辺に機能液Lのミストが発生する。機能液Lのミストの一部はノズル面21aに付着して、溶媒や分散媒の蒸発により粘度が増加する。
【0033】
制御装置7は、所定時間経過後、吐出ヘッド2のクリーニング工程を実行する。クリーニング工程では、液滴Dの吐出工程において吐出ヘッド2のノズル面21aに付着して粘度が増加した機能液を除去する。
本実施形態のクリーニング工程では、ノズル面21aに新たな機能液Lを供給する機能液供給工程と、機能液供給工程の終了後にノズル面21aの機能液Lをワイパーによって拭き取るワイピング工程とを有している。また、機能液供給工程は、機能液Lの液滴を飛散させる液滴飛散工程と、ノズル面21aに付着した機能液Lの液滴を成長させる液滴成長工程と、を有している。
以下、図5〜図8を用いて本実施形態の吐出ヘッド2のクリーニング工程について詳しく説明する。
【0034】
図5は、機能液供給工程の液滴飛散工程においてピエゾ素子26に印加する電圧波形である。
制御装置7は、クリーニング工程において、まず、機能液供給工程に含まれる液滴飛散工程を実行する。制御装置7は各々のピエゾ素子26に、図5に示すように、液滴吐出時の吐出波形Wと同様の台形波を飛散波形(駆動波形)W1として印加する。飛散波形W1は、電圧上昇部W1aと、定電圧部W1bと、電圧下降部W1cと、により形成されている。
【0035】
ここで、飛散波形W1における電圧上昇部W1aの幅T1aは約4.5μsecであり、定電圧部W1bの幅T1bは約3.0μsecであり、電圧下降部W1cの幅T1cは約3.2μsecである。したがって、飛散波形W1の幅T1は、約10.7μsecである。本実施形態では、飛散波形W1の各部の幅T1a〜T1cは、吐出波形Wの台形波の各部の幅と等しくなっている。
【0036】
また、制御装置7は、吐出波形Wの定電圧部Wbの電圧をVとしたときに、飛散波形W1の定電圧部W1bの電圧V1が、0.4V≦V1≦0.7Vを満たすように定電圧部W1bの電圧V1を決定する。本実施形態では、吐出波形Wの定電圧部Wbの電圧Vは、例えば約27V程度であり、飛散波形W1の定電圧部の電圧V1は吐出波形Wの定電圧部Wbの電圧Vの約60%である。なお、Vの値は吐出ヘッド毎に異なり、約24V〜約34V程度である。
【0037】
制御装置7は、液滴飛散工程において、図5に示す飛散波形W1をピエゾ素子26に約10KHzの周波数で約10秒間印加する。このような飛散波形W1が図3に示すピエゾ素子26に印加されると、液滴Dの吐出時と同様に、振動板24が振動し、キャビティー23aの容積が変化し、キャビティー23a内の圧力変化が生じる。
しかし、飛散波形W1は吐出波形Wの振幅の約40%〜約70%であることから、振動板24の振幅が液滴吐出工程における液滴Dの吐出時よりも小さくなる。そのため、キャビティー23a内の圧力変化も小さくなり、ノズル21bから機能液Lを押し出す力も弱くなる。
【0038】
図6(a)及び図6(b)は、ノズル面21a近傍の拡大側面図である。
ノズル21bから機能液Lを押し出す力が弱くなると、図6(a)に示すように、機能液Lの液滴dの吐出方向が不安定になり、液滴吐出工程における液滴D(図3参照)の吐出方向に対して斜め方向や横方向に飛散する(液滴飛散工程)。斜め方向や横方向に飛散した機能液の液滴dは、図6(b)に示すように、ノズル面21aに付着して、ノズル面21aの一部に機能液Lが供給される。
【0039】
機能液Lの液滴dの一部はノズル面21aに付着せず、基板P側に飛散する。そのため、液滴飛散工程においては、ノズル面21aの近傍に、例えばキャップ等(図示略)を配置して、基板P側に飛散する液滴dを受け止めるようにする。
【0040】
図7は、機能液供給工程の液滴成長工程において、ピエゾ素子26に印加する電圧波形である。
液滴飛散工程の終了後、制御装置7は、図7に示すように、各々のピエゾ素子26に、機能液の固化防止用の微振動波形wと同様の台形波である供給波形(駆動波形)W2を印加する。供給波形W2は、吐出波形W及び飛散波形W1と同様に、電圧上昇部W2aと、定電圧部W2bと、電圧下降部W2cと、により形成されている。
【0041】
ここで、供給波形W2における電圧上昇部W2aの幅T2aは約7.0μsecであり、定電圧部W2bの幅T2bは約2.0μsecであり、電圧下降部W2cの幅T2cは約7.0μsecである。したがって、供給波形W2の幅T2は、約16μsecである。本実施形態では、供給波形W2の各部の幅T2a〜T2cは、微振動波形wの台形波の各部の幅と等しくなっている。
【0042】
また、制御装置7は、吐出波形Wの定電圧部Wb及び微振動波形wの定電圧部wbの電圧をVとしたときに、供給波形W2の定電圧部W2bの電圧V2が、0.7V≦V2≦Vを満たすように定電圧部W2bの電圧V2を決定する。本実施形態では、吐出波形Wの定電圧部Wb及び微振動波形wの定電圧部wbの電圧Vは、例えば約27V程度であり、供給波形W2の定電圧部W2bの電圧V2は吐出波形Wの定電圧部Wb及び微振動波形wの定電圧部wbの電圧Vの約85%である。なお、電圧Vの値は吐出ヘッド毎に異なり、例えば約24V〜約34V程度である。
【0043】
制御装置7は、液滴成長工程において、図7に示す2つの供給波形W2,W2をピエゾ素子26に約13.7KHzの周波数で約10秒間印加する。2つの供給波形W2,W2の間隔Tsは約9μsecである。このような供給波形W2が図3に示すピエゾ素子26に印加されると、液滴Dの吐出時と同様に、振動板24が振動し、キャビティー23aの容積が変化し、キャビティー23a内の圧力に変化が生じる。
【0044】
供給波形W2はノズル21bから液滴を吐出させない微振動波形wの振幅の約70%〜約100%であることから、供給波形W2による振動板24の振幅は、微振動波形wによる振幅と等しいかそれよりも小さくなる。しかし、2つの供給波形W2,W2を所定の間隔(幅Ts)でピエゾ素子26に印加することで、振動板24によってキャビティー23a内の圧力が連続的に変化させられる。これにより、機能液Lがノズル21bからノズル面21aへ染み出すように排出される。
【0045】
図8(a)〜図8(c)は、液滴成長工程における機能液Lの状態を説明するノズル面21aの拡大平面図である。
液滴飛散工程の終了後、ノズル面21aには、図6(b)及び図8(a)に示すように、部分的に機能液Lが配置された状態となっている。この状態で、ピエゾ素子26に上記のように供給波形W2を印加することで、機能液Lがノズル21bから染み出すように供給される。これにより、図8(b)に示すように、ノズル面21aに付着した機能液Lの液滴が成長し、徐々に拡大していく。そして、液滴成長工程の終了時には、図8(c)に示すように、ノズル面21aの全面に機能液Lが配置された状態となる。
以上により、機能液供給工程が終了する。
【0046】
機能液供給工程により新たにノズル面21aに供給された機能液Lは、通常の液滴吐出工程においてノズル面21aに付着して粘度が増加した機能液を低粘度化させる。
制御装置7は、機能液供給工程の終了後、ワイパー等により、低粘度化したノズル面21aの機能液Lを拭き取って除去する(ワイピング工程)。
以上により、本実施形態のクリーニング工程が終了する。
【0047】
本実施形態の吐出ヘッド2のクリーング方法によれば、通常の液滴Dの吐出に用いるピエゾ素子26を用いてノズル面21aに機能液Lを供給することができる。そのため、ノズル面21aに機能液Lを供給するためにサブタンク内の圧力を上昇させる必要が無い。
また、ピエゾ素子26に印加する駆動波形を制御することで、機能液Lをノズル21bによって飛散させ、ノズル面21aに付着させることができる。また、機能液Lをノズル21bから徐々に染み出させるようにして、ノズル面21aに濡れ拡がらせることができる。
【0048】
これにより、従来の方法と比較して、ノズル面21aに供給する機能液Lの供給量を微調整することが可能になる。したがって、従来のキャップによる吸引を省略してクリーニング時間を短縮し、生産性を向上させることができだけでなく、ノズル面21aに供給する機能液Lの供給量を微調整することで、従来よりも機能液Lの消費量を減少させ、製造コストを低減することができる。
【0049】
また、液滴飛散工程では、ピエゾ素子26の駆動波形を制御することで、機能液Lの液滴dをノズル面21aに飛散させ、通常の液滴Dの吐出時よりもノズル面21aにより多く液滴dを短時間に付着させることができる。更に、液滴成長工程ではノズル21bから徐々に染み出させた機能液Lを、ノズル面21aに付着させた機能液Lの液滴に供給して成長させることができる。
【0050】
すなわち、液滴成長工程では、ノズル面21aに付着した機能液Lの液滴を利用して、より短時間にノズル面21aの全面に機能液Lを行き渡らせることができる。したがって、ノズル21bから機能液Lを染み出させる方法のみにより機能液Lを供給する場合よりも、ノズル面21aに機能液Lを効率よく供給することが可能になる。したがって、機能液供給工程の処理時間を短縮し、クリーニング工程全体を短縮することが可能になる。
【0051】
また、液滴飛散工程では、ピエゾ素子26によって機能液Lをノズル21bから押し出す力が、通常の液滴吐出工程において液滴Dを吐出する場合よりも弱くなる。そのため、通常の吐出時の液滴Dの飛散方向と異なる様々な方向に液滴dが飛散する。飛散した機能液Lの一部はノズル面21aに付着する。これを繰り返すことで、ノズル面21aに機能液Lを迅速に供給することができる。
【0052】
また、液滴飛散工程では、飛散波形W1の各部の幅T1a〜T1cを上記のように設定することで、ピエゾ素子26によって機能液Lをノズル21bからより効率よく押し出しすことができる。これにより、機能液Lをノズル21bの近傍に飛散させ、機能液Lをノズル面21aにより効率よく供給することができる。
また、ピエゾ素子26に飛散波形W1を10KHzの周波数で約10秒間印加することで、ピエゾ素子26により振動板24をおよそ10万回程度振動させ、ノズル面21aに十分な機能液Lを供給することができる。
【0053】
また、液滴成長工程では、ピエゾ素子26の駆動波形を機能液Lの固化を防止する通常の微振動波形wの振幅以下の振幅として制御する。これにより、ノズル21bから機能液Lの液滴を吐出させることなく、ノズル21bから機能L液をノズル面21aに染み出させ、機能液Lをノズル面21aに濡れ広がらせることができる。
【0054】
また、液滴成長工程では、供給波形W2の各部の幅T2a〜T2cを上記のように設定することで、機能液Lをより効率よくノズル21bから染み出させることができる。したがって、機能液Lをノズル面21aにより効率よく濡れ広がらせ、機能液Lをノズル面21aにより効率よく供給することができる。
また、ピエゾ素子26に2つの供給波形W2,W2を13.7KHzの周波数で約10秒間印加することで、ピエゾ素子26により振動板24およそ10万回程度振動させ、ノズル面21aに十分な機能液Lを供給することができる。
【0055】
以上説明したように、本実施形態の吐出ヘッド2のクリーニング方法によれば、特別な機構を設けることなくキャップによる吸引工程を省略し、微少量の機能液Lで迅速にクリーングを行うことができる。したがって、生産性の向上と製造コストを低減を実現することができる。
【0056】
尚、本発明は上述した実施の形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。例えば、機能液供給工程では、ピエゾ素子の駆動波形を吐出波形の振幅の40%以上かつ70%以下とする液滴飛散工程のみを行ってもよい。また、ピエゾ素子の駆動波形を微振動波形の振幅の70%以上かつ100%以下とする液滴成長工程のみを行ってもよい。
【0057】
また、ピエゾ素子の駆動波形の振幅及び各部の幅は特に限定されない。駆動波形は、例えば図9に示すような矩形波を用いることもできる。この場合には、矩形波の波長λを例えば100μsecとし、10Hz程度の周波数でピエゾ素子に印加することができる。また、振幅V3は微振動波形の振幅の70%〜100%程度に設定することができる。
また、クリーニング工程における駆動波形の振幅は、吐出波形、あるいは液滴の吐出が行われる限界(吐出限界)の振幅に応じて適宜調整することができる。
【符号の説明】
【0058】
2 吐出ヘッド、21a ノズル面、21b ノズル、26 ピエゾ素子(駆動素子)、D 液滴、L 機能液、W 吐出波形、w 微振動波形、W1 飛散波形(駆動波形)、W1a 電圧上昇部、W1b 定電圧部、W1c 電圧下降部、W2 供給波形(駆動波形)、W2a 電圧上昇部、W2b 定電圧部、W2c 電圧下降部、T1a,T1b,T1c,T2a,T2b,T2c 幅、V,v,V1,V2 電圧(振幅)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノズルが設けられたノズル面と、前記ノズルの各々に対応して設けられた駆動素子とを有し、前記ノズルの各々から機能液の液滴を吐出する液滴吐出ヘッドのクリーニング方法であって、
前記駆動素子に印加する駆動波形を制御して前記ノズルから前記ノズル面に前記機能液を供給する機能液供給工程と、
前記機能液供給工程の終了後、前記ノズル面をワイピングするワイピング工程と、
を有することを特徴とする液滴吐出ヘッドのクリーニング方法。
【請求項2】
前記機能液供給工程では、前記ノズル面に前記機能液を飛散させて付着させる液滴飛散工程と、前記液滴飛散工程において前記ノズル面に付着させた前記機能液を成長させる液滴成長工程と、を有することを特徴とする請求項1記載の液滴吐出ヘッドのクリーニング方法。
【請求項3】
前記機能液供給工程では、前記駆動波形の振幅を前記機能液の液滴吐出時に印加する吐出波形の振幅の40%以上かつ70%以下とすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の液滴吐出ヘッドのクリーニング方法。
【請求項4】
前記駆動波形は、電圧上昇部と定電圧部と電圧下降部とからなる台形波であり、
前記電圧上昇部の幅は4.5μ秒、前記定電圧部の幅は3.0μ秒、前記電圧下降部の幅は3.2μ秒であることを特徴とする請求項3に記載の液滴吐出ヘッドのクリーニング方法。
【請求項5】
前記機能液供給工程では、前記駆動波形の振幅を前記吐出ヘッドに印加する微振動波形の振幅の70%以上かつ100%以下とすることを特徴とする請求項1ないし請求項4に記載の液滴吐出ヘッドのクリーニング方法。
【請求項6】
前記駆動波形は、電圧上昇部と定電圧部と電圧下降部とからなる台形波であり、
前記電圧上昇部の時間幅は7.0μ秒、前記定電圧部の幅は2.0μ秒、前記電圧下降部の幅は7.0μ秒であることを特徴とする請求項5に記載の液滴吐出ヘッドのクリーニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−188596(P2010−188596A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−34899(P2009−34899)
【出願日】平成21年2月18日(2009.2.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】