説明

液滴吐出方法、電気光学装置の製造方法及び電子機器

【課題】 膜厚にムラを生じさせることなく描画対象領域に合わせて適量の液滴を着弾させ、高精度かつ高品質な描画を行う。
【解決手段】 基板上の画素Gを形成する描画対象領域A内に、吐出ヘッドを走査させながら一定の吐出間隔にて液滴を吐出させる際に、描画対象領域Aを取り囲むバンクに沿う外周側を除いた中央側に、描画対象領域A内に液滴を吐出させない非吐出箇所Nを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴吐出方法、電気光学装置の製造方法及び電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェットヘッドなどから液滴を基板上に吐出して、その基板に薄膜を形成する液滴吐出方式による電気光学装置の製造が考え出されている。電気光学装置としては、液晶装置、有機エレクトロルミネッセンス装置(以下有機EL(Electronic Luminescent)装置という)、プラズマディスプレイ装置などの表示装置がある。
また、近年では、このような電気光学装置をなす基板が大型化されており、かかる大型基板について液滴吐出方式により高精細及び高精度に薄膜を描画(パターニング)することが要求されている。
このような液滴吐出方式としては、吐出ヘッドの1回の吐出あたりのインク量に応じて、理論上のインクの吐出位置を調整することにより、各描画対象領域に吐出するインクの量を一定にするものが知られている。
【特許文献1】特許第3332812号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記の液滴吐出方式は、描画対象領域におけるインクの吐出量を一定にすることだけを考慮したもので、この描画対象領域におけるインクの着弾位置については考慮されていない。
したがって、この吐出方式では、描画対象領域に対するインクの着弾位置に偏りが生じたり、あるいは描画対象領域に吐出したインクの膜厚に僅かなムラが生じたり、品質低下を招くおそれがあった。
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、膜厚にムラを生じさせることなく描画対象領域に合わせて適量の液滴を着弾させ、高精度かつ高品質な描画を行うことが可能な液滴吐出方法、電気光学装置の製造方法及び電子機器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る液滴吐出方法、電気光学装置の製造方法及び電子機器では、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
第1の発明は、液滴吐出方法は、基板上のバンクで取り囲まれた描画対象領域に、吐出ヘッドを走査させながら一定の吐出間隔にて液滴を吐出させる際に、描画対象領域のバンク沿い以外の描画対象領域に液滴を吐出させない非吐出箇所を設けることを特徴とする。
本発明によれば、液滴を吐出させない非吐出箇所を、描画対象領域を形成するバンクに沿う外周側を除いた中央側に配置するので、バンクに沿って表面に僅かな窪みを有するうねりを生じさせるようなことなく、適量の液を満遍なく描画対象領域内に塗布し、しかも、膜厚を均一化させることができる。つまり、膜厚にムラを生じさせることなく描画対象領域に合わせて適量の液滴を着弾させ、高精度かつ高品質な描画を行うことができる。
【0006】
例えば、描画対象領域は矩形であり、少なくとも描画対象領域の長辺方向のバンク沿い以外の描画対象領域に非吐出箇所を設けることにより、膜厚の均一化を良好に図ることができる。
また、非吐出箇所を分散させて配置することにより、バンクに沿う外周側を除いた中央側にて非吐出箇所を分散させて配置するので、膜厚のさらなる均一化を図ることができる。
また、非吐出箇所を描画対象領域の長辺方向に平行、且つ、描画対象領域の長辺方向のバンク沿い以外の描画対象領域に配置することにより、膜厚の均一化を良好に図ることができる。
また、基板上のバンクで取り囲まれた描画対象領域に、吐出ヘッドを走査させながら一定の吐出間隔にて液滴を吐出させる際に、描画対象領域のバンク沿い以外の描画対象領域に他とは異なる液滴量の吐出箇所を設けることにより、膜厚の均一化を良好に図ることができる。
また、描画対象領域は矩形であり、少なくとも描画対象領域の長辺方向のバンク沿い以外の描画対象領域に他とは異なる液滴量の吐出箇所を設けることにより、膜厚の均一化を良好に図ることができる。
また、他とは異なる液滴量の吐出箇所を分散させて配置することを特徴とするものでは、異なる液滴量の領域を設けることにより、膜厚の均一化を良好に図ることができる。
また、他とは異なる液滴量の吐出箇所を描画対象領域の長辺方向に平行、且つ、描画対象領域の長辺方向のバンク沿い以外の描画対象領域に配置することにより、膜厚の均一化を良好に図ることができる。
【0007】
第2の発明は、電気光学装置の製造方法は、前記液滴吐出方法によって製造することを特徴とする。
本発明によれば、前記液滴吐出方法によって基板に高精度に描画パターンを形成して、有機EL装置、プラズマディスプレイ装置、液晶装置などの電気光学装置を製造することができる。したがって、本発明によれば、大きな画面の全体について、高精細で高品質な画像を表示することができる電気光学装置を安価に提供することができる。例えば、有機EL装置の構成要素となる発光材料および正孔輸送材料などを高精細な画素パターンをなすように塗布することができる。
【0008】
第3の発明は、電子機器は、前記電気光学装置の製造方法によって製造された電気光学装置を備えたことを特徴とする。
本発明によれば、高精細で高品質な画像を表示できる電子機器を安価に提供することができる。特に本発明は、高品位な画像を表示できる電子機器を安価に提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の液滴吐出方法、電気光学装置の製造方法及び電子機器の実施形態について図を参照して説明する。
【0010】
(液滴吐出装置)
図1は液滴吐出装置の構成を示す斜視図である。
この液滴吐出装置は、本発明の実施形態に係る液滴吐出方法を用いて液滴を吐出するものである。液滴吐出装置1は、制御装置2と、吐出ヘッド群3と、ステージ4と、を主な構成要素として備えている。液滴吐出装置1は、制御装置2が吐出ヘッド群3及びステージ4の動作を制御することによって、ステージ4に載置された基板5に液滴を吐出し、当該基板5上に所定のパターンを形成するものである。
【0011】
そして、制御装置2は、本発明に係る制御手段をなすものであり、本発明に係る液滴吐出方法を用いて吐出ヘッド群3を制御して、液滴を吐出するタイミングを制御するものである。また、吐出ヘッド群3にはカメラ3bが固着されている。このカメラ3bは、ステージ4に載置される基板5のアライメントに用いられる位置補正用のカメラであり、その基板5に設けられたアライメントマークについて認識することができる。なお、以下の説明においては、吐出ヘッド群3の配置方向をX方向とし、また、基板5の搬送方向をY方向とし、また、XY平面内における面内回転方向をθ方向とする。
【0012】
吐出ヘッド群3は、1列に配列した複数の吐出ヘッド3aから構成されており、基台6から立設する支柱7、7間にステージ4を跨ぐようにX方向に架設されたX方向軸8に移動可能に設けられている。吐出ヘッド群3に固着されているカメラ3bは吐出ヘッド群3とともに移動する。当該吐出ヘッド群3を構成する各吐出ヘッド3aには、液滴を吐出するノズルが基板5に向かって多数穿設されている(例えば、180個のノズルが一列に穿設されている。)。
【0013】
吐出ヘッド3aは、液滴を貯留するキャビティと、当該キャビティに連通するノズルと、当該キャビティ内に貯留された液状体をノズルから液滴として吐出する液滴吐出手段とを有した構成となっている。ここで、液滴吐出手段とは、圧電素子(ピエゾ素子)を意味しており、吐出ヘッド3aの壁面に設けられている。このように構成された吐出ヘッド3aにおいては、圧電素子に所望の電圧波形を供給することによって、吐出ヘッド3aの壁面が変形し、キャビティ内の容積が変化し、ノズルから所定量の液滴が吐出される。ここで、圧電素子に供給される電圧波形は、後述する液滴吐出データに基づいて生成されるものである。
【0014】
なお、吐出ヘッド3aの液滴吐出手段としては、上記の圧電素子を用いた電気機械変換体以外でもよく、例えば、エネルギ発生素子として電気熱変換体を用いた方式や、帯電制御型、加圧振動型といった連続方式、静電吸引方式さらにはレーザーなどの電磁波を照射して発熱させ、この発熱による作用で液状体を吐出させる方式を採用することもできる。
【0015】
また、上記の吐出ヘッド群3は、1列に配列した複数の吐出ヘッド3aから構成されたものであるが、これに限定されるものではない。例えば、各吐出ヘッド3aのノズルの穿設間隔(ピッチ)に対して、X方向に1/2ピッチずらした吐出ヘッド3aを2列配置してもよい。このように吐出ヘッド3aを多数配列した場合には、ノズルの穿設間隔よりも小さい間隔で液滴の吐出が可能となる。また、吐出ヘッド3aをX方向に対して所定の角度で傾かせて配置してもよい。この場合でも、ノズルの穿設間隔よりも小さい間隔で液滴の吐出が可能となる。
【0016】
ステージ4は、基板5を位置決めして載置するピン(図示せず)などを備える載置部4aと、当該載置部4aをXY平面上で面内回転可能に連結されたベース部4bとによって構成されたものである。また、ベース部4bには、エンコーダ4cが設けられている。このエンコーダ4cは、基台6のY方向に沿って設けられたリニアスケール15のスケールを読み取るものであって、これによってY方向のステージ4の位置を検出することが可能となる。リニアスケール15のスケールは、メートル系単位で設けられていても、DPI系単位で設けられていてもよい。
【0017】
さらに、ステージ4は、X方向と直交するように敷設してあるY方向軸9に沿って移動可能に構成されている。ステージ4をY方向に移動させる搬送機構としては、Y方向軸9上に配列した永久磁石10と、ステージ4のベース部4bの下側に固設したプレート11にY方向に沿って、かつ、永久磁石10に近接させて配列した複数のコイル(図示せず)とから構成されるリニアモータがあげられる。
【0018】
基板5は、本実施形態でパターンが形成される対象物である。基板5の材料としてはガラスなどの透明基板が用いられるが、透明性を要求しない場合には金属板などを採用してもよい。また、当該基板5のサイズは、縦横がそれぞれ1mを超えるものとしてもよい。
また、基板5上に形成されるパターンとしては、RGB色を有するカラーフィルターによって形成される画素パターンや、TFT回路を形成する場合の金属配線等が挙げられる。
例えば、基板5によって有機EL装置を構成する場合、発光材料又は正孔輸送材料などからなる画素パターンを本液滴吐出装置1で形成することとしてもよい。
【0019】
制御装置2は、上述の液滴吐出装置1の各構成要素に電気的に接続されたものであり、CPU(Central Processing Unit)、ROM、RAM、入出力用のインターフェース、発振回路等がバス接続された所謂コンピュータである。このような制御装置2は、予め入力されたプログラムに応じて液滴吐出装置1を統括して制御するようになっている。
【0020】
次に、制御装置2の詳細な構成について図2を参照して説明する。図2は、制御装置2の機能を説明するためのブロック図である。
制御装置2は、液滴吐出データ設定値入力部(第1の入力手段)20と、吐出ヘッド設定値入力部(第2の入力手段)22と、CADデータ操作部(CADデータ作成手段)24と、ビットマップデータ作成部(ビットマップデータ作成手段)26と、ビットマップ処理部28と、液滴吐出データ作成部(作成手段)30と、液滴吐出データ転送部(転送手段)32と、スイッチ群34と、ヘッド駆動部38と、ヘッド駆動制御部40と、ヘッド位置検出部42と、液滴吐出タイミング制御部44と、を有している。ここで、液滴吐出タイミング制御部44は、液滴を吐出するタイミングについての変更を行うものである。
【0021】
液滴吐出データ設定値入力部20は、基板5の寸法と、基板5を複数のチップ(領域)として切り出すためのチップの寸法と、隣接するチップのピッチ(相互間隔)と、画素(パターン)の配列と、画素の個数と、画素の寸法(画素の縦、横のサイズ)と、隣接する画素のピッチ(相互間隔)と、を設定する機能を有している。吐出ヘッド設定値入力部22は、画素を形成するために必要な液滴量と、画素を形成するために必要な吐出ヘッド群3と基板5とのパス数(相対移動動作の回数)と、使用する上記の吐出ヘッド群3の吐出ヘッド3aの個数、及び吐出ヘッド3aの配置を設定する機能を有している。
【0022】
CADデータ操作部24は、基板5に形成すべきパターンの設計図となるCADデータを生成する機能を有し、図形情報(ベクトルデータ、図形の属性等のデータ)を入力するための入力手段と、図形処理機能を有するワークステーション等から構成されている。ここでCADデータは、DPI系の単位で生成してもよく、メートル系の単位で生成してもよい。
ビットマップデータ作成部26は、CADデータから要求される分解能のビットマップデータに変換する機能を有している。また、ビットマップ処理部28は、ビットマップデータ作成部26により作成されたビットマップデータを吐出ヘッド3aの個数、配置、あるいは液滴の基板5への着弾径を考慮した回路パターンの細線化の要求に応じて変更する処理を行う。
【0023】
液滴吐出データ作成部30は、所望のパターンサイズとなるように液滴が着弾した際の着弾径を考慮し、液滴吐出データ(バイナリの時系列データ)を作成するものである。ここで、当該液滴吐出データは、吐出ヘッド群3の各ノズルに対応して設けられた各液滴吐出手段の数に対応するドット数の記録データを含んでいる。
【0024】
液滴吐出データ転送部32は、液滴吐出データ作成部30から出力される液滴吐出データを吐出ヘッド群3の液滴吐出手段に転送する機能を有する。スイッチ群34は、液滴吐出データ転送部32と吐出ヘッド群3との間に設けられ、吐出ヘッド群3に含まれる複数の各駆動部に1対1に対応して接続され、液滴吐出データ転送部32から転送される記録データによりオン、オフ状態に設定される複数のスイッチから構成されている。
ヘッド駆動部38は、吐出ヘッド群3と一体化しており、例えばリニアモータであり、吐出ヘッド群3を基板5の搬送方向と直交する方向に移動させる。ヘッド駆動制御部40は、ヘッド駆動部38を図示してないシステムの上位コントローラの指示に基づいてヘッド駆動部38を駆動制御する。
【0025】
ヘッド位置検出部42は、基板5が固定されるステージ4の位置の変位量、即ち、基板5上における吐出ヘッド群3の相対位置を検出する機能を有するものである。当該ヘッド位置検出部42は、上記のエンコーダ4cに相当するものである。液滴吐出タイミング制御部44は、ヘッド位置検出部42の検出出力に基づいて、各吐出ヘッド3aの圧電素子に印加する電圧波形の発生タイミングを規定するラッチ信号(LAT信号)を生成して出力するものである。このラッチ信号はスイッチ群34に送られる。そこで、スイッチ群34の各スイッチは、液滴吐出データ転送部32から送られてきた液滴吐出データとラッチ信号とによりオン/オフ状態が制御され、その各スイッチにより各吐出ヘッド3aの圧電素子の駆動タイミングが制御され、各吐出ヘッド3aの液滴吐出タイミングが制御される。
【0026】
次に、本実施形態の液滴吐出装置1によって液滴を吐出させる液滴吐出方法について説明する。この液滴の吐出は、液滴吐出装置1における液滴吐出制御部44において主に実行される。
図3及び図5は、それぞれ本発明の実施形態に係る液滴吐出方法を適用しない場合の吐出状態を説明するマップの模式平面図である。図4及び図6は、それぞれ本発明の実施形態に係る液滴吐出方法を適用した場合の吐出状態を説明するマップの模式平面図である。
【0027】
液滴吐出装置1は、基板に形成する描画対象である画素Gに対して一方向へ走査しながら所定の吐出間隔毎の吐出タイミングにて液滴を吐出する。これにより、画素Gを形成するバンク(不図示、図7参照)で囲われた描画対象領域Aに、ビットマップデータに基づいて液滴が着弾される。
【0028】
ここで、吐出ノズル3aは、1回の吐出あたりの液滴量が決まっている。このため、全ての吐出タイミングにて液滴を吐出させて、図3(a)に示すように、画素G内全体に着弾させると液滴量が多すぎる、或いは足りないことがある。例えば、液量が多い場合は、所定の吐出タイミングにて一滴当たりの液滴の吐出量を調整し減らす、或いは液滴を非吐出状態とし、画素G内における液滴の着弾を間引き、描画対象領域A内における液滴量を調整する必要がある。
【0029】
液滴を非吐出状態とし着弾を間引く場合、図3(b)に示すように、液滴を吐出しない非吐出箇所Nを、描画対象領域Aの片側に偏らせると、その部分における液滴量が少なくなり、膜厚にも偏りが生じてしまう。
また、図3(c)に示すように、非吐出箇所Nを、描画対象領域Aを形成するバンクに沿って分散させれば、適量の液滴が分散されるが、この場合、バンクに沿って液滴着弾後に形成される膜表面に僅かな窪みを有するうねりが生じてしまう。
【0030】
このため、本発明の液滴吐出方法では、図4(a)に示すように、描画対象領域A内における非吐出箇所Nを、バンクに沿う外周側を除いた中央側に設けたビットマップデータを作成する。このとき、非吐出箇所Nが複数存在する場合、分散させて配置する方が好ましい。これにより、描画対象領域Aでは、非吐出箇所Nがバンクに沿う外周側を除いた中央側にて分散され、適量の液滴が満遍なく描画対象領域A内に塗布され、膜厚が均一な画素Gが形成される。
また、図4(b)に示すように、描画描画対象領域Aのバンク沿い外周側の少なくとも長辺方向沿いを除いた中央側に非吐出箇所Nを設けてビットマップデータを作成する。このとき、描画対象領域Aのバンク沿い外周側の短編方向には非吐出箇所Nを設ける場合もあり、描画対象領域A内のマトリクス状に配置される吐出箇所(ビットマップデータ作成部)の内、中央側のバンクの長辺方向と略平行な1列あるいは複数列を全て非吐出箇所Nとすることもできる。これによれば、液滴着弾後に形成される膜表面のうねりが生じ難く、ビットマップデータの作成や液滴の吐出制御が複雑ではないため容易である。
【0031】
なお、液滴着弾後に形成される膜表面にうねりが生じる現象は、描画対象領域Aが平面視矩形状である場合に限らず、図5に示すような外形の場合も、非吐出箇所Nをバンクに沿って配置したときにも生じる。
そして、この場合も、図6に示すように、非吐出箇所Nを、バンクに沿う外周側を除いた中央側にて分散させることにより、液滴着弾後に形成される膜の膜厚の均一化が図られる。
【0032】
このように、本実施形態によれば、液滴を吐出させない非吐出箇所Nを、描画対象領域Aを形成するバンクに沿う外周側を除いた中央側に配置するので、バンクに沿って液滴着弾後に形成される膜表面に僅かな窪みを有するうねりを生じさせるようなことなく、適量の液滴を満遍なく描画対象領域A内に塗布し、しかも、膜厚を均一化させることができる。
【0033】
つまり、膜厚にムラを生じさせることなく描画対象領域Aに合わせて適量の液滴を画素Gに着弾させ、高精度かつ高品質な描画を行うことができる。
また、バンクに沿う外周側を除いた中央側にて非吐出箇所Nを分散させて配置するので、膜厚のさらなる均一化を図ることができる。
なお、描画対象領域A内における液滴量を調整する方法として非吐出個所Nを設けることを説明したが、非吐出箇所Nの場所に他の吐出箇所よりも少ない量の液滴を付与することによって描画対象領域A内の液量調整を行うことも可能である(異吐出量箇所M)。これによれば、液滴を付与しない場合よりも描画対象領域A内に形成される膜表面のうねりが生じなくなる。
さらに、描画対象領域A内の液量が少ない場合には、今まで説明してきた非吐出箇所Nの場所に対して他の吐出箇所よりも多い量の液滴を付与する(異吐出量箇所M)ことで描画対象領域A内の液量調整を行うこともでき、液滴を吐出をしない、少ない量の液滴を吐出する、多い量の液滴を吐出する、をそれぞれ組み合わせることで液量調整を行うことも可能である。
【0034】
(電気光学装置)
次に、上記実施形態の液滴吐出装置1を用いて製造される電気光学装置の一例について図7から図9を参照して説明する。本実施形態では、電気光学装置の一例として有機EL装置を挙げて説明する。
図7は、本発明の実施形態に係る有機EL装置の製造工程を示す主要断面図である。
【0035】
図7(d)に示すように、有機EL装置201は、透明基板204上に画素電極202を形成し、各画素電極202間にバンク205を矢印G方向から見て格子状に形成する。
それらの描画対象領域Aである格子状凹部の中に、正孔注入層220を形成し、矢印G方向から見てストライプ配列などといった所定の配列となるようにR色発光層203R、G色発光層203GおよびB色発光層203Bを各格子状凹部の中に形成する。さらに、それらの上に対向電極213を形成することによって有機EL装置201が形成される。
【0036】
上記画素電極202をTFD(Thin Film Diode:薄膜ダイオード)素子などといった2端子型のアクティブ素子によって駆動する場合には、上記対向電極213は矢印G方向から見てストライプ状に形成される。また、画素電極202をTFT(Thin Film Transistor:薄膜トランジスタ)などといった3端子型のアクティブ素子によって駆動する場合には、上記対向電極213は単一な面電極として形成される。
【0037】
各画素電極202と各対向電極213とによって挟まれる領域が1つの絵素ピクセルとなり、R、G、B3色の絵素ピクセルが1つのユニットとなって1つの画素を形成する。
各絵素ピクセルを流れる電流を制御することにより、複数の絵素ピクセルにおける希望するものを選択的に発光させ、これにより、矢印H方向に希望するフルカラー像を表示することができる。
【0038】
上記有機EL装置201は、例えば、次に示す製造方法によって製造される。すなわち図7(a)のように、透明基板204の表面にTFD素子又はTFT素子といった能動素子を形成し、さらに画素電極202を形成する。形成方法としては、例えばフォトリソグラフィー法、真空蒸着法、スパッタリング法、パイロゾル法などを用いることができる。
画素電極202の材料としてはITO(Indium-Tin Oxide)、酸化スズ、酸化インジウムと酸化亜鉛との複合酸化物などを用いることができる。
【0039】
次に、図7(a)に示すように、隔壁すなわちバンク205を周知のパターンニング手法、例えばフォトリソグラフィー法を用いて形成し、このバンク205によって各透明な画素電極202の間を埋める。これにより、コントラストの向上、発光材料の混色の防止、画素と画素との間からの光漏れなどを防止することができる。バンク205の材料としては、EL発光材料の溶媒に対して耐久性を有するものであれば特に限定されないが、フロロカーボンガスプラズマ処理によりテフロン(登録商標)化できること、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、感光性ポリイミドなどといった有機材料が好ましい。
【0040】
次に、機能性液状体としての正孔注入層用材料を塗布する直前に、透明基板204に酸素ガスとフロロカーボンガスプラズマの連続プラズマ処理を行う。これにより、ポリイミド表面は撥水化され、ITO表面は親水化され、液滴を微細にパターニングするための基板側の濡れ性の制御ができる。プラズマを発生する装置としては、真空中でプラズマを発生する装置でも、大気中でプラズマを発生する装置でも同様に用いることができる。
【0041】
次に、図7(a)に示すように、正孔注入層用材料の液滴258を図1に示す液滴吐出装置1の吐出ヘッド3aから吐出し、各画素電極202の上にパターニング塗布を行う。この液滴258の吐出は、本発明に係る液滴吐出方法にて行われる。したがって、液滴258は、バンク205で囲まれた所望の描画対象領域である吐出領域すなわち各フィルタエレメント形成領域内に正確に着弾し、均一な膜厚にてムラなく塗布される。その塗布後、真空(1torr)中、室温、20分という条件で溶媒を除去する。この後、大気中、200℃(ホットプレート上)、10分の熱処理により、発光層用材料と相溶しない正孔注入層220を形成する。上記条件では、膜厚は40nmであった。
【0042】
次に、図7(b)に示すように、各フィルタエレメント形成領域内の正孔注入層220の上に、機能性液状体であるEL発光材料としてのR発光層用材料および機能性液状体であるEL発光材料としてのG発光層用材料を塗布する。ここでも、各発光層用材料は、図1に示す液滴吐出装置1の吐出ヘッド3aから液滴258として吐出されて各フィルタエレメント形成領域内に着弾する。そして、この液滴258の吐出も本発明に係る液滴吐出方法で行われるので、各液滴258は各フィルタエレメント形成領域内に正確に着弾し、均一な膜厚にてムラなく塗布される。
【0043】
発光層用材料の塗布後、真空(1torr)中、室温、20分などという条件で溶媒を除去する。続けて、窒素雰囲気中、150℃、4時間の熱処理により共役化させてR色発光層203RおよびG色発光層203Gを形成する。上記条件により、膜厚は50nmであった。熱処理により共役化した発光層は溶媒に不溶である。
【0044】
なお、発光層を形成する前に正孔注入層220に酸素ガスとフロロカーボンガスプラズマの連続プラズマ処理を行ってもよい。これにより、正孔注入層220上にフッ素化物層が形成され、イオン化ポテンシャルが高くなることにより正孔注入効率が増し、発光効率の高い有機EL装置を提供できる。
【0045】
次に、図7(c)に示すように、機能性液状体であるEL発光材料としてのB色発光層203Bを各絵素ピクセル内のR色発光層203R、G色発光層203Gおよび正孔注入層220の上に重ねて形成する。これにより、R、G、Bの3原色を形成するのみならず、R色発光層203RおよびG色発光層203Gとバンク205との段差を埋めて平坦化することができる。これにより、上下電極間のショートを確実に防ぐことができる。B色発光層203Bの膜厚を調整することで、B色発光層203BはR色発光層203RおよびG色発光層203Gとの積層構造において、電子注入輸送層として作用してB色には発光しない。
【0046】
以上のようなB色発光層203Bの形成方法としては、例えば湿式法として一般的なスピンコート法を採用することもできるし、あるいは、R色発光層203RおよびG色発光層203Gの形成法と同様のインクジェット法を採用することもできる。
【0047】
その後、図7(d)に示すように、対向電極213を形成することにより、目標とする有機EL装置201が製造される。対向電極213はそれが面電極である場合には、例えば、Mg、Ag、Al、Liなどを材料として、蒸着法、スパッタ法などといった成膜法を用いて形成できる。また、対向電極213がストライプ状電極である場合には、成膜された電極層をフォトリソグラフィー法などといったパターニング手法を用いて形成できる。
【0048】
以上に説明した有機EL装置201の製造方法によれば、正孔注入層用材料および各発光層用材料について、図1に示す液滴吐出装置1の吐出ヘッド3aから液滴258として吐出されて各フィルタエレメント形成領域内に着弾させることができる。したがって本製造方法によれば、正孔注入層用材料又は各発光層用材料をバンク205内にて均一な膜厚にてムラなく塗布することができ、大きな画面の全体について高精細で高品質な画像を表示できる大画面の有機EL装置201を簡便に製造することができる。
【0049】
また、本実施形態の有機EL装置の製造方法では、液滴吐出装置1を用いることにより、吐出ヘッド3aを用いた液滴吐出によってR、G、Bの各色絵素ピクセルを形成するので、フォトリソグラフィー法を用いる方法のような複雑な工程を経る必要もなく、材料を浪費することもない。
【0050】
次に、本実施形態のEL装置の回路構成について図8および図9を参照して説明する。
図8は、図7に示す製造方法で製造された有機EL装置を構成要素とした表示装置の一部を示す回路図である。図9は、図8に示す表示装置における画素領域の平面構造を示す拡大平面図である。
【0051】
図8において、表示装置501は有機EL装置であるEL表示素子を用いたアクティブマトリックス型の表示装置である。この表示装置501は、透明な表示基板502上に、複数の走査線503と、これら走査線503に対して交差する方向に延びる複数の信号線504と、これら信号線504に並列に延びる複数の共通給電線505とがそれぞれ配線された構成を有している。そして、走査線503と信号線504との各交点には、画素領域501Aが設けられている。
【0052】
信号線504に対しては、シフトレジスタ、レベルシフタ、ビデオライン、アナログスイッチを有したデータ側駆動回路507が設けられている。また、走査線503に対しては、シフトレジスタおよびレベルシフタを有した走査側駆動回路508が設けられている。そして、画素領域501Aのそれぞれには、走査線503を介して走査信号がゲート電極に供給されるスイッチング薄膜トランジスタ509と、このスイッチング薄膜トランジスタ509を介して信号線504から供給される画像信号を蓄積して保持する蓄積容量capと、この蓄積容量capによって保持された画像信号がゲート電極に供給されるカレント薄膜トランジスタ510と、このカレント薄膜トランジスタ510を介して共通給電線505に電気的に接続したときに共通給電線505から駆動電流が流れ込む画素電極511と、この画素電極511および反射電極512間に挟み込まれる発光素子513とが設けられている。
【0053】
この構成により、走査線503が駆動されてスイッチング薄膜トランジスタ509がオンすると、その時の信号線504の電位が蓄積容量capに保持される。この蓄積容量capの状態に応じて、カレント薄膜トランジスタ510のオン・オフ状態が決まる。そして、カレント薄膜トランジスタ510のチャネルを介して、共通給電線505から画素電極511に電流が流れ、さらに発光素子513を通じて反射電極512に電流が流れる。
このことにより、発光素子513は、これを流れる電流量に応じて発光する。
【0054】
ここで、画素領域501Aは、反射電極512および発光素子513を取り除いた状態の表示装置501の拡大平面図である図9に示すように、平面状態が長方形の画素電極511の4辺が、信号線504、共通給電線505、走査線503および図示しない他の画素電極511用の走査線503によって囲まれた配置となっている。
【0055】
このような構成の表示装置501は、上述の有機EL装置の製造方法を用いて製造されているので、比較的安価でありながら、大きな画面の全体について高精細で高品質な画像を表示することができる。
【0056】
(電子機器)
次に、上記実施形態の電気光学装置を備えた電子機器について説明する。図10(a)は、携帯電話の一例を示した斜視図である。
図10(a)において、符号1000は携帯電話本体を示し、符号1001は上記実施形態の電気光学装置からなる表示部を示している。
図10(b)は、腕時計型電子機器の一例を示した斜視図である。図10(b)において、符号1100は時計本体を示し、符号1101は上記実施形態の電気光学装置からなる表示部を示している。
図10(c)は、ワープロ、パソコンなどの携帯型情報処理装置の一例を示した斜視図である。図10(c)において、符号1200は情報処理装置、符号1202はキーボードなどの入力部、符号1204は情報処理装置本体、符号1206は上記実施形態の電気光学装置からなる表示部を示している。
【0057】
図10に示す電子機器は、上記実施形態の電気光学装置を備えているので、表示部を大画面化しても、その表示部において高精細で高品質な画像を表示することができる。
【0058】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能であり、実施形態で挙げた具体的な材料や層構成などはほんの一例に過ぎず、適宜変更が可能である。例えば、上記実施形態では電気光学装置の一例として有機EL装置を挙げているが、本発明はこれに限定されるものではなく、プラズマディスプレイ装置、液晶装置などの各種電気光学装置に本発明を適用でき、カラーフィルターの着色材料の塗布などに本発明を適用することもできる。また本発明に係る液滴吐出装置による形成物は、画素などに限定されるものではなく、配線パターン、電極、各種半導体素子などを、本発明に係る液滴吐出装置を用いて形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の実施形態に係る液滴吐出方法を説明する装置の斜視図である。
【図2】同上の液滴吐出装置における制御装置の機能を示すブロック図である。
【図3】本発明に係る液滴吐出方法を適用しない場合のマップ模式図である。
【図4】本発明に係る液滴吐出方法を適用した場合のマップ模式図である。
【図5】本発明に係る液滴吐出方法を適用しない場合のマップ模式図である。
【図6】本発明に係る液滴吐出方法を適用した場合のマップ模式図である。
【図7】本発明の実施形態に係る有機EL装置の製造工程を示す断面図である。
【図8】同上の製造工程を用いて製造された表示装置の回路図である。
【図9】同上表示装置における画素領域の平面構造を示す拡大平面図である。
【図10】同上の表示装置を備えた電子機器を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0060】
3a…吐出ヘッド、 5…基板、 A…描画対象領域、 G…画素(描画対象)、 N…非吐出箇所、 M…異吐出量箇所、 205…バンク



【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上のバンクで取り囲まれた描画対象領域に、吐出ヘッドを走査させながら一定の吐出間隔にて液滴を吐出させる際に、
前記描画対象領域の前記バンク沿い以外の前記描画対象領域に液滴を吐出させない非吐出箇所を設けることを特徴とする液滴吐出方法。
【請求項2】
前記描画対象領域は矩形であり、少なくとも前記描画対象領域の長辺方向の前記バンク沿い以外の前記描画対象領域に前記非吐出箇所を設けることを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出方法。
【請求項3】
前記非吐出箇所を分散させて配置することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の液滴吐出方法。
【請求項4】
前記非吐出箇所を前記描画対象領域の前記長辺方向に平行、且つ、前記描画対象領域の前記長辺方向の前記バンク沿い以外の前記描画対象領域に配置することを特徴とする請求項2に記載の液滴吐出方法。
【請求項5】
基板上のバンクで取り囲まれた描画対象領域に、吐出ヘッドを走査させながら一定の吐出間隔にて液滴を吐出させる際に、
前記描画対象領域の前記バンク沿い以外の前記描画対象領域に他とは異なる液滴量の吐出箇所を設けることを特徴とする液滴吐出方法。
【請求項6】
前記描画対象領域は矩形であり、少なくとも前記描画対象領域の長辺方向の前記バンク沿い以外の前記描画対象領域に前記他とは異なる液滴量の吐出箇所を設けることを特徴とする請求項5に記載の液滴吐出方法。
【請求項7】
前記他とは異なる液滴量の吐出箇所を分散させて配置することを特徴とする請求項5または請求項6に記載の液滴吐出方法。
【請求項8】
前記他とは異なる液滴量の吐出箇所を前記描画対象領域の前記長辺方向に平行、且つ、前記描画対象領域の前記長辺方向の前記バンク沿い以外の前記描画対象領域に配置することを特徴とする請求項6に記載の液滴吐出方法。
【請求項9】
請求項1から請求項8のうちいずれか一項に記載の液滴吐出方法によって製造することを特徴とする電気光学装置の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の電気光学装置の製造方法によって製造された電気光学装置を備えたことを特徴とする電子機器。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−150342(P2006−150342A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−234377(P2005−234377)
【出願日】平成17年8月12日(2005.8.12)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】