説明

液滴吐出装置

【課題】仮に記録ヘッドのノズル面が大型化されることがあっても、その記録ヘッドのノズル面にあるノズルの乾燥を容易に防止することができる液滴吐出装置を提供する。
【解決手段】記録媒体(9)に液体の液滴を吐出する複数のノズル(23)が配列されたノズル面(21a)を有する記録ヘッド(21)と、前記記録ヘッドのノズル面に熱融解型の膜形成材料(51)を塗布して各ノズルの開口を覆う被膜(52)を形成する塗布装置(6)と、前記ノズル面に形成された前記膜形成材料の被膜を加熱して除去する除去装置(7)とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は液滴吐出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
用紙等の記録媒体に記録ヘッドの複数のノズルからインクを吐出して記録を行うインク吐出記録装置においては、例えば、非稼動時、非記録時等の時期にノズルが外気等に触れて乾燥し、そのノズルの開口に存在するインクが乾燥し固まってノズルが目詰まり状態になる等の不具合があり、それに起因して記録の品質が低下することがあるため、そのノズルの乾燥を防止する対策が必要とされている。
【0003】
従来、このような対策を採用するインクジェット記録装置としては、非記録時等の時期に、記録ヘッドの複数のノズルが配列されたノズル面がある部位を覆って密閉の状態にするためのキャップ構造部材を押し付けるように装着して、そのノズル面にあるノズルの開口の乾燥を防止するものが知られている(特許文献1〜2)。
【0004】
この他、上記キャップ構造部材のようなキャッピング手段を必要としないインクジェット記録装置も知られている。そのインクジェット記録装置とは、記録ヘッドにおけるノズルプレート(ノズル面)のノズル開口の近傍を常温以上でかつインクに膜を形成させるに足る温度に加熱する加熱手段を設け、非インク吐出時に、加熱手段で加熱することによりノズル開口の近傍のインクが極めて薄い膜を形成してインク溶媒の蒸発を阻止し、一方、その膜を圧力発生手段からの圧力で吹き飛ばしてノズル開口を全開にするものである(特許文献3)。
【0005】
【特許文献1】特開2002−96457号公報
【特許文献2】特開2003−175617号公報
【特許文献3】特開平7−148941号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明は、仮に記録ヘッドのノズル面が大型化されることがあっても、その記録ヘッドのノズル面にあるノズルの乾燥を容易に防止することができる液滴吐出装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明(A1)の液滴吐出装置は、記録媒体に液体の液滴を吐出する複数のノズルが配列されたノズル面を有する記録ヘッドと、前記記録ヘッドのノズル面に熱融解型の膜形成材料を塗布して各ノズルの開口を覆う被膜を形成する塗布装置と、前記ノズル面に形成された前記膜形成材料の被膜を加熱して除去する除去装置とを有することを特徴とするものである。
【0008】
また、この発明(A2)の液滴吐出装置は、上記発明A1の吐出装置において、前記塗布装置が、記録ヘッドによる記録動作を行うに先立って、ノズル面のうち当該記録動作に使用されないノズルが存在する領域に前記膜形成材料を塗布して被膜を形成するものである。
【0009】
この発明(A3)の液滴吐出装置は、上記発明A2の吐出装置において、前記塗布装置が、前記ノズル面の一部領域に塗布する前記膜形成材料の層厚を調整する層厚調整装置を有するものである。
【0010】
また、この発明(A4)の液滴吐出装置は、上記発明A1の吐出装置において、前記除去装置が、前記被膜を加熱する加熱装置と、前記加熱装置で加熱された被膜を掻き取る掻取り装置を有するものである。
【0011】
この発明(A5)の液滴吐出装置は、上記発明A4の吐出装置において、前記記録ヘッドが、前記加熱装置で加熱された被膜を前記掻取り装置で掻き取った後の時期に、特別の液滴吐出動作を行うものである。
【0012】
また、この発明(A6)の液滴吐出装置は、上記発明A1の吐出装置において、前記除去装置が、前記被膜を加熱する加熱装置と、前記加熱装置で加熱された被膜を吸引して取り除く吸引装置を有するものである。
【0013】
さらに、この発明(A7)の液滴吐出装置は、上記発明A1の吐出装置において、前記液体が水性であり、前記膜形成材料が油性であるものである。
【0014】
この発明(A8)の液滴吐出装置は、上記発明A1又はA7の吐出装置において、前記膜形成材料がワックスであるものである。
【発明の効果】
【0015】
上記発明A1の液滴吐出装置によれば、仮に記録ヘッドのノズル面が大型化されることがあっても、その記録ヘッドのノズル面にあるノズルの乾燥を容易に防止することができる。
【0016】
上記発明A2の吐出装置では、この発明の構成を有しない場合に比べて、記録ヘッドの記録動作中においても、その記録動作に使用されないノズルの乾燥を防止することができる。
【0017】
上記発明A3の吐出装置では、この発明の構成を有しない場合に比べて、記録ヘッドのノズル面の一部領域に形成される被膜が、記録動作中にノズル面と対向する記録媒体に不用意に接触してしまうことを防止することができる。
【0018】
上記発明A4の吐出装置では、この発明の構成を有しない場合に比べて、記録ヘッドのノズル面に形成された被膜が加熱により融解した状態で掻き取られて容易に除去され、その記録ヘッドを記録動作可能な状態にすることができる。
【0019】
上記発明A5の吐出装置では、この発明の構成を有しない場合に比べて、記録ヘッドのノズルの開口内に侵入した膜形成材料を、ノズル内の液体とともに吐出させて除去することができる。
【0020】
上記発明A6の吐出装置では、この発明の構成を有しない場合に比べて、記録ヘッドのノズル面に形成された被膜が加熱により融解した状態で吸引されて容易に除去され、その記録ヘッドを記録動作可能な状態にすることができる。
【0021】
上記発明A7の吐出装置では、この発明の構成を有しない場合に比べて、記録ヘッドのノズル内に存在する水性のインクに、その記録ヘッドのノズル面に塗布される油性の膜形成材料が混ざることを回避することができる。
【0022】
上記発明A8の吐出装置では、この発明の構成を有しない場合に比べて、記録ヘッドのノズル面への塗布による被膜の形成と、その被膜の加熱した状態での除去とを容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態に係るインク吐出記録装置の概要を示すものである。
【0024】
このインク吐出記録装置1は、インクを吐出して記録を行う記録部2と、記録媒体としての用紙9を記録部2に搬送する用紙搬送部3と、記録部2を保守する保守部5と、各部の動作を含む記録装置全体の動作について制御する制御部8を主に有している。図1中の符合10は支持枠材、外装材等で構成される筐体、符号12は筐体10の一部等を利用して形成され、記録後の用紙9を収容する排出収容部をそれぞれ示し、また一点鎖線は用紙搬送部3等により搬送されるときの用紙9の主な経路を示している。
【0025】
用紙搬送部3は、用紙9を収容するとともに送り出す給紙収容部30と、給紙収容部30から送り出された用紙9を記録装置1(筐体10)内で所定の位置に搬送する搬送路部33とを備えている。
【0026】
このうち給紙収容部30は、所要のサイズ及び種類からなる用紙9を複数枚積み重ねた状態で収容する用紙収容体31と、用紙収容体31に収容されている用紙9を1枚ずつ送り出す送出装置32とで主に構成されている。また、搬送路部33は、給紙収容部30から送り出される用紙9を記録部2まで搬送する給紙路34と、給紙路34で搬送された用紙9を記録部2における記録位置(記録ヘッドのノズル面と対向する位置)を通過させるように搬送する記録搬送路36と、記録後の用紙9を排出収容部12又は記録部2に搬送する記録後搬送路37で構成されている。
【0027】
給紙路34は、給紙収容部30の送出装置32と記録搬送路35の間に配置される複数の用紙搬送ロール対35a〜35cや、図示しない搬送路形成ガイド材等で形成されている。各ロール対35は、図示しない回転駆動源からの動力を受けて回転する。記録搬送部36の直前に配置されるロール対35cは、用紙9を記録部2の記録位置に最終的に供給すべきタイミングを調整する給紙タイミング調整ロール対として構成されている。
【0028】
記録搬送路36は、用紙9をその平面性を保持した状態で記録部2の記録位置を搬送するベルト搬送装置40と、そのベルト搬送装置40の搬送ベルトに用紙9を静電作用で吸着させる吸着部材44とを備えている。
【0029】
ベルト搬送装置40は、供給される最大送り幅の用紙9を保持できるベルト幅からなる無端状の搬送ベルト41を、少なくとも記録部2と対向する位置で平面状に保持させるように配置された複数のロール42a〜42cに掛け回して取り付けたものである。搬送ベルト41は、ロール42aとロール42cの間で平面状に保持されているとともに、駆動ロールとして構成されるロール42aが図示しない回転駆動源からの動力を受けて回転することにより矢印で示す方向(図1,2中の反時計回り方向)に回転する。ロール42aとロール42cの間には、図2に示すように、搬送ベルト41を平面状に保持するため、そのベルト内周面側に上部が平面である支持部材43が配置される。吸着部材44は、搬送ベルト41の従動ロール42cで支持される位置で用紙9を静電作用で吸着させるロール状の部材を使用している。また、吸着部材44には、搬送ベルト41の外周面を用紙9の静電吸着ができる極性に帯電させる所要の帯電用電圧が印加される。
【0030】
記録後搬送路37は、記録部2における記録動作が終了した記録後の用紙9を排紙収容部11に搬送する排出路38と、記録後の用紙9をその表裏面を反転させた状態で記録部2に再送する反転再送路39とを備えている。
【0031】
排出路37については、記録部2(ベルト搬送装置40の用紙剥離部)と排紙収容部12の間に配置される複数の用紙搬送ロール45a〜45c、用紙誘導材45d、搬送ロール対46a〜46dや、図示しない搬送路形成ガイド材等で構成されている。反転再送路39については、排出路37の下流部(搬送ロール対46a〜46dの配置範囲)を兼用するものであり、その兼用部分以外の部分については、排出路37の中途位置(ロール53cとロール対54aの間)にある分岐部と給紙路部41の中途位置(ロール対45cとロール対46aの間)にある合流部との間に配置される、複数の用紙搬送ロール47a〜47eや図示しない搬送路形成ガイド材等で構成されている。上記各搬送ロール対45〜47も、図示しない回転駆動源からの動力を受けて回転する。
【0032】
記録部2は、使用するインクの色の数に合わせて設けられた複数の記録ヘッド21と、この記録ヘッド21に所要の色のインクを供給するインクタンク25とを備えている。
【0033】
この実施形態における記録ヘッド21は、イエロー(Y),マゼンタ(M),シアン(C)及びブラック(B)という4色のインク(液体)が使用され、その4色の各インクに対応させた4つの記録ヘッド21Y,21M,21C,21Kとして構成されている。また、この各記録ヘッド21(Y,M,C,K)には、筐体10に形成される装着部分に装着されるインクタンク25K,25C,25M,25Yから図示しないインク供給路を介して対応する色のインクが個別に供給される。各色のインクとしてはいずれも、水性のインク(水を溶媒とするインク)が使用される。
【0034】
各記録ヘッド21(Y,M,C,K)はいずれも、図2や図3に示すように、用紙9と対向する側にインクを吐出する複数のノズル(吐出口)22が後述するような列状に配置された帯状のノズル面21aを有する構造からなり、そのノズル面21aに配置されるノズル22が最大送り幅Wの用紙9の幅方向における両端部と対応する位置まで形成された、いわゆるライン型の記録ヘッドである。帯状のノズル面21aは、例えば、用紙9の搬送方向Aと直交する方向に沿う状態で配置される。
【0035】
この各記録ヘッド21における複数のノズル22は、記録ヘッド21の記録対象領域の長手方向(用紙の搬送方向Aと直交する方向)に沿って直線状に並んだ状態の列や、千鳥状、マトリクス状等に並んだ状態の列となるように配置されている。各記録ヘッド21におけるノズル22からのインク吐出の駆動方式は、例えば、ピエゾ方式、サーマルジェット方式等の公知の駆動方式が採用されている。
【0036】
また、各記録ヘッド21(Y,M,C,K)は、用紙9の搬送方向Aの上流側から21Y,21M,21C,21Kという順番で所定の間隔をあけて配置されている。さらに、各記録ヘッド21は、保持部材23によって所定の位置に保持されているとともに、図示しない移動装置(図6の符号26)により記録動作位置と保守作業位置(例えば記録動作位置の上方側の位置)との間で移動するようになっている(図7参照)。
【0037】
保守部5は、記録部2における記録ヘッド21(のノズル面22)が外気に触れて乾燥することを防ぐ等の保守作業を所要の時期に行うものであり、具体的には、図4等に示すように、記録部2の記録ヘッド21のノズル面21aにワックス51を塗布して各ノズル22の開口を覆う被膜52を形成する塗布装置(塗布部)6と、その記録ヘッド21のノズル面22に形成された被膜52を加熱して除去する除去装置(除去部)7とを備えている。
【0038】
この実施形態では、保守部5を構成する塗布装置6及び除去装置7が、4つの記録ヘッド21に(Y,M,C,K)対して1組ずつ専用に設けられている。このため、図4等に示す塗布装置6及び除去装置7は、4つの記録ヘッド21(Y,M,C,K)のいずれか1つに使用されるものを代表して示している。なお、図4に示す記録ヘッド21は、そのヘッドの長手方向B1,B2を側面側から見た状態であるが、複数本の縦線があって複数のブロック状のものが結合した状態で描かれているのは、その記録ヘッド21が製造単位のヘッド(ユニット)を複数並べて連結固定した構造のものであること示している。
【0039】
塗布装置6は、図4等に示すように、ワックス51を吐出してノズル面21aに塗布する塗布ヘッド61と、塗布ヘッド61に供給するワックス51を収容するタンク62と、タンク62内のワックス51を塗布ヘッド61に搬送して供給する供給管63と、タンク62の内部の圧力を調整してワックス51を供給管63側に送り出すポンプ64と、塗布ヘッド61、タンク62及び供給管63を加熱してその各内部に存在するワックス51を流動する状態まで融解させる加熱装置65と、少なくとも塗布ヘッド61を待機位置と記録ヘッド21のノズル面22と対向する作業位置との間で移動させるとともに、その記録ヘッド21(ノズル面22)の長手方向(用紙搬送方向Aと直交する方向)B1,B2に沿って往復するように移動させる移動装置66とで構成されている。
【0040】
塗布ヘッド61は、図5に示すように、そのヘッド本体61aに融解したワックス51aを通過させて外部に所要の幅及び量で漏出させるノズル61bが形成されており、ワックスの塗布時にはそのノズル61bの先端部が存在するヘッド面61cを記録ヘッド21のノズル面21aと所定の間隔Sをあけた状態に保たれる。その間隔Sは、ヘッド面61aから漏出して盛り上がるワックス51aがノズル面21aに接触し得る距離である。また、この間隔Sの保持は、ヘッド保持機構と塗布装置66の移動装置66との物理的な相対位置により規定される。その間隔Sをより正確に保持する観点からは、例えば、後述する記録ヘッド21側のガイドレール(67)と塗布装置6側のガイドロール(68)とを適用した構成にすることができる。図5の符号61dは、ヘッド面61cから漏出した余剰のワックスがたれ落ちるのを防ぐ突出壁である。この塗布ヘッド61の塗布動作は、ポンプ64が作動の有無と連動するようになっている。
【0041】
供給管63は、塗布作業時にタンク62、ポンプ64等が移動せず固定設置されている構成の場合には、塗布ヘッド61がタンク62から最も離れた位置に移動した際にも両者間を接続できる長さを有するものである。加熱装置65としては、例えば、加熱対象物に直接設置するものや、加熱対象物とは別体として設置して加熱対象物に外部から熱(熱風、輻射熱など)を与えるものが使用される。移動装置66は、例えば、ガイドレール等の軌道に沿って、走行駆動装置により自力で走行して移動するものや、軌道に沿ってワイヤー等の可動部材からの外部の動力を受けて走行し移動するものとして構成される。移動装置66により移動する塗布ヘッド61等の対象物は、例えば保持部材67に搭載される。
【0042】
除去装置7は、記録ヘッド21のノズル面22に形成した被膜52を加熱する加熱装置71と、加熱装置71で加熱された被膜52を掻き取る掻取り装置72と、加熱装置71及び掻取り装置72を待機位置と記録ヘッド21のノズル面22と対向する作業位置との間で移動させるとともに、その記録ヘッド21の長手方向B1,B2に沿って往復するように移動させる移動装置75とで構成されている。
【0043】
加熱装置71としては、固まった状態のワックスが融解し得る温度の温風を被膜52に吹きつけて加熱する温風発生機が使用される。このときの加熱温度は、ノズル22内にあるインク(の溶媒)が沸騰しないレベルの温度(例えばワックスの融点以上の温度であって最大でも90℃以下の温度)に設定される。掻取り装置72は、記録ヘッド21のノズル面21aに接触して移動することで加熱された被膜52をノズル面21aから掻き取る弾性板73と、この弾性板73を保持する保持部材74とで形成されている。保持部材74は、弾性板73で掻き取った被膜52のワックスを回収する回収装置を兼ねている。移動装置75は、除去装置7を塗布装置6の移動対象の塗布ヘッド61と一体にして構成する場合には、塗布装置6の移動装置66を兼用することで省略される(図4)。
【0044】
ワックス51としては、例えば、カルナウバワックス、ライスワックス、キャンデリンワックス等の植物系ワックスや、ミツロウ等の動物系ワックスや、パラフィンワックス等の石油系ワックス等が使用される。
【0045】
ワックス51は、その融点が40〜90℃の範囲のものが好ましい。融点が40℃未満であると、記録装置1の一般的な使用環境温度(例えば10〜40℃)で融解(溶解)した状態になり、ノズル面21aに塗布した後に流動してノズル面から落下して取れやすくなったり、あるいはノズル22の内部に侵入しやすくなる可能性がある。反対に融点が90℃を超えると、ワックス51の被膜52を除去する際の加熱の温度が100℃近く又はそれ以上になってノズル22内にあるインク(の溶媒)が沸騰するおそれがある。また、ワックス51は、インクとして水性のインクを使用する場合には、油性のワックスであることが好ましい。これにより、その油性のワックス51をノズル面21aに塗布した際に、ノズル22内の水性のインクと混ざり合わなくなる。さらに、ワックス51は、無色透明なものが望ましい。
【0046】
制御部8は、図6に示すように、記録装置1のシステム全体における各構成部分の動作を制御するシステム制御部81と、記録装置1と接続される図示しないホストコンピュータ等の外部接続機器から入力される記録用データ(画像データ)について所要の画像処理を行う記録画像処理部82とで主に構成されている。
【0047】
システム制御部81及び記録画像処理部82はいずれも、所要の情報処理が行われる演算処理部83と、所要の制御プログラムや各種データ等が記憶される記録部84とを有し、コンピュータの1種として構成されている。演算処理部83は、CPU(中央演算処理装置)などで構成される。記録部84は、メモリ(半導体素子等)、記憶装置(ハードディスク等)などの1種又は複数種のものを組み合わせて構成される。また、システム制御部81と記録画像処理部82は、図示しない伝送路を介して互いに必要な情報等が送信(やり取り)されるようになっている。
【0048】
システム制御部81は、例えば、前記した給紙収容部30の給紙動作(主に送出装置32の動作)や、搬送路部33の用紙搬送動作(主に搬送ロール対35、45〜47、搬送ベルト41等の作動)や、記録部2の記録ヘッド21の記録動作(主にノズルの吐出動作)や移動動作(主に移動装置26)や、保守部5の塗布装置6による塗布動作(主にポンプ64、加熱装置65、移動装置66)や、保守部5の除去装置7による除去動作(主に加熱装置71、掻取り装置72、移動装置75)などを、記憶部84に予め格納されている制御プログラムとデータに基づいて制御する。また、システム制御部81には、記録装置1の動作及び状態に関する所要の情報を表示する表示部15と、所要の入力操作を行う操作部16が接続されている。システム制御部81は、表示部15及び操作部16の各動作についても制御する。表示部15は、液晶表示パネル等で構成される。操作部16は、ボタン、スイッチ類が配置された操作パネル等で構成される。
【0049】
記録画像処理部82は、各色成分(Y,M,C,K)の画像データごとに分配して画像処理を施し、最終的に記録部2の記録ヘッド21に送信するための画像信号を生成する。このとき記録画像処理部82では、ホストコンピュータから送信されて入力された画像データを、色成分ごとにページ単位(用紙9の片面に記録する画像の単位)で記憶部における入力ページメモリに一旦保持し、その画像データをページ単位で読み出してから画像処理(Xレジ補正、γ補正、スジムラ補正、ハーフトーン処理、ノズル並替等)をした後、画像信号として出力ページメモリに格納して保持する。
【0050】
そして、この実施形態に係るインク吐出記録装置1は、その記録を行うときには、ホストコンピュータ等の外部接続機器から記録装置1に対してその記録動作の開始指示が出されるとともにその記録すべき画像データが選択されて送信される。記録装置1では、その送信された画像データを記録画像処理部82で所要の画像処理をして出力用の画像信号に変換した後、その画像信号に基づいてシステム制御部81が記録ヘッド21の記録動作(インク吐出)を実行する。
【0051】
また、このインク吐出記録装置1は、予め設定されている保守部5の動作時期が到来すると、後述するようにシステム制御部81の制御により保守部5の塗布装置6が作動して、記録ヘッド21のノズル面21aにワックス51を塗布して被膜52を形成する。また、このワックスの被膜52を形成した後に次の記録動作の開始指示があると、後述するようにシステム制御部81の制御により保守部5の除去装置7が作動して、記録ヘッド21のノズル面21aに形成した被膜52を除去する。
【0052】
被膜52を形成するための保守部5の動作時期とは、例えば、記録装置1の主電源を切った直後や、一連の記録動作が終了した後に所定の時間が経過した直後などである。一方、被膜52を除去するための保守部5の動作時期は、被膜52を形成した後に最初に到来する主電源の投入時や、次の記録動作の開始指示があった時などである。この各動作時期は、システム制御部81が、主電源のON/OFFの信号を受けたり、あるいは、記録動作終了後の経過時間の到来情報や開始指示の入力信号を受けることで判明する。
【0053】
以下、この実施形態に係るインク吐出記録装置1の動作について説明する。
【0054】
はじめに記録動作について説明する。記録装置1が記録動作の開始指示を受けると、記録画像処理部82において前述したような画像データの画像処理が行われ、記録ヘッド21の記録動作に使用される画像信号が生成される。
【0055】
この画像信号が生成されると、その信号がシステム制御部81を経由して記録部2に送られて記録部2を記録動作が開始可能な状態にする一方で、システム制御部81の制御により、給紙収容部30が作動して用紙10の給紙動作が開始されるとともに、搬送路部33の給紙路34及び記録搬送路36が作動して用紙9の記録部2への搬送動作が開始される。
【0056】
このとき給紙収容部30では、送出装置32が作動して用紙収容体31にある用紙9を1枚ずつ給紙路34に送り出し、その給紙路34を通して記録搬送路36まで搬送された用紙9を記録搬送路36に受け渡す。また、記録搬送路36では、給紙路34から搬送された用紙9を、ベルト搬送装置40の搬送ベルト41に吸着部材44により静電吸着させた後、搬送ベルト41の搬送力により記録部2の各記録ヘッド21(のノズル面21a)の直下を通過するように搬送される。
【0057】
次いで、この供給された用紙9が記録部2の記録位置である記録ヘッド21のノズル面21aの直下に到達すると、その到達するタイミングに合わせて記録部2が作動して記録ヘッド21による記録動作を開始する。
【0058】
このとき記録部2では、記録ヘッド21が記録画像処理部81から送信される画像信号に基づいて駆動し、これにより該当するノズル22から所定の色のインク(液滴)を記録搬送路36(ベルト搬送装置40)で搬送される用紙9に対しドット状に吐出する。インクの吐出は、用紙の搬送方向Aの上流側に配置される記録ヘッド21Yを先頭にその下流側に順次配置される記録ヘッド21M,21C,21Kという順番で行われる。
【0059】
記録部2における記録動作が終了すると、記録搬送路36のベルト搬送装置40がその記録が行われた用紙9を搬送ベルト41のロール42aで支持されている部分から剥離して記録後搬送路37に受け渡す。
【0060】
記録後搬送路37では、片面記録を行う記録動作であれば、その記録後の用紙9を記録後搬送路37の排出路38を通して排紙収容部12まで搬送する。また、両面記録を行う記録動作の場合には、その片面記録が終了した用紙9を、排出路37にて所定の距離だけ搬送した後、その搬送方向の後端部側から反転再送路39に引き込み、その表裏面を反転した状態で給紙路34により再び記録部2に搬送する。反転再送路部39で搬送された用紙9は、記録部2を再び通過することにより、その用紙裏面(第2面)に裏面用の画像が記録される。
【0061】
以上の動作が行われることにより、記録装置1による1枚の用紙9に対する記録動作が終了する。このとき、後続の新たな記録動作がある場合には前述した1枚の用紙9に対する記録動作が同様に繰り返して行われるが、後続の記録がない場合には記録動作がすべて終了する。
【0062】
次に、保守部5の動作について説明する。
【0063】
前記した被膜52を形成するための保守部5の動作時期が到来したことが検知されると、まず、システム制御部81の制御により記録部2の移動装置26が作動する。これにより、図7の上部に示すように記録ヘッド21(保持部材23を含む)が、その記録位置(図2に示す状態の位置)から矢印C1の方向に所要の距離だけ上昇させられて作業位置まで移動する。またこれと同時に、塗布装置6の加熱装置65が作動する。これにより、塗布ヘッド61、タンク62及び供給管63が加熱されて各内部にあるワックス51が融解され始める。
【0064】
続いて、システム制御部81の制御により保守部5の塗布装置6における移動装置66が作動する。これにより、図7の下部に示すように塗布装置6の塗布ヘッド61などの移動対象物が、その待機位置(図2及び図7の上部に示す状態の位置)から矢印D1及びE1の方向にそれぞれ動かされて各作業位置(4つの記録ヘッド21の各ノズル面21aにおける長手方向の一端部と対向する位置)まで移動する。
【0065】
塗布装置6の塗布ヘッド61が作業位置に移動すると、システム制御部81の制御により塗布装置6のポンプ64及び移動装置66が作動する。
【0066】
これにより、各塗布ヘッド61が、図8の上部に示すように、その塗布対象の各記録ヘッド21のノズル面21aと所定の間隔S(図5)に保持された状態で移動装置66によりノズル面21aの長手方向B1にむけて移動し始める。これとともに、ポンプ64の作動によりタンク62内の融解した状態にあるワックス51が供給管63を通して各塗布ヘッド61に供給され、その各塗布ヘッド61のヘッド面61cから融解したワックス51aが盛り上がった状態で漏出して対向する記録ヘッド21のノズル面21aに接触して塗布され始める。
【0067】
この際、塗布ヘッド61は、図8の中部及び下部に示すように、移動装置66により各記録ヘッド21のノズル面21aの長手方向(B1,B2)の一端部(塗布開始位置)からその他端部まで移動し、これによりノズル面21aの長手方向全域に対して融解したワックス51aを塗布する。この塗布作業が終了すると、塗布ヘッド61は、移動装置66によりノズル面21aの長手方向B2に移動させられ、その他端部から塗布開始位置の一端部まで戻される。
【0068】
ここで、図8の中部に二点鎖線で示す塗布装置7におけるタンク62、供給管63及びポンプ64は、ワックスの塗布時に移動しないように構成した場合における状態を例示している。また、図8の下部に二点鎖線で示すタンク62、供給管63及びポンプ64は、ワックスの塗布時に移動装置66により移動するように構成した場合における状態を例示している。
【0069】
このようにしてノズル面21aの全面にわたって塗布された融解状態のワックス51aは、その塗布後に冷えて固まることにより被膜52となる(図8の下部に示す状態を参照)。これにより、その被膜52は、各記録ヘッド21のノズル面21aに存在するすべてのノズル22の開口を覆う状態となり、ノズル22の開口が外気と接触することを遮断する。この結果、各ノズル22の開口に存在するインクが被膜52の存在で外気と触れることがなくなり、乾燥して固まることもない。
【0070】
この被膜52の形成が終了した後は、図7に示すように、塗布装置6の塗布ヘッド61等の移動対象物が矢印D2及びE2の方向に移動して待機位置に戻され、また、記録ヘッド21が矢印B2の方向に下降して記録位置に戻される。なお、被膜52の形成後は、その被膜の除去作業が開始されるまで、塗布装置6及び記録ヘッド21を待機位置や記録位置に戻さず各作業位置に止まられて置くように設定しても差し支えない。以上の動作により、保守部5における被膜の形成作業が完了する。
【0071】
一方、記録装置1では、ワックス51による被膜52を形成した後に、その被膜52を除去するための保守部5の動作時期が到来したことが検知されると、システム制御部81の制御により移動装置26,66が作動し、これにより、図7に示すように記録ヘッド21及び各保守部5の除去装置7が各作業位置に移動する。
【0072】
ちなみに、この実施形態のように保守部5の塗布装置6(の移動対象物)及び除去装置7を一体となって移動させる構成を採用し、しかも前述したように被膜の形成後に塗布装置6及び記録ヘッド21を作業位置に止まらせる構成を採用した場合は、被膜の除去作業を開始するための上記記録ヘッド21及び除去装置7の移動動作が不要となる。この場合は、その移動動作を省略できる分だけ、被膜の除去作業を迅速に開始することが可能になる。
【0073】
除去装置7が作業位置に移動(存在)すると、システム制御部81の制御により除去装置7の加熱装置71及び移動装置75(この実施形態では塗布装置6の移動装置66)が作動する。
【0074】
これにより、図9の上部に示すように、加熱装置71が記録ヘッド21のノズル面21aに形成された被膜52に温風を吹き付けて加熱し始めるとともに、移動装置75(66)により加熱装置71及び掻取り装置72がノズル面21aの長手方向B1にむけて移動し始める。この移動の際に掻取り装置72の弾性板73は、その上端部がノズル面21aに接触した状態になる。
【0075】
この結果、加熱装置71で加熱された被膜52は、それを構成するワックス51が融解した状態にされる。また、その融解した被膜52のワックス51aは、加熱装置71の後方を長手方向B1に加熱装置71と一体となって移動する掻取り装置72の弾性板73により掻き取られ、ノズル面21aから除去され始める。
【0076】
そしてこの際、加熱装置71及び掻取り装置72は、図9の中部及び下部に示すように、移動装置75(66)により各記録ヘッド21のノズル面21aの長手方向(B1,B2)の一端部(除去開始位置)からその他端部まで移動する。これにより、ノズル面21aの長手方向全域に形成されていた被膜52のワックスが、加熱により融解されてから掻き取られることでノズル面21aから除去される。掻取り装置72の弾性板73で掻き取られた融解したワックス51aは、その保持部材74により回収される。
【0077】
この被膜の除去(掻き取り)が終了すると、加熱装置71及び掻取り装置72は、移動装置75(66)によりノズル面21aの長手方向B2に移動させられ、その他端部から塗布開始位置の一端部まで戻される。この戻る際に掻取り装置72の弾性板73は、その上端部がノズル面21aに接触した状態になって掻き取りを行うこともできるが、その復路では弾性板73の上端部がノズル面21aから離れるような状態に設定してよい。
【0078】
このようにして各記録ヘッド21のノズル面21aの全面にわたって形成されていた被膜52が除去される(図9の下部に示す状態を参照)。これにより、各記録ヘッド21のノズル面21aに存在するすべてのノズル22は、被膜52が存在しなくなって再び開放された(開口した)状態となる。この結果、各記録ヘッド21は、各ノズル22が開口してインクを吐出できる状態になり、その後の記録動作を行うことが可能になる。
【0079】
この被膜52の除去が終了した後は、除去装置7の加熱装置71及び掻取り装置72が矢印D2及びE2の方向に移動して各待機位置にそれぞれ戻され(図7の上部に示す状態)、また、記録ヘッド21が矢印B2の方向に下降して記録位置に戻される(図2に示す状態)。以上の動作により、保守部5における被膜の除去作業が完了する。
【0080】
なお、この実施形態では、上記被膜52の除去作業を行う際、加熱装置71により加熱された被膜52(実体は融解したワックス51a)を掻取り装置72の弾性体73で書き取った後に、システム制御部81により記録部2を作動させて、その各記録ヘッド21の全ノズル22からインクを所定の量だけ吐出させる特別の吐出動作(空吐出)を行うように構成してもよい。
【0081】
これにより、ノズル22の開口内に侵入して残存する融解したワックス51aがインクとともに外部に吐き出されて除去される。この結果、その後に行われる記録ヘッド21による記録動作においてノズル22からのインクの吐出状態が残存するワックスが障害となって乱されることがなく良好になされ、結果的に、その記録動作が良好に行われて記録の品質を保つことができる。
【0082】
この特別のインク吐出動作は、上記掻き取り後の時期に加えて、被膜52を加熱した後でかつ弾性体73で掻き取る前の時期に行うようにしてもよい。その掻き取る前の時期に行う場合は、例えば、加熱装置71をノズル面21aの長手方向に一度移動させて加熱作業を行った後に実行すればよい。この他、この特別のインク吐出動作を行う場合は、その吐出されるインクを受け止める図示しないインク受け部材をノズル面21aと対向する位置に配置することが必要になる。
【0083】
また、この実施形態に係るインク吐出記録装置1では、記録動作を行うに先立って、図10に示すように、記録部2における記録ヘッド21(Y,M,C,K)のノズル面21aのうちその記録動作に使用されないノズル面21axの領域(不使用領域:G)にだけワックス51の被膜52を形成してもよい。図10の符号Hは、そのときの記録動作に使用されるノズル面21aの領域(使用領域)を示す。
【0084】
この場合、ノズル面21aの一部を使用しない領域(G)が発生する記録動作とは、例えば、その記録に使用する用紙9の送り幅Wがその最大送り幅の用紙よりも狭い場合に記録を行う場合や、その記録に使用する用紙9の搬送方向Aに沿う領域で記録される画像がまったくない場合(用紙9の搬送方向Aにおける領域の一部のみに集中して記録がされる場合)である。このようなノズル面21aの一部を使用しない領域が発生する記録動作であるという情報は、記録画像処理部82で生成される画像信号に基づいて判明する。
【0085】
このようなノズル面21aの一部に被膜52を形成する場合は、図10の上部、中部及び下部という順に示すように、保守部5の塗布装置6の塗布ヘッド61がノズル面21aの不使用領域Gを通過する際にのみ、ポンプ64を作動させて融解したワックス51aを塗布ヘッド61から吐出させ(同図の上部及び下部に示す状態)、ノズル面21aの使用領域Hを通過する際には、ポンプ64を作動させずに塗布ヘッド61から融解したワックス51aを吐出させないようにする(同図の中部に示す状態)。
【0086】
これにより、各記録ヘッド21のノズル面21aのうち不使用領域(G)となるノズル面21axにだけ被膜52が形成される(図10の下部に示す状態を参照)。このノズル面21aの一部に被膜を形成した状態の記録ヘッド21で記録動作を行うと、その使用領域(H)のノズル面21aではその領域内のノズル22からインクが吐出され、その一方で、その不使用領域(G)のノズル面21axは被膜52で覆われて外気と遮断された状態に保たれる。この結果、記録ヘッド21の記録動作を行うときにおいても、その記録動作に使用されない領域(G)のノズル面21axにあるノズル22が乾燥することを防止することができる。
【0087】
さらに、この実施形態に係るインク吐出記録装置1では、図11に示すように、保守部5の塗布装置6に、塗布ヘッド61からノズル面21aに塗布する融解したワックス51aの層厚(塗布した層の厚さ)mを調整する層厚調整装置65を設けるとよい。
【0088】
層厚調整装置65は、塗布ヘッド61の塗布時の移動方向(B1)下流側にノズル面21aと所望の間隔をあけて取り付けられる均し部材66と、記録ヘッド21の両側壁部にそのヘッドの長手方向(B1,B2)に沿いかつノズル面21aと平行する状態(完全な平行状態に対して±1°程度に傾く誤差状態を含む)で設ける(一対の)ガイドレール67と、ガイドレール67のガイド面に案内されて走行して塗布ヘッド(ヘッド面)ひいては均し部材66がノズル面21aと一定の間隔をあけて保たれるようにする(一対の)ガイドロール68とで構成されている。
【0089】
均し部材66は、例えば板状の部材が使用され、その上端部66aの辺がノズル面21aと所望の間隔(調整したいワックスの層厚:mに相当する)をあけた状態となるように塗布ヘッド61に取り付けられる。ガイドロール68は、ガイド面を転がるロール68aとロール68aを回転可能に支持する支持部材68bとで形成されており、その支持部材68bを介して塗布ヘッド61の一部に取り付けられている。
【0090】
この層厚調整装置65を設けることにより、塗布装置6により記録ヘッド21のノズル面21aの全域又は一部の領域に被膜52を形成する際、塗布ヘッド61が記録ヘッド21の長手方向(B1)に移動しながらそのヘッド面から吐出してノズル面21aに塗布する融解したワックス51aが均し部材66で掻き均され、これにより、その融解したワックス51aがほぼ一定の層厚mの塗布膜のような状態で塗布されることとなり、最終的にノズル面21aに対して層厚mに調整された被膜52となる。つまり、層厚がほぼ一定した被膜52を形成することができる。
【0091】
この結果、特に前記したような被膜52を記録ヘッド21のノズル面21aのうちの記録動作に使用されない一部領域(G)にだけ形成する場合、その記録動作を行った際に、図12に示すように、その被膜52が記録ヘッド21のノズル面21aの直下を搬送されて通過する用紙9の上面とほぼ一定の距離をあけた状態に保たれる。このため、例えば被膜52の一部に層厚が厚い部分が存在し、その部分が通過する用紙9に不用意に接触してしまうことが防止される。そして結果的に、その接触が発生して用紙9の走行状態が乱れることでノズル面21aと用紙9の相対的な位置関係がずれることで記録結果の品質が低下してしまうことを回避することが可能になる。
【0092】
この他、この実施形態に係るインク吐出記録装置1では、前記した保守部5に加えて、例えば記録動作の開始前やその途中の所要の時期に、記録ヘッド21の状態を保守する保守ユニットなどを併設してもよい。
【0093】
[他の実施形態]
第1の実施形態では、保守部5の除去装置7として、加熱により融解したワックスを除去するために掻取り装置72を組み合わせて使用する場合を例示したが、その掻取り装置72に代えて、加熱装置71で加熱して融解した被膜52のワックス51aを記録ヘッド21のノズル面21aから吸引して除去する吸引装置を組み合わせて使用してもよい。
【0094】
この吸引装置を適用する場合は、融解したワックスをノズル面21aから容易に取り除くことができる。また、この場合は、その吸引によりノズル22の開口内に侵入したワックスも同時に取り除くことが可能になり、被膜52の除去作業時に前記した特別なインク吐出動作を行う必要がなくなる。
【0095】
また、第1の実施形態では、保守部5の除去装置7として、ノズル面21aに形成した被膜52に温風を吹き付けて加熱する加熱装置71を組み合わせて使用する場合を例示したが、他の種類の加熱装置を組み合わせて使用してもよく、例えばラジエントヒータ等を使用することができる。ラジエントヒータは、遠赤外線を発生して加熱を行うものである。また、加熱装置71は、記録ヘッド21側に設けるように構成してもよい。
【0096】
また、第1の実施形態では、保守部5の塗布装置6として、ワックス(油脂状の材料)51を塗布して被膜52を形成する場合について例示したが、被膜52はノズル面21aに膜を形成することができるとともに加熱より融解する熱融解型の膜形成材料で形成すればよい。
【0097】
また、第1の実施形態では、記録部2としてライン型の記録ヘッド21を適用したインク吐出記録装置1について例示したが、その記録部2としては、用紙9の搬送方向Aに対しほぼ直交する方向に往復移動して記録を行う、いわゆるシリアル型(スキャン型)の記録ヘッドを使用する記録部であっても構わない。
【0098】
さらに、第1の実施形態では、用紙9として当初より所定の規格サイズに裁断された用紙を使用する場合を説明したが、インクを吐出して記録する対象である記録媒体としては、記録装置1において搬送可能であり記録部2でのインク吐出による記録が可能なものであれば適用可能であり、例えば、ロール紙、樹脂フィルム等の記録媒体を使用することもできる。ロール紙を使用する場合は、給紙収容部30についてロール紙を装着して送り出すように構成し、また、給紙路34に給紙収容部30から送り出されるロール紙を記録部2の手前の位置で所要の長さに切断する切断部(切断装置)を設置するか或いは記録したロール紙をその連続した状態のままで巻き取るように構成する。
【0099】
前記各実施形態等においては、肉眼で色が識別できる有色のインクを液滴として記録ヘッドから吐出させるインク吐出記録装置の構成例について説明したが、記録ヘッドから吐出させる液体としては、有色のインクに代えて、例えば、可視光では透明であって紫外線や赤外線を吸収すると視認される液体(例えば透かし記録用液体)や、有機薄膜トランジスタ(有機TFT)などにおける薄膜を形成するための液体等の有色インク以外の液体を吐出させる液滴吐出装置として構成することも可能である。また、前記記録ヘッドによりインク等の液滴を吐出する対象である記録媒体(被吐出物)としては、液滴を吐出して所望の内容の記録(形成)が可能なものであれば、その形態、構造等については特に制約されず、用紙以外の物でも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】第1の実施形態に係るインク吐出記録装置を示す説明図である。
【図2】図1の記録装置における記録部及び保守部等を示す一部拡大図である。
【図3】図1の記録装置における記録部及び保守部を示す一部透視上面図である。
【図4】図1の保守部の構成を示す説明図である。
【図5】図4の保守部を構成する塗布装置における塗布ヘッドの構成を示す拡大正面図である。
【図6】制御部の構成を示す機能ブロック図である。
【図7】保守部の動作における一動作(記録ヘッド及び保守部の移動)の状態を示す説明図である。
【図8】保守部による(ノズル面全域に対する)被膜の形成動作の状態を示す説明図である。
【図9】保守部による被膜の除去動作の状態を示す説明図である。
【図10】保守部による(ノズル面の一部領域に対する)被膜の形成動作の状態を示す説明図である。
【図11】保守部を構成する塗布装置に設ける層厚調整装置を側面及び正面から見たときの各説明図である。
【図12】ノズル面の一部領域に被膜を形成した場合におけるその被膜と用紙との状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0101】
1 …インク吐出記録装置(液滴吐出装置)
6 …塗布装置
7 …除去装置
9 …用紙(記録媒体)
12,103…表示部(選択手段の一部)
13,104…操作部(選択手段の一部)
21…記録ヘッド
21a…ノズル面
21ax…使用されないノズルが存在するノズル面
22…ノズル
22Ax,22Bx…吐出不良ノズル
51…ワックス(膜形成材料)
52…被膜
65…層厚調整装置
71…加熱装置
72…掻取り装置
G …不使用領域(不使用のノズル面領域)
m …層厚

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体に液体の液滴を吐出する複数のノズルが配列されたノズル面を有する記録ヘッドと、
前記記録ヘッドのノズル面に熱融解型の膜形成材料を塗布して各ノズルの開口を覆う被膜を形成する塗布装置と、
前記ノズル面に形成された前記膜形成材料の被膜を加熱して除去する除去装置と
を有することを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項2】
前記塗布装置は、前記記録ヘッドによる記録動作を行うに先立って、そのノズル面のうち当該記録動作に使用されないノズルが存在する領域に前記膜形成材料を塗布して被膜を形成する請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項3】
前記塗布装置は、前記ノズル面の一部領域に塗布する前記膜形成材料の層厚を調整する層厚調整装置を有する請求項2に記載の液滴吐出装置。
【請求項4】
前記除去装置は、前記被膜を加熱する加熱装置と、前記加熱装置で加熱された被膜を掻き取る掻取り装置を有する請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項5】
前記記録ヘッドは、前記加熱装置で加熱された被膜を前記掻取り装置で掻き取った後の時期に、特別の液滴吐出動作を行う請求項4に記載の液滴吐出装置。
【請求項6】
前記除去装置は、前記被膜を加熱する加熱装置と、前記加熱装置で加熱された被膜を吸引して取り除く吸引装置を有する請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項7】
前記液体が水性であり、前記膜形成材料が油性である請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項8】
前記膜形成材料がワックスである請求項1又は7に記載の液滴吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−76238(P2010−76238A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−246737(P2008−246737)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】