説明

液滴噴射装置

【課題】吸引パージ後のフラッシングにおいて、液滴噴射面のブリッジ形成位置からの距離に応じてノズルのフラッシング量を設定し、ノズルに吸い込まれた液体の排出を確実に行いつつ、フラッシング時の液体消費量を抑えること。
【解決手段】インクジェットヘッド4のノズル16を覆うキャップ部材21は、インク噴射面4aから離れるときに、インク噴射面4aとの接触面がインク噴射面4aに対して傾くように傾動可能に構成されている。そして、吸引パージ後に行うフラッシングにおいては、インク噴射面4aの、傾斜状態のキャップ部材21が最後に離れる位置に近いノズル16ほど、フラッシング量が多く設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴を噴射する液滴噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ノズルから液滴を噴射する液滴噴射ヘッドを備えた液滴噴射装置において、液滴噴射ヘッド内の液体流路に異物や気泡等が混入する、あるいは、ノズル内の液体が乾燥して増粘するなどして、ヘッドの液滴噴射性能が低下した場合に、前記異物や気泡、あるいは、増粘した液体をノズルから排出して性能を回復させる手段を備えたものがある。
【0003】
上述した液滴噴射装置として、特許文献1,2には、被記録媒体に対してノズルからインクを噴射して画像等の記録を行う、インクジェット記録装置が開示されている。このインクジェット記録装置は、インクジェットヘッドと、インクジェットヘッドのインク噴射面に密着して複数のノズルを覆うキャップ部材と、キャップ部材に形成された吸引口に接続される吸引ポンプとを備えている。そして、複数のノズルがキャップ部材で覆われた状態で、吸引ポンプでキャップ部材内を減圧してノズルからインクを吸い出すことで、インクジェットヘッド内の異物や気泡等をインクとともに排出する(以下、上記回復動作を「吸引パージ」という)。
【0004】
また、この特許文献1,2のインクジェット記録装置では、前記吸引パージ後に、インクジェットヘッドのインク噴射面に付着したインクをワイパーで拭き取る(ワイピング動作)。さらに、ワイピング後にノズルのメニスカスを整えるために、実際の記録動作に先立ってノズルから液滴を噴射するフラッシング(予備吐出ともいう)を行う。尚、吸引パージによって一旦排出されたインク(排インク)が、インクジェットヘッド内の背圧によってノズル内に吸い込まれる、あるいは、ワイピングによってノズル開口に付着して吸い込まれることがあるため、このようなノズル内に吸い込まれるインクを排出する目的も兼ねてフラッシングを行っている。
【0005】
尚、特許文献1,2には、全てのノズルについてフラッシング時のインク排出量(以下、フラッシング量という)を等しくするのではなく、噴射するインクの種類に応じてフラッシング量を異ならせて、混色を効果的に防止する技術が開示されている。具体的には、特許文献1では、比重が大きいインクを噴射するノズルについては、比重が小さいインクを噴射するノズルと比べて、フラッシング量を多くしている。また、特許文献2では、インクの明度が高いほどフラッシング量を多くしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−260172号公報
【特許文献2】特開平10−258531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、前記吸引パージ後にキャップ部材をインク噴射面から離間させる際には、キャップ部材とインク噴射面との間にインクが繋がった状態(インクブリッジ)が発生し、このインクブリッジが切れたときにインクが周囲に飛散する。この点に関して、本願出願人は、キャップ部材をインク噴射面に対して傾斜させながら離間させ(実施形態の図4(b)参照)、キャップ部材が最後に離れる部分にインクブリッジを局所的に形成させることにより、インクの飛散を抑制することを検討している。
【0008】
その場合、インク噴射面の、キャップ部材が最後に離れる位置に近いノズルほど、インクブリッジに近くなることから、そのインクブリッジを形成している排インクがノズル内に入り込む可能性が高い。ここで、このような排インクは、インクジェットヘッド内の異物や気泡、あるいは、増粘したインクとともに排出されたインクであり、また、泡立っている場合も多い。そのため、このようなインクがノズル内に残存していると、その後の液滴噴射動作に悪影響を及ぼす虞があることから、ノズルから完全に排出しておく必要がある。それ故、インクブリッジが局所的に形成される場合、ブリッジ形成位置に近いノズルについては、特にフラッシングを十分に行って、ノズル内に吸い込まれた排インクを確実に排出しておくことが望まれる。その一方で、全てのノズルについて一律にフラッシング量を多めに設定すると、フラッシングで消費される液体量が多くなってしまう。
【0009】
この点につき、前記特許文献1,2には、噴射するインクの種類によってフラッシング量を変えることが記載されているものの、インクブリッジからの距離に応じて、各ノズルのフラッシング量を設定することについて開示されていない。
【0010】
本発明の目的は、吸引パージ後のフラッシングにおいて、液滴噴射面のブリッジ形成位置からの距離に応じてノズルのフラッシング量を設定し、ノズルに吸い込まれた液体の排出を確実に行いつつ、フラッシング時の液体消費量を抑えることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の発明の液滴噴射装置は、液滴を噴射する複数のノズルが開口した液滴噴射面を有する液滴噴射ヘッドと、前記液滴噴射ヘッドの前記液滴噴射面に離接可能で、前記複数のノズルの開口を覆う大きさを有し、且つ、吸引口が形成されたキャップ部材と、前記キャップ部材の前記吸引口に接続され、前記キャップ部材が前記液滴噴射面に接触した状態において、前記キャップ部材内を吸引し前記ノズルから液体を排出する、吸引パージを行う吸引手段と、前記液滴噴射ヘッドを制御して、前記複数のノズルのそれぞれについて、前記ノズルから液滴を噴射させて液体を排出する、フラッシングを行わせるフラッシング制御手段を有し、
前記キャップ部材は、前記液滴噴射面から離れるときに、前記液滴噴射面との接触面が前記液滴噴射面に対して傾くように傾動可能に構成され、
前記フラッシング制御手段は、前記吸引パージ後に行うフラッシングにおいては、前記液滴噴射面の、傾斜状態の前記キャップ部材が最後に離れる位置に近いノズルほど、フラッシング量を多くすることを特徴とするものである。
【0012】
吸引手段による吸引パージを行った後に、キャップ部材を傾斜状態で液滴噴射面から離間させると、液滴噴射面からキャップ部材が最後に離れる位置において液体のブリッジが形成される。そこで、このブリッジ形成位置に近いノズルほどフラッシング量を多くすることで、ノズルに吸い込まれた液体を確実に排出することができる。また、ブリッジ形成位置から遠いノズルについてはフラッシング量を少なくすることで、フラッシングによる液体の消費量が抑えられる。
【0013】
第2の発明の液滴噴射装置は、前記第1の発明において、前記液滴噴射ヘッドは、複数種類の液体の液滴をそれぞれ噴射する複数種類のノズルを有し、前記キャップ部材は、前記複数種類のノズルの開口を共通に覆う大きさを有することを特徴とするものである。
【0014】
液滴噴射ヘッドが複数種類の液体をそれぞれ噴射する複数種類のノズルを有し、キャップ部材が前記複数種類のノズルを共通に覆うように構成されている場合、吸引パージによって複数種類のノズルからそれぞれ排出された液体がキャップ部材内で混合された状態となる。従って、ブリッジ形成位置に近いノズルにおいては混合液体が吸い込まれることになる。本来噴射する液体と異なる液体が混入した状態でノズルを使用することは好ましくないことから、ブリッジ形成位置に近く、混合液体が吸い込まれやすいノズルについては、フラッシング量を多くして混合液体を確実に排出することが好ましい。
【0015】
第3の発明の液滴噴射装置は、前記第1の発明において、前記液滴噴射ヘッドは、複数種類の液体の液滴をそれぞれ噴射する複数種類のノズルを有し、前記キャップ部材は、前記複数種類のノズルの開口を、種類毎にそれぞれ個別に覆う大きさを有するとともに仕切り壁で区切られた複数のキャップ部を有し、前記複数のキャップ部に複数の吸引口がそれぞれ形成されていることを特徴とするものである。
【0016】
本発明では、液滴噴射ヘッドが複数種類の液体をそれぞれ噴射する複数種類のノズルを有するとともに、キャップ部材が前記複数種類のノズルを個別に覆う複数のキャップ部を有し、複数種類のノズルについて個別に吸引パージが行われる。ここで、複数のキャップ部が仕切り壁で仕切られているために、前記第2の発明とは違って、吸引パージ中において、排出された複数種類の液体同士が混ざり合うことはないが、吸引パージ終了後にキャップ部材を液滴噴射面から離間させたときに、あるキャップ部に、隣接するキャップ部内の液体が仕切り壁を越えて流入することがある。この場合は、傾斜状態のキャップ部材が最後に離れる位置において、混合した液体のブリッジが生じることになることから、このブリッジ形成位置に近いノズルほどフラッシング量を多くすることが好ましい。
【0017】
第4の発明の液滴噴射装置は、前記第3の発明において、前記液滴噴射ヘッドは、染料インクと顔料インクをそれぞれ噴射する2種類の前記ノズルを有することを特徴とするものである。
【0018】
染料インクと顔料インクが混じり合うと凝集が生じてノズル詰まりが生じる虞があるため、混合したインクが付着する可能性のあるノズルについては、フラッシングを十分に行って混合したインクを確実に排出することが好ましい。
【0019】
第5の発明の液滴噴射装置は、前記第3又は第4の発明において、前記液滴噴射ヘッドは、所定の配列方向に配列され、ブラックインクの液滴を噴射する複数の第1ノズルと、前記配列方向と交差する方向に前記複数の第1ノズルと並ぶように前記配列方向に配列され、前記第1ノズルよりもノズル数が多い、カラーインクの液滴を噴射する複数の第2ノズルとを有し、
前記キャップ部材は、前記複数の第1ノズルを覆う第1キャップ部と、前記第1キャップ部よりも内容積が大きい、前記複数の第2ノズルを覆う第2キャップ部とを有し、さらに、前記キャップ部材は、前記液滴噴射面との接触面が、前記配列方向に対して傾くように傾動可能に構成され、
前記フラッシング制御手段は、前記複数の第1ノズルについて、前記液滴噴射面の、傾斜状態の前記キャップ部材が最後に離れる位置に近いノズルほど、フラッシング量を多くすることを特徴とするものである。
【0020】
カラーインクの液滴を噴射する第2ノズルは、ブラックインクの液滴を噴射する第1ノズルよりもノズル数が多く、吸引パージで第2ノズルから排出されるインクの量は第1ノズルよりも多くなる。そのために、第2ノズルを覆う第2キャップ部は、第1キャップ部よりも内容積が大きくなっている。この場合、傾斜状態のキャップが液滴噴射面から離れたときに、排出インク量が多い第2キャップ部から仕切り壁を越えて比較的多くの量のカラーインクが第1キャップ部へ流れて混合が生じる虞がある。また、第1キャップ部の内容積(面積)は小さいために、第2キャップ部から流入したカラーインクは平面的に大きく広がることができないため、第1キャップ部に混合インクのブリッジが生じやすい。
【0021】
このように、第1キャップ部と第2キャップ部が仕切り壁で仕切られている場合でも、特に、ブラックインクの第1ノズルを覆う第1キャップ部において、混色したインクブリッジが生じる可能性がある。そこで、複数の第1ノズルについて、ブリッジ近くに位置するノズルのフラッシング量を多くする。
【0022】
第6の発明の液滴噴射装置は、前記第1〜第5の何れかの発明において、前記キャップ部材の、前記液滴噴射面に対して傾斜したときの前記液滴噴射面に近い側の端部に前記吸引口が形成されていることを特徴とするものである。
【0023】
キャップ部材が傾斜した状態で液滴噴射面から離間する際には、液滴噴射面に近い側の端部が液滴噴射面から最後に離れるため、この端部と液滴噴射面との間にブリッジが形成される。そこで、キャップ部材の前記端部に吸引口が形成されることで、ブリッジを形成する液体が吸引口から排出されやすくなる。
【0024】
第7の発明の液滴噴射装置は、前記第1〜第6の何れかの発明において、前記キャップ部材の前記吸引口が前記吸引手段に接続された吸引パージ可能状態と、前記吸引口が大気に連通した大気連通状態の、前記吸引口の2つの状態を切り換える切り換え手段を備え、
前記フラッシング制御手段は、前記大気連通状態にある前記キャップ部材によって前記液滴噴射面が覆われていた後に行うフラッシングにおいては、前記キャップ部材の吸引口からの距離が遠いノズルほどフラッシング量を少なくすることを特徴とするものである。
【0025】
ノズルから液滴を噴射させないときには、キャップ部材により液滴噴射面が覆われてノズルの乾燥の進行が抑制される。このとき、切り換え手段によってキャップ部材の吸引口は大気連通状態にされる。上記の状態から液滴噴射ヘッドの使用を開始する際には、ノズル内の増粘液体を排出するためにフラッシング(使用前フラッシング)を行うことになるが、キャップ部材に覆われていた複数のノズルの中でも、大気に連通しているキャップ部材の吸引口から離れたノズルは乾燥の進行は遅い。そこで、このようなノズルについてはフラッシング量を少なくすることで、使用前フラッシングにおける液体の消費量を抑えることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、液滴噴射面の、ブリッジ形成位置に近いノズルほどフラッシング量を多くすることで、ノズルに吸い込まれた液体を確実に排出することができる。また、ブリッジ形成位置から遠いノズルについてはフラッシング量を少なくすることで、フラッシングによる液体の消費量が抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本実施形態に係るインクジェットプリンタの概略構成を示す平面図である。
【図2】インクジェットヘッドの平面図である。
【図3】(a)は図2のA部拡大図、(b)は(a)のB−B線断面図である。
【図4】吸引パージ実行時におけるキャップ部材及びキャップ駆動機構の、搬送方向を含む鉛直面に関する断面図であり、(a)はキャッピング時、(b)はキャップ部材の離間時をそれぞれ示す。
【図5】吸引パージ実行時におけるキャップ部材の、走査方向を含む鉛直面に関する断面図であり、(a)はキャッピング時、(b)はキャップ部材の離間時をそれぞれ示す。
【図6】ノズル保護状態のキャップ部材の、搬送方向を含む鉛直面に関する断面図である。
【図7】プリンタの制御系を概略的に示すブロック図である。
【図8】変更形態のキャップ部材の、走査方向を含む鉛直面に関する断面図である。
【図9】別の変更形態のキャップ部材の、走査方向を含む鉛直面に関する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に、本発明の実施の形態について説明する。図1は、本実施形態に係るインクジェットプリンタの概略構成を示す平面図である。
【0029】
図1に示すように、インクジェットプリンタ1(液滴噴射装置)は、記録用紙Pが載置されるプラテン2と、このプラテン2と平行な走査方向に往復移動可能なキャリッジ3と、キャリッジ3に搭載されたインクジェットヘッド4(液滴噴射ヘッド)と、記録用紙Pを走査方向と直交する搬送方向に搬送する搬送機構5と、インクジェットヘッド4の液滴噴射性能の回復・維持に関する各種メンテナンス作業を行うメンテナンスユニット6と、インクジェットプリンタ1の全体制御を司る制御装置7(図7参照)等を備えている。
【0030】
プラテン2の上面には図示しない給紙機構から供給された記録用紙Pが載置される。また、プラテン2の上方には、図1の左右方向(走査方向)に平行に延びる2本のガイドレール10,11が設けられ、キャリッジ3は、プラテン2と対向する領域において2本のガイドレール10,11に沿って走査方向に往復移動可能に構成されている。また、2本のガイドレール10,11は、プラテン2から走査方向に沿って図1の左方及び右方に離れた位置まで延在しており、キャリッジ3は、プラテン2上の記録用紙Pと対向する領域(記録領域)から、非記録領域である、プラテン2から左右方向に離れた位置まで移動可能に構成されている。また、キャリッジ3には、2つのプーリ12,13間に巻き掛けられた無端ベルト14が連結されており、キャリッジ駆動モータ15によって無端ベルト14が走行駆動されたときに、キャリッジ3は、無端ベルト14の走行に伴って走査方向に移動するようになっている。
【0031】
インクジェットヘッド4は、キャリッジ3の下部に取り付けられており、プラテン2の上面と平行な、インクジェットヘッド4の下面が、複数のノズル16が開口するインク噴射面4a(液滴噴射面:図4、図5参照)となっている。そして、このインク噴射面4aの複数のノズル16から、プラテン2に載置された記録用紙Pに対してインクを噴射する。
【0032】
インクジェットヘッド4の具体的な構成について説明する。図2は、インクジェットヘッド4の平面図である、図3(a)は図2のA部拡大図、(b)は(a)のB−B線断面図である。図2、図3に示すように、インクジェットヘッド4は、複数のノズル16及び複数のノズル16にそれぞれ連通する複数の圧力室34が形成された流路ユニット30と、流路ユニット30の上面に配置された圧電アクチュエータ31とを備えている。
【0033】
図3(b)に示すように、流路ユニット30は4枚のプレートが積層された構造を有し、この流路ユニット30の下面(インク噴射面4a)には複数のノズル16が形成されている。図2に示すように、これら複数のノズル16は搬送方向に配列され、走査方向に並ぶ4列のノズル列33を構成している。4列のノズル列33(33bk、33y、33c、33m)にそれぞれ属するノズル16(16bk、16y、16c、16m)からは、顔料インクであるブラックインクと、染料インクである3色のカラーインク(イエロー、シアン、マゼンタ)の、合計4色のインクがそれぞれ噴射される。尚、ブラックインクの液滴を噴射するノズル16bk(以下、ブラックノズル16bkともいう)が本願発明の第1ノズル、3色のカラーインクの液滴を噴射する3種類のノズル16y、16c、16m(以下、カラーノズル16clともいう)が本願発明の第2ノズルに相当する。また、流路ユニット30の下面において、ブラックのノズル列33bkと、カラー(イエロー)のノズル列33yとの間には、空いた領域37が存在しているが、この領域37は、後述するキャップ部材21の2つのキャップ部26,27を仕切る仕切り壁21cが当接する領域になっている(図5参照)。
【0034】
また、流路ユニット30には、複数のノズル16にそれぞれ連通する複数の圧力室34が形成され、4列のノズル列33に対応して、複数の圧力室34も4列に配列されている。さらに、流路ユニット30には、それぞれ搬送方向に延在し、4列の圧力室列にブラック、イエロー、シアン、マゼンタの4色のインクを供給する4本のマニホールド35が形成されている。尚、4本のマニホールド35は、流路ユニット30の上面に形成された4つのインク供給口36に接続されている。
【0035】
図3(b)に示すように、圧電アクチュエータ31は、複数の圧力室34を覆う振動板40と、この振動板40の上面に配置された圧電層41と、圧電層41の上面に複数の圧力室34に対応して配置された複数の個別電極42とを備えている。圧電層41の上面に位置する複数の個別電極42は、圧電アクチュエータ31を駆動するドライバIC47とそれぞれ接続されており、ドライバIC47から複数の個別電極42に対して所定の駆動電圧が独立して印加されるようになっている。また、圧電層41の下面に位置する振動板40は金属材料で形成されており、圧電層41を挟んで複数の個別電極42と対向する共通電極の役割を果たす。尚、この振動板40はドライバIC47のグランド配線に接続されて常にグランド電位に保持される。
【0036】
この圧電アクチュエータ31は、ドライバIC47から、ある個別電極42と共通電極としての振動板40の間に所定の駆動電圧が印加されたときに、両者の間に挟まれた圧電層41の圧電変形(圧電歪)によって圧力室34の体積変化を生じさせ、圧力室34内のインクに圧力を付与する。このとき、上記圧力室34に連通するノズル16からインクの液滴が噴射されることになる。
【0037】
図1に戻って、搬送機構5は、搬送方向にプラテン2を挟むように配置された2つの搬送ローラ18,19を有し、これら2つの搬送ローラ18,19によって、プラテン2に載置された記録用紙Pを搬送方向(図1の前方)に搬送する。
【0038】
そして、インクジェットプリンタ1は、プラテン2上に載置された記録用紙Pに対して、キャリッジ3とともに走査方向(図1の左右方向)に往復移動するインクジェットヘッド4からインクを噴射させるとともに、2つの搬送ローラ18,19によって記録用紙Pを搬送方向(図1の前方)に搬送することにより、記録用紙Pに所望の画像や文字等を印刷する。
【0039】
次に、メンテナンスユニット6について説明する。図1に示すように、メンテナンスユニット6は、プラテン2に対して走査方向一方側(図1の右側)に離れた位置(メンテナンス位置:図1に二点鎖線でキャリッジ3が示されているAの位置)に配置されている。このメンテナンスユニット6は、インクジェットヘッド4のインク噴射面4aに接触して複数のノズル16の開口を覆うキャップ部材21と、キャップ部材21に接続された吸引ポンプ23(吸引手段)と、吸引パージ後にインク噴射面4aに付着したインクを拭き取るワイパー22等を備えている。
【0040】
図4は、吸引パージ実行時におけるキャップ部材21及びキャップ駆動機構25の、搬送方向を含む鉛直面に関する断面図であり、(a)はキャッピング時、(b)はキャップ部材21のリリース時をそれぞれ示す。また、図5は、キャップ部材21の走査方向を含む鉛直面に関する断面図であり、(a)はキャッピング時、(b)はキャップ部材21の離間(リリース)時をそれぞれ示す。尚、図4、図5では、ワイパー22の図示を省略している。また、図5では、図4に示されているキャップ駆動機構25の図示を省略している。
【0041】
図4、図5に示すように、キャップ部材21は、底壁部21aと、この底壁部21aの外周部に設けられたリップ部21bを有する。また、リップ部21bに囲まれたキャップ部材21の内側空間が仕切り壁21cで仕切られることにより、1列のノズル列33bkを構成する複数のブラックノズル16bkを覆う大きさを有する第1キャップ部26と、3列のカラーのノズル列33y、33c、33mを構成する複数のカラーノズル16cl(16y、16c、16m)を覆う第2キャップ部27とが形成されている。尚、3列のノズル列を構成するカラーノズル16clは、ノズル列が1列のブラックノズル16bkよりもノズルの数が多いことから、カラーノズル16clを共通に覆う大きさを有する第2キャップ部27は、ブラックノズル16bkを覆う第1キャップ部26よりも面積(内容積)が大きくなっている。そして、キャップ部材21は、後述するキャップ駆動機構25によりインク噴射面4aに対して離接し、インク噴射面4aに接触したときには、第1キャップ部26によりブラックノズル16bkを覆うとともに、第2キャップ部27によりカラーノズル16clを覆う。
【0042】
第1キャップ部26の底壁部と第2キャップ部27の底壁部の、それぞれのノズル配列方向における一端部(搬送方向下流側の端部)には吸引口28,29がそれぞれ形成されている。これら2つの吸引口28,29は、それぞれチューブ50によって切り換えユニット24に接続され、さらに、切り換えユニット24は吸引ポンプ23と接続されている。切り換えユニット24はその内部に切換弁(図示省略)を有し、図5(a)のように、キャップ部材21がキャッピング状態にあるときに、切り換えユニット24は、吸引ポンプ23を、第1キャップ部26と第2キャップ部27の何れか一方に連通させる。その状態で、吸引ポンプ23により連通先のキャップ部26(27)内を吸引することで、そのキャップ部26(27)によって覆われたノズル16からインクIを排出させる。即ち、ブラックノズル16bkとカラーノズル16clの吸引パージが個別に行われるようになっている。
【0043】
また、キャップ部材21は、上記吸引パージ以外にも、インクジェットヘッド4を使用しない状態(インクを噴射しない状態)においても用いられる。図6は、ノズル保護状態のキャップ部材21の、搬送方向を含む鉛直面に関する断面図である。図6のように、インクジェットヘッド4が使用されないときには、キャップ部材21がインク噴射面4aに接触してノズル16を覆うことによって、ノズル16を保護するとともに及びノズル16内のインクの乾燥を抑制する。また、本実施形態では、切り換えユニット24が大気連通部24aを有し、インクジェットヘッド4の未使用時にはキャップ部材21内の空間が呼吸可能となるように、2つの吸引口28,29を大気連通部24aを介して大気と連通させる。これにより、外部の温度変化に起因するキャップ部材21内の内圧変動によって、キャップ部材21が変形して一部がインク噴射面4aから離れてしまうことが防止される。即ち、切り換えユニット24が、キャップ部材21の吸引口28,29が吸引ポンプ23に接続された吸引パージ可能状態と、大気に連通した大気連通状態とを切り換える、本願発明の切り換え手段に相当する。
【0044】
また、キャップ部材21は、インク噴射面4aと接触するリップ部21bの先端面(接触面21e)が、インク噴射面4aに開口したノズル16の配列方向(搬送方向)に対して傾動可能に構成されており、キャップ駆動機構25は、キャップ部材21を傾斜状態でインク噴射面4aから離間させる。
【0045】
図4に示すように、キャップ駆動機構25は、所定のプロファイルを有するカム51と、カム51を回転駆動させるカム駆動モータ52と、キャップ部材21を収容するキャップホルダ53とを備えている。キャップホルダ53は、上部が開口したボックス形状を成しており、その内部にキャップ部材21が収容されている。また、キャップホルダ53の内底部にはコイルバネ54が設けられており、このコイルバネ54によってキャップ部材21は上方へ付勢されている。
【0046】
キャップ部材21は、その底壁部21aの一端部(ノズル配列方向における一方側の端部)において突出した係止突起21dを備えている。一方、キャップホルダ53においてキャップ部材21の前記一端側には、係止突起21dに係合する突起状のストッパ55が設けられている。ストッパ55は係止突起21dに対して上方に位置しており、係止突起21dがストッパ55に当接することによって、コイルバネ54に付勢されるキャップ部材21の上方限界位置が規定されている。
【0047】
また、キャップ部材21の係止突起21dと反対側の端部には、図4の紙面直交方向に延びる枢支軸56が設けられており、また、キャップホルダ53のストッパ55と反対側の端部には、枢支軸56をスライド自在に支持する軸受部57が設けられている。従って、キャップ部材21は、図4(b)のように枢支軸56が軸受部57の天井部分に当接したときに、枢支軸56を中心に回動することによって、係止突起21d側の端部が、キャップホルダ53の内底面に当接する下方限界位置から、係止突起21dがストッパ55に当接する上方限界位置に至る間を移動可能になっている。
【0048】
上記のようにしてキャップ部材21を収容するキャップホルダ53の下面には、カム51の周面が当接している。カム51は、カム駆動モータ52により回転駆動され、カム51の位相(回転角度)に応じてキャップホルダ53(及びキャップ部材21)は昇降駆動されるようになっている。そして、インクジェットヘッド4がメンテナンス位置A(図1参照)にあるときに、カム51が反時計回りの方向に回転すると、カム51のプロファイルによってキャップホルダ53が押し上げられ、図4(a)のように、キャップ部材21がインク噴射面4aに接触し、ノズル16を覆ったキャッピング状態となる。この状態で吸引ポンプ23によってキャップ部材21内の吸引が行われると、キャップ部材21(第1キャップ部26、第2キャップ部27)内の圧力が低下してノズル16からキャップ部26,27内にインクが排出される(吸引パージ)。
【0049】
一方、図4(a)の状態から、カム51を時計回りの方向に回転させることにより、カム51のプロファイルに応じてキャップホルダ53が自重により下降する。このとき、キャップ部材21はコイルバネ54によって上方へ付勢される一方で、キャップ部材21の図中右端部は枢支軸56が、キャップホルダ53の軸受部57の天井部分に当接するため、キャップ部材21は、キャップホルダ53の下降に伴って図中右端部から先に離間する。これにより、図4(b)のように、キャップ部材21の接触面21eが、図中左端部が右端部よりも上方に位置した、ノズル配列方向(搬送方向)に対して傾斜した姿勢で、インク噴射面4aから離間することになる。
【0050】
上記のように、傾斜状態でキャップ部材21をインク噴射面4aから離間させると、図4(b)のように、キャップ部材21が最後に離れる端部(図中左端部)とインク噴射面4aとの間に局所的にインクブリッジIaが形成される。このように、キャップ部材の外周部の一部にのみインクブリッジIaが形成されることで、インクブリッジIaが切れるときの周囲へのインクの飛散が抑制されることになる。
【0051】
また、キャップ部材21がインク噴射面4aから離間すると、吸引ポンプ23により、キャップ部材21内に溜まったインクを吸引して排出する。尚、図4(b)のキャップ部材21の傾斜姿勢において、インク噴射面4aに近い側の端部(図中左端部)、即ち、インク噴射面4aに対して最後に離れる端部に吸引口28,29が形成されている。この構成では、インクブリッジIaの形成位置の近くに吸引口28,29が設けられていることから、キャップ部材21内に溜まったインクを確実に排出できるようになる。
【0052】
図1に戻って、ワイパー22はキャップ部材21よりもプラテン2側の位置に立設されており、吸引パージ後に、このワイパー22の先端がインク噴射面4aに接触した状態でキャリッジ3が走査方向に移動することによって、ワイパー22はインク噴射面4aに対して相対的に移動し、インク噴射面4aに付着したインクを拭き取る。
【0053】
また、本実施形態のプリンタ1は、記録用紙Pへの印刷を行わない期間に、適宜のタイミングで、インクジェットヘッド4の複数のノズル16からそれぞれインクを噴射させてインクを排出する、フラッシングを行うように構成されている。図1に示すように、プラテン2を挟んでメンテナンスユニット6と反対側の位置(フラッシング位置:図1に二点鎖線でキャリッジ3が示されているBの位置)に、液受け部材58が設置されている。そして、インクジェットヘッド4は、キャリッジ3がフラッシング位置Bに移動した状態でフラッシングを行い、フラッシングによってノズル16から排出されたインクは液受け部材58に受け止められる。
【0054】
本実施形態では、上記フラッシングを、特に、メンテナンスユニット6による吸引パージ等の一連のメンテナンスが終了した直後に行う。吸引パージで排出された排インクの一部はインク噴射面4aに付着し、この排インクは、キャップ部材21がインク噴射面4aから離間する際に、インクジェットヘッド4内の背圧によってノズル16内に吸い込まれてしまう。また、本実施形態のように、第2キャップ部27が3色のカラーノズル16clを共通に覆う構成では、カラーノズル16clの吸引パージを行ったときに第2キャップ部27内で3色のカラーインクが混合し、混色したインクがノズル16に逆流、あるいは、開口に付着することになる。また、吸引パージ後にワイパー22でインク噴射面4aを拭き取った際に、ノズル16の開口に異なる色のインクが付着し、そのインクがノズル16内に吸い込まれることもある。このように、ノズル16内に吸い込まれた排インクを確実に排出するために、メンテナンス終了時にフラッシングを行う。
【0055】
また、図6のように、インクジェットヘッド4が使用されていない状態では、ノズル16はキャップ部材21に覆われているといえども、キャップ部材21が大気連通状態であることからノズル16内のインクには乾燥(増粘)が生じる。そこで、このような増粘インクをノズル16から排出するために、インクジェットヘッド4の使用開始前にもフラッシングを行う。
【0056】
尚、上記フラッシングにおいては、排インクや増粘インクをノズル16内から確実に排出するために、一定以上のインク量(フラッシング量)を噴射する必要があるが、全てのノズル16について排インクの逆流のしやすさや増粘の程度は同じではなく、フラッシング量の適正値は異なる。そこで、本実施形態では、各ノズル16に対して適切なフラッシング量が個別に設定される。これについては、次述のフラッシング制御の説明で詳述する。
【0057】
次に、制御装置7を中心とするインクジェットプリンタ1の制御系について、図7のブロック図を参照して詳細に説明する。図7に示されるプリンタ1の制御装置7は、例えば、中央処理装置であるCPU(Central Processing Unit)と、プリンタ1の全体動作を制御する為の各種プログラムやデータ等が格納されたROM(Read Only Memory)と、CPUで処理されるデータ等を一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)等を含むマイクロコンピュータを備え、ROMに格納されたプログラムがCPUで実行されることにより、以下に説明するような種々の制御を行う。あるいは、制御装置7は、演算回路を含む各種回路が組み合わされたハードウェア的なものであってもよい。
【0058】
この制御装置7は、インクジェットヘッド4を制御するヘッド制御部61と、キャリッジ3を走査方向に駆動するキャリッジ駆動モータ15を制御するキャリッジ制御部62と、搬送機構5を制御する搬送制御部63とを含む、印刷制御部60を有する。印刷制御部60は、PC70から入力された、印刷する画像等に関するデータ(印字データ)に基づき、インクジェットヘッド4、キャリッジ駆動モータ15、及び、搬送機構5をそれぞれ制御して、記録用紙Pへの印刷を行わせる。
【0059】
さらに、制御装置7は、メンテナンスユニット6の吸引ポンプ23やキャップ部材21を昇降させるカム駆動モータ52等を制御して、前述した吸引パージを含む一連のメンテナンス動作を制御するメンテナンス制御部65と、インクジェットヘッド4のフラッシングを制御するフラッシング制御部66とを備えている。尚、上述したヘッド制御部61、キャリッジ制御部62、搬送制御部63、メンテナンス制御部65、及び、フラッシング制御部66のそれぞれの機能は、実際には、上述したマイクロコンピュータの動作、あるいは、演算回路を含む各種回路の動作によって実現される。
【0060】
以下、フラッシング制御部66(フラッシング制御手段)によるインクジェットヘッド4のフラッシング制御について詳細に説明する。本実施形態においては、フラッシング制御部66は、インクジェットヘッド4の複数のノズル16について、フラッシング量を一律にするのではなく、個々のノズル16に対してそれぞれ適切なフラッシング量を設定する。このように設定されたフラッシング量に基づいて、フラッシング制御部66はインクジェットヘッド4の圧電アクチュエータ31を制御して各ノズル16に対して設定されたフラッシング量の液滴噴射を行わせる。尚、ノズル16毎でフラッシング量を異ならせるには、フラッシングの発数(連続噴射回数)を変える、あるいは、1発のフラッシングで噴射する液滴量を変えるといった手法を採用すればよい。
【0061】
ここで、前述したように、本実施形態のプリンタ1は、上記フラッシングとして、吸引パージを含むメンテナンスの終了後のフラッシング(以下、パージ後のフラッシングという)と、一定の休止期間の後にインクジェットヘッド4の使用を開始する直前に行うフラッシング(以下、使用前フラッシングという)を少なくとも実施する。ここで、パージ後のフラッシングと、使用前フラッシングとでは、フラッシングの目的が異なることから、個々のノズル16に設定されるフラッシング量も異なる。以下、フラッシング量の設定について、パージ後のフラッシングと、使用前フラッシングのそれぞれに分けて説明する。
【0062】
(パージ後のフラッシング)
先にも触れたが、図4(b)に示すように、吸引パージが終了すると、キャップ部材21はインクジェットヘッド4のインク噴射面4aから、ノズル配列方向(搬送方向)に対して傾斜した状態で離間する。その際に、キャップ部材21のノズル配列方向における一端側の、吸引口28,29が形成された端部(図中左端部)がインク噴射面4aから最後に離間する部分となり、この位置において、キャップ部材21とインク噴射面4aとの間に排インクIによるインクブリッジIaが局所的に形成される。そのため、このインクブリッジIaに近いノズル16については、ノズル16内に多くの排インクIが吸い込まれやすい。
【0063】
そこで、フラッシング制御部66は、インク噴射面4aにおいて搬送方向に配列されたノズル16のうち、インク噴射面4aの、キャップ部材21が最後に離れる位置に近いノズル16、即ち、図4の左側に位置するノズル16ほど、フラッシング量を多く設定する。逆に、図4の右側に位置するノズル16はインクブリッジIaから離れており、排インクIがノズル16内に吸い込まれにくいため、フラッシング量を少なくする。これにより、フラッシング時に消費するインクの総量を少なく抑えることができる。
【0064】
特に、本実施形態では、3色のカラーインクをそれぞれ噴射する3色のカラーノズル16clが、第2キャップ部27によって共通に覆われるため、吸引パージ後には第2キャップ部27内には3色の排インクが混合した状態で存在し、インクブリッジIaに近い位置のカラーノズル16clにおいては混色インクが吸い込まれることになる。そこで、この混色インクを確実に排出できるように、搬送方向に配列された複数のカラーノズル16clのうち、図4の左側に位置するノズル16ほど、フラッシング量を多くする。
【0065】
尚、図5のように、ブラックノズル16bkを覆う第1キャップ部26と、カラーノズル16clを覆う第2キャップ部27は、仕切り壁21cで仕切られていることから、吸引パージ時に、ブラックインクIbkとカラーインクIclとが、前述した第2キャップ部27内での3色のカラーインクの混合のように混ざり合うことはないが、吸引パージの終了後に、キャップ部材21をインク噴射面4aから離間させたときに、一方のキャップ部から他方のキャップ部へインクが流れ込んで、混色が生じる可能性がある。
【0066】
ここで、カラーノズル16clの数はブラックノズル16bkよりも多く、そのために、吸引パージでカラーノズル16clから排出されるインクの総量は、ブラックノズル16bkと比べて多くなる。また、カラーノズル16clを覆う第2キャップ部27の内容積(面積)は、ブラックノズル16bkを覆う第1キャップ部26よりも大きくなっている。そのため、キャップ部材21がインク噴射面4aから離れたときに、図5(b)に示されるように、排出インク量が多い第2キャップ部27から仕切り壁21cを越えて比較的多量のカラーインクが第1キャップ部26へ流れて、第1キャップ部26内でインクの混合が生じる可能性が高い。さらに、第1キャップ部26の内容積(面積)は小さいために、流入したカラーインクが平面的に大きく広がりにくく、第1キャップ部26に混合インクのブリッジが生じやすい。
【0067】
このように、専用の第1キャップ部26で覆われるブラックノズル16bkについても、混色インクがノズル16内に逆流する虞があることから、搬送方向に配列されたブラックノズル16bkについても、図4の左側に位置するノズル16ほど、フラッシング量を多くする。特に、本実施形態では、カラーインクが染料インクであるのに対し、ブラックインクは顔料インクであり、染料インクと顔料インクとが混じり合うと凝集が生じてノズル詰まりが生じる虞があるため、カラーが混ざった排インクが吸い込まれる可能性のあるブラックノズル16bkについては、フラッシングを十分に行っておくことが好ましい。
【0068】
尚、3色のカラーノズル16clを共通に覆う第2キャップ部27内においては3色のカラーインクが確実に混合してしまうのに対して、第2キャップ部27から第1キャップ部26へカラーインクが仕切り壁21cを越えてブラックインクと混合することは、常に生じることではなく、また、混合が生じてもブラックインクに対して混じり合うカラーインクの量はそれほど多くはないと考えられる。そのため、ブラックノズル16bkとカラーノズル16clの両方について、インクブリッジIaの形成位置に近いノズル16のフラッシング量をそれぞれ多くするとしても、ブラックノズル16bkのフラッシング量は、カラーノズル16clと比べて少なめに設定してもよい。
【0069】
(使用前フラッシング)
使用前フラッシングの大きな目的の1つは、ノズル16内の増粘したインクを排出することであるから、上述したパージ後のフラッシングとは異なり、乾燥の進行度(インクの増粘の程度)によって、各ノズル16のフラッシング量が設定される。ここで、上述したように、インクジェットヘッド4が使用されていない状態で、ノズル16がキャップ部材21に覆われているときには、キャップ部材21の2つのキャップ部26,27の吸引口28,29は、切り換えユニット24により大気に連通されている。このとき、2つのキャップ部26,27の内部には、それぞれ、吸引口28,29からの距離に応じた湿度分布が存在しており、それ故、キャップ部26,27で覆われている複数のノズル16のうち、吸引口28,29からの距離が遠いノズル16ほどインクが乾燥の進行が遅く、インクの増粘の程度が低くなる。
【0070】
そこで、吸引口28,29からの距離が遠い、図6の右側に位置するノズル16ほどフラッシング量を少なくすることで、使用前のフラッシングにおける液体の消費量を抑えることができる。尚、本実施形態では、キャップ部材21の、インク噴射面4aから最後に離れる端部と、吸引口28,29が設けられている端部が同じ(図4、図6の左端部)であるため、結果的には、上述したパージ後のフラッシングと、この使用前フラッシングの両方において、共に、図4や図6の左側に位置するノズル16ほどフラッシング量が多く設定されることになる。
【0071】
次に、前記実施形態に種々の変更を加えた変更形態について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0072】
1]図8に示すように、キャップ部材21Aが、ブラックノズル16bk及び3色のカラーノズル16clの、4種類のノズル16の開口を共通に覆う大きさを有するものであってもよい。この場合は、キャップ部材21A内で4色のインクが混じり合い、4種類のノズル16のそれぞれで混色インクが吸い込まれることから、4種類のノズル16のそれぞれについて、キャップ部材21が最後に離れる、インクブリッジの形成位置に近いノズル16ほど、フラッシング量を多くする。
【0073】
2]図9に示すように、キャップ部材21Bが、仕切り壁21cによって仕切られた、4種類のノズル16の開口を、種類毎に個別に覆う大きさを有する4つのキャップ部71〜74を有するものであってもよい。この場合は、4種類のノズル16からそれぞれ排出された4色のインクが直接混じり合うことはないが、キャップ部材21Bをインク噴射面4aから離間させたときに、隣接するキャップ部71〜74間で、仕切り壁21cを越えてインクが移動して混色インクのインクブリッジを形成する虞がある。そこで、4種類のノズル16のそれぞれについて、キャップ部材21Bが最後に離れる部分に近いノズル16ほど、フラッシング量を多くする。
【0074】
3]前記実施形態では、キャップ部材21の、インク噴射面4aから最後に離間する端部に、吸引ポンプ23と接続される吸引口28,29が形成されていたが、吸引口の形成位置に上記位置に限られるものではない。尚、前記実施形態から吸引口の位置を変更した場合、使用前フラッシングのフラッシング量は吸引口からの距離に基づいて設定されることから、パージ後のフラッシングと、使用前フラッシングとで、フラッシング量が多くなるノズル16の位置が異なることになる。
【0075】
4]インクジェットヘッド4が、染料インクと顔料インクをそれぞれ噴射する形態に限られるものではなく、複数種類のインクが全て染料インク、あるいは、すべて顔料インクであってもよい。
【0076】
5]異なる種類のインクの混合が生じない形態、例えば、吸引パージ時にキャップ部材がインクジェットヘッド4の1色のノズル16のみを覆う形態や、インクジェットヘッド4が噴射するインクが1色である形態においても、本発明を適用する意義は十分ある。即ち、吸引パージによって排出された排インクが混色インクでなくとも、このような排インクが再びノズル16に吸い込まれて放置されることは好ましくないことから、本発明を適用してフラッシングによりノズル内の排インクを確実に排出しておくことが好ましい。
【0077】
以上説明した実施形態及びその変更形態は、インクジェットプリンタに適用したものであるが、画像記録以外の用途で使用される液滴噴射装置においても、吸引パージ後の液体の混合という問題は生じ得ることから、様々な分野で使用される液滴噴射装置に対しても、本発明を適用することは可能である。
【符号の説明】
【0078】
1 インクジェットプリンタ
4 インクジェットヘッド
4a インク噴射面
16 ノズル
16cl カラーノズル
16bk ブラックノズル
21,21A,21B キャップ部材
21c 仕切り壁
23 吸引ポンプ
24 切り換えユニット
26 第1キャップ部
26 第2キャップ部
28,29 吸引口
66 フラッシング制御部
71〜74 キャップ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を噴射する複数のノズルが開口した液滴噴射面を有する液滴噴射ヘッドと、
前記液滴噴射ヘッドの前記液滴噴射面に離接可能で、前記複数のノズルの開口を覆う大きさを有し、且つ、吸引口が形成されたキャップ部材と、
前記キャップ部材の前記吸引口に接続され、前記キャップ部材が前記液滴噴射面に接触した状態において、前記キャップ部材内を吸引し前記ノズルから液体を排出する、吸引パージを行う吸引手段と、
前記液滴噴射ヘッドを制御して、前記複数のノズルのそれぞれについて、前記ノズルから液滴を噴射させて液体を排出する、フラッシングを行わせるフラッシング制御手段を有し、
前記キャップ部材は、前記液滴噴射面から離れるときに、前記液滴噴射面との接触面が前記液滴噴射面に対して傾くように傾動可能に構成され、
前記フラッシング制御手段は、
前記吸引パージ後に行うフラッシングにおいては、前記液滴噴射面の、傾斜状態の前記キャップ部材が最後に離れる位置に近いノズルほど、フラッシング量を多くすることを特徴とする液滴噴射装置。
【請求項2】
前記液滴噴射ヘッドは、複数種類の液体の液滴をそれぞれ噴射する複数種類のノズルを有し、
前記キャップ部材は、前記複数種類のノズルの開口を共通に覆う大きさを有することを特徴とする請求項1に記載の液滴噴射装置。
【請求項3】
前記液滴噴射ヘッドは、複数種類の液体の液滴をそれぞれ噴射する複数種類のノズルを有し、
前記キャップ部材は、前記複数種類のノズルの開口を、種類毎にそれぞれ個別に覆う大きさを有するとともに仕切り壁で区切られた複数のキャップ部を有し、前記複数のキャップ部に複数の吸引口がそれぞれ形成されていることを特徴とする請求項1に記載の液滴噴射装置。
【請求項4】
前記液滴噴射ヘッドは、染料インクと顔料インクをそれぞれ噴射する2種類の前記ノズルを有することを特徴とする請求項3に記載の液滴噴射装置。
【請求項5】
前記液滴噴射ヘッドは、所定の配列方向に配列され、ブラックインクの液滴を噴射する複数の第1ノズルと、前記配列方向と交差する方向に前記複数の第1ノズルと並ぶように前記配列方向に配列され、前記第1ノズルよりもノズル数が多い、カラーインクの液滴を噴射する複数の第2ノズルとを有し、
前記キャップ部材は、前記複数の第1ノズルを覆う第1キャップ部と、前記第1キャップ部よりも内容積が大きい、前記複数の第2ノズルを覆う第2キャップ部とを有し、
さらに、前記キャップ部材は、前記液滴噴射面との接触面が、前記配列方向に対して傾くように傾動可能に構成され、
前記フラッシング制御手段は、前記複数の第1ノズルについて、前記液滴噴射面の、傾斜状態の前記キャップ部材が最後に離れる位置に近いノズルほど、フラッシング量を多くすることを特徴とする請求項3又は4に記載の液滴噴射装置。
【請求項6】
前記キャップ部材の、前記液滴噴射面に対して傾斜したときの前記液滴噴射面に近い側の端部に前記吸引口が形成されていることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の液滴噴射装置。
【請求項7】
前記キャップ部材の前記吸引口が前記吸引手段に接続された吸引パージ可能状態と、前記吸引口が大気に連通した大気連通状態の、前記吸引口の2つの状態を切り換える切り換え手段を備え、
前記フラッシング制御手段は、
前記大気連通状態にある前記キャップ部材によって前記液滴噴射面が覆われていた後に行うフラッシングにおいては、前記キャップ部材の吸引口からの距離が遠いノズルほどフラッシング量を少なくすることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の液滴噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−76252(P2012−76252A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220901(P2010−220901)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】