説明

液滴移送装置

【課題】液滴移送のための構成を簡素化しつつ、長い距離にわたって液滴を移送することが可能な、液滴移送装置を提供する。
【解決手段】インクジェットヘッド1のノズルプレート13に設けられた液滴移送装置8は、ノズルプレート13の下面に配置された第1電極40、及び、第2電極41と、第1電極40と第2電極41にそれぞれ電位を付与するドライバ44と、ノズルプレート13の下面に配置されるとともに、第1電極40と第2電極41の両方に電気的に導通した抵抗体層42と、第1電極40、第2電極41、及び、抵抗体層42を覆う絶縁層43とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板表面に沿って導電性を有する液滴を移送する液滴移送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、記録用紙等の被記録媒体に画像等を記録するプリンタには、インク流路内のインクに圧力を付与してノズルへインクを移送し、さらに、ノズルから被記録媒体に向けてインクの液滴を噴射させるインクジェット方式の記録ヘッドが広く採用されている。しかし、このようなインクジェット方式の記録ヘッドにおいては、インクに移送圧力及び噴射圧力を付与するための流路構造やアクチュエータの構造が特殊で複雑なものとなっていた。
【0003】
そこで、本願発明者は、従来のインクジェット方式の記録ヘッドよりも簡単な構成で、インク液滴を被記録媒体へ移送することが可能な装置として、エレクトロウェッティング現象を利用して液滴を移送する方式の液滴移送装置を提案している(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1に記載された液滴移送装置は、その表面に、共通液室から被記録媒体に至る液体移送経路が設けられた基板と、基板の表面において液体移送経路に沿って配置された複数の電極と、これら複数の電極を覆う絶縁層とを有する。ここで、絶縁層によって覆われた電極と、絶縁層の表面の液滴との間の電位差が大きいほど、絶縁層の表面の撥液性が低下するという現象(エレクトロウェッティング現象)が知られている。そのため、液体移送経路に沿って並ぶ複数の電極の電位を順に切り換えていくことにより、それらの電極の表面を覆う絶縁層の撥液性を順番に低下させることで、共通液室から導出された液滴を液体移送経路に沿って被記録媒体まで移送することが可能となる。
【0005】
【特許文献1】特開2006−15541号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、電極と液滴との電位差が大きくなった場合に、絶縁層の表面の撥液性が低下するのは、あくまでも電極を覆っている領域のみであり、隣接する電極の間の領域においては絶縁層の撥液性は低下しない。そのため、移送する液滴の大きさに対して電極の配置間隔を大きくし過ぎると、隣接する電極の間で液滴を移動させることができなくなる。
【0007】
従って、共通液室から被記録媒体までの液体移送経路が長いと、この液滴移送経路に沿って多数の電極を配置する必要があり、さらに、これらの電極にそれぞれ電位を付与するための配線の数も多くなる。また、1つの液滴を移送するために、移送経路の多数の電極の電位を順番に切り換えていく必要があり、電極の電位制御も複雑になる。即ち、液滴移送のための構成が複雑になってしまうという問題がある。
【0008】
本発明の目的は、液滴移送のための構成を簡素化しつつ、長い距離にわたって液滴を移送することが可能な、液滴移送装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明の液滴移送装置は、基材表面に沿って導電性を有する液滴を移送する液滴移送装置であって、
前記基材表面に配置された第1電極、及び、第2電極と、前記第1電極と前記第2電極にそれぞれ電位を付与する電位付与手段と、前記基材表面に配置されるとともに、前記第1電極と第2電極の両方に電気的に導通し、さらに、前記電位付与手段により前記第1電極と前記第2電極に互いに異なる電位が付与されたときに両電極間で電位降下を生じさせる抵抗体層と、前記第1電極、前記第2電極、及び、前記抵抗体層を覆うとともに、前記液滴と前記第1、第2電極及び前記抵抗体層との間の電位差が大きいほど、表面における撥液性が低下する絶縁層とを備えていることを特徴とするものである。
【0010】
本発明においては、基材表面の第1電極と第2電極とが抵抗体層で接続されていることから、これら2種類の電極に互いに異なる電位がそれぞれ付与されたときに、抵抗体層によって電位降下(電圧降下)が生じる。つまり、抵抗体層内に電位勾配が発生する。従って、抵抗体層を覆う領域においては、この抵抗体層の電位勾配に応じて絶縁層の撥液性が徐々に低下する(絶縁層表面に対する液滴の濡れ角が低下する)ことから、第1電極と第2電極間において抵抗体層に沿って液滴を移送することが可能となる。
【0011】
これによれば、長い距離にわたって液滴を移送する場合においても、移送元の電極と移送先の電極の間に別の電極を多数配置してそれらの電位を切り換える必要がない。従って、基板表面に配置する電極の数を少なくすることができ、また、電極の電位制御も簡単になるため、液滴移送のための構成を簡素化できる。
【0012】
第2の発明の液滴移送装置は、前記第1の発明において、前記抵抗体層は、前記基材表面の、前記第1電極と前記第2電極の間の領域に配置されていることを特徴とするものである。この構成によれば、第1電極と第2電極の間において、最短距離で液滴を移送することが可能になる。
【0013】
第3の発明の液滴移送装置は、前記第2の発明において、前記基材表面において、前記第1電極と前記第2電極が互いに平行に延在していることを特徴とするものである。第1電極と第2電極が平行であると、これら第1電極と第2電極に互いに異なる電位が付与されたときに、それらの間に配置された抵抗体層には、第1、第2電極の延在方向と直交する方向に電位勾配が発生する。従って、基板表面のどの位置に液滴が付着したかにかかわらず、液滴を常に同じ方向(第1、第2電極の延在方向と直交する方向)に移送することができる。また、基板表面に付着した複数の液滴を全て同じ方向に移送することができる。
【0014】
第4の発明の液滴移送装置は、前記第1〜第3の何れかの発明において、前記第1電極、前記第2電極、及び、前記抵抗体層が、同一の導電性材料で形成されており、さらに、前記抵抗体層の厚みが、前記第1電極及び前記第2電極の厚みよりも小さくなっていることを特徴とするものである。この構成によれば、導電性材料の厚みを変えるだけで、第1電極、第2電極、及び、抵抗体層を同一の導電性材料で形成することができるため、電極及び抵抗体層を基板の表面に形成することが容易になり、コストを低減することも可能になる。
【0015】
第5の発明の液滴移送装置は、前記第1〜第4の何れかの発明において、前記電位付与手段は、前記第2電極に対して、前記第1電極と比べて前記液滴との電位差が大きくなるような電位を付与することが可能に構成されており、前記基板表面の、前記第2電極の周囲領域で、且つ、前記絶縁層で覆われていない領域に、前記絶縁層の表面よりも常に撥液性が低い、親液性領域が設けられていることを特徴とするものである。
【0016】
第2電極と液滴との電位差が、第1電極と液滴との電位差が大きくなると、抵抗体層を覆う領域における絶縁層の撥液性は、第2電極側に向かうほど低くなるため、液滴は第1電極から第2電極へ移動することになる。ここで、本発明においては、移動先の第2電極の周囲に、絶縁層の表面よりも常に撥液性が低い親液性領域が設けられていることから、第1電極から第2電極に移送されてきた液滴は親液性領域まで移動し、その後の第2電極の電位にかかわらず、親液性領域から絶縁層の表面に液滴が戻ることはない。従って、液滴が親液性領域に移動して液滴移送が完了したときには、第1電極と第2電極とを電位が同じ状態に戻して、抵抗体層に電流が流れないようにすることができ、消費電力を抑えることができる。
【0017】
第6の発明の液滴移送装置は、前記第1〜第5の何れかの発明において、前記電位付与手段は、前記第1電極と前記第2電極に同じ電位を付与する待機モードと、前記第1電極と前記第2電極に互いに異なる電位を付与することにより、前記抵抗体層に沿って前記液滴を移送させる液滴移送モードの、2つのモードを切換可能に構成されていることを特徴とするものである。
【0018】
この構成によれば、液滴を移送することが必要な場合にのみ、液滴移送モードに切り換えて2つの電極に互いに異なる電位をそれぞれ付与し、液滴を移送しないときには待機モードにして2つの電極を同じ電位にし、抵抗体層に電流が流れない状態にすることができるため、消費電力を低減することができる。
【0019】
第7の発明の液滴移送装置は、前記第1〜第6の何れかの発明において、前記基板表面に、複数の前記第2電極が間隔を空けて並べて設けられており、隣接する第2電極同士が前記抵抗体層を介して接続されていることを特徴とするものである。
【0020】
液滴の移送距離がかなり長い場合に、移送元の位置と移送先の位置にそれぞれ第1電極と第2電極が配置されているだけだと、両電極の間の電位差をかなり高くしないと、抵抗体層に生じる電位勾配が小さくなってしまうため、液滴移送が難しくなる。しかし、本発明においては、移送元の位置と移送先の位置との間において、複数の第2電極が間隔を空けて並べて配置されており、隣接する第2電極同士が抵抗体層で接続されている。これによれば、液滴移送元と移送先の間の距離が長い場合でも、隣接する電極間の距離を短くすることができる。従って、複数の第2電極の電位を液滴の位置に応じて切り換えることにより、抵抗体層に生じる電位勾配を、液滴移送に必要な程度に大きくすることができ、長い距離にわたっての液滴移送が可能になる。
【0021】
第8の発明の液滴移送装置は、前記第1〜第7の何れかの発明において、液滴を吐出する液滴吐出装置に設けられた液滴移送装置であって、
前記基板の表面に、前記液滴吐出装置の吐出口が配置され、前記第1電極が前記基板表面の前記吐出口の周囲位置に設けられるとともに、前記第2電極が前記基板表面の前記第1電極よりも前記吐出口から離れた位置に設けられ、前記抵抗体層が前記第1電極と前記第2電極の両方と電気的に導通しており、
前記電位付与手段が、前記第2電極に対して、前記第1電極と比べて前記液滴との電位差が大きくなるような電位を付与することにより、前記吐出口の周囲に付着した液滴を前記第1電極から前記抵抗体層に沿って前記第2電極へ移送するように構成されていることを特徴とするものである。
【0022】
基板の表面の、吐出口の周囲位置に第1電極が設けられる一方で、第1電極よりも吐出口から離れた位置には第2電極が設けられている。さらに、第1電極と第2電極は抵抗体層で接続されている。そして、吐出口の周囲の第1電極よりも、吐出口から離れた第2電極に対して、液滴との電位差が大きくなるような電位が付与されると、第1電極と第2電極の間の抵抗体層に電位降下(電位勾配)が生じ、抵抗体層を覆う絶縁層の撥液性が第2電極に向かうほど小さくなる。従って、吐出口の周囲に付着した液滴が、絶縁層の表面において、第1電極から抵抗体層に沿って第2電極へ向けて移送され、吐出口から遠ざけられる。
【0023】
第9の発明の液滴移送装置は、前記第1〜第7の何れかの発明において、前記基板とこの基板表面に設けられた液室を有し、前記液室から導出された液滴を前記基板の表面に沿って移送する液滴移送装置であって、
前記第1電極が、前記基板表面の、前記液室から液滴を導出する導出口の近傍位置に設けられるとともに、前記第2電極が、前記基板表面の前記第1電極よりも前記導出口から離れた位置に設けられ、前記抵抗体層が前記第1電極と前記第2電極の両方と電気的に導通しており、
前記電位付与手段が、前記第1電極に対して前記液室内の液体の電位と異なる電位を付与することにより前記液室から液滴を導出させ、さらに、電位付与手段が、前記第2電極に対して、前記第1電極と比べて前記液滴との電位差が大きくなるような電位を付与することにより、前記液室から導出された液滴を前記第1電極から前記抵抗体層に沿って前記第2電極へ移送するように構成されていることを特徴とするものである。
【0024】
基板の表面には液体を貯留する液室が配置され、この液室の導出口の近傍位置に第1電極が設けられている。また、第2電極は、基板の表面の、第1電極よりも導出口から離れた位置に設けられている。さらに、第1電極と第2電極は抵抗体層で接続されている。そして、導出口近傍の第1電極よりも、導出口から離れた第2電極に対して、液滴との電位差が大きくなるような電位が付与されると、第1電極と第2電極の間の抵抗体層に電位降下(電位勾配)が生じ、抵抗体層を覆う絶縁層の撥液性が第2電極に向かうほど小さくなる。従って、液室の導出口から導出された液滴が、絶縁層の表面において、第1電極から抵抗体層に沿って第2電極へ向けて、導出口から離れるように移送される。
【0025】
第10の発明の液滴移送装置は、前記第9の発明において、前記電位付与手段が、前記第1電極に前記液体の電位と異なる電位を付与する時間を調節することによって、前記液室から導出する液滴の大きさを変えるように構成されていることを特徴とするものである。
【0026】
この構成によれば、電位付与手段が、第1電極に対して、液室内の液体の電位と異なる電位を付与するときの、その電位付与時間を調節することで、液滴から導出される液滴の大きさ(液滴体積)を変えることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明においては、基材表面の第1電極と第2電極とが抵抗体層で接続されていることから、これら2種類の電極に互いに異なる電位がそれぞれ付与されたときに、抵抗体層において電位降下(電位勾配)が生じる。従って、抵抗体層を覆う領域においては、絶縁層の撥液性は、抵抗体層の電位勾配に応じて徐々に低下することから、第1電極と第2電極間において抵抗体層に沿って液滴を移送することができる。これによれば、比較的長い距離にわたって液滴を移送する場合においても、移送元の電極と移送先の電極の間に別の電極を多数配置してそれらの電位を切り換える必要がないため、液滴移送のための構成を簡素化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
<第1実施形態>
次に、本発明の第1実施形態について説明する。この第1実施形態は、ノズルからインクを吐出するインクジェットヘッド(液滴吐出装置)の液滴吐出面に設けられ、この液滴吐出面に付着した液滴を移送する液滴移送装置に、本発明を適用した一例である。
【0029】
まず、インクジェットヘッド、及び、このインクジェットヘッドを備えたプリンタについて説明する。図1は、プリンタの概略構成図である。図1に示すように、インクジェットプリンタ100は、図1の左右方向(走査方向)に移動可能なキャリッジ2と、このキャリッジ2に設けられ、記録用紙P1に対してインクを吐出するシリアル型のインクジェットヘッド1と、記録用紙P1を図1の前方へ搬送する搬送ローラ3と、インクジェットヘッド1等のプリンタ100の各構成部を制御する制御装置6(図4、図9参照)とを備えている。そして、このインクジェットプリンタ100は、キャリッジ2とともにインクジェットヘッド1を移動させつつ、インクジェットヘッド1のノズル20から記録用紙P1へインクを吐出させ、同時に、搬送ローラ3により記録用紙P1を前方へ搬送させることで、記録用紙P1に所望の画像や文字等を記録するように構成されている。
【0030】
図2は、インクジェットヘッドの平面図、図3は、図2の一部拡大図、図4は、図3のA−A線断面図である。図2〜図4に示すように、インクジェットヘッド1は、ノズル20及び圧力室14を含むインク流路が形成された流路ユニット4と、圧力室14内のインクに圧力を付与することにより、流路ユニット4のノズル20からインクを吐出させる圧電アクチュエータ5を備えている。
【0031】
まず、流路ユニット4について説明する。図4に示すように、流路ユニット4は、ステンレス鋼等の金属材料で形成された、キャビティプレート10、ベースプレート11、及び、マニホールドプレート12と、絶縁材料(例えば、ポリイミド等の高分子合成樹脂材料)で形成されたノズルプレート13を備えており、これら4枚のプレート10〜13は積層状態で接合されている。
【0032】
図2〜図4に示すように、4枚のプレート10〜13のうち、最も上方に位置するキャビティプレート10には、複数の圧力室14が形成されている。各圧力室14は、平面視で走査方向(図2の左右方向)に長い、略楕円形状に形成されている。また、複数の圧力室14は、紙送り方向(図2の上下方向)に千鳥状に2列に配列されている。そして、後述する圧電アクチュエータ5が流路ユニット4の上面に接合されることによって、複数の圧力室14の上部が、圧電アクチュエータ5に覆われた構造となっている。また、図2に示すように、キャビティプレート10には、図示しないインクタンクと接続されるインク供給口18も形成されている。
【0033】
図3、図4に示すように、ベースプレート11の、平面視で圧力室14の両端部と重なる位置には、それぞれ連通孔15,16が形成されている。また、マニホールドプレート12には、平面視で、2列に配列された圧力室14の連通孔15側の部分と重なるように、紙送り方向に延びる2つのマニホールド17が形成されている。これら2つのマニホールド17は、キャビティプレート10に形成されたインク供給口18に連通しており、図示しないインクタンクからインク供給口18を介してマニホールド17へインクが供給される。さらに、マニホールドプレート12の、平面視で複数の圧力室14のマニホールド17と反対側の端部と重なる位置には、複数の連通孔16にそれぞれ連なる複数の連通孔19が形成されている。
【0034】
さらに、ノズルプレート13の、平面視で複数の連通孔19に重なる位置には、複数のノズル20がそれぞれ形成されている。これら複数のノズル20は、複数の圧力室14とそれぞれ対応して千鳥状に2列に配列されている。尚、図4に示すように、ポリイミド等の合成樹脂材料からなるノズルプレート13の下面には、この面に付着した液滴をノズル20の吐出口20aから遠ざかるように移送する、本願特有の液滴移送装置8が設けられている。そして、ノズルプレート13の下面は、この液滴移送装置8に含まれる絶縁層であって、その表面の撥液性がノズルプレート13の下面よりも高い絶縁層43で覆われている。液滴移送装置8については後ほど詳細に説明することにする。
【0035】
図4に示すように、マニホールド17は連通孔15を介して圧力室14に連通し、さらに、圧力室14は、連通孔16,19を介してノズル20に連通している。このように、流路ユニット4内には、マニホールド17から圧力室14を経てノズル20に至る個別インク流路21が複数形成されている。
【0036】
次に、圧電アクチュエータ5について説明する。圧電アクチュエータ5は、複数の圧力室14を覆うように流路ユニット4の上面に接合された振動板30と、この振動板30の上面に配置された圧電層31と、圧電層31の上面に形成された複数の個別電極32とを備えている。
【0037】
振動板30は、例えば、ステンレス鋼等の鉄系合金、銅系合金、ニッケル系合金、あるいは、チタン系合金などからなる金属板である。この金属製の振動板30は、ヘッドドライバ37(図4参照)を介して、常にグランド電位に保持されている。また、圧電層31は、チタン酸鉛とジルコン酸鉛との固溶体であり強誘電体であるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を主成分とする圧電材料からなる。
【0038】
複数の個別電極32は、圧電層31の上面の、複数の圧力室14の中央部と対向する領域にそれぞれ配置されている。また、複数の個別電極32からはそれぞれ接点部35が引き出されている。そして、これら複数の個別電極32は、接点部35に接合された、図示しない配線部材を介してヘッドドライバ37と接続されており、複数の個別電極32のそれぞれに対して、ヘッドドライバ37から、グランド電位と、このグランド電位とは異なる所定の駆動電位の何れか一方が付与されるようになっている。
【0039】
インク吐出時における圧電アクチュエータ5の作用について説明する。あるノズル20からインクの液滴を吐出させる場合には、このノズル20に連通する圧力室14に対応する個別電極32に、ヘッドドライバ37から駆動電位が付与される。すると、駆動電位が付与された個別電極32とグランド電位に保持されている振動板30との間に電位差が生じ、両者に挟まれた圧電層31に厚み方向に平行な電界が発生する。ここで、圧電層31の分極方向が電界方向と同じである場合には、圧電層31は厚み方向に伸びて面方向に収縮する。この圧電層31の収縮変形に伴って、振動板30の圧力室14と対向する部分が圧力室14側に凸となるように変形する(ユニモルフ変形)。このとき、圧力室14の容積が減少することになるから、その内部のインクの圧力が上昇し、圧力室14に連通するノズル20からインクが吐出される。
【0040】
次に、ノズルプレート13に設けられた液滴移送装置8について詳細に説明する。図5は、インクジェットヘッド1を下側(ノズルプレート13側)から見たときの平面図である。
【0041】
この液滴移送装置8は、ノズル20の吐出口20aから吐出された液滴の一部がノズルプレート13の下面の、吐出口20aの周囲領域に付着したときに、この液滴が、次にノズル20から吐出される液滴と干渉しないように、吐出口20aから遠ざかる方向に移送するものである。
【0042】
従来のインクジェットヘッドにおいては、ノズルプレートの表面がフッ素系樹脂等の撥液膜でコーティングされており、吐出口から吐出された液滴の一部がこの撥液膜の表面に付着した場合には、ワイパーによってこの液滴を拭き取るのが一般的である。しかし、この従来構成においては、長期間にわたってワイパーの拭き取りが繰り返されることによって、ノズルプレートを覆う撥液膜が徐々に摩耗してその表面撥液性が低下していき、その結果、吐出口周囲の液滴の除去が困難になるという問題があった。
【0043】
そこで、この第1実施形態においては、長期間の使用によっても絶縁層43(撥液膜)の撥液性が低下することがないように、ワイパーを使用しない液滴移送装置8が採用されている。この液滴移送装置8は、電極(第2電極41)を覆っている領域の絶縁層43の表面における撥液性が、電極とインクとの間の電位差に応じて変化する現象(エレクトロウェッティング現象)を利用して、液滴を吐出口20aから遠ざかる方向に移送するように構成されている。
【0044】
図4、図5に示すように、液滴移送装置8は、絶縁性材料(例えば、ポリイミド等の高分子樹脂材料)からなるノズルプレート13(基板)の下面に配置された第1電極40、及び、第2電極41と、同じくノズルプレート13の下面に配置され、第1電極40と第2電極41の両方に電気的に導通して両者を接続する抵抗体層42と、第1電極40、第2電極41、及び、抵抗体層42を覆う絶縁層43と、第1電極40及び第2電極41に電位を付与するドライバ44(電位付与手段)とを有する。
【0045】
図5に示すように、第1電極40は、紙送り方向(図5の上下方向)に配列されたノズル20の近傍領域(吐出口20aの周囲領域)において、ノズル20の配列方向に沿って、複数のノズル20にわたって連続的に延在している。また、第2電極41は、第1電極40よりも複数の吐出口20aから走査方向の一方(図5の右方)に離れた領域において、ノズル20の配列方向に沿って、複数のノズル20にわたって連続的に延在している。つまり、吐出口20aの周囲位置にある第1電極40と、第1電極40よりも吐出口20aから離れた第2電極41とが、走査方向に間隔を空けて互いに平行に配置され、さらに、両電極40,41は、複数の吐出口20aに関して共通に設けられている。尚、第1電極40と第2電極41は、共に、金、銅、銀、パラジウム、白金、あるいは、チタンなどの導電性材料からなり、スクリーン印刷法、スパッタ法、あるいは、蒸着法等により形成される。
【0046】
また、図4に示すように、第1電極40と第2電極41はドライバ44と接続されている。第1電極40には、ドライバ44から常にグランド電位が付与される。一方、第2電極41には、ドライバ44から、グランド電位と、このグランド電位とは異なる所定の電位(移送電位)の一方が選択的に付与される。
【0047】
抵抗体層42は、ある電気抵抗率を示す抵抗材料で形成されており、ノズルプレート13の下面において、互いに平行に配置された第1電極40と第2電極41の間の領域に、全面的に形成されている。また、この抵抗体層42の走査方向(図4、図5の左右方向)に関する両端部は第1電極40と第2電極41にそれぞれ重ね合わされており、抵抗体層42は、電極40,41の両方と電気的に導通している。そして、ドライバ44により、第1電極40にグランド電位が付与されるとともに第2電極41に対して移送電位が付与され、第1電極40と第2電極41の電位が互いに異なった状態においては、この抵抗体層42は電気抵抗として作用し、この抵抗体層42に電流が流れることによって両電極40,41の間で電位降下(一般には電圧降下ともいう)を生じさせる。つまり、抵抗体層42に電位勾配が生じる。
【0048】
このような抵抗体層42に使用される抵抗材料としては、グラファイト、カーボン、PG/PBN(高純度カーボン/パイロリティックボロンナイトライド)、窒化アルミニウム又はタングステン等を採用することができる。そして、これらの抵抗材料を、エアロゾルデポジション法、スパッタ法、蒸着法又はゾルゲル法などの成膜法を用いて、ノズルプレート13に直接付着させることにより、抵抗体層42を形成することができる。
【0049】
絶縁層43は、第1電極40、第2電極41、及び、抵抗体層42を完全に覆うように、ノズルプレート13の下面に形成されている。但し、絶縁層43は、ノズルプレート13下面の、第2電極41よりもノズル20の吐出口20aから離れた領域(図4では、第2電極41の右側の領域)には形成されておらず、この領域ではノズルプレート13が露出している。また、絶縁層43は、フッ素系樹脂など、ノズルプレート13を構成するポリイミド等の基材よりも、表面の撥液性が十分高い材料で形成されている。これにより、ノズルプレート13の下面の、絶縁層43により覆われていない領域は、絶縁層43で覆われている領域よりも撥液性が常に低い親液性領域45となっている。尚、この絶縁層43は、スピンコート法等によってノズルプレート13の下面に形成することができる。
【0050】
ドライバ44は、後述する制御装置6の液滴除去制御部52(図9参照)からの指令に基づいて、吐出口20aの周囲に配置された第1電極40には常にグランド電位を付与する一方で、第2電極41には、グランド電位と移送電位の何れか一方を付与する。別の言い方をすれば、ドライバ44は、第1電極40と第2電極41に同じ電位(グランド電位)を付与するモード(待機モード)と、第1電極40と第2電極41に互いに異なる電位を付与するモード(液滴移送モード)を切り換え可能に構成されている。
【0051】
ここで、前述したように、圧電アクチュエータ5の振動板30と、流路ユニット4のキャビティプレート10、ベースプレート11、及び、マニホールドプレート12は、金属製のプレートである。そして、振動板30がヘッドドライバ37を介してグランド電位に保持されていることから、この振動板30に接合された3枚のプレート10〜12もグランド電位となっており、さらに、それらのプレート10〜12に形成されたインク流路を流れるインクの電位もほぼグランド電位に保持される。
【0052】
そして、この絶縁層43の表面に、導電性を有するインクの液滴が存在している状態においては、絶縁層43の表面に接する液滴の電位と、裏面に接する電極40,41又は抵抗体層42の電位との間の電位差が大きいほど、これらを覆う領域における、絶縁層43の表面の撥液性(絶縁層43の表面に対する液滴の濡れ角)は低下することになる(エレクトロウェッティング現象)。
【0053】
このエレクトロウェッティング現象によって生じる、絶縁層43上における液滴の挙動について、図6〜図8を参照して具体的に説明する。尚、図6〜図8において、“+”は、第2電極41に移送電位(例えば、+30V)が付与されている状態を示し、“GND”は、第1電極40又は第2電極41にグランド電位が付与されている状態を示す。また、移送電位は、インクの液滴の電位(グランド電位)と異なる電位であって、第2電極41と液滴との間に電位差を生じさせるものであればよいことから、必ずしも正の電位である必要はなく、負の電位であってもよい(例えば、−30V)。
【0054】
まず、第1電極40は、ドライバ44によって常にグランド電位に保持されているため、この第1電極40とインクIとの間の電位差はほとんど0である。そのため、吐出口20aの周囲に配置された第1電極40を覆う領域においては、絶縁層43の表面の撥液性は常に高い状態である。
【0055】
また、ドライバ44が待機モードを選択しており、図6に示すように、このドライバ44によって第2電極41にもグランド電位が付与されている状態では、第1電極40と第2電極41の電位が同じであることから、両者の間に設けられた抵抗体層42に電位勾配が生じず、抵抗体層42の全域においてその電位はグランド電位となる。そのため、第2電極41や抵抗体層42を覆う領域においても、絶縁層43の表面の撥液性は高い状態となる。つまり、絶縁層43の撥液性がその全域にわたって均一な状態であるため、吐出口20aから吐出されたインクIの液滴の一部が、この吐出口20aに近い第1電極40を覆う領域の絶縁層43の表面に付着しても、この液滴50は周囲に移動しない。
【0056】
一方、ドライバ44が液滴移送モードを選択しており、図7に示すように、このドライバ44によって第2電極41に移送電位が付与されている場合には、第1電極40と第2電極41の電位が互いに異なる状態となり、両者の間に設けられた抵抗体層42には電位勾配が生じる。尚、第1電極40と第2電極41はノズル20の配列方向(図7の紙面垂直方向)に沿って互いに平行に延在していることから、これらの間の抵抗体層42内の等電位線は電極40,41の延在方向に平行となり、電位勾配は、この等電位線に直交する方向(図7の左右方向)に生じる。
【0057】
すると、電位勾配が生じた抵抗体層42とグランド電位の液滴50との間の電位差は、第2電極41に近いほど大きくなる。従って、この抵抗体層42を覆う領域における絶縁層43の表面の撥液性が、第2電極41に向かうほど低下することになる。
【0058】
具体例を挙げると、例えば、液滴50の絶縁層43の表面に対する濡れ角が、グランド電位が付与されている第1電極40を覆う領域においては110°程度であるが、移送電位が付与された第2電極41を覆う領域においては65°程度まで低下するとする。この場合、両電極40,41の間の抵抗体層42を覆う領域においては、濡れ角が110°から65°まで徐々に低下する。そのため、吐出口20aから吐出された液滴の一部が、この吐出口20aに近い第1電極40を覆う領域の絶縁層43の表面に付着すると、この液滴50は、図6及び図7に示されるように、電極41側における絶縁層43との接点部Pの方が電極40側における絶縁層43との接点部Qよりも濡れ角が小さくなるため、撥液性が低い(濡れ角が低い)領域である、第2電極41に向かって、抵抗体層42に沿って、吐出口20aから離れるように移送される。
【0059】
また、ノズルプレート13の下面の、第2電極41の周囲領域には、絶縁層43の表面よりも常に撥液性が低い、親液性領域45が設けられている(例えば、濡れ角55°の領域)。従って、図8に示すように、絶縁層43上を第2電極41まで移送された液滴50は、さらに、絶縁層43から親液性領域45まで移動する。そして、一度、親液性領域45まで移動した液滴50は、それよりも撥液性の高い絶縁層43の表面に戻ることはない。
【0060】
このように、第1電極40と第2電極41に互いに異なる電位が付与されたときに、抵抗体層42に電位勾配が生じることによって、この抵抗体層42を覆っている、第1電極40と第2電極41の間の領域における絶縁層43の撥液性が徐々に低下する。従って、移送元の第1電極40と移送先の第2電極41の離間距離(液滴50の移送距離)が比較的長い場合でも、これらの電極40,41の間に、液滴50を移送するための中間の電極を配置して、この中間電極の電位をこまめに切り換える必要がないため、液滴50を移送するための構成を簡素化できる。
【0061】
また、抵抗体層42は、ノズルプレート13の下面の、第1電極40と第2電極41の間の領域に配置されていることから、吐出口20aの周囲に付着した液滴50を、第1電極40と第2電極41の間において、液滴50を最短距離で(走査方向に沿って直線的に)移送することが可能になり、速やかに液滴50を吐出口20aから遠ざけることができる。
【0062】
また、第1電極40と第2電極41は、ノズル20の配列方向に沿って互いに平行に延在している。そのため、第1電極40と第2電極41の間に配置された抵抗体層42には、これら第1電極40及び第2電極41の延在方向と直交する方向に電位勾配が発生する。従って、ノズルプレート13の下面のどの位置に液滴50が付着したかにかかわらず、液滴50を常に同じ方向(電極40,41の延在方向と直交する方向)に移送することができ、インクジェットヘッド1の1つの端部において、ノズルプレート13の様々な位置から移送されてきた液滴50をまとめて回収することが可能である。さらに、ノズルプレート13の複数の吐出口20aの周囲領域にそれぞれ付着した複数の液滴50を、全て同じ方向に移送して一度に回収することも可能となる。
【0063】
次に、プリンタ100の全体制御を司る制御装置6について説明する。図9は、プリンタ100の電気的な構成を示すブロック図である。図9に示される制御装置6は、中央処理装置であるCPU(Central Processing Unit)と、プリンタ100の全体動作を制御する為の各種プログラムやデータ等が格納されたROM(Read Only Memory)と、CPUで処理されるデータ等を一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)等を備えている。
【0064】
さらに、この制御装置6は、記録制御部51と液滴除去制御部52とを備えている。記録制御部51は、PC等の入力装置55から入力されたデータに基づいて、キャリッジ2(図1参照)を往復駆動するキャリッジ駆動モータ53、インクジェットヘッド1のヘッドドライバ37、搬送ローラ3(図1参照)を回転駆動する搬送モータ54等を制御して、記録用紙P1への画像等の記録を行わせるものである。
【0065】
また、液滴除去制御部52は、液滴移送装置8を制御して、インクジェットヘッド1の吐出口20a付近に付着したインクの液滴を除去するものである。より具体的には、インクジェットヘッド1のインク吐出動作が行われていないときには、ノズルプレート13の吐出口20a周辺に液滴が付着しておらず、液滴を除去する必要性がないことから、液滴除去制御部52は、液滴移送装置8のドライバ44に待機モードを選択させ、第1電極40と第2電極41に同じ電位(グランド電位)を付与させる。
【0066】
一方、インクジェットヘッド1によるインク吐出動作が行われたときには、ノズルプレート13の吐出口20aの周囲に、多少なりともインクIの液滴が付着していると思われることから、ドライバ44に液滴移送モードを選択させて、図7に示すように、第2電極41に移送電位を付与させる。すると、絶縁層43の表面において、吐出口20aの周辺領域に配置された第1電極40から、吐出口20aから離れた第2電極41に向けて、抵抗体層42に沿って液滴50が移送される。
【0067】
このように、ドライバ44は、液滴50を移送することが必要な場合にのみ、液滴移送モードを選択して2つの電極40,41に互いに異なる電位をそれぞれ付与する一方で、液滴を移送する必要がないときには待機モードにして2つの電極40,41を同じ電位にし、抵抗体層42に電流が流れない状態にすることができるため、消費電力を低減することができる。
【0068】
また、前述したように、ノズルプレート13の下面の、第2電極41の周囲領域には、絶縁層43で覆われていない親液性領域45が設けられている。そのため、図8に示すように、第2電極41を覆う領域まで移送された液滴50はさらに親液性領域45まで移動して、さらに、この親液性領域45から絶縁層43の表面に戻ることはない。従って、液滴移送モードを選択して液滴50を親液性領域45まで移送した後には、待機モードに戻して、第2電極41の電位を、第1電極40と同じ電位にすることができる。つまり、液滴を移送しないときには、抵抗体層42に電流が流れないようにすることができ、消費電力を抑えることができる。
【0069】
以上説明したように、第1実施形態の液滴移送装置8においては、ノズルプレート13の下面の、吐出口20aの周囲に配置された第1電極40と、第1電極40よりも吐出口20aから離れた位置に配置された第2電極41とが、抵抗体層42により接続されている。従って、移送元の第1電極40と移送先の第2電極41の離間距離(液滴の移送距離)が比較的長い場合でも、これらの電極40,41の間に、液滴を移送するための中間の電極を多数配置して、この中間電極の電位をこまめに切り換える必要がない。そのため、電極の数を少なくすることができ、電極の電位制御も簡単になるため、液滴移送のための構成を簡素化できる。
【0070】
次に、前記第1実施形態に種々の変更を加えた変更形態について説明する。但し、前記第1実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0071】
1]前記第1実施形態においては、ドライバ44により移送電位が付与される第2電極41が、複数のノズル20の吐出口20aに対して共通に設けられていたが(図5参照)、図10に示すように、複数の吐出口20aにそれぞれ対応する複数の第2電極41Aが独立して設けられていてもよい(変更形態1)。この場合には、液滴を除去することが必要と思われる吐出口20a(例えば、直前に液滴が吐出されており、その周囲に液滴が付着していると推測される吐出口20a)に対応する第2電極41Aにのみ、ドライバ44から移送電位を付与することで、抵抗体層42を流れる極力電流を抑えて、消費電力を低減することが可能となる。
【0072】
さらに、この変更形態1において、図10に示すように、抵抗体層42Aが、複数の第2電極41Aに応じて分割されていると、ある吐出口20aの周囲に付着した液滴が、隣接する吐出口20aに対応する第2電極41Aに向けて移送されてしまうのが防止される。
【0073】
2]図11に示すように、複数の吐出口20aに対して複数の第2電極41Bがそれぞれ設けられた上で、前記第1実施形態と同様に、抵抗体層42が、複数の吐出口20a(複数の第2電極41B)に対して共通に設けられてもよい(変更形態2)。この構成では、図10のように抵抗体層42が分割されている構成と比べて、抵抗体層42を形成するのが容易になる。尚、図11に示されているように、ある吐出口20aの周囲に付着した液滴が、共通に設けられた抵抗体層42を介して、隣接する吐出口20aに対応する第2電極41に向けて移送されてしまうのを防止するために、図10の形態と比べて第2電極41Bの長さが若干短くなっていてもよい。
【0074】
3]ノズルプレート13の下面における、液滴の移送距離がかなり長い場合には、移送元の第1電極40と移送先の第2電極41との間の電位差をかなり高くしないと、抵抗体層42の電位勾配(即ち、絶縁層43の撥液性(濡れ角)の変化率)が小さくなるため、液滴移送が難しくなる。そこで、このような場合には、ノズルプレート13の下面に、複数の第2電極41が適当間隔を空けて並べて設けられ、隣接する第2電極41同士が抵抗体層42を介して接続されていることが好ましい(変更形態3)。このように構成されることによって、移送電位をそれほど高くすることなく、液滴を移送するのに必要な抵抗体層42の電位勾配を確保することができる。
【0075】
この変更形態3の一例を図12、図13に示す。図12、図13に示すように、吐出口20aの周囲に配置された第1電極40と、最終移送先の第2電極41cとの間に、さらに、2つの第2電極41a,41bが設けられており、これら4つの電極(第1電極40と3つの第2電極41a〜41c)は、ノズル20の配列方向と直交する走査方向(図12、図13の左右方向)に関して等間隔に配置されている。また、4つの電極40,41a〜41cは、それぞれ、隣接する電極と抵抗体層42を介して接続されている。さらに、4つの電極40,41a〜41cと抵抗体層42とが共通の絶縁層43で覆われている。
【0076】
この変更形態3の液滴移送装置の作用について、図14〜図18を参照して説明する。図14に示すように、インクジェットヘッド1による液滴の吐出が行われていないときには、制御装置6からの指令に基づいてドライバ44は待機モードを選択しており、ドライバ44により、第1電極40と3つの第2電極41は、全てグランド電位に保持されている。
【0077】
この状態から、インクジェットヘッド1によるインクIの液滴の吐出が行われるときには、制御装置6からドライバ44に対して、待機モードから液滴移送モードへ、モードを切り換える指令が入力される。すると、図15に示すように、ドライバ44は、まず、3つの第2電極41a〜41cの電位を、グランド電位から移送電位(例えば、30V)に切り換える。すると、グランド電位が付与されている第1電極40と、吐出口20aに最も近い位置にある第2電極41aとの間の抵抗体層42に電位勾配が発生するため、絶縁層43の表面に付着した液滴50は、第1電極40から第2電極41aへ移送される。
【0078】
第2電極41aに移送電位が付与されてから所定時間が経過して、液滴50が、最も吐出口20aに近い第2電極41aまで移送されると、図16に示すように、ドライバ44は、この第2電極41aの電位のみをグランド電位に切り換える(残りの第2電極41b、41cの電位は移送電位のままである)。すると、隣接する2つの第2電極41a,41bの間の抵抗体層42に電位勾配が発生するため、液滴50が電極41aから電極41bに向けて移送される。
【0079】
さらに、図17に示すように、第2電極41aの電位切り換えから所定時間経過して、液滴50が、第2電極41bまで移送されると、ドライバ44は、この真ん中に位置する第2電極41bの電位をグランド電位に切り換える。すると、液滴50は、吐出口20aから最も離れた位置にある第2電極41cに向けて移送される。さらに、図18に示すように、液滴50は、第2電極41cに到達した後、さらに、絶縁層43の表面よりも常に撥液性の低い親液性領域45へ移動する。その後、ドライバ44は、第2電極41cの電位をグランド電位に切り換えて、全ての電極(第1電極40及び3つの第2電極41a〜41c)にグランド電位を付与する待機モードに戻る。
【0080】
尚、液滴移送中の状態を示す図15、図16においては、ドライバ44は、液滴50に最も近い第2電極41だけでなく、それよりも移送方向下流側の第2電極41にも移送電位を付与しているが、液滴50に最も近い第2電極41にのみ移送電位を付与し、その移送電位が付与されている第2電極41に液滴50が到達したときに初めて、それよりも下流側に位置する第2電極41の電位をグランド電位から移送電位に切り換えるように構成されてもよい。
【0081】
このように、液滴移送元の領域(吐出口20aの周囲領域)と移送先の領域(親液性領域45)との間において、複数の第2電極41a〜41cが間隔を空けて並べて配置されており、隣接する第2電極41同士が抵抗体層42で接続されている。そのため、液滴移送元と移送先の間の距離が長い場合でも、隣接する電極間の距離を短くすることができる。従って、複数の第2電極41の電位を液滴50の位置に応じて切り換えることにより、抵抗体層42に生じる電位勾配を、液滴移送に必要な程度に大きくすることができ、さらに長い距離にわたっての液滴移送が可能になる。
【0082】
4]前記第1実施形態においては、第1電極40、第2電極41、及び、抵抗体層42が、別々の導電性材料で形成されているが、これらを、同一の導電性材料で形成することも可能である。即ち、図19に示すように、ノズルプレート13の下面に、1種類の導電性材料により、液滴移送方向(図19の左右方向)に関する中央部の厚みが両端部の厚みよりも小さくなるように導電層56を形成する。このような導電層56は、例えば以下のような方法で形成できる。まず、ノズルプレート13の下面にスパッタ法や蒸着法により均一な厚みの導電層を形成し、その後、この導電層の中央部にマスクを施してから、スパッタ法や蒸着法で両端部にのみ導電性材料を堆積させていく。これにより、中央部と両端部で厚みの異なる導電層を形成することができる。
【0083】
このようにして形成された導電層56のうちの、厚みの大きい両端部がそれぞれ第1電極40及び第2電極41となり、厚みの小さい中央部が、第1電極40や第2電極41よりも電気抵抗の大きい抵抗体層42となる。この構成によれば、導電性材料の厚みを変えるだけで、第1電極40、第2電極41、及び、抵抗体層42とを同一の導電性材料で形成することができることから、電極40,41及び抵抗体層42をノズルプレート13に形成することが容易であり、コストを低減することも可能になる。
【0084】
5]ノズルプレート13の下面の撥液性(濡れ角)は、絶縁層43の表面の撥液性よりも常に低い(濡れ角が低い)ことは必ずしも必要でない。例えば、液滴が第2電極41まで到達してから、第2電極41の電位がグランド電位に切り換えられたときに、ノズルプレート13の下面が露出した親液性領域45に液滴が移動してもよく、そのためには、ノズルプレート13の下面の撥液性は、少なくとも、第2電極41がグランド電位であるときの絶縁層43の撥液性よりも低ければよい。
【0085】
さらに、本発明は、ノズルプレート13が表面撥液性の非常に高い材料(例えば、絶縁層43を形成するフッ素系樹脂等と同等の撥液性を有する材料)で形成される場合を除外するものでもない。このようにノズルプレート13の基材表面自体の撥液性が高い場合であっても、第2電極41の周囲領域に、この第2電極41を覆う絶縁層43よりも表面撥液性の低い材料からなる親液層を形成すれば、親液性領域を設けることが可能である。
【0086】
6]液滴移送装置が設けられる、インクジェットヘッド1のノズルプレート13は、第1電極40、第2電極41、及び、抵抗体層42を配置することができるように、少なくとも下面において絶縁性を有する必要があるが、ノズルプレート13の全体が絶縁性材料で形成される必要は特にない。従って、ノズルプレート13が、その下面が絶縁性材料でコーティングされた金属製のプレートであってもよい。
【0087】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。図20は、第2実施形態の液滴移送装置の概略構成を示す斜視図、図21は、液滴移送装置の平面図、図22は図20のC−C線断面図、図23は、液滴移送装置の液滴移送動作を説明する図である。この第2実施形態の液滴移送装置は、インクの液滴を基板の表面に沿って移送し、この液滴を基板の先端側に配置された記録用紙P2(図23参照)に付着させることで、記録用紙P2に画像や文字等を記録するように構成された、プリント装置の一種である。
【0088】
図20〜図22に示すように、液滴移送装置61は、水平面に沿って配置された平板状の基板62と、この基板62の上面に接合されたインク室形成部材63とを有する。基板62は、少なくともその上面において絶縁性を示すようなものであればよく、例えば、ポリイミド等の高分子樹脂材料で形成されたものを使用できる。そして、この基板62の一端部の上面に箱状のインク室形成部材63が接合されることによって、基板62の上面とインク室形成部材63との間に、導電性を有するインクを貯留する共通インク室66(液室)が形成されている。この共通インク室66はインクタンク64とチューブ65を介して接続されており、インクタンク64から共通インク室66にインクが供給される。また、インク室形成部材63の、図20の紙面手前側の壁部63aには、その内部の共通インク室66からインクを導出するための複数の導出口63bが、等間隔空けて形成されている。
【0089】
尚、共通インク室66内のインクの電位は、ほぼグランド電位に保持されている。この状態は、例えば、インク室形成部材63がステンレス鋼等の金属材料で形成された上で、このインク室形成部材63がグランド電位に保持されることによって実現される。あるいは、共通インク室66の内面(基板62の上面、又は、インク室形成部材63の内面)に、常にグランド電位に保持されたグランド電極が配置され、このグランド電極に共通インク室66内のインクが接触することにより、インクの電位がグランド電位に維持されるようになっていてもよい。
【0090】
基板62の上面の、インク室形成部材63の壁部63aに形成された複数の導出口63bの近傍位置には複数の第1電極70がそれぞれ配置されている。つまり、複数の第1電極70は、複数の導出口63bにそれぞれ対応して、インク室形成部材63の壁部63aに沿って並べて配置されている。また、基板62の、インク室形成部材63と反対側の端部(図1の前端部)における上面には、第1電極70よりも導出口63bから離れた第2電極71が配置されている。尚、第2電極71は、複数の第1電極70にわたって、これら第1電極70の配列方向と平行に延在している。また、図22に示すように、複数の第1電極70と第2電極71は、それぞれドライバ74と接続されている。
【0091】
基板62の上面の、複数の第1電極70と第2電極71の間の領域には、複数の第1電極70にそれぞれ対応する複数の抵抗体層72が配置されている。これら複数の抵抗体層72は、第1電極70の配列方向に関して間隔を空けて配置されており、互いに独立している。また、抵抗体層72は、対応する第1電極70と第2電極71の両方に導通している。つまり、複数の抵抗体層72を介して複数の第1電極70と第2電極71が接続されている。そのため、第1電極70と第2電極71との間に電位差が存在する状況では、両者の間に配置された抵抗体層72には電位降下(電位勾配)が発生する。
【0092】
さらに、基板62の上面には、第1電極70、第2電極71、及び、抵抗体層72を完全に覆うように絶縁層73が形成されている。この絶縁層73は例えばフッ素系樹脂からなる。そして、前記第1実施形態と同様に、その表面に存在するインクの液滴と、第1電極70、第2電極71、及び、抵抗体層72との間の電位差が大きいほど、これらを覆う絶縁層73の表面における撥液性(濡れ角)は低下する。
【0093】
ドライバ74は、液滴移送装置61の全体動作を制御する制御装置76からの指令に基づいて、複数の第1電極70及び第2電極71に対して、グランド電位と移送電位の何れか一方を付与する。より具体的には、ドライバ74は、制御装置76からの指令に基づいて、液滴を移送しない待機モード(図23(a)参照)と、共通インク室66から液滴80を導出させる液滴導出モード(図23(b)参照)と、導出された液滴80を移送する液滴導出モード(図23(c)参照)のうちの1つのモードを選択し、選択されたモードに応じて第1電極70と第2電極71の電位を切り換えるように構成されている。
【0094】
この第2実施形態における液滴移送装置61の作用について図23を参照して説明する。液滴を移送しない(記録用紙P2に記録しない)ときには、制御装置76は、ドライバ74に待機モードを選択させる。すると、図23(a)に示すように、ドライバ74は、全ての第1電極70と第2電極71に対して、グランド電位を付与する。このとき、第1電極70と共通インク室66内のインクの電位との間に電位差がほとんどないことから、第1電極70を覆う絶縁層73の表面の撥液性は高いままであり、共通インク室66から導出口63bを介してインクIが導出されることはない。
【0095】
一方、ある導出口63bから液滴を導出して、基板62の先端側に位置する記録用紙P2へ液滴を移送する必要がある場合には、制御装置76は、ドライバ74に液滴導出モードを選択させる。すると、図23(b)に示すように、ドライバ74は、液滴を導出させたい導出口63bに対応する第1電極70に移送電位(例えば、30V)を付与するとともに、第2電極71にも移送電位を付与する。
【0096】
このように、所定の導出口63bに対応する第1電極70と第2電極71の電位が共に移送電位であることから、その第1電極70に対応する抵抗体層72の全域において電位が移送電位となり、抵抗体層72には電位抵抗は生じない。このとき、第1電極70、第2電極71、及び、抵抗体層72を覆う領域の全域において、絶縁層73の表面の撥液性(濡れ角)が低下するため、共通インク室66内からインクIの液滴80が導出口63bを介して絶縁層73の表面に導出される。
【0097】
ここで、ドライバ74から第1電極70に対して移送電位が付与されている間は、導出口63bからインクIが導出され続ける。つまり、導出口63bから導出される液滴80の量(液滴体積)は、第1電極70に移送電位が付与される時間に依存する。従って、制御装置76からの指令に基づいて、ドライバ74が、所定の時間の間、第1電極70に対して移送電位を付与することで、その所定の時間に応じた量の液滴80を導出口63bから導出することができる。さらに言えば、ドライバ74が、第1電極70に移送電位を付与する時間を調節することにより、共通インク室66から導出する液滴80の大きさを変えることができる。これにより、1つの導出口63bから、大きさ(体積)の異なる複数種類の液滴80を導出することが可能となる。
【0098】
ドライバ74から第1電極70に対して所定時間移送電位が付与されて、所望量の液滴80が導出口63bから導出されると、制御装置76は、ドライバ74に液滴移送モードを選択させる。すると、ドライバ74は、第1電極70の電位を移送電位からグランド電位に切り換える。尚、第2電極71には移送電位が付与されたままである。
【0099】
このとき、導出口63bから導出された液滴80と第1電極70との間の電位差がほとんどなくなり、第1電極70を覆う領域の絶縁層73の撥液性が高くなる。また、第2電極71には移送電位が付与されていることから、第1電極70よりも液滴80との電位差が大きくなる。そのため、第1電極70と第2電極71との間の抵抗体層72に電位勾配が発生し、この抵抗体層72を覆う絶縁層73の撥液性は、第2電極71に向かうほど低くなる。従って、図23(c)に示すように、絶縁層73の表面に導出された液滴80が、第1電極70から抵抗体層72に沿って第2電極71に向けて移送され、さらには、基板62の先端側に位置する記録用紙P2に付着する。
【0100】
尚、第1電極70の電位が移送電位からグランド電位に切り換えられた後に、ある所定の時間が経過すると、制御装置76は、移送された液滴80が記録用紙P2に付着したと判断して、ドライバ74に待機モードを選択させる。すると、ドライバ74は、全ての第1電極70と第2電極71の電位をグランド電位に戻す(図23(a))。
【0101】
以上説明したように、この第2実施形態の液滴移送装置61においては、基板62の上面の、導出口63b付近に配置された第1電極70と、第1電極70よりも導出口63bから離れた位置に配置された第2電極71とが、抵抗体層72により接続されている。そのため、移送元の第1電極70と移送先の第2電極71の離間距離(液滴の移送距離)が比較的長い場合でも、2種類の電極70,71の間に、液滴を移送するための中間の電極を多数配置して、この中間電極の電位をこまめに切り換える必要がないため、液滴を移送するための構成を簡素化できる。
【0102】
これに加えて、第2電極71は、複数の第1電極70にわたって、これら複数の第1電極70の配列方向と平行に延在している。つまり、複数の第1電極70に対して1つの第2電極71が共通に設けられている。そのため、液滴の移送先の電極である第2電極71の電位切り換えが容易になるし、第2電極71から引き出す配線も少なくて済む。
【0103】
また、複数の第1電極70に対応して、複数の抵抗体層72が間隔を空けて配置されており、互いに独立している。そのため、ある第1電極70の表面に導出された液滴が、隣接する第1電極70に対応する移送経路に移って第2電極71まで移動してしまうことが防止される。従って、記録用紙P2の所望の位置に液滴80を付着させることができる。
【0104】
次に、前記第2実施形態に種々の変更を加えた変更形態について説明する。但し、前記第2実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0105】
1]前記第2実施形態においては、複数の第1電極70に対して1つの第2電極71が共通に設けられている(図20、図21参照)。そのため、図23(c)に示すように、液滴移送モードが選択されて、ドライバ74によって、複数の第1電極70にグランド電位、第2電極71に移送電位が付与されているときには、全ての抵抗体層72においてそれぞれ電位勾配が発生する。つまり、液滴80が導出されていない経路の抵抗体層72においても電流が流れてしまうことになる。
【0106】
そこで、図24に示すように、基板62の上面に、複数の第1電極70にそれぞれ対応する複数の第2電極71Aが互いに独立して設けられていてもよい(変更形態1)。この場合には、ドライバ74から、導出口63bから液滴が導出された移送経路の第2電極71にのみ移送電位を付与することで、その経路の抵抗体層72にのみ電位勾配が発生することになるため、消費電力を低減することができる。
【0107】
2]前記第2実施形態では、導出口63bの近傍位置に設けられた第1電極70が、共通インク室66から導出口63bを介して液滴を導出するための電極と、導出された液滴を記録用紙P2側の第2電極71に向けて移送する際の移送元電極の両方を兼ねている。しかし、図25に示すように、導出口63bの近傍位置に、それぞれ液滴導出用電極と液滴の移送元電極となる、2つの第1電極70a,70bが、導出口63bから離れる方向(液滴の移送方向)に並べて設けられてもよい(変更形態2)。
【0108】
この変更形態2の液滴移送装置の作用について、図26を参照して説明する。液滴を移送しないときには、図26(a)に示すように、ドライバ74は、2つの第1電極70a,70bと第2電極71に対して、グランド電位を付与する(待機モード)。このとき、第1電極70aと共通インク室66内のインクIの電位との間に電位差がほとんどないことから、第1電極70aを覆う絶縁層73の表面の撥液性は高いままであり、共通インク室66から導出口63bを介して液滴が導出されることはない。
【0109】
次に、液滴を導出口63bから導出させる場合には、図26(b)に示すように、ドライバ74は、その導出口63bの近傍位置に配置された、液滴導出用の第1電極70aに移送電位を付与するとともに、第2電極71にも移送電位を付与する(液滴導出モード)。このとき、もう一方の第1電極70bの電位はグランド電位のままである。
【0110】
すると、第1電極70aとインクIとの間に電位差が生じることから、この第1電極70aを覆う領域において絶縁層73の撥液性が低下し、導出口63bから液滴80が導出される。但し、隣接する第1電極70bには移送電位は付与されておらず、この領域においては絶縁層73の撥液性は高いままであるため、導出された液滴80は第1電極70bの表面までは移動しない。そのため、前述した第2実施形態とは異なり、この変更形態2においては、導出口63bから導出される液滴80の量は、第1電極70aの電極面積等によって定まることになり、液滴導出用の第1電極70aへ移送電位を付与する時間には依存しない。
【0111】
次に、図26(c)に示すように、ドライバ74は、液滴導出用の第1電極70aの電位をグランド電位に切り換える。すると、2つの第1電極70a,70bを覆う領域において絶縁層73の撥液性が高い状態となる。また、第2電極71には移送電位が付与されていることから、第1電極70a,70bよりも液滴80との電位差が大きくなる。そのため、第1電極70bと第2電極71との間の抵抗体層72に電位勾配が発生し、この抵抗体層72を覆う絶縁層73の撥液性は、第2電極71に向かうほど低くなる。従って、図27(c)に示すように、絶縁層73の表面に導出された液滴80が、第1電極70bから抵抗体層72に沿って第2電極71に向けて移送され、さらには、基板62の先端側に位置する記録用紙P2に付着する。
【0112】
3]第1実施形態と同様に、基板62の上面の、第2電極71の周囲領域に、絶縁層73の表面よりも常に撥液性の低い親液性領域が設けられ、第2電極71まで移送された液滴が、絶縁層73の表面から親液性領域に移動するように構成されてもよい(第1実施形態の図4、図5参照)。
【0113】
また、前記第1実施形態に対する変更と同様の変更を、第2実施形態に対しても加えることができる。例えば、基板62の上面において、液滴移送先の第2電極71が液滴移送方向に間隔を空けて並べて複数配置され、これら第2電極71が抵抗体層72で接続されてもよい(第1実施形態の変更形態3(図12〜図18)参照)。
【0114】
以上説明した本発明の実施形態は、導電性を有するインクを移送する液滴移送装置に本発明を適用した例であるが、本発明は、画像記録用インク以外の液滴を移送する液滴移送装置にも適用することが可能である。例えば、金属ナノ粒子を分散した導電性液体を基板に転写して配線パターンを形成する装置、DNAを分散した溶液を用いてDNAチップを製造する装置、有機化合物などのEL発光材料を分散した溶液を用いてディスプレイパネルを製造する装置、カラーフィルタ用顔料が分散された液体を用いて液晶ディスプレイ用のカラーフィルタを製造する装置などにも本発明を適用することができる。
【0115】
また、本発明の液体移送装置に用いられる液体は、液体自体が導電性のものである場合に限られず、絶縁性の液体に導電性の添加剤が分散されることによって、導電性の液体と同様の導電性を備えるものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】本発明の第1実施形態に係るインクジェットプリンタの概略構成図である。
【図2】インクジェットヘッドの平面図である。
【図3】図2の一部拡大平面図である。
【図4】図3のA−A線断面図である。
【図5】図2のインクジェットヘッドの一部を下側(ノズルプレート側)から見たときの拡大平面図である。
【図6】液滴移送装置による液滴移送直前の状態を示す図である。
【図7】液滴移送装置による液滴移送途中の状態を示す図である。
【図8】液滴移送装置による液滴移送が終了した状態を示す図である。
【図9】第1実施形態のインクジェットプリンタの電気的構成を示すブロック図である。
【図10】第1実施形態の変更形態1に係るインクジェットヘッドの一部を下側から見たときの、拡大平面図である。
【図11】変更形態2に係るインクジェットヘッドの一部を下側から見たときの、拡大平面図である。
【図12】変更形態3に係るインクジェットヘッドの一部を下側から見たときの、拡大平面図である。
【図13】図12のB−B線断面図である。
【図14】変更形態3の液滴移送装置による液滴移送が行われていない、待機状態を示す図である。
【図15】液滴移送装置による液滴移送が開始された直後の状態を示す図である。
【図16】液滴移送装置による液滴移送途中の状態を示す図である。
【図17】液滴移送装置による液滴移送終了直前の状態を示す図である。
【図18】液滴移送装置による液滴移送が終了した状態を示す図である。
【図19】変更形態4のインクジェットヘッドの、図4相当の断面図である。
【図20】第2実施形態に係る液滴移送装置の概略構成図である。
【図21】液滴移送装置の一部拡大平面図である。
【図22】図21のC−C線断面図である。
【図23】第2実施形態の液滴移送装置による液滴移送動作を説明する図であり、(a)は液滴が導出されていない待機状態、(b)は液滴導出途中の状態、(c)は液滴移送途中の状態をそれぞれ示す。
【図24】第2実施形態の変更形態1に係る液滴移送装置の一部拡大平面図である。
【図25】変更形態2の液滴移送装置の図22相当の断面図である。
【図26】変更形態2の液滴移送装置による液滴移送動作を説明する図であり、(a)は液滴が導出されていない待機状態、(b)は液滴導出途中の状態、(c)は液滴移送途中の状態をそれぞれ示す。
【符号の説明】
【0117】
1 インクジェットヘッド
8 液滴移送装置
13 ノズルプレート
20a 吐出口
40 第1電極
41,41A,41B,41C 第2電極
42,42A 抵抗体層
43 絶縁層
44 ドライバ
45 親液性領域
56 導電層
61 液滴移送装置
62 基板
63b 導出口
66 共通インク室
70 第1電極
71,71A 第2電極
72 抵抗体層
73 絶縁層
74 ドライバ
100 インクジェットプリンタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材表面に沿って導電性を有する液滴を移送する液滴移送装置であって、
前記基材表面に配置された第1電極、及び、第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極にそれぞれ電位を付与する電位付与手段と、
前記基材表面に配置されるとともに、前記第1電極と第2電極の両方に電気的に導通し、さらに、前記電位付与手段により前記第1電極と前記第2電極に互いに異なる電位が付与されたときに両電極間で電位降下を生じさせる抵抗体層と、
前記第1電極、前記第2電極、及び、前記抵抗体層を覆うとともに、前記液滴と前記第1、第2電極及び前記抵抗体層との間の電位差が大きいほど、表面における撥液性が低下する絶縁層と、
を備えていることを特徴とする液滴移送装置。
【請求項2】
前記抵抗体層は、前記基材表面の、前記第1電極と前記第2電極の間の領域に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の液滴移送装置。
【請求項3】
前記基材表面において、前記第1電極と前記第2電極が互いに平行に延在していることを特徴とする請求項2に記載の液滴移送装置。
【請求項4】
前記第1電極、前記第2電極、及び、前記抵抗体層が、同一の導電性材料で形成されており、
さらに、前記抵抗体層の厚みが、前記第1電極及び前記第2電極の厚みよりも小さくなっていることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の液滴移送装置。
【請求項5】
前記電位付与手段は、前記第2電極に対して、前記第1電極と比べて前記液滴との電位差が大きくなるような電位を付与することが可能に構成されており、
前記基板表面の、前記第2電極の周囲領域で、且つ、前記絶縁層で覆われていない領域に、前記絶縁層の表面よりも常に撥液性が低い、親液性領域が設けられていることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の液滴移送装置。
【請求項6】
前記電位付与手段は、
前記第1電極と前記第2電極に同じ電位を付与する待機モードと、
前記第1電極と前記第2電極に互いに異なる電位を付与することにより、前記抵抗体層に沿って前記液滴を移送させる液滴移送モードの、2つのモードを切換可能に構成されていることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の液滴移送装置。
【請求項7】
前記基板表面に、複数の前記第2電極が間隔を空けて並べて設けられており、
隣接する第2電極同士が前記抵抗体層を介して接続されていることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の液滴移送装置。
【請求項8】
液滴を吐出する液滴吐出装置に設けられた液滴移送装置であって、
前記基板の表面に、前記液滴吐出装置の吐出口が配置され、
前記第1電極が前記基板表面の前記吐出口の周囲位置に設けられるとともに、前記第2電極が前記基板表面の前記第1電極よりも前記吐出口から離れた位置に設けられ、
前記抵抗体層が前記第1電極と前記第2電極の両方と電気的に導通しており、
前記電位付与手段が、前記第2電極に対して、前記第1電極と比べて前記液滴との電位差が大きくなるような電位を付与することにより、前記吐出口の周囲に付着した液滴を前記第1電極から前記抵抗体層に沿って前記第2電極へ移送するように構成されていることを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載の液滴移送装置。
【請求項9】
前記基板とこの基板表面に設けられた液室を有し、前記液室から導出された液滴を前記基板の表面に沿って移送する液滴移送装置であって、
前記第1電極が、前記基板表面の、前記液室から液滴を導出する導出口の近傍位置に設けられるとともに、前記第2電極が、前記基板表面の前記第1電極よりも前記導出口から離れた位置に設けられ、
前記抵抗体層が前記第1電極と前記第2電極の両方と電気的に導通しており、
前記電位付与手段が、前記第1電極に対して前記液室内の液体の電位と異なる電位を付与することにより前記液室から液滴を導出させ、
さらに、電位付与手段が、前記第2電極に対して、前記第1電極と比べて前記液滴との電位差が大きくなるような電位を付与することにより、前記液室から導出された液滴を前記第1電極から前記抵抗体層に沿って前記第2電極へ移送するように構成されていることを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載の液滴移送装置。
【請求項10】
前記電位付与手段が、前記第1電極に前記液体の電位と異なる電位を付与する時間を調節することによって、前記液室から導出する液滴の大きさを変えるように構成されていることを特徴とする請求項9に記載の液滴移送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2009−51039(P2009−51039A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−218065(P2007−218065)
【出願日】平成19年8月24日(2007.8.24)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】