説明

液状体の吐出方法、カラーフィルタの製造方法、有機EL素子の製造方法

【課題】基板上の膜形成領域ごとにほぼ一定量の液状体を液滴として安定的に塗布することができる液状体の吐出方法、この液状体の吐出方法を用いたカラーフィルタの製造方法および有機EL素子の製造方法を提供すること。
【解決手段】本適用例の液状体の吐出方法は、複数のノズル52と基板とを相対移動させる走査を複数回行い、基板上に配列された複数の膜形成領域3r1,3r2,3r3に複数のノズル52から液状体を液滴Dとして吐出する吐出工程を有する液状体の吐出方法であって、吐出工程は、複数回の走査において液滴Dを吐出するノズル52の選択パターンの組み合わせが膜形成領域3r1,3r2,3r3ごとに同じであるとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性材料を含む液状体の吐出方法、カラーフィルタの製造方法、有機EL素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
機能性材料を含む液状体の吐出方法として、複数のノズルからなるノズル列のうち、被吐出物の膜形成領域に掛かる隣り合うノズルからは同時に液状体を吐出しないように使用するノズルを選択して吐出を行う第1吐出工程と、膜形成領域に掛かる隣り合うノズルからは同時に液状体を吐出しないように第1吐出工程とは異なる組み合わせのノズルを選択して吐出を行う第2吐出工程と、を備えた吐出方法が知られている(特許文献1)。
【0003】
上記吐出方法は、複数のノズルを時分割駆動する方法であって、ノズルの選択の仕方を工夫することにより、隣り合うノズル間の吐出量のバラツキを低減しようとするものである。
【0004】
また、他の液状体の吐出方法としては、複数の被吐出部が設けられた基板と機能液を液滴として吐出可能な吐出ヘッドとを相対的に複数回走査させ、複数回の走査において、各被吐出部の領域全体に機能液を吐出する全体吐出走査を被吐出部ごとに少なくとも1回行うと共に、全体吐出走査以外の走査では被吐出部の周縁部のうち少なくとも一部を避けるように機能液を吐出する部分吐出走査を行う液滴吐出方法が知られている(特許文献2)。
【0005】
上記液滴吐出方法は、全体吐出走査と部分吐出走査とを分けて行うことにより、異なる種類の機能液同士が混ざることを抑えることができるとしている。
【0006】
【特許文献1】特開2007−152339号公報
【特許文献2】特開2007−29946号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の吐出方法を特許文献2の液滴吐出方法に適用することが考えられる。しかしながら、部分吐出走査における複数のノズルと複数の被吐出部との相対的な位置関係によっては、すべての被吐出部において部分吐出するようにノズルの選択を行うことが困難となるという課題がある。
【0008】
また、ノズルごとに吐出される液滴の吐出量は、ノズル間の電気的、機械的なクロストークの影響を受け、ノズル選択の仕方に寄らず完全に同一にすることは基本的に難しいという課題がある。
【0009】
一方で液滴吐出法を工業的に用いる場合、液滴の吐出量がある程度ばらついていても、被吐出部に機能液(液状体)を安定した塗布量で塗布することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0011】
[適用例1]本適用例の液状体の吐出方法は、複数のノズルと基板とを相対移動させる走査を複数回行い、前記基板上に配列された複数の膜形成領域に前記複数のノズルから液状体を液滴として吐出する吐出工程を有する液状体の吐出方法であって、前記吐出工程は、前記複数回の前記走査において前記液滴を吐出するノズルの選択パターンの組み合わせが前記膜形成領域ごとに同じであることを特徴とする。
【0012】
液滴吐出法(インクジェット法)を用いて、複数のノズルから液状体を液滴として吐出する場合、ノズル間のクロストーク(電気的、機械的)などによりノズルごとに吐出される液滴の吐出量がばらつく。液滴の吐出量のばらつきは、吐出された液状体の塗布量に影響する。したがって、複数のノズルのうち液滴を吐出するノズルをどのように選択するかが、量的な精度に影響する。この方法によれば、走査ごとのノズルの選択パターン(選択の仕方)によって膜形成領域に吐出される液滴の吐出量がばらついたとしても、複数回の走査におけるノズルの選択パターンの組み合わせが同じであるため、複数回の走査が終了した時点では、膜形成領域ごとにほぼ一定量の液状体を安定的に吐出することができる。
【0013】
[適用例2]上記適用例の液状体の吐出方法において、前記吐出工程は、前記走査ごとに前記膜形成領域ごとの前記ノズルの選択パターンが異なるとしてもよい。
走査における複数のノズルと基板上に配列した複数の膜形成領域との相対的な位置関係によって、膜形成領域ごとに必ず同数のノズルが掛かるとは限らない。この方法によれば、走査における複数のノズルと複数の膜形成領域との相対的な位置関係に対応して、膜形成領域ごとのノズルの選択パターンを走査ごとに異ならせることにより、複数回の走査が終了した時点では、膜形成領域ごとにほぼ一定量の液状体を安定的に吐出することができる。
【0014】
[適用例3]上記適用例の液状体の吐出方法において、前記吐出工程は、前記走査ごとに前記膜形成領域ごとの前記ノズルの選択パターンが一定であることが好ましい。
この方法によれば、走査ごとに膜形成領域ごとのノズルの選択パターンを一定とすることにより、選択されたノズルの吐出特性を走査ごとに安定させることができる。したがって、膜形成領域ごとにほぼ一定量の液状体をより安定的に吐出することができる。
【0015】
[適用例4]上記適用例の液状体の吐出方法において、前記吐出工程は、前記複数回の前記走査に亘って前記膜形成領域ごとの前記ノズルの選択パターンが一定であることがより好ましい。
この方法によれば、複数回の走査に亘って選択されたノズルの吐出特性が安定するので、走査ごとにノズルの選択パターンが変わる場合に比べて、膜形成領域ごとにほぼ一定量の液状体をより安定的に吐出することができる。
【0016】
[適用例5]上記適用例の液状体の吐出方法において、前記吐出工程は、周期的に発生する複数の駆動波形のうちの1つを選択された前記ノズルの駆動手段に印加することにより前記液滴を吐出することを特徴とする。
この方法によれば、複数のノズルのうち選択されたノズルから、時分割駆動により液滴が吐出される。
したがって、膜形成領域ごとに選択されたノズルが複数であっても、当該ノズルの駆動手段に同時に駆動波形が印加されない。よって、ノズル間の電気的なクロストークにより吐出された液滴の吐出量がばらつくことを低減できる。すなわち、ほぼ一定量の液状体をばらつきを低減して安定的に吐出することができる。
【0017】
[適用例6]上記適用例の液状体の吐出方法において、前記吐出工程は、前記走査において、前記ノズルの選択パターンにより選択された複数のノズルのうち、隣り合うノズルの前記駆動手段に同じ前記駆動波形を印加せず、且つ前記複数の駆動波形ごとの選択がほぼ均等であることが好ましい。
この方法によれば、選択された複数のノズルに適用される駆動波形が特定の駆動波形に偏らず、走査において複数の駆動波形がほぼ均等に用いられる。したがって、選択されたノズルの数が増えて駆動波形が鈍ったとしても、複数の駆動波形間の鈍り方を一様とすることができる。すなわち、駆動波形の鈍りに起因する液滴の吐出量のばらつきを一様とすることができ、膜形成領域ごとにほぼ一定量の液状体を安定的に吐出することができる。
【0018】
[適用例7]上記適用例の液状体の吐出方法において、前記吐出工程は、前記走査において前記膜形成領域ごとに掛かるノズルのうち、前記膜形成領域の中央に近い少なくとも1つのノズルを用いることが好ましい。
この方法によれば、吐出すべきすべての液滴を膜形成領域の中央付近に着弾させることができる。したがって、液滴の飛行曲がりの影響により膜形成領域に必要な液滴が着弾しない、あるいは不必要な液滴が着弾することを低減して、ほぼ一定量の液状体を安定的に吐出することができる。
【0019】
[適用例8]本適用例のカラーフィルタの製造方法は、基板上の複数の膜形成領域に複数色の着色層を有するカラーフィルタの製造方法であって、上記適用例の液状体の吐出方法を用い、着色層形成材料を含む複数色の液状体を前記複数の膜形成領域に吐出する吐出工程と、吐出された前記液状体を固化して前記複数色の着色層を形成する成膜工程と、を備えたことを特徴とする。
【0020】
この方法によれば、上記適用例の液状体の吐出方法を用いている。したがって、吐出工程では、同色の膜形成領域にほぼ一定量の対応する色の液状体を安定的に吐出し、成膜工程では、同色の膜形成領域において、ほぼ同等の膜厚を有する着色層を形成することができる。すなわち、色ごとに安定した光学特性を有するカラーフィルタを製造することができる。
【0021】
[適用例9]本適用例の有機EL素子の製造方法は、基板上の複数の膜形成領域に発光層を含む機能層を有する有機EL素子の製造方法であって、上記適用例の液状体の吐出方法を用い、発光層形成材料を含む液状体を前記複数の膜形成領域に吐出する吐出工程と、吐出された前記液状体を固化して前記発光層を形成する成膜工程と、を備えたことを特徴とする。
【0022】
この方法によれば、上記適用例の液状体の吐出方法を用いている。したがって、吐出工程では、膜形成領域にほぼ一定量の液状体を安定的に吐出し、成膜工程では、膜形成領域ごとにほぼ同等の膜厚を有する発光層を形成することができる。すなわち、安定した発光特性を有する有機EL素子を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を具体化した実施形態について図面を参照して説明する。
【0024】
(実施形態1)
<液滴吐出装置>
まず、液状体を液滴として吐出可能な液滴吐出装置について図1〜図6を参照して説明する。図1は、液滴吐出装置の構成を示す概略斜視図である。
【0025】
図1に示すように、液滴吐出装置10は、ワークWを主走査方向(X軸方向)に移動させるワーク移動機構20と、ヘッドユニット9を副走査方向(Y軸方向)に移動させるヘッド移動機構30とを備えている。
【0026】
ワーク移動機構20は、一対のガイドレール21と、一対のガイドレール21に沿って移動する移動台22と、移動台22上に回転機構6を介して配設されたワークWを載置するステージ5とを備えている。
移動台22は、ガイドレール21の内部に設けられたエアスライダとリニアモータ(図示省略)により主走査方向に移動する。移動台22には、タイミング信号生成部としてのエンコーダ12(図4参照)が設けられている。
エンコーダ12は、移動台22の主走査方向への相対移動に伴って、ガイドレール21に並設されたリニアスケール(図示省略)の目盛を読み取って、タイミング信号としてのエンコーダパルスを生成する。
ステージ5はワークWを吸着固定可能であると共に、回転機構6によってワークW内の基準軸を正確に主走査方向、副走査方向に合わせることが可能となっている。なお、エンコーダ12の配設は、これに限らず、例えば、移動台22を回転軸に沿ってX軸方向に相対移動するよう構成し、回転軸を回転させる駆動部を設けた場合には、エンコーダ12を駆動部に設けてもよい。駆動部としては、サーボモータなどが挙げられる。
【0027】
ヘッド移動機構30は、一対のガイドレール31と、一対のガイドレール31に沿って移動する移動台32とを備えている。移動台32には、回転機構7を介して吊設されたキャリッジ8が設けられている。
キャリッジ8には、複数の液滴吐出ヘッド50(図2参照)が搭載されたヘッドユニット9が取り付けられている。
また、液滴吐出ヘッド50に液状体を供給するための液状体供給機構(図示省略)と、複数の液滴吐出ヘッド50の電気的な駆動制御を行うためのヘッドドライバ48(図4参照)とが設けられている。
移動台32がキャリッジ8をY軸方向に移動させてヘッドユニット9をワークWに対して対向配置する。
【0028】
液滴吐出装置10は、上記構成の他にも、ヘッドユニット9に搭載された複数の液滴吐出ヘッド50のノズル目詰まり解消、ノズル面の異物や汚れの除去などのメンテナンスを行うメンテナンス機構が、複数の液滴吐出ヘッド50を臨む位置に配設されている。
また、液滴吐出ヘッド50ごとに吐出された液状体を受けて、その重量を計測する電子天秤などの計測器を有する重量計測機構を備えている。図1では、メンテナンス機構および重量計測機構は、図示省略した。
【0029】
図2は液滴吐出ヘッドの構造を示す概略図である。同図(a)は斜視図、同図(b)はノズルの配置状態を示す平面図である。
【0030】
図2(a)に示すように、液滴吐出ヘッド50は、所謂2連のものであり、2連の接続針54を有する液状体の導入部53と、導入部53に積層されたヘッド基板55と、ヘッド基板55上に配置され内部に液状体のヘッド内流路が形成されたヘッド本体56とを備えている。接続針54は、前述した液状体供給機構(図示省略)に配管を経由して接続され、液状体をヘッド内流路に供給する。ヘッド基板55には、フレキシブルフラットケーブル(図示省略)を介してヘッドドライバ48(図4参照)に接続される2連のコネクタ58が設けられている。
【0031】
ヘッド本体56は、圧電素子で構成されたキャビティを有する加圧部57と、ノズル面51aに2つのノズル列52a,52bが相互に平行に形成されたノズルプレート51とを有している。
【0032】
図2(b)に示すように、2つのノズル列52a,52bは、それぞれ複数(180個)のノズル52がピッチP1で略等間隔に並べられており、互いにピッチP1の半分のピッチP2ずれた状態でノズルプレート51に配設されている。この場合、ピッチP1は、およそ141μmである。よって、ノズル列52cに直交する方向から見ると360個のノズル52がおよそ70.5μmのノズルピッチで配列した状態となっている。以降説明上、ノズル52の間隔は、ノズルピッチP2とする。また、ノズル52の径は、およそ27μmである。
【0033】
液滴吐出ヘッド50は、ヘッドドライバ48から電気信号としての駆動信号が圧電素子に印加されると加圧部57のキャビティの体積変動が起こり、これによるポンプ作用でキャビティに充填された液状体が加圧され、ノズル52から液状体を液滴として吐出することができる。
【0034】
液滴吐出ヘッド50における駆動手段は、圧電素子に限らない。アクチュエータとしての振動板を静電吸着により変位させる電気機械変換素子や、液状体を加熱してノズル52から液滴として吐出させる電気熱変換素子(サーマル方式)でもよい。
【0035】
図3は、ヘッドユニットにおける液滴吐出ヘッドの配置を示す概略平面図である。詳しくは、ワークWに対向する側から見た図である。
【0036】
図3に示すように、ヘッドユニット9は、複数の液滴吐出ヘッド50が配設されるヘッドプレート9aを備えている。ヘッドプレート9aには、3つの液滴吐出ヘッド50からなるヘッド群50Aと、同じく3つの液滴吐出ヘッド50からなるヘッド群50Bの合計6個の液滴吐出ヘッド50が搭載されている。この場合、ヘッド群50AのヘッドR1(液滴吐出ヘッド50)とヘッド群50BのヘッドR2(液滴吐出ヘッド50)とは同種の液状体を吐出する。他のヘッドG1とヘッドG2、ヘッドB1とヘッドB2においても同様である。すなわち、3種の異なる液状体を吐出可能な構成となっている。
【0037】
1つの液滴吐出ヘッド50によって描画可能な描画幅をL0とし、これをノズル列52cの有効長とする。以降、ノズル列52cとは、360個のノズル52から構成されるものを指す。
【0038】
この場合、ヘッドR1とヘッドR2は、主走査方向(X軸方向)から見て隣り合うノズル列52cが主走査方向と直交する副走査方向(Y軸方向)に1ノズルピッチを置いて連続するように主走査方向に並列して配設されている。したがって、同種の液状体を吐出するヘッドR1とヘッドR2の有効な描画幅L1は、描画幅L0の2倍となっている。ヘッドG1とヘッドG2、ヘッドB1とヘッドB2においても同様に主走査方向に並列して配置されている。
【0039】
なお、液滴吐出ヘッド50に設けられるノズル列52cは、2連に限らず、1連でもよい。
【0040】
次に液滴吐出装置10の制御系について説明する。図4は、液滴吐出装置の制御系を示すブロック図である。図4に示すように、液滴吐出装置10の制御系は、液滴吐出ヘッド50、ワーク移動機構20、ヘッド移動機構30などを駆動する各種ドライバを有する駆動部46と、駆動部46を含め液滴吐出装置10を制御する制御部40とを備えている。
【0041】
駆動部46は、ワーク移動機構20およびヘッド移動機構30の各リニアモータをそれぞれ駆動制御する移動用ドライバ47と、液滴吐出ヘッド50を吐出制御するヘッド駆動部としてのヘッドドライバ48とを備えている。この他にも重量計測用ドライバと、メンテナンス用ドライバとを備えているが図示省略した。
【0042】
制御部40は、CPU41と、ROM42と、RAM43と、P−CON44とを備え、これらは互いにバス45を介して接続されている。P−CON44には、上位コンピュータ11が接続されている。ROM42は、CPU41で処理する制御プログラムなどを記憶する制御プログラム領域と、描画動作や機能回復処理などを行うための制御データなどを記憶する制御データ領域とを有している。
【0043】
RAM43は、ワークWに描画を行うための描画データを記憶する描画データ記憶部、ワークWおよび液滴吐出ヘッド50(実際には、ノズル列52a,52b)の位置データを記憶する位置データ記憶部などの各種記憶部を有し、制御処理のための各種作業領域として使用される。P−CON44には、駆動部46の各種ドライバなどが接続されており、CPU41の機能を補うと共に、周辺回路とのインタフェース信号を取り扱うための論理回路が構成されて組み込まれている。このため、P−CON44は、上位コンピュータ11からの各種指令などをそのままあるいは加工してバス45に取り込むと共に、CPU41と連動して、CPU41などからバス45に出力されたデータや制御信号を、そのままあるいは加工して駆動部46に出力する。
【0044】
そして、CPU41は、ROM42内の制御プログラムに従って、P−CON44を介して各種検出信号、各種指令、各種データなどを入力し、RAM43内の各種データなどを処理した後、P−CON44を介して駆動部46などに各種の制御信号を出力することにより、液滴吐出装置10全体を制御している。例えば、CPU41は、液滴吐出ヘッド50、ワーク移動機構20およびヘッド移動機構30を制御して、ヘッドユニット9とワークWとを対向配置させる。そして、ヘッドユニット9とワークWとの相対移動に同期して、ヘッドユニット9に搭載された各液滴吐出ヘッド50の複数のノズル52からワークWに液状体を液滴として吐出するようにヘッドドライバ48に制御信号を送出する。この場合、X軸方向へのワークWの移動に同期して液状体を吐出することを主走査と呼び、Y軸方向にヘッドユニット9を移動させることを副走査と呼ぶ。本実施形態の液滴吐出装置10は、主走査と副走査とを組み合わせて複数回繰り返すことにより液状体を吐出描画することができる。主走査は、液滴吐出ヘッド50に対して一方向へのワークWの移動に限らず、ワークWを往復させて行うこともできる。
【0045】
エンコーダ12は、ヘッドドライバ48に電気的に接続され、主走査に伴ってエンコーダパルスを生成する。主走査では、所定の移動速度で移動台22を移動させるので、エンコーダパルスが周期的に発生する。
【0046】
上位コンピュータ11は、制御プログラムや制御データなどの制御情報を液滴吐出装置10に送出する。また、基板上の膜形成領域ごとに必要量の液状体を液滴として配置する吐出制御データとしての配置情報を生成する配置情報生成部の機能を有している。配置情報は、膜形成領域における液滴の吐出位置(言い換えれば、ワークWとノズル52との相対位置)、液滴の配置数(言い換えれば、ノズル52ごとの吐出数)、主走査における複数のノズル52のON/OFF(言い換えれば、複数のノズル52の選択パターン)、吐出タイミングなどの情報を、例えば、ビットマップとして表したものである。上位コンピュータ11は、上記配置情報を生成するだけでなく、RAM43に一旦格納された上記配置情報を修正することも可能である。
【0047】
次に図5、図6を参照して、ヘッドドライバについて説明する。図5はヘッドドライバの電気的な構成を示すブロック図、図6は駆動手段に印加される駆動波形のタイミングチャートである。
【0048】
図5に示すように、ヘッド駆動部としてのヘッドドライバ48は、CPU71と、2つのメモリ72,73と、駆動信号(COM)を生成する駆動信号生成回路74と、クロック信号(CK)を生成する発信回路75と、エンコーダ12に接続されエンコーダパルスをカウント(計数)するカウンタ76と、を備えている。また、シフトレジスタ81と、ラッチ回路82と、レベルシフタ83と、スイッチ84とを備えている。これらの電気的な構成はバス77を介して接続されている。これにより、液滴吐出ヘッド50の各ノズル52に対応する圧電素子59に選択的に駆動信号(COM)を印加できるように構成されている。
【0049】
CPU71は、駆動信号をデジタルデータとして生成し、メモリ72に記憶(格納)させる。駆動信号生成回路74は、当該デジタルデータをアナログ信号に変換して圧電素子59に印加する駆動信号(COM)を生成する。メモリ72は、例えば、SRAMである。
【0050】
なお、本実施形態において、発信回路75は、20MHzの水晶振動子を基準クロックとしてクロック信号を生成している。CPU71は、クロック信号に基づいて駆動信号(COM)をデジタルデータとして生成している。したがって、0.05μsec刻みでの駆動信号(COM)の設定が可能である。また、0.05μsec刻みで液滴を吐出する吐出タイミングの制御が可能である。
【0051】
上位コンピュータ11は、ワークW上において液滴をドットとして配置する吐出制御データとしての配置情報をヘッドドライバ48に伝送する。伝送された配置情報は、主走査における往動と復動とに分けて生成されており、一時的にメモリ73に記憶(格納)される。メモリ73は、例えば、SDRAMである。
【0052】
配置情報は、ワークWに対する複数のノズル52の相対的な吐出予定位置、液滴を吐出するノズル52の選択、液滴の吐出回数、液滴を吐出する際の吐出タイミング情報を含むものである。吐出タイミング情報は、主走査においてエンコーダ12が生成するエンコーダパルスの出力数を、吐出予定位置に対応させて数値化したものである。そしてCPU71は、これらの吐出制御データに基づいて、ノズルデータ信号(SI)や駆動信号(COM)を、ノズル列単位ごとに次のように生成する。
【0053】
すなわち、CPU71は、吐出制御データをデコードしてノズル52ごとのON/OFF情報を含むノズルデータを生成する。また、駆動信号生成回路74は、CPU71が算出したノズルデータに基づいて駆動信号(COM)の設定および生成を行う。
【0054】
ノズルデータをシリアル信号化したノズルデータ信号(SI)は、クロック信号(CK)に同期してシフトレジスタ81に伝送され、ノズル52ごとのON/OFF情報がそれぞれ記憶される。そして、カウンタ76がカウントしたエンコーダパルスに同期して、CPU71が生成したラッチ信号(LAT)が各ラッチ回路82に入力されることで、ノズルデータがラッチされる。ラッチされたノズルデータはレベルシフタ83によって増幅され、ノズルデータが「ON」の場合には所定の電圧がスイッチ84に供給される。また、ノズルデータが「OFF」の場合には、スイッチ84への電圧供給は行われない。
【0055】
かくして、レベルシフタ83で昇圧された電圧がスイッチ84に供給されている間は、圧電素子59に駆動信号(COM)が印加され、液滴がノズル52から吐出される。
【0056】
このような吐出制御は、ヘッドユニット9とワークWとの相対移動(主走査)に同期して、図6に示すように周期的に行われる。
【0057】
図6に示すように、圧電素子59を駆動する駆動信号COMは、中間電位を挟んで振幅する矩形状のパルス信号を組み合わせたものであり、周期的に発生する複数の駆動波形A1からなる。一つの駆動波形A1によって、次のように一つの液滴を吐出するようになっている。
【0058】
すなわち、パルス信号の電位レベルを上昇させることにより、液状体を加圧部57(図2参照)のキャビティ内に引き込む。次に、電位レベルを急峻に下降させることにより、キャビティ内の液状体を急激に加圧し、液状体をノズル52から押し出して液滴化する(吐出)。最後に降下した電位レベルを中間電位に戻すことによって、キャビティ内の圧力振動(固有振動)を打ち消す。
【0059】
駆動波形A1における電圧成分や時間成分(パルス信号の傾きやパルス信号間の接続間隔など)などは、吐出量や吐出安定性などに大きく関わっているパラメータであり、予め適切な設計を要するものである。
本実施形態では、主走査における液滴吐出ヘッド50とワークWとの相対移動速度(ステージ5をX軸方向に移動させる移動速度)が200mm/秒に設定されている。また、LAT信号の発生タイミングf1は、移動台22に備えられたエンコーダ12が出力するエンコーダパルスを基準とし、液滴吐出ヘッド50の固有周波数特性を考慮して20kHzに設定されている。したがって、吐出分解能が相対移動速度をラッチ周期で除したものとすれば、吐出分解能の単位が10μmとなる。すなわち、吐出分解能の単位でノズル52ごとに吐出タイミングを設定することが可能である。言い換えればワークWの表面に10μm単位の吐出間隔で主走査方向に液滴を配置することができる。
【0060】
このような液滴吐出装置10によれば、ワークWに対して位置精度よく、液滴を吐出することができる。
【0061】
前述したように液滴吐出ヘッド50は、複数のノズル52からなる2つのノズル列52a,52b(総称してノズル列52c)を有している。上記のような駆動波形A1を圧電素子59に印加して複数のノズル52から液滴を吐出した場合、ノズル52ごとに設けられた圧電素子59の固有電気特性のばらつきや、それぞれのノズル52に連通するキャビティなどヘッド内流路の設計上の違いなどにより、ノズル52ごとに吐出された液滴の吐出量がばらつくことが判明している。特にノズル間における電気的、機械的なクロストークは、吐出量のばらつきにおける重要な因子である。
【0062】
上記液滴吐出装置10では、このような吐出量のばらつきを考慮して、液滴を吐出するノズル52の選択パターンを工夫することで、液状体の塗布量を安定化させている。具体的には、後述する液状体の吐出方法において説明する。
【0063】
<カラーフィルタの製造方法>
次に、本実施形態の液状体の吐出方法について、カラーフィルタの製造方法を例に、図7〜図12を参照して説明する。図7(a)および(b)はカラーフィルタの構成を示す概略平面図、図8(a)〜(f)はカラーフィルタの製造方法を示す概略断面図、図9〜図12は液状体の吐出方法の実施例を示す概略平面図である。
【0064】
図7(a)に示すように、カラーフィルタ2は、用いられる電気光学装置のサイズに応じて、透明なガラス基板1の表面に単数あるいは複数配設されている。同図(a)では、1つのガラス基板1に6つのカラーフィルタ2が所定の間隔を置いて、X軸方向とY軸方向とにマトリクス状に配置された例を示している。なお、カラーフィルタ2を形成する基板は、ガラスに限定されない。透明な樹脂を原料とするプラスチック基板でもよい。
【0065】
図7(b)に示すように、カラーフィルタ2は、R(赤)、G(緑)、B(青)、3色の着色層3を有している。着色層3は、それぞれ隔壁部4で区画されており、同色の着色層3がY軸方向(副走査方向)に配列し、異なる色の着色層3がX軸方向(主走査方向)に繰り返し配列している。すなわち、カラーフィルタ2は、ストライプ方式の着色層3の配置を採用している。
【0066】
このようなカラーフィルタ2の製造方法は、液滴吐出装置10を用い、隔壁部4で区画された膜形成領域3r,3g,3bに、着色層形成材料を含む3色の液状体を液滴として吐出する吐出工程と、吐出された液状体を乾燥させることにより3色の着色層3を形成する成膜工程とを備えている。吐出工程では、ガラス基板1を着色層3のストライプ方向がY軸方向と合致するようにステージ5に載置して、液滴吐出ヘッド50とガラス基板1とを対向配置させ、X軸方向にステージ5を相対移動させる主走査を行う。各膜形成領域3r,3g,3bに必要量の液状体が付与されるように、複数回の主走査を行って3色の液状体をそれぞれ液滴として吐出する。
【0067】
まず、図8(a)に示すように、ガラス基板1の表面に、膜形成領域3r,3g,3bを区画するように隔壁部4を形成する(隔壁部形成工程)。形成方法としては、真空蒸着法やスパッタ法により、CrやAlなどの金属膜または金属化合物の膜をガラス基板1の表面に遮光性を有するように成膜する。そしてフォトリソグラフィ法により、感光性樹脂(フォトレジスト)を塗布して膜形成領域3r,3g,3bが開口するように露光・現像・エッチングして第1隔壁部4aを形成する。続いてフォトリソグラフィ法により、感光性の隔壁部形成材料をおよそ2μmの厚みで塗布して露光・現像し、第1隔壁部4a上に第2隔壁部4bを形成する。隔壁部4は、第1隔壁部4aと第2隔壁部4bとからなる所謂二層バンク構造となっている。なお、隔壁部4は、これに限らず、遮光性を有する感光性の隔壁部形成材料を用いて形成した第2隔壁部4bのみの一層構造としてもよい。
【0068】
次に、後の液状体の吐出工程において、吐出された液状体が膜形成領域3r,3g,3bに着弾して濡れ拡がるように、ガラス基板1の表面を親液処理する。また、吐出された液状体の一部が第2隔壁部4bに着弾したとしても膜形成領域3r,3g,3b内に収まるように、第2隔壁部4bの少なくとも頭頂部を撥液処理する。
【0069】
表面処理方法としては、隔壁部4が形成されたガラス基板1に対して、O2を処理ガスとするプラズマ処理とフッ素系ガスを処理ガスとするプラズマ処理とを行う。すなわち、膜形成領域3r,3g,3bが親液処理され、その後感光性樹脂からなる第2隔壁部4bの表面(壁面を含む)が撥液処理される。なお、第2隔壁部4bを形成する材料自体が撥液性を有していれば後者の処理を省くこともできる。
【0070】
続いて、液滴吐出装置10のステージ5に表面処理されたガラス基板1を載置する。そして、図8(b)および(c)に示すように、ガラス基板1が載置されたステージ5と液滴吐出ヘッド50との主走査方向への相対移動に同期して、着色層形成材料を含む液状体が充填された液滴吐出ヘッド50の複数のノズル52から液状体を液滴Dとして膜形成領域3r,3g,3bに吐出する(液状体の吐出工程)。膜形成領域3r,3g,3bに吐出される液状体の塗布量は、あらかじめ膜形成領域3r,3g,3bごとに選択されるノズル52の選択パターンと液滴Dの吐出数などが主走査ごとに設定された吐出データに基づいて、制御部40のCPU41から適正な制御信号がヘッドドライバ48に送られて制御される。これにより、ほぼ一定量の液状体が膜形成領域3r,3g,3bごとに塗布される。より詳しい液状体の吐出方法は後述する実施例にて説明する。
【0071】
次に、図8(d)に示すように、ガラス基板1に吐出された液状体から溶媒成分を蒸発させて、着色層形成材料からなる着色層3を成膜する(成膜工程)。本実施形態では、液状体の吐出工程で異なる着色層形成材料を含む3色の液状体をそれぞれ異なる液滴吐出ヘッド50に充填し、当該液滴吐出ヘッド50をヘッドユニット9に装備して、各液滴吐出ヘッド50から所望の膜形成領域3r,3g,3bに液状体を吐出する。そして、溶媒の蒸気圧を一定にして乾燥することが可能な減圧乾燥装置にガラス基板1をセットして減圧乾燥し、R、G、B、3色の着色層3を形成した。なお、1色の液状体を吐出して乾燥する工程を3回繰り返してもよい。
先の液状体の吐出工程において、ほぼ一定量の液状体が膜形成領域3r,3g,3bごとに塗布されているので、ほぼ一定の膜厚を有する着色層3を形成することができる。なお、着色層3の膜厚は、色ごとに設定すればよく、必ずしも3色が同一でなくてもよい。必要な膜厚の設定に基づいて、必要量の液状体を対応する膜形成領域3r,3g,3bに吐出すればよい。
【0072】
次に、図8(e)に示すように、着色層3と第2隔壁部4bとを覆うように平坦化層13を形成する(平坦化層形成工程)。形成方法としては、スピンコート法、ロールコート法などによりアクリル系樹脂をコーティングして乾燥させる方法が挙げられる。また、感光性アクリル樹脂をコーティングしてから紫外光を照射して硬化させる方法も採用することができる。膜厚は、およそ100nmである。なお、着色層3が形成されたガラス基板1の表面が比較的に平坦ならば、平坦化層形成工程を省いてもよい。
【0073】
次に、図8(f)に示すように、平坦化層13の上にITO(Indium Tin Oxide)などからなる透明電極14を成膜する(透明電極成膜工程)。成膜方法としては、ITOなどの導電材料をターゲットとして真空中で蒸着あるいはスパッタする方法が挙げられる。膜厚は、およそ10nmである。形成された透明電極14は、カラーフィルタ2が用いられる電気光学装置によって適宜必要な形状(パターン)に加工される。なお、電気光学装置の構成によっては、透明電極14を必要としない場合もある。
【0074】
<液状体の吐出方法>
本実施形態の液状体の吐出方法について実施例を参照して、さらに詳しく説明する。本実施形態の液状体の吐出方法における基本的な考え方は、膜形成領域3r,3g,3bごとに液滴Dを吐出するノズル52の選択パターン(選択の仕方)の組み合わせを、複数回の主走査において同色の膜形成領域3r,3g,3bごとに同じとすることである。
【0075】
(実施例1)
図9(a)〜(d)は、実施例1の液状体の吐出方法を示す概略平面図である。
【0076】
実施例1の液状体の吐出方法は、4回の主走査において同色の膜形成領域3rごとにノズル52の選択パターンの組み合わせが同じである。また、副走査方向(Y軸方向)において、膜形成領域3rの配置ピッチは、実質的なノズルピッチP2(図2(b)参照)の整数倍となっていない。したがって、主走査において膜形成領域3rに常に同数のノズル52が掛かるとは限らないため、複数のノズル52と複数の膜形成領域3rとの相対的な位置関係に応じて、ノズル52の選択パターンを主走査ごとに変えたものである。
【0077】
具体的には、図9(a)に示すように、例えば、1回目の主走査では、ノズル列52cにおける複数のノズル52の配列方向と、同色の膜形成領域3rの配列方向とが一致するように、液滴吐出装置10のヘッドユニット9とガラス基板1とを位置決めして、選択されたノズル52から液滴Dを吐出する。膜形成領域3r1には6つのノズルN1〜N6が掛かるが、膜形成領域3r1内に確実に液滴Dを着弾させるために、膜形成領域3r1の中央に近い4つのノズルN2〜N5を連続して選択して、主走査方向(X軸方向)にそれぞれ3滴、合計12滴の液滴Dを吐出している。
【0078】
同様にして隣接する膜形成領域3r2では、3つのノズルN9〜N11を連続して選択して、それぞれ3滴、合計9滴の液滴Dを吐出している。さらに、膜形成領域3r3では、4つのノズルN15〜N18を連続して選択して、それぞれ3滴、合計12滴の液滴Dを吐出している。
【0079】
2回目の主走査では、図9(b)に示すように、膜形成領域3r1では、中央に近い3つのノズルN3〜N5を連続して選択して、それぞれ3滴、合計9滴の液滴Dを吐出している。膜形成領域3r2では、中央に近い4つのノズルN9〜N12を連続して選択して、それぞれ3滴、合計12滴の液滴Dを吐出している。さらに、膜形成領域3r3では、中央に近い1つのノズルN17を選択して、3滴の液滴Dを吐出している。
【0080】
3回目の主走査では、図9(c)に示すように、膜形成領域3r1では、中央に近い2つのノズルN3,N4を連続して選択して、それぞれ3滴、合計6滴の液滴Dを吐出している。膜形成領域3r2では、中央に近い1つのノズルN10を選択して、3滴の液滴Dを吐出している。さらに、膜形成領域3r3では、中央に近い2つのノズルN16,N17を連続して選択して、それぞれ3滴、合計6滴の液滴Dを吐出している。
【0081】
4回目の主走査では、図9(d)に示すように、膜形成領域3r1では、中央に近い1つのノズルN4を選択して、3滴の液滴Dを吐出している。膜形成領域3r2では、中央に近い2つのノズルN10,N11を連続して選択して、それぞれ3滴、合計6滴の液滴Dを吐出している。さらに、膜形成領域3r3では、中央に近い3つのノズルN16〜N18を連続して選択して、それぞれ3滴、合計9滴の液滴Dを吐出している。
【0082】
このような4回の主走査を行うことにより、各膜形成領域3r1,3r2,3r3にはそれぞれ合計30滴(同じ吐出数)の液滴Dが吐出される。
【0083】
実施例1では、4回の主走査が終了した時点で、各膜形成領域3rにおいて、選択されるノズル52の数が1つ、2つ、3つ、4つの各選択パターンを組み合わせて液滴Dが吐出されている。さらには、それぞれの選択パターンにおけるノズル52の選択方法が、同一である。具体的には、複数のノズル52を選択する場合に、主走査方向(X軸方向)から見て副走査方向(Y軸方向)に必ず連続するように選択されている。このような選択パターンの組み合わせは、他の膜形成領域3rにおいても同様である。
【0084】
副走査方向に連続してノズル52を選択して液滴Dを吐出する場合、前述したようにノズル間の電気的、機械的なクロストークの影響を受けて、吐出された液滴Dの吐出量がばらつくおそれがある。ところが、4回の主走査において、ノズル52の選択パターンの組み合わせを同色の膜形成領域3r1,3r2,3r3ごとに同じとすることによって、選択されたノズル52から吐出される液滴Dの吐出量のばらつきが選択パターンごとに一様となり、結果的にほぼ一定量の液状体が各膜形成領域3r1,3r2,3r3に安定的に塗布される。
さらには、膜形成領域3rの中央に近い少なくとも1つのノズル52を選択して吐出しているので、液滴Dが中央付近に着弾する。したがって、液滴Dの飛行曲がりにより、不必要な液滴Dが隣接する膜形成領域3rに着弾する着弾不良(言い換えれば、必要な液滴Dが所望の膜形成領域3rに着弾しない着弾不良)を低減できる。
【0085】
このようなノズル52の選択パターンの組み合わせは、当然ながら他の同色の膜形成領域3g,3bにおいても同様に行われる。なお、図9(a)〜(d)において、主走査方向から見てノズル列52cを直線的に記載したが、実際には、2つのノズル列52a,52bにより構成されている(図2(b)参照)。したがって、ノズル間の電気的、機械的なクロストークを考慮したノズル52の選択パターンを設定する場合、選択パターンがノズル列52a,52bごとに同一となるように設定することが望ましい。
【0086】
実施例1は、4回の主走査において、複数の膜形成領域3rに対して常に同じ番号の複数のノズル52が相対的に位置しているとしたが、これに限定されない。複数回の主走査においてノズル52の選択パターンの組み合わせが同一であれば、少なくとも1回の主走査において複数のノズル52の相対的な配置を変えてもよい。すなわち、ヘッドユニット9をY軸方向に移動させる副走査を入れてから主走査を行ってもよい。これにより、液滴Dの吐出量のばらつきを分散させることができる。
【0087】
(実施例2)
図10(a)〜(d)は、実施例2の液状体の吐出方法を示す概略平面図である。実施例2の液状体の吐出方法は、実施例1に対して、ノズル52の選択パターンを一部変えたものである。具体的には、図10(a)および(b)に示すように、1回目、2回目の主走査におけるノズル52の選択パターンは、実施例1と同じである。図10(c)に示すように、3回目の主走査の膜形成領域3r1,3r3において、主走査方向から見て連続しないように2つのノズル52を選択している。同様に、4回目の主走査では、図10(d)に示すように、膜形成領域3r2において、主走査方向から見て連続しないように2つのノズル52を選択している。
【0088】
すなわち、各膜形成領域3r1,3r2,3r3において、複数のノズル52を選択する場合、必ずしも副走査方向に連続して選択しなくてもよい。言い換えれば、複数回の主走査においてノズル52の選択パターンの組み合わせが同一であれば、不連続にノズル52を選択してもよい。
【0089】
実施例2の液状体の吐出方法によれば、実施例1の効果を奏すると共に、複数のノズル52と膜形成領域3r1,3r2,3r3との相対的な配置に応じて、ノズル52の選択の自由度を高めることができる。なお、副走査方向に3つ以上のノズル52を選択可能な場合、選択パターンが同じならば副走査方向に不連続なノズル52の選択を含んでいてもよい。
【0090】
(実施例3)
図11(a)〜(d)は、実施例3の液状体の吐出方法を示す概略平面図である。実施例3の液状体の吐出方法は、実施例1に対して、膜形成領域3r1,3r2,3r3ごとのノズル52の選択パターンを主走査ごとに同じとしている。また、複数回の主走査が進むに従って、ノズル52の選択数を減らしている。
【0091】
具体的には、図11(a)に示すように、1回目の主走査では、膜形成領域3r1,3r2,3r3ごとに連続して4つのノズル52を選択する選択パターンを用いている。2回目の主走査では、図11(b)に示すように、連続して3つのノズル52を選択する選択パターンを用いている。3回目の主走査では、図11(c)に示すように、連続して2つのノズル52を選択する選択パターンを用いている。4回目の主走査では、図11(d)に示すように、1つのノズル52を選択する選択パターンを用いている。
【0092】
実施例3の液状体の吐出方法によれば、実施例1の効果に加えて、ノズル52の選択パターンが主走査ごとに同一であるため、選択されたノズル52の吐出特性が主走査ごとに安定し、吐出される液滴Dの吐出量のばらつきを低減することができる。
さらには、複数回の主走査が進むに従って、ノズル52の選択数を減らしているので、急激に吐出数が増えて、液状体が膜形成領域3r1,3r2,3r3から溢れてしまうことを防いでいる。すなわち、ほぼ一定量の液状体を安定的に塗布することができる。
【0093】
(実施例4)
図12(a)〜(d)は、実施例4の液状体の吐出方法を示す概略平面図である。実施例4の液状体の吐出方法は、実施例1に対して、膜形成領域3r1,3r2,3r3ごとのノズル52の選択パターンを複数回(4回)の主走査に亘って一定としている。
【0094】
具体的には、図12(a)〜(d)に示すように、各主走査において膜形成領域3r1,3r2,3r3ごとに3つのノズル52を副走査方向に連続して選択する選択パターンを用いている。また、合計の液滴数(吐出数)が膜形成領域3r1,3r2,3r3ごとに30滴(同数)となるように、3回目と4回目の主走査において吐出数を調整している。
【0095】
実施例4の液状体の吐出方法によれば、実施例1の効果に加えて、複数回の主走査に亘ってノズル52の選択パターンが同一であるため、選択されたノズル52の吐出特性が複数回の主走査に亘って安定し、吐出される液滴Dの吐出量のばらつきをより低減することができる。なお、この場合も、副走査を組み合わせ、ノズル52の選択パターンが同一であれば、少なくとも1回の主走査において複数のノズル52の相対的な配置を変えてもよい。
【0096】
上記実施例1〜4の図9〜図12に示した膜形成領域3r1,3r2,3r3ごとの液滴Dの着弾状態は、必ずしもその配置を示すものではなく、主走査ごとの液滴数(吐出数)を示すものである。したがって、実際には、吐出分解能が10μmである液滴吐出装置10を用いることにより、膜形成領域3r1,3r2,3r3の中央付近に集中的に液滴Dを吐出することが可能である。よって、膜形成領域3r1,3r2,3r3の平面的なサイズが小さくなっても、本実施形態の液状体の吐出方法を適用することができる。
また、当然ながら液状体の塗布量は、膜形成領域3r1,3r2,3r3の平面的且つ立体的なサイズと、これに形成される着色層3の膜厚のねらい値によって、適宜設定される。
また、上記実施例1〜4では、選択されたノズル52から、各主走査ごとに同数の液滴Dを吐出したが、これに限定されない。例えば、複数回の主走査が終了した時点で、ノズル52の選択パターンの組み合わせおよび液滴Dの総吐出数が同一であれば、複数のノズル52を選択する選択パターンにおいて、吐出される液滴数(吐出数)を少なくとも1つの選択されたノズル52において変えてもよい。これによれば、複数回の主走査によって吐出される液滴Dの吐出数をより細かく調整することができる。すなわち、膜形成領域3r1,3r2,3r3ごとに塗布される液状体の塗布量がねらいの値により近づくように調整することができる。
【0097】
(実施形態2)
<他の液状体の吐出方法>
次に、他の液状体の吐出方法について図13を参照して説明する。図13は実施形態2の駆動手段に印加される駆動波形のタイミングチャートである。
【0098】
LAT信号の1周期の間に発生する駆動波形は、1つに限定されない。例えば、図13に示すように、LAT信号の1周期f2において、2つの駆動波形A1,A2を発生させる。そして、LAT信号とCH信号とにより、2つの駆動波形A1,A2のうちのいずれかを選択する制御信号の構成としてもよい。これによれば、図6に示したLAT信号および駆動波形A1の構成に比べて、各駆動波形A1,A2の発生周期を短く設定し、高周波駆動が可能となる。このようにすれば、より短時間に必要量の液状体を対応する膜形成領域に付与することができる。
【0099】
さらに、例えば、上記実施形態1の実施例1の液状体の吐出方法を示す図9(a)において、膜形成領域3r1,3r2,3r3には、ノズルN2〜N5とノズルN9〜N11およびノズルN15〜N18が選択されて液滴Dが吐出される。
【0100】
本実施形態の他の液状体の吐出方法は、周期的に発生する上記駆動波形A1,A2を順次選択する波形選択パターンを、上記選択されたノズルN2〜N5とノズルN9〜N11およびノズルN15〜N18に適用させるものである。
【0101】
具体的には、ノズルN2,N4,N9,N11,N16,N18に対応する圧電素子59に駆動波形A1を印加し、ノズルN3,N5,N10,N15,N17に対応する圧電素子59に駆動波形A2を印加する。このようにすれば、選択された複数のノズル52のうち隣り合うノズル52に同じ駆動波形が印加されない。すなわち、副走査方向に配列する選択された複数のノズル52に対して2つの駆動波形A1,A2を順次選択する波形選択パターンを採用する。なお、波形選択の順序は、駆動波形A2、駆動波形A1の順でもよい。また、LAT信号で規定される1周期に発生する駆動波形の数は、これに限定されず、3つ以上としてもよい。その場合でも、複数の駆動波形を順次選択する波形選択パターンを適用する。
【0102】
上記他の液状体の吐出方法によれば、周期的に発生する複数の駆動波形A1,A2のうちから1つを選択して、上記選択されたノズル52の圧電素子59に印加するので、選択された複数のノズル52から同時に液滴Dが吐出されない。したがって、選択されたノズル間の少なくとも電気的なクロストークに起因する液滴Dの吐出量のばらつきを低減することができる。
【0103】
さらには、複数の駆動波形A1,A2を順次選択する波形選択パターンを上記ノズル52の選択パターンに適用するので、主走査において2つの駆動波形A1,A2の選択が偏らず均等となる。したがって、駆動波形A1,A2が偏って選択された場合に起こる駆動波形A1,A2の鈍りが軽減される。すなわち、駆動波形A1,A2の鈍りに起因する液滴Dの吐出量のばらつきが低減され、膜形成領域3r1,3r2,3r3ごとに塗布量のばらつきを抑えてほぼ一定量の液状体を安定的に塗布することができる。
【0104】
このような他の液状体の吐出方法は、他の同色の膜形成領域3g,3bを主走査する場合にも適用されることは言うまでもない。また、上記実施形態1の実施例1〜4のすべてに適用することができる。そして、周期的に発生する複数の駆動波形A1,A2は、互いに同じ駆動波形でなくてもよい。駆動波形A1,A2における最大電位(言い換えれば駆動電圧)を変えることにより、吐出される液滴Dの吐出量を変えることができ、膜形成領域に塗布される液状体の塗布量をさらに微調整することが可能となる。
【0105】
(実施形態3)
次に、上記実施形態1の液状体の吐出方法または上記実施形態2の他の液状体の吐出方法を適用した有機EL(Electro Luminescence)素子の製造方法について、図14および図15を参照して説明する。図14は有機EL装置を示す概略断面図、図15(a)〜(f)は有機EL素子の製造方法を示す概略断面図である。
【0106】
<有機EL装置>
図14に示すように、本実施形態の有機EL装置600は、有機EL素子としての発光素子部603を有する素子基板601と、素子基板601と空間622を隔てて封着された封止基板620とを備えている。また素子基板601は、素子基板601上に回路素子部602を備えており、発光素子部603は、回路素子部602上に重畳して形成され、回路素子部602により駆動されるものである。発光素子部603には、有機発光材料からなる3色の発光層617R,617G,617Bがそれぞれの膜形成領域としての発光層形成領域Aに形成され、ストライプ状となっている。素子基板601は、3色の発光層617R,617G,617Bに対応する3つの発光層形成領域Aを1組の絵素とし、この絵素が素子基板601の回路素子部602上にマトリクス状に配置されたものである。有機EL装置600は、発光素子部603からの発光が素子基板601側に射出するものである。
【0107】
封止基板620は、ガラスまたは金属からなるもので、封止樹脂を介して素子基板601に接合されており、封止された内側の表面には、ゲッター剤621が貼り付けられている。ゲッター剤621は、素子基板601と封止基板620との間の空間622に侵入した水または酸素を吸収して、発光素子部603が侵入した水または酸素によって劣化することを防ぐものである。なお、このゲッター剤621は省略しても良い。
【0108】
素子基板601は、回路素子部602上に複数の発光層形成領域Aを有するものであって、複数の発光層形成領域Aを区画するバンク618と、複数の発光層形成領域Aに形成された電極613と、電極613に積層された正孔注入/輸送層617aとを備えている。また複数の発光層形成領域A内に発光層形成材料を含む3種の液状体を付与して形成された発光層617R,617G,617Bを有する発光素子部603を備えている。バンク618は、絶縁材料を用いて形成され、正孔注入/輸送層617a上に積層された発光層617R,617G,617Bと電極613とが電気的に短絡しないように、電極613の周囲を覆っている。
【0109】
素子基板601は、例えばガラスなどの透明な基板からなり、素子基板601上にシリコン酸化膜からなる下地保護膜606が形成され、この下地保護膜606上に多結晶シリコンからなる島状の半導体膜607が形成されている。なお、半導体膜607には、ソース領域607aおよびドレイン領域607bが高濃度Pイオン打ち込みにより形成されている。なお、Pイオンが導入されなかった部分がチャネル領域607cとなっている。さらに下地保護膜606および半導体膜607を覆う透明なゲート絶縁膜608が形成され、ゲート絶縁膜608上にはAl、Mo、Ta、Ti、Wなどからなるゲート電極609が形成され、ゲート電極609およびゲート絶縁膜608上には透明な第1層間絶縁膜611aと第2層間絶縁膜611bが形成されている。ゲート電極609は半導体膜607のチャネル領域607cに対応する位置に設けられている。また、第1層間絶縁膜611aおよび第2層間絶縁膜611bを貫通して、半導体膜607のソース領域607a、ドレイン領域607bにそれぞれ接続されるコンタクトホール612a,612bが形成されている。そして、第2層間絶縁膜611b上に、ITO(Indium Tin Oxide)などからなる透明な電極613が所定の形状にパターニングされて配置され、一方のコンタクトホール612aがこの電極613に接続されている。また、もう一方のコンタクトホール612bが電源線614に接続されている。このようにして、回路素子部602には、各電極613に接続された駆動用の薄膜トランジスタ615が形成されている。なお、回路素子部602には、保持容量とスイッチング用の薄膜トランジスタも形成されているが、図14ではこれらの図示を省略している。
【0110】
発光素子部603は、陽極としての電極613と、電極613上に順次積層された正孔注入/輸送層617a、各発光層617R,617G,617B(総称して発光層Lu)と、バンク618と発光層Luとを覆うように積層された陰極604とを備えている。正孔注入/輸送層617aと発光層Luとにより発光が励起される機能層617を構成している。なお、陰極604と封止基板620およびゲッター剤621を透明な材料で構成すれば、封止基板620側から発光する光を射出させることができる。
【0111】
有機EL装置600は、ゲート電極609に接続された走査線(図示省略)とソース領域607aに接続された信号線(図示省略)とを有し、走査線に伝わった走査信号によりスイッチング用の薄膜トランジスタ(図示省略)がオンになると、そのときの信号線の電位が保持容量に保持され、該保持容量の状態に応じて、駆動用の薄膜トランジスタ615のオン・オフ状態が決まる。そして、駆動用の薄膜トランジスタ615のチャネル領域607cを介して、電源線614から電極613に電流が流れ、さらに正孔注入/輸送層617aと発光層Luとを介して陰極604に電流が流れる。発光層Luは、これを流れる電流量に応じて発光する。有機EL装置600は、このような発光素子部603の発光メカニズムにより、所望の文字や画像などを表示することができる。また、有機EL装置600は、発光層Luが上記実施形態1の液状体の吐出方法または上記実施形態2の他の液状体の吐出方法を用いて形成されているため、ほぼ一定量の液状体が各発光層形成領域Aに付与され、発光ムラ、輝度ムラなどの表示不具合の少ない高い表示品質を有すると共に、高精細な表示を可能としている。
【0112】
<有機EL素子の製造方法>
次に本実施形態の有機EL素子としての発光素子部603の製造方法について図15を参照して説明する。なお、図15(a)〜(f)においては、素子基板601上に形成された回路素子部602は、図示を省略している。
【0113】
本実施形態の発光素子部603の製造方法は、素子基板601の複数の発光層形成領域Aに対応する位置に電極613を形成する工程と、電極613に一部が掛かるようにバンク618を形成するバンク形成工程とを備えている。またバンク618で区画された発光層形成領域Aの表面処理を行う工程と、表面処理された発光層形成領域Aに正孔注入/輸送層形成材料を含む液状体を付与して正孔注入/輸送層617aを吐出描画する工程と、吐出された液状体を乾燥して正孔注入/輸送層617aを成膜する工程とを備えている。また、発光層形成領域Aに発光層形成材料を含む3種の液状体を吐出する吐出工程と、吐出された3種の液状体を乾燥して発光層Luを成膜する成膜工程とを備えている。さらに、バンク618と発光層Luを覆うように陰極604を形成する工程を備えている。各液状体の発光層形成領域Aへの付与は、上記実施形態1の液状体の吐出方法または上記実施形態2の他の液状体の吐出方法を用いて行う。よって、図3に示したヘッドユニット9における液滴吐出ヘッド50の配置を適用する。
【0114】
電極(陽極)形成工程では、図15(a)に示すように、素子基板601の発光層形成領域Aに対応する位置に電極613を形成する。形成方法としては、例えば、素子基板601の表面にITOなどの透明電極材料を用いて真空中でスパッタ法あるいは蒸着法で透明電極膜を形成する。その後、フォトリソグラフィ法にて必要な部分だけを残してエッチングして電極613を形成する方法が挙げられる。そしてバンク形成工程へ進む。
【0115】
バンク形成工程では、図15(b)に示すように、素子基板601の複数の電極613の周囲を覆うようにバンク618を形成する。バンク618の材料としては、後述する発光層形成材料を含む3種の液状体100R,100G,100Bの溶媒に対して耐久性を有するものであることが望ましく、さらに、フッ素系ガスを処理ガスとするプラズマ処理により撥液化できること、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、感光性ポリイミドなどといった絶縁性を有する有機材料が好ましい。バンク618の形成方法としては、例えば、電極613が形成された素子基板601の表面に感光性の上記有機材料をロールコート法やスピンコート法で塗布し、乾燥させて厚みがおよそ2〜3μmの感光性樹脂層を形成する。そして、発光層形成領域Aに対応した大きさで開口部が設けられたマスクを素子基板601と所定の位置で対向させて露光・現像することにより、バンク618を形成する方法が挙げられる。そして、表面処理工程へ進む。
【0116】
発光層形成領域Aを表面処理する工程では、バンク618が形成された素子基板601の表面を、まずO2ガスを処理ガスとしてプラズマ処理する。これにより電極613の表面、バンク618の表面(壁面を含む)を活性化させて親液処理する。次にCF4などのフッ素系ガスを処理ガスとしてプラズマ処理する。これにより有機材料である感光性樹脂からなるバンク618の表面のみにフッ素系ガスが反応して撥液処理される。そして、正孔注入/輸送層形成工程へ進む。
【0117】
正孔注入/輸送層形成工程では、図15(c)に示すように、正孔注入/輸送層形成材料を含む液状体90を発光層形成領域Aに付与する。液状体90を付与する方法としては、図3のヘッドユニット9を備えた液滴吐出装置10と上記実施形態1の液状体の吐出方法または上記実施形態2の他の液状体の吐出方法を用いる。液滴吐出ヘッド50から吐出された液状体90は、液滴Dとして素子基板601の電極613に着弾して濡れ拡がる。液状体90は発光層形成領域Aの面積に応じて、ほぼ一定量が液滴Dとして吐出される。そして乾燥・成膜工程へ進む。
【0118】
乾燥・成膜工程では、素子基板601を例えばランプアニールなどの方法で加熱することにより、液状体90の溶媒成分を乾燥させて除去し、電極613のバンク618により区画された領域に正孔注入/輸送層617aが形成される。本実施形態では、正孔注入/輸送層形成材料として3,4−ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルフォン酸(PEDOT/PSS)を用いた。なお、本実施形態では、各発光層形成領域Aに同一材料からなる正孔注入/輸送層617aを形成したが、後に形成される発光層Luに対応して正孔注入/輸送層617aの材料を発光層形成領域Aごとに変えてもよい。そして次の液状体の吐出工程へ進む。
【0119】
液状体の吐出工程では、図15(d)に示すように、液滴吐出装置10を用いて複数の液滴吐出ヘッド50から複数の発光層形成領域Aに発光層形成材料を含む3種の液状体100R,100G,100Bを付与する。液状体100Rは発光層617R(赤色)を形成する材料を含み、液状体100Gは発光層617G(緑色)を形成する材料を含み、液状体100Bは発光層617B(青色)を形成する材料を含んでいる。着弾した各液状体100R,100G,100Bは、発光層形成領域Aに濡れ拡がって断面形状が円弧状に盛り上がる。これらの液状体100R,100G,100Bを付与する方法としては、上記実施形態1の液状体の吐出方法または上記実施形態2の他の液状体の吐出方法を用いた。駆動波形(電圧パルス)の設定は、液状体100R,100G,100Bごとに行うことが望ましい。すなわち、各液状体100R,100G,100Bが充填される液滴吐出ヘッド50ごとに駆動波形の設定を行う。そして、乾燥・成膜工程へ進む。
【0120】
乾燥・成膜工程では、図15(e)に示すように、吐出された各液状体100R,100G,100Bの溶媒成分を乾燥させて除去し、各発光層形成領域Aの正孔注入/輸送層617aに各発光層617R,617G,617Bが積層されるように成膜する。各液状体100R,100G,100Bが吐出された素子基板601の乾燥方法としては、溶媒の蒸発速度をほぼ一定とすることが可能な、減圧乾燥が好ましい。そして陰極形成工程へ進む。
【0121】
陰極形成工程では、図15(f)に示すように、素子基板601の各発光層617R,617G,617Bとバンク618の表面とを覆うように陰極604を形成する。陰極604の材料としては、Ca、Ba、Alなどの金属やLiFなどのフッ化物を組み合わせて用いるのが好ましい。特に発光層617R,617G,617Bに近い側に仕事関数が小さいCa、Ba、LiFの膜を形成し、遠い側に仕事関数が大きいAlなどの膜を形成するのが好ましい。また、陰極604の上にSiO2、SiNなどの保護層を積層してもよい。このようにすれば、陰極604の酸化を防止することができる。陰極604の形成方法としては、蒸着法、スパッタ法、CVD法などが挙げられる。特に発光層617R,617G,617Bの熱による損傷を防止できるという点では、蒸着法が好ましい。
【0122】
このようにして出来上がった素子基板601は、ほぼ一定量の各液状体100R,100G,100Bが液滴Dとして発光層形成領域Aに付与され、乾燥・成膜化後の膜厚が、それぞれの発光層形成領域Aにおいて、ほぼ一定となった各発光層617R,617G,617Bを有する。
【0123】
上記実施形態3の発光素子部603の製造方法によれば、液状体100R,100G,100Bの吐出工程では、上記実施形態1の液状体の吐出方法または上記実施形態2の他の液状体の吐出方法を用いて素子基板601に配置された発光層形成領域Aに、ほぼ一定量の各液状体100R,100G,100Bが安定的に塗布されている。乾燥・成膜後の膜厚が、それぞれの発光層形成領域Aにおいて、ほぼ一定となった各発光層617R,617G,617Bが得られる。
【0124】
また、上記実施形態3の発光素子部603の製造方法を用いて、有機EL装置600を製造すれば、各発光層617R,617G,617Bの膜厚がほぼ一定であるため、各発光層617R,617G,617Bごとの抵抗がほぼ一定となる。よって、回路素子部602により発光素子部603に駆動電圧を印加して発光させると、各発光層617R,617G,617Bごとの抵抗ムラによる発光ムラや輝度ムラなどが低減される。すなわち、発光ムラや輝度ムラなどが少なく、高精細で見映えのよい表示品質を有する有機EL装置600を製造することができる。
【0125】
上記実施形態以外にも様々な変形例が考えられる。以下、変形例を挙げて説明する。
【0126】
(変形例1)上記実施形態1の液状体の吐出方法の実施例1〜4において、膜形成領域3r,3g,3bに掛かるノズル52に適用する駆動波形A1は、吐出される異種(異色)の液状体ごとに異ならせてもよい。これによれば、液状体ごとにねらいの吐出量で液滴Dを吐出させることができる。
【0127】
(変形例2)上記実施形態1のカラーフィルタ2の製造方法において、R,G,B、3色の着色層3の配置は、ストライプ方式に限定されない。斜め方向に同色の着色層3が配列するモザイク方式、三角形の頂点にあたる位置に各色の着色層3が配置されるデルタ方式であっても、上記実施形態1の液状体の吐出方法を適用することができる。また、着色層3は3色に限定されず、R,G,B以外の色を加えた多色でもよい。
【0128】
(変形例3)上記実施形態2の他の液状体の吐出方法において、複数の駆動波形A1,A2をノズル52の選択パターン(選択された複数のノズル52)に適用させる方法は、これに限定されない。例えば、3つの駆動波形A1,A2,A3を周期的に発生させる。図9(a)に示した1回目の主走査では、膜形成領域3r1,3r2,3r3の選択された複数のノズル52に対して、ノズルN2には駆動波形A1、ノズルN3には駆動波形A2、ノズルN4には駆動波形A3、ノズルN5には駆動波形A2、ノズルN9には駆動波形A1、ノズルN10には駆動波形A3、ノズルN11には駆動波形A1、ノズルN15には駆動波形A3、ノズルN16には駆動波形A2というように適用してもよい。すなわち、選択された複数のノズル52のうち隣り合うノズル52に同じ駆動波形を適用せず、且つ各駆動波形A1,A2,A3の選択がほぼ均等となるように適用することが望ましい。これによれば、ノズル間の少なくとも電気的なクロストークの発生を抑え、且つ駆動波形の鈍りによる液滴Dの吐出量のばらつきを低減することができる。
【0129】
(変形例4)上記実施形態3の発光素子部603の製造方法は、3色の発光層Luを形成することに限定されない。例えば、白色や赤色など単色の構成としてもよい。これによれば、単色の有機EL素子を備えた照明装置や感光装置を提供することができる。
【0130】
(変形例5)上記実施形態1の液状体の吐出方法および上記実施形態2の他の液状体の吐出方法において、主走査における複数のノズル52と膜形成領域3r,3g,3bとの相対的な位置関係は、これに限定されない。例えば、液滴吐出装置10において回転機構7を駆動し、複数のノズル52の配列方向と、膜形成領域3r,3g,3bの配列方向とが交差するようにヘッドユニット9をワークW(ガラス基板1)に対して位置決めする。これによれば、主走査において膜形成領域3r,3g,3bに掛かるノズル52の数を増やすことができ、より高密度に液滴Dを着弾させることができる。
【0131】
(変形例6)上記実施形態1の液状体の吐出方法または上記実施形態2の他の液状体の吐出方法を適用可能なデバイスの製造方法は、カラーフィルタ2の製造方法または有機EL素子の製造方法に限定されない。前述したように正孔注入/輸送層の形成にも適用できる。また、例えば、基板上の膜形成領域に導電材料を含む液状体を吐出して、所定のパターンを有する配線を形成する金属配線の製造方法、基板上の膜形成領域に位相差膜形成材料を含む液状体を吐出して、表示用の画素を構成する位相差膜を形成する方法などにも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】液滴吐出装置の構成を示す概略斜視図。
【図2】(a)は液滴吐出ヘッドを示す斜視図、(b)はノズルの配置状態を示す平面図。
【図3】ヘッドユニットにおける液滴吐出ヘッドの配置を示す概略平面図。
【図4】液滴吐出装置の制御系を示すブロック図。
【図5】ヘッドドライバの電気的な構成を示すブロック図。
【図6】実施形態1の駆動手段に印加される駆動波形のタイミングチャート。
【図7】(a)および(b)はカラーフィルタの構成を示す概略平面図。
【図8】(a)〜(f)はカラーフィルタの製造方法を示す概略断面図。
【図9】実施例1の液状体の吐出方法を示す概略平面図。
【図10】実施例2の液状体の吐出方法を示す概略平面図。
【図11】実施例3の液状体の吐出方法を示す概略平面図。
【図12】実施例4の液状体の吐出方法を示す概略平面図。
【図13】実施形態2の駆動手段に印加される駆動波形のタイミングチャート。
【図14】有機EL装置の構造を示す概略断面図。
【図15】(a)〜(f)は有機EL素子の製造方法を示す概略断面図。
【符号の説明】
【0133】
1…基板としてのガラス基板、2…カラーフィルタ、3…着色層、3r,3g,3b…膜形成領域、52…ノズル、59…駆動手段としての圧電素子、100R,100G,100B…発光層形成材料を含む液状体、603…有機EL素子としての発光素子部、617…機能層、617R,617G,617B…発光層、A…膜形成領域としての発光層形成領域、A1,A2…駆動波形、D…液滴。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノズルと基板とを相対移動させる走査を複数回行い、前記基板上に配列された複数の膜形成領域に前記複数のノズルから液状体を液滴として吐出する吐出工程を有する液状体の吐出方法であって、
前記吐出工程は、前記複数回の前記走査において前記液滴を吐出するノズルの選択パターンの組み合わせが前記膜形成領域ごとに同じであることを特徴とする液状体の吐出方法。
【請求項2】
前記吐出工程は、前記走査ごとに前記膜形成領域ごとの前記ノズルの選択パターンが異なることを特徴とする請求項1に記載の液状体の吐出方法。
【請求項3】
前記吐出工程は、前記走査ごとに前記膜形成領域ごとの前記ノズルの選択パターンが一定であることを特徴とする請求項1に記載の液状体の吐出方法。
【請求項4】
前記吐出工程は、前記複数回の前記走査に亘って前記膜形成領域ごとの前記ノズルの選択パターンが一定であることを特徴とする請求項1に記載の液状体の吐出方法。
【請求項5】
前記吐出工程は、周期的に発生する複数の駆動波形のうちの1つを選択された前記ノズルの駆動手段に印加することにより前記液滴を吐出することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の液状体の吐出方法。
【請求項6】
前記吐出工程は、前記走査において、前記ノズルの選択パターンにより選択された複数のノズルのうち、隣り合うノズルの前記駆動手段に同じ前記駆動波形を印加せず、且つ前記複数の駆動波形ごとの選択がほぼ均等であることを特徴とする請求項5に記載の液状体の吐出方法。
【請求項7】
前記吐出工程は、前記走査において前記膜形成領域ごとに掛かるノズルのうち、前記膜形成領域の中央に近い少なくとも1つのノズルを用いることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の液状体の吐出方法。
【請求項8】
基板上の複数の膜形成領域に複数色の着色層を有するカラーフィルタの製造方法であって、
請求項1乃至7に記載の液状体の吐出方法を用い、着色層形成材料を含む複数色の液状体を前記複数の膜形成領域に吐出する吐出工程と、
吐出された前記液状体を固化して前記複数色の着色層を形成する成膜工程と、を備えたことを特徴とするカラーフィルタの製造方法。
【請求項9】
基板上の複数の膜形成領域に発光層を含む機能層を有する有機EL素子の製造方法であって、
請求項1乃至7に記載の液状体の吐出方法を用い、発光層形成材料を含む液状体を前記複数の膜形成領域に吐出する吐出工程と、
吐出された前記液状体を固化して前記発光層を形成する成膜工程と、を備えたことを特徴とする有機EL素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−148694(P2009−148694A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−328379(P2007−328379)
【出願日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】