説明

液状可塑剤を含有する熱可塑性樹脂組成物及びその製造方法、並びに上記熱可塑性樹脂組成物を用いた生分解性押出成形シートまたはフィルム

【課題】ポリ乳酸を含有する生分解性シートまたはフィルムを成形する際に用いられる、液状可塑剤を含有する熱可塑性樹脂組成物であって、構成成分が略均一に混合される熱可塑性樹脂組成物、及び該熱可塑性樹脂組成物の製造方法、並びに上記熱可塑性樹脂組成物を用いた生分解性押出成形シートまたはフィルムを提供する。
【解決手段】(A)熱可塑性樹脂と、(B)重量平均粒子径が0.1μm以上10μm以下であり、重量平均粒子径(μm)と比表面積(m/g)の積が10以上、且つ煮アマニ油吸油量が40ml/100g以上である無機充填剤と、(C)液状可塑剤と、を含み、上記(A)が、ポリ乳酸10重量%以上100重量%以下、生分解性脂肪族ポリエステル0重量%以上90重量%以下、および生分解性脂肪族芳香族ポリエステル0重量%以上90重量%以下の配合比率であって、上記(B)と上記(C)との重量部の比率が(B):(C)=99:1乃至50:50であって、且つ、上記(A)中におけるポリ乳酸100重量部に対して、上記(C)の配合比率が5重量部以上50重量部以下となるよう熱塑性樹脂組成物を調製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸を含有する生分解性シートまたはフィルムを押出成形法により成形する際に用いられる、液状可塑剤を含有する熱可塑性樹脂組成物及び該熱可塑性樹脂組成物の製造方法、並びに上記熱可塑性樹脂組成物を用いて押出成形された生分解性シートまたはフィルムに関する。より詳しくは、ポリ乳酸、あるいはさらに他の生分解性樹脂から構成される熱可塑性樹脂と、液状可塑剤と、無機充填剤を含む熱可塑性樹脂組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題に対する関心が高まり、生分解性樹脂を用いた成形品の需要が高まっている。中でもポリ乳酸は、バイオマス由来の樹脂として非常に注目されており、ポリ乳酸を含有するフィルムやシートの提供が望まれている。
【0003】
ただし、他の生分解性樹脂であるポリブチレンサクシネート等の脂肪族ポリエステルや、ポリブチレンアジペートレテフタレート等の脂肪族芳香族ポリエステルは、可塑剤の添加無しに柔軟な樹脂成形品を成形することが可能であるのに対し、ポリ乳酸は可塑剤を使用しない場合には、硬質で折り曲げ加工などに不適な成形品しか成形することができない。したがって、ポリ乳酸を用いて柔軟な樹脂成形品を製造するための試みが種々なされている。
【0004】
例えば、下記特許文献1には、乳酸成分とポリエステル成分とを特定の重量比率となるよう調整した乳酸系ポリエステルと可塑剤とを含有するポリ乳酸系樹脂組成物及びこれを用いたフィルム等の発明が開示されている。また下記特許文献2には、ポリ乳酸とガラス転移点が0℃以下である生分解性脂肪族ポリエステルと可塑剤とを含有するポリマーからなるポリ乳酸系フィルムの発明が開示されている。上記特許文献1または2のように、柔軟な成形品を成形することが可能な樹脂をポリ乳酸とブレンドすることにより、ポリ乳酸含有の樹脂成形品に柔軟性を付与することが試みられている。
【0005】
またさらに、特許文献3では、ポリ乳酸とガラス転移温度が0℃以下の生分解性脂肪族−芳香族共重合ポリエステルと可塑剤と無機充填剤とを構成成分とする樹脂組成物を用いて成形されるポリ乳酸系フィルムの発明が開示されている。特許文献3に記載の発明は、ポリ乳酸に、柔軟性を与えるために他の生分解性ポリエステルとブレンドさせ、且つ可塑剤を使用する上、さらに一般的な無機充填剤を含有させていることを特徴と有している。
【0006】
【特許文献1】特開2007−138187号公報
【特許文献2】特開2000−273207号公報
【特許文献3】特開2002−327107号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで樹脂成形品を成形する場合には種々の方法があるが、中でも押出し成形方法は非常に一般的な方法であり、ポリ乳酸含有樹脂成形品についても汎用の押出し成形装置で成形したいという要望が高い。またかかる場合に、樹脂組成物は、予め混合機などを用いてコンパウンドを作製し、これを押出成形機のホッパー内に投入する方法が一般的である。
【0008】
ところが、上記特許文献1乃至3に開示されるポリ乳酸含有の樹脂組成物を用いてコンパウンドを作製しようとすると以下の問題点があった。
【0009】
即ち、特許文献1あるいは2では、成形品に柔軟性を付与することが可能な樹脂とポリ乳酸をブレンドした上、さらに可塑剤を用いている。かかる場合に用いられる可塑剤は一般的に液状であるが、液状の可塑剤の含有量が樹脂組成物中において約5%を越えると、樹脂組成物のコンパウンディングの際にべたつきが生じ、樹脂同士が結着して塊状になってしまう傾向にあった。そして塊状になった樹脂は、混合機の導入部分または内部において、詰まりや装置への付着の原因となり、あるいは液状の可塑剤が樹脂と良好に混合されず分離して液溜りが生じるなどの問題があった。またべたついた状態では樹脂と液状可塑剤とが均一に混合され難く、コンパウンディングにおける樹脂溶融混練工程において、液状可塑剤などの樹脂組成物の構成成分が均一に混合され難いという問題があり、またそのために溶融樹脂圧力が一定にならず成形性不良の要因ともなっていた。加えて、コンパウンディングの作業性も悪いという問題があった。
【0010】
また特許文献3に開示されるごとく、ポリ乳酸含有の樹脂組成物において一般的な無機添加剤を含有させた場合であっても、樹脂組成物のコンパウンディング時に樹脂組成物の構成成分を一度に混合させようとすると粘土状に固まる傾向にあり、上述と同様の問題があった。
【0011】
そして、上述に記載のとおり、樹脂組成物のコンパウンディング時における混合不良により、得られたコンパウンド(すなわち、混合後の樹脂組成物)はその組成にムラがあり、これを用いて成形された樹脂成形品の物性や形状のばらつきを引き起こす原因となっていた。
【0012】
また別な試みとして、例えば、特公昭47−40852号公報あるいは特公昭46−10998号公報に開示される方法を利用して、押出成形装置にサイドフィード装置を設け、ホッパーから押出成形装置内に供給された樹脂に対し、該サイドフィード装置から液状可塑剤を添加し両者を混合させることで押出成形装置内で樹脂材料のマスターバッチ化を行うことも考えられる。
【0013】
しかしながら上述の方法では、サイドフィード装置を備える特殊な押出成形装置が必要であるため装置に対する費用が増大する結果、得られる成形品の価格を上げざるを得ず、コスト面で問題であった。
【0014】
本発明は、上記問題点を鑑みなされたものであり、より詳しくは、ポリ乳酸を含有する生分解性シートまたはフィルムを成形する際に用いられる、液状可塑剤を含有する熱可塑性樹脂組成物であって、構成成分が略均一に混合される熱可塑性樹脂組成物、及び該熱可塑性樹脂組成物の製造方法、並びに上記熱可塑性樹脂組成物を用いた生分解性押出成形シートまたはフィルムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、ポリ乳酸を含む熱可塑性樹脂成分と、液状可塑剤とを混合する際に、さらに特定の無機充填剤を用い、これらを同時に混合することによれば、容易に液状可塑剤や熱可塑性樹脂などの樹脂組成物の構成材料が略均一に混合された熱可塑性樹脂組成物を得ることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0016】
即ち本発明は、
(1)(A)熱可塑性樹脂と、(B)重量平均粒子径が0.1μm以上10μm以下であり、重量平均粒子径(μm)と比表面積(m/g)の積が10以上、且つ煮アマニ油吸油量が40ml/100g以上である無機充填剤と、(C)液状可塑剤と、を含み、上記(A)が、ポリ乳酸10重量%以上100重量%以下、生分解性脂肪族ポリエステル0重量%以上90重量%以下、および生分解性脂肪族芳香族ポリエステル0重量%以上90重量%以下の配合比率により構成されており、上記(B)と上記(C)との重量部の比率が(B):(C)=99:1乃至50:50であって、且つ、上記(A)中におけるポリ乳酸100重量部に対して、上記(C)の配合比率が5重量部以上50重量部以下であることを特徴とする液状可塑剤を含有する熱可塑性樹脂組成物、
(2)上記(A)が、ポリ乳酸と、脂肪族ポリエステル及び/または脂肪族芳香族ポリエステルとから構成されており、ポリ乳酸10重量%以上90重量%以下、脂肪族ポリエステル10重量%以上90重量%以下、脂肪族芳香族ポリエステル10重量%以上90重量%以下の配合比率により構成されていることを特徴とする上記(1)に記載の液状可塑剤を含有する熱可塑性樹脂組成物、
(3)上記無機充填剤の粒子表面が不規則な凹凸で構成されていることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の液状可塑剤を含有する熱可塑性樹脂組成物、
(4)上記無機充填剤が炭酸カルシウムであることを特徴とする上記(1)乃至(3)のいずれか1つに記載の液状可塑剤を含有する熱可塑性樹脂組成物、
(5)上記(1)乃至(4)のいずれか1つに記載の上記(A)、上記(B)及び上記(C)を同時に混合させることにより熱可塑性樹脂組成物を製造することを特徴とする液状可塑剤を含有する熱可塑性樹脂組成物の製造方法、
(6)上記(1)乃至(4)のいずれか1つに記載の液状可塑剤を含有する樹脂組成物を用いて形成された、引張弾性率が1200MPa以下の生分解性押出成形シートまたはフィルム、
を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、特定の無機充填剤を樹脂組成物に配合することにより、ポリ乳酸を含有する樹脂組成物を用いて成形される樹脂成型品に柔軟性を付与するために添加される液状可塑剤の存在によっても、樹脂組成物のコンパウンディング時におけるべたつきの発生を良好に防止することができる。したがって、従来問題となっていた、コンパウンディング時における樹脂組成物の混合不良、あるいは混合装置への付着、混合装置における詰まりや液溜まりの問題が良好に防止される。したがって、コンパウンディングにおける作業性も非常に良好であり、またコンパウンディングに用いられる装置の系内の清掃が非常に容易であり、異なる樹脂成形品を成形するための切り替え作業が効率的に行われる。
【0018】
また上述のとおり本発明の樹脂組成物は、コンパウディングにおいて略均一な混合を可能とするため、得られたコンパウンドを用いて成形された樹脂成形品では、樹脂組成物の混合不良に起因する物性や形状のばらつきが起こる虞がない。
【0019】
そして、ポリ乳酸を含む樹脂組成物に良好に液状可塑剤が添加され分散されることから、ポリ乳酸の由来の強度に加えて、好ましい柔軟性も付加されたフィルムやシートなどの成形品を提供することができる。上記フィルムやシートは、従来のポリ乳酸含有の生分解性の樹脂成形品に対して、非常に優れた柔軟性を示すことが可能である。
【0020】
また特に、特定の無機充填剤の粒子として、粒子表面が不規則な凹凸で構成されているものを用いる本発明によれば、さらなる有利な効果を奏する。即ち、上述する本発明の効果は、主として上記特定の無機充填剤の粒子に液状可塑剤が良好に吸収されることによりべたつきが防止されるものと思われるところ、特定の無機充填剤として、粒子表面が不規則な凹凸で構成されているものを用いた場合には、樹脂組成物のコンパウンディングの際の溶融混合工程における混合のせん断力により、該無機充填剤粒子の凹凸部分が砕けて、溶融樹脂中にさらに細かく分散されることとなる。これにより無機充填剤粒子に吸収された液状可塑剤が溶融樹脂中にさらに均一に分散される結果となる。そしてこのように液状可塑剤が非常に良好に分散混合されたコンパウンドを用いて樹脂成形品を成形することにより、物性および形状においてムラがなく非常に良質な樹脂成形品を提供することができる。
【0021】
特に本発明における無機充填剤としては、炭酸カルシウムよりなるものが、その取り扱い性や入手の容易さ、コスト面などから有利であり、中でも、炭酸カルシウム粒子であって、その表面が不規則な凹凸で構成される無機充填剤を用いることが望ましい。
【0022】
加えて、本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、樹脂組成物の構成成分を数回の工程に分けて混合する必要がなく、またサイドフィードを備える高価な装置を使用する必要もなく、汎用の混合装置を用いて一度に構成成分を混ぜ合わせることによって、構成成分が均一に混合され、且つべとつきのないコンパウンドを作製することができる。そして、押出成形装置において、上記コンパウンドを用いて成形された成形品は、組成ムラがなく、良好な物性を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に、本発明の液状可塑剤を含有する熱可塑性樹脂組成物(以下、単に「本発明の樹脂組成物」ともいう)について、最良の形態を、構成材料ごとに説明する。
【0024】
(熱可塑性樹脂)
本発明に用いられる熱可塑性樹脂は、ポリ乳酸を必須とし、且つ、必要に応じて生分解性脂肪族芳香族ポリエステル、あるいは生分解性脂肪族ポリエステルを、適宜配合して構成される。
【0025】
本発明に用いられるポリ乳酸は、乳酸がエステル結合によって重合し、形成される高分子である。特に数平均分子量8万〜15万程度のものが好ましく用いられる。乳酸は1つの不斉炭素を持ち、L体とD体の2種が存在するため、ポリ乳酸は、L体の乳酸を重合させたポリL乳酸、D体の乳酸を重合させたポリD乳酸、L体とD体の乳酸を共重合させたポリDL乳酸とが存在する。本発明のポリ乳酸は、上記いずれのタイプのものでも使用可能であり、また組み合わせて使用してもよい。特に、ポリL乳酸、ポリD乳酸を混合させた、所謂、ステレオコンプレックス型ポリ乳酸は、得られる成形品において、より高い耐熱性を示すことが可能である。一方、ポリDL乳酸は、その結晶性が低いことが知られている。したがって、本発明では、最終製品に求められる性質を勘案し、上記ポリ乳酸を適宜選択して用いることが望ましい。
【0026】
本発明に用いられる生分解性脂肪族芳香族ポリエステルとしては、ポリブチレンアジペートテレフタレート(以下、「PBAT」ともいう)、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンサクシネートテレフタレート、ポリテトラメチレンアジペートテレフタレートなどが挙げられる。
【0027】
本発明に用いられる生分解性脂肪族ポリエステルとしては、例えば、ポリブチレンサクシネート(以下、「PBS」ともいう)、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリヒドロキシ酪酸、ポリブチレンサクシネートカーボネート、ポリカプロラクトンなどが挙げられる。
【0028】
本発明における熱可塑性樹脂として、上記ポリ乳酸を100重量%使用することもできるし、あるいはポリ乳酸と、生分解性脂肪族芳香族ポリエステル及び/または生分解性脂肪族ポリエステルを適宜、配合してもよい。より具体的には、ポリ乳酸10重量%以上100重量%に対し、さらに生分解性脂肪族ポリエステル0重量%以上90重量%以下、及び/または生分解性脂肪族芳香族ポリエステル0重量%以上90重量%以下の配合比率により、上記熱可塑性樹脂を構成することができる。
【0029】
特に、上記熱可塑性樹脂として、ポリ乳酸を90重量%を超えて100重量%以下で使用する本発明の樹脂組成物を用いて樹脂成形品を成形する場合には、成形可能な程度に柔軟性の付与された、強度の高い成形品を得ることができる。このため、電化製品の外装の素材などとして使用し得る、フィルムやシートを成形することが可能である。しかも、本発明の樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂は生分解性のポリ乳酸、あるいはこれに加えて他の生分解性樹脂から構成されるために、製品使用後において、本発明により得られるフィルムやシートを土中に埋設するなどにして生分解により廃棄処理することができる。
【0030】
一方、ポリ乳酸10重量%以上90重量%以下、脂肪族ポリエステル10重量%以上90重量%以下、脂肪族芳香族ポリエステル10重量%以上90重量%以下の配合比率により構成することにより、良好な柔軟性が付与された生分解性のフィルムやシートを容易に提供することができる点で好ましい。即ち、ポリ乳酸と可塑剤とを配合した上に、柔軟性の高い他の生分解性樹脂をさらに10重量%以上配合させて得られた本発明の樹脂組成物であれば、良好な柔軟性を示すフィルムやシートを容易に成形することが可能である。しかも、ポリ乳酸と、他の生分解性樹脂とでは生分解される速度が異なるため、これらの生分解性樹脂を混合させることによって、目的に応じた生分解期間を調整することが可能である。したがって、ポリ乳酸と、生分解性脂肪族ポリエステル及び/または生分解性脂肪族芳香族ポリエステルとを混合させて用いる本発明の樹脂組成物を用いて成形されたフィルムやシートは、例えば、一定期間後に生分解されることが望まれる農業用フィルム(またはシート)などに非常に好適に使用することができる。
【0031】
尚、本発明において「生分解」とは、厳密には土壌中の微生物により、一定の期間で二酸化炭素と水に分解されることをいう。この分解されるまでの時間は、基材を構成する樹脂の分子構造などにより異なり、一般的に、直鎖状の構造を有する樹脂の方が短時間で分解されることが知られる。また「生分解性脂肪族芳香族ポリエステル」あるいは「生分解性脂肪族ポリエステル」とは、当該樹脂を用いて樹脂成形品を成形した場合に、当該成形品を、土に埋設した際に、生分解性を示すことを意味する。
【0032】
(無機充填剤)
本発明に用いられる無機充填剤としては、炭酸カルシウムやタルクなど、樹脂成形において使用され得る公知の無機充填剤から選択することができる。ただし、下記の条件を備えているものに限る。
【0033】
本発明に用いられる無機充填剤は、その重量平均粒子径(μm)と比表面積(m/g)の積が10以上であることが重要である。本発明者は、本発明の課題を達成するための研究過程において、炭酸カルシウムを例にして、その重量平均粒子径(μm)の逆数と、比表面積の相関を調べたところ、図1に示す関係を見出した。即ち、充填剤として汎用される表面に凹凸がなく、且つ孔がほとんど存在しない球状の炭酸カルシウムは、その重量平均粒子径(μm)の逆数と、比表面積の相関をみると、第1象限において下記式1、
(式1) y=2.2613x+0.3823
で示される直線上に略存在し、互いに比例関係にある。これに対し、ある特殊な炭酸カルシウムは、この直線にのらず、第1象限において、この直線よりも上側、即ち比表面積値が大きい領域に存在した。尚、図中、表面に凹凸がなく、且つ孔がほとんど存在しない球状の汎用炭酸カルシウムについては、黒塗りのひし形のプロットで示し、特殊な炭酸カルシウムについては白抜きのひし形のプロットで示した。
【0034】
換言すると、図1のグラフ中、直線状に存在する汎用の炭酸カルシウムは、いずれも重量平均粒子径と比表面積との積が約2.0〜2.3程度であり、式1に示される直線上に略集合するのに対し、この直線を上回る領域に存在する特殊な炭酸カルシウムの重量平均粒子径と比表面積との積は、2を上回っていた。
【0035】
本発明者は、重量平均粒子径と比表面積との積についてさらに検討した結果、特に重量平均粒子径と比表面積との積が10以上の無機充填剤は、煮アマニ油吸油量が40ml/100g以上の非常に高い吸収力を示すことがわかった。そしてかかる無機充填剤であれば、上述する熱可塑性樹脂と、液状可塑剤とともに同時に混合した場合に、該液状可塑剤が無機充填剤に充分吸収されるとともに、その液状可塑剤を吸収した無機充填剤が上記熱可塑性樹脂の表面に付着し組成物全体に良好に分散されるため、得られる熱可塑性樹脂組成物のコンパウンドがべたべたした状態になることがない。したがって、該熱可塑性樹脂組成物のコンパウンドを押出成形装置のホッパーに投入した際に、熱可塑性樹脂組成物中の熱可塑性樹脂同士が結着してホッパー出口が詰まることがなく、また液状可塑剤の一部が分離して液溜まりができることもない。その結果、上記熱可塑性樹脂組成物のコンパウンドを用いて押出成形によりペレットを成形した場合には、非常に良好な押出成形性が示され、また組成ムラのないコンパウンドペレットを得ることができる。
【0036】
上記煮アマニ油吸油量は、JIS K5101に規定される煮アマニ油法に準拠して測定される。本発明において使用可能な無機充填剤の煮アマニ油吸油量は、40ml/100g以上であるが、45ml/100g以上であることが好ましく、50ml/100g以上であることがより好ましい。
【0037】
また特に、粒子表面が不規則な凹凸で構成されている無機充填剤を選択することによって、重量平均粒子径と比表面積との積が10以上であって、且つ、煮アマニ油吸油量は、40ml/100g以上を示す本発明において使用可能な無機充填剤を容易に得ることができることがわかった。
【0038】
また重量平均粒子径と比表面積との積が10以上、且つ、煮アマニ油吸油量が40ml/100g以上である無機充填剤のうち、特に粒子表面が不規則な凹凸で構成されている無機充填剤の使用によれば、べたつきのない押出成形性の優れた熱可塑性樹脂組成物のコンパウンドが得られるという効果に加えて、その特殊な形状からさらなる効果を奏する。即ち、本発明の熱可塑性樹脂組成物のコンパウンドが押出成形装置内におけるスクリュー部に送り込まれた際に、無機充填剤がせん断応力によって、凹凸を有する無機充填剤の少なくとも一部が砕け、溶融された熱可塑性樹脂中にさらに細かく分散され易い。このとき無機充填剤には液状可塑剤が吸収されているので、該無機充填剤が溶融樹脂中に分散される結果、液状可塑剤も同時に分散されることとなり、得られる樹脂成形品において非常に優れた物性や形状が示される。
【0039】
ここで、粒子表面が不規則な凹凸で構成されている無機充填剤とは、粒子が多孔質であるか否かを問わない。また粒子表面における不規則な凹凸は、例えば、「バラの花びら状」あるいは「いがぐり状」などとも表現し得る。例えば、市販の品としては、白石カルシウム株式会社製の多孔質炭酸カルシウム「カルライトKT」、あるいは株式会社ファイマテックの沈降性炭酸カルシウム「ALBACAR 5970」などが、本発明における粒子表面が不規則な凹凸で構成される無機充填剤として使用し得る。
【0040】
本発明に使用し得る無機充填剤の重量平均粒子径は、0.1μm以上10μm以下である。かかる重量平均粒子径の好ましい範囲は、熱可塑性樹脂組成物における良好な分散性、あるいはその入手の容易さなどを勘案して決定された。特に、上述する無機充填剤の重量平均粒子径が0.1μm以上であれば、本願発明の目的を達成するに充分な大きさであって経済的にも不利益がなく、また重量平均粒子径が10μm以下であることにより、フィルムやシートなどの成形品にした際に成形品表面に粒子の存在を目立たせることない。
【0041】
(液状可塑剤)
本発明における液状可塑剤としては、熱可塑性樹脂に柔軟性を付与するために用いられる、常温で液状の添加剤であれば、適宜選択して用いることができる。ただし、本発明の熱可塑性樹脂組成物を用いて成形された成形品が生分解される際には、該成形品に含有される液状可塑剤は、環境中に放出させるため、これを勘案すれば、安全性の高い液状可塑剤を用いることが望ましい。液状可塑剤の例としては、グリセリルトリアセテート、グリセリルジアセトモノラウレート、アジピン酸ジイソノニル、ポリ(1,3−ブタンジオール)アジペート、ベンジル=2−(2−メトキシエトキシ)エチル=アジペート、アセチルクエン酸トリブチル、エポキシ化大豆油などを挙げることができる。上記液状可塑剤としては、1種の添加剤、あるいは2種以上の添加剤の組合せであってよい。
【0042】
(熱可塑性樹脂組成物の配合比率について)
本発明の熱可塑性樹脂組成物において、構成成分の配合比率は、(A)熱可塑性樹脂と、(B)無機充填剤と、(C)液状可塑剤との配合比率は、以下のとおりに特定される。即ち、(B)無機充填剤と(C)液状添加剤との重量部の比率が(B):(C)=99:1乃至50:50であって、且つ、(A)熱可塑性樹脂中におけるポリ乳酸100重量部に対して(C)液状可塑剤の配合比率が、5重量部以上50重量部以下である。
【0043】
上記配合比率において、上記(A)熱可塑性樹脂中におけるポリ乳酸100重量部に対し、上記(C)液状可塑剤の配合量が5重量部以上50重量部以下の範囲であっても、(B)無機充填剤と(C)液状添加剤との重量部の比率が(B):(C)=99:1乃至50:50の範囲をはずれると、(C)液状可塑剤と、これを吸収する(B)無機充填剤とのバランスが悪く、液状可塑剤が分離し、あるいは無機充填剤が熱可塑性樹脂表面に良好に付着しないなどの不都合が生じる虞があり、結果として、押出成形性の不良の原因になる。
【0044】
また(A)熱可塑性樹脂中におけるポリ乳酸100重量部に対し、上記(C)の配合量が5重量部未満である場合には、ポリ乳酸に対し、十分な柔軟性を付与できない虞があり、一方、50重量部を上回る場合には、液状可塑剤がブリードする虞がある。尚、2種以上の液状可塑剤を混合して用いる場合には、その重量の総和が上述する(C)液状可塑剤の好ましい配合比率となるよう調整される。
【0045】
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、目的に応じて所望の添加剤を添加してもよい。上記添加剤の例としては、例えば着色剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、帯電防止剤、加水分解防止剤、有機充填剤、無機充填剤などが挙げられる。但し、これらの添加剤が液状体として用いられる場合には、その取り扱いは、上述する本発明における液状可塑剤として取り扱うものとする。即ち、上記液状可塑剤として、熱可塑性樹脂組成物における好ましい配合量内において、用いられるべきである。
【0046】
(本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法について)
本発明の液状可塑剤を含有する熱可塑性樹脂組成物の製造方法、即ちコンパウンドの作製方法の最大の特徴は、汎用の混合装置あるいはコンパウンドの作製に用いられ得る押出成形装置を使用して、少なくともポリ乳酸を含有する熱可塑性樹脂と、上述する特定の無機充填剤と、液状可塑剤を同時に混合することができる点にある。本発明において「同時に混合」することができるという意味は、樹脂組成物の各構成材料を混合する混合工程を数回に分けることなく、一度の混合工程において混合することができることを意味する。
【0047】
尚、本発明における熱可塑性樹脂として用いられるポリ乳酸あるいは生分解性脂肪族芳香族ポリエステルあるいは生分解性脂肪族ポリエステルは、ペレット形状であってもよいし、パウダー状であってもよい。ただし一般的には、上記熱可塑性樹脂としては、いずれもペレット形状のものを用いる場合が多い。
【0048】
ここで上記ペレット形状の熱可塑性樹脂とは、一般的に粉体と理解される寸法を上回る粒状に成形された樹脂をいう。その形状は、略球状あるいは、楕円状、円柱状など任意の形状であってよい。またその大きさについても特に限定されるものではないが、その最大径が略2mm以上6mm以下であることが一般的である。
【0049】
ペレット形状などの熱可塑性樹脂と、上述する特定の無機充填剤と、液状可塑剤とを混合するために使用される装置としては、これらを溶融混合させ、所望の形状のコンパウンドを作製することが可能な装置であれば適宜選択して使用することができ、例えばタンブラーミキサーやヘンシェルミキサーなどの一般的に用いられる混合装置、あるいはコンパウンドの作製にも用いられ得る押出成形装置が使用される。
【0050】
上述する装置において、上記熱可塑性樹脂、上記液状可塑剤、上記無機充填剤を混合する際の装置内における混合温度は、室温程度であっても充分に三者を同時に混合し、均一な熱可塑性樹脂組成物を得ることができるが、50℃〜80℃程度の温度に調整することによって、液状可塑剤が炭酸カルシウムなどの無機充填剤によりよく吸収され、且つ、液状可塑剤を吸収した無機充填剤がペレット形状の樹脂組成物の表面に良好に付着するため好ましい。本発明の樹脂組成物の製造方法では、上述のとおり、樹脂組成物の構成成分を熱可塑性樹脂の溶融温度以下で混合し、液状可塑剤を吸収した無機充填剤を全体に良好に分散させ、且つペレット形状の樹脂組成物の表面に付着させるだけで、べたつきのない、コンパウンドを作製することができる点で優れている。
【0051】
また本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法では、混合装置内の温度を、用いられる熱可塑性樹脂の溶融温度以上の温度になるよう調整し、一度、熱可塑性樹脂を装置内で溶融させた状態で攪拌することにより、液状可塑剤を吸収した無機充填剤を樹脂中に練り込み、再度、ペレット形状に成形することもできる。より具体的には、まず、ヘンシェルミキサーやタンブラーミキサーなどで予め樹脂組成物の構成成分を攪拌混合し、無機充填剤に液状可塑剤を吸収させるとともに、該無機充填剤をペレット形状などの樹脂組成物に付着させる。次いで、上述のとおり無機充填剤が表面に付着した状態のペレットを押出成形装置などの溶融混合可能な装置に投入し、樹脂組成物を溶融するとともに、液状可塑剤を吸収した無機充填剤を樹脂中に練り込み、さらに所望のペレット形状に作製することにより、樹脂組成物のコンパウンドペレットを作製することができる。
【0052】
尚、本明細書において、本発明の熱可塑性樹脂組成物の構成材料を混合させて得られたものをコンパウンドというが、本発明の熱可塑性樹脂組成物の構成材料を混合、溶融し、押出すことによってペレット形状に成形したものを、特に「コンパウンドペレット」と呼ぶ場合がある。
【0053】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法において、混合時間は、混合する総量、あるいはその組成の種類、温度、混合装置の種類などによって適宜決定される。また混合の際に、スクリューや攪拌羽などを用いて攪拌する場合の攪拌速度についても、上述と同様に適宜決定される。また得られたコンパウンドを引き続き、乾燥工程に供するか否かは任意である。
【0054】
上述のとおりコンパウンドとして得られた本発明の液状可塑剤を含有する熱可塑性樹脂組成物は、押出成形法により生分解性の樹脂成形品を成形するための材料として用いることができる。押出成形装置としては、一般的に汎用される射出成形装置、Tダイ装置、インフレーション装置などの押出成形装置のいずれにおいても用いることができる。上記本発明の熱可塑性樹脂組成物は、液状可塑剤が無機充填剤に充分に吸収されるとともに、この液状可塑剤を吸収した無機充填剤がペレット形状の熱可塑性樹脂の表面に付着して組成物全体に分散されるか、あるいは樹脂組成物中に液状可塑剤と無機充填剤とが練り込まれて分散しているため、これを押出成形装置のホッパーに投入した場合には、該熱可塑性樹脂組成物は、ペレット同士が自着してホッパーの出口部分に詰まることがなく、また液状可塑剤の一部が熱可塑性樹脂組成物から分離して、ホッパー内に溜まるなどの不都合が生じる虞がない。したがって、押出成形性が良好である。
【0055】
そして、上述する本発明の生分解性押出成形シートまたはフィルム(以下、シートまたはフィルムを総称し、単に「シート」ともいう)は、上述のとおり、各構成成分が良好に分散し、且つ、均一に混合されているため、コンパウンドの成分のムラに起因する、成形品の物性や形状のばらつきが発生する虞がない。その上、ポリ乳酸を含む生分解性の熱可塑性樹脂よりなるシートであって、好適に液状可塑剤が使用されているため、引張弾性率が1200MPa以下の非常に柔軟性に優れたポリ乳酸含有の生分解性押出成形シートを提供することができる。
【0056】
本発明の生分解性押出成形シートにおいて述べる引張弾性率とは、JIS K7113(プラスチックの引張試験方法)に準じ、厚み1mmの試験片を用いて、常温環境下で5mm/minの速度で、シートの押出方向に引っ張ることにより測定される引張弾性率を意味する。
【0057】
本発明の生分解性押出成形シートの引張弾性率は、1200MPa以下であって、使用されるポリ乳酸の量や、液状可塑剤および無機充填剤の量あるいは種類などによって調整することができるが、特に熱可塑性樹脂としてポリ乳酸を100重量%使用した場合であっても、その引張弾性率を550MPa以下にすることができる。また熱可塑性樹脂としてポリ乳酸の使用量を50重量%以下にする場合には、さらに柔軟性の高いシートを提供することが可能であり、具体的には、300MPa以下の非常に柔軟性の優れたシートを提供することができる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例、及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0059】
(実施例1)
まず、(A)熱可塑性樹脂、(B)無機充填剤、及び(C)液状可塑剤として、表1において実施例1として示す材料及び割合(重量部)を用い、常温で、ヘンシェルミキサーに同時に投入し、10分間、350rpmの攪拌速度で混合し、上記熱可塑性樹脂組成物の構成材料が攪拌混合された実施例混合物1を作製した。実施例混合物1は、(C)液状可塑剤を吸収した(B)無機充填剤が、(A)熱可塑性樹脂のペレット表面に付着した状態として作製された。
【0060】
ついで、スクリュー直径30mmの2軸押出成形装置(ホッパー出口内径:5cm、フィード装置:単軸スクリュー)のホッパーに上記実施例混合物1を投入し、温度200℃、吐出速度10Kg/hで溶融押出加工を行い、ペレット形状のコンパウンドペレットを作製し、実施例1とした。実施例1は、コンパウンドペレット中に、(C)液状可塑剤を吸収した(B)無機充填剤が練り込まれた状態として作製された。
【0061】
(実施例2〜10)
実施例2〜10として表1に示す(A)熱可塑性樹脂、(B)無機充填剤、及び(C)液状可塑剤を用い、実施例混合物1と同様の方法で、実施例混合物2〜10を作製し、続いて実施例混合物2〜10を用いたこと以外は実施例1と同様にコンパウンドペレットを作製し、それぞれ実施例2〜10とした。
【0062】
(比較例1〜6)
比較例1〜6として表2に示す(A)熱可塑性樹脂、(B)無機充填剤、及び(C)液状可塑剤を用い、実施例混合物1と同様の方法で、比較例混合物1〜6を作製し、続いて比較例混合物1〜6を用いたこと以外は実施例1と同様にコンパウンドペレットを作製し、それぞれ比較例1〜6とした。
【0063】
尚、表1及び表2に示す(A)熱可塑性樹脂、(B)無機充填剤、及び(C)液状可塑剤の詳細は、下記のとおりである。
【0064】
(A)熱可塑性樹脂
<PLA>レイシアH400(ポリ乳酸:三井化学(株)社製)
<PBS>ビオノーレ#1001(ポリブチレンサクシネート:昭和高分子(株)社製)
<PBAT>エコフレックス(ポリブチレンアジペートテレフタレート:BASFジャパン(株)社製)
【0065】
(B)無機充填剤
<カルライトKT>粒子表面が不規則な凹凸で構成されている多孔質炭酸カルシウム(無機充填剤、白石カルシウム株式会社製、重量平均粒子径2.3μm、比表面積35m/g、重量平均粒子径と比表面積との積:80.5、吸油量70ml/100g)
<ALBACAR 5970>粒子表面が不規則な凹凸で構成されている沈降性炭酸カルシウム(無機充填剤、株式会社ファイマテック製、重量平均粒子径1.9μm、比表面積7m/g、重量平均粒子径と比表面積との積:13.3、吸油量50ml/100g、粒子表面がバラの花びら状であることを特徴とする)
<Vigot10>略球形状の軽質炭酸カルシウム(無機充填剤、白石工業株式会社製、重量平均粒子径0.17μm、比表面積13.5m/g、重量平均粒子径と比表面積との積:2.3、吸油量28ml/100g)
<NS2300>不定形の重質炭酸カルシウム(無機充填剤、日東粉化工業株式会社製、重量平均粒子径0.97μm、比表面積2.3m/g、重量平均粒子径と比表面積との積:2.2、吸油量34.5ml/100g)
尚、上述する無機充填剤の吸油量は、JIS K5101における煮アマニ油法によって計測された値である。
【0066】
(C)液状可塑剤
<トリアセチン>グリセリルトリアセテート(液状可塑剤:大八化学工業(株)製)
<リケマールPL012>グリセリルジアセトモノラウレート(液状可塑剤、理研ビタミン(株)社製)
【0067】
(評価)
上記実施例1〜10及び比較例1〜6それぞれを作製する工程において、その成形性を以下のとおり評価した。実施例1〜10の評価結果は表1に、比較例1〜6の評価結果は表2にそれぞれ示す。
【0068】
(成形性評価1)
実施例混合物(あるいは比較例混合物)を、押出成形装置のホッパーに投入し、該押出成形装置内のスクリュー部に送り込まれる状態を以下のとおり評価した。
【0069】
○:実施例混合物(あるいは比較例混合物)がホッパーからスクリュー部にスムーズに送り込まれた。
△:実施例混合物(あるいは比較例混合物)の一部が互いに結着して塊状になり、ときどきホッパー出口に詰まりが生じた。
×:実施例混合物(あるいは比較例混合物)が互いに結着しホッパー出口で固まってしまい、完全にホッパーからスクリュー部への送り込みが止まり、押出成形が出来なかった。
【0070】
(成形性評価2)
ホッパーに投入された実施例混合物(あるいは比較例混合物)が、押出成形装置内のスクリュー部に送り込まれて、溶融押出成形される際の溶融樹脂圧力を観察し、以下のとおり評価した。尚、以下に示す溶融樹脂圧力とは、押出成形装置内において、スクリュー先端部(ダイ側)に設置されるスクリーンメッシュを溶融樹脂が通過する直前の圧力を測定したものである。
【0071】
○:押出成形装置によりコンパウンドペレットを成形する工程の開始時から終了時まで、溶融樹脂圧力が安定していた。
×:押出成形装置によりコンパウンドペレットを成形する工程の開始時と終了時とでは溶融樹脂圧力が異なり、あるいは成形工程中の溶融樹脂圧力が安定しなかった。
【0072】
上記成形評価1の結果より、実施例1〜10は、いずれにおいても実施例混合物の自着が生じず、また、実施例混合物より一部の液状可塑剤が分離してホッパー内に溜まってしまうなどの不都合が生じなかった。その結果、実施例混合物1〜10は、ホッパーから押出成形装置内のスクリュー部へスムーズに送り込まれた。以上の結果より、実施例混合物は、べたつきの原因となる液状可塑剤が本発明の特定する無機充填剤に充分に吸収され、且つ、ペレット形状の熱可塑性樹脂の表面に該無機充填剤が付着し、べとつきや液分離のない状態で、ホッパーに投入され、次いでスクリュー部に送り込まれたことが示された。
【0073】
そして成形評価2において、実施例1〜10は、いずれも押出成形機内において溶融混合され、押出される際に、安定した溶融樹脂圧力を示した。これは、実施例混合物にべたつきが生じていないだけなく、その組成においてムラがないことによるものと思われる。したがって、得られたコンパウンドペレットである実施例1〜10は、組成ムラのない良質なペレットであること理解される。
【0074】
一方、何らの無機充填剤も使用していない比較例混合物1を用いて比較例1を成形する工程では、成型評価1において、ホッパー内において比較例混合物1の一部が互いに結着して塊状となり、ホッパー出口においてときどき詰まりが観察された上、液状可塑剤の一部が比較例混合物1から分離してホッパー下部に溜まってしまった。これは、液状可塑剤が混合物のべたつきの原因となり、且つ、熱可塑性樹脂と液状添加剤とが良好に混合されず、その一部が分離して液溜まりを形成したものと思われる。
また比較例混合物1がべたついてその一部が押出成形装置壁面に付着し、あるいは液溜まりができた結果、混合不良及び組成ムラが生じ、成形評価2では、押出成形装置内において安定した溶融樹脂圧力が示されなかった。
【0075】
比較例2及び比較例3は、その作製に用いられた比較例混合物2または3において本発明が特定する無機充填剤ではなく、重量平均粒子径と比表面積の積が10をはるかに下回り、且つ、吸油量も40ml/100gを下回る無機充填剤を使用した。そのため、比較例2及び比較例3の成形工程では、液状可塑剤が無機充填剤に充分に吸収されず、ホッパーに投入された比較例混合物が著しくべたついており、樹脂同士が互いに結着し粘土状の塊となったことが観察された。そして、ホッパー出口が詰まり、完全にホッパーからスクリュー部への送り込みが止まってしまった。
また、比較例混合物2あるいは3は、押出成形装置内に送り込まれなかったため、成形評価2は評価不能であった。
【0076】
比較例4は、その作製に用いられた比較例混合物4において、本発明の特定する重量平均粒子径と比表面積との積、及び吸油量の条件を満たす無機充填剤を使用した。しかし、本発明において特定する無機充填剤と液状可塑剤との比率の範囲である99:1乃至50:50をはずれ、液状可塑剤の比率が高かった。その結果、比較例4の成形工程において、上記比較例2及び3と同様に、ホッパーに投入された比較例混合物が著しくべたついており、樹脂同士が互いに結着し粘土状の塊となったことが観察された。その結果、ホッパー出口が詰まり、完全にホッパーからスクリュー部への送り込みが止まってしまった。
また、比較例混合物4は、押出成形装置内に送り込まれなかったため、成形評価2は評価不能であった。
【0077】
比較例5及び比較例6は、その作製に用いられた比較例混合物5または6において、本発明の特定する重量平均粒子径と比表面積との積、及び吸油量の条件を満たす無機充填剤が使用された。しかしながら熱可塑性樹脂として用いられたポリ乳酸100重量部に対して、液状可塑剤の配合比率が50重量部を超えていた。その結果、成形評価1において、ホッパーに投入された比較例混合物5または6は、ホッパー出口において詰まりやすく、液状可塑剤を吸収した無機充填剤の一部が比較例混合物5または6から分離してホッパー下部に溜まった状態が観察された。
そして上記ホッパー出口における詰まりや、液状可塑剤を吸収した無機充填剤の一部分離した結果、混合不良及び組成ムラが生じ、成型評価2では押出成形開始時から終了時にかけて、樹脂組成物の押出圧力が安定しなかった。
【0078】
(熱可塑性樹脂シートの引張弾性率の測定)
次に、実施例1〜10及び比較例1〜6、参考例1のコンパウンドペレット(無機充填剤及び液状可塑剤を用いなかったこと以外は、実施例1と同様に作成した。)を用いて、Tダイ押出機(スクリュー直径40mm、ダイ幅40cm)のホッパーに上記コンパウンドペレットをそれぞれ投入し、押出温度180℃、吐出速度10kg/hで溶融押出加工を行い、厚み1mmのシートを成形した。得られたシートを、それぞれ、実施例シート1〜10、比較例シート1〜6、参考例シート1とした。
【0079】
次に上述で得られた実施例シート1〜10、および比較例シート1〜6、参考例シート1を用い、JIS K7113(プラスチックの引張試験方法)に準じて引張弾性率測定した。測定結果は、実施例シート1〜10については表1に、比較例シート1〜6及び参考例シート1については表2に示す。
【0080】
【表1】

【0081】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】炭酸カルシウム粒子の平均粒子径の逆数と表面積の相関を示すグラフである。
【符号の説明】
【0083】
黒塗りひし形プロット 表面に凹凸がなく、且つ孔がほとんど存在しない球状の汎用炭酸カルシウムの測定結果を示す。
白抜きひし形プロット 特殊な炭酸カルシウムの測定結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)熱可塑性樹脂と、
(B)重量平均粒子径が0.1μm以上10μm以下であり、重量平均粒子径(μm)と比表面積(m/g)の積が10以上、且つ煮アマニ油吸油量が40ml/100g以上である無機充填剤と、
(C)液状可塑剤と、
を含み、
上記(A)が、ポリ乳酸10重量%以上100重量%以下、生分解性脂肪族ポリエステル0重量%以上90重量%以下、および生分解性脂肪族芳香族ポリエステル0重量%以上90重量%以下の配合比率により構成されており、
上記(B)と上記(C)との重量部の比率が(B):(C)=99:1乃至50:50
であって、且つ、
上記(A)中におけるポリ乳酸100重量部に対して、上記(C)の配合比率が5重量部以上50重量部以下であることを特徴とする液状可塑剤を含有する熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
上記(A)が、ポリ乳酸と、脂肪族ポリエステル及び/または脂肪族芳香族ポリエステルとから構成されており、
ポリ乳酸10重量%以上90重量%以下、脂肪族ポリエステル10重量%以上90重量%以下、脂肪族芳香族ポリエステル10重量%以上90重量%以下の配合比率により構成されていることを特徴とする請求項1に記載の液状可塑剤を含有する熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
上記無機充填剤の粒子表面が不規則な凹凸で構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の液状可塑剤を含有する熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
上記無機充填剤が炭酸カルシウムであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の液状可塑剤を含有する熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の上記(A)、上記(B)及び上記(C)を同時に混合させることにより熱可塑性樹脂組成物を製造することを特徴とする液状可塑剤を含有する熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の液状可塑剤を含有する樹脂組成物を用いて形成された、引張弾性率が1200MPa以下の生分解性押出成形シートまたはフィルム。

【図1】
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【公開番号】特開2010−6885(P2010−6885A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−165337(P2008−165337)
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【出願人】(000000077)アキレス株式会社 (402)
【Fターム(参考)】