説明

液状物注出用防菌・抗菌ノズル

【課題】外気の侵入を効果的に阻止できると共に、微生物の侵入をも確実に阻止し、たとえ微生物が侵入したとしても、その活動を注出口部分のみに制限することのできる、液状物注出用の防菌・抗菌ノズルを提案すること。
【解決手段】外側逆止機能を有するフィルム状逆止ノズル1において、表裏2枚の積層プラスチックフィルムは、注出通路となる内表面が2μm以下の表面粗さRaを有し、かつ、その積層プラスチックフィルムによって形成される該フィルム状逆止ノズル1の、少なくとも先端部分を開封して得られる注出口20部分の平坦度が、液状被包装物の吐出後における微小隙間の間隔にして10μm以下であること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平坦度の高い表裏2枚の、軟質のプラスチック製積層フィルム(以下、「積層フィルム」という)の重ね合わせによって形成され、外気の袋内への侵入を自動的に阻止する外側逆止機能、すなわちセルフシール逆止機能を有する液状物注出用のノズルに関し、該ノズル内への微生物の侵入を阻止できると共に、たとえ微生物が侵入したとしても、その活動を注出口部にて阻止することができる液状物注出用防菌・抗菌ノズルを提供する。
【背景技術】
【0002】
上掲のセルフシール逆止機能つきの、プラスチック製積層フィルムからなる液状物注出用ノズルとしては、発明者らが開発した特許文献1、2に開示されたようなものがある。
【特許文献1】特開2005−15029号公報
【特許文献2】特開2005−59958号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1、2に開示されている液状物注出用ノズルの逆止機能とは、密着可能な表裏2枚のプラスチック製積層フィルムを重ね合わせて対面させ、かつ重なり合うそれらの積層フィルム相互間に形成される注出通路が、毛細管作用による液状物(液体膜)の常時介在によって密着することで、セルフシール逆止機能を発揮することである。そのため、液状物注出用ノズルに用いられるプラスチックフィルムとしては、上記の逆止機能を確実に発揮させるため、薄く柔軟な積層フィルムを用いることが好適であるとされている。
【0004】
このような液状物注出用ノズルは、外気の侵入を阻止することができるため、醤油、ソース各種のスープ、飲料等の他、油、酒、ワイン、洗剤、液状医薬品、化粧品など、酸化による汚損や風味低下等を発生する被包装物を包装するのに好適である。
【0005】
ところで、このような飲食品等の包装袋としては、上記のように包装袋内への外気の侵入を阻止して被包装物の酸化による劣質化、汚染等を阻止することのみならず、微生物の袋内への侵入を阻止する機能を有することが求められている。上記したように、逆止ノズルは蓋がなく、その代わりにセルフシール逆止機能を持っている。蓋に代わるこの逆止機能は、ノズルを構成する2枚の積層プラスチックフィルムの隙間に液状被包装物が介在することによって発揮されるため、ノズルの注出口においては、蓋がないため液状被包装物が常に外部に露出した状態になる。従って、この部分に菌や微生物等が付着して袋内の被包装物が汚染されるおそれがあった。
【0006】
そこで、本発明は、上記従来のセルフシール逆止機能を有する液状物注出用ノズルを改良し、外気の侵入を効果的に阻止できると共に、微生物の侵入をも確実に阻止し、たとえ微生物が侵入したとしても、その活動を注出口部分のみに制限することのできる、液状物注出用の防菌・抗菌ノズルを提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を実現するために鋭意研究した結果、発明者は、下記の要旨構成に係る本発明を開発するに到った。即ち、本発明は、袋本体の側部または頂部に取付けられるものであって、重なり合う表裏2枚の積層プラスチックフィルムの、袋本体に接続される基端部および液状被包装物の注出通路を形造る中央部分を除く、外周部分を相互に融着してなり、前記積層プラスチックフィルム相互間で形成される微小隙間に液状被包装物の液体膜が介在することで、外気の袋内への侵入を阻止する外側逆止機能を有するフィルム状逆止ノズルにおいて、前記表裏2枚の積層プラスチックフィルムは、注出通路となる内表面が2μm以下の表面粗さRaを有し、かつ、その積層プラスチックフィルムによって形成される該フィルム状逆止ノズルの、少なくとも先端端部分を開封して得られる注出口部分の平坦度が、液状被包装物の吐出後における前記微小隙間の間隔にして10μm以下であることを特徴とする液状物注出用防菌・抗菌ノズルである。
【0008】
本発明において、上記液状物注出用防菌・抗菌ノズルは、
(1)前記注出口部分は、前記微小隙間に残留する液体膜から析出する結晶によって封止可能であること、
(2)前記結晶は、微少隙間に残留する液体膜からの水分の蒸発によって析出すること、
(3)前記液体膜は、Na、Cl、K、OおよびCのいずれか1種以上を含有する液状物からなること、
(4)前記表裏2枚の積層プラスチックフィルムの、いずれか少なくとも一方の内面は、前記注出通路の内表面が濡れ処理された濡れ強化面であること、
がより好ましい解決手段となる。
また、本発明は、液状物注出用フィルム状逆止ノズルの防菌および抗菌方法として好適に利用することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の液状物注出用防菌・抗菌ノズルによれば、セルフシール逆止機能を有する液状物注出用逆止ノズルを構成する表裏2枚の積層プラスチックフィルムとして、注出通路となる内表面側の表面粗さRaが2μm以下の平坦なフィルムを用いることで、フィルム状逆止ノズルの、少なくとも先端端部分を開封して得られる注出口部分において、ノズル開封後(液状被包装物の吐出後)の、その重なり合う積層プラスチックフィルム相互間の隙間を10μm以下と極めて狭くすることができた。そのため、空気中に含まれる落下菌や埃等が、該ノズルの閉止時における注出口、すなわちプラスチックフィルム相互間に介在する液状被包装物に付着する確率が低くなり、落下菌等の袋内への侵入を抑制することができる。
【0010】
しかも、本発明では、積層プラスチックフィルム相互間の隙間を狭小としたことで、その隙間に介在する液体膜の流動性が極めて悪くなり、とくに注出口付近からの水分の蒸発によって液体膜の濃度が急激に上昇して水分活性が短時間(数十秒〜数分)で低くなり、さらにはペースト状を経て結晶化することになる。その結果、該結晶が逆止ノズルの蓋栓として機能(以下、「キャップ機能」という)示すことになり、該ノズル内への微生物の侵入を確実に阻止することができる。
【0011】
また、前記したようにフィルム相互間の隙間に介在する液体膜では、水分の蒸発によって水分活性が低くなるため、たとえ微生物が逆止ノズル内に侵入したとしても、その活動を抑制することができるという効果がある。
【0012】
また、本発明では、前記液体膜を構成する液状物が、Na、Cl、K、OおよびCなどの少なくとも1種以上を含有することが好ましく、これらの成分が、水分蒸発と共に結晶化し、本発明の防菌・抗菌ノズルのキャップ機能を効果的に発揮することができる。
【0013】
本発明によれば、防菌・抗菌ノズルの注出通路内面に濡れ処理を施すことによって、該ノズルを形成する表裏2枚の重合する積層フィルム相互間に、液状被包装物が該注出通路内面に毛細管作用によって常時介在させることができるようになり、このときフィルム間に生じている分子間力に由来する高い密着力をもたらし、防菌・抗菌ノズルのセルフシール逆止機能をより確実に発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る液状物注出用防菌・抗菌ノズルの、逆止機能を示す図である。
【図2】本発明に係る液状物注出用防菌・抗菌ノズルを突設してなるフレキシブル包装袋の一実施形態を示す図である。
【図3】本発明に係る液状物注出用防菌・抗菌ノズル内に封入した醤油の重さを経過時間と共に計測した結果である。
【図4】本発明に係る液状物注出用防菌・抗菌ノズルの注出口に析出した結晶を示す顕微鏡写真である。
【図5】図4の析出結晶の分析結果であり、(A)エネルギー分散型X線分析装置による元素分析結果、(B)X線回折装置による結晶構造の分析結果である。
【図6】本発明に係る液状物注出用防菌・抗菌ノズルの結晶化のメカニズムを示す図である。
【図7】本発明に係る液状物注出用防菌・抗菌ノズルの開封予定位置(注出口)における拡大断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
外気の袋内への侵入を自身が自動的に阻止するセルフシール逆止機能を有する液状物注出用逆止ノズルは、熱可塑性の、一軸もしくは二軸延伸ベースフィルム層と、そのいずれか一方、もしくはその両側を挟むように積層してなるシーラント層とからなる2層もしくは3層の積層フィルム(以下、3層の例で述べる)を具え、かつその積層フィルムを表裏となるように重ね合わせ、それぞれの側の積層プラスチックフィルム、たとえば、2枚で一対の積層プラスチックフィルムにおける対面する前記シーラント層どうし、または半幅に折返してなる1枚の積層プラスチックフィルムの、互いに対向するシーラント層どうしを、包装袋の袋本体に接続される基端部および、液状物の注出通路となる中央部分を除く外周部分について、ヒートシール、高周波シールまたは、インパルスシール等によって相互に皺が寄らないように平坦に融着させて、全体として略楔形を呈するように形成したものである。
【0016】
なお、液状物注出用逆止ノズルの有する逆止機能とは、包装袋から被包装物を注出する際に、被包装物と入れ代わって、空気等が液状被包装物が充填された袋本体内へ侵入するのを防ぐ外側逆止機能であって、例えば、特開2005−52596号の逆止弁のように、被包装物が袋本体から排出するのを防ぐ内側逆止機能とは異なるものである。
【0017】
すなわち、前記液状物注出用逆止ノズルは、図1に示したように、双方とも平坦な密着可能な表裏2枚のプラスチックフィルムを重ね合わせて対面させ、かつ重なり合うそれらのフィルム相互間の微少隙間に、毛細管作用によって液状物からなる液体膜を常時介在させることにより、該液体膜による分子間力によって表裏2枚のプラスチックフィルムを密着させて、上記セルフシール逆止機能を発揮するようにしたものであり、表裏2枚のプラスチックフィルムは、フラット性(平坦度)の高いものの方が高い逆止効果が得られる。
なお、図1中の上の写真は、表裏2枚のプラスチックフィルム間に液状物として醤油を介在させる前の状態を示し、下の図は、2枚のプラスチックフィルム間に液状物として醤油を注入した後の状態を示す断面写真(オリンパス製レーザー顕微鏡 LEXT OLS4000微分干渉)である。この図により、2枚のプラスチックフィルムは、その間に注入させた醤油膜の分子間力によって相互に密着し、その隙間が狭く(26μm→2μm)なることが分かる。
【0018】
なお、前記液状物注出用逆止ノズルは、図2に示すように、その基端部の外表面に位置することになるシーラント層、たとえば、無延伸の各種のポリエチレン層またはポリプロピレン層などを、軟質の袋本体の内表面層としての、好ましくは、同種のシーラント層に、袋本体の側部から外方へ突出するようにヒートシール等によって融着させることにより、フレキシブル包装袋とすることができる。
【0019】
そして、液状物注出用逆止ノズルは、先端部寄りに形成される開口予定部分(引き裂き誘導疵やノッチの付加位置より先端側)を手指によって切り取ることにより開封され、注出口が形成される。
【0020】
本発明では、このような液状物注出用逆止ノズルに関し、ノズル注出口からの微生物等の侵入を効果的に抑制できる方法について検討した結果、逆止ノズルを、表面粗さRaが2μm以下の表面平坦な表裏2枚の積層プラスチックフィルムを用いて形成し、フィルム状逆止ノズルの、少なくとも先端端部分を開封して得られる注出口部分において、ノズル開封後(液状被包装物吐出後)のプラスチックフィルム相互間の微少隙間を常時10μm以下、好ましくは2〜5μmに維持することができる程の平坦な積層フィルムどうしを重ね合わせてフィルム状逆止ノズルとすることが有効であることを知見した。
【0021】
即ち、本発明では、少なくとも先端端部分を開封して得られる注出口部分の平坦度が、液状被包装物の吐出後における前記微小隙間の間隔にして10μm以下であることで、
(1)防菌・抗菌ノズルの注出口の、開口面積が小さくなり、空気中の落下菌等が、該ノズル注出口(注出口に露出する液状被包装物)に付着する確率が極めて低くなると共に、
(2)微少隙間に介在する液体膜の、とくに防菌・抗菌ノズル注出口における結晶化が促進され、該結晶が防菌・抗菌ノズルのキャップ機能を果し、微生物の該ノズル内への侵入を抑制し、たとえ、微生物がノズル内に侵入したとしてもその活動を阻止することができるのである。
【0022】
これらの効果については、以下のような実証試験によって検証した。
(1)落下菌の付着抑制効果について
(a)空気中の落下菌の防菌・抗菌ノズル開口部への付着について
試験方法としては、かんてん培地のシャーレ(φ90mm:64cm)を5箇所に設置し、それらを60分放置して落下菌を付着させ、落下細菌数と落下真菌数を計測した後、その落下菌数から、落下菌1個が、防菌・抗菌ノズルの開口部に付着するのに必要な時間を求めた。なお、防菌・抗菌ノズルの開口部の面積は、該開口部隙間を3μm、開口部長さを8mmとし、培養条件は、落下細菌数:35℃、3日間、落下真菌数:25℃、7日間とした。その結果を、表1に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
表1の結果より、本発明の防菌・抗菌ノズルの、狭小の開口部に落下菌が付着する確率は、417日に1個と極めて低いことがわかった。
さらに、本発明の防菌・抗菌ノズルは、図2に示したように袋本体側部から突設するように設けることが好ましく、これによれば、防菌・抗菌ノズルの注出口は、閉止時において常に大気に対して垂直状態で保持されることになり、発明者の実験によれば、水平状態で保持される場合と比較して、注出口に落下菌が付着する確率は、さらに1/7倍に低下し、1個/2800日と極めて低くなる。
【0025】
(b)送風実験による防菌・抗菌ノズル開口部への付着について
次に、防菌・抗菌ノズルの注出口に向けて、空気を送風し、その際のノズル内への落下菌の侵入の有無について調査した。
試験方法としては、ノズル注出口から20cm離れた所に扇風機を置き、該ノズル注出口に向けて24時間送風を続けた。なお、風速は、送風計(Digital ANEMONETER GA-06 ビーズ製)により測定した。その後、37℃で培養し、経時間的に菌の増殖を観察した。なお、菌の増殖が認められなかったものについては、トリプトソイブイヨン培地+0.6%Yeast Extract(TSBYE)にて30℃で24時間増菌培養し、標準寒天培地に塗抹後、37℃で48時間培養して菌の生育の有無を確認した。なお、防菌・抗菌ノズルの開口部の面積は、該開口部隙間を3μm、開口部長さを8mmとした。
【0026】
風速1.1m/sおよび3.0m/sの風を当てた結果では、いずれもノズル注出口からの落下菌等の侵入は確認されなかった。
【0027】
以上(a)および(b)の実証試験の結果より、通常の使用において、開口部が狭小であるノズル注出口への落下菌等の付着およびノズル内への侵入の可能性は極めて低く、本発明の防菌・抗菌ノズルによって落下菌等の侵入を効果的に抑制できることが検証できた。
【0028】
次に、上記(2)の防菌・抗菌ノズルのキャップ機能のメカニズムについて検証した。
まず、発明者は、本発明の防菌・抗菌ノズル内に液状物として醤油10μlを封入し、時間経過に伴う醤油重量の変化を観察した。その結果を図3に示す。
【0029】
その結果、防菌・抗菌ノズルの先端を切り取り開封して得られる注出口付近では、液体膜が約800秒周期で蒸発界面下で相転換(液体→結晶化→液体)を繰り返し、最終的に図4に示すように注出口端部全体に結晶が析出し、該結晶によって注出口が塞がれることがわかった。また、結晶は、時間の経過と共に、注出口端部から内部へと成長していくこともわかった。なお、この結晶は、エネルギー分散型X線分析装置(JSM-5310LV JED2140)およびX線回折装置(RIANT-2500)により分析した結果(図5)、塩化ナトリウム(NaCl:塩)であることが分かった。
【0030】
なお、この間、液体膜では図6に示したように(I)水分蒸発と濃度上昇:醤油からの水分蒸発が進むと、蒸発界面下の濃縮と拡散が同時に進み、次第に蒸発界面の濃度が上昇する。(II)結晶皮膜の生成:さらに水分蒸発が進み、蒸発界面下の濃縮によって結晶核が発生、成長して結晶皮膜が形成される。(III)結晶皮膜の溶解によって拡散が進む:結晶皮膜によって蒸発速度が減速し、防菌・抗菌ノズル内の低濃度の醤油によって結晶皮膜の溶解が始まる。という(I)〜(III)の現象が約800〜1200秒周期で繰り返しているものと推測される。
【0031】
上記液体膜の結晶化は、液体膜を構成する液状物が、ノズルを構成する積層プラスチックフィルム間の極めて狭い(10μm以下)隙間の中で、水分蒸発によって濃縮して高粘度し、流動性や拡散が阻害されたことが影響しているものと思われる。なお、液体膜の結晶化は、液体膜から水分が蒸発して固形分濃度が50〜80%となった場合に好適に発現している。
【0032】
上記の検証結果に基づき、本発明では、少なくとも先端端部分を開封して得られる注出口部分の平坦度が、液状被包装物の吐出後における前記微小隙間の間隔にして10μm以下であることを提案するものであり、これによって、ノズル先端部分(注出口)に介在する少量の液状物(液体膜)は、短時間(数十秒〜数分)で、上記(I)〜(III)の現象が繰り返すと共に高粘度(高濃度)となって結晶化し、上記キャップ機能を有する防菌・抗菌ノズルを提供することができる。
【0033】
さらに、前記狭小の隙間に介在する液体膜では、水分蒸発によって水分活性が低くなるため、たとえ微生物が防菌・抗菌ノズル開口部より侵入したとしても、その活動が抑制され増殖することができないという効果が期待できる。なお、水分活性とは、微生物の生育や酵素活性に必要な水分を表し、水分中の自由水の量を水分活性(aw)という単位で表している。そして、水分活性が、0.60aw以下の場合には、すべての微生物が増殖することができないと言われている。
【0034】
なお、逆止ノズルのフィルム相互間の隙間を、少なくともノズル注出口部分において、微小隙間が10μm超では、ノズル注出口の閉止時における面積が大きくなるため落下菌の付着確率が高くなると共に、液体膜の結晶化に時間がかかるため、キャップ機能を有効に発揮できないおそれがある。
【0035】
また、本発明では、液体膜を構成する液状物として、Na、Cl、K、OおよびCなどの元素のうちのいずれか1種以上の元素成分を含むものを用いることが好ましく、これらの成分は、水分蒸発によって結晶化しやすく、上記キャップ機能を発揮する上で好ましいからである。
【0036】
なお、上記のようにノズル開封後において積層フィルム相互間の隙間を常に10μm以下に維持するためには、積層フィルムのノズル内表面側の表面粗さRaが2μm以下と小さくし、かつ周辺部をヒートシールした場合であってもフラットであることが必要となる。これは、表面粗さRaが2μm超の場合には、2枚の積層プラスチックフィルムの微少隙間に、毛細管作用によって液状物からなる液体膜が常時介在することによって生じる分子間力に由来する密着力が小さくなり、該隙間を常に狭小(10μm以下)に維持することができないからである。
【0037】
ところで、本発明の防菌・抗菌ノズルを構成する表裏2枚の積層フィルムは、それぞれ好ましくは、少なくともベースフィルム層(支持基材)とそれぞれの側に積層したシーラント層との3層構造からなり、ベースフィルム層は、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリエステル、ポリプロピレンまたはEVOHなどからなることが好ましく、シーラント層は、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合層、エチレンアクリル酸エチル共重合体層、アイオノマー層などからなることが好ましい。なお、シーラント層は、ベースフィルム層に対する溶融押出しラミネート法またはドライラミネート法、エクストルージョンラミネート法、コエクストルージョンラミネート法などによって積層される。
【0038】
また、本発明では、防菌・抗菌ノズルを構成する表裏2枚の積層フィルムの、少なくともいずれか一方のフィルムの注出通路内面、好ましくは、さらに袋本体部分の内面に、上述した内向きの逆止機能を生じさせるためのフィルム相互間に働く分子間力が、液状物の介在によって狭まることに由来する密着力を、より確実なものにするために、濡れ処理を施すことが有効である。この濡れ処理面を防菌・抗菌ノズルの注出通路内面に設けることにより、防菌・抗菌ノズルを構成する表裏2枚の重合する積層フィルム間に、液状被包装物が注出通路内面に毛細管作用によって常時介在することによって生じる分子間力に由来する密着力が生じ、上述した内向き逆止機能(外気の袋内への侵入阻止)をより確実に発揮させることができる。
【0039】
前記濡れ処理とは、例えば、PEやPP、EAV、アイオノマーなどからなる積層フィルムのシーラントフィルムの表面に、コロナ放電処理、UVオゾン処理、プラズマ処理、火炎処理等を好適例とする濡れ処理を施すことによって、フィルム表面の物理的な表面改質と極性官能基生成による化学的な表面改質との相乗効果により、フィルムの濡れ性を向上させる処理であり、この処理が施されたフィルム面を濡れ処理面(「濡れ強化面」とも言う)という。
【0040】
さて、本発明の防菌・抗菌ノズルは、積層プラスチックフィルムのほぼ幅方向(上下方向)に延びるノズル注出口縁部の長さは、その積層プラスチックフィルムの積層数にかかわらず、5〜100mm程度とすることが好ましいが、ここにおける「ほぼ幅方向」は、先に述べたのと同様に、引裂き方向、ひいては、ノズル開口縁部の延在方向を、積層プラスチックフィルムの幅方向に対して0〜15°の範囲の角度で傾斜させることがあることを考慮したものである。防菌・抗菌ノズル開口部の長さが5mm未満では、袋本体部の容積との関連において注出量が少なすぎる一方で、それが100mmを越えると注出方向の正確な特定が難しくなる。
【0041】
また、本発明の防菌・抗菌ノズルは、袋本体からの突出長さがX=30〜100mm程度、弁幅(切り裂き開口位置)がY=20〜80mm程度となる大きさとすることが代表的である。
【0042】
次に、本発明に係る防菌・抗菌ノズルについて、図面に即して、具体的な形態を説明する。図2は、この発明に係る防菌・抗菌ノズルを突設してなるフレキシブル包装袋の一実施形態を示す図である。図中1は、防菌・抗菌ノズルを示し、この防菌・抗菌ノズル1は、袋本体2の側部の融着部で、それの内表面のシーラント層に、最外層のシーラント層、好ましくは、袋本体のシーラント層と同種の樹脂材料からなるシーラント層によって基端部を融着接合され、フレキシブル包装袋Aを構成する。
【0043】
また、防菌・抗菌ノズル1には、図2では、その上縁部の切り裂き開口予定位置(注出口)に、Iノッチ、Vノッチ、Uノッチ、ベースノッチおよびダイヤカットなどの開封手段からなる引裂き誘導疵1aを設けることが好ましく、該引裂き誘導疵1aを開封して注出口20を形成し、使用状態に供する。
【0044】
なお、防菌・抗菌ノズル1は、上記のように形成した注出口20部分に、大気中の落下菌が付着するのを抑制するため、図2に示すように袋本体2の側部から外方に突設するように融着接合させることが好ましい。
【0045】
本発明では、図7に、図2のノズル幅方向のIII−III線に沿う拡大断面図で示すように、防菌・抗菌ノズル1を構成する表裏のそれぞれの積層プラスチックフィルム3,4は、内表面側のシーラント層6、6’の表面粗さRaが1μm以下と小さく、それによって積層プラスチックフィルム3、4相互間の隙間8が常時、10μm以下に維持されているところに特徴がある。
【0046】
すなわち、本発明では、積層プラスチックフィルム3、4の相互間の隙間8が10μm以下と狭小であるため、防菌・抗菌ノズル1の先端を開封して形成される注出口20の閉止時における面積、つまり、注出口20に露出する液状被包装物の面積が小さくなり、大気中の落下菌がノズル内に侵入する可能性が低くなると共に、隙間8に介在する少量の液体膜が、とくに、防菌・抗菌ノズル1の注出口20付近において短時間で濃縮して結晶を析出し、該結晶によるキャップ機能によって微生物の、防菌・抗菌ノズル1内への侵入を効果的に阻止することができる。
【0047】
なお、各フィルム3、4は、ベースフィルム層5、5’と、このベースフィルム層5、5’の内面側と外面側にそれぞれ積層したシーラント層6、6’、7、7’との三層構造としたところにおいて、互いに対向する内面側のシーラント層6、6’どうしを、基端辺を除く周辺部分で、所定の幅、たとえば0.5〜3mmの幅、好ましくは、1.0〜2.0mmの幅にわたって、好適にはヒートシールにより所要の形態の下に融着させることで、簡易迅速に、しかも、常に確実に製造することができ、かかる防菌・抗菌ノズル1は、その平坦形状にあり、それの基端部で、外面側のシーラント層7、7’を袋本体2の内表面にこれも好ましくはヒートシールによって融着させることで、袋本体2に、常に適正にかつ確実に、しかも簡単に接合させることができる。
【0048】
なお、防菌・抗菌ノズル1は、その下縁部の開口予定部より基端部側に幾分寄った位置に、液だれ防止用の尖塔状の突起1bを設けることが好ましい。この突起1bは、防菌・抗菌ノズル1の開口端から発生した液だれが、該防菌・抗菌ノズル1の下縁部から袋本体部分2にまで伝い落ちるのを防ぐために設けられている。
【0049】
この防菌・抗菌ノズル1の外面、即ちベースフィルム層5、5’の切り裂き予定線(開口予定部)から基端部側にかけての外表面には、図2にドット表示をもって例示するように、液だれを防止し、液切れを向上させるための撥水剤もしくは撥油剤の塗布層(撥水、撥油塗布層)10を、少なくとも開口端と下縁部に沿って設けることが好ましい。
【0050】
これと共に、前記液だれ防止用の尖塔状の突起1bにも撥水剤もしくは撥油剤の塗布層10を設けることにより、液切れ性をさらに向上させることができる。
【0051】
なお、塗布層10としては、撥水剤として、シリコーンオイルやフッ素系樹脂、アクリル系樹脂もしくはアミド系樹脂からなる撥水コート剤を用い、撥油剤として、シリコン樹脂やテフロン樹脂、シリコン変性アクリル樹脂などの撥油コート剤を用い、これらにウレタン系、アクリル系、エステル系、硝化綿系、アミド系、塩ビ系、ゴム系、スチレン系、オレフィン系、塩酸ビ系、セルロース系、フェノール系などの樹脂をバインダとして添加したものを用いることができる。
【0052】
また、図7に示したように、防菌・抗菌ノズル1の内面側シーラント層6、6’の表面、とくに、隙間8(注出通路8)の形成部分の内表面は、コロナ放電処理等を施すことにより、濡れ性を強化した面、濡れ処理層11とすることが好ましく、これにより内向き逆止機能を効果的に発揮することができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の技術は、飲食品や薬品等、微生物による汚損を阻止する必要性の高い液状物の充填包装体、とりわけ液体注出口を備える包装袋に利用可能である。
【符号の説明】
【0054】
A フレキシブル包装袋
1 防菌・抗菌ノズル
1a 引裂き誘導疵
1b 液だれ防止用突起
1c 液溜め部
2 袋本体部分
3、4 積層フィルム
5、5’ ベースフィム層
6、6’ 内側シーラント層
7、7’ 外側シーラント層
8 隙間(注出通路)
10 撥水・撥油塗布層
11 濡れ処理層
20 注出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
袋本体の側部または頂部に取付けられるものであって、重なり合う表裏2枚の積層プラスチックフィルムの、袋本体に接続される基端部および液状被包装物の注出通路を形造る中央部分を除く、外周部分を相互に融着してなり、前記積層プラスチックフィルム相互間で形成される微小隙間に液状被包装物の液体膜が介在することで、外気の袋内への侵入を阻止する外側逆止機能を有するフィルム状逆止ノズルにおいて、
前記表裏2枚の積層プラスチックフィルムは、注出通路となる内表面が2μm以下の表面粗さRaを有し、かつ、その積層プラスチックフィルムによって形成される該フィルム状逆止ノズルの、少なくとも先端端部分を開封して得られる注出口部分の平坦度が、液状被包装物の吐出後における前記微小隙間の間隔にして10μm以下であることを特徴とする液状物注出用防菌・抗菌ノズル。
【請求項2】
前記注出口部分は、前記微小隙間に残留する液体膜から析出する結晶によって封止可能であることを特徴とする請求項1に記載の液状物注出用防菌・抗菌ノズル。
【請求項3】
前記結晶は、微少隙間に残留する液体膜からの水分の蒸発によって析出することを特徴とする請求項2に記載の液状物注出用防菌・抗菌ノズル。
【請求項4】
前記液体膜は、Na、Cl、K、OおよびCのいずれか1種以上を含有する液状物からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の液状物注出用防菌・抗菌ノズル。
【請求項5】
前記表裏2枚の積層プラスチックフィルムの、いずれか少なくとも一方の内面は、前記注出通路の内表面が濡れ処理された濡れ強化面であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の液状物注出用防菌・抗菌ノズル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−184023(P2012−184023A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−48465(P2011−48465)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(307028493)株式会社悠心 (31)
【Fターム(参考)】