説明

液状紙用嵩高剤

【課題】嵩高効果に優れ、有効分濃度が高くても保存安定性に優れた紙用嵩高剤を提供する。
【解決手段】一般式(1)で示される化合物Aと、炭素数6〜22の1価の脂肪酸及び/又はその塩とを含有し、化合物Aの含有量が該嵩高剤中70重量%以上である液状紙用嵩高剤。
RO(EO)m(PO)nH (1)
〔式中、R は炭素数6〜22のアルキル基等を示し、Eはエチレン基、Pはプロピレン基を示し、m, n は平均付加モル数であり、0≦m≦20の範囲の数であり、nは0≦n≦50の範囲の数である。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抄紙用の液状嵩高剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、白色度、不透明度、印刷適性、そしてボリューム感等の面に優れた品質の高い紙が求められている一方で、環境への配慮からパルプ使用量の少ない軽量な紙が望まれている。これらを紙の嵩高さによって解決すべく、これまでに種々の嵩向上の方法が試みられており、その一つとして嵩高剤等の紙質向上剤の利用が挙げられる。
【0003】
特許文献1には、紙用嵩高剤として特定のアルコールのアルキレンオキサイドを付加した化合物及び該化合物を多価アルコール型非イオン界面活性剤により乳化状態の嵩高剤として、パルプスラリーに均一に混合することを容易にする技術が開示されている。
【特許文献1】国際公開第98/3730号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のアルコールのアルキレンオキサイド付加物を用いる場合、有効分濃度が高い場合、乳化状態の嵩高剤を0℃以下で保存すると分離する場合があった。
【0005】
本発明の課題は、嵩高効果に優れ、有効分濃度が高くても保存安定性に優れた液状の紙用嵩高剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記一般式(1)で示される化合物(以下、化合物Aという)と、炭素数6〜22の1価の脂肪酸及び/又はその塩(以下、化合物Bという)とを含有する液状紙用嵩高剤であって、化合物Aの含有量が該嵩高剤中70重量%以上である液状紙用嵩高剤に関する。
RO(EO)m(PO)nH (1)
〔式中、R は炭素数6〜22の直鎖または分岐鎖のアルキル基もしくはアルケニル基又は炭素数4〜20のアルキル基を有するアルキルアリール基を示し、Eはエチレン基、Pはプロピレン基を示し、m, n は平均付加モル数であり、0≦m≦20の範囲の数であり、nは0≦n≦50の範囲の数である。なお、(EO)m(PO)nは、ブロックまたはランダムのいずれでもよく、EOとPOのいずれが先でもよい。〕
【0007】
本発明でいう液状とは、−5〜50℃の温度範囲、好ましくは0〜40℃の温度範囲において液体状のものをいう。すなわち、これらの温度範囲の全域において液体状態を維持できるものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の液状紙用嵩高剤は、化合物Aを70重量%以上含有するものであり、有効分濃度が高くても保存安定性、特に低温安定性に優れる。また、本発明の液状紙用嵩高剤を添加して抄紙することで、紙力を損なうことなく、嵩高いシートを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の紙用嵩高剤は、上記一般式(1)で表される化合物Aを含有する。化合物Aは得られる紙の嵩を向上させる効果に寄与する。上記一般式(1)で表される化合物Aは、炭素数6〜22の高級アルコールや炭素数4〜20のアルキル基を有するアルキルフェノール等に、エチレンオキサイド(以下、EOと表記する)、プロピレンオキサイド(以下、POと表記する)等のアルキレンオキサイドを付加したものであるが、本発明では、特にEOの平均付加モル数mが0≦m≦20の範囲にあるものが使用される。Rは炭素数8〜18のアルキル基が好ましく、10〜14がより好ましい。平均付加モル数mは好ましくは0≦m≦10、更に好ましくは0≦m≦5の範囲である。mが20以下であれば紙に対する嵩高付与効果が良好となる。又、POの平均付加モル数nは0≦n≦50の範囲にあるものが使用され、好ましくは0≦n≦20の範囲である。nが50以下であれば性能面と経済面のバランスがよくなる。平均付加モル数mとnの組み合わせとしては、0≦m≦5と0≦n≦50がより好ましい。m=0の場合は0<n≦50が好ましく、0<n≦20が好ましい。
【0010】
また、一般式(1)中のRは炭素数6〜22の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基もしくはアルケニル基又は炭素数4〜20のアルキル基を有するアルキルアリール基であるが、Rとしては、炭素数8〜18の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基が好ましい。Rがアルキル基もしくはアルケニル基の場合、炭素数が6〜22の範囲であると、またアルキルアリール基の場合は炭素数4〜20のアルキル基を有するアルキルアリール基であると、紙に対する嵩高付与効果が良好となる。
【0011】
また、一般式(1)中のE及びPはそれぞれ、炭素数2、3の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基を示し、具体的にはエチレン基、プロピレン基が挙げられる。一般式(1)中の(EO)m(PO)n基がポリオキシエチレンとポリオキシプロピレンの混合形態の場合、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの付加形態はランダムでもブロックでもよい。その場合、好ましくはオキシプロピレン基を全平均付加モル数中の50モル%以上、特に好ましくは70モル%以上含むものが良い。なお、R基に結合するオキシアルキレン基は、オキシエチレン基、オキシプロピレン基のいずれが先であってもよい。
【0012】
本発明の紙用嵩高剤は、化合物Aを紙用嵩高剤中に70重量%以上、好ましくは70〜95重量%、特に好ましくは75〜90重量%含有する。
【0013】
本発明の紙用嵩高剤は、炭素数6〜22の1価の脂肪酸及び/又はその塩(化合物B)を含有する。化合物Bを化合物Aと併用することにより、化合物Aの効果を損なうことなく保存安定性が向上する。特に、紙用嵩高剤中に水を含有する場合に保存安定性の向上効果は顕著である。化合物Bとしては、オレイン酸、ヒマシ油脂肪酸、リシノール酸、リノール酸、リノレン酸等の脂肪酸及びそれらの塩が挙げられる。塩は、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩等が挙げられ、アルカリ金属塩が好ましい。脂肪酸及び/又はその塩のクラフト点は、保存安定性の観点から30℃以下が好ましく、15℃以下がより好ましく、0℃以下が更に好ましい。本発明の紙用嵩高剤では、脂肪酸を配合して、別途配合した化合物由来のカチオンと塩を形成させてもよい。化合物Bは、脂肪酸塩又は脂肪酸塩と脂肪酸の併用が好ましい。また、化合物Bは、紙用嵩高剤中で少なくとも一部が脂肪酸塩となっていることが好ましい。脂肪酸として配合する場合も、紙用嵩高剤中に脂肪酸塩として存在する化合物Bを含有することが好ましい。
【0014】
本発明の紙用嵩高剤は、化合物Bを紙用嵩高剤中に1〜30重量%、更に3〜20重量%、特に5〜15重量%含有することが、保存安定性の向上効果の点で好ましい。なお、嵩高剤に別途配合した化合物由来のカチオンとの塩を形成する場合もあり、化合物Bの重量は酸に換算した値を用いる。
【0015】
化合物Aと化合物Bの重量比(化合物A/化合物B)は85/15〜97/3が好ましく、90/10〜95/5がより好ましい。
【0016】
本発明の紙用嵩高剤は、更に多価アルコール型非イオン界面活性剤(以下、化合物Cという)を含有することが好ましい。化合物A、化合物Bに、更に化合物Cを使用することにより、高温(例えば50℃)での保存安定性も向上できる。また、特に化合物Aが水に溶解しにくく、パルプ原料、例えばパルプやパルプスラリーに均一に混ぜることが困難な場合、例えばEOの付加モル数が2以下更には0の場合、機械力により分散させることも可能であるが、化合物Cにより化合物Aを乳化状態にして使用すると、より効果的である。
【0017】
化合物Cとしては、糖アルコールのEO付加物、糖アルコールのEO付加物の脂肪酸エステル、糖アルコールの脂肪酸エステル、糖のEO付加物、糖のEO付加物の脂肪酸エステル、及び糖脂肪酸エステルから選ばれる一種以上が好ましく、更には糖アルコールのEO付加物の脂肪酸エステルが好ましい。
【0018】
ここで、糖アルコールとは、トリオース、テトロース、ペントース、ヘキソース等の単糖類のアルデヒド基、ケトン基を還元して得られるアルコールであり、具体的には、トリオース由来のグリセリン、テトロース由来のエリトリット、トレイット、ペントース由来のアラビット、リビット、キシリット、ヘキソース由来のソルビット、マンニット、アルトリット、ガラクチット等が挙げられる。糖アルコールのEO付加物は、エーテル型の非イオン界面活性剤であるが、糖アルコール由来のエーテルエステル型の非イオン界面活性剤が更に好ましく、この場合、糖アルコールの一部の水酸基は脂肪酸とエステルを形成する。糖アルコールのEO付加物の脂肪酸エステルを構成する脂肪酸は、炭素数1から24、好ましくは炭素数12〜18までの飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸どちらでもよく、更にはオレイン酸が好ましい。また、糖アルコールのエステル置換はモノ、セスキ、ジ、トリ等、エステル置換度は0から全ての−OHが置換されたものまでのどれでもよいが、エステル置換度は1〜3が好ましい。また、糖アルコールのEO付加物又は糖アルコールのEO付加物の脂肪酸エステルにおけるEOの平均付加モル数は0〜100モル、好ましくは10〜50モルである。EO平均付加モル数が0の場合、糖アルコールの脂肪酸エステルとなり、本発明ではこのタイプの非イオン界面活性剤を用いることもできる。本発明に用いる糖アルコール系の化合物Cとしては、糖アルコールのEO付加物の脂肪酸エステルが好ましく、中でもポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルが最も好ましい。
【0019】
また、糖のEO付加物、糖のEO付加物の脂肪酸エステル及び糖脂肪酸エステルの糖としては、上記糖アルコールで述べたような単糖類の他、しょ糖などの多糖類を用いることができ、糖のEO付加物におけるEO平均付加モル数も同様に、0〜100 モル、好ましくは10〜50モルである。EO平均付加モル数が0の場合、糖脂肪酸エステルとなる。糖脂肪酸エステルとしては、しょ糖脂肪酸エステルが挙げられ、エステルを構成する脂肪酸も上記で述べたものが使用できる。
【0020】
化合物Cを併用する場合、その比率は、好ましくは化合物A/化合物C=5/5〜99/1、より好ましくは7/3〜98/2(重量比)である。化合物Cを併用する場合、化合物Aと化合物Bと化合物Cの混合物を攪拌しながら水中に加え、工業的には経済的な面から濃度10〜100%程度の乳化物もしくは混合物としたものを使用すればよい。
【0021】
本発明の紙用嵩高剤は、化合物Cを紙用嵩高剤中に0.5〜20重量%、更に1〜10重量%含有することが、高温での安定性の向上効果の点で好ましい。
【0022】
本発明の紙用嵩高剤の形態は、上記化合物A及び化合物B、更には化合物Cを含有する液状組成物であり、通常は、残部の水を含有する。水としては化合物A〜C等を有効分とする原料に含まれる水を用いることもできる。本発明の紙用嵩高剤が引火性を有さないようにする点から、水は紙用嵩高剤中に5重量%以上を含有することが好ましく、5〜25重量%含有することがより好ましく、10〜20重量%含有することが更に好ましく、10〜15重量%含有することが更に好ましい。
【0023】
本発明の嵩高剤を適用できるパルプ原料としては、機械パルプ、化学パルプなどのヴァージンパルプから、各種古紙パルプに至るものまで広くパルプ一般に適用できるものである。また、本発明の嵩高剤の添加場所としては抄紙工程であれば特に限定するものではないが、例えば工場ではレファイナー、マシンチェスト、ヘッドボックスで添加するなど均一にパルプ原料にブレンドできる場所が望ましい。なお、本発明の嵩高剤はパルプ原料に添加後、そのまま抄紙され紙上に残存する。本発明の紙用嵩高剤の添加量は、パルプに対して好ましくは0.01〜10重量%、より好ましくは0.1〜5重量%である。
【0024】
本発明の紙用嵩高剤を用いて得られたパルプシートは、無添加品に比べて緊度(測定方法は、後述の実施例記載の方法による)が5%以上、好ましくは7%以上低く、且つJIS P 8116により測定された引き裂き強度が無添加品の90%以上、好ましくは95%以上であることがより好ましい。
【実施例】
【0025】
表1に示す液状の紙用嵩高剤を調製し、以下の方法で嵩高能と製品安定性を評価した。結果を表1に示す。表1の数値は有効分の重量%である。
【0026】
<嵩性能>
LBKP(広葉樹晒パルプ)を5cm×5cmに裁断後、室温下一定量を叩解機にて離解、そして叩解して1重量%のLBKPスラリーとしてヴァージンパルプを用意した。この時のLBKPのフリーネスは420mlであった。
【0027】
次に上記のパルプスラリーを、抄紙後のシートの秤量が80g/m2になるように量り取ってからpHを硫酸バンドで4.0に調整した。それから種々の紙用嵩高剤を対パルプ1重量%添加し、角型タッピ抄紙機にて80メッシュワイヤーで抄紙しシートを得た。抄紙後のシートは、3.5kg/cm2で2分間プレス機にてプレスし、鏡面ドライヤーを用い105℃で1分間乾燥した。乾燥されたシートは20℃、湿度65%の条件で1日間調湿してから紙の嵩高性として紙の緊度を測定した。調湿されたシートの秤量(g/m2)と厚み(mm)を測定し、下記計算式より緊度(g/cm3)を求めた。測定は10回行い平均値を求めた。
計算式:嵩高性(緊度)=(秤量)/(厚み)×0.001
【0028】
一方、紙用嵩高剤を添加しない以外は同様の条件で、紙用嵩高剤を使用しない場合の紙の緊度を測定した。その結果緊度は0.537g/cm3であった。嵩性能は以下の式で計算した。
嵩性能(%)=(紙用嵩高剤を添加しない場合の緊度−紙用嵩高剤を添加した場合の緊度)/紙用嵩高剤を添加しない場合の緊度×100
【0029】
<製品安定性>
50mlのガラス製のサンプル瓶に紙用嵩高剤を入れ、表1の各温度で14日保存後、目視で状態を観察した。析出物がなく液が分離しない場合を◎、析出物があるが液は分離しない(室温に戻して瓶を軽く振ると析出物は消失する)場合を○とした。
【0030】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される化合物(以下、化合物Aという)と、炭素数6〜22の1価の脂肪酸及び/又はその塩(以下、化合物Bという)とを含有する液状紙用嵩高剤であって、化合物Aの含有量が該嵩高剤中70重量%以上である液状紙用嵩高剤。
RO(EO)m(PO)nH (1)
〔式中、R は炭素数6〜22の直鎖または分岐鎖のアルキル基もしくはアルケニル基又は炭素数4〜20のアルキル基を有するアルキルアリール基を示し、Eはエチレン基、Pはプロピレン基を示し、m, n は平均付加モル数であり、0≦m≦20の範囲の数であり、nは0≦n≦50の範囲の数である。なお、(EO)m(PO)nは、ブロックまたはランダムのいずれでもよく、EOとPOのいずれが先でもよい。〕
【請求項2】
化合物Aと化合物Bの重量比(化合物A/化合物B)が85/15〜97/3である請求項1記載の液状紙用嵩高剤。
【請求項3】
更に、多価アルコール型非イオン界面活性剤を含有する請求項1又は2記載の液状紙用嵩高剤。

【公開番号】特開2008−163499(P2008−163499A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−352415(P2006−352415)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】