説明

液相レーザーアブレーション装置及び液相レーザーアブレーション方法

【課題】ターゲット材料の種類によらず、液相中に粒子を連続的に安定して製造できる製造効率の十分に高度な液相レーザーアブレーション装置を提供する。
【解決手段】レーザー光Lを発生させるためのレーザー発振器10と、レーザー光を導入するための窓13Aを備え且つ溶媒14を保持するための処理容器13と、処理容器内に配置されるターゲット15と、処理容器から溶媒を流出させるための流出管16と、処理容器に溶媒を流入させるための流入管17と、流出管及び流入管に溶媒を流通させるためのポンプ18と、流出管内の溶媒の流路と流入管内の溶媒の流路とポンプ内の溶媒の流路とからなる循環流路中に配置され且つ循環流路中に流通する溶媒の中からレーザーアブレーションにより形成された粒子を回収するための15〜1000nmの孔径を有するフィルター19とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液相レーザーアブレーション装置並びに液相レーザーアブレーション方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体、絶縁体等の種々の材料に用いるために、微細なナノサイズの粒子が製造されてきており、電子素子、光素子、記録媒体、電池、触媒等に応用されてきた。そして、このような粒子の製造方法としては、液相中に保持されたターゲットに対してレーザー光を照射してレーザーアブレーションを施す液相レーザーアブレーション方法が知られている(例えば、T.Tsuji,K.Iryo,H.Ohta,Y.Nishimura,“Jpn.J.Appl.Phys.”,vol.39,2000年発行,第981頁〜第983頁(非特許文献1)、T.Sasaki,Y.Shimizu,N.Koshizaki,Journal of Photochemistry and Photobiology A:Chemistry,vol.182,2006年発行,第335頁〜第341頁(非特許文献2)等)。しかしながら、非特許文献1〜2に記載のような従来の液相レーザーアブレーション方法においては、液相中に形成された粒子によりレーザー光の吸収や散乱が起こったり、レーザー光路上の粒子が再アブレートされるため、液相レーザーアブレーションにより液中に放出された粒子と照射レーザー光との相互作用により、ターゲットに対して同じ照射条件で連続的にレーザー光を照射することが困難であり、時間の経過とともにアブレーション効率が低下していた。このように、非特許文献1〜2に記載のような従来の液相レーザーアブレーション方法においては、アブレーション効率が低下し、連続的に安定して粒子を製造することができなかった。そのため、近年では、アブレーション効率を向上させるために様々な技術の研究が進められてきた。
【0003】
例えば、特開2006−122845号公報(特許文献1)においては、被微細化成分を含有するターゲットと、前記ターゲットにレーザー光を照射するためのレーザー発振装置と、前記ターゲットを液体中に保持する反応容器とを備え、前記反応容器が流通口を有する仕切り板によって内部空間がアブレーション室と回収室とに仕切られており、前記アブレーション室内に前記ターゲットが収容保持され、前記アブレーション室内でアブレーションにより微細な粒子を形成し、前記粒子を含む液体を前記仕切り板の流通口を介して前記回収室に導入し、前記回収室において前記粒子を回収するための液相レーザーアブレーション装置及びそれを用いた液相レーザーアブレーション方法が開示されている。また、このような特許文献1においては、前記回収室において粒子を回収する方法として、電場又は磁場を利用して粒子を吸引して回収する方法が開示されている。しかしながら、特許文献1に記載のような従来の液相レーザーアブレーション装置及びそれを用いた液相レーザーアブレーション方法においては、電場又は磁場を利用して粒子を吸引して回収することから、帯電し難い材料からなるターゲットを用いた場合には、形成された粒子を十分に回収することができず、アブレーション効率が低下していた。このように、特許文献1に記載のような液相レーザーアブレーション装置及びそれを用いた液相レーザーアブレーション方法においても連続的に安定して粒子を製造するという点では必ずしも十分なものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−122845号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】T.Tsuji,K.Iryo,H.Ohta,Y.Nishimura,“Jpn.J.Appl.Phys.”,vol.39,2000年発行,第981頁
【非特許文献2】T.Sasaki,Y.Shimizu,N.Koshizaki,“Journal of Photochemistry and Photobiology A:Chemistry”,vol.182,2006年発行,第335頁〜第341頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、ターゲット材料の種類によらず、液相中に形成された粒子を効率よく回収しながら液相中で連続的にレーザーアブレーション処理を施すことができ、前記粒子を連続的に安定して製造でき、液相レーザーアブレーション処理による粒子の製造効率を十分に高度なものとすることが可能な液相レーザーアブレーション装置、並びにそれを用いた液相レーザーアブレーション方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、溶媒中に保持されているターゲットに対してレーザー光を照射して液相中でレーザーアブレーションを行うために用いる液相レーザーアブレーション装置を、レーザー光を発生させるためのレーザー発振器と、前記レーザー光を導入するための窓を備え且つ前記溶媒を保持するための処理容器と、前記処理容器内に配置されるターゲットと、前記処理容器から前記溶媒を流出させるための流出管と、前記処理容器に前記溶媒を流入させるための流入管と、前記流出管及び前記流入管に溶媒を流通させるためのポンプと、前記流出管内の溶媒の流路と前記流入管内の溶媒の流路と前記ポンプ内の溶媒の流路とにより形成される循環流路中に配置され且つ前記循環流路中に流通する前記溶媒の中から前記レーザーアブレーションにより形成された粒子を回収するためのフィルターとを備えるものとし、且つ、前記フィルターを15〜1000nmの孔径を有するフィルターとすることにより、ターゲット材料の種類によらず、液相中において形成された粒子を効率よく回収しながら、液相中で連続的にレーザーアブレーション処理を施すことができるとともに、有用なサイズの粒子を効率よく回収でき、前記粒子を連続的に安定して製造することが可能であり、粒子の製造効率を十分に高度なものとすることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の液相レーザーアブレーション装置は、溶媒中に保持されているターゲットに対してレーザー光を照射して液相中でレーザーアブレーションを行うために用いる液相レーザーアブレーション装置であって、
レーザー光を発生させるためのレーザー発振器と、
前記レーザー光を導入するための窓を備え且つ前記溶媒を保持するための処理容器と、
前記処理容器内に配置されるターゲットと、
前記処理容器から前記溶媒を流出させるための流出管と、
前記処理容器に前記溶媒を流入させるための流入管と、
前記流出管及び前記流入管に溶媒を流通させるためのポンプと、
前記流出管内の溶媒の流路と前記流入管内の溶媒の流路と前記ポンプ内の溶媒の流路とからなる循環流路中に配置され且つ前記循環流路中に流通する前記溶媒の中から前記レーザーアブレーションにより形成された粒子を回収するための15〜1000nmの孔径を有するフィルターと、
を備えることを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明の液相レーザーアブレーション方法は、レーザー光を発生させるためのレーザー発振器と、前記レーザー光を導入するための窓を備え且つ溶媒を保持するための処理容器と、前記処理容器内に保持されている溶媒と、前記処理容器内に配置されて前記溶媒中に保持されているターゲットと、前記処理容器から前記溶媒を流出させるための流出管と、前記処理容器に前記溶媒を流入させるための流入管と、前記流出管及び前記流入管に溶媒を流通させるためのポンプと、前記流出管内の溶媒の流路と前記流入管内の溶媒の流路と前記ポンプ内の溶媒の流路とからなる循環流路中に配置され且つ前記循環流路中に流通する前記溶媒の中からレーザーアブレーションにより形成された粒子を回収するための15〜1000nmの孔径を有するフィルターとを備える液相レーザーアブレーション装置を用い、
前記溶媒中に保持されている前記ターゲットに対してレーザー光を照射し、前記溶媒中に粒子を形成し、前記循環流路に前記粒子を含有する溶媒を循環させて、前記フィルターにより前記粒子を回収しながら液相中でレーザーアブレーションを行うことを特徴とする方法である。
【0010】
このように、本発明においては、孔径が15〜1000nmの範囲にあるフィルターを用いて、レーザーアブレーション処理により形成された粒子を回収しながら、レーザーアブレーション処理を連続的に施すことを可能とする。なお、このようなフィルターの孔径を15〜1000nmの範囲とする理由は、以下の通りである。すなわち、先ず、液相レーザーアブレーションにより形成、放出された粒子の中にはレーザーの散乱等にはあまり影響を及ぼさないような微細な粒子も存在し、そのような微細な粒子は必ずしも溶媒から回収する必要はない。一方、そのような微細な粒子をフィルターで回収した場合にはフィルターの目詰まり等の問題が引き起こり、却って溶媒中の粒子の回収効率が低下する。また、このようなフィルターはあまり孔径を小さくすると、粒子ばかりか溶媒自体も通過させることが困難となる。そのため、本発明においては、フィルターの目詰まり十分に抑制することができ、しかも効率よく溶媒を通過させることが可能なサイズとして、フィルターの孔径の下限値を15nmとしている。また、前記フィルターの上限値に関しては、孔径をあまり大きくしすぎると、フィルターを通した後の溶媒中にレーザーの散乱等に影響を及ぼすような大きな粒子が残存してしまうことや、半導体、絶縁体等の種々の材料に用いるために有用なサイズの粒子をフィルターにより回収することが困難となること等から、本発明においては、フィルターの孔径の上限値を1000nmとしている。
【0011】
また、上記本発明の液相レーザーアブレーション装置においては、前記フィルターの孔径が、25〜1000nmであることが好ましく、25〜100nmであることがより好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ターゲット材料の種類によらず、液相中に形成された粒子を効率よく回収しながら液相中で連続的にレーザーアブレーション処理を施すことができ、前記粒子を連続的に安定して製造でき、液相レーザーアブレーション処理による粒子の製造効率を十分に高度なものとすることが可能な液相レーザーアブレーション装置、並びにそれを用いた液相レーザーアブレーション方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の液相レーザーアブレーション装置の好適な一実施形態を示す概略縦断面図である。
【図2】実施例1〜4及び比較例1〜2で得られたレーザーアブレーション処理を施した後の溶媒の吸光度と、レーザー光の照射時間との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら本発明の液相レーザーアブレーション装置及び液相レーザーアブレーション方法の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明及び図面中、同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0015】
図1は、本発明の液相レーザーアブレーション装置の好適な一実施形態を示す概略縦断面図である。
【0016】
図1に示す液相レーザーアブレーション装置は、レーザー発振器10と、回転ミラー11と、集光レンズ12と、処理容器13と、溶媒14と、ターゲット15と、処理容器から溶媒を流出させるための流出管16と、処理容器に溶媒を流入させるための流入管17と、前記流出管及び前記流入管に溶媒を流通させるためのポンプ18と、前記流出管内の溶媒の流路と前記流入管内の溶媒の流路と前記ポンプ内の溶媒の流路とからなる循環流路中に配置され且つ前記循環流路中に流通する前記溶媒の中からレーザーアブレーションにより形成された粒子を回収するための15〜1000nmの孔径を有するフィルター19とを備えるものである。このような液相レーザーアブレーション装置においては、基本的に、レーザー発振器10から発せられたレーザー光Lが、光路上に配置された回転ミラー11に反射された後に集光レンズ12を通過し、窓13Aを通過して処理容器13内に導入され、処理容器13内に保持されている溶媒14に入射した後に液相内を通過し、ターゲット15に照射されるように構成されている。更に、このような液相レーザーアブレーション装置においては、処理容器13内に保持された溶媒14が、ポンプ18により前記循環流路中に流通して循環し、循環する溶媒14がフィルター19を通過するように構成されており、フィルター19によりレーザーアブレーションにより形成、放出された粒子を回収しながらレーザーアブレーション処理を施すことを可能としている。
【0017】
レーザー発振器10は、レーザー光Lを発生させることが可能なものであればよく、特に制限されず、パルス幅が80フェムト秒〜100ナノ秒のパルスレーザー光を照射できるレーザー光発生装置を好適に用いることができる。このようなレーザー発振器10は、例えば、YAGレーザー装置、エキシマレーザー装置によって構成されるものが挙げられ、中でも、YAGレーザー装置によって構成されるものがより好ましい。
【0018】
また、回転ミラー11は、レーザー光Lがターゲット15の表面の同じ位置に繰り返し照射されて穴が開ないように、これを回転させて反射面の角度を変えてレーザー光Lの照射位置を移動させるために用いるものである。このような回転ミラー11は特に制限されるものではなく、公知の反射板等(例えば鏡等)を適宜用いることができる。
【0019】
集光レンズ12としては特に制限されず、公知の集光レンズを適宜利用することができ、中でも、ターゲット15に照射されるパルスレーザー光Lの照射強度を10W/cm〜1010W/cmとすることを可能とする集光レンズを好適に利用することができ、10W/cm〜10W/cmとすることが可能な集光レンズをより好適に利用することができる。
【0020】
処理容器13は、レーザー光を導入するための窓13Aを備える。このような窓13Aとしては、特に制限されず、公知の窓材からなるものを適宜用いることができ、例えば、石英製のものを用いてもよい。また、処理容器13においては、窓13Aの設置部位からの液体の漏れを防ぐために、例えば、窓13Aを設置する際に市販のOリング等を用いてシールしてもよい。
【0021】
また、処理容器13は、容器13内に溶媒14を保持することができ、その液相内にターゲットを保持してレーザーアブレーション処理を施すことが可能なものである。このような処理容器13の材質等は特に制限されず、目的の設計に合わせて、その材質等を適宜変更することができ、例えば、樹脂製の容器や金属製の容器等を適宜用いることができる。なお、アブレーションターゲット15に金属を用いる場合においては、金属製の容器13を用いるとターゲット15の固定時の摩擦等によって、金属製の容器13の金属材料に起因する不純物が混入するため、これを防止するという観点から、処理容器13としては樹脂製のもの(例えばアクリル樹脂製のもの)を用いることが好ましい。
【0022】
さらに、このような処理容器13の形状や大きさは特に制限されず、用いるレンズ12の種類や光学系を考慮して任意の形状等とすることが可能である。また、窓13Aの形状及び大きさも回転ミラー11やレンズ12等の光学系を考慮して任意の設計とすることができる。また、このような処理容器13は、レーザーアブレーションを施す際に動いてしまうことを防止するために、容器13自体を適宜固定(例えば机や柱等に固定)することが好ましい。
【0023】
また、このような処理容器13には、流出管16を接続するための流出口及び流入管17を接続するための流入口がそれぞれ形成されている。このような流入口及び流出口の大きさは特に制限されず、流出入させる溶媒の量や用いる流出管及び流入管の孔径、管の接続用のコネクタを利用する場合にはその種類等に応じて、その大きさを適宜変更してもよい。また、このような流入口及び流出口を形成する箇所も特に制限されず、処理容器13中の溶媒を循環させることが可能となるように、流入口及び流出口を形成する箇所の設計は適宜変更してもよい。なお、前述の管の接続用のコネクタとしては、公知のものを適宜利用できる。
【0024】
また、処理容器13においては、ターゲット15を十分に固定して保持するために、ターゲット15を保持する部位に、ターゲットの固定器具を設置することが好ましい。また、レーザーアブレーション中にターゲットが動かないように、このような固定器具は数点用いてもよい。更に、このような処理容器13には、図示を省略した溶媒の供給管が接続されており、かかる供給管を介して処理容器13の内部に溶媒14を導入することが可能となっている。なお、処理容器13内への溶媒14の導入量は特に制限されず、ターゲット15を溶媒中に保持することが可能な量であればよい。また、溶媒14の導入量によっては、処理容器13内に気体(空気)が残存するが、かかる気体を残したままにしてもよく、あるいは、真空引きして真空条件としてもよく、更には、前記気体と不活性ガスとを置換して処理容器13内の雰囲気を不活性ガス雰囲気としてもよい。
【0025】
溶媒14としては特に制限されず、公知の溶媒を適宜用いることができ、レーザー光に対して透明性を有するものが好ましい。このような溶媒としては特に制限されないが、例えば、エタノール、イソプロパノール、キシレン、ケロシン、メタノール、水、アセトン、液体窒素等が挙げられる。
【0026】
また、ターゲット15は、レーザー光Lの照射により、金属原子及び/又は炭素原子を含む微粒子を発生させることが可能な材料からなるものである。このような材料としては、各種の金属、金属化合物及び炭素からなる群から選択される少なくとも1種を含むものを用いることができる。また、このような金属からなる材料(金属材料)としては、各種の遷移元素金属、典型元素金属、半金属(メタロイド)、又はそれらの合金を用いることができ、例えば、Cu、Al、Ti、Si、Cr、Pt、Au、Ag、Pd、Zr、Mg、Ni、Fe、Co、Zn、Sn、W、Be、Ge、Mn、Mo、Nb、Ta、Hf、それらを主成分とする合金等が挙げられ、中でもCu、Al、Ti、Si、Znを含むものが好ましい。なお、ここでいう金属材料は、例えば、シリコン、ゲルマニウム、炭化珪素、砒化ガリウム、InP、ZnTe等の半導体であってもよい。また、前記金属化合物からなる材料(金属化合物材料)としては、各種の遷移元素金属、典型元素金属又は半金属の酸化物、窒化物、炭化物等が挙げられ、中でも酸化亜鉛、チタニア、アルミナ、マグネシア、ベリリア、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素、Fe、Cr、W、Mo、V等の金属元素の炭化物が好ましい。なお、ここでいう金属化合物材料は複数の金属元素を含有していてもよく、更に非金属元素を含んでいてもよい。また、このような炭素からなる材料(炭素材料)としては、各種の無定形炭素、グラファイト、ダイアモンド等が挙げられ、中でもグラファイト、無定形炭素が好ましい。また、このような材料としては、有機物でもよい。さらに、ターゲット15は、このような金属材料、金属化合物材料、炭素材料の複合材料であってもよい。
【0027】
流出管16及び流入管17としては、溶媒14を流通させることが可能なものであればよく、その材質や形状などは特に制限されず、公知の管を適宜利用することができる。なお、アブレーションのターゲット15に金属を用いる場合においては、他の金属と接触することを防止してターゲット15の金属以外の他の金属からなる不純物が混入することを防止するという観点から、流出管16及び流入管17としては樹脂製のもの(例えばポリプロピレン製のチューブ等)を用いることが好ましい。また、このような流出管16及び流入管17は、それぞれ一方の端部が処理容器13の流出口又は流入口に接続され、もう一方の端部がそれぞれポンプ18に接続されている。また、このような装置においては、流出管16内の溶媒の流路と、流入管17内の溶媒の流路と、ポンプ18内の溶媒の流路とにより、溶媒の循環流路が形成される。なお、流出管16及び流入管17を処理容器13等に接続する際には接続用のコネクタ等を適宜用いてもよい。
【0028】
また、ポンプ18は、流出管16内及び流入管17内に処理容器13の内部の溶媒を流通させるために用いるものである。すなわち、このようなポンプ18は、前記循環流路内に溶媒を流通させて、溶媒を循環させるために用いるポンプである。このようなポンプ18としては、前記循環流路に溶媒を循環させることが可能なものであればよく、特に制限されず、公知のポンプを適宜用いることができる。また、このようなポンプ18としては、処理容器の容量等によっても異なるものではあり一概には言えないが、例えば、処理容器の容量が0.5〜1.0L程度である場合には、溶媒の循環速度を50〜100mL/分(より好ましくは80〜100mL/分)とすることが可能なポンプを用いることが好ましい。このような溶媒の循環速度が前記下限未満では溶媒中に形成された粒子の回収効率が低下し、溶媒中に存在する粒子の濃度が濃くなることから、かかる粒子に起因して液相に入射したレーザー光が吸収、散乱等され、ターゲットの表面に照射されるレーザー光Lのエネルギーが減衰して、アブレーション効率が低下してしまう傾向にあり、他方、前記上限を超えると、装置内圧力が上昇し、例えば流入管17とポンプ18等の接続部からの溶媒のもれ等が起こり易くなる傾向にある。
【0029】
フィルター19は、15〜1000nmの孔径を有するものである。このようなフィルター19を用いることにより、フィルターの孔径以上の大きさの粒子径を有する粒子を効率よく回収することが可能となる。このようなフィルター19の孔径が15nm未満では、溶媒が流れにくくなって溶媒を循環させること自体が困難となるとともに、レーザー光の散乱等にあまり影響の無い非常に小さなサイズ(15nm未満)の粒子が回収されてフィルターの目詰まりが引き起こされるため、結果として処理容器内の溶媒中に存在する粒子を効率よく回収することができなくなり、回収されずに残った粒子によりレーザー光の散乱等が生じてアブレーション効率が低下する。他方、このようなフィルターの孔径が1000nmを超えると、フィルターを通過した後の溶媒中にも大きなサイズの粒子が残存するため、レーザーアブレーション処理を施すほど、処理容器内において大きなサイズの粒子の濃度が濃くなっていくため、前記粒子により照射レーザー光が吸収、散乱等されてターゲットに到達するレーザー光Lのエネルギーが減衰し、アブレーション効率が低下する。
【0030】
このようなフィルター19の孔径の範囲の下限値としては20nmであることがより好ましく、25nmであることが更に好ましい。また、フィルター19の孔径の範囲の上限値としては300nmであることがより好ましく、100nmであることが更に好ましい。このように、フィルター19の孔径としては20nm〜1000nmであることがより好ましく、25nm〜1000nmであることが更に好ましく、25nm〜100nmであることが特に好ましい。このようなフィルター19の孔径が、前記上限値及び下限値の範囲内にある場合には、フィルターの目詰まりを十分に抑制しながら、レーザー光Lを吸収及び散乱するようなサイズの粒子を効率よく回収できるため、ターゲットに到達するレーザー光Lのエネルギーの減衰をより十分に防止することができ、レーザアブレーションにより、より効率よく粒子を製造することが可能となる。また、フィルター19の材質としては特に制限されず、金属製のものであっても樹脂製のものであってもよいが、前記粒子が他の金属と接触することを防止して他の金属からなる不純物が混入することを防止するという観点からは、樹脂製のもの(例えばニトロセルロース製のフィルタ)を用いることが好ましい。また、このようなフィルター19としては、孔径が15〜1000nmの範囲内のものであればよく、市販のフィルターを適宜利用してもよい。
【0031】
さらに、フィルター19は、流出管16内の溶媒の流路と、流入管17内の溶媒の流路と、ポンプ18内の溶媒の流路とにより形成される溶媒の循環流路内に配置される。このように、フィルター19を溶媒の循環流路内に配置することで、循環流路内を循環する溶媒中の粒子をフィルター19により効率よく回収することが可能となる。また、フィルター19は、例えば、公知のフィルター用のホルダー(例えば市販のインラインフィルターホルダー)等を用い、かかるホルダー内に固定して、流出管16又は流入管17にインラインで接続することにより循環流路内に配置してもよい。このように、フィルター19を前記ホルダー内に固定して流出管16又は流入管17にインライン接続する場合、前記ホルダーと流出管16又は流入管17との接続部位に、公知の接続用のコネクタを適宜用いてもよく、アブレーション後に溶媒を容易に排出させることも可能となるという観点から、前記接続用のコネクタとしてT型のものを用いてもよい。なお、このように、フィルター19を循環流路内に配置するために前記ホルダーを用いる場合には、粒子が回収されていることやフィルターが破れていないか等を確認するために、溶媒が流入してくる側(粒子が流れ込む側)の前記ホルダーの面の少なくとも一部を透明にして、溶媒を循環させる際に、フィルター19の溶媒が流入してくる側の面を見れるようにすることが好ましい。また、フィルター19をホルダー内に固定する際には、循環する溶媒の圧力によってフィルターが破れないように、フィルター19の溶媒が流出する側の面を十分に支えるような構造(フィルター19を溶媒が流れ出てくる方向とは逆の方向から十分に支えるような構造)のホルダーを用いることが好ましい。このように、フィルターの溶媒が流出する側の面を支えるような構造は特に制限されず、循環する溶媒の圧力によってフィルターが破れることを防止できるように、該面を十分に支持することが可能な構造であればよい。また、フィルターホルダーや、流出管16、流入管17等は、溶媒14をより効率よく循環させるという観点から適宜固定(例えば机や柱等に固定)してもよい。
【0032】
以下、本発明の液相レーザーアブレーション方法の好適な一実施形態として、図1に示す液相レーザーアブレーション装置を用いてレーザーアブレーション処理を施す方法(液相レーザーアブレーション方法)について説明する。
【0033】
このような液相レーザーアブレーション方法は、処理容器13の内部の溶媒14中に保持されているターゲット15に対してレーザー光Lを照射し、液相中(溶媒14中)に粒子を形成し、前記粒子を含有する溶媒14を循環流路内に循環させて、前記粒子をフィルター19により回収しながら、液相中でレーザーアブレーションを行う方法である。
【0034】
このような液相レーザーアブレーション方法においては、先ず、処理容器13の内部にターゲット15を設置した後、処理容器13の内部に溶媒14を十分に供給し、その溶媒中にターゲット15が保持されるようにする。次いで、レーザー発振器10からレーザー光Lを出射させた後、そのレーザー光Lを光路上に配置された回転ミラー(反射板)11により反射させる。次に、レーザー光Lを、光路上に配置されている集光レンズ12に入射させる。そして、集光レンズ12を透過したレーザー光Lを、窓13Aを介して処理容器13内に入射させる。次に、処理容器13内に入射させた前記レーザー光Lを、処理容器内の溶媒14(液相)中を通過させた後、液相中に保持されたターゲット15に照射させる。このようにしてターゲット15にレーザー光Lが照射されると、ターゲット上にはプラズマが生じ、液相内にターゲット15の材料からなるナノメートルサイズ(好ましくは数〜数十nm)の粒子が形成され、溶媒中に分散される。また、このようにしてターゲット15にレーザー光Lを照射して粒子を形成、分散させる際に、ポンプ18を運転させて、流出管16内の溶媒の流路と流入管17内の溶媒の流路とポンプ18内の溶媒の流路とにより形成される循環流路に溶媒14を循環させる。これにより、溶媒中に形成された粒子を、循環流路内に配置されたフィルター19により回収しながら、レーザーアブレーション処理を施すことができる。
【0035】
このような液相レーザーアブレーション方法によれば、処理容器13内の溶媒14中において、レーザー光Lを吸収、散乱等するような大きな粒子の濃度が十分に低くなり、レーザー光Lの光路上に存在する粒子に起因するレーザー光Lの散乱やレーザー光Lの光路上に存在する前記粒子によるレーザー光Lの吸収、レーザー光Lの光路上に存在する前記粒子の再アブレート等が十分に抑制される。その結果、レーザー光Lのエネルギーの減衰を十分に防止しながらレーザー光Lを連続的に安定してターゲット15まで到達させることができ、連続的にレーザーアブレーションを行って粒子を安定的に製造することができるため、粒子の製造効率が十分に向上する。
【0036】
このようにしてターゲット15にレーザー光Lを照射する際のレーザー光Lの集光形状や照射強度条件等は特に制限されず、溶媒の種類やターゲットの種類等に応じて、その条件を適宜変更することができる。また、ポンプ18により溶媒を循環させる際の溶媒の循環速度としては、50〜100mL/分(より好ましくは80〜100mL/分)とすることが好ましい。更に、レーザーアブレーション時の温度条件は特に制限されないが、室温(25℃)程度であることが好ましい。
【0037】
以上、本発明の液相レーザーアブレーション装置及び液相レーザーアブレーション方法の好適な実施形態について説明したが、本発明の液相レーザーアブレーション装置及び液相レーザーアブレーション方法は上記実施形態に限定されるものではない。
【0038】
例えば、図1に示す実施形態(上記実施形態)においては反射ミラー11を用いているが、本発明の液相レーザーアブレーション装置は、レーザー光を発生させるためのレーザー発振器と、前記レーザー光を導入するための窓を備え且つ前記溶媒を保持するための処理容器と、前記処理容器内に配置されるターゲットと、前記処理容器から前記溶媒を流出させるための流出管と、前記処理容器に前記溶媒を流入させるための流入管と、前記流出管及び前記流入管に溶媒を流通させるためのポンプと、前記流出管内の溶媒の流路と前記流入管内の溶媒の流路と前記ポンプ内の溶媒の流路とからなる循環流路中に配置され且つ前記循環流路中に流通する前記溶媒の中から前記レーザーアブレーションにより形成された粒子を回収するための15〜1000nmの孔径を有するフィルターとを備えていればよく、反射ミラー11を用いなくてもよい。なお、その場合には、ターゲット15の同じ位置にレーザー光が繰り返し照射されないように、ターゲット15をパルスモータ等に接続して、ターゲット15を駆動させながらレーザー照射することが好ましい。
【0039】
また、上記実施形態においては、処理容器13に溶媒を導入するための供給管(図示省略)が接続されているが、本発明においては、供給管(図示省略)は特に接続しなくてもよく、その場合には、例えば、窓13Aを取り付ける前に窓を設置するための空洞を介して溶媒を処理容器の内部に供給して、その後、窓13Aを取り付けて溶媒を処理容器13内に保持してもよい。
【0040】
また、上記実施形態においては、流出管16にインライン接続する態様でフィルター19が設置されているが、本発明においては、フィルター19は、流出管16内の溶媒の流路と流入管17内の溶媒の流路とポンプ18内の溶媒の流路とからなる循環流路のいずれかに配置されていればよく、その配置位置は特に制限されるものではない。
【実施例】
【0041】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0042】
(実施例1)
上述の図1に示す液相レーザーアブレーション装置を用いて、液相レーザーアブレーション処理を施した。
【0043】
このような液相レーザーアブレーション装置においては、レーザー発振器10としてNd:YAGレーザー装置を用い、集光レンズ12としては焦点距離が100mmの合成石英レンズを用いた。なお、ターゲット15の表面上の集光サイズが直径1.2mmとなるように、集光レンズ12は処理容器13の窓13Aに密着させるようにして配置した。また、処理容器13としては、窓13Aが設置される面及びターゲット15が保持される面が円形であり且つ長さが100mmの円筒状の容器(容器内の円形の面の内径が80mm)を用いた。このような処理容器13はアクリル樹脂製のものとし、窓13Aは直径40mm、厚み8mmの石英製のものとした。また、処理容器13においては、流出管16及び流入管17を接続させるための直径8mmの流出口及び直径8mmの流入口を形成した。また、窓13Aは、窓13Aの設置部位からの溶媒の漏れを防止するために市販のOリングを用いてシールし、窓13Aの周囲を十分に固定した。また、溶媒14としては純水を用い、容器13内を溶媒14で満たした。また、ターゲット15としては直径40、0mm、厚み1.0mmのパラジウム製の円盤を用いた。更に、流出管16及び流入管17としては、共に内径が7mmで外径が10mmのポリプロピレン製のチューブを用い、これらを流出口及び流入口にそれぞれ接続させた。また、ポンプ18としては、最大で100mL/minの循環速度で溶媒を循環させることが可能なものを用いた。更に、フィルター19としては、直径が40mmであり、厚みが0.1mmであり且つ孔径が25nmであるニトロセルロース製のフィルターを用いた。また、フィルター19は、図1に示すように、流出管16の溶媒の流路内(処理容器13の流出口とポンプ18との間)に配置した。また、このような装置においては、ポンプ18を運転することにより、処理容器13から排出された溶媒14が流出管16中を流通し、フィルター19を通過した後、流入管17を介して処理容器内に流入して、処理容器13内の溶媒14が循環する構成とした。
【0044】
また、液相レーザーアブレーション処理に際しては、上述のような装置を用いて、レーザー発振器10からNd:YAGレーザーの2倍高周波の波長532nmのレーザー光Lを400mJ/pulse,10Hzの条件で発振し、集光レンズ12により、ターゲット15の表面上の集光サイズが直径1.2mmとなるようにして、純水中においてレーザー光Lをターゲットに照射した。なお、このようにして照射したレーザー光Lはフルエンスに換算すると8.84J/cmであった。また、このようにレーザー光Lを照射する際には、ポンプの循環速度の設定を100mL/minにしてポンプ18を運転し、溶媒14を循環させた。このようにして、溶媒14を循環させながら、溶媒中でターゲットにレーザー光Lを照射した。また、このようなレーザー光Lの照射時間は60分間とした。なお、レーザー光Lの照射の際には、ターゲット15の表面の同じ位置に繰り返しレーザー光Lが照射されて穴が開ないように、回転ミラーを適宜回転させながらレーザー光Lを照射した。
【0045】
このようにして液相中でレーザーアブレーションを60分間行いながら、処理容器13内に保持されている溶媒14を用いて、溶媒14中に存在する粒子に起因する波長532nmの光の吸光度を測定した。なお、このような溶媒の吸光度の測定には、島津製作所社製の商品名「UV−2100」を測定装置として使用した。結果を図2に示す。なお、図2中、実施例1でレーザーアブレーション処理を行いながら測定した溶媒の吸光度は点線で示した。また、レーザーアブレーションを60分間行った後において、フィルター19を回収し、フィルターを自然乾燥させて、フィルターにより回収された粒子の収率を測定したところ、平均収率は3.7mg/hであった。
【0046】
(実施例2)
フィルター19の孔径を50nmとした以外は実施例1と同様にして液相レーザーアブレーション装置を製造し、液相レーザーアブレーション処理を施した。また、このようにして液相中でレーザーアブレーションを60分間行った後において、処理容器13内に保持されている溶媒14を用いて、溶媒14中に存在する粒子に起因する波長532nmの光の吸光度を測定した。結果を図2に示す。また、レーザーアブレーションを60分間行った後において、フィルター19を回収し、フィルターを自然乾燥させて、フィルターにより回収された粒子の収率を測定したところ、平均収率は3.0mg/hであった。
【0047】
(実施例3)
フィルター19の孔径を100nmとした以外は実施例1と同様にして液相レーザーアブレーション装置を製造し、液相レーザーアブレーション処理を施した。また、このようにして液相中でレーザーアブレーションを60分間行った後において、処理容器13内に保持されている溶媒14を用いて、溶媒14中に存在する粒子に起因する波長532nmの光の吸光度を測定した。結果を図2に示す。また、レーザーアブレーションを60分間行った後において、フィルター19を回収し、フィルターを自然乾燥させて、フィルターにより回収された粒子の収率を測定したところ、平均収率は2.7mg/hであった。
【0048】
(実施例4)
フィルター19の孔径を1000nmとした以外は実施例1と同様にして液相レーザーアブレーション装置を製造し、液相レーザーアブレーション処理を施した。また、このようにして液相中でレーザーアブレーションを60分間行った後において、処理容器13内に保持されている溶媒14を用いて、溶媒14中に存在する粒子に起因する波長532nmの光の吸光度を測定した。結果を図2に示す。また、レーザーアブレーションを60分間行った後において、フィルター19を回収し、フィルターを自然乾燥させて、フィルターにより回収された粒子の収率を測定したところ、平均収率は1.5mg/hであった。
【0049】
(比較例1)
フィルター19を用いなかった以外は、実施例1と同様にして液相レーザーアブレーション装置を製造し、液相レーザーアブレーション処理を施した。また、このようにして60分間液相中でレーザーアブレーションを行いながら、レーザー照射開始から10分間ごとに処理容器13内に保持されている溶媒14を用いて、溶媒14中に存在する粒子に起因する波長532nmの光の吸光度を測定した。結果を図2に示す。また、レーザーアブレーションを60分間行った後において、溶媒を蒸発させて粒子を回収したところ、得られた粒子の平均収率は0.75mg/hであった。
【0050】
(比較例2)
フィルター19の孔径を5μmとした以外は実施例1と同様にして液相レーザーアブレーション装置を製造し、液相レーザーアブレーション処理を施した。また、このようにして液相中でレーザーアブレーションを60分間行った後において、処理容器13内に保持されている溶媒14を用いて、溶媒14中に存在する粒子に起因する波長532nmの光の吸光度を測定した。結果を図2に示す。また、レーザーアブレーションを60分間行った後において、フィルター19を回収し、フィルターを自然乾燥させて、フィルターにより回収された粒子の収率を測定したところ、平均収率は1.2mg/hであった。
【0051】
図2に示す結果からも明らかなように、本発明の液相レーザーアブレーション装置を用いた場合(実施例1〜4)においては、レーザーアブレーションを60分間行った後における溶媒の吸光度が十分に低く、溶媒中に存在する粒子に起因するレーザー光の吸収がほとんどなく、溶媒中にレーザー光を吸収するようなサイズの粒子の濃度が十分に低いことが確認された。また、本発明の液相レーザーアブレーション装置を用いた場合(実施例1〜4)においては、粒子が十分に高い収率で得られている。このように、本発明の液相レーザーアブレーション装置を用いた場合(実施例1〜4)においては、溶媒中に存在する粒子に起因してレーザー光の吸収や散乱が起こったり、溶媒中に存在する粒子が再アブレートされることが十分に抑制され、長期間に亘ってエネルギーの減衰を防止しながらレーザー光をターゲットに照射でき、粒子を連続的且つ安定的に製造できることが分かった。
【0052】
これに対して、フィルターを用いなかった場合(比較例1)においては、レーザー光の照射開始から10分で溶媒の吸光度の値が高くなってしまうことが確認された。また、フィルターを用いなかった場合(比較例1)においては、粒子の収率が0.75mg/hとなっており、非常に低い収率であった。このような結果から、フィルターを用いなかった場合(比較例1)においては、わずか10分間で溶媒の吸光度の値が高くなり、レーザーアブレーション処理を連続的に施すと溶媒中に存在する粒子によってレーザー光が吸収、散乱等されて、アブレーション効率がすぐに低下してしまうことが分かる。また、孔径が5μmのフィルターを用いた場合(比較例2)においては、レーザーアブレーションを60分間行った後の溶媒の吸光度は高くなっていた。また、孔径が5μmのフィルターを用いた場合(比較例2)には、収率も低かった。このような結果から、フィルターを用いても、その孔径が5μmでは、長期間に亘ってエネルギーの減衰を防止しながらレーザー光をターゲットに照射することができないことが分かった。
【0053】
なお、フィルター19として、孔径が10nmのフィルターを用いてレーザーアブレーションを施そうとしたところ、この場合には、すぐに目詰まりを起こし、これにより溶媒が十分に循環しなくなっていた。
【産業上の利用可能性】
【0054】
以上説明したように、本発明によれば、ターゲット材料の種類によらず、液相中に形成された粒子を効率よく回収しながら液相中で連続的にレーザーアブレーション処理を施すことができ、前記粒子を連続的に安定して製造でき、液相レーザーアブレーション処理による粒子の製造効率を十分に高度なものとすることが可能な液相レーザーアブレーション装置、並びにそれを用いた液相レーザーアブレーション方法を提供することが可能となる。従って、本発明の液相レーザーアブレーション装置及び液相レーザーアブレーション方法は、電子素子、光素子、記録媒体、電池、触媒等に用いるナノメートルサイズの微粒子を製造するための装置及び方法として特に有用である。
【符号の説明】
【0055】
10…レーザー発振器、11…回転ミラー、12…集光レンズ、13…処理容器、14…溶媒、15…ターゲット、16…流出管、17…流入管、18…ポンプ、19…フィルター。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒中に保持されているターゲットに対してレーザー光を照射して液相中でレーザーアブレーションを行うために用いる液相レーザーアブレーション装置であって、
レーザー光を発生させるためのレーザー発振器と、
前記レーザー光を導入するための窓を備え且つ前記溶媒を保持するための処理容器と、
前記処理容器内に配置されるターゲットと、
前記処理容器から前記溶媒を流出させるための流出管と、
前記処理容器に前記溶媒を流入させるための流入管と、
前記流出管及び前記流入管に溶媒を流通させるためのポンプと、
前記流出管内の溶媒の流路と前記流入管内の溶媒の流路と前記ポンプ内の溶媒の流路とからなる循環流路中に配置され且つ前記循環流路中に流通する前記溶媒の中から前記レーザーアブレーションにより形成された粒子を回収するための15〜1000nmの孔径を有するフィルターと、
を備えることを特徴とする液相レーザーアブレーション装置。
【請求項2】
前記フィルターの孔径が25〜1000nmであることを特徴とする請求項1に記載の液相レーザーアブレーション装置。
【請求項3】
前記フィルターの孔径が25〜100nmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の液相レーザーアブレーション装置。
【請求項4】
レーザー光を発生させるためのレーザー発振器と、前記レーザー光を導入するための窓を備え且つ溶媒を保持するための処理容器と、前記処理容器内に保持されている溶媒と、前記処理容器内に配置されて前記溶媒中に保持されているターゲットと、前記処理容器から前記溶媒を流出させるための流出管と、前記処理容器に前記溶媒を流入させるための流入管と、前記流出管及び前記流入管に溶媒を流通させるためのポンプと、前記流出管内の溶媒の流路と前記流入管内の溶媒の流路と前記ポンプ内の溶媒の流路とからなる循環流路中に配置され且つ前記循環流路中に流通する前記溶媒の中からレーザーアブレーションにより形成された粒子を回収するための15〜1000nmの孔径を有するフィルターとを備える液相レーザーアブレーション装置を用い、
前記溶媒中に保持されている前記ターゲットに対してレーザー光を照射し、前記溶媒中に粒子を形成し、前記循環流路に前記粒子を含有する溶媒を循環させて、前記フィルターにより前記粒子を回収しながら液相中でレーザーアブレーションを行うことを特徴とする液相レーザーアブレーション方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−115750(P2011−115750A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−277407(P2009−277407)
【出願日】平成21年12月7日(2009.12.7)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】