説明

淡水化装置および淡水の製造方法

【課題】エネルギー効率が高く、コストが低く、装置を小型化することができる淡水化装置および淡水製造方法を提供する。
【解決手段】原水を蒸発させた後、凝縮して淡水を生成する淡水化装置であって、原水を貯留する原水タンクと、原水タンク内に設置され、原水を気化させて水蒸気を生成する気化器と、水蒸気を凝縮させて淡水を得る凝縮部と、原水タンク内から水蒸気を吸引し、圧縮し、温度が高められた水蒸気を凝縮部へ送出する水蒸気ポンプが、原水タンクと凝縮部とを接続する接続部に設けられた水蒸気送出部と、水蒸気ポンプから送出された水蒸気および/または淡水が備える熱エネルギーを原水に付与する熱交換器とを有し、熱交換器が原水の気化を促進する役割を果たすことにより、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、淡水化装置および淡水の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
海水を淡水化する方法として多段フラッシュ法および逆浸透圧法が知られている。
多段フラッシュ法は海水に熱を加えて生成した水蒸気を凝縮器によって液化することで淡水(蒸留水)を得る方法である。多段フラッシュ法では、通常、エネルギー効率を高めるために減圧室を多段化する。したがって、装置が大規模になる。
逆浸透圧法は、海水に圧力を加えて逆浸透膜(RO膜、Reverse Osmosis Membrane)を通過させ、海水の塩分を分離して淡水を得る方法である。逆浸透膜は、水分子は通すが海水中に含まれる種々のイオンや塩類等の不純物は通さない性質の膜であり、膜が備える孔の大きさは2ナノメートル以下程度である。逆浸透圧法は多段フラッシュ法と比較するとエネルギー効率に優れているが、RO膜が海水中の微生物、析出物、不純物等で目詰まりしないように前処理する必要がある。また、RO膜自体の寿命が比較的短い。
また、海水等を淡水化する方法や淡水化装置として、具体的には例えば特許文献1〜4に記載の淡水化装置等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第1997/048646号パンフレット
【特許文献2】特開2001−070929号公報
【特許文献3】特開2009−532655号公報
【特許文献4】特開2009−072734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の多段フラッシュ法はエネルギー効率が非常に悪く、多量のエネルギーを投入する必要があった。また、減圧室を多段化するために、装置自体の大型化が避けられなかった。
また、逆浸透圧法では、目詰まりを避けるための前処理が必要であり、またRO膜自体の寿命が比較的短いため、コストが高くなる点が問題であった。
また、特許文献1,2に記載の省エネルギーのために太陽光を用いる淡水化装置については、運転時間、エネルギー効率およびコスト等に改善の余地があった。また、特許文献3はヒートポンプの一例である。さらに、特許文献4には気流循環による海水の淡水化装置が開示されている。しかしながら、特許文献4に記載の淡水化装置は、海水、または水蒸気を含む気流を加熱するための加熱源が必要である。また、高濃度に濃縮された海水をノズル等から噴霧するため、ノズル等に塩が析出して詰まってしまい、メンテナンスに手間がかかるという問題がある。
【0005】
本発明は上記の課題を解決することを課題とする。
すなわち本発明は、エネルギー効率が高く、コストが低く、装置を小型化することができる淡水化装置および淡水製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記の課題を解決することを目的として鋭意検討し、本発明を完成させた。
本発明は、原水を蒸発させた後、凝縮して淡水を生成する淡水化装置であって、前記原水を貯留する原水タンクと、前記原水タンク内に設置され、前記原水を気化させて水蒸気を生成する気化器と、前記水蒸気を凝縮させて淡水を得る凝縮部と、前記原水タンク内から前記水蒸気を吸引し、圧縮し、温度が高められた水蒸気を前記凝縮部へ送出する水蒸気ポンプが、前記原水タンクと前記凝縮部とを接続する接続部に設けられた水蒸気送出部と、前記水蒸気ポンプから送出された水蒸気および/または前記淡水が備える熱エネルギーを前記原水に付与する熱交換器と、を有し、前記熱交換器が前記原水の気化を促進する役割を果たす淡水化装置を提供する。
このような淡水化装置を、以下では「本発明の装置」ともいう。
【0007】
また、本発明の装置は、前記熱交換器が前記凝縮部の内部に設置されており、さらに、前記原水タンク内の前記原水を前記熱交換器へ送る原水送出手段と、前記熱交換器を介して熱エネルギーが付与された後の原水を、前記気化器へ送る原水リターン手段と、前記原水タンク内の前記原水を前記原水送出手段によって前記熱交換器へ送り、さらに前記原水リターン手段によって前記気化器へ送る原水循環手段と、を有するものであることが好ましい。
【0008】
また、本発明の装置は、前記熱交換器が前記原水タンクの内部に設置されており、前記水蒸気ポンプから送出された水蒸気を、前記凝縮部から前記熱交換器内へ移動させることができる構造、または前記熱交換器内を経由して前記凝縮部へ移動させることができる構造を備えており、さらに、前記原水タンク内の前記原水を前記気化器へ送るための原水送出手段および原水循環手段を有するものであることが好ましい。
【0009】
さらに、本発明の装置は、前記水蒸気送出部における水蒸気ポンプよりも後段に、または前記凝縮部に、前記原水タンクの内部を減圧するための排気ポンプを、さらに有するものであることが好ましい。
【0010】
また、本発明は、原水を蒸発させた後、凝縮させることで淡水を得る淡水の製造方法であって、前記原水を気化させて水蒸気を得る工程と、前記水蒸気を吸引し、圧縮し、温度が高められた水蒸気を得る工程と、前記温度が高められた水蒸気および/または前記淡水が備える熱エネルギーを前記原水に付与する工程と、前記温度が高められた水蒸気を凝縮させて淡水を得る工程と、を備え、前記原水へ前記熱エネルギーを付与することで前記原水の気化を促進する、淡水の製造方法を提供する。
このような淡水の製造方法を、以下では「本発明の製造方法」ともいう。
【0011】
本発明の製造方法は、本発明の装置を用いて行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、エネルギー効率が高く、コストが低く、装置を小型化することができる淡水化装置および淡水製造方法を提供することができる。本発明の淡水化装置は小型化することもできるが、逆に大型化することもでき、小型の本発明の淡水化装置を複数台並列に設置して得られる淡水の量を増大させることもできる。また、常圧で動作させれば煮沸消毒された飲料水を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の装置の好適態様(態様1)を説明するための概略図である。
【図2】本発明の装置の別の好適態様(態様2)を説明するための概略図である。
【図3】本発明の装置の別の好適態様(態様3)を説明するための概略図である。
【図4】本発明の装置の別の好適態様(態様4)を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の装置について、好適態様である、態様1、態様2、態様3、および態様4を挙げ、各々について図を用いて説明する。ただし、本発明の装置は、態様1、態様2、態様3、および態様4に限定されるものではない。
【0015】
<態様1>
図1に示す態様1において、本発明の装置10は、原水タンク12、水蒸気送出部14、凝縮部16、熱交換器18、原水循環ポンプ26、原水循環パイプ28,30、原水リターンパイプ32、原水スプレー34、および排気ポンプ36を有している。また、水蒸気送出部14は、水蒸気ポンプ20、水蒸気入力パイプ22および水蒸気出力パイプ24から構成される。
【0016】
[原水タンク]
原水タンク12は、内側の底部に原水3を溜める機能を備え、内側の上部に原水3が蒸発してなる水蒸気5を溜める機能を備える。また、原水タンク12は、内側の上部に、気化器としての原水スプレー34を有する。原水スプレー34は、シャワーまたは超音波等によって原水3’を細かい水滴の状態(例えばミスト状)にして、原水3’が水蒸気5になり易くする役割を果たす。
なお、本発明において「原水」とは、海水やそのままでは飲用に適さない湖沼等の水等を意味するものとする。
【0017】
また、原水タンク12には、原水3を注入する原水注入口92があり、ここから原水3を注入することができる。また、原水タンク12には原水取出口94があり、ここから濃縮された原水3を排出することができる。これは、例えば海水のようにある程度の塩分濃度を有する原水を蒸発させ続けた場合、徐々に塩分濃度が高くなり、淡水化効率が低下するとともに塩分や不純物等が析出するので、これを防ぐためにフレッシュな原水を原水タンクに注入しつつ、塩分濃度等が高くなった原水を取り出すためである。
後述する態様2〜4における本発明の装置も、同様の理由で同様のものを備える。
【0018】
[水蒸気送出部]
水蒸気送出部14の一部を構成する水蒸気入力パイプ22は、原水タンク12の内側の上部空間と水蒸気ポンプ20とを繋いでおり、また、水蒸気出力パイプ24は、水蒸気ポンプ20と、後述する凝縮部16の内側の上部空間とを繋いでいる。つまり、水蒸気入力パイプ22および水蒸気出力パイプ24は、原水タンク12と凝縮部16とを接続する接続部を構成する。そして、水蒸気ポンプ20の作用によって、原水タンク12の内側の上部空間に存在する水蒸気5を吸引して、凝縮部16の内側の上部空間へ送出することができる。ここで、水蒸気入力パイプ22の内部にはフィルタ40が設置され、水蒸気5に含まれる不純物や異物、塩等を除去することができる。
なお、水蒸気ポンプ20には、電力モータ、エンジン、風力、水力、人力等の動力を用いることができる。後述する態様2〜4においても同様である。
【0019】
[凝縮部]
凝縮部16はタンク状であり、凝縮部16の内側の上部空間に、水蒸気送出部14から送出され温度が高められた水蒸気5’を取り入れることができる。水蒸気5’は、後述する熱交換器18と接触して冷却されて、少なくともその一部が淡水7となる。淡水7は凝縮部16の内部の底に貯まる。
【0020】
また、凝縮部16には、その内側の上部空間を減圧することができる排気ポンプ36が排気パイプ35を介して接続されている。排気ポンプ36は凝縮部16の内側の上部空間内の気体を排気することで圧力を低下させ、その結果、原水タンク12の内側の上部空間における圧力を低下させることができる。そして、排気ポンプ36の作用によって、原水タンク12の内側の上部空間の圧力、凝縮部16の内側の上部空間の圧力、水蒸気入力パイプ22の内部の圧力、および水蒸気出力パイプ24の内部の圧力を飽和水蒸気圧として、水蒸気ポンプ20の効率を高めることができる。さらに、水蒸気5および5’に不要成分が含まれる場合でも、排気ポンプ36の作用によって、これを系外へ排出し、除去することができる。
【0021】
なお、図1に示す態様1における本発明の装置10は、排気ポンプ36を、凝縮部16の上部空間に繋がる排気パイプ35を介して有しており、これによって原水タンク12の内部の上部空間の圧力を低下させるものであるが、本発明において排気ポンプ36の位置は、態様1のように凝縮部16に繋がっているか、または水蒸気送出部14における水蒸気ポンプ20よりも後段に繋がっていることが好ましい。このような位置に原水タンク12の内部を減圧するための排気ポンプ36を有する場合、排気ポンプ36が原水タンク12または水蒸気入力パイプ22に接続されている場合と比較すると、水蒸気ポンプ20によって加圧されている分、不純物ガスの濃度も高く、排気ポンプ36の負荷が少なくなるので、省電力化が可能となり、場合によってはポンプ容量を小さくすることができる点で優れている。
後述する態様2〜4においても、同様の理由で、水蒸気送出部における水蒸気ポンプよりも後段に、または凝縮部に、原水タンクの内部を減圧するための排気ポンプを有することが好ましい。
【0022】
[熱交換器]
熱交換器18は凝縮部16の内部に設置されており、凝縮部16の内部に存する水蒸気5’および/または淡水7が備える熱エネルギーが原水3に付与される。原水3は水蒸気5’および/または淡水7から熱エネルギーを得て温度が上昇するので、原水3の蒸発が促進される。
熱交換器18は、原水循環パイプ28、30と接続していて、原水タンク12内の原水3は、原水循環ポンプ26の作用によって原水循環パイプ28、30を通じて熱交換器18へ送り込まれる。また、熱交換器18は、原水リターンパイプ32と接続していて、熱エネルギーが与えられた後の原水3’は、原水リターンパイプ32を通じて原水スプレー34へ送られる。
このような構成によって、原水タンク12内の原水3は原水循環パイプ28,30を通って熱交換器18に到達し、熱エネルギーを得ることで高温化し(原水3’)、その後、原水リターンパイプ32を通って原水スプレー34から放出される。
【0023】
熱交換器18の大きさや材質等は特に限定されず、水蒸気5’および/または淡水7と原水3との熱交換をできるだけ効率よく行うことができるものであることが好ましい。例えば数m2程度の表面積を有するものであることが好ましい。またステンレス、チタン、銅、銅合金(黄銅、白銅等)、ニッケル、モネル、アルミニウム、およびアルミニウム合金等の伝熱効率が高く、耐食性を有する材質からなる熱交換器であることが好ましい。後述する態様2〜4における熱交換器においても同様である。
【0024】
次に、態様1の動作を、図1を参照しながら説明する。
初めに、原水タンク12内の原水3は、原水循環パイプ28、30を通って熱交換器18へ送り込まれる。そして、熱交換器18において熱エネルギーが付与され、温度が高められた後、原水リターンパイプ32を通って原水スプレー34から排出され、気化されて水蒸気5が発生する。ここで、排気ポンプ36の作用によって、原水タンク12の内側の上部空間は圧力が低くなっているので、原水3’は蒸気化しやすい。例えば原水タンク12の内側の上部空間を20〜30hPaとすることができる。
次に、水蒸気ポンプ20の作用によって水蒸気5が吸引され、圧縮されて、温度が高められた水蒸気5’となる。例えば、原水タンク12の内側の上部に存在する水蒸気5が20℃、23hPaである場合、水蒸気ポンプ20を通過させて圧縮することで、30℃、42hPaの水蒸気5’とすることができる。
水蒸気5は、水蒸気入力パイプ22および水蒸気出力パイプ24を通って、凝縮部16の内部の上部空間に達する。そして、少なくともその一部が淡水7となる。
温度が高められた水蒸気5’および/または淡水7は、保有する熱エネルギーを熱交換器18を介して原水3に付与する。熱エネルギーを原水3へ付与した水蒸気5’は淡水7となる。
そして、淡水7は、タンク状の凝縮部16の内部の底に貯まる。
【0025】
本発明の装置10の起動は、次の(i)〜(ix)に示すステップで行うことができる。
後述する態様2〜4でも同様に起動することができる。
(i)排水バルブ96、94を開き淡水と原水を排出する。
(ii)排水バルブ96、94を閉じる。
(iii)給水バルブ92を開き、原水タンクに原水を入れる。
(iv)給水バルブ92を閉める。
(v)排気ポンプ36を動かし本発明の装置10の内部を減圧する。
(vi)水蒸気ポンプ20、原水循環ポンプ26を動作させる。
(vii)淡水タンクに淡水が所定量蓄えられたら、排出バルブ96を開き淡水を排出する。淡水を排出したら排出バルブ96は閉じる。
(viii)原水タンク内の原水が減ってきたら、給水バルブ92を開き原水を補給する。原水を補給した後は、給水バルブ92を閉じる。
(ix)原水タンク内の濃度(塩分)が高くなってきたら排水バルブ94を開き原水を排出する。原水を排出した後は、排水バルブ94を閉じる。
その後、(vii)〜(ix)を適宜繰り返す。
なお、排出バルブ94、96の下方には、図には明記されていない排出ポンプにより吸引されている。
また、上記(i)〜(ix)の動作は、図示しない制御装置により制御され、オペレータが起動を指示した後は、自動的にそれぞれのステップが実行されるようにするのが好ましい。
【0026】
<態様2>
図2に示す態様2において、本発明の装置60は、原水タンク62、水蒸気送出部64、凝縮部66、熱交換器68、原水循環ポンプ76、原水循環パイプ78、原水スプレー84および排気ポンプ86を有している。また、水蒸気送出部64は、水蒸気ポンプ70、水蒸気入力パイプ72および水蒸気出力パイプ74から構成される。
【0027】
[原水タンク]
原水タンク62は、内側の底部に原水53を溜める機能を備え、内側の上部に原水53が蒸発してなる水蒸気55を溜める機能を備える。また、原水タンク62は、内側の上部に気化器としての原水スプレー84を有する。また、原水スプレー84は原水循環パイプ78を介して、原水タンク62の底部と繋がっており、原水循環ポンプ76の作用によって、原水タンク62の内側の底部に貯まっている原水53を汲み上げて、原水スプレー84から原水53をシャワー状やミスト状等にして放出することができる。
【0028】
[熱交換器]
熱交換器68は、原水タンク62の内部に設置されている。また、熱交換器68は後述する凝縮部66と繋がっていて、凝縮部66内の水蒸気55’が熱交換器68内へ移動できるように構成されている。
熱交換器68は、凝縮部66内から移動してきた水蒸気55’が備える熱エネルギーを原水53に付与する。また、熱交換器68は、原水スプレー84から熱交換器68の上面へスプレーされた原水53へ熱エネルギーを供給する。その結果、原水53は熱交換器68の表面において熱エネルギーを得ることで温度が上昇する。温度が上昇した原水53は水蒸気となり易い。また、後述する排気ポンプ86の作用によって、原水タンク62の内側の上部空間は圧力が低くなっているので、原水53は蒸気化しやすい。
【0029】
[凝縮部]
凝縮部66は管状のものであり、その内部に、水蒸気送出部64から送出され温度が高められた水蒸気55’を取り入れることができる。取り入れた水蒸気55’は熱交換器68へ達し、ここで原水53へ熱エネルギーを供給し、水蒸気55’は冷却され凝縮されて淡水57となる。熱交換器68内で生成された淡水57は、熱交換器68と凝縮部66とを繋ぐ経路内を流れて、凝縮部66の底部に取り付けられた淡水タンクに貯まる。図2に示すように、淡水タンクは熱交換器68に対して下に配置されており、かつ熱交換器68と凝縮部66とを繋ぐ経路が熱交換器68から淡水タンクへ向かって徐々に低位になるように斜めの勾配をもって配置されているので、熱交換器68の付近で生じた淡水57は、重力の作用によって淡水タンクへ流れていく。
淡水タンクの底部には淡水取出口96があり、ここから淡水57を排出することができる。
【0030】
また、凝縮部66には、その内側の上部空間を減圧することができる排気ポンプ86が排気パイプ85を介して接続されている。排気ポンプ86は凝縮部66の内側の上部空間内の気体を排気することで圧力を低下させ、その結果、原水タンク62の内側の上部空間における圧力を低下させることができる。つまり、排気ポンプ86の作用によって、原水タンク62の内側の上部空間の圧力、凝縮部66の内側の上部空間の圧力、水蒸気入力パイプ72の内部の圧力、および水蒸気出力パイプ74の内部の圧力を飽和水蒸気圧として、水蒸気ポンプ70の効率を高めることができる。さらに、水蒸気55および55’に不要成分が含まれる場合でも、排気ポンプ86の作用によって、これを系外へ排出し、除去することができる。
【0031】
[水蒸気送出部]
水蒸気送出部64の一部を構成する水蒸気入力パイプ72は、原水タンク62の内側の上部空間と水蒸気ポンプ70とを繋いでおり、また、水蒸気出力パイプ74は、水蒸気ポンプ70と、後述する凝縮部66の内側の上部空間とを繋いでいる。つまり、水蒸気入力パイプ72および水蒸気出力パイプ74は、原水タンク62と凝縮部66とを接続する接続部を構成する。そして、水蒸気ポンプ70の作用によって、原水タンク62の内側の上部空間に存在する水蒸気55を吸引して、凝縮部66の内側の上部空間へ送出することができる。ここで、水蒸気入力パイプ72の内部にフィルタ90が設置されていて、これによって水蒸気55に含まれる不純物や異物、塩等を除去することができる。
【0032】
次に、態様2の動作を、図2を参照しながら説明する。
初めに、原水タンク62内の原水53は、原水循環パイプ78を通って原水スプレー84に達し、ここから熱交換器68の上面へ向かって排出される。そして、熱交換器68の上面において気化され、水蒸気55が発生する。ここで、熱交換器68は原水タンク62の底に溜まっている原水53と接しているので、底にたまっている原水53もある程度温度が高まっており、気化しやすくなっている。また、排気ポンプ86の作用によって、原水タンク62の内側の上部空間は圧力が低くなっているので、原水53は蒸気化しやすくなっている。例えば原水タンク62の内側の上部空間を20〜30hPaとすることができる。
【0033】
次に、水蒸気ポンプ70の作用によって水蒸気55が吸引され、圧縮されて、温度が高められた水蒸気55’となる。例えば、原水タンク62の内側の上部に存在する水蒸気55が20℃、23hPaである場合、水蒸気ポンプ70を通過させて圧縮することで、30℃、42hPaの水蒸気55’とすることができる。
水蒸気55は、水蒸気入力パイプ72および水蒸気出力パイプ74を通って、凝縮部66の内部の上部空間に達する。そして、少なくともその一部が淡水57となる。
温度が高められた水蒸気55’および/または淡水57は、保有する熱エネルギーを、熱交換器68を介して原水53に付与する。熱エネルギーを原水53に付与した水蒸気55’は淡水57となる。
そして、淡水57は、凝縮部66の内部の底に貯まる。
【0034】
<態様3>
図3に示す態様3は、前述の態様2と類似する態様である。図3では、図2に示した態様2と同じ構成を意味するものには、同じ記号を付している。
態様3については、態様2と異なるところのみを説明する。
【0035】
態様2では、水蒸気55’は熱交換器68と凝縮部66とを繋ぐ経路中を移動し、下方から上方の熱交換器68の内部へ達するが、これに対して態様3では、水蒸気55’は上方から熱交換器68の内部へ達し、下方へ通り抜けるように構成されている。
その他の構成および動作については、態様2と同様である。
【0036】
<態様4>
図4に示す態様4において、本発明の装置160は、原水タンク162、水蒸気送出部164、凝縮部166、熱交換器168、原水循環ポンプ176、原水循環パイプ178、原水スプレー184および排気ポンプ186を有している。また、水蒸気送出部164は、水蒸気ポンプ170および接続部173から構成される。
【0037】
[原水タンク]
原水タンク162は、内側の底部に原水153を溜める機能を備え、内側の上部に原水153が蒸発してなる水蒸気155を溜める機能を備える。また、原水タンク162は、内側の上部に気化器としての原水スプレー184を有する。また、原水スプレー184は原水循環パイプ178と繋がっていて、原水循環ポンプ176の作用によって、原水タンク162の内側の底部に貯まっている原水153を汲み上げて、原水スプレー184から原水153をシャワー状やミスト状等にして放出することができる。
【0038】
[熱交換器および凝縮部]
熱交換器168は、原水タンク162の内部に設置されている。
熱交換器168は、図4に示すように、ノコギリ歯状であって直線が何度も折れ曲がっている形態、またはパイプを螺旋状に巻いた形態となっている。このような形態であると水蒸気155および/または原水153との接触面積が増大し、熱交換器として熱交換率が高まるので好ましい。また、図4に示すように、さらに放熱板169を有すると、熱交換率がより高まるのでより好ましい。
【0039】
熱交換器168は、管状であり、その内部に水蒸気送出部164から送出され温度が高められた水蒸気155’を取り入れることができる。取り入れられた水蒸気155’は、水蒸気155および/または原水153へ熱エネルギーを供給し、水蒸気155’は冷却されることで凝縮されて淡水157となる。熱交換器168内で生成された淡水157は、凝縮部166の一部である淡水タンクに貯まる。図4に示すように、淡水タンクは凝縮部166の下部に配置されているので、淡水157は重力の作用によって淡水タンクへ流れていく。
【0040】
また、凝縮部166には、その内側の上部空間を減圧することができる排気ポンプ186が排気パイプ185を介して接続されている。排気ポンプ186は凝縮部166の内側の上部空間内の気体を排気することで圧力を低下させ、その結果、原水タンク162の内側の上部空間における圧力を低下させることができる。つまり、排気ポンプ186の作用によって、原水タンク162の内側の上部空間の圧力、凝縮部166の内部、熱交換器168の内部、および接続部173の内部の圧力を飽和水蒸気圧として、水蒸気ポンプ170の効率を高めることができる。さらに、水蒸気155および155’に不要成分が含まれる場合でも、排気ポンプ186の作用によって、これを系外へ排出し、除去することができる。
【0041】
[水蒸気送出部]
水蒸気送出部164の一部を構成する接続部173は、原水タンク162の内側の上部空間と熱交換器168の内部とを繋いでいる。そして、水蒸気ポンプ170の作用によって、原水タンク162の内側の上部空間に存在する水蒸気155を吸引して、熱交換器168の内部へ送出することができる。ここで、接続部173の入側(水蒸気ポンプ170の前段)にフィルタ190が設置されていて、これによって水蒸気155に含まれる不純物や異物、塩等を除去することができる。
また、態様4において水蒸気ポンプ170は遠心ファンであることが好ましい。
【0042】
次に、態様4の動作を、図4を参照しながら説明する。
初めに、原水タンク162内の原水153は原水循環パイプ178を通って原水スプレー184に達し、ここから排出される。そして、排出された原水153は、熱交換器168の表面等において気化され、水蒸気155となる。ここで、熱交換器168は原水タンク162の底に溜まっている原水153と接しているので、底にたまっている原水153もある程度温度が高まっており、気化しやすくなっている。また、排気ポンプ186の作用によって、原水タンク162の内側の上部空間は圧力が低くなっているので、原水153は蒸気化しやすい。例えば原水タンク162の内側の上部空間を20〜30hPaとすることができる。
【0043】
次に、水蒸気ポンプ170の作用によって水蒸気155が吸引され、圧縮されて、温度が高められた水蒸気155’となる。例えば、原水タンク162の内側の上部に存在する水蒸気155が20℃、23hPaである場合、水蒸気ポンプ170を通過させて圧縮することで、30℃、42hPaの水蒸気155’とすることができる。
水蒸気155’は熱交換器168の内部を通過して、少なくともその一部が淡水157となる。
温度が高められた水蒸気155’および/または淡水157は、保有する熱エネルギーを、熱交換器168を通過する過程で原水153に付与する。熱エネルギーを原水153に付与した水蒸気155’は淡水157となる。
そして、淡水157は、凝縮部166下部の淡水タンクに貯まる。
【0044】
なお、態様1〜態様4における原水タンク12、原水タンク62および原水タンク162において、原水を気化させる熱は、凝縮部16、凝縮部66および凝縮部166(熱交換器168)からの熱だけでなく、外気、湯水、熱水、太陽熱、燃焼等他の外部からの熱源を利用することもできる。
また、態様1〜態様4における本発明の装置10、本発明の装置60および本発明の装置160の全体を断熱材等で覆い、熱を外部へ逃がさないようにすることが好ましい。少なくとも水蒸気出力パイプ24および74ならびに接続部173を断熱材等で覆うことが好ましい。
【0045】
態様1〜4においては、排気ポンプ36、86および186の作用によって、原水タンク12、62および162の内側の上部空間内の圧力を低下させているが、本発明の装置においては、排気ポンプを有さないものであってもよい。この場合、原水を蒸発させるために原水が100℃以上となるように加熱する必要があるが、得られる淡水は煮沸消毒されたものであるので、飲料水として利用する上で好ましい。
【0046】
このような態様1〜態様4を好適態様とする本発明の装置は、エネルギー効率が高く、コストが低く、装置を小型化することができる淡水化装置である。また、本発明の装置は上記のような構成であるので小型化することができるが、逆に大型化することもできる。さらに、小型の本発明の装置を複数台並列に設置して、得られる淡水の量を増大させることもできる。
【実施例】
【0047】
本発明の実施例について説明する。本発明は以下に説明する実施例に限定されない。
【0048】
図1に示した態様1の本発明の装置を用いて淡水を製造した。
具体的には、次のような性状、仕様等のものを用いた。
・原水タンク :タンク状のものであり、容量が10m3程度のもの。
・凝縮部(タンク) :タンク状のものであり、容量が1m3以上のもの。
・原水 :20℃の海水、1m3
・水蒸気ポンプ :排気容量 1000m3/分
:タービン電気容量 40kW以上のもの。
・原水循環ポンプ :循環量 1800L/分
・熱交換器 :熱交換容量 630kWh
:熱交換銅板厚 1mm
:熱交換銅板表面積 3m2以上のもの。
このような態様1の本発明の装置は、1時間で1m3の原水を処理できる性能を備えるものである。
【0049】
上記のような性状、仕様等を備える本発明の装置を用いて原水を処理したところ、熱交換器の出側における原水の温度(原水リターンパイプ内における原水3’の温度)は25℃となった。また、原水スプレーによって発生し、原水タンクの内側の上部空間内に貯留した水蒸気の温度は20℃、圧力は23hPaとなった。また、凝集部の内部の上部空間に存する水蒸気は温度が30℃、圧力が42hPaとなった。
そして、このようにして1m3の原水を1時間処理して、30℃の淡水を得ることができた。
【0050】
以上、本発明の淡水化装置および淡水の製造方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行ってもよい。
【符号の説明】
【0051】
3,3’,53,153 原水
5,5’,55,55’,155,155’ 水蒸気
7,57,157 淡水
10,60,160 本発明の装置
12,62,162 原水タンク
14,64,164 水蒸気送出部
16,66,166 凝縮部
18,68,168 熱交換器
20,70,170 水蒸気ポンプ
22,72 水蒸気入力パイプ
24,74 水蒸気出力パイプ
26,76,176 原水循環ポンプ
28,30,78,178 原水循環パイプ
32 原水リターンパイプ
34,84,184 原水スプレー
35,85,185 排気パイプ
36,86,186 排気ポンプ
40,90,190 フィルタ
92 原水注入口
94 原水取出口
96 淡水取出口
173 接続部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水を蒸発させた後、凝縮して淡水を生成する淡水化装置であって、
前記原水を貯留する原水タンクと、
前記原水タンク内に設置され、前記原水を気化させて水蒸気を生成する気化器と、
前記水蒸気を凝縮させて淡水を得る凝縮部と、
前記原水タンク内から前記水蒸気を吸引し、圧縮し、温度が高められた水蒸気を前記凝縮部へ送出する水蒸気ポンプが、前記原水タンクと前記凝縮部とを接続する接続部に設けられた水蒸気送出部と、
前記水蒸気ポンプから送出された水蒸気および/または前記淡水が備える熱エネルギーを前記原水に付与する熱交換器と、
を有し、前記熱交換器が前記原水の気化を促進する役割を果たす淡水化装置。
【請求項2】
前記熱交換器が前記凝縮部の内部に設置されており、さらに、
前記原水タンク内の前記原水を前記熱交換器へ送る原水送出手段と、
前記熱交換器を介して熱エネルギーが付与された後の原水を、前記気化器へ送る原水リターン手段と、
前記原水タンク内の前記原水を前記原水送出手段によって前記熱交換器へ送り、さらに前記原水リターン手段によって前記気化器へ送る原水循環手段と、
を有する、請求項1に記載の淡水化装置。
【請求項3】
前記熱交換器が前記原水タンクの内部に設置されており、
前記水蒸気ポンプから送出された水蒸気を、前記凝縮部から前記熱交換器内へ移動させることができる構造、または前記熱交換器内を経由して前記凝縮部へ移動させることができる構造を備えており、
さらに、前記原水タンク内の前記原水を前記気化器へ送るための原水送出手段および原水循環手段を有する、請求項1に記載の淡水化装置。
【請求項4】
前記水蒸気送出部における水蒸気ポンプよりも後段に、または前記凝縮部に、前記原水タンクの内部を減圧するための排気ポンプを、さらに有する、請求項1〜3のいずれかに記載の淡水化装置。
【請求項5】
原水を蒸発させた後、凝縮させることで淡水を得る淡水の製造方法であって、
前記原水を気化させて水蒸気を得る工程と、
前記水蒸気を吸引し、圧縮し、温度が高められた水蒸気を得る工程と、
前記温度が高められた水蒸気および/または前記淡水が備える熱エネルギーを前記原水に付与する工程と、
前記温度が高められた水蒸気を凝縮させて淡水を得る工程と、
を備え、前記原水へ前記熱エネルギーを付与することで前記原水の気化を促進する、淡水の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の淡水化装置を用いて行う、請求項5に記載の淡水の製造方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−239956(P2012−239956A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−110457(P2011−110457)
【出願日】平成23年5月17日(2011.5.17)
【出願人】(390029012)株式会社エスイー (28)
【Fターム(参考)】