説明

深い渦電流の浸透を実現する渦電流探傷法および渦電流探傷プローブ

【課題】探傷面側に発生した傷であれば40mm程度の深さものに対してまで探傷信号より傷深さを推定することが可能であり、また厚肉材の探傷面と反対側の面に発生した傷の検出も可能である渦電流探傷法および渦電流探傷プローブを提供する。
【解決手段】作る交流磁場が同一周波数かつ逆向きの極性である励磁コイルを、検査面に対してコイルの軸心並行となるように複数個配置することにより、試験体表面で小さく、内部にて強度が最大となるような渦電流の分布を作り出し、当該部に検出コイルを配置する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】

【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁非破壊検査の一種である渦電流探傷法および渦電流探傷プローブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属などの導電性材料に外部より変動磁場を加えた場合、電磁誘導の法則によって、材料内部に渦電流と呼ばれる電流がこの変動磁場を打ち消す向きに誘導される。このような電磁誘導現象を利用した非破壊検査手法が渦電流探傷法である。材料に傷等が存在する場合、誘導された渦電流は傷を迂回するように流れることになるため、渦電流が作る磁場の様子は傷の有無によって変化することになる。渦電流探傷法においては、このように傷の存在によって渦電流の作る磁場が変化することを何らかの手段によって測定することにより、材料の健全性の評価を行う。
【0003】
渦電流探傷法の基本原理をより具体的に示した図を図3に示す。外部磁場変動30は通常励磁コイル31に数kHz〜数百kHz程度の交流電流を与えることにより実現され、これにより試験体32内部に渦電流33が誘導される。渦電流33によって発生した磁場を、励磁コイル31のインピーダンス変化、もしくは励磁コイル31の近傍に配置された検出コイル34に誘導される電圧として測定し、それらの値の変化から試験体の傷等を検知する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
誘導された渦電流の強度は、通常、探傷面で最大となり、試験体深さ方向にゆくに従って指数関数的に減衰する。試験体内部における深さ方向の渦電流強度分布の一例を示したものが図2(a)である。図中縦軸が探傷面での渦電流強度で規格化した渦電流強度を、横軸が探傷面からの試験体深さを表している。この例では15mm程度以上の深さの領域では渦電流が流れておらず、よって渦電流探傷信号より情報を得ることが出来るのは、探傷面より深さ10mm程度の深さの領域までである。また、このような渦電流強度の分布のために、探傷信号に含まれる情報は探傷面表層のものが支配的となる。
【0005】
そのため、渦電流探傷法は表面傷に対して特に高い検出性能を有する非破壊検査手法であるが、同時に、厚肉材の探傷面と反対側の面(裏面)に発生した傷の検出は困難であり、また、試験体の探傷面側に開口した傷であった場合でも、ある程度以上の深さのものに対しては信号の変化がなくなってしまい、結果として極薄肉材部以外に対しては、探傷信号から傷の形状を推定することができないという問題を有している。
【0006】
用いる渦電流探傷プローブおよび励磁周波数により多少の差はあるものの、基本的には試験体のどの箇所においても、このように深さ方向では誘導される渦電流強度が単調に減衰するということに変化はない。近年数多くの新しい渦電流探傷プローブが提唱されてはいるが、このように渦電流強度が探傷面から深さ方向に指数関数的に単調減少するという事実がある以上、上記問題の本質的な解決には至っていない。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑み創案されたものであり、探傷面表層で小さく試験体の内部で強度が最大となる、図2(b)に示すような渦電流の分布を実現することにより、従来と比べるとはるかに深い領域までの情報を探傷信号より得ることが出来、よって、厚肉材の裏面に発生した傷の検出を可能とし、また探傷面側に発生した傷に対しても従来よりもはるかに深いものに対してまで探傷信号より傷の形状を推定することが出来る渦電流探傷法および渦電流探傷プローブを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するための請求項1の発明は、4つの縦置き型、すなわちコイルの軸心が検査面に対して平行になるように配置された励磁コイルと、1つの検査面に対向する、すなわちコイルの軸心が検査面に対して垂直となるように配置された検出コイルから成る渦電流探傷プローブであり、検出コイルに対して左右対称な位置に励磁コイルが2つずつ配置され、検出コイルに近い側の2つの励磁コイルと遠い側の2つの励磁コイルの作る交流磁場が常に同一周波数かつ逆向きの極性を有していることにより、検出コイル直下における渦電流強度が、試験体表面で小さく、内部にて最大となるような分布を有することを特徴とする。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1に記載される渦電流探傷プローブの励磁コイルを結合もしくは分割することで励磁コイル数を見かけ上増加もしくは減少させている渦電流探傷プローブであり、請求項1に記載されるものと同様、検出コイル直下における渦電流強度が、試験体表面で小さく、内部にて最大となるような分布を有することを特徴とする。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1もしくは請求項2の発明において、被検査面に対向するのではなく、縦置きとした検出コイル用いることを特徴とする渦電流探傷プローブである。
【0011】
請求項4の発明は、請求項1もしくは請求項2もしくは請求項3の発明において、複数の検出コイルを配置し、差動検出方式もしくは検出コイルのアレー化を行ったことを特徴とする渦電流探傷プローブである。
【発明の効果】
【0012】
以上のような渦電流探傷プローブを用いることによって、探傷面表層で小さく試験体の内部で強度が最大となる渦電流分布を試験体内部に作り出すことが出来、よって、従来の渦電流探傷プローブと比べ、試験体のより深い箇所の情報を検査により得ることが出来るようになる。それにより、探傷面の裏側に発生した欠陥であれば、従来の渦電流探傷プローブでは検出することが出来なかった微小な段階で検出することが出来、また探傷面側に発生した欠陥であれば、従来の渦電流プローブを用いた場合よりもはるかに深い欠陥まで探傷信号より深さの定量的推定を行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、添付図面に基づいて、本発明の実施例について本発明をより詳細に説明する。なお、各図に共通の部分は同じ符号を使用している。
【0014】
図1は、本発明の実施形態に係る渦電流探傷プローブの構成の一例を示す。図1(a)が渦電流探傷プローブの正面図、図1(b)が側面図である。渦電流探傷プローブは、プローブ中央に配置された検出コイル10と、それに対して左右対称に配置された4つの励磁コイル11、12、13、14から成る。励磁コイルに外部より交流電流が印加されることで試験体内部に渦電流を誘導するための交流磁場を発生させるが、その際励磁コイル11と励磁コイル12の作り出す磁場の極性が常に逆向きであり、かつ励磁コイル11と励磁コイル13の作り出す磁場の極性も常に逆向きであり、かつさらに励磁コイル13と励磁コイル14の作り出す磁場の極性も常に逆向きとなるように交流電流が流される。このような磁場は例えば、励磁コイル11と14に対してある周波数の交流電流を同じ向きに流し、励磁コイル12と13に対しては、同じ周波数の交流電流を逆向きに流すことによって実現される。すなわち、図1(b)に示す側面図において、ある瞬間に励磁コイル11、14に反時計回り(図中15方向)の電流が流れている場合は励磁コイル12、13には時計回り(図中16方向)の電流が流れ、逆に励磁コイル11、14に時計回りの電流が流れている場合には励磁コイル12、13には反時計回りの電流を流せばよい。
【0015】
このとき、検出コイル10直下にて誘導される渦電流の試験体深さ方向の強度分布は、図2(b)のようになるということが数値解析により明らかとなった。試験体表面にて渦電流強度が小さく、それよりやや深い箇所にて渦電流強度が最大となっている事が確認できる。このとき、流れる電流の向きが異なる2つの励磁コイルが、検出コイルの左右に1対ずつ存在するという点が肝要であり、励磁コイルに流れる電流の向きが全て同じ方向であった場合、図2(a)に示すような従来型の渦電流探傷プローブのものと変わらない渦電流分布となってしまう。
【0016】
これは、極性が反対である磁場を用いることで、試験体表面での渦電流が相殺されるために起こる現象であり、その際試験体内部での渦電流は完全には相殺されないために、図2(b)にあるような渦電流分布が得られる。本発明の実施形態における渦電流探傷プローブにおいては、このように試験体表面で小さく、内部にて最大となるような渦電流分布を作り出し、当該部の直上に検出コイルを配置することを特徴としている。
【0017】
以上では検出コイルの左右に励磁コイルを2つずつ配置するものとして説明したが、励磁コイルを分割もしくは結合させた場合にも同様の渦電流分布を作り出すことは可能であることは自明である。
【0018】
以下続いて、請求項1にて述べた本発明の実施形態に基づいて実際に渦電流探傷プローブを製作し、その性能試験を行った結果について述べる。
【0019】
性能試験に用いた試験体を図4に示す。試験体40は非磁性材料であるSUS304製平板である。試験体には、放電加工によりノッチ41、42、43、44が加工されている。それぞれのノッチの深さは10mm、12mm、15mm、20mmであり、長さ、幅はいずれも40mm、0.5mmである。
【0020】
性能試験に用いた機器およびそれらの結線を図5に示す。探傷プローブの4つの励磁コイルには、マルチファンクションシンセサイザー51により、前述の条件を満たすように交流電流が供給され、これにより試験体40内に渦電流を誘導している。マルチファンクションシンセサイザーはまた、信号検出のためのロックインアンプ52に参照信号を提供しており、このロックインアンプによって、検出コイルに誘導される交流電圧信号は、直流電圧渦電流探傷信号に変換されている。渦電流探傷信号はAD変換機53を通った後、PC54によって収集されている。探傷プローブは自動XYZステージ55に取り付けられているが、ステージの位置制御もやはりPCによってステージコントローラー56を通して行われている。
【0021】
このような探傷システムを用い、各ノッチの直上を探傷プローブが走査したときに得られた探傷信号を図6に示す。図中61、62、63、64がそれぞれノッチ41、42、43、44からの信号であるが、それぞれが非常に明瞭に分離されていることが確認できる。
【0022】
それに対して、従来型の渦電流探傷プローブを用いて行った同様の探傷試験結果が図7である。図中71、72、73、74がそれぞれノッチ41、42、43、44からの信号である。同じ励磁周波数を用いたのにもかかわらず、各ノッチからの信号の分離特性はきわめて悪い。探傷信号からのノッチ深さ推定を試みた場合、従来型の渦電流探傷プローブに対する本発明は大きな優位性を有していることは十分に確認される結果となっている。
【0023】
探傷試験においては、ノッチの開口面より探傷試験を行ったが、この結果に基づけば、探傷面と反対側に発生した欠陥の検出に対しても、本発明は従来の手法に対して大きな有利性を有することは明らかである。
【実施形態の効果】
【0024】
このように、この実施形態によれば、従来の渦電流探傷プローブを用いた検査と比べてはるかに深い部位の情報を得ることが可能となる。これにより、高速、非接触といった優れた特徴を保ちつつ、渦電流探傷法を極薄肉材だけでなく、厚肉材に対して適用することが可能となる。
【他の実施形態】
【0025】
以上にて説明した図1の実施形態では、極性の異なる交流磁場を用いて試験体表面での渦電流密度を低下させ、内部で図2(b)のような渦電流分布を作り出すという点が肝要である。そのため、励磁コイルの数は必ずしも4つとは限る必要は無く、請求項2にあるように、各励磁コイルを分割させる、もしくは図8に示すように内部でコイルの巻き線方向が異なるように結線されている見かけ上は1つの励磁コイルを用いることなども考えられる。また、検出コイルについても、検査面に対向するものに限る必要は無く、図9に示されるような、請求項3に述べた検査面に対して垂直に配置した検出コイルを用いたものや、さらには複数の検出コイルを用いることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明請求項1の一実施形態である渦電流探傷プローブの構成を表す正面図(図1(a))および側面図(図1(b))である。
【図2】本発明によって実現される試験体内部での渦電流強度の深さ方向分布(図2(a))と、従来型の渦電流探傷プローブによる試験体内部での渦電流強度の深さ方向分布(図2(b))である。
【図3】渦電流探傷法の原理に関する説明図である。
【図4】本発明の有効性を示すために行った探傷試験にて用いた試験体の説明図である。
【図5】本発明の有効性を示すために行った探傷試験における使用機器およびそれらの結線の様子を示す説明図である。
【図6】本発明の有効性を示すために行った探傷試験の結果得られた、探傷信号とノッチ深さとの関係である。
【図7】従来型の渦電流探傷プローブを用いて行った探傷試験の結果得られた、探傷信号とノッチ深さとの関係である。
【図8】本発明請求項2に関し、励磁コイル数を減少させた場合の一実施形態である。図8(a)に示すように見かけ上は検出コイルの左右に1つずつ励磁コイルが配置されているが、それぞれの検出コイルの内部ではコイルの巻き線方向が図8(b)の矢印に示すように途中で反転するように結線されている。
【図9】本発明請求項3の一実施形態に関する図であり、検査面に対して垂直に配置した検出コイルを用いていることを特徴としている。
【符号の説明】
10、本発明の一実施形態である渦電流探傷プローブの検出コイルである。
11、12、13、14、本発明の一実施形態である渦電流探傷プローブの励磁コイルである。
15、16、励磁コイル中に流れる電流の方向を表すためのものである。
30、交流電流が印加されたコイル31が作る磁束である。
31、交流電流が印加されたコイルである。
32、渦電流探傷法によって探傷される試験体である。
33、磁束30によって試験体32内に誘導された渦電流である。
34、渦電流探傷信号を検出するためのコイルである。
40、本発明の有効性を確認するために行った探傷試験で用いた試験体である。
41、試験体40に加工された、深さが10mmのノッチである。
42、試験体40に加工された、深さが12mmのノッチである。
43、試験体40に加工された、深さが15mmのノッチである。
44、試験体40に加工された、深さが20mmのノッチである。
61、本発明に係る渦電流探傷プローブを用いて得られた、深さ10mmのノッチからの探傷信号である。
62、本発明に係る渦電流探傷プローブを用いて得られた、深さ12mmのノッチからの探傷信号である。
63、本発明に係る渦電流探傷プローブを用いて得られた、深さ15mmのノッチからの探傷信号である。
64、本発明に係る渦電流探傷プローブを用いて得られた、深さ20mmのノッチからの探傷信号である。
71、従来型の渦電流探傷プローブを用いて得られた、深さ10mmのノッチからの探傷信号である。
72、従来型の渦電流探傷プローブを用いて得られた、深さ12mmのノッチからの探傷信号である。
73、従来型の渦電流探傷プローブを用いて得られた、深さ15mmのノッチからの探傷信号である。
74、従来型の渦電流探傷プローブを用いて得られた、深さ20mmのノッチからの探傷信号である。
81、請求項2に関して励磁コイル数を変化させた場合の本発明の実施形態に係る励磁コイルである。
82、請求項2に関して励磁コイル数を変化させた場合の本発明の実施形態に係る励磁コイルである。
90、請求項3に関する、検査面に対して垂直方向に配置した検出コイルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
縦置きすなわち検査面に対してコイル軸心が平行となるよう配置された4つの励磁コイルと、検査面に対向すなわち検査面に対してコイル軸心が垂直となるように配置された1つの検出コイルから成る渦電流探傷プローブであり、検出コイルに対して左右対称な位置に励磁コイルが2つずつ配置され、検出コイルに近い側の2つの励磁コイルと遠い側の2つの励磁コイルの作る交流磁場が常に同一周波数かつ逆向きの極性を有していることにより、検出コイル直下における渦電流強度が、試験体表面で小さく、内部にて最大となるような分布を有することを特徴とする。
【請求項2】
請求項1に記載される渦電流探傷プローブの励磁コイルを結合もしくは分割することで励磁コイル数を見かけ上増加もしくは減少させている渦電流探傷プローブであり、請求項1に記載されるものと同様、検出コイル直下における渦電流強度が、試験体表面で小さく、内部にて最大となるような分布を有することを特徴とする。
【請求項3】
請求項1もしくは請求項2の発明において、被検査面に対向するのではなく、縦置きとした検出コイルを用いることを特徴とする渦電流探傷プローブ。
【請求項4】
請求項1もしくは請求項2もしくは請求項3の発明において、複数の検出コイルを配置し、差動検出方式もしくは検出コイルのアレー化を行ったことを特徴とする渦電流探傷プローブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−10665(P2006−10665A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−213667(P2004−213667)
【出願日】平成16年6月23日(2004.6.23)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年6月1から6月2日 日本AEM学会主催の「THE 10TH INTERNATIONAL WORKSHOP ON ELECTROMAGNETIC NONDESTRUCTIVE EVALUATION」において文書をもって発表
【出願人】(302070545)株式会社普遍学国際研究所 (6)
【Fターム(参考)】