説明

深礎工用土留の構築方法および深礎工用土留構造

【課題】地山条件の変化に左右されることがない、大口径深礎の施工方法および大口径深礎の土留構造を提案する。
【解決手段】掘削孔2を掘り下げる一次掘削工程と、一次掘削工程により現れた孔壁面2aに沿って第一の縦鉄筋を配筋する一次配筋工程と、孔壁面2aに対して吹付けコンクリート6を吹き付ける一次吹付工程と、掘削孔2の底盤を掘り下げて第一の縦鉄筋の下方に空間を形成する二次掘削工程と、空間にリング支保工3を配置する支保工配置工程と、リング支保工3以浅の空間の孔壁面2aに沿って第二の縦鉄筋を配筋する二次配筋工程と、空間内であってリング支保工3以浅の孔壁面2aに対して吹付けコンクリート6を吹き付ける二次吹付工程と、を備える深礎工用土留の構築方法およびこの構築方法により構築された深礎工用土留構造1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、深礎工用土留の構築方法および深礎工用土留構造に関する。
【背景技術】
【0002】
深礎工用土留構造は、坑口部(表層部)等の土砂層等や岩盤層等の地層に応じて決定する。
このような土留構造は、一般的に土砂層では掘削孔の孔壁に沿ってライナープレートを組み立てるライナープレート構造を採用し、岩盤区間では地山に打ち込まれたロックボルトと孔壁面に吹き付けられた吹付けコンクリートとにより構築された吹付け構造を採用している(特許文献1及び特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平06−033682号公報
【特許文献2】特開平11−303068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、例えば土砂層と岩盤層との境界部近傍等の吹付け構造適用地盤において、局所的な脆弱箇所が掘削時に発覚する場合がある。
このような脆弱箇所を含む区間が発生した場合には、ライナープレート構造等に切り替えて土留構造を構築する必要がある。
【0005】
しかしながら、深礎工における土留構造の変更は、当該深礎工を利用して構築される深礎杭の周面摩擦力に影響を及ぼす可能性がある。そのため、掘削時に発覚した脆弱箇所において土留構造を変更すると、上部工の設計や深礎杭の杭長、杭径等を見直す必要があった。故に、脆弱箇所を含む地盤における構造物の構築においては、深礎工の施工が完了するまで、上部工や杭の設計を決定することができない場合があった。
また、ライナープレート構造は、鋼材使用量が多いため、費用が高くなる。
【0006】
本発明は、ライナープレート構造を適用すべき地盤にも、吹付け構造を適用すべき地盤にも適用することが可能な深礎工用土留の構築方法および深礎工用土留構造を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、請求項1に記載の深礎工用土留の構築方法は、掘削孔を掘り下げる一次掘削工程と、前記一次掘削工程により現れた孔壁面に沿って第一の縦鉄筋を配筋する一次配筋工程と、前記孔壁面に対して吹付けコンクリートを吹き付ける一次吹付工程と、前記掘削孔の底盤を掘り下げて前記第一の縦鉄筋の下方に空間を形成する二次掘削工程と、前記空間にリング支保工を配置する支保工配置工程と、前記リング支保工以浅の前記空間の孔壁面に沿って第二の縦鉄筋を配筋する二次配筋工程と、前記空間内であって前記リング支保工以浅の孔壁面に対して吹付けコンクリートを吹き付ける二次吹付工程と、を備えることを特徴としている。
【0008】
また、請求項2に記載の深礎工用土留の構築方法は、掘削孔を掘り下げる掘削工程と、前記掘削孔の底部にリング支保工を配置する支保工配置工程と、前記掘削工程により現れた前記リング支保工以浅の孔壁面に沿って縦鉄筋を配筋する配筋工程と、前記孔壁面に対して吹付けコンクリートを吹き付ける吹付工程と、を備えることを特徴としている。
【0009】
かかる深礎工用土留の構築方法によれば、地山条件に左右されることなく、安定した土留構造を構築することが可能となる。そのため、想定外の地山状況に遭遇したような場合であっても、必要に応じて軽微な設計変更(例えば吹付け厚さの変更や配筋ピッチの変更等)を行うのみで、土留構造の変更することなく施工を進行させることが可能となる。その結果、上部工や深礎杭等の計画に対しても影響を及ぼし難くなる。
また、特殊な材料を使用することなく構築できるため、簡易かつ安価に構築することができる。
【0010】
また、前記支保材配置工程において、前記リング支保工を上側に隣接する他のリング支保工に吊持させた状態で配置すれば、リング支保工の配置を簡易に行うことが可能となる。
【0011】
また、本発明の深礎工用土留構造は、掘削孔の孔壁面に沿って配設されたメッシュ筋と、上下方向に所定の間隔をあけて並設された複数のリング支保工と、上下に隣り合う前記リング支保工同士の間に配筋された複数本の縦鉄筋と、前記掘削孔の孔壁面に対して吹き付けられた吹付けコンクリートと、を備え、前記リング支保工がH形鋼により構成されており、前記縦鉄筋は、両端部がそれぞれ上下の前記リング支保工のフランジとウェブにより形成された凹部に挿入されていることを特徴としている。
【0012】
かかる深礎工用土留構造によれば、安定した土留構造を安価に構築することが可能となる。また、地山との周面摩擦を考慮することができるため、当該深礎工用土留構造を利用して構築される基礎の形状を小さくすることが可能となり、経済的になる。
【0013】
前記リング支保工の一方のフランジが前記吹付けコンクリートの表面から突出していれば、突出部分をシアキーとして利用することが可能となり、当該深礎工用土留構造を利用して構築される基礎と当該土留構造との一体化を図ることが可能となる。
また、施工時において、下側に配設されるリング支保工を配設する際に、上側に隣接する他のリング支保工の突出部分を利用することができるので、リング支保工の位置決めを簡易に行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の深礎工用土留の構築方法および深礎工用土留構造によれば、ライナープレート構造を適用すべき地盤にも、吹付け構造を適用すべき地盤にも適用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a)は本発明の好適な実施の形態に係る深礎工用土留構造を示す断面図、(b)は(a)のA−A断面図である。
【図2】(a)は同深礎工用土留構造の拡大断面図、(b)は縦鉄筋とメッシュ筋を示す斜視図である。
【図3】(a)は本実施の形態に係る深礎工用土留の構築方法の手順を示すフローチャート図、(b)は他の実施の形態に係る深礎工用土留の構築方法の手順を示すフローチャート図。
【図4】(a)〜(c)は本実施の形態の深礎工用土留の構築方法の各施工段階を示す断面図である。
【図5】(a)〜(b)は、図4に続く本実施の形態の深礎工用土留の構築方法の各施工段階を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本実施形態では、図1(a)および(b)に示すように、円筒状に形成された深礎工用土留構造1について説明する。
深礎工用土留構造1は、深礎工に使用される土留構造であって、地盤Gの掘削に伴い形成される。
【0017】
深礎工用土留構造1は、図2(a)に示すように、地盤Gに形成された掘削孔2内において上下方向に所定の間隔をあけて並設された複数のリング支保工3と、掘削孔2の孔壁面2aに沿って配設されたメッシュ筋4と、上下に隣り合う前記リング支保工3同士の間に配筋された複数本の縦鉄筋5,5,…と、掘削孔2の孔壁面2aに対して吹き付けられた吹付けコンクリート6と、を備えて構成されている。
【0018】
リング支保工3は、図1(b)および図2(a)に示すように、掘削孔2の周方向に連続するように環状に形成されたH形鋼により構成されている。本実施形態では、掘削孔2の深さ方向に対して、所定の間隔をあけて複数のリング支保工3,3,…を配置する。
【0019】
リング支保工3は、H形鋼のフランジ3a,3aが縦向き、ウェブ3bが横向きとなるように形成されており、一方(外側)のフランジ3aが孔壁面2aに沿った状態(平行あるいは当接した状態)で配設されている。
【0020】
本実施形態では、リング支保工3と孔壁面2aとの隙間の幅と、リング支保工3の厚み(幅寸法)との和が、吹付けコンクリート6の吹付け厚さよりも大きくなっているので、リング支保工3の他方(内側)のフランジ3aは、吹付けコンクリート6の表面から突出した状態となる。
【0021】
なお、リング支保工3の数やピッチ等は限定されるものではなく、適宜設定することが可能である。また、リング支保工3を構成するH形鋼の断面寸法も適宜設定すればよい。
また、リング支保工3の平面形状は円形状に限定されるものではない。例えば、掘削孔2の平面形状に合わせて矩形状やその他の多角形状に形成されていてもよい。
【0022】
メッシュ筋4は、図2(b)に示すように、複数の縦メッシュ筋4a,4a,…と複数の横メッシュ筋4b,4b,…とを組み合わせることにより格子状に形成された部材である。
【0023】
メッシュ筋4は、図2(a)に示すように、上下のリング支保工3,3の間に配置されており、上下の端部が、それぞれリング支保工3のフランジ3a,3aとウェブ3bにより形成された凹部3cに挿入されている。なお、本実施形態では、メッシュ筋4の上下端がそれぞれ上下のリング支保工3のウェブ3bに当接している。
【0024】
メッシュ筋4は、工場生産されたもの等の既製品を使用してもよいし、鉄筋を組み合わせることにより構成してもよい。また、メッシュ筋4を構成する縦メッシュ筋4aおよび横メッシュ筋4bの鉄筋径等は限定されるものではなく、適宜設定することが可能である。
なお、本実施形態では、メッシュ筋4を上下2段に分割されたものを使用するものとし、掘削孔2の掘進に伴い、上側のメッシュ筋4、下側のメッシュ筋の順に配置する(図4および図5参照)。なお、メッシュ筋4の構成は限定されるものではなく、例えば1枚のメッシュ筋を配置してもよいし、3枚以上のメッシュ筋を上下に配置してもよい。
【0025】
縦鉄筋5は、図1(a)に示すように、上下方向に配筋された鉄筋であり、孔壁面2aに沿って、周方向に所定の間隔をあけて複数本配設されている。
縦鉄筋5は、図2(a)に示すように、両端部がそれぞれ上下のリング支保工3,3のフランジ3a,3aとウェブ3bにより形成された凹部3cに挿入されている。
【0026】
縦鉄筋5は、メッシュ筋4の縦メッシュ筋4aと同ピッチで配設されており、図2(b)に示すように、結束線等の留部材7,7,…を介してメッシュ筋4に固定されている。
【0027】
なお、縦鉄筋5の配設ピッチは限定されるものではなく、適宜設定することが可能である。また、縦鉄筋5の鉄筋径等も、適宜設定すればよい。
また、本実施形態では、第一の縦鉄筋5aと第二の縦鉄筋5bとが重ね継手により連結されたものを縦鉄筋5と称する(図4および図5参照)。なお、縦鉄筋5の構成は限定されるものではなく、1本の鉄筋を配筋してもよいし、3本以上の鉄筋を連結して配筋してもよい。
【0028】
吹付けコンクリート6は、メッシュ筋4および縦鉄筋5が配筋された孔壁面2aに対して吹付けられている。
吹付けコンクリート6の吹付け厚は限定されるものではないが、本実施形態では、リング支保工3の内側(掘削孔2の中心側)のフランジ3aが、吹付けコンクリート6の表面から突出する厚みとする。
【0029】
深礎工用土留構造1の構築は、図3(a)に示すように、一次掘削工程S11と、一次配筋工程S12と、一次吹付工程S13と、二次掘削工程S14と、支保工配置工程S15と、二次配筋工程S16と、二次吹付工程S17と、により行う。
【0030】
一次掘削工程S11は、図4(a)に示すように、地盤Gを掘削して掘削孔2の底盤2bを掘り下げる工程である。
なお、掘削孔2の孔壁面2aに脆弱箇所が現れるなど、孔壁面2aが崩落するおそれがある場合には、孔壁面2aに対して先行吹付コンクリート6aを吹き付けるものとする。なお、先行吹付けコンクリート6aは必要に応じて実施するものとし、省略してもよい。
【0031】
本実施形態では、既設のリング支保工3’の下方の掘削を行うことで掘削孔2を掘り下げる場合について説明するが、既設のリング支保工3’の有無は限定されるものではない。
【0032】
一次配筋工程S12は、図4(b)に示すように、一次掘削工程S11により現れた孔壁面2aに沿ってメッシュ筋4と第一の縦鉄筋5aを配筋する工程である。
【0033】
一次配筋工程S12では、まずメッシュ筋4を配設し、次にこのメッシュ筋4に留部材7で第一の縦鉄筋5aを固定することで、第一の縦鉄筋5aを配筋する。
【0034】
メッシュ筋4は、その上端が既設のリング支保工3のウェブ3b下面に当接するように配置する。なお、メッシュ筋4は、必ずしもリング支保工3のウェブ3bに当接させる必要はない。
【0035】
メッシュ筋4の設置方法は限定されるものではなく、例えばリング支保工3に留具を介して固定してもよいし、孔壁面2aに対して差し込まれたアンカー部材にメッシュ筋4を係止することにより行ってもよい。
【0036】
第一の縦鉄筋5aは、メッシュ筋4の縦メッシュ筋4aに重ねた状態で留部材7を介してメッシュ筋4に固定する。
なお、本実施形態では、縦メッシュ筋4aに第一の縦鉄筋5aを沿わせることで、縦メッシュ筋4aと第一の縦鉄筋5a(縦鉄筋5)との配筋ピッチを同一としたが、縦メッシュ筋4aと縦鉄筋5は必ずしも同一ピッチで配置されている必要はない。
【0037】
なお、既設のリング支保工3が無い場合には、メッシュ筋4および第一の縦鉄筋5aの配筋に先立って、メッシュ筋4および第一の縦鉄筋5aの配筋箇所の上側となる位置にリング支保工3を配置する。
【0038】
一次吹付工程S13は、図4(c)に示すように、第一の縦鉄筋5aが配筋された孔壁面2aに対して吹付けコンクリート6を吹き付ける工程である。
【0039】
吹付けコンクリート6は、図4(b)および(c)に示すように、第一の縦鉄筋5aの下端が、吹付けコンクリート6の下面から突出するように行う。第一の縦鉄筋5aの突出長さは、第一の縦鉄筋5aと第二の縦鉄筋5bとの接続に必要な定着長を確保できる長さとする(図5(a)参照)。
【0040】
吹付けコンクリート6は、格子状のメッシュ筋4と第一の縦鉄筋5aとにより形成された各格子を通過して、孔壁面2a(先行吹付けコンクリート6aの表面)に吹き付けられる。
また、吹付けコンクリート6は、リング支保工3の凹部3cに対しても行うものとする。吹付けコンクリート6は、第一の縦鉄筋5aが所定の被りコンクリート厚さを確保できるとともに、リング支保工3の一部が突出可能な吹付け厚により行う。
【0041】
二次掘削工程S14は、図4(c)に示すように、掘削孔2の底盤2bを掘り下げて第一の縦鉄筋5aの下方にリング支保工3を設置するための空間2cを形成する工程である。
【0042】
なお、二次掘削工程S14において、孔壁面2aの崩落が予想される脆弱箇所が露出した場合は、先行吹付けコンクリート6a(図4(b)参照)を行ってもよい。
【0043】
支保工配置工程S15は、図4(c)および図5(a)に示すように、二次掘削工程S14において形成された空間2cにリング支保工3を配置する工程である。
【0044】
本実施形態では、図5(a)に示すように、リング支保工3を、上側に隣接する既設のリング支保工3’に取付部材8を介して吊持させることにより行う。本実施形態では、複数の取付部材8を利用する。
なお、リング支保工3の設置方法は限定されるものではなく、適宜行うことが可能である。例えば、掘削孔2の孔壁面2aに固定された取付部材(例えばアンカー等)に固定してもよい。
【0045】
本実施形態の取付部材8は、棒材8aと、その上下端に設けられたフック状の係止部8b,8bと、を備えている。
取付部材8の上側の係止部8bを、既設のリング支保工3’のフランジ3aの上面に係止した状態で、下側の係止部8bにリング支保工3のフランジ3aを係止することで、リング支保工3を所定の位置に配設する。
【0046】
リング支保工3は、取付部材8に支持されることで、簡易に位置決めが行われる。つまり、取付部材8を介してリング支保工3を設置することで、リング支保工3’,3の間隔が決定され(所定の深さに配置される)、さらにリング支保工3の平面的な位置も決定される。なお、リング支保工3は、上側に隣接する既設のリング支保工3’の真下に配置される。ここで、取付部材8の構成は限定されるものではなく適宜設定することが可能である。
【0047】
二次配筋工程S16は、図5(a)に示すように、リング支保工3以浅の空間2cの孔壁面2aに沿ってメッシュ筋4と第二の縦鉄筋5bを配筋する工程である。
【0048】
メッシュ筋4は、上側に配設された既設のメッシュ筋4に結束線等を介して下側のメッシュ筋4を連結することにより1枚に構成されている。
【0049】
第二の縦鉄筋5bは、第一の縦鉄筋5aの下端部に対して所定の重ね継手を確保した状態で配筋する。第二の縦鉄筋5bは、メッシュ筋4の縦メッシュ筋4aに重ねた状態で留部材7を介してメッシュ筋4に固定することにより配筋する。
本実施形態では、第一の縦鉄筋5aと第二の縦鉄筋5bとが所定の重ね継手により連結されたものを縦鉄筋5と称する。
【0050】
二次吹付工程S17は、空間2cにおけるリング支保工3以浅の孔壁面2aに対して吹付けコンクリート6を吹き付ける工程である。
【0051】
吹付けコンクリート6は、格子状のメッシュ筋4と第二の縦鉄筋5bとにより形成された各格子を通過して、孔壁面2aに吹き付けられる。
また、吹付けコンクリート6は、リング支保工3の凹部3cに対しても行うものとする。さらに、吹付けコンクリート6は、第二の縦鉄筋5aが所定の被りコンクリート厚さを確保でき、かつ、リング支保工3の一部が吹付けコンクリート6の表面から突出する吹付け厚により行う。
【0052】
以上、本実施形態の深礎工用土留構造1よれば、リング支保工3、縦鉄筋5および吹付けコンクリート6が一体となって優れた耐力を発現するため、掘削孔2に作用する土圧による圧縮力に対して十分な耐力を有している。
【0053】
また、縦鉄筋5と吹付けコンクリート6により形成されるコンクリート壁とリング支保工3との組み合わせにより構成されているため、強度計算を行うことで、地山状況に応じた土留構造を構築すること(各材料の仕様や吹付け厚さの設定)が可能となる。そのため、全体として、費用の削減が可能となる。
【0054】
また、地山条件に左右されることなく、安定した土留構造を構築することが可能となる。そのため、想定外の地山状況に遭遇したような場合であっても、土留構造の変更することなく施工を進行させることが可能となる。その結果、上部工や深礎杭等の計画に対しても影響を及ぼし難くなる。このとき、深礎工用土留構造1は、必要に応じて、吹き付け厚の変更、縦鉄筋5の配筋ピッチの変更、リング支保工3や縦鉄筋5等の鋼材の断面寸法の変更等、軽微な設計変更を行ってもよい。
【0055】
また、深礎工用土留構造1は、特殊な材料を使用することなく構築できるため、簡易かつ安価に構築することができる。
【0056】
また、リング支保工3の一部が、吹付けコンクリート6の表面から突出しているため、この突出部分をシアキーとして、当該土留構造1を基礎杭と一体化させることが可能となる。
さらに、深礎工用土留構造1は、コンクリート構造であるため、摩擦抵抗を考慮することができ、土留構造1を利用して構築される基礎構造の小断面化を図ることが可能となる。
【0057】
また、リング支保工3の吹付けコンクリート6からの突出部分を利用して、下側に隣接するリング支保工3を吊持することで、リング支保工3の配置および位置決めを簡易に行うことが可能となる。
【0058】
また、本実施形態の深礎工用土留の構築方法によれば、リング支保工3同士の間隔が大きい場合でも、掘削孔2の掘削を一次掘削工程と二次掘削工程とに分割して行うことで、施工時の安全性を確保した状態で、各作業を行うことができる。
【0059】
なお、リング支保工同士の間隔が大きくなく、地盤の掘削から孔壁面2への吹付けまでの間に、孔壁面の崩落のおそれがない場合には、図3(b)に示すように、掘削工程S21と、支保工配置工程S22と、配筋工程S23と、吹付工程S24と、により深礎工用土留構造1の構築を行ってもよい。
【0060】
つまり、掘削工程S21において、リング支保工3を配置するための空間を確保できる深さまで掘削孔2の底盤2bを掘り下げて、支保工3の配置、メッシュ筋4および縦鉄筋5の配筋、吹付けコンクリート6の吹き付けを行えばよい。
【0061】
以上、本発明について、好適な実施形態について説明した。しかし、本発明は、前述の各実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能であることはいうまでもない。
例えば、前記実施形態では、リング支保工の一部を吹付けコンクリートから突出させるものとしたが、リング支保工は、必ずしも吹付けコンクリートから突出している必要はない。
【0062】
また、前記実施形態では、所定の位置にメッシュ筋を配設した後、当該メッシュ筋に縦鉄筋を固定することにより縦鉄筋を配筋したが、予め縦鉄筋が固定されたメッシュ筋を所定の位置に配置することで、メッシュ筋と縦鉄筋との配筋を同時に行ってもよい。
なお、メッシュ筋は必要に応じて配置すればよく、省略してもよい。
【0063】
また、地表側に積層している軟弱地盤等、深礎工用土留の構築箇所に地山の自立が困難な地層を含む場合には、ライナープレート工法と組み合わせて深礎工用土留構造を構築してもよい。
【0064】
また、必要に応じて地山に対してロックボルトを配置してもよい。
【0065】
次に、本発明の深礎工用土留構造について行った実証実験結果について説明する。
本実証実験では、縦鉄筋を適切に配設すれば、吹付けコンクリートの品質を確保する上で問題が生じることがなく、土留構造としての品質(強度等)を向上させることが可能であることを確認した。
【0066】
本実証実験では、深さ(厚さ)200mmで、縦横1m×1mの試験箱の表面側に配設された縦メッシュ筋と横メッシュ筋とが一定のピッチで配設されたメッシュ筋に対して、縦鉄筋のピッチを変化させた状態で吹付けコンクリートを吹き付けた場合における、吹付けコンクリートの付着量および透過量と、吹付けコンクリートの品質の確認を行った。
【0067】
本実証実験では、縦間隔および横間隔が150mmのメッシュ筋を使用し、供試体Aとしてメッシュ筋のみの場合、供試体Bとして縦鉄筋のピッチをメッシュ筋の縦メッシュ筋と同ピッチ(150mm)とした場合、供試体Cとして縦鉄筋のピッチを100mmとした場合、供試体Dとして縦鉄筋のピッチを75mmとした場合について、それぞれ測定を行った。
【0068】
なお、吹付けコンクリートの透過量測定は、試験箱内の吹き付けコンクリートの体積を測定することにより行った。
また、付着量測定は、鉄筋およびメッシュ筋に付着した吹き付けコンクリートの重量を測定することにより行った。
また、強度測定は、空気式ピン貫入試験により行い、さらに、品質測定は外観検査により行った。
実験結果を表1に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
実証実験の結果、表1に示すように、供試体Aの吹付けコンクリートの吹付け密度(1.133t/m)よりも、供試体B〜Dの吹付けコンクリートの吹付け密度(1.1.347〜1.512t/m)の方が大きくなる結果となった。このことから、縦鉄筋を配筋することによる透過量への影響は小さい結果となった。
【0071】
また、表1に示すように、縦鉄筋やメッシュ筋への付着量は、縦鉄筋を配筋した供試体B〜Dの付着量(0.200〜0.257kg/本)が、縦鉄筋が配筋されていない供試体Aの付着量(0.029kg/本)よりも大きくなった。このことから、縦鉄筋を配筋することにより、付着量が増加することがわかる。
また、供試体B,C,Dの付着量は、それぞれ鉄筋1本当り0.257kg、0.200kg、0.246kgとなり、配筋ピッチの変化による影響は小さい結果となった。
【0072】
さらに、表1に示すように、縦鉄筋を配筋した供試体B〜Dのピン貫入試験による圧縮強度は、鉄筋非干渉部において4.50〜4.96N/mm、鉄筋交差部において4.39〜4.67N/mmとなり、縦鉄筋を配筋していない供試体Aの鉄筋非干渉部の圧縮強度4.23N/mm、鉄筋交差部の圧縮強度4.13N/mmよりも大きくなる結果となった。
また、縦鉄筋が配筋された供試体B,C,Dの圧縮強度は、鉄筋非干渉部においてそれぞれ4.50、4.69、4.96N/mm、鉄筋交差部においてそれぞれ4.39、4.42、4.67N/mmとなり、縦鉄筋の間隔を小さくしても、強度が下がらない結果となった。
【0073】
以上の結果、150mm間隔のメッシュ筋のみを配筋した場合の吹付けコンクリートの品質と比較して、メッシュ筋に加えて150mm〜75mm間隔で縦鉄筋を配筋しても、吹付けコンクリートの品質が低下しないことが確認された。つまり、縦鉄筋を、縦メッシュ筋の1〜0.5倍のピッチで配筋することによる支障はみられなかった。
したがって、補強鉄筋を適切に配筋することにより、深礎工用土留の吹付けコンクリートの品質を低下させることなく、土留構造としての強度を増加させることが可能であることが実証された。
【符号の説明】
【0074】
1 深礎工用土留構造
2 掘削孔
2a 孔壁面
2b 底盤
2c 空間
3 支保工
3a フランジ
3b ウェブ
3c 凹部
4 メッシュ筋
5 縦鉄筋
5a 第一の縦鉄筋
5b 第二の縦鉄筋
6 吹付けコンクリート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
掘削孔を掘り下げる一次掘削工程と、
前記一次掘削工程により現れた孔壁面に沿って第一の縦鉄筋を配筋する一次配筋工程と、
前記孔壁面に対して吹付けコンクリートを吹き付ける一次吹付工程と、
前記掘削孔の底盤を掘り下げて前記第一の縦鉄筋の下方に空間を形成する二次掘削工程と、
前記空間にリング支保工を配置する支保工配置工程と、
前記リング支保工以浅の前記空間の孔壁面に沿って第二の縦鉄筋を配筋する二次配筋工程と、
前記空間内であって前記リング支保工以浅の孔壁面に対して吹付けコンクリートを吹き付ける二次吹付工程と、
を備えることを特徴とする、深礎工用土留の構築方法。
【請求項2】
掘削孔を掘り下げる掘削工程と、
前記掘削孔の底部にリング支保工を配置する支保工配置工程と、
前記掘削工程により現れた前記リング支保工以浅の孔壁面に沿って縦鉄筋を配筋する配筋工程と、
前記孔壁面に対して吹付けコンクリートを吹き付ける吹付工程と、
を備えることを特徴とする、深礎工用土留の構築方法。
【請求項3】
前記支保工配置工程において、前記リング支保工を上側に隣接する他のリング支保工に吊持させた状態で配置することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の深礎工用土留の構築方法。
【請求項4】
掘削孔の孔壁面に沿って配設されたメッシュ筋と、
上下方向に所定の間隔をあけて並設された複数のリング支保工と、
上下に隣り合う前記リング支保工同士の間に配筋された複数本の縦鉄筋と、
前記掘削孔の孔壁面に対して吹き付けられた吹付けコンクリートと、
を備える深礎工用土留構造であって、
前記リング支保工がH形鋼により構成されており、
前記縦鉄筋は、両端部がそれぞれ上下の前記リング支保工のフランジとウェブにより形成された凹部に挿入されていることを特徴とする、深礎工用土留構造。
【請求項5】
前記リング支保工の一方のフランジが前記吹付けコンクリートの表面から突出していることを特徴とする、請求項4に記載の深礎工用土留構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−140804(P2011−140804A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−1860(P2010−1860)
【出願日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【出願人】(507280893)株式会社都建設 (2)
【Fターム(参考)】