説明

減圧乾燥装置及び塗布体の製造方法

【課題】基板上に液滴の噴射塗布にて形成された塗布膜中の液体を各部均一に乾燥することができる減圧乾燥装置を提供する。
【解決手段】チャンバー33内の下部に液滴の噴射塗布にて塗布膜が形成されている被塗布基板7を収容し、当該チャンバーの天面中央に形成された排気口34から内部の気体を減圧排気することで、被塗布基板上の塗布膜中の液体を乾燥させるための減圧乾燥装置であって、チャンバーの内部に、第1の分散板36と第2の分散板37とが上下2段に設置され、第1の分散板にはその全面に分布するように多数の第1の通気孔38が形成され、第2の分散板にはその全面に分布し、かつ、第1の分散板の第1の通気孔の配置パターンに対して孔位置をずらした配置パターンにて多数の第2の通気孔39が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被塗布基板に液滴噴射により塗布された塗布膜中の液体を乾燥させるために用いる減圧乾燥装置及びこの減圧乾燥装置により減圧乾燥することで基板表面に液滴噴射にて塗布形成された塗布膜中の液体を乾燥させて塗布体を得る塗布体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2004−31070号公報(特許文献1)に記載されているように、有機ELディスプレイパネルを製造する際に使用する液滴噴射塗布装置が知られている。
【0003】
この液滴噴射塗布装置は、高分子発光材料などの着色剤を溶媒に溶解した液体を液滴噴射塗布ヘッドのノズルから液滴として噴射させ、噴射させた液滴により基板の表面を格子状に塗布し、その後に基板表面に塗布形成された塗布膜中の溶媒を蒸発させることにより着色剤の膜を基板上に残留させ、有機ELディスプレイパネルを製造するものである。
【0004】
このような有機ELディスプレイの製造過程において、基板上に塗布された塗布膜中の液体から溶媒を蒸発させるため、図7に示すような減圧乾燥装置100を用いる。この減圧乾燥装置100は、液滴の噴射塗布にて塗布膜が形成された被塗布基板101を収容するチャンバー102と、チャンバー102内に収容された、パンチングにより全面に均一に分布するように多数の通気孔が形成されている分散板103と、チャンバー102内の気体を吸引する真空ポンプ104とを備えている。
【0005】
チャンバー102に収容された被塗布基板101は、支持ピン105により支持されている。チャンバー102内は分散板103により下側空間106と上側空間107とに仕切られている。下側空間106内には液滴の噴射塗布にて塗布膜が形成された被塗布基板101が配置され、上側空間107には真空ポンプ104が連通されている。
【0006】
この減圧乾燥装置100による減圧乾燥は、以下のように行う。液滴の噴射塗布が終了した被塗布基板101を図示しない出し入れ口からチャンバー102の下側空間106内に収容し、真空ポンプ104を駆動させる。真空ポンプ104の駆動により、上側空間107内の気体がチャンバー102外に吸引される。この吸引に伴い、被塗布基板の塗布膜中の液体から蒸発した溶媒を含む下側空間106内の気体は、分散板103の通気孔を通過して上側空間107内に流入し、上側空間107内に流入した後に真空ポンプ104により吸引されてチャンバー102から排出される。
【0007】
図7において破線で示す矢印は、気体の流れ方向を示している。真空ポンプ104の出力は、下側空間106から分散板103を通過して上側空間107内に向かう気体の流れが、分散板103の全面で略均一に行われる値に設定されている。
【0008】
しかしながら、上述した減圧乾燥装置では、以下の点について配慮がなされていなかった。液滴の噴射塗布にて塗布膜が形成された被塗布基板101をチャンバー102の下側空間106内に収容した場合、下側空間106内の気体は、チャンバー102内に存在する気体と塗布膜中の液体から蒸発した溶媒とが混合された混合気体となる。下側空間106内における被塗布基板101の上方空間107の気体中における溶媒の濃度を調べると、図8に示すように、基板101の中央領域が高く、縁部領域が低くなっている。
【0009】
このため、塗布膜の乾燥速度は、溶媒濃度が高い混合気体が存在する被塗布基板101の中央領域では遅くなり、溶媒濃度が低い混合気体が存在する被塗布基板101の縁部領域では速くなることで、圧力分布にムラが生じ、また圧力差に基づく乱流を生じ、結果として乾燥速度にバラツキが生じる。被塗布基板101上に形成された塗布膜の乾燥速度にバラツキが生じると、溶媒が乾燥した後に被塗布基板101上に残留する塗布膜中着色剤の形状や厚み寸法にバラツキが生じる。一般に、乾燥速度が速い場合には残留する着色剤の膜の外形寸法が小さくなるとともに厚さ寸法が大きくなり、乾燥速度が遅い場合には残留する着色剤の膜の外形寸法が大きくなるとともに厚さ寸法が小さくなる。基板101上に残留した着色剤の膜の形状や厚み寸法にバラツキが生じると、着色剤の膜に電圧を印加した場合の発光状態にもバラツキが生じ、画像表示品質が低下する。
【特許文献1】特開2004−31070号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような従来技術の問題点に鑑みてなされたもので、被塗布基板に液滴の噴射塗布にて形成された塗布膜中の液体の乾燥を均一に行うことができる減圧乾燥装置及びこの減圧乾燥装置を用いる塗布体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1の発明は、チャンバー内の下部に液滴の噴射塗布により塗布膜が形成された被塗布基板を収容し、当該チャンバーの天面中央に形成された排気口から内部の気体を減圧排気することで、前記被塗布基板に形成された塗布膜中の液体を乾燥させるための減圧乾燥装置であって、前記チャンバーの内部を横断するように、第1の分散板と前記第1の分散板よりも前記被塗布基板側に第2の分散板とが設置され、前記第1の分散板には、その全面に分布するように多数の第1の通気孔が形成され、前記第2の分散板には、その全面に分布し、かつ、前記第1の分散板の第1の通気孔の配置パターンに対して孔位置をずらした配置パターンにて多数の第2の通気孔が形成されていることを特徴とするものである。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1の減圧乾燥装置において、前記第1の分散板に形成された第1の通気孔は円孔とし、前記第2の分散板に形成された第2の通気孔は上側から下側に広がるテーパー孔としたことを特徴とするものである。
【0013】
請求項3の発明の塗布体の製造方法は、液滴を被塗布基板に噴射塗布して塗布膜を形成する塗布工程と、前記塗布膜が形成された前記被塗布基板を減圧乾燥装置に収容し、前記被塗布基板に形成されている塗布膜を減圧乾燥させる減圧乾燥工程とを有し、前記減圧乾燥工程では、チャンバーの内部を横断するように、第1の分散板と前記第1の分散板よりも前記被塗布基板側に第2の分散板とが設置され、前記第1の分散板には、その全面に分布するように多数の第1の通気孔が形成され、前記第2の分散板には、その全面に分布し、かつ、前記第1の分散板の第1の通気孔の配置パターンに対して孔位置をずらした配置パターンにて多数の第2の通気孔が形成されている減圧乾燥装置を用い、前記被塗布基板を前記チャンバー内の下部に収容し、当該チャンバーの天面に形成された排気口から当該チャンバー内の気体を減圧排気することで前記被塗布基板に形成されている塗布膜中の液体を減圧乾燥させることを特徴とするものである。
【0014】
請求項4の発明は、請求項3の塗布体の製造方法において、前記第1の分散板に形成された第1の通気孔は円孔とし、前記第2の分散板に形成された第2の通気孔は上側から下側に広がるテーパー孔とした減圧乾燥装置を用いることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の減圧乾燥装置によれば、被塗布基板に塗布された塗布膜中の液体の乾燥を均一に行うことができる。
【0016】
また本発明の塗布体の製造方法によれば、塗布された液滴の乾燥が均一に行え、全面に渡り均質な表示性能を備えた塗布体を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて詳説する。
【0018】
(第1の実施の形態)液滴噴射塗布装置1の全体構成について説明する。液滴噴射塗布装置1は、基板収容部2と、液滴塗布部3と、本発明の第1の実施の形態の減圧乾燥装置に相当する乾燥部4と、塗布体収容部5と、搬送部6とを有している。
【0019】
基板収容部2は、架台8と架台8上に着脱可能に取付けられる収容棚8aとを有し、着色剤を含む液滴の塗布が行われる前の被塗布基板である複数の基板7が収容棚8a内に収容される。
【0020】
液滴塗布部3では、着色剤を含む液体であるインクが液滴(インク滴)として噴射され、噴射されたインク滴が基板7の表面に格子状に塗布される。液滴塗布部3は、図3に示すように、架台9とインク塗布ボックス10とインク補給ボックス11とを有し、インク塗布ボックス10とインク補給ボックス11とが架台9上に隣接して固定されている。
【0021】
インク塗布ボックス10の内部には、3つのインクジェットヘッドユニット12と、3つのインクジェットヘッドユニット12を一体にX軸方向に移動させるユニット移動機構13と、基板7を保持してこの基板7をX軸方向とY軸方向とに移動させる基板移動機構14と、ヘッドメンテナンスユニット15と、3つのインクタンク16とが収容されている。
【0022】
ユニット移動機構13は、架台9の上面に立設された一対の支柱17と、一対の支柱17の上端部間に連結されてX軸方向に延出するガイド板18とを有している。ガイド板18にはベース板19がX軸方向に移動可能に取付けられている。ベース板19は、送りネジと駆動モータとを用いた送り機構(図示せず)により、X軸方向に移動可能に設けられている。ガイド板18には、インクジェットヘッドユニット12が取付けられている。
【0023】
基板移動機構14は、Y軸方向ガイド板20と、Y軸方向移動テーブル21と、X軸方向移動テーブル22と、保持部である基板保持テーブル23とを有している。
【0024】
Y軸方向ガイド板20は、架台9の上面に固定されている。Y軸方向ガイド板20の上面には、Y軸方向に延出するガイド溝20aが形成されている。
【0025】
Y軸方向移動テーブル21の下面には、ガイド溝20aに移動可能に係合する凸部(図示せず)が形成されている。Y軸方向移動テーブル21は、送りネジと駆動モータとを用いた送り機構(図示せず)により、ガイド溝20aに沿ってY軸方向へ移動可能に設けられている。Y軸方向移動テーブル21の上面には、X軸方向に延出するガイド溝21aが形成されている。
【0026】
X軸方向移動テーブル22の下面には、ガイド溝21aに移動可能に係合する凸部(図示せず)が形成されている。X軸方向移動テーブル22は、送りネジと駆動モータとを用いた送り機構(図示せず)により、ガイド溝21aに沿ってX軸方向へ移動可能に設けられている。
【0027】
基板保持テーブル23は、X軸方向移動テーブル22の上面に固定されている。基板保持テーブル23の上面には、基板7が載せ降ろし可能に載置されている。基板保持テーブル23上に載置された基板7は、吸着機構(図示せず)により吸着されて所定の位置に固定保持されている。なお、基板保持テーブル23は、X軸方向移動テーブル22と共にY軸方向に移動し、保持した基板7に対してインク滴の塗布を行う位置(図1参照)と、基板保持テーブル23上に基板7を載せ降ろしする位置(図2参照)とに移動可能である。
【0028】
インクジェットヘッドユニット12は、図3に示すように、液滴噴射塗布ヘッドであるインク滴噴射塗布ヘッド24と、塗布位置に位置する基板7の上面に対して垂直方向(Z軸方向)にインク滴噴射塗布ヘッド24を移動させるZ軸方向移動機構12aと、インク滴噴射塗布ヘッド24をY軸方向に移動させるY軸方向移動機構12bと、インク滴噴射塗布ヘッド24をZ軸回りの方向であるθ方向に回転させるθ方向回転機構12cとを有している。これらの機構12a〜12cにより、インク滴噴射塗布ヘッド24は、Z軸方向とY軸方向とθ方向とに移動可能とされている。
【0029】
インク滴噴射塗布ヘッド24は、図4に示すように、インクタンク16から供給されるインクを収容する液室である複数のインク室25と、各インク室25の壁の一部を形成するダイヤフラム26と、各インク室25に対応してダイヤフラム26に当接する位置に設けられた複数の圧電素子27と、各インク室25の壁の一部を形成するノズルプレート28とを備えている。ノズルプレート28には、各インク室25に連通する複数のノズル29が形成されている。インク滴噴射塗布ヘッド24では、圧電素子27に電圧が印加されることにより圧電素子27が変形し、この変形によりダイヤフラム26が撓み、ダイヤフラム26が撓むことによりインク室25の容積が変化し、この容積変化に伴ってノズル29から液滴であるインク滴Eが噴射される。なお、各インクタンク16には異なる色(R(赤)、G(緑)、B(青))のインクが収容されており、各インク滴噴射塗布ヘッド24のノズル29からは異なる色のインク滴が噴射される。
【0030】
ヘッドメンテナンスユニット15では、インク滴噴射塗布ヘッド24のノズル29が目詰まりした場合の清掃が行われる。ヘッドメンテナンスユニット15は、インクジェットヘッドユニット12のX軸方向の移動方向であってY軸方向ガイド板20の側方に配置されている。
【0031】
架台9の内部には、液滴噴射塗布装置1の各部を制御するための制御ボックス30が設けられている。この制御ボックス30からの制御により、ユニット移動機構13によるインクジェットヘッドユニット12の移動、基板移動機構14による基板7の移動、インク滴噴射塗布ヘッド24からのインク滴の噴射、搬送部6による基板7の搬送、乾燥部4によるインク滴を塗布した基板7の乾燥等が行われる。
【0032】
インク補給ボックス11の内部には、複数のインク補給タンク31が着脱可能に取付けられている。個々のインク補給タンク31にはそれぞれ異なる色(R(赤)、G(緑)、B(青))のインクが収容されており、個々のインク補給タンク31は同じ色のインクが収容されているインクタンク16に補給パイプ32を介して接続されている。インク補給タンク31内のインクが無くなった場合、又は、設定量以下となった場合には、新たなインク補給タンク31に交換する。
【0033】
乾燥部4は図5に示す構成であり、チャンバー33内の下部に液滴の噴射塗布により塗布膜が形成されている被塗布基板7を収容し、当該チャンバー33の天面中央に形成された排気口34から真空ポンプ35にてチャンバー33内の気体を減圧排気することで、被塗布基板7に形成されている塗布膜中の液体を乾燥させる。この乾燥部4のチャンバー33の内部には、第1の分散板36と第2の分散板37とが上下2段に設置してある。上側の第1の分散板36には、その全面に分布するように多数の第1の通気孔38が形成してあり、下側の第2の分散板37には、その全面に分布し、かつ、第1の分散板36に形成された第1の通気孔38の配置パターンに対して孔位置をずらした配置パターンにて多数の第2の通気孔39が形成してある。
【0034】
被塗布基板7は、チャンバー33の底部に設けられた支持ピン40にて支持されている。支持ピン40は、チャンバー33の底部に出没可能に設けられて突出位置で被塗布基板7を支持する。チャンバー33内は上下2段にそれぞれ横断するように設置された第1の分散板36と第2の分散板37とにより下側空間41と上側空間42と中部空間43とに仕切られている。下側空間41内には被塗布基板7が収容され、上側空間42には真空ポンプ35が連通されている。
【0035】
塗布体収容部5は、架台44と架台44上に着脱可能に取付けられる収容棚45とを有し、乾燥部4において乾燥が終了した塗布体である有機ELディスプレイパネル(図示せず)が搬送部6により搬送され、収容棚45に収容される。
【0036】
搬送部6は、上下方向に移動可能な昇降軸46と、昇降軸46の上端部に連結されて水平面(X−Y平面)内で回動可能なリンク47,48と、リンク48の先端部に取付けられたアーム49とを備える。昇降軸46の昇降とリンク47,48の回動とが行われることにより、搬送部6は、基板収容部2の収容棚8aから基板7を取り出して液滴塗布部3の基板保持テーブル23上に載置し、及び、基板保持テーブル23上に保持されているインク滴の塗布が終了した基板7を基板保持テーブル23から降ろしてチャンバー33内に収容し、及び、乾燥処理が行われた後の有機ELディスプレイパネル(塗布体)をチャンバー33内から取り出して収容棚45内に収容する。
【0037】
このような構成の液滴噴射塗布装置1では、基板収容部2の収容棚8aに収容されている基板7が搬送部6により取り出され、取り出された基板7は、図2に示すように、基板7を載せ降ろしすることが可能な位置に位置する基板保持テーブル23上に載置される。
【0038】
載置された基板7を保持した基板保持テーブル23は、図1に示すインク滴の噴射塗布が行われる位置に移動し、インク滴噴射塗布ヘッド24のノズル29から噴射されるインク滴により基板7が塗布される。
【0039】
基板7へのインク滴の塗布が終了して被塗布基板7となると、基板保持テーブル23は再び図2に示す位置に移動する。基板保持テーブル23が図2に示す位置に移動した後、基板保持テーブル23上に保持されている被塗布基板7は、搬送部6により基板保持テーブル23上から降ろされ、乾燥部4のチャンバー33内に搬送される。チャンバー33内に搬送されたインク滴が塗付された被塗布基板7は、チャンバー33内で減圧乾燥処理され、塗布体である有機ELディスプレイパネルが製造される。
【0040】
チャンバー33内で減圧乾燥処理されて製造された有機ELディスプレイパネルは、搬送部6によりチャンバー33内から取り出され、塗布体収容部5の収容棚47内に収容される。
【0041】
インク滴の塗布が終了した被塗布基板7が降ろされた後の基板保持テーブル23上には、基板収容部2の収容棚8aに収容されている基板7が搬送部6により取り出され、その基板7が基板保持テーブル23上に載置され、この基板7に対するインク滴の塗布、乾燥部4での乾燥等が繰り返される。
【0042】
被塗布基板7がチャンバー33内に搬送される場合は、被塗布基板7を保持したアーム49が被塗布基板7と共にチャンバー33の出し入れ口(図示せず)からチャンバー33内に入り込む。被塗布基板7と共にアーム49がチャンバー33内に入り込んだ後、支持ピン40が上昇して被塗布基板7を持ち上げ、被塗布基板7をアーム49から離反させて被塗布基板7を支持する。被塗布基板7がアーム49から離反された後、アーム49はチャンバー33外に移動し、チャンバー33の出し入れ口が閉止されてチャンバー33内が気密状態となり、乾燥部4での被塗布基板7上に形成されている塗布膜の減圧乾燥処理が開始される。
【0043】
乾燥部4での乾燥処理においては、真空ポンプ35が駆動される。真空ポンプ35が駆動されることにより、図5に示すように、上側空間42内の気体がチャンバー33外に排気口34から吸引排出される。この吸引に伴い、塗布膜中の液体から蒸発した溶媒を含む下側空間41内の気体は、下側の第2の分散板37の第2の通気孔39を通過して中部空間43に入り、次に、上側の第1の分散板36の第1の通気孔38をを通過して上側空間42内に流入し、上側空間42内に流入した後に真空ポンプ35により吸引され、チャンバー33外へ排出される。図5に示す破線の矢印は、真空ポンプ35の駆動による気体の流れ方向を示している。真空ポンプ35の出力は、下側空間41から上下2段に設置された第1の分散板36と第2の分散板37を通過して上側空間42内に向かう気体の流れが被塗布基板7の表面で均一になる値に設定されている。
【0044】
下側の第2の分散板37に形成された第2の通気孔39の配置パターンと上側の第1の分散板36に形成された第1の通気孔38の配置パターンとがそれらの孔位置が互いにずれ、上下方向に揃わないパターンにしてある。このため、上記の気体の流れにおいて、下側空間41から第2の分散板37を通過した気体に対して上側の第1の分散板36は邪魔板の役目を果たし、中部空間43内で気体が一時的に滞留し、その後に第1の分散板36の第1の通気孔38を通過して上側空間42に流入する流れとなる。これにより、気体の流れが被塗布基板7の表面で均一になり、被塗布基板7の各部の塗布膜中の液体の乾燥速度が揃えられ、均一に乾燥させることができる。この結果、乾燥部4での減圧乾燥処理を経て製造される有機ELディスプレイパネルにおける着色剤の膜の形状や厚み寸法が均一化され、着色剤の膜に電圧を印加した場合の発光状態のバラツキを防止して画像表示品質の向上を図ることができる。
【0045】
(第2の実施の形態)本発明の第2の実施の形態の液滴噴射塗布装置及び塗布体の製造方法について説明する。第2の実施の形態の特徴は、図1、図2に示した構成の液滴噴射塗布装置1における乾燥部4に相当する減圧乾燥装置の内部構造が図6に示すものである点である。
【0046】
本実施の形態における減圧乾燥装置は、図5に示した第1の実施の形態における乾燥部4と同様に、チャンバー33内の下部に液滴の噴射塗布にて塗布膜が形成されている被塗布基板7を収容し、当該チャンバー33の天面中央に形成された排気口34から真空ポンプ35にてチャンバー33内の気体を減圧排気する構成であり、チャンバー33の内部を横断するように、第1の分散板36と第2の分散板37とが上下2段に設置してある。そして、上側の第1の分散板36には、その全面に分布するように多数の第1の通気孔38が形成してあり、下側の第2の分散板37には、その全面に分布し、かつ、第1の分散板36に形成された第1の通気孔38の配置パターンに対して孔位置をずらした配置パターンにて多数の第2の通気孔39Aが形成してある。そして、本実施の形態の特徴として、第2の分散板37に形成した第2の通気孔39Aを、上側の径よりも下側の径の方が広がるテーパー孔にしている。
【0047】
第2の実施の形態では、このように下側の第2の分散板37の第2の通気孔39Aをテーパー孔にすることで、各孔の下側開口がチャンバー33の下側空間41内の広い範囲の気体を吸い上げで中部空間43に流入させることができ、したがって、下側空間41内の気体の吸い込みを縁部でも中央部でも各部で均一に行うことができ、この結果、第1の分散板36の邪魔板としての働きと相まって、第1の実施の形態の場合よりも効果的に被塗布基板7の表面各部の塗布液滴を均一に減圧乾燥させることができる。そしてこの結果として、乾燥部4での減圧乾燥処理を経て製造される塗布体である有機ELディスプレイパネルにおける着色剤の膜の形状や厚み寸法がいっそう均一化でき、着色剤の膜に電圧を印加した場合の発光状態のバラツキを防止して画像表示品質のいっそうの向上が図れる。
【0048】
なお、上記第1、第2の実施の形態では、インク滴の噴射塗布にて形成されている被塗布基板7上の塗布膜を減圧乾燥させることにより塗布体として有機ELディスプレイパネルを製造する場合を例に挙げて説明したが、この液滴噴射塗布装置及び塗布体の製造方法は、塗布体として液晶ディスプイパネルを製造する場合にも適用できるものである。
【0049】
また、上下の第1、第2の分散板の高さ位置や間隔、また第1、第2の通気孔のサイズはチャンバーのサイズにより任意に設定することができるものであり、図示のものに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の第1の実施の形態の減圧乾燥装置を含む液滴噴射塗布装置の平面図。
【図2】図1に示す液滴噴射塗布装置が備える基板保持テーブルを基板を載せ降ろしする位置に移動させた状態の平面図。
【図3】図1に示す液滴噴射塗布装置が備える液滴塗布部の斜視図。
【図4】図3に示す液滴塗布部が備えるインク噴射塗布ヘッドの断面図。
【図5】本発明の第1の実施の形態の減圧乾燥装置であるところの、図1に示す液滴噴射塗布装置における乾燥部の断面図。
【図6】本発明の第2の実施の形態の減圧乾燥装置の断面図。
【図7】従来例の液滴噴射塗布装置が備える乾燥部の断面図。
【図8】従来例の乾燥部による乾燥処理時におけるチャンバー内の気体中の溶媒濃度を示すグラフ。
【符号の説明】
【0051】
4…乾燥部、7…被塗布基板、33…チャンバー、34…排気口、35…真空ポンプ、36…第1の分散板、37…第2の分散板、38…第1の通気孔、39…第2の通気孔、41…下側空間、42…上側空間、43…中部空間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバー内の下部に液滴の噴射塗布により塗布膜が形成された被塗布基板を収容し、当該チャンバーの天面中央に形成された排気口から内部の気体を減圧排気することで、前記被塗布基板に形成された塗布膜中の液体を乾燥させるための減圧乾燥装置であって、
前記チャンバーの内部を横断するように、第1の分散板と前記第1の分散板よりも前記被塗布基板側に第2の分散板とが設置され、前記第1の分散板には、その全面に分布するように多数の第1の通気孔が形成され、前記第2の分散板には、その全面に分布し、かつ、前記第1の分散板の第1の通気孔の配置パターンに対して孔位置をずらした配置パターンにて多数の第2の通気孔が形成されていることを特徴とする減圧乾燥装置。
【請求項2】
前記第1の分散板に形成された第1の通気孔は円孔とし、前記第2の分散板に形成された第2の通気孔は上側から下側に広がるテーパー孔としたことを特徴とする請求項1に記載の減圧乾燥装置。
【請求項3】
液滴を被塗布基板に噴射塗布して塗布膜を形成する塗布工程と、
前記塗布膜が形成された前記被塗布基板を減圧乾燥装置に収容し、前記被塗布基板に形成されている塗布膜を減圧乾燥させる減圧乾燥工程とを有し、
前記減圧乾燥工程では、チャンバーの内部を横断するように、第1の分散板と前記第1の分散板よりも前記被塗布基板側に第2の分散板とが設置され、前記第1の分散板には、その全面に分布するように多数の第1の通気孔が形成され、前記第2の分散板には、その全面に分布し、かつ、前記第1の分散板の第1の通気孔の配置パターンに対して孔位置をずらした配置パターンにて多数の第2の通気孔が形成されている減圧乾燥装置を用い、前記被塗布基板を前記チャンバー内の下部に収容し、当該チャンバーの天面に形成された排気口から当該チャンバー内の気体を減圧排気することで前記被塗布基板に形成されている塗布膜中の液体を減圧乾燥させることを特徴とする塗布体の製造方法。
【請求項4】
前記第1の分散板に形成された第1の通気孔は円孔とし、前記第2の分散板に形成された第2の通気孔は上側から下側に広がるテーパー孔とした減圧乾燥装置を用いることを特徴とする請求項3に記載の塗布体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−232268(P2007−232268A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−53847(P2006−53847)
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】