説明

減感作療法における治療効果を予測するバイオマーカー

【課題】即時型アレルギー患者の減感作療法における治療効果を予測するバイオマーカー、および、即時型アレルギーの減感作療法の増強剤の提供。
【解決手段】即時型アレルギー患者由来の被検試料におけるインターロイキン12遺伝子又はインターロイキン12の発現レベルを測定する、またMHC-IIのDRB1*12遺伝子の発現の有無を測定する、減感作療法の有効性の検出方法。さらに、インターロイキン12を含む、即時型アレルギーの減感作療法の増強剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、花粉症等の即時型(I型)アレルギー患者に対し減感作療法を施したときに当該療法の有効性を検出するためのバイオマーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
花粉症を代表とするアレルギー疾患の治療として、対症療法である抗アレルギー薬等の投与が行われている。このような状況下において、根本治療のために、これまで免疫減感作療法が行われてきた(非特許文献1)。日本においては、現在、保険医療として原因抗原エキスを皮下注射することによって減感作療法が行われているのに対し、欧州においては、数年前より口腔内の舌下に抗原エキスを滴下することで免疫する舌下減感作療法が行われている(非特許文献2、3)。
【0003】
しかしながら、現行の減感作療法は皮下注射や舌下法であろうと2年から3年の長期の治療期間が必要となり、治療結果次第では、患者に多大な時間的及び経費的な負担がかかるのが現状である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Rebien W. et al., Eur J Pediatr. 1982 Jul;138(4):341-4.
【非特許文献2】Passalacqua G. et al., Canonica GW. BioDrugs. 2001;15(8):509-19. Review.
【非特許文献3】Guez S et al., Allergy. 2000 Apr;55(4):369-75.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
患者の医療費を含めた負担軽減を図るためには、減感作療法の治療効果を予測するバイオマーカーの検索が必要である。そこで本発明は、花粉症等の即時型(I型)アレルギー患者に対し減感作療法を施したときに当該療法が有効であるかどうかを検出するためのバイオマーカーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、インターロイキン12遺伝子若しくはインターロイキン12、又はMHC遺伝子多型が減感作療法の有効性を検出するために有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
(1)即時型アレルギー患者由来の被検試料におけるインターロイキン12遺伝子又はインターロイキン12の発現レベルを測定することを特徴とする、減感作療法の有効性の検出方法。
(2) 即時型アレルギー患者由来の被検試料におけるMHC-IIのDRB1*12遺伝子の発現の有無を測定することを特徴とする、減感作療法の有効性の検出方法。
【0008】
本発明において、インターロイキン12の被検試料中の濃度が20pg/ml以上のときは、減感作療法が有効であると判定することができる。
また、本発明において、DRB1*12遺伝子が発現しているときは、減感作療法が無効であると判定することができる。
【0009】
減感作療法としては、例えば舌下減感作療法が挙げられる。また、即時型アレルギーとしては、例えば花粉症、蕁麻疹、食物アレルギー、ダニアレルギー、アレルギー性鼻炎、気管支喘息及びアトピー性皮膚炎からなる群から選ばれる少なくとも1つが挙げられる。
【0010】
本発明において、被検試料は血液を用いることが好ましい。また、測定は免疫測定法又はマイクロアレイによる測定であることが好ましい。
(3)インターロイキン12を含む、即時型アレルギー患者における減感作療法の増強剤。
(4)インターロイキン12を含む、即時型アレルギーの予防又は治療用医薬組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、即時型アレルギー患者に対し減感作療法を施したときに当該療法の有効性を検出するためのバイオマーカーが提供される。当該アレルギー患者から採取された試料由来のインターロイキン12(IL-12)の発現レベル若しくはIL-12をコードする遺伝子(IL-12遺伝子)の発現レベル、又はMHC遺伝子多型を測定することにより、減感作療法が有効であるかどうかを検査することが可能となる。その結果、アレルギー患者に対して有効な治療方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】舌下減感作療法の血清学的および遺伝的検索に関する実施計画を示す図である。
【図2】舌下減感作療法における臨床症状の推移と治療効果判定結果を示す図である。
【図3】舌下減感作療法の治療期間におけるIgE量の変化を示す図である。
【図4】血中IL-12量と治療効果判定との相関関係を示す図である。
【図5】MHCのDRB1ローカスの分析結果を示す図である。
【図6】HLA遺伝子多型の解析法を示す図である。
【図7】即時型アレルギーに対するIL-12の効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
1.概要
本発明は、即時型アレルギー患者由来の被検試料において、インターロイキン12遺伝子若しくはインターロイキン12の発現レベルを指標として、又はMHCの遺伝子多型を指標として、減感作療法の有効性を検出する方法に関するものである。
【0014】
本発明者は、スギ花粉症に対する舌下減感作療法の治療効果に関する検討を行い、アレルギー症状に対して顕著に治療効果が認められた患者群(治療有効群)と効果が認められなかった患者群(治療無効群)とに分類を行った。その結果、治療有効群においては、減感作療法前のインターロイキン12(IL-12)〔IL-12(p70)はサブユニットp40とp35からなる〕の量又はインターロイキン12をコードする遺伝子(IL-12遺伝子)の発現が高いことが判明した。
従って、本発明においては、IL-12又はIL-12遺伝子の発現量又は発現の有無を指標として(減感作療法の有効性と関連付けて)、減感作療法が有効であるか否かを検査することが可能となった。
【0015】
また、本発明においては、MHC遺伝子の多型を解析することにより、多型の解析結果と減感作療法の有効性とを関連付けて、減感作療法が有効であるか否かを検査することが可能となった。患者全体群における各種MHCの出現比率は、日本人の平均における遺伝子のマッピングと比較して大きな差がなかった。これは、スギ花粉症が特定のMHCを使用した疾患でないことを表しており、疾患感受性はMHCに依存しないことを意味している。一方、この比率に対して治療有効群または治療無効群のどちらかが大きく違う比率を示している遺伝子がMHC-IIのDRB1*12遺伝子であり、この場合この遺伝子を有さない患者又は遺伝子発現が低い患者は治療効果が無効の患者群と比較して高いと思われる。
【0016】
2.減感作療法
減感作療法とは、現在行われているアレルギー治療の中で唯一の根本治療であり、徐々にアレルギー抗原を体内に暴露することによって抗原特異的な免疫応答を不応答にする免疫療法を意味し、現在では舌下減感作療法、皮下減感作療法などが知られている。
【0017】
舌下減感作療法は、専門医に通院することなく自宅で抗原感作することが可能であり、注射針を体内に侵入させることがないため苦痛を伴わない(患者の負担が少ない)ことが特徴である。舌下減感作療法は、抗原エキスを舌下に滴下することによって抗原感作を行い約2年間の治療期間において初めの1か月は低濃度から高濃度まで段階的に毎日抗原感作を行い、その後は週2回の抗原感作をすることにより行われる。
【0018】
また、皮下減感作療法は、注射により抗原を皮下に注入することによりある程度の苦痛を伴い、2年間の治療期間において専門医に少なくとも50回以上の通院が必要であることが特徴である。皮下減感作療法は、舌下減感作療法と同様に抗原感作を約2年間の治療期間において行い、初めの1か月は低濃度から高濃度まで段階的に毎日抗原感作を行い、その後は週2回の抗原感作をすることにより行われる。
【0019】
本発明においては、いずれの減感作療法に対しても、これらの療法が有効であるかどうかを検出することが可能であるが、WHOが推奨している減感作療法として舌下減感作療法であることが好ましい。
【0020】
3.対象患者
減感作療法の対象患者は、即時型(I型)アレルギーを呈する患者であれば特に限定されるものではない。
例えばI型アレルギーは以下の通り分類することができる。
抗原に基づく分類:花粉症、食物アレルギー、ダニアレルギー
病態に基づく分類:蕁麻疹、アレルギー性鼻炎、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、
中でも、花粉症(スギ花粉症、イネ花粉症、ブタクサ花粉症、ヒノキ花粉症等)が好ましい。
【0021】
4.検出
(1)IL-12の発現解析
本発明は、即時型アレルギー患者のIL-12の発現レベルを測定し、測定結果と減感作療法の有効性とを関連付けする工程を含む。
発現レベルとは、遺伝子発現及びタンパク質発現のレベルを指し、DNAからmRNAへの転写活性レベル及びmRNAからタンパク質への翻訳活性レベルの両者を意味する。従って、本発明の工程には、遺伝子発現量及び/又はタンパク質発現量を定性的又は定量的に測定する工程が含まれる。発現レベルは、IL-12の量(例えば濃度)又は存否、あるいはIL-12をコードする核酸(DNA、RNA等)の量(例えば濃度)又は存否として測定される。
【0022】
発現レベルの測定に用いる生体試料としては、例えば、上記患者から採取された血液、鼻粘膜、鼻水、喀痰等を用いることができ、上記患者由来の血液を用いることが好ましい。これらの生体試料等を採取する方法は、当業者において公知である。
被検試料は、例えば、即時型アレルギー患者由来の試料を用いることができる。
【0023】
生体試料が血液である場合には、発現レベルの測定に利用するために、例えば、そのライセートを調製すること、又はDNA若しくはRNA(例えばmRNA)を抽出することが好ましい。ライセートの調製及びRNAの抽出は、公知の方法又は市販のキットを使用して行うことができる。また、生体試料が、液状のものである場合には、例えば、緩衝液等で希釈してIL-12をコードするDNA又はRNA量の測定などに利用することが好ましい。
IL-12の発現レベルの測定は、操作が容易で高感度である点で免疫測定法又はマイクロアレイを用いた方法が好ましい。
【0024】
免疫測定法としては、例えば放射免疫測定法(RIA)、免疫蛍光測定法(FIA)、免疫発光測定法、酵素免疫測定法(例えば、Enzyme Immunoassay(EIA)、Enzyme-linked Immunosorbent assay (ELISA))、免疫組織化学染色法、又はWestern blot法などが挙げられる。
このような検出方法としては、例えば、IL-12に結合する抗体を利用することができる。
【0025】
この検出に用いる抗体は、当業者に周知の技法を用いて得ることができる。本発明に用いる抗体は、ポリクローナル抗体でもよく、モノクローナル抗体でもよい。例えば、IL-12に対するポリクローナル抗体は、抗原を感作した哺乳動物(ラット、マウス、ウサギ等のヒト以外の実験動物)の血液を取り出し、この血液から公知の方法により血清を分離する。ポリクローナル抗体としては、ポリクローナル抗体を含む血清を使用することができる。あるいは必要に応じ各種クロマトグラフィーを用いて、この血清からポリクローナル抗体を含む画分をさらに精製することもできる。また、モノクローナル抗体を得るには、上記抗原を感作した哺乳動物から免疫細胞を採取して骨髄腫細胞などと細胞融合させる。こうして得られたハイブリドーマをクローニングして、その培養物から抗体を回収しモノクローナル抗体とすることができる。
【0026】
RIAで標識に用いる放射性物質としては、例えば、125I、131I、14C、3H、35S、又は32Pが挙げられ、FIAで標識に用いる蛍光物質としては、例えば、Eu(ユーロピウム)、FITC、TMRITC、Cy3、PE、又はTexas-Redなどが挙げられる。また、免疫発光測定法で標識に用いる発光物質としては、例えば、ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニン等が挙げられ、酵素免疫測定法で標識に用いる酵素としては、例えば西洋わさびペルオキシターゼ(HRP)、アルカリホスファターゼ(ALP)、グルコースオキシターゼ(GO)等が挙げられる。さらに、抗体又は抗原と、これらの標識物質との結合にビオチン-アビジン系を用いることもできる。
【0027】
IL-12遺伝子の発現レベルの測定は、公知の方法により実施することができ、例えばPCR法、ノーザンブロッティングなどが挙げられ、蛍光標識に基づく定量化、アガロースゲル電気泳動による発現産物の可視化などを行うことができる。
【0028】
一般に、高等動物の遺伝子は、高い頻度で多型を伴う。また、スプライシングの過程で相互に異なるアミノ酸配列からなるアイソフォームを生じる分子も多く存在する。多型やアイソフォームによって塩基配列に変異を含む遺伝子であっても、前記IL-12遺伝子と同様の活性を持ち、即時型アレルギーに関与する遺伝子は、いずれも本発明の検出の対象遺伝子に含まれる。前記IL-12遺伝子の塩基配列は公知であり、アクセッション番号、例えばIL-12B(p40)はNM_002187(配列番号1)、IL-12A(p35)はNM_000882(配列番号3)から入手できる。なお、IL-12B(p40)及びIL-12A(p35)のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号2、配列番号4に示す。
【0029】
例えば、配列番号1に示される塩基配列を有するポリヌクレオチド、又はその一部を含有するポリヌクレオチドをプローブとして用いてノーザンハイブリダイゼーションを行うことができる。
【0030】
本発明の検査に用いられるプローブまたはプライマーは、前記IL-12遺伝子の塩基配列に基づいて設定することができる。従って、例えば配列番号1又は3に示される塩基配列を有するポリヌクレオチド又はこれらの一部を含有するヌクレオチドからプライマーを設計し、IL-12遺伝子を増幅するPCR法を行うことができる。設計領域は、配列番号1又は3のコード領域及び非コード領域のいずれの領域でもよい。
【0031】
プライマー又はプローブには、IL-12遺伝子の塩基配列からなるポリヌクレオチド、又はその相補鎖に相補的な少なくとも15ヌクレオチドを含むポリヌクレオチドを利用することができる。ここで「相補鎖」とは、A:T(RNAの場合はU)、G:Cの塩基対からなる2本鎖DNAの一方の鎖に対する他方の鎖を指す。また、「相補的」とは、少なくとも15個の連続したヌクレオチド領域で完全に相補配列である場合に限られず、少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは90%、さらに好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の塩基配列上の相同性を有すればよい。塩基配列の相同性は、BLAST等のアルゴリズムにより決定することができる。
【0032】
このようなポリヌクレオチドは、IL-12遺伝子を検出するためのプローブとして、また当該遺伝子を増幅するためのプライマーとして利用することができる。プライマーとして用いる場合には、通常、15bp〜100bp、好ましくは15bp〜35bpの鎖長を有する。また、プローブとして用いる場合には、IL-12遺伝子又はその相補鎖の少なくとも一部若しくは全部の配列を有し、少なくとも15bpの鎖長のDNAが用いられる。プライマーとして用いる場合、3’側の領域は相補的である必要があるが、5’側には制限酵素認識配列やタグなどを付加することができる。
【0033】
これらポリヌクレオチドは、合成されたものでも天然のものでもよい。また、ハイブリダイゼーションに用いるプローブDNAは、通常、標識したものが用いられる。標識方法として、公知の任意の方法を用いることができる。なお、用語「オリゴヌクレオチド」は、ポリヌクレオチドのうち、重合度が比較的低いものを意味している。オリゴヌクレオチドは、ポリヌクレオチドに含まれる。
【0034】
ハイブリダイゼーション技術を利用した検査は、例えば、ノーザンハイブリダイゼーション法、ドットブロット法、DNAマイクロアレイを用いた方法などにより行うことができる。さらに、RT-PCR法等の遺伝子増幅技術を利用することができる。RT-PCR法においては、遺伝子の増幅過程においてPCR増幅モニター法を用いることにより、IL-12遺伝子の発現について、より定量的な解析を行うことが可能である。また、IL-12遺伝子発現の有無は、例えば定性RT-PCR等により解析することができる。
【0035】
また、免疫組織化学により、IL-12遺伝子又はIL-12の発現レベルを測定することも可能である。具体的には、免疫組織化学によりIL-12又はIL-12をコードするRNAを可視化し、IL-12量又はIL-12のRNA量を比較する。免疫組織化学染色法としては、具体的には、酵素標識抗体法、蛍光抗体法などが挙げられる。
【0036】
酵素標識抗体法は特に限定されるものではなく、直接法、間接法、アビジン・ビオチン化ペルオキシダーゼ複合体法、ストレプトアビジン・ビオチン化抗体法(SAB)法などの標識抗体法、あるいはペルオキシダーゼ・抗ペルオキシダーゼ法(PAP法)などの非標識抗体法が挙げられる。
蛍光抗体法も特に限定されるものではなく、直接法及び間接法のどちらも採用することができる。標識に用いる酵素又は蛍光物質としては、前記と同様のものが挙げられる。
【0037】
ここで、上記IL-12又はIL-12遺伝子の発現レベルは、減感作療法が有効であるか否かを検出又は診断するための臨界値となるものであり、有効性の関連性は例えば次のように設定することができる。
【0038】
I型アレルギー患者のIL-12の発現レベルが20pg/ml以上、好ましくは27.65pg/ml以上の場合に、減感作療法は有効であると判断できる。I型アレルギー患者のIL-12の発現レベルは、被検試料(例えば血清)中の濃度が20pg/ml以上であれば無効群との統計学的差異は60%であり、27.65pg/ml以上において無効群との統計学的差異は95%である。従って、これらの濃度以上であれば治療有効群と無効群との間でグループ分けすることができる。
他方、I型アレルギー患者のIL-12遺伝子の発現があったときは減感作療法は有効であると判断することができ、発現がなかったときは減感作療法は無効であると判断することができる。
【0039】
ところで、本発明の方法では、複数の患者由来の生体試料を用いてIL-12遺伝子又はIL-12の発現レベルを測定する場合がある。従って、予め規定された数の患者(1次母集団)において上記IL-12遺伝子又はIL-12の発現レベルを測定し、得られた測定値を基本データとして、この基本データと、2次母集団における検出の対象となる個々の患者由来の試料のIL-12遺伝子又はIL-12の発現レベルとを比較することができる。
【0040】
あるいは、それぞれの患者のデータを前記母集団の値に組み込んで発現レベルを再度データ処理し(平均値化等)、対象となる患者(母集団)の例数を増やすこともできる。例数を増やすことにより、IL-12又はIL-12遺伝子の発現レベルの臨界値の精度を高め、これにより検出又は診断精度を高めることができる。
【0041】
(2)遺伝子多型解析
抗原提示機能においては、組織適合複合体(MHC)の重要性が知られている。また、従来よりアレルギー疾患の感受性とMHCとの関連研究が行われている。
そこで本発明は、MHCの遺伝子多型解析を行うことができる。本発明の方法においてMHC遺伝子を解析する場合、対象となるMHC遺伝子として、MHC-II DRB1*12分子が挙げられる。
MHC-II DRB1*12をコードする遺伝子は公知であり(AY033428)、配列番号5で表わされる。なお、MHC-II DRB1*12遺伝子によりコードされるアミノ酸配列を配列番号6に示す。
【0042】
本発明においては、MHC遺伝子の遺伝子多型解析方法としては、MHC遺伝子の塩基配列を含むオリゴヌクレオチドプローブを用いて、あるいは前記MHC遺伝子の塩基配列及びその相補配列の少なくとも一方を増幅したときの増幅断片中に前記多型部位が含まれるように設計及び作製されたオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、MHC遺伝子について増幅処理及び/又はハイブリダイゼーション処理を行う工程を含む方法が挙げられる。
【0043】
このような検出方法の具体例としては、各種タイピング法、例えばPCR法、TaqMan PCR法、シーケンス法、マイクロアレイ法、インベーダー法、TILLING法などの公知の方法が挙げられる。本発明においては、例えば市販のキットを用いることも可能である(例えばPCR法に基づくHLAタイピングキットである「LABType SSO」(ベリタス社))。
【0044】
PCR法の場合、3’末端部分が変異部位の塩基配列に相補的な配列を有するようなプライマーを作製することが好ましい。このように設計されたプライマーを用いると、鋳型となるサンプルが多型を有する場合には、プライマーが完全に鋳型にハイブリダイズするため、ポリメラーゼ伸長反応が進むが、多型を有しない場合には、プライマーの3’末端のヌクレオチドが鋳型とミスマッチを生じるので、伸長反応は起こらない。したがって、このようなプライマーを用いてPCR増幅を行い、増幅産物をアガロースゲル電気泳動などによって分析し、所定のサイズの増幅産物が確認できれば、サンプルである鋳型が多型を有していることになり、増幅産物が存在しない場合には、鋳型が多型を有していないものと判断できる。
【0045】
PCR及びアガロースゲル電気泳動は周知技術である(例えば、Sambrook, Fritsch and Maniatis, ”Molecular Cloning: A Laboratory Manual” 2nd Edition (1989), Cold Spring Harbor Laboratory Press)。
【0046】
TaqMan PCR法とは、蛍光標識したアレル特異的オリゴとTaq DNAポリメラーゼによるPCR反応とを利用した方法である(Livak, K.J. Genet. Anal. 14, 143 (1999); Morris T. et al., J. Clin.Microbiol. 34, 2933 (1996))。
【0047】
シークエンス法とは、変異を含む領域をPCRにて増幅させ、Dye Terminatorなどを用いてDNA配列をシークエンスすることで、変異の有無を解析する方法である(Sambrook, Fritsch and Maniatis, ”Molecular Cloning: A Laboratory Manual” 2nd Edition (1989), Cold Spring Harbor Laboratory Press)。
【0048】
DNAマイクロアレイは、ヌクレオチドプローブの一端が支持体上にアレイ状に固定されたものであり、DNAチップ、Geneチップ、マイクロチップ、ビーズアレイ等を含むものである。DNAチップなどのDNAマイクロアレイアッセイとしてはGeneChipアッセイが挙げられる(Affymetrix社)。GeneChip技術は、チップに貼り付けたオリゴヌクレオチドプローブの小型化高密度マイクロアレイを利用するものである。
【0049】
インベーダー法とは、SNP等の遺伝子多型のそれぞれのアレルに特異的な2種類のレポータープローブ及び1種類のインベーダープローブの鋳型DNAへのハイブリダイゼーションと、DNAの構造を認識して切断するという特殊なエンドヌクレアーゼ活性を有するCleavase酵素によるDNAの切断を組み合わせた方法である(Livak, K. J. Biomol. Eng. 14, 143-149 (1999); Morris T. et al., J. Clin.Microbiol. 34, 2933 (1996); Lyamichev, V. et al., Science, 260, 778-783 (1993)等)。
【0050】
TILLING(Targeting Induced Local Lesions IN Genomes)法とは、変異導入した突然変異体集団のゲノム中の変異ミスマッチをPCR増幅とCEL Iヌクレアーゼ処理によってスクリーニングする方法である。
【0051】
上記に例示されるような検出方法においては、MHC遺伝子の多型部位を含むように作製されたオリゴヌクレオチドが、プローブ又はプライマーとして使用される。したがって、本発明は、MHC遺伝子の多型部位を含むように作製されたオリゴヌクレオチドも提供する。
【0052】
以上のように設計されたオリゴヌクレオチドプライマー又はオリゴヌクレオチドプローブは、公知の手段・方法により化学合成することができるが、一般には、市販の化学合成装置を使用して合成される。
なお、プローブには、予め蛍光標識(例えば、FITC、FAM、VIC、Redmond Dye等)及び蛍光標識に対するクエンチャーを付加して作業の自動化を図ることも可能である。
【0053】
そして、MHC-II DRB1*12遺伝子が発現したときは、舌下減感作療法が無効であると判断することができ、遺伝子が発現しないときは、舌下減感作療法が有効であると判断することができる。本発明において、DRB1*12遺伝子を有する患者の治療著効割合は約25%であったのに対し、DRB1*12遺伝子を有さない患者の治療著効割合は75%であった。従って、DRB1*12遺伝子を有さない患者は、75%の確率で減感作療法が有効であると判断することができる。
【0054】
5.減感作療法の増強
本発明においては、減感作療法における初期治療で抗原エキスの中にIL-12を添加することによって治療無効群の患者においても有効な減感作療法を行うことができる。上記の通り、即時型アレルギー患者のIL-12の発現レベル(例えば血清中濃度)が20pg/ml以上の場合、減感作療法は有効であると判断できる。しかし、即時型アレルギー患者のIL-12の発現レベルが上記値以下のときは、減感作療法が無効である可能性が高い。そこで本発明においては、このようなIL-12のレベルが低い患者に対してIL-12を投与することにより、減感作療法を受ける前の患者におけるIL-12レベルを、減感作療法が有効であると判断し得る患者のIL-12と同程度のレベルに高めておく。その結果、その後に続く減感作療法の効果を増強させて、減感作療法が無効であると思われる患者に対しても有効に減感作療法を行うことができる。
【0055】
IL-12は、抗原エキスの中に含めてもよく、抗原エキスとは別個に投与してもよい。また、抗原と結合した状態で投与してもよい。IL-12の投与量は、投与後の血清中の濃度が20pg/ml以上となるように適宜設定することができ、例えば体重1kgあたり0.01μg〜10mg、好ましくは1μg〜100μgである。
【0056】
6.即時型アレルギーの予防又は治療用医薬組成物
即時型アレルギーでは、抗原に感作された(一次感作)後に再度抗原に感作(二次感作)すると、抗体と反応して気管支喘息、蕁麻疹、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アナフィラキシーショック等の症状が誘発される。
本発明においては、抗原の一次感作時及び二次感作時の両者又は一方においてIL-12を投与することにより、上記即時型アレルギーを防ぐことができる。
【0057】
そこで本発明の別の態様では、IL-12を含む、即時型アレルギー(I型アレルギー)の予防又は治療用医薬組成物(即時型アレルギーの予防剤又は治療剤)が提供される。
本発明の医薬組成物の投与の対象となる患者は即時型アレルギー患者であり、前記「3.対象患者」の項で説明した患者に対して投与することができる。
本発明の医薬組成物の体内への投与は、例えば、非経口又は経口等の公知の用法で行うことができ、好ましくは非経口投与である。
【0058】
これら各種用法に用いる製剤(非経口剤や経口剤等)は、薬剤製造上一般に用いられる賦形剤、充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、潤滑剤、界面活性剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、矯味矯臭剤、無痛化剤、安定化剤、等張化剤等を適宜選択して使用し、常法により調製することができる。
【0059】
本発明の医薬組成物の投与量は、一般には、製剤中の有効成分(IL-12)の配合割合を考慮した上で、投与対象(患者)の年齢、体重、アレルギーの重症度、投与経路、投与回数、投与期間等を勘案し、適宜設定することができる。
【0060】
本発明の医薬組成物を非経口剤として用いる場合、一般にその形態は限定されるものではなく、例えば、静脈内注射剤(点滴を含む)、気管支内投与、吸入剤、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤、皮下注射剤、坐剤等のいずれであってもよい。
各種注射剤の場合は、例えば、単位投与量アンプル又は多投与量容器の状態や、使用時に溶解液に再溶解させる凍結乾燥粉末の状態で提供することができる。非経口剤には、前述した有効成分のほかに、各種形態に応じ、公知の各種賦形材や添加剤を上記有効成分の効果が損なわれない範囲で含有することができる。例えば、各種注射剤の場合は、水、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0061】
非経口剤の投与量(1回あたり)は限定されるものではなく、例えば適用対象(患者)の体重1kgあたり0.01μg〜10mg、好ましくは0.1μg〜1mgであることが好ましく、より好ましくは1μg〜100μgである。投与回数は、症状の改善の程度により1回から数十回、好ましくは1回から数回である。但し、本発明の医薬組成物を吸入剤として使用するときの投与量は、体重1kgあたり0.01μg〜10mg、好ましくは0.1μg〜10μg、投与回数は症状の改善の程度により、1回から数十回、好ましくは1回から数回である。
【0062】
経口剤として用いる場合、一般にその形態は限定されるものではなく、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、丸剤、トローチ剤、内用水剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤等のいずれであってもよく、使用する際に再溶解させる乾燥生成物にすることもできる。当該経口剤には、前述した有効成分のほかに、各種形態に応じ、公知の各種賦形剤や添加剤を上記有効成分の効果が損なわれない範囲で含有させることができる。賦形剤及び添加剤としては、例えば結合剤(シロップ、アラビアゴム、ゼラチン、ソルビトール、トラガカント、ポリビニルピロリドン等)、充填材(乳糖、糖、コーンスターチ、馬鈴薯でんぷん、リン酸カルシウム、ソルビトール、グリシン等)、潤滑剤(ステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール、シリカ等)、崩壊剤(各種でんぷん等)、湿潤剤(ラウリル硫酸ナトリウム等)等が挙げられる。
【0063】
7.マイクロアレイ及びキット
また、本発明のオリゴヌクレオチドの一端をガラス、シリコン、ゲルなどの支持体に固定することでマイクロアレイを作製することができる。オリゴヌクレオチドのアレイは、例えば、固相化学合成法と半導体産業において用いられているフォトリソグラフィー製造技術とを組み合わせた光照射化学合成法(Affymetrix社)により製造される。チップの化学反応部位の境界を明確するためにフォトリソグラフィーマスクを利用し、特定の化学合成工程を行うことによって、アレイの所定の位置にオリゴヌクレオチドプローブが貼り付けられた高密度アレイを構築することができる。
【0064】
また、本発明の別の態様では、本発明のオリゴヌクレオチド及び/又は該オリゴヌクレオチドを用いて作製したマイクロアレイを含む、MHC遺伝子の多型検出用キットが提供される。このようなキットには、本発明のオリゴヌクレオチド又は該オリゴヌクレオチドを用いて作製したマイクロアレイ以外にも、検出反応用の溶液、コントロール用のオリゴヌクレオチド、検出反応に利用する容器、使用説明書などが含まれていてもよい。
【0065】
さらに本発明の別の態様では、減感作療法を増強するために、あるいは即時型アレルギーを予防又は治療するために、IL-12を含むキットが提供される。IL-12は、抗原エキスに混合して、あるいはIL-12を単独で、アレルギー患者、例えばIL-12レベルが低いアレルギー患者に投与することができる。従って、キットの中には、IL-12のほか、投与用注射器、投与スケジュール等を記載した使用説明書などを含めることができる。
【0066】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例は、本発明の例示を目的とするものであり、本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0067】
<方法>
1.治療有効群と無効群との選別
まず、2年間にわたる花粉症治療薬(減感作療法用薬)の投与において、スギ花粉症に対する舌下減感作療法の治療効果に関する検討を行った。減感作療法用薬(標準化スギ花粉エキス〔鳥居薬品製〕)は表1に示す投与スケジュールで行った。
【0068】
【表1】

【0069】
アレルギー症状に対して顕著な治療効果が認められた患者群(治療有効群)と治療効果が認められなかった群(症状が治療によって悪化又は変化がない群:治療無効群)とに分類を行った。その方法として、平成18(2006)年8月における治療前の症状と平成19(2007)年4月における治療中間期の症状、さらに平成20年(2008)4月における治療後期における症状について、アレルギー日誌における鼻粘膜の症状を総括的にスコアー化された臨床症状を指標として、花粉症治療の有効群と無効群の選別を行った。
【0070】
2.血清採取
舌下減感作療法期間中、採血は図1のスケジュールにて8回(採血1〜採血8)行った。1回の採血量は一人当たり8mlであり、採血後直ちに遠心分離操作を行い、血清を分離した。分離された血清は、1mlづつ分注し、使用時まで-80℃にて保存を行った。
【0071】
3.DNAとRNA採取
舌下減感作療法を施す前後のRNAサンプルは、上記の血清とは別に、図1における採血1(治療前)と採血7(治療後)より採取した。
舌下減感作療法は、202名の患者に対し実薬投与を行っており、平成18(2006)年8月より2年間の実施を行った。実施は、日本国内の8か所の病院で行った。血液サンプルは図1に示す採血1〜8のスケジュールで行い、DNAサンプルは、図1に示す採血2により抽出した。
【0072】
1回の採血量は一人当たり8mlであり、採血後直ちにフローサイトメトリー(ベクトン社製FACSaria)にて細胞分離操作を行い、CD4T細胞、樹状細胞などに分離した。分離された細胞は、それぞれ使用時まで細胞用凍結保存培地に懸濁後-80℃にて保存を行った。
【0073】
平成20(2008)年6月に行われた治療効果判定に伴い、治療有効と無効に分類したサンプルより25人ずつ選別し、通例に従いRNAを精製した。精製されたメッセンジャーRNA(mRNA)は直ちに遺伝子解析装置(アフィメトリックス社製DNAチップ)に供した。
一方、DNAの採取は上記の通り試験期間を通じて1回行い、採血量は一人当たり8mlであった。採血後直ちに遠心分離操作を行い血液細胞を分離した。得られた血液細胞より通例に従ってDNAを採取した。精製分離されたDNAは遺伝子解析時まで-80℃にて保存を行った。
【0074】
4.血清検査
上記にて得られた血清は、スギ花粉特異的IgE量(RISA−すぎ)ならびに総IgE量(RAST)を通例に従いELISA法にて測定した。また血液中の免疫に関与する50種類(表2)の液性因子を蛍光ビーズ測定法(Bio-Rad社製バイオプレックス)にて測定を行った。
【0075】
【表2】

【0076】
5.遺伝子多型解析
1)HLA(Human Leukocyto Antigen)の解析
治療効果に関わる白血球の血液型を決定するために、DNAタイピング法を用いて行った(図6参照)。
上記により採取されたDNAサンプルは、血液型の多型解析において代表的なローカスとして、MHC-class IのAとBローカスの2種類を、MHC-class IIではDR−B1ローカスの1種類について、各MHC遺伝子グループ内の分類基準として、それぞれserotype2桁レベルでHLAタイピングを行った。
具体的には、ベリタス社製HLA-DNAタイピングキット/LABType SSOを用いてPCR法にて関連遺伝子を増幅した。
【0077】
増幅後、特定DNA断片が付着した蛍光ビーズを測定器にて解析を行いHLAの判定を行った。この場合、2桁レベルの解析を行った。解析はMHC-IのAローカスとBローカスについて、MHC-IIはDR-B1ローカスについて日本人に多くみられるハプロタイプを優先に行った。
【0078】
<結果>
1.治療著効群と無効群との選別
治療開始時より2年間の舌下減感作療法を施行し2008年(平成20年)6月における臨床症状に関する問診を受けた患者154人を対象にした。そこでこれまでの症状の評価に加え、ヒノキ特異的IgEのデータや、QOLのデータを加味し調査した結果、図2に示す結果となった。
【0079】
図2において、上段左のグラフが示すように、症状のスコアーの平均を事前検診の結果と比較して年度ごとに症状が緩和されており、治療が成功したことを表している。この治療著効群においては、38人を抽出した。一方、下段のグラフに示したように、事前検診のアレルギー症状の平均スコアーの推移が年次ごとに変化がないかむしろ上昇しているのが認められる。これは、2年間の舌下減感作療法が結果的に有効ではなかった患者群を示している。この治療無効群から37人を抽出した。さらに抽出された患者群においてその治療効果が悪かった順に上から色別の百分位で図2の右パネルに示した。
【0080】
症状は、最高(症状が重症)がスコアー5で赤く示しており、最低(症状が軽症)が1で緑で示している。最高と最低のスコアーの間のスコアーは赤から緑への濃度勾配によって示している。治療効果別に抽出された患者は、著効群においては上から下にかけて効果が高い順に並んでおり、治療無効群においては上から治療効果が悪かった順に並んでいる。そこで、それぞれの群の中から上位25名を今後の遺伝子解析へ供した。
【0081】
2.血液検査
1)スギ花粉特異的IgEと治療効果
上記の治療著効群38人と無効群37における舌下減感作療法における血中IgE量の推移を図3に示した。なお、本明細書において、「著効群」とは、「有効群」と同義である。
図3は、抗体価を色別の百分位で表したものである。著効群及び無効群における患者の並べ方は図2の患者抽出時に示してある個人の症状推移と同様であり、著効群においては上から症状改善が良好の順に並べてあり、無効群では上から症状が治療によってさらに悪化した順に並べてある。
【0082】
横1列のカラムは、患者一人のIgE量の推移を色別に示したものであり、最低濃度のIgE量を緑色で、最高濃度のIgE量を赤色で表し、その間のIgE量を緑から赤にかけての百分位による濃度勾配で示してある(緑〜赤は、「IgE濃度が低い〜高い」を示している。)。
スギ花粉特異的IgE量及び総IgE量は、治療著効群及び無効群を比較しても大きな違いは認められなかった。また個々のIgE量の推移を検討してみると、治療著効群において減少しているケースは少なく、症状の改善がなされているにもかかわらず、IgE量は増加する傾向にあった。
一方、治療無効群における症状の悪化はその症状の重症度が大きいほどIgE量の経時的増加が認められた。また、この群の中でも緑色で示されるように常に低レベルのIgE量を保ちながら推移しているにもかかわらず臨床症状が悪化するケースも多く認められた。
【0083】
2)治療効果別による血清中の免疫関連液性因子の検索
そこで、治療効果に影響を与える免疫関連液性因子を治療著効群と無効群とで網羅的に解析を行った。またこの検索は、舌下減感作療法における2年後の治療効果を予測できるタンパク質バイオマーカーの検索にも繋がる。2年間の治療期間において採血を行い、治療効果別に患者血清を分類し、50種類の免疫応答関連液性因子であるサイトカイン、ケモカイン及び細胞増殖因子に関して網羅的に測定を行った。その結果、IL-12(p70)に関して、治療著効群と無効群との比較で経時的に血中濃度の推移の違いが優位に認められた(図4)。
【0084】
図4は、治療効果に影響を与える免疫関連液性因子を治療著効群と無効群とで網羅的に解析を行った結果を示す図である。特に治療前の血清中におけるIL-12量が多い患者群では治療の効果が高いことが明らかとなった。
この結果は、舌下減感作療法における2年後の治療効果を、IL-12を指標として舌下減感作療法を行う前に予測することができ、IL-12がタンパク質バイオマーカーとして機能することを意味するものである。
【0085】
3.治療効果別による遺伝子多型解析
1)治療効果とHLA解析
次に、抗原提示機能において組織適合複合体(MHC)の重要性が知られている。また従来よりアレルギー疾患の感受性とMHCとの関連研究が行われてきた背景もあり、治療著効群と無効群における個々のHLA(MHC)を解析した。
日本人に比較的多くみられるMHCをターゲットとして分析した結果、MHC-II DRB1*12(図5)の分子が存在する患者群において治療成績が悪かった(治療無効群)。
このことは、DRB1*12が発現すると、減感作療法が有効ではないこと、すなわち、減感作療法を行っても治療効果を得られる可能性が低いことを意味し、患者に余計な減感作療法を施す必要がないと判断することができる。
【実施例2】
【0086】
アレルギーモデル動物に対するIL-12の効果
OVA(ニワトリ卵白アルブミン)と水酸化アルミニウムとの混合物をマウスの腹腔に接種した。IL-12投与は、1回につきマウスIL-12(1.0mg/body)を腹腔内接種することにより行った(図7上パネル)。接種4週後、2度目のOVA接種を行うことによりアレルギーモデルマウスを作製した。
初回OVA接種してから12週目に、OVAを気管支に接種して(i.t.)アレルギー症状を誘発した。
【0087】
結果を図7に示す。図7において、下パネルはマウス肺胞洗浄液から分離された細胞の種類と数を示している。分離されたそれぞれの細胞のグラフにおいて、右から2番目のバーは、アレルギー病態が亢進している状態を示すものである。これに対し、IL-12を投与した群(各細胞のグラフにおいて左から3番目、4番目及び6番目のバー)では、いずれもアレルギー症状が減少しているのが認められた。
このことからIL-12の投与によってアレルギー症状の予防及び改善が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明は、即時型アレルギー患者の減感作療法が有効であるか否かを検査することができ、本発明の方法を、即時型アレルギーの治療又は治療薬の選定に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
即時型アレルギー患者由来の被検試料におけるインターロイキン12遺伝子又はインターロイキン12の発現レベルを測定することを特徴とする、減感作療法の有効性の検出方法。
【請求項2】
即時型アレルギー患者由来の被検試料におけるMHC-IIのDRB1*12遺伝子の発現の有無を測定することを特徴とする、減感作療法の有効性の検出方法。
【請求項3】
インターロイキン12の被検試料中の濃度が20pg/ml以上のときは、減感作療法が有効であると判定するものである請求項1に記載の方法。
【請求項4】
DRB1*12遺伝子が発現しているときは、減感作療法が無効であると判定するものである請求項2に記載の方法。
【請求項5】
減感作療法が舌下減感作療法である請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
即時型アレルギーが、花粉症、蕁麻疹、食物アレルギー、ダニアレルギー、アレルギー性鼻炎、気管支喘息及びアトピー性皮膚炎からなる群から選ばれる少なくとも1つである請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
被検試料が血液である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
測定が免疫測定法又はマイクロアレイによる測定である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
インターロイキン12を含む、即時型アレルギー患者における減感作療法の増強剤。
【請求項10】
インターロイキン12を含む、即時型アレルギーの予防又は治療用医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−87473(P2011−87473A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−241435(P2009−241435)
【出願日】平成21年10月20日(2009.10.20)
【出願人】(591063394)財団法人 東京都医学研究機構 (69)
【出願人】(500557048)学校法人日本医科大学 (20)
【Fターム(参考)】