説明

温度分布測定装置

【課題】 良好な精度を維持しつつ、装置の小型化、コスト低減ができる温度分布測定装置を提供すること。
【解決手段】 赤外線を検出する素子を複数列状に配置したセンサアレイ5と、赤外線の検出を面状に行なうようセンサアレイ5を揺動させるステップモータ3と、センサアレイ5の揺動位置を検出するフォトインタラプタ7と、ステップモータ3の揺動駆動を制御し、且つ検出範囲の両外側で折り返す際に、移動速度を検出範囲より低くする制御を行なう制御回路8と、装置全体を覆い、且つセンサアレイ5が揺動範囲を開口させた筐体2と、赤外線を透過する部材で筐体2の開口を覆った窓部材21とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、車室内に空調のために車室内の温度を分布で測定する温度分布測定装置の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来では、車室内に赤外線を照射する赤外線LEDと1次元PSD(光学式位置検出素子)を配置し、1次元PSDをX方向に回動させるX軸用モータと、1次元PSDをY方向に回動させるY軸用モータとを設けて、1次元PSDをX軸方向及びY軸方向に回動させて、車室内をスキャンさせて、測定された距離分布より、助手席の乗員の有無等を判断している(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平10−119710号公報(第2−9頁、全図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の技術を温度分布測定装置に転用したものでは、装置の小型化、コストの低減が充分ではなかった。
【0004】
本発明は、上記問題点に着目してなされたもので、その目的とするところは、良好な精度を維持しつつ、装置の小型化、コスト低減ができる温度分布測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明では、赤外線を検出する素子を複数列状に配置した赤外線アレイと、赤外線の検出を面状に行なうよう前記赤外線アレイを揺動させるアクチュエータと、前記赤外線アレイの揺動位置を検出する揺動位置検出手段と、前記アクチュエータの揺動駆動を制御し、且つ検出範囲の両外側で折り返す際に、移動速度を検出範囲より低くする制御を行なう制御手段と、装置全体を覆い、且つ前記赤外線アレイが揺動範囲を開口させた筐体と、赤外線を透過する部材で前記筐体の開口を覆った窓部材と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
よって、本発明にあっては、良好な精度を維持しつつ、装置の小型化、コスト低減ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の温度分布測定装置を実現する実施の形態を、実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0008】
まず、構成を説明する。
図1は実施例1の温度分布測定装置の正面図である。図2は図1のA−A断面図である。
【0009】
実施例1の温度分布測定装置1は、筐体2、ステップモータ3、基板4、センサアレイ5、反射板6、フォトインタラプタ7、制御回路8を主な構成としている。
筐体2は、装置の各部を覆うものであり、検出面として一部を開口している。この開口面を塞ぐように、窓部材21を設ける。窓部材21は、赤外線を透過するポリエチレンフィルム等でできており、検出する面状の範囲、つまりセンサアレイ5の必要な視野角を遮らない大きさにする。
【0010】
ステップモータ3は、マイクロステップ駆動又はギア付ステップモータであり、駆動制御によりステップする作動を行なう。
基板4は、センサアレイ5の検出に関する回路及びセンサアレイ5を実装し、ステップモータ3の出力軸に取り付けられる。また、基板4の端部には、反射板6を取り付ける。
センサアレイ5は、窓部材21を透過して外部の温度分布を検出する。赤外線検出素子の配列方向を水平方向とし、垂直方向へ移動させることにより、検出範囲を面状にしている。
【0011】
フォトインタラプタ7は、発光部と受光部を有し、所定の範囲に反射板6が位置する間、発光部の発光を反射板6で反射し、受光部で受光することで、センサアレイ5の回転位置を検出する。
ステップモータ3、フォトインタラプタ7、センサアレイ5の制御信号等は、電線を介して制御回路8へ接続する。
【0012】
図3は温度分布測定装置1の制御回路8のブロック図である。
制御回路8は、マイクロコンピュータ81、駆動回路82、増幅回路83を主要な構成としている。
マイクロコンピュータ81は、駆動回路82に対し、ステップモータ3の制御信号をポートより出力する。また、フォトインタラプタ7の受光信号をA/D2で取り込む。また、センサアレイ5に対して、素子切替信号等制御信号をポートより出力し、各素子の出力を増幅回路83からA/D0で取り込み、センサアレイ5に内蔵された基準温度信号をA/D1で取り込む。また、PC等外部機器と受信、送信ポートにて送信し、温度データ等をやり取りする。
【0013】
駆動回路82は、マイクロコンピュータ81からの指令に従ってステップモータ3を駆動する。
増幅回路83は、センサアレイ5の出力を増幅して、マイクロコンピュータ81へ出力する。
【0014】
次に作用を説明する。
【0015】
[温度分布測定装置について]
本願の温度分布測定装置では、従来の技術における位置検出素子を赤外線検出素子に用いたものに対して、車両への搭載を容易にするためにコスト低減と小型化の両立性から、赤外線検出素子(センサ)を水平方向に複数配列したサーモパイル赤外線センサアレイ、つまりセンサアレイ5を用いて、水平方向への揺動の必要性をなくし、これに関する構成を省略することで、コスト低減と小型化の両立をはかっている。
【0016】
しかしながら、この構成を採用することにより、以下の問題を生じた。
赤外線透過可能な材質の前面カバーでは、内部温度が上昇しやすいという問題がある。
センサアレイ5の揺動部分を開放すると、物の挟みこみを生じる可能性がでてくる。
また、エアコンからの温風又は冷風による影響で、センサ出力が温度不均衡になり不安定になる可能性がある。
また、センサアレイ5に接続される電線によるたわみ方向が変化する際の引っ張り力により、揺動方向が変化する際にステップモータ3が脱調し、上がり方向と下がり方向で位置が異なる。
【0017】
本実施例1の温度分布測定装置では、これらの問題点を解消している。
【0018】
[温度分布測定処理]
図4は、温度分布測定装置の制御回路8で実行される温度分布測定処理の流れを示す4つのフローチャートである。
(a)メイン処理
図4(a)に示す処理に対して、図4(b)〜(d)の処理が割り込み処理を行なう。
マイクロコンピュータ81に電源が入るとリセットがかかる。リセットが解除されると、ステップS100の処理が始まる。
【0019】
ステップS101では、スタックポインタをセットする。
【0020】
ステップS102では、タイマー、A/D、ポート、割り込み等のレジスタをセットする。なお、ステップS110〜S115に示す定時割り込み、ステップS120〜S124に示す受信割り込み、ステップS130〜S134に示す送信割り込みが可能なように設定する。
【0021】
ステップS103では、割り込み解除を行なう。
以降ループする。
【0022】
(b)定時割り込み処理
【0023】
割り込み解除後で一定の時間が経過する毎に、定時割り込みが発生し、ステップS110以降の処理が始まる。
【0024】
ステップS111では、フォトインタラプタ7の受光信号をA/D2で取り込み、センサアレイ5に内蔵された基準温度信号をA/D1で取り込み、センサアレイ5の各素子の出力を増幅回路83で増幅した信号をA/D0で取り込む。
【0025】
ステップS112では、ステップモータ3が必要角度動作した後、A/D1で取り込んだセンサアレイ5に内蔵された基準温度信号と、A/D0で取り込んだセンサアレイ5の各素子の出力を増幅回路83で増幅した信号により各素子毎の取り込んだ対象温度を計算する。A/D0で取り込んだセンサアレイ5の各素子の出力について、次の素子の出力を取り込むために素子の切替信号を出力する。
【0026】
ステップS113では、位置決め前の時、A/D2で取り込んだフォトインタラプタ7の受光信号が反射板6にて発光信号が反射された場合に位置決めできたものとする。
【0027】
ステップS114では、センサアレイ5の各素子の出力を全て取り込んだ場合、次の角度に移動するため、ステップモータ3を駆動する。端まで駆動されたら、移動する角度の方向を逆にし、最初の角度位置に達するまでゆっくり移動させる。
【0028】
ステップS115では、割り込み処理から復帰する。
【0029】
(c)受信割り込み処理
割り込み解除後で外部機器から通信データを受信する毎に、受信割り込みが発生し、ステップS120以降の処理が開始する。
【0030】
ステップS121では、受信したデータを受信バッファに記憶する。
【0031】
ステップS122では、全ての受信データを受信したかどうかを判断し、全て受信したならばステップS123に進み、まだ全て受信していない場合には、ステップS124へ進む。
【0032】
ステップS123では、受信バッファに記憶された受信したデータを解析し、必要な処理を行なう。また、応答を外部機器に送信するため、送信割り込みを許可して最初のデータを送信する。
【0033】
ステップS124では、割り込みから復帰する。
【0034】
(d)送信割り込み処理
割り込み解除後で外部機器から通信データへ送信終了する毎に、送信割り込みが発生し、ステップS130以降の処理が開始される。
【0035】
ステップS131では、次に送信するデータを送信バッファより取り出して送信する。
【0036】
ステップS132では、送信バッファのデータを全て送信したかどうかを判断し、全て送信したならばステップS133へ進み、まだ全て送信していないならばステップS134へ進む。
【0037】
ステップS133では、送信割り込みから復帰する。
【0038】
ステップS134では、割り込みから復帰する。
【0039】
[温度分布測定]
本実施例1における揺動動作について、まず説明する。
まず、所定の検出範囲の始め位置である位置決め位置まで、最初に低速(検出速度より低速)で動作させる。この位置決め位置までの移動速度は、検出範囲の移動速度より低速で移動させる。その後、検出範囲として80°まで検出速度で5°毎揺動させる。
80°に達したら、75°までのターンする動きを検出速度よりも低速で行い、以降検出速度で5°毎動かす。
0°に達したら、5°までのターンする動きを検出速度よりも低速で行い、以降、これを繰り返す。
5°毎に一定時間待った後、センサアレイ5の各素子の温度を取り込む。取り込み終了したら、次の角度まで動かすようにする。なお、角度値については、任意の値でよく必要に応じて決めればよい。
【0040】
このように、本実施例1の温度分布測定装置では、揺動方向切替時に同じ位置になる様にステップモータをゆっくり低速で動作させ、位置を調整するようにしている。これにより上がり方向、下がり方向共に同じ角度位置で温度分布を測定できるようになる。本実施例1では、80°の揺動をするため、インストパネルの運転席側の上半身が80°内に入る位置に配置すれば乗員、特に運転者の体の温度分布が分かる。また、ルームミラー近辺に置けば、運転席及び助手席の温度分布が分かる。さらに大きく揺動させ、ルームランプ近辺に置けば、全席の温度分布が分かる。
【0041】
また、センサアレイ5をステップモータ3の軸上に基板4を置いて実装しているが、基板4の位置をずらしてセンサアレイ5のレンズ部をステップモータ3の軸上にすると、窓部材21の大きさが狭くなる。このような配置にしてもよい。
【0042】
また、本実施例1の温度分布測定装置1では、センサアレイの配列位置は一定であり、正確である。また、このことから、面で検出される温度分布への補正が可能となる。よって、センサアレイ5を用いたマトリクスの温度データが正確に取り込める。
さらに、センサアレイ5を直接揺動させることにより、広角度に光学的歪がない温度分布を測定する。
【0043】
次に、効果を説明する。
【0044】
第1実施例の温度分布測定装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0045】
(1)赤外線を検出する素子を複数列状に配置したセンサアレイ5と、赤外線の検出を面状に行なうようセンサアレイ5を揺動させるステップモータ3と、センサアレイ5の揺動位置を検出するフォトインタラプタ7と、ステップモータ3の揺動駆動を制御し、且つ検出範囲の両外側で折り返す際に、移動速度を検出範囲より低くする制御を行なう制御回路8と、装置全体を覆い、且つセンサアレイ5が揺動範囲を開口させた筐体2と、赤外線を透過する部材で筐体2の開口を覆った窓部材21とを備えるため、良好な精度を維持しつつ、装置の小型化、コスト低減ができる。
【0046】
本実施例の効果について、さらに説明する。本実施例では、センサアレイ5の赤外線検出素子の配列方向(水平方向)に対して、センサアレイ5を上下に揺動させることにより、面状に検出を行う。この上下の揺動の際、センサアレイ5が検出する際には、センサアレイ5がその位置を精度よく静止していることが好ましい。これに対し、ステップ状に精度よい作動を行うステップモータ3を用いている。これにより、位置安定させた状態での検出と精度よいマトリクス位置での検出を行うのである。その上で、本実施例1では、ステップモータ3の小型化と低コストのために、必要最小限のトルク定格のステップモータにしているのである。そのために、出力軸へ作用する電線のコシや、センサアレイ5などによる慣性が大きな問題となる。
【0047】
これに対して従来の考えでは、ステップモータのトルクを大きくして、静止位置の保持トルクや駆動トルクを大きくして、上記の問題を解決する。また、従来の考えでは、検出範囲の検出速度に対し、それ以外の範囲では、検出に寄与しないため高速で移動させる。
【0048】
本実施例1では、あえて、検出範囲外において、検出範囲よりも低速で移動させることにより、電線のコシや、慣性等の影響を抑制して、精度よく検出範囲の揺動を始めるための位置決め位置へ復帰させるのである。つまり、精度よく位置決め位置へ復帰させ、その後の制御を行うことで、脱調が防止されるのである。脱調が防止されることで、小型で低コストな温度分布測定装置が実現するのである。また、精度よく位置決めへ復帰することは精度のよいマトリクス位置での検出となるのである。
【0049】
以上、本発明の温度分布測定装置を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0050】
例えば、アクチュエータは、ステップモータ以外であってもよい。
【0051】
実施例1では、揺動位置の検出を反射板とフォトインタラプタで行っている。つまり、反射板の反射が行われている間が、所定の検出範囲となるのである。これに対し、反射と非反射をさらに複数繰り返すようにしてもよい。また、別の検出手段を用いるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】実施例1の温度分布測定装置の正面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】温度分布測定装置1の制御回路8のブロック図である。
【図4】温度分布測定装置の制御回路8で実行される温度分布測定処理の流れを示す4つのフローチャートである。
【符号の説明】
【0053】
1 温度分布測定装置
2 筐体
21 窓部材
3 ステップモータ
4 基板
5 センサアレイ
6 反射板
7 フォトインタラプタ
8 制御回路
81 マイクロコンピュータ
82 駆動回路
83 増幅回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線を検出する素子を複数列状に配置した赤外線アレイと、
赤外線の検出を面状に行なうよう前記赤外線アレイを揺動させるアクチュエータと、
前記赤外線アレイの揺動位置を検出する揺動位置検出手段と、
前記アクチュエータの揺動駆動を制御し、且つ検出範囲の両外側で折り返す際に、移動速度を検出範囲より低くする制御を行なう制御手段と、
装置全体を覆い、且つ前記赤外線アレイが揺動範囲を開口させた筐体と、
赤外線を透過する部材で前記筐体の開口を覆った窓部材と、
を備えることを特徴とする温度分布測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−3419(P2007−3419A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−185693(P2005−185693)
【出願日】平成17年6月24日(2005.6.24)
【出願人】(000004765)カルソニックカンセイ株式会社 (3,404)
【Fターム(参考)】