説明

温度分布表示装置

【課題】
汎用のカラーカメラを使用してサーモグラフィを実用的に完成し、温度分布可視化撮影表示装置、欠陥検出表示装置を提供する。
【解決手段】
温度分布可視化撮影表示装置あるいは欠陥検出表示装置は、赤外線により発光する発光物質2を表面に塗布した温度分布被写体1と、温度分布被写体1を撮影するカラーカメラ5と、カラーカメラ5で撮影した温度分布に対応するカラー分布像の表示手段7または8とを備えている。必要に応じてフィルタ4が挿入される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被写体表面を可視化し、カラーカメラで撮影してサーモグラフィとする表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
サーモグラフィは、被写体である物体表面の温度分布を画像表示するものである。巨大な被写体を目的とする場合は地理的規模の温度分布、限られた大きさの被写体を目的とする場合は人体等の動物、あるいは植物等の温度分布、または物体の欠陥部位の分布を表示する装置として利用されている。
【0003】
サーモグラフィの原理は、被写体の部位ごとの温度、すなわち被写体の部位から放射する熱エネルギーを検出して、その温度分布をモノクロあるいはカラー画像として表示するものである。モノクロ画像は、温度の高低をグレースケールで表すが、グレースケールは視認し難いため、カラー画像によって温度の高低を色分けして表示するものが多い。
【0004】
被写体からの熱エネルギーを検出するには、主には被写体を赤外線カメラで撮影することで行われる。赤外線カメラの撮影像を表示すればグレースケールのモノクロ画像が得られるが、グレースケールを電気的画像処理によって変換することでカラー画像を表示している。赤外線カメラを使用するサーモグラフィを欠陥検査に利用した例は、特許文献1に示されている。
【0005】
特許文献2には、カラーCCDカメラを使用する温度分布可視化装置(サーモグラフィ)が開示されている。熱エネルギーによって発光する発光物質を被写体に塗布し、これに励起光を照射し、発光物質の発光像をカラーCCDカメラで撮像する。これから色毎に分解された画像を取得、色画像比(Red/Green、Green/Blueなど)を温度に換算することで2次元温度分布をリアルタイムで画像化している。しかし、発光物質としてどのような物質が有効であるか等の記載はない。
白金ポルフィリンを分子温度計として使う技術は、非特許文献1に開示され、白金ポルフィリンが熱エネルギーによって発光する蛍光物質であることが確認されている。
【0006】
【特許文献1】特開2001−108634号公報
【特許文献2】特開2005−134134号公報
【非特許文献1】John M. Lupton: A molecular thermometer based on long-lived emission from platinum octaethyl porphyrin, Applied Physics Letters, Volume 81, Number 13, 23 September 2002
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2の温度分布可視化装置は、赤外線カメラではなく、一般に汎用されているカラーCCDカメラを使用する点で、実用上発展の望めるサーモグラフィ技術といえる。しかし特許文献2には、画像処理の原理的、あるいは物理的な理論が記載されているが具体性がなく、当業者が実施できる程度に技術を開示していない。
そこで本発明は、汎用のカラーカメラを使用してサーモグラフィを実用的に完成し、温度分布可視化撮影表示装置、欠陥検出表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するためになされた、特許請求の範囲の請求項1に記載された温度分布可視化撮影表示装置は、紫外線により励起して発光する発光物質を表面に塗布した温度分布被写体と、該温度分布被写体を撮影するカラーカメラと、該カラーカメラで撮影した温度分布に対応するカラー分布像の表示手段とを備えたことを特徴とする。
【0009】
同じく前記の目的を達成するためになされた、特許請求の範囲の請求項2に記載された欠陥検出表示装置は、紫外線により励起して発光する発光物質を表面に塗布した被検体と、該被検体を撮影するカラーカメラと、該カラーカメラで撮影した温度分布に対応するカラー分布像を該被検体の欠陥部位として表示する表示手段とを備えたことを特徴とする。
【0010】
また特許請求の範囲の請求項3に記載の表示装置は、請求項1または2に記載の表示装置であって、該発光物質が少なくとも二つの発光波長ピークを有することを特徴とする。
【0011】
特許請求の範囲の請求項4に記載の表示装置は、請求項1または2に記載の表示装置であって、該発光物質が白金ポルフィリンであることを特徴とする。
【0012】
特許請求の範囲の請求項5に記載の表示装置は、請求項1または2に記載の表示装置であって、該カラーカメラの光入射光路上に該発光物質の発光スペクトルを補正する吸収スペクトルを持つフィルタを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の表示装置で、発光物質を塗布してある被写体あるいは被検体に励起光を照射し、発光像をカラーカメラで撮像すると、色毎に分解された画像を取得、色画像比(Red/Green/Blue等)を温度に換算することで2次元温度分布をリアルタイムで画像化し表示できる。
【0014】
本発明の表示装置は、赤外線カメラではなく、通常の可視光カラーカメラを使用したサーモグラフィであるため、実用的に優れている。発光物質を塗布できる被写体あるいは被検体であれば、容易にその被写体等の温度分布に対応するカラー画像を表示手段により視認でき、また視認した温度分布から被検体の欠陥や物性の特異変化等を観察できる。
【発明を実施するための好ましい形態】
【0015】
本発明の好ましい実施形態を説明するが、本発明の範囲は以下の実施形態に限定されるものではない。
図1は本発明を適用する温度分布可視化撮影表示装置の一実施形態を示す構成図である。図1に示すとおり装置は、励起光源3と、カラーカメラ5と、コンピュータ6と、表示装置7と、プリンタ8とからなる。カラーカメラ5と被写体1との間にはフィルタ4が挿入される。
【0016】
被写体11のカラーカメラ5側の面には、発光物質2が塗布されている。発光物質とは、蛍光物質、および燐光物質の両者を含む概念である。尚、発光物質2の塗布は、被写体1の全面になされていてもよい。発光物質2は、温度によって発光スペクトルの形状変化や複数の発光ピーク間の強度比が変化するもので、例えば下記化学式に示すオクタエチル白金ポルフィリン
【化1】

である。
オクタエチル白金ポルフィリンは、λ=365nmの励起光を与えることで活性化が見られ、20〜180℃のときに発光する。
【0017】
この他、有機発光材料エレクトロルミネッセンス材料で鉛ポルフィリンなどの重金属を含むポルフィリン類のほか,クマリン類,キナクリドン類,スチリル誘導体などが発光物質として使用できる。
発光物質の塗布は、その溶液または分散液に被写体を浸漬する、発光物質の粉体を被写体にふりかける、バインダー物質に含まれた発光物質を塗布する等の方法が採用される。あるいは発光物質を被写体に化学的に結合させてもよい。
【0018】
励起光源3は、発光物質2を励起状態にする波長光を照射するもので、発光物質2が上記したオクタエチル白金ポルフィリンである場合λ=365nmの励起光が必要であるから、紫外線水銀ランプが適している。カラーカメラ5は、通常汎用されているCCD(チャージカップルデバイス)を受光素子とする可視光撮影のカラーカメラである。コンピュータ6は、画像処理機能を備え、液晶モニタ等の表示装置7、カラープリンタ8が接続されている。カラーカメラ5からプリンタ8に直接接続されていてもよい。
【0019】
フィルタ4は、発光物質2の発光強度を補正するフィルタ、すなわち発光強度が強い波長域の光を吸収する光学フィルタである。発光物質2が上記したオクタエチル白金ポルフィリンである場合、図2に示すようにλ=650nm近傍に強い発光スペクトルを有し、それに比して短波長側の発光スペクトルは弱い。これを補正するために、図3に示すようにλ=650nm近傍から急激に透過率が低下する補正フィルタを使うことで、補正後の発光スペクトルは極端に強いλ=650nm近傍のスペクトルが減じられ、観察しやすいスペクトルとなる。
【0020】
一般に、白金ポルフィリンをはじめとする有機発光材料では、複数の発光ピーク間の強度比が温度によって変化する。その一方の強度が極めて弱いため、どちらのピークも同程度の強度に補正し、適切な露光時間で撮像しなければ高精度の温度測定は不可能である。この実施例では、カラーカメラに発光スペクトルの補正フィルタを設置しているから、各色画像を共に高いS/N比で撮影でき、温度分布を高い精度で表示できる。すなわち、色画像比をとる際、色画像間で発光強度の差が大きいと発光強度が弱く、ノイズの多い色画像の影響によって温度の測定精度が低下するという問題を解消できる。
【0021】
発光物質2を表面に塗布した被写体1を、補正フィルタ4を通してカラーカメラ5で撮影し、その画像信号を常法によりコンピュータ6で画像処理する。表示装置7からは温度分布に対応するカラー分布R・Y〜G・Bの画像が映し出される。必要に応じて、カラープリンタ8から温度分布のカラー画像R・Y〜G・Bを紙上にハードコピーする。
【0022】
被写体1の替わりに、クラック等の欠陥がある物体の被検体で同様の処理をすると、表示装置7からは欠陥部位がカラー画像として映し出される。また、カラープリンタ8から欠陥部位のカラー画像のハードコピーが得られる。
【0023】
上記実施形態では、市販汎用のカラーカメラを使用することを前提にRGB三色のカラー画像処理を示しているが、例えばGreen〜Red色画像の比(Green/Red)で温度表示をすることも可能である。
【実施例】
【0024】
以下、本発明の実施例を説明する。
実験用被写体として、ヒーターとサーミスタを埋め込んだガラスに、発光物質としてオクタエチル白金ポルフィリンをポリスチレンと共に溶媒としてオルトジクロロベンゼンに溶解した溶液を塗布して乾燥させた。溶液の組成比は,溶媒:ポリスチレン:オクタエチル白金ポルフィリン=100:10:1である。これを、補正フィルタ4(カットダウン波長570nm)を通して、カラーカメラ(オリンパス社製顕微鏡デジタルカメラDP70)で撮影した。パーソナルコンピュータには画像処理ソフトウエアScion Image(Scion社製)がインストールしてあり、このソフトウエア及び液晶モニタでR・Y〜G・Bのカラー画像を映し出した。R・Y〜G・Bを紙上にハードコピーした。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明を適用する温度分布可視化撮影表示装置の一実施例を示す概略構成図である。
【0026】
【図2】本発明の発光物質として使用される白金ポルフィリンの発光スペクトルを示す図である。
【0027】
【図3】本発明のフィルタの吸収スペクトルと、フィルタを透過した白金ポルフィリンの発光スペクトルを示す図である。
【符号の説明】
【0028】
1は被写体、2は発光物質、3は励起光源、4はフィルタ、5はカラーカメラ、6はコンピュータ、7は表示装置、8はカラープリンタである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線により励起して発光する発光物質を表面に塗布した温度分布被写体と、該発光物質の励起光を温度分布被写体に照射する励起光源と、該温度分布被写体を撮影するカラーカメラと、該カラーカメラで撮影した温度分布に対応するカラー分布像の表示手段とを備えたことを特徴とする温度分布可視化撮影表示装置。
【請求項2】
紫外線により励起して発光する発光物質を表面に塗布した被検体と、該発光物質の励起光を温度分布被写体に照射する励起光源と、該被検体を撮影するカラーカメラと、該カラーカメラで撮影した温度分布に対応するカラー分布像を該被検体の欠陥部位として表示する表示手段とを備えたことを特徴とする欠陥検出表示装置。
【請求項3】
該発光物質が少なくとも二つの発光波長ピークを有することを特徴とする、請求項1または2に記載の表示装置。
【請求項4】
該発光物質が白金ポルフィリンであることを特徴とする、請求項1または2に記載の表示装置。
【請求項5】
該カラーカメラの光入射光路上に該発光物質の発光スペクトルを補正する吸収スペクトルを持つフィルタを備えたことを特徴とする、請求項1または2に記載の表示装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−51728(P2008−51728A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−230024(P2006−230024)
【出願日】平成18年8月28日(2006.8.28)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】