説明

温度勾配ポンプを備えたセンサ

【課題】ガス状の流体に含有される空気湿度による影響を、規定された対流を生ぜしめることによって補償する。
【解決手段】複数の成分を含有するガス状の流体50の1つの成分を検出するセンサ10であって、ハウジング16によって画成された測定室14内に、加熱可能なメンブラン20を備えた測定チップ18が収容されている形式のものにおいて、ハウジング16が、対流による熱の流れを可能にする少なくとも1つの開口44,46,48を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の成分を含有するガス状の流体の1つの成分を検出するセンサであって、測定室を画成しているハウジングが設けられていて、該測定室内に、加熱可能なメンブランを備えた測定チップが収容されている形式のものに関する。
【背景技術】
【0002】
ガス状の流体の温度を検出するセンサ型式は、例えばDE19601791A1に基づいて公知のホットフィルム空気質量計(HFM)である。このようなホットフィルム空気質量計では通常、薄膜センサメンブランが、有利にはシリコンセンサチップであるセンサチップに被せられる。センサメンブランには典型的には少なくとも1つの熱抵抗が配置されており、この熱抵抗は2つ又はそれ以上の温度測定抵抗によって取り囲まれている。メンブラン上を案内される空気流において、温度分布が変化し、これはさらに温度測定抵抗によって検出されることができる。従って、例えば温度測定抵抗の抵抗差に基づいて空気質量流を測定することができる。このようなセンサ型式の種々様々なその他のバリエーションが従来技術に基づいて公知である。DE10111840C2に基づいて公知のセンサチップは、上にメンブランを被着されたシリコンから製造されたフレームエレメントである。メンブランには、電気的なヒータ及び/又は測定抵抗として働く種々様々な金属軌道が配置されており、これによってメンブランの領域はセンサ領域を形成している。さらに、センサチップの表面には付加的に少なくとも1つの付加ヒータが配置されていてもよく、この付加ヒータは、該付加ヒータの領域において流れる媒体に温度勾配渦が形成されるように、電気的に加熱されることができる。
【0003】
ガス状の流体の温度を検出すると共に、ガス状の流体を組成する成分の検出もまた大きな意味がある。例えば水素を検出するためには、水素が例えば空気に比べて著しく良好な熱伝導率を有しているという、水素の特性が利用される。ホットフィルム空気質量計(HFM)のセンサ構造と同様に構成されたセンサ構造では、例えば空気・水・混合物が、薄膜メンブラン又は狭いグリッドを通してセンサの測定室内に拡散する。ガス状の流体における水素の存在は、周囲空気に放出される、加熱される測定メンブランの温度又は測定メンブランの熱伝導を変化させる。通常、このようなセンサは測定チップ温度もしくはハウジング温度で運転され、この温度はほぼ室温(25℃)に相当する。このようなセンサにおいて使用されるメンブランは通常、測定チップ温度もしくはハウジング温度に対して80K〜120Kの間の超過温度において運転される。この公知の測定センサにおける欠点は、ガス状の流体内に含有される湿度成分にある。ガス状の流体内に含有される湿度は、ガス状の流体、例えば水素・水・混合物の熱伝導率に影響を与える。例えば約25℃の室温では、ガス状の流体内に含有される湿度成分の影響は極めて大きく、センサによる水素の検出を、もはや必要な明瞭さをもって得ることができない。
【0004】
拡散によるプロセスでは、ガス状の流体の熱伝導率が熱伝達を検出するのに対して、対流による熱交換プロセスでは、つまり新鮮空気が供給される場合には、ガス状の流体の熱容量が生じる熱伝達のための基準である。ガス状の流体に含有される空気湿度は両方の熱伝達機構に対して影響し、この場合湿度の上昇時にはガス状の流体の熱容量は上昇するが、熱伝導率は低下する。これによって熱伝達ひいては熱の流れは、熱伝達プロセスにおける拡散と対流との配分に相応して影響を受ける。
【特許文献1】DE19601791A1
【特許文献2】DE10111840C2
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ゆえに本発明の課題は、ガス状の流体に含有される空気湿度による影響を、規定された対流を生ぜしめることによって補償することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題を解決するために本発明の構成では、複数の成分を含有するガス状の流体の1つの成分を検出するセンサにおいて、ガス状の流体に含有される空気湿度が、得られる測定結果に影響しないようにするために、熱伝達時において対流と拡散との適宜な比率が調節されるようになっている。具体的には、冒頭に述べた形式のセンサにおいて、ハウジングが、対流による熱の流れを可能にする少なくとも1つの開口を有しているようにした。
【発明の効果】
【0007】
加熱される測定メンブランを有するセンサでは、測定メンブランの加熱に基づいて該測定メンブランに強い温度勾配が発生する。サーマルクリープによって、ガス状の流体は測定チップの表面の直ぐ近くにおいて、低温箇所から高温箇所へと移動させられる。加熱される測定メンブランの両側においては、温度勾配に基づいて温度勾配渦が発生する。測定室が、メンブラン特性を有するカバーによって閉鎖されている場合には、Hがこのカバーを通って、センサが配置されている測定室内に拡散する。このような場合に、閉鎖されたカバーを備えた測定チップでは、熱伝達の過程は明瞭に、拡散により検出される。
【0008】
本発明によれば次のことが分かった。すなわち温度勾配渦、並びにその結果測定チップの表面において生じる粒子運動を利用することによって、所望のように対流プロセスを生ぜしめること、並びにこの対流プロセスによって、ガス状の流体に含有されている湿度の影響を補償することができる。測定チップに沿った対流プロセスは、測定メンブランがその表面においてガス状の流体の流れによって擦過されることによって、生ぜしめられる。センサのハウジングには所望のように複数の開口が設けられ、これらの開口は例えば水平方向に延びる通路として形成されていてもよい。
【0009】
ハウジングの側部に形成された開口によって、新鮮なガス状の流体が、ハウジングによって取り囲まれた中空室内に流入し、この中空室から、ハウジングカバーの中央に形成された開口を介して再び流出することが達成される。センサのハウジングに形成された開口に基づいて、新鮮なガス状の流体は、ハウジングによって画成された測定室に流入し、この新鮮なガス状の流体は次いで、加熱に基づいて、ハウジングカバーにおける中央の開口を通って流出する。これによって対流の流れが得られ、これは本発明のように形成されたセンサにおいて検出されるトランスポート機構つまり熱の流れである。ハウジングにおける開口のデザイン及び位置に相応して、熱伝達全体に関する対流プロセスと拡散プロセスとの配分を調節すること並びに湿度補償を所定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。
【0011】
図1には、複数の成分を含有するガス状の流体の1つの成分を検出する、従来技術に基づいて公知のセンサが、断面図で示されている。
【0012】
センサ10のハウジング16はハウジング16の上側においてカバー12によって閉鎖されている。ハウジング16及びカバー12は測定室14を画成しており、この測定室14内には測定チップ18が収容されている。この測定チップ18には加熱可能なメンブラン20が設けられている。測定チップ18はハウジング16の内部においてハウジング底24に固定されている。カバー12として形成されたハウジング16の被覆体を通して、ガス状の流体26が拡散し、この場合ガス状の流体26は例えば、水素、空気並びに任意に生じる空気湿度を含む。
【0013】
図2には、図1に示されたセンサのハウジングが断面して概略的に示されている。
【0014】
図2から明らかなように、測定チップ18を受容するチップ支台34は、ハウジング16のハウジング底24から隆起して突出している。チップ支台34のチップ支台上側面36には、加熱可能なメンブラン20、つまり測定メンブランが、チップ支台上側面36と同一平面を成すように埋め込まれている。加熱可能なメンブラン20によってその表面もしくは上側面には、強い温度勾配が発生している。この温度勾配に基づいて、サーマルクリープ(thermal creep)により、ガス状の流体は壁の直ぐ近くにおいて、低温箇所から高温箇所へと運ばれる。図2に示された変化実施例において、ハウジング16は、単に測定室14内に拡散するガス状の流体26だけが透過する閉鎖されたハウジング30である。加熱されたメンブラン20に基づいて、測定メンブランである加熱可能なメンブラン20の上には、符号32で示された温度勾配渦が発生する。ハウジング16は閉鎖されたハウジング30であるので、熱交換過程は拡散によって支配されている。それというのは、閉鎖されたハウジング30のカバー12によってガス状の流体26(図1参照)は、拡散に基づいてしか測定室14内に進入しないからである。
【0015】
図2.1には、加熱可能なメンブランによって生ぜしめられる温度経過が示されており、この場合横軸には図平面におけるメンブランの広がりもしくは長さがとられている。
【0016】
図2.1にTで示されている加熱可能なメンブラン20の温度は、その最大値を中央領域において示している。ランプ40として示されている温度経過によって分かるように、加熱可能なメンブラン20、つまり測定メンブランは、チップ支台上側面36への移行部における縁部領域に、低い温度、つまり室温Tを有している。高い温度勾配に基づいて、図2に示された温度勾配渦32は加熱可能なメンブラン20の上において発生する。
【0017】
図3には、複数の開口を備えたハウジングが示されており、これらの開口によって、対流及び拡散に基づく熱伝達プロセスが得られる。
【0018】
図3に示されている本発明による実施例において、センサ10が有しているハウジング16は、センサハウジングカバー42に開口44を有していて、さらに少なくとも1つのハウジング側58,60に少なくとも1つの流入開口46,48を有している。センサハウジング16が平面図で見て正方形又は長方形の輪郭を有している場合には、ハウジング16には第1のハウジング側58及び第2のハウジング側60に、第1の側部の流入開口46と第2の側部の流入開口48とを形成することができる。センサハウジング16が円形の横断面を有していて、円筒周面によって画成されている場合には、この円筒周面に、互いに対して90°、120°又は180°の角度をずらして流入開口を形成することができ、これらの流入開口はチップ支台34への新鮮なガス状の流体26の流入もしくは供給を可能にする。加熱可能なメンブラン20は熱源であるので、嵌め込み部54に挿入された加熱可能なメンブラン20の上には、測定室14においてチップ支台34のそばに存在している温度に比べて高い温度が存在している。加熱可能なメンブラン20の上の領域における高い温度に基づいて、ほぼ測定室14の位置とは無関係に温度勾配渦によって対流が生ぜしめられる。従って、得られる熱の流れ(Waermetransport)はハウジング16の、例えばメンブランとして形成されたカバー面12を通過するガス状の流体26の拡散と、図3においてハウジングの側部に形成された両流入開口46,48によって引き起こされる対流による熱の流れとに基づいて発生する。
【0019】
さらにまた、中央領域に開口44を有するセンサハウジングカバー42は、例えばメンブランとして形成された構造体を通してのガス状の流体26の貫通拡散をも可能にする。依然として、加熱可能なメンブラン20の上において発生する温度勾配渦33は、これによって「開放」され、これによりセンサハウジングカバー42における開口44を通してのガス状の流体50流出を可能にする。図3に符号33で示されている温度勾配渦の残りは、図2における温度勾配渦32に比べて僅かである。
【0020】
本発明による解決策によって、熱伝達プロセスは拡散による部分と対流による部分とを有することになり、熱伝達プロセスの対流による部分に基づいて、ガス状の媒体26,50内に含有される空気湿度の影響を、抑制することができる。空気湿度は拡散プロセスと対流プロセスとに影響を与え、対流プロセスではガス状の流体26,50の熱容量が基準となるので、空気湿度に関連して生じる熱流の変化は、熱伝達プロセスにおける相応な対流による部分によって補償されることができる。ガス状の流体26,50の空気湿度が測定結果に対して影響を与えないようにしたいので、対流によるプロセスの部分が相応に選択される。熱伝達過程における対流によるプロセス部分と拡散によるプロセス部分との配分は、センサハウジングカバー42における開口44の相応な寸法設定と、側部の流入開口46,48の相応な寸法設定とによって調節することができ、ひいては所定することができる。本発明のように、センサ10のハウジング16に開口44,46,48が形成されていることによって、測定メンブランである加熱可能なメンブラン20の上側面もしくは表面における粒子運動を次のことのために、すなわち加熱可能なメンブラン20上に新鮮なガス状の流体50の対流による流れを生ぜしめるために、利用することができ、このような対流による流れによって、得られる信号に対する空気湿度の影響を減じて、完全に排除することができる。それというのは、対流による熱の流れにおいてガス状の流体26,50の熱容量は熱伝達のために重要だからである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】従来技術に基づいて公知の、ガス状の流体の1つの成分を検出するセンサを示す横断面図である。
【図2】図1に示されたセンサの閉鎖されたハウジングを示す断面図である。
【図2.1】測定メンブランの延びを横軸にとって測定メンブランの温度経過を示す線図である。
【図3】本発明による、ガス状の流体の1つの成分を検出するセンサのハウジングを示す断面図である。
【符号の説明】
【0022】
10 センサ、 12 カバー、 14 測定室、 16 ハウジング、 18 測定チップ、 20 メンブラン、 24 ハウジング底、 26 流体、 30 ハウジング、 32 温度勾配渦、 33 温度勾配渦の残り、 34 チップ支台、 36 チップ支台上側面、 40 ランプ、 42 センサハウジングカバー、 44 開口、 46,48 流入開口、 54 嵌め込み部、 58,60 ハウジング側

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の成分を含有するガス状の流体(26,50)の1つの成分を検出するセンサ(10)であって、測定室(14)を画成しているハウジング(16)が設けられていて、該測定室(14)内に、加熱可能なメンブラン(20)を備えた測定チップ(18)が収容されている形式のものにおいて、ハウジング(16)が、対流による熱の流れを可能にする少なくとも1つの開口(44,46,48)を有していることを特徴とするセンサ。
【請求項2】
ハウジング(16)がその上側面にセンサハウジングカバー(42)を備えていて、該センサハウジングカバー(42)に開口(44)が形成されている、請求項1記載のセンサ。
【請求項3】
加熱可能なメンブラン(20)が、測定室(14)内において支台形の隆起部(34)に配置されている、請求項1記載のセンサ。
【請求項4】
ハウジング(16)において少なくとも1つのハウジング側(58,60)に、新鮮なガス状の流体(50)用の少なくとも1つの流入開口(46,48)が形成されている、請求項1記載のセンサ。
【請求項5】
センサハウジングカバー(42)の、開口(44)から延びている部分が、支台形の隆起部(34)の上側面(36)と共に、測定室(14)に流入する新鮮なガス状の流体(50)のための流入領域を形成している、請求項2又は3記載のセンサ。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか1項に記載されたセンサ(10)を用いて、複数の成分を含有するガス状の流体(26,50)における1つの成分を検出する方法において、加熱可能なメンブラン(20)へのガス状の流体(26,50)熱伝達が、拡散による熱伝達部分と、優勢を占める対流による熱伝達部分とを有しており、
イ)拡散による熱伝達部分を、センサハウジングカバー(42)を通るガス状の流体(26)の拡散によって生ぜしめ、
ロ)対流による熱伝達部分を、加熱可能なメンブラン(20)上への新鮮なガス状の流体(50)の流入・流出による、該新鮮なガス状の流体(50)の対流によって生ぜしめることを特徴とする方法。
【請求項7】
センサ(10)のハウジング(16)を、新鮮なガス状の流体(50)が水平方向において貫流する、請求項6記載の方法。
【請求項8】
請求項1から5までのいずれか1項に記載されたセンサ(10)を、H-空気-HO-ガス混合物内におけるHの検出のために使用する、センサの使用。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図2.1】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2007−163482(P2007−163482A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−330647(P2006−330647)
【出願日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【出願人】(390023711)ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング (2,908)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】