説明

温度測定装置

【課題】従来に比べて小型で取り扱い易さに優れた温度測定装置を提供する。
【解決手段】温度測定装置1は、被測定対象物表面から放射される赤外線を受光して伝送する光ファイバと、互いに異なる分光感度特性を有し、赤外線を受光してそのエネルギー及び分光感度特性に応じた電気信号を生成する第1及び第2の光電変換素子13,14と、生成電気信号を基に被測定対象物の温度を算出する温度算出部と、吸熱電極21aと放熱電極21bとを有するペルチェ素子21と、各光電変換素子13,14及びペルチェ素子21を収納,保持する収納容器30とを備える。第1光電変換素子13は、第2光電変換素子14の上側に配設され、光ファイバにより伝送され収納容器30の透過板32を透過した赤外線を受光する。第2光電変換素子14は、ペルチェ素子21の吸熱電極21a表面に配設され、第1光電変換素子13を透過した赤外線を受光する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定対象物表面から放射される赤外線を基に、当該被測定対象物の温度を測定する温度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、機械加工の分野では、ワークの加工時に発生する熱が工具に与える影響(例えば、工具温度が工具摩耗特性に与える影響)などを分析するために、適宜温度測定装置を用いて加工中の工具刃部温度を測定することがある。
【0003】
このような温度測定装置には、測定対象の工具がエンドミルなどの回転工具であると、これが高速で回転することから、高応答特性を備えていることが要求され、また、測定対象が工具の刃部という微小な領域であることから、当該微小領域の温度を高精度に測定可能であることが要求されており、本願発明者らは、従来、非特許文献1に記載されているような温度測定装置を提案している。
【0004】
この温度測定装置100は、前記非特許文献1において図示されてはいないが、図8に示すような構成となっており、2重構造に形成され、外側の側壁101aの底部側外周部に赤外線が透過可能となった透明な透過板102を備える収容容器101と、互いに異なる分光感度特性を有し、赤外線を受光してそのエネルギー及び当該分光感度特性に応じた電圧信号を生成する第1及び第2の光電変換素子104,105を備え、当該各光電変換素子104,105は、第1光電変換素子104が収容容器101の透過板102と対峙し、第2光電変換素子105が収容容器101の内側の側壁101bの底部側外周面に配置されて積層状に設けられる赤外線検出器103と、一端面が工具の刃部、他端面が収容容器101の透過板102とそれぞれ一定間隔を隔てて配置され、当該刃部表面から放射される赤外線を透過板102側に伝送する光ファイバ(図示せず)と、各光電変換素子104,105によってそれぞれ生成された電圧信号を基に、工具の刃部温度を算出する温度算出部(図示せず)などからなる。
【0005】
前記収容容器101の内部には、赤外線検出器103の各光電変換素子104,105を冷却するための液体窒素Lが充填され、外側の側壁101aと内側の側壁101bとの間は、透過板102に露や霜が付くのを防止すべく、真空にされている。
【0006】
前記第1光電変換素子104は、InAs(インジウムヒ素)素子からなり、光ファイバ(図示せず)によって伝送され収容容器101の透過板102を透過した赤外線を受光するとともに、当該赤外線を透過可能に構成される。また、前記第2光電変換素子105は、InSb(インジウムアンチモン)素子からなり、第1光電変換素子104を透過した赤外線を受光するように構成される。
【0007】
この温度測定装置100によれば、工具刃部から放射される赤外線は、光ファイバ(図示せず)の一端面に受光されて、当該光ファイバにより伝送され、この後、収容容器101の透過板102を透過して、赤外線検出器103の第1光電変換素子104及び第2光電変換素子105により順次受光される。
【0008】
そして、各光電変換素子104,105では、受光した赤外線のエネルギー(波長)及び分光感度特性に応じた生成レベルの電圧信号がそれぞれ生成され、温度算出部(図示せず)により、各光電変換素子104,105で生成された電圧信号を基に工具の刃部温度が算出される。
【0009】
即ち、工具刃部から放射される赤外線は、その波長(エネルギー)が当該刃部の温度によって異なることから、各光電変換素子104,105では、受光した赤外線のエネルギーに応じた生成レベルの電圧信号が生成され、このようにして生成された各電圧信号から、温度算出部(図示せず)によって温度が算出されるのである。
【0010】
ところが、光ファイバ(図示せず)は、その受光対象領域となる、被測定対象物(工具刃部)の所定領域から放射される赤外線を受光するようになっているため、この領域の大きさが変化すると、当該光ファイバによって受光される赤外線の受光量(各光電変換素子104,105に受光される赤外線の全エネルギー量)が変化して、当該各光電変換素子104,105で生成される電圧信号の生成レベルが変化する。
【0011】
また、実際の測定において、光ファイバ(図示せず)の受光対象領域を常に一定の大きさにすることは難しい。
【0012】
したがって、このように、電圧信号の生成レベルは、被測定対象物表面から放射される赤外線の波長、即ち、被測定対象物の温度のみならず、光ファイバ(図示せず)の受光対象領域から放射される赤外線の全エネルギー量、即ち、光ファイバの受光対象領域の大きさによっても異なるため、このままでは、光電変換素子104,105で生成された電圧信号から、工具の刃部温度を精度良く算出することはできない。
【0013】
このため、温度算出部(図示せず)では、各光電変換素子104,105で生成された電圧信号を基にその比が算出されて、当該比から刃部温度が算出されるようになっている。電圧信号の比を採ることで、光ファイバ(図示せず)の受光対象領域の大きさ(光ファイバの受光対象領域から放射される赤外線の全エネルギー量)に依存せず、被測定対象物の温度(被測定対象物表面から放射される赤外線の波長)のみに依存したものとすることができ、これにより、温度が高精度に算出される。
【0014】
尚、この温度測定装置100では、各光電変換素子104,105が積層状に配置されているが、これは、各光電変換素子104,105をコンパクトに配置するためであり、また、例えば、光電変換素子104,105を水平方向に並べて配置すると、赤外線を2つの光路に分岐させなければならず、装置構成が複雑になるからである。
【0015】
【非特許文献1】細川晃,小田健作,山田啓司,上田隆司,「断続切削における工具逃げ面温度」,精密工学会誌,社団法人精密工学会,平成12年11月5日,第66巻,第11号,p.1786−p.1791
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
ところで、上記のように、従来の温度測定装置100では、収容容器101の内部に液体窒素Lを充填して、この液体窒素Lにより赤外線検出器103の各光電変換素子104,105を冷却するようにしているが、これは、各光電変換素子104,105の温度が高いと、各光電変換素子104,105によって生成される電圧信号に多くのノイズが含まれ、高精度に温度を測定することができなくなるからである。
【0017】
しかしながら、液体窒素Lにより冷却したのでは、液体窒素Lを充填する空間が必要なために装置100構成が大きくなるという問題や、液体窒素Lを適宜補充しなければならないという問題があり、当該温度測定装置100の使い勝手は悪かった。尚、液体窒素Lを使用しているのは、光電変換素子104,105の冷却温度が低温であるほど、生成電気信号に含まれるノイズが少なくなると一般的に言われていることや、液体窒素Lが入手容易だからである。
【0018】
本発明は、以上の実情に鑑みなされたものであって、従来に比べて使い勝手の良い温度測定装置の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するための本発明は、
被測定対象物の温度を測定する装置であって、
積層状に配設される第1及び第2の2つの光電変換素子を備え、該各光電変換素子は、互いに異なる分光感度特性を有し、赤外線を受光してそのエネルギー及び該分光感度特性に応じた電気信号を生成する赤外線検出手段と、
一端面が前記被測定対象物と、他端面が前記第1光電変換素子とそれぞれ一定間隔を隔てて配置され、該被測定対象物表面から放射される赤外線を前記第1光電変換素子に伝送する光ファイバと、
前記各光電変換素子によってそれぞれ生成された電気信号を基に、前記被測定対象物の温度を算出する温度算出手段と、
前記各光電変換素子を冷却する冷却手段とからなり、
前記第1光電変換素子は、前記光ファイバによって伝送された赤外線を受光するとともに、該赤外線を透過可能に構成され、前記第2光電変換素子は、前記第1光電変換素子を透過した赤外線を受光するように構成された温度測定装置において、
前記冷却手段は、吸熱電極と放熱電極とを備え、該吸熱電極表面に前記第2光電変換素子が配置されたペルチェ素子と、該ペルチェ素子に電力を供給してその吸熱電極の温度を低下させる電力供給手段とから構成されてなることを特徴とする温度測定装置に係る。
【0020】
この発明によれば、冷却手段の電力供給手段からペルチェ素子に電力が供給されると、放熱電極側の温度が上昇し、吸熱電極側の温度が低下する。そして、温度が低下した吸熱電極によって、赤外線検出手段の各光電変換素子が、例えば、約−60℃に冷却される。
【0021】
被測定対象物の表面からは、当該被測定対象物の温度に応じた波長(エネルギー)の赤外線が放射されており、この赤外線が光ファイバの一端面に受光されると、受光された赤外線は、当該光ファイバによって伝送された後、赤外線検出手段の第1光電変換素子及び第2光電変換素子により順次受光される。
【0022】
そして、各光電変換素子では、受光した赤外線のエネルギー(波長)及び分光感度特性に応じた生成レベルの電気信号がそれぞれ生成され、生成された各電気信号を基に、温度算出手段によって被測定対象物の温度が算出される。具体的には、例えば、各生成電気信号を基にその比が算出された後、算出された比を基に温度が算出される。
【0023】
上述のように、温度測定装置において、各光電変換素子を冷却しているのは、当該各光電変換素子の温度が高いと、これらによって生成される電気信号に多くのノイズが含まれ、高精度に温度を測定することができなくなるからであり、また、液体窒素を使用しているのは、光電変換素子の冷却温度が低温であるほど、生成電気信号に含まれるノイズが少なくなると一般的に言われていることや、液体窒素が入手容易だからである。
【0024】
本願発明者らが鋭意研究を重ねた結果、各光電変換素子の冷却温度は、液体窒素による約−200℃のように極めて低温ではなく、ペルチェ素子の吸熱電極による約−60℃でも、各光電変換素子によって生成される電気信号にノイズがさほど含まれず、液体窒素による冷却時と同等の精度で温度を測定可能であることが判明した。本発明は、かかる知見に基づいてなされたものである。
【0025】
斯くして、本発明に係る温度測定装置によれば、各光電変換素子を、ペルチェ素子の吸熱電極表面に積層状に配置して当該ペルチェ素子により冷却しているので、当該各光電変換素子及びペルチェ素子をコンパクトに配置して、当該温度測定装置のコンパクト化を図ることができる。これにより、当該温度測定装置の使い勝手を良くすることができる。
【0026】
尚、前記冷却手段は、前記2つの光電変換素子の一方若しくは両方の温度を検出する素子温度検出手段を更に備え、該素子温度検出手段によって検出される温度を基に、前記電力供給手段から前記ペルチェ素子に供給される電力を調整するように構成されていても良い。このようにすれば、各光電変換素子の温度を所望の温度に調整,制御するのに効率的である。
【0027】
また、前記素子温度検出手段は、前記ペルチェ素子の吸熱電極と第2光電変換素子との間、又は、前記吸熱電極表面の第2光電変換素子側方に配設されて該吸熱電極の温度を検出するサーミスタから構成されていても良い。各光電変換素子が小さく薄い素子であることから、当該各光電変換素子とペルチェ素子の吸熱電極とは略同一温度になり、吸熱電極の温度を検出することで、各光電変換素子の温度を検出することができる。
【0028】
また、前記温度測定装置は、前記ペルチェ素子,各光電変換素子及びサーミスタを収納,保持する収納容器を更に備え、該収納容器は、前記光ファイバの他端面と対峙する位置に、該光ファイバによって伝送された赤外線を内部に進入させるための開口部が形成されていても良い。このようにすれば、ペルチェ素子,各光電変換素子,サーミスタ及び収納容器を一体的に取り扱うことができ、便利である。
【0029】
また、前記温度測定装置は、前記収納容器の外部に配置された放熱部材、及び該放熱部材とペルチェ素子の放熱電極とを接続する伝導部材を更に備えていても良い。このようにすれば、ペルチェ素子の放熱電極の熱を、伝導部材を介し放熱部材側に伝導させて当該放熱部材から放熱させることができるので、収納容器の内部に熱がこもって、ペルチェ素子の吸熱電極による各光電変換素子の冷却効率が低下するのを防止することができる。
【0030】
また、前記2つの光電変換素子の内の一方は、InAs(インジウムヒ素)素子から構成され、他方は、InSb(インジウムアンチモン)素子から構成されていても良く、このようにすれば、被測定対象物が、例えば、切削工具であるときに、その温度を好適に測定することができる。これは、これらの素子が高応答特性を備え、また、加工中の工具(温度上昇した工具)から放射される赤外線の波長に対応した分光感度特性を備えているからである。
【0031】
また、前記光ファイバは、その外周面が保護材によって被覆されていても良く、このようにすれば、光ファイバの取り扱いを容易にすることができる。
【発明の効果】
【0032】
以上のように、本発明に係る温度測定装置によれば、ペルチェ素子によって各光電変換素子を冷却するようにしたので、当該温度測定装置をコンパクトにしてその使い勝手を良くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明の具体的な実施形態について、添付図面に基づき説明する。尚、図1は、本発明の一実施形態に係る温度測定装置などの概略構成を示した斜視図であり、図2は、本実施形態に係る温度測定装置の概略構成を示した平面図である。また、図3は、本実施形態に係る赤外線検出器,温度算出部及び表示装置の概略構成を示したブロック図であり、図4は、本実施形態に係る冷却装置の概略構成を示したブロック図である。また、図5は、本実施形態に係るInAs素子,InSb素子,ペルチェ素子,サーミスタ及び収納容器などの概略構成を示した断面図であり、図6は、光ファイバ及び工具の位置関係を示した斜視図である。
【0034】
図1乃至図5に示すように、本例の温度測定装置1は、工作機械50に付設されて工具Tの温度を測定するように構成されており、工具T表面から放射される赤外線を受光して伝送する光ファイバ11と、積層状に配設され、光ファイバ11によって伝送された赤外線を受光して電圧信号を生成するInAs(インジウムヒ素)素子13及びInSb(インジウムアンチモン)素子14を具備した赤外線検出器12と、InAs素子13及びInSb素子14によって生成された電圧信号を基に、工具Tの温度を算出する温度算出部15と、温度算出部15によって算出された温度を表示する表示装置16と、吸熱電極21aと放熱電極21bとを有するペルチェ素子21を具備し、吸熱電極21aによってInAs素子13及びInSb素子14を冷却する冷却装置20と、InAs素子13,InSb素子14及びペルチェ素子21を収納,保持する収納容器30と、光ファイバ11が接続し、収納容器30などが収納される筐体40とを備えて構成される。
【0035】
尚、ここで、前記工作機械50について簡単に説明すると、この工作機械50は、ベッド51,コラム52,主軸頭53,主軸54,サドル55及びテーブル56などからなり、主軸54に工具Tが装着され、テーブル56にワークWが載置される。また、工具Tは、図6に示すように、先端部にチップTaが設けられたエンドミルと呼ばれる回転工具である。
【0036】
前記光ファイバ11の一端面は、図6に示すように、チップTaの切れ刃がワークWと接触しなくなった(切削が終わった)状態から工具Tが軸中心に90°水平回転したときに、チップTaの逃げ面Tbと一定間隔を隔てて対峙するように設けられ、当該逃げ面Tbから放射される赤外線を受光するようになっており、本例では、チップTaによる切削後、工具Tが90°回転したときのチップ逃げ面Tbの温度を測定する。
【0037】
また、光ファイバ11は、例えば、カルコゲナイドガラスやフッ化物ガラスから構成され、外周面は、例えば、ステンレス製のフレキシブルチューブ11aによって被覆,保護されており、他端側には、筐体40の下部に取り付けるためのコネクタ11bが設けられている。
【0038】
前記収納容器30は、上部が開口した容器本体31と、容器本体31の上部開口部を閉塞し、赤外線が透過可能となった透明な透過板32と、下面が容器本体31の底面に固設された第1支持板33と、第1支持板33の上面に立設された複数の第1支柱34と、下面が第1支柱34によって支持された第2支持板35と、第2支持板35の上面に立設され、ペルチェ素子21の放熱電極21bを支持する複数の第2支柱36と、容器本体31の下面に固設された放熱フィン37と、容器本体31の底面に形成された貫通穴31a内に設けられ、第1支持板33の下面と放熱フィン37の上面とを接続する接続部材38とから構成されており、透過板32が下方を向くように筐体40内に配置,支持されている。
【0039】
前記第2支柱36,第2支持板35,第1支柱34,第1支持板33及び接続部材38は、ペルチェ素子21の放熱電極21bの熱を放熱フィン37に伝導させるためのものであり、放熱フィン37は、これに伝導した熱を収納容器30の外部に放熱させるためのものである。
【0040】
前記InSb素子14は、冷却装置20の後述するサーミスタ23を介してペルチェ素子21の吸熱電極21a表面に配設され、InAs素子13は、InSb素子14表面に配設されている。
【0041】
また、InAs素子13及びInSb素子14は、図7に示すように、互いに異なる分光感度特性を有する光電変換素子であり、InAs素子13は、収納容器30の透過板32を透過した赤外線を受光して、そのエネルギー及び分光感度特性に応じた生成レベルの電圧信号を生成するとともに、当該赤外線を透過し、InSb素子14は、InAs素子13を透過した赤外線を受光して、そのエネルギー及び分光感度特性に応じた生成レベルの電圧信号を生成する。
【0042】
前記冷却装置20は、前記ペルチェ素子21の他、ペルチェ素子21に電力を供給してその吸熱電極21aの温度を低下させる電力供給部22と、ペルチェ素子21の吸熱電極21aとInSb素子14との間に配設され、当該吸熱電極21aの温度を検出するサーミスタ23と、サーミスタ23によって検出される温度を基に、電力供給部22からペルチェ素子21に供給される電力を調整する供給電力制御部24とを備える。
【0043】
前記供給電力制御部24は、サーミスタ23によって検出される温度を基に、電力供給部22からペルチェ素子21に供給される電力を調整することで、例えば、吸熱電極21aの温度を、約−60℃に調整,制御する。尚、InAs素子13,InSb素子14及びサーミスタ23が小さく薄いものであることから、当該InAs素子13,InSb素子14及びサーミスタ23とペルチェ素子21の吸熱電極21aとは略同一温度になり、吸熱電極21aの温度を検出することで、InAs素子13及びInSb素子14の温度を検出することができる。
【0044】
前記温度算出部15は、InAs素子13及びInSb素子14によって生成された電圧信号を基にその比を算出し、算出した比からチップTaの逃げ面Tbの温度を算出する。具体的には、経験的に得られる電圧信号比と温度との関係に基づき、この算出した電圧信号比から温度を推定,算出する。
【0045】
前記筐体40は、主軸頭53の前面に固設されたL字状の支持部材41によって支持され、当該主軸頭53の側面側に配置されており、光ファイバ11のコネクタ11bが接続して取り付けられる接続部40aを下面に備えている。また、この接続部40aには貫通穴40bが形成されており、当該接続部40aに接続した光ファイバ11の先端(他端)が筐体40内部に突出して、収納容器30の透過板32と一定間隔を隔てて対峙するようになっている。
【0046】
また、筐体40には、温度算出部15や、冷却装置20の電力供給部22及び供給電力制御部24などが収められたケース42が配設されている。
【0047】
以上のように構成された本例の温度測定装置1によれば、以下のようにして工具Tのチップ逃げ面Tbの温度を測定することができる。即ち、まず、支持部材41により筐体40を主軸頭53に取り付け、当該筐体40の接続部40aに光ファイバ11のコネクタ11bを接続し、光ファイバ11の一端面を、チップTaによる切削後、工具Tが90°回転したときのチップTaの逃げ面Tbと一定間隔を隔てて対峙させる。
【0048】
また、電力供給部22からペルチェ素子21に電力が供給されるとともに、サーミスタ23により検出される温度を基に、供給電力制御部24によって電力供給部22からの供給電力が調整される。これにより、放熱電極21b側の温度が上昇し、吸熱電極21a側の温度が低下して、当該吸熱電極21aにより、InAs素子13及びInSb素子14の温度が約−60℃に冷却される。
【0049】
そして、工作機械50において、工具Tが軸中心に回転してワークWの加工が開始されると、当該工具TのチップTaの逃げ面Tbが光ファイバ11の一端面の前方位置を通過する際に、チップTaの逃げ面Tbから放射される、その温度に応じた波長(エネルギー)の赤外線が光ファイバ11の一端面に受光される。
【0050】
受光された赤外線は、当該光ファイバ11によって伝送され、収納容器30の透過板32を透過した後、赤外線検出器12のInAs素子13及びInSb素子14によって順次受光される。
【0051】
InAs素子13及びInSb素子14では、受光した赤外線のエネルギー(波長)及び分光感度特性に応じた生成レベルの電圧信号がそれぞれ生成され、生成された各電圧信号を基に、温度算出部15によってチップTaの逃げ面Tbの温度が算出され、算出された温度が表示装置16に表示される。
【0052】
ところで、光電変換素子(本例では、InAs素子13及びInSb素子14)を冷却しているのは、当該各光電変換素子の温度が高いと、これらによって生成される電圧信号に多くのノイズが含まれ、高精度に温度を測定することができなくなるからであり、また、従来の温度測定装置100において液体窒素Lを使用していたのは、光電変換素子の冷却温度が低温であるほど、生成電圧信号に含まれるノイズが少なくなると一般的に言われていることや、液体窒素Lが入手容易だからである。
【0053】
本願発明者らが鋭意研究を重ねた結果、光電変換素子の冷却温度は、液体窒素Lによる約−200℃のように極めて低温ではなく、ペルチェ素子21の吸熱電極21aによる約−60℃でも、各光電変換素子によって生成される電圧信号にノイズがさほど含まれず、液体窒素Lによる冷却時と同等の精度で温度を測定可能であることが判明した。本発明は、かかる知見に基づいてなされたものである。
【0054】
斯くして、本例の温度測定装置1によれば、InAs素子13及びInSb素子14を、ペルチェ素子21の吸熱電極21a表面に積層状に配置して当該ペルチェ素子21により冷却しているので、当該InAs素子13,InSb素子14及びペルチェ素子21をコンパクトに配置して、当該温度測定装置1のコンパクト化を図ることができる。これにより、当該温度測定装置1の使い勝手を良くすることができる。
【0055】
また、供給電力制御部24により、サーミスタ23によって検出される温度を基に、電力供給部22からペルチェ素子21に供給される電力を調整して、吸熱電極21a(InAs素子13及びInSb素子14)の温度を約−60℃に調整,制御しているので、これらInAs素子13及びInSb素子14の温度を効率的に調整,制御することができる。
【0056】
また、InAs素子13,InSb素子14及びサーミスタ23を、ペルチェ素子21の吸熱電極21a表面上に積層状に配置し、これらを収納容器30内に収納,保持して一体的に設けているので、InAs素子13,InSb素子14,サーミスタ23及び収納容器30をコンパクトな構成とすることができる。
【0057】
また、ペルチェ素子21の放熱電極21bの熱を、第2支柱36,第2支持板35,第1支柱34,第1支持板33及び接続部材38を介して放熱フィン37に伝導させ、当該放熱フィン37から放熱させるようにしているので、収納容器30の内部に熱がこもって、ペルチェ素子21の吸熱電極21aによるInAs素子13及びInSb素子14の冷却効率が低下するのを防止することができる。
【0058】
また、InAs素子13及びInSb素子14が、高応答特性を有し、また、加工中のチップTaの逃げ面Tb(温度上昇したチップTaの逃げ面Tb)から放射される赤外線の波長に対応した分光感度特性を有していることから、当該チップ逃げ面Tbの温度を高精度に測定することができる。
【0059】
また、光ファイバ11をステンレス製のフレキシブルチューブ11aによって被覆,保護しているので、当該光ファイバ11の取り扱いを容易にすることができ、また、光ファイバ11を、コネクタ11bにより筐体40の接続部40bに取り付けるようにしているので、光ファイバ11の他端側とInAs素子13及びInSb素子14との位置合わせを不要にすることができ、光ファイバ11の取付を容易に行うことができる。
【0060】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明の採り得る具体的な態様は、何らこれに限定されるものではない。
【0061】
上例では、チップTaによる切削後、工具Tが90°回転したときのチップ逃げ面Tbの温度を測定するようにしたが、これに限られるものではなく、例えば、工具Tが180°回転したときや、270°回転したときの温度を測定しても良い。但し、工具Tの回転角度が大きくなれば、エアカット時間が長くなって工具Tの温度が低下する点に注意する必要がある。
【0062】
また、回転工具Tに代えて旋削工具の温度を測定したり、工具以外の温度を測定するようにしても良く、温度測定対象物は、工具に限定されるものではない。また、光電変換素子についても、上例のInAs素子13やInSb素子14に限定されるものではない。また、サーミスタ23は、ペルチェ素子21の吸熱電極21aとInSb素子14との間に配設するのではなく、当該吸熱電極21a表面のInSb素子14側方に配置しても良い。尚、この場合、InSb素子14は、吸熱電極21a表面に直接配設される。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の一実施形態に係る温度測定装置などの概略構成を示した斜視図である。
【図2】本実施形態に係る温度測定装置の概略構成を示した平面図である。
【図3】本実施形態に係る赤外線検出器,温度算出部及び表示装置の概略構成を示したブロック図である。
【図4】本実施形態に係る冷却装置の概略構成を示したブロック図である。
【図5】本実施形態に係るInAs素子,InSb素子,ペルチェ素子,サーミスタ及び収納容器などの概略構成を示した断面図である。
【図6】光ファイバ及び工具の位置関係を示した斜視図である。
【図7】InAs素子及びInSb素子の分光感度特性を示したグラフである。
【図8】従来例に係る温度測定装置の概略構成を示した斜視図である。
【符号の説明】
【0064】
1 温度測定装置
11 光ファイバ
11a フレキシブルチューブ
12 赤外線検出器
13 InAs素子
14 InSb素子
15 温度算出部
16 表示装置
20 冷却装置
21 ペルチェ素子
21a 吸熱電極
21b 放熱電極
22 電力供給部
23 サーミスタ
24 供給電力制御部
30 収納容器
31 容器本体
32 透過板
33 第1支持板
34 第1支柱
35 第2支持板
36 第2支柱
37 放熱フィン
40 筐体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定対象物の温度を測定する装置であって、
積層状に配設される第1及び第2の2つの光電変換素子を備え、該各光電変換素子は、互いに異なる分光感度特性を有し、赤外線を受光してそのエネルギー及び該分光感度特性に応じた電気信号を生成する赤外線検出手段と、
一端面が前記被測定対象物と、他端面が前記第1光電変換素子とそれぞれ一定間隔を隔てて配置され、該被測定対象物表面から放射される赤外線を前記第1光電変換素子に伝送する光ファイバと、
前記各光電変換素子によってそれぞれ生成された電気信号を基に、前記被測定対象物の温度を算出する温度算出手段と、
前記各光電変換素子を冷却する冷却手段とからなり、
前記第1光電変換素子は、前記光ファイバによって伝送された赤外線を受光するとともに、該赤外線を透過可能に構成され、前記第2光電変換素子は、前記第1光電変換素子を透過した赤外線を受光するように構成された温度測定装置において、
前記冷却手段は、吸熱電極と放熱電極とを備え、該吸熱電極表面に前記第2光電変換素子が配置されたペルチェ素子と、該ペルチェ素子に電力を供給してその吸熱電極の温度を低下させる電力供給手段とから構成されてなることを特徴とする温度測定装置。
【請求項2】
前記冷却手段は、前記2つの光電変換素子の一方若しくは両方の温度を検出する素子温度検出手段を更に備え、該素子温度検出手段によって検出される温度を基に、前記電力供給手段から前記ペルチェ素子に供給される電力を調整するように構成されてなることを特徴とする請求項1記載の温度測定装置。
【請求項3】
前記素子温度検出手段は、前記ペルチェ素子の吸熱電極と第2光電変換素子との間、又は、前記吸熱電極表面の第2光電変換素子側方に配設されて該吸熱電極の温度を検出するサーミスタから構成されてなることを特徴とする請求項2記載の温度測定装置。
【請求項4】
前記ペルチェ素子,各光電変換素子及びサーミスタを収納,保持する収納容器を更に備え、該収納容器は、前記光ファイバの他端面と対峙する位置に、該光ファイバによって伝送された赤外線を内部に進入させるための開口部が形成されてなることを特徴とする請求項3記載の温度測定装置。
【請求項5】
前記収納容器の外部に配置された放熱部材、及び該放熱部材とペルチェ素子の放熱電極とを接続する伝導部材を更に備えてなることを特徴とする請求項4記載の温度測定装置。
【請求項6】
前記2つの光電変換素子の内の一方は、InAs(インジウムヒ素)素子から構成され、他方は、InSb(インジウムアンチモン)素子から構成されてなることを特徴とする請求項1乃至5記載のいずれかの温度測定装置。
【請求項7】
前記光ファイバは、その外周面が保護材によって被覆されてなることを特徴とする請求項1乃至6記載のいずれかの温度測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−300765(P2006−300765A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−123670(P2005−123670)
【出願日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【出願人】(000146847)株式会社森精機製作所 (204)
【出願人】(504160781)国立大学法人金沢大学 (282)
【Fターム(参考)】