説明

測位システム、測位システムに適用可能な送信機および受信機

【課題】ノイズやマルチパスの影響下においても精度のよい測位システムを提供する。
【解決手段】移動局10においては、符号発生部28によって発生される第1符号と所定時間だけ遅れた第2符号とにより、変調部34において第1搬送波と所定位相だけ遅らされた第2搬送波とがそれぞれ変調させられ、合成部44により変調後の信号が合成され送信される。基地局12においては、復調部78により第1基準搬送波および所定位相だけ遅らされた第2基準搬送波に基づいて受信波が復調され、相関演算部88により復調された2つの信号と対応する符号との相関値がそれぞれ算出され、差動アンプ96により算出された2つの相関値の差分が算出され、受信時刻検出部70により2つの相関値の差分に基づいて電波の受信時刻が算出される。また、測位部100はその受信時刻に基づいて移動局10の位置を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送信機が発信する電波を受信機により受信し、その受信結果である受信時刻に基づいて前記送信機もしくは受信機の一方の位置の推定を行なう測位システム、および該測位システムに適用可能な送信機および受信機に関するものであり、特に、所定の位相偏移変換変調および復調を行なうことにより、受信時刻の測定を精度よく行なうことを可能にする技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
送信機が送信する電波を複数の受信機で受信し、これらの複数の受信機のそれぞれにおける受信時刻に基づいて前記送信機もしくは受信機の一方の位置の推定を行なう方法が提案されている。具体的には例えば、持ち運びされるなどによって位置が移動させられ、前記送信機もしくは受信機の一方として機能させられる移動局と、既知の位置に固定され、前記送信機もしくは受信機の他方として機能させられる複数の基地局との間で電波の送受信が行なわれる。そして、その受信結果である電波の受信時刻などに基づいて電波の伝搬距離を算出し、この伝搬距離を前記複数の基地局のそれぞれと移動局との距離として前記移動局の位置が算出される。
【0003】
このとき、電波の受信時刻は、算出される移動局の位置に直接影響を及ぼすことから、この受信時刻の検出は精度よく行なわれることが望ましい。そのため、例えば送信機から送信される電波は拡散符号を含むものとされ、受信機においては受信した拡散符号とその拡散符号のレプリカ符号との相関値を算出し、その極大値の発生に基づいて受信時刻を検出する技術が提案されている。拡散符号は、位相が同期した場合に相関値が高いピークを生ずる性質を有することから、かかる技術によれば受信時刻を精度よく検出することが期待できる。
【0004】
なお、特許文献1においては、符号分割多重アクセス通信方式(CDMA)を用いて複数の基地局と移動局の間で通信を行なう移動体通信システムにおける移動局の位置を測定する測位システムが開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2004−301850号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前記送信機および受信機の周囲に配置された建物や壁、地物、金属性の什器などの影響により、送信機から送信された電波が反射や回折され、複数の異なる伝搬時間により受信機に到達するマルチパスが発生することがある。かかるマルチパスの影響下においては、相関値のピークが鈍ることがある。また、送信機および受信機の無線通信にノイズが生ずる場合にも、相関値のピークが鈍ることがある。このような場合には、前述の相関値のピークを生じた時刻を検出することによって、電波の受信時刻を制度よく検出することができない場合があるという問題があった。
【0007】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、送信機から送信された電波を受信機が受信し、前記送信機もしくは受信機のうち一方の位置を、該送信機もしくは受信機の他方の位置と前記受信機における受信時刻とに基づいて算出する測位システムにおいて、マルチパスの存在下など、受信機において相関値のピークが鈍るなどによりその相関値のピークに基づいて電波の受信時刻を精度よく検出することが困難な場合においても、該受信時刻を精度よく検出することが可能であり、該検出された受信時刻に基づいて位置の算出を行なうことの可能な測位システム、その測位システムに適用可能な移動局、および基地局を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するための請求項1にかかる発明は、(a)送信機から送信された電波を受信機が受信し、前記送信機もしくは受信機のうち一方の位置を、該送信機もしくは受信機の他方の位置と前記受信機における受信時刻とに基づいて算出する測位システムであって、(b)前記送信機は、第1符号と、該第1符号より所定時間だけ遅らせて第2符号とを発生する符号発生部と、(c)前記符号発生部により発生させられる前記第1符号で第1搬送波を変調し、前記符号発生部により発生させられる前記第2符号で該第1搬送波より所定位相だけ遅らされた第2搬送波を変調するとともに、変調後の該第1搬送波および第2搬送波を合成する変調部と、(d)該変調部による出力を電波として送信する送信部と、を有し、(e)前記受信機は、前記送信部により送信された電波を受信する受信部と、(f)前記第1符号及び前記第2符号に対応した第1受信信号及び第2受信信号を得るために第1基準搬送波に基づいて該受信部により受信された受信波を復調し、該第1基準搬送波より前記所定位相だけ遅れた第2基準搬送波に基づいて前記受信波を復調する復調部と、(g)前記復調部により前記第1基準搬送波に基づいて復調された第1受信信号と前記第1符号との第1相関値と、前記復調部により前記第2基準搬送波に基づいて復調された第2受信信号と前記第2符号との第2相関値とを算出する相関演算部と、(h)前記相関演算部によって算出される前記第1相関値と前記第2相関値との差分を算出する差分演算部と、を有し、(i)前記差分演算部によって算出される前記第1相関値と前記第2相関値との差分に基づいて前記送信機から送信された電波の前記受信機における受信時刻を算出する受信時刻検出部と、(j)前記送信機もしくは受信機のうち一方の位置を、該送信機もしくは受信機の他方の位置と前記受信時刻検出部により検出される受信時刻とに基づいて算出する測位部と、を有することを特徴とする。
【0009】
また、請求項8にかかる発明は、(a)第1符号と、該第1符号より所定時間遅らせて第2符号とを発生する符号発生部と、(b)前記符号発生部により発生させられる前記第1符号で第1搬送波を変調し、前記第2符号発生部により発生させられる前記第2符号で該第1搬送波より所定位相だけ遅らされた第2搬送波を変調するとともに、変調後の該第1搬送波及び第2搬送波を合成する変調部と、(c)該変調部による出力を無線により送信する送信部と、を有し、(d)請求項1乃至7のいずれか1に記載の測位システムに適用可能であることを特徴とする送信機である。
【0010】
また、請求項9にかかる発明は、(a)所定の電波を受信する受信部と、(b)所定の第1基準搬送波に基づいて該受信部により受信された受信波を復調し、該第1基準搬送波より所定位相だけ遅れた第2基準搬送波に基づいて前記受信波を復調する復調部と、(c)前記復調部により前記第1基準搬送波に基づいて復調された第1受信信号と第1符号との第1相関値と、前記復調部により前記第2基準搬送波に基づいて復調された第2受信信号と第2符号との第2相関値とを算出する相関演算部と、(d)前記相関演算部によって算出される前記第1相関値と前記第2相関値との差分を算出する差分演算部と、を有し、(e)請求項1乃至7のいずれか1に記載の測位システムに適用可能であることを特徴とする受信機である。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の測位システムあるいは、請求項8の送信機および請求項9の受信機によれば、前記送信機においては、符号発生部により前記第1符号と、該第1符号より所定時間だけ遅らせて前記第2符号とが発生させられる。また、前記変調部により、前記第1符号で第1搬送波が変調させられ、前記第2符号で前記第1搬送波より所定位相だけ遅らされた第2搬送波が変調させられるとともに、変調後の該第1搬送波および第2搬送波が合成され、前記送信部により、変調部による出力が電波として送信される。一方、前記受信機においては、前記受信部により前記送信機の送信部により送信された電波が受信され、前記復調部により前記第1基準搬送波および該第1基準搬送波より前記所定位相だけ遅れた第2基準搬送波のそれぞれに基づいて前記受信波が復調される。また、前記相関演算部により、前記復調部により前記第1基準搬送波に基づいて復調された第1受信信号と前記第1符号との第1相関値が算出され、前記復調部により前記第2基準搬送波に基づいて復調された第2受信信号と前記第2符号との第2相関値がそれぞれ算出され、前記差分演算部により前記第1相関値と前記第2相関値との差分が算出される。さらに、前記受信時刻検出部により前記差分演算部によって算出される前記第1相関値と前記第2相関値との差分に基づいて前記送信機から送信された電波の前記受信機における受信時刻が算出され、前記測位部によって前記送信機もしくは受信機のうち一方の位置が、該送信機もしくは受信機の他方の位置と前記受信時刻検出部により検出される受信時刻とに基づいて算出されるので、相関値のピークが鈍るなどによりその相関値のピークに基づいて電波の受信時刻を精度よく検出することが困難な場合においても、該受信時刻を精度よく検出することが可能であり、該検出された受信時刻に基づいて位置の算出を行なうことができる。また、前記第1相関値と前記第2相関値との差分を算出することから、信号線と接地間に存在するノイズ源によるノイズであるコモンモードノイズが発生する場合であっても、そのコモンモードノイズの影響を除去することができる。
【0012】
好適には、前記符号発生部は、予め設定された複数の値から前記所定時間を選択的に設定する遅延時間設定部を有する。このようにすれば、前記遅延時間設定部により、目標とする位置の算出精度に応じて前記所定時間を変更することができる。また、このとき、前記所定時間を変更しても前記変調部における変調周波数を変更しないので、送信機での信号処理を高速にせず消費電力を増加させることなく位置の算出精度を向上させることができる。
【0013】
また好適には、前記符号発生部は、前記所定時間として前記第2符号のチップ周期を任意の自然数で除した値の整数倍だけ前記第1符号よりも遅らせて前記第2符号を発生する。このようにすれば、共通のクロック信号を用いて目標とする位置の算出精度に合わせて適切な複数の前記所定時間を設定することができる。
【0014】
さらに好適には、前記受信時刻検出部は、前記差分演算部によって算出される前記第1相関値と前記第2相関値との差分が零となった時刻を前記送信機から送信された電波の前記受信機における受信時刻として算出する。このようにすれば、前記第1相関値と前記第2相関値との差分の値は零の前後を急峻に変化するため、前記第1相関値あるいは第2相関値の波形が鈍り、そのピークの時刻を精度よく検出できない場合であっても、前記受信時刻を前記第1相関値と前記第2相関値との差分が零となった時刻から精度よく検出することができる。
【0015】
また、好適には、(a)前記差分演算部によって算出される前記第1相関値と前記第2相関値との差分の微分値を算出する微分値算出部を有し、(b)前記受信時刻検出部は、該微分値算出部によって算出される微分値が極大となった時刻に基づいて前記送信機から送信された電波の前記受信機における受信時刻を算出することを特徴とする。このようにすれば、前記コモンモードノイズの影響を除去することができるとともに、マルチパスの影響による反射波が、受信機において直接波の受信完了前に受信機に到達する場合であっても、前記受信時刻を精度よく算出することができる。
【0016】
また好適には、前記符号発生部は、前記第1符号と同一の符号を前記所定時間だけずらすことにより前記第2符号を発生する。このようにすれば、同一の符号発生部と遅延回路を用いた簡易な構成により簡単に第1符号ならびに第2符号を発生させることができる。
【0017】
また好適には、前記符号発生部は、前記第1符号と異なる符号を前記所定時間だけずらすことにより前記第2符号を発生する。このようにすれば、マルチパスの発生する環境においてマルチパスの影響を受けた場合、前記第1符号あるいは前記第2符号のいずれか一方が他方に混入しても、他方の相関値は混入の影響を受けないことにより、前記差分演算部によって算出される前記第1相関値と前記第2相関値との差分におけるマルチパスの影響を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の一実施例について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例1】
【0019】
図1は、本発明の一実施例である移動局測位システム8の構成の概要を説明する図である。図1に示すように、測位システム8は、予め設定される領域を移動可能な移動局10、既知の位置に固定され、前記移動局10と無線による通信を行なう機能を有する第1基地局12A乃至第4基地局12Dの4つの基地局12(以下、第1基地局12A乃至第4基地局12Dを区別しない場合、基地局12という。)、および例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂コンピュータを含んで構成されるサーバ14を含んで構成される。なお、移動局10の数は1個以上であればとくに限定されない。また、基地局12とサーバ14はLANにより通信可能とされている。このときLANが有線であれば図1に示すように通信ケーブル18によって基地局12はサーバ14と接続される。なお、本実施例の移動局測位システム8においては、移動局10から送信される電波を複数の基地局である第1基地局12A乃至第4基地局12Dの4つの基地局12が受信し、その受信結果と予め既知とされた基地局12の位置についての情報とに基づいて移動局10の位置を算出する。従って、移動局10が送信機に、基地局12が受信機にそれぞれ対応する。また、移動局測位システム8が測位システムに対応する。
【0020】
図2は、移動局10の有する機能の要部を説明するための機能ブロック図である。符号発生部28はPN符号発生部30と遅延回路32とを含んで構成され、第1符号および第2符号を発生させる。PN符号発生部30は、拡散符号の一種であるPN(pseudo noise)符号を発生する。この符号は予めPN符号発生部30に記憶された符号である。また、遅延回路32は、前記PN符号発生部30によって発生されるPN符号を所定時間だけ遅延させて出力する。この所定時間は、後述する遅延時間設定部52により設定される遅延時間である。このようにして、符号発生部28においては遅延がされていない符号である第1符号と、その符号と同一の符号であって所定時間だけ遅延された符号である第2符号との2つが出力される。
【0021】
図3は、符号発生部28によって発生させられる2つの出力の例を示したものである。図3におけるIは第1符号、すなわちPN符号発生部30が発生する符号に対応し、Qは第2符号、すなわちPN符号発生部30が発生し、遅延回路32が所定時間遅延させた符号に対応する。また、ΔTが遅延回路32における前記所定時間に対応する。このように、符号発生部28は、第2符号を第1符号よりも所定時間ΔTだけ遅延させて(ずらして)発生する。図3におけるTはPN符号発生部30により発生させられるPN符号のチップ幅である。
【0022】
遅延時間設定部52は前記遅延回路32においてPN符号を遅延させる時間である前記所定時間ΔTの値を設定する。遅延時間設定部52による所定時間の設定は、例えば基地局12からの送信により決定される。前記所定時間ΔTの値としては、例えばPN符号発生部30が発生するPN符号のチップ幅Tの1/n(nは自然数)の整数倍の値となるように設定される。
【0023】
図4は、符号発生部28の遅延回路32における第2符号の生成を説明する図である。遅延回路32は複数のシフトレジスタ33a、33b、33c、33d、…(以下、これらを区別しない場合「シフトレジスタ33」という。)を有している。図4には例として4つのシフトレジスタ33a、33b、33c、33dが記載されている。このシフトレジスタ33は、例えば入力されるクロック信号CL(シフトパルス)の立ち上がりに応じて、遅延回路32に入力されるPN符号SINをシフトする。具体的には、シフトレジスタ33aへのPN符号SINは、クロック信号CLの立ち上がりによりシフトレジスタ33aの出力、すなわち、遅延信号出力SOUTa、およびシフトレジスタ33bへの入力信号となる。同様に、シフトレジスタ33bへのPN符号入力であるシフトレジスタ33aの出力SOUTaは、クロック信号CLの立ち上がりによりシフトレジスタ33bの出力、すなわち、遅延信号出力SOUTb、およびシフトレジスタ33cへの入力信号となる。シフトレジスタ33c、シフトレジスタ33dについても同様の作動により、遅延出力信号SOUTc、SOUTdが得られる。
【0024】
ここで、クロック信号CLの周期がTCL、遅延回路32に入力されるPN符号SINのチップ幅Tの1/n(nは自然数)のように、すなわちTCL=T/nのように設定されると、PN符号SINはシフトレジスタ33により1回シフトされるごとに、PN符号SINのチップ幅Tの1/nずつ遅延される。すなわち、図4において遅延信号出力SOUTa、SOUTb、SOUTc、SOUTdはそれぞれPN符号SINのチップ幅Tの1/nずつ遅延されている。具体的には例えば、シフトレジスタ33bから出力される遅延信号出力SOUTbの遅延時間ΔTbが、ΔTb=TCL×m (mは遅延信号出力SOUTbがシフトレジスタ33によりシフトされた回数を表わす整数)である場合、シフトレジス33bの出力SOUTbを入力とするシフトレジスタ33cの遅延信号出力SOUTcの遅延時間ΔTcは、ΔTc=TCL×(m+1)となる。前述のように、クロック信号CLの周期がTCLは、自然数nを用いてTCL=T/nのように設定されるので、前記シフトレジスタ33bの遅延信号出力の遅延時間ΔTbはΔTb=TCL×m=T×m/nのように、また、シフトレジスタ33cの遅延信号出力の遅延時間ΔTcはΔTc=TCL×(m+1)=T×(m+1)/nのようにそれぞれ表わされる。
【0025】
また、遅延回路32は図4に示すようにセレクタ31を有しており、前記複数のシフトレジスタ33のそれぞれの出力SOUTa、SOUTb、SOUTc、SOUTdのいずれかを選択して遅延回路32の出力とする。このようにすれば、遅延回路32からは、複数の異なった数のシフトレジスタ33によりそれぞれクロック信号CLの周期TCLだけシフトされた遅延信号出力のうち、いずれかが選択されて出力される。言い換えれば、PN符合発生部30が発生するPN符号である入力信号に対し、クロック信号の周期TCLだけシフトを行なったシフトレジスタ33の数mを乗じただけの遅延を簡単に生じさせることができる。
【0026】
変調部34は、入力される符号により搬送波を変調して出力するものであって、本実施例においては、2つの異なる入力のそれぞれにより異なる変調を行なうことができるようにされている。具体的には、変調部34は搬送波生成部36、第1変調部38、移相部40、第2変調部42、合成部44を含んで構成される。
【0027】
搬送波生成部36は、移動局10と基地局12との無線通信において用いるものとして予め定められた周波数の搬送波を生成する。搬送波生成部36により生成された搬送波は第1変調部38と移相部40とにそれぞれ入力される。第1変調部38は、符号発生部28により発生された第1符号により搬送波生成部36により生成された搬送波を位相変調する。
【0028】
移相部40は、搬送波生成部36により生成された搬送波の位相を予め定められる所定位相、例えばπ/2だけ遅延させる。第2変調部42は、符号発生部28により発生された第2符号により移相部40によって所定位相だけ遅らされた搬送波を位相変調する。なお、搬送波生成部36から第1変調部38に入力される搬送波が第1搬送波に対応し、搬送波生成部36から移相部40を介して第2変調部42に入力される搬送波が第2搬送波に対応する。
【0029】
合成部44は、第1変調部38によって変調された搬送波と第2変調部42によって変調された搬送波とを合成して出力する。この出力が変調部34の出力となる。前述のように、移相部40は入力される搬送波をπ/2だけ遅らせて第2変調部42に入力することから、合成部44に入力される2つの入力である第1変調部38からの入力と第2変調部42からの入力とは、直交する関係にある。すなわち、変調部34は直交変調を行なっている。
【0030】
送信アンプ24は、変調部34の出力を所定の増幅率により増幅し、アンテナ22により送信する。ここで、アンテナ22は搬送波生成部36で生成される搬送波の周波数に適したものが用いられる。また、移動局10からの距離が同じ場合にアンテナ22からの距離が同じ基地局11、12において移動局10からの方向に関わらず同じ強さで電波を受信できるように、アンテナ22は少なくとも電波の伝搬方向に関して無指向性であるアンテナが好適に用いられる。送信アンプ24やアンテナ22などが送信部に対応する。
【0031】
送受信切換部23は、移動局10における電波の送信状態と受信状態とを切り換えるためのアンテナ共用装置である。具体的には移動局10が送信状態とされる場合においては、送信アンプ24の出力をアンテナ22に接続することにより電波の送信を可能にする一方、移動局10が受信状態とされる場合においては、アンテナ22と後述する受信アンプ26の入力とを接続することにより、アンテナ22による電波の受信を可能にする。
【0032】
受信アンプ26は、アンテナ22により受信された電波(受信波)を増幅するものであって、低雑音で増幅を行なうことのできるローノイズアンプなどが好適に用いられる。また、復調部48は、搬送波36により生成される所定の搬送波により受信アンプ26により増幅された受信波の復調を行ない、信号波を取り出す。
【0033】
コントローラ50は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、移動局10の作動に関する制御などの処理を実行する。
【0034】
図5は、基地局12の有する機能の要部を説明する機能ブロック図である。このうち、送信アンプ64、送受信切換部63、アンテナ62、受信アンプ66は、それぞれ前述した移動局10の送信アンプ24、送受信切換部23、アンテナ22、受信アンプ26と同様の機能を有するものである。受信アンプ66、アンテナ62などが受信部に対応する。
【0035】
送信信号処理部74は、基地局12から送信する電波を生成する。具体的には後述するコントローラ72によって生成される信号などで所定の周波数の搬送波を変調し送信波を生成する。送信信号処理部74で生成された送信波は送信アンプ64によって増幅され、アンテナ62から送信される。
【0036】
受信信号処理部68は、アンテナ62によって受信され受信アンプ66によって所定の増幅が行なわれた受信波に対して復調処理を行ない、受信波に含まれている信号波を取り出す。取り出された信号波は後述するコントローラ72や受信時刻算出部70に送信される。
【0037】
図6はこの受信信号処理部68の有する機能をさらに詳しく説明する機能ブロック図である。受信信号処理部68は復調部78、相関演算部88、差動アンプ96を含んで構成される。
【0038】
復調部78は受信波に対し直交復調を行なう。具体的には、復調部78は第1復調部82、基準搬送波生成部80、移相部84、第2復調部86を含んで構成される。搬送波生成部80は、受信波における搬送波、すなわち移動局10の搬送波生成部36が生成する搬送波と同一の周波数の基準搬送波を生成する。基準搬送波生成部80により生成された搬送波は第1復調部82と移相部84とにそれぞれ入力される。第1復調部82は、入力される受信波を基準搬送波生成部80により生成された基準搬送波により復調する。なお、良く知られたヘテロダイン方式を用いて受信波を送信周波数より低い中間周波数に変換後復調を行っても良い。この場合、搬送波発生部80は中間周波数の基準搬送波を生成する。
【0039】
移相部84は、基準搬送波生成部80により生成された基準搬送波の位相を予め定められる所定位相、例えばπ/2だけ遅延させる。第2復調部86は、入力される受信波を移相部84によって所定位相だけ遅らされた基準搬送波により復調する。なお、基準搬送波生成部84から第1復調部82に入力される基準搬送波が第1基準搬送波に対応し、基準搬送波生成部80から移相部84を介して第2復調部86に入力される基準搬送波が第2基準搬送波に対応する。
【0040】
前述のように、復調部78は同一の受信波に対し、第1復調部82および第2復調部86においてそれぞれ基準搬送波をπ/2だけ位相が異なる2つの基準搬送波により復調を行なっており、直交復調に対応する。すなわち、第1復調部82の出力が同相(I相)成分の信号波であり、第2復調部86の出力が直交(Q相)成分の信号波である。なお、基準搬送波生成部80から第1復調部82に入力される搬送波が第1基準搬送波に対応し、基準搬送波生成部80から移相部84を介して第2復調部86に入力される搬送波が第2基準搬送波に対応する。
【0041】
相関演算部88は、前記復調部78によって生成される2つの信号波、すなわちI相成分の信号波とQ相成分の信号波のそれぞれに含まれるPN符号と、PN符号発生部90が発生させるPN符号との相関値をそれぞれ算出する。具体的には相関演算部88はPN符号発生部90、第1相関値算出部92、第2相関値算出部94を含んで構成される。PN符号発生部90は、予め記憶されたPN符号を第1相関値算出部92、第2相関値算出部94に対し出力する。このPN符号発生部90が発生するPN符号は移動局10のPN符号発生部30が発生するものと同一の符号(レプリカ符号)であり、本実施例においては第1相関値算出部92に出力する第1符号と、第2相関値算出部94に対し出力する第2符号とは同一の符号である。なお、第1相関値算出部92が算出する相関値が第1相関値に対応し、第2相関値算出部が算出する相関値が第2相関値に対応する。
【0042】
第1相関値算出部92、第2相関値算出部94はそれぞれ第1復調部82、第2復調部86によって復調される信号波とPN符号発生部90が発生するPN符号との相関値を逐次算出する。第1相関値算出部92および第2相関値算出部94は同様の構成を有し、具体的にはマッチドフィルタを含んで構成されている。
【0043】
図7は第1相関値算出部92および第2相関値算出部94にそれぞれ含まれるマッチドフィルタの構成の例を示した図である。マッチドフィルタは、第1復調部82あるいは第2復調部86による復調によって得られる信号波に含まれる拡散符号(受信信号)bとレプリカ符号aのビットごとの排他的論理和の値を算出し、それらの排他的論理和の値を加算器Σにより合計し、更に相関演算器において
【数1】

のようにレプリカ符号aと拡散符号bとの相関値Rab(ι)を算出する。なお、aiおよびbi(i=1,…,N)は、それぞれレプリカ符号aおよび拡散符号bのi番目のビットの内容であり、NはPN符号のビット長である。また、図7に示すように受信信号bは1ビット遅延素子により相関値Rabを算出する毎に1ビットずつシフトされるようにされており、前記(1)式におけるιはこのシフト量の総和を示している。このようにすれば、相関値Rab(ι)のピークが生じた際のιの値と受信速度などに基づいて、相関値Rab(ι)のピークが生じた際の時刻を信号波の同期時刻として算出することができる。
【0044】
図8は、第1相関値算出部92あるいは第2相関値算出部94に入力される信号波と出力される相関値の例を説明する図である。第1相関値算出部92あるいは第2相関値算出部94に信号波が入力されると、その信号波に含まれるPN符号とPN符号発生部90が発生するPN符号とが一致する(同期する)時刻tsyncにおいて相関値がピークとなるように相関値は変化する。
【0045】
差動アンプ96は、2つの入力信号の差を算出するものであって、本実施例においては第1相関値算出部92の出力と第2相関値算出部94の出力との差分、具体的には例えば第2相関値算出部94の出力から第1相関値算出部92の出力を減じたものを出力する。差動アンプ96が差分演算部に対応する。
【0046】
図9は、第1相関値算出部92の出力および第2相関値算出部94の出力に対する差動アンプ96の出力を同一の時間軸上において説明する図である。前述の図8で説明したように、第1相関値算出部92および第2相関値算出部94の相関値出力はそれぞれ、同期時刻をピークとする波形であり、例えば図8および図9の例で言えば、同期時刻までの間は単調増加であり、同期時刻を経過すると短調減少する。前述のように、移動局10の符号発生部28において遅延回路32によってPN符号を遅延させる所定時間はΔTであるので、図9に示すように第1相関値算出部92の相関値出力のピークが生じる時刻である同期時刻と、第2相関値算出部94の相関値出力の同期時刻との差はΔTとなる。一方、第2相関値算出部94の出力から第1相関値算出部92の出力を減じた作動アンプ96の出力に着目すると、その出力が負から正に転ずる(ゼロクロス)時刻はT+ΔT/2である。
【0047】
図5に戻って、受信時刻算出部70は、受信信号処理部68の出力、具体的には差動アンプ96が算出する第1相関値算出部92の出力と第2相関値算出部94の出力との差分に基づいて、受信した電波の受信時刻として検出する。具体的には受信時刻算出部70は、差動アンプ96が算出する第1相関値算出部92の出力と第2相関値算出部94の出力との差分の値が零となった時刻を受信時刻として検出する。受信時刻算出部70が受信時刻検出部に対応する。
【0048】
ところで、PN符号の相関値に基づいて電波の受信時刻を検出方法としては、相関値のピークを生じた時刻を受信時刻とする方法が多く用いられている。かかる方法においては、図8の相関値算出部出力として例示した相関値出力からそのピークを生じた時刻を検出する必要があり、特に移動局測位システム8に要求される測位精度によってはns(ナノ秒)単位での検出が必要となる。しかしながら、PN符号を送信する移動局10と受信する基地局12との間の無線通信が良好でない場合には図10の(a)に示すように、相関値出力の波形が鈍ったり、ノイズの影響が発生(図10(a)の矢印部分)し、波形のピークを生じた時刻の検出に誤差を生じやすくなる。
【0049】
一方、移動局10と基地局12との間の無線通信が良好でなく、第1相関値算出部92および第2相関値算出部94のそれぞれにおける相関値出力の波形が図10の(a)に示すように鈍るなどした場合において、差動アンプ96が算出する第1相関値算出部92の出力と第2相関値算出部94の出力との差分の値の波形は図10(b)のようになる。図10(b)に示すように、波形全体を見ると鈍りやノイズが発生していても、ゼロクロス近辺では急峻な変化となっている(図10(a)の矢印部分)。前述のように受信時刻算出部70は、差動アンプ96の出力が零となった時刻を受信時刻として検出するので、相関値出力の波形が鈍るなどした場合であっても、受信時刻の精度よい検出が容易である。
【0050】
また、差動アンプ96の出力は第1相関値算出部92の出力と第2相関値算出部94の出力との差分であるので、外乱などで第1相関値算出部92の出力および第2相関値算出部94の出力に共通して発生する変動成分(コモンモードノイズ)の影響を除去することができる。したがって、差動アンプ96の出力に基づいて受信時刻算出部70によって算出される受信時刻の値は、コモンモードノイズの影響を受けにくいものとされる。
【0051】
なお、図9に示したように差動アンプ96の出力においては、ΔTの値が小さい程ゼロクロス近傍の波形の変化は急峻なものとなるので、受信時刻算出部70におけるゼロクロスとなった時刻の検出は容易となり検出精度が向上する。しかしながら、ΔTの値を小さくすると差動アンプ96の差動出力自体が小さくなり、ノイズの影響を受けやすくなる。そのため、移動局10の遅延時間設定部52による遅延回路32の所定時間ΔTの決定は、これらの影響を考慮して、例えば予め設定された複数種類の値から適当なものを選択されることにより行なわれる。
【0052】
コントローラ72は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、基地局12の作動に関する制御などの処理を実行する。
【0053】
通信インタフェース76は、通信ケーブル18によって接続されたサーバ14や他の基地局12との間で必要な情報の送受信を行なう。
【0054】
図11は、サーバ14の有する機能の要部を説明する機能ブロック図である。このうち通信インタフェース98は、通信ケーブル18によって接続された基地局12との間で必要な情報の送受信を行なう。なお、本実施例においては、サーバ14は無線通信機能を有さず、移動局10は通信ケーブル18を介した有線通信機能を有さないことから、サーバ14から移動局10に対する指令などは、無線通信機能と有線通信機能の両方を有して構成される基地局12のいずれかを介して伝達される。
【0055】
測位部100は、各基地局12の受信時刻算出部70において算出される移動局10からの電波の受信時刻と、予め記憶されている各基地局12の位置についての情報とに基づいて、移動局10の位置を算出する。
【0056】
図12は、測位部100による移動局10の位置の算出の原理を説明する図である。移動局10の位置を表わす座標を(x、y)とし、第1普通基地局12Aの位置を表わす座標が(xB1,yB1)、第2普通基地局12Bの位置を表わす座標が(xB2,yB2)、第3普通基地局12Cの位置を表わす座標が(xB3,yB3)、第4基地局12Dの位置を表す座標が(xB4,yB4)であるとすると、これらの関係は次式(2)により得られる。なお、図12における基地局12の配置は説明のため図1のものと異なっている。
【数2】

ここで、Tr1、Tr2、Tr3およびTr4(sec)はそれぞれ、第1普通基地局12A、第2普通基地局12B、第3基地局12C、および第4普通基地局12Dの受信時刻算出部70において検出される受信時刻であり、Tsは移動局10の無線部22における電波の送信時刻である。すなわち、前記(2)式の右辺は、第1普通基地局12A、第2普通基地局12B、第3普通基地局12C、および第4普通基地局12Dのそれぞれと移動局10との間の電波の伝搬時間に電波の速度cを乗ずることによって得られる電波の伝搬距離の二乗を表わしている。前記(2)式はx、y、Tsを未知数とした連立方程式である。(2)式よりTsを消去すると以下の式(3)となる。
【数3】

測位部100は前記(2)式もしくは(3)式を解くことにより、移動局10の位置(x,y)を算出する。なお、前記(2)式もしくは(3)式を解くにあたり、それらの全ての式を連立させて解く必要はなく、解を算出するのに最低限の数の式により解いてもよい。
【0057】
図13は、本実施例の移動局測位システム8における制御作動の概要を説明するフローチャートである。まず、ステップ(以下「ステップ」を省略する。)SA1においてはサーバ14から各基地局12のそれぞれに対し、移動局10の測位を実行するための指令が行なわれる。この指令は、(1)複数の基地局12のいずれか1つに対し、移動局10に対する送信指令を基地局12から移動局10に送信させる指令と、(2)各基地局12に対し、移動局10から送信される測位のための電波を受信し、受信時刻算出部70において受信時刻を算出し、サーバ14に送信させる指令とを含む。このうち、前記(1)の送信指令は、移動局10に測位のための電波を送信させるための指令である。前記いずれか1つの基地局12は、例えばサーバ14により任意に選択される基地局12である。
【0058】
SA2においては、各基地局12において、サーバ14からのSA1の指令が受信されたか否かが待機される。サーバ14からのSA1の指令が受信される場合には、本ステップの判断が肯定され、続くSA3が実行される。一方サーバ14からのSA1の指令が受信されない場合には、本ステップの判断が否定され、繰り返しSA1が実行されて、サーバ14からのSA1の指令が受信されるまで待機が行なわれる。
【0059】
SA3は、SA2の判断が肯定された場合に実行されるステップであって、SA1で受信されたサーバ14からの指令が(1)の送信指令を含むものであったか否かが判断される。SA1で受信されたサーバ14からの指令が(1)の送信指令を含むものであった場合には本ステップの判断が肯定され、SA4が実行される。一方SA1で受信されたサーバ14からの指令が(1)の送信指令を含まないものであった場合には、SA4が実行されず、移動局10から送信される電波の受信を行なうための待機が行なわれる。
【0060】
SA4においては、前記(1)の指令を受信した基地局12から移動局10に対し、移動局10に測位のための電波を送信させるための送信指令が無線により送信される。その後、前記(1)の指令を受信しなかった基地局と同様に、移動局10から送信される電波の受信を行なうための待機が行なわれる。
【0061】
SA5においては、移動局10において、測位のための電波の送信を行なうための指令(SA4)が受信されたか否かが待機される。移動局10において測位のための電波の送信を行なうための指令が受信された場合には本ステップの判断が肯定され、続くSA6が実行される。一方、測位のための電波の送信を行なうための指令が受信されない場合には本ステップの判断が否定され、繰り返しSA5が実行されて、測位のための電波の送信を行なうための指令が受信されるまで待機が行なわれる。
【0062】
移動局10の符号発生部28、変調部34などに対応するSA6においては、移動局10から各基地局12に対し測位のための電波の送信が行なわれる。
【0063】
各基地局12の受信信号処理部68などに対応するSA7においては、移動局10から送信される測位のための電波が受信されたか否かが判断される。移動局10から送信される電波が受信された場合においては、本判断は肯定されSA10が実行される。一方、移動局10から送信される電波が受信されない場合、本ステップの判断が否定され、SA8が実行される。
【0064】
SA7の判断が否定された場合に実行されるSA8においては、SA4における移動局10への電波の送信指令を行なってからの経過時間が予め設定されたタイムアウト時間を超えたか否かが判断される。そして、経過時間が前記タイムアウト時間を超えた場合には本ステップの判断が肯定され、SA9が実行される。また、経過時間が前記タイムアウト時間を超えていない場合には本ステップの判断は否定され、SA7に戻って引き続き移動局10からの電波の受信が行なわれる。
【0065】
SA8の判断が肯定された場合に実行されるSA9においては、SA8の判断が肯定された基地局12については、移動局10からの電波を受信することができなかったとして、エラーが発生したとされる。具体的には、サーバ14に対し、受信に失敗した旨を送信するなどの処理を行なう。
【0066】
基地局12の受信信号処理部68などに対応するSA10は、SA7の判断が肯定された場合に実行される。SA10においては、基地局12において受信された受信波が直交復調により同相成分の信号波と直交成分の信号波とに復調され、同相成分の信号波および直交成分の信号波のそれぞれについてマッチドフィルタを用いてレプリカ符号との相関値である第1相関値および第2相関値が算出される。そして、第1相関値と第2相関値との差分が算出される。
【0067】
基地局12の受信時刻算出部70などに対応するSA11は、SA7の判断が肯定された場合に実行される。SA11においては、SA10において算出される第1相関値と第2相関値との差分の正負が切り替わった(ゼロクロス)時刻が検出され、その時刻が移動局10からの電波の受信時刻とされる。
【0068】
基地局12の通信インタフェース76などに対応するSA12においては、SA11で算出された受信時刻についての情報が、基地局12からサーバ14に送信される。
【0069】
SA13においては、各基地局12における移動局10からの電波の受信時刻についての情報が、予め定められた所定数以上の数の基地局12から送信され、サーバ14に受信されたか否かが判断される。この所定数は、SA16において移動局10の位置の算出を行なうために必要となる数であって、例えば移動局10の移動が3次元空間であるい場合には4つであり、2次元平面である場合や、3次元空間であっても移動局10の高さについての情報を図示しない高さ検出手段などにより得ることが可能な場合には3つである。前記所定数以上の数の基地局12から受信強度についての情報が受信された場合には、本ステップの判断は肯定され、SA16が実行される。一方、前記所定数以上の数の基地局12から受信時刻についての情報が受信されない場合には、本ステップの判断が否定され、続くSA14が実行される。
【0070】
SA14においては、SA1の指令を行なってからの経過時間が予め設定されたタイムアウト時間を超えたか否かが判断される。そして、経過時間が前記タイムアウト時間を超えた場合には本ステップの判断が肯定され、SA15が実行される。また、経過時間が前記タイムアウト時間を超えていない場合には本ステップの判断は否定され、SA13が繰り返し実行され、基地局12からの受信時刻についての情報の受信が行なわれる。
【0071】
SA14の判断が肯定された場合に実行されるSA15においては、移動局10の位置の算出を行なうために必要な数の基地局12から、移動局10からの電波の受信強度を受信することができなかったとして、エラー処理が行なわれる。具体的には例えば後述するSA16により算出される移動局10の位置の出力に代えて、移動局10の位置の算出に失敗した旨の情報が出力される。
【0072】
サーバ14の測位部100に対応するSA16においては、SA13で受信された各基地局12における移動局10からの電波の受信時刻についての情報、各基地局12の位置についての情報などに基づいて、前記(2)式あるいは(3)式を解くことにより、移動局10の位置が算出される。
【0073】
前述の実施例によれば、移動局10においては、符号発生部28のPN符号発生部30により発生される第1符号と、遅延回路32により第1符号より所定時間ΔTだけ遅らせて前記第2符号とが発生させられる。また、変調部34により、第1符号で搬送波発生部36により発生される第1搬送波が変調させられ、第2符号で搬送波発生部36により発生され移相部40により第1搬送波より所定位相(π/2)だけ遅らされるが変調させられるとともに、合成部44により変調後の信号が合成され、送信アンプ24により、変調部34による出力が無線により送信される。一方、基地局12においては、受信アンプ66により移動局10から送信された電波が受信され、復調部78により基準搬送波生成部80により生成される第1基準搬送波および移相部84により第1基準搬送波より前記所定位相だけ遅らされた第2基準搬送波のそれぞれに基づいて受信波が復調される。また、相関演算部88により、復調部78により第1基準搬送波に基づいて復調された第1受信信号とPN符号発生部90により発生される第1符号との第1相関値が算出され、復調部78により第2基準搬送波に基づいて復調された第2受信信号と第2符号との第2相関値がそれぞれ算出され、差動アンプ96により第1相関値と第2相関値との差分が算出される。さらに、受信時刻検出部70により差動アンプ96によって算出される第1相関値と第2相関値との差分に基づいて移動局10から送信された電波の基地局12における受信時刻が算出され、サーバ14の測位部100によって移動局10の位置が、各基地局12の位置と受信時刻検出部70により検出される受信時刻とに基づいて算出されるので、移動局測位システム8は、相関値のピークが鈍るなどによりその相関値のピークに基づいて電波の受信時刻を精度よく検出することが困難な場合においても、該受信時刻を精度よく検出することが可能であり、該検出された受信時刻に基づいて移動局10の位置の算出を行なうことができる。また、差動アンプ96は第1相関値と第2相関値との差分を算出し、受信時刻算出部70はその作動に基づいて受信時刻を算出することから、信号線と接地間に存在するノイズ源によるノイズであるコモンモードノイズが発生する場合であっても、そのコモンモードノイズの影響を除去することができる。
【0074】
また前述の実施例によれば、符号発生部28は、予め設定された複数の値から所定時間ΔTを選択的に設定する遅延時間設定部52を有するので、移動局測位システム8が目標とする位置の算出精度に応じて所定時間ΔTを変更することができる。また、このとき、前記所定時間ΔTを変更しても変調部34における変調周波数を変更しないので、移動局10で信号処理をより高速化することなく、これにより消費電力を増加させることなく移動局測位システム8の位置の算出精度を向上させることができる。
【0075】
また前述の実施例によれば、符号発生部28は、所定時間ΔTとして第2符号のチップ周期Tを任意の自然数nで除した値の整数m倍だけ第1符号よりも遅らせて第2符号を発生するので、移動局測位システム8が目標とする位置の算出精度に合わせて適切な複数の所定時間ΔTを設定することができる。
【0076】
また前述の実施例によれば、受信時刻検出部70は、差動アンプ96によって算出される第1相関値と第2相関値との差分が零となった時刻を移動局10から送信された電波の基地局12における受信時刻として算出するので、第1相関値と第2相関値との差分の値は零の前後を急峻に変化するため、第1相関値あるいは第2相関値の波形が鈍り、そのピークの時刻を精度よく検出できない場合であっても、受信時刻を第1相関値と第2相関値との差分が零となった時刻から精度よく検出することができる。
【0077】
続いて、本発明の別の実施例について説明する。以下の説明において、実施例相互に共通する部分については、同一の符号を付して説明を省略する。
【実施例2】
【0078】
前述の移動局10および基地局12が室内において用いられる場合などは、移動局10から送信された電波が壁面などに反射して反射波となり基地局12に受信される、いわゆるマルチパスの問題が発生しうる。図14はこのマルチパスが発生した場合の受信機における相関値算出部の出力を説明する図である。送信機から送信されたPN符号を含む電波が、送信機から直接受信機に到達する直接波、および、送信機から他の物体などに反射して受信機に到達する反射波としてそれぞれ受信機に到達する場合、受信機の相関値算出部は直接波に含まれるPN符号と、反射波に含まれるPN符号のそれぞれについて相関値の算出を行なう。図14(a)において、実線は直接波についての相関値であり、破線は反射波について相関値である。なお、ΔTdは直接波と反射波の到達時間差である。実際には、受信機の相関値算出部が算出する相関値はこれらの合計となるので、図14(b)に示すものとなる。
【0079】
図15は、本実施例における基地局12の受信信号処理部68の有する機能の要部を説明する機能ブロック図であって、前述の実施例の図6に対応するものである。図6に示した前述の実施例1の受信信号処理部68の有する機能に比べて、本図15に示す受信信号処理部68は、差動アンプ96の出力である第1相関値と第2相関値との差分の微分値を算出する微分器98をさらに有する点において異なる。
【0080】
この微分器98は、例えば予め規定された微小時間区間あたりの変化量を算出することなどにより、第1相関値と第2相関値との差分の微分値を算出する。微分器98が微分値算出部に対応する。
【0081】
図16は、マルチパスの影響下における第1相関値算出部92、第2相関値算出部94、作動アンプ96、および微分器98のそれぞれの出力を説明する図である。図16においては、第1相関値算出部92、第2相関値算出部94、差動アンプ96の出力のそれぞれは太線で表わされた波形である。また、第1相関値算出部92、第2相関値算出部94、差動アンプ96の出力と合わせて記載された波形のうち、細実線は各移動局10から基地局12に直接到達する直接波の影響による成分、破線は各移動局10から基地局12に他の物体に反射して到達する反射波の影響による成分を表わす。また、差動アンプ96および微分器98の出力を表わす波形は、マルチパスなどの影響などにより波形が鈍った状態を示している。微分器98の出力を表す波形は波形が鈍った差動アンプ出力波形からでも精度良く到達時間を検出できる状態を示している。
【0082】
第1相関値算出部92および第2相関値算出部94の出力は、前述の図14について説明したように、直接波と、直接波からΔTdだけ遅れて到達する反射波との両方を受信する結果、それぞれ図16の太線で表わされた出力となる。その結果、差動アンプ96の出力についても、例えば細実線で表わされるようなマルチパスの影響がない場合と異なるものとなる。特に、細実線で表わされるマルチパスの影響がない場合の差動アンプ96の出力がゼロクロスする時刻tzと、太線で表わされるマルチパスの影響がある場合の差動アンプ96の出力がゼロクロスする時刻tz’とは異なっている。すなわち、マルチパスの影響がある場合には、差動アンプ96の出力がゼロクロスする時刻を受信時刻とすると、誤差が生ずることとなる。
【0083】
一方、微分器98の出力に着目すると、移動局10の符号発生部28により発生される第2符号の第1符号に対する遅延時間である所定時間ΔTに起因する変化がパルス状に現れている。
【0084】
本実施例においては、基地局12の受信時刻算出部70は、受信信号処理部68の出力、すなわち微分器98の出力である、第1相関値と第2相関値との差分の微分値の時間変化に基づいて、移動局10からの電波の受信時刻を算出する。具体的には、受信時刻算出部70は次のように受信時刻の算出を行なう。図17は、微分器98の出力である、第1相関値と第2相関値との差分の微分値の時間変化を示した図である。受信時刻算出部70は、微分器98の出力において、しきい値DTHを上回った場合に、その時刻Taを記憶し、さらに微分器98の出力のピークの検出を行なう。これは、混入したノイズを誤って受信時刻として検出することを防止するためであり、しきい値Dthの値はノイズを誤って受信時刻として検出することを防止できる大きさとなるように、ノイズの大きさと実際の受信時刻に応じて発生する波形のピークの大きさを考慮して予め定められる。
【0085】
受信時刻算出部70は微分器98の出力のピークを検出した時刻Tpを記憶する。さらに微分器98の出力がしきい値Dthを下回った時刻Tbを検出し記憶する。そして、微分器98の出力がしきい値Dthを上回っていた時間を、記憶された時刻TaおよびTbに基づいてTb−Taのように算出する。このように算出された微分器98の出力がしきい値Dthを上回っていた時間Tb−Taが、予め定められたしきい値Tthを上回ったか否かを判断し、上回った場合には前記微分器98の出力のピークを検出した時刻Tpを移動局10からの電波の受信時刻とする。一方、微分器98の出力がしきい値Dthを上回っていた時間Tb−Taが、予め定められたしきい値Tthを上回っていない場合には、時刻Tpにおけるピークはノイズ等の影響によって生じたピークであって、移動局10からの電波の受信時刻でないして、さらにピークの探索を継続する。ここでしきい値Tthは、直接波のゼロクロスに対応する微分器98の出力のピークを検出する一方、ノイズの影響によるピークを除外できるように、例えば移動局10の遅延回路32において第2符号を第1符号から遅延させる所定時間ΔTの半分の量であるΔT/2のように設定される。
【0086】
図18は本実施例における基地局12の受信時刻算出部70の制御作動の概要を説明するフローチャートである。本実施例においても移動局測位システム8の制御作動は前述の実施例と同様に例えば図13のフローチャートに示すように行なわれるが、図18のフローチャートは、図13のステップSA11に代えて実行される。
【0087】
まず、移動局12の微分器98に対応するSB1においては、SA10で算出された作動アンプ96の出力、すなわち第1相関値と第2相関値との差分の微分値が算出される。なお、微分器を微分回路のようなハードウェアで構成すれば、このステップは省略できる。
【0088】
続くSB2においては、SB1で算出された微分値がA/D変換にされる。このときA/D変換のサンプリング速度は、例えば、移動局10の遅延回路32における遅延時間である所定時間ΔTの3倍以上など、ΔTに比べて十分早い、すなわち、所定時間ΔTを精度よく検出できる程度のサンプリング速度とされる。
【0089】
SB3においてはSB2でA/D変換された微分値に関するデータが図示しないメモリなどの記憶装置に記憶される。また、SB4においては、データに含まれるノイズを除去するために、平滑化フィルタにより平滑化処理される。
【0090】
SB5においては、反復実行の回数を表わす変数(カウンタ)i、微分値の値を表わす変数Dmax、ピークの検出中であることを示すフラグPのそれぞれの値が0に初期化される。
【0091】
SB6においては、反復実行回数を表わす変数iの値に1が加えられ、時刻Tiの時点の微分値の値Diが取得される。
【0092】
SB7においては、微分値の値Diが、予め定められたしきい値Dthを上回ったか否かが判断される。微分値の値Diが、予め定められたしきい値Dthを上回った場合は、本ステップの判断は肯定され、微分値のピークの検出を行なうため、SB8が実行される。一方、微分値の値Diが、予め定められたしきい値Dthを下回った場合には、本ステップの判断は否定され、SB14以降が実行される。
【0093】
SB8においては、ピークの検出中であることを示すフラグPの値が1であるかが判断される。フラグPの値が0である場合には、本ステップの判断は否定され、それまでピークの検出中でなかったとして、SB9およびSB10が実行されてからSB11が実行される。一方、フラグPの値が1である場合には、本ステップの判断が肯定され、既にピークの検出中であるとして、SB9およびSB10が実行されることなくSB11が実行される。
【0094】
SB9においては、SB7の判断が肯定された際の時刻Tiが、ピークの検出期間の開始時刻を表わす時刻Taとして記憶される。SB10においては、ピークの検出中であることを表わすフラグPの値が1とされ、ピークの検出が開始される。
【0095】
SB11においては、SB6で検出された微分値の値Diがピークの検出期間における微分値の最大値Dmaxよりも大きいか否かが判断される。微分値の値Diが最大値Dmaxよりも大きい場合には本ステップの判断が肯定され、SB12が実行される。一方、微分値の値Diが最大値Dmaxよりも小さいまたは両者が等しい場合には本ステップの判断が否定され、SB12が実行されることなくSB13が実行される。
【0096】
SB12においては、最大値Dmaxの値として微分値の値Diが記憶される。また、ピークの検出時刻を表わす変数Tpとして時刻Tiが記憶される。すなわち、SB6の実行時刻である時刻Tiが新たなピークの検出時刻とされる。
【0097】
SB13においては、反復実行回数を表わす変数iの値が、反復実行回数の最大値を表わすiendとなったか否かが判断される。変数iの値が最大値iendとなった場合には本ステップの判断が肯定され、本フローチャートは終了する。一方変数iの値が最大値iendに達していない場合には、引き続き本フローチャートのSB6以降が繰り返し実行される。ここで、最大値iendは、反復により受信波の全体に対応する微分値について、ピークの検出を行なったことを表わす変数であり、具体的には、移動局10の符号発生部28が発生するPN符号の符号長や、SB2におけるA/D変換のサンプリングタイムなどによって決定される値である。なお、SB13の判断が肯定されて本フローチャートが終了する場合は、本フローチャートによっては微分値のピークを検出することができなかったこと、すなわち受信時刻の検出に失敗したことに対応する。
【0098】
SB7の判断が否定された場合に実行されるSB14においては、ピークの検出中であることを示すフラグPの値が1であるかが判断される。フラグPの値が0である場合には、本ステップの判断は否定され、未だピークの検出が開始されていないとして、SB13に移る。一方、フラグPの値が1である場合には、本ステップの判断が肯定され、ピークの検出を終了するためにSB15以降が実行される。
【0099】
SB15においては、SB7の判断が否定された際の時刻Tiが、ピークの検出期間の終了時刻を表わす時刻Tbとして記憶される。SB16においては、ピークの検出の実行時間であるTb−Taの長さが、予め定められたしきい値Tthを上回るか否かが判断される。ピークの検出の実行時間Tb−Taの長さがしきい値Tthを上回る場合には、本ステップの判断が肯定され、SB18が実行される。一方、ピークの検出の実行時間Tb−Taの長さがしきい値Tthを下回る、あるいは両者が等しい場合には、本ステップの判断が否定され、SB17が実行される。
【0100】
SB17はSB16の判断が否定された場合、すなわちSB15で終了したピークの検出はノイズによるものであったとされる場合に実行されるステップである。本ステップにおいては、ピークの実行中であるか否かを示すフラグPの値がピークの検出中でないことを表わす0に変更される。また、ピークの検出期間における微分値の最大値を表わす変数Dmaxの値が0に初期化され、再度のピークの検出に備える。
【0101】
SB18はSB16の判断が肯定された場合、すなわち、SB15で終了したピークの検出は第1符号と第2符号の遅延によるものであったとされる場合に実行されるステップである。本ステップにおいては、SB12において記憶された時刻Tpの値が、微分値のピークを検出した時刻であるとして、すなわち、移動局10からの電波の受信時刻であるとして出力される。
【0102】
前述の実施例によれば、差動アンプ96によって算出される第1相関値と第2相関値との差分の微分値を算出する微分器98を有し、受信時刻検出部70は、微分器98によって算出される微分値が極大となった時刻に基づいて移動局10から送信された電波の基地局12における受信時刻を算出するので、前述の実施例の効果であるコモンモードノイズの影響を除去することができることに加え、マルチパスの影響による反射波が、基地局12において直接波の受信完了前に基地局12に到達する場合であっても、受信時刻を精度よく算出することができる。
【0103】
また、前述の実施例によれば、符号発生部28は、第1符号と同一の符号を所定時間ΔTだけずらすことにより第2符号を発生するので、第1相関値の時間変化と第2相関値の時間変化とは、所定時間だけ時間間隔の生じた同一の時間変化となり、微分器98によって算出される、第1相関値と第2相関値との差分の微分値を好適に算出することができる。
【実施例3】
【0104】
図19は、本発明の別の実施例における移動局10の有する機能の要部を説明する機能ブロック図であって、前述の実施例1における図2に対応する図である。図19の移動局10と図2の移動局10とを比べると、図19の移動局10の有する符号発生部128の構成と図2の移動局10の有する符号発生部28の構成とが異なっている。本実施例の移動局10の有する符号発生部128は、クロック129、遅延回路32、第1PN符号発生部130、第2PN符号発生部131を含んで構成される。
【0105】
クロック129は所定のクロック速度のクロック信号を出力することにより、第1PN符号発生部130および遅延回路32を駆動させる。第1PN符号発生部130は、前記クロック129の出力するクロック信号に応じて所定のPN符号である第1のPN符号を送信する。この第1のPN符号が第1符号に対応する。第1PN符号発生部130によって発生されたPN符号は第1変調部38に入力される。
【0106】
遅延回路32は前述の実施例1の遅延回路32と同様に、入力された信号を所定時間ΔTだけ遅延させる。本実施例においては、クロック129から入力されるクロック信号を所定時間ΔTだけ遅延させて出力する。この所定時間ΔTは前述の実施例1と同様に、遅延時間設定部52によって設定される。第2PN符号発生部131は、遅延回路32によって遅らされた(ずらされた)クロック信号に応じて所定のPN符号である第2のPN符号を送信する。このため、第2PN符号発生部131による符号の発生は、第1PN符号発生部130による符号の発生から前記所定時間ΔTだけ遅れて行なわれる。この第2のPN符号は第1のPN符号とは異なる符号であって、第2符号に対応する。第2PN符号発生部131によって発生されたPN符号は第2変調部42に入力される。
【0107】
図20は、本発明の別の実施例における基地局12の受信信号処理部68の有する機能の要部を説明する機能ブロック図であって、前述の実施例1における図6に対応する図である。図20の受信信号処理部68と図6の受信信号処理部68とを比べると、図19の受信信号処理部68の有する相関演算部188の構成と図6の受信信号処理部68の有する相関演算部88の構成とが異なっている。本実施例の受信信号処理部68の有する相関演算部188は、第1PN符号発生部190、第2PN符号発生部191、第1相関値算出部192、第2相関値算出部194を含んで構成される。
【0108】
第1PN符号発生部190および第2PN符号発生部191はそれぞれ、移動局10の第1PN符号発生部130、第2PN符号発生部131が発生するPN符号と同一のPN符号を発生させる。
【0109】
第1相関値算出部192、および第2相関値算出部194はそれぞれ、前述の実施例における第1相関値算出部92および第2相関値算出部94と同様にマッチドフィルタを含んで構成される。第1相関値算出部192は第1復調部82によって復調される信号波と第1PN符号発生部190が発生するPN符号との相関値を、また、第2相関値算出部194は第2復調部86によって復調される信号波と第1PN符号発生部191が発生するPN符号との相関値を逐次算出する。このようにすれば、前記第1復調部82および第2復調部86によって復調されたそれぞれの信号波についてそれぞれ送信時に用いられたPN符号のレプリカ符号を用いて相関値の算出を行なうことができる。なお、本実施例における移動局測位システム8の作動の一例は、前述の実施例と同様に図13に示したフローチャートに従って行なわれる。
【0110】
本実施例によれば、符号発生部128は、第1PN符号発生部130が発生する第1符号と、その第1符号とは異なる符号である第2PN符号発生部131が発生する第2符号であって遅延回路32において所定時間ΔTだけずらされた符号とを発生するので、マルチパスの発生する環境においてマルチパスの影響を受けた場合、第1符号あるいは第2符号のいずれか一方が他方に混入しても、他方の相関値は混入の影響を受けないことにより、差動アンプ96によって算出される第1相関値と第2相関値との差分におけるマルチパスの影響を低減することができる。
【実施例4】
【0111】
図21は、本実施例における基地局12の受信信号処理部68の有する機能の要部を説明する機能ブロック図であって、前述の実施例の図20に対応するものである。図20に示した前述の実施例3の受信信号処理部68の有する機能に比べて、本図21に示す受信信号処理部68は、差動アンプ96の出力である第1相関値と第2相関値との差分の微分値を算出する微分器98をさらに有する点において異なる。
【0112】
この微分器98は、実施例2における基地局12の受信信号処理部68が有する微分器98と同様のもので、例えば予め規定された微小時間区間あたりの変化量を算出することなどにより、第1相関値と第2相関値との差分の微分値を算出する。微分器98が微分値算出部に対応する。なお、本実施例における移動局測位システム8の作動の一例は、前述の実施例と同様に図13および図18に示したフローチャートに従って行なわれる。
【0113】
前述の実施例によれば、差動アンプ96によって算出される第1相関値と第2相関値との差分の微分値を算出する微分器98を有し、受信時刻算出部70は、微分器98によって算出される微分値が極大となった時刻に基づいて移動局10から送信された電波の基地局12における受信時刻を算出するので、前述の実施例の効果であるコモンモードノイズの影響を除去することができることに加え、マルチパスの影響による反射波が、基地局12において直接波の受信完了前に基地局12に到達する場合であっても、受信時刻を精度よく算出することができる。
【0114】
また、前述の実施例によれば、符号発生部128は、第1PN符号発生部130が発生する第1符号と、その第1符号とは異なる符号である第2PN符号発生部131が発生する第2符号であって遅延回路32において所定時間ΔTだけずらされた符号とを発生するので、マルチパスの発生する環境においてマルチパスの影響を受けた場合、第1符号あるいは第2符号のいずれか一方が他方に混入しても、他方の相関値は混入の影響を受けないことにより、差動アンプ96によって算出される第1相関値と第2相関値との差分におけるマルチパスの影響を低減することができる。
【0115】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0116】
例えば、前述の実施例においては、符号発生部28、128が発生する符号はPN符号とされたが、これに限られない。すなわち、同期時の自己相関値が高く、非同期時の自己相関値や相互相関値が低くなる符号であれば他の種類の拡散符号であってもよい。
【0117】
PN符号発生部30、第1PN符号発生部130、第2PN符号発生部131が発生するPN符号は、それぞれ予め記憶されたPN符号が用いられるものとされたが、例えば予めPN符号発生部30、第1PN符号発生部130、第2PN符号発生部131が複数種類の符号を記憶しておき、記憶された複数の符号から選択される1つを発生するようにしてもよい。かかる態様においては、移動局10から基地局12に対し、PN符号発生部30、第1PN符号発生部130、第2PN符号発生部131が発生する符号の種類を通知するとともに、基地局のPN符号発生部90、第1PN符号発生部190、第2PN符号発生部191においても対応する符号を発生できる構成とされる。
【0118】
移動局10においては、復調部48は搬送波生成部36から搬送波が入力されたが、これに限られず、送受信で搬送波の周波数が異なる場合には、基地局12の送信搬送波の周波数に対応した搬送波が入力される。
【0119】
差動アンプ96は第1相関値算出部92の出力と第2相関値算出部94の出力との差分として、第2相関値算出部94の出力から第1相関値算出部92の出力を減じたもの算出するものとしたが、逆に第1相関値算出部92の出力から第2相関値算出部94の出力を減じでもよい。この場合、差動アンプ96の出力は前述の実施例と正負が逆転するが、差動アンプ96がゼロクロスする時刻に変わりはない。
【0120】
前述の実施例においては、遅延時間設定部52は前記遅延回路32においてPN符号を遅延させる時間である前記所定時間ΔTの値を、PN符号発生部30が発生するPN符号のチップ幅Tの1/n(nは自然数)の整数m倍の値となるように設定した。これに加えて、基地局12における差動アンプ96の差動出力の大きさを適宜検出し、その差動出力の大きさが所定の上限しきい値を超えた場合に、遅延時間設定部52に対しΔTを小さくするように、また、差動出力の大きさが所定の下限しきい値を超えた場合に、遅延時間設定部52に対しΔTを大きくするように変更を行なうようにしてもよい。
【0121】
また、前述の実施例においては、受信時刻算出部70が算出する電波の受信時刻は直接波の相関値についての差動アンプ96の出力がゼロクロスする時刻(T+ΔT/2)とされたが、このような定義に限られない。例えば測位部100が前記(3)式を解くことにより移動局10の測位を行なう場合には、各基地局12において同じ定義の受信時刻が用いられればよく、また、測位部100が前記(2)式を解くことにより移動局10の測位を行なう場合には、これに加えて移動局10における電波の送信時刻が基地局12における受信時刻の定義に対応して定義されればよい。具体的には、この電波の送信時刻は基地局12の受信時刻算出部70における受信時刻の定義に対応して定義される。本実施例においては、受信時刻算出部70において差動アンプ96の出力がゼロクロスとなった時刻、すなわち第1符号の受信開始からT+ΔT/2だけ経過後が受信時刻として定義されるので、移動局10において第1符号の送信開始からT+ΔT/2だけ経過後が送信時刻として定義されるが、受信時刻算出部70において第1符号の受信開始からTだけ経過後が受信時刻として定義される場合には、移動局10において第1符号の送信開始からTだけ経過後が送信時刻として定義されればよい。
【0122】
また、前述の実施例において、移動局10から送信される電波には個々の移動局10を識別するための識別符号が含まれていてもよい。このようにすれば、複数の移動局10が混在する環境において個々の移動局10について測位を行なうことができる。
【0123】
また、前述の実施例における移動局測位システム8の制御作動を行なう場合におけるタイムアウトの基準は、前述したものと異なってもよい。具体的には、前述の実施例においては、図13のフローチャートのSA8で、SA4における移動局10への電波の送信指令を行なってからの経過時間が所定のタイムアウト時間が経過したか否かによってタイムアウトを判断したが、これに限られず、SA1におけるサーバ14からの測位開始指令からの経過時間によって定義されてもよい。また、SA14では、SA1の指令を行なってからの経過時間が予め設定されたタイムアウト時間を超えたかによってタイムアウトを判断したが、最初の基地局12からの受信時刻の受信からの経過時間によって定義されてもよい。
【0124】
また、前述の実施例において受信時刻の検出のために用いられた相関値は、前記(1)式の定義によるものに限定されず、他の定義によってもよい。レプリカと受信信号との同期をピークにより検出することができるものであればよい。
【0125】
また、前述の実施例においては、移動局10からPN信号が送信され、複数の基地局12のそれぞれにおいて受信されるものとされたが、このような態様に限られない。すなわち、複数の基地局12のそれぞれから順次移動局10へ測位信号が送信され、移動局10においてそれぞれの電波の受信時刻を検出し、各基地局12から移動局10への電波の伝搬時間を算出し、これに基づいて移動局10の測位を行なうようにしてもよい。
【0126】
また、前述の実施例においては、基地局12とサーバ14とは通信ケーブル18により接続され情報通信が行なわれたが、これに限られない。例えば無線LANのような無線通信機能であってもよい。その場合、通信インタフェース76、98がその通信の種類に応じた通信機能を有すればよい。
【0127】
また、前述の実施例においては、第1基準搬送波、すなわち、基準搬送波生成部80から第1復調部82に入力される基準搬送波は第1搬送波と同じ周波数の電波とされたが、これに限られない。例えば第1基準搬送波は第1搬送波の周波数の中間周波数の電波とされてもよい。
【0128】
その他、一々例示はしないが、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が加えられて実施されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】本発明の一実施例である移動局測位システムの概要を説明する図である。
【図2】図1の移動局測位システムを構成する移動局の有する機能の要部を説明する機能ブロック図である。
【図3】移動局の符号発生部によって発生される符号の一例を説明する図である。
【図4】図2の移動局の遅延回路の構成の具体例を説明する図である。
【図5】図1の移動局測位システムを構成する基地局の有する機能の要部を説明する機能ブロック図である。
【図6】基地局の受信信号処理部の有する機能の要部を説明する機能ブロック図である。
【図7】第1相関値算出部および第2相関値算出部を構成するマッチドフィルタの構成の一例を説明する図である。
【図8】図7のマッチドフィルタの入力と出力の一例を説明する図である。
【図9】図6の差動アンプの入力と出力の一例と、受信時刻算出部による受信信号の算出を説明する図である。
【図10】一般的な相関値と、図9の差動アンプの出力のそれぞれについてノイズ等が混入した場合を説明する図である。
【図11】図1の移動局測位システムを構成するサーバの有する機能の要部を説明する機能ブロック図である。
【図12】図11の測位部における測位の原理を説明する図である。
【図13】移動局測位システムにおける制御作動の一例を説明するフローチャートである。
【図14】マルチパスが相関値に及ぼす影響を説明する図である。
【図15】本発明の別の実施例における基地局の受信信号処理部の有する機能の要部を説明する機能ブロック図であって図6に対応する図である。
【図16】図15の微分器の入力と出力の一例を説明する図である。
【図17】本発明の別の実施例における受信時刻算出部による受信時刻の算出を説明する図である。
【図18】本発明の別の実施例の基地局における受信時刻算出のための制御作動の一例を説明するフローチャートであって、図13の一部に代えて実行されるものである。
【図19】本発明のさらに別の実施例における移動局の有する機能の要部を説明する機能ブロック図であって、図2に対応するものである。
【図20】本発明のさらに別の実施例における基地局の受信信号処理部の有する機能の要部を説明する機能ブロック図であって、図6に対応するものである。
【図21】本発明のさらに別の実施例における基地局の受信信号処理部の有する機能の要部を説明する機能ブロック図であって、図6、図20に対応するものである。
【符号の説明】
【0130】
10:移動局(送信機)
12:基地局(受信機)
8:移動局測位システム(測位システム)
28:符号発生部
34:変調部
24:送信アンプ(送信部)
36:受信アンプ(受信部)
78:復調部
88:相関演算部
96:差動アンプ(差分演算部)
70:受信時刻算出部
100:測位部
52:遅延時間設定部
98:微分器(微分値算出部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信機から送信された電波を受信機が受信し、前記送信機もしくは受信機のうち一方の位置を、該送信機もしくは受信機の他方の位置と前記受信機における受信時刻とに基づいて算出する測位システムであって、
前記送信機は、
第1符号と、該第1符号より所定時間だけ遅らせて第2符号とを発生する符号発生部と、
前記符号発生部により発生させられる前記第1符号で第1搬送波を変調し、前記符号発生部により発生させられる前記第2符号で該第1搬送波より所定位相だけ遅らされた第2搬送波を変調するとともに、変調後の該第1搬送波および第2搬送波を合成する変調部と、
該変調部による出力を電波として送信する送信部と、
を有し、
前記受信機は、
前記送信部により送信された電波を受信する受信部と、
前記第1符号及び前記第2符号に対応した第1受信信号及び第2受信信号を得るために第1基準搬送波に基づいて該受信部により受信された受信波を復調し、該第1基準搬送波より前記所定位相だけ遅れた第2基準搬送波に基づいて前記受信波を復調する復調部と、
前記復調部により前記第1基準搬送波に基づいて復調された第1受信信号と前記第1符号との第1相関値と、前記復調部により前記第2基準搬送波に基づいて復調された第2受信信号と前記第2符号との第2相関値とを算出する相関演算部と、
前記相関演算部によって算出される前記第1相関値と前記第2相関値との差分を算出する差分演算部と、
を有し、
前記差分演算部によって算出される前記第1相関値と前記第2相関値との差分に基づいて前記送信機から送信された電波の前記受信機における受信時刻を算出する受信時刻検出部と、
前記送信機もしくは受信機のうち一方の位置を、該送信機もしくは受信機の他方の位置と前記受信時刻検出部により検出される受信時刻とに基づいて算出する測位部と、
を有することを特徴とする測位システム。
【請求項2】
前記符号発生部は、予め設定された複数の値から前記所定時間を選択的に設定する遅延時間設定部を有すること
を特徴とする請求項1に記載の測位システム。
【請求項3】
前記符号発生部は、前記所定時間として前記第2符号のチップ周期を任意の自然数で除した値の整数倍だけ前記第1符号よりも遅らせて前記第2符号を発生すること
を特徴とする請求項1または2に記載の測位システム。
【請求項4】
前記受信時刻検出部は、前記差分演算部によって算出される前記第1相関値と前記第2相関値との差分が零となった時刻を前記送信機から送信された電波の前記受信機における受信時刻として算出すること
を特徴とする請求項1乃至3のいずれか1に記載の測位システム。
【請求項5】
前記差分演算部によって算出される前記第1相関値と前記第2相関値との差分の微分値を算出する微分値算出部を有し、
前記受信時刻検出部は、該微分値算出部によって算出される微分値が極大となった時刻に基づいて前記送信機から送信された電波の前記受信機における受信時刻を算出すること
を特徴とする請求項1乃至3のいずれか1に記載の測位システム。
【請求項6】
前記符号発生部は、前記第1符号と同一の符号を前記所定時間だけずらすことにより前記第2符号を発生すること
を特徴とする請求項1乃至5のいずれか1に記載の測位システム。
【請求項7】
前記符号発生部は、前記第1符号と異なる符号を前記所定時間だけずらすことにより前記第2符号を発生すること
を特徴とする請求項1乃至5のいずれか1に記載の測位システム。
【請求項8】
第1符号と、該第1符号より所定時間遅らせて第2符号とを発生する符号発生部と、
前記符号発生部により発生させられる前記第1符号で第1搬送波を変調し、前記第2符号発生部により発生させられる前記第2符号で該第1搬送波より所定位相だけ遅らされた第2搬送波を変調するとともに、変調後の該第1搬送波及び第2搬送波を合成する変調部と、
該変調部による出力を無線により送信する送信部と、
を有し、
請求項1乃至7のいずれか1に記載の測位システムに適用可能な送信機。
【請求項9】
所定の電波を受信する受信部と、
所定の第1基準搬送波に基づいて該受信部により受信された受信波を復調し、該第1基準搬送波より所定位相だけ遅れた第2基準搬送波に基づいて前記受信波を復調する復調部と、
前記復調部により前記第1基準搬送波に基づいて復調された第1受信信号と第1符号との第1相関値と、前記復調部により前記第2基準搬送波に基づいて復調された第2受信信号と第2符号との第2相関値とを算出する相関演算部と、
前記相関演算部によって算出される前記第1相関値と前記第2相関値との差分を算出する差分演算部と、
を有し、
請求項1乃至7のいずれか1に記載の測位システムに適用可能な受信機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2010−85101(P2010−85101A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−251119(P2008−251119)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】