測定システム
利用者が検査機関を訪問しなくても、所望の場所で自分の健康状態をチェックすることを可能とする。また、利用者が自分の健康状態を簡便にチェックすることを可能とする。利用者は、まず、血液、唾液、尿等、測定対象となる体液を採取する。そして、チップ(101)に、採取した体液を試料として導入する。そして、試料中の特定成分に作用する検出試薬と作用させ、所定の反応を生じさせる。このチップ(101)を移動端末(127)にセットする。移動端末(127)の測定ユニット(151)は、反応の産物を光学的方法等で定量することを介して試料中の特定成分の量を測定する。移動端末(127)は測定値を分析センター(153)に送信する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人々の間で、データに基づいた健康管理への関心が高まっている。また、継続的に生体データを取得し、健康状態をチェックする必要のある人がいる。従来、このような人が検査機関を訪れて検査を受けるのは、時間および費用の面で制約があり、多忙な人ほど検査を受ける機会が限られていた。このため、検査機関を訪問しなくても、簡便に自分の健康状態をチェックすることができる技術の開発が望まれていた。
【0003】
そこで、遠隔地の健康管理センターで生体データを自動収集する健康管理支援システムが提案されている(特許文献1)。特許文献1に記載の技術によれば、測定対象者が自宅に専用ターミナルを設置することにより、体温計または血圧計による測定結果を医療機関等に転送することができるとされている。ところが、このシステムは、比較的装置構成が大がかりであった。また、外出先では測定を行うことができなかった。また、血液検査などに適用することは困難であった。
【特許文献1】特開2003−76791号公報
【発明の開示】
【0004】
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、利用者が検査機関を訪問しなくても、所望の場所で自分の健康状態をチェックすることができる技術を提供することにある。また、本発明の別の目的は、利用者が自分の健康状態を簡便にチェックすることができる技術を提供することにある。
【0006】
所望の場所で健康チェックを可能にするには、
(1)測定システムが携帯可能な移動端末を有すること、
(2)測定システムは安全で衛生的に使用できること、
(3)移動端末は通信機能を有し、当該移動端末を介してユーザは遠隔サポートを受けられること、
が不可欠である。
【0007】
重く大きな装置では、所望の場所に持ち出すことができないので、測定システムはできるだけ小さく軽い必要がある。分析が自動的に進む、軽く小さな測定チップを利用して測定することは、移動端末の軽量化に極めて有利である。
【0008】
また、所望の場所で健康チェックするには、測定チップと移動端末とが安全で衛生的に携帯できる必要がある。健康チェックでは、感染の危険性のある生体試料を測定するため、生体試料を導入する部分と測定装置を別にして、たとえば、測定チップにだけ生体試料を導入し、測定装置は生体試料が触れない移動端末に設けることや、測定チップを使い捨てとすることが有効である。さらに、試料の種類や測定の種類によっては、測定チップに消毒処理が間違いなく施されないと、衛生上、携帯に不向きとなるため、測定チップを中和する機構が必要となる場合がある。
【0009】
また、病院などサポート体制の整った場所でない場所で健康チェックを行う場合、ユーザは、その測定値が健康上どのような意味があるかを理解するにも、測定の結果が正しいか否かを知るにも、さらには測定システムの誤動作を復旧するにも、遠隔地の専門家やデータベースと情報をやりとりする必要がある。そのため移動端末が通信機能を持ち、通信によるユーザサポートシステムに組み込まれていることが極めて重要である。
【0010】
本発明によれば、試料導入部と、該試料導入部に連通する検出部とを有し、前記試料導入部に導入された試料に所定の操作を加えて前記検出部に導く測定チップと、前記測定チップに導入された前記試料に含まれる特定の成分に関する測定を行う移動端末を有する測定システムであって、前記移動端末は、前記測定チップが挿入される挿入部と、前記検出部に導かれた前記成分の特性に関する測定を行う測定ユニットと、前記測定ユニットで得られた測定結果を外部に送信する送信部と、を有することを特徴とする測定システムが提供される。
【0011】
本発明の測定システムは、測定チップの挿入部と測定ユニットを有する移動端末を有する。このため、測定システムの利用者は、移動端末に測定チップを挿入し、所望の時間に所望の場所で試料中の特定の成分に関する測定を行うことができる。よって、自宅に大型の測定装置を設置したり、検査機関を訪問したりすることなく、簡素な装置構成の測定システムを用いてその場で容易に測定を行うことができる。
【0012】
また、本発明の測定システムにおいては、移動端末の挿入部に測定チップの所定の部分を挿入することにより測定が行われる。すなわち、試料に所定の処理を行う測定チップと測定チップ上の試料の測定を行う移動端末の二つの部材に異なる機能を付与することができる。このため、移動端末に直接試料を付着させることなく測定を行うことが可能となる。
【0013】
また、測定システムを構成する移動端末と測定チップとをそれぞれ別々に設計することができるため、種々の効果が得られる。すなわち、測定の種類に応じて複数の測定チップを選択することができる。また、測定チップを使い捨の形態とすることもできる。一方、測定に移動端末を利用する場合、移動端末に求められる小型軽量化の要請から、測定ユニットの構成を小型で簡素な形態とする必要がある。他方、試料が生体試料等である場合には、採取した試料を直接測定に供したのでは正確な測定結果が得られないことがある。本発明の測定システムにおいては、移動端末と測定チップが分離した構成を採用することにより、移動端末の測定ユニットを最小限の簡素な構成としつつ、測定チップにおいて、測定に必要な所定の処理が可能な構成となっている。すなわち、測定チップに導入された試料に所定の操作を加えて検出部に導くことにより、測定前の試料に対し多様な処理を施すことができる。このため、測定チップに導入された試料を測定に適した状態で検出部に導くことができる。よって、移動端末の装置構成の簡素化、小型軽量化を可能とし、かつ、試料中の成分について精密な測定結果を得ることが可能となる。
【0014】
また、本発明に係る測定システムにおいて、移動端末は送信部を有するため、測定結果を容易に外部に送信し、また測定結果に基づく分析結果を外部から取得することが可能となる。このため、移動端末自体に分析機能を設ける必要がない。よって、移動端末の装置構成を簡素化しつつ、測定結果に基づく正確な分析結果を得ることが可能となる。
【0015】
本発明において、「測定チップ」とは、導入された試料に対し所定の操作を加える機能が付与された基板のことをいう。本発明におけるチップは、たとえば、基板表面に流路溝が設けられ、この流路溝中を液体試料が流動して、特定成分の濃度に応じた発色反応等の所定の反応を発現させるように構成することができる。液体試料は、毛細管現象等を利用して流路溝中を移動するようにしてもよいし、電界や圧力などの外力を付与することにより移動するようにしてもよい。
【0016】
本発明の測定システムにおいて、前記所定の操作は、たとえば前記試料の分注とすることができる。こうすることにより、測定ユニットによる測定に適した分量の試料を検出部に導くことが可能となる。また、本発明の測定システムにおいて、前記所定の操作は、前記試料の希釈とすることもできる。試料を希釈することにより、測定チップに導入された試料をさらに測定に適した濃度で検出部に導くことができる。よって、さらに正確な測定結果を得ることができる。
【0017】
本発明によれば、試料導入部と、該試料導入部に連通する検出部とを有し、前記試料導入部に導入された試料に所定の操作を加えて前記検出部に導く測定チップと、前記測定チップに導入された前記試料に含まれる特定の成分に関する測定を行う移動端末を有する測定システムであって、前記移動端末は、前記検出部に導かれた前記成分の特性に関する測定を行う測定ユニットと、前記測定ユニットで得られた測定結果を外部に送信する送信部と、を有することを特徴とする測定システムが提供される。
【0018】
かかる測定システムにおいても、測定チップと移動端末をそれぞれ別々に設計することができる。また、本発明の測定システムによれば、チップを移動端末中に挿入せずに接触方式または非接触方式で測定することができる。また、測定装置にアダプターを接続し、アダプターを介して検出部に導かれた試料の測定を行うことが可能となる。アダプターを介して測定することにより、移動端末への試料の付着により生じる移動端末の汚染をさらに確実に抑制することができる。また、アダプターを用いることにより、移動端末による測定に適用可能なチップの構成をさらに多様化することができる。
【0019】
本発明の測定システムにおいて、前記測定ユニットは、前記検出部に光を照射する光源と、前記光源からの出射光を用いて前記成分の光学特性に関する測定を行う受光部と、を有してもよい。こうすることにより、測定チップに導入された試料中の成分の光学特性を確実に測定することができる。このため、移動端末において、試料中の特定の成分に関して必要最低限の測定データを簡素な構成で得ることができる。そして、測定結果を外部に送信することにより、詳細な分析結果を得ることができる。このため、移動端末の装置構成を簡素化しつつ、詳細な分析を行うことが可能となる。
【0020】
本発明の測定システムにおいて、前記測定チップは、前記試料導入部から前記検出部へ至る流路を有し、前記流路に、前記成分を分離するための分離部が設けられていてもよい。こうすることにより、測定チップに導入された試料中の成分を確実に分離することができる。このため、試料中の共雑物を除去した後、検出部に導くことができる。よって、測定ユニットにおける測定に好適な試料を測定チップ上で調製することが可能となるため、測定の対象となる成分が微量であっても、これを分離し、測定時のバックグラウンドを減少させることができる。このため、さらに精密な測定を行うことができる。
【0021】
本発明の測定システムにおいて、前記検出部は前記成分に作用してその光学特性を変化させる検出物質を備えることができる。こうすることにより、測定チップの導入された試料中の成分を確実に検出することができる。よって、微量な成分に対しても感度の高い測定を行うことができる。
【0022】
本発明の測定システムにおいて、前記送信部は、前記測定結果を測定状況と関連づけて外部に送信することができる。こうすることにより、測定結果を測定状況に関連づけて外部の分析に供することができる。また、測定結果を受信した外部において、測定状況に応じた測定結果の補正が可能となる。なお、本発明において、前記測定状況は、たとえば測定日時または測定場所等とすることができる。
【0023】
本発明の測定システムにおいて、前記移動端末が携帯電話機能を有する構成とすることができる。こうすることにより、測定システムの利用者は携帯電話と測定チップのみを携帯することにより所望の時間にその場で測定を行うことができる。また、移動端末を携帯電話等の携帯端末とすることにより、測定システム全体の小型化が可能となる。
【0024】
本発明の測定システムにおいて、前記移動端末とネットワークを介して接続され、前記移動端末から送信される情報を受け付ける分析センターをさらに含み、前記分析センターは、前記移動端末から送信された前記測定結果を取得するデータ取得部と、前記データ取得部にて取得された測定結果に基づいて前記試料を分析し、分析結果を得る分析部と、を有してもよい。
【0025】
本発明の測定システムは、分析センターを含むため、移動端末の装置構成を簡便なものとしつつ、移動端末による測定結果をデータ取得部で取得し、測定チップに導入された試料中の成分の分析を分析部にて確実に行うことができる。
【0026】
本発明の測定システムにおいて、前記分析センターは、前記測定結果または前記分析部で得られた前記分析結果を記憶する分析データ記憶部と、前記分析部が参照するデータを記憶する参照データ記憶部と、を有してもよい。
【0027】
分析データ記憶部を有することにより、分析結果を分析センターに記憶させておくことが可能となる。また、参照データ記憶部を有することにより、分析センターにおける分析をさらに確実に行うことができる。また、参照データ記憶部に記憶された参照データを、分析データ記憶部に記憶された情報に基づき補正することが可能となる。
【0028】
また、本発明の測定システムにおいて、前記測定チップは、さらに中和液溜めを有し、前記移動端末と前記測定チップとは、測定の終了した前記測定チップを前記移動端末から離脱させることをきっかけとして、該中和液溜め内の中和液が、前記測定チップに含まれる流路系に導入される機構をさらに有することができる。こうすることにより、使用後のチップに形成された有路系を中和することができるため、使用後の測定チップをより一層安全に携帯することができる。
【0029】
本発明の測定システムにおいて、前記移動端末は、前記送信部から送信される前記分析結果を受信する受信部を有してもよい。こうすることにより、測定結果に基づく分析の結果を、移動端末から受信することができる。よって、測定システムの利用者は、分析結果を所望の場所で確認できる。
【0030】
なお、本発明において、流路系は、測定チップに設けられた試料導入部から該試料導入部に至る液体の移動経路を指す。たとえば、本発明において、前記中和液が前記流路に導入される構成とすることができる。
【0031】
本発明の測定システムにおいて、前記測定チップは、さらに認証データを記録する部分を有し、前記移動端末は、測定の終了した前記測定チップを前記移動端末から離脱させること、あるいは、前記移動端末が、データを受信完了したこと、をきっかけとして、該認証データを読みとり不能にせしめる機構をさらに有することができる。こうすることにより、使用後のチップをさらに安全に廃棄することができる。
【0032】
本発明の測定システムにおいて、前記試料は体液とすることができる。こうすることにより、測定システムは利用者の体液に関する測定を簡便な構成で容易に実施することが可能となる。よって、測定システムの利用者は自己の健康状態に関する測定を所望の時間に所望の場所で行うことができる。
【0033】
以上説明したように本発明によれば、利用者が検査機関を訪問しなくても、所望の場所で自分の健康状態をチェックすることができる。また、本発明によれば、利用者が自分の健康状態を簡便にチェックすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
上述した目的、およびその他の目的、特徴および利点は、以下に述べる好適な実施の形態、およびそれに付随する以下の図面によってさらに明らかになる。
【0035】
【図1】本発明の実施の形態に係る検査システムの構成を示す図である。
【図2】図1の検査装置を用いる測定手順を説明する図である。
【図3】図1の検査システムに適用可能なチップの構成を示す図である。
【図4】図1の検査システムに適用可能な移動端末の構成を示す図である。
【図5】図4のC−C’方向の断面を示す図である。
【図6】図4のC−C’方向の断面を示す図である。
【図7】図4のC−C’方向の断面を示す図である。
【図8】図4のC−C’方向の断面を示す図である。
【図9】図1の検査システムに適用可能なチップの構成を示す図である。
【図10】図9のD−D’断面図である。
【図11】図1の検査システムに適用可能な移動端末の構成を示す図である。
【図12】図1の検査システムの構成を機能ブロックごとに示す図である。
【図13】本発明の実施の形態に係る検査システムに適用可能な電子チップを有するチップの構成を示す図である。
【図14】図12の検査システムの分析結果記憶部のデータ構造の一例を示す図である。
【図15】図12の検査システムの利用者情報記憶部のデータ構造の一例を示す図である。
【図16】図12の検査システムのエリア情報記憶部のデータ構造の一例を示す図である。
【図17】図12の検査システムを用いた処理手順を説明する図である。
【図18】図1の検査システムに適用可能なチップの構成を示す図である。
【図19】図18のチップの分離領域の構成を説明する図である。
【図20】図19の分離領域の構成を用いた分離方法を説明する図である。
【図21】図18のチップの混合部の構成を説明する図である。
【図22】図18のチップの混合部の構成を説明する図である。
【図23】図22の液体スイッチを拡大した上面図である。
【図24】図22の液体スイッチの堰き止め部を示す上面図である。
【図25】図22の液体スイッチのトリガー流路の構成を例示する図である。
【図26】図1の検査システムに適用可能なチップの構成を示す図である。
【図27】図26のチップの分離領域の構成を説明する図である。
【図28】図26のチップの分離領域の構成を説明する図である。
【図29】本発明の実施の形態に係る検査システムの構成を示す図である。
【図30】本発明の実施の形態に係る検査システムの構成を示す図である。
【図31】本発明の実施の形態に係る検査システムに適用可能な電子チップを有するチップの構成を示す図である。
【図32】図18のチップの分離領域の構成を説明する図である。
【図33】図18のチップの分離領域の構成を説明する図である。
【図34】本発明の実施の形態に係る着脱式センサつき移動端末の構成を示す図である。
【図35】本発明の実施の形態に係る着脱式光学センサの構成を示す図である。
【図36】本発明の実施の形態に係る洗浄機構を有する移動端末の構成の一例を示す図である。
【図37】図36に示した移動端末のロッドの端部近傍の構成を示すF−F’断面図である。
【図38】本発明の実施の形態に係る無効化トリガーを発生する移動端末の構成を示す図である。
【図39】本発明の実施の形態に係る移動端末の無効化トリガーが発生するタイミングを示す図である。
【図40】本発明の実施の形態に係る検査システムに適用可能なチップの構成を示す図である。
【図41】本発明の実施の形態に係る検査システムに適用可能な測定装置の構成を示す斜視図である。
【図42】本発明の実施の形態に係る検査システムに適用可能な測定装置の構成を示す斜視図である。
【図43】本発明の実施の形態に係る検査システムに適用可能な測定装置の構成を示す断面図である。
【図44】本発明の実施の形態に係る検査システムに適用可能な移動端末の構成を示す断面図である。
【図45】本発明の実施の形態に係る検査システムに適用可能な測定装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、すべての図面において、共通する構成要素には同じ符号を付し、適宜説明を省略する。
【0037】
(第一の実施形態)
図1は、本実施形態の検査システムを示す図である。検査システム100は、測定装置129および分析センター153を含む。測定装置129は、チップ101および移動端末127から構成され、これらはそれぞれ異なる機能を有する。検査システム100では、利用者の体液中に関して測定装置129を用いた測定を行い、利用者の健康状態を調べる。
【0038】
移動端末127は、通信機能を有する携帯電話やPDA(Personal Digital Assistant)等とすることができる。以下、移動端末127が携帯電話である場合を例に説明する。移動端末127は、チップ101での検出反応を測定する測定ユニット151を含む。ここで、測定ユニット151は、たとえば分光光度計、蛍光光度計、またはCCDカメラ等である。また、移動端末127は、分析センター153から送信される判断結果を利用者に提示可能に構成される。
【0039】
また、チップ101では、導入された試料は所定の操作を加えられた後検出部に導かれ、移動端末127の測定ユニット151で測定を受ける。試料に対する操作としてはたとえば分注、希釈、前処理、分離、混合、反応等が挙げられる。チップ101は、利用者が試料を導入し、測定ユニット151による測定に適した量を分注できるように構成される。
【0040】
移動端末127の利用者は、チップ101に自分の血液や尿などの体液にを分注する。そして、このチップ101を移動端末127にセットして、測定値を取得し、結果を移動端末127から分析センター153に送信する。この手順を図2を用いて説明する。
【0041】
図2は、チップ101を用いた分析手順の流れを説明する図である。利用者は、まず、血液、唾液、尿等、測定対象となる体液を採取する(S101)。そして、チップ101に、採取した体液を試料として導入する(S102)。そして、試料中の特定成分に作用する検出試薬と作用させ、所定の検出反応を生じさせる(S103)。このチップ101を移動端末127にセットするかまたは近接させる(S104)。移動端末127の測定ユニット151では、試料の光学測定を行い、その特徴から特定される成分を検出する(S105)。移動端末127は測定値を分析センター153に送信する(S106)。本実施形態において、利用者が自分の体液を採取してから測定値を分析センター153に送信するまでの手順は連続して同じ場所で一定時間内に行われるものとする。
【0042】
このように、本実施形態では、チップ101を移動端末127にセットするかまたは近接させて、簡単に測定を行うことが可能である。また、測定結果を即時に送信し、分析センター153に分析を依頼することが可能である。
【0043】
なお、測定ユニット151における測定は、たとえば成分の光学的な性質や電気的な性質に関する測定とすることができる。以下、測定ユニット151が光学測定を行う場合を例に説明する。
【0044】
分析センター153は、利用者から送信された測定値と、当該測定に関する特徴を示す参照パラメータとに基づき、その利用者の健康状態を判断する。そして、判断結果を移動端末127に送信する。これにより、移動端末127の利用者は、病院や検査機関等に行くことなく、簡易な方法で自己の健康状態を知ることができる。
【0045】
次に、チップ101および移動端末127の詳細な構成について説明する。
【0046】
図3(A)および図3(B)は、チップ101の構成の一例を示す図である。図3(A)はチップ101の上面図である。図3(B)は図3(A)のA−A’方向の断面図である。
【0047】
チップ101は、基板上部103aと基板下部103bとが接合された基板103からなる。基板下部103b上に、試料導入部105、液溜め107、流路109、検出部113、および検出部115が形成されている。流路109は、試料導入部105、液溜め107、検出部113、および検出部115に連通している。
【0048】
基板上部103aは、基板下部103bの蓋として流路109を被覆する。基板上部103aには、液溜め107、検出部113、および検出部115に連通する空気孔123が形成されている。また、試料導入部105に連通する導入口106が設けられている。導入口106は、測定対象の試料が毛細管現象により試料導入部105に円滑に導入されるように構成されている。すなわち、試料導入部105のうち、基板上部103aに形成された部分は、毛細管効果の発揮に充分な幅の狭さ、具体的にはたとえば1mm以下の幅となっており、基板下部103bに形成された液溜め部分に連通している。なお、基板上部103aに形成された毛細管の上部は、上面に向かって拡大するテーパーとなっており、利用者が試料を確実に導入することができるようになっている。
【0049】
さらに、基板上部103aおよび基板下部103bには、移動端末127に適切に挿入されるための凹部125がそれぞれ4箇所設けられている。
【0050】
図3(A)および図3(B)のチップ101は、検出部113検出部115の2つの検出部を有するが、検出部の数に限定はなく、所定の数に設定することができる。これらの検出部では、試料導入部105に導入された試料中の所定の成分を検出するための検出反応を行うことができる。これらの検出部は、試料中の成分に作用してその光学特性を変化させる検出物質を備えることができる。たとえば、検出部113または検出部115に特徴成分の存在により発色する発色剤が導入されていてもよい。なお、複数の検出部のうち、一つの液溜めには発色剤を導入せず、参照用の液溜めとして用いることもできる。
【0051】
基板上部103aおよび基板下部103bとして、たとえばシリコン基板、石英等のガラス基板、シリコン樹脂やポリメチルメタクリレート等の樹脂基板を用いることができる。また、チップ101の外径寸法は携帯電話の大きさや測定対象に応じて適宜選択されるが、たとえば、図中の縦1cm〜5cm程度、横1cm〜5cm程度とすることができる。また、チップ101の厚さは、たとえば0.5mm〜1cm程度とすることができる。
【0052】
図3のチップ101の作製は、たとえば次のようにして行う。基板下部103bに溝を形成し、流路109とする。また、流路109に連通する試料導入部105、検出部113、および検出部115を形成する。これらの形成は、基板下部103bとしてプラスチック材料を用いる場合、エッチングやエンボス成形等の金型を用いたプレス成形、射出成形、光硬化による形成等、基板下部103bの材料の種類に適した公知の方法で行うことができる。流路109の幅は、分離目的に応じて適宜設定される。たとえば、細胞の液状分画成分(細胞質)のうち、高分子量成分(DNA、RNA、タンパク質、糖鎖)の抽出を行う場合、5μm〜1000μm、とする。基板下部103bの裏面に、同様にして凹部125を形成する。また、基板上部103aに、導入口106、空気孔123、および凹部125を形成する。
【0053】
得られた基板上部103aおよび基板下部103bを接合することにより、チップ101が得られる。
【0054】
なお、基板上部103aおよび基板下部103bがプラスチック材料である場合、たとえばこれらを熱融着により接合することができる。この場合、基板上部103aおよび基板下部103bを構成する樹脂のガラス転移温度付近まで加温した状態で、当接させ、圧着した後、室温まで降温させ、その後圧力を解除すればよい。
また、溶媒を用いた融着を行ってもよい。この場合、基板上部103aおよび基板下部103bを溶解させる溶剤をこれらの表面に極めて薄くスプレーした後、これらを当接させて、接合させることができる。
【0055】
また、基板上部103aと基板下部103bとを当接させた状態でこれらに超音波振動を与え、そのエネルギーで基板上部103aおよび基板下部103bの表面を融解し、接着してもよい。
【0056】
また、基板上部103aおよび基板下部103bの種類に応じて選択される接着剤を用いて接着してもよい。接着剤を用いる場合、流路109等の微小空間が接着剤により埋設されないようにする必要がある。そこでたとえば接着剤を基板下部103bにのみ極めて薄く塗布または展開することができる。また、マスクを用いて基板上部103aの微小構造以外の部分にのみ接着剤を塗布または展開し、基板下部103bを接着してもよい。
【0057】
また、基板上部103aおよび基板下部103bがたとえばガラス、石英、または表面を酸化したシリコン基板である場合には、たとえば、溶媒によりこれらを融着することができる。具体的には、たとえばフッ化水素水溶液を基板上部103aまたは基板下部103bの表面に極めて薄くスプレーした後、これらを押し当てた状態で加温し、接着することができる。また、SOG(シリコンオキサイドゲル)などの接着剤を用いてもよい。SOGを用いる場合、基板上部103aまたは基板下部103bの表面にSOGを塗布、展開した後これらを当接させ、オーブン中で200℃程度に加熱してもよい。加熱によりSOGをガラス化し、確実に接着することができる。
【0058】
また、基板上部103aおよび基板下部103bがゴムである場合には、架橋剤を接着剤として用いることができる。基板上部103aまたは基板下部103bの表面に接着剤を塗布し、これらを押し付けた状態で架橋反応を生じさせることにより、これらが接合される。
【0059】
なお、流路109等の壁面にDNAやタンパク質などの分子が粘着することを防ぐために、壁面をコーティングすることが好ましい。こうすれば、チップ101が良好な分離能を発揮することができる。コーティング材料としては、たとえば、細胞膜を構成するリン脂質に類似した構造を有する物質等が挙げられる。また、流路壁をフッ素系樹脂などの撥水性樹脂、あるいは牛血清アルブミンなどの親水性物質によりコーティングすることによって、DNAなどの分子が流路壁に粘着することを防止することもできる。また、MPC(2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)ポリマー等の親水性高分子材料や、親水性のシランカップリング剤により基板下部103bの表面をコーティングしてもよい。
【0060】
MPCポリマーを用いて基板下部103bの表面の親水化を行う場合、具体的には、たとえばリピジュア(登録商標、日本油脂社製)などを用いることができる。リピジュア(登録商標)を用いる場合、たとえばこれを0.5wt%となるようにTBE(トリスボレイト+EDTA)バッファーなどの緩衝液に溶解させ、この溶液を流路109内に満たし、数分間放置することによって流路壁をコーティングすることができる。
【0061】
また、流路壁をはじめとする基板下部103bの表面を親水化することにより、毛細管現象を利用して導入口106に試料を確実に導入することができる。また、導入口106に導入された試料をより一層確実に流路109に導入し、毛細管現象により流路109中を移動させることができる。基板下部103bの表面を親水化する方法として、流路109の表面にシリコン酸化膜等の親水性膜を形成することが有効である。親水性膜の形成により、特に外力を付与しなくとも緩衝液が円滑に導入される。
【0062】
また、基板下部103bの少なくとも表面を、PHEMA(ポリヒドロキシエチルメタクリレート)等の親水性高分子材料で構成することにより、毛細管効果が促進される。さらに、基板下部103b表面への試料成分の非特異的な吸着を抑制することができる。このため、試料が微量であっても確実に分離および検出または測定を行うことができる。また、基板下部103bの表面を酸化チタンで構成し、この表面に紫外線照射を行うことにより、基板下部103b表面を親水化することができる。また、基板下部103bの表面を酸素プラズマによりアッシングしてもよい。
【0063】
以上のように、本実施形態に係るチップ101を用いることにより、試料中の所定の成分を分離し、さらに検出を行うことができる。このため、たとえば検出部113または115において呈色反応が行われる場合、これを比色して試料中の特定の成分の有無を判断したり、濃度を測定したりすることができる。この場合、基板上部103aおよび基板下部103bが透明な材料により形成されていることが好ましい。こうすることにより、より正確な検出を行うことができる。透明な材料として、具体的には、たとえば石英、環状ポリオレフィン、PMMA(ポリメチルメタクリレート)、PET(ポリエチレンテレフタレート)等を用いることができる。
【0064】
図4(A)および図4(B)は、移動端末127の構成の一例を示す図である。ここでは、移動端末127が携帯電話であって、測定ユニット151(図5、図6に図示)が分光光度計である場合を例として説明する。移動端末127には、チップ101を挿入するためのチップ挿入部131が設けられている。図4(A)は、移動端末127にチップ101が挿入されていない状態を示し、図4(B)は、移動端末127にチップ101を挿入した状態を示す。移動端末127は、一般的な携帯電話等の移動端末と同様、電池パック140、アンテナ141、機能ボタン群143と、および表示部145等を有する。
【0065】
図5は、図4(A)のC−C’方向の断面を示す図である。図5に示すように、移動端末127には、チップ挿入部131に挿入されるチップ101の検出部113および検出部115に対応する位置に測定ユニット151が設けられる。図5では、二つの測定ユニット151を有する移動端末127が例示されているが、測定ユニット151の数はこれに限られず、チップ101上の検出部の数に応じて適宜選択される。
【0066】
測定ユニット151は、光を照射する光源133aまたは光源133bと、これらの光源からの光をそれぞれ検出する受光部135aまたは受光部135bとを含む。光源133aおよび光源133bは、チップ挿入部131にチップ101が挿入されたときにチップ101の検出部113および検出部115に光を照射することが可能な位置に設けられる。また、受光部135aおよび受光部135bは、検出部113および検出部115に収容された液体の光学特性に関する測定を行う。
【0067】
たとえば、光源133aおよび光源133bにおいて280〜850nm程度の波長領域における透過光強度を測定することができる。このとき、受光部135aおよび受光部135bは、検出部113または検出部115を透過した光を検出可能な位置に設けられる。光源133aおよび光源133bの一方は参照用の液溜めに光を照射するのに用いることができる。
【0068】
移動端末127のチップ挿入部131内には、チップ101を保持するための凸部139が形成されたパッキン137が設けられる。チップ101にはパッキン137の凸部139と嵌合する凹部125が設けられており、これらが嵌合することにより、チップ101をチップ挿入部131に確実に装着することができる。これにより、光源133aおよび光源133bからの光が確実にチップ101の検出部113または検出部115に照射され、これらを透過した光を確実に受光部135aおよび受光部135bにより受光することができる。
【0069】
受光部135aおよび受光部135bは、受光した透過光の強度を電流に変換する。図示していないが、測定ユニット151は、受光部135aおよび受光部135bが変換した電流値に基づき透過度を算出する演算部を含む。光源133aおよび光源133bは、たとえば発光ダイオード、レーザーダイオード、または半導体レーザなどとすることができる。また、これらの光源からの出射光を光ファイバで所定の位置に導く構成としてもよい。また、受光部135aおよび受光部135bは、たとえばフォトトランジスタ、光電セル等とすることができる。また、光電セルのかわりにフォトダイオードを利用することもできる。
【0070】
図6〜図8は、図4(A)のC−C’方向の断面図である。これらの図は、測定ユニット151の構成の例を示している。
【0071】
図6では、LED247aおよびLED247bが光源133aおよび光源133bに相当する。また、フォトトランジスタ249aおよびフォトトランジスタ249bが、受光部135aおよび受光部135bに相当する。また、フォトトランジスタ249aおよびフォトトランジスタ249bの上部にそれぞれレンズ343aおよびレンズ343bが設けられている。
【0072】
測定ユニット151の各構成要素の大きさは、チップ101上の検出部113および検出部115の形状または大きさに対応して設計される。ここで、たとえば、チップ101において検出部113および検出部115の深さはたとえば0.1mm〜1cm程度とし、これらの間隔はたとえば0.5〜2mm程度とすることができる。このとき、LED247a、LED247b、レンズ343a、レンズ343b、フォトトランジスタ249a、およびフォトトランジスタ249bの大きさもこれに合わせて設計される。
【0073】
図7は、図4に示した移動端末127にチップ101を挿入する様子を示す図である。移動端末127のチップ挿入部131にチップ101を挿入すると、測定ユニット151の対応する位置に検出部113および検出部115が挿入される。このため、チップ101に形成された検出部の数だけ測定ユニット151を設けておけば、それぞれの検出部について、光学測定を一度に行うことができる。よって、短時間での測定が可能となる。
【0074】
なお、図5では図示していないが、移動端末127は、光源133aおよび光源133bからの出射光を分光し、所定波長の光を照射するための分光部を有することもできる。このようにすれば、特定の波長にピークを有するような特定成分の存在量を分析するための測定を行うことができる。
【0075】
図8は、分光部を有する測定ユニット151の構成を模式的に示す図である。図8の測定ユニット151は、図6の測定ユニット151と基本構成が同様であるが、光源238を1台とし、分光部134を有する点が異なる。分光部134は、光学フィルタ340および遮光板341を有する。なお、図8では、集光部となるレンズ343aおよびレンズ343bを設けない構成としたが、集光部を設けた構成とすることもできる。
【0076】
光学フィルタ340を設けることにより、光源238からの出射光のうち、所定の波長範囲にある光のみを検出部113または検出部115に照射することができる。このため、ランプ光源など、出射光の波長分布がブロードな光源238を用いる際にも、測定波長に対応する光学フィルタ340で分光し、測定するこができる。また、光学フィルタ340は遮光板341に支持されているため、他の測定ユニット151に光源238からの出射光が漏洩するのを防止することができる。
【0077】
光学フィルタ340には、光学フィルタとして既知の材料を所定の大きさに加工して用いることができる。
【0078】
なお、図6または図8に示した移動端末127において、光源を設けずに、外部の光源からの光を光ファイバ等により導入し、検出部113または検出部115の挿入される位置に照射する構成としてもよい。また、以上においては検出部113または検出部115における透過度を測定するとして説明したが、測定ユニット151は、吸光度や散乱度を測定するように構成されていてもよい。
【0079】
上記の構成のチップ101、及び移動端末127を用いることにより、小型な機器を用いた、場所を問わない検査が実現する。
【0080】
また、チップ101の構成および移動端末127の構成は、上述したものに限られず、種々の構成とすることができる。
【0081】
たとえば、チップ101において、基板上部103aの上面はシールで封止されていてもよい。シールは、チップ101を使用する際に剥離可能に形成されていればよい。たとえば各種プラスチック材料の薄膜の表面にエポキシ系やシリコーン系の接着剤が塗布された構成としてもよい。基板上部103aの上面をシールで封止することにより、使用前のチップ101の汚染を防止し、さらに精密な測定を行うことが可能となる。また、利用者がシールを剥離することにより基板上部103aの導入口106や空気孔123が開放されるため、利用者は測定を行いたいタイミングで直ちにチップ101を使用することができる。
【0082】
また、チップ101の構成は、図9に示すように、検出部113および検出部115を分注流路114上に設け、これらの検出部の下方に光導波路345を形成することもできる。ここで、光導波路345は、たとえば石英系材料または有機系ポリマー材料により形成することができる。光導波路345は、周囲の材料よりも屈折率が高くなるように構成される。この場合、光導波路345にはチップの底面から光が導入され、同様に、チップの底面から光が取り出される。図10は、図9のD−D’断面図である。
【0083】
この場合、たとえば、移動端末127の底面等に、チップの投光用光導波路346へ光を導入する光源および受光用光導波路347からの光を受光するための検出器(受光部)となるフォトトランジスタを設けておくことができる。このような構成にすれば、移動端末127の底面等にチップの投光用光導波路346および受光用光導波路347が露出した面を接触させることにより、分注流路114自体を測定用の検出部113または検出部115として用い、移動端末127の光源から分注流路114上の検出部113または検出部115へと光を導入し、また、検出部113または検出部115を透過した光を移動端末127の受光部にて検出することができる。
【0084】
また、図9および図10に示したチップにおいて、光導波路345を設けない構成としてもよい。このとき、投光用光導波路346および受光用光導波路347を設けることにより、移動端末127の光源からの出射光を、投光用光導波路346を介して検出部113または検出部115に導入し、検出部113または検出部115からの出射光を、受光用光導波路347を介して移動端末127の受光部にて受光することができる。この構成についても、検出部113および検出部115に分取された液体中の所定の成分に関する光学測定を行うことができる。また、光導波路345を設けないため、チップの構成を簡素化することができる。
【0085】
なお、図9および図10に示した構成のチップや、この構成において光導波路345を設けない構成のチップを用いる場合には、移動端末127を、チップ挿入時の投光用光導波路346および受光用光導波路347の位置に対応して光源および検出部がそれぞれ配置された構成とすることができる。
【0086】
さらに、移動端末127は測定ユニット151を1個有するものとし、チップ101をチップ挿入部131中でスライドさせることにより、検出部113および検出部115について順次光学測定を行う構成としてもよい。
【0087】
図11は、移動端末127の別の構成を示す図である。移動端末127は、切欠部132を有する。切欠部132は、移動端末127の側面から底面にかけて形成されている。利用者がチップ101を切欠部132にスライドさせた際に、検出部113および検出部115の透過度を順次測定されるようになっている。
【0088】
本実施形態においては、導入口106、検出部113および検出部115を有するチップ101および移動端末127を用いることにより、利用者187は自宅に大型の測定機器を設置したり、専門機関を訪問したりすることなく体液中の所定の成分についてその場で簡便に測定を行うことができる。利用者187は、チップ101と移動端末127からなる測定装置129を所持していれば、所望の時間に所望の場所で測定を行うことができる。
【0089】
また、測定装置129は小型で簡便な構成であり、これを用いて簡便な手法で確実に体液中の成分に関する測定結果を容易に取得することができる。また移動端末127を用いて測定結果を外部の分析センターに送信し、測定結果に関して分析を依頼することができる。
【0090】
また、移動端末127にチップ挿入部131が設けられているため、チップ101を使い捨ての形態とし、測定ごとにチップ101を交換することができる。また、移動端末127自体に試料を導入せずに測定が可能である。よって、移動端末127を汚染せずに、精度のよい測定を行うことができる。
【0091】
図12は、検査システム100の構成を示すブロック図である。
移動端末127は、表示部145、入出力部147、送受信部149、測定部として機能する測定ユニット151、および計時部183を含む。送受信部149は、測定ユニット151が測定した測定結果を利用者187の健康状態に関する測定データとして分析センター153に送信する。このとき、測定値の取得日時等の時間に関する計時部183から伝達されるデータをあわせて送信してもよい。
【0092】
また、送受信部149は、分析センター153から送信された測定値に基づく分析結果を受信する。送受信部149は、受信した分析結果を入出力部147に伝達する。入出力部147は、分析結果を表示部145に出力し、利用者187に提示する。
【0093】
分析センター153は、データ取得部155と、分析部165と、データベース167と、推定処理部179と、データ書込部181と、送受信部185と、読出部189と、管理番号付与部191とを有する。
【0094】
分析センター153の各構成要素は、ハードウエアコンポーネントでいえば、任意のコンピュータのCPU、メモリ、メモリにロードされた本図の構成要素を実現するプログラム、そのプログラムを格納するハードディスクなどの記憶ユニット、ネットワーク接続用インターフェースを中心に実現されるが、その実現方法、装置にはいろいろな変形例があることは、当業者には理解されるところである。これから説明する各図は、ハードウエア単位の構成ではなく、機能単位のブロックを示している。
【0095】
データ取得部155は、測定対象選択受付部157と、測定データ取得部159と、利用者情報取部161と、エリア情報取得部163とを含む。測定対象選択受付部157は、送受信部185にて受信された情報のうち、利用者187が選択した測定対象を取得する。測定データ取得部159は、検出部113および検出部115についての測定値を取得する。利用者情報取得部161は、利用者187の利用者IDを取得する。また、エリア情報取得部163は、移動端末127からデータが送信された位置に関する情報を取得する。
【0096】
なお、データ取得部155は、利用者187の測定データを、その測定データの作成位置および作成日時に対応付けて取得することができる。「測定データの作成日時」とは、たとえば、利用者187が自分の体液を採取した日時、利用者187がチップ101を用いて特定成分に関する測定を行った日時、利用者187が移動端末127を用いてチップ101の発色を検出した日時、または利用者187が移動端末127から測定データを送信した日時とすることができる。また、分析センター153が測定データを取得した日時を「測定データの作成日時」とすることもできる。このような日時は移動端末127の計時部183または分析センター153の計時機能に基づき決定されてもよく、利用者187の入力により決定されてもよい。
【0097】
「測定データの作成位置」とは、たとえば、移動端末127を用いる利用者187が測定データを分析センター153に送信したときの移動端末127の位置情報とすることができる。移動端末127の位置情報は、移動端末127の電波受信状態により、携帯電話網の基地局の位置検出機能を用いて取得することができる。また、利用者187がGPS機能付きの移動端末127を所持している場合、GPS測位機能を用いて取得することもできる。また、利用者187に移動端末127から自分のいる位置情報を入力させることもできる。移動端末127の位置情報は、測定データとともに分析センター153に送信される。位置情報は、二次元の情報だけでなく、高さも含めた三次元の情報とすることもできる。
【0098】
分析部165は、選択された測定対象について、測定データ取得部159にて取得されたデータの分析を行う。また、推定処理部179は、分析部165における分析結果に基づいて、利用者の健康状態を推定する。
【0099】
管理番号付与部191は、各測定データに対応づけて管理番号を付与する。データ書込部181は、各種データを管理番号付与部191において付与された管理番号と対応づけてデータベース167に記憶させる。読出部189は、データベース167に記憶されている情報を読み出す。送受信部185は、移動端末127との間のデータの送受信を行う。
【0100】
データベース167は、分析情報記憶部169と、関連情報記憶部171と、分析結果記憶部173と、利用者情報記憶部175と、エリア情報記憶部177とを含む。
【0101】
分析情報記憶部169は、複数の測定対象について、測定データの分析を行うためのプログラム、参照データ等を記憶する。たとえば、分析部165が測定対象の成分を分析する際の手順やプログラムや、推定処理部179が罹患可能性を推定する際の手順を規定した解析プログラム等の各種プログラムを、複数の測定対象についてそれぞれ記憶する。また、分析情報記憶部169は、測定ユニット151を制御するためのプログラムをも記憶することができる。分析情報記憶部169のデータ構造では、測定対象のID番号ごとに、各測定項目の評価基準を記憶することができる。具体的には、たとえば、測定項目IDが0002の血糖値について、検出部115の透過度から検出部113の透過度(ブランク)を引いた数値の増加に対応させて、レベル1(−)、レベル2(+)、レベル3(++)、およびレベル4(+++)の4段階のレベルにより評価することを記憶してもよい。
【0102】
関連情報記憶部171は、推定処理部179における推定結果に応じて利用者187に送信する情報を記憶する。たとえば、推定結果に応じて結果とともに利用者187に送信するアドバイスに関する情報や、医療機関や保険会社の連絡先に関する情報等を記憶することができる。
【0103】
分析結果記憶部173は、分析部165による分析結果や、推定処理部179における推定結果を管理場号に対応づけて記憶する。分析結果記憶部173には測定対象ごとの基礎データが蓄積される。
【0104】
図14は、分析結果記憶部173のデータ構造の一例を示す図である。データ構造225では、検出が行われた位置情報およびこれに対応する測定エリア、利用者ID、分析値、および発症レベルが、管理番号に対応付けて記憶されている。たとえば、管理番号0022の被診断データは、測定対象0002(血糖値)に関する分析値は0.42で、レベルが++と記憶されている。
【0105】
図12に戻り、利用者情報記憶部175は、分析結果に付与された管理番号と利用者IDとを対応づけて記憶する。これにより、利用者187は自己の測定結果の経時変化を移動端末127から読み出すことができる。図15は、利用者情報記憶部175のデータ構造の一例を示す図である。データ構造227では、ID番号が30である利用者187の分析値、発症レベル、および測定エリアが、管理番号に対応付けて経時的に記憶されている。また、利用者情報記憶部175は、利用者187毎に、利用者ID、利用者のメールアドレス等を記憶してもよい。なお、利用者情報を取得するときは、これを適法に取得するものとする。
【0106】
エリア情報記憶部177は、複数のエリアの位置情報を記憶する。分析結果に付与された管理番号とエリア情報とを対応づけて記憶する。図16は、エリア情報記憶部177のデータ構造の一例を示す図である。エリア情報記憶部60は、エリアNo.欄、始点位置(x,y)欄、および終点位置(x,y)欄を含む。エリアNo.欄は図14または図15に示したエリアNo.欄に対応し、各エリアは、始点位置および終点位置をそれぞれ通るx軸およびy軸で囲まれた範囲に設定される。
【0107】
図17は、図12の検査システムを用いた処理手順を説明する図である。以下、図12も参照して説明する。
【0108】
利用者187は、上述の方法で体液を採取し、チップ101に導入する。試料は毛細管現象により基板上部103aから基板下部103bに導入され、検出部に導かれる。検出部における所定の呈色反応後、移動端末127にチップ101を挿入する(S111)。そして、移動端末127の入出力部147に選択した測定対象を入力する(S112)。本実施形態において、測定対象は特に限定されず、血糖値等、以降の実施形態において説明する項目とすることもできるし、それ以外の項目とすることもできる。
【0109】
移動端末127の入出力部147は、選択された測定対象を検出するために測定ユニット151を制御する(S113)。たとえば図5において、光源133aまたは光源133b、受光部135aまたは受光部135b、または分光部134を有する場合には分光部134を制御する。たとえば、測定対象が血糖値である場合、チップ101の検出部113に検出物質としてNAD(β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド酸化型)、ATP(アデノシン3リン酸2ナトリウム)、ヘキソキナーゼ、グルコース−6−リン酸脱水素酵素、および酢酸マグネシウム等のグルコース検出試薬を含有させておくことができる。こうすれば、チップ101の検出部113または検出部115における発色の程度を移動端末127の測定ユニット151により測定することができる。
【0110】
図17に戻り、検出部113および検出部115の透過光強度を測定し(S114)、それぞれの測定値を取得する(S115)。測定ユニット151は、対象成分を検出することができないときは、測定不能または測定値を0%とすることができる。取得した測定値を、送受信部149から分析センター153に送信する(S116)。このとき、利用者187が選択した測定対象、利用者の情報、およびデータ送信エリアに関する情報が合わせて送信されてもよい。
【0111】
分析センター153は、移動端末127から送信された情報を送受信部185で受信し、各データは、データ取得部155の測定対象選択受付部157〜エリア情報取得部163にて取得される。
【0112】
分析部165は、データ取得部155で取得されたデータの分析を行う(S116)。このとき、測定対象選択受付部157にて受け付けられた測定対象の分析を行うためのプログラムが分析情報記憶部169から取得される。分析の結果が適正でない場合は(S117のNo)、その旨を送受信部185から移動端末127に送信する。移動端末127において再度測定する場合は(S118のYes)、ステップ113からの各ステップを繰り返す。また、再測定を行わない場合は、当該データによる測定対象の推定が不能である旨を表示部145にて表示し(S123)、利用者187に提示する。
【0113】
適正な分析結果が得られたら(S117のYes)、推定処理部179において罹患可能性が推定される(S119)。推定結果は、管理番号付与部191にて管理番号が付与された後、データ書込部181にてデータベース167に記憶される。
【0114】
また、推定結果は、送受信部185から移動端末127に送信される。このとき、関連情報記憶部171に格納されている情報を合わせて送信してもよい。移動端末127は送受信部149にて受信した結果を表示部145に表示し、利用者187に提示する(S122)。
【0115】
検査システム100によれば、チップ101を移動端末127に挿入することにより、簡素な装置構成で簡便に体液中の成分の測定を行うことができる。また、大型の専用基材を自宅に設置する必要がないため、利用者187は外出先でも測定を行うことが可能である。また、専門の分析期間を訪問する必要もない。
【0116】
また、測定値および推定結果の送受信が移動端末127と分析センター153との間で行われるため、移動端末127の装置構成を必要最低限に簡素化することができる。また、利用者187は遠隔地の分析センターや医療機関を訪れることなく、自己の体液に関する測定結果を送信し、また分析結果を受信することができる。よって、利用者187は所望の場所で自己の健康状態を確認することができる。
【0117】
また、分析センター153は複数の測定対象に関する分析データを利用者別、エリア別、または測定対象別に網羅的に把握することが可能である。
【0118】
なお、図3において、チップ101は、検出部113または検出部115に付着させる検出物質を適宜異ならせることにより、多くの測定に用いることが可能である。チップ101には、検出部113および検出部115の二つの検出部が形成されているが、検出部115の数に特に制限はない。また、一枚のチップ101の各検出部に異なる検出物質を付着させておいてもよい。こうすれば、利用者187は一度の測定で複数の種類の成分に関する測定を行い、移動端末127から送信することができる。このため、複数の成分に関する測定結果に基づく多様な分析結果を一度の測定で受信することができる。
【0119】
また、チップ101において、流路109に連通する液溜めをさらに設け、この液溜めに、試料希釈用バッファーを導入しておくかあるいは所定のタイミングで導入することにより、試料導入部105に導入された試料を希釈した後、検出部113および検出部115に導くことができる。こうすれば、測定ユニット151による測定に適した濃度に試料を希釈することが可能となるため、高感度の測定が可能となる。
【0120】
チップ101上で分注、希釈等の所定の操作を行うことにより、試料に多様な処理を施すことができるため、測定ユニット151における測定に適した状態の試料を検出部113および検出部115に導くことができる。このため、従来精密な測定装置を用いて測定していた成分についても、測定装置129を用いて容易に測定することができる。
【0121】
また、図5では、移動端末127が検出部113および検出部115の透過光を検出する構成としたが、反射光を検出するように受光部135aおよび受光部135bを構成し、配置してもよい。
【0122】
(第二の実施形態)
本実施形態は、第一の実施形態に記載の検査システム100(図1)に適用可能なチップの他の構成に関する。図18は、本実施形態に係るチップの構成を模式的に示す図である。図18のチップ251は、試料の分離および検出を行うことができるチップであり、基本的な構成は図3のチップ101と同様であるが、さらに分離領域318、廃液溜め319、バッファー導入口320、流路330、および混合部348を含む。また、複数の検出部323は、図3のチップにおける検出部113および検出部115に対応する。
【0123】
分離領域318は、流路109および複数の微細流路329を介して流路109に連通する流路330を有し、フィルタ状に構成されている。流路330に連通して不要な試料を排出する廃液溜め319が設けられている。また、流路109に連通して、バッファー導入口320が形成されている。なお、図18のチップ251では、分離領域318がフィルタである場合を例示しているが、分離領域318の構成はこれには限定されず、たとえば、流路に複数の柱状体を配設した構成等とすることもできる。
【0124】
図19は、分離領域318の構成を説明する図である。図19においては、基板下部103b上に流路溝361aおよび流路溝361b(いずれも幅W、深さD)が形成され、これらの間に隔壁365が介在している。ここで、流路溝361aおよび流路溝361bのいずれか一方が流路109となり、他方が流路330となる。隔壁365には、分離流路が規則的に形成されている。ここでいう「分離流路」は、微細流路329に対応する構成である。分離流路は、流路溝361aおよび流路溝361bと直交し、幅d1の分離流路が所定の間隔d2で規則的に形成されている。図中に示された各寸法は、分離する試料等に応じて適宜な値に設定されるが、たとえば以下のような範囲から好適な数値が選択される。
【0125】
W:10μm〜1000μm
L:10μm〜1000μm
D:50nm〜1000μm
d1:10nm〜1μm
d2:10nm〜1μm
このうち、分離流路の長さに相当するLの数値は、分離特性に直接影響するため、分離目的に応じて精密に設計することが重要となる。たとえば高分子の分離においては、分離流路を通過する際に分子のコンフォーメーションが変化し、エンタルピー変化が生じる。したがって、分離流路の長さによって分子の通過に伴うエンタルピー変化の総量が相違することとなり、分離特性が変化するのである。本発明においては、流路を溝により構成しているため、エッチングや成型加工により作製することができ、形状やサイズを精密に制御することができる。この結果、所望の分離特性を有する分離領域318を安定的に製造することができる。なお、流路溝361a、流路溝361bおよび分離流路は、様々は方法で形成することができるが、d1やd2の値を100nm以下に設定した場合、微細加工性の点で電子線露光技術を組み合わせたドライエッチングを用いることが望ましい。
【0126】
図19に示した構造の分離領域318を用いた分離方法について図20を参照して説明する。図20は、この分離領域318を上から見たときの概略構造を示した模式図である。まず、試料の分離を行う前の準備として、各流路溝にキャリアとなる緩衝液を満たしておく。図20では、流路溝361b中に、図中下向きに混合物350を含む試料原液が流れる。すると、混合物中の小さな分子351が、図の中央に示される隔壁に設けられた分離流路を通過し、隣接する流路溝361aに進入する。流路溝361aには、分離目的成分と化学反応を起こさない溶媒が図中上向きに流れている。したがって、流路溝361aに進入した小さな分子351は、その流れにのって図中上向きの方向に運搬される。一方、流路溝361b中の大きな分子352は、分離流路を通過できないので、流路溝361b中をそのまま流れていき、流路の末端で回収される。以上のようにして、小さな分子351および大きな分子352が分離される。
【0127】
図20では、流路溝361aおよび流路溝361bの流れの方向を逆向きとした。同じ向きとすることもできるが、逆向きにした場合、分離効率が向上する。たとえば流路溝361aの流れの方向を図中下向きとした場合、流れの進行方向に向かうにしたがって小さな分子351の濃度が高くなっていく。したがって、流路溝361aと流路溝361bにおける大きな分子352の濃度差が、流れの進行方向に向かうにしたがって小さくなり、ある地点で等濃度となる。この地点から先の領域では、流路溝361bから流路溝361aへの大きな分子352の移動は起こりにくくなり、分離できなくなる。これに対して本実施形態のように逆向きの方向にした場合は、流路溝361aと流路溝361bにおける大きな分子352の濃度差は担保されるので、分離流路を一定の長さの領域にわたって形成した場合でも、高い分離能力を確保することができる。
【0128】
また、以上においては、分離流路となる複数の微細流路329が形成された隔壁を有する構成を示したが、分離領域318は、以下に示すように、土手部を有する構成としてもよい。
【0129】
図32(A)および図32(B)は分離領域318の構成を示す図である。図32(A)、図32(B)はそれぞれ断面図、斜視図である。図32(A)に示されるように、基板下部103bに二本の流路溝361a、流路溝361bが設けられ、それらを分けるようにして土手部に相当する隔壁308が設けられている。基板下部103bの上には基板上部103aが配設される。便宜上、基板上部103aは図32(B)には示していない。
【0130】
図32(A)から分かるように、基板上部103aと基板下部103bとの間には空間が確保されているため、この空間を介して流路溝361aおよび流路溝361bは互いに連通している。この空間は、上記の分離領域318の隔壁365に設けられた分離流路に相当する。したがって、たとえば流路溝361aに分離対象物質を含む試料を流し、流路溝361bに緩衝液を流すことにより分離操作を実行することができる。
【0131】
なお、この場合、基板上部103aにはポリジメチルシロキサンやポリカーボネートなどの疎水性材料からなるものを選択することが好ましい。このようにすることにより、各々の流路溝に試料あるいは緩衝液を他の流路溝に浸入させることなく導入することができ、かつ両方の流路溝に試料等が満たされた段階で、上記空間を介して両流路溝内の試料および緩衝液の混和を生じさせることができる。このような効果は、基板上部103aを取り付けない状態で操作実施することによっても得ることができる。このとき、空気自体が疎水性物質として基板上部103aと同様に機能しているものと考えられる。
【0132】
また、ポリエチレンテレフタレートなどの親水性材料からなる基板上部103aを取り付けた状態で、たとえば流路溝361aに試料を流すと、当該試料は他方の流路溝361bへ浸入する。この浸入の際に、基板上部103aと隔壁308との間に形成された空間よりも小さなサイズの成分のみが濾しとられるため、試料中の成分の分離が実現する。
【0133】
この構成によれば、隔壁308を設けることにより、流路溝361aおよび流路溝361bを、微細流路329を有する隔壁365に比較して広い面積で接続するため、分離効率を向上させることができる。また、細長い物質であっても詰まりにくく、流路間を容易に移動できるため、こうした物質を含む試料の分離に好適に用いることができる。
【0134】
このような流路溝361a、流路溝361bおよび隔壁308は、たとえば(100)Si基板をウェットエッチング処理することにより得られる。(100)Si基板を用いた場合、<001>方向に直交あるいは平行な方向では、図示されるように台形型にエッチングが進行する。そのため、エッチング時間を調節することにより隔壁308の高さを調節することが可能である。
【0135】
また、図33に示されるように、隔壁308を基板上部103a上に設けることもできる。このような隔壁308を備えた基板上部103aは、ポリスチレンなど樹脂を射出成形することにより容易に得ることが可能である。また、基板下部103bには1本の流路をエッチング等により設けるだけでよい。したがって、この分離領域318は上記のような簡便なプロセスにより得られるため、大量生産に適している。
【0136】
本実施形態の分離領域318では、たとえば試料原液の毛細管現象による導入と、拡散により分離できる。また、分子の浸透圧差を利用して分離することができる。
【0137】
図18にもどり、導入口106に導入された試料は、毛細管現象により流路330に導かれる。試料が流路330を満たしたら、バッファー導入口320に所定のバッファーを導入する。バッファーは、試料中の成分の分離用展開液として用いられる。バッファー導入口320に導入されたバッファーは、毛細管現象により流路109に導かれ、流路330中の試料の移動方向と逆向きに移動する。
【0138】
ここで、流路330と流路109とを連通させている微細流路329は、流路330よりも幅または深さが小さいため、流路330中の試料成分のうち、所定の大きさまたは形状を有する成分のみが微細流路329を通過し、流路109に移動することができる。また、微細流路329中を通過できない成分は、廃液溜め319に排出される。こうして、試料中の成分を、その移動相中での大きさまたは形状に従って分離することができる。なお、微細流路329は、流路330と流路109とを隔てる隔壁中に小孔が形成された構成とすることができる。
【0139】
このような分離領域318を用いて、たとえば試料の粗分離、精製等を行うことができる。粗分離の場合として、試料中の固形成分や細胞等を分離除去することができる。また、液体試料の場合、たとえば低分子量成分と高分子量成分との分離等が可能である。
【0140】
また、このチップには、分離領域318と検出部323との間に、検出または測定に先立ち、試料濃度を均質化するための混合部348が設けられている。混合部348は、流路109中を流れる液体中の試料成分濃度を均質化することができるように構成されていれば、特に制限はないが、たとえば以下のように構成することができる。
【0141】
図21は、混合部348の構成の一例を示す図である。図21の混合部348は、対向流による均質化効果を利用した助走流路である。この流路は、流路109の往路352と復路353とを混合用微細流路354により連通させた構成となっている。混合用微細流路354は、たとえば往路352と復路353とを隔てる隔壁に設けられた小孔とすることができる。
【0142】
混合用微細流路354の表面は往路352に比べて疎水性とする。こうすることにより、分離領域318を通過した液体が往路352を満たすまで、混合用微細流路354から復路353に流入しない構成とすることができる。往路352が液体で満たされ、復路353に至ると、混合用微細流路354中に往路352側と復路353側から液体が侵入することにより、往路352と復路353とが混合用微細流路354によって連通する。そして、往路352内の液体と復路353内の液体との間で相互拡散が起こり、液体の濃度を均質化することができる。均質化された液体は、流路109から分注流路114を通って検出部323に導かれる。
【0143】
このような構成とすれば、復路353を通過して分注流路114に流入する液体の濃度を均質化することができる。したがって、分離領域318を通過した体液中の試料成分濃度にむらがある場合にも、複数の検出部に供給される液体中の試料成分濃度を一定とすることができる。よって、検出反応の精度を向上させることができる。
【0144】
たとえば、試料成分濃度が高い領域が、流路109中を流れる液体の先端領域にある場合、往路352を進むほど、既に希釈化された低濃度の復路353中の液体と交換されて、平均的濃度に均質化される。逆に、高濃度領域が流路109中を流れる液体の先端から遠く、復路353に液体が侵入した後も往路352に存在する場合、復路353を進行する低濃度の液体は、復路353内の高濃度の液体と混合されて平均的な濃度に均質化される。なお、図21では、流路109を一直線の形状としたが、ジグザグ形状やらせん状としてもよい。こうすることにより、混合部348をコンパクトな形状とすることができる。よって、チップ全体を小型化することができる。
【0145】
また、図22は、混合部348の別の構成を示す図である。図22の混合部348においては、流路109中に液溜め355が設けられ、液溜め355の下流において流路109の2箇所を連通させるトリガー流路356が設けられている。トリガー流路356は、流路内の親水性の程度や流路径等を適宜に調整することによって、流路内の液体の進行速度を調整することができる。これにより、スイッチ動作の速度を調整できる。トリガー流路356と流路109との2箇所の交差点のうち、下流側すなわち分注流路114側の交差点に、液体スイッチ357を有する。
【0146】
このような混合部348では、当初は液体スイッチ357が閉じており、分離領域318を通過した液体は、液溜め355に貯留され、濃度が均質化される。液溜め355が液体で満たされると、その一部がトリガー流路356へと流入する。そして、トリガー流路356中に液体が満たされ、液体スイッチ357の形成領域に達すると、液体スイッチ357が開くため、液溜め355中で均質化された液体が分注流路114へと流入する。
【0147】
図23(A)〜図23(C)は、図22の液体スイッチ357部分を拡大した上面図である。液体スイッチ357は、液体の流動を制御するスイッチであり、液体がスイッチ開閉のトリガーとなる。図23(A)はスイッチ閉状態、図23(B)および図23(C)はスイッチ開状態を示す。図中、流路109の側面にトリガー流路356が接続している。トリガー流路356は、流路内の親水性の程度や流路径等を適宜に調整することによって、流路内の液体の進行速度を調整することができる。これにより、スイッチ動作の速度を調整できる。流路109とトリガー流路356の交差する領域の上流側(図中上側)に堰き止め部358が設けられている。堰き止め部358は、流路の他の部分よりも強い毛細管力を有する部分となっている。堰き止め部358の具体的構成としては、以下のものが例示される。
【0148】
(i)複数の柱状体が配設された構成
この構成では、堰き止め部358における流路単位体積あたりの流路表面積が、流路の他の部分のそれよりも大きくなっている。すなわち、流路109に液体が満たされたとき、堰き止め部358においては、流路の他の部分よりも固液界面が大きくなるように構成されている。
【0149】
(ii)多孔質体やビーズが複数充填された構成
この構成では、堰き止め部358において、流路の他の部分よりも固液界面が大きくなるように構成されている。
【0150】
上記(i)の構成とする場合、柱状体は、基板の種類に応じて適宜な方法で形成することができる。石英基板やシリコン基板を用いる場合、フォトリソグラフィー技術およびドライエッチング技術を利用して形成することができる。プラスチック基板を用いる場合、形成しようとする柱状体のパターンの反転パターンを有する金型を作製し、この金型を用いて成形を行い所望の柱状体パターン面を得ることができる。なお、このような金型は、フォトリソグラフィー技術およびドライエッチング技術を利用することにより形成することができる。
【0151】
上記(ii)の構成とする場合、多孔質体やビーズは、これらを流路の所定箇所に直接充填、接着することにより形成することができる。
【0152】
本実施形態では、上記(i)の構成を採用する。
【0153】
図24は、堰き止め部358の上面図である。複数の柱状体360が、略等間隔で規則的に配置されている。柱状体360以外の領域は微細流路195となっている。堰き止め部358では、流路単位体積あたりの流路表面積が、流路の他の部分のそれよりも大きい。このため、堰き止め部358に浸入した液体は、毛細管力により、微細流路195に保持される。
【0154】
図23(A)はスタンバイ状態にある液体スイッチ357を示している。流路109に導入された液体試料359が堰き止め部358で保持されている。この状態から所望のタイミングでトリガー流路356を迂回してきたトリガー液362導入されると、図23(B)のようにトリガー液362の液面の先端部分が前進し、堰き止め部358と接触することとなる。図23(A)の状態では、液体試料359は毛細管力により堰き止め部358に保持されているが、液体試料359がトリガー液362と接触した図23(B)の状態になると、液体試料359が図中下方向(下流側)に移動し、図23(C)の流路109下流側に液体試料359が流出する。すなわち、トリガー液362が呼び水としての役割を果たし、液体試料359を下流側に引き出す液体スイッチとしての動作が発現する。
【0155】
以上において、液体試料359およびトリガー液362は、液溜め355を通過した液体である。したがって、この構成によれば、分離領域318を通過した液体が液溜め355を満たし、さらにトリガー流路356の先端すなわち流路109の下流側の交差点に達するまでの間、液体が分注流路114側に流入しないようにすることができる。よって、液溜め355において確実に試料成分濃度の均質化を図ることができる。また、トリガー流路356の構成によって、分注流路114へと流入するタイミングを好適に調節することができる。
【0156】
図25(A)〜図25(C)は、トリガー流路356の構成を例示する図である。図25(A)では、トリガー流路356の一部に流路拡張領域363が形成されている。流路拡張領域363は、トリガー流路356中で時間遅れ槽として機能する。こうすることにより、液体スイッチ357を開くタイミングを遅延させることができる。
【0157】
図25(B)は、図25(A)の構成のトリガー流路356において、流路拡張領域363に疎水性領域364が形成されている。疎水性領域364は、トリガー流路356中の液体の進行方向に垂直な方向に流路拡張領域363を横切るように形成されている。このような疎水性領域364を設けることにより、流路拡張領域363において、液体が壁面のみをつたって他端に到達するのを抑制することができる。
【0158】
図25(C)は、じぐざぐ形状のトリガー流路356の例を示している。このようにトリガー流路356の形状、長さを最適化することにより、所望のタイミングで液体スイッチ357を開放することが可能となる。トリガー流路356の形状は、占有面積が小さいような形状であれば図25(C)の形状に限られず、たとえばらせん形とすることもできる。
【0159】
流路109中の試料成分は、流路109に連通する分注流路114から、検出部323に導かれる。本実施形態においても、分注流路114および検出部は基板下部103b上に所定の数だけ設けることができる。図18のチップ251では、流路109から複数の分注流路114が順次分岐しており、分注流路114は流路109よりも細い流路であるため、毛細管現象によって上流側の分注流路114に連通する検出部323から順に試料成分が導入される。また、すべての検出部に試料成分が導かれた後の不要な試料は、液溜め107に排出される。
【0160】
本実施形態に係るチップ251によれば、試料導入部105と検出部323との間に分離領域318が設けられているため、試料導入部105に導入された試料に含まれる所定の成分を確実に分離し、検出部323に導くことができる。このため、微量な成分に関しても、測定時のバックグラウンドを減少させ、高感度の測定を行うことが可能となる。
【0161】
また、分離領域318と検出部113および検出部115との間に混合部348を有するため、分離領域318を通過した液体の濃度を均質化した後、検出部323へと導くことができる。このため、検出部323に導入される液体中の試料成分のむらを解消することができる。よって、検出部323における測定の精度を向上させることができる。
【0162】
このように、チップ251を用いることにより、測定ユニット151における光学測定に適した試料をチップ101内で調製し、測定ユニット151における測定に供することが可能となる。
【0163】
なお、チップ251において、分離領域318は、第三の実施形態で後述するチップの分離領域と同様の構成とすることもできる。
【0164】
(第三の実施形態)
本実施形態は、第一の実施形態に記載の検査システム100(図1)に適用可能なチップの他の構成に関する。
【0165】
図26は、本実施形態に係るチップ224の概略構成を示す上面図である。チップ224において、第一または第二の実施形態と同様の構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0166】
チップ224は、試料導入部105に連通する第一の流路241が、分離領域245を介して第二の流路243に連通する構成となっている。第二の流路243は、液溜め107に連通する。
【0167】
第一の流路241の上流は試料導入部105に、下流は液溜め239に連通している。また、分離領域245より上流に前処理部231が形成されており、前処理部231には液溜め233が連通している。液溜め233にはたとえば緩衝液などの、液溜め239の希釈液または移動相の液性を調整する液体等が充填され、液溜め239には第一の流路241を通過した廃液等が導かれる。
【0168】
第二の流路243の上流は液溜め235に、下流は液溜め107に連通しており、分離領域245より下流には、検出部113〜検出部119が連通している。液溜め235にはたとえば緩衝液などの、液溜め239の希釈液または移動相の液性を調整する液体等が充填され、液溜め107には第二の流路243を通過した廃液等が導かれる。
【0169】
利用者187は、試料採取部228を用いて体液を採取し、得られた試料229を試料導入部105に導入する。試料採取部228は、試料229として用いる体液の採取方法に応じて、たとえばスポイトや穿刺針等とすることができる。
【0170】
チップ224において、試料導入部105に導入された試料229に含まれる被検出成分は、試料導入部105に導入された後、第一の流路241中を移動し、前処理部231を通過し、分離領域245を経由して第二の流路243に移動する。そして、第一の流路241に連通する検出部113〜検出部119に導かれ、第一または第二の実施形態と同様にして検出される。
【0171】
前処理部231は、試料229を分離領域245で分離する前に前処理を行う。前処理の内容は、試料229および試料229中の被検出成分の集累に応じて適宜選択されるが、たとえば、
(i)夾雑物の濾過、
(ii)粘度の低下、
(iii)pH調整、
等とすることができる。
【0172】
上記(i)の前処理の場合、たとえば、前処理部231に多孔質材料等を充填しておき、所定の大きさ以下の成分のみが下流に導入されるように構成することができる。また、上記(ii)の前処理の場合、液溜め233に塩化リゾチームを含む緩衝液を充填しておき、前処理部231で試料229と混合することができる。また、上記(iii)の前処理の場合、たとえば、液溜め233に所定のpHの緩衝液を充填しておき、前処理部231で試料229と混合することができる。
【0173】
第一の流路241は、分離領域245を介して第二の流路243に連通する。分離領域245は、所定の大きさ以下の成分のみを第一の流路241から第二の流路243へと移動させる分離流路である。このような分離領域245の構成は後述する。
【0174】
分離領域245において、第一の流路241からは前処理部231を通過した試料229が流れ、第二の流路243からは液溜め235に充填されていた液溜め235が流れると、第一の流路241から分離領域245を通過した試料229中の成分が、第二の流路243を液溜め107に向かって移動し、検出部113〜検出部119に導入される。
【0175】
図27は、分離領域245の構成の一例を示す図である。図27において、基板下部103bに幅W、深さDの溝部が形成され、この中に、直径φ、高さdの円柱形状のピラー325が等間隔で規則正しく形成されている。ピラー325間の間隙を試料が透過する。隣接するピラー325間の平均間隔はpである。各寸法は、たとえば図27に示された範囲とすることができる。
【0176】
なお、本明細書において、「ピラー」は柱状体の一形態として示したものであり、円柱ないし楕円柱の形状を有する微小な柱状体をいう。また、「ピラーパッチ」および「パッチ領域」は、柱状体配設部の一形態として示したものであり、多数のピラーが群をなして形成された領域をいう。
【0177】
ピラー325の作製は、たとえば基板下部103bを所定のパターン形状にエッチングすることにより行うことができるが、その作製方法に特に制限はない。
【0178】
基板下部103bにプラスチック材料を用いる場合、ピラー325は、エッチングやエンボス成形等の金型を用いたプレス成形、射出成形、光硬化による形成等、基板下部103bの材料の種類に適した公知の方法で行うことができる。
【0179】
基板下部103bをプラスチック材料により構成した場合、機械加工あるいはエッチング法によりマスタを製作し、このマスタを電気鋳造反転して製作した金型を用いて、射出成形または射出圧縮成形によりピラー325が形成された基板下部103bを形成することができる。また、ピラー325は、金型を用いたプレス加工により形成することもできる。さらに、光硬化性樹脂を用いた光造形法により、ピラー325が形成された基板下部103bを形成することもできる。
【0180】
また、基板下部103bにシリコンを用いる場合、カリックスアレーン電子ビームネガレジストやスミレジストNEB(住友化学製)等を用いてパターニングを行うこともできる。レジストの種類を適宜選択することにより、目的成分に応じた分離領域318を設計することができる。
【0181】
このチップによれば、体液中の成分を分離することができるため、検出部113において検出反応を確実に行わせることができる。また、移動端末127を用いた測定の精度および感度を向上させることができる。また、前処理部231を設けているため、試料229の分離効率及び検出感度をさらに向上させることが可能となる。
【0182】
なお、チップ224において、分離領域245は、第二の実施形態のチップ251(図18)の分離領域318と同様の構成とすることもできる。
【0183】
(第四の実施形態)
本実施形態は、以上の第一の実施形態〜第三の実施形態に記載の検査システム100を用いた血糖値の測定に関する。以下、検査システム100に図18のチップを用いた場合を例に説明する。
【0184】
チップ251の検出部323にグルコース定量試薬として、グルコースオキシダーゼ、ムロターゼ、ペルオキシダーゼ、およびアスコルビン酸オキシダーゼなどの酵素、ならびに4−アミノアンチピリンおよびフェノール等の発色試薬を付着させておく。このときの測定波長はたとえば505nmとする。また、分離領域318は、低分子成分が優先的に通過するような構成とする。また、図3の検出部113に相当する検出部323として、ブランクデータの取得に用いるための発色試薬を加えないでおく検出部323を設ける。
【0185】
利用者187は従来用いられている穿刺器具や、第三の実施形態における試料採取部228(図26)等を用いて指を穿刺し、チップ251上の試料導入部105に導入する。検出部323が発色したら、図17を用いて前述した手順に従って測定および測定値の送信を行う。本実施形態では、ステップ112において選択する測定対象を血糖値とする。こうすることにより、測定対象が血糖値であることが分析センター153の測定対象選択受付部157にて受け付けられる。そして分析部165および推定処理部179は血糖値の測定に関する情報を分析情報記憶部169および関連情報記憶部171から取得し、分析および推定を行う。
【0186】
推定処理部179における推定後、推定結果とともに、結果に対応する付加情報を送受信部185から移動端末127に送信してもよい。たとえば、血糖値が高い利用者187には、その自宅に近い医療機関を紹介したり、その診療受付日程を送信してもよい。血糖値がやや高い利用者187に対しては、これを改善させるための食事のメニュー等を送信してもよい。また、運動療法のメニューや、スポーツセンターのリスト等を送信することもできる。
【0187】
本実施形態の検査システムを用いることにより、血糖値に不安がある人も、糖尿病の人も、測定結果を速やかに分析センターに送信することができる。
【0188】
なお、本実施形態における測定対象を、血糖値に代えて尿糖値とすることもできる。
【0189】
(第五の実施形態)
本実施形態は、第一の実施形態〜第三の実施形態に記載の検査システム100を用いた血中コレステロールの測定に関する。以下、検査システム100に第三の実施形態に記載のチップ224(図26)を用いる場合を例に、説明をする。
【0190】
チップ224の検出部113〜検出部119のうちのいずれか三箇所に、それぞれ、LDL、HDL、および血中総コレステロールを測定するための測定試薬を付着させておく。残りの一つはブランクデータの取得に用いる。
【0191】
これらのコレステロールを定量するための検出反応は、たとえば酵素法によって行うことができる。検出部115が発色したら、第三の実施形態と同様の手順に従って測定および測定値の送信を行う。本実施形態では、ステップ112において選択する測定対象を血中コレステロールとする。
【0192】
本実施形態に係る検査システムを用いることにより、コレステロールの数値が心配な利用者187や、経過の観察が必要な利用者187が、定期的に医療機関を訪問することなく、自己の血中コレステロールの数値を把握することが可能である。
【0193】
(第六の実施形態)
本実施形態は、第一の実施形態〜第三の実施形態に記載の検査システム100を用いた血液型の判定に関する。以下、第一の実施形態に記載のチップ101(図3)と、第二の実施形態に記載のチップ251(図18)、第三の実施形態に記載のチップ(図26)を参照して説明する。
【0194】
まず図3のチップ101を利用してABO式血液型の「おもて検査」を実施する場合について説明する。「おもて検査」は、血液サンプル中の抗原を検出する検査である。
【0195】
2つの検出部113および検出部115のそれぞれに、凍結乾燥した抗A血清、抗B血清を一種ずつセットしておく。血液サンプルを試料導入部105に導入すると、血液サンプルは毛細管力により流路109を液溜め107方向へと進行する過程で、検出部113および検出部115を満たし、予めセットされていた抗A血清、抗B血清を溶解する。
【0196】
溶解した抗A血清、抗B血清は拡散等によって血液サンプルと混和し、血液サンプル中に、それぞれの抗血清に対する血球抗原(A抗原ないしB抗原)が存在する場合、赤血球を凝集させ沈殿させる。赤血球が凝集して沈殿すると、検出部113および検出部115を透過する光量が増加するので、光学的に検知することができる。
【0197】
抗A血清をセットした検出部113と、抗B血清をセットした検出部115がともに凝集すればAB型の血液、抗A血清をセットした検出部113だけが凝集すればA型の血液、抗B血清をセットした検出部115だけが凝集すればB型の血液、どちらも凝集しなければO型の血液と判定される。
【0198】
さらに測定ミスを防ぐために、対照としてチップ101上の流路群を同じチップ上に複数用意し、一方には血液サンプルを、他方には血液サンプルに代えて、表面にA型抗原またはB型抗原をコートしたラテックスビーズの懸濁液を導入し、ビーズ側でも確かに凝集が起こることをもって、誤判定を防ぐこともできる。
【0199】
次に図18のチップ251を利用して、ABO血液型の「うら検査」を実施する場合について説明する。「うら検査」は、血液サンプル中の抗体を検出する検査である。
【0200】
検出部323を少なくとも3つ用意し、それぞれに、A型抗原をコートしたラテックスビーズの懸濁液、B型抗原をコートしたラテックスビーズの懸濁液、O型抗原をコートしたラテックスビーズの懸濁液をセットしておく。その際、懸濁液の量を検出部323の全容量の半量程度として試料との混和を許す他、懸濁液が流路109に逆流しないよう、分注流路114に液体スイッチを設け、その液体スイッチを開放するためのトリガー流路を上流の流路109から分岐させると良い。液体スイッチの構成は、たとえば、図23を参照して前述した構成とする。
【0201】
血液サンプルを導入口106に導入すると、毛細管効果により流路330を進行するが、第二の実施形態にて図32(A)および図32(B)を参照して説明した効果により、反対側の流路109へは流入しないまま廃液溜め319へ至る。次に、抽出用のバッファー、たとえば、リン酸緩衝生理的食塩水(PBS)をバッファー導入口320に導入すると、微細流路329が開通するが、微細流路329の最大幅を赤血球の最小サイズよりも小さく(たとえば、1.8μm)作ることで、血球は流路330に残り、血漿成分だけが流路109へと抽出される。抽出された血漿成分は、混合部348で一定濃度となった後、流路109を液溜め107方向へと進行しつつ、分注流路114を介して検出部323を満たし、検出部323に予めセットされていたラテックスビーズ懸濁液と混ざる。抽出された血漿中に抗体が存在する場合、それに対する抗原がコートされたラテックスビーズを凝集させ沈殿させるため、上記の血球の場合と同様、光の透過度上昇を元に抗体の存在を検出できる。
【0202】
A型の血液には抗B抗体が、B型の血液には抗A抗体が、O型の血液には抗A抗体と抗B抗体の両方が含まれ、AB型の血液には両方とも含まれていないので、もし、すべての検出部323で凝集がおこらなければAB型の血液、A型抗原ラテックスビーズ懸濁液をセットした検出部323だけが凝集すればB型の血液、B型抗原ラテックスビーズ懸濁液をセットした検出部323だけが凝集すればA型の血液、A型抗原ラテックスビーズ懸濁液とB型抗原ラテックスビーズ懸濁液の両方が凝集すれば、O型の血液と判定できる。
【0203】
次に図26のチップ224を利用して、白血球型(HLA型)を1次判定する場合について説明する。血球型には、A、B、C、Dの4タイプがあり、そぞれ複数のサブタイプを持つ。1次判定は、各抗原タイプに対する抗血清と反応して血液サンプル中の白血球が凝集もしくは破壊される現象を利用して判定する方法である。
【0204】
まず、チップ224の検出部113等に各HALタイプとサブタイプに対する抗血清、またはウサギ補体を凍結乾燥したものをセットしておく。図26のチップ224には、検出部113、検出部115、検出部117、検出部119の4個の検出部が用意されているが、HAL型はそれ以上存在するので適宜追加して検出部の数はサブタイプ分も含めて充分用意されたものとして、以下説明する。
【0205】
チップ224の分離領域245を利用することで、血液サンプル中の血球をその大きさの順序に分けて取り出すことができる。ピラーがパッチ状に形成された分離領域245の場合、血球の中で最も大きな白血球が、最初に分離されて出てくることを利用して血液サンプル中の白血球だけを検出部に導く。
【0206】
分離領域245の具体的構造は、図28に示すようなサイズの大きい成分を早く通過させるタイプのピラーパッチ構造とすることができる。分離領域245は、図28において図の左側が図26における第一の流路241に、右側は第二の流路243と連通した構造となっている。隣接するピラーパッチ321間のパスの幅は、ピラーパッチ321中のピラー325間の間隙よりも大きい。本実施形態では血球を分離するので、ピラー325間の間隙をたとえば100nm〜1000nm程度とし、パスの幅を、ピラー325間の間隙の好ましくは2〜20倍程度、より好ましくは5〜10倍程度とする。図28においてピラーパッチ部分の長さを長くすることで、白血球、赤血球、血小板が流出してくる時間差を大きくすることができる。
【0207】
図26にもどって、処理手順を説明する。まず血液サンプルを試料導入部105に導入し、前処理部231にて液溜め233に保持されたバッファー(たとえばPBS)と混合して2〜10倍程度に希釈したサンプルを、第一の流路241を介して分離領域245へと供給する。その際、液溜め233からバッファーを前処理部231に導くタイミング、および前処理部231から第一の流路241へとサンプルを導くタイミングは、前述した液体スイッチと流路拡張領域を利用することで最適に選ぶことができる。具体的には、液溜め233と前処理部231を接続している流路上と、第一の流路241の前処理部231側(上流側)の部分に液体スイッチを設け、それらの液体スイッチへのトリガー流路は、試料導入部105から、適切な遅延時間を生じるような流路拡張領域を介して供給される構成とすればよい。
【0208】
希釈された血液サンプルが第一の流路241から分離領域245を通過して第二の流路243側へ出現する際、サイズが最大の白血球が最初に出現し、遅れて赤血球、最後に血小板が出現してくる。白血球と赤血球の流出時間の差を利用して、白血球のみが第二の流路243に出現した段階で、液溜め235から第二の流路243にバッファーを供給すると、白血球だけがバッファーと混合されつつ第二の流路243を液溜め107へと流れ、その途中で検出部113に始まる複数の検出部に分注される。液溜め235からバッファーを導入するタイミングは、液溜め235と分離領域245を接続している流路上に液体スイッチを設け、そのトリガー流路は、第一の流路241から、血球の分離速度に応じた最適な遅延時間を持つ流路拡張領域を介して供給する構成によって実現できる。
【0209】
検出部に分注されたバッファーと白血球の混合液は、検出部にセットされていた抗血清を溶解してそれと反応する。白血球が凝集した場合、検出部にセットされていた抗血清に対するタイプの抗原を持つことが、凝集にともなう検出部の光の透過度向上をもとに検知できる。また、抗血清だけでなくウサギ補体を同時にセットしておいた場合は、白血球が破裂溶解して検出部が透明化するので、これを光学的に検出することで抗原の存在を検知してもよい。
【0210】
以上のようにすれば、血液サンプルの血液型検査に必要な検出反応をチップを用いて簡便かつ確実に行い、チップの検出部の光学特性を移動端末127の測定ユニット151を用いて測定することができる。
【0211】
次に、上述した血液型検査チップを利用する検査システムについて説明する。図29は、血液型検査チップを利用する検査システムの構成を示す図である。図29の検査システム211において、検査システム100(図12)と同様の構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0212】
検査システム211では、測定装置129、分析センター153に加え、さらに医療機関213を含む。医療機関213は、送受信部215と、血液管理部217と、ストック状況記憶部219とを含む。医療機関213と分析センター153とは、ネットワーク201を介して接続している。
【0213】
送受信部215は、ネットワーク201を介して分析センター153と通信を行い、また、利用者187の移動端末127との通信を行う。
【0214】
血液管理部217は、医療機関213での輸血に関する情報を管理する。推定処理部179において推定された利用者187の血液型に関する情報に基づき、利用者187に輸血可能な血液のストック状況をストック状況記憶部219から読み出す。読み出した情報を、移動端末127に送信する。また、ネットワーク201を介して、他の医療機関(不図示)から輸血の手配を行い、利用者187を迎える準備をしてもよい。
【0215】
このような構成とすることにより、利用者187が大きな事故やけが等にみまわれ、救急車(不図示)により医療機関213に搬送する必要が生じた際に、最適な医療機関に搬送することができる。
【0216】
なお、移動端末127の利用者187は、負傷した者であっても、かけつけた救急隊員であってもよい。負傷者が利用者187である場合、利用者187自身が測定することが可能であれば自分で測定を行い、測定が困難である場合には、救急隊員が測定を行う。利用者187の移動端末127を用いることにより、負傷者が意識不明等、身元を名乗ることができない状況においても、移動端末127の利用者IDを用いて身元を明らかにし、家族に連絡を取ることが可能である。
【0217】
また、負傷者が移動端末127を所持していない場合には、救急隊員が所持している移動端末127およびチップ193を用いて負傷部の血液の測定を行い、負傷者の血液型を判定してもよい。
【0218】
また、本実施形態では、推定処理部179での推定結果を医療機関213に送信し、これを受信した医療機関213が適合する血液のストック状況を移動端末127に送信することにより、救急隊員は最適な医療機関213を選択し、利用者187を迅速に搬送することができる。
【0219】
なお、図29の検査システム211は、本実施形態だけでなく、他の実施形態にも適用することが可能であり、検査システム211に適用されるチップの構成も、上記いずれかの実施形態に記載の構成を任意に選択することが可能である。
【0220】
(第七の実施形態)
本実施形態は、第一〜第三の実施形態に記載の検査システムを用いたストレスレベルの判定に関する。
【0221】
ストレスレベルの判定は、唾液中のカテコールアミン濃度を検出することにより行うことができる。カテコールアミンの検出には、たとえばルミノール型の化学発光試薬等を用いることができる。
【0222】
本実施形態において、推定処理部179は利用者187のストレスレベルを判定し、ストレスレベルが低い場合、利用者187に注意をうながす。
【0223】
また、図30は、本実施形態に係る検査システムの別の構成を示す図である。図30の検査システム209において、検査システム100(図1)と同様の構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0224】
検査システム209では、測定装置129、分析センター153に加え、さらに管理会社199を含む。管理会社199は、たとえば、原子力発電所、鉱山、炭坑、監視業務等、作業者のストレスレベルの維持が重要な業務に従事する利用者187の要員配置を管理する。管理会社199は、送受信部203と、要員配置管理部205と、配置情報記憶部207とを含む。管理会社199と分析センター153とは、ネットワーク201を介して接続している。
【0225】
送受信部203は、ネットワーク201を介して分析センター153と通信を行い、また、利用者187の移動端末127との通信を行う。
【0226】
要員配置管理部205は、利用者187の作業スケジュールを管理する。推定処理部179での推定結果に基づき、利用者187の要員配置の変更等を行う。その際、配置情報記憶部207に格納された要員配置配置に関する情報を参照し、また、これを変更する際には新たな配置を配置情報記憶部207に記憶させる。
【0227】
また、要員配置管理部205で設定された要員配置の変更は、送受信部203から利用者187の移動端末127に送信され、表示部145に提示される。代替要員を作業現場に派遣する際には、利用者情報記憶部175またはエリア情報記憶部177に記憶されている交代させる作業者のエリア情報に基づき、交代が容易な者を派遣する。
【0228】
このような構成とすることにより、作業者のストレスレベルの維持が重要な業務において、要員配置の最適化が可能となる。このため、作業の安全性が好適に維持される。
【0229】
なお、図30の検査システム209は、本実施形態だけでなく、本発明に係る他の実施形態にも適用することが可能であり、検査システム209に適用されるチップの構成も、上記いずれかの実施形態に記載の構成を任意に選択することが可能である。
【0230】
(第八の実施形態)
本実施形態は、第一の実施形態に記載の検査システム100(図1)に適用可能なチップの他の構成に関する。本実施形態に記載のチップは、移動端末127における測定後、チップを中和する構成となっている。
【0231】
測定に用いたチップの内部には、試料に由来する細菌などの感染源や、測定試薬に由来する強酸やシアン化合物などの毒物が保持されている場合がある。このような場合、使用後のチップを中和し、また必要に応じて無毒化しておけば、健康被害等が生じる可能性をさらに確実に回避し、より一層安全に持ち運べ、安全に廃棄できる。具体的には、測定後、中和液をチップ内の流路に充填することにより、チップ内に保持された感染源や毒物を中和する構成等とする。
【0232】
中和液としては、たとえば、細菌に対しては、中性洗剤や次亜塩素酸ナトリウムの希薄水溶液が挙げられる。また、強酸に対しては、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ水溶液等が挙げられる。また、シアン化合物に対しては、シアン化合物を酸化分解するアルカリ性次亜塩素酸ナトリウム水溶液(pH8〜9)等を挙げることができる。特に、微量の界面活性剤を含むアルカリ性次亜塩素酸ナトリウム水溶液は、感染源、酸、シアンのいずれにも有効であるため、好ましく用いることができる。
【0233】
図40(A)は、中和機構を備えるチップの構成を示す平面図である。また、図40(B)は図40(A)の断面図である。図40(A)および図40(B)に示したチップは、中和液溜め902、隔膜905、空気穴904、針911および空気穴909を有するチップ上板900と、中和液流路903空気穴909を有するチップ中板912と、検出槽906、検出用流路907などの分析用流路系、および廃液溜め910を有するチップ下板901とが接合されてなる。空気穴909は、チップ上板900およびチップ中板912を貫通し、廃液溜め910に連通している。図40(A)および図40(B)に示したチップは、チップ上板900、チップ中板912、およびチップ下板901をそれぞれ成形し、張り合わせることにより得られる。
【0234】
隔膜905は、チップ上板900とチップ中板912との間に設けられ、中和液溜め902を中和液流路903から離隔している。中和液溜め902の上面は薄く、チップ上板900側から使用者が中和液溜め902の上面を押すと変形するように構成される。中和液溜め902の上面の変形により、上面に固定されていた針911が隔膜905に穿刺され、隔膜905に穴ができる。
【0235】
中和液流路903は、検出槽906、検出用流路907などの分析用流路系に少なくとも一箇所で連通している。中和液流路903の一端は、隔膜905の下方において拡径しており、拡径部908となっている。拡径部908の上部に針911が位置している。検出用流路907は廃液溜め910と連通している。中和液溜め902には、前述した中和液が収容されており、その水面は、分析用流路系および廃液溜め910の上面よりも高い位置に保持されている。
【0236】
チップ内を中和する際には、利用者は、使用前はシール等でふさがれている空気穴904および空気穴909を開放し、中和液溜め902の上面から隔膜905に向かって針911を押しつけ、隔膜905の一部に穴を開ける。すると、中和液が毛細管効果と水位差によって中和液流路903に流入し、中和液流路903を介して、検出槽906および検出用流路907を含む分析用流路系を満たしてゆく。その結果、分析用流路内に残っていた感染源や有毒な液体が廃液溜め910へと押し流されてゆき、廃液溜め910の中で中和される。この構成により、測定後のチップを簡便に中和することができる。中和により、チップの流路系を簡便に消毒したり、無毒化したりすることができる。
【0237】
また上述した構成では、利用者が中和を忘れる可能性がある。この懸念を避けるために、移動端末の側の構造を工夫することで、測定終了後、チップ取り外す際に、中和液溜め902の上面を押さざるを得ない構成とすることもできる。
【0238】
たとえば、図40(A)および図40(B)に示した中和液溜め902を有するチップと移動端末とは、測定の終了したチップを移動端末から離脱させることをきっかけとして、中和液溜め902に保持されていた中和液が、中和液流路903を経由して検出用流路907および検出槽906に導入される機構をさらに有してもよい。
【0239】
具体的には、移動端末のチップ装着部分に、チップが抜去できないようにチップを下側から保持する可動式のかぎ爪と、チップの少なくとも中和液溜め902の上面部分を覆う「ひさし」部を設ける。図45(A)〜図45(C)は、こうした構成の移動端末およびチップの構成を示す図である。図45(A)では、「ひさし」部を移動端末の裏面に設けた構成を例示した断面図であり、図45(B)および図45(C)は断面図である。移動端末の裏面は、たとえば図4に示した移動端末の機能ボタン群143が設けられた面の裏面とすることができる。図40(A)、図45(A)および図45(A)〜図45(C)を参照すると「ひさし」部は、かぎ爪を保持する板と側面で結合されている(図45(B))。「ひさし」部とかぎ爪を保持する板とは、弾性変形可能な樹脂、あるいは金属で構成され、「ひさし」部を押し下げると、かぎ爪を保持する板も同時に変形してかぎ爪が移動端末の内部に収納されるような構造になっている(図45(C))。
【0240】
「ひさし」部のチップの中和液溜め902の上面に対応する位置には、曲面を有する突起が設けられており、「ひさし」部を押し下げると、突起が中和液溜め902の上面を押し変形させる。このとき、針911が隔膜905に押しつけられるため、隔膜905に穴があく。突起はチップを挟んでいるが、球面の一部のようななだらかな形状をしているため、かぎ爪を押し下げたままの状態でもチップを抜去することができる。以上の構成により、利用者はチップを抜去する際、必ず「ひさし」部を押し下げて、その下にある中和液溜め902の上面を押さねばならないようにすることができる。
【0241】
なお、拡径部908からトリガー流路を分岐させ、このトリガー流路が液体スイッチを介して中和液流路903の所定の位置に接続している構成とすることもできる。こうすれば、検出槽906から中和液流路903に向かって液体が逆流することを抑制できる。
【0242】
また、本実施形態において、中和機構を有するチップは、PMMAなどの樹脂材料からなるチップ上板900および、チップ下板901に所望の流路系を構成した後、これらを張り合わせることで製造できるが、チップの構造は、チップ上板900、チップ下板901を持つ構造に限定されるものではない。また、中和液溜め902から廃液溜め910への中和液の送液に、毛細管効果と水位差を利用したが、空気穴904を設けず、予め中和液溜め902内に大気圧よりも高い圧力のガスを保持しておき、その圧力を利用して中和液を送ることもできる。また、外付けの送液手段を用いて中和液を送ることもできる。
【0243】
また、図40(A)および図40(B)に示したチップの検出用流路907に図9を用いて前述した検出方法を適用し、各検出槽906に連通する検出用流路907の分注領域を図9における検出部113または検出部115として用いてもよい。
【0244】
(第九の実施形態)
本実施形態は、第一の実施形態に記載の検査システム100(図1)に適用可能な測定装置129の別の構成に関する。分析チップにおいて、吸光または散乱をもとに所定の物質の濃度を測定しようとする場合、試料中を通過する光路が適切な長さを持つ必要があるため、微量な試料を分析する場合、流路の伸長方向に光を透過させて測定する方法がある。この場合、試料が微量でも流路の断面積が少ないため、5mm〜1cm程度の大きな光路長を確保できる。しかしながら、流路断面の幅が数百μm〜数十μm程度と小さい場合、照射光を流路に確実に入射し、流路の反対側から透過光を確実に受光部に導くには精密な位置あわせが必要となる。このため、測定時間の短縮や、測定データの再現性の向上の点で、さらに改善の余地を残す。
【0245】
本実施形態の測定装置は、このような場合にも好適に用いることができる。本実施形態では、チップの対向する側面に凹部を設け、移動端末のチップ挿入部内に、チップの凹部に係合する二つの凸部を設ける。チップを装着する移動端末部分とを、形状が符合する凸凹に加工しておくことで、位置あわせをより一層簡便に実施できる。また、移動端末の二つの凸部の一方に光源からの光を導き、他方に受光部、もしくは受光部への導波路を設ける。そして、チップの検出用流路を介して光源と受光部とが対向するように、チップの検出用流路を形成する。これにより、測定時の光路長をさらに大きくし、また、測定を安定的に行うことができる。
【0246】
図41および図42は、本実施形態に係る測定装置を示す斜視図である。図41および図42に示した測定装置は、チップ700および移動端末706からなる。図41は、チップ700を移動端末706の所定の位置に挿入する前の状態を示し、図42は、チップ700が移動端末706に挿入されている状態を示す。なお、図41および図42では、移動端末706のチップ700が装着される領域とその近傍を示したが、移動端末706には、たとえば以上の実施形態に記載の移動端末127の構成を適用することができる。
【0247】
チップ700は、矩形に曲がった流路701を有し、流路701の直線部分は、十分薄くて透明な隔壁を介して切欠部702と接している。また、移動端末706は、凹状の装着部704を有する。チップ700を移動端末706に装着すると、装着部704に設けられた照射部703と受光部705とが切欠部702にはまり込み、これらの係合によりチップ700が移動端末706に係止、固定される。
【0248】
照射部703および受光部705は、バネなどの弾性部材を介して装着部704に対向して固定されており、軸方向にスライド可能である。照射部703は、移動端末706の内部からチップ700へと測定光を導く光ファイバの先端、またはLEDなどの光源を摩耗しにくい樹脂等の材料で被覆し略円錐台形状に加工したものである。照射部703の先端から測定光がチップ700の流路701に照射される。受光部705は、流路701からの光を移動端末706の測定部へ導く光ファイバの先端、またはフォトダイオードを摩耗しにくい樹脂等の材料で被覆し略台形に加工したものであり、流路701の延在方向に沿って流路701中を通過した光が、受光部705の先端へと出射する。
【0249】
図41に示したように、装着部704にチップ700を図中矢印の方向から押し込むと、照射部703および受光部705は、チップ700の側面に押されて、一時的に装着部704の側から移動端末706の内部側へと押し込まれるが、チップ700の切欠部702に到達すると弾性材によって飛び出し、図42に示したように、照射部703および受光部705が切欠部702にはまり込む。この状態で計測した後、チップ700を図41中の矢印と逆の方向に引くと、照射部703と受光部705は、切欠部702の側壁で押されることにより、再度、移動端末706の内部に押し込まれ、チップ700を移動端末706から引き抜くことができる。
【0250】
図41および図42に示した構成の測定装置を用いることにより、チップ700と移動端末706との位置あわせを短時間でさらに確実に行うことができる。このため、測定時間を短縮することができる。また、測定データの再現性を向上させることができる。
【0251】
(第十の実施形態)
本実施形態は、第一の実施形態に記載の検査システム100(図1)に適用可能な測定装置129の他の構成に関する。本実施形態に記載の測定装置においては、チップが流路状の検出部を有し、移動端末においてチップの検出部の長さの計測が可能である。
【0252】
ガス検知管のように、濃度に応じて変色部分が長くなるような検出部を有する場合、目視にて変色部分の長さを読むことも可能であるが、人によって読み方にばらつきが出るという懸念がある。本発明の測定装置によれば、移動端末に長さを計測する光学機構が設けられているため、このような場合にも、測定結果のばらつきを低減することができる。
【0253】
図43は、変色部分の長さを計測するための機構を示す断面図である。図43に示した測定装置において、移動端末は、基板607と、基板607上に、チップ挿入時にチップの流路方向に沿うように配置されたフォトダイオードなどの受光素子606と、受光素子606の直上に設けられた透明で摩耗しにくいクリスタルガラスなどの材料からなる接触部605と、を備える。また、移動端末の他の部材の構成は、以上の実施形態に記載の移動端末127の構成とすることができる。
【0254】
また、図43に示した測定装置において、チップは、チップフタ600と、チップ底板601と、光導波路602と、分析用流路603とを備える。少なくともチップ底板601と分析用流路603は、たとえばPMMA等の透明な樹脂やガラスなどの透明な材料からなる。また、分析用流路603の一部には着色した内容物604が流れてくる。
【0255】
測定の際には、着色した内容物604が分析用流路603内に存在している状態で、チップを、移動端末の接触部605に、図示した位置関係で接触させる。光導波路602に光を照射すると、光導波路602から漏出した光が分析用流路603を全体的に照明する。この照明が、分析用流路603の内容を透過して、受光素子606に届く。このとき、分析用流路603の延在方向に沿って複数の受光素子606が一列に並んで設けられているため、着色した内容物604が存在している領域の直下に位置する受光素子606には、そうでない領域の直下に位置する受光素子606に比べて少ない光量しか到達しない。
【0256】
一列に並んで設けられた受光素子606に順に番号を付しておき、この光量の差を分析用流路603の長手方向に対してモニターすることで、充分な光量しか受けていない受光素子の番号として、着色した内容物604の長さを定量することができる。このため、試料中の所定の成分の濃度を着色した内容物604の長さとして、所定の成分の定量を行うことができるので、人による測定結果のばらつきを防ぐことができる。
【0257】
(第十一の実施形態)
以上の実施形態に記載の検査システムにおいて、移動端末127は、着脱式センサをさらに有する構成とすることもできる。以下、移動端末127が携帯電話である場合を例に説明する。
【0258】
図34は本実施形態に係る着脱式センサつき移動端末の構成を示す図である。図34に示した移動端末は、本体500、本体500から突出したロッド501、およびロッド501の先端部に設けられたセンサユニット502からなる。センサユニット502を試料に浸漬することにより、試料中の所定の成分を測定または検出できる。たとえば尿等の体液が試料として試験管やビーカー等に保持されている場合、移動端末をこのような形状とすることで、簡便に測定を行うことができる。本体500の基本構成は、たとえば第一の実施形態において前述した移動端末127の構成とすることができる。
【0259】
センサユニット502は、ロッド501の先に装着され移動端末の内部の測定装置に接続されている。センサユニット502は、イオン濃度もしくはグルコース濃度などを測定する電気化学センサ、または図35を参照して後述する構成等の光ファイバを利用した光学的センサである。電気化学的センサの場合、センサユニット502は電極を介して移動端末の内部の測定装置に接続される。
【0260】
光学的センサの場合、センサユニット502は、光コネクタを介して移動端末127に接続される。図35は、着脱式光学センサの構成の一例を示す図である。なお、図35のE−E’方向は、図34のE−E’方向に対応する。光学センサは、複数の光ファイバコア513を保持する外筒510と、外筒510の先端に設けられた毛細管セル512と、光ファイバコアからの光をロッド501中の光学系に接続する光コネクタ511とからなる。ロッド501中の光学系は、光源および受光部を備える。
【0261】
外筒510の材料は、光ファイバコア513に対してほぼ全反射するようなクラッド材料とする。このセンサユニット502の先端を試料に浸漬すると、毛細管効果により試料が毛細管セル512内に進入する。毛細管セル512のロッド501側端部の側方に対向して設けられた一対の光ファイバコア513の一方を介して光源からの光を照射し、他方を介して測光することにより、毛細管セル512内部に浸入した試料の吸光または散乱等が測定できる。
【0262】
なお、図34および図35において、センサユニット502は、センサ部分の時候劣化を考慮すると、ロッド501に対して着脱可能な構成とすることが好ましいが、固定式としてもよい。また、ロッド501は、携帯時には移動端末の内部へ引き込まれ、測定に用いる際に引き出して利用する構成とすることができる。このようにすると、携帯時の移動端末全体の小型化が可能であり、ロッド501が携帯の際にじゃまにならず、利便性をさらに向上させることができる。
【0263】
また、本実施形態において、試料が付着した部分の洗浄が可能な構成とすることもできる。たとえば、図34または図35に示した移動端末は、さらにセンサユニット502を洗浄する機構を有することもできる。洗浄機構を設けることにより、試料で汚れることの多いセンサユニット502を、測定前または測定後に洗浄することができるので、さらに正確な測定データが得られる。また、移動端末をより一層衛生的に携帯し、持ち運ぶことができる。
【0264】
図36は、洗浄機構を有する移動端末の構成の一例を示す図である。また、図37は、図36に示した移動端末のロッド501の端部近傍の構成を示すF−F’断面図である。図36および図37に示した移動端末は、図34に示した移動端末において、本体500にさらに洗浄液カセット507、洗浄用流路505、制御機構506が内蔵されている。
【0265】
ロッド501の内部に洗浄用流路508が設けられている。洗浄用流路508は、制御機構506を介して洗浄液カセット507と連通している。洗浄液カセット507には、たとえば希薄な中性洗剤または次亜塩素酸を含む洗浄液と圧縮炭酸ガスなどの膨張剤とが収容されている。制御機構506を押すなどして洗浄用流路505が開通すると、洗浄液は洗浄用流路505とロッド501内の洗浄用流路508とをこの順に移動して、自動的にロッド501の先端付近から吹き出し、センサユニット502を洗浄する。
【0266】
ロッド501の先端付近には、センサユニット502に向かって拡径するフード504が設けられているため、洗浄液の飛散を抑制しつつセンサユニット502を効率よく洗浄できる。また、フード504をロッド501の延在方向に沿ってスライド可能とすることにより、洗浄時にセンサユニット502を覆う状態にすることもできる。こうすれば、センサユニット502をさらに効率よく洗浄できる。ロッド501およびフード504の材料は、化学薬品耐性のあるテフロン(登録商標)等の樹脂とすることができる。こうすれば、ロッド501およびフード504の劣化を抑制し、長期間使用することができる。
【0267】
洗浄液カセット507は、本体500に対して着脱可能なカートリッジとすることができる。こうすれば、洗浄液カセット507中の洗浄液および膨張剤が不足した際に、洗浄液カセット507を本体500から取り外し、新しい洗浄液カセット507に交換することで、洗浄液および膨張剤を補充できる構造になっている。
【0268】
以上、本発明を実施形態に基づき説明した。これらの実施形態は例示であり、様々な変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0269】
たとえば、以上の実施形態においては、測定装置129に適用する移動端末127として携帯電話を用いる場合を例に説明をしたが、測定装置129に用いる移動端末127は携帯電話には限定されず、たとえば携帯用コンピュータ等としてもよい。
【0270】
また、分析センター153は、利用者187が移動端末127を用いて行った測定の位置または時間に関する状況に応じて、各利用者187の分析結果を補正することができる。たとえば、血中コルチゾールなどの副腎皮質ホルモンや、成長ホルモンなどの下垂体ホルモンは、一日の中で時刻により測定値に高低が生じるため、これを測定時間に応じて補正することができる。また、測定値の気温に応じて測定値が変動する項目を測定する場合、測定位置の気温に関する情報を別途取得し、これに応じて測定値を補正した後、分析を行うこともできる。また、利用者情報記憶部175に記憶された利用者187ごとの過去の測定結果または分析結果に基づき、分析情報記憶部169に記憶された情報を利用者187ごとに補正して分析を行ってもよい。
【0271】
また、以上の実施形態においては、チップに設けられている検出部の形状が主として円柱形である場合を例示したが、これらは内容物の分析(検出または測定)を行うような形状であればよく、円柱形に限られず適宜選択することができる。たとえば、検出部の形状を、四角柱等の角柱とすることができる。また、検出部は憩室状でなくてもよく、たとえば図9を参照して前述したように、流路状としてもよい。
【0272】
また、以上においては、検出槽以外のチップに設けられている他の液溜め、たとえば図3に示したチップの場合試料導入部105や液溜め107についても、それぞれの液溜めに導入または回収される液体を保持するのに充分な体積が確保されていればよく、円柱以外の形状とすることができる。チップに設ける液溜めの形状は、たとえば、四角柱等の角柱や、所定の平面形状の流路状とすることができる。また、廃液溜めとして機能する液溜めの形状をたとえば平面視においてジグザグ型の流路状としたり、内面に凹凸が形成された柱状とすることもできる。こうすれば、廃液溜めの表面積を増加させることができるので、毛細管効果をさらに向上させ、廃液をさらに確実に回収可能な構成とすることができる。
【0273】
また、以上の実施形態においては、移動端末127にチップ挿入部131または切欠部132が形成された構成としたがチップ101をチップ挿入部131または切欠部132に挿入せずに測定する態様としてもよい。このような測定として、たとえば下記(I)または(II)の態様が可能である。
【0274】
(I)非接触測定
チップ101をチップ挿入部131または切欠部132に挿入せず、非接触による測定を行うことができる。非接触での測定とすることにより、移動端末127への試薬の付着等による汚染を確実に抑制することができる。また、測定可能なチップ101の形態の自由度を高め、移動端末127を汎用化することができる。
【0275】
非接触での測定として、具体的には、たとえばPOS端末タイプのスキャンが可能である。この場合、移動端末127に、小型のPOSスキャン装置を搭載しておく。このスキャン装置によって、単一波長あるいは数波長のレーザーパルスをチップ101に設けられた複数の検出槽に順次照射する。スキャンした際の各検出槽での反射パルス光の強さを計測することにより、各検出槽についての測定が可能となる。
【0276】
また、チップ101で光を反射させ、反射光の強さを測定することもできる。たとえば、検出部の底面に金属蒸着などの方法により鏡面を設けることができる。また、チップ101の底面全面を鏡面としてもよい。鏡面を設けることにより、光路長を増加させることができるため、より正確な測定値を得ることができる。
【0277】
また、チップ101に、バーコード上の位置決め用ターゲットを設けてもよい。こうすると、多数の検出槽について測定を行う場合にも、ターゲット間の位置関係からどの検出槽についての測定値であるかを容易に判定することができる。
【0278】
(II)移動端末に接続可能な測定用アタッチメントの利用
移動端末127に接続可能な測定用のアタッチメントを別途設けることにより、チップ101を直接チップ挿入部131または切欠部132に挿入せずに測定することができる。アダプターを介して測定することにより、チップ101の形態の自由度を増すことができる。また、移動端末127の汚染を防止することができる。また、移動端末127自体の構造を簡素化することができる。また、アタッチメントの種類の選択が可能となるため、測定方法の自由度を増加させることができる。
【0279】
具体的には、移動端末127上にCCDカメラによる測定のためのアタッチメントを設けてもよい。この場合、チップ101およびカメラの距離と位置とを固定するための固定具を介して、チップ101の検出槽付近を撮影する。アタッチメントに相当する固定具は、折りたたみ式等とすることにより、小型化することができる。
【0280】
測定の際には、固定具の底面にチップ101を設置し、固定具の上面の所定位置に移動端末127を設置し、固定する。このとき、移動端末127に設けられたCCDカメラを下に向けて設置する。シャッターボタンを押して撮影後、画像処理により、RBG各色の強さから、各検出部における発色の強さを推定することができる。
【0281】
また、移動端末に接続して用いる測定用アタッチメントは、たとえばUSB、RS232C、GPIB、またはパラレルI/O等のインターフェイスを経由して移動端末に接続される構成とすることができる。こうすれば、移動端末の汚染をさらに確実に抑制し、また、移動端末と測定用アタッチメントをより一層確実に接続することができる。
【0282】
また、チップ101が電子チップを有していてもよい。電子チップを有するチップ101と移動端末127を用いることにより、測定装置129および検査システム100にたとえば以下の機能をさらに付与することが可能となる。
(i)非接触化
(ii)個人認証の利用
(iii)位置情報の利用
(iv)チップ自体のIDの利用
(v)チップの有効期限の保障
(vi)移動端末からカスタムチップ仕様の選択
(vii)移動端末とオンライン発注の組み合わせ
(viii)測定後、ID情報を読みとり不能にするトリガーを出力する機能
以下、これらについて順に説明する。
【0283】
(i)非接触化
電子チップを有するチップ101を用いると、チップ101を移動端末127に挿入することなく非接触で測定することが可能となる。このため、移動端末127にチップ挿入部131または切欠部132が形成されていなくても測定が可能となる。
【0284】
この場合、チップ101自体が測定部を有する構成とする。図13は、このようなチップ101の構成を示す図である。図13のチップでは、電子チップに設けられた通信部で移動端末127との間の情報の送受信が可能である。また、電子チップは、通信部で受信した情報に基づき、測定部での測定条件を制御する制御部を有する。この構成では、測定データを通信部から移動端末127に送信することができる。送信は、たとえば無線信号とすることができる。また、この構成によれば、移動端末127の装置構成を簡素化することができるため、測定装置129をさらに効率よく生産することができる。
【0285】
(ii)個人認証の利用
チップ101が電子チップを有する構成とすることにより、チップ101の使用者を特定の個人に限定したり、測定データの使用を特定の個人に限定したりすることができる。このため、チップ101の使用者のプライバシーの保護を強化することができる。たとえば、廃棄したチップ101からは他人がデータを読み出せないような構成としたり、電子チップをオンラインで課金するための一手段として利用したり、オンラインでチップ101を注文すると、使用者の個人情報が書きこまれたチップ101が使用者に届き、そのチップ101の情報が移動端末127が保持する個人情報と一致した時にのみ使用可能となる構成としたりすることができる。
【0286】
(iii)位置情報の利用
電子チップを有するチップ101が、限られた範囲において受信可能な弱い電波を発する構成とすることにより、移動端末127には自身の位置情報を送信する機能がない場合にも、チップ101の位置情報を移動端末127の位置に関する情報として送信することが可能となる。
【0287】
(iv)チップ自体のIDの利用
電子チップを有するチップ101を用いると、利用者によるチップ101の誤使用を防止することができる。たとえば、個人利用者がオンラインで肝機能検査用のチップ101を注文した場合、移動端末127に注文に関する情報を記録する構成とすることができる。こうすれば、肝機能検査以外に用いるチップ101、たとえば腎機能検査用のチップ101が誤って届いた場合にも、移動端末127に記録されたチップ101の種類に関する情報と、チップ101のIDすなわち腎機能検査用のチップであるなどの情報が異なる場合には測定できない構成とすることができる。
【0288】
(v)チップの有効期限保障
チップ101の有効使用期限は、通常、チップ101の表面に文字印刷されるが、必ずしも利用者によりチェックされない場合がある。そこで、使用期限確認のヒューマンエラーを防ぐために電子チップを利用することができる。たとえば、チップ101上にタイマー用の電子チップを設けておくことができる。また、製造年月日を移動端末127で読み取れる形式、たとえばバーコードや磁気テープなどで記録しておくこともできる。
【0289】
(vi)移動端末からカスタムチップ仕様の選択
電子チップを有するチップ101を用いることにより、汎用タイプのデザインのチップ101を準備しておき、発注に応じてカスタマイズして用いることが可能となる。たとえば、オンラインで発注したチップ101の種類に関する情報、たとえば肝機能測定用のチップ等が移動端末127に記録され、その種類に関するデータにしたがってその場でチップ101の仕様を変更し、特定の項目を測定する肝機能測定用のチップにカスタマイズして用いることができる。
【0290】
図31は、このようなチップ101の構成の一例を示す図である。図31のチップ101は、電子チップと調節部を有する。電子チップは、移動端末127との間で情報の送受信を行う通信部と、チップ101に導入された試料の移動経路を制御する弁制御部を有する。チップ101において、試料の移動経路には、試料の移動の可否を調節可能な調節部が設けられている。調節部は、たとえば流路に設けられた開閉可能な弁とすることができる。弁制御部は、通信部から受信した情報に基づき、調節部の弁の開閉を制御することができる。こうすれば、試料の種類やチップの種類、測定対象等に関する情報に応じて、チップ中での試料の移動経路のカスタマイズが可能となる。
【0291】
チップのカスタマイズ処理の流れは、たとえば、以下のようにすることができる。オンラインでの発注後、チップ101の種類に関する情報を移動端末127に記録する。そして、チップ101の種類に関する情報を移動端末127でチップ101上に設けられた弁のON/OFFパターンデータに変換し、そのパターンデータをチップ101に送信すると、チップ101に設けられた電子チップがそのパターンに応じてチップ上の弁を開閉する。こうしてカスタマイズされたチップが完成し、使用可能となる。また、チップ101の種類に関する情報すなわち移動端末127に記録された情報とチップ101上の情報に応じて、これらの間で測定データの授受をする構成としてもよい。
【0292】
なお、カスタマイズ可能なチップ101のデザインとして、たとえば電気的弁装置の利用が挙げられる。この弁装置は、電極間に一時的に電流を流して流路中の溶液を電気分解して気泡を発生させる構成である。発生した気泡は、流路が狭いためにその部分に留まり、流路を閉鎖する。一度発生した気泡はすぐには消失しないため、所定の流路を不可逆的に閉塞することができる。
【0293】
(vii)移動端末とオンライン発注の組み合わせ
利用者がチップ101と移動端末127を用いて直接オンライン発注を行う場合、発注記録を移動端末127に記憶させることができる。一方、発注を固定端末から行った場合には、発注した情報が移動端末127に転送されることが好ましい。チップ101に電子チップを埋め込むことにより、そのチップ101の発注に関する情報を移動端末127側に自動的に転送されるよう処理を含むシステムとすることができる。
【0294】
(viii)測定後、ID情報を読みとり不能にするトリガーを出力する機能
移動端末127に用いられるチップ101に、無線タグを含む電子チップが実装されている場合、利用者やチップ101のIDを含む情報が保持されたまま廃棄されると、プライバシー情報保護の観点で好ましくない場合がある。このような場合、移動端末127が、チップ101の廃棄に際して、チップ101が電子情報として保持しているID等の認証データに関する情報を読みとり不能にするタイミングを決める「無効化トリガー」を発生する構成とすることができる。チップ101を移動端末127から取り外す際に無効化トリガーを発生する構成とすることにより、第三者にID情報を読みとられる危険性を低減し、チップ101を安全に廃棄できる。このため、プライバシー情報をより一層確実に保護することができる。
【0295】
たとえば、電子チップを有するチップが認証データを記録する部分を有しており、移動端末127は、測定の終了したチップ101を移動端末127から離脱させることをきっかけとして、認証データを読みとり不能にせしめる機構をさらに有してもよい。
【0296】
図38は、無効化トリガーを発生する移動端末800の構成を示す図である。図38に示した移動端末800の基本構成は第一の実施形態において前述した移動端末127の構成とすることができる。また、図38に示した移動端末800は、チップ801が装着される凹状の装着部802に無効化凸部803を有する。移動端末800にチップ801を装着すると、無効化凸部803が、チップ801に設けられた無効化凹部805に挿入される。
【0297】
無効化凹部805内には、ID情報の消去に関わる電気回路を開閉するスイッチ804が突出しており、無効化凸部803が挿入されると、スイッチ804がチップ801の内部に押し込まれる。スイッチ804が押し込まれた状態で所定の測定を行い、測定終了後、チップ801を装着部802から離脱させると、スイッチ804を押し込んでいた無効化凸部803が離れる。このことが無効化トリガーとなり、ID情報の消去に関わる電気回路を開通あるいは遮断し、ID情報の読みとりを不能とする。
【0298】
電気回路の開通、あるいは遮断によって読みとり不能にする方法には、たとえば、ヒューズを利用する方法がある。この方法では、チップ801内に実装されたID情報を保持し、それを外部に提示するために設けられた電気回路の一部をヒューズを用いて断線させることで機能しないようにする。該電気回路を構成するいずれかの導線に直列にヒューズを設け、該ヒューズに過大な電流を流して断線させるための電源を用意し、該電源と該ヒューズで構成される直列回路の途中にスイッチ804が位置する構成とする。
【0299】
スイッチ804が導通すると、該電源とヒューズが導通し、ヒューズが断線する。該電源は、チップ801の内部に設置してもよく、移動端末に設置し、電極を介してチップ801に電流を供給する構成としてもよい。後者の場合、チップが完全に移動端末から外れると、電流の供給ができないので、チップ801に電流を供給する電極は、チップ801が無効化凸部803から完全に離れるまでの間、接触した状態を保つよう変形可能な電極、たとえば、バネ式の電極とする。
【0300】
図39は、図38に示した移動端末800において、無効化トリガーが発生するタイミングを示したタイムチャートの図である。図39においては、スイッチ804として、チップ801内部に押し込まれた状態から無効化凹部805側に開放された状態へ移る際に電気的接続または遮断を生じる型のスイッチが利用されている。
【0301】
また、チップを移動端末から遠ざけることによる無効化する構成とすることもできる。たとえば、ID情報が無線で提示される場合、移動端末がチップから無線送信されるデータを受信し終わったことをきっかけとして、ID情報を読みとれなくすることができる。そのためには移動端末は、チップからの測定データを受信完了した後、測定チップに対して無効化信号を送り、チップは、無効化信号を受信した場合に、チップ内の前記電気回路を無効化する構成とすることができる。
【0302】
無効化は、たとえば、チップがロジック回路を有し、移動端末から無効化信号を受信した場合に、前記電気回路上に設けられた低容量のヒューズに、チップが保持する電源から過大な電流を流して断線させること、あるいは、移動端末から過大な電波を放射することで、チップのアンテナから過大な電流が前記電気回路に流れ、ヒューズを断線させることなど、などで実現できる。
【0303】
また、以上の実施形態において、移動端末がチップの廃棄に都合のよい着脱と交換が可能なポケットを有する構成とすることができる。チップをその場に廃棄することは環境保護の観点から困難な場合が多いため、使用済みのチップを持ち帰ることになることが考えられる。このような場合に、使用後のチップを収納するチップ収納部を有する移動端末を用いることにより、使用済みのチップを移動端末と一体の状態で携帯または運搬することが可能となる。このため、携帯時および持ち運び時の利便性を向上することができる。
【0304】
図44は、チップ収納部を有する移動端末の構成の一例を示す図である。図44は、チップ収納部として、使用済みチップを入れるポケットを有する移動端末の構成を示す断面図である。図44に示した移動端末は、着脱可能なチップポケットを備える。チップポケットの移動端末からの着脱は、移動端末に設けられたスライド式ポケットホルダーに沿ってチップポケットをスライドさせることにより行われる。チップポケットにはバネ式フタが設けられている。バネ式フタを開き、使用後のチップをチップポケット内に収容すると、バネ式フタが閉まるためチップはポケット内に保持される。
【0305】
また、以上の実施形態において、測定部を有する移動端末のチップ挿入部分に、不使用時の塵芥の混入を防止する被覆を設けてもよい。たとえば、図4におけるチップ挿入部131や、図11における切欠部132の上部に、塵芥を排除するためのフタを設けることができる。フタとしては、たとえばスライド式のフタを設け、測定の際にはフタをスライドさせてチップ挿入部131または切欠部132を露出させ、チップを挿入する構成とすることができる。また、スライド式以外のフタに代えて、バネ式のハネフタを設けることもできる。また、移動端末の切欠部に、差し込み式のフタ用ダミーチップが挿入されている構成としてもよい。
【0306】
また、以上の実施形態において、電極を有するチップに対する電気的特性の計測装置を移動端末に設けてもよい。たとえば、電気的特性として電気抵抗を計測する場合、チップの表面と装着部とに電極を配置する構成とすることができる。このようにすれば、試料中の特定の成分に関する測定を、電気的特性の変化を用いて行うことが可能となる。このため、測定可能な試料の種類を増加させることができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人々の間で、データに基づいた健康管理への関心が高まっている。また、継続的に生体データを取得し、健康状態をチェックする必要のある人がいる。従来、このような人が検査機関を訪れて検査を受けるのは、時間および費用の面で制約があり、多忙な人ほど検査を受ける機会が限られていた。このため、検査機関を訪問しなくても、簡便に自分の健康状態をチェックすることができる技術の開発が望まれていた。
【0003】
そこで、遠隔地の健康管理センターで生体データを自動収集する健康管理支援システムが提案されている(特許文献1)。特許文献1に記載の技術によれば、測定対象者が自宅に専用ターミナルを設置することにより、体温計または血圧計による測定結果を医療機関等に転送することができるとされている。ところが、このシステムは、比較的装置構成が大がかりであった。また、外出先では測定を行うことができなかった。また、血液検査などに適用することは困難であった。
【特許文献1】特開2003−76791号公報
【発明の開示】
【0004】
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、利用者が検査機関を訪問しなくても、所望の場所で自分の健康状態をチェックすることができる技術を提供することにある。また、本発明の別の目的は、利用者が自分の健康状態を簡便にチェックすることができる技術を提供することにある。
【0006】
所望の場所で健康チェックを可能にするには、
(1)測定システムが携帯可能な移動端末を有すること、
(2)測定システムは安全で衛生的に使用できること、
(3)移動端末は通信機能を有し、当該移動端末を介してユーザは遠隔サポートを受けられること、
が不可欠である。
【0007】
重く大きな装置では、所望の場所に持ち出すことができないので、測定システムはできるだけ小さく軽い必要がある。分析が自動的に進む、軽く小さな測定チップを利用して測定することは、移動端末の軽量化に極めて有利である。
【0008】
また、所望の場所で健康チェックするには、測定チップと移動端末とが安全で衛生的に携帯できる必要がある。健康チェックでは、感染の危険性のある生体試料を測定するため、生体試料を導入する部分と測定装置を別にして、たとえば、測定チップにだけ生体試料を導入し、測定装置は生体試料が触れない移動端末に設けることや、測定チップを使い捨てとすることが有効である。さらに、試料の種類や測定の種類によっては、測定チップに消毒処理が間違いなく施されないと、衛生上、携帯に不向きとなるため、測定チップを中和する機構が必要となる場合がある。
【0009】
また、病院などサポート体制の整った場所でない場所で健康チェックを行う場合、ユーザは、その測定値が健康上どのような意味があるかを理解するにも、測定の結果が正しいか否かを知るにも、さらには測定システムの誤動作を復旧するにも、遠隔地の専門家やデータベースと情報をやりとりする必要がある。そのため移動端末が通信機能を持ち、通信によるユーザサポートシステムに組み込まれていることが極めて重要である。
【0010】
本発明によれば、試料導入部と、該試料導入部に連通する検出部とを有し、前記試料導入部に導入された試料に所定の操作を加えて前記検出部に導く測定チップと、前記測定チップに導入された前記試料に含まれる特定の成分に関する測定を行う移動端末を有する測定システムであって、前記移動端末は、前記測定チップが挿入される挿入部と、前記検出部に導かれた前記成分の特性に関する測定を行う測定ユニットと、前記測定ユニットで得られた測定結果を外部に送信する送信部と、を有することを特徴とする測定システムが提供される。
【0011】
本発明の測定システムは、測定チップの挿入部と測定ユニットを有する移動端末を有する。このため、測定システムの利用者は、移動端末に測定チップを挿入し、所望の時間に所望の場所で試料中の特定の成分に関する測定を行うことができる。よって、自宅に大型の測定装置を設置したり、検査機関を訪問したりすることなく、簡素な装置構成の測定システムを用いてその場で容易に測定を行うことができる。
【0012】
また、本発明の測定システムにおいては、移動端末の挿入部に測定チップの所定の部分を挿入することにより測定が行われる。すなわち、試料に所定の処理を行う測定チップと測定チップ上の試料の測定を行う移動端末の二つの部材に異なる機能を付与することができる。このため、移動端末に直接試料を付着させることなく測定を行うことが可能となる。
【0013】
また、測定システムを構成する移動端末と測定チップとをそれぞれ別々に設計することができるため、種々の効果が得られる。すなわち、測定の種類に応じて複数の測定チップを選択することができる。また、測定チップを使い捨の形態とすることもできる。一方、測定に移動端末を利用する場合、移動端末に求められる小型軽量化の要請から、測定ユニットの構成を小型で簡素な形態とする必要がある。他方、試料が生体試料等である場合には、採取した試料を直接測定に供したのでは正確な測定結果が得られないことがある。本発明の測定システムにおいては、移動端末と測定チップが分離した構成を採用することにより、移動端末の測定ユニットを最小限の簡素な構成としつつ、測定チップにおいて、測定に必要な所定の処理が可能な構成となっている。すなわち、測定チップに導入された試料に所定の操作を加えて検出部に導くことにより、測定前の試料に対し多様な処理を施すことができる。このため、測定チップに導入された試料を測定に適した状態で検出部に導くことができる。よって、移動端末の装置構成の簡素化、小型軽量化を可能とし、かつ、試料中の成分について精密な測定結果を得ることが可能となる。
【0014】
また、本発明に係る測定システムにおいて、移動端末は送信部を有するため、測定結果を容易に外部に送信し、また測定結果に基づく分析結果を外部から取得することが可能となる。このため、移動端末自体に分析機能を設ける必要がない。よって、移動端末の装置構成を簡素化しつつ、測定結果に基づく正確な分析結果を得ることが可能となる。
【0015】
本発明において、「測定チップ」とは、導入された試料に対し所定の操作を加える機能が付与された基板のことをいう。本発明におけるチップは、たとえば、基板表面に流路溝が設けられ、この流路溝中を液体試料が流動して、特定成分の濃度に応じた発色反応等の所定の反応を発現させるように構成することができる。液体試料は、毛細管現象等を利用して流路溝中を移動するようにしてもよいし、電界や圧力などの外力を付与することにより移動するようにしてもよい。
【0016】
本発明の測定システムにおいて、前記所定の操作は、たとえば前記試料の分注とすることができる。こうすることにより、測定ユニットによる測定に適した分量の試料を検出部に導くことが可能となる。また、本発明の測定システムにおいて、前記所定の操作は、前記試料の希釈とすることもできる。試料を希釈することにより、測定チップに導入された試料をさらに測定に適した濃度で検出部に導くことができる。よって、さらに正確な測定結果を得ることができる。
【0017】
本発明によれば、試料導入部と、該試料導入部に連通する検出部とを有し、前記試料導入部に導入された試料に所定の操作を加えて前記検出部に導く測定チップと、前記測定チップに導入された前記試料に含まれる特定の成分に関する測定を行う移動端末を有する測定システムであって、前記移動端末は、前記検出部に導かれた前記成分の特性に関する測定を行う測定ユニットと、前記測定ユニットで得られた測定結果を外部に送信する送信部と、を有することを特徴とする測定システムが提供される。
【0018】
かかる測定システムにおいても、測定チップと移動端末をそれぞれ別々に設計することができる。また、本発明の測定システムによれば、チップを移動端末中に挿入せずに接触方式または非接触方式で測定することができる。また、測定装置にアダプターを接続し、アダプターを介して検出部に導かれた試料の測定を行うことが可能となる。アダプターを介して測定することにより、移動端末への試料の付着により生じる移動端末の汚染をさらに確実に抑制することができる。また、アダプターを用いることにより、移動端末による測定に適用可能なチップの構成をさらに多様化することができる。
【0019】
本発明の測定システムにおいて、前記測定ユニットは、前記検出部に光を照射する光源と、前記光源からの出射光を用いて前記成分の光学特性に関する測定を行う受光部と、を有してもよい。こうすることにより、測定チップに導入された試料中の成分の光学特性を確実に測定することができる。このため、移動端末において、試料中の特定の成分に関して必要最低限の測定データを簡素な構成で得ることができる。そして、測定結果を外部に送信することにより、詳細な分析結果を得ることができる。このため、移動端末の装置構成を簡素化しつつ、詳細な分析を行うことが可能となる。
【0020】
本発明の測定システムにおいて、前記測定チップは、前記試料導入部から前記検出部へ至る流路を有し、前記流路に、前記成分を分離するための分離部が設けられていてもよい。こうすることにより、測定チップに導入された試料中の成分を確実に分離することができる。このため、試料中の共雑物を除去した後、検出部に導くことができる。よって、測定ユニットにおける測定に好適な試料を測定チップ上で調製することが可能となるため、測定の対象となる成分が微量であっても、これを分離し、測定時のバックグラウンドを減少させることができる。このため、さらに精密な測定を行うことができる。
【0021】
本発明の測定システムにおいて、前記検出部は前記成分に作用してその光学特性を変化させる検出物質を備えることができる。こうすることにより、測定チップの導入された試料中の成分を確実に検出することができる。よって、微量な成分に対しても感度の高い測定を行うことができる。
【0022】
本発明の測定システムにおいて、前記送信部は、前記測定結果を測定状況と関連づけて外部に送信することができる。こうすることにより、測定結果を測定状況に関連づけて外部の分析に供することができる。また、測定結果を受信した外部において、測定状況に応じた測定結果の補正が可能となる。なお、本発明において、前記測定状況は、たとえば測定日時または測定場所等とすることができる。
【0023】
本発明の測定システムにおいて、前記移動端末が携帯電話機能を有する構成とすることができる。こうすることにより、測定システムの利用者は携帯電話と測定チップのみを携帯することにより所望の時間にその場で測定を行うことができる。また、移動端末を携帯電話等の携帯端末とすることにより、測定システム全体の小型化が可能となる。
【0024】
本発明の測定システムにおいて、前記移動端末とネットワークを介して接続され、前記移動端末から送信される情報を受け付ける分析センターをさらに含み、前記分析センターは、前記移動端末から送信された前記測定結果を取得するデータ取得部と、前記データ取得部にて取得された測定結果に基づいて前記試料を分析し、分析結果を得る分析部と、を有してもよい。
【0025】
本発明の測定システムは、分析センターを含むため、移動端末の装置構成を簡便なものとしつつ、移動端末による測定結果をデータ取得部で取得し、測定チップに導入された試料中の成分の分析を分析部にて確実に行うことができる。
【0026】
本発明の測定システムにおいて、前記分析センターは、前記測定結果または前記分析部で得られた前記分析結果を記憶する分析データ記憶部と、前記分析部が参照するデータを記憶する参照データ記憶部と、を有してもよい。
【0027】
分析データ記憶部を有することにより、分析結果を分析センターに記憶させておくことが可能となる。また、参照データ記憶部を有することにより、分析センターにおける分析をさらに確実に行うことができる。また、参照データ記憶部に記憶された参照データを、分析データ記憶部に記憶された情報に基づき補正することが可能となる。
【0028】
また、本発明の測定システムにおいて、前記測定チップは、さらに中和液溜めを有し、前記移動端末と前記測定チップとは、測定の終了した前記測定チップを前記移動端末から離脱させることをきっかけとして、該中和液溜め内の中和液が、前記測定チップに含まれる流路系に導入される機構をさらに有することができる。こうすることにより、使用後のチップに形成された有路系を中和することができるため、使用後の測定チップをより一層安全に携帯することができる。
【0029】
本発明の測定システムにおいて、前記移動端末は、前記送信部から送信される前記分析結果を受信する受信部を有してもよい。こうすることにより、測定結果に基づく分析の結果を、移動端末から受信することができる。よって、測定システムの利用者は、分析結果を所望の場所で確認できる。
【0030】
なお、本発明において、流路系は、測定チップに設けられた試料導入部から該試料導入部に至る液体の移動経路を指す。たとえば、本発明において、前記中和液が前記流路に導入される構成とすることができる。
【0031】
本発明の測定システムにおいて、前記測定チップは、さらに認証データを記録する部分を有し、前記移動端末は、測定の終了した前記測定チップを前記移動端末から離脱させること、あるいは、前記移動端末が、データを受信完了したこと、をきっかけとして、該認証データを読みとり不能にせしめる機構をさらに有することができる。こうすることにより、使用後のチップをさらに安全に廃棄することができる。
【0032】
本発明の測定システムにおいて、前記試料は体液とすることができる。こうすることにより、測定システムは利用者の体液に関する測定を簡便な構成で容易に実施することが可能となる。よって、測定システムの利用者は自己の健康状態に関する測定を所望の時間に所望の場所で行うことができる。
【0033】
以上説明したように本発明によれば、利用者が検査機関を訪問しなくても、所望の場所で自分の健康状態をチェックすることができる。また、本発明によれば、利用者が自分の健康状態を簡便にチェックすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
上述した目的、およびその他の目的、特徴および利点は、以下に述べる好適な実施の形態、およびそれに付随する以下の図面によってさらに明らかになる。
【0035】
【図1】本発明の実施の形態に係る検査システムの構成を示す図である。
【図2】図1の検査装置を用いる測定手順を説明する図である。
【図3】図1の検査システムに適用可能なチップの構成を示す図である。
【図4】図1の検査システムに適用可能な移動端末の構成を示す図である。
【図5】図4のC−C’方向の断面を示す図である。
【図6】図4のC−C’方向の断面を示す図である。
【図7】図4のC−C’方向の断面を示す図である。
【図8】図4のC−C’方向の断面を示す図である。
【図9】図1の検査システムに適用可能なチップの構成を示す図である。
【図10】図9のD−D’断面図である。
【図11】図1の検査システムに適用可能な移動端末の構成を示す図である。
【図12】図1の検査システムの構成を機能ブロックごとに示す図である。
【図13】本発明の実施の形態に係る検査システムに適用可能な電子チップを有するチップの構成を示す図である。
【図14】図12の検査システムの分析結果記憶部のデータ構造の一例を示す図である。
【図15】図12の検査システムの利用者情報記憶部のデータ構造の一例を示す図である。
【図16】図12の検査システムのエリア情報記憶部のデータ構造の一例を示す図である。
【図17】図12の検査システムを用いた処理手順を説明する図である。
【図18】図1の検査システムに適用可能なチップの構成を示す図である。
【図19】図18のチップの分離領域の構成を説明する図である。
【図20】図19の分離領域の構成を用いた分離方法を説明する図である。
【図21】図18のチップの混合部の構成を説明する図である。
【図22】図18のチップの混合部の構成を説明する図である。
【図23】図22の液体スイッチを拡大した上面図である。
【図24】図22の液体スイッチの堰き止め部を示す上面図である。
【図25】図22の液体スイッチのトリガー流路の構成を例示する図である。
【図26】図1の検査システムに適用可能なチップの構成を示す図である。
【図27】図26のチップの分離領域の構成を説明する図である。
【図28】図26のチップの分離領域の構成を説明する図である。
【図29】本発明の実施の形態に係る検査システムの構成を示す図である。
【図30】本発明の実施の形態に係る検査システムの構成を示す図である。
【図31】本発明の実施の形態に係る検査システムに適用可能な電子チップを有するチップの構成を示す図である。
【図32】図18のチップの分離領域の構成を説明する図である。
【図33】図18のチップの分離領域の構成を説明する図である。
【図34】本発明の実施の形態に係る着脱式センサつき移動端末の構成を示す図である。
【図35】本発明の実施の形態に係る着脱式光学センサの構成を示す図である。
【図36】本発明の実施の形態に係る洗浄機構を有する移動端末の構成の一例を示す図である。
【図37】図36に示した移動端末のロッドの端部近傍の構成を示すF−F’断面図である。
【図38】本発明の実施の形態に係る無効化トリガーを発生する移動端末の構成を示す図である。
【図39】本発明の実施の形態に係る移動端末の無効化トリガーが発生するタイミングを示す図である。
【図40】本発明の実施の形態に係る検査システムに適用可能なチップの構成を示す図である。
【図41】本発明の実施の形態に係る検査システムに適用可能な測定装置の構成を示す斜視図である。
【図42】本発明の実施の形態に係る検査システムに適用可能な測定装置の構成を示す斜視図である。
【図43】本発明の実施の形態に係る検査システムに適用可能な測定装置の構成を示す断面図である。
【図44】本発明の実施の形態に係る検査システムに適用可能な移動端末の構成を示す断面図である。
【図45】本発明の実施の形態に係る検査システムに適用可能な測定装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、すべての図面において、共通する構成要素には同じ符号を付し、適宜説明を省略する。
【0037】
(第一の実施形態)
図1は、本実施形態の検査システムを示す図である。検査システム100は、測定装置129および分析センター153を含む。測定装置129は、チップ101および移動端末127から構成され、これらはそれぞれ異なる機能を有する。検査システム100では、利用者の体液中に関して測定装置129を用いた測定を行い、利用者の健康状態を調べる。
【0038】
移動端末127は、通信機能を有する携帯電話やPDA(Personal Digital Assistant)等とすることができる。以下、移動端末127が携帯電話である場合を例に説明する。移動端末127は、チップ101での検出反応を測定する測定ユニット151を含む。ここで、測定ユニット151は、たとえば分光光度計、蛍光光度計、またはCCDカメラ等である。また、移動端末127は、分析センター153から送信される判断結果を利用者に提示可能に構成される。
【0039】
また、チップ101では、導入された試料は所定の操作を加えられた後検出部に導かれ、移動端末127の測定ユニット151で測定を受ける。試料に対する操作としてはたとえば分注、希釈、前処理、分離、混合、反応等が挙げられる。チップ101は、利用者が試料を導入し、測定ユニット151による測定に適した量を分注できるように構成される。
【0040】
移動端末127の利用者は、チップ101に自分の血液や尿などの体液にを分注する。そして、このチップ101を移動端末127にセットして、測定値を取得し、結果を移動端末127から分析センター153に送信する。この手順を図2を用いて説明する。
【0041】
図2は、チップ101を用いた分析手順の流れを説明する図である。利用者は、まず、血液、唾液、尿等、測定対象となる体液を採取する(S101)。そして、チップ101に、採取した体液を試料として導入する(S102)。そして、試料中の特定成分に作用する検出試薬と作用させ、所定の検出反応を生じさせる(S103)。このチップ101を移動端末127にセットするかまたは近接させる(S104)。移動端末127の測定ユニット151では、試料の光学測定を行い、その特徴から特定される成分を検出する(S105)。移動端末127は測定値を分析センター153に送信する(S106)。本実施形態において、利用者が自分の体液を採取してから測定値を分析センター153に送信するまでの手順は連続して同じ場所で一定時間内に行われるものとする。
【0042】
このように、本実施形態では、チップ101を移動端末127にセットするかまたは近接させて、簡単に測定を行うことが可能である。また、測定結果を即時に送信し、分析センター153に分析を依頼することが可能である。
【0043】
なお、測定ユニット151における測定は、たとえば成分の光学的な性質や電気的な性質に関する測定とすることができる。以下、測定ユニット151が光学測定を行う場合を例に説明する。
【0044】
分析センター153は、利用者から送信された測定値と、当該測定に関する特徴を示す参照パラメータとに基づき、その利用者の健康状態を判断する。そして、判断結果を移動端末127に送信する。これにより、移動端末127の利用者は、病院や検査機関等に行くことなく、簡易な方法で自己の健康状態を知ることができる。
【0045】
次に、チップ101および移動端末127の詳細な構成について説明する。
【0046】
図3(A)および図3(B)は、チップ101の構成の一例を示す図である。図3(A)はチップ101の上面図である。図3(B)は図3(A)のA−A’方向の断面図である。
【0047】
チップ101は、基板上部103aと基板下部103bとが接合された基板103からなる。基板下部103b上に、試料導入部105、液溜め107、流路109、検出部113、および検出部115が形成されている。流路109は、試料導入部105、液溜め107、検出部113、および検出部115に連通している。
【0048】
基板上部103aは、基板下部103bの蓋として流路109を被覆する。基板上部103aには、液溜め107、検出部113、および検出部115に連通する空気孔123が形成されている。また、試料導入部105に連通する導入口106が設けられている。導入口106は、測定対象の試料が毛細管現象により試料導入部105に円滑に導入されるように構成されている。すなわち、試料導入部105のうち、基板上部103aに形成された部分は、毛細管効果の発揮に充分な幅の狭さ、具体的にはたとえば1mm以下の幅となっており、基板下部103bに形成された液溜め部分に連通している。なお、基板上部103aに形成された毛細管の上部は、上面に向かって拡大するテーパーとなっており、利用者が試料を確実に導入することができるようになっている。
【0049】
さらに、基板上部103aおよび基板下部103bには、移動端末127に適切に挿入されるための凹部125がそれぞれ4箇所設けられている。
【0050】
図3(A)および図3(B)のチップ101は、検出部113検出部115の2つの検出部を有するが、検出部の数に限定はなく、所定の数に設定することができる。これらの検出部では、試料導入部105に導入された試料中の所定の成分を検出するための検出反応を行うことができる。これらの検出部は、試料中の成分に作用してその光学特性を変化させる検出物質を備えることができる。たとえば、検出部113または検出部115に特徴成分の存在により発色する発色剤が導入されていてもよい。なお、複数の検出部のうち、一つの液溜めには発色剤を導入せず、参照用の液溜めとして用いることもできる。
【0051】
基板上部103aおよび基板下部103bとして、たとえばシリコン基板、石英等のガラス基板、シリコン樹脂やポリメチルメタクリレート等の樹脂基板を用いることができる。また、チップ101の外径寸法は携帯電話の大きさや測定対象に応じて適宜選択されるが、たとえば、図中の縦1cm〜5cm程度、横1cm〜5cm程度とすることができる。また、チップ101の厚さは、たとえば0.5mm〜1cm程度とすることができる。
【0052】
図3のチップ101の作製は、たとえば次のようにして行う。基板下部103bに溝を形成し、流路109とする。また、流路109に連通する試料導入部105、検出部113、および検出部115を形成する。これらの形成は、基板下部103bとしてプラスチック材料を用いる場合、エッチングやエンボス成形等の金型を用いたプレス成形、射出成形、光硬化による形成等、基板下部103bの材料の種類に適した公知の方法で行うことができる。流路109の幅は、分離目的に応じて適宜設定される。たとえば、細胞の液状分画成分(細胞質)のうち、高分子量成分(DNA、RNA、タンパク質、糖鎖)の抽出を行う場合、5μm〜1000μm、とする。基板下部103bの裏面に、同様にして凹部125を形成する。また、基板上部103aに、導入口106、空気孔123、および凹部125を形成する。
【0053】
得られた基板上部103aおよび基板下部103bを接合することにより、チップ101が得られる。
【0054】
なお、基板上部103aおよび基板下部103bがプラスチック材料である場合、たとえばこれらを熱融着により接合することができる。この場合、基板上部103aおよび基板下部103bを構成する樹脂のガラス転移温度付近まで加温した状態で、当接させ、圧着した後、室温まで降温させ、その後圧力を解除すればよい。
また、溶媒を用いた融着を行ってもよい。この場合、基板上部103aおよび基板下部103bを溶解させる溶剤をこれらの表面に極めて薄くスプレーした後、これらを当接させて、接合させることができる。
【0055】
また、基板上部103aと基板下部103bとを当接させた状態でこれらに超音波振動を与え、そのエネルギーで基板上部103aおよび基板下部103bの表面を融解し、接着してもよい。
【0056】
また、基板上部103aおよび基板下部103bの種類に応じて選択される接着剤を用いて接着してもよい。接着剤を用いる場合、流路109等の微小空間が接着剤により埋設されないようにする必要がある。そこでたとえば接着剤を基板下部103bにのみ極めて薄く塗布または展開することができる。また、マスクを用いて基板上部103aの微小構造以外の部分にのみ接着剤を塗布または展開し、基板下部103bを接着してもよい。
【0057】
また、基板上部103aおよび基板下部103bがたとえばガラス、石英、または表面を酸化したシリコン基板である場合には、たとえば、溶媒によりこれらを融着することができる。具体的には、たとえばフッ化水素水溶液を基板上部103aまたは基板下部103bの表面に極めて薄くスプレーした後、これらを押し当てた状態で加温し、接着することができる。また、SOG(シリコンオキサイドゲル)などの接着剤を用いてもよい。SOGを用いる場合、基板上部103aまたは基板下部103bの表面にSOGを塗布、展開した後これらを当接させ、オーブン中で200℃程度に加熱してもよい。加熱によりSOGをガラス化し、確実に接着することができる。
【0058】
また、基板上部103aおよび基板下部103bがゴムである場合には、架橋剤を接着剤として用いることができる。基板上部103aまたは基板下部103bの表面に接着剤を塗布し、これらを押し付けた状態で架橋反応を生じさせることにより、これらが接合される。
【0059】
なお、流路109等の壁面にDNAやタンパク質などの分子が粘着することを防ぐために、壁面をコーティングすることが好ましい。こうすれば、チップ101が良好な分離能を発揮することができる。コーティング材料としては、たとえば、細胞膜を構成するリン脂質に類似した構造を有する物質等が挙げられる。また、流路壁をフッ素系樹脂などの撥水性樹脂、あるいは牛血清アルブミンなどの親水性物質によりコーティングすることによって、DNAなどの分子が流路壁に粘着することを防止することもできる。また、MPC(2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)ポリマー等の親水性高分子材料や、親水性のシランカップリング剤により基板下部103bの表面をコーティングしてもよい。
【0060】
MPCポリマーを用いて基板下部103bの表面の親水化を行う場合、具体的には、たとえばリピジュア(登録商標、日本油脂社製)などを用いることができる。リピジュア(登録商標)を用いる場合、たとえばこれを0.5wt%となるようにTBE(トリスボレイト+EDTA)バッファーなどの緩衝液に溶解させ、この溶液を流路109内に満たし、数分間放置することによって流路壁をコーティングすることができる。
【0061】
また、流路壁をはじめとする基板下部103bの表面を親水化することにより、毛細管現象を利用して導入口106に試料を確実に導入することができる。また、導入口106に導入された試料をより一層確実に流路109に導入し、毛細管現象により流路109中を移動させることができる。基板下部103bの表面を親水化する方法として、流路109の表面にシリコン酸化膜等の親水性膜を形成することが有効である。親水性膜の形成により、特に外力を付与しなくとも緩衝液が円滑に導入される。
【0062】
また、基板下部103bの少なくとも表面を、PHEMA(ポリヒドロキシエチルメタクリレート)等の親水性高分子材料で構成することにより、毛細管効果が促進される。さらに、基板下部103b表面への試料成分の非特異的な吸着を抑制することができる。このため、試料が微量であっても確実に分離および検出または測定を行うことができる。また、基板下部103bの表面を酸化チタンで構成し、この表面に紫外線照射を行うことにより、基板下部103b表面を親水化することができる。また、基板下部103bの表面を酸素プラズマによりアッシングしてもよい。
【0063】
以上のように、本実施形態に係るチップ101を用いることにより、試料中の所定の成分を分離し、さらに検出を行うことができる。このため、たとえば検出部113または115において呈色反応が行われる場合、これを比色して試料中の特定の成分の有無を判断したり、濃度を測定したりすることができる。この場合、基板上部103aおよび基板下部103bが透明な材料により形成されていることが好ましい。こうすることにより、より正確な検出を行うことができる。透明な材料として、具体的には、たとえば石英、環状ポリオレフィン、PMMA(ポリメチルメタクリレート)、PET(ポリエチレンテレフタレート)等を用いることができる。
【0064】
図4(A)および図4(B)は、移動端末127の構成の一例を示す図である。ここでは、移動端末127が携帯電話であって、測定ユニット151(図5、図6に図示)が分光光度計である場合を例として説明する。移動端末127には、チップ101を挿入するためのチップ挿入部131が設けられている。図4(A)は、移動端末127にチップ101が挿入されていない状態を示し、図4(B)は、移動端末127にチップ101を挿入した状態を示す。移動端末127は、一般的な携帯電話等の移動端末と同様、電池パック140、アンテナ141、機能ボタン群143と、および表示部145等を有する。
【0065】
図5は、図4(A)のC−C’方向の断面を示す図である。図5に示すように、移動端末127には、チップ挿入部131に挿入されるチップ101の検出部113および検出部115に対応する位置に測定ユニット151が設けられる。図5では、二つの測定ユニット151を有する移動端末127が例示されているが、測定ユニット151の数はこれに限られず、チップ101上の検出部の数に応じて適宜選択される。
【0066】
測定ユニット151は、光を照射する光源133aまたは光源133bと、これらの光源からの光をそれぞれ検出する受光部135aまたは受光部135bとを含む。光源133aおよび光源133bは、チップ挿入部131にチップ101が挿入されたときにチップ101の検出部113および検出部115に光を照射することが可能な位置に設けられる。また、受光部135aおよび受光部135bは、検出部113および検出部115に収容された液体の光学特性に関する測定を行う。
【0067】
たとえば、光源133aおよび光源133bにおいて280〜850nm程度の波長領域における透過光強度を測定することができる。このとき、受光部135aおよび受光部135bは、検出部113または検出部115を透過した光を検出可能な位置に設けられる。光源133aおよび光源133bの一方は参照用の液溜めに光を照射するのに用いることができる。
【0068】
移動端末127のチップ挿入部131内には、チップ101を保持するための凸部139が形成されたパッキン137が設けられる。チップ101にはパッキン137の凸部139と嵌合する凹部125が設けられており、これらが嵌合することにより、チップ101をチップ挿入部131に確実に装着することができる。これにより、光源133aおよび光源133bからの光が確実にチップ101の検出部113または検出部115に照射され、これらを透過した光を確実に受光部135aおよび受光部135bにより受光することができる。
【0069】
受光部135aおよび受光部135bは、受光した透過光の強度を電流に変換する。図示していないが、測定ユニット151は、受光部135aおよび受光部135bが変換した電流値に基づき透過度を算出する演算部を含む。光源133aおよび光源133bは、たとえば発光ダイオード、レーザーダイオード、または半導体レーザなどとすることができる。また、これらの光源からの出射光を光ファイバで所定の位置に導く構成としてもよい。また、受光部135aおよび受光部135bは、たとえばフォトトランジスタ、光電セル等とすることができる。また、光電セルのかわりにフォトダイオードを利用することもできる。
【0070】
図6〜図8は、図4(A)のC−C’方向の断面図である。これらの図は、測定ユニット151の構成の例を示している。
【0071】
図6では、LED247aおよびLED247bが光源133aおよび光源133bに相当する。また、フォトトランジスタ249aおよびフォトトランジスタ249bが、受光部135aおよび受光部135bに相当する。また、フォトトランジスタ249aおよびフォトトランジスタ249bの上部にそれぞれレンズ343aおよびレンズ343bが設けられている。
【0072】
測定ユニット151の各構成要素の大きさは、チップ101上の検出部113および検出部115の形状または大きさに対応して設計される。ここで、たとえば、チップ101において検出部113および検出部115の深さはたとえば0.1mm〜1cm程度とし、これらの間隔はたとえば0.5〜2mm程度とすることができる。このとき、LED247a、LED247b、レンズ343a、レンズ343b、フォトトランジスタ249a、およびフォトトランジスタ249bの大きさもこれに合わせて設計される。
【0073】
図7は、図4に示した移動端末127にチップ101を挿入する様子を示す図である。移動端末127のチップ挿入部131にチップ101を挿入すると、測定ユニット151の対応する位置に検出部113および検出部115が挿入される。このため、チップ101に形成された検出部の数だけ測定ユニット151を設けておけば、それぞれの検出部について、光学測定を一度に行うことができる。よって、短時間での測定が可能となる。
【0074】
なお、図5では図示していないが、移動端末127は、光源133aおよび光源133bからの出射光を分光し、所定波長の光を照射するための分光部を有することもできる。このようにすれば、特定の波長にピークを有するような特定成分の存在量を分析するための測定を行うことができる。
【0075】
図8は、分光部を有する測定ユニット151の構成を模式的に示す図である。図8の測定ユニット151は、図6の測定ユニット151と基本構成が同様であるが、光源238を1台とし、分光部134を有する点が異なる。分光部134は、光学フィルタ340および遮光板341を有する。なお、図8では、集光部となるレンズ343aおよびレンズ343bを設けない構成としたが、集光部を設けた構成とすることもできる。
【0076】
光学フィルタ340を設けることにより、光源238からの出射光のうち、所定の波長範囲にある光のみを検出部113または検出部115に照射することができる。このため、ランプ光源など、出射光の波長分布がブロードな光源238を用いる際にも、測定波長に対応する光学フィルタ340で分光し、測定するこができる。また、光学フィルタ340は遮光板341に支持されているため、他の測定ユニット151に光源238からの出射光が漏洩するのを防止することができる。
【0077】
光学フィルタ340には、光学フィルタとして既知の材料を所定の大きさに加工して用いることができる。
【0078】
なお、図6または図8に示した移動端末127において、光源を設けずに、外部の光源からの光を光ファイバ等により導入し、検出部113または検出部115の挿入される位置に照射する構成としてもよい。また、以上においては検出部113または検出部115における透過度を測定するとして説明したが、測定ユニット151は、吸光度や散乱度を測定するように構成されていてもよい。
【0079】
上記の構成のチップ101、及び移動端末127を用いることにより、小型な機器を用いた、場所を問わない検査が実現する。
【0080】
また、チップ101の構成および移動端末127の構成は、上述したものに限られず、種々の構成とすることができる。
【0081】
たとえば、チップ101において、基板上部103aの上面はシールで封止されていてもよい。シールは、チップ101を使用する際に剥離可能に形成されていればよい。たとえば各種プラスチック材料の薄膜の表面にエポキシ系やシリコーン系の接着剤が塗布された構成としてもよい。基板上部103aの上面をシールで封止することにより、使用前のチップ101の汚染を防止し、さらに精密な測定を行うことが可能となる。また、利用者がシールを剥離することにより基板上部103aの導入口106や空気孔123が開放されるため、利用者は測定を行いたいタイミングで直ちにチップ101を使用することができる。
【0082】
また、チップ101の構成は、図9に示すように、検出部113および検出部115を分注流路114上に設け、これらの検出部の下方に光導波路345を形成することもできる。ここで、光導波路345は、たとえば石英系材料または有機系ポリマー材料により形成することができる。光導波路345は、周囲の材料よりも屈折率が高くなるように構成される。この場合、光導波路345にはチップの底面から光が導入され、同様に、チップの底面から光が取り出される。図10は、図9のD−D’断面図である。
【0083】
この場合、たとえば、移動端末127の底面等に、チップの投光用光導波路346へ光を導入する光源および受光用光導波路347からの光を受光するための検出器(受光部)となるフォトトランジスタを設けておくことができる。このような構成にすれば、移動端末127の底面等にチップの投光用光導波路346および受光用光導波路347が露出した面を接触させることにより、分注流路114自体を測定用の検出部113または検出部115として用い、移動端末127の光源から分注流路114上の検出部113または検出部115へと光を導入し、また、検出部113または検出部115を透過した光を移動端末127の受光部にて検出することができる。
【0084】
また、図9および図10に示したチップにおいて、光導波路345を設けない構成としてもよい。このとき、投光用光導波路346および受光用光導波路347を設けることにより、移動端末127の光源からの出射光を、投光用光導波路346を介して検出部113または検出部115に導入し、検出部113または検出部115からの出射光を、受光用光導波路347を介して移動端末127の受光部にて受光することができる。この構成についても、検出部113および検出部115に分取された液体中の所定の成分に関する光学測定を行うことができる。また、光導波路345を設けないため、チップの構成を簡素化することができる。
【0085】
なお、図9および図10に示した構成のチップや、この構成において光導波路345を設けない構成のチップを用いる場合には、移動端末127を、チップ挿入時の投光用光導波路346および受光用光導波路347の位置に対応して光源および検出部がそれぞれ配置された構成とすることができる。
【0086】
さらに、移動端末127は測定ユニット151を1個有するものとし、チップ101をチップ挿入部131中でスライドさせることにより、検出部113および検出部115について順次光学測定を行う構成としてもよい。
【0087】
図11は、移動端末127の別の構成を示す図である。移動端末127は、切欠部132を有する。切欠部132は、移動端末127の側面から底面にかけて形成されている。利用者がチップ101を切欠部132にスライドさせた際に、検出部113および検出部115の透過度を順次測定されるようになっている。
【0088】
本実施形態においては、導入口106、検出部113および検出部115を有するチップ101および移動端末127を用いることにより、利用者187は自宅に大型の測定機器を設置したり、専門機関を訪問したりすることなく体液中の所定の成分についてその場で簡便に測定を行うことができる。利用者187は、チップ101と移動端末127からなる測定装置129を所持していれば、所望の時間に所望の場所で測定を行うことができる。
【0089】
また、測定装置129は小型で簡便な構成であり、これを用いて簡便な手法で確実に体液中の成分に関する測定結果を容易に取得することができる。また移動端末127を用いて測定結果を外部の分析センターに送信し、測定結果に関して分析を依頼することができる。
【0090】
また、移動端末127にチップ挿入部131が設けられているため、チップ101を使い捨ての形態とし、測定ごとにチップ101を交換することができる。また、移動端末127自体に試料を導入せずに測定が可能である。よって、移動端末127を汚染せずに、精度のよい測定を行うことができる。
【0091】
図12は、検査システム100の構成を示すブロック図である。
移動端末127は、表示部145、入出力部147、送受信部149、測定部として機能する測定ユニット151、および計時部183を含む。送受信部149は、測定ユニット151が測定した測定結果を利用者187の健康状態に関する測定データとして分析センター153に送信する。このとき、測定値の取得日時等の時間に関する計時部183から伝達されるデータをあわせて送信してもよい。
【0092】
また、送受信部149は、分析センター153から送信された測定値に基づく分析結果を受信する。送受信部149は、受信した分析結果を入出力部147に伝達する。入出力部147は、分析結果を表示部145に出力し、利用者187に提示する。
【0093】
分析センター153は、データ取得部155と、分析部165と、データベース167と、推定処理部179と、データ書込部181と、送受信部185と、読出部189と、管理番号付与部191とを有する。
【0094】
分析センター153の各構成要素は、ハードウエアコンポーネントでいえば、任意のコンピュータのCPU、メモリ、メモリにロードされた本図の構成要素を実現するプログラム、そのプログラムを格納するハードディスクなどの記憶ユニット、ネットワーク接続用インターフェースを中心に実現されるが、その実現方法、装置にはいろいろな変形例があることは、当業者には理解されるところである。これから説明する各図は、ハードウエア単位の構成ではなく、機能単位のブロックを示している。
【0095】
データ取得部155は、測定対象選択受付部157と、測定データ取得部159と、利用者情報取部161と、エリア情報取得部163とを含む。測定対象選択受付部157は、送受信部185にて受信された情報のうち、利用者187が選択した測定対象を取得する。測定データ取得部159は、検出部113および検出部115についての測定値を取得する。利用者情報取得部161は、利用者187の利用者IDを取得する。また、エリア情報取得部163は、移動端末127からデータが送信された位置に関する情報を取得する。
【0096】
なお、データ取得部155は、利用者187の測定データを、その測定データの作成位置および作成日時に対応付けて取得することができる。「測定データの作成日時」とは、たとえば、利用者187が自分の体液を採取した日時、利用者187がチップ101を用いて特定成分に関する測定を行った日時、利用者187が移動端末127を用いてチップ101の発色を検出した日時、または利用者187が移動端末127から測定データを送信した日時とすることができる。また、分析センター153が測定データを取得した日時を「測定データの作成日時」とすることもできる。このような日時は移動端末127の計時部183または分析センター153の計時機能に基づき決定されてもよく、利用者187の入力により決定されてもよい。
【0097】
「測定データの作成位置」とは、たとえば、移動端末127を用いる利用者187が測定データを分析センター153に送信したときの移動端末127の位置情報とすることができる。移動端末127の位置情報は、移動端末127の電波受信状態により、携帯電話網の基地局の位置検出機能を用いて取得することができる。また、利用者187がGPS機能付きの移動端末127を所持している場合、GPS測位機能を用いて取得することもできる。また、利用者187に移動端末127から自分のいる位置情報を入力させることもできる。移動端末127の位置情報は、測定データとともに分析センター153に送信される。位置情報は、二次元の情報だけでなく、高さも含めた三次元の情報とすることもできる。
【0098】
分析部165は、選択された測定対象について、測定データ取得部159にて取得されたデータの分析を行う。また、推定処理部179は、分析部165における分析結果に基づいて、利用者の健康状態を推定する。
【0099】
管理番号付与部191は、各測定データに対応づけて管理番号を付与する。データ書込部181は、各種データを管理番号付与部191において付与された管理番号と対応づけてデータベース167に記憶させる。読出部189は、データベース167に記憶されている情報を読み出す。送受信部185は、移動端末127との間のデータの送受信を行う。
【0100】
データベース167は、分析情報記憶部169と、関連情報記憶部171と、分析結果記憶部173と、利用者情報記憶部175と、エリア情報記憶部177とを含む。
【0101】
分析情報記憶部169は、複数の測定対象について、測定データの分析を行うためのプログラム、参照データ等を記憶する。たとえば、分析部165が測定対象の成分を分析する際の手順やプログラムや、推定処理部179が罹患可能性を推定する際の手順を規定した解析プログラム等の各種プログラムを、複数の測定対象についてそれぞれ記憶する。また、分析情報記憶部169は、測定ユニット151を制御するためのプログラムをも記憶することができる。分析情報記憶部169のデータ構造では、測定対象のID番号ごとに、各測定項目の評価基準を記憶することができる。具体的には、たとえば、測定項目IDが0002の血糖値について、検出部115の透過度から検出部113の透過度(ブランク)を引いた数値の増加に対応させて、レベル1(−)、レベル2(+)、レベル3(++)、およびレベル4(+++)の4段階のレベルにより評価することを記憶してもよい。
【0102】
関連情報記憶部171は、推定処理部179における推定結果に応じて利用者187に送信する情報を記憶する。たとえば、推定結果に応じて結果とともに利用者187に送信するアドバイスに関する情報や、医療機関や保険会社の連絡先に関する情報等を記憶することができる。
【0103】
分析結果記憶部173は、分析部165による分析結果や、推定処理部179における推定結果を管理場号に対応づけて記憶する。分析結果記憶部173には測定対象ごとの基礎データが蓄積される。
【0104】
図14は、分析結果記憶部173のデータ構造の一例を示す図である。データ構造225では、検出が行われた位置情報およびこれに対応する測定エリア、利用者ID、分析値、および発症レベルが、管理番号に対応付けて記憶されている。たとえば、管理番号0022の被診断データは、測定対象0002(血糖値)に関する分析値は0.42で、レベルが++と記憶されている。
【0105】
図12に戻り、利用者情報記憶部175は、分析結果に付与された管理番号と利用者IDとを対応づけて記憶する。これにより、利用者187は自己の測定結果の経時変化を移動端末127から読み出すことができる。図15は、利用者情報記憶部175のデータ構造の一例を示す図である。データ構造227では、ID番号が30である利用者187の分析値、発症レベル、および測定エリアが、管理番号に対応付けて経時的に記憶されている。また、利用者情報記憶部175は、利用者187毎に、利用者ID、利用者のメールアドレス等を記憶してもよい。なお、利用者情報を取得するときは、これを適法に取得するものとする。
【0106】
エリア情報記憶部177は、複数のエリアの位置情報を記憶する。分析結果に付与された管理番号とエリア情報とを対応づけて記憶する。図16は、エリア情報記憶部177のデータ構造の一例を示す図である。エリア情報記憶部60は、エリアNo.欄、始点位置(x,y)欄、および終点位置(x,y)欄を含む。エリアNo.欄は図14または図15に示したエリアNo.欄に対応し、各エリアは、始点位置および終点位置をそれぞれ通るx軸およびy軸で囲まれた範囲に設定される。
【0107】
図17は、図12の検査システムを用いた処理手順を説明する図である。以下、図12も参照して説明する。
【0108】
利用者187は、上述の方法で体液を採取し、チップ101に導入する。試料は毛細管現象により基板上部103aから基板下部103bに導入され、検出部に導かれる。検出部における所定の呈色反応後、移動端末127にチップ101を挿入する(S111)。そして、移動端末127の入出力部147に選択した測定対象を入力する(S112)。本実施形態において、測定対象は特に限定されず、血糖値等、以降の実施形態において説明する項目とすることもできるし、それ以外の項目とすることもできる。
【0109】
移動端末127の入出力部147は、選択された測定対象を検出するために測定ユニット151を制御する(S113)。たとえば図5において、光源133aまたは光源133b、受光部135aまたは受光部135b、または分光部134を有する場合には分光部134を制御する。たとえば、測定対象が血糖値である場合、チップ101の検出部113に検出物質としてNAD(β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド酸化型)、ATP(アデノシン3リン酸2ナトリウム)、ヘキソキナーゼ、グルコース−6−リン酸脱水素酵素、および酢酸マグネシウム等のグルコース検出試薬を含有させておくことができる。こうすれば、チップ101の検出部113または検出部115における発色の程度を移動端末127の測定ユニット151により測定することができる。
【0110】
図17に戻り、検出部113および検出部115の透過光強度を測定し(S114)、それぞれの測定値を取得する(S115)。測定ユニット151は、対象成分を検出することができないときは、測定不能または測定値を0%とすることができる。取得した測定値を、送受信部149から分析センター153に送信する(S116)。このとき、利用者187が選択した測定対象、利用者の情報、およびデータ送信エリアに関する情報が合わせて送信されてもよい。
【0111】
分析センター153は、移動端末127から送信された情報を送受信部185で受信し、各データは、データ取得部155の測定対象選択受付部157〜エリア情報取得部163にて取得される。
【0112】
分析部165は、データ取得部155で取得されたデータの分析を行う(S116)。このとき、測定対象選択受付部157にて受け付けられた測定対象の分析を行うためのプログラムが分析情報記憶部169から取得される。分析の結果が適正でない場合は(S117のNo)、その旨を送受信部185から移動端末127に送信する。移動端末127において再度測定する場合は(S118のYes)、ステップ113からの各ステップを繰り返す。また、再測定を行わない場合は、当該データによる測定対象の推定が不能である旨を表示部145にて表示し(S123)、利用者187に提示する。
【0113】
適正な分析結果が得られたら(S117のYes)、推定処理部179において罹患可能性が推定される(S119)。推定結果は、管理番号付与部191にて管理番号が付与された後、データ書込部181にてデータベース167に記憶される。
【0114】
また、推定結果は、送受信部185から移動端末127に送信される。このとき、関連情報記憶部171に格納されている情報を合わせて送信してもよい。移動端末127は送受信部149にて受信した結果を表示部145に表示し、利用者187に提示する(S122)。
【0115】
検査システム100によれば、チップ101を移動端末127に挿入することにより、簡素な装置構成で簡便に体液中の成分の測定を行うことができる。また、大型の専用基材を自宅に設置する必要がないため、利用者187は外出先でも測定を行うことが可能である。また、専門の分析期間を訪問する必要もない。
【0116】
また、測定値および推定結果の送受信が移動端末127と分析センター153との間で行われるため、移動端末127の装置構成を必要最低限に簡素化することができる。また、利用者187は遠隔地の分析センターや医療機関を訪れることなく、自己の体液に関する測定結果を送信し、また分析結果を受信することができる。よって、利用者187は所望の場所で自己の健康状態を確認することができる。
【0117】
また、分析センター153は複数の測定対象に関する分析データを利用者別、エリア別、または測定対象別に網羅的に把握することが可能である。
【0118】
なお、図3において、チップ101は、検出部113または検出部115に付着させる検出物質を適宜異ならせることにより、多くの測定に用いることが可能である。チップ101には、検出部113および検出部115の二つの検出部が形成されているが、検出部115の数に特に制限はない。また、一枚のチップ101の各検出部に異なる検出物質を付着させておいてもよい。こうすれば、利用者187は一度の測定で複数の種類の成分に関する測定を行い、移動端末127から送信することができる。このため、複数の成分に関する測定結果に基づく多様な分析結果を一度の測定で受信することができる。
【0119】
また、チップ101において、流路109に連通する液溜めをさらに設け、この液溜めに、試料希釈用バッファーを導入しておくかあるいは所定のタイミングで導入することにより、試料導入部105に導入された試料を希釈した後、検出部113および検出部115に導くことができる。こうすれば、測定ユニット151による測定に適した濃度に試料を希釈することが可能となるため、高感度の測定が可能となる。
【0120】
チップ101上で分注、希釈等の所定の操作を行うことにより、試料に多様な処理を施すことができるため、測定ユニット151における測定に適した状態の試料を検出部113および検出部115に導くことができる。このため、従来精密な測定装置を用いて測定していた成分についても、測定装置129を用いて容易に測定することができる。
【0121】
また、図5では、移動端末127が検出部113および検出部115の透過光を検出する構成としたが、反射光を検出するように受光部135aおよび受光部135bを構成し、配置してもよい。
【0122】
(第二の実施形態)
本実施形態は、第一の実施形態に記載の検査システム100(図1)に適用可能なチップの他の構成に関する。図18は、本実施形態に係るチップの構成を模式的に示す図である。図18のチップ251は、試料の分離および検出を行うことができるチップであり、基本的な構成は図3のチップ101と同様であるが、さらに分離領域318、廃液溜め319、バッファー導入口320、流路330、および混合部348を含む。また、複数の検出部323は、図3のチップにおける検出部113および検出部115に対応する。
【0123】
分離領域318は、流路109および複数の微細流路329を介して流路109に連通する流路330を有し、フィルタ状に構成されている。流路330に連通して不要な試料を排出する廃液溜め319が設けられている。また、流路109に連通して、バッファー導入口320が形成されている。なお、図18のチップ251では、分離領域318がフィルタである場合を例示しているが、分離領域318の構成はこれには限定されず、たとえば、流路に複数の柱状体を配設した構成等とすることもできる。
【0124】
図19は、分離領域318の構成を説明する図である。図19においては、基板下部103b上に流路溝361aおよび流路溝361b(いずれも幅W、深さD)が形成され、これらの間に隔壁365が介在している。ここで、流路溝361aおよび流路溝361bのいずれか一方が流路109となり、他方が流路330となる。隔壁365には、分離流路が規則的に形成されている。ここでいう「分離流路」は、微細流路329に対応する構成である。分離流路は、流路溝361aおよび流路溝361bと直交し、幅d1の分離流路が所定の間隔d2で規則的に形成されている。図中に示された各寸法は、分離する試料等に応じて適宜な値に設定されるが、たとえば以下のような範囲から好適な数値が選択される。
【0125】
W:10μm〜1000μm
L:10μm〜1000μm
D:50nm〜1000μm
d1:10nm〜1μm
d2:10nm〜1μm
このうち、分離流路の長さに相当するLの数値は、分離特性に直接影響するため、分離目的に応じて精密に設計することが重要となる。たとえば高分子の分離においては、分離流路を通過する際に分子のコンフォーメーションが変化し、エンタルピー変化が生じる。したがって、分離流路の長さによって分子の通過に伴うエンタルピー変化の総量が相違することとなり、分離特性が変化するのである。本発明においては、流路を溝により構成しているため、エッチングや成型加工により作製することができ、形状やサイズを精密に制御することができる。この結果、所望の分離特性を有する分離領域318を安定的に製造することができる。なお、流路溝361a、流路溝361bおよび分離流路は、様々は方法で形成することができるが、d1やd2の値を100nm以下に設定した場合、微細加工性の点で電子線露光技術を組み合わせたドライエッチングを用いることが望ましい。
【0126】
図19に示した構造の分離領域318を用いた分離方法について図20を参照して説明する。図20は、この分離領域318を上から見たときの概略構造を示した模式図である。まず、試料の分離を行う前の準備として、各流路溝にキャリアとなる緩衝液を満たしておく。図20では、流路溝361b中に、図中下向きに混合物350を含む試料原液が流れる。すると、混合物中の小さな分子351が、図の中央に示される隔壁に設けられた分離流路を通過し、隣接する流路溝361aに進入する。流路溝361aには、分離目的成分と化学反応を起こさない溶媒が図中上向きに流れている。したがって、流路溝361aに進入した小さな分子351は、その流れにのって図中上向きの方向に運搬される。一方、流路溝361b中の大きな分子352は、分離流路を通過できないので、流路溝361b中をそのまま流れていき、流路の末端で回収される。以上のようにして、小さな分子351および大きな分子352が分離される。
【0127】
図20では、流路溝361aおよび流路溝361bの流れの方向を逆向きとした。同じ向きとすることもできるが、逆向きにした場合、分離効率が向上する。たとえば流路溝361aの流れの方向を図中下向きとした場合、流れの進行方向に向かうにしたがって小さな分子351の濃度が高くなっていく。したがって、流路溝361aと流路溝361bにおける大きな分子352の濃度差が、流れの進行方向に向かうにしたがって小さくなり、ある地点で等濃度となる。この地点から先の領域では、流路溝361bから流路溝361aへの大きな分子352の移動は起こりにくくなり、分離できなくなる。これに対して本実施形態のように逆向きの方向にした場合は、流路溝361aと流路溝361bにおける大きな分子352の濃度差は担保されるので、分離流路を一定の長さの領域にわたって形成した場合でも、高い分離能力を確保することができる。
【0128】
また、以上においては、分離流路となる複数の微細流路329が形成された隔壁を有する構成を示したが、分離領域318は、以下に示すように、土手部を有する構成としてもよい。
【0129】
図32(A)および図32(B)は分離領域318の構成を示す図である。図32(A)、図32(B)はそれぞれ断面図、斜視図である。図32(A)に示されるように、基板下部103bに二本の流路溝361a、流路溝361bが設けられ、それらを分けるようにして土手部に相当する隔壁308が設けられている。基板下部103bの上には基板上部103aが配設される。便宜上、基板上部103aは図32(B)には示していない。
【0130】
図32(A)から分かるように、基板上部103aと基板下部103bとの間には空間が確保されているため、この空間を介して流路溝361aおよび流路溝361bは互いに連通している。この空間は、上記の分離領域318の隔壁365に設けられた分離流路に相当する。したがって、たとえば流路溝361aに分離対象物質を含む試料を流し、流路溝361bに緩衝液を流すことにより分離操作を実行することができる。
【0131】
なお、この場合、基板上部103aにはポリジメチルシロキサンやポリカーボネートなどの疎水性材料からなるものを選択することが好ましい。このようにすることにより、各々の流路溝に試料あるいは緩衝液を他の流路溝に浸入させることなく導入することができ、かつ両方の流路溝に試料等が満たされた段階で、上記空間を介して両流路溝内の試料および緩衝液の混和を生じさせることができる。このような効果は、基板上部103aを取り付けない状態で操作実施することによっても得ることができる。このとき、空気自体が疎水性物質として基板上部103aと同様に機能しているものと考えられる。
【0132】
また、ポリエチレンテレフタレートなどの親水性材料からなる基板上部103aを取り付けた状態で、たとえば流路溝361aに試料を流すと、当該試料は他方の流路溝361bへ浸入する。この浸入の際に、基板上部103aと隔壁308との間に形成された空間よりも小さなサイズの成分のみが濾しとられるため、試料中の成分の分離が実現する。
【0133】
この構成によれば、隔壁308を設けることにより、流路溝361aおよび流路溝361bを、微細流路329を有する隔壁365に比較して広い面積で接続するため、分離効率を向上させることができる。また、細長い物質であっても詰まりにくく、流路間を容易に移動できるため、こうした物質を含む試料の分離に好適に用いることができる。
【0134】
このような流路溝361a、流路溝361bおよび隔壁308は、たとえば(100)Si基板をウェットエッチング処理することにより得られる。(100)Si基板を用いた場合、<001>方向に直交あるいは平行な方向では、図示されるように台形型にエッチングが進行する。そのため、エッチング時間を調節することにより隔壁308の高さを調節することが可能である。
【0135】
また、図33に示されるように、隔壁308を基板上部103a上に設けることもできる。このような隔壁308を備えた基板上部103aは、ポリスチレンなど樹脂を射出成形することにより容易に得ることが可能である。また、基板下部103bには1本の流路をエッチング等により設けるだけでよい。したがって、この分離領域318は上記のような簡便なプロセスにより得られるため、大量生産に適している。
【0136】
本実施形態の分離領域318では、たとえば試料原液の毛細管現象による導入と、拡散により分離できる。また、分子の浸透圧差を利用して分離することができる。
【0137】
図18にもどり、導入口106に導入された試料は、毛細管現象により流路330に導かれる。試料が流路330を満たしたら、バッファー導入口320に所定のバッファーを導入する。バッファーは、試料中の成分の分離用展開液として用いられる。バッファー導入口320に導入されたバッファーは、毛細管現象により流路109に導かれ、流路330中の試料の移動方向と逆向きに移動する。
【0138】
ここで、流路330と流路109とを連通させている微細流路329は、流路330よりも幅または深さが小さいため、流路330中の試料成分のうち、所定の大きさまたは形状を有する成分のみが微細流路329を通過し、流路109に移動することができる。また、微細流路329中を通過できない成分は、廃液溜め319に排出される。こうして、試料中の成分を、その移動相中での大きさまたは形状に従って分離することができる。なお、微細流路329は、流路330と流路109とを隔てる隔壁中に小孔が形成された構成とすることができる。
【0139】
このような分離領域318を用いて、たとえば試料の粗分離、精製等を行うことができる。粗分離の場合として、試料中の固形成分や細胞等を分離除去することができる。また、液体試料の場合、たとえば低分子量成分と高分子量成分との分離等が可能である。
【0140】
また、このチップには、分離領域318と検出部323との間に、検出または測定に先立ち、試料濃度を均質化するための混合部348が設けられている。混合部348は、流路109中を流れる液体中の試料成分濃度を均質化することができるように構成されていれば、特に制限はないが、たとえば以下のように構成することができる。
【0141】
図21は、混合部348の構成の一例を示す図である。図21の混合部348は、対向流による均質化効果を利用した助走流路である。この流路は、流路109の往路352と復路353とを混合用微細流路354により連通させた構成となっている。混合用微細流路354は、たとえば往路352と復路353とを隔てる隔壁に設けられた小孔とすることができる。
【0142】
混合用微細流路354の表面は往路352に比べて疎水性とする。こうすることにより、分離領域318を通過した液体が往路352を満たすまで、混合用微細流路354から復路353に流入しない構成とすることができる。往路352が液体で満たされ、復路353に至ると、混合用微細流路354中に往路352側と復路353側から液体が侵入することにより、往路352と復路353とが混合用微細流路354によって連通する。そして、往路352内の液体と復路353内の液体との間で相互拡散が起こり、液体の濃度を均質化することができる。均質化された液体は、流路109から分注流路114を通って検出部323に導かれる。
【0143】
このような構成とすれば、復路353を通過して分注流路114に流入する液体の濃度を均質化することができる。したがって、分離領域318を通過した体液中の試料成分濃度にむらがある場合にも、複数の検出部に供給される液体中の試料成分濃度を一定とすることができる。よって、検出反応の精度を向上させることができる。
【0144】
たとえば、試料成分濃度が高い領域が、流路109中を流れる液体の先端領域にある場合、往路352を進むほど、既に希釈化された低濃度の復路353中の液体と交換されて、平均的濃度に均質化される。逆に、高濃度領域が流路109中を流れる液体の先端から遠く、復路353に液体が侵入した後も往路352に存在する場合、復路353を進行する低濃度の液体は、復路353内の高濃度の液体と混合されて平均的な濃度に均質化される。なお、図21では、流路109を一直線の形状としたが、ジグザグ形状やらせん状としてもよい。こうすることにより、混合部348をコンパクトな形状とすることができる。よって、チップ全体を小型化することができる。
【0145】
また、図22は、混合部348の別の構成を示す図である。図22の混合部348においては、流路109中に液溜め355が設けられ、液溜め355の下流において流路109の2箇所を連通させるトリガー流路356が設けられている。トリガー流路356は、流路内の親水性の程度や流路径等を適宜に調整することによって、流路内の液体の進行速度を調整することができる。これにより、スイッチ動作の速度を調整できる。トリガー流路356と流路109との2箇所の交差点のうち、下流側すなわち分注流路114側の交差点に、液体スイッチ357を有する。
【0146】
このような混合部348では、当初は液体スイッチ357が閉じており、分離領域318を通過した液体は、液溜め355に貯留され、濃度が均質化される。液溜め355が液体で満たされると、その一部がトリガー流路356へと流入する。そして、トリガー流路356中に液体が満たされ、液体スイッチ357の形成領域に達すると、液体スイッチ357が開くため、液溜め355中で均質化された液体が分注流路114へと流入する。
【0147】
図23(A)〜図23(C)は、図22の液体スイッチ357部分を拡大した上面図である。液体スイッチ357は、液体の流動を制御するスイッチであり、液体がスイッチ開閉のトリガーとなる。図23(A)はスイッチ閉状態、図23(B)および図23(C)はスイッチ開状態を示す。図中、流路109の側面にトリガー流路356が接続している。トリガー流路356は、流路内の親水性の程度や流路径等を適宜に調整することによって、流路内の液体の進行速度を調整することができる。これにより、スイッチ動作の速度を調整できる。流路109とトリガー流路356の交差する領域の上流側(図中上側)に堰き止め部358が設けられている。堰き止め部358は、流路の他の部分よりも強い毛細管力を有する部分となっている。堰き止め部358の具体的構成としては、以下のものが例示される。
【0148】
(i)複数の柱状体が配設された構成
この構成では、堰き止め部358における流路単位体積あたりの流路表面積が、流路の他の部分のそれよりも大きくなっている。すなわち、流路109に液体が満たされたとき、堰き止め部358においては、流路の他の部分よりも固液界面が大きくなるように構成されている。
【0149】
(ii)多孔質体やビーズが複数充填された構成
この構成では、堰き止め部358において、流路の他の部分よりも固液界面が大きくなるように構成されている。
【0150】
上記(i)の構成とする場合、柱状体は、基板の種類に応じて適宜な方法で形成することができる。石英基板やシリコン基板を用いる場合、フォトリソグラフィー技術およびドライエッチング技術を利用して形成することができる。プラスチック基板を用いる場合、形成しようとする柱状体のパターンの反転パターンを有する金型を作製し、この金型を用いて成形を行い所望の柱状体パターン面を得ることができる。なお、このような金型は、フォトリソグラフィー技術およびドライエッチング技術を利用することにより形成することができる。
【0151】
上記(ii)の構成とする場合、多孔質体やビーズは、これらを流路の所定箇所に直接充填、接着することにより形成することができる。
【0152】
本実施形態では、上記(i)の構成を採用する。
【0153】
図24は、堰き止め部358の上面図である。複数の柱状体360が、略等間隔で規則的に配置されている。柱状体360以外の領域は微細流路195となっている。堰き止め部358では、流路単位体積あたりの流路表面積が、流路の他の部分のそれよりも大きい。このため、堰き止め部358に浸入した液体は、毛細管力により、微細流路195に保持される。
【0154】
図23(A)はスタンバイ状態にある液体スイッチ357を示している。流路109に導入された液体試料359が堰き止め部358で保持されている。この状態から所望のタイミングでトリガー流路356を迂回してきたトリガー液362導入されると、図23(B)のようにトリガー液362の液面の先端部分が前進し、堰き止め部358と接触することとなる。図23(A)の状態では、液体試料359は毛細管力により堰き止め部358に保持されているが、液体試料359がトリガー液362と接触した図23(B)の状態になると、液体試料359が図中下方向(下流側)に移動し、図23(C)の流路109下流側に液体試料359が流出する。すなわち、トリガー液362が呼び水としての役割を果たし、液体試料359を下流側に引き出す液体スイッチとしての動作が発現する。
【0155】
以上において、液体試料359およびトリガー液362は、液溜め355を通過した液体である。したがって、この構成によれば、分離領域318を通過した液体が液溜め355を満たし、さらにトリガー流路356の先端すなわち流路109の下流側の交差点に達するまでの間、液体が分注流路114側に流入しないようにすることができる。よって、液溜め355において確実に試料成分濃度の均質化を図ることができる。また、トリガー流路356の構成によって、分注流路114へと流入するタイミングを好適に調節することができる。
【0156】
図25(A)〜図25(C)は、トリガー流路356の構成を例示する図である。図25(A)では、トリガー流路356の一部に流路拡張領域363が形成されている。流路拡張領域363は、トリガー流路356中で時間遅れ槽として機能する。こうすることにより、液体スイッチ357を開くタイミングを遅延させることができる。
【0157】
図25(B)は、図25(A)の構成のトリガー流路356において、流路拡張領域363に疎水性領域364が形成されている。疎水性領域364は、トリガー流路356中の液体の進行方向に垂直な方向に流路拡張領域363を横切るように形成されている。このような疎水性領域364を設けることにより、流路拡張領域363において、液体が壁面のみをつたって他端に到達するのを抑制することができる。
【0158】
図25(C)は、じぐざぐ形状のトリガー流路356の例を示している。このようにトリガー流路356の形状、長さを最適化することにより、所望のタイミングで液体スイッチ357を開放することが可能となる。トリガー流路356の形状は、占有面積が小さいような形状であれば図25(C)の形状に限られず、たとえばらせん形とすることもできる。
【0159】
流路109中の試料成分は、流路109に連通する分注流路114から、検出部323に導かれる。本実施形態においても、分注流路114および検出部は基板下部103b上に所定の数だけ設けることができる。図18のチップ251では、流路109から複数の分注流路114が順次分岐しており、分注流路114は流路109よりも細い流路であるため、毛細管現象によって上流側の分注流路114に連通する検出部323から順に試料成分が導入される。また、すべての検出部に試料成分が導かれた後の不要な試料は、液溜め107に排出される。
【0160】
本実施形態に係るチップ251によれば、試料導入部105と検出部323との間に分離領域318が設けられているため、試料導入部105に導入された試料に含まれる所定の成分を確実に分離し、検出部323に導くことができる。このため、微量な成分に関しても、測定時のバックグラウンドを減少させ、高感度の測定を行うことが可能となる。
【0161】
また、分離領域318と検出部113および検出部115との間に混合部348を有するため、分離領域318を通過した液体の濃度を均質化した後、検出部323へと導くことができる。このため、検出部323に導入される液体中の試料成分のむらを解消することができる。よって、検出部323における測定の精度を向上させることができる。
【0162】
このように、チップ251を用いることにより、測定ユニット151における光学測定に適した試料をチップ101内で調製し、測定ユニット151における測定に供することが可能となる。
【0163】
なお、チップ251において、分離領域318は、第三の実施形態で後述するチップの分離領域と同様の構成とすることもできる。
【0164】
(第三の実施形態)
本実施形態は、第一の実施形態に記載の検査システム100(図1)に適用可能なチップの他の構成に関する。
【0165】
図26は、本実施形態に係るチップ224の概略構成を示す上面図である。チップ224において、第一または第二の実施形態と同様の構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0166】
チップ224は、試料導入部105に連通する第一の流路241が、分離領域245を介して第二の流路243に連通する構成となっている。第二の流路243は、液溜め107に連通する。
【0167】
第一の流路241の上流は試料導入部105に、下流は液溜め239に連通している。また、分離領域245より上流に前処理部231が形成されており、前処理部231には液溜め233が連通している。液溜め233にはたとえば緩衝液などの、液溜め239の希釈液または移動相の液性を調整する液体等が充填され、液溜め239には第一の流路241を通過した廃液等が導かれる。
【0168】
第二の流路243の上流は液溜め235に、下流は液溜め107に連通しており、分離領域245より下流には、検出部113〜検出部119が連通している。液溜め235にはたとえば緩衝液などの、液溜め239の希釈液または移動相の液性を調整する液体等が充填され、液溜め107には第二の流路243を通過した廃液等が導かれる。
【0169】
利用者187は、試料採取部228を用いて体液を採取し、得られた試料229を試料導入部105に導入する。試料採取部228は、試料229として用いる体液の採取方法に応じて、たとえばスポイトや穿刺針等とすることができる。
【0170】
チップ224において、試料導入部105に導入された試料229に含まれる被検出成分は、試料導入部105に導入された後、第一の流路241中を移動し、前処理部231を通過し、分離領域245を経由して第二の流路243に移動する。そして、第一の流路241に連通する検出部113〜検出部119に導かれ、第一または第二の実施形態と同様にして検出される。
【0171】
前処理部231は、試料229を分離領域245で分離する前に前処理を行う。前処理の内容は、試料229および試料229中の被検出成分の集累に応じて適宜選択されるが、たとえば、
(i)夾雑物の濾過、
(ii)粘度の低下、
(iii)pH調整、
等とすることができる。
【0172】
上記(i)の前処理の場合、たとえば、前処理部231に多孔質材料等を充填しておき、所定の大きさ以下の成分のみが下流に導入されるように構成することができる。また、上記(ii)の前処理の場合、液溜め233に塩化リゾチームを含む緩衝液を充填しておき、前処理部231で試料229と混合することができる。また、上記(iii)の前処理の場合、たとえば、液溜め233に所定のpHの緩衝液を充填しておき、前処理部231で試料229と混合することができる。
【0173】
第一の流路241は、分離領域245を介して第二の流路243に連通する。分離領域245は、所定の大きさ以下の成分のみを第一の流路241から第二の流路243へと移動させる分離流路である。このような分離領域245の構成は後述する。
【0174】
分離領域245において、第一の流路241からは前処理部231を通過した試料229が流れ、第二の流路243からは液溜め235に充填されていた液溜め235が流れると、第一の流路241から分離領域245を通過した試料229中の成分が、第二の流路243を液溜め107に向かって移動し、検出部113〜検出部119に導入される。
【0175】
図27は、分離領域245の構成の一例を示す図である。図27において、基板下部103bに幅W、深さDの溝部が形成され、この中に、直径φ、高さdの円柱形状のピラー325が等間隔で規則正しく形成されている。ピラー325間の間隙を試料が透過する。隣接するピラー325間の平均間隔はpである。各寸法は、たとえば図27に示された範囲とすることができる。
【0176】
なお、本明細書において、「ピラー」は柱状体の一形態として示したものであり、円柱ないし楕円柱の形状を有する微小な柱状体をいう。また、「ピラーパッチ」および「パッチ領域」は、柱状体配設部の一形態として示したものであり、多数のピラーが群をなして形成された領域をいう。
【0177】
ピラー325の作製は、たとえば基板下部103bを所定のパターン形状にエッチングすることにより行うことができるが、その作製方法に特に制限はない。
【0178】
基板下部103bにプラスチック材料を用いる場合、ピラー325は、エッチングやエンボス成形等の金型を用いたプレス成形、射出成形、光硬化による形成等、基板下部103bの材料の種類に適した公知の方法で行うことができる。
【0179】
基板下部103bをプラスチック材料により構成した場合、機械加工あるいはエッチング法によりマスタを製作し、このマスタを電気鋳造反転して製作した金型を用いて、射出成形または射出圧縮成形によりピラー325が形成された基板下部103bを形成することができる。また、ピラー325は、金型を用いたプレス加工により形成することもできる。さらに、光硬化性樹脂を用いた光造形法により、ピラー325が形成された基板下部103bを形成することもできる。
【0180】
また、基板下部103bにシリコンを用いる場合、カリックスアレーン電子ビームネガレジストやスミレジストNEB(住友化学製)等を用いてパターニングを行うこともできる。レジストの種類を適宜選択することにより、目的成分に応じた分離領域318を設計することができる。
【0181】
このチップによれば、体液中の成分を分離することができるため、検出部113において検出反応を確実に行わせることができる。また、移動端末127を用いた測定の精度および感度を向上させることができる。また、前処理部231を設けているため、試料229の分離効率及び検出感度をさらに向上させることが可能となる。
【0182】
なお、チップ224において、分離領域245は、第二の実施形態のチップ251(図18)の分離領域318と同様の構成とすることもできる。
【0183】
(第四の実施形態)
本実施形態は、以上の第一の実施形態〜第三の実施形態に記載の検査システム100を用いた血糖値の測定に関する。以下、検査システム100に図18のチップを用いた場合を例に説明する。
【0184】
チップ251の検出部323にグルコース定量試薬として、グルコースオキシダーゼ、ムロターゼ、ペルオキシダーゼ、およびアスコルビン酸オキシダーゼなどの酵素、ならびに4−アミノアンチピリンおよびフェノール等の発色試薬を付着させておく。このときの測定波長はたとえば505nmとする。また、分離領域318は、低分子成分が優先的に通過するような構成とする。また、図3の検出部113に相当する検出部323として、ブランクデータの取得に用いるための発色試薬を加えないでおく検出部323を設ける。
【0185】
利用者187は従来用いられている穿刺器具や、第三の実施形態における試料採取部228(図26)等を用いて指を穿刺し、チップ251上の試料導入部105に導入する。検出部323が発色したら、図17を用いて前述した手順に従って測定および測定値の送信を行う。本実施形態では、ステップ112において選択する測定対象を血糖値とする。こうすることにより、測定対象が血糖値であることが分析センター153の測定対象選択受付部157にて受け付けられる。そして分析部165および推定処理部179は血糖値の測定に関する情報を分析情報記憶部169および関連情報記憶部171から取得し、分析および推定を行う。
【0186】
推定処理部179における推定後、推定結果とともに、結果に対応する付加情報を送受信部185から移動端末127に送信してもよい。たとえば、血糖値が高い利用者187には、その自宅に近い医療機関を紹介したり、その診療受付日程を送信してもよい。血糖値がやや高い利用者187に対しては、これを改善させるための食事のメニュー等を送信してもよい。また、運動療法のメニューや、スポーツセンターのリスト等を送信することもできる。
【0187】
本実施形態の検査システムを用いることにより、血糖値に不安がある人も、糖尿病の人も、測定結果を速やかに分析センターに送信することができる。
【0188】
なお、本実施形態における測定対象を、血糖値に代えて尿糖値とすることもできる。
【0189】
(第五の実施形態)
本実施形態は、第一の実施形態〜第三の実施形態に記載の検査システム100を用いた血中コレステロールの測定に関する。以下、検査システム100に第三の実施形態に記載のチップ224(図26)を用いる場合を例に、説明をする。
【0190】
チップ224の検出部113〜検出部119のうちのいずれか三箇所に、それぞれ、LDL、HDL、および血中総コレステロールを測定するための測定試薬を付着させておく。残りの一つはブランクデータの取得に用いる。
【0191】
これらのコレステロールを定量するための検出反応は、たとえば酵素法によって行うことができる。検出部115が発色したら、第三の実施形態と同様の手順に従って測定および測定値の送信を行う。本実施形態では、ステップ112において選択する測定対象を血中コレステロールとする。
【0192】
本実施形態に係る検査システムを用いることにより、コレステロールの数値が心配な利用者187や、経過の観察が必要な利用者187が、定期的に医療機関を訪問することなく、自己の血中コレステロールの数値を把握することが可能である。
【0193】
(第六の実施形態)
本実施形態は、第一の実施形態〜第三の実施形態に記載の検査システム100を用いた血液型の判定に関する。以下、第一の実施形態に記載のチップ101(図3)と、第二の実施形態に記載のチップ251(図18)、第三の実施形態に記載のチップ(図26)を参照して説明する。
【0194】
まず図3のチップ101を利用してABO式血液型の「おもて検査」を実施する場合について説明する。「おもて検査」は、血液サンプル中の抗原を検出する検査である。
【0195】
2つの検出部113および検出部115のそれぞれに、凍結乾燥した抗A血清、抗B血清を一種ずつセットしておく。血液サンプルを試料導入部105に導入すると、血液サンプルは毛細管力により流路109を液溜め107方向へと進行する過程で、検出部113および検出部115を満たし、予めセットされていた抗A血清、抗B血清を溶解する。
【0196】
溶解した抗A血清、抗B血清は拡散等によって血液サンプルと混和し、血液サンプル中に、それぞれの抗血清に対する血球抗原(A抗原ないしB抗原)が存在する場合、赤血球を凝集させ沈殿させる。赤血球が凝集して沈殿すると、検出部113および検出部115を透過する光量が増加するので、光学的に検知することができる。
【0197】
抗A血清をセットした検出部113と、抗B血清をセットした検出部115がともに凝集すればAB型の血液、抗A血清をセットした検出部113だけが凝集すればA型の血液、抗B血清をセットした検出部115だけが凝集すればB型の血液、どちらも凝集しなければO型の血液と判定される。
【0198】
さらに測定ミスを防ぐために、対照としてチップ101上の流路群を同じチップ上に複数用意し、一方には血液サンプルを、他方には血液サンプルに代えて、表面にA型抗原またはB型抗原をコートしたラテックスビーズの懸濁液を導入し、ビーズ側でも確かに凝集が起こることをもって、誤判定を防ぐこともできる。
【0199】
次に図18のチップ251を利用して、ABO血液型の「うら検査」を実施する場合について説明する。「うら検査」は、血液サンプル中の抗体を検出する検査である。
【0200】
検出部323を少なくとも3つ用意し、それぞれに、A型抗原をコートしたラテックスビーズの懸濁液、B型抗原をコートしたラテックスビーズの懸濁液、O型抗原をコートしたラテックスビーズの懸濁液をセットしておく。その際、懸濁液の量を検出部323の全容量の半量程度として試料との混和を許す他、懸濁液が流路109に逆流しないよう、分注流路114に液体スイッチを設け、その液体スイッチを開放するためのトリガー流路を上流の流路109から分岐させると良い。液体スイッチの構成は、たとえば、図23を参照して前述した構成とする。
【0201】
血液サンプルを導入口106に導入すると、毛細管効果により流路330を進行するが、第二の実施形態にて図32(A)および図32(B)を参照して説明した効果により、反対側の流路109へは流入しないまま廃液溜め319へ至る。次に、抽出用のバッファー、たとえば、リン酸緩衝生理的食塩水(PBS)をバッファー導入口320に導入すると、微細流路329が開通するが、微細流路329の最大幅を赤血球の最小サイズよりも小さく(たとえば、1.8μm)作ることで、血球は流路330に残り、血漿成分だけが流路109へと抽出される。抽出された血漿成分は、混合部348で一定濃度となった後、流路109を液溜め107方向へと進行しつつ、分注流路114を介して検出部323を満たし、検出部323に予めセットされていたラテックスビーズ懸濁液と混ざる。抽出された血漿中に抗体が存在する場合、それに対する抗原がコートされたラテックスビーズを凝集させ沈殿させるため、上記の血球の場合と同様、光の透過度上昇を元に抗体の存在を検出できる。
【0202】
A型の血液には抗B抗体が、B型の血液には抗A抗体が、O型の血液には抗A抗体と抗B抗体の両方が含まれ、AB型の血液には両方とも含まれていないので、もし、すべての検出部323で凝集がおこらなければAB型の血液、A型抗原ラテックスビーズ懸濁液をセットした検出部323だけが凝集すればB型の血液、B型抗原ラテックスビーズ懸濁液をセットした検出部323だけが凝集すればA型の血液、A型抗原ラテックスビーズ懸濁液とB型抗原ラテックスビーズ懸濁液の両方が凝集すれば、O型の血液と判定できる。
【0203】
次に図26のチップ224を利用して、白血球型(HLA型)を1次判定する場合について説明する。血球型には、A、B、C、Dの4タイプがあり、そぞれ複数のサブタイプを持つ。1次判定は、各抗原タイプに対する抗血清と反応して血液サンプル中の白血球が凝集もしくは破壊される現象を利用して判定する方法である。
【0204】
まず、チップ224の検出部113等に各HALタイプとサブタイプに対する抗血清、またはウサギ補体を凍結乾燥したものをセットしておく。図26のチップ224には、検出部113、検出部115、検出部117、検出部119の4個の検出部が用意されているが、HAL型はそれ以上存在するので適宜追加して検出部の数はサブタイプ分も含めて充分用意されたものとして、以下説明する。
【0205】
チップ224の分離領域245を利用することで、血液サンプル中の血球をその大きさの順序に分けて取り出すことができる。ピラーがパッチ状に形成された分離領域245の場合、血球の中で最も大きな白血球が、最初に分離されて出てくることを利用して血液サンプル中の白血球だけを検出部に導く。
【0206】
分離領域245の具体的構造は、図28に示すようなサイズの大きい成分を早く通過させるタイプのピラーパッチ構造とすることができる。分離領域245は、図28において図の左側が図26における第一の流路241に、右側は第二の流路243と連通した構造となっている。隣接するピラーパッチ321間のパスの幅は、ピラーパッチ321中のピラー325間の間隙よりも大きい。本実施形態では血球を分離するので、ピラー325間の間隙をたとえば100nm〜1000nm程度とし、パスの幅を、ピラー325間の間隙の好ましくは2〜20倍程度、より好ましくは5〜10倍程度とする。図28においてピラーパッチ部分の長さを長くすることで、白血球、赤血球、血小板が流出してくる時間差を大きくすることができる。
【0207】
図26にもどって、処理手順を説明する。まず血液サンプルを試料導入部105に導入し、前処理部231にて液溜め233に保持されたバッファー(たとえばPBS)と混合して2〜10倍程度に希釈したサンプルを、第一の流路241を介して分離領域245へと供給する。その際、液溜め233からバッファーを前処理部231に導くタイミング、および前処理部231から第一の流路241へとサンプルを導くタイミングは、前述した液体スイッチと流路拡張領域を利用することで最適に選ぶことができる。具体的には、液溜め233と前処理部231を接続している流路上と、第一の流路241の前処理部231側(上流側)の部分に液体スイッチを設け、それらの液体スイッチへのトリガー流路は、試料導入部105から、適切な遅延時間を生じるような流路拡張領域を介して供給される構成とすればよい。
【0208】
希釈された血液サンプルが第一の流路241から分離領域245を通過して第二の流路243側へ出現する際、サイズが最大の白血球が最初に出現し、遅れて赤血球、最後に血小板が出現してくる。白血球と赤血球の流出時間の差を利用して、白血球のみが第二の流路243に出現した段階で、液溜め235から第二の流路243にバッファーを供給すると、白血球だけがバッファーと混合されつつ第二の流路243を液溜め107へと流れ、その途中で検出部113に始まる複数の検出部に分注される。液溜め235からバッファーを導入するタイミングは、液溜め235と分離領域245を接続している流路上に液体スイッチを設け、そのトリガー流路は、第一の流路241から、血球の分離速度に応じた最適な遅延時間を持つ流路拡張領域を介して供給する構成によって実現できる。
【0209】
検出部に分注されたバッファーと白血球の混合液は、検出部にセットされていた抗血清を溶解してそれと反応する。白血球が凝集した場合、検出部にセットされていた抗血清に対するタイプの抗原を持つことが、凝集にともなう検出部の光の透過度向上をもとに検知できる。また、抗血清だけでなくウサギ補体を同時にセットしておいた場合は、白血球が破裂溶解して検出部が透明化するので、これを光学的に検出することで抗原の存在を検知してもよい。
【0210】
以上のようにすれば、血液サンプルの血液型検査に必要な検出反応をチップを用いて簡便かつ確実に行い、チップの検出部の光学特性を移動端末127の測定ユニット151を用いて測定することができる。
【0211】
次に、上述した血液型検査チップを利用する検査システムについて説明する。図29は、血液型検査チップを利用する検査システムの構成を示す図である。図29の検査システム211において、検査システム100(図12)と同様の構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0212】
検査システム211では、測定装置129、分析センター153に加え、さらに医療機関213を含む。医療機関213は、送受信部215と、血液管理部217と、ストック状況記憶部219とを含む。医療機関213と分析センター153とは、ネットワーク201を介して接続している。
【0213】
送受信部215は、ネットワーク201を介して分析センター153と通信を行い、また、利用者187の移動端末127との通信を行う。
【0214】
血液管理部217は、医療機関213での輸血に関する情報を管理する。推定処理部179において推定された利用者187の血液型に関する情報に基づき、利用者187に輸血可能な血液のストック状況をストック状況記憶部219から読み出す。読み出した情報を、移動端末127に送信する。また、ネットワーク201を介して、他の医療機関(不図示)から輸血の手配を行い、利用者187を迎える準備をしてもよい。
【0215】
このような構成とすることにより、利用者187が大きな事故やけが等にみまわれ、救急車(不図示)により医療機関213に搬送する必要が生じた際に、最適な医療機関に搬送することができる。
【0216】
なお、移動端末127の利用者187は、負傷した者であっても、かけつけた救急隊員であってもよい。負傷者が利用者187である場合、利用者187自身が測定することが可能であれば自分で測定を行い、測定が困難である場合には、救急隊員が測定を行う。利用者187の移動端末127を用いることにより、負傷者が意識不明等、身元を名乗ることができない状況においても、移動端末127の利用者IDを用いて身元を明らかにし、家族に連絡を取ることが可能である。
【0217】
また、負傷者が移動端末127を所持していない場合には、救急隊員が所持している移動端末127およびチップ193を用いて負傷部の血液の測定を行い、負傷者の血液型を判定してもよい。
【0218】
また、本実施形態では、推定処理部179での推定結果を医療機関213に送信し、これを受信した医療機関213が適合する血液のストック状況を移動端末127に送信することにより、救急隊員は最適な医療機関213を選択し、利用者187を迅速に搬送することができる。
【0219】
なお、図29の検査システム211は、本実施形態だけでなく、他の実施形態にも適用することが可能であり、検査システム211に適用されるチップの構成も、上記いずれかの実施形態に記載の構成を任意に選択することが可能である。
【0220】
(第七の実施形態)
本実施形態は、第一〜第三の実施形態に記載の検査システムを用いたストレスレベルの判定に関する。
【0221】
ストレスレベルの判定は、唾液中のカテコールアミン濃度を検出することにより行うことができる。カテコールアミンの検出には、たとえばルミノール型の化学発光試薬等を用いることができる。
【0222】
本実施形態において、推定処理部179は利用者187のストレスレベルを判定し、ストレスレベルが低い場合、利用者187に注意をうながす。
【0223】
また、図30は、本実施形態に係る検査システムの別の構成を示す図である。図30の検査システム209において、検査システム100(図1)と同様の構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0224】
検査システム209では、測定装置129、分析センター153に加え、さらに管理会社199を含む。管理会社199は、たとえば、原子力発電所、鉱山、炭坑、監視業務等、作業者のストレスレベルの維持が重要な業務に従事する利用者187の要員配置を管理する。管理会社199は、送受信部203と、要員配置管理部205と、配置情報記憶部207とを含む。管理会社199と分析センター153とは、ネットワーク201を介して接続している。
【0225】
送受信部203は、ネットワーク201を介して分析センター153と通信を行い、また、利用者187の移動端末127との通信を行う。
【0226】
要員配置管理部205は、利用者187の作業スケジュールを管理する。推定処理部179での推定結果に基づき、利用者187の要員配置の変更等を行う。その際、配置情報記憶部207に格納された要員配置配置に関する情報を参照し、また、これを変更する際には新たな配置を配置情報記憶部207に記憶させる。
【0227】
また、要員配置管理部205で設定された要員配置の変更は、送受信部203から利用者187の移動端末127に送信され、表示部145に提示される。代替要員を作業現場に派遣する際には、利用者情報記憶部175またはエリア情報記憶部177に記憶されている交代させる作業者のエリア情報に基づき、交代が容易な者を派遣する。
【0228】
このような構成とすることにより、作業者のストレスレベルの維持が重要な業務において、要員配置の最適化が可能となる。このため、作業の安全性が好適に維持される。
【0229】
なお、図30の検査システム209は、本実施形態だけでなく、本発明に係る他の実施形態にも適用することが可能であり、検査システム209に適用されるチップの構成も、上記いずれかの実施形態に記載の構成を任意に選択することが可能である。
【0230】
(第八の実施形態)
本実施形態は、第一の実施形態に記載の検査システム100(図1)に適用可能なチップの他の構成に関する。本実施形態に記載のチップは、移動端末127における測定後、チップを中和する構成となっている。
【0231】
測定に用いたチップの内部には、試料に由来する細菌などの感染源や、測定試薬に由来する強酸やシアン化合物などの毒物が保持されている場合がある。このような場合、使用後のチップを中和し、また必要に応じて無毒化しておけば、健康被害等が生じる可能性をさらに確実に回避し、より一層安全に持ち運べ、安全に廃棄できる。具体的には、測定後、中和液をチップ内の流路に充填することにより、チップ内に保持された感染源や毒物を中和する構成等とする。
【0232】
中和液としては、たとえば、細菌に対しては、中性洗剤や次亜塩素酸ナトリウムの希薄水溶液が挙げられる。また、強酸に対しては、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ水溶液等が挙げられる。また、シアン化合物に対しては、シアン化合物を酸化分解するアルカリ性次亜塩素酸ナトリウム水溶液(pH8〜9)等を挙げることができる。特に、微量の界面活性剤を含むアルカリ性次亜塩素酸ナトリウム水溶液は、感染源、酸、シアンのいずれにも有効であるため、好ましく用いることができる。
【0233】
図40(A)は、中和機構を備えるチップの構成を示す平面図である。また、図40(B)は図40(A)の断面図である。図40(A)および図40(B)に示したチップは、中和液溜め902、隔膜905、空気穴904、針911および空気穴909を有するチップ上板900と、中和液流路903空気穴909を有するチップ中板912と、検出槽906、検出用流路907などの分析用流路系、および廃液溜め910を有するチップ下板901とが接合されてなる。空気穴909は、チップ上板900およびチップ中板912を貫通し、廃液溜め910に連通している。図40(A)および図40(B)に示したチップは、チップ上板900、チップ中板912、およびチップ下板901をそれぞれ成形し、張り合わせることにより得られる。
【0234】
隔膜905は、チップ上板900とチップ中板912との間に設けられ、中和液溜め902を中和液流路903から離隔している。中和液溜め902の上面は薄く、チップ上板900側から使用者が中和液溜め902の上面を押すと変形するように構成される。中和液溜め902の上面の変形により、上面に固定されていた針911が隔膜905に穿刺され、隔膜905に穴ができる。
【0235】
中和液流路903は、検出槽906、検出用流路907などの分析用流路系に少なくとも一箇所で連通している。中和液流路903の一端は、隔膜905の下方において拡径しており、拡径部908となっている。拡径部908の上部に針911が位置している。検出用流路907は廃液溜め910と連通している。中和液溜め902には、前述した中和液が収容されており、その水面は、分析用流路系および廃液溜め910の上面よりも高い位置に保持されている。
【0236】
チップ内を中和する際には、利用者は、使用前はシール等でふさがれている空気穴904および空気穴909を開放し、中和液溜め902の上面から隔膜905に向かって針911を押しつけ、隔膜905の一部に穴を開ける。すると、中和液が毛細管効果と水位差によって中和液流路903に流入し、中和液流路903を介して、検出槽906および検出用流路907を含む分析用流路系を満たしてゆく。その結果、分析用流路内に残っていた感染源や有毒な液体が廃液溜め910へと押し流されてゆき、廃液溜め910の中で中和される。この構成により、測定後のチップを簡便に中和することができる。中和により、チップの流路系を簡便に消毒したり、無毒化したりすることができる。
【0237】
また上述した構成では、利用者が中和を忘れる可能性がある。この懸念を避けるために、移動端末の側の構造を工夫することで、測定終了後、チップ取り外す際に、中和液溜め902の上面を押さざるを得ない構成とすることもできる。
【0238】
たとえば、図40(A)および図40(B)に示した中和液溜め902を有するチップと移動端末とは、測定の終了したチップを移動端末から離脱させることをきっかけとして、中和液溜め902に保持されていた中和液が、中和液流路903を経由して検出用流路907および検出槽906に導入される機構をさらに有してもよい。
【0239】
具体的には、移動端末のチップ装着部分に、チップが抜去できないようにチップを下側から保持する可動式のかぎ爪と、チップの少なくとも中和液溜め902の上面部分を覆う「ひさし」部を設ける。図45(A)〜図45(C)は、こうした構成の移動端末およびチップの構成を示す図である。図45(A)では、「ひさし」部を移動端末の裏面に設けた構成を例示した断面図であり、図45(B)および図45(C)は断面図である。移動端末の裏面は、たとえば図4に示した移動端末の機能ボタン群143が設けられた面の裏面とすることができる。図40(A)、図45(A)および図45(A)〜図45(C)を参照すると「ひさし」部は、かぎ爪を保持する板と側面で結合されている(図45(B))。「ひさし」部とかぎ爪を保持する板とは、弾性変形可能な樹脂、あるいは金属で構成され、「ひさし」部を押し下げると、かぎ爪を保持する板も同時に変形してかぎ爪が移動端末の内部に収納されるような構造になっている(図45(C))。
【0240】
「ひさし」部のチップの中和液溜め902の上面に対応する位置には、曲面を有する突起が設けられており、「ひさし」部を押し下げると、突起が中和液溜め902の上面を押し変形させる。このとき、針911が隔膜905に押しつけられるため、隔膜905に穴があく。突起はチップを挟んでいるが、球面の一部のようななだらかな形状をしているため、かぎ爪を押し下げたままの状態でもチップを抜去することができる。以上の構成により、利用者はチップを抜去する際、必ず「ひさし」部を押し下げて、その下にある中和液溜め902の上面を押さねばならないようにすることができる。
【0241】
なお、拡径部908からトリガー流路を分岐させ、このトリガー流路が液体スイッチを介して中和液流路903の所定の位置に接続している構成とすることもできる。こうすれば、検出槽906から中和液流路903に向かって液体が逆流することを抑制できる。
【0242】
また、本実施形態において、中和機構を有するチップは、PMMAなどの樹脂材料からなるチップ上板900および、チップ下板901に所望の流路系を構成した後、これらを張り合わせることで製造できるが、チップの構造は、チップ上板900、チップ下板901を持つ構造に限定されるものではない。また、中和液溜め902から廃液溜め910への中和液の送液に、毛細管効果と水位差を利用したが、空気穴904を設けず、予め中和液溜め902内に大気圧よりも高い圧力のガスを保持しておき、その圧力を利用して中和液を送ることもできる。また、外付けの送液手段を用いて中和液を送ることもできる。
【0243】
また、図40(A)および図40(B)に示したチップの検出用流路907に図9を用いて前述した検出方法を適用し、各検出槽906に連通する検出用流路907の分注領域を図9における検出部113または検出部115として用いてもよい。
【0244】
(第九の実施形態)
本実施形態は、第一の実施形態に記載の検査システム100(図1)に適用可能な測定装置129の別の構成に関する。分析チップにおいて、吸光または散乱をもとに所定の物質の濃度を測定しようとする場合、試料中を通過する光路が適切な長さを持つ必要があるため、微量な試料を分析する場合、流路の伸長方向に光を透過させて測定する方法がある。この場合、試料が微量でも流路の断面積が少ないため、5mm〜1cm程度の大きな光路長を確保できる。しかしながら、流路断面の幅が数百μm〜数十μm程度と小さい場合、照射光を流路に確実に入射し、流路の反対側から透過光を確実に受光部に導くには精密な位置あわせが必要となる。このため、測定時間の短縮や、測定データの再現性の向上の点で、さらに改善の余地を残す。
【0245】
本実施形態の測定装置は、このような場合にも好適に用いることができる。本実施形態では、チップの対向する側面に凹部を設け、移動端末のチップ挿入部内に、チップの凹部に係合する二つの凸部を設ける。チップを装着する移動端末部分とを、形状が符合する凸凹に加工しておくことで、位置あわせをより一層簡便に実施できる。また、移動端末の二つの凸部の一方に光源からの光を導き、他方に受光部、もしくは受光部への導波路を設ける。そして、チップの検出用流路を介して光源と受光部とが対向するように、チップの検出用流路を形成する。これにより、測定時の光路長をさらに大きくし、また、測定を安定的に行うことができる。
【0246】
図41および図42は、本実施形態に係る測定装置を示す斜視図である。図41および図42に示した測定装置は、チップ700および移動端末706からなる。図41は、チップ700を移動端末706の所定の位置に挿入する前の状態を示し、図42は、チップ700が移動端末706に挿入されている状態を示す。なお、図41および図42では、移動端末706のチップ700が装着される領域とその近傍を示したが、移動端末706には、たとえば以上の実施形態に記載の移動端末127の構成を適用することができる。
【0247】
チップ700は、矩形に曲がった流路701を有し、流路701の直線部分は、十分薄くて透明な隔壁を介して切欠部702と接している。また、移動端末706は、凹状の装着部704を有する。チップ700を移動端末706に装着すると、装着部704に設けられた照射部703と受光部705とが切欠部702にはまり込み、これらの係合によりチップ700が移動端末706に係止、固定される。
【0248】
照射部703および受光部705は、バネなどの弾性部材を介して装着部704に対向して固定されており、軸方向にスライド可能である。照射部703は、移動端末706の内部からチップ700へと測定光を導く光ファイバの先端、またはLEDなどの光源を摩耗しにくい樹脂等の材料で被覆し略円錐台形状に加工したものである。照射部703の先端から測定光がチップ700の流路701に照射される。受光部705は、流路701からの光を移動端末706の測定部へ導く光ファイバの先端、またはフォトダイオードを摩耗しにくい樹脂等の材料で被覆し略台形に加工したものであり、流路701の延在方向に沿って流路701中を通過した光が、受光部705の先端へと出射する。
【0249】
図41に示したように、装着部704にチップ700を図中矢印の方向から押し込むと、照射部703および受光部705は、チップ700の側面に押されて、一時的に装着部704の側から移動端末706の内部側へと押し込まれるが、チップ700の切欠部702に到達すると弾性材によって飛び出し、図42に示したように、照射部703および受光部705が切欠部702にはまり込む。この状態で計測した後、チップ700を図41中の矢印と逆の方向に引くと、照射部703と受光部705は、切欠部702の側壁で押されることにより、再度、移動端末706の内部に押し込まれ、チップ700を移動端末706から引き抜くことができる。
【0250】
図41および図42に示した構成の測定装置を用いることにより、チップ700と移動端末706との位置あわせを短時間でさらに確実に行うことができる。このため、測定時間を短縮することができる。また、測定データの再現性を向上させることができる。
【0251】
(第十の実施形態)
本実施形態は、第一の実施形態に記載の検査システム100(図1)に適用可能な測定装置129の他の構成に関する。本実施形態に記載の測定装置においては、チップが流路状の検出部を有し、移動端末においてチップの検出部の長さの計測が可能である。
【0252】
ガス検知管のように、濃度に応じて変色部分が長くなるような検出部を有する場合、目視にて変色部分の長さを読むことも可能であるが、人によって読み方にばらつきが出るという懸念がある。本発明の測定装置によれば、移動端末に長さを計測する光学機構が設けられているため、このような場合にも、測定結果のばらつきを低減することができる。
【0253】
図43は、変色部分の長さを計測するための機構を示す断面図である。図43に示した測定装置において、移動端末は、基板607と、基板607上に、チップ挿入時にチップの流路方向に沿うように配置されたフォトダイオードなどの受光素子606と、受光素子606の直上に設けられた透明で摩耗しにくいクリスタルガラスなどの材料からなる接触部605と、を備える。また、移動端末の他の部材の構成は、以上の実施形態に記載の移動端末127の構成とすることができる。
【0254】
また、図43に示した測定装置において、チップは、チップフタ600と、チップ底板601と、光導波路602と、分析用流路603とを備える。少なくともチップ底板601と分析用流路603は、たとえばPMMA等の透明な樹脂やガラスなどの透明な材料からなる。また、分析用流路603の一部には着色した内容物604が流れてくる。
【0255】
測定の際には、着色した内容物604が分析用流路603内に存在している状態で、チップを、移動端末の接触部605に、図示した位置関係で接触させる。光導波路602に光を照射すると、光導波路602から漏出した光が分析用流路603を全体的に照明する。この照明が、分析用流路603の内容を透過して、受光素子606に届く。このとき、分析用流路603の延在方向に沿って複数の受光素子606が一列に並んで設けられているため、着色した内容物604が存在している領域の直下に位置する受光素子606には、そうでない領域の直下に位置する受光素子606に比べて少ない光量しか到達しない。
【0256】
一列に並んで設けられた受光素子606に順に番号を付しておき、この光量の差を分析用流路603の長手方向に対してモニターすることで、充分な光量しか受けていない受光素子の番号として、着色した内容物604の長さを定量することができる。このため、試料中の所定の成分の濃度を着色した内容物604の長さとして、所定の成分の定量を行うことができるので、人による測定結果のばらつきを防ぐことができる。
【0257】
(第十一の実施形態)
以上の実施形態に記載の検査システムにおいて、移動端末127は、着脱式センサをさらに有する構成とすることもできる。以下、移動端末127が携帯電話である場合を例に説明する。
【0258】
図34は本実施形態に係る着脱式センサつき移動端末の構成を示す図である。図34に示した移動端末は、本体500、本体500から突出したロッド501、およびロッド501の先端部に設けられたセンサユニット502からなる。センサユニット502を試料に浸漬することにより、試料中の所定の成分を測定または検出できる。たとえば尿等の体液が試料として試験管やビーカー等に保持されている場合、移動端末をこのような形状とすることで、簡便に測定を行うことができる。本体500の基本構成は、たとえば第一の実施形態において前述した移動端末127の構成とすることができる。
【0259】
センサユニット502は、ロッド501の先に装着され移動端末の内部の測定装置に接続されている。センサユニット502は、イオン濃度もしくはグルコース濃度などを測定する電気化学センサ、または図35を参照して後述する構成等の光ファイバを利用した光学的センサである。電気化学的センサの場合、センサユニット502は電極を介して移動端末の内部の測定装置に接続される。
【0260】
光学的センサの場合、センサユニット502は、光コネクタを介して移動端末127に接続される。図35は、着脱式光学センサの構成の一例を示す図である。なお、図35のE−E’方向は、図34のE−E’方向に対応する。光学センサは、複数の光ファイバコア513を保持する外筒510と、外筒510の先端に設けられた毛細管セル512と、光ファイバコアからの光をロッド501中の光学系に接続する光コネクタ511とからなる。ロッド501中の光学系は、光源および受光部を備える。
【0261】
外筒510の材料は、光ファイバコア513に対してほぼ全反射するようなクラッド材料とする。このセンサユニット502の先端を試料に浸漬すると、毛細管効果により試料が毛細管セル512内に進入する。毛細管セル512のロッド501側端部の側方に対向して設けられた一対の光ファイバコア513の一方を介して光源からの光を照射し、他方を介して測光することにより、毛細管セル512内部に浸入した試料の吸光または散乱等が測定できる。
【0262】
なお、図34および図35において、センサユニット502は、センサ部分の時候劣化を考慮すると、ロッド501に対して着脱可能な構成とすることが好ましいが、固定式としてもよい。また、ロッド501は、携帯時には移動端末の内部へ引き込まれ、測定に用いる際に引き出して利用する構成とすることができる。このようにすると、携帯時の移動端末全体の小型化が可能であり、ロッド501が携帯の際にじゃまにならず、利便性をさらに向上させることができる。
【0263】
また、本実施形態において、試料が付着した部分の洗浄が可能な構成とすることもできる。たとえば、図34または図35に示した移動端末は、さらにセンサユニット502を洗浄する機構を有することもできる。洗浄機構を設けることにより、試料で汚れることの多いセンサユニット502を、測定前または測定後に洗浄することができるので、さらに正確な測定データが得られる。また、移動端末をより一層衛生的に携帯し、持ち運ぶことができる。
【0264】
図36は、洗浄機構を有する移動端末の構成の一例を示す図である。また、図37は、図36に示した移動端末のロッド501の端部近傍の構成を示すF−F’断面図である。図36および図37に示した移動端末は、図34に示した移動端末において、本体500にさらに洗浄液カセット507、洗浄用流路505、制御機構506が内蔵されている。
【0265】
ロッド501の内部に洗浄用流路508が設けられている。洗浄用流路508は、制御機構506を介して洗浄液カセット507と連通している。洗浄液カセット507には、たとえば希薄な中性洗剤または次亜塩素酸を含む洗浄液と圧縮炭酸ガスなどの膨張剤とが収容されている。制御機構506を押すなどして洗浄用流路505が開通すると、洗浄液は洗浄用流路505とロッド501内の洗浄用流路508とをこの順に移動して、自動的にロッド501の先端付近から吹き出し、センサユニット502を洗浄する。
【0266】
ロッド501の先端付近には、センサユニット502に向かって拡径するフード504が設けられているため、洗浄液の飛散を抑制しつつセンサユニット502を効率よく洗浄できる。また、フード504をロッド501の延在方向に沿ってスライド可能とすることにより、洗浄時にセンサユニット502を覆う状態にすることもできる。こうすれば、センサユニット502をさらに効率よく洗浄できる。ロッド501およびフード504の材料は、化学薬品耐性のあるテフロン(登録商標)等の樹脂とすることができる。こうすれば、ロッド501およびフード504の劣化を抑制し、長期間使用することができる。
【0267】
洗浄液カセット507は、本体500に対して着脱可能なカートリッジとすることができる。こうすれば、洗浄液カセット507中の洗浄液および膨張剤が不足した際に、洗浄液カセット507を本体500から取り外し、新しい洗浄液カセット507に交換することで、洗浄液および膨張剤を補充できる構造になっている。
【0268】
以上、本発明を実施形態に基づき説明した。これらの実施形態は例示であり、様々な変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0269】
たとえば、以上の実施形態においては、測定装置129に適用する移動端末127として携帯電話を用いる場合を例に説明をしたが、測定装置129に用いる移動端末127は携帯電話には限定されず、たとえば携帯用コンピュータ等としてもよい。
【0270】
また、分析センター153は、利用者187が移動端末127を用いて行った測定の位置または時間に関する状況に応じて、各利用者187の分析結果を補正することができる。たとえば、血中コルチゾールなどの副腎皮質ホルモンや、成長ホルモンなどの下垂体ホルモンは、一日の中で時刻により測定値に高低が生じるため、これを測定時間に応じて補正することができる。また、測定値の気温に応じて測定値が変動する項目を測定する場合、測定位置の気温に関する情報を別途取得し、これに応じて測定値を補正した後、分析を行うこともできる。また、利用者情報記憶部175に記憶された利用者187ごとの過去の測定結果または分析結果に基づき、分析情報記憶部169に記憶された情報を利用者187ごとに補正して分析を行ってもよい。
【0271】
また、以上の実施形態においては、チップに設けられている検出部の形状が主として円柱形である場合を例示したが、これらは内容物の分析(検出または測定)を行うような形状であればよく、円柱形に限られず適宜選択することができる。たとえば、検出部の形状を、四角柱等の角柱とすることができる。また、検出部は憩室状でなくてもよく、たとえば図9を参照して前述したように、流路状としてもよい。
【0272】
また、以上においては、検出槽以外のチップに設けられている他の液溜め、たとえば図3に示したチップの場合試料導入部105や液溜め107についても、それぞれの液溜めに導入または回収される液体を保持するのに充分な体積が確保されていればよく、円柱以外の形状とすることができる。チップに設ける液溜めの形状は、たとえば、四角柱等の角柱や、所定の平面形状の流路状とすることができる。また、廃液溜めとして機能する液溜めの形状をたとえば平面視においてジグザグ型の流路状としたり、内面に凹凸が形成された柱状とすることもできる。こうすれば、廃液溜めの表面積を増加させることができるので、毛細管効果をさらに向上させ、廃液をさらに確実に回収可能な構成とすることができる。
【0273】
また、以上の実施形態においては、移動端末127にチップ挿入部131または切欠部132が形成された構成としたがチップ101をチップ挿入部131または切欠部132に挿入せずに測定する態様としてもよい。このような測定として、たとえば下記(I)または(II)の態様が可能である。
【0274】
(I)非接触測定
チップ101をチップ挿入部131または切欠部132に挿入せず、非接触による測定を行うことができる。非接触での測定とすることにより、移動端末127への試薬の付着等による汚染を確実に抑制することができる。また、測定可能なチップ101の形態の自由度を高め、移動端末127を汎用化することができる。
【0275】
非接触での測定として、具体的には、たとえばPOS端末タイプのスキャンが可能である。この場合、移動端末127に、小型のPOSスキャン装置を搭載しておく。このスキャン装置によって、単一波長あるいは数波長のレーザーパルスをチップ101に設けられた複数の検出槽に順次照射する。スキャンした際の各検出槽での反射パルス光の強さを計測することにより、各検出槽についての測定が可能となる。
【0276】
また、チップ101で光を反射させ、反射光の強さを測定することもできる。たとえば、検出部の底面に金属蒸着などの方法により鏡面を設けることができる。また、チップ101の底面全面を鏡面としてもよい。鏡面を設けることにより、光路長を増加させることができるため、より正確な測定値を得ることができる。
【0277】
また、チップ101に、バーコード上の位置決め用ターゲットを設けてもよい。こうすると、多数の検出槽について測定を行う場合にも、ターゲット間の位置関係からどの検出槽についての測定値であるかを容易に判定することができる。
【0278】
(II)移動端末に接続可能な測定用アタッチメントの利用
移動端末127に接続可能な測定用のアタッチメントを別途設けることにより、チップ101を直接チップ挿入部131または切欠部132に挿入せずに測定することができる。アダプターを介して測定することにより、チップ101の形態の自由度を増すことができる。また、移動端末127の汚染を防止することができる。また、移動端末127自体の構造を簡素化することができる。また、アタッチメントの種類の選択が可能となるため、測定方法の自由度を増加させることができる。
【0279】
具体的には、移動端末127上にCCDカメラによる測定のためのアタッチメントを設けてもよい。この場合、チップ101およびカメラの距離と位置とを固定するための固定具を介して、チップ101の検出槽付近を撮影する。アタッチメントに相当する固定具は、折りたたみ式等とすることにより、小型化することができる。
【0280】
測定の際には、固定具の底面にチップ101を設置し、固定具の上面の所定位置に移動端末127を設置し、固定する。このとき、移動端末127に設けられたCCDカメラを下に向けて設置する。シャッターボタンを押して撮影後、画像処理により、RBG各色の強さから、各検出部における発色の強さを推定することができる。
【0281】
また、移動端末に接続して用いる測定用アタッチメントは、たとえばUSB、RS232C、GPIB、またはパラレルI/O等のインターフェイスを経由して移動端末に接続される構成とすることができる。こうすれば、移動端末の汚染をさらに確実に抑制し、また、移動端末と測定用アタッチメントをより一層確実に接続することができる。
【0282】
また、チップ101が電子チップを有していてもよい。電子チップを有するチップ101と移動端末127を用いることにより、測定装置129および検査システム100にたとえば以下の機能をさらに付与することが可能となる。
(i)非接触化
(ii)個人認証の利用
(iii)位置情報の利用
(iv)チップ自体のIDの利用
(v)チップの有効期限の保障
(vi)移動端末からカスタムチップ仕様の選択
(vii)移動端末とオンライン発注の組み合わせ
(viii)測定後、ID情報を読みとり不能にするトリガーを出力する機能
以下、これらについて順に説明する。
【0283】
(i)非接触化
電子チップを有するチップ101を用いると、チップ101を移動端末127に挿入することなく非接触で測定することが可能となる。このため、移動端末127にチップ挿入部131または切欠部132が形成されていなくても測定が可能となる。
【0284】
この場合、チップ101自体が測定部を有する構成とする。図13は、このようなチップ101の構成を示す図である。図13のチップでは、電子チップに設けられた通信部で移動端末127との間の情報の送受信が可能である。また、電子チップは、通信部で受信した情報に基づき、測定部での測定条件を制御する制御部を有する。この構成では、測定データを通信部から移動端末127に送信することができる。送信は、たとえば無線信号とすることができる。また、この構成によれば、移動端末127の装置構成を簡素化することができるため、測定装置129をさらに効率よく生産することができる。
【0285】
(ii)個人認証の利用
チップ101が電子チップを有する構成とすることにより、チップ101の使用者を特定の個人に限定したり、測定データの使用を特定の個人に限定したりすることができる。このため、チップ101の使用者のプライバシーの保護を強化することができる。たとえば、廃棄したチップ101からは他人がデータを読み出せないような構成としたり、電子チップをオンラインで課金するための一手段として利用したり、オンラインでチップ101を注文すると、使用者の個人情報が書きこまれたチップ101が使用者に届き、そのチップ101の情報が移動端末127が保持する個人情報と一致した時にのみ使用可能となる構成としたりすることができる。
【0286】
(iii)位置情報の利用
電子チップを有するチップ101が、限られた範囲において受信可能な弱い電波を発する構成とすることにより、移動端末127には自身の位置情報を送信する機能がない場合にも、チップ101の位置情報を移動端末127の位置に関する情報として送信することが可能となる。
【0287】
(iv)チップ自体のIDの利用
電子チップを有するチップ101を用いると、利用者によるチップ101の誤使用を防止することができる。たとえば、個人利用者がオンラインで肝機能検査用のチップ101を注文した場合、移動端末127に注文に関する情報を記録する構成とすることができる。こうすれば、肝機能検査以外に用いるチップ101、たとえば腎機能検査用のチップ101が誤って届いた場合にも、移動端末127に記録されたチップ101の種類に関する情報と、チップ101のIDすなわち腎機能検査用のチップであるなどの情報が異なる場合には測定できない構成とすることができる。
【0288】
(v)チップの有効期限保障
チップ101の有効使用期限は、通常、チップ101の表面に文字印刷されるが、必ずしも利用者によりチェックされない場合がある。そこで、使用期限確認のヒューマンエラーを防ぐために電子チップを利用することができる。たとえば、チップ101上にタイマー用の電子チップを設けておくことができる。また、製造年月日を移動端末127で読み取れる形式、たとえばバーコードや磁気テープなどで記録しておくこともできる。
【0289】
(vi)移動端末からカスタムチップ仕様の選択
電子チップを有するチップ101を用いることにより、汎用タイプのデザインのチップ101を準備しておき、発注に応じてカスタマイズして用いることが可能となる。たとえば、オンラインで発注したチップ101の種類に関する情報、たとえば肝機能測定用のチップ等が移動端末127に記録され、その種類に関するデータにしたがってその場でチップ101の仕様を変更し、特定の項目を測定する肝機能測定用のチップにカスタマイズして用いることができる。
【0290】
図31は、このようなチップ101の構成の一例を示す図である。図31のチップ101は、電子チップと調節部を有する。電子チップは、移動端末127との間で情報の送受信を行う通信部と、チップ101に導入された試料の移動経路を制御する弁制御部を有する。チップ101において、試料の移動経路には、試料の移動の可否を調節可能な調節部が設けられている。調節部は、たとえば流路に設けられた開閉可能な弁とすることができる。弁制御部は、通信部から受信した情報に基づき、調節部の弁の開閉を制御することができる。こうすれば、試料の種類やチップの種類、測定対象等に関する情報に応じて、チップ中での試料の移動経路のカスタマイズが可能となる。
【0291】
チップのカスタマイズ処理の流れは、たとえば、以下のようにすることができる。オンラインでの発注後、チップ101の種類に関する情報を移動端末127に記録する。そして、チップ101の種類に関する情報を移動端末127でチップ101上に設けられた弁のON/OFFパターンデータに変換し、そのパターンデータをチップ101に送信すると、チップ101に設けられた電子チップがそのパターンに応じてチップ上の弁を開閉する。こうしてカスタマイズされたチップが完成し、使用可能となる。また、チップ101の種類に関する情報すなわち移動端末127に記録された情報とチップ101上の情報に応じて、これらの間で測定データの授受をする構成としてもよい。
【0292】
なお、カスタマイズ可能なチップ101のデザインとして、たとえば電気的弁装置の利用が挙げられる。この弁装置は、電極間に一時的に電流を流して流路中の溶液を電気分解して気泡を発生させる構成である。発生した気泡は、流路が狭いためにその部分に留まり、流路を閉鎖する。一度発生した気泡はすぐには消失しないため、所定の流路を不可逆的に閉塞することができる。
【0293】
(vii)移動端末とオンライン発注の組み合わせ
利用者がチップ101と移動端末127を用いて直接オンライン発注を行う場合、発注記録を移動端末127に記憶させることができる。一方、発注を固定端末から行った場合には、発注した情報が移動端末127に転送されることが好ましい。チップ101に電子チップを埋め込むことにより、そのチップ101の発注に関する情報を移動端末127側に自動的に転送されるよう処理を含むシステムとすることができる。
【0294】
(viii)測定後、ID情報を読みとり不能にするトリガーを出力する機能
移動端末127に用いられるチップ101に、無線タグを含む電子チップが実装されている場合、利用者やチップ101のIDを含む情報が保持されたまま廃棄されると、プライバシー情報保護の観点で好ましくない場合がある。このような場合、移動端末127が、チップ101の廃棄に際して、チップ101が電子情報として保持しているID等の認証データに関する情報を読みとり不能にするタイミングを決める「無効化トリガー」を発生する構成とすることができる。チップ101を移動端末127から取り外す際に無効化トリガーを発生する構成とすることにより、第三者にID情報を読みとられる危険性を低減し、チップ101を安全に廃棄できる。このため、プライバシー情報をより一層確実に保護することができる。
【0295】
たとえば、電子チップを有するチップが認証データを記録する部分を有しており、移動端末127は、測定の終了したチップ101を移動端末127から離脱させることをきっかけとして、認証データを読みとり不能にせしめる機構をさらに有してもよい。
【0296】
図38は、無効化トリガーを発生する移動端末800の構成を示す図である。図38に示した移動端末800の基本構成は第一の実施形態において前述した移動端末127の構成とすることができる。また、図38に示した移動端末800は、チップ801が装着される凹状の装着部802に無効化凸部803を有する。移動端末800にチップ801を装着すると、無効化凸部803が、チップ801に設けられた無効化凹部805に挿入される。
【0297】
無効化凹部805内には、ID情報の消去に関わる電気回路を開閉するスイッチ804が突出しており、無効化凸部803が挿入されると、スイッチ804がチップ801の内部に押し込まれる。スイッチ804が押し込まれた状態で所定の測定を行い、測定終了後、チップ801を装着部802から離脱させると、スイッチ804を押し込んでいた無効化凸部803が離れる。このことが無効化トリガーとなり、ID情報の消去に関わる電気回路を開通あるいは遮断し、ID情報の読みとりを不能とする。
【0298】
電気回路の開通、あるいは遮断によって読みとり不能にする方法には、たとえば、ヒューズを利用する方法がある。この方法では、チップ801内に実装されたID情報を保持し、それを外部に提示するために設けられた電気回路の一部をヒューズを用いて断線させることで機能しないようにする。該電気回路を構成するいずれかの導線に直列にヒューズを設け、該ヒューズに過大な電流を流して断線させるための電源を用意し、該電源と該ヒューズで構成される直列回路の途中にスイッチ804が位置する構成とする。
【0299】
スイッチ804が導通すると、該電源とヒューズが導通し、ヒューズが断線する。該電源は、チップ801の内部に設置してもよく、移動端末に設置し、電極を介してチップ801に電流を供給する構成としてもよい。後者の場合、チップが完全に移動端末から外れると、電流の供給ができないので、チップ801に電流を供給する電極は、チップ801が無効化凸部803から完全に離れるまでの間、接触した状態を保つよう変形可能な電極、たとえば、バネ式の電極とする。
【0300】
図39は、図38に示した移動端末800において、無効化トリガーが発生するタイミングを示したタイムチャートの図である。図39においては、スイッチ804として、チップ801内部に押し込まれた状態から無効化凹部805側に開放された状態へ移る際に電気的接続または遮断を生じる型のスイッチが利用されている。
【0301】
また、チップを移動端末から遠ざけることによる無効化する構成とすることもできる。たとえば、ID情報が無線で提示される場合、移動端末がチップから無線送信されるデータを受信し終わったことをきっかけとして、ID情報を読みとれなくすることができる。そのためには移動端末は、チップからの測定データを受信完了した後、測定チップに対して無効化信号を送り、チップは、無効化信号を受信した場合に、チップ内の前記電気回路を無効化する構成とすることができる。
【0302】
無効化は、たとえば、チップがロジック回路を有し、移動端末から無効化信号を受信した場合に、前記電気回路上に設けられた低容量のヒューズに、チップが保持する電源から過大な電流を流して断線させること、あるいは、移動端末から過大な電波を放射することで、チップのアンテナから過大な電流が前記電気回路に流れ、ヒューズを断線させることなど、などで実現できる。
【0303】
また、以上の実施形態において、移動端末がチップの廃棄に都合のよい着脱と交換が可能なポケットを有する構成とすることができる。チップをその場に廃棄することは環境保護の観点から困難な場合が多いため、使用済みのチップを持ち帰ることになることが考えられる。このような場合に、使用後のチップを収納するチップ収納部を有する移動端末を用いることにより、使用済みのチップを移動端末と一体の状態で携帯または運搬することが可能となる。このため、携帯時および持ち運び時の利便性を向上することができる。
【0304】
図44は、チップ収納部を有する移動端末の構成の一例を示す図である。図44は、チップ収納部として、使用済みチップを入れるポケットを有する移動端末の構成を示す断面図である。図44に示した移動端末は、着脱可能なチップポケットを備える。チップポケットの移動端末からの着脱は、移動端末に設けられたスライド式ポケットホルダーに沿ってチップポケットをスライドさせることにより行われる。チップポケットにはバネ式フタが設けられている。バネ式フタを開き、使用後のチップをチップポケット内に収容すると、バネ式フタが閉まるためチップはポケット内に保持される。
【0305】
また、以上の実施形態において、測定部を有する移動端末のチップ挿入部分に、不使用時の塵芥の混入を防止する被覆を設けてもよい。たとえば、図4におけるチップ挿入部131や、図11における切欠部132の上部に、塵芥を排除するためのフタを設けることができる。フタとしては、たとえばスライド式のフタを設け、測定の際にはフタをスライドさせてチップ挿入部131または切欠部132を露出させ、チップを挿入する構成とすることができる。また、スライド式以外のフタに代えて、バネ式のハネフタを設けることもできる。また、移動端末の切欠部に、差し込み式のフタ用ダミーチップが挿入されている構成としてもよい。
【0306】
また、以上の実施形態において、電極を有するチップに対する電気的特性の計測装置を移動端末に設けてもよい。たとえば、電気的特性として電気抵抗を計測する場合、チップの表面と装着部とに電極を配置する構成とすることができる。このようにすれば、試料中の特定の成分に関する測定を、電気的特性の変化を用いて行うことが可能となる。このため、測定可能な試料の種類を増加させることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料導入部と、該試料導入部に連通する検出部とを有し、前記試料導入部に導入された試料に所定の操作を加えて前記検出部に導く測定チップと、
前記測定チップに導入された前記試料に含まれる特定の成分に関する測定を行う移動端末を有する測定システムであって、
前記移動端末は、
前記測定チップが挿入される挿入部と、
前記検出部に導かれた前記成分の特性に関する測定を行う測定ユニットと、
前記測定ユニットで得られた測定結果を外部に送信する送信部と、
を有することを特徴とする測定システム。
【請求項2】
試料導入部と、該試料導入部に連通する検出部とを有し、前記試料導入部に導入された試料に所定の操作を加えて前記検出部に導く測定チップと、
前記測定チップに導入された前記試料に含まれる特定の成分に関する測定を行う移動端末を有する測定システムであって、
前記移動端末は、
前記検出部に導かれた前記成分の特性に関する測定を行う測定ユニットと、
前記測定ユニットで得られた測定結果を外部に送信する送信部と、
を有することを特徴とする測定システム。
【請求項3】
請求の範囲第1項または第2項に記載の測定システムにおいて、
前記測定ユニットは、前記検出部に光を照射する光源と、前記光源からの出射光を用いて前記成分の光学特性に関する測定を行う受光部と、を有することを特徴とする測定システム。
【請求項4】
請求の範囲第1項乃至第3項いずれかに記載の測定システムにおいて、前記測定チップは、前記試料導入部から前記検出部へ至る流路を有し、前記流路に、前記成分を分離するための分離部が設けられていることを特徴とする測定システム。
【請求項5】
請求の範囲第1項乃至第4項いずれかに記載の測定システムにおいて、前記検出部は前記成分に作用してその光学特性を変化させる検出物質を備えることを特徴とする測定システム。
【請求項6】
請求の範囲第1項乃至第5項いずれかに記載の測定システムにおいて、
前記送信部は、前記測定結果を測定状況と関連づけて外部に送信することを特徴とする測定システム。
【請求項7】
請求の範囲第1項乃至第6項いずれかに記載の測定システムにおいて、前記移動端末が携帯電話機能を有することを特徴とする測定システム。
【請求項8】
請求の範囲第1項乃至第7項いずれかに記載の測定システムにおいて、
前記移動端末とネットワークを介して接続され、前記移動端末から送信される情報を受け付ける分析センターをさらに含み、
前記分析センターは、前記移動端末から送信された前記測定結果を取得するデータ取得部と、前記データ取得部にて取得された測定結果に基づいて前記試料を分析し、分析結果を得る分析部と、を有することを特徴とする測定システム。
【請求項9】
請求の範囲第8項に記載の測定システムにおいて、前記分析センターは、前記測定結果または前記分析部で得られた前記分析結果を記憶する分析データ記憶部と、前記分析部が参照するデータを記憶する参照データ記憶部と、を有することを特徴とする測定システム。
【請求項10】
請求の範囲第8項または第9項に記載の測定システムにおいて、
前記移動端末は、前記送信部から送信される前記分析結果を受信する受信部を有することを特徴とする測定システム。
【請求項11】
請求の範囲第1項乃至第5項いずれかに記載の測定システムにおいて、
前記測定チップは、さらに中和液溜めを有し、
前記移動端末と前記測定チップとは、
測定の終了した前記測定チップを前記移動端末から離脱させることをきっかけとして、該中和液溜め内の中和液が、前記測定チップに含まれる流路系に導入される機構をさらに有することを特徴とする測定システム。
【請求項12】
請求の範囲第1項乃至第5項いずれかに記載の測定システムにおいて、
前記測定チップは、さらに認証データを記録する部分を有し、
前記移動端末は、測定の終了した前記測定チップを前記移動端末から離脱させること、あるいは、前記移動端末がデータを受信完了したこと、
をきっかけとして、該認証データを読みとり不能にせしめる機構をさらに有することを特徴とする測定システム。
【請求項1】
試料導入部と、該試料導入部に連通する検出部とを有し、前記試料導入部に導入された試料に所定の操作を加えて前記検出部に導く測定チップと、
前記測定チップに導入された前記試料に含まれる特定の成分に関する測定を行う移動端末を有する測定システムであって、
前記移動端末は、
前記測定チップが挿入される挿入部と、
前記検出部に導かれた前記成分の特性に関する測定を行う測定ユニットと、
前記測定ユニットで得られた測定結果を外部に送信する送信部と、
を有することを特徴とする測定システム。
【請求項2】
試料導入部と、該試料導入部に連通する検出部とを有し、前記試料導入部に導入された試料に所定の操作を加えて前記検出部に導く測定チップと、
前記測定チップに導入された前記試料に含まれる特定の成分に関する測定を行う移動端末を有する測定システムであって、
前記移動端末は、
前記検出部に導かれた前記成分の特性に関する測定を行う測定ユニットと、
前記測定ユニットで得られた測定結果を外部に送信する送信部と、
を有することを特徴とする測定システム。
【請求項3】
請求の範囲第1項または第2項に記載の測定システムにおいて、
前記測定ユニットは、前記検出部に光を照射する光源と、前記光源からの出射光を用いて前記成分の光学特性に関する測定を行う受光部と、を有することを特徴とする測定システム。
【請求項4】
請求の範囲第1項乃至第3項いずれかに記載の測定システムにおいて、前記測定チップは、前記試料導入部から前記検出部へ至る流路を有し、前記流路に、前記成分を分離するための分離部が設けられていることを特徴とする測定システム。
【請求項5】
請求の範囲第1項乃至第4項いずれかに記載の測定システムにおいて、前記検出部は前記成分に作用してその光学特性を変化させる検出物質を備えることを特徴とする測定システム。
【請求項6】
請求の範囲第1項乃至第5項いずれかに記載の測定システムにおいて、
前記送信部は、前記測定結果を測定状況と関連づけて外部に送信することを特徴とする測定システム。
【請求項7】
請求の範囲第1項乃至第6項いずれかに記載の測定システムにおいて、前記移動端末が携帯電話機能を有することを特徴とする測定システム。
【請求項8】
請求の範囲第1項乃至第7項いずれかに記載の測定システムにおいて、
前記移動端末とネットワークを介して接続され、前記移動端末から送信される情報を受け付ける分析センターをさらに含み、
前記分析センターは、前記移動端末から送信された前記測定結果を取得するデータ取得部と、前記データ取得部にて取得された測定結果に基づいて前記試料を分析し、分析結果を得る分析部と、を有することを特徴とする測定システム。
【請求項9】
請求の範囲第8項に記載の測定システムにおいて、前記分析センターは、前記測定結果または前記分析部で得られた前記分析結果を記憶する分析データ記憶部と、前記分析部が参照するデータを記憶する参照データ記憶部と、を有することを特徴とする測定システム。
【請求項10】
請求の範囲第8項または第9項に記載の測定システムにおいて、
前記移動端末は、前記送信部から送信される前記分析結果を受信する受信部を有することを特徴とする測定システム。
【請求項11】
請求の範囲第1項乃至第5項いずれかに記載の測定システムにおいて、
前記測定チップは、さらに中和液溜めを有し、
前記移動端末と前記測定チップとは、
測定の終了した前記測定チップを前記移動端末から離脱させることをきっかけとして、該中和液溜め内の中和液が、前記測定チップに含まれる流路系に導入される機構をさらに有することを特徴とする測定システム。
【請求項12】
請求の範囲第1項乃至第5項いずれかに記載の測定システムにおいて、
前記測定チップは、さらに認証データを記録する部分を有し、
前記移動端末は、測定の終了した前記測定チップを前記移動端末から離脱させること、あるいは、前記移動端末がデータを受信完了したこと、
をきっかけとして、該認証データを読みとり不能にせしめる機構をさらに有することを特徴とする測定システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【国際公開番号】WO2005/024437
【国際公開日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【発行日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513699(P2005−513699)
【国際出願番号】PCT/JP2004/012958
【国際出願日】平成16年9月6日(2004.9.6)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】
【国際公開日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【発行日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【国際出願番号】PCT/JP2004/012958
【国際出願日】平成16年9月6日(2004.9.6)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】
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