説明

測定対象物質の濃度測定方法、測定対象物質の濃度測定用キット及びそれセンサチップ

微量検体中の測定対象物質の濃度を短時間に測定でき、かつ、測定に供する検体量が不正確であっても測定対象物質の濃度を正確に測定できる濃度測定方法を提供する。光導波路層と該光導波路層の表面に設置された抗体固定化層とを具備するセンサチップを用いる測定対象物質の濃度測定方法であって、該センサチップの抗体固定化層に検体溶液及び酵素標識された抗体溶液を滴下して抗原抗体反応させ検体を固定した後、発色試薬溶液を滴下し、発色かつ沈殿する酵素反応産物を生成して、該抗体固定化層内に前記酵素反応産物を沈殿させ、外部から前記センサチップ入射された光を該抗体固定化層で全反射させて、この全反射させた光の物理量の変化を観測する濃度測定方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素反応に利用する発色試薬、濃度測定用キット、測定対象物質の濃度測定方法、及びそれに用いるセンサチップに関する。さらに詳しくは、本発明は、エバネッセント波を利用して、測定対象物質の濃度を極微量の試料で、高感度かつ高精度で迅速に測定するための酵素反応に利用する発色試薬、濃度測定用キット、測定対象物質の濃度測定方法及びその方法に使用するセンサチップに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、抗原と抗体の特異的な反応を利用した微量成分の測定方法として、酵素免疫測定法(以下、ELISA法という)が臨床検査分野等で実用化されている。
【0003】
ELISA法には、通常マイクロプレートと呼ばれる96個のくぼみ(ウエル)が設けられた樹脂製の板が用いられる。例えば、サンドイッチELISA法の場合、各ウエルには目的に応じた一次抗体が固定されている。まず検体溶液をウエルに分注し、プレート上に固定された抗体と検体溶液中の測定対象物質とを反応(以下、一次反応という)させた後、洗浄して未反応の検体溶液を取り除く。その後、酵素標識された二次抗体の溶液を洗浄後のプレートに分注し、一次抗体と反応した測定対象物質と特異的に反応(以下、二次反応という)させる。洗浄して未反応の二次抗体溶液を除去した後、発色試薬溶液を分注して酵素反応(以下、酵素反応という)させ酵素反応産物を発色させ、マイクロプレートリーダーを用いてウエルの透過光量から吸光度を求め、検量線により測定対象物質の濃度を求めている。
【0004】
例えばインスリンは、膵臓のβ細胞から分泌されるホルモンで、血糖降下作用をもつものとして知られている。そこで、糖尿病の診断や病態の把握のために、インスリンの血中濃度を測定する必要がある。ELISA法でインスリンを測定する場合、マイクロプレートのウエルには抗インスリン抗体が固定化されており、このウエルに検体溶液を分注して、抗インスリン抗体と検体溶液中のインスリンとを反応させ、以下、上記と同様にしてインスリン濃度を求めている。
【0005】
マイクロプレートを用いるELISA法では、測定試料として数10μL〜100μL程度の量の試料を必要とし、特別に少ない場合でも5μL以上必要であり、これ以下の量では測定感度は数100pg/mL程度に過ぎないという問題点があった。また、感度を上げようとして測定に供する検体量を増やすと、検体溶液中に含まれている抗原抗体反応の阻害物質も増えて反応系が影響を受け、測定感度が低下する場合もあり、測定感度はやはり数100pg/mL程度に過ぎないという問題点があった。
【0006】
また、ELISA法では多くの量の検体が必要になるため抗原抗体反応が終わるのを待つ必要があり、測定に時間がかかるという問題がある。例えば、通常一次反応に数時間、長い場合は24時間を要し、二次反応、酵素反応でもそれぞれ数10分間を要している。
【0007】
また、新生児や小動物の血液等が検体である場合は、測定に供する検体(血液、血漿)量はできるだけ少ないことが望ましい。ELISA法では、マイクロプレートのウエルに分注する検体量は正確でなければならないが、5μL未満の量を正確に計りとることは困難である。従って、測定に供する検体量は少ないことが望ましいが、正確な測定のために必要以上の検体を採取する必要があるという実情があった。
【0008】
一方、抗原抗体反応を利用するセンサチップが知られている。図1は、光導波路型のセンサチップの構成を示す概念図である。このセンサチップは、ガラス等の基板16上にシリコン窒化膜等からなる光導波路層1が形成され、その両端に一対の入射側グレーティング(回折格子)13a及び出射側グレーティング13b、又はプリズム(図示せず)が形成され、光導波路層1上に抗体固定化層14が形成され、構成されている。
【0009】
このような構成のセンサチップにおいて、抗体固定化層14に抗原を含む検体溶液を接触させると抗原抗体反応が起こる。ここに蛍光色素標識されている抗体溶液を添加すると、抗体/抗原/蛍光色素標識抗体からなる免疫複合体が基板上に形成される。この状態でレーザ光を入射側グレーティング13aを介して光導波路層1に入射させ、エバネッセント波を発生させて、光導波層1上の抗体固定化層14において蛍光色素をエバネッセント波で励起し、蛍光色素から放射される蛍光量を受光素子により検出して、検体溶液中の抗原量を分析する(例えば、特開平8−285851号公報参照)。
【0010】
エバネッセント波とは光が光導波路層と外層との界面で全反射するとき、その界面に発生する界面近傍だけに局在する電磁波のことである。エバネッセント波を用いる測定方法としては、上記した蛍光色素で標識する方法以外にも、検体中の色素標識化物質(例えば色素標識された2次抗体)におけるエバネッセント波の吸収による反射光の物理量の変化を検出する方法が知られている(例えば、特公平3−7270号公報参照)。
【0011】
しかしながら、これら従来の測定方法は、検体中の測定対象物質が低濃度である場合、免疫複合体に取り込まれる色素または蛍光色素数が少なくなり測定が難しくなるため、反射光の物理量の変化を検出する受光素子は、高感度で高価なものとなり、反射光の物理量の変化を検出する装置も複雑で、高価なものとなる問題点があった。
【発明の開示】
【0012】
本発明は、上記現状を鑑みてなされたものであり、測定対象物質の濃度測定用であって酵素反応に利用する発色試薬、濃度測定用キット、濃度測定方法、及びそれに用いるセンサチップであって、5μL以下の微量な検体溶液中の測定対象物質の濃度を短時間に測定でき、かつ、測定に供する検体量が不正確であっても測定対象物質の濃度を高精度で迅速に測定できる発色試薬、濃度測定用キット、濃度測定方法、及びその方法に使用するセンサチップを提供することを目的とする。
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討した結果、酵素反応を利用した濃度測定方法において、酵素反応により発色した際に沈殿する酵素反応産物を生成する発色試薬を用いて、沈殿したその酵素反応産物に起因する光の物理量の変化を測定することにより、上記目的を達成しうることを見出した。
【0014】
すなわち、本発明は、
(1)少なくとも発色基質と標識酵素の基質とを含み、酵素反応により発色し、沈殿する酵素反応産物を生成する発色試薬、
(2)測定対象物質を捕捉するための抗体が固定された抗体固定化層を光導波路層表面に備えるセンサチップと、標識酵素によって酵素標識された抗体と、少なくとも発色基質と標識酵素の基質とを含み酵素反応により発色し沈殿する酵素反応産物を生成する発色試薬とが、それぞれ個別に収容されて組み合わされた測定対象物質の濃度測定用キット、
(3)光導波路層とこの光導波路層の表面に設置された抗体固定化層とを具備するセンサチップを用いる測定対象物質の濃度測定方法であって、抗体が固定された前記センサチップの抗体固定化層によって測定対象物質及び標識酵素により酵素標識された抗体を固定し、前記標識酵素により発色試薬を反応させて発色し沈殿する酵素反応産物を生成して前記抗体固定化層上に前記酵素反応産物を沈殿させ、外部から前記センサチップに入射された光を前記光導波路層と抗体固定化層との界面で全反射させて、この全反射させた光の物理量を観測する測定対象物質の濃度測定方法、及び
(4)内部を光が全反射で伝播可能な光導波路層と、この光導波路層の全反射させる表面の少なくとも一部に形成される抗体固定化層と、を具備するセンサチップ、を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、センサチップの構成を示す概念図である。
【図2】図2は、本発明の実施の形態に係るセンサチップの一例を示す上面図である。
【図3】図3は、本発明のセンサチップの一例を示す、図2のIII−III線に沿う断面図である。
【図4】図4は、本発明の実施の形態に係るセンサチップの製造工程を示すフロー図である。
【図5A】図5Aは、本発明の実施の形態に係るセンサチップの製造工程を示す工程図である。
【図5B】図5Bは、本発明の実施の形態に係るセンサチップの製造工程を示す工程図である。
【図5C】図5Cは、本発明の実施の形態に係るセンサチップの製造工程を示す工程図である。
【図5D】図5Dは、本発明の実施の形態に係るセンサチップの製造工程を示す工程図である。
【図5E】図5Eは、本発明の実施の形態に係るセンサチップの製造工程を示す工程図である。
【図6】図6は、本発明の実施の形態に係るセンサチップによる測定方法の工程を示すフロー図である。
【図7A】図7Aは、本発明の実施の形態に係るセンサチップによる測定方法を説明する図である。
【図7B】図7Bは、本発明の実施の形態に係るセンサチップによる測定方法を説明する図である。
【図7C】図7Cは、本発明の実施の形態に係るセンサチップによる測定方法を説明する図である。
【図7D】図7Dは、本発明の実施の形態に係るセンサチップによる測定方法を説明する図である。
【図8】図8は、本発明方法による測定結果の一例を示す図である。
【図9】図9は、実施例1により得られたラットインスリン測定時における検体量非依存性を示す測定結果の図である。
【図10】図10は、実施例1により得られたラットインスリン測定時における濃度依存性を示す測定結果の図である。
【図11】図11は、実施例2(ラットの全血)で得られたセンサチップによる測定値と従来のマイクロプレートによる測定値との相関(検量線)である。
【図12】図12は、実施例3(ラットの血漿)で得られたセンサチップによる測定値と従来のマイクロプレートによる測定値との相関(検量線)である。
【図13】図13は、実施例4により得られたカゼインについて測定した測定結果の図である。
【図14】図14は、実施例5により得られたβ−ラクトグロブリンについて測定した測定結果の図である。
【図15】図15は、実施例6により得られたオボアルブミンについて測定した測定結果の図である。
【図16】図16は、実施例7により得られたそばの主要タンパク質複合体について測定した測定結果の図である。
【図17】図17は、実施例8により得られた落花生のArah2を含む可溶性タンパク質について測定した測定結果の図である。
【図18】図18は、実施例9により得られたヒトインスリンの測定結果の図である。
【0016】
図中の符号は次のとおりである。
【0017】
1:光導波路層、10:反応ホール、11:セル、12:セル壁、13:薄膜、13a:入射側グレーティング、13b:出射側グレーティング、14:抗体固定化層、14a:一次抗体、15:撥液性樹脂膜、16:基板、20:検体溶液、20a:抗原、21:二次抗体溶液、21a:二次抗体、22:発色試薬溶液、22a:発色試薬。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の実施形態について、測定対象物質の濃度測定用キット、濃度測定用キットの構成要素である発色試薬とセンサチップ、及びそれらを用いた濃度測定方法の順に、以下説明する。
【0019】
(濃度測定用キット)
本発明の測定対象物質の濃度測定用キット(以下、濃度測定用キット又は単にキットということがある)は、発色試薬が酵素反応により発色、沈殿するキット構成となっている。
【0020】
すなわち、本発明の濃度測定用キットは、測定対象物質を捕捉するための抗体固定化層を光導波路層表面に備えるセンサチップと、標識酵素によって酵素標識された抗体原液と、発色基質と標識酵素の基質とを含み酵素反応により発色し沈殿する酵素反応産物を生成する発色試薬とがそれぞれ個別に収容されて組み合わされたキットである。
【0021】
本発明の濃度測定用キットは、サンドイッチELISA法に好適に使用できる。
【0022】
ここで、測定対象物質としては、血液、血清、血漿、生体試料、食品等の中に含まれる蛋白質、ペプチド、遺伝子等が挙げられる。具体的には、例えば、インスリン、カゼイン、β−ラクトグロブリン、オボアルブミン、カルシトニン、C−ペプチド、レプチン、β−2−ミクログロブリン、レチノール結合タンパク、α−1−ミクログロブリン、α−フェトプロテイン、癌胎児性抗原、トロポニン−I、クルカゴン様ペプチド、インスリン様ペプチド、腫瘍増殖因子、繊維芽細胞増殖因子、血小板成長因子、上皮増殖因子、コルチゾール、トリヨードサイロニン、サイロキシン等のハプテンホルモン、ジゴキシン、テオフィリン等の薬物、細菌、ウイルス等の感染性物質、肝炎抗体、IgEの他、そばの主要タンパク質複合体、落花生のArah2を含む可溶性タンパク質等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0023】
本発明は、特に、分子量が5000以上の蛋白質の濃度測定に好適に用いられ、なかでも、抗原がインスリン、特に人、マウス、ラット、ハムスター由来のインスリンである場合、及び食品中に含まれる蛋白質、特にカゼイン、β−ラクトグロブリン、オボアルブミン、そばの主要タンパク質複合体、落花生のArah2を含む可溶性タンパク質である場合が特に好ましく適用できる。
【0024】
また、測定対象物質の濃度については特に限定はなく、例えば血漿、血清、全血等をそのまま用いることができる。
【0025】
本発明の濃度測定用キットの好ましい態様は、測定対象物質を捕捉するための抗体固定化層を光導波路層表面に備えるセンサチップ、西洋ワサビペルオキシダーゼ等で酵素標識された抗体原液(キャリアタンパク質、界面活性剤及び緩衝液等を含有)、発色基質(ベンジジン系発色剤等)と標識酵素の基質(過酸化水素等)とが混合された発色試薬、測定対象物質の標準品、基板洗浄用の緩衝生理食塩水等が個別に容器に収容されて供給されるキットである。
【0026】
例えば、インスリン測定用キットとしては、測定対象物質を捕捉するための抗体固定化層を光導波路層表面に備えるセンサチップ8個一組、酵素標識抗インスリン抗体原液、酵素標識抗インスリン抗体用希釈液(緩衝液単体もしくはこれと界面活性剤等を組み合わせた溶液)、発色基質と標識酵素の基質からなる試薬が混合された発色試薬溶液(H、TMBZ、溶媒を含む溶液)、検体用希釈液、インスリン標準品(凍結乾燥品)、洗浄液(緩衝液と界面活性剤等を組み合わせた溶液、界面活性剤を含有するリン酸緩衝生理食塩水(PBS)、Tris−塩酸緩衝生理食塩水、グッドバッファー緩衝生理食塩水等)、リン酸緩衝液が個別に収容されて組み合わされてセットされたキットが好ましい。更に、必要に応じて、綿布、センサチップ仮置きプレート、分岐マイクロピペット(8連ピペット)、ピンセット、反応用シャーレが組み込まれたキットがより好ましい。なお、凍結乾燥してあるインスリン標準品は、精製水で溶解し、インスリン標準液を調製する。
【0027】
(発色試薬)
本発明の発色試薬は、少なくとも発色基質と標識酵素の基質とを含む試薬であり、酵素反応により発色し、沈殿する酵素反応産物を生成することが大きな特徴である。発色試薬は、緩衝液に溶解し、必要に応じて更に界面活性剤や有機溶媒を含む構成とした発色試薬溶液として使用する。
【0028】
本発明の発色試薬の好ましい態様は、発色基質がベンジジン系発色剤であり、標識酵素の基質が過酸化物である。
【0029】
ベンジジン系発色剤としては、例えば、4−クロロ−1−ナフトール、3,3’−ジアミノベンジジン、3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン等が挙げられる。これらの中では、測定感度の観点から、3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン(以下、TMBZという)又はその塩酸塩(3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン・2HCl・2HO)が好ましい。これらのベンジジン系発色剤の調製は、塩の形のものはそのまま水性媒体中に添加することができ、塩の形でないものは少量の有機溶媒に溶解して水性媒体中に添加する。このとき、性能に影響を与えない程度に溶媒を希釈してもよい。これらのベンジジン系発色剤は、一種単独で又は二種以上を混合して用いることができる。
【0030】
過酸化物としては、例えば、過酸化水素等を用いることができる。
【0031】
本発明において、標識酵素に用いる酸化還元酵素には特に制限はなく、例えば、西洋ワサビ、牛乳、白血球等から抽出したペルオキシダーゼ、カタラーゼ等の活性酵素が挙げられる。これらの中では、西洋ワサビペルオキシダーゼが特に好ましい。
【0032】
従来のELISA法に利用するためのものとして市販されている発色試薬、例えば市販のELISA法用ベンジジン系発色剤は、水に溶け難いためメチルアルコール、1−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド等の有機溶媒を含む水溶液に溶解されている。しかし本発明においては、光導波路層表面上に酵素反応産物を沈殿させるように、発色基質と標識酵素の基質の種類・割合、有機溶媒の割合、及びpH等を調整する。
【0033】
発色試薬溶液の調製は以下のように行う。
【0034】
発色基質としてベンジジン形発色剤を、標識酵素の基質として過酸化水素を用いる場合において、発色試薬溶液中のベンジジン系発色剤及び過酸化物の各濃度は、測定方法及び発色反応条件によって適宜設定することができる。ベンジジン系発色剤の含有量は、発色試薬溶液中に、通常0.1〜10mmol/L、好ましくは0.5〜5mmol/Lである。過酸化物の含有量は、発色試薬溶液中に、通常0.1〜10mmol/L、好ましくは0.5〜5mmol/Lである。
【0035】
発色試薬溶液の溶媒である緩衝液は、pHが3.5〜7.0、好ましくは4.5〜6.0の範囲であれば、特に限定はない。例えば、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、グリシン緩衝液、トリス緩衝液、各種グッド緩衝液等の公知の緩衝液を用いることができる。より具体的には、フタル酸水素カリウム/水酸化ナトリウム緩衝液、クエン酸二ナトリウム/塩酸緩衝液、クエン酸二水素カリウム/水酸化ナトリウム緩衝液、コハク酸/四ホウ酸ナトリウム緩衝液、クエン酸水素カリウム/四ホウ酸ナトリウム緩衝液、リン酸水素二ナトリウム/クエン酸緩衝液、酢酸ナトリウム/塩酸緩衝液、酢酸/酢酸ナトリウム緩衝液等が挙げられる。好ましい緩衝液濃度は、発色試薬溶液中、0.1〜100mmol/L、特に1〜50mmol/Lである。
【0036】
発色試薬溶液の調製においては、緩衝液等の水性媒体中にベンジジン系発色剤(発色基質)を直接添加してもよく、予め他の溶媒等にベンジジン系発色剤を高濃度に溶解させたものを添加して調製してもよい。これらに過酸化物(標識酵素の基質)を添加し、本発明の発色試薬溶液を得ることができるが、特にこれらの方法に限定されるものではない。
【0037】
発色試薬溶液には、必要に応じて、発色を補助し安定化させる成分、例えば、キレート剤、トリポリ燐酸等を添加することもできる。
【0038】
使用できる界面活性剤としては特に制限はなく、陽イオン系、陰イオン系、非イオン系、両性イオン系の界面活性剤をいずれも採用することができる。これらの中では、酵素活性を維持する観点から、非イオン系界面活性剤が好ましい。
【0039】
非イオン系界面活性剤としては、多価アルコール型及びポリエチレングリコール型の非イオン系界面活性剤が挙げられる。多価アルコール型非イオン系界面活性剤としては、例えば、グリセリンの脂肪酸エステル、ソルビタンの脂肪酸エステル、ペンタエリスリットの脂肪酸エステル、ショ糖の脂肪酸エステルが挙げられる。また、ポリエチレングリコール型非イオン系界面活性剤は、通常エチレンオキシドを付加するが、水溶性が保たれる範囲内でプロピレンオキシドを付加することができる。
【0040】
これらの中では、ソルビタンの脂肪酸エステルが特に好ましい。ソルビタン脂肪酸エステルの脂肪酸としては、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸等が用いられる。これらのソルビタン脂肪酸エステルは、米国Atlas Powder社の商品名、Tween20、Tween40、Tween60、Tween80として市販されているものを使用することができる。これらの他、商品名でTergito17、Irgasan、モネシン等として市販されているものを使用することもできる。これらの界面活性剤は、発色試薬溶液中に、通常0.01〜50mg/mL、好ましくは0.5〜10mg/mLの範囲で添加する。
【0041】
本発明の発色試薬として、従来ELISA法においては使用することが出来なかった他の用途に用いるものとして市販されている発色剤を利用することができる。例えばメンブレンへ固定する発色試薬として市販されているRoche Diagnostics GmbHによるBM Blue POD Substrate Precipitating 1−442−066や、MOSS,INC.によるTMBM PEROXIDASE SUBSTRATEなどの、別の免疫化学的測定法であるウエスタン法に供されるためのものとして市販されているウエスタン法用発色試薬を酵素免疫測定のために使用することができる。
【0042】
(センサチップ)
本発明のセンサチップは、内部を光が全反射で伝播可能な光導波路層と、この光導波路層の全反射させる表面の少なくとも一部に形成される抗体固定化層と、を具備する。好ましいセンサチップは、前記光導波路層表面に形成されており、表面が抗体固定化層よりも高くなるように、前記抗体固定化層の少なくとも一部が露出するように開口して反応ホールを形成する撥液性を有する膜を具備する。また、好ましいセンサチップは光導波路層表面に固着されており、突端が撥液性を有する膜よりも高く、反応ホールを囲むように形成されてセルを構成している枠体を具備する。
【0043】
このセンサチップは、抗体固定化層を囲ってセルを形成するセル壁を具備し、そのセル中に反応ホールを形成することが好ましい。このようなセンサチップを用いれば、極微量の検体溶液中の測定対象物質を高感度かつ高精度に分析することが可能となる。
【0044】
本発明の実施形態に係るセンサチップの模式図を図2及び図3に示す。図2及び図3において、センサチップは、例えばホウケイ酸ガラスからなる基板16と、基板16の両端部表面に設置された入射側グレーティング13a及び出射側グレーティング13bと、それらの間に位置する抗体固定化層14とを具備する。さらに、抗体固定化層14を囲い、セル11を形成するセル壁12を基板16上に具備する。また、抗体固定化層14上部に反応ホール10を有する撥液性樹脂膜15を、入射側グレーティング13a及び出射側グレーティング13bの上部と、抗体固定化層14を除くセル11の底面に具備する。このようなセンサチップはレーザ発信器や反射光を受光する光電変換素子等と組み合わせて使用される。
【0045】
抗体固定化層14の厚み(光導波路層表面から抗体固定化層の表面までの距離)は、好ましくは30nm〜500nm、更に好ましくは100nm以下、特に好ましくは80nm以下である。
【0046】
本発明のセンサチップは、反応ホール10内で酵素反応を行い、発色し、沈殿する酵素反応産物を生成するので、検体溶液20は1μL程度あれば十分に測定できる。
【0047】
前記セル壁12を設けることによって装置上での薬液操作による各種装置の薬液による侵食を防止することが可能となる。セル壁12は、測定用キットに含まれる薬品と反応しない構成であれば、その大きさや高さ、枠の開口の形状、材質等は使い勝手に応じて自由に決定してよい。
【0048】
セル壁12は、枠体であり、特に黒等の有色樹脂で形成することが好ましい。この有色樹脂材料は、試薬、溶媒等との反応性、相溶性がなく、成形性が良いものであれば特に制限はなく、キットの構成に応じて、アクリル樹脂、ABS樹脂等を選択し、使用することができる。
【0049】
セル壁12を構成する枠体は、光導波路層を形成する基板16の全反射面を構成する主面の表面に、開口する一方の端部を塞ぐようにUV硬化性接着剤によって直接接着されている。セル壁12は、反応ホール10内に投入される試薬・検体溶液・洗浄液等の薬液が外部に漏出しないように測定エリアを囲うものである。したがって、枠体端部によって規定される基板表面からの高さ(厚さ)は、撥液性樹脂膜15の高さよりも高く形成されている。
【0050】
撥液性樹脂膜15は、基板16の全反射面を構成する主面の表面のうち、抗体固定化層14の少なくとも一部、及びセル壁12が設けられている領域以外の部分をくまなく覆うように配設される。撥液性樹脂膜15には、基板16下方から入射される光を外部に漏らさないように、遮光性がある、黒等の有色樹脂を用いるのが好ましい。撥液性樹脂は、キットとの反応性、相溶性がなく、撥液性、撥水性が良いものであれば特に制限はないが、特にフッ素樹脂が好適である。
【0051】
また、入射側グレーティング13a及び出射側グレーティング13bは、例えば酸化チタン(TiO)、酸化錫(SnO)、酸化亜鉛、ニオブ酸リチウム、ガリウム砒素(GaAs)、インジウム錫酸化物(ITO)、ポリイミド等で形成することが好ましい。
【0052】
グレーティング13a及び13bは、センサチップにレーザ光を導入し、また出射させるための光学的機能を有しているが、他の部材を用いて同様の機能を実現できるならば、特に備える必要はない。また、同様の機能を実現できるものであればプリズム等の他の光学要素が配置されていてもよい。
【0053】
抗体固定化層14は、例えば抗体を架橋高分子で固定化した構造を有する。抗体固定化層14で用いられる架橋高分子としては、例えば光架橋性ポリビニルアルコールのような水素結合性の官能基を含む高分子を挙げることができる。抗体は一般的に親水性であるので、抗体固定化層も親水性を有しているものが好ましい。
【0054】
(センサチップの製造方法)
次に、センサチップの製造工程の一例を、図4、図5Aから図5E、及び図6を参照して説明する。
【0055】
S10:図5Aに示すように、まず、例えばホウケイ酸ガラスからなる基板16の表面に、例えば酸化チタンをスパッタ又はスピン塗布し、薄膜を形成する。
【0056】
S11:次に、図5Bに示すように、薄膜をフォトエッチング技術で選択エッチングしてパターニングすることにより、両端部表面上に入射側グレーティング13a及び出射側グレーティング13bを形成する。これによって、厚さが1μm程度でグレーティングを有する光導波路層が形成される。
【0057】
S12:次に、図5Cに示すように、入射側グレーティング13a及び出射側グレーティング13b上と、基板16表面の反応ホール10及びセル壁12接着部以外の部分に、撥液性樹脂膜15、例えば遮光性有色フッ素樹脂を印刷し、フッ素樹脂膜を形成する。
【0058】
S13:次に、図5Dに示すように、例えば黒色アクリル樹脂等からなるセル壁12を、反応ホール10を囲うように設置し、紫外線硬化する接着剤を利用して基板16に接着し、セル11を形成する。
【0059】
S14:次に、図5Eに示すように、反応ホール10内に抗体固定化層14を形成する。具体的には、(1)シランカップリング剤であるアミノシランを用いて、シランカップリング処理を施し、基板16表面をアミノ基で修飾する。(2)次に、グルタルアルデヒド処理を施し、架橋による抗体の基板16への固定化を行う。(3)最後に、牛血清アルブミン(BSA)等によって余分なアミノ基をブロッキングして、抗体固定化層14を形成する。
【0060】
(測定対象物質の濃度測定方法)
本発明の濃度測定方法は、光導波路層と該光導波路層の表面に設置された抗体固定化層とを具備するセンサチップを用いる測定対象物質の濃度測定方法であって、センサチップの抗体固定化層に検体溶液及び酵素標識された抗体溶液を滴下して抗原抗体反応させ検体を固定した後、発色試薬溶液を滴下し、沈殿する酵素反応産物を生成して、該抗体固定化層内に前記酵素反応産物を沈殿させ、外部から前記センサチップに入射された光を光導波路層と抗体固定化層との界面で全反射させて、この全反射させた光の物理量を観測する方法である。
【0061】
すなわち、本発明の濃度測定方法は、透光性基板からなる光導波路層表面に一次抗体が固定化された抗体固定化層を設け、この抗体固定化層を用いて測定対象物質を固定し、酵素標識された二次抗体を測定対象物質に反応させ、この測定対象物質が固定された量に応じて反応量が変化する発色試薬を投入して、沈殿する酵素反応産物を得る。光導波路層内を伝播する全反射光のエバネッセント波が、この酵素反応産物が存在する領域において全反射を行う際、この沈殿した酵素反応産物との相互作用により、この酵素反応産物の量に相応する物理量変化、たとえば光強度の減衰作用を受ける。酵素反応産物が存在する場合と存在しない場合とにおける全反射させた光の物理量の変化を観測することにより、測定対象物質(検体)の濃度測定を行うことを可能とする。
【0062】
この際、従来法で用いられている標識酵素の基質と発色基質からなる発色試薬溶液を用いると、発色した色素が可溶性であるため、発色試薬溶液の全体に拡散してしまい、基板表面から2μm程度しか届かないエバネッセント波では色素による吸収や散乱を検出することは事実上できない。
【0063】
そこで、本発明方法では、酵素反応産物が酵素反応後に沈殿する発色試薬溶液を用いる。この際、抗体固定化層内に前記酵素反応産物を沈殿させ、エバネッセント波をこの抗体固定化層において全反射させることから、センサチップにおいては、光導波路層表面から抗体固定化層の表面までの距離(抗体固定化層の厚み)を好ましくは30nm〜500nm、更に好ましくは100nm以下、特に好ましくは80nm以下とする。
【0064】
酵素反応を行う際の温度は、抗体の標識に用いる酵素の反応に最も適した温度で実施することが好ましい。ペルオキシダーゼ等の酵素の場合、通常20〜50℃の温度である。
【0065】
また、透光性基板表面で一次反応、二次反応、酵素反応をさせた後、光導波路層近傍の情報を、エバネッセント波を利用して検出するため、測定に供する検体量はある一定量以上であればよく、測定に供する検体量が不正確でもインスリン等の測定対象物質の濃度を求めることができる。
【0066】
また、本発明方法においては、マイクロプレートを用いる従来法のようにウエルの透過光量のみを測定するのでなく、抗体固定化層で全反射する際に生じるエバネッセント波の吸収による反射光の物理量の変化を観測するため、測定に必要な面積が少なくてすみ、5μL以下、通常1.0〜5μL、好適条件では1.0〜2μLの検体量でも測定が可能となる。
【0067】
さらに、測定に供する検体量が少ないため、反応時間も短くなり、一次反応を1時間以内、好適条件では20分間以内、最適条件では10分間以内で行い、二次反応及び酵素反応を、20分間以内、好適条件では10分間程度で行い、全体としての測定時間は1時間以内、好適条件では20分間以内で測定対象物質の濃度測定が可能となる。
【0068】
全反射させた光の物理量の測定においては、この全反射させた光の物理量変化が把握できれば良い。したがって、この全反射させた光の0次光に限らず、回折光、すなわち1次光、2次光、など全反射させた光の高次の光、その他の適宜な現象・方法を用いて観測しても構わない。
【0069】
(インスリンの測定方法)
ラットインスリン濃度を測定する方法は次のとおりである。
【0070】
まず、センサチップをチップ仮置きプレートに並べ、センサチップのセル(図2及び3におけるセル11)の中央に検体溶液を各1μLずつ滴下し、検体溶液がセル中央に保持されるようにして、常温で10分間反応(一次反応)させる。
【0071】
次に、8連ピペットで各センサチップのセルを洗浄する。
【0072】
次に、各センサチップのセルに、酵素標識モルモット抗ラットインスリン抗体溶液と酵素標識モルモット抗ラットインスリン抗体希釈液とを混合した溶液を20μLずつ各セルに滴下し、常温で10分間反応(二次反応)させる。
【0073】
各チップのセルを洗浄した後、各チップのセルにリン酸緩衝液25μLを滴下する。
【0074】
次に、二次反応させたチップを、光導波路型免疫測定を行う濃度測定装置にセットして、各セル内のリン酸緩衝液で初期値を測定する。
【0075】
リン酸緩衝液を除去して、各セルに発色基質と標識酵素の基質からなる発色試薬溶液を20μLずつ滴下して酵素反応を行わせた後、濃度測定装置によってレーザ光をセンサチップに照射し、抗体固定化層にてエネルギーが吸収されたこのレーザ光の物理量を、濃度測定装置のシリコンフォトダイオード等で受光して測定する。この際、時間経過に沿って複数回の測定を行い経時変化を見てもよい。
【0076】
次に、図6及び図7Aから図7Dを用いて、前記のセンサチップを用いたサンドイッチELISA法による測定方法のメカニズムについて、より具体的に説明する。
【0077】
S20:センサチップの反応ホール10の基板16の表面には、図7Aに示すように、タンパク質、遺伝子等の測定対象となる抗原20aを特異的に認識する一次抗体14aからなる抗体固定化層14が形成されている。この反応ホール10内の抗体固定化層14上に抗原20aを含む検体溶液20を、1.0〜5μL滴下すると、図7Bに示すように、抗原20aが一次抗体14aと結合し、一次抗体/抗原の免疫複合体を形成する。
【0078】
S21:次に、一次抗体14aに結合した抗原20a以外の検体溶液20を、洗浄効果を高めるために界面活性剤を添加したリン酸緩衝生理食塩水液(PBS)等の洗浄液によって洗浄する。
【0079】
S22:次に、酵素標識されている二次抗体溶液21を滴下する。酵素標識されている二次抗体溶液としては、例えば、インスリンフリーのラット血清を0.1〜5容量%、好ましくは0.3〜1.5容量%、Atlas Powder社のTween20を0.01〜1容量%、好ましくは0.05〜0.1容量%、及びNaClを0.1〜1mol、好ましくは0.10〜2molの組成を有するTris−塩酸緩衝液(pH6.0〜9.0、好ましくは7.0〜8.0)に含まれている西洋ワサビペルオキシダーゼで標識された二次抗体を用いることができる。
【0080】
酵素標識されている二次抗体溶液21を滴下すると、図7Cに示すように、二次抗体21aは、一次抗体14aとは別の部位で抗原20aにさらに結合する。その結果、一次抗体/抗原/二次抗体からなる免疫複合体が形成される。なお、二次抗体21aに標識されている標識酵素として、例えば酸化還元酵素としてペルオキシダーゼ等を用いることができる。
【0081】
S23:次に、免疫複合体を形成しなかった二次抗体21aを含む二次抗体溶液21を、界面活性剤を含むリン酸緩衝液等の洗浄液によって再洗浄する。
【0082】
S24:次に、洗浄に使用した界面活性剤を取り除き、安定化させるためにリン酸緩衝液のみを注入する。
【0083】
S25:センサチップの入射側グレーティング13aに向けて発光素子からレーザ光等を照射して、レーザ光等を光導波路層内に伝播させる。光導波路層の表面からエバネッセント波が生じる。この伝播光を出射側グレーティング13aからの反射光として受光素子で受光し、基準反射光強度として測定する。
【0084】
S26:次に、S24において注入されていたリン酸緩衝液を除去して、図7Dに示すように、セル11に発色試薬溶液22を滴下する。発色試薬溶液22としては、例えばpH=4.9の緩衝液中に、酢酸、TMBZ、過酸化水素(H)、ジメチルスルホキシド等の少量の有機溶媒を含む溶液を使用することが好ましい。すると、ペルオキシダーゼ(POD)等の標識酵素と、標識酵素(POD)の基質であるHとの酸化還元酵素反応によりラジカル酸素原子(O)が生成される。この酵素反応により生成されるラジカル酸素原子(O)により発色試薬22aが酸化され、例えばTMBZの−NH基が=NH基に酸化され、青緑色に発色し、さらに不溶化し、抗体固定化層14内(基板16表面)に沈殿する。
【0085】
S27:次に、基準反射光強度を測定した際と同様に、センサチップに対してレーザ光を入射させる。センサチップの入射側グレーティング13aに向けて発光素子からレーザ光等を照射すると、入射したレーザ光が入射側グレーティング13aを介して光導波路層である基板16内を全反射で伝播する。レーザ光が全反射するとき、光導波路層表面にエバネッセント波が生じる。このエバネッセント波は沈殿した酵素反応産物に吸収される。この作用に基づき光導波路層を伝播する光に極微な変化を与える。出射側グレーティング13bからの反射光を受光素子で受光し、発色後の反射光強度を測定する。
【0086】
S28:ここで、S25で測定した基準反射光強度とS27で測定した発色後反射光強度との光強度の差を求め、この差から検体溶液20中の測定対象となる抗原20aの濃度を算出して、検体溶液中の測定対象物質の濃度を求めることができる。
【0087】
本発明方法によれば、抗体固定化層14における酵素反応により、発色試薬溶液22が発色するだけでなく、発色試薬22aが酵素反応産物となって抗体固定化層14に沈殿するので、光導波路層と抗体固定化層との界面で、基板16表面で発生するエバネッセント波を確実に吸収することができる。したがって、試料溶液中の極微量の物質であっても光導波路層を伝播する光の極微量の変化を検出できるため、高感度で測定し、分析、定量することができる。
【0088】
本発明の測定方法を用いて反射光強度を連続して測定すると、図8に示すようになり、A時点の値を基準反射光強度、B時点の値を発色後反射光強度として採用して濃度を算出することができる。したがって、無抗原溶液を用いた対照実験等を行って基準反射光強度を測定する必要がない。
【0089】
本発明の測定方法によれば、従来法のようにマイクロプレートのウエルの反射光量を測定するのでなく、抗体固定化層の沈殿物エリアで光が全反射する際におけるエバネッセント波の吸収による反射光の物理量の変化を測定するため、5μL以下の検体量で測定対象物質の濃度を高感度かつ高精度で迅速に測定することを可能とする。しかも、測定に供する検体量が1.0〜5μLの範囲内でばらついていても、従来法であるELISA法との相関が良好であり、測定対象物質の濃度を正確に測定することができ、再現性も優れている。
【0090】
また、測定に供する検体量が少ないため、反応時間も短くなり、全体としての測定時間は1時間以内、好適条件では20分間以内で測定対象物質の濃度測定が可能となる。
【0091】
さらに、色素を選択的に沈殿させることで、この色素のみを検出することが可能となる。非特異的に吸着したタンパク質等の影響を受けにくく、血液のような多成分を含む試料についても測定対象物質の濃度を安定して測定することができる。
【0092】
本発明はサンドイッチELISA法に対して感度良く適用できるが、サンドイッチELISA法ではないELISA法にも適用することができる。
【0093】
次に、本発明を実施例によってさらに詳細に説明するが、本発明はこれによりなんら限定されるものではない。
【実施例1】
【0094】
図1に示すセンサチップを用いて濃度の測定を行った。透明ガラス基板上の反応ホール10内の抗体固定化層14(直径2mmの円形範囲)に抗インスリン抗体を常法により固定化した。
【0095】
検体として、10ng/mLのラットインスリン溶液を0.5〜2μLまで量を変えて、抗体固定化層14に滴下し、常温で10分間、一次反応させた後、燐酸緩衝生理食塩水(PBS)(非イオン界面活性剤;Atlas Powder社のTween20を0.1%含有)でガラス基板表面を洗浄した。西洋ワサビペルオキシダーゼで酵素標識された二次抗体溶液(インスリンフリーのラット血清を1容量%、Atlas Powder社のTween20を0.05容量%、及び0.15molのNaClを含む20mmolのTris−塩酸緩衝液、pH7.4)を滴下し、常温で10分間二次反応をさせた。二次反応後、上記の緩衝溶液で洗浄、さらにpH6.0のリン酸緩衝溶液で洗浄して基準値となる基準反射光強度を測定した。測定後、リン酸緩衝溶液を除去して、発色試薬溶液(テトラメチルベンジジン1.1mmol/L、過酸化水素1.9mmol/L、ジメチルスルホキシド1容量%、酢酸緩衝液80mmol/L、pH4.9)を滴下して10分間放置した。
【0096】
次に、入射側グレーティングを介してガラス基板に計測用のレーザ光を導入し、抗体固定化層の円形領域(センシングエリア)の裏面で全反射させた。反射光は出射側グレーティングによってガラス基板外に放射されるので、この放射光の光強度を受光素子(フォトダイオード)によって測定した。全反射が行われる際にセンシングエリア内に入射するエバネッセント波の吸収と反射に応じて、全反射後の光束の強度に変化が生じる。このため酵素反応前の反射光量と酵素反応後の反射光量の比(以下、低下率という)が測定対象物質(インスリン)の濃度と相関する。
【0097】
ここで検体量を変えて低下率を測定した結果を図9に示す。横軸に検体量、縦軸に低下率をプロットした。検体量が1μL以上では低下率がほぼ一定の値となり、測定に供する検体量が正確でなくてもインスリン濃度を測定できること、すなわち検体量非依存性であることが示された。
【0098】
また、検体濃度を変えて低下率を測定した結果を図10に示す。横軸に検体中のインスリンの濃度、縦軸に低下率をプロットした結果、相関係数(R)は0.998であり、ほぼ直線の検量線が得られた。この検量線は、y=3.8902x+1.5581(ここで、xはインスリン濃度、yは低下率を示す)に近似した一次関数として表すことができる。
【実施例2】
【0099】
実施例1と同様にして、検体としてラットの全血を用いて、インスリンの濃度を測定した。この結果と、従来のELISA法による結果との相関をみた。その結果を図11に示す。図11に示すように相関係数(R)0.9919の良好な直線性を示す検量線が得られた。この検量線は、y=0.9658x+0.1759(ここで、xは従来のELISA法測定値、yは本発明測定値を示す)に近似した一次関数として表すことができる。
【0100】
なお、従来のELISA法による測定は、次のように行った。
【0101】
抗体固相化マイクロプレートに95μLのインスリンフリーラット血清を含む緩衝液を分注した後、ラット全血清5μL又は0〜5000pg/mLの標準インスリン希釈系列5μLを分注し、室温で1時間反応させた。次いで、ウエルを洗浄後、ペルオキシダーゼ標識抗体を加え、室温で1時間反応させた。ウエルを洗浄後、100μLの発色試薬溶液(H、TMBZ溶液)を加えて、室温、遮光下で40分間反応させ、50μLの酵素反応停止液を加えて酵素反応を止めた後、ウエルの吸光度をマイクロプレートリーダーを用いて主波長450nm、副波長630nmで測定した。
【実施例3】
【0102】
実施例1と同様にして、検体としてラットの血漿を用いて、インスリンの濃度を測定した。この結果と、実施例2に記載した従来のELISA法による結果との相関をみた。その結果を図12に示す。図12に示すように相関係数(R)は0.9969の良好な直線性を示す検量線が得られた。この検量線は、y=0.8508x+0.195(ここで、xは従来のELISA法測定値、yは本発明測定値を示す)に近似した一次関数として表すことができる。
【実施例4】
【0103】
検体として50ng/mLのカゼイン抗原溶液2μL、一次抗体として抗カゼイン抗体、二次抗体として酵素標識抗カゼイン抗体を用いて、実施例1と同様にして反射光量の変化を測定した。
【0104】
反射光は出射側グレーティングによってガラス基板外に放射され、受光素子(フォトダイオード)によってその強度が測定され、ブランク値に対して有意なセンサ出力(45.0%)が得られた。結果を図13に示す。
【実施例5】
【0105】
実施例4において、カゼインの代わりにβ−ラクトグロブリン、一次抗体として抗β−ラクトグロブリン抗体、二次抗体として酵素標識抗β−ラクトグロブリン抗体を用いて、実施例1と同様にして反射光量の変化を測定した。ブランク値に対するセンサ出力は11.70%であった。結果を図14に示す。
【実施例6】
【0106】
実施例4において、カゼインの代わりにオボアルブミン、一次抗体として抗オボアルブミン抗体、二次抗体として酵素標識抗オボアルブミン抗体を用いて、実施例1と同様にして反射光量の変化を測定した。ブランク値に対するセンサ出力は34.6%であった。結果を図15に示す。
【実施例7】
【0107】
実施例4において、カゼインの代わりにそばの主要タンパク質複合体、一次抗体として抗そば主要タンパク質複合体抗体、二次抗体として酵素標識抗そば主要タンパク質複合体抗体を用いて、実施例1と同様にして反射光量の変化を測定した。ブランク値に対するセンサ出力は30.8%であった。結果を図16に示す。
【実施例8】
【0108】
実施例4において、カゼインの代わりに落花生のArah2を含む可溶性タンパク質、一次抗体として抗落花生Arah2可溶性タンパク質抗体、二次抗体として酵素標識抗落花生Arah2可溶性タンパク質抗体を用いて、実施例1と同様にして反射光量の変化を測定した。ブランク値に対するセンサ出力は27.4%であった。結果を図17に示す。
【実施例9】
【0109】
実施例1において、検体としてヒトインスリン溶液を用いてヒトインスリンの濃度を測定した。結果を図18に示す。
【0110】
横軸にインスリンの濃度、縦軸に低下率をプロットした結果、図18に示すように相関係数(R)は0.9908の良好な直線性を示す検量線が得られた。この検量線は、y=8.6108x+1.5289(ここで、xはインスリン濃度、yは低下率を示す)に近似した一次関数として表すことができる。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明の発色試薬、濃度測定用キット及びセンサチップを用いれば、5μL以下の極微量の検体溶液中の測定対象物質の濃度を、高感度かつ高精度で迅速に、かつ再現性良く測定することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも発色基質と標識酵素の基質とを含み、酵素反応により発色し、沈殿する酵素反応産物を生成する発色試薬。
【請求項2】
前記発色基質がベンジジン系発色剤であり、前記標識酵素の基質が過酸化物である請求項1に記載の発色試薬。
【請求項3】
酵素免疫測定法に利用する請求項1又は2に記載の発色試薬。
【請求項4】
測定対象物質を捕捉するための抗体が固定される抗体固定化層を光導波路層表面に備えるセンサチップと、標識酵素によって酵素標識された抗体と、請求項1、2または3に記載の発色試薬とが、それぞれ個別に収容されて組み合わされた測定対象物質の濃度測定用キット。
【請求項5】
前記標識酵素がペルオキシダーゼである請求項4に記載の測定対象物質の濃度測定用キット。
【請求項6】
前記抗体固定化層に固定されている抗体が、抗インスリン抗体、抗カゼイン抗体、抗β−ラクトグロブリン抗体、抗オボアルブミン抗体、抗そば主要タンパク質複合体抗体、抗落花生Arah2可溶性タンパク質抗体のうち、いずれか1種である請求項4または5に記載の測定対象物質の濃度測定用キット。
【請求項7】
光導波路層とこの光導波路層の表面に設置された抗体固定化層とを具備するセンサチップを用いる測定対象物質の濃度測定方法であって、抗体が固定された前記センサチップの抗体固定化層によって測定対象物質及び標識酵素により酵素標識された抗体を固定し、前記標識酵素により発色試薬を反応させて発色し沈殿する酵素反応産物を生成して前記抗体固定化層上に前記酵素反応産物を沈殿させ、外部から前記センサチップに入射された光を前記光導波路層と抗体固定化層との界面で全反射させて、この全反射させた光の物理量を観測する測定対象物質の濃度測定方法。
【請求項8】
光導波路層とこの光導波路層の表面に設置された抗体固定化層とを具備するセンサチップを用いる測定対象物質の濃度測定方法であって、
抗体が固定された前記センサチップの抗体固定化層によって測定対象物質及び標識酵素により酵素標識された抗体を固定し、外部から前記センサチップに入射された光を前記光導波路層と抗体固定化層との界面で全反射させて、この全反射させた光の物理量を観測する測定工程と
前記標識酵素により発色試薬を反応させて発色し沈殿する酵素反応産物を生成して前記抗体固定化層上に前記酵素反応産物を沈殿させ、外部から前記センサチップに入射された光を前記光導波路層と抗体固定化層との界面で全反射させて、この全反射させた光の物理量を観測する測定工程と
を具備する測定対象物質の濃度測定方法。
【請求項9】
測定に供する検体量が5μL以下である請求項7または8に記載の測定対象物質の濃度測定方法。
【請求項10】
前記標識酵素としてペルオキシダーゼを用い、前記発色試薬として少なくともベンジジン系発色剤と過酸化物を含有するものを用いる請求項7または8に記載の測定対象物質の濃度測定方法。
【請求項11】
前記抗体固定化層は、30nm〜500nmの厚さを有する請求項7または8に記載の測定対象物質の濃度測定方法。
【請求項12】
内部を光が全反射で伝播可能な光導波路層と、この光導波路層の全反射させる表面の少なくとも一部に形成される抗体固定化層と、を具備するセンサチップ。
【請求項13】
前記光導波路層表面に形成されており、表面が抗体固定化層よりも高くなるように、前記抗体固定化層の少なくとも一部が露出するように開口して反応ホールを形成する撥液性を有する膜を具備する請求項12に記載のセンサチップ。
【請求項14】
前記光導波路層表面に固着されており、突端が撥液性を有する膜よりも高く、反応ホールを囲むように形成されてセルを構成している枠体を具備する請求項13に記載のセンサチップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図5E】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図7D】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【国際公開番号】WO2005/022155
【国際公開日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【発行日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513483(P2005−513483)
【国際出願番号】PCT/JP2004/012393
【国際出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】