説明

測定装置および材料試験機

【課題】フーリエ変換回路による周波数分析によってキャリア発振周波数近傍の帯域の計測信号を精度良く計測する
【解決手段】交流信号をブリッジ回路に印加する。ウェーブレット変換回路114は、ブリッジ回路からその平衡状態に応じた計測信号を取得し、取得した計測信号に対してウェーブレット変換を施す。フーリエ変換回路115は、ウェーブレット変換が施された入力信号に対して周波数分析を行い、交流信号の周波数成分に対応する周波数成分の計測信号を抽出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計測対象の物理的変化に応じて変化する信号を交流電圧信号に重畳して出力するようにした搬送波型の測定装置およびその測定装置を使用した材料試験機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、抵抗式ひずみゲージを含むブリッジ回路と測定器とを有し、これらをケーブルなどで接続した搬送波型ひずみ測定装置が知られている(特許文献1)。
【0003】
このような測定装置では、ブリッジ回路からの計測信号の高周波成分をローパスフィルタで除去した後に、フーリエ変換により周波数分析を行い、搬送波の周波数帯域の信号を抽出している。
【特許文献1】特開2005−19550号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述したデジタル回路では次のような問題がある。
単に所定値以上の周波数帯域の信号を除去した後にフーリエ変換を行う場合、周波数の高い試験、すなわち高速試験では変換精度が悪い。また、搬送波の周波数帯域の近傍周波数帯域に雑音が含まれているときなどは、搬送波に重畳されている計測信号から特定周波数の信号成分を精度よく取り出せない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)請求項1の発明は、交流電圧信号が印加され、計測対象の物理的変化に応じて変化する信号を交流電圧信号に重畳して出力する検出手段と、上記変化する信号が重畳された交流電圧信号を入力してウェーブレット変換を施して出力するウェーブレット変換手段と、ウェーブレット変換が施されて出力される信号に対して周波数分析を行う周波数分析手段と、周波数分析の結果に基づいて、計測対象の物理的変化を計測値として演算する演算手段とを備えることを特徴とする。
(2)請求項2の発明は、請求項1に記載の測定装置において、ウェーブレット変換は、周波数分析手段での周波数分析において、交流電圧信号の周波数帯域に含まれる上記変化する信号に対する周波数応答性を向上させるようにマザーウェーブレットを定めることを特徴とする。
(3)請求項3の発明は、請求項2に記載の測定装置において、ウェーブレット変換手段は、マザーウェーブレットに対して交流電圧信号の周波数を適用してウェーブレット変換関数を算出し、検出手段から出力される信号をウェーブレット変換関数によりウェーブレット変換し、周波数分析手段はフーリエ変換回路であり、ウェーブレット変換された信号に対してフーリエ変換し、演算手段は、フーリエ変換された信号に基づいて計測値を演算することを特徴とする。
(4)請求項4の発明は、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の測定装置において、検出手段は、計測対象の物理的変化を抵抗値変化に変換するホイートストーンブリッジであることを特徴とする。
(5)請求項5の発明による材料試験機は、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の測定装置と、試験片を負荷する負荷アクチュエータと、測定装置で測定した測定信号に基づいてアクチュエータを制御して試験片を負荷する制御手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、フーリエ変換による周波数分析によって搬送波周波数近傍の帯域の計測信号を精度良く計測することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
図1は、本発明を適用したロードセル型荷重測定装置の一実施の形態の概略構成を示すブロック図である。この実施の形態の測定装置は、搬送波に検出信号を重畳して取り出すようにした測定装置であり、校正用ブリッジ16を含む測定回路10と、ロードセルブリッジ20と、電源回路30とを備えている。測定回路10は接続ケーブル61によりにロードセルブリッジ20に接続され、接続ケーブル62により材料試験機50に接続されている。
【0008】
この実施の形態による測定装置の概要をまず説明する。搬送波である交流電圧信号を抵抗ブリッジに印加した場合、その抵抗変化による出力端子間の電位差は、(抵抗成分による電位差Δvr+容量成分による電位差Δvc)として表される。電位差ΔvrとΔvcは90度位相がずれている。このような前提に基づいて、次の(i)の補償処理と、(ii)の計測処理を行って、抵抗成分による実電位差ΔvrAを算出する。
【0009】
(i)補償処理:
測定回路10に容量成分の影響を受けない校正用ブリッジ16を接続し、抵抗成分による電位差Δvrの位相を予め測定する。この位相は搬送波に対する位相遅れであり、補償位相θvと呼ぶ。
【0010】
(ii)計測処理:
(ii-1)測定回路10にケーブ61を介してロードセルブリッジ20を接続し、容量成分の電位差が重畳された計測信号を取得する。この計測信号をフーリエ変換し、抵抗成分による電位差Δvrと容量成分による電位差Δvcとを分離して算出する。
(ii-2)抵抗成分による電位差Δvrの位相を補償処理で得た補償位相θvだけ回転、すなわちずらし、抵抗成分による実際の電位差ΔvrAを算出する。
【0011】
したがって、校正用ブリッジ16は、ケーブル61などの容量成分による遅れを補償するものではない。
【0012】
材料試験機50はたとえば引張・圧縮材料試験機であり、コントローラ51によって、試験機全体が制御される。コントローラ51には、試験結果などを表示するモニタ52と、入力装置53と、試験片を負荷するアクチュエータ54とを備えている。コントローラ51は、測定回路10からの計測信号を入力して周知の信号処理を行い、材料試験機の試験速度、試験方法などを制御する。また、入力装置53は、ユーザの入力操作により、後述する補償指令を出力するとともに、試験開始時は試験指令を出力する。
【0013】
測定回路10は、デジタル演算回路11と、デジタル演算回路11のデジタル出力信号をアナログ信号に変換するDA変換器12と、ローパスフィルタ13と、交流増幅器14と、リレー15と、校正用ブリッジ16とを備える。
【0014】
また、測定回路10は、校正用ブリッジ16またはロードセルブリッジ20から入力される信号を増幅する交流増幅器17と、ローパスフィルタ18と、アナログ測定信号をデジタル信号に変換するAD変換器19とを備えている。リレー15は交流増幅器14および交流増幅器17を校正用ブリッジ16に接続するか、ロードセルブリッジ20に接続するかを切り替えるものである。
【0015】
リレー15は、図2に示すように、フォトMOSスイッチSW1〜SW8を有している。材料試験機50の入力装置53から補償指令が指示されると、スイッチSW1〜スイッチSW4が閉じ、スイッチSW5〜スイッチSW8が開き、校正用ブリッジ16が測定回路10に接続される。入力装置53から試験開始指令が指示されると、スイッチSW1〜スイッチSW4が開き、スイッチSW5〜スイッチSW8が閉じ、ロードセルブリッジ20が測定回路10に接続される。すなわち、リレー15は、ブリッジを択一的に測定回路10に接続する切換器であり、計測中はロードセルブリッジ20が接続され、校正中は校正用ブリッジ16が接続される。
【0016】
校正用ブリッジ16は、測定回路10の最終出力段と入力初段に設けられ、アナログ回路の容量成分による位相遅れθ1と、デジタル回路のデータホールドによる位相遅れθ2を補償するための校正回路である。ここで、データホールドによる位相遅れθ2とはいわゆるデジタル回路におけるZ変換による遅れである。本明細書では、上述した2つの位相遅れθ1+θ2を、説明の便宜上、トータル遅れθと呼ぶものとする。
【0017】
校正用ブリッジ16は、ホイートストーンブリッジを構成する4つの抵抗R11〜R14と、抵抗R11に並列接続される付加抵抗R21および抵抗R14に並列接続されるR22と、付加抵抗R21およびR22を抵抗R11およびR12に接続するか切り離すかを制御するスイッチSW11およびスイッチSW12とを備えている。スイッチSW11およびスイッチSW12が閉成されると、付加抵抗R21およびR22が抵抗R11およびR12に並列接続され、ブリッジの平衡状態が変更される。
【0018】
なお、校正用ブリッジ16は、抵抗成分だけで構成されて浮遊容量が発生しないようにされ、また、リレー15と校正用ブリッジ16とを接続する基板上のパターン回路も抵抗成分だけで構成されて浮遊容量が発生しないようにされている。したがって、校正信号は抵抗成分による電位差だけを表すことになる。
【0019】
ロードセルブリッジ20は、4つの抵抗R1〜R4をブリッジ接続したホイートストーンブリッジであり、図示しないロードセル内に設けられ、試験片に発生する負荷荷重に応じた抵抗値変化を表す信号を出力する。なお、校正用ブリッジ16の付加抵抗R21,R22の抵抗値は、実試験時にロードセルブリッジ20の抵抗値変化幅に応じた大きさの抵抗値である。
【0020】
交流増幅器14からロードセルブリッジ20や校正用ブリッジ16へ出力される電圧信号は、所定周波数、所定振幅の搬送波信号である。ロードセルブリッジ20や校正用ブリッジ16から出力されて交流増幅器17で増幅される電圧信号は、搬送波にブリッジ抵抗値変化分の信号が重畳された電圧信号である。デジタル演算回路11は、この電圧信号から搬送波成分を除去し、抵抗値変化に応じた計測信号を得る。なお、計測信号は、ロードセルブリッジ20が平衡状態のときにゼロに校正される。
【0021】
デジタル演算回路11は、図3に示すように、所定周波数、所定振幅の正弦波である搬送波信号(交流電圧信号)をDA変換器12に出力する。そのため、デジタル演算回路11は、キャリア発生回路111と、正弦波生成回路112と、振幅調整回路113とを備えている。正弦波生成回路112は、キャリア発生回路111で発生する周波信号に基づいて正弦波を生成する。振幅調整回路113は、正弦波生成回路112から出力される正弦波の振幅を、ロードセルブリッジ20や校正用ブリッジ16に対応した振幅に調整してDA変換器12に出力する。
【0022】
また、デジタル演算回路11は、AD変換器19からのデジタル計測信号を入力し、その入力信号に対して計測処理を施し、上位装置、たとえば、材料試験機のコントローラ51へ計測信号を出力する。そのため、デジタル演算回路11は、ウェーブレット変換回路114と、フーリエ変換回路115と、位相調整回路116と、振幅調整回路117と、オフセット調整回路118とを備えている。ウェーブレット変換回路114と、フーリエ変換回路115は、キャリア発生回路111と同期が取られている。
【0023】
ウェーブレット変換回路114はノイズフィルタである。ウェーブレット変換回路114によりノイズ除去された計測信号はフーリエ変換回路115に入力される。フーリエ変換回路115は周波数分析を行い、キャリア周波数に対応した周波数帯域の計測信号を算出する。
【0024】
後述する式(10)に示すように、入力される計測信号を複素空間で表すと、フーリエ変換回路115は、図4を参照して後で説明するように、抵抗成分による信号値を実軸の値、容量成分による信号値を虚軸の値として算出する。すなわち、後述する式(16)に示すように、抵抗成分の電位差Δvr(x座標値)と容量成分の電位差Δvc(y座標値)とを分離して算出する。ここで、容量成分による信号値とは、上述したように、アナログ回路の種々の容量成分に起因して生ずる遅れと、デジタル回路のデータホールドに起因する遅れによって生じる信号成分値、すなわち、トータル遅れによって生じる信号成分値を意味する。
【0025】
図4は、横軸を実軸、縦軸を虚軸とした複素座標系としてブリッジ出力信号を説明する図である。搬送波にブリッジ出力信号を重畳させてブリッジ出力の変化成分を計測する場合、測定系内のアナログ回路の容量成分による遅れと、デジタル回路のデータホールドによる遅れを総合したトータル遅れθが生じる。このとき、トータル遅れθの影響を受けた信号は、抵抗成分を表す信号に対して90度の位相遅れを持つ。図4の座標系では、実軸上の値が抵抗成分によるもの、虚軸上の値がトータル遅れ成分によるものとして表される。
【0026】
位相調整回路116は、計測に先立って予め測定した上記補償位相θvを記憶しており、測定された計測信号の位相を調整する。すなわち、位相調整回路116は、記憶している補償位相θvだけ、抵抗成分による電位差Δvrの位相を調整し、上述した座標値xを算出する。この座標値xが抵抗成分による実電位差ΔvrAである。振幅調整回路117は、実電位差ΔvrAに所定のゲインを与える回路である。ゲインは、計測に先立って行われた校正処理で決定される。オフセット調整回路118は、振幅調整された計測値に対して、材料試験機のつかみ具などの自重成分をキャンセルするオフセット値を調整する。このオフセット値も計測に先立って行うオフセット処理で予め算出される。オフセット調整された計測値は、材料試験機などの上位装置に出力される。
【0027】
このような測定装置によって行われる位相遅れの影響を補償する動作について説明する。なお、この補償動作は、測定処理に先だって行われる。リレー15に補償指令を入力し、スイッチSW1〜スイッチSW4を閉じ、スイッチSW5〜スイッチSW8を開いて、測定回路10を校正用ブリッジ16に接続する。このとき、校正用ブリッジ16のスイッチSW11およびスイッチSW12は開いておく。この状態で、所定周波数、所定振幅の搬送波信号を交流増幅器14から校正用ブリッジ16に印加する。校正用ブリッジ16から出力された計測信号は、デジタル演算回路で信号処理され計測信号を得る。すなわち、デジタル演算回路11のフーリエ変換回路115は、入力信号をフーリエ変換して得られた計測値を座標値(x1,y1)として記憶する。この計測値は図4でベクトルAvで示されている。
【0028】
次いで、校正用ブリッジ16のスイッチSW11およびスイッチSW12を閉じ、この状態で所定周波数、所定振幅の搬送波信号を交流増幅器14から校正用ブリッジ16に印加する。校正用ブリッジ16から出力された計測信号は、デジタル演算回路11で信号処理され計測信号を得る。すなわち、デジタル演算回路11のフーリエ変換回路115は、入力信号をフーリエ変換して得られた計測値を座標値(x2,y2)として記憶する。この計測値は図4でベクトルBvで示されている。デジタル演算回路11の位相調整回路116は、座標値(x1,y1)と座標値(x2,y2)とに基づいて、ベクトルAvとベクトルBvの差をベクトル差Bv−Avとして求める。そして、位相調整回路116は、このベクトル差Bv−Avに基づいて上述した補償位相θvを算出して記憶する。
【0029】
図4を参照すると次のように説明することができる。
図4において、ベクトルAvは、平衡状態の校正用ブリッジ16から出力される計測信号を表し、ベクトルBvは、付加抵抗R21およびR22を平衡状態の校正用ブリッジ16に付加してバランスを崩した状態で校正用ブリッジ16から出力される計測信号を表す。ベクトルAvとベクトルBvとの差分であるベクトル差Bv−Avは、交流電圧信号の基準位相に対してθvだけ遅れている。このθvは、搬送波の位相に対する抵抗成分による電位差の位相遅れ、すなわち補償位相θvである。
【0030】
試験を開始する場合、リレー15に試験指令を入力し、スイッチSW1〜スイッチSW4を開き、スイッチSW5〜スイッチSW8を閉じて、測定回路10をロードセルブリッジ20に接続するとともに、所定周波数、所定振幅の搬送波信号を交流増幅器14からロードセルブリッジ20に印加する。アクチュエータ54を駆動して試験片に負荷を加え、ロードセルブリッジ20から出力される計測信号をデジタル演算回路11で信号処理して計測信号を得る。デジタル演算回路11のフーリエ変換回路115は、座標値(x3,y3)として記憶する。この計測値は図4でベクトルCvで示されている。位相調整回路116は、座標値x3の値を、予め記憶した補償位相θvに基づいて補正して座標値x4をたとえば次式により算出し、ロードセル計測値として記憶する。
X4=a×x3+b×y3
ただし、a,bは、a=x2-x1,b=y2-y1
【0031】
概念的には、ベクトルCvの方向を、補償動作で記憶した補償位相θvだけ戻したベクトルCvrを算出し、ベクトルCvrの座標値x4を算出する。
【0032】
次に、ウェーブレット変換回路114の信号処理について説明する。
マザーウェーブレットφ(t)を次式(1)で表す。
【数1】

また、スケーリング係数をa,時間シフト量をbとして、ウェーブレット変換関数ψ(t)を次式(2)で定義する。
【数2】

【0033】
入力される信号f(t)を、
【数3】

と表すと、ウェーブレット変換関数ψ(t)に対する入力信号f(t)のウェーブレット変換Φ(t)は、次式(4)で計算される。
【数4】

【0034】
ここで、
【数5】

のとき,f(t)=0となる時刻tにおいて、ψ(t)=0となるためには、
【数6】

であり、式(5)を次式(6)のように書き直すことができる。
【数7】

したがって、スケーリング係数aは、
【数8】

となる。ただし、fは入力信号f(t)の周波数[Hz]である。
【0035】
f=10kHzのときのウェーブレット変換関数ψ(t)は、
【数9】

したがって、フーリエ変換回路115の入力信号f(t)は次式(9)で表すことができる。
【数10】

【0036】
図3のフーリエ変換回路115について詳細に説明する。上述したように、フーリエ変換回路115は、以下に示す式(12)、(13)に示すように座標(x,y)を算出する。
【0037】
入力信号f(t)を、
【数11】

とすると、入力信号f(t)のフーリエ変換F(ω)は、
【数12】

で表される。このとき、入力信号の座標(x,y)は、
【数13】

で求められる。
【0038】
式(12)に式(11)を代入して書き直すと、x座標は次式(14)で表される。
【数14】

【0039】
同様に、y座標は次式(15)で表される。
【数15】

【0040】
したがって、入力信号の座標(x,y)は、
【数16】

のように求めることができる。
【0041】
ウェーブレット変換関数ψ(t)とフーリエ変換回路115の入力信号f(t)のグラフを図5に示す。図5から分かるように、符号L1で示すウェーブレット変換関数ψ(t)は、L2で示す入力信号f(t)と非常に強い相関を示す。図6は、ウェーブレット変換回路114の出力信号であるψ(t)×f(t)のグラフであり、このようなウェーブレット変換を施した信号を入力信号とすることにより、フーリエ変換回路115は、キャリア発生回路111で発生するキャリア発振周波数近傍の帯域の計測信号のみを精度良く計測することができる。
【0042】
図7は、フーリエ変換処理に先立て入力信号に対してウェーブレット変換処理を施すことによる効果を示している。すなわち、フーリエ変換前にウェーブレット変換を施さない場合の結果をL11で示し、フーリエ変換後にウェーブレット変換を施した場合の結果をL12で示している。図7から分かるように、曲線L12では、キャリア周波数を越えると周波数応答性が極端に落ちていることが分かる。
【0043】
以上説明した実施の形態による測定装置では次の作用効果を奏することができる。
(1)測定回路10の最終出力段と入力初段に校正用ブリッジ回路16を設け、試験に先立って、搬送波である交流電圧信号の位相を基準として、抵抗成分による電位差の位相遅れを補償位相θvとして算出して記憶するようにした。計測時に得られた抵抗成分の計測信号の位相を補償位相θvだけずらし、その抵抗成分の実計測値を算出するようにした。その結果、本実施の形態の測定装置では、測定回路10とロードセルブリッジ20とを接続するケーブルなどの浮遊容量の影響を受けることがない。したがって、接続ケーブの引き回しが変わっても、検出値に影響がない。
【0044】
(2)フーリエ変換処理の前処理として、従来のローパスフィルタに代えてウェーブレット変換によるフィルタリング処理を施した。これにより、フーリエ変換回路115は、ウェーブレット変換が施された入力信号に対して周波数分析を行い、搬送波の周波数帯域の計測信号に応答性を良くして計測信号を抽出することができる。その結果、搬送波周波数近傍の帯域の計測信号を精度良く計測することができる。また、搬送波周波数近傍の帯域のノイズを確実に分離することができる。
【0045】
(3)従来のように、フーリエ変換回路の前段にローパスフィルタを設け、搬送波の周波数以上の周波数を除去する場合には、搬送波の周波数を変更すると、ローパスフィルタを構成するデジタルフィルタのパラメータも変更する必要があった。しかし、ローパスフィルタに代えてウェーブレット変換によるフィルタリング処理を施すことにより、搬送波の周波数が変更されても、従来のデジタルフィルタのパラメータ変更処理が不要である。
【0046】
以上の実施の形態による測定装置では、ロードセルブリッジについて説明したが、搬送波型測定回路であれば、差動トランス式伸び計や静電容量式ロードセルなどについても本発明を適用できる。ブリッジ回路も必須ではない。また、ウェーブレット変換回路のマザーウェーブレットを(2)式で定義したが、搬送波の周波数帯域近傍の周波数応答を向上させるマザーウェーブレットであれば、他の式で定義するマザーウェーブレットを使用することも可能である。
本発明は、その特徴を損なわない限り、以上説明した実施の形態に何ら限定されない。
【0047】
特許請求の範囲と実施の形態による構成要素の対応関係では、検出手段は、ロードセルブリッジ20に対応し、ウェーブレット変換手段はウェーブレット変換回路114に対応し、周波数分析手段はフーリエ変換回路115に対応し、演算手段はデジタル演算回路11に対応する。なお、以上の説明はあくまで一例であり、発明を解釈する際、上記の実施の形態の記載事項と特許請求の範囲の記載事項の対応関係に何ら限定も拘束もされない。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施の形態に係る測定装置を材料試験機に使用する場合の一例を示すブロック図
【図2】図1のリレー15と校正用ブリッジ16の詳細を示す回路図
【図3】デジタル演算回路11の詳細を示すブロック図
【図4】複素座標系のベクトルで表す計測信号を説明する図
【図5】ウェーブレット変換関数ψ(t)とフーリエ変換回路115の入力信号f(t)を示すグラフ
【図6】ウェーブレット変換回路114の出力信号であるψ(t)×f(t)のグラフ
【図7】ウェーブレット変換処理を施すことによる効果を説明する図
【符号の説明】
【0049】
11 デジタル演算回路 15 リレー
16 校正用ブリッジ 20 ロードセルブリッジ
50 材料試験機 114 ウェーブレット変換回路
115 フーリエ変換回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電圧信号が印加され、計測対象の物理的変化に応じて変化する信号を交流電圧信号に重畳して出力する検出手段と、
前記変化する信号が重畳された交流電圧信号を入力してウェーブレット変換を施して出力するウェーブレット変換手段と、
前記ウェーブレット変換が施されて出力される信号に対して周波数分析を行う周波数分析手段と、
前記周波数分析の結果に基づいて、前記計測対象の物理的変化を計測値として演算する演算手段とを備えることを特徴とする測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の測定装置において、
前記ウェーブレット変換は、前記周波数分析手段での周波数分析において、前記交流電圧信号の周波数帯域に含まれる前記変化する信号に対する周波数応答性を向上させるようにマザーウェーブレットを定めることを特徴とする測定装置。
【請求項3】
請求項2に記載の測定装置において、
前記ウェーブレット変換手段は、前記マザーウェーブレットに対して前記交流電圧信号の周波数を適用してウェーブレット変換関数を算出し、前記検出手段から出力される信号を前記ウェーブレット変換関数によりウェーブレット変換し、
前記周波数分析手段はフーリエ変換回路であり、前記ウェーブレット変換された信号に対してフーリエ変換し、
前記演算手段は、前記フーリエ変換された信号に基づいて前記計測値を演算することを特徴とする測定装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の測定装置において、
前記検出手段は、前記計測対象の物理的変化を抵抗値または容量値変化に変換するホイートストーンブリッジであることを特徴とする測定装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の測定装置と、
試験片を負荷する負荷アクチュエータと、
前記測定装置で測定した測定信号に基づいて前記アクチュエータを制御して前記試験片を負荷する制御手段とを備えることを特徴とする材料試験機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−76300(P2008−76300A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−257609(P2006−257609)
【出願日】平成18年9月22日(2006.9.22)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】