説明

測定装置

【課題】直流成分が重畳した交流波形の接触電流についての実効値を正確に測定する。
【解決手段】処理部7は、人体模擬回路2を流れる接触電流Itcの波形データD1からその直流成分Idc,交流成分Iacを測定する測定処理、各成分Idc,Iacが共に各々の基準値Ir1,Ir2以上であって接触電流Itcの継続時間T1が心周期Tcのm倍超のときには、波形データD1から算出した接触電流Itcの振れ幅Ippを値(2×√2)で除算して接触電流Itcの正弦波実効値Ievを算出し、各成分Idc,Iacが共に基準値Ir1,Ir2以上で、かつ継続時間T1が心周期Tcのn倍未満のときには、波形データD1から算出した接触電流Itcのピーク値の最大絶対値Ipを値Ip/√2で除算して正弦波実効値Ievを算出する実効値算出処理、およびこの正弦波実効値Ievを出力部10に出力させる出力処理を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象機器についての接触電流を測定する電流測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の電流測定装置として、下記の特許文献1において従来の技術として開示されている電流測定装置が知られている。この電流測定装置は、人体模擬回路を備え、「電気用品安全法における電気用品の技術上の基準を定める省令の取扱細則」や「IEC60335−1:1994の国際標準規格」に則って、電気用品(測定対象機器)に接続される2本の交流電源線(以下、「電源線」ともいう)のうちのいずれか1本と電気用品の外装(露出充電部)との間の漏れ電流を測定可能に構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−138565号公報(第2頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記した漏れ電流についての規格以外にも、接触電流についての規格(IEC60990「接触電流及び保護導体電流の測定方法」)があり、この規格に基づいて接触電流を測定可能な電流測定装置も種々開発されている。その一方、上記した各規格のいずれにおいても定められていない波形の接触電流(図3,4に示す直流成分を含む交流電流)も人体に影響を与えるため、正確にその実効値を測定できるのが好ましい。しかしながら、上記した本願出願人の提案した電流測定装置、および上記した接触電流を測定する電流測定装置のいずれも、図3,4に示すような波形(直流成分が重畳した交流波形)の接触電流についての測定を前提としていないため、この接触電流の実効値を正確に測定することができないという課題が存在している。
【0005】
本発明は、かかる課題を解決すべくなされたものであり、直流成分が重畳した交流波形の接触電流についての実効値を正確に測定し得る電流測定装置を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成すべく請求項1記載の電流測定装置は、人体模擬回路と、アース線を含む交流電源線のいずれか1線および測定対象機器の外装の間、並びに2つの測定対象機器の各漏れ電流測定端子間のいずれかに前記人体模擬回路を接続したときに当該人体模擬回路を流れる接触電流に起因して当該人体模擬回路を構成する所定の素子の両端間に発生する両端間電圧に基づいて前記接触電流の実効値を測定する処理部とを備えた電流測定装置であって、前記両端間電圧をサンプリングして前記接触電流についての波形データを生成するA/D変換部と、出力部とを備え、前記処理部は、前記波形データに基づいて前記接触電流の直流成分および交流成分を測定する測定処理、前記直流成分の絶対値および前記交流成分の大きさが共に各々に予め規定された基準値以上であり、かつ前記接触電流の継続時間が心周期のm倍(mは正の数)を超えるときには、前記波形データに基づいて前記接触電流の振れ幅Ippを算出すると共に当該振れ幅Ippを値(2×√2)で除算して前記接触電流の正弦波実効値を算出し、前記直流成分の絶対値および前記交流成分の大きさが共に前記基準値以上であり、かつ当該継続時間が当該心周期のn倍(nはm未満の正の数)未満となるときには、前記波形データに基づいて前記接触電流のピーク値の最大絶対値Ipを算出すると共に最大絶対値Ipを値Ip/√2で除算して前記接触電流の前記正弦波実効値を算出する実効値算出処理、および当該実効値算出処理において算出した前記正弦波実効値を前記出力部に出力させる出力処理を実行する。
【0007】
また、請求項2記載の電流測定装置は、請求項1記載の電流測定装置において、前記出力部は、表示装置で構成され、前記処理部は、前記実効値算出処理において算出した前記正弦波実効値と予め規定された基準実効値とを比較して、その比較結果を前記表示装置に表示させる。
【発明の効果】
【0008】
請求項1記載の電流測定装置によれば、直流成分の絶対値および交流成分の大きさがそれぞれに対して予め規定された基準値以上であり、かつ接触電流の継続時間が心周期のm倍を超えるときには、波形データに基づいて接触電流の振れ幅Ippを算出すると共に振れ幅Ippを値(2×√2)で除算して接触電流の正弦波実効値を算出することができ、直流成分の絶対値および交流成分の大きさが共に前記基準値以上であり、かつ継続時間が心周期のn倍未満となるときには、波形データに基づいて接触電流のピーク値の最大絶対値Ipを算出すると共に最大絶対値Ipを値Ip/√2で除算して接触電流の正弦波実効値を算出することができるため、直流電流が重畳した交流電流である接触電流についての正弦波実効値の測定および評価をIEC60479−2規格に則って行うことができる。また、この電流測定装置によれば、波形データに基づいて、接触電流が直流電流の重畳した交流電流であるか否か、さらには接触電流の継続時間が心周期を基準としてどのような長さにあるのかを自動的に判別して、正弦波実効値を自動的に算出するため、IEC60479−2に規定される正弦波実効値を正確かつ短時間で算出することができる。
【0009】
また、請求項2記載の電流測定装置によれば、算出した正弦波実効値と予め規定された基準実効値との比較結果が表示装置で構成された出力部に表示されるため、直流電流が重畳した交流電流である接触電流についての正弦波実効値の評価をIEC60479−2規格に則って自動的に行った結果を確実に認識することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】電流測定装置1の構成を示すブロック図である。
【図2】図1における人体模擬回路2の回路図である。
【図3】接触電流Itcの波形図である。
【図4】接触電流Itcの他の波形図である。
【図5】電流測定装置1Aの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る電流測定装置の実施の形態について説明する。
【0012】
最初に、電流測定装置1の構成について説明する。
【0013】
電流測定装置1は、図1に示すように、人体模擬回路(模擬人体インピーダンス回路)2、A/D変換部3、スイッチ回路4、入力端子部5、出力端子部6、処理部7、記憶部8、操作部9および出力部10を備え、測定対象機器11についての接触電流Itcの正弦波実効値(本例では後述するようにIEC60479−2で規定される式で求められる等価正弦波電流の実効値)を測定可能に構成されている。また、電流測定装置1では、人体模擬回路2、A/D変換部3、スイッチ回路4、処理部7および記憶部8が1つの筐体1a内に配設され、かつ入力端子部5、出力端子部6、操作部9および出力部10が筐体1aの壁面に取り付けられている。
【0014】
人体模擬回路2は、抵抗素子のみで、または抵抗素子および容量素子を組み合わせて構成された公知の回路(例えば、IEC60990において接触電流の測定用として規定されている回路)の少なくとも1つを使用して構成されている。本例では一例として、人体模擬回路2は、図2に示すように、3つの抵抗素子(抵抗R1〜R3)および2つの容量素子(コンデンサC1,C2)を組み合わせて構成されている。具体的には、人体模擬回路2は、端子(電流入力端子)Aと端子(基準端子)Bとの間に2つの抵抗R1,R2が直列にこの順で接続され、抵抗R1にコンデンサC1が並列に接続されている。また、抵抗R2(本発明における所定の素子)の両端間には、抵抗R3およびコンデンサC2で構成される低域通過型フィルタ回路が接続されている。また、抵抗R3およびコンデンサC2の接続点に端子(電圧出力端子)Cが接続されている。また、人体模擬回路2の端子Aは筐体1aに設けられたコネクタ12に接続されている。検出プローブ2aは、このコネクタ12に着脱自在に接続されている。この構成により、この人体模擬回路2では、検出プローブ2aから端子Aを介して端子Bに流れる接触電流Itcを抵抗R2で電圧Vtcに変換し、電圧Vtc(本発明における両端間電圧)を上記の低域通過型フィルタ回路を介して端子Cから出力可能となっている。
【0015】
A/D変換部3は、人体模擬回路2から出力される電圧Vtcを所定周期でサンプリングすることにより、電圧Vtcの電圧波形(すなわち、電圧Vtcに変換された接触電流Itcの波形)を示す波形データD1を生成して出力する。スイッチ回路4は、一例として複数のリレーが組み合わされて構成されている。また、スイッチ回路4は、アース線Gを含む交流電源線AC1,AC2と人体模擬回路2との間に配設されて、処理部7から出力される制御信号S1によって各リレーの接・断状態が制御されることにより、アース線G、交流電源線AC1および交流電源線AC2のうちの任意の1本(アース線Gを含む交流電源線のいずれか1線)に対して人体模擬回路2の端子Bを接続する。
【0016】
入力端子部5は、一例として、アース接続端子および一対の交流入力端子を備えたコネクタ(例えばACインレット)で構成されている。出力端子部6は、一例として、アース接続端子および一対の交流出力端子を備えたコネクタ(例えばACアウトレット)で構成されて、そのアース接続端子が入力端子部5のアース接続端子に接続され、その一対の交流出力端子が入力端子部5の一対の交流入力端子に接続されている。測定対象機器11は、その電源コード(アース線を含むもの)13が出力端子部6に接続されて、電流測定装置1を介して交流電源Vacが供給されると共にアースに接続される。
【0017】
処理部7は、一例としてCPUで構成されて、測定処理、実効値算出処理、比較処理、出力処理および制御処理を実行する。具体的には、測定処理では、処理部7は、波形データD1に基づいて接触電流Itcについての直流成分Idcの絶対値(直流成分Idcのレベルの絶対値)および交流成分Iacの振幅(本発明における交流成分Iacの大きさ)を測定する。また、実効値算出処理では、処理部7は、直流成分Idcの絶対値および交流成分Iacの振幅が共に各々に対して予め規定された基準値Ir1,Ir2以上であり(つまり、接触電流Itcが直流成分の重畳した交流電流であり)、かつ接触電流Itcの継続時間T1が心周期Tcのm倍(mは正の数)を超えるときには、波形データD1に基づいて接触電流Itcの振れ幅Ippを算出すると共に接触電流Itcの正弦波実効値Iev(=Ipp/(2×√2))を算出し、直流成分Idcの絶対値および交流成分Iacの振幅がそれぞれに対して予め規定された基準値Ir1,Ir2以上であり、かつ継続時間T1が心周期Tcのn倍未満となるときには、波形データD1に基づいて接触電流Itcのピーク値の最大絶対値Ipを算出すると共に接触電流Itcの正弦波実効値Iev(=Ip/√2)を算出する。この場合、正弦波実効値Ievについての上記2つの算出式は、IEC60479−2に規定されている等価正弦波電流の実効値を算出する式である。また、基準値Ir1は0.005mA、基準値Ir2は直流成分Idcの10%である。
【0018】
また、処理部7は、比較処理では、実効値算出処理において算出した正弦波実効値Ievを予め規定された基準実効値Ievrと比較する。また、処理部7は、出力処理では、実効値算出処理で算出した正弦波実効値Iev、および比較処理での比較結果を出力部10に出力する。本例では後述するように、出力部10が表示装置(例えばLCDなどのディスプレイ装置)で構成されているため、処理部7は、出力処理の一例としての表示処理を実行して、正弦波実効値Ievおよび比較処理での比較結果を表示装置に表示させる。また、処理部7は、制御処理では、制御信号S1を出力して、スイッチ回路4に対する制御(リレーの接・断状態の制御)についても実行する。
【0019】
記憶部8は、ROMおよびRAMで構成されて、処理部7が実行する各処理において使用される基準値Ir1,Ir2および基準実効値Ievrが記憶されている。また、記憶部8には、各処理における算出結果および比較結果、並びに操作部9から入力された心周期Tcおよび後述する選択データD2が処理部7によって記憶される。操作部9は、テンキーおよび設定スイッチを備え、心周期Tcと、アース線Gおよび交流電源線AC1,AC2のうちの人体模擬回路2に接続される1本の配線を示す選択データD2とを処理部7に対して出力可能に構成されている。出力部10は、一例としてディスプレイ装置などの表示装置で構成されて、処理部7の算出結果や比較結果を表示する。
【0020】
次に、電流測定装置1の動作について説明する。なお、図1に示すように、測定対象機器11は、その電源コード13が電流測定装置1の出力端子部6に接続されることにより、電流測定装置1を介して交流電源Vacが供給されて、作動状態にあるものとする。また、電流測定装置1も作動状態にあるものとする。
【0021】
この状態において、作業者は、操作部9を操作することにより、心周期Tcおよび選択データD2を処理部7に入力する。処理部7は、入力した心周期Tcおよび選択データD2を記憶部8に記憶させる。また、処理部7は、制御信号S1をスイッチ回路4に対して出力することによってスイッチ回路4内の各リレーの接・断状態を制御して、選択データD2によって示される1本の配線(アース線Gおよび交流電源線AC1,AC2のうちから選択された配線(本例では一例としてアース線G))を人体模擬回路2の端子Bを接続させる。
【0022】
その後、作業者は、検出プローブ2aを測定対象機器11の外装(露出充電部)に接触させる。これにより、接触電流Itcが検出プローブ2aおよび人体模擬回路2を介して、測定対象機器11とアース線Gとの間に流れ、この接触電流Itcを示す電圧Vtcが人体模擬回路2の端子Cから出力される。A/D変換部3は、この電圧Vtcをサンプリングすることにより、接触電流Itc(図3または図4に示す波形の電流)についての波形データD1を生成して、処理部7に出力する。
【0023】
処理部7は、この波形データD1を入力して記憶部8に記憶させる。次いで、処理部7は、測定処理を実行する。この測定処理では、処理部7は、波形データD1に基づいて、接触電流Itcの直流成分Idcの絶対値および交流成分Iacの振幅を測定する。本例では、処理部7は、一例として図3や図4に示す波形の接触電流Itcについては、周期的に変化する波形部分が交流成分Iacの波形に相当するとして、この部分のピーク・トゥ・ピークを交流成分Iacの振幅として算出する。また、交流成分Iacの振幅における中心の電圧の絶対値を直流成分Idcの絶対値として算出する。なお、接触電流Itcの波形に、周期的に変化する部分が存在しないときには、振幅が変動する期間における接触電流Itcの最大値と最小値の差を交流成分Iacの振幅として算出する。また、直流成分Idcの絶対値については、交流成分Iacの振幅を算出した期間での接触電流Itcの平均レベルの絶対値を直流成分Idcの絶対値として算出する。最後に、処理部7は、測定(算出)した接触電流Itcの直流成分Idcの絶対値および交流成分Iacの振幅を記憶部8に記憶させる。これにより、測定処理が完了する。
【0024】
続いて、処理部7は、実効値算出処理を実行する。この実効値算出処理では、処理部7は、まず、記憶部8に記憶させた接触電流Itcについての直流成分Idcの絶対値を、記憶部8に記憶されているこの直流成分Idcについての基準値Ir1と比較すると共に、記憶部8に記憶させた接触電流Itcについての交流成分Iacの振幅を、記憶部8に記憶されているこの交流成分Iacについての基準値Ir2と比較する。処理部7は、この比較の結果、直流成分Idcの絶対値が基準値Ir1以上であり、かつ交流成分Iacの振幅が基準値Ir2以上のときには、接触電流Itcが、図3,4に示すような直流成分が重畳している交流電流であると判別して、記憶部8に記憶されている波形データD1に基づいて、接触電流Itcの継続時間T1(図3,4参照)を算出して、記憶部8に記憶させる。この場合、接触電流Itcの継続時間とは、接触電流Itcが発生してから停止するまでの時間をいう。
【0025】
次いで、処理部7は、算出した継続時間T1が、記憶部8に記憶されている心周期Tcのm倍(mは正の数。一例として1.5)を超えているか、または心周期Tcのn倍(nはm未満の正の数。一例として0.75)未満であるか、または心周期Tcのn倍以上で、かつm倍以下であるかを判別して、心周期Tcのm倍を超えていると判別したときには、波形データD1に基づいて接触電流Itcの振れ幅Ipp(継続時間T1内での最小値と最大値との差。図3,4参照)を算出すると共に、接触電流Itcの正弦波実効値Iev(=Ipp/(2×√2))を算出して、正弦波実効値Iev1として記憶部8に記憶させる。また、処理部7は、継続時間T1が心周期Tcのn倍未満であると判別したときには、波形データD1に基づいて接触電流Itcのピーク値の最大絶対値Ip(図3,4参照)を算出すると共に、接触電流Itcの正弦波実効値Iev(=Ip/√2)を算出して、正弦波実効値Iev2として記憶部8に記憶させる。また、処理部7は、継続時間T1が心周期Tcのn倍以上で、かつm倍以下であると判別したときには、上記した2種類の正弦波実効値Iev1,Iev2(特に区別しないときには、正弦波実効値Ievともいう)を算出して記憶部8に記憶させる。なお、図3,4では、正の直流成分Idcを含む波形の接触電流Itcを示しているが、負の直流成分Idcを含む波形の接触電流Itcについても、この直流成分Idcの絶対値を算出することにより、上記した正の直流成分Idcを含む波形のときと同様にして、正弦波実効値Ievを算出する。
【0026】
一方、上記した直流成分Idcの絶対値と基準値Ir1との比較、および交流成分Iacの振幅と基準値Ir2との比較の結果、直流成分Idcの絶対値が基準値Ir1以上であるが、交流成分Iacの振幅が基準値Ir2未満のときには、処理部7は、接触電流Itcが直流電流であると判別して、IEC60990等の規格で規定されている公知の測定方法(算出方法)に従い、接触電流Itcの実効値(直流値)を測定して、記憶部8に記憶させる。また、交流成分Iacの振幅が基準値Ir2以上であるが、直流成分Idcの絶対値が基準値Ir1未満のときには、処理部7は、接触電流Itcが交流電流であると判別して、IEC60990等の規格で規定されている公知の測定方法(算出方法)に従い、接触電流Itcの実効値(交流電流の実効値)を測定して、記憶部8に記憶させる。これにより、実効値算出処理が完了する。
【0027】
続いて、処理部7は、実効値算出処理において算出した実効値と基準実効値とを比較する比較処理を実行する。この比較処理では、処理部7は、実効値算出処理において正弦波実効値Ievを算出したときには、この正弦波実効値Ievを記憶部8に記憶されている基準実効値Ievrと比較して、正弦波実効値Ievが基準実効値Ievrを超えるときには、接触電流Itcが人体に影響を与えるレベルにあると判別し、また正弦波実効値Ievが基準実効値Ievr以下のときには、接触電流Itcが人体に影響を与えるレベルではないと判別して、この比較結果を記憶部8に記憶させる。一方、処理部7は、実効値算出処理において正弦波実効値Ievではなく、IEC60990等の規格で規定されている公知の測定方法(算出方法)に従って接触電流Itcの実効値を測定したときには、対応する規格で規定された基準実効値と比較して、接触電流Itcの人体への影響を判別し、その比較結果を記憶部8に記憶させる。
【0028】
最後に、処理部7は、実効値算出処理において算出した正弦波実効値Ievや、比較処理の比較結果(例えば、正弦波実効値Ievが基準実効値Ievr以下であるため、接触電流Itcが人体に影響を与えるレベルではない旨の結果)を出力部10の表示装置に表示させる。これにより、操作部9から入力した所望の心周期Tcを基準として、測定対象機器11から人体模擬回路2を介してアース線Gに流れる接触電流Itcの実効値についての測定が完了する。
【0029】
引き続き、測定対象機器11からアース線G以外の配線(交流電源線AC1または交流電源線AC2)に流れる接触電流Itcの正弦波実効値Ievを測定する場合には、操作部9を操作して、交流電源線AC1または交流電源線AC2を示す選択データD2を処理部7に入力する。これにより、処理部7によってスイッチ回路4内の各リレーの接・断状態が制御されて、選択データD2によって示される1本の配線(交流電源線AC1,AC2のうちから選択された配線)が人体模擬回路2の端子Bに接続され、この状態において上記した正弦波実効値Ievの測定が処理部7によって実行される。また、心周期Tcを変更して接触電流Itcについての正弦波実効値Ievを測定する場合には、操作部9を操作して、所望の心周期Tcを処理部7に入力する。これにより、処理部7によって新たな心周期Tcが記憶部8に更新記憶されるため、所望の心周期Tcでの接触電流Itcの正弦波実効値Ievについての測定が実行される。
【0030】
このように、この電流測定装置1によれば、直流成分Idcの絶対値および交流成分Iacの振幅がそれぞれに対して予め規定された基準値Ir1,Ir2以上である(つまり、直流電流が重畳した交流電流である)接触電流Itcについて、その継続時間T1が心周期Tcのm倍(上記の例では1.5倍)を超えるときには正弦波実効値Iev1(=Ipp/(2×√2))を算出することができ、その継続時間T1が心周期Tcのn倍(0.75倍)未満となるときに正弦波実効値Iev2(=Ip/√2)を算出することができるため、直流電流が重畳した交流電流である接触電流Itcについての正弦波実効値Ievの測定および評価を、IEC60479−2規格に則って行うことができる。また、処理部7が、波形データD1に基づいて、接触電流Itcが直流電流の重畳した交流電流であるか否か、さらには接触電流Itcの継続時間T1が心周期Tcを基準としてどのような長さにあるのかを自動的に判別して、正弦波実効値Ievを自動的に算出するため、IEC60479−2に規定される正弦波実効値Ievを正確かつ短時間で算出することができる。
【0031】
また、この電流測定装置1によれば、処理部7が、算出した正弦波実効値Ievと予め規定された基準実効値Ievrとを比較して、その比較結果(例えば正弦波実効値Ievが基準実効値Ievr以下かどうか)を表示装置で構成された出力部10に表示されるため、直流電流が重畳した交流電流である接触電流Itcについての正弦波実効値Ievの評価をIEC60479−2規格に則って自動的に行った結果を確実に認識することができる。
【0032】
なお、本発明は、上記の構成に限定されない。例えば、1本の配線を人体模擬回路2に接続した状態での接触電流Itcの正弦波実効値Ievについての測定が完了する都度、操作部9を操作して選択データD2を処理部7に入力することにより、人体模擬回路2に接続させる1本の配線(アース線G、交流電源線AC1および交流電源線AC2のうちの任意の1本の配線)を選択し直す構成(人体模擬回路2に接続する配線を手動で変更する構成)について上記したが、処理部7が、1本の配線を人体模擬回路2に接続した状態での接触電流Itcの正弦波実効値Ievについての測定が完了する都度、自動的にスイッチ回路4に対する制御を実行して、すべての配線を順次人体模擬回路2に接続させて、接触電流Itcの正弦波実効値Ievを測定する構成を採用することもできる。この構成によれば、手動による配線(アース線G、交流電源線AC1および交流電源線AC2)の選択を省くことができるため、測定に要する時間を一層短縮することができる。また、人体模擬回路2と配線(アース線G、交流電源線AC1および交流電源線AC2)との接続を手動で行う構成とすることもでき、この構成では、配線を手動で切り替える手間がかかるものの、スイッチ回路4、入力端子部5および出力端子部6を省くことができるため、電流測定装置1の構成を簡略化することができる。
【0033】
また、上記の電流測定装置1では、1つの測定対象機器11の外装と、アース線Gを含む交流電源線AC1,AC2のいずれか1線との間に流れる接触電流Itcを測定する構成を採用したが、図5に示す電流測定装置1Aのように、さらに2つの測定対象機器11a,11bの各漏れ電流測定端子(F形装着部)11t,11t間に流れる接触電流Itcを測定する構成を採用することもできる。以下、この電流測定装置1Aについて説明する。なお、電流測定装置1Aは、1つの測定対象機器11の外装と、アース線Gを含む交流電源線AC1,AC2のいずれか1線との間に流れる接触電流Itcを測定する構成については、電流測定装置1の構成と同一であるため、同一の構成については同一の符号を付して重複する説明を省略し、相違する構成である2つの測定対象機器11a,11bの各漏れ電流測定端子11t,11t間に流れる接触電流Itcを測定する構成について主として説明する。
【0034】
電流測定装置1Aは、その筐体1aに2つのコネクタ12a,12bが設けられている。また、コネクタ12aには検出プローブ2aが接続され、コネクタ12bには検出プローブ2bが接続されている。また、コネクタ12aは、人体模擬回路2の端子Aに接続されている。スイッチ回路4Aは、電流測定装置1のスイッチ回路4よりも1接点多い4接点の回路構成であり、この増えた1接点は、コネクタ12bに接続されている。また、他の3接点は、電流測定装置1のスイッチ回路4(3接点の回路構成)と同様にして、アース線Gと、各交流電源線AC1,AC2に接続されている。
【0035】
この構成により、電流測定装置1Aでは、検出プローブ2aを1つの測定対象機器11aの漏れ電流測定端子11tに接続し、検出プローブ2bを他の1つの測定対象機器11bの漏れ電流測定端子11tに接続する。この状態において、処理部7が、制御処理において、制御信号S1を出力して、スイッチ回路4に対する制御(リレーの接・断状態の制御)を行って、コネクタ12bを人体模擬回路2の端子Bに接続させる(図5の接続状態)。これにより、接触電流Itcが、漏れ電流測定端子11t、検出プローブ2a、人体模擬回路2、検出プローブ2bおよび漏れ電流測定端子11tを介して、2つの測定対象機器11a,11b間に流れ、この接触電流Itcを示す電圧Vtcが人体模擬回路2の端子Cから出力される。したがって、この電流測定装置1Aによれば、2つの測定対象機器11a,11b間に流れる接触電流Itcについても測定することができ、その正弦波実効値を算出することができる。
【0036】
また、上記の電流測定装置1,1Aでは、処理部7が、算出した正弦波実効値Ievと、この正弦波実効値Ievと予め規定された基準実効値Ievrとの比較結果(例えば、正弦波実効値Ievが基準実効値Ievr以下のときには、接触電流Itcが人体に影響を与えるレベルではない旨)を出力部10の表示装置に表示させる構成を採用しているが、さらに、接触電流Itcについての継続時間T1、振れ幅Ippおよびピーク値の最大絶対値Ipなどを表示させる構成を採用することもできる。また、出力部10について、一例として表示装置を備えた構成について上記したが、プリンタ装置などの印刷装置や、通信装置などを備えた構成を採用してもよいのは勿論である。
【符号の説明】
【0037】
1 電流測定装置
2 人体模擬回路
3 A/D変換部
7 処理部
10 表示部
11 測定対象機器
AC1,AC2 交流電源線
D1 波形データ
G アース線
Iev 正弦波実効値
Itc 接触電流
T1 継続時間
Vtc 電圧(両端間電圧)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体模擬回路と、アース線を含む交流電源線のいずれか1線および測定対象機器の外装の間、並びに2つの測定対象機器の各漏れ電流測定端子間のいずれかに前記人体模擬回路を接続したときに当該人体模擬回路を流れる接触電流に起因して当該人体模擬回路を構成する所定の素子の両端間に発生する両端間電圧に基づいて前記接触電流の実効値を測定する処理部とを備えた電流測定装置であって、
前記両端間電圧をサンプリングして前記接触電流についての波形データを生成するA/D変換部と、出力部とを備え、
前記処理部は、前記波形データに基づいて前記接触電流の直流成分および交流成分を測定する測定処理、前記直流成分の絶対値および前記交流成分の大きさが共に各々に予め規定された基準値以上であり、かつ前記接触電流の継続時間が心周期のm倍(mは正の数)を超えるときには、前記波形データに基づいて前記接触電流の振れ幅Ippを算出すると共に当該振れ幅Ippを値(2×√2)で除算して前記接触電流の正弦波実効値を算出し、前記直流成分の絶対値および前記交流成分の大きさが共に前記基準値以上であり、かつ当該継続時間が当該心周期のn倍(nはm未満の正の数)未満となるときには、前記波形データに基づいて前記接触電流のピーク値の最大絶対値Ipを算出すると共に最大絶対値Ipを値Ip/√2で除算して前記接触電流の前記正弦波実効値を算出する実効値算出処理、および当該実効値算出処理において算出した前記正弦波実効値を前記出力部に出力させる出力処理を実行する電流測定装置。
【請求項2】
前記出力部は、表示装置で構成され、
前記処理部は、前記実効値算出処理において算出した前記正弦波実効値と予め規定された基準実効値とを比較して、その比較結果を前記表示装置に表示させる請求項1記載の電流測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−169600(P2010−169600A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−13751(P2009−13751)
【出願日】平成21年1月26日(2009.1.26)
【出願人】(000227180)日置電機株式会社 (982)
【Fターム(参考)】