説明

湿式吹付け工法

【課題】一般の湿式吹付け工法に用いられているベースコンクリート及び吹付け装置を用いて、コンクリートの吹付け時に発生する粉塵量が少ない吹付け工法を提供すること。
【手段】用いる急結剤、圧送空気量の合計、急結剤とコンクリートとの合流混合する位置及び用いるベースコンクリートを各々特定のものにすること。即ち、下記条件(a)〜(d)を行う湿式吹付け工法。(a)合流混合した圧送空気量が3〜10m/分。(b)急結剤が、粒径7μm以下の粒子含有量が30質量%以下からなる。(c)ベースコンクリートがスランプ10cm以上のコンクリート。(d)急結剤とベースコンクリートが合流混合する位置から吹付けノズルの筒先までの距離が、0.5〜3m。急結剤が、粒径7μm以下の粒子を凝集させて製造された凝集粒子を含むものからなると好適である。ベースコンクリートが、特定の水溶性高分子化合物を含むと好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル、地下空間、法面等の建設工事に適する湿式吹付け工法に関し、特に、粉塵の発生量が少ない湿式吹付け工法に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネル、地下空間、法面等の建設工事においてコンクリートを打設する方法として、湿式吹付け工法が用いられている。一般の湿式吹付け工法においては、ベースコンクリートと粉粒体の急結剤を別々の輸送管を通して別経路で圧送し、圧送途中で合流混合した後に吹付けノズルの筒先より地山等に吹き付けている。ベースコンクリート及び粉粒体の急結剤の圧送には、一般的には圧縮空気が用いられている。このため、コンクリートの吹付け時に粉塵が多く発生してしまい、この粉塵が作業環境を悪化させているので、粉塵の発生量が少ない吹付け工法が強く求められている。
【0003】
コンクリートの吹付け時に発生する粉塵量が少ない吹付け工法として、ベースコンクリートに高流動コンクリートを用いて急結剤とベースコンクリートの混合性を向上させる方法が考案されている(例えば特許文献1参照)。また、ベースコンクリートを空気圧送せずに回転投射することにより、吹付けを行い、発生する粉塵量を低減する方法も考案されている(例えば特許文献2参照)。しかしながら、ベースコンクリートとして高流動コンクリートを用いる方法は、新たに高性能減水剤や流動化剤等の高価な薬品をベースコンクリートへ添加する必要、並びに薬剤用の貯蔵タンクや計量装置等をコンクリート製造プラントに設置する必要がある。このため、ベースコンクリートとして高流動コンクリートを用いる方法は、粉塵低減効果は充分あるものの、吹付け工法を用いる建設工事に広く適用されるには至っていない。そこで、通常使用されているスランプコンクリートでも使用できる低粉塵化技術が必要であった。また、回転投射することにより吹付けを行い発生する粉塵量を低減する方法は、この方法に用いる吹付け装置が複雑且つ高価であるため、吹付け工法を用いる建設工事に広く適用されるには至っていない。
【0004】
また、一般の湿式吹付け工法に用いられているベースコンクリート及び吹付け装置を用いてもコンクリートの吹付け時に発生する粉塵量が少ない吹付け工法を得るために、圧送空気量を減じると、圧送経路内で閉塞又は脈動を起こし、吹付けが行えないか、粉塵量が低減できない。更に、空気量を減じ、圧送経路内での閉塞を防止するために急結剤とベースコンクリートとの合流混合する位置をノズル先端側に移動させると、急結剤とコンクリートとの混合が不充分となり、急結剤粉塵が増加するという問題が生じた。
【特許文献1】特開2003−003794号公報
【特許文献2】特開平11−350891号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は前記問題の解決、即ち、ベースコンクリートを高流動化することなくまた複雑で高価な吹付け装置を用いず、一般の湿式吹付け工法に用いられているベースコンクリート及び吹付け装置を用いて、コンクリートの吹付け時に発生する粉塵量が少ない吹付け工法を提供することを目的とする。更に、吹付け時に圧送経路内で閉塞及び脈動とも無く、且つ粉塵量が少ない吹付け工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、前記課題解決のため鋭意検討した結果、用いる急結剤、合流混合した圧送空気量、急結剤とベースコンクリートが合流混合する位置から吹付けノズルの筒先までの距離及び用いるベースコンクリートを各々特定のものにすることで吹付け時に発生する粉塵量を少なくすることができることを見出し、本発明を完成させた。即ち、本発明は、以下の(1)〜(3)で表す湿式吹付け工法である。
(1)急結剤とベースコンクリートを別経路により空気で圧送し、圧送途中で合流混合した後に吹付けノズルの筒先より吹き付ける湿式吹付け工法であって、下記条件(a)〜(d)で行う湿式吹付け工法。(a)合流混合した圧送空気量が3〜10m/分。(b)急結剤が、粒径7μm以下の粒子含有量が30質量%以下からなる。(c)ベースコンクリートがスランプ10cm以上のコンクリート。(d)急結剤とベースコンクリートが合流混合する位置から吹付けノズルの筒先までの距離が、0.5〜3m。(2)急結剤が、粒径7μm以下の粒子を凝集させて製造された凝集粒子を含む上記(1)の湿式吹付け工法。(3)ベースコンクリートが、2質量%の水溶液の20℃での粘度が3〜100Pa・sである水溶性高分子化合物を含む上記(1)又は上記(2)の湿式吹付け工法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ベースコンクリートを高流動化することなく、また複雑で高価な吹付け装置を用いず、一般の湿式吹付け工法に用いられているベースコンクリート及び吹付け装置を用いて、コンクリートの吹付け時に発生する粉塵量を著しく低減できる。また、吹付け時に圧送経路内で閉塞及び脈動も無く、コンクリートの吹付け時に発生する粉塵量を低減できる。本発明によれば、コンクリートの吹付け時に発生する粉塵量が少ないので、吹付け作業者が吹き付けたコンクリートの状態や量等を目視により確認しながら吹付け作業を効率良く行える。また、吹付け作業環境の粉塵濃度を強制除去する集塵機や換気設備を省くことも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明において、合流混合した圧送空気量は3〜10m/分とする。ここで、合流混合した圧送空気量とは、ベースコンクリートの圧送から急結剤と合流混合後の吹付けコンクリートが吹付けノズルの筒先から噴射されるまでの間に、経路内に合流混合した空気の単位時間当りの合計量を云う。即ち、ベースコンクリートの圧送に用いられる空気、急結剤の圧送に用いられる空気、コンクリート圧送中に急結剤以外の混和材料を空気で圧送し合流混合するときに用いる空気及び合流混合後の吹付けコンクリートに更に空気を添加するときの空気の単位時間当りの合計量を云う。合流混合した圧送空気量が10m/分以上では、吹付け時に発生する粉塵が多いため好ましくはない。また、3m/分未満では、ベースコンクリート、急結剤及び吹付けコンクリートの圧送が困難となり、圧送経路内で閉塞し易く、吹付けられたコンクリートが空隙の多いものとなり易いため好ましくない。吹付け時に発生する粉塵量が少ないことから、合流混合する圧送空気量は、好ましくは3〜7m/分とする。
【0009】
本発明に使用する急結剤は、粒径7μm以下の粒子含有量が30質量%以下からなる急結剤とする。ここで、粒径とは、レーザー回折・散乱法により求めたものとし、粒子が凝集粒子の場合は凝集粒子の粒径を云う。粒径7μm以下の粒子含有量が30質量%を超えると、吹付け時に発生する粉塵が多いため好ましくはない。好ましくは、粒径7μm以下の粒子含有量が15質量%以下の粉粒体である急結剤とする。また、急結剤が、粒径7μm以下の粒子を凝集させて製造された凝集粒子を含むものであると、吹付け時に発生する粉塵量が少なく且つ急結性が高いのでより好ましい。粒径7μm以下の粒子粒子含有量が30質量%を超える急結剤の場合は、少なくとも一部の粒子を凝集させて、粒径7μm以下の粒子粒子含有量を30質量%以下として使用する。凝集させる方法としては、粉粒体の急結剤に、液体界面活性剤,多価アルコール、アルキレングリコール,ポリアルキレングリコール,低級アルコールのアルキレンオキサイド付加物,流動パラフィン,油乳化剤混合物等の有機溶媒を添加・混合する。このとき有機溶媒を添加する方法としては噴霧が好ましい。
【0010】
本発明に使用する急結剤を構成する成分は、セメントコンクリートに急結性を付与できるものであれば限定されない。例えば、カルシウムアルミネート,カルシウムサルホアルミネート,カルシウムナトリウムアルミネート,アルミン酸アルカリ,炭酸アルカリ,CaO−Al−Fe系組成物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上に、例えば硫酸塩,水酸化物,酸化物等の他の混和材料を混合しても良い。また、急結剤を構成する成分の状態は、化合物、固溶体、非晶質又はこのうち2種以上が共存するものであっても良い。
【0011】
本発明で使用するベースコンクリートは、スランプが10cm以上のコンクリートとする。吹付け時に発生する粉塵量が少ないことから、好ましくはスランプが14cm以上のものとする。ベースコンクリートのスランプが10cm未満の場合、圧送経路内で閉塞又は脈動を起こし、吹付けが行えない又は発生する粉塵量が多いため好ましくない。また、ベースコンクリートのスランプの上限値は24.5cm以下が好ましく、更に24.0cm以下がより好ましい。24.5cmを超えると、吹付けコンクリートが吹付け後に垂れ易いので好ましくない。
【0012】
本発明で使用するベースコンクリートが、2質量%の水溶液の20℃での粘度が3〜100Pa・sである水溶性高分子化合物を含むと、更に吹付け時に発生する粉塵量が少ないので好ましい。更に好ましくは、2質量%の水溶液の20℃での粘度が5〜80Pa・sである水溶性高分子化合物を含むベースコンクリートとする。ここで用いることのできる水溶性高分子化合物としては、カルボキシメチルセルロース等の水溶性セルロース誘導体、ポリアルキレンオキザイド、ポリ(メタ)アクリレート4級化物等のポリ(メタ)アクリレート系重合体等が挙げられる。2質量%の水溶液の20℃での粘度が3Pa・s未満である水溶性高分子化合物では、粉塵低減効果が小さいため使用量が増加し、その結果吹付けコンクリートの急結性が低下するので好ましくない。2質量%の水溶液の20℃での粘度が10Pa・sを超える水溶性高分子化合物では、吹付け時に圧送経路内で閉塞又は脈動を起こし易いので好ましくない。該水溶性高分子化合物の添加量は、セメント100質量部に対し0.03〜0.40質量部とすることが好ましい。ベースコンクリートへの該水溶性高分子化合物の添加方法は限定されない。
【0013】
本発明で使用するベースコンクリートには、少なくともセメント、骨材及び水が含まれ、必要により更にモルタルやコンクリートで使用可能な混和材料を添加しても良い。本発明で使用するベースコンクリートに用いる材料は、通常セメントコンクリートに用いられているものを使用できる。セメントとしては、例えば、普通,早強,中庸熱,低熱ポルトランドセメント等のポルトランドセメントや、高炉セメント,フライアッシュセメント等の混合セメント、或いは、都市ゴミ焼却灰や下水汚泥焼却灰等の廃棄物を原料として利用したエコセメント等が挙げられ、これらの一種又は二種以上を使用することができる。また、骨材としては、例えば、川砂、陸砂、海砂、砕砂、珪砂、川砂利、陸砂利、砕石及び人工骨材等が挙げられ、これらの一種又は二種以上を使用することができる。また、混和材料としては、例えば、高性能減水剤,高性能AE減水剤,AE減水剤及び流動化剤を含む減水剤、シリカフューム等のポゾラン、高炉スラグ等の潜在水硬性物質、石粉、樹脂エマルション、膨張材、起泡剤、発泡剤、防錆剤、顔料、繊維、撥水剤、防水材、消泡剤、凝結遅延剤、硬化促進剤、収縮低減剤等が挙げられ、これらの一種又は二種以上を本発明による効果を阻害しない範囲で使用することができる。ベースコンクリートの配合は、スランプが10cm以上となる配合であれば特に限定されない。
【0014】
本発明において、急結剤とベースコンクリートが合流混合する位置から吹付けノズルの筒先までの距離を、0.5〜3mの位置とする。好ましくは0.5〜2mとする。急結剤とベースコンクリートが合流混合する位置から吹付けノズルの筒先までの距離が、0.5m未満では、急結剤とベースコンクリートとの混合が不充分となり、コンクリート中の急結剤分布が不均一になり易いため急結性及びコンクリート強度のバラツキが大きいので好ましくない。また、急結剤とベースコンクリートが合流混合する位置から吹付けノズルの筒先までの距離が3mを超える場合は、吹付け時に圧送経路内で閉塞又は脈動を起こし易いので好ましくない。
【実施例】
【0015】
以下、実施例により本発明を説明する。
[使用材料]
セメント:普通ポルトランドセメント(太平洋セメント(株)製 密度:3.16g/
cm
高性能減水剤:ポリカルボン酸系高性能減水剤(商品名;NT−1000S、(株)エ
ヌエムビー製)
細骨材:海砂(密度:2.56g/cm,粗粒率:2.26)と石灰石
砕砂(密度:2.66g/cm,粗粒率:3.04)の6:4(質量比)の
混合物
粗骨材:砕石(密度:2.72g/cm,最大寸法:15mm)
急結剤A:カルシウムアルミネート粉粒体、アルミン酸ナトリウム粉粒体、炭酸ナトリ
ウム粉粒体、水酸化カルシウム粉粒体の混合物、粒径7μm以下の粒子が急
結剤中85質量%(堀場社製レーザー回折・散乱式粒子径測定装置(型番:
LA−900)で得た残留曲線より求めた値)、有機溶媒は無添加
急結剤B:上記急結剤A100質量部に対しジエチレングリコールを1.0質量部ミキ
サ内に噴霧後混合したもの、粒径7μm以下の粒子が急結剤中65質量%(求
め方は急結剤Aと同じ)
急結剤C:上記急結剤A100質量部に対しジエチレングリコールを5.0質量部ミキ
サ内に噴霧後混合したもの、粒径7μm以下の粒子が急結剤中10質量%(求
め方は急結剤Aと同じ)
急結剤D:カルシウムアルミネート粉粒体、アルミン酸ナトリウム粉粒体、炭酸ナトリ
ウム粉粒体、水酸化カルシウム粉粒体の混合物、粒径7μm以下の粒子が急
結剤中25質量%(求め方は急結剤Aと同じ)、有機溶媒は無添加
水溶性高分子化合物A:ヒドロキシプロピルメチルセルロース、2重量%の水溶液の2
0℃での粘度;0.5Pa・s(ブルックフィールド形回転粘度
計による)
水溶性高分子化合物B:ヒドロキシプロピルメチルセルロース、2重量%の水溶液の2
0℃での粘度;5Pa・s(ブルックフィールド形回転粘度計に
よる)
水溶性高分子化合物C:ヒドロキシプロピルメチルセルロース、2重量%の水溶液の2
0℃での粘度;80Pa・s(ブルックフィールド形回転粘度計
による)
水溶性高分子化合物D:ヒドロキシプロピルメチルセルロース、2重量%の水溶液の2
0℃での粘度;150Pa・s(ブルックフィールド形回転粘度
計による)
【0016】
[ベースコンクリートの作製]
表1に示す配合のベースコンクリート(配合No.1〜9)を内容量3.0mの2軸強制練りミキサを用いて作製した。練混ぜ時間は60秒間とした。各ベースコンクリートのスランプをJIS A 1101「コンクリートのスランプ試験方法」の試験方法に従って測定した。このスランプの結果を表1に配合と合わせて示す。表1中の水溶性高分子化合物の配合量は、水溶性高分子化合物の体積を無視したものである。
【0017】
【表1】

【0018】
[吹付け試験]
上記各ベースコンクリートを吹付け機(MEYCO Equipment(株)製「MEYCO Suprema」)を使用して圧送し圧送途中で空気をY字管で添加しこの空気で更に圧送した。一方、上記急結剤を急結剤供給装置(日本プライブリコ(株)製「Qガン」)を使用してセメント100質量部に対して7.0質量部となるように空気で圧送し、表2に示す合流混合距離(急結剤とベースコンクリートが合流混合する位置から吹付けノズルの筒先までの距離)でベースコンクリートと上記Y字管とは別なY字管で合流混合させ吹付けコンクリートを製造し、この吹付けコンクリートを吹付けノズルの筒先から、断面積が60m,奥行き9.0mの模擬トンネル全周に1m幅で、コンクリートの噴射速度8m/時間にて吹き付けた。1回の吹付け量は2mとした。図1は、吹付け試験に用いた吹付け装置の模式図である。そして、吹付け直後の模擬トンネル内の粉塵濃度、圧送空気量を測定した。その結果を吹付け条件及び施工性の評価とともに表2に示す。但し、圧送空気量の合計は、ベースコンクリートの圧送に用いた空気及び急結剤の圧送に用いた空気の合計量、即ち合流混合した圧送空気量を示す。尚、粉塵濃度及び圧送空気量の測定方法、並びに施工性の評価は、以下の通りである。また、試験No.18及び20は、吹付け時に吹付けコンクリートが圧送経路内で閉塞したために、粉塵濃度を測定できなかった。
【0019】
<粉塵濃度の測定方法>
粉塵濃度は、デジタル粉じん計(柴田科学社製 P−5L2)を用い、吹付け個所より7.5m後方、模擬トンネル側壁から1mの位置にて測定を行なった。このとき、模擬トンネルはシートで密閉し、風の影響を無視できる状態とした。また、吹付け開始5分後から終了時まで粉塵濃度を測定し、このときの平均値を表2中の粉塵濃度の測定結果とした。
【0020】
<圧送空気量の測定方法>
圧送空気量は、層流型気体流量計(山田製作所社製)を用いて測定した。ベースコンクリートの圧送に用いた空気はコンプレッサー出口で、急結剤の圧送に用いた空気は、エアードライヤーと急結剤供給装置との間に、上記層流型気体流量計を設置して、それぞれの空気の流量を測定した。
【0021】
<施工性の評価>
良好:吹付け時に圧送経路内で閉塞及び脈動とも無く、且つ吹付け1時間後に吹付けコン
クリートに垂れが生じていなかった。
不良:良好の評価が得られなかった。
【0022】
【表2】

【0023】
本発明の実施例に相当する全ての試験例(試験No.1〜12)は、吹付け時に圧送経路内で閉塞及び脈動とも無く、且つ粉塵の発生量が少なく粉塵濃度は3.5mg/m以下であった。特に、ベースコンクリートに2質量%の水溶液の20℃での粘度が3〜100Pa・sである水溶性高分子化合物を含む試験No.9及び10の粉塵濃度は、1.5mg/m以下と低い値であった。また、高流動コンクリートである配合No.5のベースコンクリートを用いた試験No.7も、本発明の実施例に相当する他の試験例と同様に、吹付け時に圧送経路内で閉塞及び脈動とも無く、且つ粉塵の発生量が少なかった。
【0024】
同じベースコンクリート、合流混合した圧送空気量、合流混合距離であるにも拘らず、ジエチレングリコールにより粒径7μm以下の粒子を凝集させて製造された凝集粒子を含むものからなる急結剤Cを用いた試験No.1の粉塵濃度は、ジエチレングリコールにより凝集していない急結剤Dを用いた試験No.8の粉塵濃度に比べ2/3以下と低い値であった。また、試験No.1及び8の吹付けコンクリートの初期強度を、JSCE−G 561−1999「引抜き方法による吹付けコンクリートの初期強度試験方法」に従い材齢3時間及び24時間の引抜き強度を測定し、この引抜き強度の値を4倍して圧縮強度に換算した。その結果、試験No.1の吹付けコンクリートの圧縮強度は、材齢3時間:2.3N/mm,材齢24時間:9.1N/mmであったが、試験No.8の吹付けコンクリートの圧縮強度は、材齢3時間:1.6N/mm,材齢24時間:8.0N/mmであった。このことから、ジエチレングリコールにより粒径7μm以下の粒子を凝集させて製造された凝集粒子を含むものからなる急結剤Cを用いた試験No.1の吹付けコンクリートは、ジエチレングリコールにより凝集させていない急結剤Dを用いた試験No.8の吹付けコンクリートに比べ、圧縮強度、特に材齢3時間の圧縮強度が高く、急結性が高かった。
【0025】
ジエチレングリコールにより粒径7μm以下の粒子を凝集させて製造された凝集粒子を含むものからなる急結剤Cを用いても、ベースコンクリートのスランプが10cm未満の試験No.20は吹付けコンクリートが閉塞し、合流混合した圧送空気量が10m/分を超え且つ合流混合位置が3.0mを超える試験No.13は、その粉塵濃度が実施例に比べ2倍以上と非常に高い値であった。また、スランプが10cm以上のベースコンクリートを用い、合流混合した圧送空気量を10m/分以下とし、且つ急結剤とベースコンクリートとの合流混合する位置が吹付けノズルの筒先より0.5〜3mの位置であっても、粒径7μm以下の粒子含有量が30質量%を超える急結剤A又はBを用いた試験No.14〜18及び21は、各粉塵濃度が7.0mg/m以上で実施例に比べ2倍以上と非常に高い値である(試験No.14〜17及び21)、又は、吹付けコンクリートが圧送経路内で閉塞した(試験No.18)。試験No.15の施工性の評価が不良であるのは、吹付け時に脈動が起こったためであり、試験No.18及び20の施工性の評価が不良であるのは、吹付け時に吹付けコンクリートが圧送経路内で閉塞が起こったためである。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の湿式吹付け工法は、一般の湿式吹付け工法に用いられているベースコンクリート及び吹付け装置を用いてもコンクリートの吹付け時に発生する粉塵量が少ないので、トンネル等の閉塞された空間におけるコンクリートを吹き付ける建設工事に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施例の吹付け試験に用いた吹付け装置を示す模式図である。
【符号の説明】
【0028】
1 コンクリート吹付け機
2 エアーコンプレッサー
3 ベースコンクリート圧送用空気の供給管
4 Y字管
5 急結剤供給装置
6 吹付けコンクリート
7 急結剤輸送管
8 エアードライヤー
9 コンクリート輸送管
10 吹付けノズル
11 吹付けノズルの筒先
12 急結剤とベースコンクリートが合流混合する位置
13 合流混合距離
14 層流型気体流量計
15 模擬トンネル
16 ベースコンクリート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
急結剤とベースコンクリートを別経路により空気で圧送し、圧送途中で合流混合した後に吹付けノズルの筒先より吹き付ける湿式吹付け工法であって、下記条件(a)〜(d)で行う湿式吹付け工法。
(a)合流混合した圧送空気量が3〜10m/分。
(b)急結剤が、粒径7μm以下の粒子含有量が30質量%以下からなる。
(c)ベースコンクリートがスランプ10cm以上のコンクリート。
(d)急結剤とベースコンクリートが合流混合する位置から吹付けノズルの筒先までの距離が、0.5〜3m。
【請求項2】
急結剤が、粒径7μm以下の粒子を凝集させて製造された凝集粒子を含む請求項1記載の湿式吹付け工法。
【請求項3】
ベースコンクリートが、2質量%の水溶液の20℃での粘度が3〜100Pa・sである水溶性高分子化合物を含む請求項1又は2記載の湿式吹付け工法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−152733(P2006−152733A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−347724(P2004−347724)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(501173461)太平洋マテリアル株式会社 (307)
【Fターム(参考)】