溶接方法及び溶接システム
【課題】溶接信頼性を高める。
【解決手段】 母材M中で、溶接エネルギーを受けて溶融している溶融プールPに隣接し、且つ溶融プールPに対して溶接方向前側の領域を含む前側除去領域Ffに、レーザ光を照射して、母材表面の酸化皮膜を形成する粒子を飛散させる。
【解決手段】 母材M中で、溶接エネルギーを受けて溶融している溶融プールPに隣接し、且つ溶融プールPに対して溶接方向前側の領域を含む前側除去領域Ffに、レーザ光を照射して、母材表面の酸化皮膜を形成する粒子を飛散させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、母材の一部を溶融して母材を溶接する溶接技術に関する。
【背景技術】
【0002】
母材を溶接する場合、母材表面に酸化皮膜が存在すると、溶接信頼性が著しく低下する。このため、例えば、以下の特許文献1に記載されているように、母材表面を酸性水溶液等で洗浄して酸化皮膜を予め除去してから、又は、予め母材表面にレーザ光を照射して酸化皮膜を予め除去してから、母材を溶接する方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許平5−261562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来技術では、母材中に、AlやTi等、酸素との親和性が極めて高い元素が含まれている場合、予め母材表面の酸化皮膜を除去しても、母材を溶接する過程で高温になった部分に再び酸化皮膜が形成されてしまい、十分な溶接信頼性を確保できないことがある、という問題点がある。特に、原子力施設やガスタービン施設等において、高い溶接信頼性を求められる部品では軽視できない問題である。
【0005】
そこで、本発明では、以上のような従来技術の問題点に着目し、溶接信頼性を高めることができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記問題点を解決するための発明に係る溶接方法は、
母材の溶接予定位置に、該母材を溶融する溶接エネルギーを加えて、該母材を溶接する溶接方法において、前記母材を溶接しつつ、前記溶接エネルギーを受けて溶融している溶融プールに隣接し、且つ該溶融プールに対して溶接方向前側の領域を含む前側除去領域に、該母材の表面粒子を飛散させることができるクリーニングエネルギーを加える、ことを特徴とする。
【0007】
母材の溶接時には、溶融プールが形成される。この溶融プールの回りの領域は高温であるため、溶接中にこの領域に酸化皮膜が形成される。当該溶接方法では、溶接中、溶融プールに隣接し、且つ溶融プールに対して溶接方向前側の領域を含む前側除去領域に、クリーニングエネルギーを加えているので、溶接中、当該前側除去領域中に新たに形成された酸化皮膜を除去することができる。このため、当該溶接方法によれば、溶接信頼性を高めることができる。
【0008】
ここで、前記溶接方法において、前記前側除去領域は、前記溶融プールに隣接し、該溶融プールに対して溶接方向前側の前記領域と、該溶融プール中の溶接方向前側の領域とを含んでもよい。当該溶接方法では、溶融プール中の溶接方向前側の部分と固相部との境界に対して、確実にクリーニングエネルギーを加えることができる。このため、当該溶接方法によれば、溶融プールに対して溶接方向前側であって溶接プールに隣接する領域の酸化皮膜を確実に除去することができる。
【0009】
また、前記溶接方法において、前記溶融プールに対して溶接方向後側で、前記溶融プールと固相部との境界を含む第一後側除去領域と、該溶融プールに対して溶接方向後側の溶接ビード中、前記母材で規定される酸化物発生温度未満の第二後側除去領域とのうち、少なくとも該第一後側領域に、前記クリーニングエネルギーを加えてもよい。
【0010】
当該溶接方法で、第一後側除去領域にクリーニングエネルギーを加えると、溶融プールが凝固する過程で、その表面に形成された酸化皮膜を除去することができ、酸化皮膜の溶接ビード内への巻き込みを防ぐことができる。また、当該溶接方法で、第二後側除去領域にクリーニングエネルギーを加えると、溶接ビード上に形成された酸化皮膜を除去することができ、その後の溶接パスの際の溶接信頼性を高めることができる。
【0011】
また、前記溶接方法において、前記母材に対して荷電粒子又はレーザ光を照射することで、該母材に前記クリーニングエネルギーを加えてもよい。
【0012】
前記問題点を解決するための発明に係る溶接システムは、
母材の溶接予定位置に、該母材を溶融する溶接エネルギーを加える溶接ヘッドを有する溶接装置と、前記母材に、該母材の表面粒子を飛散させることができるクリーニングエネルギーを加えるクリーニングヘッドを有するクリーング装置と、前記クリーニングヘッドを支持する支持手段と、前記溶接ヘッドが溶接方向に移動しつつ、前記母材の溶接予定位置に前記溶接エネルギーを加えている際に、該溶接エネルギーを受けて溶融している溶融プールに隣接し、且つ該溶融プールに対して溶接方向前側の領域を含む前側除去領域に、前記クリーニングエネルギーが加わるよう、該溶接ヘッドの溶接方向への移動に伴って、前記クリーニングヘッドを支持している前記支持手段を該溶接方向に移動させるヘッド連動手段と、を備えていることを特徴とする。
【0013】
当該溶接システムでは、溶接中、溶融プールに隣接し、且つ溶融プールに対して溶接方向前側の領域を含む前側除去領域に、クリーニングエネルギーを加えて、溶接中、当該前側除去領域中に新たに形成された酸化皮膜を除去することができる。このため、当該溶接システムによれば、溶接信頼性を高めることができる。
【0014】
また、前記溶接システムにおいて、複数の前記クリーニングヘッドと、複数の前記支持手段とを備え、複数の前記支持手段のうちの第一支持手段は、複数の前記クリーニングヘッドのうちの第一クリーニングヘッドを支持し、複数の前記支持手段のうちの第二支持手段は、複数の前記クリーニングヘッドのうちの第二クリーニングヘッドを支持し、
前記ヘッド連動手段は、前記前側除去領域に前記クリーニングエネルギーが加わるよう、前記溶接ヘッドの溶接方向の移動に伴って、前記第一クリーニングヘッドを支持する前記第一支持手段を該溶接方向へ移動させる第一連動手段と、前記溶融プールに対して溶接方向後側で、該溶融プールと固相部との境界を含む後側除去領域に、前記クリーニングエネルギーが加わるよう、前記溶接ヘッドの溶接方向の移動に伴って、前記第二クリーニングヘッドを支持する前記第二支持手段を該溶接方向へ移動させる第二連動手段と、を有してもよい。
【0015】
当該溶接システムでは、後側除去領域にクリーニングエネルギーを加えることで、溶融プールが凝固する過程で、その表面に形成された酸化皮膜を除去することができ、酸化皮膜の溶接ビード内への巻き込みを防ぐことができる。
【0016】
また、前記溶接システムにおいて、第三クリーングヘッドと、該第三クリーニングヘッドを支持する第三支持手段とを備え、
前記ヘッド連動手段は、前記溶融プールに対して溶接方向後側の溶接ビード中、前記母材で規定される酸化物発生温度未満の領域に、前記クリーニングエネルギーが加わるよう、前記溶接ヘッドの溶接方向の移動に伴って、前記第三クリーニングヘッドを支持する前記第三支持手段を移動させる第三連動手段を有してもよい。
【0017】
当該溶接システムでは、溶融プールに対して溶接方向後側の溶接ビード中、酸化物発生温度未満の領域にクリーニングエネルギーを加えることで、溶接ビード上に形成された酸化皮膜を除去することができ、その後の溶接パスの際の溶接信頼性を高めることができる。
【0018】
また、前記溶接システムにおいて、前記支持手段は、該支持手段が支持している前記クリーニングヘッドの向きを変更可能に、前記ヘッド連動手段に取り付けられていてもよい。
【0019】
溶接条件を変更すると、溶接プールの大きさ等が変わると、溶接プールの中心から、クリーニングエネルギーを加える領域までの距離も変わる。当該溶接システムでは、クリーニングヘッドの向きを変えることができるので、溶接条件に伴う、溶接プールの中心から、クリーニングエネルギーを加える領域までの距離の変化に対応することができる。
【0020】
また、前記溶接システムにおいて、前記支持手段は、前記母材に対向する仮想面内で前記溶接方向に対して垂直な方向の複数個所で、前記クリーニングヘッドを支持する複数の支持部を有してもよい。
【0021】
当該溶接システムでは、母材に対向する仮想面内で溶接方向に対して垂直な方向に関し、クリーニングエネルギーを加える領域の幅を適宜変更することができる。
【0022】
また、前記溶接システムにおいて、前記ヘッド連動手段は、前記母材に対向する仮想面内で前記溶接方向に対して垂直な方向に、前記クリーニングヘッドを往復移動させるウィービング手段を有してもよい。
【0023】
当該溶接システムでは、母材に対向する仮想面内で溶接方向に対して垂直な方向に関し、クリーニングエネルギーを加える領域の幅を広げることができる。
【0024】
また、前記溶接システムにおいて、前記溶接ヘッドは、前記母材に対して電子を照射することで、該母材に溶接エネルギーを加え、前記クリーニングヘッドは、前記母材に対してレーザ光を照射することで、該母材に前記クリーニングエネルギーを加えるものであってもよい。また、前記溶接ヘッドは、前記母材に対してレーザ光を照射することで、該母材に溶接エネルギーを加え、前記クリーニングヘッドは、前記母材に対して荷電粒子又はレーザ光を照射することで、該母材に前記クリーニングエネルギーを加えるものであってもよい。
【発明の効果】
【0025】
本発明では、溶接中、溶接により高温になった領域に形成される酸化皮膜を除去することができ、溶接信頼性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る第一実施形態における溶接システムの構成図である。
【図2】溶接中の母材の温度分布を示す説明図である。
【図3】本発明に係る第一実施形態における、前側除去領域と溶融プールの位置関係を示す説明図である。
【図4】本発明に係る第一実施形態で、レーザ光により酸化皮膜を除去する過程を示す説明図である。
【図5】本発明に係る第二実施形態における溶接システムの構成図である。
【図6】本発明に係る第二実施形態における、前側除去領域及び後側除去領域と溶接プールとの位置関係を示す説明図である。
【図7】本発明に係る第三実施形態における溶接システムの構成図である。
【図8】本発明に係る第三実施形態における、前側除去領域、第一後側除去領域及び第二後側除去領域と溶接プールとの位置関係を示す説明図である。
【図9】本発明に係る第四実施形態における溶接システムの構成図である。
【図10】本発明に係る第四実施形態で、アークにより酸化皮膜を除去する過程を示す説明図である。
【図11】本発明に係る第四実施形態で、TIGクリーニングヘッドに供給する電流の変化を示すグラフである。
【図12】本発明に係る第四実施形態における、前側除去領域と溶融プールの位置関係を示す説明図である。
【図13】本発明に係る実施形態の変形例における、前側除去領域と溶融プールの位置関係を示す説明図である。
【図14】本発明に係る実施形態の他の変形例における、前側除去領域と溶融プールの位置関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照し、本発明に係る溶接方法、及びこの方法を実行する溶接システムの各種実施形態について説明する。
【0028】
「第一実施形態」
まず、本発明に係る溶接方法、及びこの方法を実行する溶接システムの第一実施形態について、図1〜図4を用いて説明する。
【0029】
本実施形態の溶接システムは、図1に示すように、TIG(Tungsten Inert Gas)アークを発生するTIG溶接ヘッドを有するTIG溶接装置10と、レーザ光を出射するレーザヘッド41を有するクリーニング装置40と、レーザヘッド41を保持するレーザヘッド支持具(支持手段)33と、TIG溶接ヘッド11を基準にしてレーザヘッド41を揺動させるウィービング機構(連動手段)35と、このウィービング機構35を駆動するウィービング駆動回路39と、TIG溶接装置10やクリーニング装置40等を制御する制御装置50と、を備えている。
【0030】
TIG溶接装置10は、前述のTIG溶接ヘッド11と、TIG溶接ヘッド11にイナートガスとしてのArガスを供給するArガス発生装置21と、TIG溶接ヘッド11に溶接用の電力を供給する溶接電源23と、溶接アークAw内に溶加材29を供給する溶加材供給装置25と、TIG溶接ヘッド11を母材Mに対して相対移動させるヘッド移動機構31と、を有している。なお、ここでは、イナートガスとして、Arガスを用いているが、Hrガスや、ArとHrの混合ガス等、他のイナートガスを用いてもよい。
【0031】
TIG溶接ヘッド11は、Arガス発生装置21からのArガスを噴射するガスノズル12と、ガスノズル12内に配置されたタングステン電極13と、ガスノズル12内に配置され、タングステン電極13を保持するコンタクトノズル14と、ガスノズル12が取り付けられているヘッドボディ15と、を有している。
【0032】
溶加材供給装置25は、溶加材29を排出する溶加材供給機構26と、溶加材供給機構26が排出した溶加材29を溶接アークAw内に導く溶加材送給ガイド28と、を有している。ここで、溶加材は、ワイヤ形状のものであっても、粉末であってもよい。
【0033】
ヘッド移動機構31は、TIG溶接ヘッド11のヘッドボディ15を把持し、制御装置50からの支持に応じて、TIG溶接ヘッド11を三次元空間内で移動させるロボットである。
【0034】
クリーニング装置40は、例えば、YAG(Yttrium Aluminum Garnet)レーザ光を発振するレーザ発振器43と、レーザ発振器43からのレーザ光を集光する集光光学系を有するレーザヘッド41と、を有している。
【0035】
ウィービング機構35は、TIG溶接ヘッド11に固定されているウィービングベース36と、このウィービングベース36を基準にして、タングステン電極13と平行な軸回りに揺動するウィービングアーム37と、このウィービングアーム37を揺動させる揺動機構(不図示)と、を有している。揺動機構はウィービング駆動回路39からの駆動電力を受けて駆動する。ウィービングアーム37の先端部には、タングステン電極13に対して平行な軸回りに回転可能に、レーザヘッド支持具33が取り付けられている。
【0036】
次に、以上で説明した溶接システムの動作について説明する。
【0037】
ヘッド移動機構31は、制御装置50からの指示を受けて、TIG溶接ヘッド11を母材Mの溶接予定位置中の溶接開始位置に対向させると共に、TIG溶接ヘッド11の向きを調整して、TIG溶接ヘッド11に対してレーザヘッド支持具33を予定する溶接方向前側に位置させる。そして、ヘッド移動機構31は、溶接予定位置に沿って、溶接開始位置から溶接終了位置に向けて、つまり溶接方向にTIG溶接ヘッド11を移動させる。
【0038】
Arガス発生装置21は、制御装置50からの指示に従って、TIG溶接ヘッド11にArガスを供給する。このArガスは、TIG溶接ヘッド11のガスノズル12から母材Mへ向けて噴射される。また、溶接電源23は、制御装置50からの指示に従って、TIG溶接ヘッド11のタングステン電極13に直流正極性の電流、又は交流電流を供給する。溶接電源23から溶接電力が供給されたタングステン電極13からは、ガスノズル12から噴出したArガスの雰囲気内で、母材Mに向かって電子が放出される。この結果、タングステン電極13と母材Mとの間にアークが発生し、そのアーク熱によって溶加材29及び母材Mが溶融して、溶融プールに溶加材29を供給することにより母材Mが溶接される。
【0039】
母材Mの溶接が開始されると、母材M上には、図2に示すように、溶加材29と母材Mとの溶融物で形成されている溶融プールPが形成される。この溶融プールPは次第に凝固し、溶接ビードBを形成する。この際、母材M上の温度分布は、溶融プールPから遠ざかるに連れて温度が低下する温度分布を示す。溶融プールPと固相部分との境の温度は、固相部が溶融する母材Mの固相線温度(例えば、1200〜1300℃)、又は液相部が凝固する母材Mの液相線温度(例えば、1250〜1350℃)である。この溶融プールPの外回りに、温度分布が形成される。ここでは、例として、1000℃、500℃、200℃の温度領域を示す。いずれの温度領域も、溶融プールPを中心に形成される。但し、各温度領域は、溶融プールPから溶接方向前側の温度境界までの距離よりも、溶融プールPから溶接方向後側の温度境界までの距離の方が長い。
【0040】
母材表面には、そこが凝固していても、約500℃以上であれば、酸化皮膜が発生する。なお、この酸化皮膜が発生する温度(約500℃)は、母材Mの材質等により若干変動する。仮に、本実施形態のように、イナートガス雰囲気内でアークを発生させても、母材M中にAlやTi等、酸素との親和性が極めて高い元素が含まれている場合には、このイナートガス雰囲気内に残存する酸素が母材M中のAlやTiに結びついて、酸化皮膜が形成される。また、母材Mに酸素元素が含まれている場合にも、この酸素元素により酸化皮膜が形成される場合もある。
【0041】
このため、母材表面を酸性水溶液等で予め洗浄して酸化皮膜を除去してから、又は、母材表面にレーザ光を予め照射して酸化皮膜を除去してから溶接を行っても、溶融プールPよりも溶接方向前側の500℃以上の領域に、溶接による熱で酸化皮膜が形成されることがある。
【0042】
そこで、本実施形態では、図3に示すように、溶接中、この溶接で形成される溶融プールPに隣接し、この溶融プールPに対して溶接方向前側の領域を含む前側除去領域Ffに対して、酸化皮膜を除去するクリーニング処理を実行するようにしている。
【0043】
本実施形態において、前側除去領域Ffは、500℃以上の領域内であって、溶融プールPに隣接し、この溶融プールPに対して溶接方向前側の領域と、溶融プールP内の溶接方向前側の領域とを含み、溶接方向に対して垂直な方向の幅Wfが、溶融プールPの幅Wp(例えば、5mm)に対して数十パーセントほど広い領域である。
【0044】
本実施形態でクリーニング処理は、クリーニング装置40が実行する。
【0045】
本実施形態では、以上で説明した溶接に先立ち、まず、TIG溶接ヘッド11に設けられているウィービング機構35のウィービングアーム37に回転可能に取り付けられているレーザヘッド支持具33で、レーザヘッド41を保持する。次に、このレーザヘッド41からのレーザ光Lcが、TIG溶接ヘッド11からのアークAwによって形成される溶融プールPと固相部との境界であって、溶融プールPの溶接方向前側に照射されるよう、レーザヘッド41を保持しているレーザヘッド支持具33の向きを調節する。さらに、レーザヘッド41の集光光学系を調整して、母材表面上のレーザ光Lcの照射径の大きさを目的の大きさにする。なお、溶融プールPと固相部との境界の位置は、当該溶接と同じ溶接条件の溶接テスト等を行って、溶融プールPの大きさ等を予め把握しておくことで、容易に定めることができる。
【0046】
レーザ発振器43は、制御装置50からの指示を受けて駆動し、レーザ光を発振する。このレーザ光は、光ファイバ42を経て、レーザヘッド41から母材Mへ照射される。このレーザヘッド41は、ウィービング機構35及びレーザヘッド支持具33によりTIG溶接ヘッド11の前方に連結されているため、TIG溶接ヘッド11がヘッド移動機構31により溶接方向に移動すると、レーザヘッド41も、溶接方向へ移動する。この際、制御装置50からの指示でウィービング機構35が駆動し、レーザヘッド支持具33で保持されているレーザヘッド41は、TIG溶接ヘッド11を基準にして、溶接方向及びタングステン電極13に対して垂直な方向に揺動する。
【0047】
このように、本実施形態では、レーザヘッド41からのレーザ光Lcが溶融プールPと固相部との境界であって溶融プールPの溶接方向前側に照射されるよう、レーザヘッド41の向きを調節した上で、溶接中、TIG溶接ヘッド11を基準にしてレーザヘッド41をウィービングさせつつ、このレーザヘッド41からレーザ光Lcを出力させているので、レーザヘッド41からのレーザ光Lcは、前述の前側除去領域Ffに照射される。
【0048】
ここで、本実施形態のレーザ出力の波形は、ピーク出力とベース出力とを交互に繰り返すパルス状の出力波形である。この際、本実施形態のレーザ照射条件は、例えば、以下の通りである。
レーザピーク出力値:80〜150W
レーザベース出力値:0〜20W
レーザパルス周波数:10〜40KHz
ウィービング周波数:50〜200KHz
ウィービング幅:5〜20mm
【0049】
図4(a)に示すように、母材M表面に酸化皮膜1が形成されている場合、同図(b)(c)に示すように、そこにレーザ光Lcを照射すると、酸化皮膜1を形成している粒子2がレーザ光Lcを受けたことにより加熱され、融解・蒸発して飛散してしまう。この結果、同図(d)に示すように、母材M表面上の酸化皮膜1は除去される。また、母材M表面上に油分や錆等がある場合でも、同様の原理で、油分や錆等は除去される。
【0050】
従って、レーザ光Lcが照射される前側除去領域Ffは、レーザ光Lcの照射によるクリーニングエネルギーを受けてクリーニング処理され、この前側除去領域Ff内の母材表面に酸化皮膜、油分、錆等があったとしても、これが除去される。このため、本実施形態では、溶接信頼性を高めることができる。
【0051】
なお、本実施形態では、溶融プールPの幅Wp(例えば、5mm)に対して、母材M表面上のレーザ光Lcの照射径が小さいために、レーザヘッド41をウィービングしているが、レーザヘッド41の集光光学系を調整して、母材表面上のレーザ光Lcの照射径を溶融プールPの幅Wpより大きくしても、母材表面のエネルギー密度をクリーニング処理可能なエネルギー密度にできる場合には、レーザヘッド41をウィービングする必要はない。
【0052】
また、本実施形態における溶加材29は、ワイヤ状又は粉末状のものを用いてもよい。
【0053】
さらに、本実施形態では、レーザヘッド支持具33とTIG溶接ヘッド11とをウィービング機構35(連動手段)で連結することにより、TIG溶接ヘッド11の移動に伴って、レーザヘッド41も溶接方向に移動するようにしているが、レーザヘッド41に対して独自のヘッド移動機構を設け、このヘッド移動機構により、TIG溶接ヘッド11の移動に同期して、レーザヘッド41を溶接方向に移動させると共に、レーザヘッド41をウィービングさせてもよい。
【0054】
「第二実施形態」
次に、本発明に係る溶接方法、及びこの方法を実行する溶接システムの第二実施形態について、図5及び図6を用いて説明する。
【0055】
本実施形態の溶接システムも、図5に示すように、第一実施形態と同様、TIG溶接装置10と、クリーニング装置40aと、クリーニング装置40aのレーザヘッド41,41aを保持するレーザヘッド支持具33,33aと、レーザヘッド41,41aを揺動させるウィービング機構35,35aと、このウィービング機構35,35aを駆動するウィービング駆動回路39と、TIG溶接装置10やクリーニング装置40a等を制御する制御装置50と、を備えている。但し、本実施形態では、クリーニング装置40aがレーザヘッド41,41aを二つ有し、この関係で、レーザヘッド支持具33,33a及びウィービング機構35,35aも二つ備えている。
【0056】
本実施形態において、二つのウィービング機構35,35aのうち、一方のウィービング機構35は、第一実施形態と同様、TIG溶接ヘッド11の溶接方向前側に設けられ、他方のウィービング機構35aは、TIG溶接ヘッド11の溶接方向後側に設けられている。各ウィービング機構35,35aのウィービングアーム37,37の先端部には、レーザヘッド支持具33,33が、TIG溶接ヘッド11内のタングステン電極13に対して平行な軸回りに回転可能に取り付けられている。各ウィービング機構35,35aは、ウィービング駆動回路39からの駆動電力により駆動する。
【0057】
本実施形態において、二つのレーザヘッド41,41aのうち、一方のレーザヘッド41は、TIG溶接ヘッド11の溶接方向前側に設けられているレーザヘッド支持具33により保持され、他方のレーザヘッド41aは、TIG溶接ヘッド11の溶接方向後側に設けられているレーザヘッド支持具33aにより保持される。各レーザヘッド41,41aには、レーザ発振器43から分配器45を介して、レーザ光Lcが送られる。なお、ここでは、一つのレーザ発振器43からのレーザ光Lcを分配器45で分配して、各レーザヘッド41,41aに送っているが、各レーザヘッド41,41a毎にレーザ発振器を設けてもよい。
【0058】
本実施形態でも、第一実施形態と同様、溶接に先立ち、各レーザヘッド支持具33,33aで、各レーザヘッド41,41aを保持する。次に、二つのレーザヘッド41のうち前側のレーザヘッド41からのレーザ光Lcが、TIG溶接ヘッド11からのアークAwによって形成される溶融プールPと固相部との境界であって、溶融プールPの溶接方向前側に照射されるよう、前側のレーザヘッド41を保持しているレーザヘッド支持具33の向きを調節する。さらに、後側のレーザヘッド41aからのレーザ光Lcが、TIG溶接ヘッド11からのアークAwによって形成される溶融プールPと固相部との境界であって、溶融プールPの溶接方向後側に照射されるよう、後側のレーザヘッド41aを保持しているレーザヘッド支持具33aの向きを調節する。そして、各レーザヘッド41,41aの集光光学系を調整して、母材表面上のレーザ光Lcの照射径の大きさを目的の大きさにする。
【0059】
以上の調整作業が終了すると、第一実施形態と同様に、溶接システムを動作させて、溶接及びクリーニング処理を並行実施する。
【0060】
本実施形態では、TIG溶接ヘッド11の前側と後側とにレーザヘッド41,41aを設け、それぞれをウィービング機構35,35aによりウィービングさせているので、図6に示すように、第一実施形態と同様に、前側除去領域Ffがクリーニング処理されると共に、溶融プールPに対して溶接方向後側で、溶融プールPと固相部との境界を含む後側除去領域Fb1もクリーング処理される。この後側除去領域Fb1は、溶接方向に対して垂直な方向の幅Wが、前側除去領域Ffと同様、溶融プールPの幅Wpに対して数十パーセントほど広い。
【0061】
溶融プールPに対して溶接方向後側で、溶融プールPと固相部との境界は、約500℃以上の領域内であるため、酸化皮膜が発生し始める箇所である。仮に、この境界で酸化皮膜が形成されると、溶接ビードB内にこの酸化皮膜が巻き込まれる恐れがある。そこで、本実施形態では、後側除去領域Fb1においてもクリーニング処理を実行し、溶融プールPに対して溶接方向後側で、溶融プールPと固相部との境界に、仮に酸化皮膜が発生したとしても、これを除去することで、溶接ビードB内への酸化皮膜の巻き込みを防ぎ、溶接信頼性を高めている。
【0062】
「第三実施形態」
次に、本発明に係る溶接方法、及びこの方法を実行する溶接システムの第三実施形態について、図7及び図8を用いて説明する。
【0063】
本実施形態の溶接システムも、図7に示すように、第一及び第二実施形態と同様、TIG溶接装置10と、クリーニング装置40bと、クリーニング装置40bのレーザヘッド41,41a,41bを保持するレーザヘッド支持具33,33a,33bと、レーザヘッド41,41a,41bを揺動させるウィービング機構35,35a,35bと、このウィービング機構35,35a,35を駆動するウィービング駆動回路39と、TIG溶接装置10やクリーニング装置40b等を制御する制御装置50と、を備えている。但し、本実施形態では、クリーニング装置40bがレーザヘッド41,41a,41bを三つ有し、この関係で、レーザヘッド支持具33,33a,33b及びウィービング機構35,35a,35bも三つ備えている。
【0064】
本実施形態において、三つのウィービング機構35,35a,35bのうち、第一のウィービング機構35は、第一実施形態と同様、TIG溶接ヘッド11の溶接方向前側に設けられ、第二及び第三のウィービング機構35a,35bは、TIG溶接ヘッド11の溶接方向後側に設けられている。各ウィービング機構35,35a,35bのウィービングアーム37,37,37の先端部には、レーザヘッド支持具33,33a,33bが、TIG溶接ヘッド11内のタングステン電極13に対して平行な軸回りに回転可能に取り付けられている。第三のウィービング機構35bのウィービングアーム37は、第二のウィービング機構35bのウィービングアーム37より長い。このため、第三のウィービング機構35bのウィービングアーム37の先端部に取り付けられているレーザヘッド支持具33bは、第二のウィービング機構35bのウィービングアーム37の先端部に取り付けられているレーザヘッド支持具33aよりも後方に位置している。各ウィービング機構35,35a,35bは、ウィービング駆動回路39からの駆動電力により駆動する。
【0065】
本実施形態において、三つのレーザヘッド41,41a,41bのうち、第一のレーザヘッド41は、TIG溶接ヘッド11の溶接方向前側に設けられているレーザヘッド支持具33により保持され、第二及び第三のレーザヘッド41a,41bは、TIG溶接ヘッド11の溶接方向後側に設けられているレーザヘッド支持具33a,33bにより保持される。各レーザヘッド41,41a,41bには、レーザ発振器43から分配器45を介して、レーザ光Lcが送られる。なお、ここでは、一つのレーザ発振器43からのレーザ光Lcを分配器45で分配して、各レーザヘッド41に送っているが、各レーザヘッド41,41a,41b毎にレーザ発振器を設けてもよい。
【0066】
本実施形態でも、第一及び第二実施形態と同様、溶接に先立ち、各レーザヘッド支持具33,33a,33bで、各レーザヘッド41,41a,41bを保持する。次に、第一のレーザヘッド41からのレーザ光Lcが、TIG溶接ヘッド11からのアークAwによって形成される溶融プールPと固相部との境界であって、溶融プールPの溶接方向前側に照射されるよう、前側のレーザヘッド41を保持しているレーザヘッド支持具33の向きを調節する。また、第二のレーザヘッド41aからのレーザ光Lcが、溶融プールPと固相部との境界であって、溶融プールPの溶接方向後側に照射されるよう、第二のレーザヘッド41aを保持しているレーザヘッド支持具33aの向きを調節する。さらに、最も後方の第三のレーザヘッド41bからのレーザ光Lcが、溶融プールPに対して溶接方向後側の溶接ビードB中、酸化皮膜が発生する温度(約500℃)未満の領域に照射されるよう、第三のレーザヘッド41bを保持しているレーザヘッド支持具33bの向きを調節する。そして、各レーザヘッド41,41a,41bの集光光学系を調整して、母材表面上のレーザ光Lcの照射径の大きさを目的の大きさにする。
【0067】
以上の調整作業が終了すると、第一及び第二実施形態と同様に、溶接システムを動作させて、溶接及びクリーニング処理を並行実施する。
【0068】
本実施形態では、TIG溶接ヘッド11の前側に第一のレーザヘッド41を設け、TIG溶接ヘッド11の後側に第二のレーザヘッド41aを設け、さらにそれよりも後側に第三のレーザヘッド41bを設け、それぞれをウィービング機構35,35a,35bによりウィービングさせているので、図8に示すように、第二実施形態と同様、前側除去領域Ff及び第一後側除去領域Fb1がクリーニング処理されると共に、溶融プールPに対して溶接方向後側の溶接ビードB中で、酸化皮膜が発生する温度(約500℃)未満の領域を含む第二後除去領域Fb2もクリーング処理される。この第二後側除去領域Fb2は、溶接方向に対して垂直な方向の幅Wが、前側除去領域Ff及び第一後側除去領域Fb1と同様、溶融プールPの幅Wpに対して数十パーセントほど広い。
【0069】
溶融プールPに対して溶接方向後側で、溶融プールPと固相部との境界を含む第一後除去領域Fb1は、500℃以上の領域内を横断しており、この第一後除去領域Fb1よりも後側には、酸化皮膜が発生する温度(約500℃)以上の領域が存在するため、この領域に酸化皮膜が発生する。
【0070】
溶接予定位置を1パスで溶接する場合、溶接ビードB上に酸化皮膜が形成されても、その後の加工処理等があり、この加工処理等で酸化皮膜が不都合なものでない限り、基本的に何ら問題はない。しかし、溶接予定位置を複数パスで溶接する場合、第一回パスの溶接で形成された溶接ビードB上に酸化皮膜が形成されると、第二回パスの溶接における溶接信頼性が低下する。本実施形態の場合、第一回パスの溶接で形成された溶接ビードB上に酸化皮膜が形成されても、第二後側除去領域Fb2にクリーニング処理を施しているので、第二回パスの溶接の前に、この溶接ビードB上の酸化皮膜を除去することができる。しかも、本実施形態の場合、第二回パスの溶接時にも、前側除去領域Ffにクリーニング処理を施すので、第二回パスの溶接では、酸化皮膜が確実に除去されている部分を溶接することができる。
【0071】
よって、本実施形態では、溶接予定位置を多数パスで溶接する場合の溶接信頼性をより高めることができる。また、溶接予定位置を1パスで溶接し、その溶接後に、この溶接で形成された溶接ビードBを含む領域に何らかの加工処理を施す場合に、溶接ビードB上に酸化皮膜が形成されていないことで、この加工処理での効果を確実に得ることができる。
【0072】
「第四実施形態」
次に、本発明に係る溶接方法、及びこの方法を実行する溶接システムの第三実施形態について、図9〜図11を用いて説明する。
【0073】
本実施形態の溶接システムは、以上の各実施形態と異なり、レーザ光Lwにより溶接を行い、TIGアークAcによりクリーニング処理を行うものである。このため、本実施形態の溶接システムは、図9に示すように、レーザ光Lwを出射するレーザ溶接ヘッド61を有するレーザ溶接装置60と、TIGアークを発生するTIGクリーニングヘッド71を有するクリーニング装置70と、TIGクリーニングヘッド71を保持するTIGヘッド支持具83と、レーザ溶接ヘッド61の移動に伴ってTIGクリーニングヘッド71を移動させるためにTIGヘッド支持具83とレーザ溶接ヘッド61とを連結するヘッド連結具(連動手段)85と、レーザ溶接装置60やクリーニング装置70等を制御する制御装置90と、を備えている。
【0074】
レーザ溶接装置60は、例えば、YAGレーザ光Lcを発振するレーザ発振器63と、レーザ発振器63からのレーザ光Lwを集光する集光光学系を有するレーザ溶接ヘッド61と、レーザ溶接ヘッド61を母材Mに対して相対移動させるヘッド移動機構69と、を有している。すなわち、このレーザ溶接装置60は、ヘッド移動機構69を除き、第一実施形態のクリーニング装置40と基本的に同じ構成を成している。但し、このレーザ溶接装置60は、母材Mを溶接するものであるから、母材表面の酸化皮膜等を除去するための第一実施形態のクリーニング装置70よりも、高出力のレーザ光Lwを出射する。さらに、このレーザ溶接装置60は、YAGレーザ光Lc内に溶加材29を供給する溶加材供給装置25を有している。
【0075】
ヘッド移動機構69は、レーザ溶接ヘッド61のベース65を把持し、制御装置90からの支持に応じて、レーザ溶接ヘッド61を三次元空間内で移動させるロボットである。
【0076】
クリーニング装置70は、前述のTIGクリーニングヘッド71と、このTIGクリーニングヘッド71にイナートガスとしてのArガスを供給するArガス発生装置76と、TIGクリーニングヘッド71にクリーニング用の電力を供給するクリーニング電源78と、を有している。TIGクリーニングヘッド71は、Arガス発生装置76からのArガスを噴射するガスノズル72と、ガスノズル72内に配置されたタングステン電極73と、ガスノズル72内に配置され、タングステン電極73を保持するコンタクトノズル74と、を有している。すなわち、このクリーニング装置70は、第一実施形態のTIG溶接装置10と基本的に同じ構成である。但し、本実施形態のクリーニング装置70は、あくまでもクリーニング処理を実行する装置であるため、第一実施形態のTIG溶接装置10のように、溶加材29を供給する溶加材供給装置25を有していない。さらに、このクリーニング装置70のクリーニング電源78は、第一実施形態における溶接装置の溶接電源23とは異なり、後述するように、逆極性の電流をタングステン電極73に供給する。
【0077】
TIGヘッド支持具83は、一方の端部がレーザ溶接ヘッド61に固定されているヘッド連結具85の先端部に回転可能に取り付けられている。
【0078】
次に、以上で説明した溶接システムの動作について説明する。
【0079】
ヘッド移動機構69は、制御装置90からの指示を受けて、レーザ溶接ヘッド61を母材Mの溶接予定位置中の溶接開始位置に対向させると共に、レーザ溶接ヘッド61の向きを調整して、レーザ溶接ヘッド61に対してTIGヘッド支持具83を予定する溶接方向前側に位置させる。そして、ヘッド移動機構69は、溶接予定位置に沿って、溶接開始位置から溶接終了位置に向けて、つまり溶接方向にレーザ溶接ヘッド61を移動させる。
【0080】
レーザ発振器63は、レーザ溶接ヘッド61の溶接予定位置に沿った移動に同調して、制御装置90からの指示を受けて、レーザ光Lwを発振する。このレーザ光Lwは光ファイバ62を介してレーザ溶接ヘッド61に送られ、レーザ溶接ヘッド61で集光され、母材Mに照射される。レーザ光Lwが照射され、溶接エネルギーが加えられた母材Mは、溶融して溶接される。
【0081】
本実施形態においても、以上の実施形態と同様、溶接に先立ち、まず、ヘッド連結具85に回転可能に取り付けられているTIGヘッド支持具83で、TIGクリーニングヘッド71を保持する。次に、レーザ溶接ヘッド61からのレーザ光Lwによって形成される溶融プールPと固相部との境界であって、溶融プールPの溶接方向前側に、このTIGクリーニングヘッド71との間でTIGアークAcが発生するよう、TIGクリーニングヘッド71を保持しているTIGヘッド支持具83の向きを調節する。
【0082】
Arガス発生装置76は、レーザ溶接装置60が溶接を開始する直前に、制御装置90から指示を受けて、TIGクリーニングヘッド71にArガスを供給する。このArガスは、TIGクリーニングヘッド71のガスノズル12から母材Mへ向けて噴射される。また、クリーニング電源78も、Arガス発生装置76と同様、レーザ溶接装置60が溶接を開始する直前に、制御装置90から指示を受ける。このクリーニング電源78は、逆極性(+)の電流をTIGクリーニングヘッド71のタングステン電極73に供給して、このタングステン電極73を正極にし、このタングステン電極73からアークAcを発生させる。タングステン電極13が正極になると、Arガスがイオン化し、Ar+になる。
【0083】
図10(a)に示すように、母材M表面に酸化皮膜1が形成されている場合、同図(b)に示すように、タングステン電極73を正極にして、Arガスをイオン化させると、Ar+が酸化皮膜1を形成している粒子2に衝突して、この粒子2を飛散させる。この結果、同図(c)に示すように、母材M表面の酸化皮膜1は除去される。また、母材M表面上に油分や錆等がある場合でも、同様の原理で、油分や錆等は除去される。
【0084】
ここで、本実施形態において、タングステン電極73に供給される電流値の波形は、図11に示すように、正のピーク電流値と、正のベース電流値とを交互に繰り返すパルス状の波形である。この際の供給電流条件は、例えば、以下の通りである。
ピーク電流値:5〜30A
ベース電流値:1〜5A
周波数:100〜500Hz
Duty比(=τ/T×100):25〜75%
【0085】
本実施形態では、前述したように、溶融プールPと固相部との境界であって、溶融プールPの溶接方向前側に、このTIGクリーニングヘッド71との間でTIGアークAcが発生するよう、TIGクリーニングヘッド71の向きを調節した上で、このTIG溶接ヘッド11によりアークAcを発生させているので、図12に示すように、溶接中、この溶接で形成される溶融プールPに隣接し、この溶融プールPに対して溶接方向前側の領域を含む前側除去領域Ffaに対してクリーニング処理を行うことができる。なお、TIGクリーニングヘッド71により形成されるアークAcの母材表面上の径は、レーザ溶接ヘッド61からのレーザ光Lwにより形成される溶融プールPの幅より大きいため、本実施形態では、クリーニングヘッド71を以上の実施形態のようにウィービングする必要がなく、その結果、前側除去領域Ffaは、母材M表面上でアークAcが形成されているほぼ円形の領域となる。
【0086】
以上、本実施形態でも、以上の各実施形態と同様、前側除去領域Ffaは、TIGアークAcによるクリーニングエネルギーを受けてクリーニング処理されるので、溶接信頼性を高めることができる。
「変形例」
第四実施形態では、前述したように、TIGクリーニングヘッド71により形成されるアークAcの母材表面上の径は、レーザ溶接ヘッド61からのレーザ光Lcにより形成される溶融プールPの幅より明らかに大きいため、一つのTIGクリーニングヘッド71で、これをウィービングさせずに、クリーニング処理している。
【0087】
しかしながら、TIGクリーニングヘッド71により形成されるアークAcの母材表面上の径が、仮に、レーザ溶接ヘッド61からのレーザ光Lwにより形成される溶融プールPの幅より僅かに大きいか、逆に小さい場合には、溶融プールPに隣接し、この溶融プールPに対して溶接方向前側の領域全体に対してクリーニング処理を行うことができない。
【0088】
そこで、このような場合には、レーザ溶接ヘッド61の前側に、溶接方向に垂直な方向に並んだ複数のTIGクリーニングヘッド71を設け、図13に示すように、複数のTIGクリーニングヘッド71により形成されるアークAcによりクリーニング処理される領域を前側除去領域Ffbにすることで、溶融プールPに隣接し、この溶融プールPに対して溶接方向前側の領域全体に対してクリーニング処理できるようにする。この際、隣り合うTIGクリーニングヘッド71により形成される各アークAc中のアルゴンイオン(Ar+)は、いずれも、ほぼ同じ向きに移動する関係で、各アークAcには引力が作用する。すなわち、複数のTIGクリーニングヘッド71により形成されるアークAcは、互いに引き合う。このため、複数のTIGクリーニングヘッド71の向き及び相互間距離は、この引力を考慮して定めることが好ましい。
【0089】
なお、第一〜第三実施形態においても、以上と同様、溶接方向に垂直な方向に並んだ複数のレーザクリーニングヘッド41を設けて、レーザクリーニングヘッド41をウィービングさせずに、溶融プールPに隣接し、この溶融プールPに対して溶接方向前側の領域全体に対してクリーニング処理を行うようにしてもよい。
【0090】
このように、複数のクリーニングヘッドを設ける場合、ヘッド支持具に複数のヘッド支持部を設けることになる。複数のヘッド支持部を設けると、複数の支持部のうちでクリーニングヘッドを実際に支持する支持部の数を選択することで、クリーニングエネルギーを加える領域の幅(溶接方向に対して垂直な方向の幅)を適宜変更することができる。
【0091】
さらに、前述の場合、図14に示すように、TIGクリーニングヘッド71をウィービングさせることで、溶融プールPに隣接し、この溶融プールPに対して溶接方向前側の領域全体を含む前側除去領域Ffcとし、この前側除去領域Ffcに対してクリーニング処理できるようにしてもよい。
【0092】
また、第二及び第三実施形態は、いずれも、TIGアークAwにより溶接を行い、レーザ光Lcでクリーニング処理を行っているが、これらの実施形態においても、第四実施形態と同様、レーザ光Lwで溶接を行い、TIGアークAcでクリーニング処理を行うようにしてもよい。すなわち、第四実施形態での前側除去領域Ffのみならず、第一後側除去領域や第二後側除去領域も、TIGアークAcでクリーニング処理を行うようにしてもよい。
【0093】
また、以上の実施形態は、いずれも、溶接とクリーニング処理とのうち、一方をTIGアークにより行い、他方をレーザ光で行っているが、両方ともレーザ光Lcで行うようにしてもよい。また、母材Mの溶接は、TIG溶接やレーザ溶接なくても、例えば、MIG(Metal inert gas)溶接やMAG(Metal Active Gas)溶接であってもよい。すなわち、本発明では、溶接予定位置に溶接エネルギーを与えて、母材M上に溶融プールPを形成するものであれば、如何なる溶接方法を採用してもよい。
【符号の説明】
【0094】
1:酸化皮膜)、10:TIG溶接装置、11:TIG溶接ヘッド、13,73:タングステン電極、21,76:Arガス発生装置、23:溶接電源、25:溶加材供給装置、29:溶加材、31,69:ヘッド移動機構、33,33a,33b:レーザヘッド支持具(支持手段)、35,35a,35b:ウィービング機構(連動手段)、40,40a,40b,70:クリーニング装置、41:レーザクリーニングヘッド、43,63:レーザ発振器、50,90:制御装置、61:レーザ溶接ヘッド、71:TIGクリーニングヘッド、78:クリーニング電源、83:TIGヘッド支持具(支持手段)、85:ヘッド連結具(連動手段)
【技術分野】
【0001】
本発明は、母材の一部を溶融して母材を溶接する溶接技術に関する。
【背景技術】
【0002】
母材を溶接する場合、母材表面に酸化皮膜が存在すると、溶接信頼性が著しく低下する。このため、例えば、以下の特許文献1に記載されているように、母材表面を酸性水溶液等で洗浄して酸化皮膜を予め除去してから、又は、予め母材表面にレーザ光を照射して酸化皮膜を予め除去してから、母材を溶接する方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許平5−261562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来技術では、母材中に、AlやTi等、酸素との親和性が極めて高い元素が含まれている場合、予め母材表面の酸化皮膜を除去しても、母材を溶接する過程で高温になった部分に再び酸化皮膜が形成されてしまい、十分な溶接信頼性を確保できないことがある、という問題点がある。特に、原子力施設やガスタービン施設等において、高い溶接信頼性を求められる部品では軽視できない問題である。
【0005】
そこで、本発明では、以上のような従来技術の問題点に着目し、溶接信頼性を高めることができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記問題点を解決するための発明に係る溶接方法は、
母材の溶接予定位置に、該母材を溶融する溶接エネルギーを加えて、該母材を溶接する溶接方法において、前記母材を溶接しつつ、前記溶接エネルギーを受けて溶融している溶融プールに隣接し、且つ該溶融プールに対して溶接方向前側の領域を含む前側除去領域に、該母材の表面粒子を飛散させることができるクリーニングエネルギーを加える、ことを特徴とする。
【0007】
母材の溶接時には、溶融プールが形成される。この溶融プールの回りの領域は高温であるため、溶接中にこの領域に酸化皮膜が形成される。当該溶接方法では、溶接中、溶融プールに隣接し、且つ溶融プールに対して溶接方向前側の領域を含む前側除去領域に、クリーニングエネルギーを加えているので、溶接中、当該前側除去領域中に新たに形成された酸化皮膜を除去することができる。このため、当該溶接方法によれば、溶接信頼性を高めることができる。
【0008】
ここで、前記溶接方法において、前記前側除去領域は、前記溶融プールに隣接し、該溶融プールに対して溶接方向前側の前記領域と、該溶融プール中の溶接方向前側の領域とを含んでもよい。当該溶接方法では、溶融プール中の溶接方向前側の部分と固相部との境界に対して、確実にクリーニングエネルギーを加えることができる。このため、当該溶接方法によれば、溶融プールに対して溶接方向前側であって溶接プールに隣接する領域の酸化皮膜を確実に除去することができる。
【0009】
また、前記溶接方法において、前記溶融プールに対して溶接方向後側で、前記溶融プールと固相部との境界を含む第一後側除去領域と、該溶融プールに対して溶接方向後側の溶接ビード中、前記母材で規定される酸化物発生温度未満の第二後側除去領域とのうち、少なくとも該第一後側領域に、前記クリーニングエネルギーを加えてもよい。
【0010】
当該溶接方法で、第一後側除去領域にクリーニングエネルギーを加えると、溶融プールが凝固する過程で、その表面に形成された酸化皮膜を除去することができ、酸化皮膜の溶接ビード内への巻き込みを防ぐことができる。また、当該溶接方法で、第二後側除去領域にクリーニングエネルギーを加えると、溶接ビード上に形成された酸化皮膜を除去することができ、その後の溶接パスの際の溶接信頼性を高めることができる。
【0011】
また、前記溶接方法において、前記母材に対して荷電粒子又はレーザ光を照射することで、該母材に前記クリーニングエネルギーを加えてもよい。
【0012】
前記問題点を解決するための発明に係る溶接システムは、
母材の溶接予定位置に、該母材を溶融する溶接エネルギーを加える溶接ヘッドを有する溶接装置と、前記母材に、該母材の表面粒子を飛散させることができるクリーニングエネルギーを加えるクリーニングヘッドを有するクリーング装置と、前記クリーニングヘッドを支持する支持手段と、前記溶接ヘッドが溶接方向に移動しつつ、前記母材の溶接予定位置に前記溶接エネルギーを加えている際に、該溶接エネルギーを受けて溶融している溶融プールに隣接し、且つ該溶融プールに対して溶接方向前側の領域を含む前側除去領域に、前記クリーニングエネルギーが加わるよう、該溶接ヘッドの溶接方向への移動に伴って、前記クリーニングヘッドを支持している前記支持手段を該溶接方向に移動させるヘッド連動手段と、を備えていることを特徴とする。
【0013】
当該溶接システムでは、溶接中、溶融プールに隣接し、且つ溶融プールに対して溶接方向前側の領域を含む前側除去領域に、クリーニングエネルギーを加えて、溶接中、当該前側除去領域中に新たに形成された酸化皮膜を除去することができる。このため、当該溶接システムによれば、溶接信頼性を高めることができる。
【0014】
また、前記溶接システムにおいて、複数の前記クリーニングヘッドと、複数の前記支持手段とを備え、複数の前記支持手段のうちの第一支持手段は、複数の前記クリーニングヘッドのうちの第一クリーニングヘッドを支持し、複数の前記支持手段のうちの第二支持手段は、複数の前記クリーニングヘッドのうちの第二クリーニングヘッドを支持し、
前記ヘッド連動手段は、前記前側除去領域に前記クリーニングエネルギーが加わるよう、前記溶接ヘッドの溶接方向の移動に伴って、前記第一クリーニングヘッドを支持する前記第一支持手段を該溶接方向へ移動させる第一連動手段と、前記溶融プールに対して溶接方向後側で、該溶融プールと固相部との境界を含む後側除去領域に、前記クリーニングエネルギーが加わるよう、前記溶接ヘッドの溶接方向の移動に伴って、前記第二クリーニングヘッドを支持する前記第二支持手段を該溶接方向へ移動させる第二連動手段と、を有してもよい。
【0015】
当該溶接システムでは、後側除去領域にクリーニングエネルギーを加えることで、溶融プールが凝固する過程で、その表面に形成された酸化皮膜を除去することができ、酸化皮膜の溶接ビード内への巻き込みを防ぐことができる。
【0016】
また、前記溶接システムにおいて、第三クリーングヘッドと、該第三クリーニングヘッドを支持する第三支持手段とを備え、
前記ヘッド連動手段は、前記溶融プールに対して溶接方向後側の溶接ビード中、前記母材で規定される酸化物発生温度未満の領域に、前記クリーニングエネルギーが加わるよう、前記溶接ヘッドの溶接方向の移動に伴って、前記第三クリーニングヘッドを支持する前記第三支持手段を移動させる第三連動手段を有してもよい。
【0017】
当該溶接システムでは、溶融プールに対して溶接方向後側の溶接ビード中、酸化物発生温度未満の領域にクリーニングエネルギーを加えることで、溶接ビード上に形成された酸化皮膜を除去することができ、その後の溶接パスの際の溶接信頼性を高めることができる。
【0018】
また、前記溶接システムにおいて、前記支持手段は、該支持手段が支持している前記クリーニングヘッドの向きを変更可能に、前記ヘッド連動手段に取り付けられていてもよい。
【0019】
溶接条件を変更すると、溶接プールの大きさ等が変わると、溶接プールの中心から、クリーニングエネルギーを加える領域までの距離も変わる。当該溶接システムでは、クリーニングヘッドの向きを変えることができるので、溶接条件に伴う、溶接プールの中心から、クリーニングエネルギーを加える領域までの距離の変化に対応することができる。
【0020】
また、前記溶接システムにおいて、前記支持手段は、前記母材に対向する仮想面内で前記溶接方向に対して垂直な方向の複数個所で、前記クリーニングヘッドを支持する複数の支持部を有してもよい。
【0021】
当該溶接システムでは、母材に対向する仮想面内で溶接方向に対して垂直な方向に関し、クリーニングエネルギーを加える領域の幅を適宜変更することができる。
【0022】
また、前記溶接システムにおいて、前記ヘッド連動手段は、前記母材に対向する仮想面内で前記溶接方向に対して垂直な方向に、前記クリーニングヘッドを往復移動させるウィービング手段を有してもよい。
【0023】
当該溶接システムでは、母材に対向する仮想面内で溶接方向に対して垂直な方向に関し、クリーニングエネルギーを加える領域の幅を広げることができる。
【0024】
また、前記溶接システムにおいて、前記溶接ヘッドは、前記母材に対して電子を照射することで、該母材に溶接エネルギーを加え、前記クリーニングヘッドは、前記母材に対してレーザ光を照射することで、該母材に前記クリーニングエネルギーを加えるものであってもよい。また、前記溶接ヘッドは、前記母材に対してレーザ光を照射することで、該母材に溶接エネルギーを加え、前記クリーニングヘッドは、前記母材に対して荷電粒子又はレーザ光を照射することで、該母材に前記クリーニングエネルギーを加えるものであってもよい。
【発明の効果】
【0025】
本発明では、溶接中、溶接により高温になった領域に形成される酸化皮膜を除去することができ、溶接信頼性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る第一実施形態における溶接システムの構成図である。
【図2】溶接中の母材の温度分布を示す説明図である。
【図3】本発明に係る第一実施形態における、前側除去領域と溶融プールの位置関係を示す説明図である。
【図4】本発明に係る第一実施形態で、レーザ光により酸化皮膜を除去する過程を示す説明図である。
【図5】本発明に係る第二実施形態における溶接システムの構成図である。
【図6】本発明に係る第二実施形態における、前側除去領域及び後側除去領域と溶接プールとの位置関係を示す説明図である。
【図7】本発明に係る第三実施形態における溶接システムの構成図である。
【図8】本発明に係る第三実施形態における、前側除去領域、第一後側除去領域及び第二後側除去領域と溶接プールとの位置関係を示す説明図である。
【図9】本発明に係る第四実施形態における溶接システムの構成図である。
【図10】本発明に係る第四実施形態で、アークにより酸化皮膜を除去する過程を示す説明図である。
【図11】本発明に係る第四実施形態で、TIGクリーニングヘッドに供給する電流の変化を示すグラフである。
【図12】本発明に係る第四実施形態における、前側除去領域と溶融プールの位置関係を示す説明図である。
【図13】本発明に係る実施形態の変形例における、前側除去領域と溶融プールの位置関係を示す説明図である。
【図14】本発明に係る実施形態の他の変形例における、前側除去領域と溶融プールの位置関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照し、本発明に係る溶接方法、及びこの方法を実行する溶接システムの各種実施形態について説明する。
【0028】
「第一実施形態」
まず、本発明に係る溶接方法、及びこの方法を実行する溶接システムの第一実施形態について、図1〜図4を用いて説明する。
【0029】
本実施形態の溶接システムは、図1に示すように、TIG(Tungsten Inert Gas)アークを発生するTIG溶接ヘッドを有するTIG溶接装置10と、レーザ光を出射するレーザヘッド41を有するクリーニング装置40と、レーザヘッド41を保持するレーザヘッド支持具(支持手段)33と、TIG溶接ヘッド11を基準にしてレーザヘッド41を揺動させるウィービング機構(連動手段)35と、このウィービング機構35を駆動するウィービング駆動回路39と、TIG溶接装置10やクリーニング装置40等を制御する制御装置50と、を備えている。
【0030】
TIG溶接装置10は、前述のTIG溶接ヘッド11と、TIG溶接ヘッド11にイナートガスとしてのArガスを供給するArガス発生装置21と、TIG溶接ヘッド11に溶接用の電力を供給する溶接電源23と、溶接アークAw内に溶加材29を供給する溶加材供給装置25と、TIG溶接ヘッド11を母材Mに対して相対移動させるヘッド移動機構31と、を有している。なお、ここでは、イナートガスとして、Arガスを用いているが、Hrガスや、ArとHrの混合ガス等、他のイナートガスを用いてもよい。
【0031】
TIG溶接ヘッド11は、Arガス発生装置21からのArガスを噴射するガスノズル12と、ガスノズル12内に配置されたタングステン電極13と、ガスノズル12内に配置され、タングステン電極13を保持するコンタクトノズル14と、ガスノズル12が取り付けられているヘッドボディ15と、を有している。
【0032】
溶加材供給装置25は、溶加材29を排出する溶加材供給機構26と、溶加材供給機構26が排出した溶加材29を溶接アークAw内に導く溶加材送給ガイド28と、を有している。ここで、溶加材は、ワイヤ形状のものであっても、粉末であってもよい。
【0033】
ヘッド移動機構31は、TIG溶接ヘッド11のヘッドボディ15を把持し、制御装置50からの支持に応じて、TIG溶接ヘッド11を三次元空間内で移動させるロボットである。
【0034】
クリーニング装置40は、例えば、YAG(Yttrium Aluminum Garnet)レーザ光を発振するレーザ発振器43と、レーザ発振器43からのレーザ光を集光する集光光学系を有するレーザヘッド41と、を有している。
【0035】
ウィービング機構35は、TIG溶接ヘッド11に固定されているウィービングベース36と、このウィービングベース36を基準にして、タングステン電極13と平行な軸回りに揺動するウィービングアーム37と、このウィービングアーム37を揺動させる揺動機構(不図示)と、を有している。揺動機構はウィービング駆動回路39からの駆動電力を受けて駆動する。ウィービングアーム37の先端部には、タングステン電極13に対して平行な軸回りに回転可能に、レーザヘッド支持具33が取り付けられている。
【0036】
次に、以上で説明した溶接システムの動作について説明する。
【0037】
ヘッド移動機構31は、制御装置50からの指示を受けて、TIG溶接ヘッド11を母材Mの溶接予定位置中の溶接開始位置に対向させると共に、TIG溶接ヘッド11の向きを調整して、TIG溶接ヘッド11に対してレーザヘッド支持具33を予定する溶接方向前側に位置させる。そして、ヘッド移動機構31は、溶接予定位置に沿って、溶接開始位置から溶接終了位置に向けて、つまり溶接方向にTIG溶接ヘッド11を移動させる。
【0038】
Arガス発生装置21は、制御装置50からの指示に従って、TIG溶接ヘッド11にArガスを供給する。このArガスは、TIG溶接ヘッド11のガスノズル12から母材Mへ向けて噴射される。また、溶接電源23は、制御装置50からの指示に従って、TIG溶接ヘッド11のタングステン電極13に直流正極性の電流、又は交流電流を供給する。溶接電源23から溶接電力が供給されたタングステン電極13からは、ガスノズル12から噴出したArガスの雰囲気内で、母材Mに向かって電子が放出される。この結果、タングステン電極13と母材Mとの間にアークが発生し、そのアーク熱によって溶加材29及び母材Mが溶融して、溶融プールに溶加材29を供給することにより母材Mが溶接される。
【0039】
母材Mの溶接が開始されると、母材M上には、図2に示すように、溶加材29と母材Mとの溶融物で形成されている溶融プールPが形成される。この溶融プールPは次第に凝固し、溶接ビードBを形成する。この際、母材M上の温度分布は、溶融プールPから遠ざかるに連れて温度が低下する温度分布を示す。溶融プールPと固相部分との境の温度は、固相部が溶融する母材Mの固相線温度(例えば、1200〜1300℃)、又は液相部が凝固する母材Mの液相線温度(例えば、1250〜1350℃)である。この溶融プールPの外回りに、温度分布が形成される。ここでは、例として、1000℃、500℃、200℃の温度領域を示す。いずれの温度領域も、溶融プールPを中心に形成される。但し、各温度領域は、溶融プールPから溶接方向前側の温度境界までの距離よりも、溶融プールPから溶接方向後側の温度境界までの距離の方が長い。
【0040】
母材表面には、そこが凝固していても、約500℃以上であれば、酸化皮膜が発生する。なお、この酸化皮膜が発生する温度(約500℃)は、母材Mの材質等により若干変動する。仮に、本実施形態のように、イナートガス雰囲気内でアークを発生させても、母材M中にAlやTi等、酸素との親和性が極めて高い元素が含まれている場合には、このイナートガス雰囲気内に残存する酸素が母材M中のAlやTiに結びついて、酸化皮膜が形成される。また、母材Mに酸素元素が含まれている場合にも、この酸素元素により酸化皮膜が形成される場合もある。
【0041】
このため、母材表面を酸性水溶液等で予め洗浄して酸化皮膜を除去してから、又は、母材表面にレーザ光を予め照射して酸化皮膜を除去してから溶接を行っても、溶融プールPよりも溶接方向前側の500℃以上の領域に、溶接による熱で酸化皮膜が形成されることがある。
【0042】
そこで、本実施形態では、図3に示すように、溶接中、この溶接で形成される溶融プールPに隣接し、この溶融プールPに対して溶接方向前側の領域を含む前側除去領域Ffに対して、酸化皮膜を除去するクリーニング処理を実行するようにしている。
【0043】
本実施形態において、前側除去領域Ffは、500℃以上の領域内であって、溶融プールPに隣接し、この溶融プールPに対して溶接方向前側の領域と、溶融プールP内の溶接方向前側の領域とを含み、溶接方向に対して垂直な方向の幅Wfが、溶融プールPの幅Wp(例えば、5mm)に対して数十パーセントほど広い領域である。
【0044】
本実施形態でクリーニング処理は、クリーニング装置40が実行する。
【0045】
本実施形態では、以上で説明した溶接に先立ち、まず、TIG溶接ヘッド11に設けられているウィービング機構35のウィービングアーム37に回転可能に取り付けられているレーザヘッド支持具33で、レーザヘッド41を保持する。次に、このレーザヘッド41からのレーザ光Lcが、TIG溶接ヘッド11からのアークAwによって形成される溶融プールPと固相部との境界であって、溶融プールPの溶接方向前側に照射されるよう、レーザヘッド41を保持しているレーザヘッド支持具33の向きを調節する。さらに、レーザヘッド41の集光光学系を調整して、母材表面上のレーザ光Lcの照射径の大きさを目的の大きさにする。なお、溶融プールPと固相部との境界の位置は、当該溶接と同じ溶接条件の溶接テスト等を行って、溶融プールPの大きさ等を予め把握しておくことで、容易に定めることができる。
【0046】
レーザ発振器43は、制御装置50からの指示を受けて駆動し、レーザ光を発振する。このレーザ光は、光ファイバ42を経て、レーザヘッド41から母材Mへ照射される。このレーザヘッド41は、ウィービング機構35及びレーザヘッド支持具33によりTIG溶接ヘッド11の前方に連結されているため、TIG溶接ヘッド11がヘッド移動機構31により溶接方向に移動すると、レーザヘッド41も、溶接方向へ移動する。この際、制御装置50からの指示でウィービング機構35が駆動し、レーザヘッド支持具33で保持されているレーザヘッド41は、TIG溶接ヘッド11を基準にして、溶接方向及びタングステン電極13に対して垂直な方向に揺動する。
【0047】
このように、本実施形態では、レーザヘッド41からのレーザ光Lcが溶融プールPと固相部との境界であって溶融プールPの溶接方向前側に照射されるよう、レーザヘッド41の向きを調節した上で、溶接中、TIG溶接ヘッド11を基準にしてレーザヘッド41をウィービングさせつつ、このレーザヘッド41からレーザ光Lcを出力させているので、レーザヘッド41からのレーザ光Lcは、前述の前側除去領域Ffに照射される。
【0048】
ここで、本実施形態のレーザ出力の波形は、ピーク出力とベース出力とを交互に繰り返すパルス状の出力波形である。この際、本実施形態のレーザ照射条件は、例えば、以下の通りである。
レーザピーク出力値:80〜150W
レーザベース出力値:0〜20W
レーザパルス周波数:10〜40KHz
ウィービング周波数:50〜200KHz
ウィービング幅:5〜20mm
【0049】
図4(a)に示すように、母材M表面に酸化皮膜1が形成されている場合、同図(b)(c)に示すように、そこにレーザ光Lcを照射すると、酸化皮膜1を形成している粒子2がレーザ光Lcを受けたことにより加熱され、融解・蒸発して飛散してしまう。この結果、同図(d)に示すように、母材M表面上の酸化皮膜1は除去される。また、母材M表面上に油分や錆等がある場合でも、同様の原理で、油分や錆等は除去される。
【0050】
従って、レーザ光Lcが照射される前側除去領域Ffは、レーザ光Lcの照射によるクリーニングエネルギーを受けてクリーニング処理され、この前側除去領域Ff内の母材表面に酸化皮膜、油分、錆等があったとしても、これが除去される。このため、本実施形態では、溶接信頼性を高めることができる。
【0051】
なお、本実施形態では、溶融プールPの幅Wp(例えば、5mm)に対して、母材M表面上のレーザ光Lcの照射径が小さいために、レーザヘッド41をウィービングしているが、レーザヘッド41の集光光学系を調整して、母材表面上のレーザ光Lcの照射径を溶融プールPの幅Wpより大きくしても、母材表面のエネルギー密度をクリーニング処理可能なエネルギー密度にできる場合には、レーザヘッド41をウィービングする必要はない。
【0052】
また、本実施形態における溶加材29は、ワイヤ状又は粉末状のものを用いてもよい。
【0053】
さらに、本実施形態では、レーザヘッド支持具33とTIG溶接ヘッド11とをウィービング機構35(連動手段)で連結することにより、TIG溶接ヘッド11の移動に伴って、レーザヘッド41も溶接方向に移動するようにしているが、レーザヘッド41に対して独自のヘッド移動機構を設け、このヘッド移動機構により、TIG溶接ヘッド11の移動に同期して、レーザヘッド41を溶接方向に移動させると共に、レーザヘッド41をウィービングさせてもよい。
【0054】
「第二実施形態」
次に、本発明に係る溶接方法、及びこの方法を実行する溶接システムの第二実施形態について、図5及び図6を用いて説明する。
【0055】
本実施形態の溶接システムも、図5に示すように、第一実施形態と同様、TIG溶接装置10と、クリーニング装置40aと、クリーニング装置40aのレーザヘッド41,41aを保持するレーザヘッド支持具33,33aと、レーザヘッド41,41aを揺動させるウィービング機構35,35aと、このウィービング機構35,35aを駆動するウィービング駆動回路39と、TIG溶接装置10やクリーニング装置40a等を制御する制御装置50と、を備えている。但し、本実施形態では、クリーニング装置40aがレーザヘッド41,41aを二つ有し、この関係で、レーザヘッド支持具33,33a及びウィービング機構35,35aも二つ備えている。
【0056】
本実施形態において、二つのウィービング機構35,35aのうち、一方のウィービング機構35は、第一実施形態と同様、TIG溶接ヘッド11の溶接方向前側に設けられ、他方のウィービング機構35aは、TIG溶接ヘッド11の溶接方向後側に設けられている。各ウィービング機構35,35aのウィービングアーム37,37の先端部には、レーザヘッド支持具33,33が、TIG溶接ヘッド11内のタングステン電極13に対して平行な軸回りに回転可能に取り付けられている。各ウィービング機構35,35aは、ウィービング駆動回路39からの駆動電力により駆動する。
【0057】
本実施形態において、二つのレーザヘッド41,41aのうち、一方のレーザヘッド41は、TIG溶接ヘッド11の溶接方向前側に設けられているレーザヘッド支持具33により保持され、他方のレーザヘッド41aは、TIG溶接ヘッド11の溶接方向後側に設けられているレーザヘッド支持具33aにより保持される。各レーザヘッド41,41aには、レーザ発振器43から分配器45を介して、レーザ光Lcが送られる。なお、ここでは、一つのレーザ発振器43からのレーザ光Lcを分配器45で分配して、各レーザヘッド41,41aに送っているが、各レーザヘッド41,41a毎にレーザ発振器を設けてもよい。
【0058】
本実施形態でも、第一実施形態と同様、溶接に先立ち、各レーザヘッド支持具33,33aで、各レーザヘッド41,41aを保持する。次に、二つのレーザヘッド41のうち前側のレーザヘッド41からのレーザ光Lcが、TIG溶接ヘッド11からのアークAwによって形成される溶融プールPと固相部との境界であって、溶融プールPの溶接方向前側に照射されるよう、前側のレーザヘッド41を保持しているレーザヘッド支持具33の向きを調節する。さらに、後側のレーザヘッド41aからのレーザ光Lcが、TIG溶接ヘッド11からのアークAwによって形成される溶融プールPと固相部との境界であって、溶融プールPの溶接方向後側に照射されるよう、後側のレーザヘッド41aを保持しているレーザヘッド支持具33aの向きを調節する。そして、各レーザヘッド41,41aの集光光学系を調整して、母材表面上のレーザ光Lcの照射径の大きさを目的の大きさにする。
【0059】
以上の調整作業が終了すると、第一実施形態と同様に、溶接システムを動作させて、溶接及びクリーニング処理を並行実施する。
【0060】
本実施形態では、TIG溶接ヘッド11の前側と後側とにレーザヘッド41,41aを設け、それぞれをウィービング機構35,35aによりウィービングさせているので、図6に示すように、第一実施形態と同様に、前側除去領域Ffがクリーニング処理されると共に、溶融プールPに対して溶接方向後側で、溶融プールPと固相部との境界を含む後側除去領域Fb1もクリーング処理される。この後側除去領域Fb1は、溶接方向に対して垂直な方向の幅Wが、前側除去領域Ffと同様、溶融プールPの幅Wpに対して数十パーセントほど広い。
【0061】
溶融プールPに対して溶接方向後側で、溶融プールPと固相部との境界は、約500℃以上の領域内であるため、酸化皮膜が発生し始める箇所である。仮に、この境界で酸化皮膜が形成されると、溶接ビードB内にこの酸化皮膜が巻き込まれる恐れがある。そこで、本実施形態では、後側除去領域Fb1においてもクリーニング処理を実行し、溶融プールPに対して溶接方向後側で、溶融プールPと固相部との境界に、仮に酸化皮膜が発生したとしても、これを除去することで、溶接ビードB内への酸化皮膜の巻き込みを防ぎ、溶接信頼性を高めている。
【0062】
「第三実施形態」
次に、本発明に係る溶接方法、及びこの方法を実行する溶接システムの第三実施形態について、図7及び図8を用いて説明する。
【0063】
本実施形態の溶接システムも、図7に示すように、第一及び第二実施形態と同様、TIG溶接装置10と、クリーニング装置40bと、クリーニング装置40bのレーザヘッド41,41a,41bを保持するレーザヘッド支持具33,33a,33bと、レーザヘッド41,41a,41bを揺動させるウィービング機構35,35a,35bと、このウィービング機構35,35a,35を駆動するウィービング駆動回路39と、TIG溶接装置10やクリーニング装置40b等を制御する制御装置50と、を備えている。但し、本実施形態では、クリーニング装置40bがレーザヘッド41,41a,41bを三つ有し、この関係で、レーザヘッド支持具33,33a,33b及びウィービング機構35,35a,35bも三つ備えている。
【0064】
本実施形態において、三つのウィービング機構35,35a,35bのうち、第一のウィービング機構35は、第一実施形態と同様、TIG溶接ヘッド11の溶接方向前側に設けられ、第二及び第三のウィービング機構35a,35bは、TIG溶接ヘッド11の溶接方向後側に設けられている。各ウィービング機構35,35a,35bのウィービングアーム37,37,37の先端部には、レーザヘッド支持具33,33a,33bが、TIG溶接ヘッド11内のタングステン電極13に対して平行な軸回りに回転可能に取り付けられている。第三のウィービング機構35bのウィービングアーム37は、第二のウィービング機構35bのウィービングアーム37より長い。このため、第三のウィービング機構35bのウィービングアーム37の先端部に取り付けられているレーザヘッド支持具33bは、第二のウィービング機構35bのウィービングアーム37の先端部に取り付けられているレーザヘッド支持具33aよりも後方に位置している。各ウィービング機構35,35a,35bは、ウィービング駆動回路39からの駆動電力により駆動する。
【0065】
本実施形態において、三つのレーザヘッド41,41a,41bのうち、第一のレーザヘッド41は、TIG溶接ヘッド11の溶接方向前側に設けられているレーザヘッド支持具33により保持され、第二及び第三のレーザヘッド41a,41bは、TIG溶接ヘッド11の溶接方向後側に設けられているレーザヘッド支持具33a,33bにより保持される。各レーザヘッド41,41a,41bには、レーザ発振器43から分配器45を介して、レーザ光Lcが送られる。なお、ここでは、一つのレーザ発振器43からのレーザ光Lcを分配器45で分配して、各レーザヘッド41に送っているが、各レーザヘッド41,41a,41b毎にレーザ発振器を設けてもよい。
【0066】
本実施形態でも、第一及び第二実施形態と同様、溶接に先立ち、各レーザヘッド支持具33,33a,33bで、各レーザヘッド41,41a,41bを保持する。次に、第一のレーザヘッド41からのレーザ光Lcが、TIG溶接ヘッド11からのアークAwによって形成される溶融プールPと固相部との境界であって、溶融プールPの溶接方向前側に照射されるよう、前側のレーザヘッド41を保持しているレーザヘッド支持具33の向きを調節する。また、第二のレーザヘッド41aからのレーザ光Lcが、溶融プールPと固相部との境界であって、溶融プールPの溶接方向後側に照射されるよう、第二のレーザヘッド41aを保持しているレーザヘッド支持具33aの向きを調節する。さらに、最も後方の第三のレーザヘッド41bからのレーザ光Lcが、溶融プールPに対して溶接方向後側の溶接ビードB中、酸化皮膜が発生する温度(約500℃)未満の領域に照射されるよう、第三のレーザヘッド41bを保持しているレーザヘッド支持具33bの向きを調節する。そして、各レーザヘッド41,41a,41bの集光光学系を調整して、母材表面上のレーザ光Lcの照射径の大きさを目的の大きさにする。
【0067】
以上の調整作業が終了すると、第一及び第二実施形態と同様に、溶接システムを動作させて、溶接及びクリーニング処理を並行実施する。
【0068】
本実施形態では、TIG溶接ヘッド11の前側に第一のレーザヘッド41を設け、TIG溶接ヘッド11の後側に第二のレーザヘッド41aを設け、さらにそれよりも後側に第三のレーザヘッド41bを設け、それぞれをウィービング機構35,35a,35bによりウィービングさせているので、図8に示すように、第二実施形態と同様、前側除去領域Ff及び第一後側除去領域Fb1がクリーニング処理されると共に、溶融プールPに対して溶接方向後側の溶接ビードB中で、酸化皮膜が発生する温度(約500℃)未満の領域を含む第二後除去領域Fb2もクリーング処理される。この第二後側除去領域Fb2は、溶接方向に対して垂直な方向の幅Wが、前側除去領域Ff及び第一後側除去領域Fb1と同様、溶融プールPの幅Wpに対して数十パーセントほど広い。
【0069】
溶融プールPに対して溶接方向後側で、溶融プールPと固相部との境界を含む第一後除去領域Fb1は、500℃以上の領域内を横断しており、この第一後除去領域Fb1よりも後側には、酸化皮膜が発生する温度(約500℃)以上の領域が存在するため、この領域に酸化皮膜が発生する。
【0070】
溶接予定位置を1パスで溶接する場合、溶接ビードB上に酸化皮膜が形成されても、その後の加工処理等があり、この加工処理等で酸化皮膜が不都合なものでない限り、基本的に何ら問題はない。しかし、溶接予定位置を複数パスで溶接する場合、第一回パスの溶接で形成された溶接ビードB上に酸化皮膜が形成されると、第二回パスの溶接における溶接信頼性が低下する。本実施形態の場合、第一回パスの溶接で形成された溶接ビードB上に酸化皮膜が形成されても、第二後側除去領域Fb2にクリーニング処理を施しているので、第二回パスの溶接の前に、この溶接ビードB上の酸化皮膜を除去することができる。しかも、本実施形態の場合、第二回パスの溶接時にも、前側除去領域Ffにクリーニング処理を施すので、第二回パスの溶接では、酸化皮膜が確実に除去されている部分を溶接することができる。
【0071】
よって、本実施形態では、溶接予定位置を多数パスで溶接する場合の溶接信頼性をより高めることができる。また、溶接予定位置を1パスで溶接し、その溶接後に、この溶接で形成された溶接ビードBを含む領域に何らかの加工処理を施す場合に、溶接ビードB上に酸化皮膜が形成されていないことで、この加工処理での効果を確実に得ることができる。
【0072】
「第四実施形態」
次に、本発明に係る溶接方法、及びこの方法を実行する溶接システムの第三実施形態について、図9〜図11を用いて説明する。
【0073】
本実施形態の溶接システムは、以上の各実施形態と異なり、レーザ光Lwにより溶接を行い、TIGアークAcによりクリーニング処理を行うものである。このため、本実施形態の溶接システムは、図9に示すように、レーザ光Lwを出射するレーザ溶接ヘッド61を有するレーザ溶接装置60と、TIGアークを発生するTIGクリーニングヘッド71を有するクリーニング装置70と、TIGクリーニングヘッド71を保持するTIGヘッド支持具83と、レーザ溶接ヘッド61の移動に伴ってTIGクリーニングヘッド71を移動させるためにTIGヘッド支持具83とレーザ溶接ヘッド61とを連結するヘッド連結具(連動手段)85と、レーザ溶接装置60やクリーニング装置70等を制御する制御装置90と、を備えている。
【0074】
レーザ溶接装置60は、例えば、YAGレーザ光Lcを発振するレーザ発振器63と、レーザ発振器63からのレーザ光Lwを集光する集光光学系を有するレーザ溶接ヘッド61と、レーザ溶接ヘッド61を母材Mに対して相対移動させるヘッド移動機構69と、を有している。すなわち、このレーザ溶接装置60は、ヘッド移動機構69を除き、第一実施形態のクリーニング装置40と基本的に同じ構成を成している。但し、このレーザ溶接装置60は、母材Mを溶接するものであるから、母材表面の酸化皮膜等を除去するための第一実施形態のクリーニング装置70よりも、高出力のレーザ光Lwを出射する。さらに、このレーザ溶接装置60は、YAGレーザ光Lc内に溶加材29を供給する溶加材供給装置25を有している。
【0075】
ヘッド移動機構69は、レーザ溶接ヘッド61のベース65を把持し、制御装置90からの支持に応じて、レーザ溶接ヘッド61を三次元空間内で移動させるロボットである。
【0076】
クリーニング装置70は、前述のTIGクリーニングヘッド71と、このTIGクリーニングヘッド71にイナートガスとしてのArガスを供給するArガス発生装置76と、TIGクリーニングヘッド71にクリーニング用の電力を供給するクリーニング電源78と、を有している。TIGクリーニングヘッド71は、Arガス発生装置76からのArガスを噴射するガスノズル72と、ガスノズル72内に配置されたタングステン電極73と、ガスノズル72内に配置され、タングステン電極73を保持するコンタクトノズル74と、を有している。すなわち、このクリーニング装置70は、第一実施形態のTIG溶接装置10と基本的に同じ構成である。但し、本実施形態のクリーニング装置70は、あくまでもクリーニング処理を実行する装置であるため、第一実施形態のTIG溶接装置10のように、溶加材29を供給する溶加材供給装置25を有していない。さらに、このクリーニング装置70のクリーニング電源78は、第一実施形態における溶接装置の溶接電源23とは異なり、後述するように、逆極性の電流をタングステン電極73に供給する。
【0077】
TIGヘッド支持具83は、一方の端部がレーザ溶接ヘッド61に固定されているヘッド連結具85の先端部に回転可能に取り付けられている。
【0078】
次に、以上で説明した溶接システムの動作について説明する。
【0079】
ヘッド移動機構69は、制御装置90からの指示を受けて、レーザ溶接ヘッド61を母材Mの溶接予定位置中の溶接開始位置に対向させると共に、レーザ溶接ヘッド61の向きを調整して、レーザ溶接ヘッド61に対してTIGヘッド支持具83を予定する溶接方向前側に位置させる。そして、ヘッド移動機構69は、溶接予定位置に沿って、溶接開始位置から溶接終了位置に向けて、つまり溶接方向にレーザ溶接ヘッド61を移動させる。
【0080】
レーザ発振器63は、レーザ溶接ヘッド61の溶接予定位置に沿った移動に同調して、制御装置90からの指示を受けて、レーザ光Lwを発振する。このレーザ光Lwは光ファイバ62を介してレーザ溶接ヘッド61に送られ、レーザ溶接ヘッド61で集光され、母材Mに照射される。レーザ光Lwが照射され、溶接エネルギーが加えられた母材Mは、溶融して溶接される。
【0081】
本実施形態においても、以上の実施形態と同様、溶接に先立ち、まず、ヘッド連結具85に回転可能に取り付けられているTIGヘッド支持具83で、TIGクリーニングヘッド71を保持する。次に、レーザ溶接ヘッド61からのレーザ光Lwによって形成される溶融プールPと固相部との境界であって、溶融プールPの溶接方向前側に、このTIGクリーニングヘッド71との間でTIGアークAcが発生するよう、TIGクリーニングヘッド71を保持しているTIGヘッド支持具83の向きを調節する。
【0082】
Arガス発生装置76は、レーザ溶接装置60が溶接を開始する直前に、制御装置90から指示を受けて、TIGクリーニングヘッド71にArガスを供給する。このArガスは、TIGクリーニングヘッド71のガスノズル12から母材Mへ向けて噴射される。また、クリーニング電源78も、Arガス発生装置76と同様、レーザ溶接装置60が溶接を開始する直前に、制御装置90から指示を受ける。このクリーニング電源78は、逆極性(+)の電流をTIGクリーニングヘッド71のタングステン電極73に供給して、このタングステン電極73を正極にし、このタングステン電極73からアークAcを発生させる。タングステン電極13が正極になると、Arガスがイオン化し、Ar+になる。
【0083】
図10(a)に示すように、母材M表面に酸化皮膜1が形成されている場合、同図(b)に示すように、タングステン電極73を正極にして、Arガスをイオン化させると、Ar+が酸化皮膜1を形成している粒子2に衝突して、この粒子2を飛散させる。この結果、同図(c)に示すように、母材M表面の酸化皮膜1は除去される。また、母材M表面上に油分や錆等がある場合でも、同様の原理で、油分や錆等は除去される。
【0084】
ここで、本実施形態において、タングステン電極73に供給される電流値の波形は、図11に示すように、正のピーク電流値と、正のベース電流値とを交互に繰り返すパルス状の波形である。この際の供給電流条件は、例えば、以下の通りである。
ピーク電流値:5〜30A
ベース電流値:1〜5A
周波数:100〜500Hz
Duty比(=τ/T×100):25〜75%
【0085】
本実施形態では、前述したように、溶融プールPと固相部との境界であって、溶融プールPの溶接方向前側に、このTIGクリーニングヘッド71との間でTIGアークAcが発生するよう、TIGクリーニングヘッド71の向きを調節した上で、このTIG溶接ヘッド11によりアークAcを発生させているので、図12に示すように、溶接中、この溶接で形成される溶融プールPに隣接し、この溶融プールPに対して溶接方向前側の領域を含む前側除去領域Ffaに対してクリーニング処理を行うことができる。なお、TIGクリーニングヘッド71により形成されるアークAcの母材表面上の径は、レーザ溶接ヘッド61からのレーザ光Lwにより形成される溶融プールPの幅より大きいため、本実施形態では、クリーニングヘッド71を以上の実施形態のようにウィービングする必要がなく、その結果、前側除去領域Ffaは、母材M表面上でアークAcが形成されているほぼ円形の領域となる。
【0086】
以上、本実施形態でも、以上の各実施形態と同様、前側除去領域Ffaは、TIGアークAcによるクリーニングエネルギーを受けてクリーニング処理されるので、溶接信頼性を高めることができる。
「変形例」
第四実施形態では、前述したように、TIGクリーニングヘッド71により形成されるアークAcの母材表面上の径は、レーザ溶接ヘッド61からのレーザ光Lcにより形成される溶融プールPの幅より明らかに大きいため、一つのTIGクリーニングヘッド71で、これをウィービングさせずに、クリーニング処理している。
【0087】
しかしながら、TIGクリーニングヘッド71により形成されるアークAcの母材表面上の径が、仮に、レーザ溶接ヘッド61からのレーザ光Lwにより形成される溶融プールPの幅より僅かに大きいか、逆に小さい場合には、溶融プールPに隣接し、この溶融プールPに対して溶接方向前側の領域全体に対してクリーニング処理を行うことができない。
【0088】
そこで、このような場合には、レーザ溶接ヘッド61の前側に、溶接方向に垂直な方向に並んだ複数のTIGクリーニングヘッド71を設け、図13に示すように、複数のTIGクリーニングヘッド71により形成されるアークAcによりクリーニング処理される領域を前側除去領域Ffbにすることで、溶融プールPに隣接し、この溶融プールPに対して溶接方向前側の領域全体に対してクリーニング処理できるようにする。この際、隣り合うTIGクリーニングヘッド71により形成される各アークAc中のアルゴンイオン(Ar+)は、いずれも、ほぼ同じ向きに移動する関係で、各アークAcには引力が作用する。すなわち、複数のTIGクリーニングヘッド71により形成されるアークAcは、互いに引き合う。このため、複数のTIGクリーニングヘッド71の向き及び相互間距離は、この引力を考慮して定めることが好ましい。
【0089】
なお、第一〜第三実施形態においても、以上と同様、溶接方向に垂直な方向に並んだ複数のレーザクリーニングヘッド41を設けて、レーザクリーニングヘッド41をウィービングさせずに、溶融プールPに隣接し、この溶融プールPに対して溶接方向前側の領域全体に対してクリーニング処理を行うようにしてもよい。
【0090】
このように、複数のクリーニングヘッドを設ける場合、ヘッド支持具に複数のヘッド支持部を設けることになる。複数のヘッド支持部を設けると、複数の支持部のうちでクリーニングヘッドを実際に支持する支持部の数を選択することで、クリーニングエネルギーを加える領域の幅(溶接方向に対して垂直な方向の幅)を適宜変更することができる。
【0091】
さらに、前述の場合、図14に示すように、TIGクリーニングヘッド71をウィービングさせることで、溶融プールPに隣接し、この溶融プールPに対して溶接方向前側の領域全体を含む前側除去領域Ffcとし、この前側除去領域Ffcに対してクリーニング処理できるようにしてもよい。
【0092】
また、第二及び第三実施形態は、いずれも、TIGアークAwにより溶接を行い、レーザ光Lcでクリーニング処理を行っているが、これらの実施形態においても、第四実施形態と同様、レーザ光Lwで溶接を行い、TIGアークAcでクリーニング処理を行うようにしてもよい。すなわち、第四実施形態での前側除去領域Ffのみならず、第一後側除去領域や第二後側除去領域も、TIGアークAcでクリーニング処理を行うようにしてもよい。
【0093】
また、以上の実施形態は、いずれも、溶接とクリーニング処理とのうち、一方をTIGアークにより行い、他方をレーザ光で行っているが、両方ともレーザ光Lcで行うようにしてもよい。また、母材Mの溶接は、TIG溶接やレーザ溶接なくても、例えば、MIG(Metal inert gas)溶接やMAG(Metal Active Gas)溶接であってもよい。すなわち、本発明では、溶接予定位置に溶接エネルギーを与えて、母材M上に溶融プールPを形成するものであれば、如何なる溶接方法を採用してもよい。
【符号の説明】
【0094】
1:酸化皮膜)、10:TIG溶接装置、11:TIG溶接ヘッド、13,73:タングステン電極、21,76:Arガス発生装置、23:溶接電源、25:溶加材供給装置、29:溶加材、31,69:ヘッド移動機構、33,33a,33b:レーザヘッド支持具(支持手段)、35,35a,35b:ウィービング機構(連動手段)、40,40a,40b,70:クリーニング装置、41:レーザクリーニングヘッド、43,63:レーザ発振器、50,90:制御装置、61:レーザ溶接ヘッド、71:TIGクリーニングヘッド、78:クリーニング電源、83:TIGヘッド支持具(支持手段)、85:ヘッド連結具(連動手段)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材の溶接予定位置に、該母材を溶融する溶接エネルギーを加えて、該母材を溶接する溶接方法において、
前記母材を溶接しつつ、前記溶接エネルギーを受けて溶融している溶融プールに隣接し且つ該溶融プールに対して溶接方向前側の領域を含む前側除去領域に、該母材の表面粒子を飛散させることができるクリーニングエネルギーを加える、
ことを特徴とする溶接方法。
【請求項2】
請求項1に記載の溶接方法において、
前記前側除去領域は、前記溶融プールに隣接し且つ該溶融プールに対して溶接方向前側の前記領域と、該溶融プール中の溶接方向前側の領域とを含む、
ことを特徴とする溶接方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の溶接方法において、
前記溶融プールに対して溶接方向後側で、前記溶融プールと固相部との境界を含む第一後側除去領域と、該溶融プールに対して溶接方向後側の溶接ビード中、前記母材で規定される酸化物発生温度未満の第二後側除去領域とのうち、少なくとも該第一後側領域に、前記クリーニングエネルギーを加える、
ことを特徴とする溶接方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の溶接方法において、
前記母材に対して荷電粒子又はレーザ光を照射することで、該母材に前記クリーニングエネルギーを加える、
ことを特徴とする溶接方法。
【請求項5】
母材の溶接予定位置に、該母材を溶融する溶接エネルギーを加える溶接ヘッドを有する溶接装置と、
前記母材に、該母材の表面粒子を飛散させることができるクリーニングエネルギーを加えるクリーニングヘッドを有するクリーング装置と、
前記クリーニングヘッドを支持する支持手段と、
前記溶接ヘッドが溶接方向に移動しつつ、前記母材の溶接予定位置に前記溶接エネルギーを加えている際に、該溶接エネルギーを受けて溶融している溶融プールに隣接し、且つ該溶融プールに対して溶接方向前側の領域を含む前側除去領域に、前記クリーニングエネルギーが加わるよう、該溶接ヘッドの溶接方向への移動に伴って、前記クリーニングヘッドを支持している前記支持手段を該溶接方向に移動させるヘッド連動手段と、
を備えていることを特徴とする溶接システム。
【請求項6】
請求項5に記載の溶接システムにおいて、
複数の前記クリーニングヘッドと、複数の前記支持手段とを備え、
複数の前記支持手段のうちの第一支持手段は、複数の前記クリーニングヘッドのうちの第一クリーニングヘッドを支持し、複数の前記支持手段のうちの第二支持手段は、複数の前記クリーニングヘッドのうちの第二クリーニングヘッドを支持し、
前記ヘッド連動手段は、
前記前側除去領域に前記クリーニングエネルギーが加わるよう、前記溶接ヘッドの溶接方向の移動に伴って、前記第一クリーニングヘッドを支持する前記第一支持手段を該溶接方向へ移動させる第一連動手段と、
前記溶融プールに対して溶接方向後側で、該溶融プールと固相部との境界を含む後側除去領域に、前記クリーニングエネルギーが加わるよう、前記溶接ヘッドの溶接方向の移動に伴って、前記第二クリーニングヘッドを支持する前記第二支持手段を該溶接方向へ移動させる第二連動手段と、
を有する、
ことを特徴とする溶接システム。
【請求項7】
請求項6に記載の溶接システムにおいて、
第三クリーングヘッドと、該第三クリーニングヘッドを支持する第三支持手段とを備え、
前記ヘッド連動手段は、前記溶融プールに対して溶接方向後側の溶接ビード中、前記母材で規定される酸化物発生温度未満の領域に、前記クリーニングエネルギーが加わるよう、前記溶接ヘッドの溶接方向の移動に伴って、前記第三クリーニングヘッドを支持する前記第三支持手段を移動させる第三連動手段を有する、
ことを特徴とする溶接システム。
【請求項8】
請求項5から7のいずれか一項に記載の溶接システムにおいて、
前記支持手段は、該支持手段が支持している前記クリーニングヘッドの向きを変更可能に、前記ヘッド連動手段に取り付けられている、
ことを特徴とする溶接システム。
【請求項9】
請求項5から8のいずれか一項に記載の溶接システムにおいて、
前記支持手段は、前記母材に対向する仮想面内で前記溶接方向に対して垂直な方向の複数個所で、前記クリーニングヘッドを支持する複数の支持部を有する、
ことを特徴とする溶接システム。
【請求項10】
請求項5から9のいずれか一項に記載の溶接システムにおいて、
前記ヘッド連動手段は、前記母材に対向する仮想面内で前記溶接方向に対して垂直な方向に、前記クリーニングヘッドを往復移動させるウィービング手段を有している、
ことを特徴とする溶接システム。
【請求項11】
請求項5から10のいずれか一項に記載の溶接システムにおいて、
前記溶接ヘッドは、前記母材に対して電子を照射することで、該母材に溶接エネルギーを加え、
前記クリーニングヘッドは、前記母材に対してレーザ光を照射することで、該母材に前記クリーニングエネルギーを加える、
ことを特徴とする溶接システム。
【請求項12】
請求項5から10のいずれか一項に記載の溶接システムにおいて、
前記溶接ヘッドは、前記母材に対してレーザ光を照射することで、該母材に溶接エネルギーを加え、
前記クリーニングヘッドは、前記母材に対して荷電粒子又はレーザ光を照射することで、該母材に前記クリーニングエネルギーを加える、
ことを特徴とする溶接システム。
【請求項1】
母材の溶接予定位置に、該母材を溶融する溶接エネルギーを加えて、該母材を溶接する溶接方法において、
前記母材を溶接しつつ、前記溶接エネルギーを受けて溶融している溶融プールに隣接し且つ該溶融プールに対して溶接方向前側の領域を含む前側除去領域に、該母材の表面粒子を飛散させることができるクリーニングエネルギーを加える、
ことを特徴とする溶接方法。
【請求項2】
請求項1に記載の溶接方法において、
前記前側除去領域は、前記溶融プールに隣接し且つ該溶融プールに対して溶接方向前側の前記領域と、該溶融プール中の溶接方向前側の領域とを含む、
ことを特徴とする溶接方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の溶接方法において、
前記溶融プールに対して溶接方向後側で、前記溶融プールと固相部との境界を含む第一後側除去領域と、該溶融プールに対して溶接方向後側の溶接ビード中、前記母材で規定される酸化物発生温度未満の第二後側除去領域とのうち、少なくとも該第一後側領域に、前記クリーニングエネルギーを加える、
ことを特徴とする溶接方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の溶接方法において、
前記母材に対して荷電粒子又はレーザ光を照射することで、該母材に前記クリーニングエネルギーを加える、
ことを特徴とする溶接方法。
【請求項5】
母材の溶接予定位置に、該母材を溶融する溶接エネルギーを加える溶接ヘッドを有する溶接装置と、
前記母材に、該母材の表面粒子を飛散させることができるクリーニングエネルギーを加えるクリーニングヘッドを有するクリーング装置と、
前記クリーニングヘッドを支持する支持手段と、
前記溶接ヘッドが溶接方向に移動しつつ、前記母材の溶接予定位置に前記溶接エネルギーを加えている際に、該溶接エネルギーを受けて溶融している溶融プールに隣接し、且つ該溶融プールに対して溶接方向前側の領域を含む前側除去領域に、前記クリーニングエネルギーが加わるよう、該溶接ヘッドの溶接方向への移動に伴って、前記クリーニングヘッドを支持している前記支持手段を該溶接方向に移動させるヘッド連動手段と、
を備えていることを特徴とする溶接システム。
【請求項6】
請求項5に記載の溶接システムにおいて、
複数の前記クリーニングヘッドと、複数の前記支持手段とを備え、
複数の前記支持手段のうちの第一支持手段は、複数の前記クリーニングヘッドのうちの第一クリーニングヘッドを支持し、複数の前記支持手段のうちの第二支持手段は、複数の前記クリーニングヘッドのうちの第二クリーニングヘッドを支持し、
前記ヘッド連動手段は、
前記前側除去領域に前記クリーニングエネルギーが加わるよう、前記溶接ヘッドの溶接方向の移動に伴って、前記第一クリーニングヘッドを支持する前記第一支持手段を該溶接方向へ移動させる第一連動手段と、
前記溶融プールに対して溶接方向後側で、該溶融プールと固相部との境界を含む後側除去領域に、前記クリーニングエネルギーが加わるよう、前記溶接ヘッドの溶接方向の移動に伴って、前記第二クリーニングヘッドを支持する前記第二支持手段を該溶接方向へ移動させる第二連動手段と、
を有する、
ことを特徴とする溶接システム。
【請求項7】
請求項6に記載の溶接システムにおいて、
第三クリーングヘッドと、該第三クリーニングヘッドを支持する第三支持手段とを備え、
前記ヘッド連動手段は、前記溶融プールに対して溶接方向後側の溶接ビード中、前記母材で規定される酸化物発生温度未満の領域に、前記クリーニングエネルギーが加わるよう、前記溶接ヘッドの溶接方向の移動に伴って、前記第三クリーニングヘッドを支持する前記第三支持手段を移動させる第三連動手段を有する、
ことを特徴とする溶接システム。
【請求項8】
請求項5から7のいずれか一項に記載の溶接システムにおいて、
前記支持手段は、該支持手段が支持している前記クリーニングヘッドの向きを変更可能に、前記ヘッド連動手段に取り付けられている、
ことを特徴とする溶接システム。
【請求項9】
請求項5から8のいずれか一項に記載の溶接システムにおいて、
前記支持手段は、前記母材に対向する仮想面内で前記溶接方向に対して垂直な方向の複数個所で、前記クリーニングヘッドを支持する複数の支持部を有する、
ことを特徴とする溶接システム。
【請求項10】
請求項5から9のいずれか一項に記載の溶接システムにおいて、
前記ヘッド連動手段は、前記母材に対向する仮想面内で前記溶接方向に対して垂直な方向に、前記クリーニングヘッドを往復移動させるウィービング手段を有している、
ことを特徴とする溶接システム。
【請求項11】
請求項5から10のいずれか一項に記載の溶接システムにおいて、
前記溶接ヘッドは、前記母材に対して電子を照射することで、該母材に溶接エネルギーを加え、
前記クリーニングヘッドは、前記母材に対してレーザ光を照射することで、該母材に前記クリーニングエネルギーを加える、
ことを特徴とする溶接システム。
【請求項12】
請求項5から10のいずれか一項に記載の溶接システムにおいて、
前記溶接ヘッドは、前記母材に対してレーザ光を照射することで、該母材に溶接エネルギーを加え、
前記クリーニングヘッドは、前記母材に対して荷電粒子又はレーザ光を照射することで、該母材に前記クリーニングエネルギーを加える、
ことを特徴とする溶接システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−6028(P2012−6028A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−142627(P2010−142627)
【出願日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】
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