説明

溶接用ワイヤ

本発明は、保護ガスを使用するガスメタルアーク溶接、フラックスコアードアーク溶接、及びフラックスを使用するサブマージドアーク溶接など、アーク溶接に使用する溶接用ワイヤに関するものであって、溶接時、アーク熱により溶けて溶滴になるコア層と、上記コア層の表面に形成され、低いイオン化エネルギーを有する元素からなるイオン化電位層とを含むことを特徴にして、安定したアークと金属移行モードが表れるようにして、短絡及びスパッタの発生を減少させることによって、溶接の品質を向上させることができる溶接用ワイヤを提供する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔技術分野〕
本発明は溶接用ワイヤに関し、より詳しくは、保護ガスを使用するガスメタルアーク溶接、フラックスコアードアーク溶接、及びフラックスを使用するサブマージドアーク溶接への使用時、ワイヤの表面の低いイオン化エネルギー元素によって既存より低い電流領域でも安定したアークと金属移行モードを有することができ、高い電流では既存よりアーク効率の良い溶接用ワイヤに関する。
【0002】
〔背景技術〕
溶接は、接合しようとする2つ以上の物質の接合部分を熱により溶融させて互いに異なる2物質の原子結合を再配列して結合させる方法であって、アーク溶接、ガス溶接など、多様な溶接方法が存在する。
【0003】
このような溶接方法のうち、アーク溶接は電極と母材の表面との間に発生する電気的アーク熱により2つの金属を接合させるものであって、通常、保護ガスとフラックスを用いて大気のO、N等から溶接部を保護し、ワイヤを溶加材にして溶接される。この際、上記のようなアーク溶接に使われるワイヤは、大部分、表面に化学反応または電解反応により銅がめっきされたワイヤやめっきされていない無めっきワイヤが国内外で主に使われている。
【0004】
また、一般的に製造業に使用しているアーク溶接には、ガスメタルアーク溶接(Gas Metal Arc Welding)、フラックスコアードアーク溶接(Flux Cored Arc welding)、またはサブマージドアーク溶接(Submerged Arc Welding)などが挙げられるが、そのうち、ガスメタルアーク溶接とフラックスコアードアーク溶接などのアーク溶接は、二酸化炭素(CO)、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)等、1種以上のガスを保護ガスとして使用して連続して送給可能なソリッドワイヤやフラックスコアードワイヤを供給し、ワイヤの先端でアークが発生するようにしてワイヤが溶けて接合される溶接法である。
【0005】
上記サブマージドアーク溶接は、溶融型フラックス、焼結型フラックスを使用して、連続して送給可能なソリッドワイヤを供給し、溶接時、フラックスにより作られるスラグが形成されて、その先端でアークが発生するようにすることで、ワイヤが溶けて接合される溶接法である。
【0006】
この際、ガスメタルアーク溶接とフラックスコアードアーク溶接の遷移電流領域以上(250A)で保護ガスとしてアルゴン(Ar)ガスを使用すれば、アルゴンガスを保護ガスとして使用するアーク溶接時、溶滴の金属移行モードを説明する概念図である図1に示すように、溶滴aの上部でアークbが発生し、溶滴aがワイヤcの直径よりも小さい微細な噴霧型溶滴移行(spray transfer)を行う。このような噴霧型溶滴移行は、溶滴aの移行形態のうちの最も優れる移行形態であって、スパッタの発生が少ない、溶接ビード形状に優れ、かつ高速溶接にも適したものと知られた溶滴移行であって、高品質の溶接を必要とする分野で用いられる。
【0007】
しかしながら、アルゴンガスはその費用が二酸化炭素ガスの約5倍で、非常に高価であるので、実際の現場での溶接施工においてはアルゴンガスより二酸化炭素ガスを保護ガスとして利用する場合がより多い。
【0008】
このような二酸化炭素ガスは低価格で、かつ能率の高い溶接方法であるので、鉄鋼材料の溶接などのガスメタルアーク溶接やフラックスコアードアーク溶接時、保護ガスとして幅広く用いられている。特に、自動溶接の急速な普及により、造船、建築、橋梁、自動車、建設機械などの各種分野に使われており、その中でも、造船、建築、橋梁の分野では、厚板の高電流多層溶接に使われ、自動車、建設機械の分野では薄板のフィレット溶接に使われる場合が多い。
【0009】
しかしながら、上記のように、二酸化炭素ガスを保護ガスとして使用する場合には、遷移電流領域以上のアルゴンガス溶接や、Ar−CO混合ガスを保護ガスとして使用する溶接時と比較して2〜4倍の大きい溶滴が溶接ワイヤの先端に垂れ下がり、二酸化炭素ガスを保護ガスとして使用するアーク溶接時、溶滴の金属移行モードを説明する概念図である図2に示すように、溶滴aの下にアークbが発生する粒状溶滴移行(globular transfer)を行うので、母材(即ち、鋼板)との短絡や再アークbの時、スパッタが多量発生するようになり、アークbが安定化されなくて、ビード形状が安定しない問題点があり、特に高速溶接において、ビード形状が凹凸(いわゆる、ハムピングビード(humping bead))になりやすいという問題があった。
【0010】
また、遷移電流領域以下での溶接時、アルゴンガスを保護ガスとして使用したり、Ar−CO混合ガスを保護ガスとして使用する場合にも、上記二酸化炭素ガスを保護ガスとして使用する時と同様に、遷移電流領域以上のアルゴンガス溶接やAr−CO混合ガス溶接時と比較して、1〜4倍の大きい溶滴が溶接ワイヤの先端に垂れ下がる等、溶滴の金属移行モードが図2のような粒状溶滴移行により形成されるため、主に薄板溶接に使われており、溶接速度が低く、アーク調節が容易ではないという問題点を有している。
【0011】
ここに、上記のような問題点を解決するために、カリウム(K)の添加によりスパッタ発生量を低減する方法が特開平6−218574号公報に開示されたことがあるが、これは保護ガスとしてCOガスを100%使用する溶接におけるアークの安定化によるスパッタ低減及びビード形状安定化効果が得られなかった。
【0012】
また、US特許10/107,623では、MAG溶接用鋼ワイヤ及びこれを用いたMAG溶接方法を開発しているが、これは溶接部にギャップがある薄鋼板の低電流(25A以下)溶接を対象にしているものであって、保護ガスとしてCOガスを100%使用するガスメタルアーク溶接における遷移電流領域以上での溶接においては充分のアーク安定の効果が得られなかった。
【0013】
また、日本で出願して国内に登録された特許10−0553380には、炭酸ガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤ及びこれを用いた溶接方法を提案しているが、COとArガスの混合ガスを使用して行う溶接方法に制限させたものであり、低価のCOガスを100%使用して溶接する場合に比べて、溶接材料費用の減少に伴う経済的な効果が得られない。
【0014】
併せて、日本で出願して国内に公開された特許10−2008−0006471にはソリッドワイヤを提案しているが、薄板アーク溶接に使われる銅めっきワイヤに対象を限定しているものであって、金属移行モード変化に伴うアーク安全性の向上、スパッタ低減、溶接費用の減少、溶接品質の向上に充分の効果が得られなかった。
【0015】
〔発明の概要〕
〔発明が解決しようとする課題〕
本発明は上記のような問題点を解決するためのものであって、溶接時、全電流領域で二酸化炭素(CO)ガス100%を保護ガスとして使用する場合や、遷移電流領域以下でアルゴン(Ar)やアルゴン−二酸化炭素(Ar−CO)を保護ガスとして使用する場合の全てで安定したアーク及び金属溶滴移行を表すことができる溶接用ワイヤを提供することを目的とする。
【0016】
また、本発明の他の目的は、溶接効率をより上昇させることにある。
【0017】
〔課題を解決するための手段〕
上記のような目的を達成するために本発明は、溶接時、アーク熱により溶けて溶接金属を作るコア層と、上記コア層の表面に形成され、低いイオン化エネルギーを有する元素からなるイオン化電位層とを含むことを特徴とする溶接用ワイヤを提供する。
【0018】
また、上記コア層とイオン化電位層との間、またはイオン化電位層の表面にワイヤに流れる電気をコア層に伝達する伝導層がさらに形成されたことを特徴とする。
【0019】
また、上記イオン化電位層には伝導性を有する金属がさらに含まれたことを特徴とする。
【0020】
また、上記イオン化電位層の元素は、1次イオン化エネルギーが7eV以下のCs、Rb、K、Lu、Na、Ra、Li、Sm、La、Eu、Sr、In、Al、Ga、Tl、Ca、Gd、Yb、S、Y、V、Cr、Nb、Ti、Zr、または1次イオン化エネルギーと2次イオン化エネルギーとの合計が25eV以下のPt、Pd、Sc、Sn、Mg、Mn、Ge、Si、Biのうちから選択される1つ以上の元素からなることを特徴とする。
【0021】
また、上記コア層は、鉄、アルミニウム、銅、ニッケル、チタニウム、マグネシウム、コバルト、一般鋼、高張力鋼、ボロン鋼、ニッケル綱、マグネシウム鋼、チタニウム鋼、コバルト鋼から選択される1つの金属または2つ以上の合金金属からなることを特徴とする。
【0022】
また、上記イオン化電位層は、全体ワイヤ対比重量比が0.01%〜5%であることを特徴とする。
【0023】
〔発明の効果〕
本発明に係る溶接用ワイヤによれば、イオン化電位層が有する低いイオン化エネルギーを通じて安定したアークを発生させることによって、100%二酸化炭素ガスを保護ガスとして使用するアーク溶接の場合、遷移電流領域以上でアルゴンガスを使用して溶接する時のように、安定したアークと金属溶滴移行モードが形成され、値段の安い二酸化炭素の使用が可能であることによって、経済的な溶接を遂行することができ、安定した金属移行モードによって短絡及びスパッタの発生がほとんどない溶接遂行が可能であるので、溶接作業性及び溶接の品質を向上させることができ、アルゴンガスやAr−CO混合ガスを保護ガスとして使用して低電流領域(遷移電流領域以下)で溶接を行う時にも遷移電流領域以上でアルゴンガスを使用して溶接する時のように、安定した金属移行モードがなされて、薄板での作業性と溶接速度を向上させることができ、既存より薄い板材の溶接も可能であり、遷移領域電流以上でアルゴンガスやAr−CO混合ガスを保護ガスとして使用して溶接を遂行する場合、アーク効率の上昇により従来より高い速度を有する高速溶接が可能であるので、生産性の向上に助けになる効果が得られる。
【0024】
また、伝導層が形成されてコア層に電気が容易に伝達できるようになって、溶接がより速くなされることができるので、溶接効率が上昇する効果が得られる。
【0025】
〔図面の簡単な説明〕
<図1>アルゴンガスを保護ガスとして使用するアーク溶接時、溶滴の金属移行モードを説明する概念図である。
【0026】
<図2>二酸化炭素ガスを保護ガスとして使用するアーク溶接時、溶滴の金属移行モードを説明する概念図である。
【0027】
<図3>本発明の第1実施形態に係る溶接用ワイヤを示す斜視図である。
【0028】
<図4>本発明の第2実施形態に係る溶接用ワイヤを示す斜視図である。
【0029】
<図5>本発明の第3実施形態に係る溶接用ワイヤを示す斜視図である。
【0030】
<図6>製造例で製造された製造例1乃至6のワイヤと比較例のワイヤのアーク溶接時、溶滴の平均短絡回数を示すグラフである。
【0031】
<図7>製造例で製造された製造例1乃至6のワイヤと比較例のワイヤのアーク溶接時、溶滴の瞬間短絡回数及び定常短絡回数を示すグラフである。
【0032】
<図8>製造例1乃至6のワイヤ及び比較例のワイヤの溶接時、溶接現象を高速撮影した結果を示す図である。
【0033】
〔発明を実施するための形態〕
以下、本発明に対して添付した図面に図示された実施形態によって具体的に説明するが、本発明が図面に図示された実施形態のみに限定されるものではない。
【0034】
図3は、本発明の第1実施形態に係る溶接用ワイヤを示す斜視図である。
【0035】
ここに、図示されたように、本発明の溶接用ワイヤは、溶接時、アーク熱により溶けて溶滴になるコア層10と、上記コア層10の表面に形成され、低いイオン化エネルギーを有する元素からなるイオン化電位層30とを含む。
【0036】
上記コア層10は、溶接時に受ける強いアーク熱により溶けて金属蒸気または溶滴(droplet)になる部分であって、上記コア層10をなしている物質は接合させようとする母材と同一または類似な金属合金からなって、溶接金属の機械的、化学的、及び物理的な物性を決める。
【0037】
このような上記コア層10は、鉄、アルミニウム、銅、ニッケル、チタニウム、マグネシウム、コバルト、一般鋼、高張力鋼、ボロン鋼、ニッケル綱、マグネシウム鋼、チタニウム鋼、コバルト鋼から選択される1つの金属または2つ以上の合金金属からなることができ、このようなコア層10をなす物質は接合させようとする母材の材質によって選択的に使用することができる。
【0038】
ここで、上記イオン化電位層30は100%二酸化炭素ガスを保護ガスとして使用するアーク溶接や、アルゴンガスまたはアルゴン(Ar)−二酸化炭素(CO)混合ガスを保護ガスとして使用して、低電流領域(遷移電流領域以下)で溶接する場合に、遷移電流領域以上でアルゴンガスを保護ガスとして使用して溶接する時のように、噴霧型溶滴移行モードに近い安定した金属移行モードで表れるようにし、遷移電流領域以上ではアーク効率がより上昇して既存より高い速度で溶接可能にするためのものである。
【0039】
このようなイオン化電位層30は、低いイオン化エネルギーを有する元素をコア層10の表面に付着させることによって、図3に示すように、コア層10の表面にイオン化電位層30が形成できる。この際、上記イオン化電位層30の形成は通常的に使われている電気的、化学的、または物理的なめっきにより上記低いイオン化エネルギーを有する元素を付着させることによって形成できる。併せて、めっきの他にも当該分野で通常的に使われるコーティング方法などのようなワイヤの表面に低イオン化エネルギーを有する元素を付着させる公知の全ての方法が適用可能である。
【0040】
このような上記イオン化電位層30の元素は、1次イオン化エネルギーが7eV以下のCs、Rb、K、Lu、Na、Ra、Li、Sm、La、Eu、Sr、In、Al、Ga、Tl、Ca、Gd、Yb、S、Y、V、Cr、Nb、Ti、Zr、または1次イオン化エネルギーと2次イオン化エネルギーとの合計が25eV以下のPt、Pd、Sc、Sn、Mg、Mn、Ge、Si、Biのうちから選択される1つ以上の元素からなる。
【0041】
このようなイオン化電位層30は、溶接のためにワイヤに電流を加えると、イオン化電位層30の元素が低いイオン化エネルギーを有することによって、イオン化がよくできるので、容易に初期アークを発生させることができ、アークが安定的に形成できるので、全電流領域で100%二酸化炭素ガスを保護ガスとして使用するアーク溶接や、低電流領域(遷移電流領域以下)でアルゴンガスまたはAr−CO混合ガスを保護ガスとして使用するMIG(Metal Inter Gas)、MAG(Metal Active Gas)溶接でも噴霧型溶滴移行モードが表れることができるようにする。
【0042】
また、遷移領域電流以上で溶接を遂行する場合、アーク効率の上昇により既存より高い速度を有する高速溶接が可能であるので、生産性の向上に大いに助けになることができる。
【0043】
この際、上記イオン化電位層30は全体ワイヤ対比重量比が0.01〜5%であることが好ましい。
【0044】
もし、上記イオン化電位層30の重量比が0.01%より少なければ、二酸化炭素を保護ガスとする一般CO溶接の場合、反発移行モードが多く発生してアーク安定化と溶接品質の改善がなされず、アルゴンガスやAr−COガスを使用して低電流領域(遷移電流領域以下)で溶接するMIG、MAG溶接においても短絡がある粒状溶滴移行により溶接が行われるので、溶接速度が低く、アーク調節が容易でなく、かつ遷移電流領域以上の溶接時のアーク効率の向上が得られない。反対に、イオン化電位層30の重量比が5%より高ければ、ワイヤ送給性に大きい問題が生じることがあり、溶接品質の向上無しでめっき時間及びめっきに使われる元素の量のみ増加するようになって、経済的でない。
【0045】
また、上記イオン化電位層30の重量比が全体ワイヤ対比1%〜5%であることがより好ましい。
【0046】
即ち、本発明に係る溶接用ワイヤは、イオン化電位層が有する低いイオン化エネルギーを通じて安定したアークを発生させることによって、100%二酸化炭素ガスを保護ガスとして使用するアーク溶接時、全電流領域で安定したアークと金属溶滴移行モードが形成されることができ、低電流領域(遷移電流領域以下)でアルゴンガスやAr−CO混合ガスを保護ガスとして使用して溶接を行う時にも遷移電流領域以上でArガスを使用して溶接する時のように、安定した金属移行モードを表れることができるようにし、遷移全休領域以上では既存よりアーク効率が上がって高速溶接を可能にして経済的な溶接が遂行されることができ、短絡及びスパッタの発生がほとんどない溶接遂行が可能であるので、溶接作業性及び溶接の品質を向上させることができ、作業環境が改善できる。
【0047】
このような本発明に係る溶接用ワイヤは、ソリッドワイヤを始めとして、一般的に使われる従来の全ての溶接用ワイヤに適用可能であり、フラックスコアードワイヤにもその表面やストリップの内面にイオン化エネルギーの低い元素を付着させてアークモードを変化させることによって、アーク安全性を向上させることができ、これによって、作業性及び溶接品質を向上させることができる。
【0048】
図4は本発明の第2実施形態に係る溶接用ワイヤを示す斜視図であり、図5は本発明の第3実施形態に係る溶接用ワイヤを示す斜視図である。
【0049】
ここに、図示したように、上記コア層10とイオン化電位層30との間、またはイオン化電位層30の表面にはワイヤに流れる電気をコア層10に伝達する伝導層20がさらに形成されたことが好ましい。
【0050】
上記伝導層20はワイヤの表面に流れる電気がコア層10に容易に伝達できるようにする部分であって、上記伝導層20は銅などの電気伝導性に優れる金属をイオン化電位層30を形成する前にコア層10の表面に付着させることによって、図4に示すように、コア層10とイオン化電位層30との間に形成されるようにすることもでき、図5に示すように、イオン化電位層30の表面に電気伝導性に優れる金属を付着させて形成することもできる。
【0051】
このような伝導層20は通常的に使われている電気的、化学的、または物理的なめっき方法により形成されることができ、その他にも通常のコーティング方法などにより形成することもできる。
【0052】
このように伝導層が形成された溶接用ワイヤは、コア層に電気が容易に伝達できるようにすることで、溶接がより速くなされることができるので、溶接効率が上昇することができ、安定したアークが発生することによって、前述した第1実施形態のように、溶接時、全電流領域で二酸化炭素ガス、アルゴンガス、またはアルゴン−二酸化炭素ガスを保護ガスとして使用する時に遷移電流領域以上でArガスを使用して溶接する時のような噴霧型移行モードを表すようになり、これによって、短絡及びスパッタの発生が減少して溶接品質が向上する等の効果が得られる。
【0053】
一方、本発明は第4実施形態であって、前述した第1実施形態のようにコア層10とイオン化電位層30とからなる溶接用ワイヤのイオン化電位層30に伝導性を有する金属がさらに含まれるようにすることもできる。
【0054】
即ち、上記イオン化電位層30の形成時、低いイオン化エネルギーを有する元素と伝導性に優れる銅のような金属を混合させた状態でめっきやコーティングなどの方式によりコア層10にイオン化電位層30を形成させるものであって、第4実施形態に係る溶接用ワイヤは、イオン化電位層30自体に伝導性を有する金属を混合させてコア層10に電気がよく流れることができるようにしたものである。この際、上記伝導性を有する金属には、銅の他にも公知の多様な金属が適用可能である。
【0055】
このような溶接用ワイヤは、伝導性が向上して溶接時にコア層への電気の伝達を助けて溶接効率を向上させる。
【0056】
以下、本発明に係る溶接用ワイヤの効果を立証するために、次のような実験を実施した。
【0057】
<製造例>
炭素鋼溶接に最も多く使用しているソリッドワイヤ(ER−70s G 1.2Φ)の表面にインジウム(In)で下記の<表1>に記載されためっき時間でめっきを行ってイオン化電位層を形成し、そのめっきで形成されたイオン化電位層の重量比を下記の<表1>に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
<実験例>
上記の製造例で製造された製造例1乃至製造例6のインジウムでイオン化電位層が形成されたワイヤと、比較例のワイヤ(ER−70s G 1.2Φ)を使用して<表2>のような溶接条件でガスメタルアーク溶接を実施し、溶接中、溶接現象を評価するために高速カメラを用いて高速撮影を実施して、その結果を図8に示し、アークモニタリングシステムを用いて定常短絡と瞬間短絡の回数を測定して、その結果を各々下記の<表3>、図6、及び図7に示す。
【0060】
【表2】

【0061】
ここで、上記溶接電流は一般的なアーク溶接時、金属移行モードが粒状溶滴移行モードとして表れる電流領域の通り、本発明に係る溶接用ワイヤの溶滴移行モードを確認するために235Aを溶接電流にして実験した。
【0062】
図8は、溶接中、溶接現象を高速撮影した結果を示すものであって、ここに示すように、20sを超過してめっきを実施する場合、イオン化電位層の重量比が1%以上となり、図1に示すように、溶滴の噴霧型移行モードが表れることを確認することができる。
【0063】
下記の<表3>、図6、及び図7は、各々アーク溶接実験中、測定された溶滴の短絡回数を示す結果であって、ここに示すように、めっき時間20sを基準に秒当たり平均短絡回数と瞬間/定常短絡回数が比較例及び製造例1乃至3に比べて製造例4乃至6で格段に減少することを確認することができる。
【0064】
溶滴の短絡はたくさん発生すれば発生するほどスパッタがたくさん発生するようになり、特に瞬間短絡の場合、瞬間的なアークの圧力によって大粒のスパッタがたくさん発生するようになるものであって、下記の実験結果を通じて本発明に係る溶接用ワイヤはイオン化電位層の形成により溶接時の溶滴の短絡回数が格段に減少しているので、スパッタの発生も格段に減少することが予測できる。
【0065】
【表3】

【0066】
上記のような実験結果を通じて本発明により製造された溶接用ワイヤは、保護ガスとして100%の二酸化炭素ガスを使用してアーク溶接を行う時に、全電流領域で安定したアーク発生を通じて金属の移行モードが遷移電流領域以上でArを保護ガスとして使用する場合と同様に、安定した金属移行モードに変化させることができ、短絡回数とスパッタの生成を減少させて溶接品質を向上させることができることが分かる。併せて、上記のような安定したアーク発生を通じて遷移電流領域以下でアルゴンガスやアルゴン−二酸化炭素混合ガスを保護ガスとする溶接時にも安定した金属移行モードが表れることが予測できる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】アルゴンガスを保護ガスとして使用するアーク溶接時、溶滴の金属移行モードを説明する概念図である。
【図2】二酸化炭素ガスを保護ガスとして使用するアーク溶接時、溶滴の金属移行モードを説明する概念図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る溶接用ワイヤを示す斜視図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る溶接用ワイヤを示す斜視図である。
【図5】本発明の第3実施形態に係る溶接用ワイヤを示す斜視図である。
【図6】製造例で製造された製造例1乃至6のワイヤと比較例のワイヤのアーク溶接時、溶滴の平均短絡回数を示すグラフである。
【図7】製造例で製造された製造例1乃至6のワイヤと比較例のワイヤのアーク溶接時、溶滴の瞬間短絡回数及び定常短絡回数を示すグラフである。
【図8】製造例1乃至6のワイヤ及び比較例のワイヤの溶接時、溶接現象を高速撮影した結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接時、アーク熱により溶けて溶滴になるコア層と、
前記コア層の表面に形成され、低いイオン化エネルギーを有する元素からなるイオン化電位層と、
を含むことを特徴とする、溶接用ワイヤ。
【請求項2】
前記コア層とイオン化電位層との間、またはイオン化電位層の表面にワイヤに流れる電気をコア層に伝達する伝導層がさらに形成されたことを特徴とする、請求項1に記載の溶接用ワイヤ。
【請求項3】
前記イオン化電位層には伝導性を有する金属がさらに含まれたことを特徴とする、請求項1に記載の溶接用ワイヤ。
【請求項4】
前記イオン化電位層の元素は1次イオン化エネルギーが7eV以下のCs、Rb、K、Lu、Na、Ra、Li、Sm、La、Eu、Sr、In、Al、Ga、Tl、Ca、Gd、Yb、S、Y、V、Cr、Nb、Ti、Zr、または1次イオン化エネルギーと2次イオン化エネルギーとの合計が25eV以下のPt、Pd、Sc、Sn、Mg、Mn、Ge、Si、Biのうちから選択される1つ以上の元素からなることを特徴とする、請求項1乃至3のうち、いずれか1項に記載の溶接用ワイヤ。
【請求項5】
前記コア層は、鉄、アルミニウム、銅、ニッケル、チタニウム、マグネシウム、コバルト、一般鋼、高張力鋼、ボロン鋼、ニッケル綱、マグネシウム鋼、チタニウム鋼、コバルト鋼から選択される1つの金属または2つ以上の合金金属からなることを特徴とする、請求項1乃至3のうち、いずれか1項に記載の溶接用ワイヤ。
【請求項6】
前記イオン化電位層は、全体ワイヤ対比重量比が0.01%〜5%であることを特徴とする、請求項4に記載の溶接用ワイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2013−504434(P2013−504434A)
【公表日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−528739(P2012−528739)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【国際出願番号】PCT/KR2010/005716
【国際公開番号】WO2011/031022
【国際公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(512062095)ユニバーシティ インダストリー コーオペレーション ファウンデーション コリア エアロスペース ユニバーシティ (1)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY INDUSTRY COOPERATION FOUNDATION KOREA AEROSPACE UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】200−1 Hwajeon−dong,Deokyang−gu,Goyang−si,Gyeonggi−do 412−791,Republic of Korea
【Fターム(参考)】