説明

溶接金属の割れ感受性評価試験方法

【課題】 製造が難しい成分系の溶接ワイヤを開発する際において、より効率のよい溶接金属の割れ感受性評価試験方法を提供する。
【解決手段】 本発明は、溶接金属の割れ感受性を評価する試験方法において、該溶接金属と同じ成分を持つ鋼板を用い、該鋼板に、裏面よりスリット状の溝を所定の深さまで加工し、該鋼板を表面より溶加材を使用しないTIG溶接を行うことにより、該スリット状の溝に達する溶接金属を形成させることを特徴とし、必要に応じて、前記TIG溶接に際し、前記鋼板を予め拘束板で拘束すること及び/又はシールドガスとして、Hガスを質量%で0.1〜5%含有するArガスを用いることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接金属の割れ感受性評価を行う試験方法に関するもので、より詳しくは、溶接ワイヤ製造が比較的難しい成分系に対して、溶接ワイヤより製造が容易である鋼板状の試験素材を用いることで、溶接金属の割れ感受性評価試験を効率よく行うことのできる試験方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶接継手の信頼性は、溶接構造物の信頼性を決定する重要な因子であり、特に、溶接割れが存在する場合は、構造物全体の信頼性に多大な影響を与える。
【0003】
このような理由から、溶接施工条件の選定には、事前に、使用予定材料の割れ感受性を詳しく評価する必要がある。溶接割れの代表的な試験方法としては、非特許文献1に規定されているy形溶接割れ試験や、非特許文献2に規定されているU形溶接割れ試験などが盛んに用いられてきた。特に、最近では、鋼材の耐溶接割れ性が向上したため、溶接継手に発生する割れは、溶接金属に生じる場合が多くなってきた。そのため、溶接割れ感受性を評価する方法としては、効率よく溶接金属の割れ感受性を評価できる方法が望ましい。
【0004】
一般に、溶接金属の割れ感受性を評価する方法としてよく用いられる方法は、前述のU形溶接割れ試験がある。これは、U形の溝が加工された試験体に、割れ感受性を評価したい溶接ワイヤまたは溶接棒を用いてU形溝に沿って試験ビードをおいて割れ発生有無を調べる方法である。この場合、溶接金属の成分は、試験体を形成している鋼板の成分も影響があるものの、最も影響を与えているのは溶接ワイヤなどの溶接材料である。当然のことながら、実際の溶接構造物の継手を作製する溶接材料と割れ感受性評価試験に用いる溶接材料は、同じ材料である必要がある。
【0005】
溶接材料が既に製造されている、あるいは試作されている状態では、上記試験方法はきわめて有効な試験方法である。しかし、溶接材料の設計がまだ充分検討されていない段階で、溶接割れ感受性の観点から候補となっている成分系を絞り込む段階では、溶接材料試作の難しさから、従来試験方法では、きわめて効率が悪い場合がある。特に、最近では、鋼材の強度が高い、すなわち高張力鋼が用いられる傾向が強まっており、それに応じて溶接金属の特性も鋼材並みの高強度が要求されている。このような溶接金属を形成する溶接材料は、強度を確保するために合金元素を多く含む場合が多いが、このような場合、例えば、溶接ワイヤの製造の場合では、ワイヤ伸線中に断線などを起こし易くなる。溶接材料の成分系を検討する段階では、必ずしもワイヤ伸線性のみを議論するわけではなく、むしろ、溶接割れ感受性の観点から効率よく候補成分系を絞り込む方が、溶接材料開発を効率よく実施できる。
【0006】
これまでも、溶接割れ試験方法として、非特許文献1および2にある方法以外の割れ試験方法が検討されてきた。特許文献1には、非特許文献1及び2に代わる割れ試験方法を提供することを目的とする技術として、中央部分に一直線状の開先が形成された試験片を用いた溶接割れ試験方法において、溶接線の延長線上となる前記試験片の外側から前記開先の溶接部分へ溶接棒を一直線状に供給しながら試験溶接を行うことを特徴とする溶接割れ試験方法が開示されている。しかし、これら従来技術では、溶接材料を試作しなければ、割れ感受性の試験を実施できない。すなわち、従来技術では、溶接材料試作が難しい場合、効率よい溶接材料開発ができないという問題が存在していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平06−180278号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】JIS Z3158「y形溶接割れ試験方法」(1993年)
【非特許文献2】JIS Z3157「U形溶接割れ試験方法」(1993年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
溶接割れ感受性は、高張力鋼ほど高まる傾向にあるため、効率よい割れ感受性評価試験方法が望まれている。その反面、高張力鋼用の溶接材料ほど試作が難しくなる。そのため、従来評価方法では効率よい溶接材料開発ができなかった。
そこで、本発明では、溶接材料試作をしなくても溶接金属の割れ感受性を評価できる試験方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、以上の観点から、溶接材料を試作しなくても割れ感受性が評価できる試験方法について鋭意研究してきた。そして、溶接材料試作より容易な鋼板を試作し、鋼板に溶接金属と同等な成分を持たせ、溶加材を使用しないTIG溶接(以降、TIGなめ付け溶接と呼ぶ。)を実施することで溶接金属の割れ感受性を評価できる方法を見出したものである。本発明は、このような研究によってなされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
【0011】
(1) 溶接金属の割れ感受性を評価する試験方法において、
該溶接金属と同じ成分を持つ鋼板を用い、該鋼板に裏面よりスリット状の溝を加工し、
該鋼板を表面より溶加材を使用しないTIG溶接(以降、TIGなめ付け溶接)を行うことにより該スリット状の溝に達する溶接金属を形成させることを特徴とする、溶接金属の割れ感受性評価試験方法。
【0012】
(2) 前記TIGなめ付け溶接に際し、前記鋼板を予め拘束板で拘束しておくことを特徴とする、上記(1)に記載の溶接金属の割れ感受性評価試験方法。
【0013】
(3) 前記TIGなめ付け溶接のシールドガスとして、Hガスを質量%で0.1〜5%含有するArガスを用いることを特徴とする、上記(1)または(2)に記載の溶接金属の割れ感受性評価試験方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、溶接金属の割れ感受性を効率よく評価することができるため、新しい溶接材料の開発速度を格段に速めることができるなど、産業上の意義はきわめて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明が提供する溶接割れ試験方法を断面図で概念的に説明する図である。
【図2】本発明の実施例で採用した試験方法を斜視図と断面図で概念的に説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0017】
溶接金属の成分は、鋼材および溶接材料の成分の混合として決定され、その割合は溶接施工条件でほぼ決定される。一般に、この影響を表現する指標としては、溶接金属における鋼材からの寄与率があり、これを母材希釈率とよぶ。すなわち、母材希釈率は、溶接施工条件でほぼ決定され、逆に、溶接施工条件を予め決めておけば、鋼材および溶接材料の成分から溶接金属成分が計算できることになる。例えば、母材希釈率が20%の溶接施工条件について考えると、鋼材のNiが1%であり、溶接材料のNi成分が2%である場合は、1×0.2+2×(1−0.2)=1.8となり、溶接金属のNi成分は、1.8%と計算できることになる。
【0018】
溶接施工条件を予め決定しておけば、母材希釈率がきまるが、この母材希釈率を決定するときに用いることができる溶接材料は、必ずしも割れ感受性を評価すべき溶接材料である必要はないため、事前に、母材希釈率を実験等で決めておくことができる。
【0019】
そこで、割れ感受性を評価したい溶接材料の成分と溶接を行いたい鋼板の成分から、予め求めておいた母材希釈率を用いて溶接金属の成分を計算し、その成分と同じ成分を持つ鋼板を事前に試作することができる。このようにする理由は、同じ成分でも、溶接ワイヤなどの溶接材料を試作する場合より鋼板を試作する方が作業が容易であるためである。
【0020】
しかし、成分が同じでも、鋼板と溶接金属では、ミクロ組織が大きく異なり、それが割れ感受性に影響を与える。そのため、鋼板に溶接金属と同じミクロ組織を与える必要がある。そこで、TIGなめ付け溶接を鋼板に施工することで、溶接金属組織を鋼板に与えることとした。これにより、成分およびミクロ組織とも一致する溶接金属が導入されることになり、割れ感受性を評価したい溶接材料の試験と考えることができるようになるのである。
【0021】
次に、本発明で、鋼板にスリット状の溝がある場合に限定している理由について述べる。
【0022】
溶接金属に発生する割れの影響因子としては、溶接金属成分、水素量、拘束度に加え、応力集中も大きな影響因子であることが知られている。そこで、本発明では、応力集中部を作製し、割れ感受性の比較を容易にすることにした。図1には、その手順が示されている。すなわち、溶接金属と同じ成分を持つ鋼板3を用意し、そこに所定のスリット幅1およびスリット高さ2をもつスリット状の溝を作製する。それが図1(a)である。図1では、ストレート形状の溝を作製した例が載せてある。また、図1(a)からわかるように、溝は、必ずしも表面側にまで貫通している必要はない。TIGなめ付け溶接を行ったとき、溶け込み深さが裏面から加工されたスリットの先端に届き、溶接金属部分に応力集中部が形成できるようになれば充分である。これは、スリットの高さとTIGなめ付け溶接を行った時の溶け込み深さが問題になるが、溶け込み深さは、事前に実験で決定できるため、必要なスリット高さを決定することは、当業者であれば特に問題ではない。このようにして、TIGなめ付け溶接4を行うと、図1(b)のように、鋼板表面に溶接金属組織5が導入され、溶接金属に応力集中部6を形成することができる。これにより実際の溶接金属を再現することができ、割れ感受性評価が可能となる。
【0023】
次に、本発明で、溶接方法として、TIGなめ付け溶接に限定している理由について述べる。
【0024】
本発明では、溶接材料試作が効率よく行うことができないような成分系を対象としている。そのため、溶接材料を用いないプロセスを前提とする必要がある。TIGなめ付け溶接は、溶接材料を用いない(この場合、溶接材料は、溶加材とも呼ばれる。)TIG溶接のことで、タングステン電極と鋼材の間で溶接アークを発生させ、鋼材表面を溶融させるプロセスである。このプロセスは、本発明の目的に合致し、かつ、通常のTIG溶接機を用いて行うことができる方法であるため、この方法に限定した。
【0025】
以上が本発明における必須要件である。
【0026】
本発明では、必要に応じて、鋼板を拘束板で予め拘束することができる。
【0027】
その理由は、溶接割れ感受性は、溶接部がどれだけ周囲から拘束されているかにも影響を受けるためである。特に低温割れ感受性に関しては、拘束の影響を評価する指標として拘束度という概念が従来から用いられていた。これにより、実構造物と割れ試験体との比較がより容易になった。本発明でも、実構造物との比較を容易にするために、拘束板を用いて拘束度をコントロールすることは、きわめて実用的である。そのため、必要に応じて、拘束板を用い拘束度を精度よくコントロールすることとした。なお、拘束度は、開先幅を単位長さだけ縮めるときに必要な単位開先長さ当たりの荷重で定義される。試験板より十分大きな拘束板を用いるときは、拘束度は、試験板の幅をW、板厚をh、ヤング率をEとすると、拘束度RFは、RF=E×h÷Wで計算できる。
【0028】
本発明では、さらに必要に応じて、TIGなめ付け溶接のシールドガスに、Hガスを質量%で0.1〜5%含有したArガスを用いることができる。一般に、TIGなめ付け溶接を行う場合は、シールドガスは100%Arガスを用いることが普通であり、本発明でも、水素の影響を調べない場合、例えば高温割れを調査する場合は、100%Arガスをシールドガスに用いることが望ましい。一方、100%Arガスでは、溶接金属に水素が充分導入されないため、溶接割れのうち、低温割れに関しては、実際と異なる割れ感受性評価をしてしまう危険がある。そこで、水素の影響を再現するために、シールドガスにHガスを混入させ、これにより溶接金属に水素を導入させることとした。下限の0.1%は、これを下回る水素ガス量では、割れにおける水素の影響が充分評価できないためにこの値を設定した。上限の5%は、これを上回る水素量では、過大水素量の導入になる点と、水素ガスそのものの爆発性という性質を考慮して、上限を5%とした。
【実施例】
【0029】
以下に、本発明の実施例について説明する。
【0030】
表1に、本実施例で用いた溶接ワイヤの成分を載せる。溶接ワイヤの直径は、1.2mmに統一させた。表1の実施例では、特に、Ni、Cr、Moが大きく変化している。これら元素が添加された線材を溶接ワイヤに線引きする際、加工硬化によりワイヤが硬くなりすぎ、断線する可能性がでてくる。断線を防止するためには、焼鈍を行い、硬くなったワイヤを軟らかくすればよいが、焼鈍しなければならない材料は、ワイヤ製造しにくい材料であると言える。そのため、溶接ワイヤに関しては、ワイヤ伸線中に行う焼鈍の回数で、ワイヤ試作の難しさが評価できる。本実施例では、焼鈍回数が3回以上の場合を、ワイヤ試作が難しい成分系、と判断した。
【0031】
【表1】

【0032】
表1の成分系をもつワイヤを用いて、通常の溶接割れ試験方法である、U形溶接割れ試験を実施した。用いた鋼材はJIS G3106に準拠したSM490鋼材であり、そのおもな成分は、C:0.12%、Si:0.25%、Mn:1.45%である。SM490鋼材の板厚は50mmである。表1に示すように、成分によっては、ワイヤを1.2mmまでに伸線する際に、ワイヤ破断を防ぐために焼鈍を実施しなければならなかった。本実施例では、断線を防ぐのに必要な最小限の焼鈍回数を、ワイヤ製造しにくさを表すパラメーターとして採用した。一般の溶接ワイヤは、焼鈍回数は3回未満であることから、焼鈍回数が3回以上になった場合を、難製造ワイヤ成分系とすることとした。一方、割れ試験時の溶接は、20%COを含有するArガスをシールドガスとして採用した。なお、溶接ワイヤには、紳線時にワイヤ表面に付着したオイル成分が存在し、それが拡散性水素源となり、溶接割れを発生させる要因の1つになっている。溶接条件は、270A−29V−25cm/minである。また、予熱は行っていない。溶接後、7日間放置してから、1試験体より5断面マクロ試験片を採取し、顕微鏡観察により割れの有無を判断した。なお、5断面マクロによる割れ観察は、JIS Z3157に記載されている測定要領に従った方法である。
【0033】
表1のワイヤを用いてU形溶接割れ試験を行い、顕微鏡観察による割れの判断をしたのち、溶接金属より成分分析用の試料を採取し、溶接金属の成分分析を行った。溶接金属の場合、鋼材が一部溶接金属に希釈してくるため、必ずしもワイヤ成分と溶接金属成分が一致するわけではない。表2には、溶接金属成分分析結果が載せてある。母材からの希釈の影響により、溶接金属成分とワイヤ成分が異なることが理解できる。
【0034】
次に、本発明の溶接割れ試験を実施するために、表2に示す溶接金属成分と同じ成分を持つ鋼材を作製し、図2に示す溶接割れ試験体を作製した。すなわち、表2の成分を持つ板厚5mmの、100mm×100mmサイズの鋼板を用意し、裏側より、幅が2mmのスリット状の溝8を作製した。このとき、スリット状の溝深さは4mmであり、鋼板表面より1mm下のところに溝の底が位置することになる。これが試験鋼板である。次に、幅600mm、長さ600mmの、板厚50mmのSM490鋼材を用意した。板厚を50mmとしたのは、すでに述べたU形溶接割れ試験方法で50mm板厚の鋼板を用いたためである。このSM490鋼材の中央部分に、100mm×100mmの正方形状の穴を加工する。その穴に、試験鋼板を挿入し、周囲を溶接して(拘束溶接7)、試験鋼板をSM490鋼板に取り付けた。図2には、試験鋼板を含む部分の断面図(A−B断面)も示している。
【0035】
このような試験体を表2に示す成分系をもつ鋼板(板厚5mm)すべてに対して作製し、溶接割れ試験を実施した。溶接割れ試験は、TIGなめ付け溶接で行った。TIGなめ付け溶接とは、溶加材、すなわち溶接ワイヤを用いずに、溶接する方法で、TIGのアークで鋼板を溶かすことを目的にしばしば行われる方法である。割れ試験を再現するために、シールドガスは、5%のHガスを含有するArガスを用いた。溶接条件は、240A−13V−10cm/minである。なお、従来溶接割れ試験方法であるU形溶接割れ試験方法と同じ条件にするために、予熱は実施していない。割れの有無は、TIGなめ付け溶接後、7日間放置してから、溶接部より断面マクロを、1試験片あたり5個採取して、顕微鏡で割れ観察を行うことにより、割れの有無を判断した。
【0036】
【表2】

【0037】
表3には、本発明の試験方法、およびU形溶接割れ試験方法における、割れ発生の有無を調査した結果を載せている。U割れ試験の拘束度は、y割れ試験とほぼ同様で、板厚(mm)×70(kg/mm)であらわされるが、表3の試験結果は板厚30mmの場合の結果である。本発明の試験方法では、U割れ試験方法と同程度の拘束度になるように、試験板厚と試験板幅を調整した試験方法1と、拘束度を30%低くした試験方法2の両方を実施した。表3における○は、割れが発生していなかったことを、●は、割れが発生したことを示している。表3からわかるように、本発明の試験方法で得られた結果と、従来試験方法であるU形溶接割れ試験方法で得られた結果が、拘束度を一致させた試験方法1では非常によく一致していることが分かる。また、拘束度を緩くした試験方法2では、成分系4で割れが再現できていないが、その他の成分系では一致している。これは、本発明の試験方法では、拘束度の影響も十分評価できることを意味している。一方、表1をみるとわかるように、成分系によっては、ワイヤ製造時に、焼鈍回数が3回以上になる成分系も存在することが分かる。このような成分系では、ワイヤ製造のコストが大きくなる、開発期間が長くなるなどの問題が発生する。本発明の方法では、あらかじめ想定できるワイヤ成分と溶接の対象となる鋼材成分を用いて、母材希釈率から計算される溶接金属成分と同等の成分を持つ試験鋼材を用いることができるため、ワイヤ伸線時の断線トラブルなどの問題を回避することができ、開発期間などを大幅に短縮させることができる。
【0038】
【表3】

【0039】
表4も、表3とほぼ同じ条件で行った従来溶接割れ試験であるU形溶接割れ試験と本発明が提供している割れ試験の結果を比較しているものである。本発明の試験方法1及び2は、表3で示したように、拘束度を一致させた場合(試験方法1)と拘束度を緩くした場合(試験方法2)の両方を実施している。さらに、試験条件としては、U形溶接割れ試験では、各溶接ワイヤを試験前に洗浄し、ワイヤ表面のオイルを除去した点以外は、表3の試験条件と同じである。また、表4の本発明が提供している溶接割れ試験では、TIGなめ付け溶接のシールドガスとして、Arに0.4%のHを含有するガスを用いた点以外は表3の試験条件と同じである。表4からわかるように、従来溶接割れ試験方法の結果と、本発明が提供している溶接割れ試験方法の結果が非常によく一致していることが分かる。このことから、本発明が提供している溶接割れ試験方法で、ワイヤ伸線時の断線トラブルなどの問題を回避することができ、開発期間などを大幅に短縮させることができる。
【0040】
【表4】

【0041】
なお、表1には、焼鈍回数が3回未満でワイヤ伸線が終了している成分系もあるが、このような場合は、必ずしも、本発明が提供している溶接割れ試験方法を用いる必要がない。また、成分系によっては、難製造ワイヤであるかどうかがあらかじめ予測できる。そのため、本発明が提供している溶接割れ試験を用いてワイヤ成分候補の検討を行うか、あるいは、従来溶接割れ試験方法を用いてワイヤ成分候補の検討を行うか、は、溶接材料開発に携わっている関係者にとって、特に難しい選択ではない。
【0042】
以上のように、本発明の溶接割れ試験方法を用いることにより、溶接ワイヤ開発におけるワイヤ成分候補の絞り込みなどにかかわる開発期間を大幅に短縮することができる。これにより、本発明は、産業上のメリットが極めて大きいことが明白となった。
【符号の説明】
【0043】
1 スリット高さ
2 スリット幅
3 スリット状溝付き鋼板
4 TIGなめ付け溶接
5 溶接金属
6 応力集中部
7 拘束溶接
8 スリット状の溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接金属の割れ感受性を評価する試験方法において、
該溶接金属と同じ成分を持つ鋼板を用い、該鋼板に裏面よりスリット状の溝を加工し、該鋼板を表面より溶加材を使用しないTIG溶接を行うことにより該スリット状の溝に達する溶接金属を形成させることを特徴とする、溶接金属の割れ感受性評価試験方法。
【請求項2】
前記TIG溶接に際し、前記鋼板を予め拘束板で拘束しておくことを特徴とする、請求項1に記載の溶接金属の割れ感受性評価試験方法。
【請求項3】
前記TIG溶接のシールドガスとして、Hガスを質量%で0.1〜5%含有するArガスを用いることを特徴とする、請求項1または2に記載の溶接金属の割れ感受性評価試験方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−153926(P2011−153926A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−15941(P2010−15941)
【出願日】平成22年1月27日(2010.1.27)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】