説明

溶接電源の位相制御方法

【課題】サイリスタ位相制御型溶接電源において、演算によって点弧角αを算出する位相制御方法の入力電圧変動特性を改善する。
【解決手段】本発明では、三相交流電圧Vacの任意の一相から入力電圧値Viを検出し、この入力電圧値Vi及び予め定めた出力電圧設定値Vrに基づいて位相制御のための点弧角αを算出し、この点弧角αによって複数のサイリスタを予め定めた順番で順次点弧して位相制御を行う溶接電源の位相制御方法において、三相交流電圧Vacの3つの相の入力電圧値Vir、Vis、Vitをそれぞれ検出し,点弧順番のサイリスタに印加する相電圧に対応する三相交流電圧Vacの一相の上記入力電圧値を使用して点弧角αを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイリスタによる位相制御において安定した出力を得るための溶接電源の位相制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図3は、サイリスタ位相制御型溶接電源のブロック図である。同図において、主回路が三相半波型の場合を例示しており、三相二重星型の場合もよく使用される。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0003】
三相交流電圧Vacは、三相200V等の商用電源であり、R相、S相及びT相からなる。三相変圧器TRは、Δ型配線又は星型配線の3つの1次巻線Pm及び星型配線の3つの2次巻線Smからなり、溶接に適した電圧値に降圧する。サイリスタSCRrは、R相の2次巻線Smに接続される。サイリスタSCRsは、S相の2次巻線Smに接続される。サイリスタSCRtは、T相の2次巻線Smに接続される。これらのサイリスタから位相制御整流回路が形成されて、サイリスタは後述する点弧駆動信号群Gdによって点弧されて位相制御を行う。リアクトルWLは、位相制御された出力を平滑する。溶接電源からは出力電圧Vo及び出力電流Ioが出力される。溶接ワイヤ1はワイヤ送給装置の送給ロール5の回転によって溶接トーチ4内を通って送給されて、母材2との間にアーク3が発生する。
【0004】
同期パルス生成回路SPは、任意の一相ここではR相(R−S相間)の交流電圧Varを入力して、電圧が上昇しながら0Vを通貨する時点(零クロス時点)を位相0°として検出し短時間Highレベルになる同期パルス信号Spを出力する。入力電圧検出回路VIは、任の一相ここではR相の交流電圧Varを入力として、ピーク電圧値、平均電圧値又は実効電圧値を算出し、入力電圧信号Viとして出力する。出力電圧設定回路VRは、予め定めた出力電圧設定信号Vrを出力する。点弧角算出回路ACは、上記の出力電圧設定信号Vr及び入力電圧信号Viを入力として、図4で後述する点弧角α°の演算を行い、点弧角信号Ac=αを出力する。位相制御信号生成回路PCは、上記の同期パルス信号Sp及び点弧角信号Acを入力として、図5で後述する3つのサイリスタを点弧するための3つの位相制御信号Pcr、Pcs及びPctを出力する。点弧駆動回路GDは、これら位相制御信号群を入力として、各サイリスタを点弧する点弧駆動信号群Gdを出力する。
【0005】
図4は、出力電圧設定信号Vrと点弧角αとの関係図である。同図は、サイリスタが点弧角α=0°でフル点弧したときの出力電圧Voの最大値が40Vになるように三相変圧器TRを設計した場合である。これは、一般的な炭酸ガスアーク溶接電源の場合に相当する。上述したように、主回路が三相半波型(三相二重星型の場合も同様)であるので、点弧角αは0〜120°の範囲となる。同図は入力電圧値Vi=200V(実効値)の場合である。例えば、出力電圧設定信号Vr=20Vのときは、点弧角α=60°となる。したがって、同図の曲線を点弧角算出回路ACに記憶しておき、出力電圧設定信号Vrが入力されるとその値に対応する点弧角αが算出される。
【0006】
他方、入力電圧信号Viの値が200Vから240Vへと20%高く変動したときは、出力電圧設定信号Vrを20%小さくして20V→16Vとし、点弧角α=70°となる。このように、入力電圧信号Viが200V→240Vに変動したときは、点弧角αを60°→70°に変化させることによって出力電圧Vo=20Vを維持することができる。すなわち、出力電圧設定信号Vr及び入力電圧信号Viを入力として点弧角αが算出される。
【0007】
図5は、上述した位相制御信号群の生成方法を示すタイミングチャートである。同図(A)はR相交流電圧Varの、同図(B)は同期パルス信号Spの、同図(C)はR相のサイリスタを点弧するR相位相制御信号Pcrの、同図(D)はS相のサイリスタを点弧するS相位相制御信号Pcsの、同図(E)はT相のサイリスタを点弧するT相位相制御信号Pctの時間変化を示す。以下、同図を参照して説明する。
【0008】
同図(B)に示すように、同期パルス信号Spは、同図(A)に示すように、R相交流電圧Varが上昇しながら0Vを通過する零クロス時点を位相0°として検出し短時間Highレベルになる。同図(C)に示すように、R相位相制御信号Pcrは、同図(B)の同期パルス信号Spを起点として位相30°の時点で図4で上述した点弧角αを算出し、30+α°で短時間Highレベルになる。同図(D)に示すように、S相位相制御信号Pcsは、同図(B)の同期パルス信号Spを起点として位相150°の時点で図4で上述した点弧角αを算出し、150+α°で短時間Highレベルになる。同図(E)に示すように、T相位相制御信号Pctは、同図(B)の同期パルス信号Spを起点として位相270°の時点で図4で上述した点弧角αを算出し、270+α°で短時間Highレベルになる。同図(A)に示すR相交流電圧Varに対応する入力電圧信号Viの値及び出力電圧設定信号Vrの値が一定であれば、上記の各点弧角αも一定値となる。
【0009】
【特許文献1】特開2001−71138号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図6は、課題を説明するために、三相交流電圧Vacが各相によって不均一になったときの出力電圧Voの波形図である。同図(A)に示すように、R相交流電圧Var、S相交流電圧Vas及びT相交流電圧Vatのピーク値が不均一になっている。このような状態は各相の負荷状態によってときどき発生する。この結果、上述した従来技術では、同図(B)に示すように、出力電圧Voのリップル幅が不均一になり、溶接状態の安定性が低下する。
【0011】
このようになる原因は以下のとおりである。すなわち、上述したように、点弧角αの算出には特定の一相ここではR相の交流電圧Varに対応した入力電圧信号Viの値が使用される。このために、他のS相及びT相の交流電圧Vas、VatがR相の交流電圧Varと異なった値に変動しても、算出される点弧角はαで一定となる。この結果、出力電圧設定信号Vrが一定値であっても、各相によって出力電圧が異なることになる。
【0012】
そこで、本発明では、三相交流電圧が不均一の場合でも出力電圧値を一定値に位相制御することができ安定した溶接を行うことができる溶接電源の位相制御方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決するために、第1の発明は、三相変圧器によって三相交流電圧を溶接に適した電圧値に降圧し、この降圧された三相交流電圧を複数のサイリスタから形成される位相制御整流回路によって出力電圧制御及び整流して直流電圧を出力する溶接電源にあって、
前記三相交流電圧の任意の一相から入力電圧値を検出し、この入力電圧値及び予め定めた出力電圧設定値に基づいて位相制御のための点弧角を算出し、この点弧角によって前記複数のサイリスタを予め定めた順番で順次点弧して位相制御を行う溶接電源の位相制御方法において、
前記三相交流電圧の3つの相の前記入力電圧値をそれぞれ検出し,点弧順番のサイリスタに印加する相電圧に対応する前記三相交流電圧の一相の前記入力電圧値を使用して前記点弧角を算出する、ことを特徴とする溶接電源の位相制御方法である。
【0014】
また、第2の発明は、第1の発明記載の入力電圧値が、前記三相交流電圧の一相のピーク電圧値又は平均電圧値又は実効電圧値である、ことを特徴とする溶接電源の位相制御方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、三相交流電圧が不均一になった場合には、各相の交流電圧の入力電圧値に応じて対応する相のサイリスタの点弧角を演算によって修正する。このために、三相交流電圧が不均一であっても出力電圧のリップルの不均一は抑制されるので、安定した溶接を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1は、本発明の実施の形態に係る位相制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。同図において、上述した図3と同一のブロックには同一符号を付してそれらの説明は省略する。以下、図3とは異なる点線で示すブロックについて同図を参照して説明する。
【0017】
R相入力電圧検出回路VIRは、R相(R−S相間)交流電圧Varを入力として、ピーク電圧値、平均電圧値又は実効電圧値を算出し、R相入力電圧信号Virとして出力する。S相入力電圧検出回路VISは、S相(S−T相間)交流電圧Vasを入力として、ピーク電圧値、平均電圧値又は実効電圧値を算出し、S相入力電圧信号Visとして出力する。T相入力電圧検出回路VITは、T相(T−R相間)交流電圧Vatを入力として、ピーク電圧値、平均電圧値又は実効電圧値を算出し、T相入力電圧信号Vitとして出力する。切換回路SWは、同期パルス信号Spを起点として位相30°の時点では上記のR相入力電圧信号Virを入力電圧信号Viとして出力し、位相150°の時点では上記のS相入力電圧信号Visを入力電圧信号Viとして出力し、位相270°の時点では上記のT相入力電圧信号Vitを入力電圧信号Viとして出力する。したがって、R相に対応するサイリスタSCRrの点弧角αrは、R相入力電圧信号Virに基づいて算出される。同様に、S相に対応するサイリスタSCRsの点弧角αsは、S相入力電圧信号Visに基づいて算出される。同様に、T相に対応するサイリスタSCRtの点弧角αtは、T相入力電圧信号Vitに基づいて算出される。
【0018】
図2は、上述した各相の交流電圧の入力電圧信号に対応した点弧角の算出方法を示すタイミングチャートである。同図(A)はR相交流電圧Varの、同図(B)は同期パルス信号Spの、同図(C)はR相位相制御信号Pcrの、同図(D)はS相交流電圧Vasの、同図(E)はS相位相制御信号Pcsの、同図(F)はT相交流電圧Vatの、同図(G)はT相位相制御信号Pctの時間変化を示す。以下、同図を参照して説明する。
【0019】
図5で上述したように、同図(C)に示すR相位相制御信号Pcrは、位相30°時点での同図(A)に示すR相交流電圧VarのR相入力電圧信号Virに基づいて点弧角αrが算出されて、位相30+αr°で短時間Highレベルになる。また、同図(E)に示すS相位相制御信号Pcsは、位相150°時点での同図(D)に示すS相交流電圧VasのS相入力電圧信号Visに基づいて点弧角αsが算出されて、位相150+αs°で短時間Highレベルになる。また、同図(G)に示すT相位相制御信号Pctは、位相270°時点での同図(F)に示すT相交流電圧VatのT相入力電圧信号Vitに基づいて点弧角αtが算出されて、位相270+αt°で短時間Highレベルになる。
【0020】
同図において、図6で上述したように、各相の交流電圧はVat<Var<Vasであるので各相の入力電圧信号はVit<Vir<Visとなり、この結果、各相の点弧角はαt<αr<αsとなる。このように、各相の入力電圧信号の値が不均一であっても、点弧角が修正されるので、出力電圧Voのリップルの不均一は抑制される。このために、安定した溶接を行うことができる。
【0021】
上述した実施の形態では、主回路が三相半波型回路の場合を例示したが、三相二重星型回路の場合も同様である。また、上記の入力電圧検出回路としては、補助変圧器で交流電圧を降圧して全波整流してピーク電圧値又は平均電圧値を検出する回路でも良い。また、この全波整流波形を入力として、実効値を演算する汎用IC(集積回路)を利用しても良い。さらに、この全波整流波形をマイクロプロセッサCPUによるソフトウェアによってピーク電圧値、平均電圧値又は実効電圧値を算出しても良い。上記の切換回路SWには、マルチプレクサが使用できる。また、本発明による溶接電源は、消耗電極/非消耗電極アーク溶接、プラズマ切断電源等に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態に係る位相制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。
【図2】図1の溶接電源の各信号のタイミングチャートである。
【図3】従来技術の位相制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。
【図4】従来技術における出力電圧設定信号Vrと点弧角αとの関係図である。
【図5】図3の溶接電源の各信号のタイミングチャートである。
【図6】課題を説明するために、三相交流電圧Vacが不均一のときの出力電圧Voのリップルの不均一を示す波形図である。
【符号の説明】
【0023】
1 溶接ワイヤ
2 母材
3 アーク
4 溶接トーチ
5 送給ロール
AC 点弧角算出回路
Ac 点弧角信号
CPU マイクロプロセッサ
GD 点弧駆動回路
Gd 点弧駆動信号
Io 出力電流
PC 位相制御信号生成回路
Pcr R相位相制御信号
Pcs S相位相制御信号
Pct T相位相制御信号
Pm 1次巻線
SCRr サイリスタ
SCRs サイリスタ
SCRt サイリスタ
Sm 2次巻線
SP 同期パルス生成回路
Sp 同期パルス信号
SW 切換回路
TR 三相変圧器
Vac 三相交流電圧
Var R相交流電圧
Vas S相交流電圧
Vat T相交流電圧
VI 入力電圧検出回路
Vi 入力電圧(値/信号)
VIR R相入力電圧検出回路
Vir R相入力電圧信号
VIS S相入力電圧検出回路
Vis S相入力電圧信号
VIT T相入力電圧検出回路
Vit T相入力電圧信号
Vo 出力電圧
VR 出力電圧設定回路
Vr 出力電圧設定信号
WL リアクトル
α 点弧角
αr 点弧角
αs 点弧角
αt 点弧角


【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相変圧器によって三相交流電圧を溶接に適した電圧値に降圧し、この降圧された三相交流電圧を複数のサイリスタから形成される位相制御整流回路によって出力電圧制御及び整流して直流電圧を出力する溶接電源にあって、
前記三相交流電圧の任意の一相から入力電圧値を検出し、この入力電圧値及び予め定めた出力電圧設定値に基づいて位相制御のための点弧角を算出し、この点弧角によって前記複数のサイリスタを予め定めた順番で順次点弧して位相制御を行う溶接電源の位相制御方法において、
前記三相交流電圧の3つの相の前記入力電圧値をそれぞれ検出し,点弧順番のサイリスタに印加する相電圧に対応する前記三相交流電圧の一相の前記入力電圧値を使用して前記点弧角を算出する、ことを特徴とする溶接電源の位相制御方法。
【請求項2】
請求項1記載の入力電圧値が、前記三相交流電圧の一相のピーク電圧値又は平均電圧値又は実効電圧値である、ことを特徴とする溶接電源の位相制御方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−223031(P2006−223031A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−32529(P2005−32529)
【出願日】平成17年2月9日(2005.2.9)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【Fターム(参考)】