説明

溶液製膜方法

【課題】厚みムラを抑えつつ、積層フィルムを製造する。
【解決手段】ポリマー濃度がC1〜C3の中間層用ドープ、裏面層用ドープ、及び表面層用ドープをつくる。ポリマー濃度はC1〜C3の順に低い。フィードブロック27は、各ドープを合流させて積層ドープをつくる。流延ダイは、走行する周面30bに積層ドープを吐出する。吐出した積層ドープは流延膜29となる。流延膜29では、周面30b側から順に、裏面層用ドープ22からなる裏面層122と、中間層用ドープ21からなる中間層121と、表面層用ドープ23からなる表面層123とが層をなす。冷却により、各ドープ21、22はゲル化するものの、表面層用ドープ23は流動性を有するため、流延膜29の厚みムラを緩和することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液製膜方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリマーフィルム(以下、フィルムと称する)は、優れた光透過性や柔軟並びに軽量化及び薄膜化が可能であるなどの特長から光学機能性フィルムとして多岐に利用されている。中でも、セルロースアシレートなどを用いたセルロースエステル系フィルムは、強靭性を有し、低複屈折率であることから、写真感光用フィルムをはじめとして、近年市場が拡大している液晶表示装置の構成部材である偏光板の保護フィルムまたは光学補償フィルムなどの光学機能性フィルムに用いられている。
【0003】
フィルムの主な製造方法としては、溶融押出方法と溶液製膜方法とがある。溶融押出方法とは、ポリマーをそのまま加熱溶解させた後、押出機で押し出してフィルムを製造する方法であり、生産性が高く、設備コストも比較的低額であるなどの特徴を有する。しかし、フィルムの膜厚を高い精度で調整することが難しく、また、フィルム上に細かいスジ(ダイライン)ができるために、光学機能性フィルムへ使用することができるような高品質のフィルムを製造することが困難である。一方、溶液製膜方法は、ポリマーと溶媒とを含む液を、流延ダイを用いて支持体上に流延し、支持体上に形成した流延膜が自己支持性を有するものとなった後、これを支持体から剥がして湿潤フィルムとし、さらに、この湿潤フィルムを乾燥させてフィルムとする方法である。溶融押出方法に比べて、光学等方性や膜厚の厚み均一性に優れるとともに、含有異物の少ないフィルムを得ることができるため、光学機能性フィルムは、主に溶液製膜方法で製造されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
溶液製膜方法を用いてフィルムを製造すると、フィルムの表面に微小な凹凸が生じる、いわゆるシャークスキンが発生することがある。このシャークスキンは、特に、製膜速度、すなわち支持体の走行速度の増大により、顕著に発生することが知られている。
【0005】
このようなシャークスキンの発生を回避する方法として、特許文献1にでは、低粘度ドープと高粘度ドープとを同時に流延し、2つの低粘度ドープからなる層及びその間に位置する高粘度ドープからなる層により構成される流延膜を支持体上に形成する方法が開示されている。このような方法において、高粘度ドープとして、フィルムに求められる物性を有する組成のものを用い、低粘度ドープとして、製造中に発生する面状の悪化、剥ぎ取り性の低下などを改善する組成のもの、または、製造後のフィルムのハンドリング性を向上させる組成のものを用いることにより、シャークスキンの発生を回避しつつ、所望の光学的特性を有するフィルムを製造することができる。
【特許文献1】特開2006−297903号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献1の方法を用いてフィルムを製造した場合であっても、フィルムの厚みにムラが生じる故障(以下、厚みムラ故障と称する)が依然として発生する。この厚みムラ故障は、フィルムの厚みが薄くなる場合や支持体の走行速度が増大する場合に、より顕著となる。
【0007】
本発明は、シャークスキンの発生を回避しつつ、厚みが均一のフィルムを製造することのできる溶液製膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の溶液製膜方法は、流延ダイを用いて、ポリマーと溶剤とを含み、ポリマーの含有濃度が順に低くなる第1ドープ、第2ドープ及び第3ドープを、走行する支持体に同時に吐出し、前記支持体の表面側から順に、前記第2ドープ、前記第1ドープ及び前記第3ドープが層を成す流延膜を形成する膜形成工程と、前記支持体の表面との接触により前記流延膜を冷却する冷却工程と、前記冷却により自己支持性を有するものとなった前記流延膜を前記支持体から剥ぎ取り工程と、を有することを特徴とする。
【0009】
前記膜形成工程では、前記流延ダイから吐出した前記各ドープにより形成される流延ビードの前記支持体の走行方向上流側を減圧することが好ましい。また、前記第2ドープの前記ポリマー濃度は、前記第1ドープの前記ポリマー濃度の80%以上99%以下であり、前記第3ドープの前記ポリマー濃度は、前記第1ドープの前記ポリマー濃度の72%以上99%未満であることが好ましい。更に、前記流延膜において、前記第1ドープがなす第1層の厚さをTH1、前記第2ドープがなす第2層の厚さをTH2、及び前記第3ドープがなす第3層の厚さをTH3とするときに、TH1/(TH2+TH3)の値が8以上12以下であることが好ましい。
【0010】
前記支持体の走行速度が35m/分以上であることが好ましい。また、前記ポリマーがセルロースアシレートを含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ポリマーの含有濃度が順に低くなる第1ドープ、第2ドープ及び第3ドープを、走行する支持体に同時に吐出し、前記支持体の表面側から順に、前記第2ドープ、前記第1ドープ及び前記第3ドープが層を成す流延膜を形成するため、流延膜は、冷却によって、剥ぎ取り工程までに第1〜第3ドープがゲル化するものの、表層をなす第3ドープが未だゲル化せずに流動性を有する状態を経る。したがって、流延膜に厚みムラが生じていたとしても、流延膜の剥ぎ取り前に、流動性のある第3ドープにより、この厚みムラを緩和することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明の実施態様について詳細に説明する。ただし、本発明はここに挙げる実施態様に限定されるものではない。
【0013】
(溶液製膜方法)
図1に、本実施形態で用いるフィルム製造ライン10の概略図を示す。フィルム製造ライン10は、流延室12とピンテンタ13とクリップテンタ14と乾燥室15と冷却室16と巻取室17とを有する。
【0014】
流延室12には、ポリマー及び溶媒を含む3種類のドープ、すなわち中間層用ドープ21、裏面層用ドープ22及び表面層用ドープ23から、後述する積層ドープをつくるフィードブロック27と、積層ドープを流出する流延ダイ28と、支持体であり、積層ドープから流延膜29を形成する流延ドラム30と、流延ドラム30から流延膜29を剥ぎ取る剥取ローラ33と、温調装置34、35と凝縮器(コンデンサ)36と回収装置37とが備えられている。また、制御部38は、流延ドラム30、温調装置34、35、回収装置37と接続する。
【0015】
また、凝縮器36は、流延室12内に気化する溶媒を凝縮液化する。制御部38の制御の下、回収装置37は、凝縮器36により凝縮液化した溶媒を回収し、流延室12内の雰囲気のガス露点TRを、所定の範囲に保つ。ガス露点とは、流延室12内の雰囲気に気化する溶媒が凝縮液化する温度である。回収された溶媒は再生装置で再生された後に、ドープ調製用溶媒として再利用される。制御部38の制御の下、温調装置35は、流延室12内の雰囲気の温度を所定の範囲に保つ。
【0016】
(流延ドラム)
流延ドラム30は、制御部38の制御の下、図示を省略した駆動装置により軸30aを中心に回転する。流延ドラム30の回転により、周面30bは方向A1へ所定の速度で走行する。温調装置34は、制御部38の制御の下、所望の温度に調節された伝熱媒体を、流延ドラム30内に設けられる流路中を循環させる。この伝熱媒体の循環により、流延ドラム30の周面30bの温度を所望の温度に保つことができる。
【0017】
流延ドラム30の幅は特に限定されるものではないが、ドープの流延幅の1.1倍〜2.0倍の範囲のものを用いることが好ましい。周面30bの表面粗さは0.01m以下となるように研磨したものを用いることが好ましい。周面30bの表面欠陥は最小限に抑制する必要がある。具体的には、30μm以上のピンホールが無く、10μm以上30μm未満のピンホールは1個/m2以下であり、10μm未満のピンホールは2個/m2以下であることが好ましい。流延ドラム30の回転に伴う周面30bの径方向の位置変動は200μm以下であることが好ましい。流延ドラム30の速度変動を3%以下とし、流延ドラム30が一回転する際に生じる幅方向の蛇行は3mm以下とすることが好ましい。
【0018】
流延ドラム30の材質は、ステンレス製であることが好ましく、十分な耐腐食性と強度とを有するようにSUS316製であることがより好ましい。流延ドラム30の周面30bに施されるクロムメッキ処理はビッカース硬さHv700以上、膜厚2μm以上、いわゆる硬質クロムメッキであることが好ましい。
【0019】
図2及び図3に示すように、フィードブロック27は、流路41〜43から送られる各ドープ21〜23を合流させて、積層ドープ45をつくり、所定の流量の積層ドープ45を流延ダイ28へ送る。そして、流延ダイ28は、回転する流延ドラム30の周面30bに向けて、積層ドープ45を吐出する。吐出した積層ドープ45は、流延ドラム30の周面30b上に、流延膜29を形成する。そして、流延ドラム30が約3/4回転する間に冷却され、ゲル化により流延膜29は自己支持性を有する。こうして、流延膜29は剥取ローラ33によって流延ドラム30から剥ぎ取られる。
【0020】
図1に示すように、減圧チャンバ47を、流延ダイ28に対し、方向A1の上流側に配置してもよい。減圧チャンバ47は、流延ビードの方向A1の上流側を所望の圧力まで減圧する。図示しない制御部の制御の下、減圧チャンバ47は、流延ビードの上流側の圧力が下流側に対して−10Pa以上−2000Pa以下となるように、流延ビードの上流側を減圧することができる。
【0021】
図1に示すように、流延室12の下流には、渡り部50、ピンテンタ13、クリップテンタ14、乾燥室15、冷却室16、及び巻取室17が順に設置されている。渡り部50は、剥取ローラ33によって剥ぎ取られた湿潤フィルム52を、ローラ53により、ピンテンタ13に導入する。ピンテンタ13は、湿潤フィルム52の両側縁部を貫通して保持する多数のピンプレートを有し、このピンプレートが軌道上を走行する。ピンプレートにより走行する湿潤フィルム52に対し乾燥風が送られ、湿潤フィルム52は乾燥し、フィルム55となる。
【0022】
クリップテンタ14は、フィルム55の両側縁部を把持する多数のクリップを有し、このクリップが延伸軌道上を走行する。クリップにより走行するフィルム55に対し乾燥風が送られ、フィルム55には、フィルム幅方向への延伸処理とともに乾燥処理が施される。なお、クリップテンタ14は省略しても良い。
【0023】
ピンテンタ13及びクリップテンタ14の下流にはそれぞれ耳切装置57a、57bが設けられている。耳切装置57a、57bはフィルム55の両側縁部を裁断する。この裁断した両側縁部は、送風によりクラッシャ58a、58bに送られて、粉砕され、ドープ等の原料として再利用される。
【0024】
乾燥室15には、多数のローラ59が設けられており、これらにフィルム55が巻き掛けられて搬送される。乾燥室15内の雰囲気の温度や湿度などは、図示しない空調機により調節されており、乾燥室15の通過によりフィルム55の乾燥処理が行われる。乾燥室15には吸着回収装置60が接続されており、フィルム55から蒸発した溶媒が吸着回収される。
【0025】
乾燥室15の出口側には冷却室16が設けられており、この冷却室16でフィルム55が室温となるまで冷却される。冷却室16の下流には強制除電装置(除電バー)61が設けられており、フィルム55が除電される。さらに、強制除電装置61の下流側には、ナーリング付与ローラ62が設けられており、フィルム55の両側縁部にナーリングが付与される。巻取室17には、プレスローラ63を有する巻取機64が設置されており、フィルム55が巻き芯65にロール状に巻き取られる。
【0026】
次に、フィードブロック27及び流延ダイ28の詳細について説明する。図2に示すように、以下の説明において、フィードブロック27の幅方向をX方向とし、このX方向と直交する方向をY方向とし、高さ方向をZ方向とする。
【0027】
(フィードブロック)
図2及び図3に示すように、フィードブロック27内には、合流部71aを有する主流路71と、合流部71aを介し主流路71と合流する副流路72、73とが形成されている。主流路71は高さ方向Zに貫通するようにフィードブロック27の略中央部に形成されており、フィードブロック27の上面に流入口75が、下面に流出口76が開口している。
【0028】
副流路72、73は、方向Yの両側からフィードブロック27の内部に向けて形成されている。副流路72、73は合流部71aで主流路71と合流する。主流路71のドープ流れに対して、副流路72、73内のドープ流れが円滑に合流するように、主流路71に対して、副流路72、73は鋭角に交差している。
【0029】
上記合流部71aにおいて、主流路71と副流路72、73との間には、仕切り板としてのベーン78、79が取付軸80、81を介して揺動自在に取り付けられている。合流部71aにおいて、副流路72、73の出口には、ディストリビューションピン82、83がX方向に配置されている。なお、ベーン78、79は省略しても良い。
【0030】
図3及び図4に示すように、ディストリビューションピン83の周面には、周方向に切欠部84が形成される。切欠部84は、副流路73と合流部71aとを連通する。ディストリビューションピン82も、ディストリビューションピン83と同様の構造を有する。ディストリビューションピン82、83とは、主流路71に対し対称となるように、フィードブロック27に配置される。
【0031】
(流延ダイ)
図5に示すように、流延ダイ28は、リップ板86、87と側板(図示しない)とを備える。方向Xに設けられるリップ板86、87は、離間するように方向Yに並べられる。側板は、リップ板86、87の間の隙間を塞ぐように、方向Yに設けられる。そして、リップ板86、87と側板とによって、流延ダイ28には、スロット88が形成される。スロット88は、フィードブロック27の流出口76と連通する流入口89と、積層ドープ45を流出する吐出口90とを連通する。吐出口90は、矩形であり、方向Xに長く伸びるように形成される。
【0032】
次に、フィルム製造ライン10によりフィルム55を製造する方法の一例を説明する。図1及び図3に示すように、中間層用ドープ21は、流路41を介してフィードブロック27へ送られる。裏面層用ドープ22は流路42を介して、表面層用ドープ23は流路43を介して、フィードブロック27へ送られる。各ドープ21〜23は、合流部71aにて合流し、積層ドープ45となって流延ダイ28へ送られる。フィードブロック27や流延ダイ28に設けられた温調機により、各ドープ21〜23及び積層ドープ45の温度は、30℃以上35℃以下の範囲で略一定に調節される。
【0033】
図1に示すように、温調装置34は、流延ドラム30の周面30bの温度が、−20℃以上0℃以下の範囲で略一定になるように調節する。流延ドラム30は、軸30aを中心に回転する。これにより、周面30bは方向A1へ走行する。周面30bの走行速度は、35m/分以上200m/分以下であることが好ましく、70m/分以上150m/分以下であることがより好ましい。
【0034】
流延ダイ28は、積層ドープ45を流延ドラム30の周面30bに向けて吐出する。吐出した積層ドープ45により、周面30b上には流延膜29が形成する。流延膜29は、周面30b上で冷却され、ゲル化により、自己支持性が発現する。流延膜29の冷却によるゲル化する過程の詳細は後述する。その後、剥取ローラ33は、自己支持性が発現した流延膜29を、流延ドラム30から湿潤フィルム52として剥ぎ取り、渡り部50を介して、ピンテンタ13へ案内する。
【0035】
剥ぎ取り時の流延膜29の残留溶媒量は、250重量%以上300重量%以下であることが好ましい。なお、本発明では、フィルム中に残留する溶媒量を乾量基準で示したものを残留溶媒量とする。また、その測定方法は、対象のフィルムからサンプルを採取し、このサンプルの重量をx、サンプルを乾燥した後の重量をyとするとき、{(x−y)/y}×100で算出する。
【0036】
ピンテンタ13では、多数のピンを湿潤フィルム52の両側端部に差し込んで固定した後、この湿潤フィルム52を搬送する間に乾燥を促進させてフィルム55とする。そして、まだ溶媒を含んでいる状態のフィルム55をクリップテンタ14に送り込む。ピンテンタ13及びクリップテンタ14を出たフィルム55は、耳切装置57a、57bによって両側端部が裁断される。両側端部が切断されたフィルム55は、乾燥室15と冷却室16とを経由し、巻取室17内の巻取機64によって巻き取られる。
【0037】
巻取機64で巻き取られるフィルム55は、長手方向(流延方向)に少なくとも100m以上とすることが好ましい。また、フィルム55の幅が600mm以上であることが好ましく、1400mm以上2500mm以下であることがより好ましい。また、本発明は、2500mmより幅広の場合にも効果がある。さらに、フィルム55の厚みが20μm以上または80μm以下の薄いフィルムを製造する際にも本発明は適用される。
【0038】
次に、冷却により流延膜29がゲル化する過程の詳細について説明する。図6(A)に示すように、流延ダイ28(図1参照)から吐出した積層ドープ45により、流延ドラム30の周面30b上には、流延膜29が形成される。流延膜29において、周面30b側から順に、裏面層用ドープ22(図1参照)からなる裏面層122と、中間層用ドープ21(図1参照)からなる中間層121と、表面層用ドープ23(図1参照)からなる表面層123とが層をなす。
【0039】
周面30bに形成した流延膜29には、厚みムラが生じている。そして、流延膜29は、流延ドラム30の周面30bとの接触により、裏面層122、中間層121及び表面層123の順に冷却される。この冷却により、各層121〜123における各ドープ21〜23は、剥取ローラ33により剥ぎ取られるまでにゲル状になる。
【0040】
ここで、ゲル状とは、コロイド溶液がジェリー状に固化した状態の他、ドープの流動性が失われた状態を含む。なお、「ドープの流動性が失われた」とは、溶質が高分子の場合は、溶媒が溶質の分子鎖の中で保持された状態で流動性を失い、結果的に溶液の流動性が失われた状態を意味し、一方、溶質が低分子の場合は、溶媒の分子と溶質の分子との相互作用により、結果的に溶液の流動性が失われた状態を含む。
【0041】
表面層用ドープ23のポリマー濃度C3は、中間層用ドープ21及び裏面層用ドープ22のポリマー濃度C1,C2に比べて低いため、表面層用ドープ23は、中間層用ドープ21及び裏面層用ドープ22に比べて、粘度が低く、ゲル化が起こりにくい。したがって、周面30b上の流延膜29は、中間層用ドープ21及び裏面層用ドープ22がゲル状でありながら、表面層用ドープ23が未だゲル化せずに一定の流動性を有する状態を経る。この状態の流延膜29においては、表面層用ドープ23の流動により、流延膜29に生じた厚みムラが緩和される(図6(B))。特に、支持体として、水平軸を有し、水平軸を中心に回転する流延ドラム30を用いる場合には、剥ぎ取り前の流延膜29における表面層用ドープ23は、鉛直方向下側の周面30b上にある流延膜29に向かって流動するため、流延膜29の厚みムラの緩和効果は大きなものとなる。
【0042】
以上のように、本発明によれば、表面層用ドープ23のポリマー濃度C3を、中間層用ドープ21のポリマー濃度C1のみならず、裏面層用ドープ22のポリマー濃度C2よりも低くするため、流延膜の厚みムラが緩和される結果、厚さが均一のフィルムを製造することができる。
【0043】
上記実施形態では、表面層用ドープ23のゲル化を中間層用ドープ21及び裏面層用ドープ22に比べて遅らせるために、表面層用ドープ23のポリマー濃度C3を、各ドープ21、22のポリマー濃度C1,C2より低くしたが、本発明はこれに限られず、周面30b上の流延膜29のうち、表面層123からの溶剤の蒸発を抑えてもよい。表面層123からの溶剤の蒸発を抑える方法としては、表面層123にあてる乾燥風の風量を抑える、この乾燥風の溶剤の凝縮点を下げる等の方法があり、いずれの方法も本発明に適用することができる。
【0044】
(ドープ濃度)
流延膜29を流延ドラム30から湿潤フィルム52として剥ぎ取るため、各ドープ21〜23のポリマー濃度C1〜C3は、剥ぎ取られるまで各ドープ21〜23がゲル状となるような濃度である必要がある。また、シャークスキンの発生の防止や、支持体の走行速度の高速化による生産効率の向上の点から、裏面層用ドープ22及び表面層用ドープ23の粘度が、中間層用ドープ21の粘度よりも低い必要がある。したがって、裏面層用ドープ22及び表面層用ドープ23のポリマー濃度C2、C3が、中間層用ドープ21のポリマー濃度C1よりも低い必要がある。加えて、剥ぎ取りまでに、流延膜29に生じた厚みムラを緩和するため、表面層用ドープ23のポリマー濃度C3は、中間層用ドープ21及び裏面層用ドープ22よりもゲル化しにくく、流延膜29の厚みムラを緩和し得る流動性を有するものである必要がある。
【0045】
裏面層用ドープ22のポリマー濃度C2は、中間層用ドープ21のポリマー濃度C1の80%以上99%以下であることが好ましく、83%以上90%以下であることがより好ましい。表面層用ドープ23のポリマー濃度C3は、中間層用ドープ21のポリマー濃度C1の72%以上99%未満であることが好ましく、75%以上90%未満であることがより好ましい。
【0046】
更に、中間層用ドープ21のポリマー濃度C1は、15重量%以上30重量%以下であることが好ましく、18重量%以上25重量%以下であることがより好ましく、20重量%以上24重量%以下であることが特に好ましい。裏面層用ドープ22のポリマー濃度C2は、15重量%以上25重量%以下であることが好ましく、17重量%以上25重量%以下であることがより好ましく、18.5重量%以上20重量%以下であることが特に好ましい。表面層用ドープ23のポリマー濃度C3は、15重量%以上20重量%以下であることが好ましく、17重量%以上20重量%以下であることがより好ましく、18重量%以上19重量%以下であることが特に好ましい。表面層用ドープ23のポリマー濃度C3が20重量%を超える場合には、流延膜29の厚みムラを緩和する前にゲル化してしまうため好ましくない。一方、表面層用ドープ23のポリマー濃度C3が16重量%未満である場合には、流延膜29の剥ぎ取り時に、表面層用ドープ23が周面30bに残留してしまうはげ残り故障が発生するため好ましくない。
【0047】
流延膜29全体の厚みは、300μm以上600μm以下であることが好ましく、400μm以上500μm以下であることがより好ましい。流延膜29の中間層121の厚みの平均値をTH1、裏面層122の厚みの平均値をTH2、及び流延膜29の表面層123の厚みの平均値をTH3とすると、TH3/(TH1+TH2)の値が0.03以上0.04以下であることが好ましく、0.036以上0.037以下であることがより好ましい。TH3/(TH1+TH2)の値が0.04を超えると各ドープ21〜23が周面30bに残留するため好ましくない。周面30bにおけるドープの残留は、ドープのポリマー濃度が低くなるに従って起こりやすくなる。従って、TH3(TH1+TH2)の値が上限値を超えると、比較的ポリマー濃度が低い各ドープ22、22が残留しやすい。一方、TH3/(TH1+TH2)の値が0.03未満であるとシャークスキンが発生するため好ましくない。
【0048】
TH3/TH1の値が0.03以上0.04以下であることが好ましく、0.037以上0.038以下であることがより好ましい。TH3/TH1の値が0.04を超えると、TH3/(TH1+TH2)の場合と同様にドープが周面30bに残留するため好ましくなく、TH3/TH1の値が0.03未満であるとシャークスキンが発生するため好ましくない。
【0049】
TH2/TH1の値が0.02以上0.03以下であることが好ましく、0.022以上0.027以下であることがより好ましい。TH2/TH1の値が0.03を超えると、TH3/(TH1+TH2)の場合と同様にドープが周面30bに残留するため好ましくなく、TH2/TH1の値が0.02未満であるとシャークスキンが発生するため好ましくない。
【0050】
図7に示すように、減圧チャンバ47を用いて、吐出口90と周面30bとの間に形成されるビード130の走行方向A1の上流側を減圧することにより、ビード長LBを短くすることができる。ビード長LBとは、吐出口90から吐出した積層ドープ45が、周面30b上の着地する着地位置Pにかけて形成するビード130の長さである。ビード長LBを短くすることで、厚みムラの原因となるビード130の振動を抑えることができる。したがって、減圧チャンバ47による減圧により、厚みムラ防止の効果を増大することができる。
【0051】
流延膜29に生ずる厚みムラは、図6に示すように、表面層123のみに厚みムラが生じる結果、流延膜29の厚みムラとなるものに限らず、中間層121や裏面層122に厚みムラが生じる、或いは、表面層123のみならず、中間層121や裏面層122にも厚みムラが生じる結果、流延膜29全体の厚みムラとなるものもある。本発明によれば、流延膜29に生じた厚みムラの態様に関わらず、厚みムラを緩和することが可能である。
【0052】
上記実施形態では、冷却により流延膜29に自己支持性を発現させたが、本発明はこれに限られず、流延膜29に含まれる溶媒の蒸発により流延膜29に自己支持性を発現させてもよい。
【0053】
上記実施形態では、支持体として流延ドラム30を用いたが、本発明はこれに限られず、ローラに掛け渡され、ローラの回転により、エンドレスに走行する流延バンドを用いてもよい。
【0054】
上記実施形態では、走行する支持体に積層ドープ45を流延したが、本発明はこれに限られず、静止する支持体に積層ドープ45を流延してもよい。
【0055】
(ポリマー)
以下、本発明において各ドープ21〜23を調製する際に使用する原料について説明する。
【0056】
本実施形態では、ポリマーとしてセルロースアシレートを用いており、セルロースアシレートとしては、セルローストリアセテート(TAC)が特に好ましい。そして、セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基へのアシル基の置換度が下記式(I)〜(III)の全てを満足するものがより好ましい。なお、以下の式(I)〜(III)において、AおよびBは、セルロースの水酸基中の水素原子に対するアシル基の置換度を表わし、Aはアセチル基の置換度、Bは炭素原子数が3〜22のアシル基の置換度である。なお、TACの90重量%以上が0.1〜4mmの粒子であることが好ましい。ただし、本発明に用いることができるポリマーは、セルロースアシレートに限定されるものではない。
(I) 2.5≦A+B≦3.0
(II) 0≦A≦3.0
(III) 0≦B≦2.9
【0057】
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位,3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位,3位および6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化の場合を置換度1とする)を意味する。
【0058】
全アシル化置換度、すなわち、DS2+DS3+DS6の値は、2.00〜3.00が好ましく、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)の値は、0.28以上が好ましく、より好ましくは0.30以上であり、特に好ましくは0.31〜0.34である。ここで、DS2は、グルコース単位における2位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下、2位のアシル置換度と称する)であり、DS3は、グルコース単位における3位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下、3位のアシル置換度と称する)であり、DS6は、グルコース単位において、6位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下、6位のアシル置換度と称する)である。
【0059】
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでもよいし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていてもよい。2種類以上のアシル基を用いるときには、その1つがアセチル基であることが好ましい。2位,3位および6位の水酸基がアセチル基により置換されている度合いの総和をDSAとし、2位,3位および6位の水酸基がアセチル基以外のアシル基によって置換されている度合いの総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、2.22〜2.90であることが好ましく、特に好ましくは2.40〜2.88である。
【0060】
また、DSBは0.30以上であることが好ましく、特に好ましくは0.7以上である。さらにDSBは、その20%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましく、より好ましくは25%以上であり、30%以上がさらに好ましく、特には33%以上であることが好ましい。さらに、セルロースアシレートの6位におけるDSA+DSBの値が0.75以上であり、さらに好ましくは、0.80以上であり、特には0.85以上であるセルロースアシレートも好ましく、これらのセルロースアシレートを用いることで、より溶解性に優れた溶液(ドープ)を作製することができる。特に、非塩素系有機溶媒を使用すると、優れた溶解性を示し、低粘度で濾過性に優れるドープを作製することができる。
【0061】
セルロースアシレートの原料であるセルロースは、リンター,パルプのどちらから得られたものでもよい。
【0062】
本発明におけるセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でもよく、特に限定はされない。例えば、セルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステル、芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどが挙げられ、それぞれ、さらに置換された基を有していてもよい。これらの好ましい例としては、プロピオニル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、iso−ブタノイル基、t−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などが挙げられる。これらの中でも、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、t−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などがより好ましく、特に好ましくは、プロピオニル基、ブタノイル基である。
【0063】
(溶媒)
ドープを調製する溶媒としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)およびエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが挙げられる。なお、本発明においてドープとは、ポリマーを溶媒に溶解または分散させることで得られるポリマー溶液または分散液を意味している。
【0064】
上記のハロゲン化炭化水素の中でも、炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが最も好ましく用いられる。TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フィルムの機械的強度および光学特性などの物性の観点から、ジクロロメタンの他に炭素原子数1〜5のアルコールを1種ないし数種類混合することが好ましい。アルコールの含有量は、溶媒全体に対して2〜25重量%が好ましく、より好ましくは、5〜20重量%である。アルコールとしては、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノールなどが挙げられるが、メタノール,エタノール,n−ブタノール、あるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0065】
最近、環境に対する影響を最小限に抑えることを目的に、ジクロロメタンを使用しない溶媒組成も検討されている。この場合には、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル、炭素数1〜12のアルコールが好ましく、これらを適宜混合して用いる場合もある。例えば、酢酸メチル,アセトン,エタノール,n−ブタノールの混合溶媒が挙げられる。これらのエーテル、ケトン,エステルおよびアルコールは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン,エステルおよびアルコールの官能基(すなわち、−O−,−CO−,−COO−および−OH)のいずれかを2つ以上有する化合物も溶媒として用いることができる。
【0066】
(添加剤)
各ドープ21〜23には、添加剤が含まれていてもよい。中間層用ドープ21には、例えば紫外線吸収剤,レターデーション制御剤や可塑剤などの添加剤が、含まれていてもよい。また、裏面層用ドープ22や表面層用ドープ23には、支持体である流延バンドからの剥離を容易とする剥離促進剤(例えば、クエン酸エステルなど)、フィルムをロール状に巻き取った際にフィルム間での密着を抑制するマット剤(例えば、二酸化ケイ素など)、劣化防止剤、可塑剤,紫外線吸収剤やレターデーション制御剤などの添加剤が含まれていても良い。
【0067】
セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号の[0140]段落から[0195]段落に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。また、溶媒および可塑剤,劣化防止剤,紫外線吸収剤(UV剤),光学異方性コントロール剤,レターデーション制御剤,染料,マット剤,剥離剤,剥離促進剤などの添加剤についても、同じく特開2005−104148号の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【実施例】
【0068】
次に、本発明の効果の有無を確認するために、実験1〜5を行った。詳細の説明は実験1で行い、実験2〜5については、実験1と同じ条件の箇所の説明は省略し、異なる部分のみを説明する。
【0069】
(実験1)
次に、実験1について説明する。フィルム製造に使用したポリマー溶液(ドープ)の調製に際しての配合を下記に示す。
【0070】
[ドープの調製]
各ドープ21〜23の調製に用いた化合物の処方を下記に示す。
セルローストリアセテート(置換度2.8) 89.3重量%
可塑剤A(トリフェニルフォスフェート) 7.1重量%
可塑剤B(ビフェニルジフェニルフォスフェート) 3.6重量%
の組成比からなる固形分X(溶質)を
ジクロロメタン 80重量%
メタノール 13.5重量%
n−ブタノール 6.5重量%
からなる混合溶媒Yに添加し、攪拌溶解して中間層用ドープ21を調製した。なお、中間層用ドープ21のポリマー濃度C1は略23重量%であった。同様にして、固形分Xを混合溶媒Yに適宜添加し、攪拌溶解して裏面層用ドープ22及び表面層用ドープ23を調製した。裏面層用ドープ22のポリマーTAC濃度C2は略20重量%であり、表面層用ドープ23のポリマーTAC濃度C3は略18重量%であった。各ドープ21〜23を濾紙(東洋濾紙(株)製,#63LB)にて濾過後さらに焼結金属フィルタ(日本精線(株)製06N,公称孔径10μm)で濾過し、さらにメッシュフイルタで濾過した。
【0071】
[セルローストリアセテート]
なお、ここで使用したセルローストリアセテートは、残存酢酸量が0.1重量%以下であり、Ca含有率が58ppm、Mg含有率が42ppm、Fe含有率が0.5ppmであり、遊離酢酸40ppm、さらに硫酸イオンを15ppm含むものであった。また6位水酸基の水素に対するアセチル基の置換度は0.91であった。また、全アセチル基中の32.5%が6位の水酸基の水素が置換されたアセチル基であった。また、このTACをアセトンで抽出したアセトン抽出分は8重量%であり、その重量平均分子量/数平均分子量比は2.5であった。また、得られたTACのイエローインデックスは1.7であり、ヘイズは0.08、透明度は93.5%であった。このTACは、綿から採取したセルロースを原料として合成されたものである。
【0072】
図1に示すフィルム製造ライン10を用いてフィルム55を製造した。積層ドープ45の温度を略34℃で略一定となるように調整するために、流延ダイ28にジャケット(図示しない)を設けてジャケット内に供給する伝熱媒体の温度を調節した。制御部38の制御の下、軸30aの駆動により、周面30bの走行方向A1における速度を略35m/分とした。制御部38の制御の下、温調装置34は、流延ドラム30の周面30bの温度を−10℃で略一定になるように調節した。流延ドラム30上での乾燥雰囲気における酸素濃度は5vol%に保持した。なお、この酸素濃度を5vol%に保持するために空気を窒素ガスで置換した。減圧チャンバ47は、流延ビードの背面側を減圧し、流延ビードの長さが20mm〜50mmとなるように流延ビードの前面側と背面側との圧力差を調節した。
【0073】
図示しないポンプは、各ドープ21〜23をフィードブロック27へ送った。フィードブロック27は、各ドープ21〜23から積層ドープ45をつくり、積層ドープ45を、流延ダイ28へ送った。流延ダイ28は、フィルム55の厚みが105μmとなるように、積層ドープ45を周面30b上に流延し、流延膜29を形成した。形成直後の流延膜29の膜厚は456μmであり、TH1は430μmであり、TH2は10μmであり、TH3は16μmであった。
【0074】
冷却により、流延膜29が自己支持性を有するものとなった後、剥取ローラ33を用いて、流延ドラム30から流延膜29を湿潤フィルム52として剥ぎ取った。剥取不良を抑制するために流延ドラム30の速度に対して剥取速度(剥取ローラドロー)は100.1%〜110%の範囲で適切に調整した。
【0075】
剥取ローラ33は、湿潤フィルム52に渡り部50に案内した。渡り部50では、温度が略60℃の乾燥空気を湿潤フィルム52にあてて、湿潤フィルム52を乾燥させた。渡り部50に設けられるローラ53は、湿潤フィルム52をピンテンタ13に案内した。
【0076】
ピンテンタ13では、湿潤フィルム52に乾燥空気をあてて、湿潤フィルム52を乾燥した。この乾燥により湿潤フィルム52からフィルム55を得た。その後、ピンテンタ13は、フィルム55をクリップテンタ14に送った。クリップテンタ14では、フィルム55に乾燥空気をあてて、フィルム55を乾燥しながら、幅方向に延伸処理を施した。
【0077】
ピンテンタ13、クリップテンタ14から送られたフィルム55の両側縁部を、耳切装置57a、57bにて、切断した。耳切装置57bを経たフィルム55を、乾燥室15に送った。乾燥室15では、フィルム55に温度が略140℃の乾燥空気をあてて、フィルム55を乾燥した。フィルム55の幅は3000mmであった。
【0078】
そして、フィルム55を巻取室17に搬送した。巻取室17は、室内温度28℃,湿度70%に保持した。巻取室17の内部には、フィルム55の帯電圧が−1.5kV〜+1.5kVとなるようにイオン風除電装置(図示しない)も設置した。最後に、プレスローラ63で所望のテンションを付与しつつ、フィルム55を巻取室17内の巻取機64で巻き取った。
【0079】
(評価)
製造したフィルム55等について以下の評価を行った。
【0080】
1.面状評価
フィルム55を目視で観察し、以下基準に基づいて、フィルム55の面状を評価した。
◎:フィルム表面は平滑である。
○:フィルム表面は平滑であるが、少し異物が見られる。
△:フィルム表面に弱い凹凸が見られ、異物の存在がはっきり観察される。
×:フィルム表面に凹凸が見られ、異物が多数見られる。
【0081】
2.厚みムラ評価
得られたフィルム55について、厚みムラ評価を行った。25℃,60RH%下でフジノン製コンパクトレーザー干渉計F601を用いて、フィルム55のX方向中央部のY方向における厚みムラの大きさを測定した。そして、以下基準に基づいて、厚みムラの評価を行った。
◎: 厚みムラ凹凸が0.2μm未満
○: 厚みムラ凹凸が0.2μm以上0.5μm未満
×: 厚みムラ凹凸が0.5μm以上
【0082】
3.剥げ残りの有無の評価
流延膜29の流延ドラム30上での剥げ残りの有無について、以下基準に基づいて評価した。
◎:剥げ残りの発生を確認することができなかった。
○:剥げ残りの発生を確認したが、製造されたフィルムとしては、実用に耐えうる程度であった。
×:剥げ残りの発生により、フィルムが裂けてしまった。
【0083】
(実験2〜5)
各条件を表1に示す値に代えたこと以外は、実験1と同様にして、フィルム55を製造した。
【0084】
表1には、実験1〜実験5における、各ドープ21〜23のポリマー濃度C1〜C3(重量%)、形成直後の流延膜29における各層121〜123の厚さTH1〜TH3(μm)、及び評価結果を示す。表1における評価結果の番号は、各評価項目に付した番号を示す。
【0085】
【表1】

【0086】
表1より、本発明によれば、厚みムラを抑え、フィルムを製造することができることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】フィルム製造ラインの概略図である。
【図2】フィードブロック、流延ダイ及びこれらの周辺に配される各装置についての斜視図である。
【図3】フィードブロックのYZ面についての断面図である。
【図4】ディストリビューションピン、及びベーンの斜視図である。
【図5】流延ダイのYZ面についての断面図である。
【図6】(A)は、流延ドラムの周面上に形成され、厚みムラが生じている流延膜の断面図であり、(B)は、厚みムラが緩和された後の流延膜の断面図である。
【図7】減圧チャンバの減圧により、ビード長が短くなる様子を示す説明図である。
【符号の説明】
【0088】
10 フィルム製造ライン
12 流延室
13 ピンテンタ
14 クリップテンタ
15 乾燥室
16 冷却室
17 巻取室
21 中間層用ドープ
22 裏面層用ドープ
23 表面層用ドープ
27 フィードブロック
28 流延ダイ
29 流延膜
30 流延ドラム
45 積層ドープ
47 減圧チャンバ
55 フィルム
121 中間層
122 裏面層
123 表面層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流延ダイを用いて、ポリマーと溶剤とを含み、ポリマーの含有濃度が順に低くなる第1ドープ、第2ドープ及び第3ドープを、走行する支持体に同時に吐出し、前記支持体の表面側から順に、前記第2ドープ、前記第1ドープ及び前記第3ドープが層を成す流延膜を形成する膜形成工程と、
前記支持体の表面との接触により前記流延膜を冷却する冷却工程と、
前記冷却により自己支持性を有するものとなった前記流延膜を前記支持体から剥ぎ取り工程と、
を有することを特徴とする溶液製膜方法。
【請求項2】
前記膜形成工程では、前記流延ダイから吐出した前記各ドープにより形成される流延ビードの前記支持体の走行方向上流側を減圧することを特徴とする請求項1記載の溶液製膜方法。
【請求項3】
前記第2ドープの前記ポリマー濃度は、前記第1ドープの前記ポリマー濃度の80%以上99%以下であり、
前記第3ドープの前記ポリマー濃度は、前記第1ドープの前記ポリマー濃度の72%以上99%未満であることを特徴とする請求項1または2記載の溶液製膜方法。
【請求項4】
前記流延膜において、前記第1ドープがなす第1層の厚さをTH1、前記第2ドープがなす第2層の厚さをTH2、及び前記第3ドープがなす第3層の厚さをTH3とするときに、TH1/(TH2+TH3)の値が8以上12以下であることを特徴とする請求項1ないし3のうちいずれか1項記載の溶液製膜方法。
【請求項5】
前記支持体の走行速度が35m/分以上であることを特徴とする請求項1ないし4のうちいずれか1項記載の溶液製膜方法。
【請求項6】
前記ポリマーがセルロースアシレートを含むことを特徴とする請求項1ないし5のうちいずれか1項記載の溶液製膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−64394(P2010−64394A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−233653(P2008−233653)
【出願日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】