説明

溶着ビレットの分離装置および誘導加熱方式ビレットヒータ

【課題】ビレットヒータ内で、先行するビレットAの後端と次に続くビレットBの前端とが溶着した状態が発生し、その状態でビレットヒータから次の工程に向けて送り出されてきたとしても、次の工程たる鍛造工程に導入される前に、該溶着した状態を解くことができる溶着ビレットの分離装置と、該分離装置を備えた誘導加熱方式ビレットヒータを提供すること。
【解決手段】先行するビレットAの後端と次に続くビレットBの前端とが溶着した状態でビレットヒータ内から送り出されてきた溶着棒状ビレットを検知する機構と、該溶着棒状ビレットを検知したときに前記先行ビレットAにハンマー打撃による衝撃を与えて、前記溶着した状態から個々のビレットA、Bに分離させる機構を有することを特徴とする溶着ビレットの分離装置であり、該溶着ビレットの分離装置を、加熱済みビレットの出口部の下流に設けてなることを特徴とする誘導加熱方式ビレットヒータである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶着ビレットの分離装置および誘導加熱方式ビレットヒータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の金属部品などは鍛造により製造されることが多くあり、その鍛造直前の金属材料は、誘導加熱方式のビレットヒータ内に、所定長さの金属ビレット(金属の棒状体。以下、「ビレット」という)として導入されて、例えば、1250℃前後などの鍛造に必要な高温度まで加熱される。
【0003】
この加熱は、一般に、所望の鍛造製品に応じた定尺(所定長さ)のビレットの一個一個を、直列状に整列させた状態で、連続的に順次に誘電加熱方式のビレットヒータ内に導入して行われる。ビレットヒータの長さは、ビレットがその表面温度と中心温度とがほぼ同一の温度になるまでの加熱処理が行われるに足りる処理長(処理時間)をとれるまでの十分な長さで構成される(特許文献1参照)。
【0004】
個々のビレットの寸法は、特に限定されるものではなく、所望の鍛造製品の形状寸法に対応しても変わるものであるが、一般的には、短いものでは50mm程度のものから、長いものでは200mm程度、場合によっては500mm程度の長さのもの、さらにはそれを超えるレベルのものもある。
【0005】
これらビレットは、通常は、ビレットヒータへの導入直前まではコンベアに載置されて搬送されてきて、該コンベアの出口部付近で、駆動する一対のピンチローラ機構を通過することによりビレットヒータ内に送り出され、ビレットヒータ内にては、後から送り出されてくるビレットにより順次に押されることによって誘導加熱コイル内に延在して設置された案内レール上を案内されて進行しながら、誘導加熱によって加熱される。
【0006】
このように、一般に、ビレットヒータ内では、加熱ビレットは積極搬送されるものではなく、ピンチローラ機構により順次に後から送られてくる加熱ビレットに押されて進むものである。
【0007】
したがって、前記の1250℃前後などの鍛造に必要な高温度まで加熱されるという加熱条件のもとで、先行する加熱ビレットの後端面部と後に続く加熱ビレットの前端面部どおしが溶着した状態でヒータ出口から出てくることがある。
【0008】
そうした溶着した状態で出てきたビレットは、そのままの長い状態で鍛造機に送り込まれた場合、鍛造機の運転を停止する必要が生じたり、あるいは、所望したとおりの鍛造品を製造することができず、生産性の低下などの問題を招くものであった。
【0009】
このような観点から、溶着したビレットがそのままの長い状態で鍛造機に送り込まれるを防止することを目的に、溶着したビレットを判別して分離させるという方法などについて具体的提案がされている(特許文献2−4参照)。
【0010】
しかし、特許文献2の提案においては、溶着したビレットと溶着していないビレットを仕分けることを行うだけに止まり、溶着したビレットはラインから除外されて廃棄されるなどの処理をされることになり、ビレット材の収率や鍛造製品コスト、生産管理の点等では望ましくないものであった。
【0011】
また、特許文献3の提案においては、溶着したビレットの前端を検知して該溶着ビレットの進行方向に対して垂直に該溶着ビレットの前端を抑えて溶着状態にあるビレットを分離させるものであるが、被加熱ビレットの所定長さによっては機能しないという問題があった。
【0012】
また、特許文献4に記載されている提案は、ビレットヒータを出て後、いわゆる傾斜シューター内で、先行する被加熱ビレット側が下向き状態でストッパに当接して停止し、その状態でビレット側面方向から力を加えて溶着ビレットを分離するというものであって、傾斜シュートへの自然落下にまで至らない状況である通常のビレット溶着の場合では対処できないものであった。
【特許文献1】実公平6−21195号公報
【特許文献2】特開平4−34887号公報
【特許文献3】実開昭62−33000号公報
【特許文献4】特開2000−263185号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、上述したような点に鑑み、ビレットヒータ内で、先行するビレットAの後端と次に続くビレットBの前端とが溶着した状態が発生し、その状態でビレットヒータから次の工程に向けて送り出されてきたとしても、次の工程たる鍛造工程に導入される前に該溶着した状態を解くことができる溶着ビレットの分離装置と、該分離装置を備えた誘導加熱方式ビレットヒータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した目的を達成する本発明の溶着ビレットの分離装置は、以下の(1)の構成からなる。
(1)先行するビレットAの後端と次に続くビレットBの前端とが溶着した状態でビレットヒータ内から送り出されてきた溶着棒状ビレットを検知する機構と、該溶着棒状ビレットを検知したときに前記先行ビレットAにハンマー打撃による衝撃を与えて、前記溶着した状態から個々のビレットA、Bに分離させる機構を有することを特徴とする溶着ビレットの分離装置。
【0015】
また、上述した目的を達成する本発明の誘導加熱方式ビレットヒータは、以下の(2)の構成からなるものである。
(2)上記(1)記載の溶着ビレットの分離装置を、加熱済みビレットの出口部の下流に設けてなることを特徴とする誘導加熱方式ビレットヒータ。
【0016】
またかかる本発明の誘導加熱方式ビレットヒータにおいて、より具体的に好ましくは、以下の(3)、(4)の具体的構成を有するものである。
(3)加熱済みビレットの出口部の下流に、被加熱ビレットの所定長さに対応して、前記被加熱ビレットの進行方向上における溶着棒状ビレットの検知位置および/またはハンマー打撃位置を調節する機構を有することを特徴とする上記(2)記載の誘導加熱方式ビレットヒータ。
(4)前記加熱済みビレットをビレットヒータ内から送り出す機構として、積極回転駆動する鼓状のピンチローラーを有し、該鼓状のピンチローラで後続のビレットBの前端付近を把持している状態で、先行するビレットAの前端〜中央付近の間の位置にハンマー打撃による衝撃を与えるように構成せしめてなることを特徴とする上記(2)または(3)記載の誘導加熱方式ビレットヒータ。
【発明の効果】
【0017】
請求項1にかかる本発明の溶着ビレットの分離装置によれば、先行するビレットAの後端と次に続くビレットBの前端とが溶着した状態でビレットヒータ内から送り出されてきた溶着棒状ビレットを検知して、確実に、それらビレットA、Bを分離させて、次の鍛造工程に送り出す溶着ビレットの分離装置が提供される。
【0018】
また、請求項2にかかる本発明によれば、加熱が完了したビレットを一個一個確実に分離された状態で、後工程たる鍛造工程に送り出すことができる誘導加熱方式ビレットヒータを提供できるものである。
【0019】
請求項3にかかる本発明によれば、さまざまな長さの被加熱ビレットに対応して上記請求項2に記載の効果を良好に発揮することができる誘導加熱方式ビレットヒータを提供できるものである。
【0020】
請求項4記載の本発明によれば、上記請求項2に記載の効果をより確実に良好に発揮して溶着ビレットを分離することができる誘導加熱方式ビレットヒータを提供できるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、更に詳しく本発明について、説明する。
【0022】
本発明の溶着ビレットの分離装置は、先行するビレットAの後端と次に続くビレットBの前端とが溶着した状態でビレットヒータ内から送り出されてきた溶着棒状ビレットを検知する機構と、該溶着棒状ビレットを検知したときに前記先行ビレットAにハンマー打撃による衝撃を与えて、前記溶着した状態から個々のビレットA、Bに分離させる機構を有することを特徴とする溶着ビレットの分離装置である。
【0023】
図1は本発明の溶着ビレットの分離装置の構造をモデル的に説明する概略側面図であり、図2は本発明の溶着ビレットの分離装置の構造をモデル的に説明する概略平面図であり、図3は本発明の溶着ビレットの分離装置の構造をモデル的に説明する概略右側面図である。
【0024】
これら図で示すように、誘導加熱方式ビレットヒータ3内で加熱されて鍛造に必要な高温度まで昇温されたビレット1(先行するビレットA)、2(次に続くビレットB)は、互いに直列軸方向に並んだ状態で、ビレット1の後端面とビレット2の先端面とを接しつつ、後続のビレット2が先行するビレット1を押しながら進むことによりヒータ3内での搬送と排出がなされる。
【0025】
本発明の装置では、誘導加熱方式ビレットヒータ3からビレット1、2が出た後、駆動モータ5によって積極的に駆動される一対のピンチローラを含む送り出しローラ4によってヒータ3内の搬送経路の延長線上をそのまま進むようにされて、該送り出しローラ4を該ビレット1、2は通過する。
【0026】
上下一対のピンチローラを含む送り出しローラ4は、図1に示したように、水平方向に2個のローラが並置され、かつ、少なくとも該水平方向に並置された2個のローラは、図2や図4に示したように中央部の径が小さい鼓(つつみ)状のローラ形状となっており、かかる構造の送り出しローラ4を用いることにより、該送り出しローラ4から送り出されるビレットは水平位置と高さ位置の双方において進行経路が正確に制御されているものである。かつ、送り出しローラ4は、モータ5により積極回転駆動されるように構成されているので、一対のピンチローラ部分の上述の鼓状の形状と相俟って、通過するビレットを上下ローラ間で強く積極把持しつつ正確に進行方向に送り出すものである。該送り出しローラ4の下流側には、送り出されたビレットを受け取り、鍛造機導入部11に案内する出口シュート6が滑り台方式にて構成されている。
【0027】
このような構成のもとで、送り出しローラ4を出たビレット1は、所定の長さのままの1個の独立した、特に、前後ビレットどおしで溶着が生じていないもののときには、後続のビレット2により押されて送り出しローラ4を出た後は、該ビレット1の自重によりそのまま出口シュート6上に自然落下していく。そして、鍛造機導入部11を通り、次のプロセスである鍛造工程に送られていくものである。このような自重による自然落下は、次のビレット2のときも同様であり、次から次へと昇温された1個1個のビレットは次工程に送られていく。
【0028】
一方、先行しているビレット1の後端面が、それに続くビレット2の先端面と溶着している場合には、ビレット1はその自重によって自然落下することができず、次のビレット2の進行に伴い、搬送時の高さ位置を保持したまま、水平方向(ヒータ内から出口にかけての、所期のビレット進行方向)にそのまま進行していく。本発明の装置では、その進行していく先の位置に溶着棒状ビレット検知機構7を設けておき、その位置までのビレット1の進出を検知した場合、後に続くビレット2との溶着が生じていると判断し、直ちに、エアシリンダ8を作動させることによりハンマ9を作動させて(振り下ろさせ)、進出してきたビレット1の好ましくは前端付近〜中央付近の間、より好ましくは前端付近に打撃による衝撃を与えて、後続のビレット2との溶着状態を解くものである。
【0029】
衝撃を与えられ分離されたビレット1は、各図に示したように、そのまま落下して鍛造機導入部11を通り、次のプロセスである鍛造工程に送られていく。
【0030】
ハンマ9による打撃(衝撃)の付与時には、溶着した後続ビレット2は、一対のピンチローラで把持されているので、ビレット1や2が跳ね返ることなどもなく分離ができるものである。
【0031】
溶着棒状ビレット検知機構7は、進出してくる溶着ビレットの存否を検知する光電スイッチを用いて構成することが、検知の正確さや装置コストの点で好ましい。
【0032】
図1において10はエアシリンダ制御部であり、図2においてLは光電スイッチの光軸線である。
【0033】
図2、図3で示したように、エアシリンダ8とハンマ9は、一つのハンマ台装置12として共通の台上に形成されていることが好ましく、該ハンマ台装置12は、ハンドル13を使用することにより、ビレットの進行方向に平行(図2の矢印C方向)に移動をすることが可能とされていることが好ましい。このように構成することにより、被加熱ビレットの種類ごとのビレット長さに対応して、溶着棒状ビレット検知機構7の位置(光電スイッチ7の位置、光軸線Lの位置)とハンマ9の位置を送り出しローラ4の位置に寄せることや離すことができ、より適切な位置に調節をした状態でハンマ打撃による衝撃を与えることができる。
【0034】
図3にハンマ9の動作を示しているが、エアシリンダ8の作動により、支点14がエアシリンダ運動方向に前後移動され、その動作により振り支点15を中心にしてハンマ9が振り下ろされるものである。図4は、図3に示した方向からみたハンマ動作をモデル的に更に説明するものであり、同図の(a)は直径がやや小さめのビレットに対するハンマ作動の状態を示し、同図(b)は直径がやや大きめのビレットに対するハンマ作動の状態を示している。
【0035】
本発明の装置は、このようにビレットが小さいとき、あるいは大きいときのいずれにも対応できるが、打撃点の高さ位置は多少異なり、小さい径のときはより低い位置となり、一方、大きい位置のときはより高い位置となる。この結果、ハンマ9でビレットに与える打撃力(衝撃力)も多少相違することとなるが、まだ昇温状態にあるビレットは、本来、溶着しているとはいっても、コツンと軽く叩く程度で簡単に分離されてしまう程度のものであり、ハンマを変更するなどのことも通常は必要ない。
【0036】
もともと、コツンと叩く程度で分離するような溶着に対して、本発明の装置は有効なものなのである。従って、図4の(c)は、ハンマの最も振り下ろし位置の最下到達点をモデル的に示したものであるが、せいぜい送り出しローラ4の高さ位置と同等程度のものであれば十分なものであるといえる。ただし、適宜に、ハンマ9の最下到達点を図示のものよりも低い位置に設定しても構わない。
【0037】
また、図5は、本発明の溶着ビレットの分離装置におけるハンマ9の動作に関して、溶着ビレットと、溶着棒状ビレット検知機構7の位置(光電スイッチ7の位置)や送り出しローラ4との位置関係をモデル的に示した概略斜視図である。特に限定されるものではないが、好ましくは、図5に示したように、鼓状のピンチローラ4で後続のビレット2の前端付近を把持している状態で、先行するビレット1の前端〜中央付近の間の位置においてハンマー9の打撃による上方からの衝撃を与えるように構成することがよいものである。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】図1は、本発明の溶着ビレットの分離装置の構造をモデル的に説明する概略側面図である。
【図2】図2は、本発明の溶着ビレットの分離装置の構造をモデル的に説明する概略平面図である。
【図3】図3は、本発明の溶着ビレットの分離装置の構造をモデル的に説明する概略右側面図である。
【図4】図4(a)、(b)、(c)は、本発明の溶着ビレットの分離装置におけるハンマの動作をモデル的に説明するモデル図である。
【図5】図5は、本発明の溶着ビレットの分離装置におけるハンマ9の動作に関して、溶着ビレットと、溶着棒状ビレット検知機構7の位置(光電スイッチ7の位置)や送り出しローラ4との位置関係をモデル的に示した概略斜視図である。
【符号の説明】
【0039】
1:先行するビレットA
2:ビレットAに続くビレットB
3:誘導加熱方式ビレットヒータ
4:送り出しローラ
5:モータ
6:出口シュート
7:溶着棒状ビレット検知機構(光電スイッチ)
8:エアシリンダ
9:ハンマ
10:エアシリンダ制御部
11:鍛造機導入部
12:ハンマ台装置
13:ハンドル
14:支点
15:ハンマの振り支点
L:光軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先行するビレットAの後端と次に続くビレットBの前端とが溶着した状態でビレットヒータ内から送り出されてきた溶着棒状ビレットを検知する機構と、該溶着棒状ビレットを検知したときに前記先行ビレットAにハンマー打撃による衝撃を与えて、前記溶着した状態から個々のビレットA、Bに分離させる機構を有することを特徴とする溶着ビレットの分離装置。
【請求項2】
請求項1記載の溶着ビレットの分離装置を、加熱済みビレットの出口部の下流に設けてなることを特徴とする誘導加熱方式ビレットヒータ。
【請求項3】
加熱済みビレットの出口部の下流に、被加熱ビレットの所定長さに対応して、前記被加熱ビレットの進行方向上における溶着棒状ビレットの検知位置および/またはハンマー打撃位置を調節する機構を有することを特徴とする請求項2記載の誘導加熱方式ビレットヒータ。
【請求項4】
前記加熱済みビレットをビレットヒータ内から送り出す機構として、積極回転駆動する鼓状のピンチローラーを有し、該鼓状のピンチローラで後続のビレットBの前端付近を把持している状態で、先行するビレットAの前端〜中央付近の間の位置にハンマー打撃による衝撃を与えるように構成せしめてなることを特徴とする請求項2または3記載の誘導加熱方式ビレットヒータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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