説明

溶融めっき鋼帯の製造方法

【課題】めっき浴中に生成されたボトムドロスに起因する溶融金属めっき鋼板の表面欠陥を効果的に低減する。
【解決手段】温度制御装置48は、めっき浴24に浸入する鋼帯12の浸入板温TIを、鋼帯の幅w及び厚さt、ラインスピードLS、めっき浴24における流動領域の測定浴温並びに、流動領域の測定浴温とよどみ領域の測定浴温との浴温偏差DTに応じて制御する。これにより、鋼帯12からめっき浴24の流動領域に移動する入熱量を適正に制御できるようになるので、めっき浴24における流動領域付近の浴温が局部的に上昇することを抑制できると共に、めっき浴24における流動領域とよどみ領域との浴温偏差が大きくなることを抑制し、ボトムドロスの生成及び、ボトムドロスが上昇流によりめっき浴24中に広く拡散することを効果的に抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長尺帯状の鋼帯に溶融亜鉛等の溶融金属を連続的にめっきする溶融めっき鋼帯の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図5には、従来の連続溶融亜鉛めっき設備の一例が示されている。縦断面図によって示す。図5において、22はめっきポット、26はシンクロール、24はめっきポット22内に蓄えられた溶融亜鉛のめっき浴、32はめっき付着量制御のためのガスワイピング装置、12は鋼帯、Fは連続溶融亜鉛めっき設備における鋼帯12の搬送方向を示す。
連続溶融亜鉛めっき設備においては、鋼帯12をめっき浴24に連続的に浸入させ、めっき浴24中のシンクロール26により方向転換し、めっき浴24より上方へ引き上げて連続的に亜鉛めっきを施し、溶融亜鉛めっき鋼帯を製造する。また、溶融亜鉛めっき設備においては、一般的に、めっきしたままの通常の溶融亜鉛めっき鋼板(GI)と、亜鉛めっき後、加熱合金化処理を施す合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)を、同一ラインで適宜処理を切り替えることにより製造している。
【0003】
この内、合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、耐食性、溶接性および加工性に優れた特性を有するため、主に自動車用鋼板として広く使用されているが、特に外装用鋼板として使用される場合には、塗装後の高鮮映性も要求されるなど、品質に対する要求が益々厳しくなっている。かかる状況下において、溶融亜鉛めっきポット内では、鋼帯から溶出するFeとZnが反応して、FeZn7を主成分とするボトムドロスが生成し、めっき用ポット内の底部に堆積する。
【0004】
このようなボトムドロスは、めっき浴中のシンクロールを周回して搬送される鋼帯の随伴流であるめっき液に巻き上げられて鋼帯に付着することがある。この場合、製造されためっき鋼板のプレス時に、所謂、プレスブツ等の表面欠陥が生じ、鮮映性が損なわれるばかりでなく、付着ドロスが金型に損傷を与えるという問題がある。このような欠陥の原因と成り得るボトムドロスは、めっき浴中のAl含有率が低い合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造時に生成量が増加する。このため、GA型溶融亜鉛めっき鋼板には、GI型溶融亜鉛めっき鋼板と比べて、ボトムドロスに起因する表面欠陥が発生しやすい。
【0005】
例えば、特許文献1には、上記のような問題を解決することを目的とする技術が開示されている。この特許文献1に記載された溶融亜鉛の連続めっき方法は、鋼帯を、溶融金属を貯留しためっき浴に連続的に侵入せしめ、めっき浴中のシンクロールを周回後、方向転換し、めっき浴より上方へ引き上げて連続的にめっきを施す際に、連続めっき中および/または連続めっき停止中に、めっき浴の異なる箇所の浴温をそれぞれ測定し、その測定結果に基づき、めっき浴中の温度差(最高温度と最低温度の差)を5℃以下、好ましくは3℃以下、さらに好ましくは2℃以下に低減させるものである。まためっき浴中の温度差を低減させる手段としては、例えば、スクリュー式のめっき浴攪拌装置、めっき用ポット底部加熱装置、及びめっき用ポット側壁加熱装置を適宜、組み合わせて用いることが記載されている。
【特許文献1】特開2001−107208号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の記載からも、めっき浴全体における最高温度と最低温度の差を低減できれば、ボトムドロスの発生を効果的に抑制できることは明らかであるが、本出願の発明者等が行っためっき浴中の溶融亜鉛に対する熱流動解析及び実験によれば、めっき用ポット底部加熱装置又はめっき用ポット側壁加熱装置からの発熱量を制御するだけでは、めっき浴全体の温度差を短時間で十分に小さくすることは困難であり、また、めっき浴攪拌装置によりめっき浴全体の温度差を短時間で十分に小さくしようとした場合には、めっき浴攪拌装置の攪拌力が過大なものになり、その攪拌力によりボトムドロスをめっき浴中に拡散させ、却ってボトムドロスに起因するめっき鋼板の表面欠陥を増加させてしまうおそれがあることが解った。
本発明の目的は、上記事実を考慮し、めっき浴中に生成されたボトムドロスに起因する溶融金属めっき鋼板の表面欠陥を効果的に低減できる溶融めっき鋼帯の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1に係る溶融めっき鋼帯の製造方法は、焼鈍炉により焼鈍された後、冷却帯により冷却された鋼帯を、溶融金属を貯留しためっき浴に連続的に浸入させた後、めっき浴より上方へ引き上げて、鋼帯に連続的にめっきを施す溶融めっき鋼帯の製造方法であって、前記めっき浴に浸入する鋼帯の温度である浸入板温を、該鋼帯の幅及び厚さ、めっき浴中における鋼帯の搬送速度、めっき浴における鋼帯表面に接しつつ流れる接触流及び対流現象により形成される溶融金属の流動領域の温度並びに、前記流動領域の温度と該流動領域に隣接するよどみ領域の温度との温度差に応じて制御することを特徴とする。
また本発明の請求項2に係る溶融めっき鋼帯の製造方法は、請求項1記載の溶融めっき鋼帯の製造方法において、前記流動領域の温度と前記よどみ領域の温度との温度差が5℃以下に維持されるように、前記浸入板温を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
以上説明した本発明に係る溶融めっき鋼帯の製造方法によれば、めっき浴中に生成されたボトムドロスに起因する溶融金属めっき鋼板の表面欠陥を効果的に低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態に係る溶融亜鉛めっき鋼帯の製造方法について図面を参照して説明する。
図1には、本発明の実施形態に係る溶融亜鉛めっき設備が模式的に示されている。溶融亜鉛めっき設備10は、帯状の鋼帯12を搬送しつつ、この鋼帯12に対する焼鈍処理を行う焼鈍炉14を備えている。焼鈍炉14には、鋼帯12の搬送方向(矢印F方向)に沿って上流側から順に、加熱帯16及び急冷帯18が設けられている。溶融亜鉛めっき設備10には、搬送方向Fに沿って焼鈍炉14の下流側に冷却帯20、めっきポット22、ガスワイピング装置32及び合金化装置34が順に配置されている。
【0010】
めっきポット22内には、めっき用金属である亜鉛が溶融状態となっためっき浴24が蓄えられている。また、めっきポット22内には、シンクロール26が回動可能に配置されており、このシンクロール26はめっき浴24中に浸漬されている。
溶融亜鉛めっき設備10では、鋼帯12が焼鈍炉14の加熱帯16において還元性雰囲気で所定の焼鈍温度まで加熱され、急冷帯18において急冷されて焼鈍処理が施された後、この鋼帯12が冷却帯20で所定の温度になるように温度調整される。鋼帯12は、冷却帯20の出口部に配置されたターンダウンロール28を介して筒状のスナウト30内へ導かれ、このスナウト30内を通ってめっき浴24中に浸入する。めっき浴24中で鋼帯12はシンクロール26により方向転換されて、めっき浴24中から上方へ引き上げられる。このとき、めっき浴24を形成する溶融亜鉛が鋼帯12の表面に付着してめっき層が形成される。
【0011】
ガスワイピング装置32は、上方へ搬送される鋼帯12にガス流を吹き付けて鋼帯12表面に付着しためっき層の厚さを調整する。合金化装置34は表面にめっき層が形成された鋼帯12に対して合金化処理(加熱処理)を行う。
スナウト30には板温センサ36が配置されており、この板温センサ36は、スナウト30内を搬送される鋼帯12の温度(浸入板温TI)を検出し、浸入板温TIに対応する板温検出信号SSを温度制御装置48へ出力する。めっきポット22には、めっき浴24を加熱するための加熱装置38が例えばめっきポット22の側壁部に配置されており、加熱装置38は、温度制御装置48からの出力制御信号SIに従ってめっき浴24に対する加熱量を変化させる。
【0012】
図2に示されるように、めっきポット22には、めっきポット22の幅方向(図2(A)では、矢印X方向)及び鉛直方向(図2(B)では、矢印Z方向)に沿った断面(Z−X断面)視にて、9箇所の部位にそれぞれ3個又は2個ずつの浴温センサ40が24個配置されている。Z−X断面にて同一位置にある浴温センサ40は、めっきポット22の奥行方向(図2(B)では、矢印Y方向)に沿って配列されており、幅方向に沿ってシンクロール26の軸線方向外側における互いに対称となる位置と幅方向の略中心位置にそれぞれ配置されている。
【0013】
なお、24個の浴温センサ40をめっきポット22における設置位置に応じて区別して説明する必要がある場合には、図2(A)における左下隅に位置する浴温センサ40の座標点を(0,0,0)とし、この浴温センサ40に対する他の浴温センサ40の相対位置を三次元座標(x,y,z)(ここで、x=0,1,2、 y=0,1,2、 z=0,1,2)により表し、これらの三次元座標を浴温センサ40の前に付すものとする。
【0014】
浴温センサ40は、Z−X断面視にて、全体としては矩形のマトリックス状に配置されている。これらの内、(x,y,0)の浴温センサ40は、鉛直方向に沿ってめっきポット22の底面部とシンクロール26との中間に配置され、(x,y,1)の浴温センサ40は、鉛直方向に沿ってシンクロール26の軸心と略同一の位置に配置され、(x,y,2)の浴温センサ40は、鉛直方向に沿ってめっき浴24の表面とシンクロール26との中間に配置されている。
【0015】
また、(0,y,z)の浴温センサ40は、めっきポット22の幅方向Xに沿ってスナウト30におけるめっき浴24の浸漬部分(先端部)と略一致する位置に配置され、(1,y,z)の浴温センサ40は、めっきポット22の幅方向Xに沿ってシンクロール26の軸心と略一致する位置に配置され、(2,y,z)の浴温センサ40は、めっきポット22の幅方向Xに沿ってめっきポット22におけるフロント側(図2では、右側)の側壁部とシンクロール26との中間に配置されている。
【0016】
24個の浴温センサ40は、その座標点に対応する位置(測定点)でめっき浴24の温度(めっき浴温)をそれぞれ検出し、そのめっき浴温に対応する温度検出信号SMを温度制御装置48へ出力する。
図1に示されるように、冷却帯20には、冷却ファン42が通気管44を通して接続されており、通気管44の途中には、冷却ファン42が冷却帯20へ供給する冷却風の風量を調整するための制御ダンパ46が配置されている。ここで、制御ダンパ46の開度は、温度制御装置48から出力される開度制御信号SDにより制御される。
【0017】
次に、溶融亜鉛めっき設備10におけるめっき浴24の熱バランスについて説明する。めっき浴24に対する入熱については、鋼帯12からの入熱量Q1、加熱装置38による加熱量Q2、また、出熱に関しては、めっき浴24表面からの輻射による熱放散量Q3、めっき浴設備(めっきポット等)表面からの輻射による熱放散量Q4、めっき浴24を補給するためのインゴット投入による出熱量Q5が挙げられる。
【0018】
従って、めっき浴24全体の平均温度を考えた場合に、この平均温度を一定に保つためには、入熱量Q1+加熱量Q2=熱放散量Q3+熱放散量Q4+出熱量Q5となるように加熱装置38による加熱量Q2を変化させれば良い。また、これらの内で、Q3及びQ4については、めっき浴24の変化温度の変化による変動は少なく、また、Q5についてもインゴットボックスの設置や溶解専用の誘導加熱装置を設置することで浴温低下による影響を軽微にできる。従って、定常的な操業時に、めっき浴24の平均温度に最も大きな影響を及ぼすのは鋼帯12からの入熱量Q1の変化である。
【0019】
具体的には、例えば、鋼帯12の浸入板温とめっき浴24のめっき浴温との差が10°Cで、板厚0.4〜3.2mm、板幅700〜1800mm、鋼帯12の搬送速度であるラインスピードLS50〜150mpmの範囲でそれぞれ変化する場合には、鋼帯12からめっき浴24への入熱量Q1は、計算上、8.8kw〜540kwという大きな範囲で変化する。
【0020】
一方、本出願の発明者等による熱流動解析及び実験によれば、操業時におけるめっき浴24における温度分布は均一なものではなく、大別すると、図3(A)に示されるように、相対的に高温側の領域である流動領域FF、相対的に低温側の領域であるよどみ領域FSに分けられる。
ここで、流動領域FFは、めっき浴24中を搬送される鋼帯12の表面に接しつつ流れる溶融亜鉛の接触流(随伴流)及び、めっき浴24の温度不均一によって生じる対流によって引き起こされる溶融亜鉛の流れを含む領域であり、この流動領域FFには、鋼帯12から入熱量Q1の大部分が直接的に入熱する。また、よどみ領域FSは、通常、溶融亜鉛の粘性等の影響によりめっき浴24における複数の箇所に分かれて存在するが、品質上、問題となる大きなよどみ領域FSは、めっきポット22の底面部付近に形成され、かつ流動領域FFに隣接して位置するものである。
【0021】
図3(A)には、略定常状態にある流動領域FF及びよどみ領域FSが模式的に示されている。図3(A)に示される矢印LMは、流動領域FFが略定常状態にある時に、鋼帯12の移動に伴う随伴流及び対流によって生じる溶融亜鉛の主流の流線を模式的に示している。主流LMは、全体として凹字状の軌跡に沿って流れる循環流となっており、その一部がシンクロール26により方向転換された鋼帯12に沿って流れる随伴流により形成されている。そして、この主流LMの流線によって囲まれた領域が流動領域FF(ハッチングを付した領域)に略重なり合っている。また流動領域FFとめっきポット22の底面部との間には、よどみ領域FSが形成されている。
【0022】
図3(B)には、流動領域FFの流れ状態が略定常状態にある時のめっき浴における温度分布が等温線により模式的に示されている。ここで、図3(B)に示される等温線に付された数値は、めっき浴24における相対的な温度差を示している。この図から明らかなように、鋼帯12の移動に伴う随伴流の発生領域付近には、±0℃の等温線が重なり合っている。このことは、随伴流の発生領域付近では、鋼帯12とめっき浴24(溶融亜鉛)との間が熱的に略平衡状態になっていることを示している。めっきポット22の底面部付近には、よどみ領域FSと重なって相対的に低温の領域が存在している。
【0023】
すなわち、めっき浴24では、鋼帯12からの入熱量Q1の大部分が流動領域FFに移動することから、流動領域FFにはよどみ領域FSと比較して全体としての入熱量が多くなる。これにより、めっき浴24では、流動領域FFが相対的に高温の領域となり、よどみ領域FSが相対的に低温の領域となる。
めっき浴24では、主として(0,0,0)、(0,1,0)及び(0,2,0)の浴温センサ40(図2参照)がよどみ領域FS(低温領域)の浴度を検出し、(0,0,1)、(0,1,1)、(0,2,1)、(2,0,1)、(2,1,1)、(2,2,1)、(2,0,2)、(2,1,2)及び(2,2,2)の浴温センサ40が流動領域FF(高温領域)の浴温を検出する。
【0024】
流動領域FFの流れ状態が略定常状態にある時には、例えば、(0,0,0)、(0,1,0)及び(0,1,2)の浴温センサ40により検出される測定浴温の平均値と、(0,0,1)、(0,1,1)、(0,2,1)、(2,0,1)、(2,1,1)、(2,2,1)、(2,0,2)、(2,1,2)及び(2,2,2)の浴温センサ40により検出される測定浴温の平均値との差が約2℃以下になっていることが明らかになっている。
【0025】
一方、例えば、(0,0,0)、(0,1,0)及び(0,2,0)の浴温センサ40により検出される測定浴温の平均値と、(0,0,1)、(0,1,1)、(0,2,1)、(2,0,1)、(2,1,1)、(2,2,1)、(2,0,2)、(2,1,2)及び(2,2,2)の浴温センサ40により検出される測定浴温の平均値との差が約2℃から拡大するに従って、めっきポット22の底面部付近からシンクロール26側へ流れる上昇流FR(図4(A)参照)が発生し易くなり、この上昇流FRの影響により流動領域FFの流れ状態が不安定(非定常状態)になることが解っている。
図4(A)には、非定常状態にある流動領域FF及びよどみ領域FSが模式的に示され、図4(B)には、流動領域FFの流れ状態が非定常状態にある時のめっき浴における温度分布が等温線により模式的に示されている。
【0026】
例えば、(0,0,0)、(0,1,0)及び(0,2,0)の浴温センサ40により検出される測定浴温の平均値と、(0,0,1)、(0,1,1)、(0,2,1)、(2,0,1)、(2,1,1)、(2,2,1)(2,0,2)、(2,1,2)及び(2,2,2)の浴温センサ40により検出される測定浴温の平均値との差が約5℃を超えた時には、図4(A)に示されるように、めっきポット22の底面部付近からシンクロール26側へ流れる強い上昇流FRが発生し、この上昇流FRの影響等により主流LMがフロント側とバック側とに分断される。このような状態では、上昇流FRによりめっきポット22の底面付近に溜まったボトムドロスが巻き上げられ、めっき浴24中の広い領域に拡散されるおそれがある。
また図4(B)に示されるように、流動領域FFが略定常状態にある場合と比較し、−2℃の等温線がバック側(図4(B)では、左側)へ後退すると共に、上方へ膨らんでいるのが解る。
【0027】
次に、温度制御装置48により行われる鋼帯12の温度制御について説明する。温度制御装置48は、スナウト30に配置された板温センサ36から出力された板温検出信号SSに基づいて鋼帯12の浸入板温TIを判断し、この浸入温度TIが所定の目標浸入板温TSになるように、冷却帯20における鋼帯12に対する冷却量を制御(フィードバック制御)する。このとき、温度制御装置48は、浸入板温TIと目標浸入板温TSとの差(偏差)を算出し、この偏差に応じて制御ダンパ46へ出力する開度制御信号SDの値を変化させる。
【0028】
このとき、温度制御装置48は、目標浸入板温TSを、鋼帯12の板厚t、板幅w、ラインスピードLS、流動領域FF内に測定点を有する浴温センサ40により測定された測定浴温の平均値とよどみ領域FS内に測定点を有する浴温センサ40により測定された測定浴温の平均値との浴温偏差DTに基づいて演算する。
すなわち、鋼帯12からめっき浴24への入熱量Q1は下式により求められる。
【0029】
Q1=板厚t×板幅w×ラインスピードLS×(測定浴温−浸入板温TI)×係数α
また温度制御装置48は、めっき浴24における浴温偏差DTにより流動領域FFが略定常状態にあるのか、非定常状態にあるのかを判断する。温度制御装置48は、流動領域FFが略定常状態にあると判断した場合には、鋼帯12からの入熱量Q1が一定に保たれるように、目標浸入板温TSを設定する。
【0030】
一方、温度制御装置48は、流動領域FFが非定常状態にあると判断した場合、つまり浴温偏差DTが所定の閾値(例えば、3℃)よりも大きくなった場合には、浴温偏差DTが小さくなるように、鋼帯12からめっき浴24への入熱量Q1を変化(増加又は減少)させる。すなわち、板厚t、板幅w、ラインスピードLS及び加熱装置38の加熱量Q2が一定である場合には、目標浸入板温TSを変化(上昇又は低下)させることにより、入熱量Q1を変化させる。
【0031】
なお、本発明においては浴温偏差DTが5℃以下に維持されるように、前記浸入板温TSを制御すると、前述の通りめっき浴24中の流動領域FFの流れを安定させ、定常状態とさせることができるので好ましい。さらに2℃以下に維持するように制御することが好ましい。
具体的には、温度制御装置48は、流動領域FF内に測定点を有する浴温センサ40により測定された測定浴温の例えば平均値とよどみ領域FS内に測定点を有する浴温センサ40からの測定浴温の例えば平均値に基づいて、相対的に高温の領域(流動領域FF)の大きさ及び位置を判断し、この流動領域FFの大きさ及び位置が、略定常状態の流動領域FFの大きさ及び位置に変化するように、入熱量Q1を変化させる。
【0032】
このため、温度制御装置48は、浴温偏差DTの値及び、浴温偏差DTの値に対応する入熱量Q1の適正値がそれぞれ設定された制御用データテーブルを有しており、このデータテーブルから演算された浴温偏差DTに対応する入熱量Q1の適正値を読み取り、この入熱量Q1に基づいて目標浸入板温TSを算出する。
なお、温度制御装置48は、流動領域FFが非定常状態にあると判断した場合には、入熱量Q1を変化させると共に、補助的に加熱装置38により加熱量Q2を変化させて、浴温偏差DTを減少させるようにしても良い。
【0033】
以上説明した本発明の実施形態に係る溶融亜鉛めっき鋼帯の製造方法では、温度制御装置48が、めっき浴24に浸入する鋼帯12の浸入板温TIを、鋼帯の幅w及び厚さt、ラインスピードLS、めっき浴24における流動領域FFの測定浴温並びに、流動領域FFの浴温とよどみ領域FSの浴温との浴温偏差DTに応じて制御することにより、鋼帯12からめっき浴24の流動領域FFに移動する入熱量を適正に制御できるようになるので、めっき浴24における流動領域FF付近の浴温が局部的に上昇することを抑制できると共に、めっき浴24における流動領域FFとよどみ領域FSとの浴温偏差DTが大きくなることを抑制し、ボトムドロスの生成及び、ボトムドロスが上昇流FRによりめっき浴24中に広く拡散することを効果的に抑制できる。この結果、めっき浴24中に生成されたボトムドロスに起因する溶融亜鉛めっき鋼板の表面欠陥を効果的に低減できる。
なお、以上説明した実施形態は、本発明の一例を示すものであり、この実施形態に限定されるものではない。同様の効果を得られる範囲で浴温センサ40の数、位置などは変更することができる。
【実施例】
【0034】
次に、本発明の溶融亜鉛めっき鋼帯の製造方法を用いて鋼帯12の浸入温度TSを制御した場合を実施例1〜3として説明し、また従来の溶融亜鉛めっき鋼帯の製造方法を用いて鋼帯12の浸入温度TSを制御した場合を比較例1〜4として説明する。本発明の溶融亜鉛めっき鋼帯の製造方法では、図2に示すように、24個の浴温センサを使用し、浴温偏差DTが5℃以下になるように、浸入板温TSを制御した。浴温偏差DTは、図2の(0,1,1)、(2,1,1)及び(2,1,2)の3箇所の測定浴温の平均値を流動領域の温度とし、(0,1,0)の測定浴温をよどみ領域の温度とし、これらの温度差とした。従来の溶融亜鉛めっき鋼帯の製造方法では、(2,2,2)の位置に配置された1個の浴温センサにより検出された測定浴温をめっき浴の代表温度とし、1分毎の測定浴温の偏差から入熱量Q1が一定となるように浸入温度TSを制御した。
実施例1〜3及び比較例1〜4の結果をそれぞれ下記(表1)に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
次に、図6のグラフに、めっき浴24におけるボトムドロスの発生量と浴温偏差DTとの関係を示す。この図7では、浴温偏差DTが10℃である場合のボトムドロスの発生量を1.0とし、浴温偏差DTが5℃及び2℃である場合のボトムドロスの発生量が指数により表されている。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施形態に係る溶融亜鉛めっき設備を模式的に示す構成図である。
【図2】図1に示されるめっきポットにおける浴温センサの配置を示す側面断面及び平面図である。
【図3】(A)は略定常状態にある流動領域FF及びよどみ領域FSを模式的に示すめっきポットの側面図、(B)は流動領域FFの流れ状態が略定常状態にある時のめっき浴における温度分布を模式的に示すめっきポットの側面断面図である。
【図4】(A)は非定常状態にある流動領域FF及びよどみ領域FSを模式的に示すめっきポットの側面図、(B)は流動領域FFの流れ状態が非定常状態にある時のめっき浴における温度分布を模式的に示すめっきポットの側面断面図である。
【図5】従来の連続溶融亜鉛めっき設備の一例を示す側面断面である。
【図6】めっき浴におけるボトムドロスの発生量と浴温偏差DTとの関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0038】
10 溶融亜鉛めっき設備
12 鋼帯
14 焼鈍炉
16 加熱帯
18 急冷帯
20 冷却帯
22 ポット
24 めっき浴
26 シンクロール
28 ターンダウンロール
30 スナウト
32 ガスワイピング装置
34 合金化装置
36 板温センサ
38 加熱装置
40 浴温センサ
42 冷却ファン
44 通気管
46 制御ダンパ
48 温度制御装置
DT 浴温偏差
FF 流動領域
FR 上昇流
FS よどみ領域
LR 上昇流
LM 主流
LS ラインスピード
TS 目標浸入板温
t 板厚
w 板幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼鈍炉により焼鈍された後、冷却帯により冷却された鋼帯を、溶融金属を貯留しためっき浴に連続的に浸入させた後、めっき浴より上方へ引き上げて、鋼帯に連続的にめっきを施す溶融めっき鋼帯の製造方法であって、
前記めっき浴に浸入する鋼帯の温度である浸入板温を、該鋼帯の幅及び厚さ、めっき浴中における鋼帯の搬送速度、めっき浴における鋼帯表面に接しつつ流れる接触流及び対流現象により形成される溶融金属の流動領域の温度並びに、前記流動領域の温度と該流動領域に隣接するよどみ領域の温度との温度差に応じて制御することを特徴とする溶融めっき鋼帯の製造方法。
【請求項2】
前記流動領域の温度と前記よどみ領域の温度との温度差が5℃以下に維持されるように、前記浸入板温を制御することを特徴とする請求項1記載の溶融めっき鋼帯の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−228073(P2009−228073A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−76354(P2008−76354)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】