説明

溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法および溶融亜鉛めっき鋼板

【課題】成形荷重が高くなり型かじりを生じやすい材料においても優れたプレス成形性を有する溶融亜鉛めっき鋼板を安定的に製造する製造方法及び優れたプレス成形性を有する溶融亜鉛めっき鋼板を提供する。
【解決手段】めっき層が主としてη相からなる溶融亜鉛めっき鋼板を、調質圧延前または後に表面活性化処理を施し、次いで、pH緩衝作用を有する酸性処理液に接触させた後、鋼板表面に酸性処理液膜が形成された状態で1〜30秒保持し、水洗、乾燥を行うことによりめっき表面に酸化物層を形成させる溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法において、前記酸性処理液中にAlイオンを含有することを特徴とする。さらに、前記酸性処理液中に、Alの硫酸塩、硝酸塩、塩化物のうち、少なくとも1種類以上を、Alイオン濃度として0.1〜50g/lの範囲で含有することが好ましい。また、上記製造方法により生産される合金化溶融亜鉛めっき鋼板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高強度溶融亜鉛めっき鋼板などの成形荷重が高く型かじりを生じやすい材料においても優れたプレス成形性を有する溶融亜鉛めっき鋼板を安定的に製造する製造方法および優れたプレス成形性を有する溶融亜鉛めっき鋼板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、防錆性向上の観点から、自動車用パネル部品には亜鉛系めっき鋼板、特に溶融亜鉛系めっき鋼板の使用比率が増加している。溶融亜鉛系めっき鋼板には亜鉛めっき後に合金化処理を施したものと施さないものとがあり、一般に前者は合金化溶融亜鉛めっき、後者は溶融亜鉛めっき鋼板と称される。なお本発明においても亜鉛めっき後に合金化処理を行ったものを合金化溶融亜鉛めっき鋼板、亜鉛めっき後に合金化処理を行わなかったものを溶融亜鉛めっき鋼板とする。
【0003】
現在、溶接性、および塗装性に優れた特性を有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板が自動車用パネルに使用されることが多い。一方で、昨今のさらなる防錆性の向上を目指し、自動車メーカーでは厚目付けの亜鉛系めっき鋼板に対する要望が強くなりつつあるが、前述した合金化溶融亜鉛めっき鋼板で厚目付け化を実施すると合金化に長時間を要するだけでなく、めっき層の中で合金化がしていない部分が残存する合金化不良いわゆる焼けムラが発生しやすい。逆に、めっき層全体を合金化させた場合はめっき層と下地鋼板界面に硬くて脆いΓ相が形成されやすく、加工時に界面から剥離する現象、いわゆるパウダリングが生じ易いという問題が生じる。
【0004】
このような観点から、厚目付け化には溶融亜鉛めっき鋼板が有効である。しかしながら、溶融亜鉛めっき鋼板を自動車用パネルにプレス成形する際には前記合金化溶融亜鉛めっき鋼板と比較すると、金型との摺動抵抗が大きく、また表面の融点が低いことにより金型と鋼板表面の凝着を生じやすく、プレス割れが起こりやすいという問題がある。
【0005】
溶融亜鉛めっき鋼板使用時のプレス形成性を向上させる方法として、高粘度の潤滑油を塗布する方法が広く用いられている。しかし、この方法では潤滑油の高粘性のために塗装工程で脱脂不良による塗装欠陥が発生したり、プレス時の油切れによるプレス性能が不安定になる等の問題がある。従って厚目付け化が可能である溶融亜鉛めっき鋼板自体のプレス成形性が改善されることが強く要請されている。
【0006】
特許文献1及び特許文献2には亜鉛系めっき鋼板表面に電解処理、浸漬処理、塗布酸化処理、または加熱処理を施すことによりZnOを主体とする酸化膜を形成させて溶接性、または加工性を向上させる技術を開示している。
【0007】
この他にも特許文献3にはMo酸化物皮膜、特許文献4にはCo系酸化物皮膜、特許文献5にはNi系酸化物皮膜、特許文献6にはCa系酸化物皮膜を表面に形成した亜鉛めっき鋼板が提案されている。
【0008】
また特許文献7にFe系酸化物とZn系酸化物、Al系酸化物からなる酸化皮膜を供えた亜鉛系めっき鋼板に関する技術が記載されている。前記と同様、溶融亜鉛めっき鋼板の場合、表面が不活性なため、初期に形成されるFe酸化物が不均一となり、効果を得るための酸化物量が多く、酸化物の剥離などの問題が生じる。
【0009】
特許文献8には亜鉛系めっき鋼板の表面にリン酸ナトリウム5〜60g/lを含みpH2〜6の水溶液にめっき鋼板を浸漬するか、電解処理または上記水溶液を塗布することにより、P酸化物を主体とした酸化膜を形成して、プレス成形性及び化成処理性を向上させる技術を開示している。
【0010】
しかしながら上記いずれの先行技術を溶融亜鉛めっきに適用した場合、プレス成形性の改善効果を安定して得ることが出来ない。本発明者らは、その原因について詳細な検討を行った結果、溶融亜鉛めっき鋼板表層にはAl酸化物が形成しているために表面の反応性が劣り、調質圧延により形成される凹凸が大きいことが原因であることを見出した。
【0011】
通常、溶融亜鉛めっき鋼板の製造の際には、亜鉛浴に浸漬した際に過剰なFe−Znの合金化反応を抑制し、めっき密着性を確保するために亜鉛浴中には微量なAlが添加されている。この微量に含まれるAlは易酸化性元素であるため、溶融亜鉛めっき鋼板の表層にはAl酸化物が緻密に形成している。そのため、表面が不活性でありZnOを主体とする酸化膜、Mo酸化物皮膜、Co系酸化物皮膜、Ni系酸化物皮膜、Ca系酸化物皮膜を形成することが出来ない。
【0012】
すなわち、先行技術を溶融亜鉛めっき鋼板に適用した場合、表面の反応性が低いため、電解処理、浸漬処理、塗布酸化処理及び加熱処理等を行っても所定の皮膜を表面に均一に形成させることは困難であることがわかった。また、反応性の低い部分、即ちAl酸化物の多い部分では膜厚が薄く、Al酸化物の少ない部分では膜厚が厚くなり、皮膜の不均一性によりプレス成形性が安定して得られることが出来ないこともわかった。
【0013】
仮にこのような酸化膜をAl酸化物層の上層に付与したとしても、付与した酸化膜と下地との密着性が悪く十分な効果が得られないだけでなく、加工時にプレス金型に付着し、付着物が堆積することにより押し傷を作るなどプレス品への悪影響をもたらす問題もある。
【0014】
一方で、本発明者らは、合金化溶融亜鉛めっき鋼板に関して、上記の問題点を改善すべく、研究した結果、以下の知見を得、特許出願を行っている(特許文献9)。すなわち、平坦部に硬質かつ高融点の皮膜を安定的に形成させる手法であり、良好な摺動特性を得ることができる合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法および合金化溶融亜鉛めっき鋼板である。しかし、特許文献9の手法を用いて、厚目付け化に有効である溶融亜鉛めっき鋼板に適用した場合、プレス成形性に有効な酸化膜厚を得ることは困難であった。この原因について詳細に調査を行った結果、合金化溶融亜鉛めっき鋼板に比べ、溶融亜鉛めっき鋼板表層では、形成しているAl濃化量が多く、かつ表面に純Znが存在しているために反応性についての不均一性が大きく、特許文献9の手法のみではプレス成形性に有効な皮膜の形成が困難であった。
【0015】
そこで本発明者らが上記の問題点を改善すべく、さらに研究を重ねた結果、下記の知見を得、特許出願した。(特許文献10)
すなわち、特許文献10は、溶融亜鉛めっき鋼板特有のAl酸化物と、Zn系酸化物を共存させることにより広範な摺動条件で良好なプレス成形性が得る手法である。
【特許文献1】特開昭53−60332号公報
【特許文献2】特開平2−190483号公報
【特許文献3】特開平3−191091号公報
【特許文献4】特開平3−191092号公報
【特許文献5】特開平3−191093号公報
【特許文献6】特開平3−191094号公報
【特許文献7】特開2000−160358号公報
【特許文献8】特開平4−88196号公報
【特許文献9】特開2003−306781号公報
【特許文献10】特願2003−113938号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、上記特許文献10において、より詳細な検討を進めるうちに、自動車外板に多く使用される比較的強度の低い溶融亜鉛めっき鋼板に対しては有効であるが、プレス成形時の荷重が高い場合や、金型と鋼板との接触面圧が上昇する高強度溶融亜鉛めっき鋼板の場合には必ずしも良好なプレス成形性が得られないことが分かった。
【0017】
本発明は上記の問題点を改善し、プレス成形荷重のより高い場合や、高強度溶融亜鉛めっき鋼板などの成形荷重が高くなり型かじりを生じやすい材料においても優れたプレス成形性を有する溶融亜鉛めっき鋼板を安定的に製造する製造方法及び優れたプレス成形性を有する溶融亜鉛めっき鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは上記の課題を解決すべく、さらに鋭意研究を重ねた。その結果、特許文献10の方法により製造される溶融亜鉛めっき鋼板表面には、溶融亜鉛めっき鋼板特有のAl酸化物と、Zn系酸化物を共存させており、特許文献10において、比較的低い接触面圧の場合には酸化物層の破壊が生じず金型とめっき層表層の直接接触を抑制するのに対して、接触面圧が上昇するにつれてZn酸化物層が破壊され、金型とめっき層表面の直接接触が生じ始めることがわかった。そして、このような酸化物の破壊を抑制するためには、より高強度の酸化物を含有させることが有効であり、Alイオンを含有した酸性処理液を用いてAl系酸化物を酸化物層に含有させることが効果的であることを知見した。
【0019】
本発明は、以上の知見に基づいてなされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
[1] めっき層が主としてη相からなる溶融亜鉛めっき鋼板を、調質圧延前または後に表面活性化処理を施し、次いで、pH緩衝作用を有する酸性処理液に接触させた後、鋼板表面に酸性処理液膜が形成された状態で1〜30秒保持し、水洗、乾燥を行うことによりめっき表面に酸化物層を形成させる溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法において、前記酸性処理液中にAlイオンを含有することを特徴とする溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
[2]前記[1]において、前期酸性処理液中に、Alの硫酸塩、硝酸塩、塩化物のうち、少なくとも1種類以上を、Alイオン濃度として0.1〜50g/lの範囲で含有することを特徴とする溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
[3]前記[1]または[2]において、前記酸性処理液として、pH緩衝作用を有し、かつ、1リットルの酸性処理液のpHを2.0から5.0まで上昇させるのに必要な1.0mol/lの水酸化ナトリウム溶液の量(l)で定義するpH上昇度が0.05〜0.5の範囲にある酸性処理液を用いることを特徴とする溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
[4]前記[1]〜[3]において、前記酸性処理溶液として、酢酸塩、フタル酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩のうち、少なくとも1種類以上を、前記各成分含有量5〜50g/lの範囲で含有し、pHが0.5〜2.0、液温が20〜70℃の範囲にある酸性処理液を用いることを特徴とする溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
[5]前記[1]〜[4]において、前記表面活性化処理に用いる薬液がpH11以上であるアルカリ性溶液であることを特徴とする溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
[6]前記[5]において、前記表面活性化処理により、溶融亜鉛めっき鋼板表面のAl濃度を20at%未満とすることを特徴とする溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法
[7]前記[1]〜[6]において、前記酸性処理液に接触させた後の前記鋼板表面に形成する酸性処理液の液膜量が3g/m2以下であることを特徴とする溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
[8]前記[1]〜[7]において、酸性処理液に接触させた後に、アルカリ性の溶液に接触させ、表面に残存した酸性処理液の中和処理を行うことを特徴とする溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
[9]前記[1]〜[8]のいずれかに記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法により生産され、ZnおよびAlを必須成分として含む酸化物層が、調質圧延により形成される凹部を除く、凸部または平坦部表層に10nm以上有することを特徴とする溶融亜鉛めっき鋼板。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、成形荷重が高く型かじりを生じやすい高強度溶融亜鉛めっき鋼板においても、プレス成形時の摺動抵抗が小さく、優れたプレス成形性を有する溶融亜鉛めっき鋼板を安定して製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
溶融亜鉛めっき鋼板は、通常、微量のAlを含んだ亜鉛浴に浸漬することにより製造されるため、めっき皮膜は主としてη相からなり、また表層には、亜鉛浴に含まれているAlによるAl系酸化物層が形成された皮膜である。このη相は、合金化溶融亜鉛めっき皮膜の合金相であるζ相、δ相と比較すると軟らかく、かつ融点が低いことから、凝着が発生しやすく、プレス成形時の摺動性に劣る。ただし、溶融亜鉛めっき鋼板の場合、表面にAl系酸化物層が形成されていることにより、金型の凝着を抑制する効果がわずかに見られるため、特に金型との摺動距離が短い場合には、摺動特性の劣化が見られないことがある。しかしながら、この表面に形成されているAl系酸化物層は薄いため、摺動距離が長くなると凝着が発生しやすくなり、広範な摺動条件で満足するプレス成形性を得ることができない。さらに、溶融亜鉛めっき鋼板は軟質であり、他のめっきと比較して金型と凝着しやすく、面圧が低い場合に摺動特性が低くなる。
【0022】
このような溶融亜鉛めっき鋼板と金型との凝着を抑制するためには、表面に厚い酸化物層を均一に被覆形成することが有効である。このため、酸化処理を行うことによりZn酸化物層を形成し、Zn酸化物と溶融亜鉛めっき鋼板特有のAl系酸化物が共存した酸化物層を形成することは溶融亜鉛めっき鋼板の摺動特性の向上に有効である。
【0023】
このように溶融亜鉛めっきの平坦部に均一に酸化物層を形成させる手法としては調質圧延後の溶融亜鉛めっき鋼板を酸性処理液と接触させ、その後、鋼板表面に酸性処理液の液膜が形成された状態で所定時間保持した後、水洗、乾燥する方法が有効である。
【0024】
実際のプレス成形時には表層の酸化物は磨耗し削り取られる為、金型と鋼板の接触面積が大きい場合には十分に厚い酸化物層の存在が必要である。しかし、上記において形成される酸化物はZnを主体とする酸化物であることから、プレス成形時の金型との接触面圧が高い場合には、酸化物層を厚くしても金型との接触時に容易に破壊され、良好な摺動特性が得られない。
【0025】
上記の結果をふまえ、検討した結果、Alを含有する酸性処理液を使用すると、ZnとAlを含有する複合酸化物層を鋼板表面に形成でき、このようにして形成された酸化物層は金型との接触面圧が高い場合においても容易に破壊されず、金型とめっき表面の直接接触を抑制するため、成形荷重が高く、型かじりを生じやすい高強度溶融亜鉛めっき鋼板においても良好なプレス成形性を示すことが分かった。
【0026】
このめっき表層におけるZnとAlを含有する複合酸化物層については、その平均厚さを10nm以上とすることにより良好な摺動性が得られる。さらに、酸化物層の平均厚さを20nm以上とするとより効果的である。これは、金型と被加工物の接触面積が大きくなるプレス成形加工において、表層の酸化物層が摩耗した場合でも残存し、摺動性の低下を招くことがないためである。尚、上記記載のとおり、摺動性の観点から酸化物層の平均厚さに上限はないが、厚い酸化物層が形成されると、表面の反応性が極端に低下し、自動車製造時の塗装前の化成処理において化成処理皮膜を形成するのが困難になるため、酸化物層の平均厚さは200nm以下とすることが好ましい。より好ましくは酸化物層の平均厚さが平均100nm以下の溶融亜鉛めっき鋼板である。
【0027】
なお、酸化物層の平均厚さは、Arイオンスパッタリングと組み合わせたオージェ電子分光(AES)により求めることができる。この方法においては、所定厚さまでスパッタした後、測定対象の各元素のスペクトル強度から相対感度因子補正により、その深さでの組成を求めることができる。このうち、酸化物に起因する0の含有率は、ある深さで最大値となった後(これが最表層の場合もある)、減少し、一定となる。0の含有率が最大値より深い位置で、最大値と一定値との和の1/2となる深さを、酸化物の厚さとする。
【0028】
また、この酸化物層形成メカニズムについては明確でないが、次のように考えることができる。溶融亜鉛めっき鋼板を酸性処理液に接触させると、鋼板側からは亜鉛の溶解が生じる。この亜鉛の溶解は、同時に水素発生反応を生じるため、亜鉛の溶解が進行すると、溶液中の水素イオン濃度が減少し、その結果溶液のpHが上昇し酸化物または水酸化物が安定となるpH領域に到達すると、溶融亜鉛めっき鋼板表面にZn系酸化物層を形成すると考えられる。この際に、Alを含有する酸性処理液を使用するとAl系酸化物の形成反応がZnよりも低いpH領域において生じる。その後さらにpHが上昇し、Znの酸化物または水酸化物の安定領域に到達させることにより、Zn系酸化物の形成反応が生じ、ZnとAlを含有する複合酸化物の形成が可能となると考えられる。
【0029】
またこのような酸化物の形成方法は、めっき表面をわずかに溶解させながら進行するものであるため、酸化物を分散させた溶媒を用いた塗布処理などにより得られる層と比較して密着性が良好であり、水酸化物の沈殿反応を利用したものであるため、加熱処理などにより表面を完全被覆することで得られる皮膜と比較すると、厚い酸化皮膜を形成できる。
【0030】
酸性処理液中にAlイオンを含有させるためにはAlの硫酸塩、硝酸塩、塩化物塩のうち少なくとも1種類以上を添加し、かつAlイオン濃度が0.1〜50g/lであることが好ましい。Alイオン濃度が0.1g/l未満であると、形成される複合酸化物中のAl量が少量であり、Znが中心となる酸化物層であるため、面圧上昇時のプレス成形性改善効果が十分でない。一方、50g/lを超えると、形成される複合酸化物中のAl量が多くなるため、摺動特性の改善効果は大きくなるが、これらAl系酸化物が多くなりすぎると自動車などに用いられている接着剤適合性を劣化させるため好ましくない。
【0031】
また使用する酸性処理液は、pH2.0〜5.0の領域においてpH緩衝作用を有するものが好ましい。これは、前記pH範囲でpH緩衝作用を有する酸性処理液を使用すると、酸性処理液に接触後、所定時間保持することで、酸性処理液とめっき層の反応によりZnの溶解とZn系酸化物の形成が十分に生じ、平坦部表面に10nm以上の酸化物層を安定して得ることができるためである。また、このようなpH緩衝作用の指標として、1リットルの酸性処理液のpHを2.0から5.0まで上昇させるのに要する1.0mol/l水酸化ナトリウム水溶液の量(l)で定義するpH上昇度で評価でき、この値が0.05〜0.5の範囲にあるとよい。pH上昇度が0.05未満であると、pH上昇が速やかに起こって酸化物層の形成に十分な亜鉛の溶解が得られないため、十分な酸化物層の形成が生じず、0.5を超えると、亜鉛の溶解が促進され、酸化物層の形成に長時間要するだけでなく、めっき層の損傷も激しく、本来の防錆鋼板としての役割も失うことが考えられるためである。ここで、pHが2.0を超える酸性処理液のpH上昇度は、酸性処理液に硫酸等のpH2.0〜5.0の領域でほとんどpH緩衝性を有しない無機酸を添加してpHを一旦2.0に低下させて評価することとする。
【0032】
このようなpH緩衝性を有する薬液としては、酸性領域でpH緩衝性を有すれば、その薬液種に制限はないが、例えば、酢酸ナトリウム(CH3COONa)などの酢酸塩、フタル酸水素カリウム((KOOC)2C6H4)などのフタル酸塩、クエン酸ナトリウム(Na3C6H5O7)やクエン酸二水素カリウム(KH2C6H5O7)などのクエン酸塩、コハク酸ナトリウム(Na2C4H4O4)などのコハク酸塩、乳酸ナトリウム(NaCH3CHOHCO2)などの乳酸塩、酒石酸ナトリウム(Na2C4H4O6)などの酒石酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩のうちの一種以上を用いることができる。
【0033】
また、その濃度としては、それぞれ5〜50g/lの範囲であることが望ましい、これは、5g/l未満であると、pH緩衝効果が不十分で、所定の酸化物層を形成できないためであり、50g/lを超えても、効果が飽和するだけでなく、酸化物の形成に長時間を要するためである。酸性処理液には、めっき鋼板を接触させることにより、めっきよりZnが溶出混入するが、これはZn系酸化物の形成を著しく妨げるものではない。従って、酸性処理液中のZn濃度は特に規定しない。より好ましいpH緩衝剤及びその濃度としては、酢酸ナトリウム3水和物を10〜50g/lの範囲、さらに好ましくは、20〜50g/lの範囲とした液であり、本溶液を用いれば有効に本発明の酸化物を得ることができる。
【0034】
これら使用する酸性処理液のpHは0.5〜2.2の範囲にあることが好ましい。これはpHが2.2を超えると溶液中でAlイオンが水酸化物を形成し沈殿することにより酸化皮膜中にAl系酸化物が取り込まれなくなるためである。一方、pHが0.5より低くなると、亜鉛の溶解が促進され、めっき付着量が減少するだけでなく、めっき皮膜に亀裂が生じ、加工時に剥離が生じやすくなるため、pH0.5以上であることが望ましい。より好ましくは1.0以上の酸性処理液である。なお、酸性処理液のpHが0.5〜2.2の範囲より高い場合には硫酸等のpH緩衝性の無い無機酸や、使用する塩の酸溶液、例えば酢酸やフタル酸、クエン酸等でpHを調整することができる。
【0035】
酸性処理液の温度については20〜70℃の範囲にあることが好ましい。あるいは前述したように酸化物層の形成反応は、酸性処理液への接触後、所定時間保持する際に生じるため、保持時の板温を20〜70℃の範囲に制御することも有効である。これは20℃未満であると酸化物層の生成反応に長時間を要し、生産性の低下を招くためである。一方温度が高い場合には反応は比較的すばやく進行するが、逆に鋼板表面に処理ムラを発生しやすくするため、70℃以下の温度に制御することが望ましい。なお、前述したpH上昇度は溶液の温度によりわずかに変化するが、処理を行う温度でのpH上昇度が、前述した範囲内にあれば本発明の効果は十分に得られるものである。
【0036】
本発明では使用する酸性処理液中にAlイオンを含有していれば、摺動性に優れた酸化物層を安定して形成できるため、酸性処理液中にその他の金属イオンや無機化合物などを不純物として、あるいは故意に含有していても本発明の効果が損なわれるものではない。特に、Znイオンは溶融亜鉛めっき鋼板と酸性処理液が接触した際に溶出するイオンであるために操業中に酸性処理液中でZnイオン濃度の増加が認められるが、このZnイオン濃度の大小は本発明の効果には特に影響を及ぼさないものである。
【0037】
溶融亜鉛めっき鋼板を酸性処理液に接触させる方法には特に制限は無く、めっき鋼板を酸性処理液に浸漬する方法、めっき鋼板に酸性処理液をスプレーする方法、塗布ロールを介して酸性処理液をめっき鋼板に塗布する方法等があるが、最終的に薄い液膜状で鋼板表面に存在することが望ましい。
【0038】
これは、鋼板表面に存在する酸性処理液の量が多いと亜鉛の溶解が生じても溶液のpHが上昇しにくく、亜鉛の溶解量が多くなり酸化物層を形成するまでに長時間を要するだけでなく、亜鉛の溶解によりめっき層の損傷が激しくなり本来の防錆鋼板としての役割も失うことが考えられるためである。この観点から鋼板表面に形成する溶液膜の量は3g/m2以下に調整することが有効であり、液膜量の調整は絞りロール、エアワイピング等で行うことができる。
【0039】
酸化物層を形成する手法としては、溶融亜鉛めっき鋼板をpH緩衝作用を有する酸性処理液に接触させ、その後、水洗まで1〜30秒保持した後後、水洗・乾燥することが有効である。
【0040】
この酸化物層形成メカニズムについては前述したように考えることができるが、ZnとAlを含有する複合酸化物の形成のためには、亜鉛の溶解とともに、鋼板に接触している溶液のpHが上昇することが必要であるため、鋼板を酸性処理液に接触させた後に水洗までの保持時間を調整することが有効である。この際、保持時間が1秒未満であると、鋼板に接触している溶液のpHが上昇する前に液が洗い流されるために酸化物を形成できず、一方、30秒以上保持しても酸化物生成に変化が見られないためである。
【0041】
本発明において、水洗までの保持時間は酸化物形成に重要である。この保持過程で、酸化物(もしくは水酸化物)が成長する。より好ましい保持時間は、2〜15秒である。
【0042】
また、酸化処理を行う前に、表面を活性化する処理を行うことが必須である。この目的は、溶融亜鉛めっき鋼板特有の表層に形成したAl系酸化物を除去し、表面に新生面を露出させることにより、新生面が露出された部分で反応を活性化させ、Zn−Al複合酸化物の生成を容易にするためである。調圧ロールなどにより、めっき鋼板表面に存在するAl系酸化物層の一部を破壊することができるが、材質上制限される伸長率のために、鋼板の種類によっては、十分にAl系酸化物層を破壊できない場合がある。そこで、鋼板の種類によらず、より安定的に摺動性に優れた酸化物層を形成するには、溶融亜鉛めっき鋼板特有のAl系酸化物層を除去する処理を行い、表面を活性化することが必要となる。溶融亜鉛めっき鋼板特有のAl系酸化物層を除去し、表面を活性化する処理として、例えば、pH11以上であるアルカリ性溶液を用いることが上げられる。
【0043】
アルカリ性溶液に接触させるなどによりAl系酸化物層を除去する処理を施した場合に得られる、酸化処理前の表面Al系酸化物について種々検討したところ、本発明で規定されるZnとAlを含有する複合酸化物を、前述の酸化処理により形成するのに有効な溶融亜鉛めっき鋼板特有の表面Al系酸化物層の好ましい形態は以下のとおりであることがわかった。
【0044】
すなわち、アルカリ性溶液に接触させたときに溶融亜鉛めっき鋼板特有の表面に形成しているAl系酸化物を完全に除去する必要は無く、めっき表層のZn系酸化物と混在している状態で良いが、表面の平坦部の酸化物に平均的に含まれるAl濃度が20at%未満となる状態であることが好ましい。ここで示したAl濃度は、オージェ電子分光(AES)とArスパッタリングによる深さ方向分析により、2μm×2μm程度の領域における平均的な酸化膜厚とAl濃度の深さ方向分布を測定したときの、酸化物の厚さに相当する深さまでの範囲におけるAl濃度の最大値とした。
【0045】
Al濃度が20at%以上となると、反応性が低下するためにZnの溶解量が減少する。前述の通り、本発明はZnの溶解による水素発生に伴ったpH上昇を引き起こし、Zn−Al複合酸化物の形成を図る技術であるため、Znの溶解量が減少することによりZn−Al複合酸化物の形成が困難になる。尚、溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法により表層に形成しているAl濃度は変化するが、前述した手法を用いて測定した場合、通常30〜40at%程度である。
【0046】
溶融亜鉛めっき鋼板特有のAl系酸化物層を除去し、表面を活性化する処理、すなわち、溶融亜鉛めっき鋼板特有の表面のAl系酸化物状態を上述の通り実現する為には、ロールによる接触、ショットブラスト、ブラシ研削など機械的な除去方法も可能であるが、アルカリ性水溶液に接触させることがより有効である。この場合、水溶液はpHが11以上、浴温を30℃以上とし、液との接触時間を1秒以上とすることが好ましい。より好ましくはpH11以上、浴温50℃以上である。上記範囲内のpHであれば溶液の種類に制限はなく、水酸化ナトリウムや水酸化ナトリウム系の脱脂剤などを用いることができる。
【0047】
活性化処理は酸化処理の前に実施する必要があるが、溶融亜鉛めっき後に行われる調質圧延の前、後いずれで実施しても良い。ただし、調質圧延の後、活性化処理を施すと、圧延ロールにより押しつぶされ凹部となった部分でAl系酸化物が機械的に破壊されるため、凹部以外の凸部及び/または平坦部とAl酸化物の除去量が異なる傾向がある。このため、活性化処理後のAl酸化物量が、面内で不均一となり、引き続き行われる酸化処理が不均一となり十分な特性を得られない場合がある。このため、より好ましくはめっき後、活性化処理を施し、面内で均一にAl酸化物を適正量除去した後、調質圧延を実施、引き続き酸化処理とするプロセスが好ましい。
【0048】
酸性処理液が水洗、乾燥後の鋼板表面に残存すると、鋼板コイルが長期保管されたときに錆が発生しやすくなる。係る錆発生を防止する観点から、酸性処理液接触後に、アルカリ性溶液に浸漬あるいはアルカリ性溶液をスプレーするなどの方法でアルカリ性溶液と接触させて、鋼板表面に残存している酸性処理液を中和する処理を施しても良い。アルカリ性溶液は表面に形成されたZn系酸化物、及びAl酸化物の溶解を防止するためpH12以下であることが望ましい。前記pHの範囲であれば使用する溶液に制限は無く、水酸化ナトリウムやリン酸ナトリウムを含有する溶液を用いることができる。
【0049】
なお、本発明における酸化物層とはZnとAlを必須として含んだ複合酸化物及び複合水酸化物などからなる層である。
【0050】
本発明に係る溶融亜鉛めっき鋼板を製造するに関しては、酸性処理液中にAlが添加されていることが必要であるが、Al以外の添加元素成分は特に限定されない。すなわち、Alの他に、Pb、Sb、Si、Sn、Mg、Mn、Ni、Ti、Li、Cuなどが含有または添加されていても、本発明の効果が損なわれるものではない。
【0051】
また、酸化処理中に不純物が含まれることにより、P、S、N、B、Cl、Na、Mn、Ca、Mg、Ba、Sr、Siなどが酸化物層中に微量取り込まれても、本発明の効果が損なわれるものではない。
【実施例1】
【0052】
下記実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例により特に限定されるものではない。
【0053】
板厚1.0mmの590MPa級の強度を有する冷延鋼板上に通常の手法を用いて溶融亜鉛めっきを施した。その後調質圧延を行った後、表面活性化処理を行った。表面活性化処理による表面Al濃度の変化を調査するために酸化物層形成処理を行わないものと、引き続き図1に示す構成の処理設備を用いて酸化物層形成処理を行ったものを作製した。一部は溶融亜鉛めっきを施し、表面活性化処理後に調質圧延を行い、酸化物層を形成した。
【0054】
表面活性化処理は活性化槽1で所定濃度の水酸化ナトリウム水溶液に浸漬した。尚、一部比較例として表面活性化処理を施さないものも作成した。
【0055】
酸化物の形成処理は以下に示す通りである。
【0056】
まず酸性処理液槽2でpH1.5の酸性処理液に処理液温度を変化させて浸漬した後、絞りロール3で鋼板表面に液膜を形成した。この際、絞りロールの圧力を変化させることで液膜量の調整を行った。次いで、洗浄槽5で50℃の温水を鋼板にスプレーし、中和槽6を空通しし、洗浄槽7で50℃の温水を鋼板にスプレーして洗浄し、ドライヤー8で乾燥し、めっき表面に酸化物層を形成した。
【0057】
酸性処理槽2で浸漬処理を行う溶液は、pH緩衝剤として酢酸ナトリウム40g/lを含有し、Alイオンを添加する目的で硫酸アルミニウム(無水塩)を所定量添加した溶液を使用し、pHは硫酸を添加することで調整した。なお、比較のために、上記において、Alイオンを含有しない溶液も使用した。また、上記浸漬処理(酸洗処理)を行わないものも準備した。
【0058】
尚、前記水洗までの保持時間は絞りロール3で液膜量の調整を行い、洗浄槽5で洗浄を開始するまでの時間であり、ラインスピードを変化させることで調整した、尚一部絞りロール3出側のシャワー水洗装置4を用いて絞り直後に鋼板を洗浄するものも作製した。
【0059】
上記の他に、中和槽6で前記処理中、pH10のアルカリ性溶液(水酸化ナトリウム水溶液)をスプレーして鋼板表面に残存している酸性溶液を中和処理するものも作製した。
【0060】
次に以上のように作製した鋼板について、めっき層平坦部の酸化膜厚を測定し、さらに自動車用外板として十分な外観を有するか目視にてムラが無い場合を「○」ムラが認められた場合を「×」と判定した。次に、プレス成形を簡易に評価する手法として摩擦係数の測定、および実際の成形性をより詳細にシミュレートする目的で球頭張り出し試験を実施した。また鋼板に防錆油を塗布した後、埃など外部要因の影響が無いように屋外に放置し約6ヵ月後の点錆発生の有無を調査し、点錆なしを「○」点錆発生ありを「×」とした。摩擦係数の測定、球頭張り出し試験、ならびに酸化膜形成処理前のAl濃度の測定及び酸化膜厚は以下記載のように行った。
(1)プレス成形性(摺動特性)評価(摩擦係数測定)
プレス成形性を評価するために、各供試材の摩擦係数を以下のようにして測定した。
図2は、摩擦係数測定装置を示す概略正面図である。同図に示すように、供試材から採取した摩擦係数測定用試料11が試料台12に固定され、試料台12は、水平移動可能なスライドテーブル13の上面に固定されている。スライドテーブル13の下面には、これに接したローラ14を有する上下動可能なスライドテーブル支持台15が設けられ、これを押上げることにより、ビード16による摩擦係数測定用試料11への押付荷重Nを測定するための第1ロードセル17が、スライドテーブル支持台15に取付けられている。上記押付力を作用させた状態でスライドテーブル13を水平方向へ移動させるための摺動抵抗力Fを測定するための第2ロードセル18が、スライドテーブル13の一方の端部に取付けられている。なお、潤滑油として、スギムラ化学社製のプレス用洗浄油プレトンR352Lを摩擦係数測定用試料11の表面に塗布して試験を行った。
【0061】
図3は使用したビードの形状・寸法を示す概略斜視図である。ビード16の下面が摩擦係数測定用試料11の表面に押し付けられた状態で摺動する。図3に示すビード16の形状は幅10mm、試料の摺動方向長さ59mm、摺動方向両端の下部は曲率4.5mmRの曲面で構成され、試料が押し付けられるビード下面は幅10mm、摺動方向長さ50mmの平面を有する。このビードを用いると、摺動距離が長い条件での摩擦係数を評価できる。摩擦係数測定試験(条件1)は、押し付け荷重N:400kgf、試料の引き抜き速度(スライドテーブル3の水平移動速度):20cm/minとした。供試材とビードとの間の摩擦係数μは、式:μ=F/Nで算出した。
【0062】
また面圧上昇による型かじりの影響を調査する目的で、図4に示すビードを用いて試験を行った。ビード16の下面が摩擦係数測定用試料11の表面に押し付けられた状態で摺動する。図4に示すビード16の形状は幅10mm、試料の摺動方向の長さ12mm、摺動方向両端の下部は曲率4.5mmRの局面で構成され、試料が押し付けられるビード下面は幅10mm、試料方向長さ3mmの平面を有する。図4に示すビードの形状は幅押し付け荷重Nを400kgf(条件2)と2000kgf(条件3)に変化させて行った。なお資料の引き抜き速度(スライドテーブル13の水平移動速度)を100cm/minとした。これらの条件で押し付け荷重Nと引き抜き荷重Fを測定し、前述の通り摩擦係数μを式:μ=F/Nで算出した。
(2)球頭張り出し試験
200×200mmサイズの供試材に対して、150mmφのポンチを使用して、液圧バルジ試験機により張出成形を行い、破断が生じた際の最大成形高さを測定した。この際、材料の流入を阻止する目的で100Tonのしわ押さえ力をかけ、ポンチが接触する面にのみ潤滑油を塗布した。使用した潤滑油は前述した摩擦係数測定試験と同様のものである。
(3)酸化膜厚の測定
オージェ電子分光法(AES)を用い、Ar+スパッタリングとAESスペクトルの測定を繰り返すことで、めっき皮膜表面部分の組成の深さ方向分布を測定した。スパッタリングの時間から深さへの換算は、膜厚既知のSiO2膜を測定して求めたスパッタリングレートにより行った。組成(at%)は、各元素のオージェピーク強度から相対感度因子補正により求めたが、コンタミネーションの影響を除くためにCは考慮に入れなかった。酸化物、水酸化物に起因するO濃度の深さ分布は表面近傍で高く、内部へ行くに従って低下して一定となる。最大値と一定値との和の1/2となる深さを、酸化物の厚さとした。平坦な部分の2μm×2μm程度の領域を分析の対象とし、任意の2〜3点で測定した結果の平均値を平均酸化膜厚とした。なお、予備処理として30秒のArスパッタリングを行って、供試材表面のコンタミネーションレイヤーを除去した。
(4)活性化処理後の表面状態測定(酸化膜形成処理前のAl濃度の測定)
活性化処理の効果を確認するため、前記(3)と同様の方法で、活性化処理後の表面の平坦部における酸化膜厚とAl濃度の深さ方向分布を測定した。酸化物の厚さに相当する深さまでの範囲におけるAl濃度の最大値を、活性化処理の効果の指標とした。
以上より得られた試験結果を表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
表1に示す試験結果から下記事項が明らかとなった。
(1)No.1は酸性処理液による処理を行っていないため、平坦部に摺動性を向上させるのに十分な酸化膜が形成されず、面圧の低い条件1及び2においても摩擦係数が高く、面圧の高い条件3においては摩擦係数がさらに上昇しており、型かじりが確認された。
(2)No.2、6、10、14、39は酸性処理液による酸化膜形成処理は行っているが、表面活性化処理を行っていないため、平坦部に摺動性を向上させるのに十分な酸化膜が形成されておらず、摩擦係数はNo.1と同様、高い値となった。尚、条件3においてすべてのサンプルで型かじりが確認された。
(3)No.3〜5は酸性処理液による酸化膜形成処理は行っているが、酸性処理液中にAlイオンを含まない浴を用いた比較例である。面圧の低い条件1及び2では摩擦係数の改善効果は見られるものの面圧の高い条件3においては高い摩擦係数を示した。
(4)No.7〜9は酸性処理液にAlイオンを含有させた浴を用いた処理を行った本発明例である。面圧の低い条件1及び2に加えて、面圧の高い条件3においても摩擦係数が低下していることが確認された。さらに最大成形高さも大幅に増加していることが確認された。またNo.11〜13、No.17、18、20、及びNo.40〜42はNo.7〜9と同一の条件で、酸性処理液中のAlイオン濃度を増加させた例であるが、面圧の高い条件3の摩擦係数が低位安定しており、最大成形高さもさらに増加している。
(5)No.18及びNo.21〜25は処理液温度を変化させた本発明例である。処理液温度の低いNo.21はそれ以外の例と比較して摩擦係数及び最大成形高さの効果がやや低い。No.25は摩擦係数及び最大成形高さの効果は高いが、製造時にはより耐熱性の高い設備仕様とする必要性が生じ、また製造時に液の蒸発量が多くなるために液膜量の制御がやや困難となる。
(6)No.17、18、20、とNo.26〜28、No.29〜31、No.32〜34、は液膜量を変化させた場合の本発明例である。液膜量が多き場合はやや摩擦係数が高く、最大成形高さも低くなっている。
(7)No.35〜37は酸化皮膜形成処理後、水洗、乾燥を行った後、中和槽を用いた例を示しているが、6ヶ月放置後にも点錆の発生は認められず、酸化物層を形成した鋼板コイルが使用前に長期保管されることがあっても錆発生を防止する能力に優れていることが明らかとなった。
(8)No.38は活性化処理を調質圧延後に行った場合の例であるが、その他の条件が同じであるNo.No.18と比べ、摩擦係数及び最大成形高さに違いは無く、同等の性能が得られていることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明によれば、プレス成形時の摺動抵抗が小さく、安定して優れたプレス成形性を示す溶融亜鉛めっき鋼板とその製造方法を提供でき、自動車車体用途を中心に広範な分野で適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】実施例で使用した酸化物層形成処理設備の主要部を示す図
【図2】摩擦係数測定装置を示す概略正面図
【図3】図2中のビード形状及び寸法を示す概略斜視図(条件1に使用)
【図4】図2中のビード形状及び寸法を示す概略斜視図(条件2及び3に使用)
【符号の説明】
【0067】
1 活性化槽
2 酸性処理液槽
3 絞りロール
4 シャワー水洗装置
5 洗浄槽
6 中和槽
7 洗浄槽
8 ドライヤー
S 鋼板
11 摩擦係数測定用試料
12 試料台
13 スライドテーブル
14 ローラ
15 スライドテーブル支持台
16 ビード
17 第1ロードセル
18 第2ロードセル
N 押付荷重
F 摺動抵抗力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき層が主としてη相からなる溶融亜鉛めっき鋼板を、調質圧延前または後に表面活性化処理を施し、次いで、pH緩衝作用を有する酸性処理液に接触させた後、鋼板表面に酸性処理液膜が形成された状態で1〜30秒保持し、水洗、乾燥を行うことによりめっき表面に酸化物層を形成させる溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法において、前記酸性処理液中にAlイオンを含有することを特徴とする溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項2】
前期酸性処理液中に、Alの硫酸塩、硝酸塩、塩化物のうち、少なくとも1種類以上を、Alイオン濃度として0.1〜50g/lの範囲で含有することを特徴とする請求項1に記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記酸性処理液として、pH緩衝作用を有し、かつ、1リットルの酸性処理液のpHを2.0から5.0まで上昇させるのに必要な1.0mol/lの水酸化ナトリウム溶液の量(l)で定義するpH上昇度が0.05〜0.5の範囲にある酸性処理液を用いることを特徴とする請求項1または2に記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記酸性処理溶液として、酢酸塩、フタル酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩のうち、少なくとも1種類以上を、前記各成分含有量5〜50g/lの範囲で含有し、pHが0.5〜2.0、液温が20〜70℃の範囲にある酸性処理液を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記表面活性化処理に用いる薬液がpH11以上であるアルカリ性溶液であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記表面活性化処理により、溶融亜鉛めっき鋼板表面のAl濃度を20at%未満とすることを特徴とする請求項5に記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法
【請求項7】
前記酸性処理液に接触させた後の前記鋼板表面に形成する酸性処理液の液膜量が3g/m2以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項8】
酸性処理液に接触させた後に、アルカリ性の溶液に接触させ、表面に残存した酸性処理液の中和処理を行うことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法により生産され、ZnおよびAlを必須成分として含む酸化物層が、調質圧延により形成される凹部を除く、凸部または平坦部表層に10nm以上有することを特徴とする溶融亜鉛めっき鋼板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−183074(P2006−183074A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−375745(P2004−375745)
【出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】