説明

溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法

【課題】めっき付着量が55g/m2以上の不めっきのない美麗な表面外観を有し、耐食性にも優れた溶融亜鉛めっき鋼板、あるいはさらに耐パウダリング性にも優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得る。
【解決手段】C≦0.25mass%を含有する冷延鋼板に、浸入板温を500〜600℃、浴中Al濃度を0.15〜0.3wt%として溶融亜鉛めっきを施す。合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得る場合は、次いで、合金化処理する。好ましくは、溶融亜鉛めっき処理を施すに先立ち、まず、元素XとしてS、Cl、Na、K、Ni、C、N、B、Se、Brの少なくとも1種以上を含有する化合物を、下記(1)式を満足するように鋼板表面に付着させ、次いで、再結晶焼鈍する。
〔X〕≧ (1/600)×〔M〕 ―――(1)
〔X〕:Xの量単位mg/m2
〔M〕:めっき付着量単位g/m2

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき付着量が55g/m2以上の厚目付な溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法に関し、特に不めっきのない美麗な表面外観を有しめっき密着性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板、また不めっきのない美麗な表面外観を有し耐パウダリング性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板を経済的にかつ高い生産性を有して製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車、家電、建材等の分野においては、素材鋼板に防錆性を付与した表面処理鋼板、中でも安価に製造できかつ防錆性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板(以下、GIと称することもある)、合金化溶融亜鉛めっき鋼板(以下、GAと称することもある)が使用されている。
【0003】
一般的に、溶融亜鉛めっき鋼板は、以下の方法にて製造される。まず、スラブを熱延、冷延あるいは熱処理した薄鋼板を用いて、母材鋼板表面を前処理工程にて脱脂および/または酸洗して洗浄するか、あるいは前処理工程を省略して予熱炉内で母材鋼板表面の油分を燃焼除去した後、非酸化性雰囲気中あるいは還元性雰囲気中で加熱することで再結晶焼鈍を行う。その後、非酸化性雰囲気中あるいは還元性雰囲気中で鋼板をめっきに適した温度まで冷却して、大気に触れることなく微量Al(0.1〜0.2%程度)を添加した溶融亜鉛浴中に浸漬する。
また合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、溶融亜鉛めっき後、引き続き、鋼板を合金化炉内で熱処理することで製造される。
さらに、自動車用に使用される場合、上記溶融亜鉛めっき鋼板もしくは合金化溶融亜鉛めっき鋼板の耐食性を向上させるため、副資材と呼ばれる防錆材が表面に塗布される。
【0004】
ところで、近年、自動車用鋼板のさらなる防錆性向上が求められており、防錆性向上の有力な一つの手段としてめっき付着量を増加させる方法がある。現在の主流はめっき付着量が30〜45g/m2程度の合金化溶融亜鉛めっき鋼板であるが、上記要望を受けて、耐食性、防錆性能を向上させるため、55g/m2以上の厚目付溶融めっき鋼板が開発された。しかしながら、55g/m2以上の厚目付の溶融亜鉛めっき鋼板および合金化溶融亜鉛めっき鋼板は以下の問題がある。
【0005】
合金化溶融亜鉛めっき鋼板の場合には、めっき付着量の増加に伴い、溶融亜鉛めっき後の合金化過程における合金化反応が遅延する。その結果、生産性を著しく阻害したり、生産性を確保するために過剰に高温で合金化処理すると耐パウダリング性の劣化を招くという問題があり、高い生産性と良好な耐パウダリング性を両立させることが困難となる。
【0006】
溶融亜鉛めっき鋼板の場合には、厚目付とすることによりめっき密着性が悪化する傾向にあり、めっき密着性が十分な厚目付溶融亜鉛めっき鋼板は得られない。さらに、厚目付とすることにより耐食性を向上させて、上述の副資材の塗布を省略することが考えられるが、副資材の塗布を省略できる程の耐食性向上は得られておらず、副資材の塗布省略を可能とする程度の耐食性向上が厚目付鋼板に求められている。
【0007】
このような問題に対して、予め酸化性雰囲気中で鋼板を加熱して表面に酸化鉄を形成した後加熱することで還元焼鈍を行い、溶融亜鉛との濡れ性及び反応性を改善する方法が開示されている(特許文献1)。
また、溶融めっきに先立って硫黄または硫黄化合物をS量として0.1〜1000mg/m2付着させた後、予熱工程を弱酸化性雰囲気で行い、その後、水素を含む非酸化性雰囲気中で焼鈍する方法が開示されている(特許文献2)。
【0008】
上記方法により、溶融亜鉛めっき時の溶融亜鉛と鋼板との濡れ性は向上し、めっき密着性の向上効果はある。また、めっき層の合金化を行う場合には、合金化反応の遅延抑制効果も期待できる。しかし、厚目付の溶融亜鉛めっきを行うと、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の場合には耐パウダリング性が、溶融亜鉛めっき鋼板の場合にはめっき密着性が未だ不十分である。さらに、耐食性の問題については、上述の副資材の塗布を省略するレベルまでには到底至っていない。
【特許文献1】特許登録第2587724号公報
【特許文献2】特開平11-50223号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、めっき付着量が55g/m2以上の不めっきのない美麗な表面外観を有し、耐食性にも優れた溶融亜鉛めっき鋼板、あるいはさらに耐パウダリング性にも優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板を経済的にかつ高い生産性を有して製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述したように、めっき付着量が55g/m2以上の厚目付の場合、従来技術によるめっき−合金化手段のみでは、合金化溶融亜鉛めっき鋼板においては、合金化が遅延する。さらには、パウダリング性が劣化する。溶融亜鉛めっき鋼板においては、耐食性が不十分であり、めっき密着性が劣化する。そこで、発明者らは、これらの問題を解決するために、めっき処理条件について、詳細に検討を行った。
その結果、鋼板をめっき浴へ浸入する際の板温(以下、浸入板温と称す)を通常の460℃程度から500〜600℃まで上昇させることにより、厚目付な溶融亜鉛めっき鋼板ながら合金化速度が増加させることに成功した。また、溶融亜鉛めっき鋼板においては密着性が向上した。
また、めっき浴中Al濃度を最適化し、0.15〜0.3%にすることで、パウダリング性を劣化させるΓ相の形成を抑制し、厚目付な合金化溶融亜鉛めっき鋼板ながら耐パウダリング性を向上させることに成功した。また、めっき層中に取り込まれるAl量が増加した事で、耐食性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板が得られた。
さらに溶融亜鉛めっき処理を施すに先立ち、鋼板表面に特定の元素を付着させておくことによって、Γ相が過剰に生成することなく合金化反応を促進させることに成功し、合金化温度を低減させることに成功した。また、表面が活性化され、めっき浴中におけるFeとZnの初期合金化が促進されることで、溶融亜鉛めっき鋼板においてめっき密着性が向上した。
本発明は、以上の知見に基づきなされたもので、その要旨は以下のとおりである。
[1]C≦0.25mass%を含有する冷延鋼板に溶融亜鉛めっき処理を施すに際し、浸入板温を500〜600℃、浴中Al濃度を0.15〜0.3wt%として溶融亜鉛めっき処理を施し、めっき付着量を55g/m2以上とすることを特徴とする溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
[2]前記[1]において、前記溶融亜鉛めっき処理を施すに先立ち、まず、元素XとしてS、Cl、Na、K、Ni、C、N、B、Se、Brの少なくとも1種以上を含有する化合物を、下記(1)式を満足するように鋼板表面に付着させ、次いで、再結晶焼鈍することを特徴とする溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
〔X〕≧(1/600)×〔M〕 ―――(1)
〔X〕:Xの量単位mg/m2 〔M〕:めっき付着量単位g/m2
[3]前記[1]または[2]において、溶融亜鉛めっき処理後に合金化処理することを特徴とする溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、不めっきのなく美麗な表面外観を有しめっき密着性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板、および不めっきのない美麗な表面外観を有しかつ耐パウダリング性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板が得られる。また、溶融亜鉛めっき鋼板においては、充分な耐食性が得られるため、上述の副資材の塗布を省略することが可能となる。また、合金化遅延等の問題も解消され、高い生産性の下、製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について具体的に説明する。
まず、本発明の最も重要な要件の一つである浸入板温について説明する。本発明では、浸入板温を500℃以上600℃以下とする。これにより、溶融めっき時に形成されるFe-Alの合金層を、後述するように合金化処理時にΓ相の形成を抑制でき、かつ、FeとZnの初期合金化反応を阻害しない程度とすることができる。その結果、めっき浴中におけるFeとZnの初期合金化も促進され、めっきと下地鋼板との密着性が良好な溶融亜鉛めっき鋼板が得られる。また、溶融めっき後の合金化時においては、FeとZnの合金化速度の遅く、めっき付着量が55g/m2以上の厚目付のめっき鋼板の場合でも合金化を促進させることが可能となる。
浸入板温が500℃未満の場合、本発明による効果が発現しない。また、600℃を超える場合、溶融亜鉛めっき時に部分的に合金化反応が進行してしまい、溶融亜鉛めっき後合金化ムラが発生し、めっき外観が損なわれる。
【0013】
次いで、本発明において、もう一つの重要な要件である、めっき浴中のAl濃度について説明する。本発明ではめっき浴中のAl濃度を0.15%以上0.3%以下とする。これにより、めっき層中に取り込まれるAl量が増加し、耐食性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板が得られることになる。これは、めっきの表層においてAlが不働態化し、0.1μm以下の薄い酸化皮膜を形成したためと考えられる。また、めっき後の合金化時に形成され、パウダリング性を劣化させるΓ相の形成を抑制する。その結果、耐パウダリング性が飛躍的に向上する。
浴中のAl濃度が、0.15%未満では溶融亜鉛めっき時のめっき表面にAlの不働態皮膜が充分に形成せず、耐食性が劣化する。さらに、合金化時のΓ相の形成の抑制効果が認められない。一方、0.3%を超えてAl濃度を大きくしても、溶融亜鉛めっき時のめっき表面に形成されるAlの不働態皮膜量は増加せず飽和する。また、合金化時のΓ相の形成抑制効果も飽和するため、経済的観点からも0.3%を上限とする。
さらに、本発明においては、上記要件に加え、前記溶融亜鉛めっき処理を施すに先立ち、まず、元素XとしてS、Cl、Na、K、Ni、C、N、B、Se、Brの少なくとも1種以上を含有する化合物を、下記(1)式を満足するように鋼板表面に付着させ、次いで、再結晶焼鈍することが好ましい。
〔X〕≧(1/600)×〔M〕 ―――(1)
〔X〕:Xの量単位mg/m2
〔M〕:めっき付着量単位g/m2
上記めっき前の処理は、還元処理後の表面を活性化させてFeとZnの反応性を促進させるために行う。上記の特定の元素を鋼板表面に付着させることで表面が活性化され、めっき浴中におけるFeとZnの初期合金化が促進され、めっき密着性に極めてすぐれた溶融亜鉛めっき鋼板が得られる。また、溶融めっき後の合金化時においては、FeとZnの合金化速度の遅く、めっき付着量が55g/m2以上の厚目付のめっき鋼板の場合でも合金化を飛躍的に促進させることが可能となる。
上記の特定元素を付着させることで表面が活性化させる理由は明らかでないが、例えばNOF(無酸化炉)やDFF(直下炉)型焼鈍炉での酸化では表面状態を変化させることで表面の酸化が促進され、次工程の還元時に鋼板表面に生成する反応性に富む還元鉄の量が増加すると考えられる。また、RTF(ラジアントチューブ炉)型の焼鈍炉では、鋼板表層での再結晶時に鋼中の易酸化元素や不可避的不純物の表面への濃化を抑制する効果があると考えられる。ここで特定元素Xとして使用可能な化合物の例としては以下のようなものがあげられる。
水酸化ナトリウム(NaOH)、硫酸ナトリウム(Na2SO4)、硫化ナトリウム(Na2S)、チオ硫酸ナトリウム(Na2S2O3)、塩化ナトリウム(NaCl)、炭酸ナトリウム(Na2CO3)、クエン酸ナトリウム(Na3C6H5O7)、シアン酸ナトリウム(NaCNO)、酢酸ナトリウム(CH3COONa)、リン酸水素ナトリウム(Na2HPO4)、リン酸ナトリウム(Na3PO4)、フッ化ナトリウム(NaF)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)、硝酸ナトリウム(NaNO3)、シュウ酸ナトリウム((COONa)2)、四ほう酸ナトリウム(Na2B4O7)、酸化ナトリウム(Na2O)等のNa含有化合物、
水酸化カリウム(KOH)、酢酸カリウム(CH3COOK)、ほう酸カリウム(K2B4O7)、炭酸カリウム(K2CO3)、塩化カリウム(KCl)、シアン酸カリウム(KCNO)、クエン酸水素カリウム(KH2C6H5O7)、フッ化カリウム(KF)、モリブデン酸カリウム(K2MoO4)、硝酸カリウム(KNO3)、過マンガン酸カリウム(KMnO4)、リン酸カリウム(K3PO4)、硫酸カリウム(K2SO4)、チオシアン酸カリウム(KSCN)、シュウ酸カリウム((COOK)2)等のK含有化合物、
塩酸(HCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化アンモニウム(NH4Cl)、塩化アンチモン(SbCl3)、塩化カリウム(KCl)、塩化鉄(FeCl2、FeCl3)、塩化チタン(TiCl4)、塩化銅(CuCl)、塩化バリウム(BaCl2)、塩化モリブデン(MoCl5)、塩素酸ナトリウム(NaClO3)等のCl含有化合物、臭化鉄等のBr含有化合物
硫酸(H2SO4)、硫酸ナトリウム(Na2SO4)、亜硫酸ナトリウム(Na2SO3)、硫化ナトリウム(Na2S)、硫酸アンモニウム((NH4)2SO4)、硫化アンモニウム((NH4)2S)、チオ硫酸ナトリウム(Na2S2O3)、硫酸水素ナトリウム(NaHSO4)、硫酸水素アンモニウム(NH4HSO4)、硫酸カリウム(K2SO4)、硫酸鉄(FeSO4、Fe2(SO4)3)、硫酸アンモニウム鉄(Fe(NH4)2(SO4)2、FeNH4(SO4)2)、硫酸バリウム(BaSO4)、硫化アンチモン(Sb2S3)、硫化鉄(FeS)、チオ尿素(H2NCSNH2)、二酸化チオ尿素((NH2)2CSO2)、SCH基のチオフェン酸塩類、SCN基を有するチオシアン酸塩類 等のS含有化合物、セレン酸カリウムなどのSe含有化合物等が上げられる
タンニン酸、アジピン酸等のカルボン酸含有化合物、糖類、フマル酸、フタル酸、フェノール、アニリン、安息香酸等の芳香族環含有化合物、グリシン、アラニンなどのアミノ酸、エチレングリコール、アセチレングリコール等の多価アルコール類、アクリル酸、ポリエステル、エポキシ、それらの変性化合物等の樹脂類等のC含有化合物が挙げられる。
なお、上記は代表的な例を示したのであって、上記以外のNa、K、Ni、C、N、B、Se、Brを含有する化合物を使用しても本発明の効果を好適に得られることは言うまでもない。
【0014】
上述したように、前記特定元素を含む化合物の付着量は、特定元素量として式(1)を満たすように付着させることが望ましい。
〔X〕≧(1/600)×〔M〕―――(1)
ここで〔X〕:Xの量単位mg/m2、〔M〕:めっき付着量単位g/m2
下限を式(1)のように規定したのは、これ未満であれば特定元素Xを塗布しない場合と変わらず、塗布することによる大幅なめっき密着性向上効果、及び飛躍的な合金化促進効果が発現しないためである。めっき付着量の増加に伴い、溶融亜鉛めっき時のめっきと鋼板の密着性は劣化する傾向にあるため、良好な密着性を示す溶融亜鉛めっき鋼板を得るためには前記特定元素の付着量を増加させFeとZnの初期合金化を促進させる必要がある。さらに、めっき後合金化時においても、めっき付着量の増加に伴い、合金化速度は遅延するため、前記特定元素の付着量を増加させ、FeとZnの合金化を促進させる必要がある。一方、上限は特には設けないが、前期特定元素の付着量が1000mg/m2を超える場合には本発明の効果が飽和して経済的に不利になる。よって、1000mg/m2以下が望ましい。
なお、本発明においては、この特定元素Xを塗布しない場合でも、本発明の主要な要件である浸入板温およびめっき浴中のAl濃度が本発明範囲内であれば、めっき密着性、合金化特性は良好となる。そして、さらに、特定元素Xを上式の条件で塗布することで、めっき密着性、合金化特性いずれの特性も極めて良好となる。
【0015】
前記した特定元素を含む化合物を鋼板表面に付着させる方法としては特に限定するものではない。物理的に付着させればよいので、例えば、前記化合物を水または有機溶剤等に溶解し、またはこれらと混合したものを用い、この中に鋼板を浸漬させる方法、スプレー等で噴霧する方法、ロールコーター等で塗布する方法を用いることができる。また、その後に乾燥させても本発明の効果は変わらない。その他、化合物を直接塗布しても同様に本発明の効果を得ることができる。前記化合物を付着させる前に必要に応じて電解脱脂や酸洗等の従来から用いられている前処理を施しても本発明の効果を得ることができる。また、前記化合物を付着させた後に必要に応じて電解脱脂や酸洗等の従来から用いられている前処理を施したとしても、前記化合物が鋼板上に付着していれば本発明の効果を得ることができる。さらに、前記化合物を含む圧延油を用いて圧延時に付着させる方法を用いてもよい。いずれにしても、鋼板を酸化させる際に前記特定元素を含む化合物が鋼板表面に付着していれば良い。
【0016】
鋼板表面に付着させた特定元素量の定量方法としては、湿式分析法により測定することができる。すなわち、素材鋼板を含んだ全特定元素量から鋼中の特定元素量を差し引くことで容易に定量することができる。
【0017】
鋼板表面に特定元素を含有する化合物を付着させた後、鋼板を再結晶焼鈍することが好ましい。再結晶焼鈍は通常、還元雰囲気下で行うが、NOFやDFF型CGLのように、加熱帯において酸化させた後、還元処理してもよい。還元方法は従来から使用されている方法に準じて行えばよく、特に限定するものではない。例えば、放射加熱方式の焼鈍炉で水素を含む還元性雰囲気中で600〜900℃程度の温度で還元処理するのが一般的ではあるが、特に限定するものではない。加熱帯で酸化した場合には、鋼板表面の酸化皮膜を還元することができる方法であれば本発明の効果を妨げるものではない。また雰囲気は水素-窒素系が好ましく、水素は1〜90%が好ましい。1%未満の場合還元が不十分であり、90%以上は経済的に不利な場合がある。
【0018】
前記還元処理後に、非酸化性あるいは還元性雰囲気中で500〜600℃まで冷却され、めっき浴中に浸漬してめっきする。この時、前述した通り、浸入板温は500〜600℃、浴中Al濃度は0.15〜0.3wt%とする。また、それ以外の条件として、めっき浴温は440〜600℃程度が好ましい。また、製品の使用用途によってはめっき浴組成を変更する場合があるが、めっき浴組成の違いは本発明の効果に何ら害するものではなく、特に限定するものではない。例えば、めっき浴中にAl以外にPb、Sb、Fe、Mg、Mn、Ni、Ca、Ti、V、Cr、Co、Sn等の元素が混入していても本発明の効果は何ら変わらない。
【0019】
めっき後のめっき付着量を調整する方法は特に限定するものではないが、一般的にガスワイピングが使用され、ガスワイピングのガス圧、ワイピングノズル/鋼板間距離等により調整される。このとき、めっき付着量は55g/m2以上とする。上限は特に限定するものではないが、55〜150g/m2が好ましい。55g/m2未満では防錆性が充分得られない。一方、150g/m2を超える付着量では防錆性が飽和して、一方で加工性、経済性を損なうため、150g/m2以下が好ましい。
【0020】
次いで、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得る場合、前記溶融亜鉛めっき後に合金化処理を施す。前述のように本発明によれば、めっき付着量が55g/m2以上の厚目付な溶融亜鉛めっき鋼板でも、著しい合金化遅延という従来技術での問題を解消することができる。その結果、55g/m2以上の厚目付な耐パウダリング性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板を、生産性を阻害することなく製造することができる。さらに合金化温度の低温下により機械的特性が改善する効果も得られる。合金化処理方法はガス加熱、インダクション加熱や通電加熱等の従来から行われているどのような加熱方法を用いてもよく、特に限定するものではない。
【0021】
また、合金化処理条件は特に限定するものではなく、例えば合金化処理板温は460〜600℃程度、合金化保持時間は5〜60秒程度とするのが一般的ではあるが、合金化処理条件の違いが本発明の効果を妨げるものではない。
【0022】
なお、本発明が対象とする鋼板は、特に鋼種を限定するものではない。ただし、Cについては0.25mass%以下含有することとする。Cが0.25mass%を超えて含有すると鋼板自体が硬くなりすぎ脆化する。その他の添加元素については本発明の効果を妨げるものではなく、特に限定するものではない。例えば、素材に必要とされる特性、品質等を考慮してSi、Mn、P、Al等の元素を1種あるいは2種以上含有することができる。含有量としては、Si:3.0mass%以下、Mn:0.01〜5 mass %、P:0.005〜0.2 mass %、Al:0.01〜5 mass %が好ましい。なお、これらの元素は本発明の効果とは無関係に、素材に必要とされる特性、品質等から適宜選定することができるのは言うまでもなく、上記以外の元素についても同様である。
【実施例1】
【0023】
以下、本発明を、実施例に基づいて具体的に説明する。
【0024】
表1に示したような鋼組成のスラブを加熱炉で1260℃、60分加熱し、引き続き2.8mmまで熱間圧延をして540℃で巻き取った。その後、酸洗で黒皮スケールを除去して、1.6mmまで冷間圧延した。得られた鋼板の表面にロールコーター法で薬剤の水溶液を塗布し、オーブンで乾燥し、ラジアントチューブ型(RTF)CGLまたは直火型(DFF)CGLで850℃で再結晶焼鈍したあと引き続き溶融亜鉛めっきを行い溶融亜鉛めっき鋼板(GI)を得た。さらに、同様にして溶融亜鉛めっきを行った後、合金化して合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)も得た。特定元素の塗布量は、20mass%NaOH-10mass%トリエタノールアミン水溶液195ccと35mass%過酸化水素溶液7ccの混合溶液にめっき鋼板を浸漬してめっき層を溶解し、溶解液中の元素XをICP法で定量し、片面単位当たり面積の付着量として求めた。付着量の制御は、水溶液濃度を変化させることで実施した。その後、850℃で加熱することで焼鈍した後引き続き、浸入板温500〜600℃、浴温460℃、めっき浴中のAl濃度0.15〜1%のZnにて溶融亜鉛めっきを施した。付着量はガスワイピングにより調節した。合金化処理は540℃で行い、時間を変化させることで必要に応じて合金化度を変化させた。
【0025】
【表1】

【0026】
以上により得られた溶融亜鉛めっき鋼板(GI)および合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)に対して、下記に示す方法にて下記に示す特性を調査した。得られた結果を条件と併せて表2に示す。
【0027】
<めっき外観>
得られためっき鋼板について、まず外観性として、不めっきがない場合は良好、不めっきある場合には不良と判定した。合金化処理する場合には合金化遅延による外観ムラの有無も加味し、ムラのない場合には良好、ある場合には不良とした。
○:外観良好
×:外観不良
<溶融亜鉛めっき鋼板のめっき密着性>
ボールインパクト試験を行い、テープ剥離した際のめっき剥離状態を評価した。試験条件は直径1/2インチの半球状突起の上に載せた溶融亜鉛めっき鋼板上に、2.8kgの重りを1mの高さから落下させた後、凸側をテープ剥離を実施した。
○:めっき剥離あり(良好)
△:めっき剥離僅かにあり(概ね良好)
×:めっき剥離なし(不良)
<合金化溶融亜鉛めっき鋼板の耐パウダリング性>
合金化溶融亜鉛めっき鋼板の耐パウダリング性はめっき鋼板にセロテープ(登録商標)を貼りテープ面を90℃曲げ戻しを行った場合の単位長さ当たりの剥離量を蛍光X線によりZnカウント数を測定し、表1の基準に照らしてランク1、2、3のものを良好(○)、4のものを概ね良好(△)、5の物を不良(×)として評価した。
蛍光X線カウント数 ランク
0-500 1(良)
500-1000 2
1000-3000 3
3000-5000 4
5000以上 5(劣)
<耐食性>
JIS Z 2371に基づく塩水噴霧試験を3日間行い、腐食生成物をクロム酸を用いて洗浄除去し、試験前後のめっき腐食減量(g/m2・日)を重量法にて測定し、下記基準で評価した。
○(良好):20 g/m2・日未満
×(不良):20g/m2・日以上
<機械的特性>
機械的特性の評価は、JIS5号引張試験片を採取し、引張試験を行って測定した引張強さTS(MPa)及び伸びEl(%)より、TS×Elの値が20000MPa・%以上である場合を良好な強度延性バランスを示すとして、機械的特性良好(○)とした.
○=TS×Elの値が20000MPa・%以上
×=TS×Elの値が20000MPa・%未満
【0028】
【表2】

【0029】
表2から明らかなように、本発明例の(合金化)溶融亜鉛めっき鋼板は付着量が55g/m2以上の厚目付であるにも関わらず、いずれも耐食性およびめっき密着性に優れている。さらに合金化温度が低減可能であるために耐パウダリング性が良好であり、機械的特性にも優れるものである。特に、溶融亜鉛めっき処理を施すに先立ち、特定の元素を含有する化合物を鋼板表面に付着させた本発明例では、より一層、めっき密着性および耐パウダリング性が優れている。
【産業上の利用可能性】
【0030】
機械的特性が良好な上、溶融亜鉛めっき鋼板では、耐食性に優れ、かつ、めっき外観、めっき密着性にも優れているため、また、合金化溶融亜鉛めっき鋼板では、耐食性に優れ、かつ、耐パウダリング性にも優れているため、自動車、家電、建材等の分野を中心に、幅広い用途での使用が見込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
C≦0.25mass%を含有する冷延鋼板に溶融亜鉛めっき処理を施すに際し、
浸入板温を500〜600℃、浴中Al濃度を0.15〜0.3wt%として溶融亜鉛めっき処理を施し、めっき付着量を55g/m2以上とすることを特徴とする溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記溶融亜鉛めっき処理を施すに先立ち、
まず、元素XとしてS、Cl、Na、K、Ni、C、N、B、Se、Brの少なくとも1種以上を含有する化合物を、下記(1)式を満足するように鋼板表面に付着させ、
次いで、再結晶焼鈍することを特徴とする請求項1に記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
〔X〕≧(1/600)×〔M〕 ―――(1)
〔X〕:Xの量単位mg/m2
〔M〕:めっき付着量単位g/m2
【請求項3】
溶融亜鉛めっき処理後に合金化処理することを特徴とする請求項1または2に記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。

【公開番号】特開2007−262544(P2007−262544A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−92725(P2006−92725)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】