説明

溶融塩反応浴を利用した合金粉末製造法

【課題】合金粉末の製造原料として添加する高純度な合金成分金属を準備する必要性を大幅に減じ、かつ製造工程数が少なく、合金粉末製造時の反応時間を大幅に短縮することができる合金粉末の製造方法を提供する。
【解決手段】溶融塩を用いた2種以上の金属からなる合金粉末の製造方法において、(a)溶融塩を準備するステップと、(b)前記溶融塩へ、合金粒子の核となる金属A粒子を供給するステップ、および、前記溶融塩へ、前記金属Aより貴(イオン化傾向が小さい)な金属Bを溶解させるステップと、そして(c)前記金属Aと、金属Bのイオンとの置換反応により金属A粒子の表面に金属Bを析出させ、同時に、金属A粒子の表面からの相互拡散により金属A及びBを合金化させるステップとを含んでいる前記合金粉末の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融塩反応浴を利用した合金粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、より微細で、より高度に組成制御された合金粉末が強く求められている。例えば、高密度で磁気記録を行うためには、磁気記録媒体として使用される磁性粉末をナノオーダーまでサイズダウンする必要があるが、粉末の体積減少に伴い熱的安定性が悪化し、最終的に磁区の保持力が消失する現象が起きる。これを防ぐには、Fe−Pt系をはじめとする異方性エネルギーの大きな磁性材料を使う必要があるが、Ptの含有率によって異方性エネルギーは大きく変化するため、合金組成の制御性向上が重要な要素技術となっている。また、燃料電池の電極触媒や排ガス中の有害物質分解触媒などでは、多くのケースで利用される白金等の高価な貴金属の代替として高い触媒能を有する合金触媒の開発が進んでおり、この分野でも合金組成の制御精度向上および最適化が技術開発の一つの焦点となっている。
【0003】
さらに、磁性材料、触媒、電極材料などの様々な分野においては、組成制御性に優れるだけでなく、高い生産性と低コストを可能とする合金粉末製造方法の開発が熱望されている。
【0004】
合金粉末の製造方法は、スパッタリング法や蒸着法などの気相法と、メカニカルアロイングなどの固相反応法が一般的である。前者については、高純度で微細な合金粉末の作製に有利であるが、大型の真空装置が必要であり、また、製造条件の制御に高度なノウハウも必要となるため、コスト高で、生産性と制御性の面で不利である。一方、後者については、精密かつフレキシブルな組成制御が困難であり、さらに合金生成に数十〜数百時間と長時間を要することや、その間に摺動部の磨耗などにより不純物が混入するなどの問題がある。
【0005】
また、気相法や固相反応法に限らず従来の殆どの合金粉末製造法は、原料として、全ての合金成分元素について高純度の金属粉末を準備する必要があり、特に貴金属などの希少金属を用いる場合は、原料コストが非常に高くなることが問題であった。
【0006】
他の合金粉末を得るための製造方法としては、特開昭63−183101号公報に記載されているような、電解液に水溶液を用いた無電解めっき法による被覆金属粉末の製造方法が知られている。しかしながら、この製法では、核となる金属粒子の表面に置換反応により他の金属を被覆するものであり、例えば、傾斜組成を持った合金層に覆われた粒子や内部まで均一に合金化された粒子などを得ることはできない。また、後処理として、製法上、必然的に形成される酸化皮膜の除去のために、高温水素還元処理が必要となるなど、製造工程が複雑になる問題もある。
【0007】
また、合金粉末の製造方法に限定せず、溶融塩を用いた合金又は合金粉末を製造するために参考となる他の製造方法としては、特開2005−264320号公報に開示されているチタン及びチタン合金の製造方法や、特表2004−522851号公報に開示されている合金化を含む金属粉末の製造方法などが挙げられる。
【0008】
しかしながら、前者では、還元生成した金属粉末が溶融塩浴中で衝突、相互拡散することで合金粉末が得られるため、衝突の頻度による合金の組成制御が困難である。また後者では、酸化物を電気化学的に還元する必要があるため、十数時間以上の長い反応時間を要することや、均質な合金を得るための制御が困難であるため、結果的に合金又は合金粉末の収率が悪いなどの問題があった。
【特許文献1】特開昭63−183101号公報
【特許文献2】特開2005−264320号公報
【特許文献3】特表2004−522851号公報
【非特許文献1】「溶融塩化物系での放電電解によるNi微粒子の形成」、河村博行、森谷公一、伊藤靖彦、粉体及び粉末冶金、45(12)、1142、(1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明は、合金粉末の原材料として高純度な金属粉末を必要とせず、かつ製造工程の簡素化、合金粉末製造時の反応時間の大幅な短縮化など、生産性の向上や製造コストの大幅削減を踏まえた上で、更に高度な組成制御を可能にした製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の点に鑑みて鋭意検討を重ねた結果、溶融塩を反応媒体に用い、金属の置換反応を利用することにより、合金粉末の製造原料である高純度な合金成分金属を必要としないことで原材料コストを大幅に減じ、かつ製造工程数が少なく、合金粉末製造時の反応時間を大幅に短縮することができる新しい合金粉末の製造方法を開発した。
【0011】
本プロセスでは溶融塩を反応媒体に用いる。例えば、金属Aと、Aよりも貴である金属Bとの合金粉末を製造する場合、この溶融塩中に、金属Aの粉末と、金属Bの化合物を添加する。金属Bの化合物は溶融塩中に溶解して、金属Bのイオン(例えばB(I))を生成する。ここで、金属Aは金属Bよりも卑である(イオン化傾向が大きい)ために、金属A粉末の表面から金属Aがイオン(例えばA(I))となって徐々に溶融塩中に溶出し、それと同時に、金属Bのイオンは還元されて、金属A粉末の表面上に金属Bが析出する(置換反応)。この際、金属Aと析出した金属Bとの相互拡散により、金属A粉末の表面近傍にAとBから成る合金層が形成される(下記式1および図1参照)。

2A + B(I) → AB + A(I) (1)
【0012】
本プロセスでは、金属Aと析出した金属Bとの相互拡散により合金層が成長するため、基本的には、粉末表面へ向かうほど金属Bリッチで、内部へ向かうほど金属Aリッチとなる傾斜組成の合金層が形成される。このため、反応時間が非常に短い場合には、生成される粉末の大部分の領域は金属Aの組織のままであり、表面のみが金属AとBからなる合金層に覆われる。一方、反応時間が比較的長い場合には、生成される粉末の中心まで合金化が進む。
【0013】
このように、本発明における合金化反応やその反応速度は、金属AとBの組み合わせに依存し、また、反応させる際の浴温や、金属A粉末量に対する金属Bのイオン濃度などにも依存する。従って、反応時間や、浴温、金属Bのイオン濃度の制御によって、合金組成が精密にコントロールされた様々な合金粉末を製造することができる。
【0014】
金属元素AとBの組み合わせ
合金成分である金属元素AとBの組み合わせについては、使用する溶融塩中でイオンとして存在し得る相異なる金属元素であれば、特に限定されることなく自由に組み合わせることができる。
【0015】
アルカリ金属ハライド又はアルカリ土類金属ハライドに代表される一般的な溶融塩中であれば、希ガスを除き、ほぼ全ての金属元素およびそのイオンを取り扱うことが可能であり、金属元素によってイオン化傾向が異なるので、原理的には、相異なる全ての金属元素について、合金や化合物(窒化物や炭化物なども含有できる)を製造することが可能である。また、ある程度イオン化傾向の離れた金属元素同士を組み合わせた方が、式(1)の反応の駆動力が大きくなるため、高い生産性を求める場合には好ましい。
【0016】
金属元素A
本発明において添加する金属A粉末のサイズや形状は、特に限定されることなく使用することができるが、最終生成物として非常に微細な合金粉末を得ようとする場合には、添加する金属A粉末のサイズも、より小さいものを使用することが好ましい。ただし、添加する金属A粉末が粒状やフレーク状のものであっても、実際には、合金化反応の過程で微細化していく場合もある。
【0017】
特に微細な合金粉末の作製を望む場合には、非特許文献1の中に記載されているようなプラズマ誘起電解法を使用できる。このプラズマ誘起電解法では、溶融塩中の金属イオンを、プラズマ誘起された放電により電気化学的に還元して、溶融塩中にナノ金属粒子を生成することができる。すなわち、金属Aについては、溶融塩中に溶解して金属Aのイオンを生成するハロゲン化合物や酸化物などを投入すれば良いので、金属元素Aについて高純度の金属粉末を別途作製及び準備する必要性が排除される。従って、このプラズマ誘起電解法を金属A粉末の供給手段として併用することで、ナノサイズの微細な合金粉末を容易に得られるとともに、原料の製造や調達、コストの面での有利性が増すことも、本発明の特徴である。
【0018】
このように、金属元素Aについては、上記のように既製の金属A粉末を溶融塩中に投入する方法や、溶融塩中に存在させた金属Aのイオンを還元させるなどして、溶融塩中で金属A粉末を生成し供給する方法がある。
【0019】
金属元素B
金属元素Bは金属元素Aに対して、より貴な金属、かつ、溶融塩中に溶解して金属Bのイオンを生成することができるものであれば特に限定されないが、原料の製造や調達の容易性、コスト面などからハロゲン化物や酸化物などの化合物を使用することが好ましい。
【0020】
また、金属Bの化合物の添加量についても特に制約条件はなく、金属A粉末量と目的とする合金組成に応じて適宜添加すれば良い。
【0021】
この時、合金化反応速度は金属Bのイオン濃度を高めるほど(また温度が高くなるほど)速くなる。したがって、高い生産性を求める場合は、溶融塩浴の浴温を高めることにより、金属元素Bの化合物の溶解量を大きくして金属Bのイオンの生成を促進させることが有効である。特に、金属元素Bの化合物量を、溶融塩浴の溶解限度を超えて添加することは、合金化反応進行中の溶融塩浴の金属Bのイオン濃度を一定にし、合金化により消費された金属Bイオンは、金属Bの化合物が溶解することで補われることができるので好ましい。なお、金属元素Bが複数の価数をとる場合は、任意の温度で使用される溶融塩浴中において、安定性が高く、かつ、最も低次の価数のイオンを選択することが好ましい。
【0022】
溶融塩
溶融塩浴の種類については、金属A、及び金属Bのイオンが各々単独で安定的に存在する系であり、かつ、合金化に必要な温度に応じて同温度よりも低い融点を持つものを選択すれば良い。例えば、金属の塩化物、フッ化物、臭化物、水酸化物、酸化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩などが挙げられる。
【0023】
具体的には、溶融塩はアルカリ金属ハライド又はアルカリ土類金属ハライド、若しくはこれらを混合したものからなる溶融塩を使用することができ、例えば、
LiCl−KCl、LiCl−KCl−CsCl、LiCl−CsCl、LiCl−KCl−LiBr−KBr、LiBr−KBr、LiBr−CsBr、LiBr−KBr−CsBr、LiI−KI、NaCl−MgCl、KCl−MgCl、KBr−MgCl、NaBr−MgBrなどを例示することができる。
【0024】
通常は、上記のようなアルカリ金属やアルカリ土類金属などのハライドを用いればよいが、溶融塩浴へ溶解する金属Aのイオンが不純物とならないように、金属Aの塩化物を単独で、若しくは上記のアルカリ金属ハライド等と混合して使用することもできる。また、溶融塩浴の融点を下げるために、低融点で比較的卑な金属のハライドを上記のアルカリ金属ハライド等と混合して使用することもでき、具体的には、AlCl、MnCl、ZnCl、SnCl、PbClなどを例示することができる。
【0025】
また、金属Bに対して、より卑な金属Aの粉末を溶融塩浴中で安定的に存在させるためには、溶融塩浴として用いる塩を金属Aと同一の浴成分、若しくは金属Aよりもさらに卑な金属の塩から選択することが好ましい。
【0026】
溶融塩浴は、生成された合金粉末の表面酸化を防ぐなどの理由により、必要があれば不活性ガスによるパージ、もしくは気流中に保持することが好ましい。また、合金粉末の組成やサイズの均一化を促進させる目的で、溶融塩浴を攪拌したり振動を与えたりすることもできる。
【0027】
浴 温
合金化に必要となる溶融塩浴の温度(浴温)については特に制限はないが、浴温が高い場合は、合金化反応速度が大きくなるので、短時間での合金製造に適する。一方、浴温が低い場合は、合金化反応速度は小さくなるので、合金組成や傾斜組成の制御性の向上に適する。
【0028】
合金粉末の製造を、生成する合金相の融点以下の浴温(ただし、目的とする合金相の生成過程で生じる他の組成の合金相の方が融点が低くなる場合があるが、この場合は最も融点の低い合金相を想定すれば良い)で実施する場合は、合金化反応は常に固相で進行するため、傾斜組成を持った合金層を形成させるのに有効である。これに対し、生成する合金相の融点以上の浴温で実施する場合は、合金層は液相で存在するため、反応時間の短縮や合金組成の均質化に有利であり、最終的に得られる合金粉末の表面も滑らかになり易い。
【0029】
回収、後処理
付着した塩の洗浄は、溶融塩電解など他の溶融塩技術で一般的に用いられている洗浄方法を流用することができる。例えば、脱酸素処理をした温水を使用すれば、容易に付着塩を除去することができる。また、洗浄中の酸化を防ぐために、洗浄時の雰囲気は不活性ガスや水素などにより非酸化雰囲気下、又は還元雰囲気下に保持することが好ましい。
【0030】
製造される合金粉末が磁性粉末である場合は、回収の際に磁石等を利用すれば、回収効率を飛躍的に高めることができる。
【0031】
また、合金成分が希土類金属やアルカリ金属などの卑金属元素である場合は、洗浄時に水を使用すると反応するため、エタノールなどと混合したりイオン性液体を使用したりするなどの工夫が必要となる。しかしながら、一方では、洗浄水と反応させることで卑金属成分を選択的に取り除くこともできるので、合金粉末表面の粗面化や多孔質化など、合金粉末にさらなる高機能性を付与することも可能になる。
【0032】
応 用
上記の技術は、全てA−B二元系の合金粉末の製造方法について述べられてきたが、本発明の製造方法は、異なる金属元素についてこの反応を繰り返し実施することにより、3種以上の成分からなる合金粉末を製造する場合についても適用可能である。
【0033】
例えば、Aが最も卑な金属であり、次いでB、そしてCが最も貴な金属であるような、A−B−C三元系の合金粉末を製造する場合、(イ)最初に金属Aと金属Bのイオン(例えばB(I))とを反応させた後、生成された二元系の合金A−Bと金属Cのイオンとを反応させる方法と、(ロ)最初に金属Aと金属Cのイオン(例えばC(II))とを反応させた後に、生成された二元系の合金A−Cと金属Bのイオンとを反応させる方法がある。
【0034】
(イ)の方法の場合、金属元素Cが最も貴な金属であるので、二元系の合金A−Bと金属元素Cとの合金化の際、式2のように合金組成A−Bから最も卑な金属である金属Aが優先的にイオン(例えばA(I))となって溶解するのに加えて、金属Bも同様にイオンとなって溶解する(ただし、金属BとCとのイオン化傾向が近い場合、生成される組成によってはBの溶出が生じない場合もある)。

4A + 2B(I) → 2AB + 2A(I)
2AB + C(II) → ABC + A(I) + B(I) (2)

【0035】
一方、(ロ)の方法の場合、二元系の合金A−Cと金属元素Bとの合金化の際、式3のように合金組成A−Cから金属Aのみがイオンとなって溶解する。

4A + C(II) → A2C + 2A(I)
2C + B(I) → ABC + A(I) (3)

【0036】
従って、本発明の製造方法によれば、4種以上の異なる金属元素に対しても上記と同様の方法で順次反応させることにより、多元系の合金粉末を製造することが可能となる。(イ)、(ロ)のいずれの方法においても、最終的には同じ組成の多元系合金粉末を製造することができるが、合金組成の制御性向上の面からは、金属元素Aを含む合金組成の変化のみをコントロールすればよい(ロ)の方法の用いる方が有効であるといえる。
【0037】
以上の検討結果をまとめると、本発明の特徴は以下のように整理される。
【0038】
すなわち、本発明によれば、溶融塩を用いた2種以上の金属からなる合金粉末の製造方法において、(a)溶融塩を準備するステップと、(b)前記溶融塩へ、合金粒子の核となる金属A粒子を供給するステップ、および、前記溶融塩へ、前記金属Aより貴(イオン化傾向が小さい)な金属Bを溶解させるステップと、そして(c)前記金属Aと、金属Bのイオンとの置換反応により金属A粒子の表面に金属Bを析出させ、同時に、金属A粒子の表面からの相互拡散により金属A及びBを合金化させるステップとを含んでいる前記合金粉末の製造方法が提供される。
【0039】
また、本発明によれば、ステップ(c)の後ステップ(b)へ戻り、金属Aより貴であるが、ステップ(b)において溶解されていない別種の金属を溶融塩へ溶解させる(b)から(c)の繰り返しステップを1又は2回以上含ませることにより、少なくとも3元素以上の金属からなる合金粉末を生成することができる。
【0040】
また、本発明によれば、生成された合金粉末は、ステップ(c)の後、得られた合金粉末を水、アルコール類又はイオン性液体を用いて洗浄等する工程(ステップ(d))を追加することにより、容易に溶融塩などの付着物を除去することができる。
【0041】
また、本発明によれば、合金粉末の洗浄工程を追加したステップ(d)の後ステップ(a)へ戻り、ステップ(b)において得られた合金粉末を金属Aとして溶融塩へ供給し、さらに金属Aより貴であるが、ステップ(b)において溶解されていない別種の金属を溶融塩へ溶解させる(a)から(d)の繰り返しステップを1又は2回以上含ませることにより、少なくとも3元素以上の金属からなる合金粉末を生成することもできる。
【0042】
さらに、本発明によれば、ステップ(b)において、溶融塩へ金属A粒子を供給する方法としてプラズマ誘起電解法を用いることにより、微細かつ高純度の金属A粒子を溶融塩中に効率良く準備することができる。
【0043】
なお、本発明において安定的に置換反応を進行させ、均質な組成を有する合金粉末を得るためには、ステップ(b)および/または(c)において溶融塩を攪拌させながら反応を進行させることが好ましい。
【0044】
また、生成される合金粉末の酸化等を防止するために、本発明による合金粉末の製造は不活性ガス又は還元ガス雰囲気下で実施することが好ましい。
【0045】
また、本発明によれば、溶融塩浴の浴温、溶融塩浴中の金属Bのイオン濃度及び反応時間を変化させることにより、得られる合金粉末の組成や生産速度を自由に制御することができる。
【0046】
本発明で使用される溶融塩は、アルカリ金属ハライド又はアルカリ土類金属ハライド、若しくはこれらの混合物であればよく、具体的には、LiCl−KCl、LiCl−KCl−CsCl、LiCl−CsCl、LiCl−KCl−LiBr−KBr、LiBr−KBr、LiBr−CsBr、LiBr−KBr−CsBr、LiI−KI、NaCl−MgCl、KCl−MgCl、KBr−MgCl、及びNaBr−MgBrよりなる群から選ばれた1又は2種以上の金属ハライドが使用できる。
【0047】
通常は上記のようなアルカリ金属やアルカリ土類金属などのハライドを用いればよいが、溶融塩浴へ溶解する金属Aのイオンが不純物とならないように、金属Aの塩化物を単独、もしくは上記のアルカリ金属ハライド等と混合して使用することもできる。また、溶融塩浴の融点を下げるために、低融点で比較的卑な金属のハライドを上記のアルカリ金属ハライド等と混合して使用することもでき、具体的には、AlCl、MnCl、ZnCl、SnCl、PbClなどを例示することができる。
【0048】
また、本発明で使用される金属A粒子は、置換反応により合金化される他の金属Bより卑であれば特に限定されるものではないが、一般には、Mn、Al、Ti、Zr、Hf、Zn、Cr、Fe、Ga、Pb、Sn、Siに加え、Sc、Y、La、Nd、Smなどのランタノイド、U、Thなどのアクチノイドを使用することができる。また、これらの金属A粒子は、酸化物、ハロゲン化物など他の非金属元素との化合物であってもよい。
【0049】
また、金属A粒子とは逆に、本発明で使用される金属Bは置換反応により合金化する金属A粒子より貴であれば特に限定されるものではなく、一般には、Au、Pt、Ir、Te、Ru、Rh、Pd、Re、Tl、Cu、W、Mo、Bi、Sb、Ni、Ta、Co、Ag、Fe、Mn、Sn、Inなどを使用することができる。また、これらの金属Bは、酸化物、ハロゲン化物など他の非金属元素との化合物であってもよい。
【発明の効果】
【0050】
以上のように、本発明の製造方法によれば、溶融塩を反応媒体に用い金属の置換反応を利用することにより、合金粉末の製造原料として添加する高純度な合金成分金属を準備する必要性を大幅に減じ、かつ製造工程数が少なく、また、合金粉末製造時の反応時間を大幅に短縮することができる新しい合金粉末の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
以下、図面を参照しながら本発明の実施例について説明する。なお、本発明は、以下に示される実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で各種の変更が可能である。
【実施例1】
【0052】
実施例1は、金属Bに対しより卑な金属A粉末として、前記プラズマ誘起電解により溶融塩中にFe粉末を生成・供給し、引き続き金属B成分としてPtの化合物を添加することでPt−Fe系合金粉末を作製したものである。
【0053】
溶融塩には、アルゴン雰囲気下、共晶組成のLiCl−KCl(59:41)を400℃で溶融させたものを用いた。この溶融塩に9×10−2mol%程度のFeClを添加し、前記プラズマ誘起電解法(通電量が約1,200C)により溶融塩の中に非常に微細なFe粉末を生成させた。次に、この微細Fe粉末を含むLiCl−KCl溶融塩にKPtClを3×10−2mol%程度添加した後、一定時間毎に溶融塩をサンプリングして粉末を回収し、XRDによる分析を行った。
【0054】
図2は、得られた合金粉末のXRD分析の結果である。溶融塩へのKPtCl添加30分後にはPtの回折ピークのみが確認される。これは、30分後では、Fe粉末表面においてFeとPtイオンとの置換反応により金属Ptが析出するが、合金化はほとんど進行していない状態であることを示す。一方、3時間後以降はPtFe合金相のピークが確認された。これは、Fe粒子表面への析出Ptの拡散により徐々に傾斜合金層が形成され、その中で最も存在割合の大きいPtFe相が検出されたことによるものと考えられる。また、48時間後には、さらにPtFe相の回折ピークが強く観測されており、合金層がさらに成長していることが分かる。
【0055】
図3は、反応時間3時間で得られた合金粉末のSEM写真であるが、その粒子径は20〜30nm程度と非常に小さい。これは、前記プラズマ誘起電解法によるナノ粒子製造法によって、微細なFe粉末(金属A成分)を直接溶融塩中に生成させることで、最終的に得られる合金粒子が、非常に微細になることを示している。
【実施例2】
【0056】
実施例2は、金属Bに対し、より卑な金属A粉末として市販のSn粉末を選択し、また、溶融塩の成分として金属A成分と同一の金属塩(SnCl)を用いてSn系合金粉末の合金粉末の作製を実施したものである。
一般に、Sn系合金は低融点であるので、その融点以下の浴温(合金化は固相で進行する)を維持した。
【0057】
金属B成分としては、Cuを選択した。溶融塩は、共晶組成のSnCl−KCl(60:40)をアルゴン雰囲気下、200℃で溶融させたものを用い、これに、金属Bの化合物であるCuClを添加した。続いてSn粉末を添加して、浴を攪拌しながら3〜60分間程度反応させた後、生成した合金粉末を回収した。
【0058】
図4は、CuClを0.45mol%、及び0.9mol%添加して、60分間反応させた場合に得られた合金粉末のXRD分析結果である。いずれの試料においても組成の異なるCu−Sn系合金(及びCu単相)の存在が示されており、表面ほどCuリッチで内部ほどSnリッチである傾斜組成を有していることが示唆される。ここで、合金粉末の主相について見た場合、CuCl添加量が小さい場合には、SnリッチなCuSnであるのに対し、CuCl添加量が大きい場合には、CuリッチなCuSnであることが判った。これは、添加するCuCl量により、得られる合金粉末の組成を制御できることを示している。
【0059】
また、図5は、CuClを0.9mol%程度添加して、3分間、及び60分間反応させた場合に得られた合金粉末のXRD分析結果である。いずれの条件で得られた合金粉末も主相はCuSnであるが、反応時間が3分の場合にはよりSnリッチなCuSnの回折ピークも比較的強く検出されている。一方、反応時間が長い60分の場合では、このCuSnの回折ピークは弱い。これは、反応時間が長くなることでCuリッチな合金層の厚さが増大していることを示しており、反応時間によって傾斜組成を有する合金層の成長を制御できることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明における本プロセスの原理を示した概念図である。
【図2】実施例1により得られた合金粉末のXRD分析結果を示した図である。
【図3】実施例1により得られた反応時間3時間の合金粉末のSEM写真である。
【図4】実施例2において、CuCl添加量を変化させた場合に得られる合金粉末のXRD分析結果を示した図である。
【図5】実施例2において、反応時間を変化させた場合に得られる合金粉末のXRD分析結果を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融塩を用いた2種以上の金属からなる合金粉末の製造方法において、
(a)溶融塩を準備するステップと、
(b)前記溶融塩へ、合金粒子の核となる金属A粒子を供給するステップ、および、前記溶融塩へ、前記金属Aより貴(イオン化傾向が小さい)な金属Bを溶解させるステップと、そして
(c)前記金属Aと、金属Bのイオンとの、置換反応により金属A粒子の表面に金属Bを析出させ、同時に、金属A粒子の表面からの相互拡散により金属A及びBを合金化させるステップと
を含んでいる前記合金粉末の製造方法。
【請求項2】
前記ステップ(c)の後前記ステップ(b)へ戻り、金属Aより貴であるが、ステップ(b)において溶解されていない別種の金属を溶融塩へ溶解させることにより少なくとも3元素以上の金属からなる合金粉末を生成させる、(b)から(c)の繰り返しステップを1又は2回以上含んでいる請求項1に記載の合金粉末の製造方法。
【請求項3】
ステップ(c)の後、得られた合金粉末を水、アルコール類又はイオン性液体を用いて洗浄するステップ(d)をさらに含んでいる請求項1に記載の合金粉末の製造方法。
【請求項4】
前記ステップ(d)の後前記ステップ(a)へ戻り、前記ステップ(b)において得られた合金粉末を前記金属Aとして溶融塩へ供給し、さらに金属Aより貴であるが、ステップ(b)において溶解されていない別種の金属を溶融塩へ溶解させることにより少なくとも3元素以上の金属からなる合金粉末を生成させる、(a)から(d)の繰り返しステップを1又は2回以上含んでいる請求項3に記載の合金粉末の製造方法。
【請求項5】
前記ステップ(b)において、溶融塩へ金属A粒子を供給する方法としてプラズマ誘起電解法が用いられていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の合金粉末の製造方法。
【請求項6】
前記ステップ(b)および/または(c)は、溶融塩を攪拌させながら実施されることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の合金粉末の製造方法。
【請求項7】
前記合金粉末の製造は、不活性ガス又は還元ガス雰囲気下で実施されることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の合金粉末の製造方法。
【請求項8】
溶融塩浴の浴温、溶融塩浴中の金属Bのイオン濃度又は反応時間を変化させることにより、得られる合金粉末の組成を制御することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の合金粉末の製造方法。
【請求項9】
前記溶融塩は、アルカリ金属ハライド又はアルカリ土類金属ハライド、若しくはこれらの混合物を含んでいる請求項1ないし4のいずれかに記載の合金粉末の製造方法。
【請求項10】
前記アルカリ金属ハライド又はアルカリ土類金属ハライドは、LiCl−KCl、LiCl−KCl−CsCl、LiCl−CsCl、LiCl−KCl−LiBr−KBr、LiBr−KBr、LiBr−CsBr、LiBr−KBr−CsBr、LiI−KI、NaCl−MgCl、KCl−MgCl、KBr−MgCl、及びNaBr−MgBrよりなる群から選ばれた1又は2種以上の金属ハライドを含んでいる請求項9に記載の合金粉末の製造方法。
【請求項11】
前記金属A粒子は、Mn、Al、Ti、Zr、Hf、Zn、Cr、Fe、Ga、Pb、Sn、Si、Sc、Y、La、Nd、Sm、U、及びThよりなる群から選ばれた1又は2種以上の金属又は合金である請求項1ないし4のいずれかに記載の合金粉末の製造方法。
【請求項12】
前記金属A粒子は、請求項11の金属と非金属元素との化合物である請求項1ないし4のいずれかに記載の合金粉末の製造方法。
【請求項13】
前記金属Bは、Au、Pt、Ir、Te、Ru、Rh、Pd、Re、Tl、Cu、W、Mo、Bi、Sb、Ni、Ta、Co、Ag、Fe、Mn、Sn及びInよりなる群から選ばれた1種の金属である請求項1ないし4のいずれかに記載の合金粉末の製造方法。
【請求項14】
前記金属Bは、請求項13の金属と非金属元素との化合物である請求項1ないし4のいずれかに記載の合金粉末の製造方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−215569(P2009−215569A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−57211(P2008−57211)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【出願人】(503027931)学校法人同志社 (346)
【出願人】(506360310)アイ’エムセップ株式会社 (17)
【Fターム(参考)】