説明

溶融金属めっき鋼帯の製造方法

【課題】鋼帯端部外側から鋼帯端部に向けてカーテンガスを噴射するノズル部材を設けることで、スプラッシュの発生を低減し、エッジオーバーコートを防止し、さらに該ガスを噴射するノズル部材へのめっき金属の付着を防止して、表面品質に優れる溶融金属めっき鋼帯を安定製造できる方法を提供する。
【解決手段】溶融金属めっき浴から連続的に引き上げられる鋼帯の表面に、鋼帯を挟んでその両面に対向配置したガスワイピングノズル1からガスを吹き付けて付着金属の厚さを制御する溶融金属めっき鋼帯の製造方法において、ワイピングガス噴射高さ位置で、各鋼帯端部外側から鋼帯端部に向けてカーテンガスを噴射することを特徴とする溶融金属めっき鋼帯の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融めっきプロセスにおいて、スプラッシュ飛散を軽減し、さらにエッジオーバーコートを防止できる溶融金属めっき鋼帯の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
連続溶融めっきプロセス等においては、図5に示すように、一般的に溶融金属が満たされているめっき浴8に鋼帯Sを浸漬させシンクロール7で方向転換した後、該鋼帯Sを鉛直上方に引き上げる工程の後に、鋼帯表面に付着した溶融金属が板幅方向および板長手方向に均一に所定のめっき厚になるように、この鋼帯Sを挟んで対向して設けた鋼帯幅方向に延在するガスワイピングノズル1から加圧気体を鋼帯上に噴出させて、余剰な溶融金属を絞り取り、溶融金属の付着量(めっき付着量)を制御するガスワイピング装置が設けられている。
【0003】
ガスワイピングノズル1は、多様な鋼帯幅に対応すると同時に鋼帯引き上げ時の幅方向のズレなどに対応するため、通常、鋼帯幅より長く、すなわち鋼帯Sの幅端部より外側まで延びている。このようなガスワイピング装置では、鋼帯端部に衝突する噴流がやや外側を向いてしまって衝突力が減少するために、鋼帯端部のめっき厚が中央部に比べて厚くなるエッジオーバーコートが発生したり、鋼帯Sに衝突した噴流の乱れによって鋼帯下方に落下する溶融金属が周囲に飛び散る、いわゆるスプラッシュによる欠陥が発生したりして、鋼帯の表面品質の低下を招く。
【0004】
また、連続プロセスにおいて、生産量を増加させるには、鋼帯通板速度を増加させればよいが、連続溶融めっきプロセスにおいてガスワイピング方式でめっき付着量を制御する場合、溶融金属の粘性により、ライン速度の増加に伴って鋼帯のめっき浴通過直後の初期付着量が増加するため、めっき付着量を一定範囲内に制御するには、ワイピングガス圧力をより高圧に設定せざるを得ず、それによってスプラッシュが大幅に増加し、良好な表面品質を維持できなくなる。
【0005】
上記の問題を解決するため、鋼帯両端部近傍に気体ノズルを設ける方法や、鋼帯両端部延長面上に位置するバッフルプレートを設けて鋼帯両側のガスワイピングノズルから噴射されるガス同士の衝突を遮断する方法が以下の通り開示されている。
【0006】
特許文献1には、図6に示すように、主ノズル(ワイピングノズル)11下方の鋼帯S幅方向延長線上に設けたサイドノズル12により、鋼帯端部に付着する余剰の溶融金属のワイピングを行った後、主ノズル11によりガスワイピングを行う方法が開示されている。
【0007】
特許文献2には、図7に示すように、鋼帯Sの幅方向延長面に設けたバッフルプレート30への溶融金属の付着を防止するべく、バッフルプレート30の鋼帯側端部31に下向きのガスノズル32を設ける方法、前記鋼帯側端部31の内部に冷却部(図示なし)を設ける方法、前記鋼帯側端部31を溶融金属との濡れ性が小さい材質で構成する方法、あるいは上記の方法を組み合わせる方法が開示されている。
【0008】
特許文献3には、図8に示すように、バッフルプレート40の鋼帯側コーナー下部に、鋼帯端部付近のワイピングノズル41からの噴射ガスの流れを内向きに変える傾斜ガイド42を設けて騒音とスプラッシュの発生を防止する方法が開示されている。
【0009】
特許文献4には、図9に示すように、ガスワイピングノズル51と同じ高さに設けられ、外側が先端に向かって鋭角的な角度で先細りになった補助ノズル52から、ガスワイピングノズル51よりも高圧の噴流54を鋼帯Sの板幅方向中央部に向けて噴射させ、ガスワイピングノズル51からの噴流53を鋼帯Sの板幅方向端部に向かう変向流55とすることで、エッジオーバーコートを防止する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平6−158261号公報
【特許文献2】特開平9−41114号公報
【特許文献3】特開2003−321756号公報
【特許文献4】特開平10−183325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところが、特許文献1に開示された方法では、エッジオーバーコートは低減するものの、斜め内向きのサイドノズル12から噴射されたガス流が鋼帯S上に到達する地点と、主ノズル11から噴射され鋼帯Sに衝突する地点とが離れているため、主ノズル11で発生するスプラッシュに加えてサイドノズル12のガスによってもスプラッシュが発生し、スプラッシュ欠陥が大量発生してしまう問題があった。また、ワイピングノズル11噴射口付近で発生したスプラッシュが前記サイドノズル12につらら状に堆積して鋼帯に付着するため、安定操業できなかった。
【0012】
特許文献2に開示された方法では、バッフルプレート30にスプラッシュが付着しにくいものの、ガスノズル32設置のためにバッフルプレート30を鋼帯に近接化するのに限界があり、スプラッシュおよびエッジオーバーコートの低減効果は限定的であった。
【0013】
特許文献3に開示された方法では、特許文献1と同様に、内向きのガス流れを発生させてもガスの乱れが増加するためスプラッシュの発生は多く、また傾斜ガイド42上部に堆積したスプラッシュが鋼帯に付着して粒状の表面欠陥の原因となる問題があった。
【0014】
特許文献4に開示された方法では、ガスワイピングよりも高圧の噴流を鋼帯端部に向かって噴射するため、鋼帯端部で発生したスプラッシュが鋼帯方向に飛散して鋼帯に再付着し、スプラッシュ欠陥が発生する問題があった。
【0015】
本発明は、上記の問題点を解決し、鋼帯端部外側から鋼帯端部に向けてカーテンガスを噴射するノズル部材を設けることで、スプラッシュの発生を低減し、エッジオーバーコートを防止し、さらに該ガスを噴射するノズル部材へのめっき金属の付着を防止して、表面品質に優れる溶融金属めっき鋼帯を安定製造できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決する本発明の手段は次のとおりである。
【0017】
(1)溶融金属めっき浴から連続的に引き上げられる鋼帯の表面に、鋼帯を挟んでその両面に対向配置したガスワイピングノズルからガスを吹き付けて付着金属の厚さを制御する溶融金属めっき鋼帯の製造方法において、ワイピングガス噴射高さ位置で、各鋼帯端部外側から鋼帯端部に向けてカーテンガスを噴射することを特徴とする溶融金属めっき鋼帯の製造方法。
【0018】
(2)鋼帯幅方向延長面上のワイピングガス噴射高さ位置に、鋼帯長手方向にスリット状のガス噴射口を有するスリットノズルを配置して、鋼帯端部に向けてカーテンガスを噴射することを特徴とする(1)に記載の溶融金属めっき鋼帯の製造方法。
【0019】
(3)前記スリットノズルのガス噴射口は、該ガス噴射口上端がガスワイピングノズルの噴射口の上端より高く、該ガス噴射口下端がガスワイピングノズルの噴射口の下端より低くなるように配置されることを特徴とする(2)に記載の溶融金属めっき鋼帯の製造方法。
【0020】
(4)前記スリットノズルのガス噴射口の鋼帯厚み方向幅は、生産する鋼帯の最大板厚以上であることを特徴とする(2)または(3)に記載の溶融金属めっき鋼帯の製造方法。
【0021】
(5)前記スリットノズルのガス噴射口のガス圧力は、前記ガスワイピングノズルのガス圧力の10〜50%であることを特徴とする(2)〜(4)いずれかに記載の溶融金属めっき鋼帯の製造方法。
【0022】
(6)鋼帯幅方向延長面上の対向するガスワイピングノズル間に設置されるバッフルプレートに、前記スリットノズルを内蔵させることを特徴とする(2)〜(5)のいずれかに記載の溶融金属めっき鋼帯の製造方法。
【0023】
(7)鋼帯幅方向延長面上の対向するガスワイピングノズル間に設置されるバッフルプレートの側面に、前記スリットノズルを取り付けることを特徴とする(2)〜(5)のいずれかに記載の溶融金属めっき鋼帯の製造方法。
【0024】
ここで、カーテンガスとは、ガス吐出部における噴流の断面形状が、鋼帯厚み方向幅が小さく、鋼帯長手方向長さが大きい形状を有する噴流を指している。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、ガスワイピングノズルの高さ位置で、鋼帯端部外側から鋼帯端部に向けてカーテンガスを噴射することによって、通常の鋼帯通板速度だけでなく鋼帯通板速度を高めた場合でも、鋼帯中央から鋼帯端部方向へのワイピングガス流れを抑制してエッジスプラッシュを低減し、かつバッフルプレートを鋼帯に近接させるのと同等の作用によってエッジオーバーコートを防止し、またカーテンガスを噴射するノズル部材へのめっき金属の付着を防止できるため、表面品質に優れる溶融金属めっき鋼帯を安定して製造できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施に使用するガスワイピング装置の実施形態を示す図で、ガスワイピングノズルの鋼帯端部近傍部分を示す概略斜視図である。
【図2】本発明の実施に使用するガスワイピング装置のスリットノズルの実施形態を示す縦断面図である。
【図3】本発明の実施に使用するガスワイピング装置のスリットノズルの作用を説明する図で、鋼帯正面から見たときの鋼帯端部近傍のワイピングガスの流れを示す。
【図4】本発明の実施に使用するガスワイピング装置のスリットノズルの作用を説明する図で、ガスワイピング装置上方から見たときの鋼帯端部近傍のワイピングガスの流れを示す。
【図5】一般的な連続溶融金属めっき鋼帯の製造装置の概略側面図である。
【図6】特許文献1で使用されるガスワイピング装置の要部を示す概略斜視図である。
【図7】特許文献2で使用されるバッフルプレートを示し、(a)は側面図、(b)は平面図である。
【図8】特許文献3で使用されるガスワイピング装置の要部を示す概略斜視図である。
【図9】特許文献4で使用されるガスワイピング装置の要部を示し、ガスワイピング装置上方から見たときの概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の溶融金属めっき鋼帯の製造方法では、溶融金属めっき浴から連続的に引き上げられる鋼帯の表面に、鋼帯を挟んでその両面に対向配置したガスワイピングノズルからガスを吹き付けて付着金属の厚さを制御する。その際、ワイピングガス噴射高さ位置で、各鋼帯端部外側から鋼帯端部に向けてカーテンガスを噴射する。
【0028】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の実施に使用するガスワイピング装置の実施形態を示す図で、ガスワイピングノズルの鋼帯の一方の端部近傍部分を示す概略斜視図である。図1において、1はガスワイピングノズル、2はスリットノズル、Sは鋼帯である。ガスワイピングノズル1は鋼帯Sを挟んでその両面に対向配置され、スリットノズル2は、従来技術のバッフルプレートと同様の外形を有し、略板状をなし、鋼帯幅方向延長面上に鋼帯端部と間隔をあけて配置され、鋼帯側端部にガス噴射口を有する。
【0029】
図2は、スリットノズル2の構造の一実施形態を示す図で、鋼帯幅方向延長面における縦断面図である。図中の一点鎖線はガスワイピングノズルの噴射口位置(ワイピングガスの噴射高さ位置、スリットギャップ中心の高さ位置)である。スリットノズル2には、内部に反鋼帯側端部から鋼帯側端部に至るガス流路3が設けられている。ガス流路3の断面は、反鋼帯側端部が円形をなし、反鋼帯側端部から鋼帯側端部に至る間に断面形状が円形から縦長の矩形に徐々に変化し、鋼帯側端部は鋼帯長手方向にスリットを有する矩形の開口部(ガス噴射口)となっている。ガス流路3の反鋼帯側端部にガス導入管4を接続してガスを導入し、ワイピングガスの噴射高さ位置で鋼帯側端部の噴射口から鋼帯端部に向けてカーテンガスを噴射する。ワイピングガスの噴射高さ位置では、ワイピングガス同士が衝突する。
【0030】
本発明のスリットノズルの作用を図3および図4を用いて説明する。図3は、鋼帯端部付近の主要なガス流れを、鋼帯面の正面から見た図で、(a)はバッフルプレートを用いた場合、(b)は本発明のスリットノズルを用いた場合である。図4は、鋼帯端部付近の主要なガス流れを、ガスワイピング装置の上方から見た図で、(a)はバッフルプレートを用いた場合、(b)は本発明のスリットノズルを用いた場合である。
【0031】
バッフルプレートを鋼帯端部に近接させると、エッジスプラッシュやエッジオーバーコートを低減する作用が優れることが知られている。しかし、バッフルプレートを鋼帯端部に近接しすぎるとスプラッシュがバッフルプレートに付着して、エッジスプラッシュやエッジオーバーコートを低減する作用を安定して発現できなくなる。従来は、スプラッシュがバッフルプレートに付着するのを防止するため、バッフルプレートは鋼帯と10〜20mm程度の隙間を確保して配置されている。このような配置状態では、ワイピングガスは鋼帯Sとバッフルプレート20の隙間に向かって流れやすくなり、鋼帯端部では、図3(a)に示すように、衝突後斜め上方及び斜め下方に向かう流れが発生する。スプラッシュとなっためっき金属は、前記の流れに乗って飛散しバッフルプレート20に付着する。また、鋼帯端部付近のガス流れが非常に乱れた状態になり、ワイピングガスの衝突圧力が低下するためエッジオーバーコートが発生する。
【0032】
本発明のスリットノズルでは、スリットノズル2のガス噴射口からカーテンガスを鋼帯端部に向けて噴射すると、スリットノズル2のガス噴射口と鋼帯端部間の鋼帯幅方向延長面上にカーテン状の噴流が形成され、あたかもプレートが鋼帯に接触しているような状態、すなわち鋼帯面が巾方向に延長された状態となる。その結果、鋼帯端部近傍のワイピングガスの流れは鋼帯中央部と同じように上下方向に流れ(図3(b))、ガス流れの鋼帯幅方向成分が減少する(図4(b))。鋼帯幅方向成分が減少することで、スプラッシュおよびエッジオーバーコートが低減される。さらに、鋼帯端部から外側へのめっき金属の飛び散りが減少するため、スリットノズルへのめっき金属の付着も抑制される。
【0033】
上記の効果を得るには、スリットノズルのガス噴射口の位置(鉛直方向位置)は、該ガス噴射口上端がガスワイピングノズルの噴射口の上端より高く、該ガス噴射口下端がガスワイピングノズルの噴射口の下端より低くなるように配置されることが好ましく、該ガス噴射口上端がガスワイピングノズルの噴射口の上端より5mm以上高く、該ガス噴射口下端がガスワイピングノズルの噴射口の下端より5mm以上低くなるように配置されることがより好ましい。スリットノズルのガス噴射口の上端および下端の鉛直方向位置がガスワイピングノズルの噴射口から離れすぎると衝突後に鋼帯幅方向に向かう流れが発生するようになり本発明の上記効果が損なわれ、また、スプラッシュ発生場所はワイピングガス同士の衝突位置より下側であることから、スリットノズルのガス噴射口上端はガスワイピングノズルの噴射口の上端から20mm以内、スリットノズルのガス噴射口下端はガスワイピングノズルの噴射口の下端から30mm以内にすることが好ましい。
【0034】
スリットノズルのガス噴射口の鋼帯厚み方向の幅は、模擬的に鋼帯を巾方向に延長する作用を発現させる点から生産する鋼帯の最大板厚以上とすることが好ましく、ガスワイピングノズル同士の間隔が最小10mm程度とすると、スリットノズルの鋼帯厚み方向厚みは6mm程度になることから、5mm以下が好ましい。スリットノズルのガス噴射口の鋼帯厚み方向の位置は、鋼帯幅方向の延長面上に位置するように設置することが好ましい。
【0035】
スリットノズルのガス噴射口からのガス噴射圧が、ガスワイピングノズルのガス噴射圧の10%未満になるとエッジスプラッシュ抑制効果が得られず、50%超になると、逆にワイピングガス流の乱れを増長させてスプラッシュが増加する。したがって、スリットノズルのガス噴射口からのガス噴射圧は、ガスワイピングノズルのガス噴射圧の10〜50%であることが好ましい。
【0036】
本発明のスリットノズルは、通常のバッフルプレートと同様の板状の外形・寸法を有するので、バッフルプレートに代替させて使用する構造とすることができる。また、バッフルプレートに、鋼帯端部に向けてカーテンガスを噴射するスリットノズルを内蔵させた構造としてもよい。また、通常のバッフルプレートとは別に本発明のスリットノズルを用意し、バッフルプレートの側面に、鋼帯端部に向けてカーテンガスを噴射するスリットノズルを取り付けた構造としても構わない。
【0037】
前記したように、従来、バッフルプレートと鋼帯端部の間隔は10〜20mmの範囲内になるように非常にシビアに距離制御を行う必要があった。本発明のガスワイピング方法では、スリットノズルと鋼帯端部の距離が大きくなってもスプラッシュ防止効果とエッジオーバーコート防止効果が奏され、また、スリットノズルと鋼帯端部の距離が小さくなってもスリットノズルへのスプラッシュ付着が抑制されるため、スリットノズルと鋼帯の距離制御は、従来のバッフルプレートのようにシビアな距離制御を行う必要がなくなる。例えば、本発明では、スリットノズルと鋼帯端部の間隔は、5〜40mmの範囲内になるように制御すればよい。
【実施例】
【0038】
本発明のスリットノズルの効果およびガス噴射圧力の好適条件を明らかにするため、図1に示したガスワイピング装置を、連続溶融亜鉛めっきラインに設置し、スリットノズルのガス噴射圧力および鋼帯〜スリットノズル距離を種々変更し、溶融亜鉛めっき鋼帯の製造実験を行った。スリットノズルは、ガスワイピングノズル両端上部に設けたサーボモータによる位置制御装置からフレームを伸ばした先にボルト締めで取り付け、鋼帯との距離を容易に制御できるようにするとともに、スリットノズルをバッフルプレート代替で単独で使用した場合(発明例1〜8)と、バッフルプレートに沿わせて設置した場合(発明例9、10)を実施した。スリットノズルに供給するガスは、常温エアとし、めっきポット付近で2系統に分岐し、それぞれの配管に圧力計と手動調整バルブを設け、鋼帯両端のスリットノズルと接続して噴射圧力を任意に設定可能となるようにした。また、調整バルブにおける表示圧力と実際のスリットノズルからのガス噴射圧力の対応関係は、予めオフラインで測定しておいた。
【0039】
本発明のスリットノズルは、外形寸法が鋼帯走行方向長さ100mm、鋼帯幅方向長さ400mm、厚さ5mmの直方体とし、鋼帯側端部のスリット寸法(ガス噴射口の寸法)は、鋼帯厚み方向2mm、鋼帯長手方向30mmとした。反鋼帯側のガス導入管は内径10mmの円形で、10mmの円形から鋼帯厚み方向4mm×鋼帯長手方向15mmの矩形断面に断面形状を徐々に変化させた長さ100mmの異径配管(この異径配管は、反鋼帯側の鋼帯厚み方向の寸法がスリットノズル本体の厚みよりも厚いが、この厚さが厚い部分は、ワイピングガス噴射高さ位置よりも上側になるようにした。)を通り、さらに上記ガス噴射口まで急な拡縮がないような流路断面を設けた。ワイピングガス噴射高さ位置(ワイピングガス同士の衝突位置)に対して、スリットノズルのガス噴射口上端は10mm上方、ガス噴射口下端は20mm下方になるように配置した。
【0040】
比較例として、特許文献2に記載のバッフルプレート(比較例1、2)、特許文献3に記載の傾斜ガイド(比較例3、4)、特許文献4に記載の補助ノズル(比較例5、6)を使用し、溶融亜鉛めっき鋼帯の製造実験を行った。比較例のバッフルプレートは高さ50mm、幅400mm、厚み5mmとし、ワイピングガスの衝突位置はバッフルプレート上端から30mmの位置とした。
【0041】
製造条件は、ガスワイピングノズルのスリットギャップ0.9mm、ガスワイピングノズル−鋼帯距離8mm、溶融亜鉛浴からのノズル高さ600mm、溶融亜鉛浴温度465℃とし、鋼帯のサイズは、0.8mm厚×1.2m幅とした。その他の製造条件およびめっき付着量、めっき付着量差(鋼板エッジ100mm−センター)、スプラッシュ発生量、スリットノズル、バッフルプレートへの亜鉛付着の調査結果を表1に示す。スプラッシュ発生量は、各製造条件で通過した鋼帯長さに対する検査工程でスプラッシュ欠陥ありと判定された鋼帯長さの比率であり、実用上問題とならない軽度のスプラッシュ欠陥を含んでいる。
【0042】
スリットノズル、バッフルプレートへの亜鉛付着は、スリットノズル、バッフルプレートへのスプラッシュ(亜鉛粉)の付着状態を目視観察し、次のように評価した。
○:スプラッシュ付着が無い
△:スプラッシュ付着が低頻度である、あるいは付着・剥離を繰り返す
×:常時スプラッシュ付着がある
【0043】
【表1】

【0044】
発明例1〜5は、スリットノズルから鋼帯端部に向けて噴射するガス噴射圧力の影響を確認したもので、2〜40kPaとガスワイピングノズルのガス噴射圧力に対して4〜80%の設定圧力とした。発明例1〜5は、同じワイピング条件の比較例1、3、5と比較して、スプラッシュ発生率、エッジオーバーコート(エッジ−センター付着量差)、スリットノズル、バッフルプレートへの亜鉛付着のすべての点で良好な結果が得られ、そのなかで、スリットノズルのガス噴射圧力が、ガスワイピングノズルのガス噴射圧力の10〜50%の範囲内にある発明例2〜4でより良好な結果が得られた。
【0045】
発明例6〜8は、スリットノズルと鋼帯との距離の影響を確認したもので、いずれの距離でも、比較例1、3、5よりも安定して高品質の製品を製造できることが判明した。また、スリットノズルを鋼帯に近づけるほど結果が良好になった。
【0046】
発明例9は、発明例1〜8のスリットノズルと同じガス噴射口を有する別のスリットノズルを、従来バッフルプレートに抱き合わせてセットした場合(バッフルプレートとスリットノズルを合わせた板厚方向厚みは10mm)で、発明例3と同等の性能になることがわかった。
【0047】
発明例10は、発明例9のスリットノズルを使用して通板速度を200m/minまで上げた高生産性操業の例で、従来技術による比較例2、4、6は通板速度が200m/minでは安定的製造が不可能であったのに対し、発明例10では、通板速度が150m/minの従来技術による比較例1、3、5よりも高品質の製品を安定製造可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、スプラッシュ飛散を軽減し、またエッジオーバーコートを防止できる溶融金属めっき鋼帯の製造方法として利用することができる。
【符号の説明】
【0049】
S 鋼帯
1 ガスワイピングノズル
2 スリットノズル
3 ガス流路
4 ガス導入管
7 シンクロール
8 めっき浴
11 主ノズル(ワイピングノズル)
12 サイドノズル
20、30 バッフルプレート
31 鋼帯側端部
32 ガスノズル
40 バッフルプレート
41 ワイピングノズル
42 傾斜ガイド
43 溶融金属浴(めっき浴)
51 ガスワイピングノズル
52 補助ノズル
53 ガスワイピングノズルからの噴流
54 補助ノズルからの噴流
55 変向流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融金属めっき浴から連続的に引き上げられる鋼帯の表面に、鋼帯を挟んでその両面に対向配置したガスワイピングノズルからガスを吹き付けて付着金属の厚さを制御する溶融金属めっき鋼帯の製造方法において、ワイピングガス噴射高さ位置で、各鋼帯端部外側から鋼帯端部に向けてカーテンガスを噴射することを特徴とする溶融金属めっき鋼帯の製造方法。
【請求項2】
鋼帯幅方向延長面上のワイピングガス噴射高さ位置に、鋼帯長手方向にスリット状のガス噴射口を有するスリットノズルを配置して、鋼帯端部に向けてカーテンガスを噴射することを特徴とする請求項1に記載の溶融金属めっき鋼帯の製造方法。
【請求項3】
前記スリットノズルのガス噴射口は、該ガス噴射口上端がガスワイピングノズルの噴射口の上端より高く、該ガス噴射口下端がガスワイピングノズルの噴射口の下端より低くなるように配置されることを特徴とする請求項2に記載の溶融金属めっき鋼帯の製造方法。
【請求項4】
前記スリットノズルのガス噴射口の鋼帯厚み方向幅は、生産する鋼帯の最大板厚以上であることを特徴とする請求項2または3に記載の溶融金属めっき鋼帯の製造方法。
【請求項5】
前記スリットノズルのガス噴射口のガス圧力は、前記ガスワイピングノズルのガス圧力の10〜50%であることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の溶融金属めっき鋼帯の製造方法。
【請求項6】
鋼帯幅方向延長面上の対向するガスワイピングノズル間に設置されるバッフルプレートに、前記スリットノズルを内蔵させることを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載の溶融金属めっき鋼帯の製造方法。
【請求項7】
鋼帯幅方向延長面上の対向するガスワイピングノズル間に設置されるバッフルプレートの側面に、前記スリットノズルを取り付けることを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載の溶融金属めっき鋼帯の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−252180(P2011−252180A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−124555(P2010−124555)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】