説明

溶融金属めっき鋼帯の製造方法

【課題】通常通板速度だけでなく、通板速度を高めた場合においても、スプラッシュ欠陥の発生を長期間抑制し、表面品質に優れる溶融金属めっき鋼帯を安定製造できるようにする。
【解決手段】溶融金属めっき浴8から連続的に引き上げられる鋼帯Sの表面に、鋼帯Sを挟んでその両面に対向配置したワイピングノズル1からガスを吹き付けて付着金属の厚さを制御する溶融金属めっき鋼帯の製造方法において、ワイピングノズル1の上方あるいは背面に、複数の開口部を有し、正電荷または負電荷に帯電した第1の帯電構造体2を、鉛直方向の高さ位置がワイピングノズル上面から浴上サポートロールの高さ位置までの領域内にあるようにして、鋼帯幅方向に延在させて設置したことを特徴とする溶融金属めっき鋼帯の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融金属めっきプロセスにおいて、通常通板速度だけでなく、高速通板速度においてもスプラッシュ欠陥を軽減できる溶融金属めっき鋼帯の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
連続溶融めっきプロセス等においては、図5に示すように、一般的に溶融金属が満たされているめっき浴8に鋼帯Sを浸漬させシンクロール7で方向転換した後、該鋼帯Sを鉛直上方に引き上げる工程の後に、鋼帯表面に付着した溶融金属が板幅方向および板長手方向に均一に所定のめっき厚になるように、この鋼帯Sを挟んで対向して設けた鋼帯幅方向に延在するワイピングノズル1から加圧気体を鋼帯上に噴出させて、余剰な溶融金属を絞り取り、溶融金属の付着量(めっき付着量)を制御するガスワイピング装置が設けられている。
【0003】
ワイピングノズル1は、多様な鋼帯幅に対応すると同時に鋼帯引き上げ時の幅方向のズレなどに対応するため、通常、鋼帯幅より長く、すなわち鋼帯Sの幅端部より外側まで延びている。このようなガスワイピング方式では、鋼帯Sに衝突した噴流の乱れによって下方に落下する溶融金属が周囲に飛び散る、いわゆるスプラッシュが鋼帯Sに付着することによる欠陥が発生し、鋼帯の表面品質の低下を招く。
【0004】
また、連続プロセスにおいて、生産量を増加させるには、鋼帯通板速度を増加させればよいが、連続溶融めっきプロセスにおいてガスワイピング方式でめっき付着量を制御する場合、溶融金属の粘性により、鋼帯通板速度の増加に伴って鋼帯のめっき浴通過直後の初期付着量が増加するため、めっき付着量を一定範囲内に制御するには、ワイピングガス圧力をより高圧に設定せざるを得ず、それによってスプラッシュが大幅に増加し、良好な表面品質を維持できなくなる。
【0005】
上記の問題を解決するため、以下の発明が開示されている。
【0006】
特許文献1は、図6に示すように、ワイピングガス供給本管21とワイピングノズル23の間に金属板24を設置し、さらにワイピングガス供給本管21と合金化炉25の間にフィルター26を鋼板Sに沿った形で設置する。めっき浴面27で発生しためっき金属飛沫(スプラッシュ)が、ワイピングノズル23の外側を回ってワイピング終了後の鋼板Sに向かう際に、フィルター26で除去することで、鋼板Sにスプラッシュが付着するのを防止する。22は、ワイピングガス供給本管21とワイピングノズル23を接続するガス供給配管である。
【0007】
特許文献2には、図7に示すように、ワイピングノズル31後方に張り出させた整流板32およびワイピングノズル31上の前部に堰33を設けることで、めっき鋼帯Sへのスプラッシュ34の付着を防止する方法が開示されている。
【0008】
特許文献3には、図8に示すように、ヘッダー管41からワイピングノズル42へのガス供給配管43および/またはワイピングノズル42本体に融点が450℃以下の繊維状あるいは不織布によるスプラッシュ吸着材44を配設し、スプラッシュをスプラッシュ吸着材44で吸着することでめっき鋼帯Sへのスプラッシュの付着を防止する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平5−306449号公報
【特許文献2】特開2000−328218号公報
【特許文献3】特開2009−167455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところが、特許文献1に開示された方法では、フィルター26のメッシュを大きくするとフィルター26の効果がなくなり、メッシュを小さくするとフィルター26の外側を回ったスプラッシュが金属板24に付着するのは抑えられるものの、ワイピングノズル23の背面を回らないで、フィルター26と金属板24の間に直接進入したスプラッシュはフィルター26の外に排出されにくくなるため、スプラッシュ欠陥の発生を防止する効果が不十分であることがわかった。
【0011】
特許文献2に開示された方法では、ワイピングノズル31の背面を回って上方に飛来するスプラッシュがめっき鋼帯に付着するのを防止することができず、また操業中にワイピングノズル31後方に張り出させた整流板32の上に堆積したスプラッシュ(金属粉)がワイピング条件(ワイピングガス圧やノズル高さ等)の変化によるワイピングガス流れの変化によって再飛散するようになり、この現象は時間が経つほど顕在化し、安定してスプラッシュ付着を防止することができないことがわかった。
【0012】
特許文献3に開示された方法では、当初はスプラッシュの捕集は良好だが、一旦スプラッシュが付着した部分はその後スプラッシュが飛来すると捕集されなくなる。スプラッシュが特に多く発生・飛散するのは鋼帯エッジ部分であるため、鋼帯エッジ部分に対応する位置のスプラッシュ吸着材44にスプラッシュが付着しやすい。操業中にスプラッシュ吸着材44を交換することは困難なので、スプラッシュ捕集効果は、連続溶融亜鉛めっきラインの通常操業(120〜150mpm)の場合、スプラッシュ吸着材44を設置してから短期間(1週間程度)しか維持できないことがわかった。
【0013】
本発明は、上記の問題点を解決し、通常通板速度だけでなく、通板速度を高めた場合においても、スプラッシュ欠陥の発生を長期間抑制し、表面品質に優れる溶融金属めっき鋼帯を安定製造できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決する本発明の手段は次のとおりである。
【0015】
[1]溶融金属めっき浴から連続的に引き上げられる鋼帯の表面に、鋼帯を挟んでその両面に対向配置したワイピングノズルからガスを吹き付けて付着金属の厚さを制御する溶融金属めっき鋼帯の製造方法において、ワイピングノズルの上方あるいは背面に、複数の開口部を有し、正電荷または負電荷に帯電した第1の帯電構造体を、鉛直方向の高さ位置がワイピングノズル上面から浴上サポートロールの高さ位置までの領域内にあるようにして、鋼帯幅方向に延在させて設置したことを特徴とする溶融金属めっき鋼帯の製造方法。
【0016】
[2]複数の開口部を有し、前記第1の帯電構造体とは逆の電荷に帯電した第2の帯電構造体を、鉛直方向の高さ位置が、前記第1の帯電構造体の上端から浴上サポートロールの高さ位置までの領域内にあるようにして、鋼帯幅方向に延在させて設置したことを特徴とする前記[1]に記載の溶融金属めっき鋼帯の製造方法。
【0017】
[3]前記第1の帯電構造体は、開口率が20〜80%の帯状体であることを特徴する前記[1]または[2]に記載の溶融金属めっき鋼帯の製造方法。
【0018】
[4]前記第2の帯電構造体は、開口率が20〜80%の帯状体であることを特徴する[2]または[3]に記載の溶融金属めっき鋼帯の製造方法。
【0019】
[5]前記第1の帯電構造体及び前記第2の帯電構造体は、静電気発生装置によって帯電されることを特徴する前記[1]〜[4]のいずれかに記載の溶融金属めっき鋼帯の製造方法。
【0020】
[6]ワイピングノズルと前記第1の帯電構造体は電気的に絶縁されていることを特徴とする前記[1]〜[5]のいずれかに記載の溶融金属めっき鋼帯の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ワイピングノズル上方に正または負に帯電した帯電構造体を設置することによって、通常通板速度だけでなく、通板速度を高めた場合においても、長期間スプラッシュを捕集できるため、スプラッシュ欠陥の発生を抑制し、表面品質に優れる溶融金属めっき鋼帯を安定して製造できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施に使用するガスワイピング装置の実施形態を示す側面図である。
【図2】ワイピングノズル周辺のスプラッシュ飛散経路を示す図である。
【図3】本発明の実施に使用する帯電構造体の実施形態の一例を示す図である。
【図4】帯電構造体の開口率とスプラッシュ捕集率の関係を示す図である。
【図5】一般的な連続溶融金属めっき鋼帯の製造装置の概略側面図である。
【図6】特許文献1で使用されるガスワイピング装置の要部を示す図である。
【図7】特許文献2で使用されるガスワイピング装置の要部を示す図である。
【図8】特許文献3で使用されるガスワイピング装置の要部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
溶融金属めっき鋼帯を製造する際に、溶融金属めっき浴から連続的に引き上げられる鋼帯の表面に、鋼帯を挟んでその両面に対向配置したワイピングノズルから加圧気体を鋼帯面に吹き付けて付着金属の厚さを制御する。その際に溶融金属のスプラッシュが飛散し、飛散したスプラッシュが鋼帯に付着して鋼帯の表面品質を低下させる問題がある。
【0024】
本発明者らは、飛散したスプラッシュ(金属粉)を捕集する方法について検討した。その結果、スプラッシュは、ある程度の速度を有していても、正または負に帯電した物体に吸い寄せられることがわかった。そして、スプラッシュの飛散経路を考慮して帯電した構造体をワイピングノズルの上方または背面に設置するとともに、前記構造体を、開口部を有するようにすることで、ワイピングの際に発生したスプラッシュを捕集する効果を長期間維持することが可能になり、スプラッシュ付着による欠陥を顕著に低減できることを見出した。
【0025】
本発明では、ワイピングノズルの上方あるいは背面に、複数の開口部を有し、正電荷または負電荷に帯電した帯電構造体(第1の帯電構造体)を、鉛直方向の高さ位置が、ワイピングノズル上面から浴上サポートロールの高さ位置までの領域内にあるようにして、鋼帯幅方向に延在させて設置する。浴上サポートロールの高さ位置とは、浴上サポートロール外周上端である。
【0026】
第1の帯電構造体によって、ワイピングノズルの下方に飛散し、浴面で跳ね返った後、ワイピングノズルの背面を回って鋼帯側に移動するスプラッシュを捕集する。ワイピングノズルの背面を回って鋼帯側に移動するスプラッシュは、ワイピングノズル上面とワイピングガス供給ヘッダーの間を通って鋼帯側に搬送されるものが多いので、第1の帯電構造体をワイピングノズル上面とワイピングガス供給ヘッダーの間に設置することで、小さなサイズの第1の帯電構造体でありながら、スプラッシュを効果的に捕集してスプラッシュ欠陥の発生を低減することができる。
【0027】
複数の開口部を有する別の帯電構造体(第2の帯電構造体)を、前記第1の帯電構造体と逆の電荷に帯電させ、鉛直方向の高さ位置が、前記第1の帯電構造体の上端から浴上サポートロールの高さ位置までの領域内にあるようにして、鋼帯幅方向に延在させて設置することで、スプラッシュ付着に起因する欠陥の発生をさらに低減することができる。
【0028】
以下、図面を参照して本発明を詳しく説明する。
【0029】
図1は、本発明の実施に使用するガスワイピング装置の実施形態を示す図の側面図である。図1において、1はワイピングノズル、2は第1の帯電構造体、3は第2の帯電構造体、4はワイピングガス供給ヘッダー、5はワイピングガス供給ヘッダー4からワイピングノズル1に加圧気体(ワイピングガス)を送るガス配管、6は浴上サポートロール、7はシンクロール、8はめっき(溶融金属浴)、Sは鋼帯である。
【0030】
図1の装置では、第1の帯電構造体2は、ワイピングノズル1上面とワイピングガス供給ヘッダー4の間に設置されるとともに、ガス配管5よりも鋼帯側に設置されている。第2の帯電構造体3は、一端が浴上サポートロール6に近接して配置され、もう一端はワイピングガス供給ヘッダー4に近接して配置され、鉛直方向の高さ位置は、前記第1の帯電構造体2の上端部から浴上サポートロール6の高さ位置までの領域内にある。第1の帯電構造体2、第2の帯電構造体3は、鋼帯幅方向に延在して設置され、その長さはワイピングノズル幅と同程度である。
【0031】
第1の帯電構造体2、第2の帯電構造体3は、複数(多数)の開口部を有する帯状体からなり、正電荷または負電荷に帯電される。但し、第2の帯電構造体3は、第1の帯電構造体2と逆の電荷に帯電される。複数(多数)の開口部を有する帯状体は、例えば網状の帯状体、パンチシート等を例示できるが、これに限定されない。
【0032】
図1の装置は、第1の帯電構造体2と第2の帯電構造体3を備えることで、ガスワイピングの際に発生したスプラッシュを捕集し、スプラッシュ欠陥の発生を長期間防止することができる。この点についてさらに説明する。
【0033】
図2は、ガスワイピング装置におけるスプラッシュの飛散経路例を示した模式図である。図中の点線矢印はスプラッシュの飛散経路を示す。ワイピングノズル1から噴出されて鋼帯Sに衝突した噴流の乱れによって溶融金属のスプラッシュが発生する。通常、多くのスプラッシュは、経路(イ)、(ロ)のようにワイピングノズル1の下方に飛散し、その一部が浴面で跳ね返ってワイピングノズル1背面を上方に流れるガス流によって舞い上がり、経路(イ)のようにワイピングノズル1の背面を回ってガス配管5(鋼帯幅方向に、適度なピッチで複数本配設される場合が多い)の間を通ってノズル上面側に進入し、経路(ヘ)のようにして鋼帯Sに付着し、または経路(ロ)のようにワイピングガス供給ヘッダー4の背面を回ってさらに上方の浴上サポートロール6付近まで舞い上がって鋼帯Sに付着する。経路(イ)で鋼帯側に移動するスプラッシュの方が経路(ロ)で鋼帯側に移動するラッシュよりも多い。
【0034】
また、対向するワイピングノズルから噴射されたワイピングガスが鋼帯エッジ部分で干渉することにより発生したスプラッシュは、経路(ハ)のようにワイピングノズル1上面側に飛散し、ワイピングノズル1上面あるいはガス配管5に付着したり、または付着せずに跳ね返ったりする。跳ね返ったスプラッシュは直接鋼帯Sに付着するものもある。また、跳ね返ったスプラッシュがワイピングノズル1上面を転がり落ちて、経路(ニ)のように鋼帯Sに衝突後のワイピングガスの上昇流によって鋼帯Sに沿って上方に飛散して鋼帯Sに付着し、また経路(ホ)のように跳ね返ってワイピングノズル1上方に戻り、前記経路(ヘ)のようにして鋼帯Sに付着する。
【0035】
鋼帯Sにスプラッシュが付着するのを防止するには、ワイピングノズル1の背面を回り、経路(イ)で鋼帯側に移動するスプラッシュを減らすことが最も重要であるが、さらに、経路(ロ)で鋼帯側に移動するスプラッシュを減らすこと、対向するワイピングノズル1から噴射されたワイピングガスが鋼帯エッジ部分で干渉することにより発生したスプラッシュが鋼帯に付着するのを防止すること、及び、ワイピングガスの上昇流によって鋼帯Sに沿って上昇し、浴上サポートロール6で跳ね返ったスプラッシュがワイピングノズル1の上方に戻った後経路(ホ)、(ヘ)を経て鋼帯Sに付着するのを防止できることが望ましい。
【0036】
帯状構造体(第1の帯状構造体2、第2の帯状構造体3)が開口部を有しない帯状体であると、ガス流れは帯状構造体に沿う流れか、衝突後反流になるため、スプラッシュが帯状構造体に接近しにくい。そのため、帯電構造体を帯電させても、帯電構造体によってスプラッシュを効率的に吸着・捕集することができない。帯電構造体を、開口部を有するようにすることで、ガス流れが帯状構造体を容易に通過できることから、スプラッシュが帯状構造体に接近しやすくなる。帯状構造体が帯電していることで、スプラッシュを帯電構造体に効率的に吸着・捕集できるようになる。帯状構造体に吸着したスプラッシュは、帯電構造体と同じ電荷に帯電するため、スプラッシュが帯電構造体に吸着しても、帯電構造体のスプラッシュ吸着効果は低下しない。その結果、長期間安定して良好なスプラッシュ吸着・捕集効果を維持することができる。また、帯状構造体が開口部を有することで、帯状構造体を設置してもワイピングガス流れへの影響が少なく、従来のワイピング条件とほぼ同様のワイピング条件でめっき付着量制御を行うことができる利点もある。
【0037】
第1の帯電構造体2は、経路(イ)でワイピングノズル1の背面を回った後鋼帯側に移動するスプラッシュを捕集する。第1の帯電構造体2は、さらに、経路(ハ)のスプラッシュ(ワイピングガスが鋼帯エッジ部分で干渉して発生したスプラッシュ)、経路(ホ)のスプラッシュ(浴上サポートロール6で跳ね返った後ワイピングノズル1上方に移動するスプラッシュ)を捕集する効果もある。
【0038】
第1の帯状構造体2は、ワイピングノズル1と電気的絶縁性を確保して配置されることが好ましい。第1の帯状構造体2は、ワイピングノズル1と絶縁性を確保できる程度の間隔を設けて配置することもできるが、両者の間に絶縁体を配置して絶縁性を確保すること好ましい。第1の帯状構造体2は、ワイピングガス供給ヘッダー4、ガス配管5とも、ワイピングノズル1と同様の絶縁性を確保することが望ましい。
【0039】
図3は図1の装置で使用する第1の帯電構造帯2の実施形態の一例を示す。第1の帯電構造体2を帯電させるには、市販のコロナ放電装置10等を構造体2近傍に設置して帯電させればよく、別手段でもかまわない。電荷の符号は、一般に知られている帯電列を参考にすればよく、例えばめっき金属が亜鉛の場合は、周囲にある鉄鋼素材に対して正(プラス)の電荷をもつため、第1の帯電構造体2は負(マイナス)の電荷を付与すればよい。帯電量が多すぎると第1の帯電構造体2からの放電が発生し、少なすぎるとスプラッシュ捕集能が低下するので、第1の帯電構造体2は適宜帯電量に帯電させればよい。帯電量制御のために帯電センサ(電位センサ)11を適宜設置することで、帯電量を監視しながら操業することが可能となる。図3中の矢印は放電方向を示す。
【0040】
第1の帯電構造体2は、ワイピングノズル1の背面側(反鋼帯側)に配置することもできる。この場合、第1の帯電構造体2下端をワイピングノズル1後部(反鋼帯側)に近接して設置し、かつガス配管5の背面側(反鋼帯側)に設置することが好ましい。
【0041】
飛散するスプラッシュをより多く捕集するには、第1の帯電構造体2の上方に第2の帯電構造体3を設置することが望ましい。
【0042】
図1の装置では、第2の帯電構造体3は、一端が浴上サポートロール6の外周面に近接し、もう一端がワイピングガス供給ヘッダー4に近接し、ワイピングガス供給ヘッダー4と浴上サポートロール6の間に設置されている。第2の帯電構造体3は、第1の帯電構造体2とは、逆の電荷に帯電される。第2の帯電構造体3は、浴上サポートロール6とは電気的絶縁性を確保して配置される。第2の帯電構造体3は、浴上サポートロール6と絶縁性を確保できる程度の間隔を設けて配置することもできるが、両者の間に絶縁体を配置することが好ましい。第2の帯電構造体3は、ワイピングガス供給ヘッダー4とも、浴上サポートロール6と同様の絶縁性を確保することが望ましい。
【0043】
第2の帯電構造体3は、経路(ロ)でワイピングノズル1の背面を回った後、鋼帯側に移動するスプラッシュを捕集し、またさらに、経路(ホ)のスプラッシュ(浴上サポートロール6で跳ね返った後ワイピングノズル1上方に移動するスプラッシュ)を捕集する。また、第2の帯電構造体3の近傍を通過したものの、第2の帯電構造体3で捕集されなかったスプラッシュは、第1の帯電構造体2とは逆の電荷が付与されるため、その後第1の帯電構造体2によってスプラッシュが捕集されやすくなる効果もある。
【0044】
経路(ロ)のスプラッシュが、第2の帯電構造体3を通過せずに、第2の帯電構造体3と浴上サポートロール6間を通って鋼帯側に移動することがなく、また経路(ホ)のスプラッシュが、浴上サポートロール6で跳ね返った後、第2の帯電構造体3を通過せずに、第2の帯電構造体3と浴上サポートロール6間を通ってワイピングノズル1上方に移動することがなければ、第2の帯電構造体3は浴上サポートロール6とある程度の間隔を設けて配置されていてもよく、または第2の帯電構造体3が浴上サポートロール6よりも低い位置に配置されていてもよい。
【0045】
第2の帯電構造体3は、前記した第1の帯電構造体2と同様の構成のものを用い、同様の方法で帯電させることができる。但し、第1の帯電構造体2とは、逆の電荷に帯電させる。
【0046】
第1の帯電構造体2、第2の帯電構造体3には、上記したような作用があるので、第1の帯電構造体2を設置してガスワイピングすることで、長期間、良好なスプラッシュ吸着・捕集効果を維持することでき、さらに第2の帯電構造体3を設置してガスワイピングすることで、長期間、より良好なスプラッシュ吸着・捕集効果を維持することできるようになる。その結果、スプラッシュ付着による欠陥の発生を顕著に低減することができるようになる。
【0047】
なお、第1の帯電構造体2の上端がワイピングガス供給ヘッダー4より上方にあるように配置して、第1の帯電構造体2によって、経路(イ)及び経路(ロ)で鋼帯側に移動するスプラッシュを捕集するようにしてもよい。第1の帯電構造体2と第2の帯電構造体3が近接して配置されるときは、第1の帯電構造体2と第2の帯電構造体3は、電気的絶縁性を確保するようにして配置する。両者の間に絶縁体を配置して絶縁性を確保することが好ましい。
【0048】
第1の帯電構造体2、第2の帯電構造体3が吸着・捕集したスプラッシュは、浴中ロール替え等の操業停止時に除電装置を用いて一時的に除電し、掃除機のような吸引手段を用いることで容易に吸引除去することができる。
【0049】
帯電構造体の開口率最適化を検討するために、簡易的な実験を行った。風速1m/sの気流の中にφ0.05〜0.5mmの亜鉛粉を投入し、下流側に−50kVに帯電させて種々の開口率を有するプラスチックシートを設置して、亜鉛粉を捕集する実験を行った結果を図4に示す。捕集率は、投入した亜鉛粉重量に対する、プラスチックシートに付着した亜鉛粉重量の比率(%)である。帯電構造体の開口率が20〜80%の範囲で捕集率が50%以上となり、開口率が40〜70%の範囲で捕集率が80%以上となっている。この結果から、開口率は20〜80%が好ましく、40〜70%がさらに好ましい。また、開口部の寸法は、小さくなると、目詰まりが発生しやすくなり、大きくなると金属粉の通過率があがって吸着能が低下するので、短辺寸法(最小寸法)が0.5mm以上、長辺寸法(最大寸法)が3mm以下(円形穴の場合は、直径が0.5〜3mm)の範囲内にあることが好ましい一辺が0.5〜3mmであることが好ましい。
【0050】
第1の帯電構造体2、第2の帯電構造体3の断面形状(鋼帯面に直角で鉛直方向断面の形状)は特に限定されない。直線、曲線のいずれでもよく、両者を組み合わせたものでもよい。
【0051】
ワイピングノズル1を帯電させると、金属粉が付着しやすくなってノズル詰まり等の悪影響がでる。この点から、ワイピングノズル1はアースすることが好ましい。
【実施例】
【0052】
本発明の効果を明らかにするため、図1に示したガスワイピング装置を、連続溶融亜鉛めっきラインに設置し、溶融亜鉛めっき鋼帯の製造実験を行った。
【0053】
第1の帯電構造体2、第2の帯電構造体3は、いずれも耐熱性のある樹脂シート(厚さ1mm)で構成され、φ1.5mmの穴が規則的に配置され、開口率は62.0%である。鋼帯幅方向長さは、ワイピングノズル1の鋼帯幅方向長さと同じ寸法とした。鋼帯面に直角の鉛直断面の長さは、第1の帯電構造体2はガス配管5と同等の長さとし、第2の帯電構造体3は、ワイピングガス供給ヘッダー4と浴上サポートロール6の間隔とほぼ同じ長さの300mmとした。第1の帯電構造体2、第2の帯電構造体3は、何れも図3に示したような構造とし、それぞれ、幅方向端部にコロナ放電装置および除電装置(図示なし)を設置し、幅方向センター位置に帯電センサを設置した。操業中、第1の帯電構造体2はおよそ−50kV、第2の帯電構造体3はおよそ+50kVを維持するように放電装置を制御した。実験条件を変更した時に、第1の帯電構造体2、第2の帯電構造体3を除電装置によって除電した後、捕集されたスプラッシュを除去した。比較例として、先行文献1または3のスプラッシュ付着防止方法を実施した。
【0054】
製造条件は、ワイピングノズルのスリットギャップ:0.9mm、ワイピングノズル−鋼帯距離:8mm、溶融亜鉛浴からのノズル高さ:500mm、溶融亜鉛浴温度:460℃とし、めっき付着量は片側45g/mとした。その他の製造条件およびスプラッシュ発生率の調査結果を表1に示す。スプラッシュ発生率は、装置類を整備した後操業を開始し、1日目と15日目に鋼帯サイズは0.8mm厚×1.2m幅のコイル3〜5本を各製造条件(通板速度は、対象コイル通板時の平均通板速度)で通板し、通過した鋼帯長さに対する検査工程でスプラッシュ欠陥ありと判定された鋼帯長さの比率であり、実用上問題とならない軽度のスプラッシュ欠陥を含んでいる。1日目でスプラッシュ欠陥が多い条件については、15日目までの実験を行わなかった。
【0055】
【表1】

【0056】
通常通板速度である150mpmでは、本発明の実施例1、2は、操業開始1日目、15日目のいずれでもスプラッシュ欠陥の発生率が低いレベルに維持されており、実施例2において、スプラッシュ欠陥の発生率がより低くなっている。これに対して、比較例3は、操業開始1日目のスプラッシュ欠陥発生率は実施例1よりわずかに劣るレベルであるが、15日目はスプラッシュ欠陥発生率が大幅に増加しており、スプラッシュ欠陥を長期にわたって安定して防止することができない。比較例1、2は、操業開始1日目からスプラッシュ欠陥の発生率が本発明の実施例1、2に比べて劣る。
【0057】
通板速度を180mpmに増加した場合にも、本発明の実施例3では、操業開始1日目、15日目のいずれでもスプラッシュ欠陥の発生率が低いレベルに維持されている。これに対して、比較例4、5は、スプラッシュ欠陥の発生率が著しく増加したため、途中で実験を中止した。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明によればは、通常の鋼帯通板速度の場合だけでなく鋼帯通板速度を高めた場合でも、長期間スプラッシュ捕集効果を維持できるため、スプラッシュ欠陥の発生を抑制し、表面品質に優れる溶融金属めっき鋼帯を安定して製造できるようになる。
【符号の説明】
【0059】
S 鋼帯
1 ワイピングノズル
2 第1の帯電構造体
3 第2の帯電構造体
4 ワイピングガス供給ヘッダー
5 ガス配管
6 浴上サポートロール
7 シンクロール
8 めっき浴
10 コロナ放電装置
11 帯電センサ(電位センサ)
21 ワイピングガス供給本管
22 ガス供給配管
23 ワイピングノズル
24 金属板
25 合金化炉
26 フィルター
27 めっき浴面
31 ワイピングノズル
32 整流板
33 堰
34 スプラッシュ
41 ヘッダー管
42 ワイピングノズル
43 ガス供給配管
44 スプラッシュ吸着材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融金属めっき浴から連続的に引き上げられる鋼帯の表面に、鋼帯を挟んでその両面に対向配置したワイピングノズルからガスを吹き付けて付着金属の厚さを制御する溶融金属めっき鋼帯の製造方法において、ワイピングノズルの上方あるいは背面に、複数の開口部を有し、正電荷または負電荷に帯電した第1の帯電構造体を、鉛直方向の高さ位置がワイピングノズル上面から浴上サポートロールの高さ位置までの領域内にあるようにして、鋼帯幅方向に延在させて設置したことを特徴とする溶融金属めっき鋼帯の製造方法。
【請求項2】
複数の開口部を有し、前記第1の帯電構造体とは逆の電荷に帯電した第2の帯電構造体を、鉛直方向の高さ位置が、前記第1の帯電構造体の上端から浴上サポートロールの高さ位置までの領域内にあるようにして、鋼帯幅方向に延在させて設置したことを特徴とする請求項1に記載の溶融金属めっき鋼帯の製造方法。
【請求項3】
前記第1の帯電構造体は、開口率が20〜80%の帯状体であることを特徴する請求項1または2に記載の溶融金属めっき鋼帯の製造方法。
【請求項4】
前記第2の帯電構造体は、開口率が20〜80%の帯状体であることを特徴する請求項2または3に記載の溶融金属めっき鋼帯の製造方法。
【請求項5】
前記第1の帯電構造体及び前記第2の帯電構造体は、静電気発生装置によって帯電されることを特徴する請求項1〜4のいずれかに記載の溶融金属めっき鋼帯の製造方法。
【請求項6】
ワイピングノズルと前記第1の帯電構造体は電気的に絶縁されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の溶融金属めっき鋼帯の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−60648(P2013−60648A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201253(P2011−201253)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】