説明

溶融金属中の介在物除去方法、溶融金属中の介在物除去装置、および金属材料

【課題】浮上分離や濾過により除去できない溶融金属中の微小介在物を効率良く除去するとともに、簡便に実施可能な介在物除去方法を提供する。
【解決手段】誘導加熱溶解炉に磁場を与える誘導コイルに、周波数fの高周波電流を加え、前記誘導加熱溶解炉の炉本体内に投入された金属を溶解、攪拌し、その後、前記周波数fとは異なる周波数fの高周波電流を加え、前記溶解された金属中の介在物を分離する溶融金属中の介在物除去方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融金属中の介在物を除去する介在物除去方法及び介在物除去装置、並びに金属材料に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料の高品質、高信頼性の要求から、金属材料の溶解鋳造工程における介在物の分離除去が必要不可欠である。従来、溶解鋳造工程における介在物の分離除去方法として、浮上分離、濾過等の技術が実用に供されている。
浮上分離による介在物の分離除去方法は、溶融金属と介在物の密度差により浮上させて分離する方法が一般的である。しかし、数十ミクロン以下のような微小サイズの介在物は浮上速度が小さく、浮上しないのが現状である。また、濾過による介在物の分離除去方法は、濾過媒体の細孔の大きさで、捕捉できる介在物の大きさが決まってしまう。また、溶湯処理量や閉塞の観点から現実的な細孔の大きさには下限があり、必ずしも対象とする微小介在物を除去できるとは限らなかった。
【0003】
そこで、新しい技術として電磁力を利用して溶融金属中の介在物を所定の方向に移動させて捕捉、除去する方法が種々提案されている。電磁力を利用して介在物を捕捉する方法として、例えば以下の方法が提案されている。
特許文献1では、取鍋において、底部に配置された誘導コイルにより介在物を底部に捕捉あるいは流動により凝集肥大化させて浮上分離する方法が開示されている。
特許文献2では、溶融金属に対し水平方向の磁場とそれに直行する方向の電流通電で介在物の浮上分離を促進する方法が開示されている。
特許文献3では、連続鋳造において、ノズルあるいはホットトップ部に高周波磁場を印加し介在物をノズル内壁あるいはホットトップ部内壁に捕捉する方法が開示されている。
非特許文献1では、交流磁場と細管束を用いた溶融金属中の非金属介在物の除去方法について基本理論が説明されている
【0004】
しかしながら、電磁力を利用する介在物除去方法を工業的な生産規模で鋳造工程へ適用した場合、除去効果が不十分であったり、捕捉した介在物の処理方法に問題があったり、装置構成が複雑であったり等の理由により、実際の鋳造工程への導入には種々の問題が生じた。
【0005】
例えば、特許文献1に記載の方法では、流動と分離は相反する作用であり、効率的な分離除去が困難であるという問題があった。
また、特許文献2に記載の方法では、電極消耗の問題や、電磁力分布の不均一から溶融金属の攪拌作用が発生し、微小介在物は流れに追随し浮上しない、という問題があった。
【0006】
また、特許文献3の方法では、ノズルにおいて、一般にノズル内は非常に大きな流速であるから、電磁力が介在物を壁面に移動させようとする力よりも溶湯の流れが介在物を押し流す力が勝り、介在物除去効率が著しく低下するという問題があった。また、スライディングゲート等による流量調整によりノズル内の流速は変動する。この時一旦壁面に捕捉された介在物が脱落し再び溶湯中に巻き込まれてしまい、脱落した介在物を再度捕捉する手段もなくそのまま鋳型内に流入し、鋳塊中に混入してしまうという問題もあった。また、ホットトップ部において、高周波磁場の表皮厚さ領域は鋳型内の断面積に比べ非常に小さいため、溶湯流動による介在物の移動を考慮したとしても介在物除去効率としては低いものになってしまう。また、鋳型内の溶湯流動の変動や凝固条件の変動により、捕捉された介在物が脱落したり、凝固殻に捕捉されて鋳塊中に巻き込まれたりするという問題もあった。
【0007】
また、非特許文献1の方法では、溶融金属に交流磁場を印加するとき、表皮効果により電磁力の作用する領域が溶融金属表層部に限定され除去効率が低下するという問題に対する解決策を提案している。非導電性の細管束を使用することで、個々の流路内の溶融金属にほぼ均等に交流磁場が作用するため、全体として電磁力作用領域の占める割合を増加させることができ、介在物除去効率が向上する。しかしながら、介在物が細管束内に蓄積した場合には細管束の交換が必要となるが、その点についてはまったく考慮されていない。このような装置を単に溶融金属流路に直列に配置した場合、連続鋳造途中に装置内流路が閉塞した時の対処が非常に困難となってしまうという問題がある。また、鋳造休止時に交換するにしても、非常に大掛かりな施工が必要となり実現性に乏しい。実工程に導入するためには、設置方法、交換方法、などが重要な事項であり、本文献においてはそれらについての提案はなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−011525号公報
【特許文献2】特開平2−122011公報
【特許文献3】特許第3127736号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】山尾文孝、佐々健介、岩井一彦、浅井滋生、「鉄と鋼」、83(1997)1、p.30
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、従来の金属材料の溶解鋳造工程において、実工程に導入可能な電磁力を利用した溶融金属中の介在物の除去方法は未だ確立されてはいない。
本発明は、以上のような問題点を解決するためになされたもので、浮上分離や濾過により除去できない微小介在物を効率良く除去するとともに、簡便に実施可能で、かつ、簡便に設置可能な介在物除去方法及び介在物除去装置、並びに介在物の少ない金属材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は、
(1)誘導加熱溶解炉に磁場を与える誘導コイルに、周波数fの高周波電流を加え、前記誘導加熱溶解炉の炉本体内に投入された金属を溶解、攪拌し、その後、前記周波数fと異なる周波数fの高周波電流を加え、前記溶解された金属中の介在物を分離することを特徴とする溶融金属中の介在物除去方法、
(2)誘導加熱溶解炉に磁場を与える誘導コイルに、周波数fの高周波電流を加え、前記誘導加熱溶解炉の炉本体内に投入された金属を溶解、攪拌し、その後、前記周波数fと異なる周波数fの高周波電流を加え、さらにその後、周波数fの高周波電流と周波数fの高周波電流を交互に加え、前記溶解された金属中の介在物を分離することを特徴とする溶融金属中の介在物除去方法、
(3)前記周波数f(Hz)の高周波電流を加えたとき、前記誘導加熱溶解炉の炉本体内の金属に加えられる電力P(kW)が、下記式1を満たすことを特徴とする(1)または(2)項に記載の溶融金属中の介在物除去方法、
【0012】
【数1】

【0013】
(式中、Dは誘導加熱溶解炉の炉本体のるつぼ内径(m)を示す)、
(4)前記周波数f(Hz)の高周波電流を加えたとき、前記誘導加熱溶解炉の炉本体内の金属に加えられる電力P(kW)が、下記式2を満たすことを特徴とする(1)または(2)項に記載の溶融金属中の介在物除去方法、
【0014】
【数2】

【0015】
(式中、Dは誘導加熱溶解炉の炉本体のるつぼ内径(m)を示す)、
(5)前記周波数fが、前記周波数fの2〜10倍の周波数であることを特徴とする、(1)〜(4)のいずれか1項に記載の溶融金属中の介在物除去方法、
(6)るつぼ型誘導加熱溶解炉の炉本体と、前記炉本体を取り巻く誘導コイルと、前記炉本体内の金属を溶解及び攪拌する磁場を発生させるための周波数fの高周波電流を発生させる高周波発生装置(A)と、溶解された金属中の介在物を分離する磁場を発生させるための前記周波数fとは異なる周波数fの高周波電流を発生させる高周波発生装置(B)とを備え、前記高周波発生装置(A)と前記高周波発生装置(B)とが、いずれか一方に切り替え可能な切替回路を介して前記誘導コイルに接続されていることを特徴とする溶融金属中の介在物除去装置。
(7)前記切替回路は、前記高周波発生装置(A)と前記高周波発生装置(B)とを交互に前記誘導コイルに接続するように作動することを特徴とする、(4)項に記載の溶融金属中の介在物除去装置、
(8)前記周波数fが、前記周波数fの2〜10倍の周波数であることを特徴とする、(6)または(7)項に記載の溶融金属中の介在物除去装置、
(9)(1)〜(5)のいずれか1項に記載の溶融金属中の介在物除去方法により介在物が除去された溶融金属から得られた金属鋳塊を、塑性加工して形成されてなる金属材料。
【0016】
本発明において、介在物とは合金を構成する成分元素の未溶解物、成分元素の酸化物、炭化物、硫化物、その他の化合物、不可避不純物等、鋳塊に混入することによって以後の加工工程において健全な加工を阻害する原因になるもの、最終製品において各種性能の劣化の原因になるものをいう。
また、本発明において高周波とは、50Hzより高い周波数のことをいうが、用いられる商用電源の商用周波数(50Hzまたは60Hz)より高い周波数であることが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、既存のるつぼ型誘導加熱溶解炉において、既存の周波数よりも高い適切な周波数の高周波発生装置を追加することにより、微小介在物をも除去する溶湯清浄化が行える。その結果、介在物の少ない清浄な鋳塊を得ることができる。この鋳塊から得られた金属材料は、介在物の非常に少ない高品質の材料が得られる。
また、本発明の方法では介在物は浮上分離されるため除去が容易であり、介在物捕捉部材等が必要ないため、消耗や交換が必要ない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の溶融金属中の介在物除去方法の好ましい一実施態様の説明図である。
【図2】参考例1における試験結果を整理したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
溶融金属に交流磁場を印加すると、溶融金属表層の表皮厚さ内において、誘導電流と磁場の相互作用により溶融金属の中心に向かう方向の電磁力が作用する。溶融金属の介在物は、例えば、酸化物、硫化物、炭化物などの非金属介在物であり、一般に溶融金属よりも電気伝導度が小さいため、反作用として溶融金属に作用する電磁力の方向と逆方向に移動することになる。以下、このように介在物に作用する力を電磁分離力と呼ぶ。電磁分離力を利用することにより、介在物を所定の方向に移動させ、捕捉することができる。
【0020】
しかしながら、前述のように電磁分離力が作用する範囲は溶融金属表層の一定の領域に限られるため、るつぼ型溶解炉のように炉内径が表皮厚さよりもはるかに大きい場合には介在物除去効率が著しく低い。さらには、一般的にるつぼ型誘導加熱溶解炉においては電磁力により溶湯が攪拌されるため、溶湯流動による介在物を移動させる力(以下、流動による分離阻害力)が電磁分離力に勝り介在物は分離されない。本発明においては、溶融状態の金属に対し、介在物の分離を目的とした高周波周波数と、攪拌を目的とした高周波周波数とを用い、望ましくは交互に繰り返すことにより、溶融金属中のいずれの場所に存在する介在物についても移動、凝集、浮上分離による除去を実現することができる。その結果、溶湯の清浄化が実現し、介在物の少ない良好な品質の鋳塊が得られ、製品の介在物欠陥を低減することができる。
【0021】
本発明の実施形態を、図面を用いて説明する。
図1は、本発明の溶融金属中の介在物除去方法の好ましい一実施態様の説明図である。図1において、1は誘導加熱溶解炉の炉本体(るつぼ)、2は誘導コイル、3は高周波発生装置(A)、4は高周波発生装置(B)、5はスイッチ(切替装置)である。
また、保持容器である炉本体1とそれを取り巻く環状の誘導コイル2は、従来と同様のるつぼ型誘導加熱型溶解炉を構成し、図1において、それらは概略断面図により示してある。
【0022】
高周波発生装置(A)3により発生する高周波の周波数fは、100Hz〜5000Hzの範囲から選ばれることが好ましく、300Hz〜3000Hzの範囲から選ばれることがさらに好ましい。また、高周波発生装置(B)4により発生する高周波の周波数fは、高周波発生装置(A)3により発生する高周波の周波数fとは異なるもので、周波数fの2〜10倍であることが好ましく、3〜7倍であることがさらに好ましい。
本発明に用いられる高周波発生装置としては、交流電源に接続され、周波数、電圧、電流を制御された交流電流が印加可能な、通常の高周波発生装置を用いることができる。
【0023】
スイッチ5は、誘導コイル2に回路を介して接続される高周波発生装置を切り替えるもので、初期状態で、図1の実線で示されるように、高周波発生装置(A)3に接続され、発生する高周波磁場により、誘導加熱溶解炉の炉本体1に投入された金属原料が溶解、撹拌され、溶湯6となった後に、破線で示されるように切替えられて、高周波発生装置(B)4側に接続される。
なお、スイッチ5は、誘導コイル2に接続される高周波発生装置を高周波発生装置(A)3と高周波発生装置(B)4とを交互に切り替えるように制御されることが好ましい。
【0024】
高周波発生装置(A)3により発生する高周波電流の周波数は、誘導加熱溶解炉における効率的な溶解を第一の目的とした周波数である。例えば、上記の好ましい範囲の周波数が挙げられ、一般的な高周波誘導加熱溶解炉においては、その溶解規模に応じて数百Hz〜数kHzであることが多い。この周波数においては、被加熱材の効率的な加熱および溶融金属の適度な攪拌が実施されることが主目的であり、溶融金属中の介在物の積極的な分離や除去を意図するものではない。
【0025】
高周波発生装置(B)4により発生する高周波電流の周波数は、溶融金属中の介在物の電磁分離を第一の目的とした周波数である。電磁分離においては攪拌における溶湯流動により介在物に作用する力が電磁分離の阻害力となるため、溶湯を強攪拌している状態では介在物の分離が実現しない。周波数が高いほど攪拌力は低下するが、表皮厚さが小さくなるため分離可能な介在物の量が減少する。攪拌力をある程度抑制しつつ大きい表皮厚さを確保するという観点から、電磁分離に最適な、例えば上記の好ましい範囲の周波数が選択される。
【0026】
本発明の方法によれば、高周波発生装置(A)3を用いて効率的な金属の溶解および溶融金属の攪拌を行い、高周波発生装置(B)4を用いて溶融金属中の介在物の効率的な分離を行うことで、溶融金属の清浄化を実現することができる。
【0027】
本発明の方法によれば、高周波発生装置(B)4の使用時には、電磁力による溶湯流動が小さいため流動による分離阻害力が小さい。よって表皮厚さ領域に存在する介在物は炉壁に分離され、凝集する。また、溶湯流動が小さいとはいえある程度の流動はあるため、表皮厚さ領域以外に存在する介在物の一部も溶湯流動に追随して表皮厚さ領域内に進入し分離され、凝集する。炉壁に分離され凝集した介在物は、炉壁に強固に付着した場合には炉内溶融金属の出湯後も炉壁に付着したままであるから、例えば出湯後に炉壁から剥離する等の手段により除去することができる。炉壁に付着せず出湯された溶融金属と共に炉外へ排出される場合には、例えばタンディッシュ内でのフィルターによる濾過等の手段により除去することができる。
【0028】
次いで、再び高周波発生装置(A)3を使用すると、溶湯流動が大きいため流動による分離阻害力が電磁分離力に勝り、新たには介在物は炉壁に分離され難い。既に高周波発生装置Bの使用時に炉壁に分離された介在物は、炉壁への付着力が強固な場合には炉壁に留まる。しかし、多くの場合付着力が弱く炉壁から離脱する。しかしながら一旦炉壁に分離された介在物は凝集粗大化しているため、炉壁から離脱し再び溶融金属中に巻込まれても容易に浮上分離される。
【0029】
溶融金属に対し、これらの高周波発生装置(A)3の使用と高周波発生装置(B)4の使用を交互に繰り返すことにより、溶融金属中のいずれの場所に存在する介在物についても炉壁に分離された後離脱して浮上分離され、例えば湯面のスラグをかき出す等の手段により除去することができる。
【0030】
上述のように、高周波発生装置(B)4の周波数は、溶融金属中の介在物の電磁分離を第一の目的とした周波数である。金属の溶解及び溶融金属の攪拌を目的とした高周波発生装置Aの周波数に対し、攪拌力を抑制しつつ大きい表皮厚さを確保するという、電磁分離に適した範囲の周波数であることが好ましい。
【0031】
また、本発明においては、効率的な金属の溶解および溶融金属の攪拌を行う観点から、周波数f(Hz)の高周波電流を加えたとき、Dを誘導加熱溶解炉の炉本体のるつぼ内径(m)とした場合、炉本体内の金属に加えられる電力P(kW)は、下記式1を満たすことが好ましい。
【0032】
【数3】

【0033】
また、周波数fの高周波電流を加えたときには、溶融金属に加えられる電力Pが、下記式2を満たすことが、溶融金属中の介在物の電磁分離を効率的に行うために好ましい。
【0034】
【数4】

【0035】
本発明の介在物除去方法により介在物が除去された溶融金属から得られる金属鋳塊は、任意の方法により塑性加工して、各種の、介在物の少ない、高品質の金属材料を形成することができる。
また、本発明の介在物除去方法を用いることができる原料金属は特に限定されるものではないが、銅合金やアルミ合金などに好適に用いることができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例に基づき、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0037】
参考例1
るつぼ径=80mm、周波数=1、10、および30kHzの溶解炉Xと、るつぼ径=280mm、周波数=1kHzの溶解炉Yとを用い、それぞれ溶融金属に与える電力Pを変化させた場合について試験した。るつぼ内には無酸素銅を溶解し、溶融銅中に約20ミクロンの炭化クロム粒子を1.0mass%分散させた後、誘導コイルに高周波電流を印加し、るつぼ内で凝固させた試料の高さ中心における水平断面を観察した。水平断面の観察により、粒子がるつぼ壁面に集積し、中心部とるつぼ壁面に接する周辺領域とが色調の異なった状態が観察された場合を「分離」、粒子集積が観察されなかった場合を「非分離」とした。一連の試験結果を整理したグラフを図2に示す。図2において、縦軸yは電力P(kW)、横軸xは
【数5】

(Dはるつぼ径(m)、Fは周波数(Hz)を示す)であり、分離を○、非分離は×で示した。本例において、好ましい分離条件を示す境界線としてy=5xおよびy=xが導き出された。すなわち、本例では、x<y<5xに示される出力範囲yにおいては分離が良好に進行することが分かった。また、本例ではy=5xで示される出力範囲より大きい条件では溶融金属の攪拌力が大きいために分離が進行しにくいことがわかった。
【0038】
参考例2
るつぼ内径=80mmの誘導加熱溶解炉を用いて、加えられる周波数と溶融銅中介在物の炉壁への分離の有無の関係について試験した。介在物として直径約20μmの炭化クロム粒子を用い、4kgの溶融銅中に1mass%の炭化クロム粒子を分散させ、種々の周波数にて炭化クロム粒子が炉壁へ分離される状態を観察した。試験方法は、炭化クロム粒子を分散させた溶融銅に溶解に用いたものと同一の所定の周波数の高周波磁場を60秒間印加し、その後自然冷却にて凝固させた。得られた円柱形の凝固物について、中心軸を含む任意の縦断面を調査対象とし、とりわけ炉壁に接する部分について詳細に調査した。なお、誘導加熱溶解炉の溶解目的の周波数は3kHzである。
炭化クロム粒子を分散させた溶融銅に5kHzの高周波磁場を印加した場合、炭化クロム粒子の炉壁への分離は見られたが炉壁のごく一部分への粒子の集積であり、炉壁の大部分は粒子の集積が見られなかった。これは溶湯流動による分離阻害力が大きいためである。10kHzでは分離による炉壁の大部分への粒子の集積が見られた。15kHzおよび20kHzでも分離(集積)が見られた。30kHzでも分離が見られたが、分離による粒子集積部の厚みが非常に薄かった。これは周波数の増大に伴い、表皮厚さが小さくなるため分離効率が著しく低下したためである。以上のことから、電磁分離に適した周波数として、溶解用周波数の2〜10倍が好ましく、3〜7倍であることがさらに好ましいことが分かった。
【0039】
比較例1
るつぼ径=80mmφのるつぼ型誘導加熱溶解炉において、誘導コイルに3kHzと10kHzの二系統の高周波発生装置をいずれか一方に切り替え可能な回路で設置した。被加熱材料としてCu−0.25mass%Cr合金を用い、3kHzで通常の溶解を行い、溶湯中の酸化物介在物の定量評価を行った。Cu−0.25mass%Cr合金はCrが易酸化性元素であるため溶湯中に酸化クロムが発生し有害介在物となる。溶湯サンプルを酸素分析することで酸化クロム量を定量評価することができる。
すなわち、るつぼ径=80mmφのるつぼ型誘導加熱溶解炉において、3kHzの高周波磁場を印加し、炉内のCu−0.25mass%Cr合金4kgを溶解し、溶湯均質部から採取したサンプルの酸素分析を行った。
溶湯サンプルの採取は公知のピンサンプラーを使用し、サンプリング後すみやかに水冷して棒状の凝固試料を得た。溶湯サンプルは5個採取し、各サンプルから分析用試料を切り出して分析を行い、5データの平均値を算出した。
結果を表1に示す。
【0040】
実施例1
3kHzで金属の溶解を行った後、10kHz−25kWを60秒間印加した以外は、比較例1と同様にCu−0.25mass%Cr合金の溶湯を作成し、溶湯中の酸化物介在物の定量評価を行った。結果を表1に示す。
【0041】
実施例2
3kHzで金属の溶解を行った後、また10kHz−25kWで10秒間、3kHz−25kWで10秒間を連続で5回繰り返し印加した以外は、比較例1と同様にCu−0.25mass%Cr合金の溶湯を作成し、溶湯中の酸化物介在物の定量評価を行った。結果を表1に示す。
【0042】
比較例2
るつぼ径=900mmφのるつぼ型誘導加熱溶解炉において、誘導コイルに500Hzと3kHzの二系統の高周波発生装置をいずれか一方に切り替え可能な回路で設置し、Cu−0.25mass%Cr合金6トンを500Hz−1000kWで溶解し溶湯均質部から採取したサンプルの酸素分析を行った。
以上の酸素分析結果を図2に合わせて示す。溶湯サンプルの採取は公知のピンサンプラーを使用し、サンプリング後すみやかに水冷して棒状の凝固試料を得た。溶湯サンプルは各条件で5個ずつ採取し各サンプルから分析用試料を切り出して分析を行い、5データの平均値を算出した。結果を表1に示す。
【0043】
実施例3
Cu−0.25mass%Cr合金を溶解した後、3kHz−150kWで30秒間、500Hz−150kWで30秒間を連続で5回繰り返した以外は、比較例2と同様にCu−0.25mass%Cr合金の溶湯を作成し、溶湯中の酸化物介在物の定量評価を行った。結果を表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
表1に示すデータから明らかなように、通常の溶解のみを行った比較例に比べ、溶解用周波数とは別の介在物分離用周波数を溶融銅に対して使用した実施例では、溶融銅中の平均酸素濃度で示される酸化クロム介在物量が少なくなり、特に、溶解用周波数と介在物分離用周波数を繰り返した実施例2および3では、溶融銅中の酸化クロム介在物量が非常に少なく、溶融銅の清浄化が実現した。
【符号の説明】
【0046】
1 誘導加熱溶解炉の炉本体
2 誘導加熱溶解炉の誘導コイル
3 高周波発生装置(A)
4 高周波発生装置(B)
5 スイッチ(切替装置)
6 金属溶湯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導加熱溶解炉に磁場を与える誘導コイルに、周波数fの高周波電流を加え、前記誘導加熱溶解炉の炉本体内に投入された金属を溶解、攪拌し、その後、前記周波数fとは異なる周波数fの高周波電流を加え、前記溶解された金属中の介在物を分離することを特徴とする溶融金属中の介在物除去方法。
【請求項2】
誘導加熱溶解炉に磁場を与える誘導コイルに、周波数fの高周波電流を加え、前記誘導加熱溶解炉の炉本体内に投入された金属を溶解、攪拌し、その後、前記周波数fとは異なる周波数fの高周波電流を加え、さらにその後、周波数fの高周波電流と周波数fの高周波電流を交互に加え、前記溶解された金属中の介在物を分離することを特徴とする溶融金属中の介在物除去方法。
【請求項3】
前記周波数f(Hz)の高周波電流を加えたとき、前記誘導加熱溶解炉の炉本体内の金属に加えられる電力P(kW)が、下記式1を満たすことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の溶融金属中の介在物除去方法。
【数1】

(式中、Dは誘導加熱溶解炉の炉本体のるつぼ内径(m)を示す)
【請求項4】
前記周波数f(Hz)の高周波電流を加えたとき、前記誘導加熱溶解炉の炉本体内の金属に加えられる電力P(kW)が、下記式2を満たすことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の溶融金属中の介在物除去方法。
【数2】

(式中、Dは誘導加熱溶解炉の炉本体のるつぼ内径(m)を示す)
【請求項5】
前記周波数fが、前記周波数fの2〜10倍の周波数であることを特徴とする、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の溶融金属中の介在物除去方法。
【請求項6】
るつぼ型誘導加熱溶解炉の炉本体と、前記炉本体を取り巻く誘導コイルと、前記炉本体内の金属を溶解及び攪拌する磁場を発生させるための周波数fの高周波電流を発生させる高周波発生装置(A)と、溶解された金属中の介在物を分離する磁場を発生させるための前記周波数fとは異なる周波数fの高周波電流を発生させる高周波発生装置(B)とを備え、前記高周波発生装置(A)と前記高周波発生装置(B)とが、いずれか一方に切り替え可能な切替回路を介して前記誘導コイルに接続されていることを特徴とする溶融金属中の介在物除去装置。
【請求項7】
前記切替回路は、前記高周波発生装置(A)と前記高周波発生装置(B)とを交互に前記誘導コイルに接続するように作動することを特徴とする、請求項6に記載の溶融金属中の介在物除去装置。
【請求項8】
前記周波数fが、前記周波数fの2〜10倍の周波数であることを特徴とする、請求項6または請求項7に記載の溶融金属中の介在物除去装置。
【請求項9】
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の溶融金属中の介在物除去方法により介在物が除去された溶融金属から得られた金属鋳塊を、塑性加工して形成されてなる金属材料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−17482(P2011−17482A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−162031(P2009−162031)
【出願日】平成21年7月8日(2009.7.8)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】