説明

溶解反応助剤を用いた金属溶解方法、この金属溶解方法を用いた合金の製造方法、並びに金属の析出方法

【課題】 安価に実施でき、かつ、簡便で安全性の高い、金属の化学的溶解方法を提供する。
【解決手段】 溶解反応助剤と金属とを接触させるとともに、この溶解反応助剤および金属に希酸を接触させて該金属を溶解させる金属溶解方法であって、溶解反応助剤は、マンガン、ビスマス、銀およびクロムのうちのいずれかの金属元素の酸素化合物であることとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願の発明は、溶解反応助剤を用いた希酸による金属溶解方法、この金属溶解方法を用いた合金の製造方法、並びに金属の析出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属の溶解方法には、熱を加えて物理的に溶解する方法や、薬品により化学的に溶解する方法などが一般的である(例えば、特許文献1参照)。このうち、化学的溶解方法は金属表面を微細加工するために必須な技術であり、一般的には酸溶液を用いて金属を溶液中に溶出させる操作である。酸溶液としては強酸が用いられることが多く、取り扱いに注意が必要である。さらに、強酸によっても化学的溶解が難しい金などの貴金属元素に対しては、酸化力の高い王水、毒性の高いシアン化溶液、あるいは高価で毒性もあるチオ尿素やチオ硫酸による化学的溶解方法があるものの、これらはいずれも危険性が高く、取り扱いに注意を要するもので、簡便かつ安全に実施できる方法ではなかった。
【0003】
また、金属の薄膜製作としては、真空下で金属を電子ビーム等で加熱蒸散させ、サンプルの表面で冷却して金属皮膜を形成する真空蒸着法、あるいは、レーザーエッチングや原子間力顕微鏡(AFM)を利用した原子除去方法が主として用いられているが、いずれも、複雑で大型な機械を必要とし、稼動コストが高いという問題点があった(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
さらに、金属微粒子の析出方法としては、電解槽内に陽極と負極を設置し、電極を兼ねたサンプルの表面に金属微粒子を電析させる方法、真空下で金属を電子ビーム等で加熱蒸散させ、サンプルの表面で冷却して金属微粒子を形成する真空蒸着法、金属イオンを含む溶液にサンプルを含浸させた後、サンプルを加熱処理することで、サンプル表面に金属微粒子を還元して析出させる方法などが一般的に知られている。このうち、電解槽を用いる方法は、均一な粒径の金属微粒子を析出させるためには、電解槽内の電界集中を防いで電極表面における電圧分布を一定に保つために高コストで複雑な工夫が必要になる。真空蒸着による方法は、金属微粒子を担持させるサンプルの形状が多孔体であったりチューブ状であったりする場合には、加熱蒸散した金属が多孔体の外表面あるいは多孔体の孔の入口部表面や、チューブの外表面にしか接触できないため、多孔体やチューブの内表面に金属微粒子を析出させることは極めて困難であり、それらのサンプルが有する高い比表面積を有効に利用できない。また、含浸法を用いた場合には、加熱処理後にサンプル表面に還元・析出する金属微粒子の粒径を均一に10nm以下まで細かくすることや、金属微粒子の分布を均一に揃えることが極めて困難であった。
【特許文献1】特開平7−157832号公報
【特許文献2】特開2003−123859号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ナノテクノロジーの進歩に伴い、電子部品がより小型化される中、金属表面の微細加工や、より薄い金属薄膜を作成するための金属薄膜加工に応用可能な、安価に実施でき、かつ、簡便で安全性の高い化学的溶解方法への要請が高まりつつあるのが実情である。
【0006】
また、従来、高性能触媒などに応用されてきた金属微粒子は10nm〜100nm程度の大きさであるが、近年、原子数個から数十個で構成された大きさが10nm以下の金属原子のクラスター群の触媒活性が非常に高いことが注目されている。このため、金属原子のクラスター群を均一にサンプル表面に析出させることができれば、微粒子化による触媒性能の向上だけではなく、触媒金属量を大幅に減らせることでコストダウンにもつながる。したがって、原子数個から数十個で構成された細かい金属クラスター群をサンプルの表面に簡便に得ることができる方法の実現に対する要請についてもますます高まりつつある。
【0007】
そこで、本願発明は、上記の従来技術における問題点を鑑み、安価に実施でき、かつ、簡便で安全性の高い、金属の化学的溶解方法とこの金属溶解方法を用いた合金の製造方法、並びに金属の析出方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明は、前記の課題を解決するものとして、以下の発明を提供する。
<1> 溶解反応助剤と金属とを接触させるとともに、この溶解反応助剤および金属に希酸を接触させて該金属を溶解させる金属溶解方法であって、溶解反応助剤は、マンガン、ビスマス、銀およびクロムのうちのいずれかの金属元素の酸素化合物であることを特徴とする金属溶解方法。
<2> 酸素化合物は、MnO2、BiNaO3、Ag2O、KMnO、KCrOまたはNaCrOであることを特徴とする上記<1>に記載の金属溶解方法。
<3> KMnOを溶解反応助剤として白金(Pt)を溶解させることを特徴とする上記<1>または<2>に記載の金属溶解方法。
<4> 溶解反応助剤と金属とを導電性材料を介して接触させることを特徴とする上記<1>から<3>のいずれかに記載の金属溶解方法。
<5> 溶解反応助剤と金属とを導電性材料で隔てるようにしてそれぞれ別々に希酸を接触させるようにしたことを特徴とする上記<4>に記載の金属溶解方法。
<6> 上記<1>から<5>のいずれかに記載の金属溶解方法で複数種の金属を希酸中に溶解して混合液とした後、この混合液を乾燥固化して合金とすることを特徴とする合金の製造方法。
<7> 金属が溶解している希酸と、アルカリ性の電解質溶液を接触させた酸化マンガンとを導電性材料を介して電気的に接続させて、希酸中に溶解した金属を導電性材料の表面に析出させることを特徴とする金属の析出方法。
<8> 金属が溶解している希酸は、多孔質の導電性材料に含浸されたものであり、希酸中に溶解した金属を多孔質の導電性材料の表面および多孔質内部の表面に析出させることを特徴とする上記<7>に記載の金属の析出方法。
<9> 金属が溶解している希酸の多孔質の導電性材料への含浸は、金属が溶解している希酸とともに多孔質の導電性材料を密閉容器に入れた後、これを加熱することによって多孔質内部に金属が溶解している希酸を圧入したことを特徴とする上記<8>に記載の金属の析出方法。
【発明の効果】
【0009】
上記発明によれば、熱や電気エネルギー等のエネルギー付加が必要ない化学的な金属溶解方法であって、安価で、かつ、操作が簡便な金属溶解方法が提供される。この出願の発明の金属溶解方法により、より薄い金属薄膜の実現や金属表面の微細加工がより容易に実施可能となる。さらに、これらの加工技術は特にナノスケールでの応用が期待される。
【0010】
また、上記発明によれば、複数種の金属からなる合金を簡便に常温で製造することができる。
【0011】
さらに、上記発明によれば、希酸中に溶解させた金属を導電性材料表面に簡易に析出させることが可能となる。また、複数種の金属からなる合金を導電性材料表面に析出させて簡便に製造することができる。さらに、カーボン・ナノチューブや木質カーボンなどの導電性を有する多孔質材料に対して、それらの表面だけでなく、多孔質内部表面にも大きさが10nm以下の金属クラスター群を析出させることも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本願発明は、溶解反応助剤と金属とを接触させるとともに、この溶解反応助剤および金属に希酸を接触させて該金属を溶解させる金属溶解方法であって、溶解反応助剤は、マンガン、ビスマス、銀およびクロムのうちのいずれかの金属元素の酸素化合物であることを特徴としている。
【0013】
溶解反応助剤としては、上記金属元素の酸化物からなる固体酸化剤を用いることができる。例えば、マンガン酸化物、ビスマス酸化物、および銀酸化物などを用いる。そして、これらの金属酸化物としては価数の異なる各種酸化物であってもよい。あるいは、上記金属元素のいずれか1種を含むBiNaO3、KMnO、KCrO、NaCrOのような酸素化合物であってもよい。以上の酸素化合物として、具体的には、MnO2、Mn23、Mn34、BiNaO3、Bi24、Bi25、Bi47、AgO、Ag2O、KMnO、KCrO、NaCrO等を好適に用いることができる。特に、MnO2、BiNaO3、Ag2O、KMnO、KCrO、NaCrOが好適である。なかでも、KMnOを溶解反応助剤として用いることで、これまで溶解が困難であった白金(Pt)を容易に溶解させることができる。
【0014】
本願発明の金属溶解方法においては、上述したように、溶解反応助剤と金属とを接触させている。金属の溶解は、この接触によって溶解反応助剤と金属間で電子の授受がなされ(電気的に接続されているともいう)、金属が酸化して溶解していると推定される。また、この接触は、単に溶解反応助剤と金属を直接接触させてもよいし、あるいは導電性材料(後述する、導電性接着剤を含む)を介して接触させてもよい。また、導電性接着剤によって物理的な接触と同時に電気的な接続を確保してもよい。溶解反応助剤と金属への希酸の接触条件は、直接的にあるいは導電性材料などを介して間接的に溶解反応助剤と金属とが接触されている系に対して、あらかじめ希酸を供給してもよい。また、溶解対象となる金属に希酸を供給して、別途、希酸に浸漬した溶解反応助剤を溶解対象となる金属に接触させるか、あるいは、この希酸に浸漬した溶解反応助剤を、溶解対象となる金属と電気的に接続された導電性材料に接触させてもよい。例えば、希酸に溶解反応助剤を懸濁させた溶液中に溶解対象となる金属を浸漬させることで、溶解反応助剤と金属とを接触させてもよい(実施例3など参照)。
【0015】
導電性材料(導電性接着剤を含む)としては、例えば、カーボン・シートや導電性プラスチックなどの導電性材料、およびエポキシ樹脂系、フェノール樹脂系、ポリイミド樹脂系、ポリエステル樹脂系、アクリル樹脂系、アクリルウレタン樹脂系、ポリオレフィン樹脂系、塩化ビニル樹脂系、メラミン樹脂系、あるいはシリコーン樹脂系などの導電性接着剤等であってもよい。
【0016】
本願発明は、溶解反応助剤および金属の両者をシート状、皿状に形成した導電性材料で隔てるようにし、それぞれ別々に希酸を接触させて金属を溶解させるようにしてもよい。すなわち、溶解反応助剤の上部にシート状または皿状に形成された導電性材料を載置し、さらにこの導電性材料の上に溶解対象となる金属を載置して、溶解反応助剤と金属とにそれぞれ別々に希酸を接触させて導電性材料上で金属を溶解するようにする。これによって、溶解した金属が溶解反応助剤と混じりあわないため、純度の高い溶解金属の溶液を得ることができる。さらに、溶解反応助剤と金属とに接触させる希酸の種類やpHをそれぞれ異なったものに変えることができるため、溶解対象金属の溶解特性を考慮した反応系を組み合わせることも可能となり、適用範囲が拡がることになる。
【0017】
この出願の発明における希酸とは低濃度の酸溶液であり、好ましくは、硫酸、塩酸、硝酸などの強酸の低濃度溶液である。また、酸濃度を制御することで、金属の溶解反応を制御できる。よく制御された溶解反応を実現するためには、より好ましくは希塩酸、希硝酸、または希硫酸を用いる。反応や安全性等を勘案すると、好ましい希酸の濃度としては0.1〜2.0mol/L、より好ましくは0.3〜1.0mol/Lの範囲が考慮される。特に後述の実施例のように0.5mol/L程度とすることで、溶解反応の進行度を時間により制御することができる。希酸の濃度が2.0mol/Lよりも高い場合には、溶解反応助剤自体を溶解させる反応速度が早くなりすぎて、金属の溶解反応を制御して所定の厚みの薄膜を得ることが困難となる場合があるので好ましくない。希酸の濃度が0.1mol/L未満の場合には、溶解反応効率が低下する場合があるため好ましくない。なお、導電性材料を用いた場合の金属に接触させる希酸の濃度としては、その下限値が0.01mol/L程度であってもよい。
【0018】
反応の停止は水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ試薬を添加して酸を中和することによって行うことができる。
【0019】
溶解反応を行うための希酸および反応助剤の量は、溶解される金属の種類との反応性に応じて適宜決定できるが、2cm×1cmの金属箔を溶解させる場合、好ましくは0.1g以上の反応助剤、および、0.2mL以上の前記希酸を用いる。より好ましい態様としては、金属に対して過剰の反応助剤および希酸を用いることができる。ただし、溶解反応助剤と溶解される金属との電気的な接続状態を確保し、これらに希酸を適切に供給するため、溶解反応助剤と希酸のいずれかが大過剰とならないように混合比を適度に調整する必要がある。
【0020】
また、この出願の発明の金属溶解方法は、金属一般に対して適用できる。溶解対象の金属、溶解反応助剤、および、希酸の種類によって金属溶解反応の態様が個々に異なるため、目的に応じて、溶解反応助剤と希酸を組み合わせて用いることができる。この出願の発明の溶解反応助剤が、従来の王水に代表される強酸などの液体酸化剤と比べて優位な点は、この溶解反応助剤が危険な劇物、毒物、揮発物などでないことに加え、比較的速度の速い溶解反応だけでなく、穏やかな溶解反応も実施可能な点であり、例えば、金属薄膜のエッチング制御を実現することができる。個々の溶解反応の態様は、後述の実施例に示す通りであるが、例えば、Au、Pd、およびAgにおいて厚みがナノメートルオーダーの超薄膜を作成する際、そのエッチング量を制御するには、低速で確実に溶解反応が進行することが必須であり、溶解反応助剤/希酸の組み合わせとして、MnO2/塩酸が好適である。いっぽう、BiNaO3/塩酸を用いれば、Au、Pd、およびAgであっても、従来の強酸と同じように、すみやかな溶解を実現できる。また、別の例では、Cuに対して大きい溶解反応速度を必要とする場合は、MnO2/塩酸、または、BiNaO3/塩酸を用いることができ、精密エッチングなどの溶解反応速度の遅い反応を必要とする場合にはBiNaO3/硝酸、または、BiNaO3/硫酸などを用いることができる。さらに別の例では、溶解反応助剤としてKMnOを用いるとMnO2を用いた場合よりも同条件下で5倍以上早く金を溶解させることができる。
【0021】
この出願の発明の金属溶解方法の対象とする金属は、元素単体だけでなく数種類の合金に対しても適用が可能であり、目的に応じて個々に溶解反応助剤/希酸の種類を選択することができる。また、対象とする金属の形状としては、溶解反応助剤と電気的に接続可能なものであれば特に制限されるものではなく、例えば、金属箔が好適に用いられる。このときの金属箔の厚みについては、特に制限されるものではないが、好ましくは0.1μm〜100μmである。さらに、この金属箔については、どのような製造方法で作製された金属箔であってもよく、後述の実施例のように、例えば、圧延法、スパッタリング法で製造された金属箔であってもよい。
【0022】
本願発明は、合金の製造方法を提供する。この合金の製造方法は、上記の金属溶解方法で複数種の金属を希酸中に溶解して混合液とした後、この混合液を乾燥固化して合金とするもので、簡便に常温で製造することができる。ここで、複数種の金属を同時に希酸中に溶解させるようにしてもよいし、別々に溶解させるようにしてもよい。金とアルミの合金の製造方法の一例として説明すると、まず上述の方法で金を希酸に溶解させ、次いで、金が溶解した希酸にアルミを溶解させて混合液とする。そして、この混合液を乾燥固化させることで、金とアルミの分布が均一な合金を得ることができる。このことは、例えば、走査型電子顕微鏡(日本電子JSM−5310)付属の元素マッピングシステム(EDAX製−CDU型)で分析することで確認できる。
【0023】
さらに、本願発明は、金属の析出方法をも提供する。この方法は、金属が溶解している希酸と、pHがアルカリ性の電解質溶液(例えば、水酸化ナトリウム水溶液等)を接触させた酸化マンガンとを導電性材料を介して電気的に接続させることによって、希酸中に溶解した金属を還元して導電性材料の表面にクラスターや合金として析出させている。析出される金属のクラスターは、その大きさを10nm以下とすることができ、また、導電性材料の表面に均一に析出させることが可能であるため、触媒への利用など産業上非常に有用である。
【0024】
導電性材料としては、例えば、カーボン・シートや導電性プラスチックなどの導電性材料、およびエポキシ樹脂系、フェノール樹脂系、ポリイミド樹脂系、ポリエステル樹脂系、アクリル樹脂系、アクリルウレタン樹脂系、ポリオレフィン樹脂系、塩化ビニル樹脂系、メラミン樹脂系あるいはシリコーン樹脂系などの導電性接着剤等であってもよく、さらには、カーボン・ナノチューブや木質カーボン等の多孔質の導電性材料であってもよい。
【0025】
多孔質の導電性材料を用いた場合には、あらかじめ、多孔質の導電性材料に金属が溶解している希酸を含浸させ、このものとアルカリ性の電解質溶液を接触させた酸化マンガンとを、導電性材料を介して電気的に接続させてもよい。これによって、希酸中に溶解した金属を多孔質の導電性材料の外表面および多孔質内部表面に金属クラスター群として析出させることができる。
【0026】
なお、金属が溶解している希酸の多孔質の導電性材料への含浸は、金属が溶解している希酸とともに多孔質の導電性材料を密閉容器に入れた後、これを加熱することによって多孔質内部に金属が溶解している希酸を圧入することが考慮される。ここで、密閉容器としては、希酸と反応することなく、密閉容器の内部圧力の高まりによっても破壊しないものであれば特に限定されるものではなく、例えば、後述する実施例のようなガラス製の容器であることが考慮される。
【0027】
以下に実施例を示し、さらに詳しく説明する。もちろん以下の例によって本願発明が限定されることはない。
【実施例】
【0028】
<実施例1>MnO2による金の溶解試験(1)
0.5mol/L希塩酸4mLを、0.2gのMnO2に吸収させ、このMnO2を塗布したプレパラートガラスの上に純度99.99%、厚み0.1μmの金(Au)箔片(1cm角の正方形)を静置した。24時間にわたり経過を観察したところ、時間の経過と伴に金箔の大きさが減少し、金箔の溶解が進行した。いっぽう、対照例として同様の金箔片に対して、酸化マンガン(MnO2)を添加せずに、0.5mol/Lの希塩酸に浸漬させたところ、24時間経過後も全く溶解が起きなかった。
【0029】
同様に、0.5mol/L希塩酸4mLを、0.2gのMnO2に吸収させ、このMnO2を塗布したプレパラートガラスの上に純度99.99%、厚み1.0μmの金(Au)箔片(1cm角の正方形)を静置した。50時間にわたり経過を観察したところ、時間の経過と伴に金箔の大きさが減少し、金箔の溶解が進行した。いっぽう、対照例として同様の金箔片に対して、酸化マンガン(MnO2)を添加せずに、0.5mol/Lの希塩酸に浸漬させたところ、50時間経過後も全く溶解が起きなかった。
<実施例2>MnO2による金の溶解試験(2)
純度99.99%、厚み0.1μmの金(Au)箔片(3cm角の正方形)を0.5mol/Lの希塩酸2mLを添加した0.3gのMnO2とガラスシャーレ内で、室温下で接触させて24時間静置し、希塩酸中に完全に溶解させた。この金箔を溶解した希塩酸をガラス濾紙でろ過したサンプル液を、紫外吸光度分析によって分析したところ、314nmの波長に吸光ピークが確認された。この314nmは、塩化金イオン(AuCl4-)の極大吸収波長であり(Geochim.Cosmochim.Acta 61,1971−1983,1997)、原子吸光分析用金標準試薬(塩化金イオン(AuCl4-)として金を含む)で同様の吸光ピークが観察された(図1)。これより、この出願の発明の金属溶解方法によって、金が希塩酸中に、コロイドではなく、塩化金イオン(AuCl4-)として溶解していることが確認された。
【0030】
さらに、同様のサンプル液に、塩化第一スズ(SnCl2)の粉末0.2gを濃塩酸1mLで溶解した液を滴下したところ、「カシウスの紫」と呼ばれる金コロイド生成による発色反応が起こった。このことからも、希塩酸中での金がイオン化されて溶存していたことが確認された。
<実施例3>MnO2による金の溶解試験(3)
0.5mol/L希塩酸30mLに対して0.5gのMnO2を懸濁させ、マグネチックスタラーで攪拌することにより、MnO2を希酸中に均一に拡散させ、かつ、沈殿しない状態で系を保った。この系に厚み0.1μmの金(Au)箔片(2cm×1cm)をガラス板上に固定して浸した状態で3時間攪拌を続けた。その結果、MnO2を懸濁させた液に浸されていた金箔の表面に有意な膜厚の減少が観察された。同様な実験を厚み1.0μmの金(Au)箔片(2cm×1cm)で行った結果、15時間後にMnO2を懸濁させた液に浸されていた該金箔の表面に有意な膜厚の減少が観察された。膜厚が減少した金箔の表面を、走査型電子顕微鏡(日本電子製JSM−5310)、およびプローブ顕微鏡(セイコーインスツルメンツ製SPA−400)で観察した。その結果、均一な表面粗さを有する金箔表面が観察された。
【0031】
さらに、実施例1および2における方法、すなわち、金箔表面に希塩酸を含んだMnO2を積載してAuを溶解する方法、により処理された金箔表面について、同様の顕微鏡観察により本実施例と比較した。その結果、本実施例の方法は、これらの方法より溶解力に劣るものの、金箔表面においてゆるやかで均一な溶解が可能であり、精密エッチングに応用可能であると認められた。
<実施例4>MnO2による金の溶解試験(4)
導電性塗料(藤倉化成製ドータイトXC−12(カーボンが導電性をもたらすフィラーとして使われているアクリル樹脂系塗料))をガラスシャーレの上にピペットで滴下し、直径約1cm、厚み約0.5mmの膜を作成し、24時間室温で乾燥して硬化させた。24時間後、ガラスシャーレの表面から硬化した該導電性塗料膜をはがし、その上面に金箔(長さ3mm、幅2mm、厚み0.1μm)を密着させて置いた。つぎに、ガラスシャーレ上に置いたMnO2粉末0.3gに0.5mol/Lの希塩酸1mLを滴下し、その上に金箔を密着させた導電性塗料膜の下面を接触させて静置した。ついで、導電性塗料膜の上面に密着させた金箔にピペットで一滴0.5mol/Lの希塩酸を滴下し、金箔の様子を観察した。このとき、最下層のMnO2に加えられた希塩酸が導電性塗料膜上面の金箔に加えられた希塩酸と混じることが無い様に注意した。3日経過後に、導電性塗料膜上面の金箔がほぼ溶解していることを確認した。したがって、本手法による金の溶解が、導電性塗料膜を通して金からマンガンに電子が流れることでも生じることが確認できた。
【0032】
本実施例で用いたドータイトXC−12は、アクリル樹脂にフィラーとしてカーボンを
混ぜた導電性塗料であり、フラーレン60やカーボンナノチューブなど公知の高導電性物質を用いても、本実施例と同様に溶解助剤と被溶解金属間で電子授受を行うことができ、この出願の発明の反応助剤を用いた金属溶解・析出反応が実現できる。
<実施例5>MnO2による各種金属の溶解試験
金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、パラジウム(Pd)、スズ(Sn)、アルミニウム(Al)、および、白金(Pt)の金属箔に対する溶解試験を行い、この出願の発明の金属溶解方法の有効性を検討した。各金属箔をプレパラート上に配置し、3mm×18mmの露出部分を残し金属箔表面をカバーガラスで覆い、テープで封止した。金属箔の露出部分にMnO2を0.02g積載し、ここに0.5mol/L希酸を2mL滴下し、一定時間静置して反応させた。反応後にイオン交換水を滴下して、MnO2を洗浄除去した。なお、洗浄後、弱アルカリ性の水酸化ナトリウム溶液を用いて系を中和するとともに反応を停止した。金属箔の純度、および厚み、酸化マンガンに滴下する希酸の種類、および、静置時間は次の表1のとおりとした。
【0033】
【表1】

【0034】
Au、Ag、および、Pdにおいては、金箔の露出部分が溶解されており、封止した部分と比較して有意に膜厚が減少していることが観察された。また、Cu、および、Snにおいて、MnO2と接触していた部分が完全に溶解して消失していることを確認した。Alに関しては、5時間程度で大部分の金箔の露出部分が溶解されていることが確認された。Alについて溶解助剤なしに同濃度塩酸に浸した場合には、溶解助剤を加えた場合における5時間後の溶解状態と同等の状態が得られるまでに12時間が必要であった。
【0035】
これより、この出願の発明のMnO2を用いる方法によって、MnO2を利用した金属溶解が可能であることが示された。また、この出願の発明のMnO2を用いる金属溶解方法を利用すれば、金属の溶解に時間差があるため、複数種の金属から目的とする金属を選択的に溶解させることも可能である。
<実施例6>MnO2によるパラジウムの溶解試験
純度99.9%、厚み2.5μmのパラジウム(Pd)箔片(3cm角の正方形)を0.5mol/Lの希塩酸2mLを添加した0.3gのMnO2とガラスシャーレ内で、室温下で接触させて24時間静置し、希塩酸中に完全に溶解させた。このパラジウム箔を溶解した希塩酸をガラス濾紙でろ過したサンプル液に、塩化第一スズ(SnCl2)の粉末0.2gを濃塩酸1mLで溶解した液を滴下したところ、紫黒色の発色反応が起こった。
また、サンプル液にヨウ素(0.5mol/L)を滴下したところ、黒色の沈殿(PdI2)が生じ、さらにヨウ素の滴下を続けると、黒色沈殿が溶解して深赤色に変色した。これらの発色反応は、サンプルに含まれるパラジウムがイオン化した状態で希塩酸中に溶存していたことを示す。
<実施例7>MnO2、BiNaO3、および、Ag2Oによる各種金属の溶解試験
溶解反応助剤として、MnO2、BiNaO3、および、Ag2Oによる各種金属に対する溶解試験を行った。金属箔(純度および厚みは表1と同様)2cm×1cm片を用い、これに溶解反応助剤0.1gを接触させ、ここに0.5mol/Lの希酸を数滴滴下して様子を観察した。なお、対照例として、溶解反応助剤を用いない場合について、希酸2mLを滴下して同じく観察を行った。
【0036】
【表2】

【0037】
【表3】

【0038】
【表4】

【0039】
表中、「N」は溶解反応の発生が24時間経過しても目視で観察されない場合を、「◎」は溶解反応の発生が直ちに観察される場合をそれぞれ示す。また「○」および「△」は一定の時間経過とともに溶解反応の発生が観察されたことを示すが、金属によって次のとおりの基準でマーク付けを行った。Au、Pd、および、Agにおいては、「○」は数時間経過して溶解反応の発生が観察された場合を、「△」は24時間程度で溶解反応の発生が観察された場合をそれぞれ示す。Cuにおいては、「○」は15〜30分を経過して溶解反応の発生が観察された場合を、「△」は1時間程度経過して溶解反応の発生が観察された場合をそれぞれ示す。Snにおいては、「○」も溶解反応の発生が直ちに観察される場合を示すが、「◎」と比較して反応がゆるやかな場合を示す。Alにおいては、「○」は1〜2時間程度を経過して溶解反応の発生が観察された場合を、「△」は4時間程度経過して溶解反応の発生が観察された場合をそれぞれ示す。
【0040】
実施したほとんど全ての金属においてBiNaO3/希塩酸が高い溶解性を示した。Cuは、希酸として希塩酸を使用する場合において溶解反応が速く進行する傾向がある。さらに、Snは、MnO2/希塩酸、BiNaO3/希塩酸、および、MnO2/希硝酸を用いた場合、溶解反応が速やかに進行した。Alの場合、溶解反応助剤を用いることで溶解反応が速やかに進行した。
<実施例8>マンガン酸化物による溶解反応助剤の比較性能試験
マンガン酸化物として、MnO2、Mn23、および、Mn34を用いて、溶解反応助剤の比較性能試験を行った。Mn34は、MnCO3を1000℃で6時間焼成して得られたものを用いた。各マンガン酸化物0.2gを実施例1と同様の金箔片(0.4cm角の正方形)に接触させた状態に、0.5mol/Lの塩酸1mL(室温)を加えて、金箔の変化を観察した。
【0041】
その結果、MnO2では10時間、Mn23では36時間、Mn34では24時間経過後に金箔の全量が溶解していることを確認した。これより、金に対する溶解反応助剤の効果はMnO2 > Mn34 > Mn23であることが判明した。
<実施例9> MnOによる金の溶解実験(4)
シャーレ上のMnO1gに0.5mol/L希塩酸4mLを吸収させ、日本電子走査型電子顕微鏡サンプル作成用スパッタリング・ターゲット金(圧廷法により製造)、純度99.99%、厚み100μm、重さ0.2265gの金(Au)を静置した。72時間経過ごろから希塩酸の色が金色に変色し始め、塩化金として金が溶解しつつあることが確認できた。さらに160時間経過後に金の重量を測定したところ、重量0.01025gの減少が確認された。
<実施例10> MnOによる金の溶解実験(5)
シャーレ上のMnO1gに0.5mol/L希塩酸4mLを吸収させ、スパッタリング法で作られた、純度99.99%・厚さ28μm・面積0.25cmの金箔を静置した。24時間経過後に金色の塩化金溶液が観察され、96時間経過後に金箔の全量が希塩酸に溶解した。
<実施例11> KMnOによる金の溶解実験(1)
シャーレ上のKMnO(和光純薬製)0.3gに0.5mol/L希塩酸0.5mLを吸収させ、圧延法で作られた純度99.99%・厚み0.1μm・面積1cmの金箔を静置した。静置直後から金の溶解が観察され、1時間経過後に金箔のはぼ全量が希塩酸に溶解した。
溶解反応助剤としてKMnOを用いると、MnOを用いた場合に比べて5倍以上早い溶解反応速度が得られることがわかった。
<実施例12> KMnOによる金の溶解実験(2)
シャーレ上のKMnO0.3gに0.5mol/L希塩酸0.5mLを吸収させ、スパッタリング法で作られた、純度99.99%・厚み30μm・面積0.5cmの金箔を静置した。2時間経過ごろから希塩酸の色が金色に変色し始め、塩化金として金が溶解しつつあることが確認できた。さらに、84時間経過後に金箔の全量が希塩酸に溶解した。
<実施例13> KCrOによる金の溶解実験
シャーレ上の重クロム酸カリ(和光純薬)KCrO0.3gに0.5mol/L希塩酸0.5mLを吸収させ、圧延法で作られた純度99.99%・厚み0.1μm・面積1cmの金箔を静置した。静置25分後程度から金の溶解が観察され、1時間経過後に金箔のはぼ全量が希塩酸に溶解した。
<実施例14> NaCrOによる金の溶解実験
シャーレ上の重クロム酸ナトリウム(和光純薬)NaCrO0.3gに0.5mol/L希塩酸0.5mLを吸収させ、圧延法で作られた純度99.99%・厚み0.1μm・面積1cmの金箔を静置した。静置25分後程度から金の溶解が観察され、1時間経過後に金箔のはぼ全量が希塩酸に溶解した。
<実施例15> KMnOによる白金(Pt)の溶解実験
シャーレ上に純度99.99%・厚み0.1μm・面積0.5cmの白金(Pt)箔を置き、その上に0.1gのKMnOをのせて、希塩酸0.1mLをKMnOに滴下した。その際、白金箔は希塩酸の表面張力によって希塩酸を吸収したKMnOを包みこみ、KMnOと接する白金箔内面ではKMnOに含まれる希塩酸から発生する塩素ガス濃度が高まり、白金の溶解を阻害する酸素の濃度が低下した状態となる。この状態を保つことで、1時間経過後程度から希塩酸を吸収したKMnOを包みこんだ白金箔の厚みが内面から徐々に薄くなってゆき、最終的に白金箔の溶解が観察された。
【0042】
以上の結果から、白金表面に溶解を阻害する酸化被膜を作るために必要な酸素の濃度が低い雰囲気下において希塩酸を含んだKMnOと接触させることで溶解させることが可能であることがわかった。したがって、KMnOを溶解反応助剤として希塩酸に白金を溶解させる際には、無酸素雰囲気下での反応が溶解効率を高めるために好ましい。
<実施例16> KMnOとカーボン・シートを用いた金の溶解実験
シャーレ上に0.5gのKMnOをのせて希塩酸0.2mLをKMnOに滴下した。次に、その希塩酸を吸収したKMnOの上に2cm角のカーボン・シート(和光純薬製)で作成した皿をのせた。さらに、そのカーボン・シート皿の上にスパッタリング法で作られた純度99.99%・厚み30μm・面積0.25cmの金箔を置き、その金箔に希塩酸を0.2mL滴下して静置した。実験開始3時間後にカーボン・シート皿上の金箔の溶解を示す金色に変色した希塩酸を確認した。さらに90時間経過後にカーボン・シート皿上の金箔の全量が希塩酸に溶解したことを確認した。
<実施例17> KCrOとカーボン・シートを用いた金の溶解実験
シャーレ上に0.3gの重クロム酸カリKCrO(和光純薬)をのせて希塩酸0.1mLをKCrOに滴下した。次に、その希塩酸を吸収したKCrOの上に2cm角のカーボン・シート(和光純薬製)で作成したカーボン・シート皿をのせた。さらに、そのカーボン・シート皿の上にスパッタリング法で作られた純度99.99%・厚み0.1μm・面積1cmの金箔を置き、その金箔に希塩酸を0.2mL滴下して静置した。実験開始1時間30分経過後にカーボン・シート上の金箔の全量が希塩酸に溶解したことを確認した。
<実施例18> KMnOとカーボン・シートを用いたアルミの溶解実験
シャーレ上に0.3gのKMnOをのせて希塩酸0.1mLをKMnOに滴下した。次に、その希塩酸を吸収したKMnOの上に2cm角のカーボン・シート(和光純薬製)で作成したカーボン・シート皿をのせた。さらに、そのカーボン・シート皿の上に純度100%・厚み0.45μm・面積1cmのアルミ箔を置き、そのアルミ箔に希塩酸を0.1mL滴下して静置した。実験開始後直ちにカーボン・シート上のアルミ箔の溶解が始まり、2分後にはアルミ箔の全量が希塩酸に溶解したことを確認した。
<実施例19> KMnOとカーボン・シートを用いた金およびアルミの溶解実験
実施例16で得られた、希塩酸を吸収したKMnOの上に置いたカーボン・シート皿上の金を溶解した希塩酸に純度100%・厚み0.45μm・面積1cmのアルミ箔を置いたところ、アルミ箔は直ちに溶解を始め2分でその全量が希塩酸に溶解した。このカーボン・シート皿上に得られた金とアルミの混合液をカーボン・シート皿上で静置して自然乾燥固化させた。乾燥固化後得られた金とアルミで表面を被覆されたカーボン・シートを走査型電子顕微鏡SEM(日本電子JSM−5310)付属の元素マッピングシステム(EDAX製−CDU型)で分析し、金とアルミの分布が均一であることを確認した。
<実施例20> KCrOとカーボン・シートを用いた金およびアルミの溶解実験
実施例17で得られた、希塩酸を吸収したKCrOの上に置いたカーボン・シート皿上の金を溶解した希塩酸に純度100%・厚み0.45μm・面積1cmのアルミ箔を置いたところ、アルミ箔は直ちに溶解を始め2分でその全量が希塩酸に溶解した。このカーボン・シート皿上に得られた金とアルミの混合液をカーボン・シート皿上で静置して乾燥させた。乾燥後得られた金とアルミで表面を被覆されたカーボン・シートを走査型電子顕微鏡SEM(日本電子JSM−5310)装着のエネルギー分散型X線分析装置EDXによる元素マッピングシステム(EDAX製−CDU型)で分析し、金とアルミの分布が均一であることを確認した。
<実施例21> KMnOと導電性プラスチックを用いた金の溶解実験
シャーレ上に2.0gのKMnOをのせて希塩酸0.5mLをKMnOに滴下した。次に、その希塩酸を吸収したKMnOの上に2.5cm角・厚み1.5mmの導電性ポリプロピレン(蝶プラ工業製)で作成した板をのせた。さらに、その導電性ポリプロピレン板の上に圧延法で作られた純度99.99%・厚み0.1μm・面積0.25cmの金箔を置き、その金箔に希塩酸を0.2mL滴下して静置した。実験開始40時間後に導電性プロピレン板上の金箔の全量が希塩酸に溶解したことを確認した。また、同様な結果が、導電性ポリエチレン(蝶プラ工業製)で作成した板(2.5cm角・厚み1.0mm)を用いた場合にも確認できた。
<実施例22> MnOとカーボン・シートを用いた金の析出実験
金標準液(1000ppm)(和光純薬工業製)一滴をカーボン・シート(和光純薬工業製)に滴下した後、シャーレ上に置いた1N(1規定濃度)の水酸化ナトリウム水溶液0.2mLを吸収させた酸化マンガンIV MnO化学処理品(和光純薬工業製)1g上に配置して48時間静置した。その後、カーボン・シート表面上に自然乾燥固化した金の酸化数をX線光電子分析装置XPS(島津製作所製ESCA−3300)で分析したところ、カーボン・シート表面上の金が酸化数0価の金属であることを示す4f7/2軌道の電子の結合エネルギーが84.0eVであることを確認した。+1価や+3価の塩化金に起因するものと考えられる結合エネルギーのピークは全く検出されなかった。このため、金標準液の塩化金が、アルカリ性の水酸化ナトリウム水溶液を電解質として吸収したMnOから電子を供給されて金属に還元されたことが明らかになった。
<実施例23>塩化金および塩化アルミニウムの混合溶液から、金属金とアルミが均一に混ざった薄膜を作成する実験
塩化金の溶液(金濃度10000ppm、溶媒は0.5規定濃度の希塩酸)と塩化アルミニウムの溶液(アルミ濃度10000ppm)を混合した溶液0.5mLを、0.5規定濃度の水酸化ナトリウム水溶液1mLで湿潤させた2gの酸化マンガンIV(和光純薬製)上に置いたカーボン・シート(和光純薬製)で作成した皿上に静置し、この状態で6日間、自然乾燥固化して、表面が金とアルミで被覆されたカーボン・シートを得た。
。このカーボン・シートを走査型電子顕微鏡(日本電子JSM−5310)付属の元素マッピングシステム(EDAX製−CDU型)で分析し、金とアルミの分布が均一であることを確認した上で、金の酸化数をX線光電子分析装置(島津製作所製ESCA−3300)で分析したところ、金が酸化数0価の金であることを示す4f7/2軌道の電子の結合エネルギーが84.0eVが観測され、酸化数+3、および+1価の塩化金であることを示す4f7/2軌道の電子の結合エネルギーのピークは非常に弱く、ほとんど全ての金が金属として還元されていることを確認した。得られたカーボン・シート上の金属金とアルミが混合した薄膜の電気導電性を調べるために、電気抵抗値を計測した。参考試料として、厚み1μmの金箔表面の電気抵抗値、および、厚み0.5μmのアルミ箔を測定した。金箔では、電気抵抗値0.00003オームが得られた。また、厚み0.5μmのアルミ箔では、電気抵抗値0.036オームが得られた。これに対して、本手法によってカーボン・シート表面に析出させた金属金とアルミが均一に混合した薄膜の電気抵抗値は、金箔とアルミ箔の中間値である0.004オームであり、アルミ箔だけの場合に比べて電気抵抗値を向上させることができた。なお、電気抵抗値の測定には、三菱化学製MCP−T410 Loresta HPを使用した。
【0043】
また、対照例として、カーボン・シート(和光純薬製)で作成した皿上に塩化金の溶液(金濃度10000ppm、溶媒は0.5規定濃度の希塩酸)と塩化アルミニウムの溶液(アルミ濃度10000ppm)を混合した溶液0.5mLをカーボン・シート皿上で静置して自然乾燥固化させた。乾燥固化後得られた金とアルミで表面を被覆されたカーボン・シートを走査型電子顕微鏡(日本電子JSM−5310)付属の元素マッピングシステム(EDAX製−CDU型)で分析し、金とアルミの分布が均一であることを確認した。さらに、金の酸化数をX線光電子分析装置XPS(島津製作所製ESCA−3300)で分析したところ、金が酸化数+3、および+1価の塩化金であることを示す4f7/2軌道の結合エネルギーが観測された。つまり単に塩化金と塩化アルミニウムの混合溶液を混合して乾燥固化しただけでは、カーボン・シート上に金属として金を得ることはできないことを確認した。
<実施例24>金箔および銅箔を過マンガン酸カリウムと希塩酸を使って溶解させて得た金錯体と銅錯体の混合溶液から、金属金と銅が均一に混ざった合金薄膜を作成する実験
厚さ0.1μmの金箔(純度99.99%)1cm角をカーボン・シート(和光純薬性)の皿上に置き、0.5N(0.5規定濃度)の希塩酸を滴下した。この金箔と希塩酸を入れたカーボン・シートの皿を、0.5Nの希塩酸1mLを滴下した過マンガン酸カリウム(和光純薬試薬特級)1.0gの上において、ガラスシャーレ(内径6cm、深さ2cm)内に密閉して保持した。この金箔と希塩酸を入れたカーボン・シートの皿と希塩酸を滴下した過マンガン酸カリウムを入れたガラスシャーレの密閉性を上げるために、ガラスシャーレとそのフタが接触する円周部にガス・ボンベ用のテフロン(登録商標)製のシールテープを貼り付けた。30分ほど経過すると密閉したガラスシャーレ内のカーボン・シート皿上で金箔の溶解反応がはじまり、2時間30分経過時には金箔の全てが溶解した。ついで、密閉したガラスシャーレのフタを開けて、金箔を溶解した希塩酸に新しい金箔1cm角を一枚加えて、再びシャーレのフタをして密閉して1時間30分保ち、追加した金箔を完全に溶解させた。さらに、3枚目、4枚目の金箔を同様に追加・溶解させた。この金箔を計4枚溶解した希塩酸を保持したカーボン・シートの皿上に、厚さ0.42μmの銅箔(純度100%)1cm角を加えて、ガラスシャーレ内に密閉保持した。この銅箔は、密閉保持を開始した後、10分で完全溶解して4枚の金箔を溶解した希塩酸水溶液と完全に混合した。
【0044】
この金箔を計4枚と銅箔1枚を溶解した希塩酸水溶液を入れたカーボン・シート皿を、1N(1規定濃度)の水酸化ナトリウム水溶液1mLで湿潤させた2gの酸化マンガンIV(和光純薬製)上に静置し、この状態で3日間、適時に0.5Nの希塩酸を金と銅の混合溶液に数滴加え、同時に3日間、酸化マンガンIVには、適時1Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下することで電解液として機能させた。最後に、3日間経過後のカーボン・シート上に析出した金と銅を自然乾燥して、表面が金と銅で被覆されたカーボン・シートを得た。このカーボン・シートを走査型電子顕微鏡(日本電子製JSM−5310)付属の元素マッピングシステム(EDAX製−CDU型)で分析し、カーボン・シート表面で金と銅の分布が均一であることを確認した上で、金の酸化数をX線光電子分析装置(島津製作所製ESCA−3300)で分析したところ、カーボン・シート上に析出した金が、主として酸化数0価の塩化金であることを示す4f7/2軌道の電子の結合エネルギーが84.0eVであることを観測した。また、その際観測された酸化数が+2価の塩化金であることを示す4f7/2軌道の電子の結合エネルギーを示すピーク強度は弱いため、金の金属への還元反応は不完全ではあるものの、析出反応に使った3日間で金と銅を溶解した希塩酸中の大部分の金が、本手法によって金属の金として還元されたことを確認した。銅については、元来、金属銅であることを示す電子の結合エネルギーと酸化銅であることを示す電子の結合エネルギーとの差が0.1eVと極めて近接しているために、銅の還元レベルの同定は困難であるが、本手法によって金と銅が混合した合金を化学的に常温で得ることが可能であることが証明された。
<実施例25>カーボン・ナノチューブ内部表面へのパラジウムの析出実験
カーボン・ナノチューブ(和光純薬工業製)100mgとパラジウム標準液(10000ppm Pd、1N HCl)(片山化学製)1mLを、容量10mLの有栓三角フラスコに入れて栓を密閉した。密閉を完全にするために栓と三角フラスコの開口部の接触面にテフロン(登録商標)製のガスボンベ用シール・テープを巻き、さらに有栓三角フラスコの栓が、内部の空気が大気圧より高くなっても抜けないように有栓三角フラスコ全体に太さ1mmの針金を巻き付けて補強した。次に、栓が抜けないように補強したカーボン・ナノチューブとパラジウム標準液を密閉した有栓三角フラスコを110℃の乾燥機内に移し、8時間110℃を保持した。8時間経過後に、乾燥機内から同有栓三角フラスコを回収し、内部のカーボン・ナノチューブを50mLビーカーに回収した。次に、イオン交換純水50mLを回収したカーボン・ナノチューブに注いでマグネチックスタラーで10分間攪拌し、カーボン・ナノチューブ表面に付着している塩化パラジウムを洗浄除去した。攪拌を停止すると、カーボン・ナノチューブはビーカーの底に沈殿するので、上澄みの塩化パラジウムを含んだ純水を、マイクロピペットを使って吸引除去した後、0.5N(0.5規定濃度)濃度の希塩酸(和光純薬工業製)50mLを加えて30分間攪拌洗浄した。この希塩酸による洗浄処理を計3回繰り返した後、洗浄をより確かにするために、ビーカーの0.5M濃度の希塩酸(和光純薬工業製)50mL中にカーボン・ナノチューブを移して、1日間静置した後、ビーカーの底に沈殿したカーボン・ナノチューブを回収した。次に、回収したカーボン・ナノチューブをカーボン皿(東海カーボン製グラッシーカーボン)に移し、0.5N濃度の希塩酸をカーボン・ナノチューブに1滴、滴下した。希塩酸を滴下したカーボン・ナノチューブを入れたカーボン皿を、シャーレ上に置いた1N(1規定濃度)の水酸化ナトリウム水溶液0.5mLを吸収させた酸化マンガンIV MnO化学処理品(和光純薬工業製)1.5g上に配置して48時間静置した。静置している間は、カーボン皿上のカーボン・ナノチューブが乾燥しないように適時0.5N濃度の希塩酸を滴下した。同時に、シャーレ上の二酸化マンガンが乾燥しないように適時1Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下した。48時間経過後に、カーボン皿から回収したカーボン・ナノチューブをイオン交換純水50mL中に移し保管した。このようにして得られたカーボン・ナノチューブを透過型電子顕微鏡によって観察するために、純水中に保管したカーボン・ナノチューブから、適量をガラスシャーレに移し、ガラスシャーレに細孔を空けたアルミホイルでフタをした状態で、乾燥機内に置いて100℃で2時間乾燥した。乾燥後のカーボン・ナノチューブを日本電子製透過電子顕微鏡(JEM−ARM1000)で観察した。観察の結果を図2に示す。カーボン・ナノチューブの内面にパラジウム金属原子のクラスターが均一な分布で析出している様子が観察された。
<実施例26>木質カーボン表面へのパラジウムの析出実験
本実験に供した木質カーボンは、日本杉の角片(16mm×12mm×5mm)を、電気炉を使って窒素雰囲気下、昇温速度4℃/minで700℃まで加熱し、700℃を1時間保った後、電気炉のスイッチを切り、室温まで自然冷却することによって得た。この木質カーボンを2片(AとB、各片の重さ40mg)とパラジウム標準液(10000ppm Pd、1N HCl)(片山化学製)1mLを、容量10mLの有栓三角フラスコに入れて栓を密閉した。密閉を完全にするために栓と三角フラスコの開口部の接触面にテフロン(登録商標)製のガスボンベ用シール・テープを巻き、さらに有栓三角フラスコの栓が、内部の空気が大気圧より高くなっても抜けないように有栓三角フラスコ全体に太さ1mmの針金を巻き付けて補強した。次に、栓が抜けないように補強した木質カーボンとパラジウム標準液を入れた有栓三角フラスコを110℃の乾燥機内に移し、4時間110℃を保持した。4時間経過後に、乾燥機内から同有栓三角フラスコを回収し、内部の木質カーボン片を50mLビーカーに回収した。次に、イオン交換純水50mLを回収した木質カーボン片に注ぐことで、木質カーボン片表面に付着している余分な塩化パラジウムを洗浄除去した。次に、2つの木質カーボン片の内、Aは、ガラス瓶の中に保管した。残りのもうひとつの木質カーボン片Bをカーボン皿(東海カーボン製グラッシーカーボン)に移し、木質カーボン片Bに0.5N濃度の希塩酸を1滴、滴下した。この希塩酸を滴下した木質カーボン片Bを入れたカーボン皿を、シャーレ上に置いた1N(1規定濃度)の水酸化ナトリウム水溶液0.5mLを吸収させた酸化マンガンIV MnO化学処理品(和光純薬工業製)1.5g上に配置して16日間静置した。静置している間は、カーボン皿上の木質カーボン片Bが乾燥しないように適時0.5N濃度の希塩酸を滴下した。同時に、シャーレ上の二酸化マンガンが乾燥しないように適時1Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下した。また、静置している間、木質カーボン片Bの表面と裏面がカーボン皿表面と同時間だけ接触するように、4日経過毎にピンセットを使って木質カーボン片の表面と裏面をカーボン皿上で反転させた。16日間経過後に、カーボン皿上から回収した木質カーボン片Bと、16日前にガラス瓶の中に保管しておいた木質カーボン片Aをガラスシャーレに移し、乾燥機内で、100℃で2時間乾燥処理した後、走査型電子顕微鏡(日本電子製JSM−5310)で観察した。同装置に装着のエネルギー分散型X線分析装置EDXによる元素マッピングシステム(EDAX製−CDU型)で木質カーボン片表面におけるパラジウムの分布を調べた。その結果、木質カーボン片A表面では、パラジウムが局在しているのに対して、木質カーボン片B表面ではパラジウムの分布が均一であることを確認した(図3)。なお、図3(a)は走査型電子顕微鏡写真であり、図3(b)は同部位の元素マッピングを表した図である。
【0045】
木質カーボン片B表面上に析出したパラジウムの酸化数をX線光電子分析装置XPS(島津製作所製ESCA−3300)で分析したところ、パラジウムが酸化数0価の金属であることを示す3d5/2軌道の電子の結合エネルギーが336.2eVであることを確認した。
【0046】
次に、透過型電子顕微鏡によって木質カーボン片Bを観察するために、木質カーボン片Bから必要量をサンプリングしてガラスシャーレに移し、ガラスシャーレに細孔を空けたアルミホイルでフタをした状態で、乾燥機内に置いて100℃で2時間乾燥した。乾燥後の同サンプルを目の乳鉢で粉砕しエタノールを加えて超音波洗浄器を使って分散させることで、透過電子顕微鏡で観察するためのサンプルを得た。透過型電子顕微鏡(日本電子製透過電子顕微鏡(JEM−ARM1000)で観察した。その結果、同サンプルの表面に10nm以下のサイズのパラジウム金属クラスター群が析出している様子が観察された(図4)。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】実施例2における紫外吸光度分析結果を表した図である。図中、○は塩化金(金として10ppm)を含む原子吸光分析用金標準試薬(1.0mol/L HClベース)、△は金を溶解した希塩酸の吸光度(縦軸)および吸光波長(横軸)をそれぞれ示す。
【図2】実施例25における透過型電子顕微鏡写真を表した図である。
【図3】(a)実施例26における走査型電子顕微鏡写真である。(b)元素マッピングを表した図である。
【図4】実施例26における透過型電子顕微鏡写真を表した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶解反応助剤と金属とを接触させるとともに、この溶解反応助剤および金属に希酸を接触させて該金属を溶解させる金属溶解方法であって、溶解反応助剤は、マンガン、ビスマス、銀およびクロムのうちのいずれかの金属元素の酸素化合物であることを特徴とする金属溶解方法。
【請求項2】
酸素化合物は、MnO2、BiNaO3、Ag2O、KMnO、KCrOまたはNaCrOであることを特徴とする請求項1に記載の金属溶解方法。
【請求項3】
KMnOを溶解反応助剤として白金(Pt)を溶解させることを特徴とする請求項1または2に記載の金属溶解方法。
【請求項4】
溶解反応助剤と金属とを導電性材料を介して接触させることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の金属溶解方法。
【請求項5】
溶解反応助剤と金属とを導電性材料で隔てるようにしてそれぞれ別々に希酸を接触させるようにしたことを特徴とする請求項4に記載の金属溶解方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の金属溶解方法で複数種の金属を希酸中に溶解して混合液とした後、この混合液を乾燥固化して合金とすることを特徴とする合金の製造方法。
【請求項7】
金属が溶解している希酸と、アルカリ性の電解質溶液を接触させた酸化マンガンとを導電性材料を介して電気的に接続させて、希酸中に溶解した金属を導電性材料の表面に析出させることを特徴とする金属の析出方法。
【請求項8】
金属が溶解している希酸は、多孔質の導電性材料に含浸されたものであり、希酸中に溶解した金属を多孔質の導電性材料の表面および多孔質内部の表面に析出させることを特徴とする請求項7に記載の金属の析出方法。
【請求項9】
金属が溶解している希酸の多孔質の導電性材料への含浸は、金属が溶解している希酸とともに多孔質の導電性材料を密閉容器に入れた後、これを加熱することによって多孔質内部に金属が溶解している希酸を圧入したことを特徴とする請求項8に記載の金属の析出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−100211(P2007−100211A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−64630(P2006−64630)
【出願日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【出願人】(505334020)
【Fターム(参考)】