説明

溶銑の脱燐処理方法

【課題】 CaO系の脱燐精錬剤を用いて燐含有量が0.030質量%以下の低濃度の領域まで溶銑を脱燐処理するにあたり、脱燐処理によって生成する脱燐スラグのなかで、CaOの滓化促進剤であるフッ素を含有する脱燐スラグの発生量を少なくする。
【解決手段】 反応容器内に保持された溶銑に、脱燐剤として酸素源を供給するとともに脱燐精錬剤として少なくともCaO含有物質を供給して脱燐処理するにあたり、脱燐処理の前半は、脱燐精錬剤としてCaO含有物質のみを用いて溶銑を脱燐処理し、該脱燐処理によって生成した脱燐スラグを、フッ素を含有しないスラグとして反応容器から排出するとともに回収し、その後の脱燐処理の後半は、脱燐精錬剤としてCaO含有物質及びCaOの滓化促進剤であるCaF2含有物質を用いて前記溶銑を脱燐処理し、該脱燐処理によって生成した脱燐スラグを、フッ素を含有するスラグとして反応容器から排出するとともに回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素源及びCaO含有物を溶銑に供給して脱燐処理する溶銑の脱燐処理方法に関し、詳しくは脱燐反応を阻害することなく、CaO含有物の滓化促進剤として使用するフッ素を含有する脱燐スラグの発生量を少なくするための脱燐処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、鋼材に対する要求品質は益々厳格化しており、燐や硫黄に代表される不純物元素の低減が求められている。このような要求に対応するために、製鋼工程では、溶銑段階において脱燐処理を行うことが一般的となっている。この脱燐処理は、酸素ガス(気体酸素)或いは固体の酸化鉄などの酸素源を脱燐剤として溶銑に供給し、この脱燐剤中の酸素で溶銑中の燐を酸化して酸化物(P25)とし、生成された燐酸化物を脱燐精錬スラグに吸収することで行われている。脱燐精錬スラグを形成するための脱燐精錬剤としては、安価であることから、一般的に、生石灰などのCaO含有物質が使用されている。また、燐を含有する脱燐処理後のスラグは、脱燐スラグと呼ばれている。
【0003】
このような溶銑の脱燐処理において、脱燐処理前の溶銑には0.09〜0.16質量%程度の燐が含有されており、処理後の溶銑中燐濃度を0.010質量%以下の低い領域まで脱燐処理する場合には、脱燐精錬剤としてのCaO含有物質の使用量が必然的に多くなることに加えて、溶銑の燐含有量の低下に伴って脱燐反応効率が低下することから処理時間が長くなり、その結果、一般的に脱燐処理後の溶銑温度が低くなる。CaO系の脱燐精錬剤による燐酸化物の吸収は、CaO含有物質が滓化して脱燐精錬スラグとなることが必要であり、従って、低い燐濃度まで脱燐処理する場合には、温度の低い状態でもCaO含有物質を滓化させるために、滓化促進剤としてホタル石などのCaF2含有物質を併用することが行われていた(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
しかしながら、ホタル石などのCaF2含有物質を滓化促進剤として併用した場合には、必然的にフッ素を含有する脱燐スラグが発生する。フッ素を含有するスラグを路盤材などの土木工事材料としてリサイクル利用すると、スラグからフッ素が溶出して環境がフッ素により汚染される可能性がある。従って、フッ素を含有する脱燐スラグは路盤材などの土木工事材料としてリサイクル利用することはできない。このため、フッ素を含有する脱燐スラグの処置は、有限な管理型処分地などに限られることになり、スラグのリサイクル利用を妨げるとともに、製造コスト上昇の原因となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−280909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、CaO系の脱燐精錬剤を用いて燐含有量が0.030質量%以下の低濃度の領域まで溶銑を脱燐処理するに際し、脱燐処理によって生成する脱燐スラグのなかで、CaOの滓化促進剤であるフッ素を含有する脱燐スラグの発生量を、脱燐反応を阻害することなく、少なくすることのできる、溶銑の脱燐処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための第1の発明に係る溶銑の脱燐処理方法は、反応容器内に保持された溶銑に、脱燐剤として酸素源を供給するとともに脱燐精錬剤として少なくともCaO含有物質を供給して溶銑を脱燐処理するにあたり、脱燐処理の前半は、脱燐精錬剤としてCaO含有物質のみを用いて溶銑を脱燐処理し、該脱燐処理によって生成した脱燐スラグを、フッ素を含有しないスラグとして前記反応容器から排出するとともに回収し、その後の脱燐処理の後半は、脱燐精錬剤としてCaO含有物質及びCaOの滓化促進剤であるCaF2含有物質を用いて前記溶銑を脱燐処理し、該脱燐処理によって生成した脱燐スラグを、フッ素を含有するスラグとして前記反応容器から排出するとともに回収することを特徴とするものである。
【0008】
第2の発明に係る溶銑の脱燐処理方法は、第1の発明において、前記脱燐処理の前半を、溶銑中燐濃度が0.030質量%よりも高い範囲とし、前記脱燐処理の後半を、溶銑中燐濃度が0.030質量%以下の範囲とすることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、燐含有量が0.030質量%以下の低燐溶銑を溶製する際に、脱燐処理の前半は、CaOの滓化促進剤であるCaF2含有物質を使用せずに脱燐処理し、生成するスラグを、フッ素を含有しないスラグとして排出して回収し、脱燐処理の後半のみにCaF2含有物質をCaO含有物質と併用するので、燐濃度の全域で滓化促進剤としてCaF2含有物質を併用していた従来の脱燐処理方法に比較して、フッ素を含有するスラグの発生量を大幅に削減することが達成される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】脱燐処理後の溶銑中燐濃度と、インジェクションランスから吹き込んだ酸化鉄粉及び脱燐精錬剤を加えた原単位との関係を示す図である。
【図2】インジェクションランスから吹き込んだ酸化鉄粉及び脱燐精錬剤を加えた原単位と、処理後の溶銑温度との関係を示す図である。
【図3】処理後の溶銑温度と脱燐精錬スラグの液相率との関係をホタル石粉の添加の有無で比較して示す図である。
【図4】処理後の溶銑中燐濃度の目標を種々変更し、そのときの処理後の溶銑中燐濃度と脱珪外脱燐酸素効率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0012】
溶銑の脱燐処理は、通常、トーピードカーや溶銑鍋などの溶銑搬送容器、或いは転炉などの精錬炉を反応容器として用い、脱燐剤として、酸素ガスなどの気体酸素源及び/または固体の酸化鉄などの固体酸素源を使用し、且つ、脱燐精錬剤として、生石灰などのCaO含有物質を単独で使用する、或いは、CaO含有物質とこのCaO含有物質を滓化するためのCaF2含有物質とを併用して使用し、これらの脱燐剤及び脱燐精錬剤を溶銑に添加し、溶銑中の燐を前記脱燐剤に含有される酸素によって酸化し、生成した燐酸化物(P25)を前記脱燐精錬剤の滓化により形成される脱燐精錬スラグに取り込み、溶銑中の燐を除去するという方法で行われており、本発明に係る溶銑の脱燐処理方法も、この脱燐処理方法に沿って実施する。尚、気体酸素源及固体酸素源は、まとめて酸素源と呼ばれている。
【0013】
但し、本発明に係る溶銑の脱燐処理方法は、脱燐処理後の溶銑の燐濃度を0.030質量%以下の範囲まで低減する場合に適用する。脱燐処理前の溶銑の燐濃度は0.09〜0.16質量%程度であり、この溶銑を燐濃度が0.030質量%を超える範囲内で脱燐処理する場合には、脱燐精錬剤としてCaF2含有物質を併用しなくてもCaO含有物質のみを使用することで、十分に脱燐処理することができるからである。
【0014】
そして、本発明に係る溶銑の脱燐処理方法おいては、脱燐処理の前半は、脱燐精錬剤としてCaF2含有物質を併用せずにCaO含有物質のみを使用し、且つ、脱燐処理の前半で生成したスラグを一旦反応容器から排出させ、一方、脱燐処理の後半は、脱燐精錬剤として、CaO含有物質の滓化を促進させるために、CaO含有物質に加えて、ホタル石などのCaF2含有物質を滓化促進剤として併用する。脱燐処理の前半で生成するスラグは、フッ素を含有しないスラグとして分別回収し、脱燐処理の後半で生成するスラグは、フッ素を含有するスラグとして分別回収する。
【0015】
ここで、脱燐処理の前半とは、溶銑中の燐濃度が0.030質量%を超える範囲とし、且つ、脱燐処理の後半とは、溶銑中の燐濃度が0.030質量%以下の範囲とすることが好ましい。但し、実操業では、溶銑中の燐濃度が0.030質量%である時点を境に、正確に、それより以前を処理前半とし、それ以降を処理後半とすることは、実施しがたく、実操業においては、溶銑中の燐濃度が0.030質量%の近傍(±0.005質量%以内)で処理前半と処理後半とに区別すればよい。
【0016】
溶銑中の燐濃度が0.030質量%近傍となる時期を、脱燐処理の前半と後半との境界にする理由は以下の通りである。即ち、CaO含有物質を脱燐精錬剤として使用して溶銑を脱燐処理する場合には、CaO含有物質が滓化しないと脱燐反応が進行しない。溶銑中の燐濃度が0.030質量%を超える範囲は、処理開始からの経過時間が短いなどの理由により溶銑温度が高く、且つ、溶銑中の珪素の酸化によって生成するSiO2がスラグ中に共存するので、CaF2含有物質を滓化促進剤として使用しなくてもCaO含有物質の滓化が進行するが、溶銑中の燐濃度が0.030質量%以下の範囲は溶銑温度が低下するなどの理由からCaO含有物質の滓化が進まず、滓化促進剤としてCaF2含有物質が必要となるからである。以下に、試験結果に基づき、詳細に説明する。
【0017】
本発明者らは、トーピードカーに収容された溶銑に、脱燐剤としての酸化鉄粉と、脱燐精錬剤としての生石灰粉または生石灰粉とホタル石(CaF2)粉との混合体(ホタル石の配合比率:約2.5質量%)とを、インジェクションランスから吹き込んで溶銑を脱燐処理し、脱燐処理後の溶銑中燐濃度、吹き込み原単位、脱燐効率などを調査した。
【0018】
図1は、脱燐処理後の溶銑中燐濃度と、インジェクションランスから吹き込んだ酸化鉄粉及び脱燐精錬剤を加えた原単位との関係を示す図である。図1からも明らかなように、処理後の溶銑中燐濃度を下げようとすると、それに応じて酸化鉄粉及び脱燐精錬剤を加えた原単位が増加することが分かる。図1では示していないが、生石灰粉のみを脱燐精錬剤として使用し、処理後の溶銑中燐濃度を0.02質量%以下まで脱燐処理する場合には、酸化鉄粉及び脱燐精錬剤の原単位は、ホタル石粉を併用した場合よりも更に高くなる。
【0019】
図2は、インジェクションランスから吹き込んだ酸化鉄粉及び脱燐精錬剤を加えた原単位と処理後の溶銑温度との関係を示す図である。図2からも明らかなように、脱燐精錬剤へのホタル石粉の添加如何に拘わらず、酸化鉄粉及び脱燐精錬剤を加えた原単位が増加するほど、処理後の溶銑温度が低下することが分かる。
【0020】
図3は、処理後の溶銑温度と脱燐精錬スラグの液相率との関係をホタル石粉の添加の有無で比較して示す図である。図3に示すように、ホタル石粉を添加することで、処理後の溶銑温度が1220℃程度であっても60%以上の液相率を確保することができ、一方、ホタル石粉を添加しない場合には、処理後の溶銑温度が1220℃程度になると液相率は23%程度になることがわかる。つまり、処理後の溶銑温度が低下すると、CaO含有物質のみでは脱燐反応が進行しないことが分かる。
【0021】
図4は、処理後の溶銑中燐濃度の目標を種々変更し、そのときの処理後の溶銑中燐濃度と脱珪外脱燐酸素効率との関係を示す図である。尚、脱珪外脱燐酸素効率とは、溶銑中には珪素が含有されており、脱燐処理中に、この珪素も酸化鉄中の酸素と反応して酸化除去されるが、この珪素の酸化に要した酸素を除き、供給した酸素のうちで燐の酸化に費やされた酸素の比率という意味である。図4に示すように、ホタル石粉を併用しない場合であっても、処理後の溶銑中燐濃度が0.03質量%程度以上の範囲では、脱燐酸素効率は10%以上と高く、効率良く脱燐されるが、処理後の溶銑中燐濃度が0.03質量%程度以下の範囲では、処理後の溶銑中燐濃度の低下に伴って脱燐酸素効率が悪化する。つまり、脱燐反応が効率良く行われないことが分かる。これに対して、ホタル石粉を併用すると、処理後の溶銑中燐濃度が0.03質量%以下の範囲であっても、脱燐酸素効率が大幅に改善されることが分かる。
【0022】
即ち、図1〜4に示すように、溶銑中の燐濃度が0.030質量%を超える範囲は、脱燐剤として吹き込まれた酸化鉄の反応効率が10%ないし14%と高いこと、脱燐に必要とする、酸化鉄粉及び脱燐精錬剤を加えた原単位が35kg/t-pigないし60kg/t-pigと少ないことから、処理後の溶銑温度が1260℃ないし1300℃となり、脱燐精錬スラグの液相率が80%ないし90%と高い。このため、滓化促進剤であるCaF2含有物質は本来必要ではなく、従って、CaF2含有物質を添加せずに脱燐処理する。CaF2含有物質を添加しなくとも、脱燐反応は効率的に行われる。尚、「kg/t-pig」は溶銑1トンあたりのkgという意味である。
【0023】
一方、溶銑中の燐濃度が0.030質量%以下の範囲は、脱燐剤として吹き込まれた酸化鉄の反応効率が6%ないし12%と低いこと、脱燐に必要とする、酸化鉄粉及び脱燐精錬剤を加えた原単位が60kg/t-pigないし110kg/t-pigと多いことから、処理後の溶銑温度が1180℃ないし1250℃となり、脱燐精錬スラグの液相率が0%ないし70%と低い。このため、滓化促進剤であるCaF2含有物質を添加して脱燐精錬スラグの融点を低下させ、脱燐精錬スラグの液相率を60%以上確保し、脱燐反応を促進させることが必要である。
【0024】
本発明に係る溶銑の脱燐処理方法おいて、酸素源のうちの気体酸素源は、上吹きランスから溶銑浴面に吹き付けて供給する、或いは、インジェクションランスから溶銑中に吹き込んで供給し、また、固体酸素源は、インジェクションランスから搬送用ガスとともに溶銑中に吹き込んで供給する、上吹きランスから溶銑浴面に搬送用ガスとともに吹き付けて供給する、或いは、溶銑浴面に上置きして供給するものとする。このように、添加方法は種々選択でき、個々の操業形態に応じて最適な方法を採用すればよい。また、酸素源として、気体酸素源のみを使用しても、或いは固体酸素源のみを使用しても、また、気体酸素源と固体酸素源とを併用してもよく、個々の操業形態に応じて適宜決めることができる。
【0025】
本発明で使用する気体酸素源としては、酸素ガス(工業用純酸素を含む)、空気、酸素富化空気、酸素ガスと不活性ガスとの混合ガスなどを使用することができる。通常の脱燐処理の場合には、他のガスを使用した場合に比べて脱燐反応速度が速いことから、酸素ガスを使用することが好ましい。
【0026】
また、本発明で使用する固体酸素源としては、鉄鉱石の焼結鉱、ミルスケール、ダスト(集塵ダスト)、砂鉄、鉄鉱石などを使用することができる。集塵ダストとは、高炉、転炉、焼結工程において排気ガスから回収される、酸化鉄分を含むダストである。インジェクション添加または吹き付け添加する場合には、固体酸素源の溶融化を促進させる観点から、固体酸素源は粒径1mm以下の粉粒体であることが好ましい。粒径が1mmを超えるものは、迅速な溶融が困難であり、スラグのFeO成分の上昇が得られにくい。ここで、粒径が1mm以下とは、目開き寸法が1mmの篩分器を通過するという意味であり、目開き寸法が1mmの篩分器を通過する限り、長径が1mmを超える紡錘形であっても構わない。尚、取扱いの観点から、粒径は1μm以上が好ましい。
【0027】
本発明において、脱燐精錬剤として使用するCaO含有物質は、ホッパー・シュートなどから溶銑浴面に上置き添加してもよく、また、インジェクションランスから搬送ガスとともに溶銑中に吹き込み添加してもよい。また更に、上吹きランスから搬送ガスとともに溶銑浴面に向けて吹き付け添加してもよい。酸素源の供給と同様に、個々の操業形態に応じて決めればよい。インジェクション添加または吹き付け添加する場合には、CaO含有物質の滓化を促進させる観点から、粒径1mm以下の粉粒体とすることが好ましい。
【0028】
本発明で使用するCaO含有物質とは、CaOを含有し、本件の意図する脱燐処理ができるものであれば、特にCaOの含有量に制約はない。通常は、CaO単独からなるものや、またはCaOを50質量%以上含有し、必要に応じてその他の成分を含有するものである。その他の成分としては一般に滓化促進剤が挙げられる。滓化促進剤としては、特に、CaOの融点を下げて滓化を促進させる作用のある酸化チタンや酸化アルミニウムを含有する物質が挙げられ、これらを使用することが好ましい。中でもスラグ粘度の観点からは酸化チタンの添加が好ましい。CaF2含有物質も優れた滓化促進剤であるが、本発明ではCaF2含有物質をCaO含有物質と区分して使用するので、本発明におけるCaO含有物質は、CaF2含有物質を含有しないものとする。
【0029】
本発明で使用するCaO含有物質の具体例としては、安価でしかも脱燐能に優れることから生石灰または石灰石を使用することが好ましい。また、軽焼ドロマイトや脱燐処理後の溶銑を次工程の転炉で脱炭精錬した際に発生するスラグ(「脱炭滓」ともいう)を、CaO含有物質として使用することもできる。脱炭滓はCaOを主成分としており、しかも燐含有量が少ないことから、CaO系の脱燐精錬剤として十分に利用することができる。
【0030】
CaF2含有物質の代表的なものはホタル石であり、本発明においてもホタル石をCaF2含有物質として使用する。CaO含有物質を迅速に滓化させるにはCaF2含有物質をCaO含有物質の近傍に添加することが望ましく、従って、CaO含有物質をインジェクション添加または吹き付け添加する場合には、CaF2含有物質もCaO含有物質と同様に、インジェクション添加または吹き付け添加することが好ましい。この場合には、CaF2含有物質も粒径1mm以下の粉粒体とすることが好ましい。
【0031】
尚、脱燐精錬スラグとしては、スラグ中のFeO濃度が10質量%以上50質量%以下の範囲が好適であるので、スラグ中のFeO濃度がこの範囲を維持できるように、固体酸素源の供給量を調整することが好ましい。より好ましい範囲は10質量%以上30質量%以下である。
【0032】
脱燐処理の前半及び後半で形成される脱燐スラグを分別して回収するには、例えば、反応容器としてトーピードカーを用いた場合には、トーピードカーの側面にスラグポットなどを配置し、脱燐処理の前半が終了したなら、トーピードカーの炉体を傾転させ、炉体に設けられた炉口から脱燐スラグをスラグポットに排出し、一方、脱燐処理の後半が終了したなら、別のスラグポットに排出するようにすればよい。また、トーピードカーから排出される脱燐スラグを受けるためのスラグピットを別々に二箇所設け、それぞれのスラグピットに分別して排出するようにしてもよい。
【0033】
反応容器として転炉を用いた場合には、脱燐処理の前半が終了したなら、転炉を傾転させ、転炉の炉口からフッ素を含有しないスラグとしてスラグポットに排出し、一方、脱燐処理の後半が終了したなら、別のスラグポットにフッ素を含有するスラグとして排出するようにすればよい。
【0034】
このようにして溶銑の脱燐処理を行うことにより、フッ素を含有する脱燐スラグは脱燐処理の後半に発生するのみであり、脱燐処理の全域で滓化促進剤としてCaF2含有物質を併用していた従来の脱燐処理方法に比較して、フッ素を含有するスラグの発生量を大幅に削減することが可能となる。
【実施例1】
【0035】
シームレスパイプ用のステンレス鋼(製品燐濃度:0.020質量%以下)を溶製する際に必要となる低燐溶銑(脱燐処理後の溶銑中燐濃度:0.010質量%以下)を溶製する際に、本発明を適用した。
【0036】
具体的には、高炉から出銑された溶銑をトーピードカーで受銑し、受銑後、トーピードカー内の溶銑に生石灰粉のガス吹き込みによる脱硫処理を実施し、生成した脱硫スラグを排出し、その後、トーピードカー内の溶銑に、インジェクションランスを介して酸化鉄及び脱硫精錬剤を吹き込み、脱燐処理(本発明例)を実施した。その際に、溶銑中の燐濃度が約0.030質量%になるまでは、脱燐精錬剤として生石灰粉のみを吹き込んで脱燐処理を実施し、生成した脱燐スラグは、フッ素を含有しないスラグとしてトーピードカーからスラグポットに排出して回収した。更に、この脱燐スラグの排出後、脱燐精錬剤として生石灰粉とホタル石粉との混合体(CaF2配合量:2.5質量%)を酸化鉄とともにインジェクションランスを介して溶銑中に吹き込み、溶銑の脱燐処理を継続した。溶銑の燐濃度が0.010質量%以下となった時点でインジェクションランスからの吹込みを停止し、脱燐処理を終了した。生成したスラグをトーピードカーから別のスラグポットに排出し、フッ素を含むスラグとして分別回収した。
【0037】
また、比較のために、脱燐処理の最初から最後まで、生石灰粉とホタル石粉との混合体(CaF2配合量:2.5質量%)を脱燐精錬剤として、インジェクションランスを介して酸化鉄とともに溶銑に吹き込んで行う脱燐処理(従来例)も実施した。生成した脱燐スラグは、全量フッ素を含むスラグとして分別回収した。
【0038】
表1に、本発明例及び従来例における脱燐処理前の溶銑の化学成分、溶銑温度、溶銑温度、酸化鉄及び脱燐精錬剤(表1では酸化鉄及び脱燐精錬剤を合わせて「フラックス」として表示)の添加量、及び、脱燐処理におけるフッ素含有スラグの発生量を示す。
【0039】
【表1】

【0040】
表1に示すように、本発明により、酸化鉄及び脱燐精錬剤の添加量を増加することなく、溶銑の脱燐処理におけるフッ素含有スラグの発生量を、従来の41kg/t-pigから9.5kg/t-pigへと大幅に削減することが可能となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応容器内に保持された溶銑に、脱燐剤として酸素源を供給するとともに脱燐精錬剤として少なくともCaO含有物質を供給して溶銑を脱燐処理するにあたり、脱燐処理の前半は、脱燐精錬剤としてCaO含有物質のみを用いて溶銑を脱燐処理し、該脱燐処理によって生成した脱燐スラグを、フッ素を含有しないスラグとして前記反応容器から排出するとともに回収し、その後の脱燐処理の後半は、脱燐精錬剤としてCaO含有物質及びCaOの滓化促進剤であるCaF2含有物質を用いて前記溶銑を脱燐処理し、該脱燐処理によって生成した脱燐スラグを、フッ素を含有するスラグとして前記反応容器から排出するとともに回収することを特徴とする、溶銑の脱燐処理方法。
【請求項2】
前記脱燐処理の前半を、溶銑中燐濃度が0.030質量%よりも高い範囲とし、前記脱燐処理の後半を、溶銑中燐濃度が0.030質量%以下の範囲とすることを特徴とする、請求項1に記載の溶銑の脱燐処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−255054(P2010−255054A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−107257(P2009−107257)
【出願日】平成21年4月27日(2009.4.27)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】