説明

溶銑の脱燐処理方法

【課題】蛍石等のCaF源の使用を制限し、Al源も積極的には使わずに溶銑脱燐処理を高能率で行い、かつ、低膨張スラグを安定して得ることができる脱燐処理方法を提供する。
【解決手段】上底吹き機能を有する精錬炉において粉状CaO源と塊状CaO源とを用い、上吹きランスから溶銑1トン当たり1.6〜2.1Nm/minの酸素ガスと共に粉状CaO源を溶銑に吹き付けて溶銑を脱燐処理する。その粉状CaO比率は20〜40%とし、Al源を積極的に添加することなく蛍石等のCaF源使用を溶銑1トン当たり0.8kg以下に制限して、脱燐処理後のスラグ塩基度を1.9〜2.2に調整する。それと共に、前記した上吹き酸素の供給中には、その上吹き酸素の供給開始から全上吹き酸素供給時間の10%が経過した時点以降、その全上吹き酸素供給時間の90%が経過する時点までは、その精錬炉内の雰囲気圧力を15〜35Paに制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶銑脱燐吹錬において発生するスラグ中の未溶解CaO濃度を減少させ、そのスラグの水浸膨張比を抑制する、溶銑の脱燐処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶銑の脱珪、脱燐、脱炭をすべて同一の転炉内で同時に行う転炉製鋼法に替わり、脱炭に先立って溶銑の脱珪・脱燐を脱炭とは別の容器で行う溶銑脱燐処理方法が用いられるようになった。この溶銑脱燐処理においては精錬剤としてCaO源を添加し、スラグ中のCaOとSiOとの質量濃度比(以下、塩基度と記載する。)を高めることによりPをそのスラグに除去する、スラグ精錬が行われている。
【0003】
一般に、スラグの脱燐能力は塩基度が高く脱燐処理温度が低いほど大きいが、塩基度を高めるためにCaO源を大量に添加すると、その一部はスラグに溶融できず未溶解のままで処理後スラグに残留する。この未溶解のCaOはスラグ冷却後、水和反応等により膨張するため、スラグを路盤材等に利用するには大きな妨げとなるので減少させなければならない。しかし、その減少策として蛍石等のCaF源を利用することは、土壌環境基準等の地球環境保護の観点から近年制限されている。
【0004】
CaF源を用いずに未溶解のCaOを減少させる溶銑脱燐方法としては、以下の方法が知られている。特許文献1には、投入する酸化カルシウム総量の40%以上(本明細書では特に断りがない限り、濃度または化学成分に関する「%」は「質量%」を意味する)の酸化カルシウム粉を酸素と共に溶銑に吹付け、投入塩基度を1.5〜2.5となるように、さらにスラグ中のAl濃度を5%以上とすることで、滓化率が高く未反応のCaOが少ない脱燐方法が開示されている。しかしながら、この場合、脱燐剤としての酸化カルシウム総量に対する酸化カルシウム粉の割合の規定はあるものの、路盤材としての有効利用が可能か否かの、例えば、水浸膨張比や未溶解CaO濃度(%f.CaO)の管理数値等に関し具体的な提示はない。
【0005】
また、特許文献2には、上底吹き機能を有する精錬炉を用いた溶銑脱燐処理において、石灰と酸素及び/又は酸化鉄の量を調整して、スラグ塩基度を0.8〜1.8、スラグ中T・Feを8〜19%とし、10mm以上の塊状石灰源の原単位を10kg/t以下とすることによって蛍石に代表されるハロゲン化物を用いること無しに、添加した石灰を完全に溶融させるとともに耐火物溶損も少ない脱燐精錬を実施することを可能とする、未滓化石灰が少ない溶銑脱燐方法が開示され、特許文献3には、使用する生石灰の75%以上を粉状とし、スラグ塩基度を2.3〜3.5かつAl含有率5〜10%に制御することで、路盤材化可能なスラグの製造方法が開示されている。
【0006】
特許文献3に開示された発明は、特許文献2に開示された発明の塩基度が0.8〜1.8と低いため、添加する酸化鉄が少ない場合の脱燐不良やスラグ量が多い場合の操業障害(スロッピングの発生)を克服するために発明されたものであるが、反面、塩基度を高めたことによる生石灰使用量増加やAl源の添加が必要になる。また、スラグ中のAl含有率を高めたことでスロッピングが発生しやすくなり、別に対策が必要になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−73112号公報
【特許文献2】特開2002−105526号公報
【特許文献3】特開2009−114494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の諸問題に鑑みてなされたものであり、その課題は、蛍石等のCaF源の使用を制限しAl源も積極的には使わずに溶銑脱燐処理を高能率で行い、かつ、低膨張スラグを安定して得ることができる脱燐処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、上底吹き機能を有する精錬炉において、粒径0.15mm以下の粉状CaO源と粒径5〜50mmの塊状CaO源とを用い、上吹きランスから溶銑1トン当たり1.6〜2.1Nm/minの酸素ガスと共に粉状CaO源を溶銑に吹き付けて溶銑を脱燐処理する。その粉状CaO比率は20〜40%という低い比率とし、Al源を積極的に添加することなく蛍石等のCaF源使用を溶銑1トン当たり0.8kg以下に制限して、脱燐処理後のスラグ塩基度を1.9〜2.2に調整する。それと共に、前記した上吹き酸素の供給中には、その上吹き酸素の供給開始から全上吹き酸素供給時間の10%が経過した時点以降、その全上吹き酸素供給時間の90%が経過する時点までは、その精錬炉内の雰囲気圧力を15〜35Paに制御することを特徴としている。
【0010】
なお、粉状CaO比率とは、前記粉状CaO源で供給するCaO質量と前記塊状CaO源で供給するCaO質量との合計に対する、前記粉状CaO源で供給するCaO質量の比率である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、酸素供給時間4〜7分間という高能率の脱燐処理でも脱燐処理後の溶銑中P濃度を安定して0.020%以下にすることができ、しかも、脱燐処理後のスラグ単体での水浸膨張比を0.50%以下にすることができる。したがって、脱燐処理後のスラグを、例えば高炉スラグ等と混合して製造する複合路盤材の原料として、安定して使用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明を実施するための、上底吹き機能を有する精錬炉の一例を示す説明図である。
【図2】粉状CaO比率を15%、20%、25%、30%とした各条件において、炉内雰囲気圧力が脱燐処理後の溶銑P濃度低減に及ぼす効果を調査した結果を示すグラフである。
【図3】図2に示した調査において、その調査条件とした粉状CaO比率及び炉内雰囲気圧力のまま脱燐処理を継続して、安定操業に支障を生じると感じられるレベルのスロッピングが発生した比率を、調査した炉内雰囲気圧力別に示すグラフである。
【図4】図2に示した調査において、炉内雰囲気圧力と脱燐処理後のスラグ中未溶解CaO濃度(%f.CaO)との関係を表すグラフである。
【図5】溶銑脱燐処理後のスラグ中未溶解CaO濃度(%f.CaO)とその水浸膨張比との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明を、添付図面を参照しながら説明する。
これまで、効率的な脱燐処理を推進し、その副産物である脱燐スラグの水浸膨張を抑制するために、粉状CaOの利用やその使用比率の向上とか、Al源の添加などにより未溶解のCaO量を低減させ、脱燐処理後スラグの膨張抑制を図ってきた。しかしながら、粉体生石灰使用量の増加は経済的ではなく、また、スラグ中のAl含有率制御によりスラグの融点を低下させ脱燐を向上させることは可能であるものの、脱燐処理を高能率で行うためにはスロッピング発生の問題を別途解決する必要があった。
【0014】
よって、本発明の課題は、CaF源の使用を土壌環境基準等の地球環境保護の観点に照らして許容される範囲に制限した上でAl源を使わず、かつ、粉状CaO源の使用量を低減しても脱燐処理効率の低下を引き起こさず、上吹き酸素吹付け時間が4〜7分間で、その脱燐処理後の溶銑中P濃度が0.020%以下を達成することができ、しかも脱燐処理後スラグの水浸膨張を抑制することができる溶銑脱燐処理方法を確立することである。
【0015】
脱燐反応を促進するための基本的条件としては、スラグの塩基度と酸化力を高くすることが有利であると知られている。但し、スラグの塩基度を高くするとCaOの溶融滓化が進み難くなり、脱燐処理後の未溶解CaOの残留率が高くなる。そのCaOの溶融滓化を促進するためには粉状CaO比率を高めることが効果があると分かっているが、粉状CaO使用量を増やすと脱燐剤コストが上昇する上に、高速脱燐処理ではスピッティングが増加するという、別の課題が生じてくる。
【0016】
本発明では、脱燐処理を高能率化して上吹き酸素の供給時間を4〜7分間で実施するために、上吹き酸素の供給速度を溶銑1トン当たり1.6〜2.1Nm/minとするので、このような高速処理においては、CaOの溶融滓化促進効果と脱燐剤コスト低減及びスピッティング防止の必要性とを勘案して、粉状CaO比率を適切に設定する必要がある。
【0017】
そこで、先ず脱燐処理後のスラグ塩基度を1.9〜2.2の範囲とする。スラグ塩基度が2.2を超える条件では粉状CaO比率を高くしないと供給CaOの滓化率を高めることが困難と予測できるし、一方、スラグ塩基度が1.9未満ではスラグの脱燐能力が不足して、処理後の溶銑中P濃度を0.020%以下に安定して低減することが難しいと考えるからである。
【0018】
ところで、スラグの酸化力を高くすると脱燐反応は一般に促進されると知られているが、溶銑脱燐処理条件においてはその酸化力を表すための適切な尺度が確立されていない。溶銑脱燐処理ではスラグの酸素ポテンシャルと溶銑の酸素ポテンシャルとの差が甚だしい上に、スラグが激しくフォーミングしているので、スラグの酸化力の一般的な指標であるスラグ中酸化鉄濃度を尺度としても、その尺度によって処理後溶銑中P濃度の低下との関係を定量的に評価することが困難なのである。また、スラグ中の酸化鉄濃度を上吹き酸素の供給中に知ることは実際難しいし、激しいフォーミング下で不均一かつ非平衡も甚だしい中なので、スラグの酸素ポテンシャルを部分的に測定できたとしてもその値は溶銑脱燐反応全体におけるスラグの酸化力に関し、代表性に欠けていると考えられる。
【0019】
そこで、溶銑脱燐反応全体に関するスラグの酸化力を評価するために、スラグのフォーミング状況に着目した。スラグのフォーミング状況は、一定範囲の温度およびスラグ組成であればスラグの酸化力と相関関係があると考えられ、そのスラグのフォーミング状況は溶銑脱燐処理中の精錬炉内雰囲気圧力と関係があると考えたからである。
【0020】
そこで、前記した課題を解決するために、粉状CaO比率を40%以下という低目の条件にして、炉内雰囲気圧力と溶銑脱燐反応との関係を調査検討した。
脱燐処理前成分としては、C:4.2〜4.9%、Si:0.20〜0.60%、P:0.065〜0.090%で、脱燐処理前温度が1200〜1380℃の溶銑80トンを図1に示す上底吹き転炉へ装入し、脱燐処理を実施した。図1における符号1は転炉であり、符号2は溶銑であり、符号3は上吹きランスであり、符号4は底吹き羽口であり、符号5は窒素ガスホルダーであり、符号6は炭酸ガスホルダーであり、符号7は酸素ガスホルダーであり、符号8は粉状生石灰タンクであり、さらに、符号9は炉上ホッパーである。
【0021】
脱燐処理条件としては、上吹き酸素流量は溶銑1トン当たり1.6〜2.1Nm/minで、その酸素供給時間を7分以内(4〜7分間)とし、底吹き流量は溶銑1トン当たり0.1〜0.5Nm/minとして、処理後の溶銑成分をC:3.6〜4.0%、P:0.020%以下、処理後溶銑温度を1270〜1350℃とすることを目標とした。
【0022】
CaO源には粒径0.15mm以下の粉状CaO源と粒径5〜50mmの塊状CaO源とを併用し、脱燐処理後スラグの塩基度が1.9〜2.2になるように炉内へ供給した。塊状CaO源の供給時期は、上吹き酸素の供給開始前後であって、遅くとも上吹き酸素の供給開始から全酸素供給時間の15%が経過するまでに全部の供給を完了するようにした。粉状CaO源は、酸素供給時間がその供給開始から全酸素供給時間の約30%が経過した時点から前記した上吹き酸素と共に溶銑へ向けて吹き付け始め、処理後のスラグ塩基度を1.9〜2.2にするために必要な量を吹き付けて処理後の塩基度を調整した。
【0023】
ここで、粉状CaO源には生石灰を粉砕したものを通常用いるが、CaO含有濃度が80%以上とすれば、石灰石や転炉スラグ等のCaO含有物質を粉砕したものを混合したものでもよい。塊状CaO源にも生石灰を通常用いるが、生石灰と石灰石やドロマイト並びに転炉スラグ等のCaO含有物質とを併用して、塊状CaO源全体としてのCaO含有濃度が80%以上とすれば、生石灰以外のCaO含有物質を併用してもよい。
【0024】
粉状CaO源の粒度としては、粉状CaO源自体の滓化性と粉状CaO源を気送する配管摩耗防止の観点から、最大粒径が0.15mm以下にすることを採用した。また、基本的には、粉状および塊状CaO源に含まれているCaFやAl成分以外にはCaF源やAl源を使用せず、粉状CaO比率を20〜40%として、脱燐処理後の溶銑中P濃度、スラグの膨張特性及び操業性を調査した。但し、一部では蛍石の使用量を溶銑1トン当たり0.8kg以下に制限して用い、同様な調査を行った。蛍石の使用は、この使用量以下であれば土壌環境基準等の地球環境保護に関する要請を満たして、スラグを路盤材等に利用することが可能だからである。
【0025】
炉内雰囲気圧力は、同一処理チャージ内で酸素供給開始から全酸素供給時間の10%が経過した後、その全酸素供給時間の95%が経過するまでの間は一定圧力に制御し、95%経過以降酸素供給終了までの間は全て大気圧とした。
【0026】
その結果を、以下に説明する。
まず、図2にグラフで示すように、粉体CaO比率15%、20%、25%、35%の4条件において、炉内雰囲気圧力を終始大気圧(0Pa)で脱燐処理を行った結果、脱燐処理後の溶銑P濃度が0.033〜0.041%と、満足する脱燐処理結果を得ることができなかった。
【0027】
そこで、炉内雰囲気圧力を徐々に上昇させていくと、図2に示すように炉内圧力上昇に伴って脱燐処理後の溶銑P濃度が低下していく傾向があることを見出した。但し、粉状CaO比率が15%の条件では炉内雰囲気圧力を25Pa以上にしないと処理後の溶銑中P濃度を0.020%以下に低減できず、その他の粉状CaO比率を20%〜35%とした条件では炉内雰囲気圧力を15Pa以上にすれば処理後の溶銑中P濃度を0.020%以下に低減できたことと比べて、脱燐能力面で少し差があった。これらの結果から、脱燐処理後の溶銑P濃度を0.020%以下とするためには、粉状CaO比率20〜40%の条件において炉内雰囲気圧力を15Pa以上とするか、または粉状CaO比率が15%の条件でも炉内雰囲気圧力を25Pa以上とすればよいことがわかった。
【0028】
しかしながら、図3にグラフで示すように炉内圧力を高めていくとスロッピング発生も多くなり、炉内圧力が40Paでは調査した処理チャージの約20%において、そのままの条件では脱燐処理継続が望ましくないと感じられるレベルのスロッピングが発生し、操業障害が格段に大きくなった。したがって、調査した粉体CaO比率15%、20%、25%、35%の条件において、安定した脱燐処理を継続するためには、炉内雰囲気圧力は35Pa以下の範囲で制御する必要があるとわかった。
【0029】
次に、これらの処理後のスラグの分析を行った結果、図4にグラフで示すように炉内圧力の上昇とともに未溶解CaOの質量濃度すなわち(%f.CaO)が低減していることがわかった。ここで、Al源を積極的には添加していないため、スラグ中のAl質量濃度は全て2%以下であったことを確認した。
【0030】
また、脱燐処理後スラグ中の未溶解CaOの質量濃度、すなわち(%f.CaO)と水浸膨張比の関係について調査した結果を図5にグラフで示す。ここでの(%f.CaO)と水浸膨張比の結果は、滓鍋に排滓されたスラグをスラグ処理場にてサンプリングして調査を行った結果である。具体的には脱燐処理後のスラグを滓鍋に排出し、そこに入ったままの状態で水冷し、約4時間経過後に滓鍋の外側を素手で触れるほどに冷却された状態で滓鍋からスラグ処理場へ排出したものを、サンプルとして採取した。採取対象としたスラグは緻密な塊の状態としては存在せず、比較的多孔質でスラグ内部まで十分に水冷されている状態になっていた。
【0031】
スラグの水浸膨張試験は、上記したようにスラグサンプリングした後、0〜25mmの大きさに調整し、300mm×400mmのバットへ10kg敷き詰めて、蒸気エージング処理を蒸気圧力0.15MPaで48時間実施した後に、JISA5015に従って行った。脱燐処理後のスラグを高炉スラグ等と混ぜて複合路盤材等として安定的に使用するためには、脱燐処理後スラグ単体としての水浸膨張比を0.50%以下にしておく必要があるところ、図5のグラフからその0.50%以下の水浸膨張比を得るためには、(%f.CaO)を3%以下にしておく必要があると分かった。
【0032】
図4のグラフにおいて、(%f.CaO)を3%以下にするためには、粉状CaO比率が20〜40%の条件であれば、炉内雰囲気圧力を15〜35Paとする前記した安定した脱燐を継続するための条件を兼ね備えさせれば良いと分かる。しかし、粉状CaO比率が15%の条件では、炉内雰囲気圧力35Pa以下では(%f.CaO)を3%以下にすることができていない。したがって、本発明の目的を安定して達成するためには、粉状CaO比率が20〜40%の条件において、炉内雰囲気圧力を15〜35Paに制御する必要があると分かった。この炉内雰囲気圧力の制御範囲は、スロッピング防止をより重視する場合には15〜30Paの範囲とすることが好ましい。
【実施例】
【0033】
本発明の実施例について、比較例と共に説明する。実施例、比較例ともに、脱燐処理前の濃度がC:4.2〜4.9%、Si:0.20〜0.60%、P:0.065〜0.090%で、脱燐処理前温度が1200〜1380℃の溶銑約80トンを図1に示した上底吹き転炉に装入して、脱燐処理を実施した。
【0034】
脱燐処理条件としては、いずれも上吹き酸素流量が溶銑トン当たり1.6〜2.1Nm/minで、その供給時間を7分間以内(4〜7分間)とし、底吹き流量は溶銑トン当たり0.1〜0.5Nm/minとした。
【0035】
CaO源には塊状および粉状の生石灰を用い、CaF源として蛍石使用量を0.8kg/t以下に制限し、Al源は一切用いなかった。粉状CaO比率は20〜40%として、塊状生石灰は上吹き酸素の供給開始後20秒間が経過するまでに転炉内への投入を完了し、粉状生石灰は上吹き酸素の供給開始から全酸素供給時間の約30%が経過した時点で上吹き酸素と共に溶銑へ向けて吹き付けを始め、脱燐処理後のスラグ塩基度を1.9〜2.2にするのに必要な所要量を吹き付けて、スラグ組成を調整した。
【0036】
炉内雰囲気圧力は、上吹き酸素の供給開始後、全酸素供給時間の10%が経過した時点から全酸素供給時間の95%が経過するまでの間、同一処理チャージ内では同一の圧力で制御した。ここで、粉状生石灰の粒度としては、滓化性と粉状生石灰による配管の摩耗防止の観点から粒径0.15mm以下を採用し、粉状生石灰以外のCaO源としては粒径5〜50mmの塊状生石灰を使用した。
【0037】
表1に、脱燐処理条件と脱燐処理結果及びスラグ調査結果の一覧を示す。ここでの(%f.CaO)と水浸膨張比のデータは、前記した図5に関して説明した通りの方法で得たものである。
【0038】
【表1】

【0039】
試験No.1〜9は、本発明で規定する上吹き酸素流量において、粉状CaO比率、蛍石及びAl源使用量、処理後のスラグ塩基度、炉内圧力制御の諸条件を全て満足する発明実施例であり、試験No.10〜17は、本発明で規定する粉状CaO比率、炉内圧力制御の条件の少なくとも1つを外して脱燐処理した比較例である。
【0040】
まず、試験No.1〜9では、処理後の溶銑中P濃度は全て0.020%以下であり、処理後スラグの(%f.CaO)は3%以下であって、そのスラグの水浸膨張比は0.50%以下であることが確認された。試験No.1ではスロッピングが部分的に発生したが、安定操業継続には支障が無いと感じられるレベルであった。なお、蛍石の使用有無の影響は、この調査に関わる範囲では特に認められなかった。
【0041】
一方、試験No.10と11は、粉状CaO比率を20%未満とした比較例である。試験No.10は、炉内圧力を30Paとして制御した結果、脱燐処理後の溶銑P濃度が0.020%以下となったが、炉内圧力を30Paと高くしてもスラグ中(%f.CaO)は3.1%までしか低減できておらず、そのスラグの水浸膨張比は0.60%と高い結果であった。また、試験No.11は、炉内圧力を15Paと低目に制御したため、試験No.10よりも溶銑の低燐化は図れず、スラグの(%f.CaO)が高くて水浸膨張比を0.50%以下にすることができなかった。つまり、炉内圧力を高めに制御した方が溶銑の低燐化とスラグの水浸膨張比低減を図ることができるものの、粉状CaO比率が20%未満と低すぎる条件では所期の目的を達成することができないことを示している。
【0042】
試験No.12と13は、炉内圧力を15Pa未満とした比較例である。この処理条件で粉状CaO比率を本発明に係る範囲内にした場合、脱燐処理後の溶銑P濃度はそれぞれ0.024%、0.023%と脱燐処理後のP濃度を0.020%以下にする基本目的を達成することができず、スラグの水浸膨張比もそれぞれ1.02%、0.80%と、0.50%以下にする目標を達成することができなかった。即ち、炉内圧力を15Pa以上に高めない場合には、粉状CaO比率を38%や30%とした程度の条件ではCaOを十分に滓化することができず、脱燐処理後の溶銑P濃度の低減や処理後スラグの水浸膨張比の低減ができなかったものと解される。
【0043】
一方、試験No.14と15は、炉内圧力をそれぞれ40Pa、45Paと高く制御し、試験No.16と17は、試験No.14、15と同様に炉内圧力を高く制御した上で粉状CaO比率を20%未満として脱燐処理した比較例である。炉内圧力を高めることは、脱燐処理後の溶銑P濃度の低減やスラグの水浸膨張比の低減に有効であり、実際に、試験14〜17ではそれらに関する目標を達成することができた。しかし、炉内圧力を高めたことでスロッピングが激しくなり、安心して操業を継続するには問題があると感じられる状況になったため、適切な脱燐処理条件ということはできない。
【0044】
特に、試験No.16と17では粉状CaO比率を20%未満と、試験No.14、15に比べて低くした条件であっても、炉内圧力はそれぞれ45Pa、40Paと試験No.14、15同様に高く制御したために、脱燐処理後の溶銑P濃度やスラグの水浸膨張比の低減目標は達成することができていた。しかし、スロッピングが激しく発生するので適切な脱燐処理条件とすることができないことが再確認された。
【符号の説明】
【0045】
1 転炉
2 溶銑
3 上吹きランス
4 底吹き羽口
5 窒素ガスホルダー
6 炭酸ガスホルダー
7 酸素ガスホルダー
8 粉状生石灰タンク
9 炉上ホッパー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上底吹き機能を有する精錬炉において、粒径0.15mm以下の粉状CaO源と粒径5〜50mmの塊状CaO源とを用い、上吹きランスから溶銑1トン当たり1.6〜2.1Nm/minの酸素ガスと共に粉状CaO源を溶銑に吹き付けて溶銑を脱燐処理する、溶銑の脱燐処理方法であって、
下記(1)式で表す粉状CaO比率を20〜40%とし、Al源を積極的に添加することなく蛍石使用を溶銑1トン当たり0.8kg以下に制限して、脱燐処理後のスラグ中CaO質量%とSiO質量%との比(CaO質量%/SiO質量%)を1.9〜2.2に調整し、
かつ、上吹き酸素の供給開始から全上吹き酸素供給時間の10%経過後、その全上吹き酸素供給時間の90%が経過するまで、前記精錬炉内の雰囲気圧力を15〜35Paに調整することを特徴とする、溶銑の脱燐処理方法。
粉状CaO比率(%)=(粉状CaO源で供給するCaO質量)/(粉状CaO源で供給するCaO質量+塊状CaO源で供給するCaO質量)×100 ・・・・・(1)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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