説明

溶銑の脱燐処理方法

【課題】 脱燐反応を阻害することなく且つ脱燐処理能力を低下させることなく、炭素源の添加によって溶銑の脱炭を抑制しながら溶銑の予備脱燐処理を行う。
【解決手段】 精錬容器2に収容された溶銑15の浴面に向けて上吹きランス3を介して酸素ガスを吹き付けるとともに、溶銑浴面の酸素ガスの吹き付け面に向けてCaO系脱燐用媒溶剤17を吹き付けて溶銑を予備脱燐処理する際に、前記精錬容器内に、バイオマス由来の、灰分含有量が9質量%以下である炭素源21を添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転炉型精錬容器などの精錬容器に収容された溶銑に脱燐処理を施す方法に関し、詳しくは、灰分の含有量が9質量%以下であるバイオマス由来の炭素源を脱燐処理中の溶銑に添加し、溶銑の脱炭を抑制しながら行う溶銑の脱燐処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、溶銑段階で予め脱燐処理(「予備脱燐処理」ともいう)を実施し、溶銑中の燐を或る程度除去した後、この溶銑を転炉に装入して転炉で脱炭精錬を実施する製鋼方法が発展してきた。この場合、溶銑の脱燐処理は、トーピードカーや溶銑鍋などの溶銑保持容器或いは転炉などの精錬炉を精錬容器として用い、CaO系脱燐用媒溶剤と酸素ガス及び固体の酸化鉄などの酸素源とを溶銑に添加して、溶銑中の燐を酸素源によって酸化し、酸化反応で生成した燐酸化物(P25)をCaO系脱燐用媒溶剤の滓化によって形成されるスラグ中に取り込み、溶銑中の燐を除去するという方法で行われている。
【0003】
このように、CaO系脱燐用媒溶剤を用いた溶銑の脱燐処理では、溶銑を酸素源によって酸化精錬するので、溶銑中の炭素が酸化されて減少する所謂脱炭反応が脱燐反応と併行して起こる。溶銑中の炭素の酸化熱は、例えば、後工程の転炉精錬の熱源として鉄スクラップやMn鉱石の溶解に利用されており、従って、溶銑の脱燐処理における脱炭反応の進行は、次工程以降における熱不足をもたらすことになる。
【0004】
この熱不足を補償する手段として、脱燐処理中に溶銑中にコークスなどの炭素源を添加し、溶銑中の炭素を補う方法或いは炭素源の燃焼熱を溶銑に着熱させる方法が多数提案されている。例えば、特許文献1には、脱燐処理中に溶銑に炭素源を吹き込み、溶銑中の炭素量を飽和濃度以上とすることによって共存するスラグ中に炭素を析出させ、このスラグ中に酸素源を吹き込んで析出した炭素を燃焼させ、熱的余裕度を向上させる脱燐処理方法が提案されている。しかしながら、この方法では、スラグ中に析出する炭素源をスラグ中に吹き込む酸素源によって燃焼しており、そのため、析出した炭素源を十分に燃焼できない場合には、スラグ中に炭素源が残留し、スラグ中のFeOがこの炭素源によって還元され、スラグの酸素ポテンシャルが低下して脱燐反応を阻害する虞がある。
【0005】
また、特許文献2には、上底吹きの転炉型精錬容器に装入した溶銑にCaOを脱燐用媒溶剤として添加しつつ、酸素ガスを上吹きして溶銑を脱燐処理する際に、炭素源を転炉型精錬容器の上方から添加するとともに、添加した炭素源の当量分の酸素ガスを吹き込み、炭素源の燃焼熱によってCaOの滓化を促進させる脱燐処理方法が提案されている。しかしながら、この方法では、炭素源の添加量に比例して酸素ガスの添加量が増加するので、大量の炭素源を有効に活用しようとする場合には、酸素ガスの吹き込み時間が長くなり、脱燐設備の処理能力が低下する。更に、脱燐用造滓剤のCaOと炭素源とを、精錬容器の上方から投入して添加するので、脱燐反応の場所と加炭反応の場所とが同じ場所になり、添加した炭素源によって脱燐反応が阻害される虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−20912号公報
【特許文献2】特開2002−69522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、酸素ガス及びCaO系脱燐用媒溶剤を用いて溶銑を脱燐処理する際に、脱燐反応を阻害することなく且つ脱燐処理能力を低下させることなく、溶銑の脱炭を効率的に抑制することの可能な脱燐処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、精錬容器として溶銑鍋及び転炉型精錬容器を用い、上吹きランスから酸素ガスを溶銑湯面に吹き付け、CaO系脱燐用媒溶剤を供給して、種々の条件下で溶銑の脱燐試験を実施した。以下に、試験結果を説明する。
【0009】
酸素ガスなどの気体酸素源またはミルスケールや鉄鉱石などの固体酸素源を用いて溶銑を脱燐処理する際の脱燐反応は、下記の(1)式にしたがって進行する。
2P+5FeO+3CaO=3CaO・P25+5Fe …(1)
この脱燐処理において、酸素ガスなどの気体酸素源または酸化鉄などの固体酸素源を酸素源として供給する理由は、(1)式の左辺第2項のFeOをスラグ中に生成させるためである。
【0010】
但し、酸素ガスまたは酸化鉄などの酸素源を溶銑に供給するので、下記の(2)式に示す脱炭反応も進行し、脱燐処理後の溶銑中の炭素濃度が低下する。
C+1/2O2=CO …(2)
そこで、熱余裕の補償手段として、溶銑へ炭素源(「炭材」ともいう)を添加することにより、溶銑中の炭素濃度を増加させることを検討した。
【0011】
しかし、炭素源の添加方法が適切でない場合には、下記の(3)式に示す反応により、添加した炭素源が脱燐反応に必要なFeOを還元し、脱燐反応が阻害される虞がある。つまり、(1)式の脱燐反応を進行させつつ、(3)式の還元反応が進行しないような効率的な加炭方法を採用する必要がある。
FeO+C=Fe+CO …(3)
本発明者らは、これに対処するために、精錬容器内の脱燐反応の場所と加炭反応の場所とを分離させることを検討した。その結果、以下の事象が判明した。
【0012】
即ち、上吹きランスから吹き付けて供給する酸素ガスの溶銑湯面での衝突位置(「火点」と呼ぶ)でFeOを潤沢に生成させてP25を形成させ、この火点に向けて粉体状のCaO系脱燐用媒溶剤を吹き付けて添加すれば、P25が潤沢に形成される場所にCaO系脱燐用媒溶剤が直接供給されることから、(1)式に示す脱燐反応は効率良く進行することになる。つまり、粉体状のCaO系脱燐用媒溶剤を火点に吹き付けて添加することで、火点を脱燐反応の主たる場所とすることができる。
【0013】
一方、炭素源は、基本的には火点以外に供給する必要がある。精錬容器として転炉型精錬容器を用いた場合、炭素源を転炉型精錬容器の上方から容器内に上置き投入することにより、投入された炭素源は落下する際に転炉型精錬容器の中心位置に直立する上吹きランスと衝突して分散し、炭素源の落下位置は精錬容器内に分散される。この場合、火点に落下する炭素源も発生するものの、精錬容器内の水平断面における火点の占める面積率は少なく、ほとんどの炭素源は火点とは異なる位置に落下し、その位置で加炭反応が進行するので、炭素源添加による火点での脱燐反応への影響を極めて少なくすることができる。
【0014】
つまり、転炉型精錬容器を用いて溶銑の脱燐処理を行う際に、粉体状のCaO系脱燐用媒溶剤を火点に添加し、且つ、炭素源を上置き添加することにより、加炭反応の主たる場所は火点以外の場所となり、脱燐反応の場所と加炭反応の場所とが分離されるので、脱燐反応を効率的に進行させることが可能となる。更に、火点以外に落下した炭素源は酸素ガスによってほとんど燃焼することなく溶銑中に溶解するので、炭素源を燃焼させるための酸素ガスは必要とせず、供給する酸素ガス量を炭素源の添加量に応じて増加する必要がない。そのために、脱燐処理時間を延長させる必要もなく、脱燐処理能力を低下させることもない。
【0015】
一方、精錬容器として溶銑鍋やトーピードカーなどの溶銑保持容器を使用する場合には、精錬容器内の溶銑浴面上に、転炉型精錬容器に比較して、炭素源の投入用シュートや吹き込みランスを配置する余裕があり、炭素源を火点以外に供給することは、炭素源の投入用シュートや吹き込みランスの位置を調整することで容易に実現できる。
【0016】
また、試験を繰り返すうちに、添加する炭素源の灰分含有量が低いほど、炭素源は溶銑中に迅速に溶解し、脱燐反応への影響が少なくなることが分った。これは、溶銑への溶解速度が速い炭素源は、溶銑に添加された後、直ちに溶銑に溶解するので、添加した炭素源によるFeOの還元が抑制される、或いは、酸素ガスと反応する比率が低くなって少ない添加量で目標とする加炭量を確保することができるなどによるものである。
【0017】
つまり、溶銑鍋やトーピードカーなどを精錬容器として使用した場合に、炭素源を故意に火点に向けて添加するなどしない限り、炭素源の添加位置を調整しないで炭素源を添加し、炭素源の一部が火点に添加されても、灰分含有量の少ない炭素源を使用した場合には、脱燐反応を阻害することなく加炭できることが分った。炭素源中の灰分含有量は、精錬炉で通常加炭材として使用される土壌黒鉛では約18質量%、コークスでは約11質量%であるのに対して、パームヤシ由来のバイオマス炭では9質量%以下である。即ち、添加する炭素源としては灰分含有量の少ないバイオマス炭が最適であることが分った。これらの結果から、本発明では、バイオマス由来の、灰分含有量が9質量%以下である炭素源を加炭材として使用することを必須条件とした。
【0018】
また、試験を繰り返すうちに、炭素源を溶銑中に迅速に溶解させることができる、及び、迅速に溶解させることによって酸素ガスと反応する炭素源を少なくすることができる、更には、炭素源を転炉型の精錬容器内に比較的均一に分散させて添加することができるなどから、炭素源の添加総量が同一であっても、炭素源を連続的に投入することが好ましいことが分った。但し、「連続的に投入する」とは、連続して添加する場合のみならず、2分間程度以下の短い時間間隔で炭素源を断続的に投入する場合も含むものとする。
【0019】
更に、炭素源の投入開始時期が炭素源の加炭歩留まりに影響を及ぼすことも判明した。つまり、炭素源が溶銑中に溶解するには、或る程度の時間が必要であることから、炭素源を脱燐処理の末期に添加しても炭素源は溶銑中に溶け切らず、スラグ中に残留する。従って、脱燐処理の前半までに、炭素源の投入を開始することが好ましいことが分った。
【0020】
脱燐反応を促進させるために、従来、CaOの滓化促進剤である蛍石などの弗素源を添加したCaO系脱燐用媒溶剤が一般的に使用されているが、粉体状のCaO系脱燐用媒溶剤を火点に向けて吹き付けて溶銑を脱燐処理すると、CaO系脱燐用媒溶剤の滓化が促進され、蛍石などの弗素源を添加しなくても、つまり、CaO系脱燐用媒溶剤として生石灰(CaO)などの単体を使用しても、従来と同等の脱燐処理が可能であることも確認できた。この場合、CaO系脱燐用媒溶剤の滓化が促進されることにより、CaO系脱燐用媒溶剤の使用原単位も大幅に低減することが分った。尚、本発明における酸素ガスとは、工業的に純酸素ガスと呼ばれるもので、体積%で数%程度の窒素ガスなどを含有するガスも本発明における酸素ガスに含まれる。
【0021】
本発明はこれらの知見に基づきなされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
(1)精錬容器に収容された溶銑の浴面に向けて上吹きランスを介して酸素ガスを吹き付けるとともに、溶銑浴面の酸素ガスの吹き付け面に向けてCaO系脱燐用媒溶剤を吹き付けて溶銑を脱燐処理する際に、前記精錬容器内に、バイオマス由来の、灰分含有量が9質量%以下である炭素源を添加することを特徴とする、溶銑の脱燐処理方法。
(2)前記精錬容器が転炉型精錬容器であり、前記炭素源を、転炉型精錬容器内に直立する上吹きランスに衝突させ、この衝突によって前記炭素源を転炉型精錬容器内に分散させて上置き添加することを特徴とする、上記(1)に記載の溶銑の脱燐処理方法。
(3)前記炭素源が、パームヤシ殻由来のバイオマス炭、パームヤシ空果房由来のバイオマス炭、パームヤシ幹由来のバイオマス炭のうちの何れか1種または2種以上であることを特徴とする、上記(1)または上記(2)に記載の溶銑の脱燐処理方法。
(4)前記炭素源を、連続的に添加することを特徴とする、上記(1)ないし上記(3)の何れか1項に記載の溶銑の脱燐処理方法。
(5)前記炭素源の精錬容器内への添加開始時期を、脱燐処理に要する処理時間の1/2を経過する時点までとすることを特徴とする、上記(1)ないし上記(4)の何れか1項に記載の溶銑の脱燐処理方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、CaO系脱燐用媒溶剤を火点に吹き付けつつ、バイオマス由来の、灰分含有量が9質量%以下である炭素源を添加するので、バイオマス由来の、灰分含有量が9質量%以下である炭素源は溶銑への溶解速度が速いことから直ちに溶銑に溶解し、脱燐反応を阻害することなく且つ脱燐処理能力を低下させることなく、溶銑を迅速且つ効率的に加炭することが実現される。また、炭素源を精錬容器内に分散添加する場合には、精錬容器内の脱燐反応の場所と加炭反応の場所とが分離され、より一層脱燐反応を阻害することなく溶銑を加炭することが可能となる。つまり、本発明により、溶銑の脱炭を効率的に抑制することが実現され、その結果、従来に比較して格段に溶銑の熱余裕を高めることができ、次工程の転炉脱炭精錬では、溶銑の配合比率を低くすることや、マンガン鉱石の添加量を多くすることが可能となり、省資源、省エネルギーが達成されるのみならず、転炉脱炭操業の安定化が達成され、工業上有益な効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る溶銑の脱燐処理方法を実施する際に用いる転炉型精錬設備の概略断面図である。
【図2】本発明例及び比較例における脱炭量と脱燐量との相関を示す図である。
【図3】本発明例及び比較例における炭素源中の灰分含有量と脱炭量との相関を示す図である。
【図4】本発明例において、炭素源の添加開始時間を脱燐処理時間で除算した値と脱炭量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を転炉型精錬設備で実施した場合を例として、添付図面を参照して具体的に説明する。図1は、本発明に係る溶銑の脱燐処理方法を実施する際に用いる転炉型精錬設備の概略断面図である。
【0025】
図1に示すように、本発明に係る溶銑の脱燐処理で用いる転炉型精錬設備1は、その外殻を鉄皮4で形成され、鉄皮4の内側に耐火物5が施行された炉本体2と、この炉本体2の内部空間に挿入され、上下方向に移動可能な鋼製の上吹きランス3とを備えている。炉本体2の上部には、収容した溶銑15を精錬後に出湯するための出湯口6が設けられ、また、炉本体2の炉底には、撹拌用ガス18を吹き込むための底吹き羽口7が設けられている。この底吹き羽口7はガス導入管8と接続されている。上吹きランス3には、酸素ガス配管9が接続されており、酸素ガス配管9を介して任意の流量で上吹きランス3から炉本体2の内部に酸素ガスが供給されるようになっている。
【0026】
炉本体2の上方には、バイオマス由来の、灰分含有量が9質量%以下である炭素源21を炉本体2の内部に投入するための、即ち、炭素源21を炉本体2に収容された溶銑15及びスラグ16の上に上置き添加するための炭素源添加装置20が設置されている。炭素源添加装置20としては、例えば、ホッパー、シュート、秤量機、切り出し装置などからなる慣用の原料供給装置を使用することができる。
【0027】
上吹きランス3は、造滓剤移送配管19を介して、CaO系脱燐用造滓剤17を収容するディスペンサー11と接続されており、一方、ディスペンサー11には、酸素ガス配管9から分岐した酸素ガス配管9A、並びに、窒素ガス配管10が接続されている。即ち、ディスペンサー11に供給された酸素ガス及び窒素ガスは、ディスペンサー11に収容されたCaO系脱燐用造滓剤17の搬送用ガスとして機能し、造滓剤移送配管19を経由して上吹きランス3の先端から、炉本体内の溶銑浴面の酸素ガスの吹き付け面に向けて、CaO系脱燐用造滓剤17を吹き付けて供給(「投射」ともいう)することができるように構成されている。
【0028】
酸素ガス配管9、9Aには、それぞれ流量調整弁12、13が設けられ、また、窒素ガス配管10には、流量調整弁14が設けられており、酸素ガスを上吹きランス3から任意の流量で吹き込みながら、酸素ガスまたは窒素ガスを、ディスペンサー11を経由して任意の流量で搬送用ガスとして吹き込むことができるように構成されている。この場合、窒素ガスに代えて、Arガスや炭酸ガスなど種々の気体を搬送用ガスとして利用することができる。
【0029】
上吹きランス3は、外側から順に外管、中管、内管、最内管の同心円状の4種の鋼管(図示せず)即ち四重管で構成されており、酸素ガスまたは窒素ガスを搬送用ガスとするCaO系脱燐用造滓剤17が最内管の内部を通り、酸素ガスが内管と最内管との間隙を通り、外管と中間との間隙及び中管と内管との間隙は、冷却水の給排水流路となっている。尚、本発明に係る脱燐処理方法を実施する場合、上吹きランス3はCaO系脱燐用造滓剤17の供給流路を兼ねる必要はなく、上吹きランス3とは別にCaO系脱燐用造滓剤17の供給用ランスを設置してもよい。この場合には、上吹きランス3は四重管とする必要はなく、通常の三重管のランスを複数個配置すればよい。但し、炉本体2の上方部における設備配置が煩雑になるので、これを防止するためには、上吹きランス3がCaO系脱燐用造滓剤17の供給流路を兼ねることが好ましい。
【0030】
このような構成の転炉型精錬設備1を用い、溶銑15に対して以下に示すようにして本発明に係る脱燐処理を実施する。
【0031】
先ず、炉本体2の内部に溶銑15を装入する。鉄スクラップを使用する場合には、溶銑15の装入前に炉本体2の内部に鉄スクラップを装入する。用いる溶銑15としてはどのような組成であっても処理することができ、脱燐処理の前に脱硫処理や脱珪処理が施されていてもよい。脱珪処理とは、溶銑15にミルスケールなどの酸化鉄或いは酸素ガスを添加し、主として溶銑15に含有される珪素を除去する処理である。因みに、脱燐処理前の溶銑15の主な化学成分は、炭素:3.8〜5.0質量%、珪素:0.6質量%以下、硫黄:0.05質量%以下、燐:0.08〜0.3質量%程度である。但し、脱燐処理時に炉本体内で生成されるスラグ16の量が多くなると脱燐効率が低下するので、炉本体内で生成されるスラグ量を少なくして脱燐効率を高めるために、予め脱珪処理を行い、溶銑15の珪素濃度を0.2質量%以下まで低減しておくことが好ましい。また、溶銑温度は1250〜1350℃の範囲であれば問題なく脱燐処理することができる。
【0032】
次いで、底吹き羽口7から窒素ガスなどの非酸化性ガスまたはArガスなどの希ガスを撹拌用ガス18として溶銑15に吹き込みながら、上吹きランス3から溶銑15の浴面に向けて酸素ガスを吹き付けて供給するとともに、CaO系脱燐用造滓剤17を、上吹きランス3を介して溶銑浴面の酸素ガスの吹き付け面、即ち火点に向けて吹き付けて供給し、溶銑15の脱燐処理を開始する。
【0033】
この場合、CaO系脱燐用造滓剤17としては、粉状の生石灰(CaO)を使用することができる。生石灰粉にアルミナ粉や蛍石などを滓化促進剤として加えてもよいが、本発明においては、CaO系脱燐用造滓剤17を溶銑浴面の火点に吹き付けて添加するので、生石灰粉単体であっても十分に滓化するので、アルミナ粉や蛍石などの滓化促進剤は用いなくても十分に脱燐することができる。特に、スラグ16からの弗素の溶出量を抑えて環境を保護する観点から、蛍石などの弗素含有物質はCaO系脱燐用造滓剤17に混合しないことが好ましい。但し、弗素が不純物成分として不可避的に混入した物質については使用しても構わない。また、生石灰の他に、石灰石(CaCO3)、消石灰(Ca(OH)2)、ドロマイト(CaCO3・MgCO3)などの粉体もCaO系脱燐用造滓剤17として使用可能である。
【0034】
底吹き羽口7から吹き込まれる攪拌ガス18によって溶銑15は攪拌され、溶銑浴面に吹き付けられたCaO系脱燐用造滓剤17は火点にて溶融し、スラグ16を形成し、溶銑15の脱燐反応が進行する。
【0035】
この脱燐処理中、炭素源添加装置20から炉本体内に、バイオマス由来の、灰分含有量が9質量%以下である炭素源21を投入する。炭素源21の投入開始時期は、炭素源21が溶銑15に溶解するための時間が必要であることから、脱燐処理の末期では好ましくなく、脱燐処理に費やす処理時間、即ち上吹きランス3から酸素ガスを供給している時間の内の少なくとも1/2を経過する前までに、炭素源21の投入を開始することが好ましい。そして、投入開始したならば、所定量の炭素源21を添加し終えるまで、連続的に投入することが好ましい。但し、前述したように、「連続的に投入する」とは、連続して添加する場合のみならず、2分間程度以下の短い時間間隔で炭素源21を投入する場合も含むものとする。炭素源21の添加量は、脱燐処理前の溶銑中の炭素濃度に応じて調整するが、最大でも溶銑トン当たり10kg程度で十分である。溶銑15における炭素の飽和濃度以上には加炭しないので、過剰に添加しても歩留まりの悪化を招くだけである。
【0036】
脱燐処理時の酸素源が気体の酸素ガスのみでは溶銑温度が上昇し過ぎて脱燐反応が阻害される場合もあるので、必要に応じて固体酸素源としてミルスケールや鉄鉱石などの酸化鉄を添加してもよい。酸素ガスの添加量と固体酸素源の添加量との比は、溶銑15の珪素濃度、燐濃度、炭素濃度などに応じて適宜変更することができる。また、CaO系脱燐用造滓剤17の投入量は、溶銑15の珪素濃度及び燐濃度に応じて変更することとするが、スラグ16の塩基度(質量%CaO/質量%SiO2)が2以上の範囲であるならば、最大でも溶銑トン当たり40kg程度であれば十分である。また、ランス高さは特に限定する必要はなく、スラグ16の生成量などを勘案して設定すればよい。
【0037】
以上説明したように、本発明に係る溶銑の脱燐処理方法では、溶銑浴面の酸素ガスの吹き付け面に向けてCaO系脱燐用媒溶剤17を吹き付けて溶銑15を脱燐処理する際に、バイオマス由来の、灰分含有量が9質量%以下である炭素源21を炉本体2の内部に上置き添加して炉本体内に分散添加するので、脱燐反応の場所と加炭反応の場所とが分離されて、脱燐反応を阻害することなく且つ脱燐処理能力を低下させることなく、また、バイオマス由来の、灰分含有量が9質量%以下である炭素源21は溶銑15への溶解速度が速いので、溶銑15を迅速に且つ効率良く加炭することができる。その結果、溶銑15の熱余裕を高めることができ、次工程の転炉脱炭精錬では、溶銑の配合比率を低くしたり、マンガン鉱石の添加量を多くしたりすることが可能となり、省資源、省エネルギーが達成されるのみならず、転炉脱炭操業の安定化が達成される。また、蛍石などの弗素含有物質をCaO系脱燐用造滓剤17に混合しない場合には、脱燐処理で生成したスラグ16を再利用する際に、スラグ16からの弗素の溶出を考慮する必要がなく、スラグ16の再利用を促進させることができる。
【0038】
尚、精錬容器としてトーピードカーや溶銑鍋などの溶銑保持容器を用いる場合には、上吹きランスからの酸素ガス及びCaO系脱燐用造滓剤17の溶銑への供給は上記に沿って実施するが、炭素源21の溶銑への供給は、投入シュートを用いて溶銑浴面に上置き添加する、或いは、吹き込みランスを用いて溶銑中に吹き込み添加する。その他は、上記に沿って脱燐処理を実施すればよい。
【実施例1】
【0039】
高炉から出銑された溶銑を、溶銑鍋内で脱珪処理し、次いで、機械式攪拌装置を用いて脱硫処理した後、図1に示す容量が250トンの転炉型精錬設備に装入して本発明に係る溶銑の脱燐処理を実施(本発明例)した。
【0040】
脱燐処理は、上吹きランスから酸素ガスを溶銑浴面に吹き付けると同時に、CaO系脱燐用造滓剤として生石灰粉のみを用い、窒素ガスを搬送用ガスとし、上吹きランスを介して溶銑湯面の火点に向けて生石灰粉を吹き付けて実施した。脱燐処理中、炭素源を炉本体の上方に設置したホッパーから連続的に炉本体内に上置き添加した。また、底吹き羽口から窒素ガスを0.07〜0.12Nm3/(min・t)の供給量で吹き込み、溶銑を攪拌した。処理前後の溶銑温度は1280〜1350℃の範囲に調整した。溶銑の配合量は225トン、鉄スクラップの配合量は15トンとした。
【0041】
バイオマス由来の、灰分含有量が9質量%以下である炭素源としては、灰分含有量が5.9質量%であるパームヤシ殻由来(PKS)のバイオマス炭(以下、「バイオマス炭A」と記す)、灰分含有量が8.1質量%であるパームヤシ幹由来のバイオマス炭(以下、「バイオマス炭B」と記す)、及び、灰分含有量が8.8質量%であるパームヤシ空果房由来(EFB)のバイオマス炭(以下、「バイオマス炭C」と記す)の3種類を使用した。また、比較の炭素源として、灰分含有量が11.2質量%のコークス、灰分含有量が18.0質量%の黒鉛も使用した。炭素源の添加量は全ての操業で6.5kg/tの一定とした。また更に、炭素源を添加しない脱燐処理も実施した。
【0042】
表1に、本発明1〜9及び比較例1〜9における操業条件及び操業結果を示す。比較例1〜3は炭素源を添加しない操業である。尚、表1の‘脱燐酸素原単位’は、全酸素原単位からSiO2の生成に必要な酸素分を減じたものであり、また、‘処理時間’(=脱燐処理時間)は、上吹きランスから酸素ガスを供給している期間であり、‘添加開始時間’は、上吹きランスから酸素ガスの供給を開始した後の経過時間で表している。また、‘脱炭量’は、下記の(4)式によって定義されるものである。
脱炭量(質量%)=(処理前の溶銑中炭素濃度(質量%))×[溶銑配合量(t)/(溶銑配合量(t)+鉄スクラップ配合量(t))]−(処理後の溶銑中炭素濃度(質量%)) …(4)
【0043】
【表1】

【0044】
図2に、本発明例1〜9及び比較例1〜3における脱炭量と脱燐量との相関を示す。図2に示すように、本発明例1〜9は、比較例1〜3と比較して、脱燐量はほぼ同等でありながら、炭素源の添加により脱炭量が少なくなる効果が得られた。また、本発明例1〜9において、脱燐処理時間及び酸素ガス原単位は、炭素源を添加していない比較例1〜3と比べてほぼ同等であり、炭素源の添加による酸素供給量の増加及び処理時間の延長といった操業上の問題は発生しなかった。
【0045】
また、図3に、本発明例1〜9及び比較例4〜9における炭素源中の灰分含有量と脱炭量との相関を示す。尚、炭素源の添加開始時期による脱炭量への影響を無くすために、脱燐処理時間に対する炭素源の添加開始時間の比を0.12の一定とした。灰分含有量が9質量%以下である、バイオマス由来の炭素源を使用した本発明例1〜9では、炭素源の溶銑中への溶解速度が速く、酸素ガスによって燃焼する分が減少し、同一添加量であっても比較例4〜9に比較して脱炭量が少なくなることが分った。
【0046】
このように、本発明例1〜9では、溶銑への溶解速度の速い炭素源を使用するので、炭素源の分散添加により脱燐反応の場所と加炭反応の場所とが分離されることも相まって、脱燐反応を阻害することなく、迅速且つ効率良く溶銑の加炭を行うことができ、更に、粉体状の生石灰を火点に直接投射することで、従来の塊状生石灰を上置き添加する方法よりも少ない生石灰原単位で、効率的に脱燐処理を行えることが確認できた。
【実施例2】
【0047】
本発明において脱炭量に及ぼす炭素源の添加開始時期の影響を調査するために、実施例1で使用した転炉型精錬設備における本発明の脱燐処理において、炭素源の添加開始時間を変化させ、脱炭量に及ぼす影響を調査した。炭素源は、実施例1で使用した、灰分含有量が5.9質量%のバイオマス炭Aを使用した。
【0048】
表2に、本発明10〜16の操業条件及び操業結果を示す。また、図4に、炭素源の添加開始時間を脱燐処理時間で除算した値と脱炭量との関係を示す。
【0049】
【表2】

【0050】
図4からも明らかなように、炭素源の添加開始時期が脱燐処理時間の1/2よりも後半の場合には、脱炭量低減の効果が低下した。これは、炭素源が溶銑中に溶解するには、或る程度の時間が必要であり、脱燐処理の末期に添加しても炭素源は溶銑中に溶け切らず、スラグ中に残留するだけで、歩留まりが低下したためである。即ち、脱燐処理の前半までに、炭素源の投入を開始することが好ましいことが確認できた。
【符号の説明】
【0051】
1 転炉型精錬設備
2 炉本体
3 上吹きランス
4 鉄皮
5 耐火物
6 出湯口
7 底吹き羽口
8 ガス導入管
9 酸素ガス配管
10 窒素ガス配管
11 ディスペンサー
12 流量調整弁
13 流量調整弁
14 流量調整弁
15 溶銑
16 スラグ
17 CaO系脱燐用造滓剤
18 撹拌用ガス
19 造滓剤移送配管
20 炭素源添加装置
21 炭素源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
精錬容器に収容された溶銑の浴面に向けて上吹きランスを介して酸素ガスを吹き付けるとともに、溶銑浴面の酸素ガスの吹き付け面に向けてCaO系脱燐用媒溶剤を吹き付けて溶銑を脱燐処理する際に、前記精錬容器内に、バイオマス由来の、灰分含有量が9質量%以下である炭素源を添加することを特徴とする、溶銑の脱燐処理方法。
【請求項2】
前記精錬容器が転炉型精錬容器であり、前記炭素源を、転炉型精錬容器内に直立する上吹きランスに衝突させ、この衝突によって前記炭素源を転炉型精錬容器内に分散させて上置き添加することを特徴とする、請求項1に記載の溶銑の脱燐処理方法。
【請求項3】
前記炭素源が、パームヤシ殻由来のバイオマス炭、パームヤシ空果房由来のバイオマス炭、パームヤシ幹由来のバイオマス炭のうちの何れか1種または2種以上であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の溶銑の脱燐処理方法。
【請求項4】
前記炭素源を、連続的に添加することを特徴とする、請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の溶銑の脱燐処理方法。
【請求項5】
前記炭素源の精錬容器内への添加開始時期を、脱燐処理に要する処理時間の1/2を経過する時点までとすることを特徴とする、請求項1ないし請求項4の何れか1項に記載の溶銑の脱燐処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−72111(P2013−72111A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211733(P2011−211733)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】