説明

滅菌ガス発生装置、その滅菌ガス発生装置に適用される触媒カートリッジ、並びに滅菌処理装置

【課題】ラジカル化触媒反応温度を一定に保ち、安定した濃度の滅菌ガスを発生させることが可能な滅菌ガス発生装置を提供する。
【解決手段】メタノールを気化してメタノールガスを発生させるメタノールガス発生装置11と、メタノールガス発生装置11の上方に位置し、メタノールガス発生装置から発生したメタノールガスを自然対流により上方に移行させる流路となるとともに、メタノールガスに所定の割合で空気を混合させる筒体12と、筒体12の上方に位置し、筒体12において所定の割合で空気が混合したメタノールガスを触媒反応によりラジカル化する触媒カートリッジ13とを備え、触媒カートリッジ13は、金属薄板35aをハニカム構造に成形してなるラジカル反応触媒30より構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタノールから触媒反応により発生するラジカル性のメタノールラジカルガス(以下、「MRガス」という。)により対象物を滅菌する滅菌処理装置に適用される、滅菌ガス発生装置及びその滅菌ガス発生装置に交換可能に設けられる触媒カートリッジ、並びに滅菌処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
メタノールから触媒反応により発生するラジカル性(メタノールラジカル:MR)ガスを利用した滅菌システムは、これまで医療器具等の滅菌に用いるガスとして多用されていたエチレンオキサイドガス(EOG)やオゾン等以上の殺菌力を持ち、残留性、腐食性がないことが確認されており、現在多くの分野において注目されている。
【0003】
MRガスとは、メタノールから触媒により生じた強力な殺菌効果をもつラジカルガスのことであり、浸透性が高く、大気圧のままでも被滅菌物の内部まで殺菌ができる。金属の腐食やプラスチックの劣化が無く、非滅菌物の素材を選ばず、さらに、被滅菌物に残留しないなどの優れた特質があり、高い安全性を有する。
【0004】
従来のMRガス滅菌装置において、先ず、メタノールタンクに蓄えられたメタノールを気化用ヒータによって気化してメタノールガスとし、そして生成したメタノールガスを気化用ヒータの上方に設置された触媒部において、ヒータによって触媒部を加熱しつつ反応させて、MRガスを発生するようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2005−130993号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のMRガス発生装置においては、直径方向の大きさとして、例えば150〜180mm程度もの大きさを有する触媒部を備えていたため、この触媒部においては、メタノールガスのラジカル化反応に必要な温度を一定に維持させることは難しく、電熱ヒータを触媒内部に備えるようにし、ラジカル化反応に必要な温度を維持するために随時加熱しながら温度を制御することが必要となっていた。
【0007】
このような従来のMRガス発生装置では、触媒反応時における温度の変動が激しく、その結果、一定の濃度を有するMRガスを発生させることができなかった。さらに、150〜180mm程度もの大きさを有する触媒部を備えるとともに、さらに上述したように加熱用の電熱ヒータを備える必要があったため、触媒部は必然的に大きくなってしまい、利便性を高めるためのMRガス発生装置自体の小型化を困難にしていた。
【0008】
本発明は、このような従来の問題点に鑑みて提案されたものであり、ラジカル化のための触媒反応温度を一定に保ち、安定した濃度の滅菌ガスを発生させるとともに、小型化が可能な滅菌ガス発生装置、その滅菌ガス発生装置に用いられる触媒カートリッジ、並びに滅菌処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本件発明者らは、上述した課題を解決するために、様々な観点から鋭意研究を重ねてきた結果、ハニカム構造を有する触媒を使用することにより、ラジカル化のための触媒反応温度を一定に維持することが可能になることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明に係る滅菌ガス発生装置は、メタノールを気化してメタノールガスを発生させるメタノールガス発生部と、上記メタノールガス発生部の上方に位置し、該メタノールガス発生部から発生したメタノールガスを自然対流により上方に移行させる流路となるとともに、上記メタノールガスに所定の割合で空気を混合させる筒体部と、上記筒体部の上方に位置し、該筒体部において上記所定の割合で空気が混合したメタノールガスを触媒反応によりラジカル化する触媒部とを備え、上記触媒部は、金属薄板をハニカム構造に成形してなるラジカル反応触媒より構成される。
【0011】
また、本発明に係る触媒カートリッジは、メタノールガスを発生させるメタノールガス発生部と、該メタノールガス発生部の上方に位置し、該メタノールガス発生部から発生したメタノールガスを自然対流により上方に移行させる流路となるとともに、該メタノールガスに所定の割合で空気を混合させる筒体部とを備える滅菌ガス発生装置に交換可能に設けられる触媒カートリッジであって、金属薄板をハニカム構造に成形してなるラジカル反応触媒より構成され、上記筒体部の上方に位置し、該筒体部において上記所定の割合で空気が混合したメタノールガスを触媒反応によりラジカル化する。
【0012】
また、本発明に係る滅菌処理措置は、メタノールを気化してメタノールガスを発生させるメタノールガス発生部と、上記メタノールガス発生部の上方に位置し、該メタノールガス発生部から発生したメタノールガスを自然対流により上方に移行させる流路となるとともに、上記メタノールガスに所定の割合で空気を混合させる筒体部と、上記筒体部の上方に位置し、該筒体部において上記所定の割合で空気が混合したメタノールガスを触媒反応によりラジカル化する触媒部とを有し、上記触媒部は、金属薄板をハニカム構造に成形してなるラジカル反応触媒より構成される滅菌ガス発生装置を備えている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、金属薄板をハニカム構造に成形してなるラジカル反応触媒を使用しているので、触媒部における表面積が増加して反応効率が向上し、触媒反応温度を一定に維持した自己反応を生じさせることができ、安定した濃度のMRガスを発生させることができる。また、触媒部における反応効率の向上により、触媒部を小型化することができるとともに、滅菌処理装置自体を小型化することを可能にし、利便性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について、図面を参照にしながら詳細に説明する。なお、各図において同じ構成部分については同じ符号を付している。
【0015】
図1は、本実施の形態に係るMRガス発生装置を概略的に示した模式図である。この図1に示すように、本実施の形態に係るMRガス発生装置10は、メタノールタンク(図示せず)からメタノールが供給され、そのメタノールを気化することによってメタノールガスを発生させるメタノールガス発生装置11と、そのメタノールガス発生装置11の上方に位置してメタノールガス発生装置11から発生したメタノールガスを空気と混合させるとともに、発生したメタノールガスを自然対流を利用して上方に案内する流路を形成するために設けられた筒体12と、メタノールガスの流路上方に取り外し可能な状態で筒体12に連続して設けられ、メタノールガスを触媒反応によりラジカル化してMRガスを発生させる触媒カートリッジ13とから構成されている。以下、各構成について具体的に説明していく。
【0016】
先ず、本実施の形態に係るMRガス発生装置10を構成するメタノールガス発生装置11について説明する。メタノールガス発生装置11は、メタノールを気化することによって、ラジカル化反応の反応物質であるメタノールガスを発生させ、筒体12へと供給する。
【0017】
図2は、メタノールガス発生装置11を概略的に示す模式図である。この図2に示すように、メタノールガス発生装置11は、原料となるメタノールを収容するメタノールタンク(図示せず)が連結されており、少なくとも、メタノールを加熱気化させる電熱ヒータ20と、メタノールタンクから供給されたメタノールを気化するに際して温度を制御する焼結金属等の温度安定化金属からなる熱媒体21と、気化したメタノールをMRガス発生装置10の上方部に導通させる気化ノズル22と、さらにメタノールタンクから供給されるメタノールを霧状に噴射して熱媒体21の方へ移行させるノズル23とから構成されている。
【0018】
このメタノールガス発生装置11では、メタノールタンクから供給されたメタノールが、熱媒体21による温度制御の下、電熱ヒータ20によって加熱されて気化され、気化して生成したメタノールガスが気化ノズル22から発生する。発生したメタノールガスは、気化カバー14を通り、自然対流を利用してMRガス発生装置10の上方、すなわち触媒カートリッジ13へ分散して移行する。
【0019】
より具体的に説明すると、電熱ヒータ20への通電が開始され、メタノールタンクからメタノール供給用連通管24を通って供給されたメタノールを導通する熱媒体21がその電熱ヒータ20からの熱によって120〜130℃に加熱され始める。そして、メタノールタンクから供給されたメタノールが熱媒体21を通過すると、メタノールは熱媒体21に生じている熱によって温められて気化し、メタノールガスが発生する。このようにしてメタノールガスが発生すると、メタノールガスは気化ノズル22及び気化カバー14を通って分散し、筒体12中を自然対流を利用して、触媒カートリッジ13へと移行する。
【0020】
このメタノールガス発生装置11に用いられる焼結金属等の温度安定化金属からなる熱媒体21としては、種々のものを用いることができ、特に限定されるものではないが、金属たわしを構成する細線状の金属素材等が好適に用いられる。
【0021】
具体的に、その金属素材としては、酸化し難く、温度を一定に保持することが可能な金属素材を用いることが好ましい。詳細は後述するが、このメタノールガス発生装置11における温度のふらつきが触媒カートリッジ13における触媒反応温度に大きな影響を及ぼし、触媒反応温度を不安定にする。したがって、温度を一定に保持することが可能な金属素材を用いて熱媒体21を構成することによって、メタノールガス発生装置11における温度のふらつきを抑制し、触媒カートリッジ13における触媒反応温度を安定化させることができる。例えば、SUS304等のステンレス鋼等を用いることによって形成した熱媒体21等を使用する。
【0022】
また、メタノールガス発生装置11の本体自体も、酸化し難く、温度を一定に保持する効果を有する金属素材で構成することが好ましく、例えばSUS304等のステンレス鋼等により構成することが好ましい。このような金属素材を用いてメタノールガス発生装置11を構成することによって、メタノールタンクから供給されたメタノールに対して均等に熱を伝達することが可能となり、120〜130℃の間において、具体的に±0.5℃程度の変化だけの、ふらつきのほとんどない温度制御のもと、メタノールを気化することができる。なお、ステンレス鋼を用いる場合、SUS304に限定されるものではなく、SUS303やSUS316等のステンレス鋼を用いることもできる。
【0023】
また、このメタノールガス発生装置11は、メタノールタンクからメタノール供給用連通管24を通って供給されるメタノールを、ポンプ等を利用して霧状にして熱媒体21の方へ噴射させるノズル23を備えている。メタノールタンクから供給されたメタノールをノズル23より霧状にして噴射し、霧状のメタノールを上述した電熱ヒータ20によって熱媒体21を介して加熱させることで、温度を一定に保ち、安定した状態でメタノールを気化させることができる。
【0024】
このように、温度一定の安定した状態でメタノールガスを発生させることにより、メタノールガス発生装置11における温度のふらつきを抑制して、上述したように、以下で詳述する触媒カートリッジ13における触媒反応の温度変動をより効果的に抑制し、安定したMRガスの発生を可能にしている。
【0025】
さらに、他の実施形態として図3に示すように、メタノールガス発生装置11に、メタノール供給用連通管24を連結させてメタノールタンクからメタノールを供給させるとともに、水供給用連通管26を連結させてウォータータンク(図示しない)から所定の割合で水を供給させるようにしてもよい。この場合、上述したノズル23は、メタノールタンクからメタノール供給用連通管24を通って供給されたメタノールと、そのウォータータンクから水供給用連通管26を通って供給された水とを混合させる混合ノズル23’とすることができる。この混合ノズル23’は、メタノールと水とを混合し、所定の割合の水を含有させたメタノールをポンプ等を用いて霧状にして熱媒体21の方へ噴射し、温度一定の安定した状況下で、所定の割合で水を含有したメタノールを気化させることができる。
【0026】
ここで、滅菌処理においては、滅菌環境を所定の湿度に保った状態とすることが必要なことが知られており、例えばウイルス等のDNAを破壊してDNAフリーの環境とする場合には、約75%程度の湿度を維持した滅菌環境で滅菌処理を行わなければならない。しかしながら、MRガス滅菌処理を行うにあたって、そのようにMRガスの暴露環境を所定の湿度条件(例えば約75%程度)に整えようとすると、ある程度の環境調整時間が必要となるとともに、所定の湿度環境を一定に管理することも必要となり、また一定の湿度環境を維持することは極めて難しい。
【0027】
そこで、上述したように、メタノールガスを発生させる段階において、メタノールタンクから供給されたメタノールに所定の水を混合させて、所定の割合で水を含有したメタノールを生成し、このメタノールからメタノールガスを発生させてMRガスを生成させる。これにより、滅菌環境の湿度を事前に調整しなくとも、効果的な滅菌処理を行うことが可能となる。このとき、上述した他の実施形態におけるメタノールガス発生装置11によれば、メタノールと水とを混合し、所定の割合で水を含有させたメタノールを霧状にして供給することができる混合ノズル23’を備えているので、所定の湿度を保持した最適なメタノールガスを効率的に生成させて触媒カートリッジ13に供給することができる。そして、このメタノールガスから触媒反応によって発生したMRガスを使用することで、効果的な滅菌処理を行うことができ、所定の湿度環境を一定に管理維持させる必要もなくなる。
【0028】
このように、メタノールガス発生装置11は、ノズル23を備えているので、メタノールを霧状に噴射して、温度のふらつきのない一定範囲の温度条件でメタノールを気化することができるとともに、触媒カートリッジ13において安定したラジカル化触媒反応を生じさせることができる。また、このノズル23は、例えばメタノールと水とを混合させて、所定の割合で水を含有させたメタノールを霧状に供給することができる混合ノズル23’として構成することもできるので、所定の湿度を保ったメタノールガスを効率的に生成させるとともに、効果的な滅菌処理が可能なMRガスを発生させることができる。
【0029】
なお、メタノールガス発生装置11における温度を制御し、安定的にメタノールガスを生成して供給するために、さらに熱電対25を設けて温度を管理・制御するようにしてもよい。このように熱電対25を設けて温度を管理することにより、メタノールの着火等を防止して、安全性を向上させることができる。
【0030】
また、加熱により気化生成したメタノールガスが導通する気化ノズル22を覆う気化カバー14には、その側壁に金属製の網をかけるようにすることが好ましい。このようにして、メタノールガスを導通する気化カバー14の側壁に金網を掛けることにより、生成したメタノールガスを均一に分散させることが可能となり、触媒カートリッジ13において均一なラジカル化触媒反応を起こさせることができる。
【0031】
次に、本実施の形態に係るMRガス発生装置10を構成する筒体12について説明する。筒体12は、メタノールガス発生装置11から供給されたメタノールガスのラジカル化触媒反応の場となる触媒カートリッジ13に案内する流路になるとともに、メタノールガスに所定の割合の空気を混合させる。
【0032】
具体的に、この筒体12は、パンチングプレート15を挟んで筒体上部12aと筒体下部12bの2空間に分けられている。パンチングプレート15は、メタノールガス発生装置11から気化ノズル22を介して供給されたメタノールガスの筒体上部12aへのガス流れを整える整流部材として作用するとともに、筒体12内を上部及び下部に隔てるために用いられている。
【0033】
パンチングプレート15によって隔てられた筒体12の筒体下部12bは、メタノールガス発生装置11から供給されたメタノールガスが充満する空間となっており、無酸素状態に維持されている。一方、パンチングプレート15より上方の筒体上部12aでは、所定の割合で空気供給部(図示しない)から空気が供給され、その供給された空気とメタノールガスとが混合された空間となっている。そして、この空気を混合したメタノールガスは筒体12の上方に移行し、筒体12の上方に位置する触媒カートリッジ13を通って触媒反応によりラジカル化し、MRガスとなる。
【0034】
なお、本実施の形態において用いられるパンチングプレート15は、特に限定されるものではないが、具体的にその表面に形成されるメタノールガスが通気する孔(通気孔)は、丸型形状でも角型形状でもよく、またその他の形状を有した通気孔であってもよい。また、このパンチングプレート15の通気孔の大きさは、3mm以下であることが好ましい。孔の径を3mm以下とすることにより、後述する触媒カートリッジ13における触媒反応によって発生する反応熱の通過を防止することができ、安全性を高めることができる。
【0035】
また、ここでの説明においては、具体的にパンチングプレート15を用いた例について説明したが、筒体上部12aと筒体下部12bとを隔てるものは、パンチングプレートであることに限られず、3mm以下の径の孔を有する多孔質の金属プレート等の、熱を通過させず、引火を防止することが可能な多孔質金属材料であればよい。金属材料としては、特に限定されるものではないが、ステンレス鋼等を用いることができ、熱を反射することが可能なように表面が研磨されたものであることが、より安全性を高めるという観点から好ましい。
【0036】
上述のように、筒体12のパンチングプレート15を隔てた筒体上部12aにおいては、メタノールガスと空気とが一定の割合で混合されるが、その空気は筒体上部12aに連結された空気供給部(図示しない)から、その筒体上部12aに設けられたエアー供給口16を介して供給されるようになっている。空気供給部からエアー供給口16を介して供給される空気の供給量としては、図4のグラフに示すように、メタノールの供給量と略正比例するように供給する。
【0037】
ここで、この筒体上部12aにおける空気の供給について詳細に説明する。本実施の形態に係るMRガス発生装置10では、筒体上部12aにおける空気の供給量を変化させることにより、後述する触媒カートリッジ13での自己反応によるラジカル化触媒反応の温度を制御することができる。
【0038】
このMRガス発生装置10における触媒カートリッジ13は、詳細は後述するが、金属薄板をハニカム構造に成形してなるラジカル反応触媒30から構成され、メタノールガスとの接触表面積を増やして反応効率を向上させるようにしている。これにより、触媒カートリッジ13では、作動開始直後十数分間の230〜250℃程度の加熱のみで、その後は安定した自己反応(メタノールガスの触媒燃焼反応)によってラジカル化反応に必要な450〜500℃まで温度を高め、その反応温度を維持させることができ、従来の装置とは異なり随時反応温度を維持させるために加熱し続けることを要しない。このように、このMRガス発生装置10によれば、反応温度維持のための継続的な加熱を必要とせず、安定した自己反応により必要な温度に高めるとともに一定に維持できることから、そのラジカル化反応に必要な温度を、筒体上部12aにおける空気の供給量を変化させることによって容易に制御することができる。
【0039】
また、金属パイプと珪藻土等を無秩序に混合させて形成した触媒を備えた従来のMRガス発生装置とは異なり、本実施の形態に係るMRガス発生装置10では、金属薄板をハニカム構造体に成形した触媒カートリッジ13にメタノールガスを通過させてラジカル化触媒反応を起こすようにしているので、メタノールガスの触媒反応にばらつきを生じさせず、供給する空気量を変化させることで、容易に触媒反応温度を制御することができる。
【0040】
具体的には、ラジカル化触媒反応に必要な450℃程度の温度を自己反応により発生させる場合には、上述したように、メタノールの供給量に対して略正比例するように空気を供給する。具体的には、メタノール供給量を3ccとした場合には、空気の供給量を約3.5L/minとする割合で供給する。
【0041】
一方、ラジカル化触媒反応に必要な450℃より高めの、約500℃近い温度を自己反応により発生させる場合には、空気の供給量をメタノールの供給量に対して正比例する量よりも多く供給する。これにより、自己反応による燃焼温度が高まり、ラジカル化反応において500℃近い温度とすることができる。具体的には、上述の450℃程度の温度を発生させる場合の空気の供給量の割合(メタノール供給量を3ccとしたときに、空気の供給量を約3.5L/minとする割合)よりも多い量の空気を供給する。
【0042】
図5は、本実施の形態に係るMRガス発生装置10において、空気の供給量を変化させることによりラジカル化触媒反応の温度を制御できることを説明するためのグラフである。メタノールガスのラジカル化触媒反応に必要な反応温度は約450〜500℃であり、この図5のグラフに示すように、このMRガス発生装置10では、約3.0ccのメタノール供給量に対して、筒体上部12aから供給される空気の供給量を約3.5〜6.0L/minの範囲で変化させる。これにより、ラジカル化触媒反応の温度を約450〜500℃の範囲で変化させることが可能となる。したがって、空気供給部からの空気の供給量を変化させることにより、容易にラジカル化触媒反応の温度を制御することができる。
【0043】
このように、本実施の形態に係るMRガス発生装置10によれば、ラジカル化触媒反応温度を維持させるための随時の加熱を必要とせず、安定した自己反応によりラジカル化反応を起こすことができることから、空気の供給量を変化させるだけで、容易にラジカル化反応温度を制御することができる。また、発生するMRガスの濃度はラジカル化触媒反応温度に依存することから、上述のように空気の供給量を変化させて反応温度を制御することで、MRガスの濃度を容易に制御することができる。これにより、滅菌対象によって容易にMRガスの濃度を変化させることができ、種々の対象に対して滅菌処理を施すことが可能となる。
【0044】
この筒体12の長辺方向の長さ寸法、すなわち上述したメタノールガス発生装置11と、後述する触媒カートリッジ13との距離は、その距離(L)と筒体12の直径(D)との関係において、L/D=5を満たすように設定することが好ましい。
【0045】
図6に、メタノールガス発生装置11と触媒カートリッジ13との距離に関してL/D=5を満足するように設定した場合の概略模式図(図6(A))と、この構造と触媒温度及び気化温度との関係についての実験結果を示すグラフ(図6(B))である。この図6(B)のグラフに示されるように、上記の距離に関してL/D=5を満足するように設定した場合には、触媒カートリッジ13において温度の安定したラジカル化触媒反応が起こり、MRガスの発生量も1500ppmの高濃度のMRガスが安定的に発生した。なお、このグラフにおいて示される実験においては、空気の供給量を5L/min、メタノール供給量を3ccとしている。
【0046】
一方、図7に、メタノールガス発生装置11と触媒カートリッジ13との距離に関して、L/D<5となるように設定した場合の概略模式図(図7(A))と、この構造と触媒温度及び気化温度との関係についての実験結果を示すグラフ(図7(B))である。この図7(B)のグラフに示されるように、上記の距離に関してL/D<5となるように設定した場合には、気化温度がメタノールの150℃と高温となってしまい、さらに触媒カートリッジ13におけるラジカル化触媒反応の反応温度は一定とはならず不安定で、ラジカル化に必要な反応温度にも到達できず、安定的にMRガスを発生させることができなかった。
【0047】
また、図8に、メタノールガス発生装置11と触媒カートリッジ13との距離に関してL/D>5となるように設定した場合の概略模式図(図8(A))と、この構造と触媒温度及び気化温度との関係についての実験結果を示すグラフ(図8(B))である。この図8(B)のグラフに示されるように、上記の距離に関してL/D>5となるように設定した場合には、気化温度は約120℃で安定したものの、触媒カートリッジ13におけるラジカル化触媒反応の反応温度は一定とはならず不安定で、ラジカル化に必要な反応温度にも到達できず、安定的にMRガスを安定的に発生させることできなかった。なお、図7及び図8に示される実験においても、空気の供給量を5L/min、メタノール供給量を3ccとしている。
【0048】
この実験結果からも判るように、メタノールガス発生装置11と触媒カートリッジ13との距離に関して、L/D=5を満足するように設定することによって、メタノールを気化させるための気化温度を安定にするとともに、触媒カートリッジ13におけるラジカル化触媒反応の反応温度を一定にすることが可能となり、安全かつ安定的にMRガスを発生させることができる。
【0049】
次に、本実施の形態に係るMRガス発生装置10を構成する触媒カートリッジ13について説明する。触媒カートリッジ13は、メタノールガス発生装置11において生成し、筒体12において所定の割合で空気が混合されたメタノールガスを、自己反応に基づく触媒作用による分解反応を起こさせることによってラジカル化し、MRガスを発生させる。
【0050】
図9は、触媒カートリッジ13と触媒カートリッジ13の外周部の構造を概略的に示した模式図である。この図9に示されるように、触媒カートリッジ13は、ハニカム構造を有したラジカル反応触媒30からなる触媒層31と、この触媒カートリッジ13の外周部にあり、触媒層31を囲むように配置された触媒ヒートブロック32と、この触媒カートリッジ13を一時的に加熱するための電熱ヒータ33とが備えられている。自然対流によって筒体12内を通って触媒カートリッジ13へと移行したメタノールガスは、この触媒カートリッジ13における自己反応による触媒作用によって、活発な分解反応を起こしてラジカル化されMRガスとなる。そして、この触媒カートリッジ13において発生したMRガスは、自然対流によって触媒カートリッジ13を出て被処理空間へと移行する。
【0051】
このような構造を有する触媒カートリッジ13は、特に、金属からなる薄板(以下、「金属薄板35a」という。)を、例えば波状形状に成形してなるハニカム構造体を有したラジカル反応触媒30を有していることを特徴としている。メタノールガス発生装置11から120〜130℃の加熱によって発生したメタノールガスが移行してくると、このハニカム構造体からなるラジカル反応触媒30を有する触媒カートリッジ13は、作動開始後約15分〜20分間、電熱ヒータ33によって230〜250℃まで加熱される。そして、その後はメタノールガスの触媒燃焼(自己反応)を開始するとともに、電熱ヒータ33は停止され、ラジカル化反応に必要な温度である450℃〜500℃程度まで自己反応により温度を上昇させてその温度を維持させる。以下では、より具体的にハニカム構造体を形成したラジカル反応触媒30の構造から詳細に説明していく。
【0052】
上述したように、触媒カートリッジ13を構成するラジカル反応触媒30は、金属薄板35aを、例えば波状形状に成形してなるハニカム構造体からなっている。図10は、ハニカム構造を有したラジカル反応触媒30の構造を上部から観察したときの概略模式図である。この図10に示すように、このラジカル反応触媒30は、円筒形状からなっている。より具体的に説明すると、例えば図10中の一部拡大図に示すハニカム構造の一例のように、金属薄板35aを波状に成形し、この波状形状の金属薄板35aと、さらに金属からなる平板(以下、「金属平板35b」という。)とを交互に重ね合わせることによってハニカム構造体を形成し、このハニカム構造体を円筒形状に成形してラジカル反応触媒30を形成し、触媒カートリッジ13を構成している。
【0053】
なお、この触媒カートリッジ13は、上述した円筒形状のものに限られず、金属薄板35aと金属平板35bとを同様に交互に重ね合わせて、四角柱形状や、多角柱形状等、種々の形状に成形することによって構成してもよい。また、ラジカル反応触媒30を形成するハニカム構造体は、上述したような金属薄板を波状形状に成形したなるものに限られるものではなく、金属薄板を山状形状等の種々の形状に成形して、ハニカム構造を形成するようにしてもよい。さらに、図10中の一部拡大図に具体的に示した波状形状に限られるものではなく、例えば金属平板35bを挟んで隣り合う波状形状の金属薄板35aを、互いに位相をずらすようにして配置させてもよい。このようにして隣接する波状形状の金属薄板35aをそれぞれ位相をずらすように配置することによって、メタノールガスの接触表面積をより一層増加させることが可能となり、反応効率をさらに向上させることができる。
【0054】
従来のMRガス発生装置における反応触媒は、その反応触媒の上面を円形状と仮定したとき、直径方向で150〜180mmもの大きさを有し、MRガス発生装置自体が大きくなる原因となっており、装置の小型化を困難にしていた。また、このような150mm以上もの大きさの直径を有する従来の反応触媒の場合には、作動開始してラジカル化反応に必要な450〜500℃程度の熱を電熱ヒータによって発生させなければならず、発生させた後も反応触媒が大きかったために長時間に亘ってその温度を維持させることができず、随時電熱ヒータにより加熱(追いだき加熱)をしつづけなければならなかった。そして、このようにして追いだき加熱しつつ触媒反応を行っていった場合には、当然に、ラジカル化反応温度を一定に維持させることは難しく、その結果安定した濃度を有するMRガスを発生させることができなかった。さらに、上述したように、触媒の内部には随時加熱を繰り返してラジカル化反応に必要な温度を維持させるための電熱ヒータを備えるようにしていたため、触媒のみを交換可能にする簡易なカートリッジ式にすることも困難であり、より一層MRガス発生装置自体を大きくしてしまっていた。
【0055】
またさらに、従来のMRガス発生装置における反応触媒は、例えば珪藻土と金属パイプ等を無秩序に混合させて生成させたものであったため、十分な表面積を確保することができず、またメタノールガスを通過させる通路を一定に固定させることもできず、メタノールに対しばらつきのある不均一なラジカル化反応を起こさせていた。そしてこのことが、ラジカル化触媒反応の温度を変動させる要因にもなっていた。
【0056】
そこで、本実施の形態に係るMRガス発生装置10においては、上述したように、触媒カートリッジ13を、金属薄板をハニカム構造に成形してなるラジカル反応触媒30によって構成し、メタノールガスとラジカル反応触媒30との接触表面積を増加させるとともに、メタノールガスが一定の通路を通過するようにしている。
【0057】
このようにしてラジカル反応触媒30をハニカム構造に成形してメタノールガスとの接触表面積を増加させることによって、触媒反応の反応効率を高め、ラジカル化反応に必要な触媒カートリッジ13の大きさを最小限に抑えることを可能にしている。具体的に、触媒カートリッジ13におけるラジカル反応触媒30の直径方向の大きさを、50〜70mm程度の大きさにすることができ、この大きさで反応効率の高いラジカル化反応を起こすことができる。そして、触媒カートリッジ13の大きさを最小限に抑えることで、容易に交換が可能な形態とすることが可能となっている。また、一定の通路をメタノールガスが通過するようにすることで、ラジカル化反応のばらつきを抑えて一定にし、反応温度の変動を抑制させることを可能にしている。
【0058】
また、上述したように、従来のMRガス発生装置における反応触媒では、ラジカル化反応に必要な温度を維持させるために、電熱ヒータによって触媒を加熱しつつ反応させることが必要となっていた。しかしながら、この本実施の形態におけるラジカル反応触媒30によれば、ハニカム構造に成形して接触表面積を増加させるようにしているので、安定したラジカル化反応を効率的に行うことが可能となり、電熱ヒータ33による随時の加熱を行わなくとも、ラジカル化反応に必要な所定の温度を維持させ、安定した濃度のMRガスを発生させることができる。
【0059】
具体的には、作動開始直後の約15〜20分間の電熱ヒータ33による230〜250℃程度の加熱のみにより、その後はラジカル反応触媒30における自己反応により、ラジカル化反応に必要な約450〜500℃の温度に高めるとともに、その温度を一定に維持し、電熱ヒータ33によって随時加熱しつづけなくても、安定した濃度のMRガスを発生させることができる。そして、このように電熱ヒータ33による随時の加熱を要しないことから、電熱ヒータ33を触媒の内部に備える必要もなく、容易に交換可能なカートリッジ式の触媒とすることができ、装置の小型化を可能にしている。
【0060】
ここで、このハニカム構造を有した触媒カートリッジ13の自己反応における温度維持状態について、さらに詳細に説明する。
【0061】
図示しないが、従来のMRガス発生装置においては、反応触媒の大きさが大きく、また珪藻土と金属パイプ等を無秩序に混合させて形成したものであったため、ラジカル化反応に必要な温度を一定に維持させることが難しく、随時追いだき加熱等を行っていたことから、触媒反応温度に±20℃以上の温度変動を生じさせてしまっていた。そして、この±20℃以上の温度変動は、発生するMRガスの濃度に大きく影響をもたらし、安定した濃度のMRガスを発生させることが容易ではなかった。
【0062】
一方、図11に示すように、ハニカム構造を有した触媒カートリッジ13を備えた、本実施の形態に係るMRガス発生装置10では、その反応効率が向上したことにより、その一部に備えた電熱ヒータ33による作動開始後約15〜20分間程度の約230〜250℃までの加熱のみで、その後は自己反応により、安定的にラジカル化反応に必要な約450〜500℃の温度を維持することができ、温度変動のないラジカル化反応を実現することができる。
【0063】
また、図10に例示したように、波状形状の金属薄板35aと、金属からなる金属平板35bとを交互に重ね合わせることによってハニカム構造に成形したラジカル反応触媒30で触媒カートリッジ13を構成しているので、表面積とメタノールガスが通過する通路を一定に固定することができ、このことによっても、温度変動等の反応変動のないラジカル化反応を実現することができる。なお、図11のグラフに示す実験においては、1mの滅菌対象に対して、メタノール供給量を3cc、空気供給量を3.5L/minを滅菌設定条件とした。
【0064】
また、触媒反応温度の±20℃以上の温度変動は、メタノールガス発生装置11における温度のふらつきにも起因しており、従来のMRガス発生装置においては、そのメタノールガス発生装置において±2℃以上のふらつきが生じていた。一方で、本実施の形態に係るMRガス発生装置10におけるメタノールガス発生装置11では、上述したように、温度を一定に保持する効果の高い素材によって熱媒体21の他、メタノールガス発生装置11の構成要素を構成しているので、メタノールガス発生装置11における温度のふらつきを抑えることが可能となっている。このように、メタノールガス発生装置11を、温度を一定に保持する効果の高い素材を用いて構成することで、120〜130℃の間において±0.5℃程度のふらつきのほとんどない温度制御のもとに、メタノールに対して均等に熱を与えて気化させることが可能となり、触媒カートリッジ13における触媒反応温度の温度変動を抑え、安定した濃度のMRガスを発生させることができる。また、上述したように、このメタノールガス発生装置11では、メタノールタンクから供給されるメタノールを霧状にして噴射することによって加熱気化させるようにしているので、温度を一定に維持した安定状態でメタノールガスを発生させることが可能となり、このメタノールガス発生装置11における温度変動をより一層抑制させることができ、安定した濃度のMRガスを発生させることができる。
【0065】
このラジカル反応触媒30を構成するハニカム構造体は、銅(Cu)、白金(Pt)、ニッケル(Ni)等の種々の遷移金属を用いて成形することができる。本実施の形態においては、例えば銅を用い、薄板銅板を波状形状等に成形してハニカム構造体を形成することにより、表面積を増やし安定した自己反応を行えるようにしている。より具体的には、以下に限定されるものではないが、薄板銅板を波状に成形して表面積を増加させるとともに、さらに例えば銅平板と交互に重ね合わせるようにすることで反応に必要な間隙をつくる。
【0066】
このように、銅等からなる金属薄板35aを波状形状等に成形し、この金属薄板35aと、銅等の金属平板35bとを交互に重ね合わせて表面積を増やすことで、ラジカル反応触媒30の直径方向の長さとして50〜70mm程度の大きさで、ラジカル化に必要な温度まで随時加熱することなく、メタノールガスを効率的に反応させ、一定濃度のMRガスを発生させることができる。また、反応に必要な隙間を形成し、形成した隙間にメタノールガスを一定に通過させることで、安定したラジカル化触媒反応を実現して、温度変動を抑えることができる。なお、交互に重ね合わせるようにしてハニカム構造を形成する波状形状の金属薄板35aと金属平板35bとは、同一の金属を用いても、異なる金属を用いてもよい。
【0067】
また、従来のように、例えば珪藻土粉末を多孔体作成助材等と混練して触媒担体を生成し、その触媒担体に白金等の金属を被覆することによって反応用触媒を形成するようにしなくとも、従来と同等以上の反応効率を実現でき、安価なコストで装置を製造することができる。さらに、珪藻土粉末等を混練等する手間を省き、簡易に反応効率の高いラジカル反応触媒を製造することができる。
【0068】
本実施の形態に係るMRガス発生装置10では、上述したような、ハニカム構造に成形してなるラジカル反応触媒30を複数層積層させて多層構造の触媒層31を形成することが好ましい。さらに触媒層31を形成しているラジカル反応触媒30の金属薄板35aを波状に成形してハニカム構造とした場合には、その金属薄板35aの波状の位相をずらしてラジカル反応触媒30を複数積層させることがより好ましい。
【0069】
図12は、MRガス発生装置10に適用される触媒カートリッジ13の、各ラジカル反応触媒30の位相の様子を説明するために上部から観察した概略模式図(図12(A))と、触媒層31を形成している各ラジカル反応触媒30の波状形状の位相をずらして形成した場合と、位相をずらさずに形成した場合との、気化ガスの流れを説明するための図(図12(B))である。この図12(A)に示すように、触媒層31は、各層を形成しているラジカル反応触媒30の金属薄板35aの波状の位相がずれるようにして構成することができる。なお、図12(A)中においては、各層を構成するハニカム構造を形成する金属薄板35aによる波状の位相を異なる線(実線、破線、一点鎖線)で表示している。
【0070】
このように、各層の金属薄板35aの波状形状の位相をずらすように触媒層31を構成することで、図12(B−1)に示すように、メタノールガスとラジカル反応触媒30の接触表面積をさらに増加させ、ラジカル化触媒反応の反応効率をより向上させることができる。
【0071】
なお、本実施の形態においては、ラジカル反応触媒30を3層または4層に積層させて触媒層31を形成した触媒カートリッジ13について図1及び図12で例示して具体的に説明したが、積層するラジカル反応触媒30の数は、特に限定されるものではない。また、上述したように、ラジカル反応触媒30におけるハニカム構造は、金属薄板35aを波状に成形してなるものに限られるものではなく、例えば山状形状等に成形することによってハニカム構造としてもよく、その場合においてもその形状の位相をずらすようにして複数積層させることが好ましい。
【0072】
また、本実施の形態に係るMRガス発生装置10は、図1に示すように、ハニカム構造からなる触媒層31の底部に珪藻土やシリカ、荒砂等の断熱効果の高い多孔質素材を敷き詰め、輻射熱防止層34を形成するようにしている。
【0073】
触媒層31においては、上述したように、自己反応により約450〜500℃近い温度でラジカル化触媒反応が起こっており、この反応により高温の輻射熱が発生する。このとき、触媒層31より下部に輻射熱防止層34を備えることによって、高温の輻射熱を触媒層31に供給されてくるメタノールに接触してしまうことを防止して安全性を高めるとともに、触媒層31における温度を一定に保持して安定した効率のよい触媒反応を起こさせることを可能にしている。
【0074】
このように、断熱効果を有する素材によって輻射熱防止層34を形成することにより、触媒カートリッジ13の自己反応によって発熱した熱の放散を抑え、温度を一定に維持させることを可能にするとともに、さらに輻射熱がメタノールガス発生装置11に及ぼす影響を少なくすることができる。
【0075】
以上詳細に説明したように、本実施の形態に係るMRガス発生装置10における触媒カートリッジ13は、波状に成形した銅等の金属薄板35aを、金属平板35bとともに交互に組み合わせてハニカム構造体を形成する。さらに好ましくは、そのハニカム構造からなるラジカル反応触媒30を複数層に積み重ねて触媒層31を形成する。これにより、メタノールガスとの接触表面積を増加させることができ、効率的なラジカル化反応を起こさせることができる。
【0076】
また、接触表面積を増加させて反応効率を向上させているので、触媒層31の直径方向の大きさを小さくしても従来と同等以上の反応効率を実現し、触媒カートリッジ13の小型化を可能にする。さらに、反応効率の向上により、随時加熱することによってラジカル化のための触媒反応温度を維持させなくとも、安定した自己反応によりラジカル化触媒反応に必要な温度を一定に維持することができる。また、そのことにより、随時加熱するのに必要な電熱ヒータを触媒の内部に備える必要がなく、触媒をさらに小型化することができるとともに、容易に交換可能なカートリッジ式の触媒を実現することができる。
【0077】
そしてまた、上述のように、この触媒カートリッジ13では、安定した自己反応によるラジカル化触媒反応を可能していることから、筒体12に接続された空気供給部からの空気の供給量を任意に制御することにより、自己反応によるラジカル化触媒反応温度を容易に変動制御することができ、発生させるMRガスの濃度を容易に変化させることが可能となる。これにより、メタノールガスに混合させる空気に供給量を変化させるだけで、滅菌対象によって適した濃度のMRガスを簡単に発生させることができ、種々の対象に対して効率的な滅菌処理を行うことができる。また、このように、適した濃度のMRガスを任意に発生させることができることから、メタノールの供給量を必要最小限に抑えることが可能となり、より安全に装置を使用することができるだけでなく、環境にも適した滅菌処理を実現することができる。
【0078】
次に、上述した本実施の形態に係るMRガス発生装置10を適用した滅菌処理装置について説明する。
【0079】
図13は、本実施の形態に係るMRガス発生装置10を適用した滅菌処理装置40の一例を概略的に示した模式図である。この図13に示すように、滅菌処理装置40は、メタノールタンク41と、MRガス発生装置10’と、滅菌対象物を保持してMRガス発生装置10’から発生したMRガスによって滅菌処理を施す場となる滅菌タンク42とから構成されている。
【0080】
そして、この滅菌処理装置40に備えられたMRガス発生装置10’は、メタノールタンク41からメタノールが供給され、そのメタノールを気化することによってメタノールガスを発生させるメタノールガス発生装置11’と、そのメタノールガス発生装置11’の上方に位置してメタノールガス発生装置11’から発生したメタノールガスを空気と混合させるとともに、発生したメタノールガスを自然対流を利用して上方に案内する流路を形成するために設けられた筒体12’と、メタノールガスの流路上方に取り外し可能な状態で筒体12’に連続して設けられメタノールガスを触媒反応によりラジカル化する触媒カートリッジ13’とから構成されている。そして、この滅菌処理装置40に備えられたMRガス発生装置10’の触媒カートリッジ13’は、波状に成形した金属薄板と金属平板とを交互に重ね合わせて形成したハニカム構造体からなっている。
【0081】
このようなハニカム構造体からなる触媒カートリッジ13’より構成されるMRガス発生装置10’によれば、メタノールガスを効率的にラジカル化させることができ、一定濃度を有したMRガスを安定的に発生させることができる。
【0082】
MRガス発生装置10’から発生したMRガスは、図13中矢印に示すように、滅菌タンク42内を循環し、滅菌対象物43を滅菌する。なお、この滅菌タンク42内においては、滅菌タンク42上部に循環ファン44を設けて、効率的にMRガスを滅菌タンク42内に循環させるようにしてもよい。このようにMRガスを滅菌タンク42内で効率的に循環させることにより、MRガスの濃度を高めることができ、滅菌対象物43に対する滅菌効果をより向上させることができる。
【0083】
また、図示しないが、本実施の形態に係る滅菌処理装置40は、MRガス発生装置10’の触媒カートリッジ13’の構造と同様に金属薄板と金属平板とを交互に重ね合わせて成形したハニカム構造体からなる排気層を有する排気部を備えている。この排気部に装置内に残留したメタノールガスを通過させ、炭酸ガスと水とに分解処理して排気することで、安全性を高めた滅菌処理を施すことができる。
【0084】
また、メタノールタンク41は、特に限定されるものではないが、使いきりのメタノールタンクを適用することができる。すなわち、例えば2L程度の容量からなるメタノールタンクを使用し、このメタノールタンクに収納されたメタノールをすべて2次タンク45に蓄え、この2次タンク45からメタノールガス発生装置11’にメタノールを噴霧して供給する。このようにメタノールを使いきりとすることにより、メタノールを装置内に残留させることなく安全性を高めた滅菌処理を行うことができる。また、2次タンク45に液面保持のための装置を備える必要もなくなり、安価に滅菌処理装置を製造することができる。
【0085】
また、上述した本実施の形態に係るMRガス発生装置10を適用することにより、上述した図13に例示する滅菌処理装置40に示されるような滅菌対象物43を滅菌処理装置40内に静置させて処理する形態としない滅菌処理装置とすることもできる。すなわち、小型化が可能となった本実施の形態に係るMRガス発生装置10を適用した滅菌処理装置を、閉じられた空間に静置し、ラジカル化触媒反応によって発生したMRガスをその閉じられた空間に充満させて、その空間を滅菌させることもできる。このようにすることで、病室等の室内や車内等、従来のMRガス発生装置を用いた滅菌処理装置では実現することができなかった空間に対して滅菌処理を施すことが可能となる。
【0086】
以上説明したように、本実施の形態に係るMRガス発生装置10によれば、金属薄板をハニカム構造に成形してなるラジカル反応触媒30から構成される触媒カートリッジ13を備えているので、メタノールガスと触媒との接触表面積が増加し、ラジカル化触媒反応の効率を高めることができ、触媒による安定した自己反応を生じさせ、一定濃度のMRガスを発生させることができる。
【0087】
また、ハニカム構造を有したラジカル反応触媒30により触媒反応の効率を高めることで、反応触媒の小型化を可能にし、容易に交換可能なカートリッジ式とすることができ、さらにMRガス発生装置自体も小型化することができ、被処理対象の範囲を拡げることが可能となる。
【0088】
例えば、本実施の形態に係るMRガス発生装置を適用することによって、感染病を患った患者を搬送した救急車を滅菌対象として処理することができる。従来のMRガスを用いた滅菌処理装置では、その装置自体が大型であったため、持ち運びも困難で、処理に時間がかかり、数の限られた救急車等を手早く滅菌処理することができなかった。しかしながら、本実施の形態に係る、反応効率を向上させて反応触媒の小型化を実現したMRガス発生装置を適用した滅菌処理装置によれば、容易に持ち運ぶことが可能となり、容易に滅菌処理を施すことが可能となる。
【0089】
また、本実施の形態に係るMRガス発生装置10によれば、筒体上部12aにおける空気の供給量を変化させることにより、触媒の自己反応によるラジカル化反応温度を容易に制御することができるので、発生するMRガスの濃度を容易に変化させることができる。これにより、例えばウイルス等のDNAを破壊することを目的としてMRガスを暴露させる場合には、空気の供給量を増やしてラジカル化反応温度を高め、濃度の高いMRガスを発生させるといったように、滅菌対象によって空気の供給量を変化させて、発生させるMRガスの濃度を変化させることができる。
【0090】
なお、本発明は、上述の実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲での設計変更等があっても本発明に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本実施の形態に係るMRガス発生装置の概略模式図である。
【図2】本実施の形態に係るMRガス発生装置を構成するメタノールガス発生装置の概略模式図である。
【図3】本実施の形態に係るMRガス発生装置を構成するメタノールガス発生装置の他の実施形態の概略模式図である。
【図4】本実施の形態に係るMRガス発生装置におけるメタノール供給量と空気供給量との関係を説明するためのグラフである。
【図5】本実施の形態に係るMRガス発生装置における空気の供給量の変化によるラジカル化触媒反応の温度制御について説明するためのグラフである。
【図6】本実施の形態に係るMRガス発生装置において、メタノールガス発生装置と触媒カートリッジとの距離をL=5Dとした場合の概略模式図(A)と、その場合の触媒温度と気化温度との関係を示したグラフ(B)である。
【図7】本実施の形態に係るMRガス発生装置において、メタノールガス発生装置と触媒カートリッジとの距離をL<5Dとした場合の概略模式図(A)と、その場合の触媒温度と気化温度との関係を示したグラフ(B)である。
【図8】本実施の形態に係るMRガス発生装置において、メタノールガス発生装置と触媒カートリッジとの距離をL>5Dとした場合の概略模式図(A)と、その場合の触媒温度と気化温度との関係を示したグラフ(B)である。
【図9】本実施の形態に係るMRガス発生装置を構成する触媒カートリッジの概略模式図である。
【図10】本実施の形態に係るMRガス発生装置を構成する触媒カートリッジのラジカル反応触媒を上部から観察したときの概略模式図の一例、並びに一部拡大図の一例である。
【図11】本実施の形態に係るMRガス発生装置を構成する触媒カートリッジにおける触媒反応の温度変化を説明するためのグラフである。
【図12】本実施の形態に係るMRガス発生装置を構成する触媒カートリッジのラジカル反応触媒を複数積層した場合における位相のずれを説明するための上面観察した概略模式図(A)と、位相をずらして積層させた場合と位相をずらさずに積層させた場合のメタノールガスの流れを説明するための側面観察した概略模式図である。
【図13】本実施の形態に係るMRガス発生装置を適用した滅菌処理装置の概略模式図である。
【符号の説明】
【0092】
10,10’ MRガス発生装置、11,11’ メタノールガス発生装置、12,12’ 筒体、12a 筒体上部、12b 筒体下部、13,13’ 触媒カートリッジ、14 気化カバー、15 パンチングプレート、16 エアー供給口、20 電熱ヒータ、21 熱媒体、22 気化ノズル、23 ノズル、23’ 混合ノズル、24 メタノール供給用連通管、25 熱電対、26 水供給用連通管、30 ラジカル反応触媒、31 触媒層、32 触媒ヒートブロック、33 電熱ヒータ、34 輻射熱防止層、35a 金属薄板、35b 金属平板、40 滅菌処理装置、41 メタノールタンク、42 滅菌タンク、43 滅菌対象物、44 循環ファン、45 2次タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタノールを気化してメタノールガスを発生させるメタノールガス発生部と、
上記メタノールガス発生部の上方に位置し、該メタノールガス発生部から発生したメタノールガスを自然対流により上方に移行させる流路となるとともに、上記メタノールガスに所定の割合で空気を混合させる筒体部と、
上記筒体部の上方に位置し、該筒体部において上記所定の割合で空気が混合したメタノールガスを触媒反応によりラジカル化する触媒部とを備え、
上記触媒部は、金属薄板をハニカム構造に成形してなるラジカル反応触媒より構成される滅菌ガス発生装置。
【請求項2】
上記触媒部は、上記ラジカル反応触媒を複数積層してなる請求項1記載の滅菌ガス発生装置。
【請求項3】
上記ラジカル反応触媒は、上記金属薄板を波状に成形してなるハニカム構造からなる請求項1又は2記載の滅菌ガス発生装置。
【請求項4】
上記触媒部は、それぞれ上記金属薄板の上記波状の位相をずらして、上記ラジカル反応触媒を複数積層してなる請求項3記載の滅菌ガス発生装置。
【請求項5】
上記触媒部は、交換可能に設けられてなる請求項1乃至4の何れか1項に記載の滅菌ガス発生装置。
【請求項6】
メタノールガスを発生させるメタノールガス発生部と、該メタノールガス発生部の上方に位置し、該メタノールガス発生部から発生したメタノールガスを自然対流により上方に移行させる流路となるとともに、該メタノールガスに所定の割合で空気を混合させる筒体部とを備える滅菌ガス発生装置に交換可能に設けられる触媒カートリッジであって、
金属薄板をハニカム構造に成形してなるラジカル反応触媒より構成され、上記筒体部の上方に位置し、該筒体部において上記所定の割合で空気が混合したメタノールガスを触媒反応によりラジカル化する触媒カートリッジ。
【請求項7】
当該触媒カートリッジは、上記ラジカル反応触媒を複数積層してなる請求項6記載の触媒カートリッジ。
【請求項8】
上記ラジカル反応触媒は、上記金属薄板を波状に成形してなるハニカム構造からなる請求項6又は7記載の触媒カートリッジ。
【請求項9】
当該触媒カートリッジは、それぞれ上記金属薄板の上記波状の位相をずらして、上記ラジカル反応触媒を複数積層してなる請求項8記載のラジカル反応触媒。
【請求項10】
メタノールを気化してメタノールガスを発生させるメタノールガス発生部と、
上記メタノールガス発生部の上方に位置し、該メタノールガス発生部から発生したメタノールガスを自然対流により上方に移行させる流路となるとともに、上記メタノールガスに所定の割合で空気を混合させる筒体部と、
上記筒体部の上方に位置し、該筒体部において上記所定の割合で空気が混合したメタノールガスを触媒反応によりラジカル化する触媒部とを有し、
上記触媒部は、金属薄板をハニカム構造に成形してなるラジカル反応触媒より構成される滅菌ガス発生装置を備えた滅菌処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−51692(P2010−51692A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−221628(P2008−221628)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【特許番号】特許第4292234号(P4292234)
【特許公報発行日】平成21年7月8日(2009.7.8)
【出願人】(308020618)株式会社 ウイズシステムズ (1)
【出願人】(302006658)株式会社シーライブ (5)
【Fターム(参考)】