説明

滅菌システム

【課題】 処理空間(2)に設置された滅菌対象物(3)を滅菌剤で処理する滅菌システムにおいて、構成の複雑化を抑えるとともに、滅菌対象物(3)を確実に滅菌できるようにする。
【解決手段】 滅菌剤を発生する滅菌装置(10)と、この滅菌装置(10)で発生した滅菌剤を滅菌対象物(3)が設置された処理空間(2)へ導入する導入通路(20)とを備えた滅菌システムにおいて、処理空間(2)内で滅菌対象物(3)を覆う通気性のカバー部材(30)を設け、導入通路(20)には、滅菌装置(10)で発生した滅菌剤をカバー部材(30)内へ放出し、このカバー部材(30)を介して処理空間(2)へ導入する第1導入通路(23)を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理空間に設置された滅菌対象物を過酸化水素などの滅菌剤で処理する滅菌システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、この種の滅菌システムとしては、閉空間を構成するアイソレータの中に滅菌対象物として医薬品用の処理装置を配置し、該アイソレータ内で上記処理装置を滅菌するようにしたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この特許文献1の滅菌システムでは、アイソレータに外気供給回路と滅菌剤供給回路が接続されている。外気供給回路は、給気ファンにより外気をアイソレータ内に導入するように構成されている。また、滅菌剤供給回路には滅菌剤として過酸化水素を発生させる過酸化水素発生器が設けられており、該滅菌剤供給回路の吸気口がアイソレータの下部に設けられた排気ダクトに接続されるとともに、該回路のガス供給口がアイソレータの上部に設けられた外気導入室に接続されている。
【0004】
そして、上記滅菌システムでは、外気供給回路からアイソレータ内に外部の空気を導入した後に、過酸化水素発生器で発生させた過酸化水素を滅菌剤としてアイソレータ内に供給するようにしている。また、その後は、アイソレータ内の過酸化水素を含むガスを、滅菌剤供給回路によってアイソレータの排気ダクト側から外気導入室側へ戻して循環させるようにしている。
【0005】
上記従来のシステムでは、アイソレータ内の医薬品処理装置にカバーを設けるとともに、アイソレータ内に導入した過酸化水素を、アイソレータの外部に設けた循環ファンを通して上記カバー内に噴射する噴射回路を設け、滅菌対象物である医薬品処理装置を確実に滅菌できるようにしている。
【特許文献1】特開2001−000514号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記システムでは、アイソレータに外気供給回路と滅菌剤供給回路と噴射回路を設け、各回路にファンを設ける必要があるため、構成が複雑になってしまうという問題があった。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、処理空間に設置された滅菌対象物を滅菌剤で処理する滅菌システムにおいて、構成の複雑化を抑えながら、滅菌対象物を確実に滅菌できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、滅菌剤を発生する滅菌装置(10)と、該滅菌装置(10)で発生した滅菌剤を滅菌対象物(3)が設置された処理空間(2)へ導入する導入通路(20)とを備えた滅菌システムを前提としている。
【0009】
そして、この滅菌システムは、上記処理空間(2)内で滅菌対象物(3)を覆う通気性のカバー部材(30)を備え、上記導入通路(20)が、滅菌剤を上記カバー部材(30)内へ放出し、該カバー部材(30)を介して上記処理空間(2)へ導入する第1導入通路(23)を備えていることを特徴としている。
【0010】
この第1の発明では、滅菌装置(10)で発生した滅菌剤(例えば過酸化水素)は、第1通路を通ってカバー部材(30)の中に放出される。カバー部材(30)は滅菌対象物(3)を覆っており、滅菌剤は滅菌対象物(3)が複雑な形状であっても、該滅菌対象物(3)をを直接的に滅菌処理する。その後、カバー部材(30)の中に滅菌剤が充満すると、滅菌剤はカバー部材(30)の通気孔を通って処理空間(2)へ噴出し、処理空間(2)内で分散する。したがって、処理空間(2)内でも均一な滅菌処理が行われる。
【0011】
第2の発明は、第1の発明において、導入通路(20)が、滅菌装置(10)で発生した滅菌剤を処理空間(2)内へ直接に導入する第2導入通路(24)を備えていることを特徴としている。
【0012】
この第2の発明では、滅菌剤は、第1導入通路(23)からカバー部材(30)の通気孔を通って処理空間(2)に間接的に導入されるのに加えて、第2導入通路(24)から処理空間(2)に直接的にも導入される。
【0013】
第3の発明は、第2の発明において、処理空間(2)の下方に滅菌対象物(3)が設置され、カバー部材(30)が滅菌対象物(3)の全体を上方から覆うように構成され、第1導入通路(23)がカバー部材(30)の下部に接続され、第2導入通路(24)が処理空間(2)におけるカバー部材(30)の上方に配置されていることを特徴としている。
【0014】
この第3の発明では、カバー部材(30)の下部に設けられた第1導入通路(23)からカバー部材(30)内に滅菌剤が導入される。このため、特に滅菌対象物(3)の脚部など、滅菌剤が行き渡りにくいところでも十分な滅菌効果を得ることができる。また、処理空間(2)におけるカバー部材(30)の上方には第2導入通路(24)が設けられているため、第1導入通路(23)を通ってカバー部材(30)の中に供給された滅菌剤がカバー部材(30)の通気孔から噴出する前に処理空間(2)の全体に滅菌剤を供給できる。
【0015】
第4の発明は、第1,第2または第3の発明において、処理空間(2)に設けられた排気口(2a)と滅菌装置(10)とに接続され、処理空間(2)内のガスを滅菌装置(10)に戻すための循環通路(40)を備えていることを特徴としている。
【0016】
この第4の発明では、処理空間(2)内の空気を循環通路(40)によって処理空間(2)の出口側から入口側へ循環させるようにしているので、空気を無駄なく使うことができ、効率のよい運転が可能となる。
【0017】
第5の発明は、第4の発明において、循環通路(40)には、滅菌剤を分解する分解装置(41)が設けられていることを特徴としている。
【0018】
この第5の発明では、処理空間(2)内のガス中に含まれる過酸化水素などの滅菌剤を分解装置(41)で分解しながら滅菌装置(10)に戻し、再度滅菌剤を発生させて空気と混合し、処理空間(2)のカバー部材(30)の中へ供給することで滅菌対象物(3)の滅菌処理を行う。
【0019】
第6の発明は、第5の発明において、循環通路(40)には、分解装置(41)の下流側で分岐する排気通路(43)が接続されていることを特徴としている。
【0020】
この第6の発明では、循環通路(40)において、分解装置(41)で滅菌剤が分解されたガスが排気通路(43)を通って排気される。
【0021】
第7の発明は、第6の発明において、処理空間(2)内の圧力を外部空間の圧力よりも高圧に保持する圧力調整機構(47)を備えていることを特徴としている。
【0022】
また、第8の発明は、第7の発明において、圧力調整機構(47)が、処理空間(2)からの排気流量を調整するように排気通路(43)に設けられた排気流量調整弁(44)と、処理空間(2)内の圧力を検出する圧力センサ(45)と、圧力センサ(45)の検出値に基づいて排気流量調整弁(44)の開度を制御する制御器(46)とを備えていることを特徴としている。
【0023】
この第7,第8の発明では、例えば排気流量調整弁(44)の開度を圧力センサ(45)の検出値に基づいて調整することにより、処理空間(2)内の圧力を外部空間内の圧力よりも高圧に保持することができる。
【0024】
第9の発明は、第1の発明から第8の発明の何れか1つにおいて、滅菌剤が過酸化水素であることを特徴としている。
【0025】
この第9の発明では、滅菌剤として過酸化水素を用いた滅菌システムにおいて、処理空間(2)内の滅菌対象物(3)を通気性のカバー部材(30)で覆い、該カバー部材(30)の中に過酸化水素を供給することにより、滅菌対象物(3)の確実な滅菌処理と処理空間(2)の均一な滅菌処理とを行うことができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、処理空間(2)内で滅菌対象物(3)を覆う通気性のカバー部材(30)を設け、導入通路(20)に、滅菌剤を上記カバー部材(30)内へ放出し、該カバー部材(30)を介して上記処理空間(2)へ導入する第1導入通路(23)を設けているため、滅菌剤で滅菌対象物(3)を直接的に、つまり確実に処理できる。このため、滅菌効果が短時間で所定のレベルに到達する。
【0027】
また、カバー部材(30)に通気性を持たせるだけで処理空間(2)内まで滅菌処理できるため、従来技術で説明したシステムとは違って複数のファンは不要であり、構成を簡単にすることもできる。
【0028】
上記第2の発明によれば、導入通路(20)に、滅菌装置(10)で発生した滅菌剤を処理空間(2)内へ直接に導入する第2導入通路(24)を設けたことにより、滅菌剤が、第1導入通路(23)からカバー部材(30)の通気孔を通って処理空間(2)に間接的に導入されるのに加えて、第2導入通路(24)から処理空間(2)に直接的にも導入されるので、装置の起動直後から処理空間(2)内の全体で十分な滅菌効果を得ることができる。
【0029】
上記第3の発明によれば、処理空間(2)の位置と、それに対するカバー部材(30)の位置関係及び第1導入通路(23)と第2導入通路(24)の位置関係を上記のように特定したことによって、カバー部材(30)の中での滅菌効果を高めると同時に、処理空間(2)における滅菌効果も十分に高めることが可能となる。
【0030】
上記第4の発明によれば、処理空間(2)に設けられた排気口(2a)と滅菌装置(10)とに接続され、処理空間(2)内のガスを滅菌装置(10)に戻すための循環通路(40)を設けたことにより、処理空間(2)内の空気を循環通路(40)によって処理空間(2)の出口側から入口側へ循環させることができるため、空気を無駄なく使って効率のよい運転を行うことが可能となる。また、循環通路(40)にフィルタを設ける場合には、フィルタの寿命も長くなる。
【0031】
上記第5の発明によれば、循環通路(40)に、滅菌剤を分解する分解装置(41)を設けたことにより、循環させるガス中の滅菌剤を分解装置(41)で分解しながら、滅菌装置(10)で発生させた滅菌剤を再度供給することにより、ガス中の滅菌剤の濃度が安定した状態での運転が可能となる。
【0032】
上記第6の発明によれば、循環通路(40)に、分解装置(41)の下流側で分岐する排気通路(43)を接続したことにより、循環通路(40)において、分解装置(41)で滅菌剤が分解されたガスが排気通路(43)を通って排気されるので、滅菌剤が誤って排気されるのを防止できる。
【0033】
上記第7の発明によれば、処理空間(2)内の圧力を外部空間の圧力よりも高圧に保持する圧力調整機構(47)を設け、上記第8発明によれば、圧力調整機構(47)を、処理空間(2)からの排気流量を調整するように排気通路(43)に設けられた排気流量調整弁(44)と、処理空間(2)内の圧力を検出する圧力センサ(45)と、圧力センサ(45)の検出値に基づいて排気流量調整弁(44)の開度を制御する制御器(46)とを備えた構成にしている。したがって、例えば排気流量調整弁(44)の開度を圧力センサ(45)の検出値に基づいて調整することにより、処理空間(2)内の圧力を外部空間内の圧力よりも高圧に保持することができるので、外部の菌が処理空間(2)の中へ侵入するのを防止できる。
【0034】
上記第9の発明によれば、滅菌剤として過酸化水素を用いた滅菌システムにおいて、処理空間(2)内の滅菌対象物(3)を通気性のカバー部材(30)で覆い、該カバー部材(30)の中に過酸化水素を供給することにより、滅菌対象物(3)の確実な滅菌処理と処理空間(2)の均一な滅菌処理とを行うことができるほか、第2から第8の発明の効果を奏することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0036】
図1は、この実施形態に係る滅菌システム(1)の構成図である。この滅菌システム(1)は、滅菌剤として過酸化水素を発生する滅菌装置(10)と、該滅菌装置(10)で発生した過酸化水素を含む処理ガスを処理空間(2)へ導入する導入通路(20)とを備えている。この導入通路(20)には、後述するように、空気導入通路(21)と過酸化水素導入通路(22)とが含まれている。上記処理空間(2)は、滅菌対象物として医薬品製造ラインなどの設置物(3)が設置された、滅菌対象となる室内空間である。上記滅菌装置(10)はこの処理空間(2)の外に配置されている。また、処理空間(2)内には、該空間(2)内の過酸化水素濃度を検出するための濃度センサ(図示せず)が設けられている。
【0037】
この滅菌システム(1)には、上記処理空間(2)内で設置物(3)を覆う通気性のカバー部材(30)が設けられている。このカバー部材(30)は、多孔質の材料で形成されたものであり、例えば不織布を用いて形成することができる。
【0038】
上記導入通路(20)は、上記滅菌装置(10)で発生した過酸化水素を上記カバー部材(30)内へ放出することにより、上記過酸化水素を該カバー部材(30)の通気孔を介して上記処理空間(2)へ導入する第1導入通路(23)と、上記滅菌装置(10)で発生した過酸化水素を上記処理空間(2)内へ直接に導入する第2導入通路(24)とを備えている。第1導入通路(23)と第2導入通路(24)は、滅菌装置(10)に接続された基管(25)から分岐して設けられている。
【0039】
上記医薬品製造ライン(3)は処理空間(2)の下方に設置され、カバー部材(30)は医薬品製造ライン(3)の全体を上方から覆うように構成されている。そして、上記第1導入通路(23)がカバー部材(30)の下部に接続される一方、第2導入通路(24)は処理空間(2)におけるカバー部材(30)の上方に配置されている。この第2導入通路(24)は、図示していないが、処理空間(2)の全体にわたって複数列に配置されている。また、各第2導入通路(24)には、過酸化水素を下向きや斜め下向きに吹き出す複数の吹出ノズル(26)が設けられている。
【0040】
上記処理空間(2)には、排気口(2a)が設けられている。この排気口(2a)と滅菌装置(10)とには、処理空間(2)内のガスを滅菌装置(10)に戻し、ガスを該滅菌装置(10)から再び処理空間(2)へ供給するための循環通路(40)が接続されている。なお、この循環通路(40)は、より詳細には、上記排気口(2a)と、後述する除湿器(52)(図2〜図4参照)の空気流入側とに接続され、処理空間(2)内のガスを除湿器(52)の第1通路(P1) 側(下記参照)に導入するように構成されている。循環通路(40)には、過酸化水素を分解する分解装置(41)と、該循環通路(40)におけるガス流量を調整する循環流量調整弁(42)とが設けられている。
【0041】
上記循環通路(40)には、分解装置(41)の下流側で分岐する排気通路(43)が接続されている。この排気通路(43)には、該排気通路(43)におけるガス流量(処理空間(2)からの排気流量)を調整する排気流量調整弁(44)が設けられている。処理空間(2)から排出されるガスは、分解装置(41)を通過する際に過酸化水素が分解除去されたガスである。
【0042】
上記処理空間(2)の内部には、該処理空間(2)の圧力を検出する圧力センサ(45)が設けられている。また、この圧力センサ(45)と上記排気流量調整弁(44)との間には、圧力センサ(45)の検出値に基づいて排気流量調整弁(44)の開度を制御する制御器(46)が接続されている。そして、上記排気流量調整弁(44)、圧力センサ(45)、及び制御器(46)により、処理空間(2)内の圧力を制御する圧力調整機構(47)が構成されている。この圧力調整機構(47)は、処理空間(2)内の圧力を外部空間の圧力よりも高圧に保持するように構成されている。
【0043】
次に、滅菌装置(10)の具体的な構成について図2〜図4を参照して説明する。図2は滅菌装置(10)の概略構成図である。この図2に示すように、滅菌装置(10)は、滅菌剤である過酸化水素を発生する過酸化水素発生器(51)と、空気を減湿する上述の除湿器(52)とを備えている。
【0044】
上記導入通路(20)には、前述したように、空気導入通路(21)と過酸化水素導入通路(22)とが含まれている。空気導入通路(21)は、上記除湿器(52)を通った空気を処理空間(2)へ導入するように構成され、過酸化水素導入通路(22)は、過酸化水素発生器(51)で発生した過酸化水素を滅菌対象となる処理空間(2)へ導入するために設けられている。そして、上記過酸化水素発生器(51)は、上記除湿器(52)と処理空間(2)との間で空気導入通路(21)に接続されている。このことにより、除湿器(52)を通って減湿された空気と過酸化水素との混合ガスが処理空間(2)に導入されるようになっている。
【0045】
図3は除湿器(52)の構成図、図4は除湿器(52)の要部を示す詳細構成図である。除湿器(52)は、ハニカム状で軸方向へ通気性を有する円板部材を基材として表面に吸着材を担持した吸着ロータ(53)を用いたタイプの除湿器(52)である。吸着ロータ(53)は水分の吸脱着が可能であり、吸着側の第1空気が流れる第1通路(P1)と脱着側(再生側)の第2空気が流れる第2通路(P2)とに跨って配置されている。吸着側では、第1空気中の水分が吸着ロータ(53)の吸着剤に吸着されることで第1空気が減湿され、脱着側では、吸着ロータ(53)の吸着剤に吸着されている水分が第2空気に放出されることで該吸着ロータ(53)が再生される。
【0046】
また、この吸着ロータ(53)は、第1通路(P1)と第2通路(P2)の間の位置を回転中心として、連続的あるいは断続的に回転するように構成されている。したがって、吸着ロータ(53)は、第1通路(P1)側で水分を吸着した部分が第2通路(P2)側へ移動すると第2空気へ水分を放出して再生され、第2通路(P2)側で再生された部分は次に第1通路(P1)側へ移動すると第1空気中の水分を吸着する。
【0047】
上記循環通路(40)は、第1通路(P1)の空気流入側に接続されている。この第1通路(P1)における吸着ロータ(53)の上流側には、第1空気の流れ方向に沿って、第1空気中の塵埃を除去するプレフィルター(54)と、該第1空気を冷却するプレクーラー(55)(冷却器)とが順に配置されている。この第1通路(P1)における吸着ロータ(53)の下流側には、第1空気の流れ方向に沿って、第1空気の空気流れを生み出す処理ファン(56)と、該第1空気を冷却するアフタークーラー(57)(冷却器)と、処理後の第1空気の温度や湿度を検出する温湿度センサ(62)とが順に配置されている。
【0048】
上記プレクーラー(55)とアフタークーラー(57)は、いずれも冷水が流れて空気を冷却するクロスフィン型のフィン・アンド・チューブ熱交換器である。これらのプレクーラー(55)とアフタークーラー(57)は、詳細は図示していないが蒸気圧縮式冷凍サイクルを行う冷媒回路を備えたチラー(61)と接続され、冷媒回路の冷媒により冷却された冷水がチューブ内を流れるようになっている。
【0049】
第2通路(P2)における吸着ロータ(53)の上流側には、第2空気を加熱する加熱器(58)が配置されている。また、第2通路(P2)における吸着ロータ(53)の下流側には、第2空気の空気流れを生み出す再生ファン(59)が配置されている。上記処理ファン(56)と再生ファン(59)は、インバータ(63)によりモータの回転速度制御が可能であり、風量調整を行うことができるようになっている。
【0050】
上記除湿器(52)には、上記温湿度センサ(62)の検出値に基づいて加熱器(58)の加熱能力を調節する調節器(64)と、電源(図示せず)に接続された電圧変換器(65)とが設けられている。そして、温湿度センサ(62)が調節器(64)に接続され、調節器(64)は電圧変換器(65)を介して加熱器(58)に接続されている。この構成によれば、第1通路(P1)における処理後の空気の温湿度を検知して絶対湿度を演算し、それに基づいて上記加熱器(58)における加熱量を制御することにより、吸着ロータ(53)を通過した第1空気の湿度を一定に保つことができる。
【0051】
一方、本実施形態の除湿器(52)では、吸着ロータ(53)を含めて、プレフィルター(54)、プレクーラー(55)、処理ファン(56)、アフタークーラー(57)、及び温湿度センサ(62)などは、分解装置(41)を作動させないときに処理空間(2)から戻ってくるガスに過酸化水素が含まれるため、過酸化水素に対して耐食性を有する材料により構成されている。このような材料としては、例えばアルミニウムを用いることが可能であるが、アルミニウムに限らず、上記の耐食性を有する材料であれば適宜使用することが可能である。
【0052】
−運転動作−
次に、この実施形態に係る滅菌システム(1)の運転動作を説明する。
【0053】
まず、図1における滅菌時の動作について説明する。滅菌装置(10)を起動すると、該滅菌装置(10)において発生した過酸化水素が空気とともに導入通路(20)を流れ、第1導入通路(23)と第2導入通路(24)とに分岐する。
【0054】
第1導入通路(23)側では、過酸化水素が医薬品製造ライン(3)を覆ったカバー部材(30)内へ導入され、例えば該医薬品製造ライン(3)における装置の脚部周辺など、過酸化水素濃度が薄くなりがちな部分にまで均一に行き渡る。過酸化水素は、カバー部材(30)内に充満すると、該カバー部材(30)が多孔質であるため、カバー部材(30)から外へ向かって噴出する。
【0055】
また、第2導入通路(24)では、該第2導入通路(24)に設けられた複数の吹出ノズル(26)から処理空間(2)へ、過酸化水素が直接に吹き出される。処理空間(2)内の圧力は、排気通路(43)に設けられている排気流量調整弁(44)の開度を調整することにより、室外空間よりも高めに設定されている。このことにより、外部からの菌の侵入を防ぐことができる。
【0056】
処理空間(2)における過酸化水素の濃度が所定値に達したことを、図示していない濃度センサの検出値から検知すると、循環通路(40)に設けられている循環流量調整弁(42)の開度が調整される。こうすることにより、処理空間(2)内のガスを、分解装置(41)、循環通路(40)、滅菌装置(10)、及び導入通路(20)の順に通して再度処理空間(2)内に戻す操作が行われる。つまり、ガスが閉回路を循環する。
【0057】
過酸化水素を含むガスは、分解装置(41)で分解された後、一部は排気通路(43)に設けられている排気流量調整弁(44)を通って排気することができる。その際、この排気流量調整弁(44)の開度を調整することにより、上述したように室内空間の圧力が室外空間よりも高くなるように設定される。
【0058】
次に、滅菌装置(10)における具体的な空気の処理について説明する。
【0059】
吸着ロータ(53)の第1通路(P1)側では、処理空間(2)から戻ってきた空気(第1空気)がプレフィルター(54)を通過し、該第1空気に含まれる塵埃がプレフィルター(54)で除去されるとともに、該第1空気がプレクーラー(55)で冷却される。この第1空気は、吸着ロータ(53)を通過する際に水分が吸着剤に吸着され、減湿される。減湿された第1空気は、処理ファン(56)を通った後、アフタークーラー(57)で冷却される。そして、該第1空気は、温湿度センサ(62)で温度と湿度が検出された後に、空気導入通路(21)を処理空間(2)へ向かって流れていく。
【0060】
このとき、過酸化水素発生器(51)では過酸化水素が発生しており、過酸化水素導入通路(22)を通って上記第1空気に過酸化水素が合流する。第1空気は低湿度の空気であり、そこに過酸化水素が混合されると、過酸化水素は瞬時に蒸発して第1空気中に均一に分散する。
【0061】
このようにして過酸化水素を均一な分散状態で含んだ第1空気は、第1導入通路(23)からカバー部材(30)内に供給されるとともに、第2導入通路(24)からは、処理空間(2)におけるカバー部材(30)の外側にも供給される。したがって、処理空間(2)内は全体的に過酸化水素が均一に分散した状態となる。特に、カバー部材(30)内は医薬品製造ライン(3)の周りに生じがちな、いわゆるデッドスポット(通常であれば過酸化水素濃度が周囲に比べて低くなってしまう部位)にまで均一に行き渡る。
【0062】
また、吸着ロータ(53)の第2通路(P2)側では、再生用の第2空気が加熱器(58)を流れる際に、温湿度センサ(62)の検出値に応じて加熱器(58)の加熱量が制御される。このことにより、吸着ロータ(53)における第2通路(P2)側での再生量が調整され、第1空気が設定値よりも高湿度のときには第1通路(P1)での吸着量を増やすために第2通路(P2)での再生量が多めに設定され、第1空気が設定値よりも低湿度のときには第1通路(P1)での吸着量を減らすために第2通路(P2)での再生量が少なめに設定される。こうすることにより、第1空気の湿度を常に一定に保つ制御が可能となる。なお、第2通路(P2)において吸着ロータ(53)を通過した再生後の空気は、再生ファン(59)を通って室外へ排出される。
【0063】
−実施形態の効果−
本実施形態によれば、処理空間(2)内に設けられる医薬品製造ライン(3)などの設置物(3)を通気性のカバー部材(30)で覆い、第1導入通路(23)からこのカバー部材(30)内に過酸化水素を導入するようにしているので、設置物(3)の周りにおける滅菌効果を高められるとともに、システム全体としての構成の複雑化も防止できる。特に、第1導入通路(23)をカバー部材(30)の下部に接続しているので、デッドスポットになりやすい設置物(3)の脚部周りなどの滅菌効果を高め、所定の滅菌レベルを短時間で得ることができる。
【0064】
また、この実施形態では、過酸化水素が、カバー部材(30)の通気孔を通って処理空間(2)内に供給されるうえ、第2導入通路(24)からも処理空間(2)に供給されるので、処理空間(2)内における過酸化水素の濃度分布が均一になる効果もある。
【0065】
さらに、この実施形態では処理空間(2)内の空気を循環通路(40)によって処理空間(2)の出口側から入口側へ循環させるようにしているので、空気を無駄なく使うことができ、効率のよい運転が可能となる。特に、空気を循環させながら除湿するようにしているので、高い滅菌効果を得ることができるし、湿度のコントロールもしやすくなる。
【0066】
また、循環させるガス中の過酸化水素を分解装置(41)で分解しながら、過酸化水素発生器(51)で発生させた過酸化水素を供給することにより、ガス中の過酸化水素濃度が安定するし、排気中に過酸化水素が含まれることもない。
【0067】
本実施形態では、以上説明した効果に加えて以下のような効果も奏することができる。
【0068】
まず、上記導入通路(20)に、上記除湿器(52)を通った空気を処理空間(2)へ導入する空気導入通路(21)と、上記除湿器(52)と処理空間(2)との間で過酸化水素発生器(51)と空気導入通路(21)とを接続する過酸化水素導入通路(22)とが含まれる構成にしている。このため、過酸化水素発生器(51)で発生した過酸化水素が過酸化水素導入通路(22)を流れた後、空気導入通路(21)において減湿された空気に合流するときに過酸化水素が瞬間的に蒸発して空気中に均一に分散してから、過酸化水素を含む空気が導入通路(20)を通って処理空間(2)に導入される。したがって、処理空間(2)における過酸化水素の濃度が均一になり、デッドスポットができるのを効果的に防止できる。
【0069】
また、この実施形態によれば、第1通路(P1)と第2通路(P2)の間を中心として回転可能な吸着ロータ(53)を用い、第2通路(P2)における吸着ロータ(53)の上流側に加熱器(58)を配置しているため、該吸着ロータ(53)の第1通路(P1)側で第1空気を減湿しながら第2通路(P2)側の部分を再生する運転を連続して行うことができる。したがって、処理空間(2)に供給される空気(第1空気)は常に低湿度の空気であり、この空気に過酸化水素が混合されるので、処理空間(2)内の過酸化水素濃度を常に均一に保つことができる。
【0070】
なお、この種の滅菌システムでは、一般に処理空間(2)内が低湿度である方が高い滅菌効果が得られることが知られている。しかし、上記従来の滅菌システムでは、アイソレータ内に供給する空気に低湿度の空気を用いたとしても、低湿度の空気をアイソレータの空間内に供給した後に過酸化水素を供給することにより該空間の湿度が上昇し、滅菌効果が低下してしまう。これに対して、本実施形態によれば除湿器(52)を連続運転することで第1空気の湿度を常に一定に保つ制御が可能であるため、滅菌効果が低下するのも防止できる。
【0071】
また、処理空間(2)における空気の湿度と過酸化水素濃度との相関関係については現状では明確になっていない。そこで、本実施形態の滅菌システム(1)を用いれば、処理空間(2)内の湿度と過酸化水素濃度を連続的に測定し、データとして蓄積することにより、空気の湿度に対して効果の高い過酸化水素濃度を見いだす使い方も可能である。
【0072】
さらに、第1通路(P1)における吸着ロータ(53)の上流側と、該吸着ロータ(53)の下流側で該吸着ロータ(53)と温湿度センサ(62)との間とに、それぞれ冷却器(55,57)を設けたことにより、第1空気は、冷却器(55,57)により冷却され、かつ吸着ロータ(53)により減湿されてから過酸化水素と混合されて処理空間(2)に供給される。特に、吸着ロータ(53)の上流側で第1空気を冷却することにより、吸着ロータ(53)における吸着性能を高め、より低湿度の空気を処理空間(2)に送ることができる。
【0073】
また、除湿器(52)の構成部材を過酸化水素に対して耐食性を有する材料により構成しているので、除湿器(52)の構成部材を過酸化水素が流れたとしても、これら構成部材が過酸化水素によって腐食しない。したがって、除湿器(52)がすぐに損傷したりすることはなく、十分に実用に耐えることのできる滅菌システムを設計することが可能となる。
【0074】
−実施形態の変形例−
上記実施形態において、上記分解装置(41)は、常に作動させながら分解後の無害なガスを滅菌装置(10)に戻すようにしてもよいし、分解装置(41)の機能を停止させることで処理空間(2)内の過酸化水素を含むガスをそのまま滅菌装置(10)に戻すようにしてもよい。その場合、過酸化水素の濃度が必要十分な値に達すると過酸化水素発生器(51)を停止させて、循環のみを行うようにするとよい。
【0075】
また、上記実施形態では、第1通路(P1)における処理後の空気の温湿度を検知して絶対湿度を演算し、それに基づいて上記加熱器(58)の加熱量を制御することにより、吸着ロータ(53)を通過した第1空気の湿度を一定に保つようにしているが、上記温湿度センサ(62)の代わりに露点温度センサを用いて第1空気の絶対湿度を求めるようにしてもよい。このようにしても、上記加熱器(58)の加熱量を制御することにより、吸着ロータ(53)を通過した第1空気の湿度を一定に保つことができる。
【0076】
《その他の実施形態》
上記実施形態については、以下のような構成としてもよい。
【0077】
例えば、上記実施形態では第1導入通路(23)に加えて第2導入通路(24)を設けているが、第2導入通路(24)は必ずしも設けなくてもよい。また、通気性のカバー部材(30)は、必ずしも不織布に限らず、それ以外の材料で通気性を有するものを用いて形成してもよい。
【0078】
また、処理空間(2)内における設置物(3)の設置位置や、この設置物(3)と第2導入通路(24)との位置関係などは処理空間(2)の形状などに応じて適宜変更してもよいし、設置物(3)も医薬品製造ライン以外のものであってもよい。
【0079】
また、上記実施形態では除湿器(52)として吸着ロータ(53)を用いたものを使用しているが、他の方式の除湿器を用いてもよい。
【0080】
このように、本発明は、過酸化水素などの滅菌剤を含むガスを、処理空間(2)内に設置された滅菌対象物(3)を覆う通気性のカバー部材(30)内に供給するようになっている限り、その他の具体的な構成は適宜変更してもよい。
【0081】
さらに、滅菌剤を含むガスとしては、過酸化水素を含むガスのほか、例えばオゾンやホルムアルデヒドの水溶液を含むガスを用いてもよい。
【0082】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0083】
以上説明したように、本発明は、処理空間に設置された滅菌対象物を過酸化水素などの滅菌剤で処理する滅菌システムについて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の実施形態に係る滅菌システムの構成図である。
【図2】滅菌装置の概略構成図である。
【図3】除湿器の構成図である。
【図4】除湿器の要部を示す詳細構成図である。
【符号の説明】
【0085】
1 滅菌システム
2 処理空間
2a 排気口
3 滅菌対象物
10 滅菌装置
20 導入通路
23 第1導入通路
24 第2導入通路
30 カバー部材
40 循環通路
41 分解装置
43 排気通路
44 排気流量調整弁
45 圧力センサ
46 制御器
47 圧力調整機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
滅菌剤を発生する滅菌装置(10)と、該滅菌装置(10)で発生した滅菌剤を滅菌対象物(3)が設置された処理空間(2)へ導入する導入通路(20)とを備えた滅菌システムであって、
上記処理空間(2)内で滅菌対象物(3)を覆う通気性のカバー部材(30)を備え、
上記導入通路(20)は、滅菌剤を上記カバー部材(30)内へ放出し、該カバー部材(30)を介して上記処理空間(2)へ導入する第1導入通路(23)を備えていることを特徴とする滅菌システム。
【請求項2】
請求項1において、
導入通路(20)は、滅菌装置(10)で発生した滅菌剤を処理空間(2)内へ直接に導入する第2導入通路(24)を備えていることを特徴とする滅菌システム。
【請求項3】
請求項2において、
処理空間(2)の下方に滅菌対象物(3)が設置され、
カバー部材(30)が滅菌対象物(3)の全体を上方から覆うように構成され、
第1導入通路(23)がカバー部材(30)の下部に接続され、
第2導入通路(24)が処理空間(2)におけるカバー部材(30)の上方に配置されていることを特徴とする滅菌システム。
【請求項4】
請求項1,2または3において、
処理空間(2)に設けられた排気口(2a)と滅菌装置(10)とに接続され、処理空間(2)内のガスを滅菌装置(10)に戻すための循環通路(40)を備えていることを特徴とする滅菌システム。
【請求項5】
請求項4において、
循環通路(40)には、滅菌剤を分解する分解装置(41)が設けられていることを特徴とする滅菌システム。
【請求項6】
請求項5において、
循環通路(40)には、分解装置(41)の下流側で分岐する排気通路(43)が接続されていることを特徴とする滅菌システム。
【請求項7】
請求項6において、
処理空間(2)内の圧力を外部空間の圧力よりも高圧に保持する圧力調整機構(47)を備えていることを特徴とする滅菌システム。
【請求項8】
請求項7において、
圧力調整機構(47)は、処理空間(2)からの排気流量を調整するように排気通路(43)に設けられた排気流量調整弁(44)と、処理空間(2)内の圧力を検出する圧力センサ(45)と、圧力センサ(45)の検出値に基づいて排気流量調整弁(44)の開度を制御する制御器(46)とを備えていることを特徴とする滅菌システム。
【請求項9】
請求項1から8の何れか1つにおいて、
滅菌剤が過酸化水素であることを特徴とする滅菌システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−288645(P2006−288645A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−112581(P2005−112581)
【出願日】平成17年4月8日(2005.4.8)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】