説明

滅菌液霧化発生装置および滅菌処理方法

【課題】作業室などの空間を無菌環境とする滅菌処理において、使用される滅菌液の実際の使用量を、より精確に把握することができる滅菌液霧化発生装置および滅菌処理方法を提供する。
【解決手段】滅菌液霧化発生装置において、滅菌液を収容する滅菌液タンクと、滅菌液タンクより供給される滅菌液を霧化する霧化装置と、霧化装置より霧化された滅菌液を、装置本体内に供給される気体と混合して、滅菌ミストを装置本体外へ排出する滅菌ミスト排出部と、滅菌液タンク、霧化装置、および滅菌ミスト排出部の重量を測定する重量測定部とを備えさえ、重量測定部により測定された重量データに基づいて、滅菌液の使用量を管理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業室などの空間を無菌環境とする滅菌処理において使用される滅菌液霧化発生装置および滅菌処理方法に関し、特に、細胞培養などの操作が行われる作業室の滅菌処理に使用される滅菌液霧化発生装置および滅菌処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、このような無菌環境が要求される作業室などを滅菌処理する際には、滅菌液を噴霧して、滅菌ミストを作業室内に排出する滅菌液噴霧装置が用いられている。このような滅菌液噴霧装置としては、例えば、スプレー式や超音波振動式の装置が知られている。
【0003】
細菌、細胞、ウィルスの種類によっては、滅菌液に対する耐性が異なることから、このような作業室の滅菌処理においては、作業室内の滅菌ガスの濃度、温度、湿度、滅菌液の投入量などのデータ計測や管理が重要となる。これらのデータ計測においては、特に、滅菌液噴霧装置より実際に噴霧される滅菌液の量(投入量)を精確に把握するとともに適切な噴霧量を噴霧するように管理する必要がある。さらに、バリデーションの観点からより精度の高いデータ計測や管理が求められている。
【0004】
例えば、特許文献1に開示されている殺菌水噴霧装置では、装置本体に内蔵される殺菌水タンクに貯留された殺菌水が、ポンプによって噴霧ノズルに供給されて、殺菌水の噴霧が行われる構成が開示されている。殺菌水の噴霧量のデータ計測を行うために、殺菌水タンク内の殺菌水の残量を、センサにより検出することで、殺菌水の残量管理が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−34361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の装置を含めた従来の噴霧装置では、噴霧された滅菌液が100%気化される訳ではなく、その一部は、装置本体内部や給気ダクトなどに液滴として付着する。また、滅菌液の一部は、装置本体におけるタンク以外の場所(噴霧ノズルのチューブ内あるいはポンプ内など)に残存する。したがって、特に特許文献1のように、殺菌液タンクにおける殺菌液の残量を測定することで、殺菌液の使用量(投入量)を管理するという方法では、滅菌処理のために作業室内に投入された殺菌液の投入量を精確に把握することができない。
【0007】
近年、作業室内にロボットアームなどを配置して、細胞培養を自動化する装置が提案されている。このような細胞自動培養では、作業者の負担を軽減しながら、より高いレベルの無菌環境を提供することが求められる。また、細胞培養という観点からも、より精確なバリデーションを行うことが求められる。
【0008】
従って、本発明の目的は、上記問題を解決することにあって、作業室などの空間を無菌環境とする滅菌処理において、使用される滅菌液の実際の使用量を、より正確に把握することができる滅菌液霧化発生装置および滅菌処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は以下のように構成する。
【0010】
本発明の第1態様によれば、滅菌液を収容する滅菌液タンクと、滅菌液タンクより供給される滅菌液を霧化する霧化装置と、霧化装置より霧化された滅菌液を、装置本体内に供給される気体と混合して、滅菌ミストを装置本体外へ排出する滅菌ミスト排出部と、滅菌液タンク、霧化装置、および滅菌ミスト排出部の重量を測定する重量測定部とを備える、滅菌液霧化発生装置を提供する。
【0011】
本発明の第2態様によれば、滅菌処理の開始前に重量測定部により測定される滅菌液タンク、霧化装置、および滅菌ミスト排出部の第1の重量データと、滅菌処理中または滅菌処理終了後に重量測定部により測定される滅菌液タンク、霧化装置、および滅菌ミスト排出部の第2の重量データとの差を、滅菌処理における滅菌液の使用量として算出する制御装置を備える、第1態様に記載の滅菌液霧化発生装置を提供する。
【0012】
本発明の第3態様によれば、制御装置において、滅菌処理に使用する滅菌液の設定使用量のデータが予め設定され、算出された滅菌処理における滅菌液の使用量のデータが設定使用量のデータとなるように、霧化装置により気体中へ供給される滅菌液の供給量を制御する、第2態様に記載の滅菌液霧化発生装置を提供する。
【0013】
本発明の第4態様によれば、制御装置において、滅菌処理に使用する滅菌液の設定使用量のデータが予め設定され、算出された滅菌処理における滅菌液の使用量のデータが、設定使用量のデータ以上となった場合に、霧化装置の運転を停止させて、滅菌ミストの排出の停止のタイミングを制御する、第2態様に記載の滅菌液霧化発生装置を提供する。
【0014】
本発明の第5態様によれば、霧化装置は、滅菌液タンクより供給される滅菌液を貯留する霧化槽と、霧化槽に貯留された滅菌液に対して超音波振動を付与することにより、滅菌液を霧化する超音波発生部と、滅菌液タンクより霧化槽に滅菌液を供給するとともに、霧化装置の運転の停止時に霧化槽に残留されている滅菌液を滅菌液タンクに戻す滅菌液給排手段と、を備える、第1から第4態様のいずれか1つに記載の滅菌液霧化発生装置を提供する。
【0015】
本発明の第6態様によれば、滅菌液を収容する滅菌液メインタンクと、滅菌液メインタンクに収容されている滅菌液を、滅菌液タンクに供給する滅菌液供給手段と、をさらに備え、滅菌液供給手段は、滅菌液タンクより霧化槽に滅菌液を供給するとともに、霧化装置の運転の停止時に霧化槽に残留されている滅菌液を滅菌液タンクのみに戻す、第5態様に記載の滅菌液霧化発生装置を提供する。
【0016】
本発明の第7態様によれば、超音波発生部は、霧化槽の底部に固定され超音波振動を発生させる超音波振動子と、霧化槽に貯留された滅菌液中に浸積されるように配置されるとともに、超音波振動子に接続され、超音波振動子より発生された超音波振動の振幅を増幅させるガイドと、ガイドと霧化槽の側壁との間の空間を埋めて、霧化槽の容積を減少させるブロックと、を備える、第5態様または第6態様に記載の滅菌液霧化発生装置を提供する。
【0017】
本発明の第8態様によれば、滅菌液を収容する滅菌液タンクより供給される滅菌液を霧化する霧化装置を用いて霧化された滅菌液を、滅菌ミスト排出部において霧化発生装置外より供給される気体と混合して、滅菌ミストを霧化発生装置外へ排出して、滅菌処理を行う方法において、滅菌液タンク、霧化装置、および滅菌ミスト排出部の重量データを取得し、取得された重量データに基づいて、滅菌処理における滅菌液の使用量データを算出して、算出された使用量データに基づいて滅菌処理を管理する、滅菌処理方法を提供する。
【0018】
本発明の第9態様によれば、滅菌処理の開始前に滅菌液タンク、霧化装置、および滅菌ミスト排出部の第1の重量データを取得し、滅菌処理中または滅菌処理終了後に滅菌液タンク、霧化装置、および滅菌ミスト排出部の第2の重量データを取得し、第1の重量データと第2の重量データとの差を滅菌液の使用量データとして算出して、算出された滅菌液の使用量データが、予め設定された滅菌液の設定使用量データとなるように、気体中への滅菌液の供給量を制御する、第8態様に記載の滅菌処理方法を提供する。
【0019】
本発明の第10態様によれば、滅菌処理の開始前に滅菌液タンク、霧化装置、および滅菌ミスト排出部の第1の重量データを取得し、滅菌処理中または滅菌処理終了後に滅菌液タンク、霧化装置、および滅菌ミスト排出部の第2の重量データを取得し、第1の重量データと第2の重量データとの差を滅菌液の使用量データとして算出して、算出された滅菌液の使用量データが、予め設定された滅菌液の設定使用量データ以上となった場合に、滅菌ミストの排出を停止する、第8態様に記載の滅菌処理方法を提供する。
【0020】
本発明の第11態様によれば、送風ファンを運転することにより、作業室内の気体を霧化発生装置内へ供給するとともに霧化発生装置より滅菌ミストを作業室内へ排出するように、滅菌ミストおよび気体の循環を行って、作業室内の滅菌処理を行う方法であって、滅菌ミストの排出が停止された後も、送風ファンの運転を継続して、気体の循環を継続する、第10態様に記載の滅菌処理方法を提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、滅菌液タンクより供給される滅菌液を霧化装置にて霧化して、霧化された滅菌液を、滅菌ミスト排出部において装置本体内部に供給される気体と混合して、滅菌ミストを装置本体外へ排出するような滅菌液霧化発生装置において、滅菌液タンク、霧化装置、および滅菌ミスト排出部の重量を測定する重量測定部が備えられている。これにより、重量測定部により測定された重量データに基づいて、実際に使用されて滅菌液の量をより正確に把握することができ、確実かつよりレベルの高い無菌環境を提供するための滅菌処理を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一の実施形態にかかる滅菌液霧化発生装置の模式構成図
【図2】図1の滅菌液霧化発生装置の装置本体部分の主要な構成の模式図
【図3】滅菌処理の手順を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明にかかる実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0024】
本発明の一の実施形態にかかる滅菌液霧化発生装置10の模式構成図を図1に示す。また、滅菌液霧化発生装置10の装置本体部分の主要な構成を図2に示す。本第1実施形態の滅菌液霧化発生装置10は、例えば、細胞培養操作が行われる作業室内を滅菌処理するために用いられる。
【0025】
滅菌液霧化発生装置10は、滅菌液として、例えば、過酸化水素水に対して、超音波振動を付与することで、ミスト状の滅菌液を供給し、ミスト状の滅菌液と気体(作業室内の雰囲気)とを混合することにより、滅菌ミストを排出する装置である。なお、このような滅菌ミストは、滅菌液霧化発生装置10の外部に排出されることにより、気化されて滅菌ガスとなる。ただし、滅菌ガスには、気化されていない状態の滅菌ミストが含まれるような場合であっても良い。
【0026】
図1および図2に示すように、滅菌液霧化発生装置10は、滅菌液を収容する補助タンク(滅菌液タンク)20と、補助タンク20より供給される滅菌液を霧化してミスト状の滅菌液を供給する霧化ユニット(霧化装置)30と、霧化ユニット30により霧化されたミスト状の滅菌液を、装置本体内に供給される気体と接触させて混合し、滅菌ミストを装置本体外部へ排出する滅菌ミスト排出部(ミストチャンバー)40と、装置本体内部にそれぞれの構成部を内蔵して支持する本体ケーシング50とを備えている。なお、滅菌液霧化発生装置10において、本体ケーシング50と、および本体ケーシング50に内蔵されるそれぞれの構成部、すなわち、補助タンク20、霧化ユニット30、および滅菌ミスト排出部40とが、装置本体部11となっている。
【0027】
本体ケーシング50は、大きく、上部ケーシング51と下部ケーシング52とに分かれており、上部ケーシング51には滅菌ミスト排出部40が配置され、下部ケーシング52には補助タンク20が配置されており、霧化ユニット(霧化装置)30は上部ケーシング51および下部ケーシング52にまたがって配置されている。
【0028】
霧化ユニット30は、上部ケーシング51に配置された上面が開放された液槽であって、補助タンク20より供給される滅菌液が貯留される霧化槽31と、霧化槽31に貯留された滅菌液に対して超音波振動を付与することにより、滅菌液を霧化してミスト状にする超音波発生部32と、補助タンク20に収容されている滅菌液を霧化槽31に供給する供給ポンプ33とを備えている。また、補助タンク20と供給ポンプ33は、チューブ34により滅菌液を供給可能に接続されておりと、供給ポンプ33と霧化槽31は、チューブ35により滅菌液を供給可能に接続されており、チューブ35の途中には、開閉操作可能な自動弁36が設けられている。また、霧化槽31の底部と補助タンク20とが、チューブ37により接続されており、チューブ37の途中には、開閉操作可能な自動弁38が設けられている。なお、チューブ35における霧化槽31側の先端は、上部ケーシング51に設置された滅菌液供給ノズル28に接続されており、滅菌液供給ノズル28を通して滅菌液が霧化槽31内に供給される。本実施形態では、供給ポンプ33、チューブ34、チューブ35、自動弁36、チューブ37、および自動弁38により、補助タンク20から霧化槽31への滅菌液の供給、および霧化槽31から補助タンク20への滅菌液の排液(戻し)を行う滅菌液給排手段が構成されている。
【0029】
超音波発生部32は、図1および図2に示すように、霧化槽の底部の下部側に設置され、超音波振動を発生させる複数の超音波振動子25と、霧化槽31に貯留される滅菌液中に浸積されるように霧化槽31内に配置されるとともに、それぞれの超音波振動子25に接続され、超音波振動子25より発生された超音波振動の振幅を増幅させる複数のガイド26とにより構成されている。超音波振動子25にて発生された超音波振動が、ガイド26により増幅されて、霧化槽31内にて貯留されている滅菌液に付与され、滅菌液の液面が共振されることにより、液面よりミスト状に霧化された滅菌液が供給される。
【0030】
さらに、特に、図2に示すように、霧化槽31内には、複数のガイド26の間の空間を埋めて、霧化槽31の容積を低減させるブロック29(図2参照、図1では図示省略)が配置されている。ブロック29は、例えば、それぞれのガイド26の上面と同じ高さを有し、ガイド26の周囲全体および霧化槽31の底部をより広範囲で覆うように形成されている。なお、霧化槽31は、耐食性などを考慮して例えばステンレス材料により形成され、ブロック29は、例えば樹脂材料によりブロック状に形成されている。また、本実施形態では、超音波発生部32に複数組の超音波振動子25とガイド26とが設置されている場合を例として説明するが、超音波振動子25およびガイド26が1組のみ設置されるような場合であっても良い。この場合、ブロック29は、ガイド26と霧化槽31の側壁との間の空間を埋めて減少させるように配置される。
【0031】
また、霧化槽31内には、霧化槽31に貯留される滅菌液の液面レベルを検出するフロートスイッチ(液面計)27が設けられている。このフロートスイッチ27により、例えば、霧化槽31に貯留される滅菌液の液面レベルの最高レベルおよび最低レベルを検出することができる。
【0032】
上部ケーシング51における霧化槽31の上方の空間が滅菌ミスト排出部40となっている。滅菌ミスト排出部40は、上部ケーシング51の側面に設けられた装置外部の気体の取入口41と、上部ケーシング51の上面に設けられた装置外部への滅菌ミストの排出口42と、取入口41と排出口42とがショートカットしないように、両者の間に配置された仕切り板43とを備えている。
【0033】
図1および図2において、取入口41より滅菌ミスト排出部40内に供給された気体は、図示左方向に向けて霧化槽31の上方の空間へと流れ込み、霧化槽31の液面より供給されるミスト状の滅菌液と接触して混合される。混合されたミスト状の滅菌液は、仕切り板43に沿って排出口42より装置本体の外部へと排出される。装置本体の外部へ排出された滅菌ミストは、その後気化される。
【0034】
ここで、図2に示すように、仕切り板43は、排出口42側から霧化槽31側へと向けて、下方に向かって傾斜するように設置されている。これにより、例えば、滅菌ミスト排出部40において、上部ケーシング51の天板および側板の内面、あるいは仕切り板43の上面に、滅菌液の液滴が付着したような場合であっても、付着した滅菌液を重力の作用により霧化槽31内に戻すことができる。
【0035】
また、図1に示すように、上部ケーシング51の排出口42には、排気ダクト61が接続され、排気ダクト61を通して、滅菌ミストを作業室60内に排出することができる。また、上部ケーシング51の取入口41には、給気ダクト62が接続され、給気ダクト62の途中には送風ファン63が設置されており、作業室60内の気体が、送風ファン63により給気ダクト62および取入口41を通じて、滅菌ミスト排出部40内に導入されるようになっている。なお、排気ダクト61および給気ダクト62の途中には、作業室60と霧化発生装置10を機械的に分離するためにフレキシブルダクト64が設置されている。
【0036】
また、図1に示すように、補助タンク20よりも滅菌液の収容容量が大きく、滅菌処理に使用されていない(未使用の)滅菌液を収容する滅菌液のメインタンク70と、メインタンク70に収容されている滅菌液を補助タンク20に供給するメイン供給ポンプ71と、メインタンク70とメイン供給ポンプ71とを滅菌液を通過可能に接続するチューブ72と、メイン供給ポンプ71と補助タンク20とを滅菌液を通過可能に接続するチューブ73とが備えられている。このメインタンク70は、補助タンク20への滅菌液の補給用タンクとして使用される。なお、本実施形態では、メイン供給ポンプ71、およびチューブ72、73により滅菌液供給手段が構成されている。
【0037】
さらに、図1に示すように、滅菌液霧化発生装置10においては、装置本体部11全体の重量を測定する装置本体用の電子天秤12(重量測定部)と、メインタンク70全体の重量を測定するメインタンク用の電子天秤13(重量測定部)とが備えられている。
【0038】
装置本体用の電子天秤12は、少なくとも、補助タンク20、霧化ユニット30、および滅菌ミスト排出部40の合計重量を測定する機能を有するものであれば良く、装置本体部11の構造を考慮して、ケーシング50を含めた装置本体部11の全体重量を測定する機能を有している。したがって、装置本体部11内において、補助タンク20に収容されている滅菌液の重量、霧化ユニット30の霧化槽31や各チューブ内に残存する滅菌液の重量、および、滅菌ミスト排出部40の仕切り板43や上部ケーシング51の天板や側板などに付着している滅菌液の液滴の重量をも含めた合計重量を装置本体用の電子天秤12により測定することができる。同様に、メインタンク70単体およびメインタンク70内に収容されている滅菌液の合計重量をメインタンク用の電子天秤13により測定することができる。なお、このような電子天秤12、13としては、例えば、分解能0.1g程度の仕様のものを採用することができる。なお、重量測定部としては、電子天秤の他に、ロードセルなどを採用することができる。
【0039】
また、図1に示すように、滅菌液霧化発生装置10は、それぞれの構成部の動作を制御する制御装置14が備えられている。制御装置14は、霧化ユニット30の各構成部の動作、送風ファン63の動作、およびメイン供給ポンプ71の動作などを制御する。さらに、装置本体用の電子天秤12およびメインタンク用の電子天秤13にて測定された重量データは、制御装置14に入力可能とされており、この重量データを用いて、後述するように滅菌液の使用量の管理が行われる。
【0040】
次に、このような構成を有する本実施形態の滅菌液霧化発生装置10を用いて、作業室60の滅菌処理を行うとともに、使用される滅菌液の使用量の管理を行う手順について、図3に示す滅菌処理の手順を示すフローチャートを用いて説明する。なお、この滅菌処理は、滅菌液霧化発生装置10が備える制御装置14により滅菌液霧化発生装置10の各構成部が制御されることにより行われる。
【0041】
まず、図3のフローチャートのステップS1において、メイン供給ポンプ71が駆動されて、チューブ72、73を通じて、メインタンク70に収容されている滅菌液が、補助タンク20に供給される。なお、この補助タンク20への滅菌液の供給は、例えば、補助タンク20内に設けられているフロートスイッチ(図示せず)により補助タンク20内に滅菌液が予め設定された液面レベルに達するように行われる。なお、補助タンク20において、既に予め設定された量の滅菌液が収容されている場合には、この滅菌液の供給動作は行われない。また、装置本体用の電子天秤12で装置本体部11の全体重量を測定することによって、装置本体部11の重量が予め設定された重量となるように、滅菌液を補助タンク20へ供給しても良い。
【0042】
次に、装置本体用の電子天秤12により装置本体部11の全体重量が測定され、この重量データ初期重量データ(第1の重量データ)として、制御装置14において保存する(ステップS2)。この時、メインタンク用の電子天秤13によりメインタンク70の重量を測定して、その重量データも併せて、制御装置14に保存しておくことが望ましい。
【0043】
その後、装置本体部11において、自動弁36が開放され、かつ自動弁38が閉止された状態にて、供給ポンプ33が駆動されて、チューブ34、35を通じて、補助タンク20に収容されている滅菌液が霧化槽31内に供給される(ステップS3)。
【0044】
霧化槽31に内において予め設定された液面レベルに滅菌液が達したことが、フロートスイッチ27により確認されると、霧化ユニット30の運転が開始される(ステップS4)。具体的には、送風ファン63の運転が開始され、排気ダクト61および給気ダクト62を通じての作業室60内の気体の循環が開始される。それとともに、霧化槽31内に貯留されている滅菌液に対して超音波発生部32により超音波振動が付与されて、滅菌液の液面よりミスト状の滅菌液が、滅菌ミスト排出部40に供給される。滅菌ミスト排出部40では、取入口41より導入された気体と、ミスト状の滅菌液とが接触して混合され、排出口42から排出される。このとき、滅菌ミスト排出部40において、天板、側板、仕切り板43などに付着した滅菌液の液滴は、重力作用により、霧化槽31へ戻される。これにより、滅菌ミストが作業室60内に排出され、その後気化して滅菌ガスとなって滅菌処理が開始される。
【0045】
この滅菌ミストの作業室60内への排出が行われている間、リアルタイムにて装置本体用の電子天秤12により装置本体部11全体の重量データが取得され、制御装置14に入力される。制御装置14では、先に保存された初期重量データと現在取得された重量データ(第2の重量データ)との差が、滅菌処理開始から現在までの滅菌液の使用量データとして算出される。さらに、制御装置14では、作業室60の滅菌処理に必要とされる滅菌液の設定使用量データが予め保存されており、滅菌処理開始から現在までの滅菌液の使用量データが滅菌液の設定使用量データ以上となっているかどうかが判断される(ステップS5)。制御装置14において、滅菌処理開始から現在までの滅菌液の使用量データが滅菌液の設定使用量データにまだ達していないと判断された場合には、ステップS4の霧化発生装置の運転が継続され、作業室60内への滅菌ミストの排出が継続される。なお、この運転継続中においては、霧化槽31内にて減少した液面レベルを補うように、補助タンク20から霧化槽31内への滅菌液の補充が行われる。
【0046】
制御装置14において、滅菌処理開始から現在までの滅菌液の使用量データが滅菌液の設定使用量データ以上となっていると判断された場合には、霧化ユニット30の運転が停止、すなわち、超音波振動の付与によるミスト状の滅菌液の排出が停止される(ステップS6)。一方、送風ファン63の運転は継続され、排気ダクト61および給気ダクト62を通しての滅菌ミストを含んだ気体の循環が行われることにより、作業室60内において気体の拡散が行われて、作業室60内隅々にまで滅菌ミストあるいは滅菌ミストが気化された滅菌ガスが行き渡ることになる。
【0047】
また、供給ポンプ33の運転が停止されるとともに、自動弁36が閉止され、かつ自動弁38が開放されて、霧化槽31内に残存している滅菌液がチューブ37を通じて補助タンク20に戻される(ステップS7)。このように、霧化槽31内に滅菌液が残存していない状態とすることにより、霧化槽31よりさらに滅菌液が蒸発して、作業室60内の滅菌ガスの濃度(すなわち、気体中の滅菌成分(過酸化水素)の濃度)が上昇してしまうことを防止できる。また、霧化槽31内に滅菌液が残存していない状態にて、送風ファン63の運転を継続することにより、霧化槽31および滅菌ミスト排出部40の内壁などに付着している滅菌液を完全に乾燥(蒸発)させて取り除くことができる。このような乾燥工程を行うことにより、例えば、作業室60において、その後、細胞培養操作などが行われる際に、霧化槽31などに付着して残っている滅菌液が蒸発して、細胞培養操作に影響を与えることを確実に防止できる。
【0048】
また、霧化槽31は、ブロック29により貯留される滅菌液の量が、必要最小限の量となるようにされているため、霧化槽31より補助タンク20に戻される滅菌液の量も少なくなる。一度、超音波振動が付加されたり、金属に触れたりした滅菌液である過酸化水素水は、分解しやすくなるという特性を有している。そのため、ブロック29を用いて、霧化槽31より補助タンク20に戻される滅菌液の量を少なくしていることにより、このような分解しやすくなった状態の滅菌液の量を最小限に抑えることができる。また、ブロック29を金属以外の材料、例えば、樹脂材料により形成することで、このような効果をさらに高めることができる。
【0049】
また、滅菌液霧化発生装置10において、補助タンク20と、メインタンク70とに分けて滅菌液を収容し、一度霧化に使用した滅菌液を補助タンク20のみに戻すような構成を採用していることにより、メインタンク70には未使用の滅菌液のみが収容された状態とすることができる。
【0050】
このような状態にて、作業室60内の滅菌状態を予め設定された時間だけ保持される(ステップS8)。なお、この滅菌状態を保持する時間の情報は予め制御装置14に入力されており、滅菌状態の保持完了のタイミングは制御装置14にて管理(制御)される。
【0051】
滅菌状態の保持が完了すると、作業室60内に充満している滅菌ガスの濃度を下げるために、例えば、清浄化あるいは無菌化された外気を作業室60内に導入するエアレーションを行う(ステップS9)。このエアレーションは、作業室60内の滅菌ガスの濃度を、例えば濃度検出器(図示せず)にて検出して、検出された濃度が、予め設定された滅菌ガスの基準濃度以下となっていると、制御装置14にて判断されるまで継続される(ステップS10)。
【0052】
その後、制御装置14にて、検出された濃度が、予め設定された滅菌ガスの基準濃度以下となっていると判断された場合には、エアレーションを終了させるとともに、送風ファン63の運転も停止させて、滅菌処理が完了する。これにより、作業室60が無菌環境となる。
【0053】
このように、本実施形態の滅菌液霧化発生装置10によれば、滅菌処理に使用した滅菌液の使用量を、装置本体部11全体の初期重量データと、現在の重量データとの差により算出して求めることができる。したがって、装置本体部11内の天板や側板などに付着して残存している滅菌液についても考慮しながら、滅菌液の使用量を把握することができる。したがって、滅菌液の実際により近い使用量を正確に把握することができ、より高いレベルの無菌環境を実現できる。
【0054】
また、本実施形態の滅菌処理は、制御装置14において、予め各種設定条件(処理時間や濃度条件など)を設定しておくことで、制御装置14により自動的に行うことができる。そのため、作業室60内にロボットアームなどを配置して細胞自動培養操作などを行うような作業室60に対して、滅菌処理も自動化して行うような場合に効果的に活用することができる。
【0055】
また、上述の説明では、霧化ユニット30が超音波発生部32を備えるような場合を例として説明したが、霧化ユニットとして噴霧式の装置を採用することもできる。
【0056】
また、作業室60に対して、複数台の装置本体部11を設置して、滅菌処理を行うような場合であっても良い。この場合、複数の装置本体部11に対して1台のメインタンク70を設けるようにしても良い。
【0057】
なお、上記様々な実施形態のうちの任意の実施形態を適宜組み合わせることにより、それぞれの有する効果を奏するようにすることができる。
【符号の説明】
【0058】
10 滅菌液霧化発生装置
11 装置本体部
12 装置本体用の電子天秤
13 メインタンク用の電子天秤
14 制御装置
20 補助タンク
30 霧化ユニット
31 霧化槽
32 超音波発生部
33 供給ポンプ
40 滅菌ミスト排出部
50 本体ケーシング
60 作業室
63 送風ファン
70 メインタンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
滅菌液を収容する滅菌液タンクと、
滅菌液タンクより供給される滅菌液を霧化する霧化装置と、
霧化装置より霧化された滅菌液を、装置本体内に供給される気体と混合して、滅菌ミストを装置本体外へ排出する滅菌ミスト排出部と、
滅菌液タンク、霧化装置、および滅菌ミスト排出部の重量を測定する重量測定部とを備える、滅菌液霧化発生装置。
【請求項2】
滅菌処理の開始前に重量測定部により測定される滅菌液タンク、霧化装置、および滅菌ミスト排出部の第1の重量データと、滅菌処理中または滅菌処理終了後に重量測定部により測定される滅菌液タンク、霧化装置、および滅菌ミスト排出部の第2の重量データとの差を、滅菌処理における滅菌液の使用量として算出する制御装置を備える、請求項1に記載の滅菌液霧化発生装置。
【請求項3】
制御装置において、滅菌処理に使用する滅菌液の設定使用量のデータが予め設定され、算出された滅菌処理における滅菌液の使用量のデータが設定使用量のデータとなるように、霧化装置により気体中へ供給される滅菌液の供給量を制御する、請求項2に記載の滅菌液霧化発生装置。
【請求項4】
制御装置において、滅菌処理に使用する滅菌液の設定使用量のデータが予め設定され、算出された滅菌処理における滅菌液の使用量のデータが、設定使用量のデータ以上となった場合に、霧化装置の運転を停止させて、滅菌ミストの排出の停止のタイミングを制御する、請求項2に記載の滅菌液霧化発生装置。
【請求項5】
霧化装置は、
滅菌液タンクより供給される滅菌液を貯留する霧化槽と、
霧化槽に貯留された滅菌液に対して超音波振動を付与することにより、滅菌液を霧化する超音波発生部と、
滅菌液タンクより霧化槽に滅菌液を供給するとともに、霧化装置の運転の停止時に霧化槽に残留されている滅菌液を滅菌液タンクに戻す滅菌液給排手段と、を備える、請求項1から4のいずれか1つに記載の滅菌液霧化発生装置。
【請求項6】
滅菌液を収容する滅菌液メインタンクと、
滅菌液メインタンクに収容されている滅菌液を、滅菌液タンクに供給する滅菌液供給手段と、をさらに備え、
滅菌液供給手段は、滅菌液タンクより霧化槽に滅菌液を供給するとともに、霧化装置の運転の停止時に霧化槽に残留されている滅菌液を滅菌液タンクのみに戻す、請求項5に記載の滅菌液霧化発生装置。
【請求項7】
超音波発生部は、
霧化槽の底部に固定され超音波振動を発生させる超音波振動子と、
霧化槽に貯留された滅菌液中に浸積されるように配置されるとともに、超音波振動子に接続され、超音波振動子より発生された超音波振動の振幅を増幅させるガイドと、
ガイドと霧化槽の側壁との間の空間を埋めて、霧化槽の容積を減少させるブロックと、を備える、請求項5または6に記載の滅菌液霧化発生装置。
【請求項8】
滅菌液を収容する滅菌液タンクより供給される滅菌液を霧化する霧化装置を用いて霧化された滅菌液を、滅菌ミスト排出部において霧化発生装置外より供給される気体と混合して、滅菌ミストを霧化発生装置外へ排出して、滅菌処理を行う方法において、
滅菌液タンク、霧化装置、および滅菌ミスト排出部の重量データを取得し、
取得された重量データに基づいて、滅菌処理における滅菌液の使用量データを算出して、算出された使用量データに基づいて滅菌処理を管理する、滅菌処理方法。
【請求項9】
滅菌処理の開始前に滅菌液タンク、霧化装置、および滅菌ミスト排出部の第1の重量データを取得し、
滅菌処理中または滅菌処理終了後に滅菌液タンク、霧化装置、および滅菌ミスト排出部の第2の重量データを取得し、
第1の重量データと第2の重量データとの差を滅菌液の使用量データとして算出して、算出された滅菌液の使用量データが、予め設定された滅菌液の設定使用量データとなるように、気体中への滅菌液の供給量を制御する、請求項8に記載の滅菌処理方法。
【請求項10】
滅菌処理の開始前に滅菌液タンク、霧化装置、および滅菌ミスト排出部の第1の重量データを取得し、
滅菌処理中または滅菌処理終了後に滅菌液タンク、霧化装置、および滅菌ミスト排出部の第2の重量データを取得し、
第1の重量データと第2の重量データとの差を滅菌液の使用量データとして算出して、算出された滅菌液の使用量データが、予め設定された滅菌液の設定使用量データ以上となった場合に、滅菌ミストの排出を停止する、請求項8に記載の滅菌処理方法。
【請求項11】
送風ファンを運転することにより、作業室内の気体を霧化発生装置内へ供給するとともに霧化発生装置より滅菌ミストを作業室内へ排出するように、滅菌ミストおよび気体の循環を行って、作業室内の滅菌処理を行う方法であって、
滅菌ミストの排出が停止された後も、送風ファンの運転を継続して、気体の循環を継続する、請求項10に記載の滅菌処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−136035(P2011−136035A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−298008(P2009−298008)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術開発機構基礎研究から臨床研究への橋渡し促進技術開発/橋渡し促進技術開発/再生・細胞医療の世界標準品質を確立する治療法および培養システムの研究開発委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】