説明

滑り性に優れた多層シート

【課題】 滑り性に優れた多層シートを提供する。
【解決手段】 本発明の多層シートは、脂肪族ポリエステルまたは芳香族−脂肪族ポリエステルまたはポリ乳酸共重合体から選ばれた1種以上とポリ乳酸からなる組成物から裏層(A)を形成し、滑り性を与える製剤またはアンチ−ブロッキング特性を与える製剤から選ばれた1種以上を含むポリ乳酸からなる組成物から表層(B)を形成するように設計されたものであることを特徴とする。
上記のように構成される本発明の滑り性に優れた多層シートは、シートの層比と各層別の組成を調節して透明性、耐衝撃性、滑り性、アンチ−ブロッキング特性を備えた多層シートを提供して、印刷性が求められる各種のブリスター及び包装ボックス分野において既存の合成プラスチック材質の取り替えを可能にし、使用済み後に一般的な堆肥条件において生分解が行われて環境にやさしいだけではなく、産業的な側面から実用性に極めて富んだ多層シートを提供するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は滑り性に優れた多層シートに係り、さらに詳しくは、透明性と耐衝撃性を優秀に維持するために脂肪族ポリエステル及び/または芳香族−脂肪族ポリエステル及び/またはポリ乳酸共重合体とポリ乳酸からなる組成物から裏層を形成し、表層は滑り性及び/またはアンチ−ブロッキング特性を保有したポリ乳酸からなる組成物から多層シートを設計したものであって、裏層においてはポリ乳酸の長所である透明性を損なわないながら柔軟性を備えるようにし、表層においてはシートの滑り性とアンチ−ブロッキング特性を満足する多層シートに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、合成プラスチックは、優れた物性と共に安価でかつ軽量であるという特性から現代人の生活においてはなくてはならない包装材となり、全世界において種々の用途で使われている。しかしながら、上記した特性を有する合成プラスチックは、その長所でもあり短所でもある、よく分解されないという問題により環境汚染の問題が段々深刻になってきている。このため、最近、各国においてこれに対する解決策を模索しようとする関心を集めている。すなわち、従来には合成プラスチック処理のために埋め込み、焼却及び再生という方法を主として活用してきたが、これらの方法では環境汚染の問題を完全に解決することはできなかった。
【0003】
このため、現在には、使用済みのプラスチックが自ら分解可能になるように製造する、いわゆる分解性のプラスチックの開発に関心が集中している。現在、種々の技術により、かつ、種々の原料から種々の分解性プラスチックが開発されてきており、これらの中でもポリ乳酸(以下、「PLA」と称する。)はL−乳酸の発酵法の開発のおかげで大量でかつ安価に製造されており、堆肥化条件において分解速度が速く、カビに対する抵抗性、食品に対する耐着臭性など優れた特性を保有して、その利用分野の範囲が拡大している。
【0004】
これらの分野のうちPLAを溶融押出して製造されたシート分野はその適用速度が極めて異なっている状況であるが、これによる種々の機能性を十分に備えておらず、幅広い商用化がなされていないのが現状である。PLAシートの商用化を高めるための機能性のうちシートの柔軟性と表面特性を挙げることができる。各種のブリスター及び包装ボックスとして用いられているフラットシートの場合、最終品となるためには印刷、切断、折り返しなどの工程が要求され、これらの工程においてはシートの柔軟性とシート間の滑り性とアンチ−ブロッキング特性が求められる。PLAシートの柔軟性を付与するための従来の技術としては極めて種々の技術が紹介されているが、主として脂肪族ポリエステルを適用する方法を用いている。しかしながら、脂肪族ポリエステルの場合、ポリ乳酸と混合される場合に透明性を阻害する問題により混合可能な含量が制限的である。また、制限的に少量添加される脂肪族ポリエステルの含量ではフラットシートが要求する柔軟性を期待することが困難であるのが現状である。シート間の滑り性とアンチ−ブロッキング特性の場合、一般的にコーティング法とマスターバッチチップを用いた含浸法があり、主としてコーティング法が適用される。マスターバッチチップを用いた含浸法の場合、溶融押出工程中に炭化現象が発生して比較的に低い温度において溶融押出される合成樹脂にのみ材質の特性に合うように滑り剤とアンチ−ブロッキング剤が設計されて適用されている。PLAシートの場合、未だPLAに適した滑り剤とアンチ−ブロッキング剤が設計できず、既存のコーティング法を利用せざるを得ないのが現状である。しかしながら、コーティング法の場合、PLAシートの低い耐熱性により十分な乾燥温度を与えることができず、コーティング皮膜の安定性が弱いという不都合があり、生産コストの側面からマスターバッチチップを用いた含浸法に比べて不利である。
【0005】
一般合成樹脂材質のシートにおけるシート滑り性及びアンチ−ブロッキング特性を付与するための技術として、下記の特許文献1は、イソフタル酸入りのポリエステル樹脂に0.01−5ミクロンの直径のシリカアルミナ粒子を0.1−0.5重量部添加した熱成形シート製造用のポリエステル樹脂組成物を開示しており、下記の特許文献2は、反応性エチルシリケートと熱硬化性のジメチルポリシロキサン2−40wt%を含むコーティング液をポリエステルフィルムにコーティングすることによりシリコン酸化物の活性層が形成されたシートを開示しており、さらに、下記の特許文献3は、ポリシロキサンの部分加水分解物、シリコン樹脂及び界面活性剤を含有するコーティング層に活性を与えるポリエステルシートを開示している。
【0006】
さらに、下記の特許文献4及び5には、シリコンオイルを用いて活性を高めており、下記の特許文献6においては非結晶性ポリエステルシートのスキン層に無機粒子を分散させた後、さらに滑り剤をスキン層にコーティングする方法を開示している。
【0007】
ところが、上記した従来の特許発明はほとんどが一般合成樹脂材質のシートを適用したものであり、コーティング法によるものであり、このため、これらの従来の技術をポリ乳酸系のシートに適用することが容易ではなく、特に、前記従来の方法をポリ乳酸系のシートに適用するとき、シートの透明性問題や、ポリ乳酸の低い耐熱性によりコーティング乾燥不良問題などが発生して解決すべき課題として提示されている。
【特許文献1】特開平5−239424号公報
【特許文献2】特開平3−95779号公報
【特許文献3】特開平7−85631号公報
【特許文献4】アメリカ特許第5、110、671号公報
【特許文献5】アメリカ特許第4、961、992号公報
【特許文献6】大韓民国特許第10−0665770号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明の目的は、上記した従来の問題点を解消してポリ乳酸系のシートとして透明性問題やコーティング乾燥不良問題が発生しないながらも柔軟性、滑り性及びアンチ−ブロッキング特性を保有したポリ乳酸系の多層シートを提供するところにある。
【0009】
上記した本発明の目的は、脂肪族ポリエステル及び/または芳香族−脂肪族ポリエステル及び/またはポリ乳酸共重合体とポリ乳酸からなる組成物から裏層を形成し、表層は滑り性及び/またはアンチ−ブロッキング特性を保有したポリ乳酸からなる組成物から多層シートを設計して裏層においてはPLAの長所である透明性を損なわないながら柔軟性を備えるようにし、表層においてはシートの滑り性とアンチ−ブロッキング特性を備えるようにして本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した目的を達成するための本発明の滑り性に優れた多層シートは、脂肪族ポリエステルまたは芳香族−脂肪族ポリエステルまたはポリ乳酸共重合体から選ばれた1種以上とポリ乳酸からなる組成物から裏層(A)を形成し、滑り性を与える製剤またはアンチ−ブロッキング特性を与える製剤から選ばれた1種以上を含むポリ乳酸からなる組成物から表層(B)を形成するように設計されたものであることを特徴とする。
【0011】
本発明の他の構成によれば、前記用いられたポリ乳酸は、L−乳酸、D−乳酸またはL、D−乳酸から構成され、数平均分子量は10、000以上である。
【0012】
本発明の他の構成によれば、前記ポリ乳酸は単独あるいは複合して使用可能である。
【0013】
本発明のさらに他の構成によれば、前記脂肪族ポリエステルは、脂肪族ジカルボン酸またはその誘導体としては、ROOC(CH)nCOOR’(R、R’は水素またはアルキル基、nは2〜14の整数である。)構造を有するコハク酸、グルタミン酸、マロン酸、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ノナンジカルボン酸とこれらのアルキルまたはアリールエステル誘導体から構成される群から選ばれた1種以上であり、グリコール類はHO−(CH)n−OH(nは2以上の整数である。)構造を有するエチレングリコール、1、3−プロパンジオール、1、4−ブタンジオール、1、5−ペンタンジオール、1、6−ヘキサンジオールやプロピレングリコール、1、4−シクロヘキサンジオール、ヘキサメチレングリコール、ポリエチレングリコール、トリエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、テトラメチレングリコールから構成されるアルキレングリコールやポリアルキレングリコールからなる群や、下記の一般式(1)で表わされる分枝構造を形成可能な脂肪族2価アルコールである1、2−プロパンジオール、1、2−ブタンジオール、1、3−ブタンジオール、1、2−ペンタンジオール、1、3−ペンタンジオール、1、4−ペンタンジオール、1、2−ヘキサンジオール、1、3−ヘキサンジオール、1、4−ヘキサンジオール、1、5−ヘキサンジオール、1、2−オクタンジオール、1、3−オクタンジオール、1、4−オクタンジオール、1、5−オクタンジオール、1、6−オクタンジオールなどからなる群が使用可能であることを特徴とする。
【0014】
【化1】

【0015】
式中、RはC〜Cのアルキレン基であり、RはC〜Cのアルキル基である。
【0016】
本発明のさらに他の構成によれば、前記芳香族−脂肪族ポリエステルは芳香族成分としてROOC−Ar−COOR’(R、R’は水素またはアルキル基)構造のジカルボン酸またはその誘導体であって、テレフタル酸、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレン2、6−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン酸ジカルボン酸、ジフェニルメタンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、またはこれらのアルキレンエステルよりなる群から選ばれた1種以上であり、脂肪族ジカルボン酸またはその誘導体としてはROOC(CH)nCOOR’(R、R’は水素またはアルキル基、nは2〜14の整数である。)構造を有するコハク酸、グルタミン酸、マロン酸、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ノナンジカルボン酸とこれらのアルキルまたはアーリルエステル誘導体よりなる群から選ばれた1種以上であり、グリコール類はHO−(CH)n−OH(nは2以上の整数である。)構造を有するエチレングリコール、1、3−プロパンジオール、1、4−ブタンジオール、1、5−ペンタンジオール、1、6−ヘキサンジオールやプロピレングリコール、1、4−シクロヘキサンジオール、ヘキサメチレングリコール、ポリエチレングリコール、トリエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、テトラメチレングリコールから構成されるアルキレングリコールやポリアルキレングリコールよりなる群や上記の一般式(1)で表わされる分枝構造を形成可能な脂肪族2価アルコールである1、2−プロパンジオール、1、2−ブタンジオール、1、3−ブタンジオール、1、2−ペンタンジオール、1、3−ペンタンジオール、1、4−ペンタンジオール、1、2−ヘキサンジオール、1、3−ヘキサンジオール、1、4−ヘキサンジオール、1、5−ヘキサンジオール、1、2−オクタンジオール、1、3−オクタンジオール、1、4−オクタンジオール、1、5−オクタンジオール、1、6−オクタンジオールなどよりなる群が使用可能であることを特徴とする。
【0017】
本発明のさらに他の構成によれば、前記ポリ乳酸共重合体はジカルボン酸またはその誘導体からなる単位と脂肪族グリコール類からなる単位から構成された組成物であり、ジカルボン酸またはその誘導体としてはL−乳酸、D−乳酸またはL、D−乳酸、ROOC(CH)nCOOR’(R、R’は水素またはアルキル基であり、nは2〜14の整数である。)構造を有するコハク酸、グルタミン酸、マロン酸、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ノナンジカルボン酸とこれらのアルキルまたはアーリルエステル誘導体、ROOC−Ar−COOR’(R、R’は水素またはアルキル基)構造のジカルボン酸またはその誘導体としてテレフタル酸、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレン2、6−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン酸ジカルボン酸、ジフェニルメタンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、またはこれらのアルキレンエステルよりなる群から選ばれた1種以上であり、脂肪族グリコール類はHO−(CH)n−OH(nは2以上である。)構造を有するエチレングリコール、1、3−プロパンジオール、1、4−ブタンジオール、1、5−ペンタンジオール、1、6−ヘキサンジオールやプロピレングリコール、1、4−シクロヘキサンジオール、ヘキサメチレングリコール、ポリエチレングリコール、トリエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、テトラメチレングリコールから構成されるアルキレングリコールやポリアルキレングリコールよりなる群や、上記の一般式(1)で表わされる分枝構造を形成可能な脂肪族2価アルコールである1、2−プロパンジオール、1、2−ブタンジオール、1、3−ブタンジオール、1、2−ペンタンジオール、1、3−ペンタンジオール、1、4−ペンタンジオール、1、2−ヘキサンジオール、1、3−ヘキサンジオール、1、4−ヘキサンジオール、1、5−ヘキサンジオール、1、2−オクタンジオール、1、3−オクタンジオール、1、4−オクタンジオール、1、5−オクタンジオール、1、6−オクタンジオールよりなる群が使用可能である。
【0018】
本発明のさらに他の構成によれば、前記滑り性を付与するために用いられた物質はシリコンオイル、シリコンゴム及びシリコン樹脂などのシリコン化合物であって、直鎖であるか、あるいは、架橋された有機ポリシロキサン化合物であるか、あるいは、ポリエチレンワックス及びポリプロピレンワックスなどの高級脂肪酸ワックスが使用可能である。
【0019】
本発明のさらに他の構成によれば、前記アンチ−ブロッキング特性を付与するために用いられた物質は、シリカ、シリカゲル、コロイドシリカ、湿式シリカ、乾式シリカなどの酸化ケイ素、酸化チタン、炭化カルシウム、カオリン、カオリナイト、クレイ、タルク、アルミナ、アルミナゾル、ゼオライト、グラファイト、ジルコニウムゾル、長石、2硫黄化モリブデン、カーボンブラック、バリウム塩、硫黄酸バリウム、酸化アンチモンゾル、カルシウムシリケート、アルミニウムシリケート、カルシウムステアレートなどの無機粒子とポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、メチルメタクリレート共重合体、メチルメタクリレート共重合架橋体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド、ポリアクリロニトリル、ベンゾグアミン−ホルムアルデヒドコンデンセ―ト、ベンゾグアナミン樹脂、メラミン−ホルムアルデヒドコンデンセ―ト、ベンゾグアミン−メラミン−ホルムアルデヒドコンデンセ―ト、架橋シリコン樹脂、ゼラチン、澱粉などの有機粒子が使用可能である。
【0020】
本発明のさらに他の構成によれば、本発明の多層シートは、溶融押出により製造され、シート組成物のうち裏層(A)においてポリ乳酸は90.0〜100.0重量部、脂肪族ポリエステル及び/または芳香族−脂肪族ポリエステル及び/またはポリ乳酸共重合体は10.0重量部以下に調節されることが好ましい。
【0021】
前記裏層(A)における脂肪族ポリエステル及び/または芳香族−脂肪族ポリエステル及び/またはポリ乳酸共重合体の含量が10.0重量部以上である場合においては、シートの全体においてポリ乳酸の透明性を確保することが困難であり、ダイにおいて押出される溶融ポリマーの流動を制御することが困難であるために好ましくなく、裏層(A)がいずれもポリ乳酸のみよりなることが最も好ましいが、この場合、シートの押出工程によりシートの耐衝撃性が不足して割れ易いという問題がある。このため、シートの耐衝撃性、透明性と押出工程性を考慮して適性量の脂肪族ポリエステル及び/または芳香族−脂肪族ポリエステル及び/またはポリ乳酸共重合体を適用しなければならず、好ましくは、脂肪族ポリエステルである場合に5.0重量部以下、芳香族−脂肪族ポリエステルである場合に3.0重量部以下、ポリ乳酸共重合体である場合に10.0重量部以下が好ましい。
【0022】
また、本発明の全体の多層シート組成物の含量において裏層(A)の含量は90.0〜60.0重量部に調節されることが好ましい。ポリ乳酸と前記滑り性付与物質及び/またはアンチ−ブロッキング特性付与物質からなる表層(B)においてポリ乳酸は92.0〜99.9重量部、滑り性付与物質及び/またはアンチ−ブロッキング特性付与物質が8.0〜0.1重量部に調節されることが必要である。滑り性付与物質の場合にシート間の滑りを引き起こしてシートの印刷工程などにおいて作業性を高める役割を果たすため、適切な含量の選択が重要である。滑り性付与物質の場合にシートの表層(B)を基準として3.0重量部以下に維持しなければならない。3.0重量部以上である場合に過度な滑り性によりシートの運搬及び積載に難点があり、高温多湿な環境においてはシートの概観不良、透明性低下及び印刷性を悪化させる現象を招くことがある。また、滑り性の場合にアンチ−ブロッキング特性と連関があって十分なアンチ−ブロッキング特性付与物質をシート外層に入れる場合には滑り性付与物質を入れなくてもシートの滑り性が発揮される。このため、滑り性付与物質はアンチ−ブロッキング特性付与物質と同時にシート表層(B)に添加する場合、1.0重量部以下が最も好ましい。アンチ−ブロッキング特性付与物質の場合、シートの表層(B)を基準として5.0〜0.5重量部に維持することが必要である。アンチ−ブロッキング特性付与物質の場合、シート間の粘着を防ぐ役割を果たすが、過度に適用される場合にシートの透明性を損なう場合がある。好ましくは、3.0〜0.5重量部が最も好ましい。さらに、アンチ−ブロッキング特性付与物質の場合に粒子のサイズに応じてシートのアンチ−ブロッキング性能と傷つきの発生を左右するため、1.0〜10.0μmの直径、好ましくは、2.0〜6.0μmの直径を有する粒子の選択が重要である。このような組成よりなるシートの表層(B)の全体のシート組成物中における含量は10.0〜40.0重量部に調節されることが好ましい。10.0重量部以下においてはシートの滑り性とアンチ−ブロッキング特性を十分に発揮することが困難であり、40.0重量部以上である場合にシートの裏層(A)の含量が小さくてシートの耐衝撃性を発揮することが困難である。
【0023】
本発明の多層シート組成物の裏層(A)と表層(B)は同じポリ乳酸を主として適用するが、シートの裏層(A)には脂肪族ポリエステル及び/または芳香族−脂肪族ポリエステル及び/またはポリ乳酸共重合体が最大で10.0重量部含まれ、シートの表層(B)には滑り性付与物質及び/またはアンチ−ブロッキング特性付与物質が最大で8.0重量部含まれるため、シート押出時にシート層別の溶融粘度に対する制御が要求される。このとき、最も重要なのは温度条件であり、180〜250℃の温度範囲、好ましくは、200〜230℃の温度範囲において加工をした方がよい。これは、樹脂組成物の熱分解を極力抑えてシート組成物の柔軟性を倍加する効果があり、十分な溶融温度を維持することによりダイから吐き出される溶融ポリマーの流動制御を行う上で最適であるためである。この他に、さらなるシートの機能性を付与するために各種の添加剤として顔料、安定剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、難燃剤、離型剤、滑剤、染料、抗菌剤、各種のエラストマー、各種のフィラーなどが使用可能である。
【発明の効果】
【0024】
上記のように構成される本発明の滑り性に優れた多層シートは、シートの層比と各層別の組成を調節して透明性、耐衝撃性、滑り性、アンチ−ブロッキング特性を備えた多層シートを提供して、印刷性が求められる各種のブリスター及び包装ボックス分野において既存の合成プラスチック材質の代替を可能にし、使用済み後一般的な堆肥条件において生分解がなされて環境にやさしいだけではなく、産業的な側面から実用性に極めて富んだ多層シートを提供するものである。さらに詳しくは、本発明の多層シートは、上記したように、脂肪族ポリエステル及び/または芳香族−脂肪族ポリエステル及び/またはポリ乳酸共重合体とポリ乳酸からなる組成物を裏層にし、ポリ乳酸と滑り剤及び/またはアンチ−ブロッキング剤からなる組成物を表層に設計して、裏層においてはPLAの耐衝撃性を補強しながらもPLAの長所である透明性を損なわず、表層においては滑り性及びアンチ−ブロッキング特性を発揮可能にするだけではなく、堆肥条件において容易に生分解がなされる多層シートを提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
下記の実施例及び比較例は本発明をさらに詳しく説明するためのものであり、本発明の範疇をここに限定するためのものではないことはいうまでもない。
【0026】
先ず、本発明の説明のために必要な測定及び評価方法は下記の如き条件において行った:
【0027】
(1)透明性(ASTMD1003)
横、縦5cmの試片を製作してヘーズメーター(Haze Meter;日本電飾)を用いて400〜700nmの波長を有する光を透過させ、このとき、全透過光に対する散乱光を測定したHaze%の数値を表示した。
【0028】
(2)柔軟性(伸び;ASTMD882A)
引張り試験機を用いて温度20±2℃、相対湿度65±2%の状態において引張り速度500mm/分にて測定して試片が破断するまでの伸びを求めた。なお、フィルムの長手方向をMD、幅方向をTDで表示した。
【0029】
(3)耐衝撃性
東洋精機製作所社製のフィルム衝撃テスターを通じて耐衝撃性を測定し、下記の如き計算式を通じて衝撃強度にて表示した:
衝撃強度(kN.m/mm)=試片が破壊されるときにかかった力(kg.cm)/試片の厚さ(mm)X0.09807
【0030】
(4)表面粗さ(DIN−4768)
シートの表面と裏面を5μmRの触針を用いて、測定長さ2.5mm、スキャニング本数40本、カットオフ値0.25mmにて接触方式により測定した。同じ試料に対して4回繰り返し測定して最も大きな値一つを除く残りの3つのデータの平均値で表示した。
【0031】
(5)摩擦係数(ASTMD1904)
23℃、50%RHの環境下においてシートの表面と裏面との間の静摩擦係数及び動摩擦係数を測定した。
【0032】
(6)印刷性(ASTMD3359)
シートの表面と裏面に印刷インキを塗布した後、テープを用いて印刷性を測定して下記のように4段階に亘って評価した:
◎:非常に良好、○:良好、△:普通、×:悪い
【0033】
(7)表面張力(ASTMD2578)
測定装備としてENERCONE社製のウェッティング・テンション・スタンダード試薬を用いた。
【0034】
実施例1
N.WLLC社製のPLA樹脂80.0kgをメイン押出器を通じて溶融させてフィーダーブロックを通じてシート裏層(A)に通過させ、N.WLLC社製のPLA樹脂19.7kg、シリコン0.1kg、シリカ粒子0.2kgを乾燥混合した後、サブ押出器を通じて溶融させてフィーダーブロックを通じてシート外層(B)に通過させた後、スリップ型ダイを通じてポリマーを吐き出させて1:8:1のB:A:B構造を持った厚さ350μm、横700mm、縦700mmのフラットシートを製造した。製造されたシートから試片を製作して上記の方法により透明性、伸び、耐衝撃性、表面粗さ、摩擦係数、印刷性、表面張力を測定し、その結果を下記表1に示す。
【0035】
実施例2
シート裏層(A)をPLA樹脂78.5kg、ポリブチレンサクシネート(PBS)1.5kgを用いた以外は、実施例1の方法と同様にしてシートを製造し、製造されたシートから試片を製作して透明性、伸び、耐衝撃性、表面粗さ、摩擦係数、印刷性、表面張力を測定し、その結果を下記表1に示す。
【0036】
実施例3
シート裏層(A)をPLA樹脂79.0kg、ポリブチレンアジペート−テレフタレート(PBAT)1.0kgを用いた以外は、実施例1の方法と同様にしてシートを製造し、製造されたシートから試片を製作して透明性、伸び、耐衝撃性、表面粗さ、摩擦係数、印刷性、表面張力を測定し、その結果を下記表1に示す。
【0037】
実施例4
シート裏層(A)をPLA樹脂75.0kg、ポリ乳酸共重合体(DIC社製のPD−150)5.0kgを用いた以外は、実施例1の方法と同様にしてシートを製造し、製造されたシートから試片を製作して透明性、伸び、耐衝撃性、表面粗さ、摩擦係数、印刷性、表面張力を測定し、その結果を下記表1に示す。
【0038】
実施例5
シート外層(B)をPLA樹脂19.0kg、シリコン0.4kg、シリカ粒子0.6kgを乾燥混合して用いた以外は、実施例4の方法と同様にしてシートを製造し、製造されたシートから試片を製作して透明性、伸び、耐衝撃性、表面粗さ、摩擦係数、印刷性、表面張力を測定し、その結果を下記表1に示す。
【0039】
実施例6
シート外層(B)をPLA樹脂19.4kg、シリカ粒子0.6kgを乾燥混合して用いた以外は、実施例4の方法と同様にしてシートを製造し、製造されたシートから試片を製作して透明性、伸び、耐衝撃性、表面粗さ、摩擦係数、印刷性、表面張力を測定し、その結果を下記表1に示す。
【0040】
比較例1
シート外層(B)をPLA樹脂20.0kgを用いた以外は、実施例1の方法と同様にしてシートを製造し、製造されたシートから試片を製作して透明性、伸び、耐衝撃性、表面粗さ、摩擦係数、印刷性、表面張力を測定し、その結果を下記表1に示す。
【0041】
比較例2
シート外層(B)をPLA樹脂18.4kg、シリコン1.0kg、シリカ粒子0.6kgを乾燥混合して用いた以外は、実施例1の方法と同様にしてシートを製造し、製造されたシートから試片を製作して透明性、伸び、耐衝撃性、表面粗さ、摩擦係数、印刷性、表面張力を測定し、その結果を下記表1に示す。
【0042】
比較例3
シート外層(B)をPLA樹脂18.0kg、シリコン0.4kg、シリカ粒子1.6kgを乾燥混合して用いた以外は、実施例1の方法と同様にしてシートを製造し、製造されたシートから試片を製作して透明性、伸び、耐衝撃性、表面粗さ、摩擦係数、印刷性、表面張力を測定し、その結果を下記表1に示す。
【0043】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族ポリエステルまたは芳香族−脂肪族ポリエステルまたはポリ乳酸共重合体から選ばれた1種以上とポリ乳酸とよりなる組成物から裏層(A)を形成し、滑り性を与える製剤またはアンチ−ブロッキング特性特性を与える製剤から選ばれた1種以上を含むポリ乳酸よりなる組成物から表層(B)を形成するように設計されたものであることを特徴とする滑り性に優れた多層シート。
【請求項2】
前記多層シートは、総含量において、裏層(A)が90.0〜60.0重量部、表層(B)が10.0〜40.0重量部から構成されることを特徴とする請求項1に記載の滑り性に優れた多層シート。
【請求項3】
前記裏層(A)は、ポリ乳酸90.0〜100重量部と、脂肪族ポリエステル、芳香族−脂肪族ポリエステルまたはポリ乳酸共重合体から選ばれた1種以上よりなる組成物0〜10.0重量部と、から形成されることを特徴とする請求項1に記載の滑り性に優れた多層シート。
【請求項4】
前記表層(B)は、ポリ乳酸92.0〜99.9重量部と、滑り性付与物質やアンチ−ブロッキング特性付与物質を単独にてまたは組み合わせて0.1〜8.0重量部と、から形成されることを特徴とする請求項1に記載の滑り性に優れた多層シート。
【請求項5】
前記ポリ乳酸は、L−乳酸、D−乳酸またはL、D−乳酸から構成され、数平均分子量は10、000以上であって、これらのポリ乳酸は単独または複合して使用可能であることを特徴とする請求項1に記載の滑り性に優れた多層シート。
【請求項6】
前記脂肪族ポリエステルは、ROOC(CH)nCOOR’(R、R’は水素またはアルキル基、nは2〜14の整数である。)構造のジカルボン酸またはその誘導体から選ばれた1種以上であり、グリコール類はHO−(CH)n−OH(nは2以上の整数である。)構造のジオール又はポリアルキレングリコールや下記の一般式(1)で表わされる構造の脂肪族2価アルコールよりなる群が使用されることを特徴とする請求項1に記載の滑り性に優れた多層シート;
【化1】

式中、RはC〜Cのアルキレン基であり、RはC〜Cのアルキル基である。
【請求項7】
前記芳香族−脂肪族ポリエステルは芳香族成分としてROOC−Ar−COOR’(R、R’は水素またはアルキル基)構造のジカルボン酸またはその誘導体から選ばれた1種以上であり、脂肪族成分としてはROOC(CH)nCOOR’(R、R’は水素またはアルキル基、nは2〜14の整数である。)構造のジカルボン酸またはその誘導体から選ばれた1種以上であり、グリコール類はHO−(CH)n−OH(nは2以上の整数である。)構造のジオール又はポリアルキレングリコールや下記の一般式(1)で表わされる構造の脂肪族2価アルコールよりなる群が使用されることを特徴とする請求項1に記載の滑り性に優れた多層シート;
【化1】

式中、RはC〜Cのアルキレン基であり、RはC〜Cのアルキル基である。
【請求項8】
前記ポリ乳酸共重合体はジカルボン酸またはその誘導体からなる単位と脂肪族グリコール類からなる単位から構成された組成物であり、ジカルボン酸またはその誘導体としてはL−乳酸、D−乳酸またはL、D−乳酸、ROOC(CH)nCOOR’(R、R’は水素またはアルキル基であり、nは2〜14の整数である。)構造を有するコハク酸、グルタミン酸、マロン酸、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ノナンジカルボン酸とこれらのアルキルまたはアーリルエステル誘導体、ROOC−Ar−COOR’(R、R’は水素またはアルキル基)構造のジカルボン酸またはその誘導体としてテレフタル酸、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレン2、6−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン酸ジカルボン酸、ジフェニルメタンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、またはこれらのアルキレンエステルよりなる群から選ばれた1種以上であり、脂肪族グリコール類はHO−(CH)n−OH(nは2以上である。)構造を有するエチレングリコール、1、3−プロパンジオール、1、4−ブタンジオール、1、5−ペンタンジオール、1、6−ヘキサンジオールやプロピレングリコール、1、4−シクロヘキサンジオール、ヘキサメチレングリコール、ポリエチレングリコール、トリエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、テトラメチレングリコールから構成されるアルキレングリコールやポリアルキレングリコールよりなる群や、上記の一般式(1)で表わされる分枝構造を形成可能な脂肪族2価アルコールである1、2−プロパンジオール、1、2−ブタンジオール、1、3−ブタンジオール、1、2−ペンタンジオール、1、3−ペンタンジオール、1、4−ペンタンジオール、1、2−ヘキサンジオール、1、3−ヘキサンジオール、1、4−ヘキサンジオール、1、5−ヘキサンジオール、1、2−オクタンジオール、1、3−オクタンジオール、1、4−オクタンジオール、1、5−オクタンジオール、1、6−オクタンジオールよりなる群が使用されることを特徴とする請求項1に記載の滑り性に優れた多層シート;
【化1】

式中、RはC〜Cのアルキレン基であり、RはC〜Cのアルキル基である。
【請求項9】
前記滑り性を付与するために用いられた物質はシリコンオイル、シリコンゴム及びシリコン樹脂などのシリコン化合物であって、直鎖であるか、あるいは、架橋された有機ポリシロキサン化合物であるか、あるいは、ポリエチレンワックス及びポリプロピレンワックスなどの高級脂肪酸ワックスが使用されることを特徴とする請求項4に記載の滑り性に優れた多層シート。
【請求項10】
前記アンチ−ブロッキング特性を付与するために用いられた物質は、シリカ、シリカゲル、コロイドシリカ、湿式シリカ、乾式シリカなどの酸化ケイ素、酸化チタン、炭化カルシウム、カオリン、カオリナイト、クレイ、タルク、アルミナ、アルミナゾル、ゼオライト、グラファイト、ジルコニウムゾル、長石、2硫黄化モリブデン、カーボンブラック、バリウム塩、硫黄酸バリウム、酸化アンチモンゾル、カルシウムシリケート、アルミニウムシリケート、カルシウムステアレートなどの無機粒子とポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、メチルメタクリレート共重合体、メチルメタクリレート共重合架橋体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド、ポリアクリロニトリル、ベンゾグアミン−ホルムアルデヒドコンデンセ―ト、ベンゾグアナミン樹脂、メラミン−ホルムアルデヒドコンデンセ―ト、ベンゾグアミン−メラミン−ホルムアルデヒドコンデンセ―ト、架橋シリコン樹脂、ゼラチン、澱粉などの有機粒子が使用されることを特徴とする請求項4に記載の滑り性に優れた多層シート。
【請求項11】
前記多層シートには、添加剤として、顔料、安定剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、難燃剤、離型剤、滑剤、染料、抗菌剤、各種のエラストマー、各種のフィラーのうち1種以上をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の滑り性に優れた多層シート。
【請求項12】
前記多層シートは、衝撃強度が2.00kN.m/mmよりも大きく、静摩擦係数が1.0よりも小さく、動摩擦係数が0.8よりも小さく、表面張力が34dyne/cmよりも大きなものであることを特徴とする請求項1に記載の滑り性に優れた多層シート。

【公開番号】特開2009−285865(P2009−285865A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−137845(P2008−137845)
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【出願人】(504244069)トーレ セハン インク (7)
【Fターム(参考)】